説明

移動体装置及び露光装置

【課題】電機子コイルの熱を効率よく排熱する。
【解決手段】 定盤吸引装置を備えることにより、基板ステージWSTの位置に応じて定盤21を挟んで基板ステージWSTの逆側に設けられた第1空間35aが負圧にされ、定盤21に設けられた複数の孔部39aを介して基板ステージWSTの近傍の気体が吸引される。これにより、電機子コイル38の発熱による定盤21上の基板ステージWSTの周辺の気体の温度変動を抑えることが可能となる。そして、干渉計を用いて構成されるウエハ干渉計の高い位置計測精度を維持することができ、ウエハW(基板ステージWST)の位置決め精度を向上するとともにスループットを改善することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体装置及び露光装置に係り、特に、ベース上で移動する移動体を駆動する移動体装置、及び該移動体装置を有し、半導体素子、液晶表示素子等を製造するリソグラフィ工程で用いられる露光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子、液晶表示素子等の電子デバイス(マイクロデバイス)を製造するリソグラフィ工程では、主として、ステップ・アンド・リピート方式の縮小投影露光装置(いわゆるステッパ)と、ステップ・アンド・スキャン方式の縮小投影露光装置(いわゆるスキャニング・ステッパ(スキャナとも呼ばれる))と、が用いられている。これらの露光装置では、照明光を、レチクル(又はマスク)及び投影光学系を介して、感光剤(レジスト)が塗布されたウエハ(又はガラスプレート等)上に投射することによって、レチクルに形成されたパターン(の縮小像)がウエハ上の複数のショット領域に逐次転写される。
【0003】
ウエハの位置決め精度を向上するとともにスループットを改善するために、ウエハを保持して移動するウエハステージを2次元方向に駆動する平面モータ、例えば、非接触でウエハステージを駆動可能な可変磁気抵抗駆動方式のリニアパルスモータを2軸分結合させた構造のもの、或いはリニアモータを2次元方向に展開したローレンツ電磁力駆動による平面モータが開発されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
しかし、いずれの平面モータにおいても、大きな駆動力を得るためにコイルユニット(に含まれる電機子コイル)に大きな電流を流すことにより、コイルユニットの発熱が問題となる。コイルユニットの発熱は、例えば、ウエハステージの周辺の気体の温度変動を生じ、干渉計を用いて構成されるウエハステージの位置計測系の計測誤差の原因となり、ウエハ(ウエハステージ)の位置決め精度、さらにスループットの低下を招くこととなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5196745号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の事情の下でなされたものであり、第1の観点からすると、定盤上で移動する第1移動体と、前記定盤内に配列された複数のコイルユニットを含む固定子と前記第1移動体内に設けられた少なくとも1つの磁石ユニットを含む可動子とから構成される駆動装置と、前記第1移動体の位置に応じて前記定盤を挟んで前記第1移動体の逆側に設けられた空間の一部を負圧にし、前記定盤に設けられた複数の孔部を介して前記第1移動体の近傍の気体を吸引する定盤吸引装置と、を備える移動体装置である。
【0007】
これによれば、定盤吸引装置により、第1移動体の位置に応じて定盤を挟んで第1移動体の逆側に設けられた空間の一部が負圧にされ、定盤に設けられた複数の孔部を介して第1移動体の近傍の気体が吸引される。これにより、複数のコイルユニットの発熱によるベース上の第1移動体の周辺の気体の温度変動を抑えることが可能となる。
【0008】
本発明は、第2の観点からすると、エネルギビームを照射して物体上にパターンを形成する露光装置であって、前記物体を保持する前記第1移動体を駆動する、本発明の移動体装置を備える露光装置である。
【0009】
