説明

移動体

【課題】安全性に優れかつ環境負荷が少ない移動体を提供する。
【解決手段】移動体1の動力源として、負極又は正極の少なくとも一方の電極上に触媒として酸化還元酵素が固定され、負極で燃料の酸化反応が生じて電子を放出すると共に、正極でこの電子と外部から供給される酸素とにより還元反応が進行することで、電力を発生する酵素電池2を搭載する。また、この移動体1には、酵素電池2と共に、食品廃棄物等のバイオマス原料から、糖類、タンパク質、脂質及び炭水化物等のバイオマス燃料を生成する燃料発生部と、生成したバイオマス燃料を酵素電池2に導入する燃料導入部とを搭載することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車及び列車等の移動体に関する。より詳しくは、酸化還元酵素を使用した酵素電池を動力源として搭載した移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の移動体の燃料には、ガソリン又は軽油等の可燃性液体が使用されている。しかしながら、このような可燃性液体を搭載した移動体は、衝突及び追突等の大きな事故の場合に、燃料への引火及び爆発等が発生する可能性があり、2次的被害を招くおそれがある。また、ガソリン及び軽油等の化石燃料により動力源を駆動させると、温暖化ガスである二酸化炭素や大気汚染物質である窒素酸化物が排出されるため、環境負荷が大きいという問題点もある。
【0003】
そこで、近年、安全性向上及び環境負荷低減の観点から、化石燃料を使用しない移動体の開発が進められており、リチウムイオン二次電池又はニッケル水素二次電池を動力源として使用した電気自動車等が実用化されている。
【0004】
また、本格的な実用化には至っていないが、動力源として燃料電池を使用した移動体も提案されている(例えば、特許文献1〜4参照。)。しかしながら、従来の燃料電池自動車には、起動性、耐久性、燃料の安全性、高出力化、排熱の冷却対策及び寒冷地対策等、種々の課題がある。
【0005】
そこで、現在開発されている燃料電池自動車では、前述した課題の1つである起動性に関係する発進時及び加速時の出力不足を補うため、リチウムイオン二次電池又はニッケル水素二次電池等の補助電源を搭載している。図5は特許文献1に記載の燃料電池搭載車両の構成を模式的に示す図である。図5に示すように、特許文献1に記載の燃料電池搭載車両100においては、燃料電池101と二次電池102とを併用した場合の運転環境を良好にするために、フロントシート103の下方領域に燃料電池101を集約して配置すると共に、リアシート104の下方領域に二次電池102を集約して配置している。また、二次電池102の後方には、水素等の燃料ガスが充填された燃料タンク105が設置されている。
【0006】
一方、従来の燃料電池は、燃料として水素ガス及び天然ガス等の爆発性・可燃性があるガスや、メタノール等のアルコール類又はガソリンを改質した燃料等の安全対策が必要な燃料を使用している。このため、従来の燃料電池を自動車等の移動体に適用する場合は、安全性の観点から燃料が外部に漏洩しないようにする必要がある。そこで、特許文献2に記載の燃料電池自動車では、燃料ガス、酸化ガス及び冷却水を供給する流体配給手段を、燃料電池の最下部左右端でかつ駆動モーターの上側左右端に配置することにより流体供給手段のシール範囲を小さくして、ガス漏れ防止による安全性向上を図っている。
【0007】
また、特許文献3に記載の燃料電池車両では、アイドル停止中に燃料電池の発電安定性が低下することを防止するため、ディスチャージ制御による生成水が燃料電池内に蓄積されないようにしている。更に、特許文献4には、他の機器の排熱を利用して燃料電池の暖機を効率的に行う燃料電池自動車が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開2007−186200号公報
【特許文献2】特開2007−145309号公報
【特許文献3】特開2007−194042号公報
【特許文献4】特開2007−238013号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前述した従来の技術には、以下に示す問題点がある。先ず、電気自動車のように、リチウムイオン二次電池及びニッケル水素二次電池等の二次電池を動力源する移動体の場合、二次電池単独では駆動に必要な動力が得られないため、化石燃料を使用した従来の動力源と併用しなければならず、安全性及び環境負荷の問題を完全に解決することはできないという問題点がある。
