説明

移動物体検出装置

【課題】移動物体の誤検出を防止する。
【解決手段】判定回路86では、発振回路1から第1周波数f1の送波信号を送波器3に出力させて移動物体を検知したとき、第1周波数f1と異なる第2周波数f2の送波信号を発振回路1から送波器3に出力させる。そして、第2周波数f2の送波信号についても移動物体を検知したとき、言い換えるとすべての周波数(第1周波数f1並びに第2周波数f2)の送波信号について移動物体を検知したときにのみ判定回路86から検出信号を出力する。その結果、例えば、監視空間の外から大きなエネルギ波(音圧レベルが非常に高い音波)が到来したときでも移動物体の誤検出が防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波や電波などの連続エネルギ波を監視空間に放射し、監視空間内の物体の移動により生じる反射波の周波数偏移を検出することにより、監視空間内において移動する物体の存在を検出する移動物体検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の車両盗難並びに車上盗難が増加しているため、駐車中の車両に不審者が侵入した場合に警報音を鳴動する車載用盗難警報装置が普及してきており、かかる車載用盗難警報装置には監視空間(車内)における移動物体(人)の存否を検出するために移動物体検出装置が搭載されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この種の移動物体検出装置は、所定周波数の連続エネルギ波(例えば、超音波)を監視空間内に放射しておき、監視空間内に存在する物体の移動に伴なってドップラー効果として生じる反射波の周波数偏移を検出するように構成されている(例えば、特許文献2,3参照)。
【0004】
図7に従来の移動物体検出装置の一例を示す。発振器1が発振する所定周波数の送波信号で送波器3を駆動することにより、発振器1の発振周波数と同周波数の超音波が監視空間に送波され、監視空間内に存在する物体Oに超音波が反射して生じる反射波を受波器4で受波する。受波器4では受波した反射波を受波信号Einに変換し、この受波信号Einを第1及び第2の位相検波回路6A,6Bにそれぞれ入力して発振器1の発振周波数と同周波数の基準信号E0,E0’と混合する。ここで、一方の基準信号E0は移相回路10の出力であって、両基準信号E0,E0’の位相が互いに異なるように設定される。したがって、第1及び第2の位相検波回路6A,6Bの出力にビート信号として得られる一対のドップラー信号E,E’も位相が互いに異なったものとなる。ドップラー信号E,E’はそれぞれローパスフィルタ7A,7Bで高調波成分が除去された後にコンパレータ9A,9Bにおいて信号の正負に対応した2値信号(以下、「軸符号信号」と呼ぶ。)X,Yに変換される。軸符号信号X,Yはそれぞれ2値(ハイレベルとローレベル)を有しているから、両者の組み合わせにより4つの状態を表わすことができるのであり、これら4状態はドップラー信号E,E’を基本軸とするベクトル平面の4つの象限のうちで、受波信号Einに対応するベクトルがどの象限に存在しているかを示すことになる。したがって、ドップラー信号E,E’の極性の組み合わせにより4つの状態(正正、正負、負負、負正)を考えれば、ベクトル平面上の各象限(第1象限乃至第4象限)に対応させることができるのである。要するに正負両極性を有したドップラー信号E,E’の極性を組み合わせることによって4つの状態を分類すれば、両ドップラー信号E,E’の信号値を成分としたベクトルが存在する象限(第1象限乃至第4象限)と上記各状態とが一対一に対応することになる。このベクトルは、受波信号Einの基準信号E,E’に対する周波数偏移に応じてベクトル平面内の象限を移動し、周波数が低くなるか高くなるか、すなわち物体Oが遠ざかるか近付くかに応じて、象限を右回りもしくは左回りに移動するのである。
【0005】
そこで、この従来例では象限信号発生回路80、メモリ81、転移方向検出回路82、演算回路83、閾値回路84で検知回路8を構成し、以下のような処理を行っている。但し、検知回路8をマイコンで構成し、マイコンにおいてプログラムを実行することで象限信号発生回路80、転移方向検出回路82、演算回路83、閾値回路84の機能を実現することも可能ある。
【0006】