これによれば、本発明の移動体装置を備えることによりベース上の移動体の周辺の気体の温度変動が抑えられるため、移動体の位置決め精度を向上するとともにスループットを改善することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】露光装置の構成を概略的に示す図である。
【図2】基板ステージ装置を示す平面図である。
【図3】図3(A)は図2のA−A線断面図、図3(B)は図2のB−B線断面図である。
【図4】図1の露光装置の制御系の主要な構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を、図1〜図4を用いて説明する。
【0012】
図1には、本実施形態に係る露光装置100の全体的な構成が概略的に示されている。露光装置100は、いわゆるステップ・アンド・スキャン露光方式の走査型露光装置である。
【0013】
露光装置100は、照明系10、レチクル(マスク)Rを保持するレチクルステージRST、レチクルステージRSTを駆動するレチクルステージ駆動系11、投影光学系PL、基板としてのウエハWを保持する基板ステージWST及び基板ステージWSTを駆動するステージ駆動系(平面モータ)50等を含む基板ステージ装置30、並びにこれらの制御系等を備えている。
【0014】
照明系10は、例えば特開平9−320956号公報に開示されるように、光源ユニット、シャッタ、2次光源形成光学系、ビームスプリッタ、集光レンズ系、レチクルブラインド、及び結像レンズ系等(いずれも不図示)から構成され、照度分布のほぼ均一な露光用照明光を射出する。この照明光により、レチクルR上の矩形(あるいは円弧状)の照明領域IARが均一な照度で照明される。
【0015】
レチクルステージRST上にはレチクルRが、例えば真空吸着により、固定されている。また、レチクルステージRSTは、レチクルベース(不図示)上をリニアモータ等で構成されたレチクルステージ駆動系11(図4参照)により、所定の走査方向(ここではY軸方向とする)に指定された走査速度で駆動可能となっている。
【0016】
レチクルステージRST上にはレチクルレーザ干渉計(以下、「レチクル干渉計」という)16からのレーザビームを反射する移動鏡15が固定されており、レチクルステージRSTのステージ移動面内の位置はレチクル干渉計16によって、例えば0.5〜1nm程度の分解能で常時検出される。レチクル干渉計16からのレチクルステージRSTの位置情報は、主制御装置20に送られる。主制御装置20は、レチクルステージRSTの位置情報に基づいて、レチクルステージ駆動系11(図4参照)を介してレチクルステージRSTを駆動する。
【0017】
投影光学系PLは、レチクルステージRSTの下方に配置され、その光軸AX(照明光学系の光軸IXに一致)の方向がZ軸方向とされ、ここでは両側テレセントリックな光学配置となるように光軸AX方向に沿って所定間隔で配置された複数枚のレンズエレメントから成る屈折光学系が使用されている。投影光学系PLは所定の投影倍率、例えば1/5(あるいは1/4)を有する縮小光学系である。このため、照明系10からの照明光によってレチクルRの照明領域IARが照明されると、このレチクルRを通過した照明光により、投影光学系PLを介してレチクルRの照明領域IAR内の回路パターンの縮小像(部分倒立像)が表面にフォトレジストが塗布されたウエハW上の照明領域IARに共役な露光領域IAに形成される。
【0018】
基板ステージ装置30は、図1に示されるように、ベース盤12、ベース盤12上に配置された定盤21、ベース盤12上で定盤21を駆動する定盤駆動系68(図4参照)、定盤21上に配置された基板ステージWST、定盤21上で基板ステージWSTを駆動するステージ駆動系(平面モータ)50(図4参照)、基板ステージWSTに配管・配線系(以下、チューブと呼ぶ)Tb(図1では不図示、図3(A)参照)を介して接続されたチューブキャリアTC(図1では不図示、図3(A)参照)、定盤21上でチューブキャリアTCを駆動するチューブキャリア駆動系90(図4参照)、基板ステージWSTの周囲の気体を吸引する定盤吸引装置91(図4参照)等を備えている。