【0010】
また、燃料電池を動力源として使用した従来の移動体は、燃料として爆発性・可燃性のガス又は引火性がある液体を使用しているため、特許文献2に記載されている燃料電池自動車のように、安全性を確保するための機構及びシステムが必要となるという問題点がある。特に、燃料として安全性が極めて低い水素ガスを使用した場合は、クリーンなシステムは実現できるが、化石燃料を使用した従来の動力源以上の安全対策が必要となる。
【0011】
更に、従来の燃料電池は、触媒に白金等の希少金属を使用するため、製造コストが増加すると共に、資源枯渇の問題も引き起こす。従って、特許文献1〜4に記載されているような従来の燃料電池を使用した移動体では、安全性確保及び環境負荷低減の両方を実現することはできない。
【0012】
そこで、本発明は、安全性に優れかつ環境負荷が少ない移動体を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る移動体は、動力源として、負極又は正極の少なくとも一方の電極上に触媒として酸化還元酵素が固定された酵素電池が搭載されている。
本発明においては、動力源が酵素電池であるため、可燃性及び爆発性のない安全な燃料を使用することができる。また、本発明で使用している酵素電池は、触媒が酵素であり、環境負荷が大きいガス等の排出もないため、資源枯渇及び環境汚染の問題は発生しない。
また、本発明の移動体は、バイオマス燃料を生成する燃料発生部と、生成したバイオマス燃料を前記酵素電池に導入する燃料導入部とを備えていてもよい。
この場合のバイオマス燃料は、例えば糖類、タンパク質、脂質及び炭水化物から選択された少なくとも1種である。
更に、前述した移動体は、例えば自動車である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、動力源として可燃性及び爆発性のない燃料が使用可能な酵素電池を使用しているため、事故の際も爆発及び引火による二次災害のおそれがなく、また触媒は酵素で、エネルギーを発生する際に温室効果ガスや環境汚染物質を排出しないため、安全でかつ環境負荷が少ない移動体を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。
【0016】
先ず、本発明の第1の実施形態に係る移動体について説明する。図1は本実施形態の移動体を模式的に示す側面図である。図1に示すように、本実施形態の移動体1には、動力源として酵素電池2が搭載されている。
【0017】
酵素電池2は、負極又は正極の少なくとも一方の電極上に触媒として酸化還元酵素を固定した燃料電池であり、例えばグルコース及びエタノール等のように通常の工業触媒では利用できない燃料から、効率よく電子を取り出すことができるため、高容量でかつ安全性が高い電池である。
【0018】
図2は酵素電池2の構成及び反応機構の一例を模式的に示す図である。本実施形態の移動体1に設けられる酵素電池2の構造は特に限定されるものではないが、例えば、図2に示すように、負極21と正極22とが、プロトンのみを伝達する電解質層23を介して対向した構造とすることができる。
【0019】
上述した酵素電池2における負極21は、例えば、多孔質カーボン等からなる電極上に、単糖類、多糖類及びデンプン等の燃料の分解に関与する酵素と、燃料の分解プロセスにおける酸化反応によって還元体が生成される補酵素と、補酵素の還元体を酸化する補酵素酸化酵素と、補酵素酸化酵素から補酵素の酸化に伴って生じる電子を受け取って電極に渡す電子メディエーターとが、例えばポリマー等からなる固定化材によって固定化された構成となっている。
【0020】
酵素電池2の負極21を構成する電極の材料は、前述した多孔質カーボンに限定されるものではなく、公知のあらゆる素材を用いることができ、外部と電気的に接続可能な素材であれば特に限定されるものではない。例えば、Pt、Ag、Au、Ru、Rh、Os、Nb、Mo、In、Ir、Zn、Mn、Fe、Co、Ti、V、Cr、Pd、Re、Ta、W、Zr、Ge及びHf等の金属材料、アルメル、真ちゅう、ジュラルミン、青銅、ニッケリン、白金ロジウム、ハイパーコ、パーマロイ、パーメンダー、洋銀及びリン青銅等の合金類、ポリアセチレン類等の導電性高分子、グラファイト及びカーボンブラック等の炭素材、HfB、NbB、CrB及びBC等の硼化物、TiN及びZrN等の窒化物、VSi、NbSi、MoSi及びTaSi等の珪化物、並びにこれらの複合材料を用いることができる。
【0021】