象限信号発生回路80では、上述した信号処理により、上記ベクトル平面上において受波信号Einが存在する象限を検出して対応する象限信号Qを出力し、同時に受波信号Einが各象限の境界線を越えて転移するときに転移信号Zを発生する。象限信号Qは4状態を表わせばよいから、2ビット以上あればよい。また、象限信号Qは、転移信号Zの発生毎にメモリ81に一時的に記憶されると同時に、転移方向検出回路82にも入力される。ここに、メモリ81に記憶される象限信号Qは転移信号Zの発生毎に更新される。
【0007】
転移方向検出回路82では、受波信号Einに対応するベクトルが隣接する象限(第1象限乃至第4象限)に転移して転移信号Zが発生するのに伴って象限信号発生回路80から入力された現在の象限信号Q(すなわち、転移後の象限信号Q)と、前回の転移信号Zの発生に伴ってメモリ81に記憶されていた前回の象限信号Q(すなわち、転移前の象限信号Q)とが比較され、象限が右回りに転移したか左回りに転移したかが判定される。ここで、転移方向検出回路82の出力としては、受波信号Einに対応するベクトルが原点を中心として反時計回りに象限の境界線(基本軸)を横切る場合に加算、時計回りに象限の境界線を横切る場合に減算を指示する方向信号が出力されるように設定しておく。こうして、転移方向検出回路82の出力である方向信号が得られるとメモリ81の内容は更新される。転移方向検出回路82の出力である方向信号と象限検出回路80の出力である転移信号Zとは演算回路83に入力され、演算回路83では、転移信号Zが発生するたびに転移方向検出回路82の出力信号を読み込み、演算回路83に記憶されている値に対して方向信号が反時計回りなら1を加え、時計回りなら1を引くようにする。したがって、受波信号Einに対応するベクトルが第1象限から第2象限、第3象限を順に通過して第4象限に至る軌跡を描いて移動した場合、演算回路83の初期値が0であれば、最終値は3になる。こうして演算回路83の出力値の絶対値が閾値回路84に予め設定されている閾値を越えると、閾値回路84は検出信号を送出する。検出信号は報知器駆動回路11に入力され、移動物体Oの存在が適宜報知器により報知される。
【0008】
上記構成によれば、超音波を送出して反射波の周波数偏移を検出するのであるから、送波信号の周波数をf0、物体の移動速度をv、超音波の伝播速度をcとすれば、ドップラー信号E,E’の周波数Δfは、|Δf|≒2vf0/cとなり(一般に、v≪c)、ドップラー信号E,E’の周波数は物体の移動速度vに比例することになる。また、物体が単位距離だけ移動したときに発生する、ドップラー信号E,E’の波数Nは、N=2f0/cとなるから、超音波の伝播速度cと送波周波数f0とが一定であれば、物体の移動速度vとは無関係に波数Nは一定となる。したがって、受波信号Einに対応するベクトルのベクトル平面での象限転移の回数も一定となる。つまり、上述のように4象限で表わせば、象限転移の回数は4×N回となり、物体の移動距離に比例することになる。また、象限の転移の向きは物体の移動する向きを表わすから、象限の転移が生じたときに転移の向きに応じて転移回数を加減算すれば、物体の移動距離と向きを知ることができるのである。換言すれば、監視空間内での物体Oの移動距離が閾値回路84の判定基準となり、物体Oが監視空間内で移動する時間には関係なく、物体の存在を検出することができるのである。
【特許文献1】特開平9−272402号公報
【特許文献2】特公昭62−43507号公報
【特許文献3】特公平6−16085号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上述のような移動物体検出装置を車載用盗難警報装置に搭載した場合、他の車両(自動車、電車、オートバイなど)が側を通過することで発生する振動や音が駐車中の車両(自動車)に伝わって当該車両の窓ガラスや送波器3又は受波器4が微少な振幅で振動することがあり、その振動に起因して超音波の伝搬経路が時間的に変動して反射波に位相変調がかかることになる。
【0010】
ここで、発振器1が出力する周期信号をsin(ωt+φ)、振動をfmsinω0tとしたとき、受波器4から出力される変調信号fは、f=sin(ωt+φ+fmsinω0t)と表されるので、位相検波回路6A,6Bから出力されるドップラー信号E,E’はそれぞれ下記の式で表される。
【0011】
E=sin(ωt+φ+fmsinω0t)sinωt