【0019】
ベース盤12は、床面F上に防振機構(不図示)を介してほぼ水平に(XY平面に平行に)支持されている。ベース盤12の上面側には、XY二次元方向を行方向、列方向としてマトリックス状に配置された複数のコイルを含むコイルユニット(不図示)が収容されている。
【0020】
定盤21は、図3(A)に一部が示されるように、その本体部35の4つの角部のそれぞれに脚部37が固定され、脚部37と間のエアベアリング(不図示)を介してベース盤12上に支持されている。本体部35とベース盤12との間には、後述するチューブキャリアTCが配置される空間が形成されている。脚部37には、ベース盤12の上面側に収容されたコイルユニットに対応して、XY二次元方向を行方向、列方向としてマトリックス状に配置された複数の永久磁石及びヨークから成る磁石ユニット(不図示)が収容されている。また、定盤21の上部には、後述する固定子60が収容されている。
【0021】
上述のベース盤12内のコイルユニット(不図示)と定盤21(脚部37)内の磁石ユニット(不図示)とから、例えば米国特許出願公開第2003/0085676号明細書などに開示されるローレンツ電磁力駆動方式の平面モータから成る定盤駆動系68(図4参照)が構成される。定盤駆動系68は、ベース盤12上で定盤21をXY平面内の3自由度方向(X、Y、θz)に駆動する。
【0022】
定盤21の3自由度方向の位置情報は、例えば干渉計又はエンコーダから構成される定盤位置計測系69(図4参照)によって計測される。定盤位置計測系69の出力は、主制御装置20(図4参照)に供給される。主制御装置20は、定盤位置計測系69の出力に基づいて、定盤駆動系68のコイルユニットを構成する各コイルに供給する電流の大きさ及び方向を制御し、定盤21のXY平面内の3自由度方向の位置を制御する。主制御装置20は、定盤21が、カウンタマスとして機能した際に、定盤21の基準位置からの移動量が所定範囲に収まるように定盤21を駆動する。すなわち、定盤駆動系68は、トリムモータとして使用される。
【0023】
基板ステージWSTは、後述するように、可動子51、支持機構32a、32b、32c、基板テーブル18等から構成されている。定盤21の上部に収容された固定子60と、基板ステージWSTの底部(ベース対向面側)に固定された可動子51とから成る平面モータが、ステージ駆動系50として使用される。以下においては、ステージ駆動系50を、便宜上、平面モータ50と呼ぶものとする。
【0024】
基板テーブル18上に、ウエハWが、例えば真空吸着によって固定されている。また、基板テーブル18上にはウエハレーザ干渉計(以下、「ウエハ干渉計」という)31からのレーザビームを反射する移動鏡27が固定され、外部に配置されたウエハ干渉計31により、基板テーブル18のXY面内での位置が例えば0.5〜1nm程度の分解能で常時検出されている。ここで、実際には、図3(A)及び図3(B)に示されるように、基板テーブル18上には走査方向であるY軸方向に直交する反射面を有する移動鏡27Yと非走査方向であるX軸方向に直交する反射面を有する移動鏡27Xとが設けられ、ウエハ干渉計31は走査方向に1軸、非走査方向には2軸設けられているが、図1ではこれらが代表的に移動鏡27、ウエハ干渉計31として示されている。基板テーブル18の位置情報(又は速度情報)は、主制御装置20に送られる。主制御装置20は、その位置情報(又は速度情報)に基づいて平面モータ50を介して基板ステージWSTのXY面内の移動を制御する。
【0025】
チューブキャリアTCは、図3(A)に示されるように、定盤21の底部とベース盤12との間に形成された空間内に配置されている。チューブキャリアTCは、ベース盤12上に、エアベアリング(不図示)を介して支持されている。
【0026】
チューブキャリアTCの底部には、ベース盤12の上面側に収容されたコイルユニット(不図示)に対応して、Y軸方向に配列された複数の永久磁石及びヨークから成る磁石ユニット(不図示)が収容されている。これらのコイルユニット(不図示)と磁石ユニット(不図示)とからリニアモータから成るチューブキャリア駆動系90(図4参照)が構成される。チューブキャリア駆動系90は、ベース盤12上でチューブキャリアTCを基板ステージWSTに追従してY軸方向に駆動する。