また、負極2に固定される酵素は、使用する燃料の種類に応じて適宜選択することができるが、例えば燃料として糖類を用いる場合には、糖類の酸化を促進し分解する酸化酵素が適用される。このような酸化酵素の一例としては、グルコースデヒドロゲナーゼ、グルコネート5デヒドロゲナーゼ、グルコネート2デヒドロゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、アルデヒドレダクターゼ、アルデヒドデヒドロゲナーゼ、ラクテートデヒドロゲナーゼ、ヒドロキシパルベートレダクターゼ、グリセレートデヒドロゲナーゼ、フォルメートデヒドロゲナーゼ、フルクトースデヒドロゲナーゼ、ガラクトースデヒドロゲナーゼ等が挙げられる。
【0022】
更に、負極21に固定される補酵素としては、例えば、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(nicotinamide adenine dinucleotide;以下、NADと称する。)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(nicotinamide adenine dinucleotide phosphate;以下、NADPと称する。)、フラビンアデニンジヌクレオチド(flavin adenine dinucleotide;以下、FADと称する。)、ピロロキノリンキノン(pyrrollo-quinoline quinone;以下、PQQ2+と称する。)等が挙げられる。また、補酵素酸化酵素としては、例えば、ジアホラーゼが挙げられる。
【0023】
更にまた、発生した電子の電極への受け渡しをスムーズにするために負極に固定される電子伝達メディエーターとしては、例えば、2−アミノ−3−カルボキシ−1,4−ナフトキノン(ACNQ)、ビタミンK3、2−アミノ−1,4−ナフトキノン(ANQ)、2−アミノ−3−メチル−1,4−ナフトキノン(AMNQ)、2、3−ジアミノ−1,4−ナフトキノン、オスミウム(Os)、ルテニウム(Ru)、鉄(Fe)、コバルト(Co)等の金属錯体、ベンジルビオローゲン等のビオローゲン化合物、キノン骨格を有する化合物、ニコチンアミド構造を有する化合物、リボフラビン構造を有する化合物、ヌクレオチド−リン酸構造を有する化合物等が挙げられる。なお、これらの電子伝達メディエーターの中でも特に、ANQを使用することが好ましく、これにより0.5V以上の高出力を得ることができる。
【0024】
一方、酵素電池2における正極22は、例えば、触媒が担持された炭素粉末又は炭素に保持されない触媒粒子により構成されている。正極22の触媒としては、例えば、白金(Pt)の微粒子、又は鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、及びルテニウム(Ru)等の遷移金属と白金との合金若しくは酸化物からなる微粒子を使用することができる。また、正極22は、例えば、電解質層23の側から順に触媒又は触媒を含む炭化粉末からなる触媒層と多孔質の炭素材料からなるガス拡散層とが積層された構造とすることもできる。
【0025】
更に、正極22は、前述した負極21と同様に、触媒として酸化還元酵素を固定した構造にすることもできる。その場合、電極材料としては、外部と電気的に接続可能な素材であれば特に限定されるものではないが、例えば、Pt、Ag、Au、Ru、Rh、Os、Nb、Mo、In、Ir、Zn、Mn、Fe、Co、Ti、V、Cr、Pd、Re、Ta、W、Zr、Ge及びHf等の金属材料、アルメル、真ちゅう、ジュラルミン、青銅、ニッケリン、白金ロジウム、ハイパーコ、パーマロイ、パーメンダー、洋銀及びリン青銅等の合金類、ポリアセチレン類等の導電性高分子、グラファイト及びカーボンブラック等の炭素材、HfB、NbB、CrB及びBC等の硼化物、TiN及びZrN等の窒化物、VSi、NbSi、MoSi及びTaSi等の珪化物、並びにこれらの複合材料を用いることができる。
【0026】
また、正極22に固定し得る酵素としては、酸素を反応基質とするオキシダーゼ活性を有する酵素であれば、その種類は特に限定されず、必要に応じて適宜選択することが可能である。具体的には、ラッカーゼ、ビリルビンオキシダーゼ及びアスコルビン酸オキシダーゼ等を用いることができる。
【0027】
更に、正極22には、上述した酵素に加えて、電子伝達メディエーターを固定してもよい。これにより、負極21で発生した電子の受け取りを、スムーズにすることができる。なお、正極22に固定し得る電子伝達メディエーターの種類は特に限定されるものではなく、必要に応じて適宜選択することができるが、例えば、ABTS(2,2'-azinobis (3-ethylbenzoline-6-sulfonate))及びK[Fe(CN)]等を用いることが可能である。