≒1/2fmsinφsinω0t
E’=sin(ωt+φ+fmsinω0t)cosωt
≒1/2fmcosφsinω0t
但し、fm≪1
上記式から明らかなように、φが0又はπ/2であればドップラー信号E,E’の何れか一方がゼロとなり、φがπ/4又は3π/4であればドップラー信号E,E’が逆相(即ち、位相差がπ/2)又は同相(位相差がゼロ)となる。
【0012】
例えば、ドップラー信号E,E’が同相となった場合、ドップラー信号E,E’を2値化して得られる軸符号信号X,Yが(1,1)と(−1,−1)を周期的に繰り返すことになり(図8(a)参照)、転移前後の象限信号Qから転移方向を検出することができないために振動する物体(窓ガラスなど)を移動物体と誤検出することはないはずである。
【0013】
しかしながら、ドップラー信号E,E’を軸符号信号X,Yに変換するコンパレータ9A,9Bのしきい値にチャタリング防止用のヒステリシスを持たせた場合、図9(a)に示すように同相のドップラー信号E,E’の振幅が異なっているとき(例えば、ドップラー信号E’の振幅が小さいとき)には、図9(b)(c)に示すように軸符号信号X,Yの間に位相差が生じて象限信号Qが(1,1)→(−1,1)→(−1,−1)→(1,−1)→(1,1)という順序で周期的に転移するため、振動する物体を近づく向きに移動する物体と誤検出してしまう虞がある(図8(b)参照)。
【0014】
そこで本発明者らは、上述のような誤検出を防止するものとして図10に示すものを既に提案している。図10に示す構成においては、ローパスフィルタ7A,7Bの出力端に、コンパレータ9A,9B(第1の比較器)とは別のコンパレータ9C,9D(第2の比較器)を並列に接続するとともに、これらのコンパレータ9C,9Dにおける比較結果(以下、判別信号と呼ぶ。)α,βを、マイコンからなる検知回路8の象限信号発生回路80に取り込んでいる。ここで、コンパレータ9A,9Bにおいてはしきい値にヒステリシスが持たせてあり、ドップラー信号E,E’が大きい方のしきい値Th1(+)を上回ると小さい方のしきい値Th1(-)に切り替わり、ドップラー信号E,E’が小さい方のしきい値Th1(-)を下回ると大きい方のしきい値Th1(+)に切り替わることでチャタリングを防止している。同様に、本構成で追加しているコンパレータ9C,9Dにおいてもしきい値にヒステリシスが持たせてあり、ドップラー信号E,E’が大きい方のしきい値Th2(+)を上回ると小さい方のしきい値Th2(-)に切り替わり、ドップラー信号E,E’が小さい方のしきい値Th2(-)を下回ると大きい方のしきい値Th2(+)に切り替わるようになっている。そして、コンパレータ9A,9Bにおけるしきい値(第1のしきい値)Th1(+),Th1(-)に対してコンパレータ9C,9Dにおけるしきい値(第2のしきい値)Th2(+),Th2(-)の方が絶対値が大きく、すなわち、Th1(+)<Th2(+)且つTh1(-)>Th2(-)の関係を満たすように第2のしきい値Th2(+),Th2(-)を設定しており、ドップラー信号E,E’の振幅値が第2のしきい値Th2(+)よりも大きいときに判別信号αがハイレベルとなり、ドップラー信号E,E’の振幅値が第2のしきい値Th2(-)よりも小さい場合に判別信号βがハイレベルとなり、それ以外のときに判別信号α,βが何れもローレベルとなる。
【0015】
一方、象限信号発生回路80においては、少なくとも何れか一方の判別信号α,βがローレベルの場合、コンパレータ9A,9Bで2値化された軸符号信号X,Yから象限信号を発生する処理を行わない。つまり、人のような移動物体に反射した反射波あるいは静止している物体に反射した反射波を受波して得られる一対のドップラー信号E,E’は、通常、互いの振幅値が同一若しくは僅かな差しか生じないはずであり、微少振動する物体(例えば、自動車等の通過に伴って振動する車両の窓ガラスなど)に反射した反射波を受波して得られるドップラー信号E,E’のみが互いの振幅値に大きな差が生じると考えられるから、ドップラー信号E,E’の振幅値が第2の比較器(コンパレータ9C又は9D)における第2のしきい値Th2(+),Th2(-)未満であるときに受波信号Einが微少振動する物体に反射した反射波によるものと推測することができ、その場合に象限信号発生回路80で象限信号を発生させないことによって微少振動する物体を移動物体と誤検出することが抑制できる。