【0027】
チューブキャリアTCは、チューブTbを介して、基板ステージWST内の配管部材及び配線部材に接続されている。また、チューブキャリアTCは、チューブ(不図示)を介して、外部に設置された各種センサ類、平面モータ、又は静電チャック機構等の電源、エアベアリング用のガスタンク、コンプレッサ、バキュームポンプ等の用力供給装置(不図示)に接続されている。用力供給装置から電源電力(電流)、加圧気体等の用力が、チューブキャリアTC及びチューブTbを介して、基板ステージWSTに供給される。なお、真空吸引力が必要な場合には、これも用力に含まれる。
【0028】
基板ステージWSTの構成各部、特に平面モータ50について詳述する。
【0029】
図2には、基板ステージ装置30の平面図が示されている。図3(A)及び図3(B)には、それぞれ、図2のA−A線断面図及びB−B線断面図が一部省略して拡大して示されている。図2、図3(A)、及び図3(B)に示されるように、基板テーブル18は、平面モータ50を構成する可動子51の上面(定盤21対向面と反対側の面)にボイスコイルモータ等を含む支持機構32a、32b、32cによって異なる3点で支持されており、XY面に対して傾斜及びZ軸方向の駆動が可能になっている。支持機構32a〜32cは、主制御装置20によって独立に制御される(図4参照)。
【0030】
可動子51は、一種の空気静圧軸受け装置であるエアスライダ57と、エアスライダ57にその一部が上方から嵌合して一体化される平板状発磁体53と、平板状発磁体53に上方から係合する磁性体材料から成る磁性体部材52とを備えている。平板状発磁体53は、隣り合う磁極面の極性が互いに異なるようにマトリクス状に配列された複数の平板磁石から構成され、磁性体部材52とともに磁石ユニットを構成する。また、エアスライダ57によって、基板ステージWSTが定盤21の上面上に、例えば5μm程度のクリアランスを介して、浮上支持されている(図1参照)。
【0031】
定盤21は、図3(A)及び図3(B)に示されるように、上面が開口した中空の本体部35と、本体部35の開口部を閉塞するセラミック板36とを備えている。セラミック板36の可動子51に対向する面(上面)には、可動子51の移動面21aが形成されている。移動面21aは、僅かな間隙を設けて多数の孔部を有する断熱カバー21b(図2では省略)で覆われている。
【0032】
本体部35とセラミック板36とにより形成される定盤21の内部空間41には、移動面21aに沿ってXY2次元方向に9行9列のマトリクス状に9×9=81個の電機子コイル38が配置されている(図2参照)。電機子コイル38としては、図2に示されるように、正方形状コイルが用いられている。これらの電機子コイル38から、平面モータ50の固定子60が構成されている。なお、電機子コイル38それぞれに供給される電流の大きさ及び方向は、主制御装置20(図4参照)によって制御される。
【0033】
セラミック板36の移動面21aと反対側(下面側)には、図3(A)及び図3(B)に示されるように、所定間隔で断面円形の多数の突起部36aが形成されている。突起部36aは、図2に示されるように、セラミック板36を本体部35に組み付けた場合に、隣接する4つの電機子コイル38相互間の空間に対応する位置に8×8=64個それぞれ設けられている。また、セラミック板36の変形を防止するための円柱状の変形防止部材39が、各電機子コイル38の中空部の中央に対応する位置に9×9=81個それぞれ設けられている。変形防止部材39の中心には、後述するようにセラミック板36と本体部35とのそれぞれの孔部と連通する孔部が形成されている。なお、変形防止部材39は、突起部36aと同様に、セラミック板36と一体的に構成することとしても良い。
【0034】
定盤吸引装置91について説明する。
【0035】