【0028】
また、酵素電池2における電解質層23は、負極21において発生したプロトン(H)を正極22に輸送するものであり、電子は輸送せずにプロトンのみを輸送することが可能な材料で形成されたプロトン伝導膜と、緩衝物質を含む電解質とで構成されている。電解質層23を構成するプロトン伝導膜としては、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸(PFS)系の樹脂膜、トリフルオロスチレン誘導体の共重合膜、リン酸を含有させたポリベンズイミダゾール膜、芳香族ポリエーテルケトンスルホン酸膜、PSSA−PVA(ポリスチレンスルホン酸ポリビニルアルコール共重合体)、及びPSSA−EVOH(ポリスチレンスルホン酸エチレンビニルアルコール共重合体)等からなるものが挙げられる。
【0029】
また、電解質に含まれる緩衝物質としては、例えば、リン酸二水素ナトリウム(NaHPO)やリン酸二水素カリウム(KHPO)等が生成するリン酸二水素イオン(HPO)、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール(略称トリス)、2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、カコジル酸、炭酸(HCO)、クエン酸水素イオン、N−(2−アセトアミド)イミノ二酢酸(ADA)、ピペラジン−N,N’−ビス(2−エタンスルホン酸)(PIPES)、N−(2−アセトアミド)−2−アミノエタンスルホン酸(ACES)、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−3−プロパンスルホン酸(HEPPS)、N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン(略称トリシン)、グリシルグリシン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン(略称ビシン)、イミダゾール、トリアゾール、ピリジン誘導体、ビピリジン誘導体、イミダゾール誘導体(ヒスチジン、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、4−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、イミダゾール−2−カルボン酸エチル、イミダゾール−2−カルボキシアルデヒド、イミダゾール−4−カルボン酸、イミダゾール−4,5−ジカルボン酸、イミダゾール−1−イル−酢酸、2−アセチルベンズイミダゾール、1−アセチルイミダゾール、N−アセチルイミダゾール、2−アミノベンズイミダゾール、N−(3−アミノプロピル) イミダゾール、5−アミノ−2−(トリフルオロメチル) ベンズイミダゾール、4−アザベンズイミダゾール、4−アザ−2−メルカプトベンズイミダゾール、ベンズイミダゾール、1−ベンジルイミダゾール、1−ブチルイミダゾール)等のイミダゾール環を含む化合物等が挙げられる。
【0030】
そして、少なくとも、負極21及び正極22に固定化された酵素の周囲の電解質層23に含まれる緩衝物質の濃度は、0.2〜2.5Mであることが好ましく、より好ましくは0.4〜2M、更に好ましくは0.8〜1.2Mである。これにより、高い緩衝能を得ることができ、燃料電池2が高出力作動時においても、酵素本来の能力を十分に発揮することができる。
【0031】
なお、このように電解質層3の緩衝物質濃度が高い酵素電池2においては、燃料溶液との接触部を腐食防止加工した素材で形成することが望ましい。これにより、耐久性を向上させることができる。また、移動体1用の酵素電池2では、スプレー法等により各酵素を均一に塗布した大面積の電極を使用することが望ましい。これにより、個々の酵素電池の出力を安定して向上させることができる。
【0032】
上述の如く構成された酵素電池2においては、負極21で燃料の酸化反応が生じて電子を放出する。具体的には、燃料の酸化分解に伴い、酸化型の補酵素がそれぞれの還元型であるNADH、NADPH、FADH及びPQQHに還元される反応と、補酵素酸化酵素により、還元型の補酵素が酸化型の補酵素へ戻される反応とからなる酸化還元反応が繰り返され、補酵素が還元型から酸化型に戻る際に2電子が発生する。この反応で発生した電子は、電解質層23介して負極21から正極22に移動する。そして、正極22において、電子と外部から供給される酸素とにより還元反応が進行する。この酵素電池2では、上述した一連の反応を進行させることにより、電気エネルギーを発生する。