【0016】
ここで、受波信号Einが微少振動する物体に反射した反射波によるものであっても、ドップラー信号E,E’の振幅値が第2の比較器(コンパレータ9C又は9D)における第2のしきい値Th2(+),Th2(-)を超えてしまう場合があるから、第2の比較器(コンパレータ9C又は9D)における第2のしきい値Th2(+),Th2(-)との比較処理のみでは微少振動する物体の誤検出を十分に抑制することができない。
【0017】
そこで、ドップラー信号E,E’の振幅値が第2の比較器(コンパレータ9C又は9D)における第2のしきい値Th2(+),Th2(-)を超えている場合であっても、軸符号信号X,Yの位相差が第1のしきい値Th1(+),Th1(-)と第2のしきい値Th2(+),Th2(-)との差に対応した基準値以下であれば、ドップラー信号E,E’がほぼ同相又は逆相で振幅値の絶対値が異なっていると考えられることから、受波信号Einが微少振動する物体に反射した反射波によるものと推測することができる。つまり、ドップラー信号E,E’の位相差(=軸符号信号X,Yの位相差)が基準値以下であるということは、象限の転移が生じたときに転移前の象限に存在していた時間が極めて短かったことを示しており、移動物体(例えば、人)がそのような短時間の間に移動の向きを変えることは非常に起き難いことであるから、かかる場合は受波信号Einが微少振動する物体に反射した反射波によるものと推測することができる。
【0018】
例えば、第2のしきい値Th2(+),Th2(-)を第1のしきい値Th1(+),Th1(-)の2倍(Th2(+)=Th1(+)×2,Th2(-)=Th1(-)×2)に設定した場合、図11に示すようにドップラー信号E,E’の振幅値が第2のしきい値Th2(+),Th2(-)を超えているときの軸符号信号X,Yの位相差φは最大で30°(=π/6)となる。そして、図12に示すように軸符号信号Xがローレベルからハイレベルに変化した時点t1(象限信号Q=(1,−1))から、軸符号信号Yがローレベルからハイレベルに変化する時点t2(象限信号Q=(1,1))までの時間T1(=t2−t1)と、時点t2から軸符号信号Xがハイレベルからローレベルに変化した時点t3(象限信号Q=(−1,1))までの時間T2(=t3−t2)とを演算回路83において比較し、2つの時間T1,T2の比(T1:T2)が1:3〜3:1の範囲内、言い換えると2つの時間T1,T2の時間差(軸符号信号X,Yの位相差)が45°(=π/4)以上のときにだけ演算回路83が転移方向検出回路82の出力信号を読み込んで記憶している値に対して方向信号が反時計回りなら1を加え、時計回りなら1を引く処理を実行し、2つの時間T1,T2の時間差が45°未満のときは演算回路83は記憶値に対して加算又は減算処理を行わない。つまり、2つの時間T1,T2の比(T1:T2)が1:3〜3:1の範囲外、言い換えると2つの時間T1,T2の時間差(軸符号信号X,Yの位相差)が45°未満である場合、演算回路83では、図13に示すように実際の受波信号Einが第1象限と第3象限の間を移動する(ドップラー信号E,E’が同相のとき)か若しくは第2象限と第4象限の間を移動する(ドップラー信号E,E’が逆相のとき)と推定して移動物体の検出処理を行わないようにしている。
【0019】
ここで、演算回路83が軸符号信号X,Yの位相差と比較している基準値(=45°)は、第1のしきい値Th1(+),Th1(-)と第2のしきい値Th2(+),Th2(-)との差に対応した値、すなわち、軸符号信号X,Yの位相差φの最大値(=30°)に若干の余裕値を見積もって決定される値である。
【0020】
而して、本構成によれば、ドップラー信号E,E’の振幅値がコンパレータ9C,9D(第2の比較器)における第2のしきい値Th2(+),Th2(-)未満であれば微少振動する物体に反射した反射波と推測して象限信号発生回路80から象限信号Qを発生させないことで誤検出が抑制でき、さらに、ドップラー信号E,E’の振幅値がコンパレータ9C,9Dにおける第2のしきい値Th2(+),Th2(-)以上である場合においても、軸符号信号X,Yの位相差φが第1のしきい値Th1(+),Th1(-)と第2のしきい値Th2(+),Th2(-)との差に対応した基準値よりも大きいときにだけ象限信号Qを発生させ、軸符号信号X,Yの位相差φが基準値以下のときは演算回路83が移動物体検知の処理(記憶値に対して加算又は減算処理)を行わないことにより、微少振動する物体を移動物体と誤検出することがより確実に抑制できるものである。