本体部35の内部は、図3(A)及び図3(B)に示されるように、Y軸方向に一定間隔で段部35bが形成され、それぞれの段部35bによりX軸方向に延びる5つの第1空間35aが形成されている。ここでは、段部35bの間隔は電機子コイル38のY軸方向の配列間隔に等しい。さらに、本体部35の底板37のX軸方向の中央は、−Z方向に突出している。突出部37bの内部に、Y軸方向に延びる1つの第2空間35bが形成される。5つの第1空間35aは、1つの第2空間35bを介して繋がっている。
【0036】
定盤21の本体部35及びセラミック板36には、電機子コイル38(及び変形防止部材39)と同じ数の孔部が形成されている。これらの孔部は先述の変形防止部材39の孔部と連通して、移動面21aと後述する第1空間35aとを貫通する孔部39aを形成する。ここで、孔部39aは、5つの第1空間35aの±Y端に配置されている。これにより、Y軸方向の両端に位置する2つの第1空間35aのそれぞれにはY軸方向に1、X軸方向に9、計9の孔部39aが、残りの3つの第1空間35aのそれぞれにはY軸方向に2、X軸方向に9、計18の孔部39aが、設けられている。
【0037】
第2空間35bを形成する底板37の突出部37bの−X壁には、ガイドTGが、Y軸方向に延接されている。ガイドTGには、Y軸方向に移動可能な接続部35bが、その一部を突出部37bの−X側に突出して設けられている。接続部35bの突出端には、チューブキャリアTCに接続するチューブTbの一端が固定されている。チューブTbを介して、外部に設置された用力供給装置(バキュームポンプ)から真空吸引力が第2空間35bに供給される。それにより、第2空間35b内、特に接続部35bの周囲の気体が排気される。
【0038】
先述の通り、チューブキャリアTCは、基板ステージWSTがベース盤12上で移動すると、例えば図2においてY軸方向(黒塗り矢印の方向)に移動すると、これに追従してY軸方向に移動する。これと同時に、チューブTbの一端が固定された接続部35bが、基板ステージWSTに追従して、図3(B)に示されるようにY軸方向(黒塗り矢印の方向)にガイドTG上をスライドする。
【0039】
チューブTbを介して、第2空間35b内の接続部35bの周囲の気体が排気され、気体が排気された第2空間35b内の一部の空間に近接する第1空間35a内の気体も排気され、第1及び第2空間35a,35b内に負圧空間が形成される。チューブキャリアTC(接続部35b)の移動により、負圧空間もY軸方向(黒塗り矢印の方向)に移動する。第1空間35a内に負圧空間が形成されることにより、孔部39aを介して、定盤21上の基板ステージWSTの近傍(負圧空間の直上)のX軸方向に延びる領域91a(図2参照)の気体が吸引される。領域91aは、第1空間35a内の負圧空間がY軸方向に移動することにより、Y軸方向(黒塗り矢印の方向)に追従移動する。従って、チューブキャリアTCの基板ステージWSTに対する追従移動により、領域91aは、図2に示されるように、基板ステージWSTの移動に追従してY軸方向(黒塗り矢印の方向)に移動する。
【0040】
先述の通り、定盤21の移動面21aは、僅かな間隙を設けて断熱カバー21b(図2では省略)で覆われている。ここで、断熱カバー21bの孔部は、移動面21aと第1空間35aとを貫通する孔部39aの位置と異なる位置に配置されている。例えば、隣接する4つの孔部39aの中央に配置されている。なお、断熱カバー21bの孔部の数は、孔部39aの数より多くても良い。これにより、孔部39aの近傍に限らず領域91a内の広範の気体が吸引され、移動面21aの表面の広範を流れ、そして、断熱カバー21bの孔部、定盤21の孔部39a、第1及び第2空間35a,35b、及びチューブTbを介して排気される。なお、十分に基板ステージWSTの周囲の気体を吸引できる場合には、断熱カバー21bは必ずしも設ける必要はない。
【0041】
基板ステージWSTを駆動するために、基板ステージWSTの直下の定盤21内の電機子コイル38のそれぞれに電流が供給される。そのため電機子コイル38が発熱し、定盤21上の基板ステージWSTの周囲の雰囲気が加熱される。しかし、定盤吸引装置91により、基板ステージWSTの周囲の気体、特に領域91a内の気体が排気されることにより、電機子コイル38の熱が排熱され、定盤21上の周辺の気体の温度変動が抑えられることとなる。