【0033】
例えば、酵素電池2の燃料にグルコースを使用した場合は、負極21でグルコース(Glucose)の酸化反応が進行し、正極22で大気中の酸素(O)の還元反応が進行する。そして、負極21では、グルコース(Glucose)、グルコース脱水素酵素(Glucose Dehydrogenase)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD;Nicotinamide Adenine Dinucleotide)、ジアホラーゼ(Diaphorase)、ミディエーター、電極の順に電子が受け渡される。
【0034】
次に、酵素電池2を搭載した移動体1の具体的構成について、移動体1が自動車である場合を例にして説明する。図3は酵素電池搭載自動車の構成の一例を示す図である。図3に示す酵素電池搭載自動車30では、車両本体の前方にモータールーム31、中央部に車室32、後方にトランクルーム33が設けられている。そして、モータールーム31の下部には左右一対の前輪34が取り付けられ、車室32の後方下部には左右一対の後輪35が取り付けられている。
【0035】
この自動車30は、モータールーム31に駆動モーター38が搭載されており、この駆動モーター38で前輪34を回転させることにより走行する。また、モータールーム31には、自動車30に搭載された各機器類に電力を供給する酵素電池2が搭載されている。即ち、図3に示す自動車30では、駆動モーター38と酵素電池2とが電気的に接続されており、酵素電池2で発生した電力によって駆動モーター38が作動し、走行する。
【0036】
また、車室32の下部には、酵素電池2の燃料を貯留する燃料タンク36が設置されており、この燃料タンク36は管39によって酵素電池2と連結されている。更に、燃料タンク36と酵素電池2との間には、燃料を酵素電池2に向かって通流させるためのポンプ及び燃料の流量を調整するためのフローメーター等を備えた燃料供給装置37が設けられている。
【0037】
図3に示す酵素電池搭載自動車30においては、例えばラジエター40等の駆動モーター38以外の機器類にも、酵素電池2から電力が供給される。また、この自動車30では、車室32の下部に電力制御装置41等の各種制御装置が設置されるが、補酵素電池2で使用される燃料は安全性が高いものであるため、これらを燃料タンク36の近傍に配置しても問題はない。
【0038】
なお、図3に示す自動車30では、モータールーム31に酵素電池2を配置しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、酵素電池2を車室32の下部に配置することもできる。ただし、正極に空気を取り入れやすくするためには、酵素電池2は車体下部又は前方部に、正極が下側になるように配置することが望ましい。また、車体の前面から空気を取り込んだ空気を正極に導入するための経路を設けたり、正極を露出させたり、ファンで空気を送るような機構を設けたりしてもよい。
【0039】
上述の如く本実施形態の移動体1は、動力源が酵素電池2であるため、糖類、タンパク質、脂質及び炭水化物等の生物が通常エネルギー源としている安全な物質を燃料として使用することができる。これにより、衝突事故等の大事故が起こった場合でも、燃料への引火及び爆発等による二次災害の心配がなくなるため、安全性を確保するための機構及びシステムが不要になる。
【0040】
また、本実施形態の移動体1に搭載されている酵素電池2は、少なくとも一方の電極に固定される触媒が酵素であるため、燃料電池を使用した従来の移動体に比べて白金等の希少金属の使用量を大幅に低減することができる。更に、酵素電池2は、二酸化炭素等の温暖化ガス及び窒素酸化物等の環境汚染物質を発生しないため、本実施形態の移動体1では、排気ガスを浄化するための設備が不要となり、低コストでクリーンなシステムを実現することができる。その結果、製造コストの低減、安全性確保及び環境負荷低減の全てを満たす移動体を実現することができる。
【0041】
また、酵素電池2は、従来の燃料電池よりも安全性が高い燃料を使用することができるため、本実施形態の移動体1では、燃料補充を運転者又は同乗者が容易に行うことができ、更に、室内から燃料を補充することも可能となる。更に、酵素電池2は、安全性確保のための設備が不要であるため、従来の燃料電池に比べて小型化することが可能である。このため、本実施形態の移動体1は、従来の燃料電池を使用した移動体に比べて、動力源を設置するために要するスペースを小さくすることができる。