【0021】
ところが、監視空間の外から大きなエネルギ波(音圧レベルが非常に高い音波)が到来したとき、上述の位相変調された反射波がさらに多重反射等によって複雑に重なりあい、その結果、本来検出しようとしている移動物体に対する反射波を受波したときと同様に象限信号Qが(1,1)→(−1,1)→(−1,−1)→(1,−1)→(1,1)という順序で周期的に転移し、移動物体を誤検出してしまう虞のあることが判った。
【0022】
本発明は上記事情に鑑みて為されたものであり、その目的は、移動物体の誤検出が防止できる移動物体検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
請求項1の発明は、上記目的を達成するために、発振周波数が可変である発振手段と、発振手段から出力する送波信号により振幅が周期的に変化する連続エネルギ波を監視空間に送波する送波手段と、前記連続エネルギ波が監視空間に存在する物体に反射して生じる反射波を受波する受波手段と、送波信号と同周波数で互いに位相の異なる基準信号と受波信号とを混合することで基準信号との位相差に応じた振幅を有し且つ互いに位相の異なる一対のドップラー信号を得る位相検波手段と、当該一対のドップラー信号を信号処理して前記監視空間における移動物体を検知して検出信号を出力する検知手段とを備え、検知手段は、発振手段から基本周波数の送波信号を送波手段に出力させて移動物体を検知したときに当該基本周波数と異なる1乃至複数種類の周波数の送波信号を発振手段から送波手段に出力させ、当該1乃至複数種類の周波数のすべての送波信号について移動物体を検知したときにのみ検出信号を出力することを特徴とする。
【0024】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、送波手段は、連続エネルギ波のエネルギが最大となる中心周波数を頂点とする山型の出力特性を有し、検知手段は、基本周波数並びに前記1乃至複数種類の周波数が前記中心周波数よりも高い周波数と低い周波数に振り分けて設定されることを特徴する。
【0025】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、検知手段は、基本周波数並びに前記1乃至複数種類の周波数が、送波手段から送波される連続エネルギ波のエネルギが略同一となる周波数に設定されてなることを特徴とする。
【0026】
請求項4の発明は、請求項1〜3の何れか1項の発明において、検知手段は、発振手段から出力する送波信号の周波数を切り換えた時点から所定の待機時間が経過するまでは移動物体の検知を行わないことを特徴とする。
【0027】
請求項5の発明は、請求項4の発明において、検知手段は、送波手段から送波される連続エネルギ波が監視空間内を往復するのに要する時間の最大値よりも短くない時間に前記待機時間が設定されてなることを特徴とする。
【0028】
請求項6の発明は、請求項1〜5の何れか1項の発明において、検知手段は、基本周波数において検知された移動物体の移動向きと、1乃至複数種類の周波数において検知された移動物体の移動向きとが一致する場合に検出信号を出力することを特徴とする。
【0029】
請求項7の発明は、請求項1〜6の何れか1項の発明において、検知手段は、1乃至複数種類の周波数において移動物体が検知されなければ、所定の不検知時間が経過した時点で移動物体の検知処理を初期化することを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
請求項1の発明によれば、検知手段は、発振手段から基本周波数の送波信号を送波手段に出力させて移動物体を検知したときに当該基本周波数と異なる1乃至複数種類の周波数の送波信号を発振手段から送波手段に順に出力させ、当該1乃至複数種類の周波数のすべての送波信号について移動物体を検知したときにのみ検出信号を出力するので、本当の移動物体であれば送波信号の周波数を切り換えてもすべての周波数で移動物体として検知されるが、移動する物体が存在しなければ送波信号の周波数を切り換えることで検知されなくなるから、移動物体の誤検出が防止できる。
【0031】