【0042】
図4には、露光装置100の制御系の主要な構成が示されている。制御系は、装置全体を統括制御するマイクロコンピュータ(あるいはワークステーション)などを含む主制御装置20を中心として構成されている。
【0043】
次に、前述した基板ステージ装置30を含む露光装置100における露光動作の流れについて簡単に説明する。
【0044】
まず、主制御装置20の管理の下、レチクルローダ及びウエハローダ(いずれも不図示)によってそれぞれレチクルロード及びウエハロードが行われ、また、レチクルアライメント検出系13、基板テーブル18上の基準マーク板(不図示)、アライメント検出系ASを用いてレチクルアライメント、ベースライン計測等の準備作業が所定の手順に従って行われる。
【0045】
その後、主制御装置20により、アライメント検出系ASを用いてEGA(エンハンスト・グローバル・アライメント)等のアライメント計測が実行される。
【0046】
アライメント計測の終了後、以下のようにしてステップ・アンド・スキャン方式の露光動作が行われる。露光動作にあたって、まず、ウエハWのXY位置が、ウエハW上の最初のショット領域(ファースト・ショット)の露光のための走査開始位置となるように、基板テーブル18が移動される。同時に、レチクルRのXY位置が、走査開始位置となるように、レチクルステージRSTが移動される。そして、主制御装置20が、レチクル干渉計16によって計測されたレチクルRのXY位置情報、ウエハ干渉計31によって計測されたウエハWのXY位置情報に基づき、レチクル駆動部(不図示)及び平面モータ50を介してレチクルRとウエハWとを同期移動させることにより、走査露光が行われる。このウエハWの移動は、主制御装置20により、電機子コイル38に供給する電流値及び電流方向の少なくとも一方を制御することにより行われる。
【0047】
このようにして、1つのショット領域に対するレチクルパターンの転写が終了すると、基板テーブル18が1ショット領域分だけステッピングされて、次のショット領域に対する走査露光が行われる。このようにして、ステッピングと走査露光とが順次繰り返され、ウエハW上に必要なショット数のパターンが転写される。
【0048】
以上説明したように、本実施形態の定盤吸引装置91を備えることにより、基板ステージWSTの位置に応じて定盤21を挟んで基板ステージWSTの逆側に設けられた第1空間35aが負圧にされ、定盤21に設けられた複数の孔部39aを介して基板ステージWSTの近傍の気体が吸引される。これにより、電機子コイル38の発熱による定盤21上の基板ステージWSTの周辺の気体の温度変動を抑えることが可能となる。そして、干渉計を用いて構成されるウエハ干渉計31の高い位置計測精度を維持することができ、ウエハW(基板ステージWST)の位置決め精度を向上するとともにスループットを改善することが可能となる。
【0049】
なお、本実施形態では、チューブキャリアTCを定盤21の底部とベース盤12との間に形成された空間内に配置することとしたが、定盤21の−X側(または+X側)に配置することとしても良い。
【0050】
また、チューブキャリアTCをベース盤12上でX軸方向及びY軸方向の両方向に駆動可能にチューブキャリア駆動系90を構成しても良い。これとともに、接続部35bをXY方向に移動可能に構成する。これにより、基板ステージWSTに追従して第1及び第2空間35a,35b内の負圧空間がXY方向に移動可能となるため、基板ステージWSTのより近傍の気体を吸引することが可能となる。
【0051】
また、チューブキャリアTCに代えて、孔部39aのそれぞれに電磁弁を設けることとしても良い。基板ステージWSTに追従して、その近傍の孔部39aの電磁弁を開くことで、基板ステージWSTのより近傍の気体を吸引することが可能となる。
【0052】
また、セラミック板36の強度が十分な場合には、必ずしも変形防止部材39を設ける必要はない。この場合、定盤21の内部空間41を介して定盤21の本体部35及びセラミック板36の孔部が連通する構成となる。これにより、電機子コイル38が配列された内部空間41内の気体もあわせて吸引して、各電機子コイル38の発熱を排熱することができる。