【0042】
次に、本発明の第2の実施形態に係る移動体について説明する。図2は本実施形態の移動体を模式的に示す側面図である。図2に示すように、本実施形態の移動体11は、酵素電池12に加えて、原料からバイオマス燃料を生成する燃料発生部13と、この燃料発生部13で生成したバイオマス燃料を酵素電池12に導入する燃料導入部14とが設けられている。
【0043】
本実施形態の移動体11における燃料発生部13は、例えば、バイオマス原料を粉砕する原材料粉砕部と、粉砕された原料を発酵させてバイオマス燃料を生成する原材料発酵部とを備えた構成とすることができる。また、燃料導入部14は、例えば、バイオマス原料と生成したバイオマス燃料とを分離するバイオ燃料抽出部と、抽出されたバイオマス燃料と酵素電池で用いる電解液とを混合する燃料−電解液混合部とを備えた構成とすることができる。
【0044】
上述の如く構成された移動体11においては、燃料発生部13に、例えば、食品廃棄物、下水汚泥、廃棄紙、黒液(パルプ廃液)、木質廃材、家畜糞尿、食用油、米、麦、トウモロコシ及びサトウキビ等のバイオマス原料を投入することにより、糖類、タンパク質、脂質及び炭水化物等のバイオマス燃料が生成する。そして、生成したバイオマス燃料は、燃料導入部14を介して酵素電池12に導入され、これにより酵素電池12で電力が発生し、移動体11が駆動する。
【0045】
本実施形態の移動体11は、燃料発生部13で酵素電池12の燃料を生成することができるため、あらゆるバイオマス原料を、移動体11の燃料として直接使用することができる。
【0046】
なお、本実施形態の移動体11における上記以外の構成及び効果は、前述した第1の実施形態の移動体と同様である。
【0047】
前述した第1及び第2の実施形態においては、移動体が自動車である場合を例に説明しているが、本発明は自動車に限定されるものではなく、例えば、列車、バイク、動力付自転車、車椅子及び電動立ち乗り二輪車等の各種移動体、更には、無線操縦可能な自動車及び飛行機等の移動体玩具等にも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の第1の実施形態の移動体を模式的に示す側面図である。
【図2】酵素電池2の構成及び反応機構の一例を模式的に示す図である。
【図3】酵素電池搭載自動車の構成の一例を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施形態の移動体を模式的に示す側面図である。
【図5】特許文献1に記載の燃料電池搭載車両の構成を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0049】
1、11 移動体
2、12 酵素電池
13 燃料発生部
14 燃料導入部
21 負極
22 正極
23 電解質層
30 酵素電池搭載自動車
31 モータールーム
32 車室
33 トランクルーム
34 前輪
35 後輪
36 燃料タンク
37 燃料供給装置
38 駆動モーター
39 管
40 ラジエター
41 電力制御装置
100 燃料電池搭載車両
101 燃料電池
102 二次電池
103 フロントシート
104 リアシート
105 燃料タンク


【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源として、負極又は正極の少なくとも一方の電極上に触媒として酸化還元酵素が固定された酵素電池が搭載されている移動体。
【請求項2】
バイオマス燃料を生成する燃料発生部と、
生成したバイオマス燃料を前記酵素電池に導入する燃料導入部と
を有することを特徴とする請求項1に記載の移動体。
【請求項3】
前記バイオマス燃料が、糖類、タンパク質、脂質及び炭水化物から選択された少なくとも1種であることを特徴とする請求項2に記載の移動体。
【請求項4】
自動車であることを特徴とする請求項1に記載の移動体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−146856(P2009−146856A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−325733(P2007−325733)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】