請求項2の発明によれば、切り換える周波数、すなわち、基本周波数とその他の周波数が送波手段の出力特性における中心周波数よりも高い周波数と低い周波数に振り分けて設定されるので、各周波数毎のエネルギの大小に起因して検出可能な距離に生じるばらつきが抑制できる。
【0032】
請求項3の発明によれば、検知手段が、基本周波数並びに前記1乃至複数種類の周波数が、送波手段から送波される連続エネルギ波のエネルギが略同一となる周波数に設定されるので、各周波数毎のエネルギの大小に起因して検出可能な距離に生じるばらつきがさらに抑制できる。
【0033】
請求項4の発明によれば、周波数を切り換えたときに各手段を構成するハードウェアの特性が安定するまでの間は正確に検出できない虞があり、所定の待機時間が経過するまで、つまり、ハードウェアの特性が安定するまでは検知手段が移動物体の検知を行わないことで誤検出が防止できる。
【0034】
請求項5の発明によれば、切換前の周波数の連続エネルギ波が監視空間に残存していると誤検出する虞があるが、送波手段から送波される連続エネルギ波が監視空間内を往復するのに要する時間の最大値よりも短くない時間に設定された前記待機時間の経過後であれば、切換前の周波数の連続エネルギ波による誤検出が防止できる。
【0035】
請求項6の発明によれば、例えば、振り子のように揺れている物体が検出されたときにはその移動向きが周期的に反転するため、検知手段が、基本周波数において検知された移動物体の移動向きと、1乃至複数種類の周波数において検知された移動物体の移動向きとが一致する場合に検出信号を出力すれば、上述のように揺れている物体を移動物体と誤検出するのを防ぐことができる。
【0036】
請求項7の発明によれば、検知手段は、1乃至複数種類の周波数において移動物体が検知されなければ、所定の不検知時間が経過した時点で移動物体の検知処理を初期化するので、一度検出された移動物体が所定の不検知時間内に再度検出されなければ最初の検出が誤検出であったとみなすことができ、そのときは検知手段が検知処理を初期化することで次回の検出に備えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、従来例と同様に連続エネルギ波として超音波を用いる実施形態について図面を参照して詳細に説明する。但し、超音波の代わりに電波を用いる場合にも本発明の技術思想は適用可能である。
【0038】
(実施形態1)
図1に本実施形態のブロック図を示す。但し、本実施形態の基本構成並びに基本動作は図7に示した従来例と共通であるから、共通の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0039】
発振回路1は電圧制御発振器(VCO)からなり、発振周波数が外部から切換可能であって、検知回路8が具備する周波数切換回路85から出力される周波数設定信号(直流の電圧信号)によって発振周波数、すなわち、送波信号の周波数が切り換えられる。本実施形態では、周波数切換回路85が第1周波数(基準周波数)f1と第2周波数f2の2種類の周波数を択一的に切り換えるようになっており、検知回路8が具備する判定回路86の指示に応じて第1周波数f1に設定する周波数設定信号と第2周波数f2に設定する周波数設定信号の何れか一方を出力して発振回路1から出力される送波信号の周波数を第1周波数f1又は第2周波数f2に切り換える。
【0040】
判定回路86は、閾値回路84による演算回路83の出力値の絶対値と閾値の比較結果に応じて、すなわち、演算回路83の出力値の絶対値が閾値を越えていれば、周波数切換回路85に対して第1周波数f1から第2周波数f2への切換を指示し、後述するように周波数切換回路85で切り換えて設定されるすべての周波数(第1周波数f1並びに第2周波数f2)において演算回路83の出力値の絶対値が閾値を越えているという比較結果が閾値回路84から出力された場合にだけ、報知器駆動回路11に対して検出信号を送出する。
【0041】
次に、図2のフローチャートを参照しながら本実施形態の動作を説明する。
【0042】