【0053】
なお、上述の実施形態では、本発明が、液体(水)を介さずにウエハWの露光を行うドライタイプの露光装置に適用された場合について説明したが、これに限らず、例えば国際公開第99/49504号、欧州特許出願公開第1,420,298号明細書、国際公開第2004/055803号、米国特許第6,952,253号明細書などに開示されているように、投影光学系とウエハとの間に照明光の光路を含む液浸空間を形成し、投影光学系及び液浸空間の液体を介して照明光でウエハを露光する露光装置にも本発明を適用することができる。また、例えば国際公開第2007/097379号(対応米国特許出願公開第2008/0088843号明細書)に開示される、液浸露光装置などにも、本発明を適用することができる。
【0054】
また、上記実施形態では、ステップ・アンド・スキャン方式等の走査型露光装置に本発明が適用された場合について説明したが、これに限らず、ステッパなどの静止型露光装置に本発明を適用しても良い。また、ショット領域とショット領域とを合成するステップ・アンド・スティッチ方式の縮小投影露光装置、プロキシミティー方式の露光装置、又はミラープロジェクション・アライナーなどにも本発明は適用することができる。さらに、例えば米国特許第6,590,634号明細書、米国特許第5,969,441号明細書、米国特許第6,208,407号明細書などに開示されているように、複数のウエハステージを備えたマルチステージ型の露光装置にも本発明を適用できる。また、例えば国際公開第2005/074014号などに開示されているように、ウエハステージとは別に、計測部材(例えば、基準マーク、及び/又はセンサなど)を含む計測ステージを備える露光装置にも本発明は適用が可能である。
【0055】
また、上記実施形態の露光装置における投影光学系は縮小系のみならず等倍及び拡大系のいずれでも良いし、投影光学系PLは屈折系のみならず、反射系及び反射屈折系のいずれでも良いし、その投影像は倒立像及び正立像のいずれでも良い。また、前述の照明領域及び露光領域はその形状が矩形であるものとしたが、これに限らず、例えば円弧、台形、あるいは平行四辺形などでも良い。
【0056】
なお、上記実施形態の露光装置の光源は、ArFエキシマレーザに限らず、KrFエキシマレーザ(出力波長248nm)、F2レーザ(出力波長157nm)、Ar2レーザ(出力波長126nm)、Kr2レーザ(出力波長146nm)などのパルスレーザ光源、g線(波長436nm)、i線(波長365nm)などの輝線を発する超高圧水銀ランプなどを用いることも可能である。また、YAGレーザの高調波発生装置などを用いることもできる。この他、例えば米国特許第7,023,610号明細書に開示されているように、真空紫外光としてDFB半導体レーザ又はファイバーレーザから発振される赤外域、又は可視域の単一波長レーザ光を、例えばエルビウム(又はエルビウムとイッテルビウムの両方)がドープされたファイバーアンプで増幅し、非線形光学結晶を用いて紫外光に波長変換した高調波を用いても良い。
【0057】
また、上記実施形態では、露光装置の照明光ILとしては波長100nm以上の光に限らず、波長100nm未満の光を用いても良いことはいうまでもない。例えば、軟X線領域(例えば5〜15nmの波長域)のEUV(Extreme Ultraviolet)光を用いるEUV露光装置に本発明を適用することができる。その他、電子線又はイオンビームなどの荷電粒子線を用いる露光装置にも、本発明は適用できる。
【0058】
さらに、例えば米国特許第6,611,316号明細書に開示されているように、2つのレチクルパターンを、投影光学系を介してウエハ上で合成し、1回のスキャン露光によってウエハ上の1つのショット領域をほぼ同時に二重露光する露光装置にも本発明を適用することができる。
【0059】
なお、上記実施形態でパターンを形成すべき物体(エネルギビームが照射される露光対象の物体)はウエハに限られるものでなく、ガラスプレート、セラミック基板、フィルム部材、あるいはマスクブランクスなど他の物体でも良い。
【0060】
露光装置の用途としては半導体製造用の露光装置に限定されることなく、例えば、角型のガラスプレートに液晶表示素子パターンを転写する液晶用の露光装置や、有機EL、薄膜磁気ヘッド、撮像素子(CCD等)、マイクロマシン及びDNAチップなどを製造するための露光装置にも広く適用できる。また、半導体素子などのマイクロデバイスだけでなく、光露光装置、EUV露光装置、X線露光装置、及び電子線露光装置などで使用されるレチクル又はマスクを製造するために、ガラス基板又はシリコンウエハなどに回路パターンを転写する露光装置にも本発明を適用できる。
【0061】
半導体素子などの電子デバイスは、デバイスの機能・性能設計を行うステップ、この設計ステップに基づいたレチクルを製作するステップ、シリコン材料からウエハを製作するステップ、前述した実施形態の露光装置(パターン形成装置)及びその露光方法によりマスク(レチクル)のパターンをウエハに転写するリソグラフィステップ、露光されたウエハを現像する現像ステップ、レジストが残存している部分以外の部分の露出部材をエッチングにより取り去るエッチングステップ、エッチングが済んで不要となったレジストを取り除くレジスト除去ステップ、デバイス組み立てステップ(ダイシング工程、ボンディング工程、パッケージ工程を含む)、検査ステップ等を経て製造される。この場合、リソグラフィステップで、上記実施形態の露光装置を用いて前述の露光方法が実行され、ウエハ上にデバイスパターンが形成されるので、高集積度のデバイスを生産性良く製造することができる。
【符号の説明】
【0062】
12…ベース盤、21…定盤、30…基板ステージ装置、38…電機子コイル、41…内部空間、50…ステージ駆動系(平面モータ)、90…チューブキャリア駆動系、91…定盤吸引装置、100…露光装置、W…ウエハ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
定盤上で移動する第1移動体と、
前記定盤内に配列された複数のコイルユニットを含む固定子と前記第1移動体内に設けられた少なくとも1つの磁石ユニットを含む可動子とから構成される駆動装置と、
前記第1移動体の位置に応じて前記定盤を挟んで前記第1移動体の逆側に設けられた空間の一部を負圧にし、前記定盤に設けられた複数の孔部を介して前記第1移動体の近傍の気体を吸引する定盤吸引装置と、を備える移動体装置。
【請求項2】
前記一部の空間から前記気体を吸引するための配管が接続され、前記第1移動体の動きに同期して移動する第2移動体をさらに備える、請求項1に記載の移動体装置。
【請求項3】
前記第1移動体は、互いに直交する二軸方向に移動し、
前記第2移動体は、前記二軸方向のうちの少なくとも一方に移動する、請求項2に記載の移動体装置。
【請求項4】
前記第2移動体には、前記第1移動体から該第1移動体に用力を供給するための配管がさらに接続されている、請求項2又は3に記載の移動体装置。
【請求項5】
前記第2移動体は、前記定盤の前記第1移動体に対する裏面と側面との一方に配置される、請求項4に記載の移動体装置。
【請求項6】
前記定盤は、該定盤の前記第1移動体に対向する面上に間隙を挟んで配置され、前記複数の孔部と位置が異なる複数の孔部が形成されたカバーを有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の移動体装置。
【請求項7】
エネルギビームを照射して物体上にパターンを形成する露光装置であって、
前記物体を保持する前記第1移動体を駆動する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の移動体装置を備える露光装置。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−98354(P2013−98354A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239871(P2011−239871)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】