まず、検知回路8の周波数切換回路85が周波数設定信号を出力して発振回路1の発振周波数を第1周波数f1に設定する。そして、発振器1が発振する第1周波数f1の送波信号で送波器3を駆動することにより、発振器1の発振周波数(第1周波数f1)と同周波数の超音波が監視空間に送波され、監視空間内に存在する物体Oに超音波が反射して生じる反射波を受波器4で受波する。受波器4では受波した反射波を受波信号Einに変換し、この受波信号Einを第1及び第2の位相検波回路6A,6Bにそれぞれ入力して発振器1の発振周波数と同周波数の基準信号E0,E0’と混合する。第1及び第2の位相検波回路6A,6Bから出力される一対のドップラー信号E,E’はそれぞれローパスフィルタ7A,7Bで高調波成分が除去された後にコンパレータ9A,9Bにおいて軸符号信号X,Yに変換されて検知回路8に取り込まれる。
【0043】
従来例と同様に、検知回路8では象限信号発生回路80がドップラー信号E,E’の極性の組み合わせに応じた象限信号Qを出力し、同時に受波信号Einが各象限の境界線を越えて転移するときに転移信号Zを発生する。また、象限信号Qは、転移信号Zの発生毎にメモリ81に一時的に記憶されると同時に、転移方向検出回路82にも入力される。転移方向検出回路82は転移信号Zが発生するのに伴って象限信号発生回路80から入力された現在の象限信号Q(すなわち、転移後の象限信号Q)と、前回の転移信号Zの発生に伴ってメモリ81に記憶されていた前回の象限信号Q(すなわち、転移前の象限信号Q)とを比較し、象限が右回りに転移したか左回りに転移したかを判定する。但し、転移方向検出回路82の出力は、受波信号Einに対応するベクトルが原点を中心として反時計回りに象限の境界線(基本軸)を横切る場合に加算、時計回りに象限の境界線を横切る場合に減算を指示する方向信号が出力されるように設定されている。転移方向検出回路82の出力である方向信号と象限検出回路80の出力である転移信号Zとが演算回路83に入力され、演算回路83では、転移信号Zが発生するたびに転移方向検出回路82の出力信号を読み込み、演算回路83に記憶されている値に対して方向信号が反時計回りなら1を加え、時計回りなら1を引くように信号処理する。そして演算回路83の出力値の絶対値が閾値回路84に予め設定されている閾値を越えると、閾値回路84の出力がLレベルからHレベルに変化する。
【0044】
閾値回路84の出力がHレベルになれば、判定回路86がメモリ81に記憶されている検出フラグを1にセットするとともに、周波数切換回路85に対して第1周波数f1から第2周波数f2への切換を指示し、さらに、所定の待機時間のカウントを開始する。周波数切換回路85では判定回路86からの指示に応じて発振回路1の発振周波数を第2周波数f2に設定する。ここで、検知回路8では待機時間のカウントが完了するまでは象限信号発生回路80、転移方向検出回路82、演算回路83、閾値回路84による信号処理(検知処理)を中止させている。つまり、送波器3から送波される超音波の周波数が第1周波数f1から第2周波数f2に切り換えられた場合、切換前の第1周波数f1の超音波が監視空間内に残存している間は第1周波数f1の超音波と第2周波数f2の超音波が混在するために移動物体が存在すると誤検出してしまう可能性があるので、所定の待機時間が経過して監視空間内に第1周波数f1の超音波が存在しないとみなせるまで信号処理を中止することによって、上述のような誤検出を防止しているのである。なお、待機時間としては監視空間内に第1周波数f1の超音波が存在しないとみなせる時間であればよく、例えば、送波器3から送波される超音波が監視空間内を往復するのに要する時間の最大値よりも短くない時間とすればよい。また、ローパスフィルタ7A,7B等に使用されているコンデンサの充電電荷が待機時間内に完全に放電されるので、コンデンサに残った電荷による誤動作(誤検出)も併せて防止することができる。
【0045】
待機時間のカウントが完了すると、判定回路86はメモリ81に記憶されている象限信号Q並びに転移信号Zと演算回路83の出力値とを初期化するとともに所定の不検知時間のカウントを開始する。そして、不検知時間のカウントが完了するまでの間に閾値回路84の出力が再びHレベルになれば、判定回路86が報知器駆動回路11に対して検出信号を出力し、移動物体Oの存在が適宜報知器により報知される。一方、不検知時間のカウントが完了するまでの間に閾値回路84の出力がHレベルにならなければ、判定回路86から報知器駆動回路11に対して検出信号が出力されることはなく、判定回路86はメモリ81に記憶されている検出フラグを0にリセットした後、周波数切換回路85に対して第2周波数f2から第1周波数f1への切換を指示する。但し、周波数切換回路85に対して切換を指示する代わりにメモリ81の検出フラグを0にリセットするだけでも構わない。つまり、周波数を切り換える向きは何れの向きでもよいから、基準周波数を第1周波数f1から第2周波数f2に変更し、第2周波数f2から始めて第1周波数f1へ切り換えるという処理を行っても構わない。
【0046】
而して、本当の移動物体(例えば、監視空間内を移動する人)であれば、送波信号(超音波)の周波数を切り換えてもすべての周波数(第1周波数f1及び第2周波数f2)において象限信号Qが隣接する象限を順番に転移して移動物体として検知され、また、図10に示した構成と同様に移動しないにも関わらず移動物体と誤検出される物体、例えば、振動する物体(自動車の窓ガラスなど)であれば誤検出することはなく、さらに、監視空間の外から大きなエネルギ波(音圧レベルが非常に高い音波)が到来したときには、送波信号(超音波)の周波数を切り換えて監視空間内における超音波の分布が変化することにより、例えば、象限信号Qが隣接しない象限(第1象限と第3象限あるいは第2象限と第4象限)の間を転移するために移動物体として検知されなくなる。
【0047】
このように本実施形態では、発振回路1から第1周波数f1の送波信号を送波器3に出力させて移動物体を検知したとき、第1周波数f1と異なる第2周波数f2の送波信号を発振回路1から送波器3に出力させ、第2周波数f2の送波信号についても移動物体を検知したとき、言い換えるとすべての周波数(第1周波数f1並びに第2周波数f2)の送波信号について移動物体を検知したときにのみ検知回路8から検出信号を出力するので、移動物体の誤検出が防止できるものである。なお、上述の不検知時間は検出の対象とする移動物体の移動速度の最低値に応じて決定される。つまり、上述のように第1周波数f1の超音波を送波して移動物体が検知された場合、その候補が本当の移動物体であれば不検知時間が経過するまでの間に再度移動物体として検知されると考えられるので、不検知時間が経過するまでの間に再度移動物体が検知されなければ第1周波数f1の超音波送波に対する移動物体の検知を無視し、検知回路8における検知処理を初期化して新たに検知処理を開始するのである。
【0048】
ここで、図3に示すように送波器3は中心周波数fSにおいてエネルギ(音圧)が最大(WMAX)となる山型の出力特性を有しており、例えば、中心周波数fSよりも高い所定周波数を第1周波数f1とし、中心周波数fSよりも低い所定周波数を第2周波数f2としている。このように第1周波数f1と第2周波数f2を送波器3の出力特性における中心周波数fSよりも高い周波数と低い周波数に振り分ければ、各周波数f1,f2毎のエネルギ(音圧)の大小に起因して移動物体を検出可能な距離に生じるばらつきが抑制できる。このとき、検出可能距離のばらつきをさらに抑制するため、第1周波数f1並びに第2周波数f2として互いに同程度のエネルギ(音圧)、例えば、中心周波数fSにおける最大値WMAXに対して−3dB以内の値となる周波数を選択することが望ましい。なお、本実施形態では切り換える周波数の数を2種類(第1周波数f1と第2周波数f2)としたが、3種類以上の周波数を切り換えるようにしても構わないし、4種類以上且つ偶数種類の周波数を切り換える場合においては中心周波数fSよりも高い周波数帯域と低い周波数帯域から各々同数ずつ選択することが望ましい。
【0049】
(実施形態2)
図4に本実施形態のブロック図を示す。但し、機能的に実施形態1と共通する構成要素については同一の符号を付して適宜説明を省略する。
【0050】
発振回路1から出力する送波信号により送波器3が駆動され、発振回路1の発振周波数(第1周波数f1又は第2周波数f2)と同周波数の超音波が監視空間に送波され、監視空間内に存在する物体Oに超音波が反射して生じる反射波を受波器4で受波する。受波器4では受波した反射波を受波信号Einに変換し、この受波信号Einを第1及び第2の位相検波回路6A,6Bにそれぞれ入力して発振回路1の発振周波数と同周波数の基準信号E0,E0’と混合(ミキシング)する。ここで、一方の基準信号E0は移相回路10の出力であって、両基準信号E0,E0’の位相が互いに異なるように設定される。したがって、第1及び第2の位相検波回路6A,6Bの出力にビート信号として得られる一対のドップラー信号E,E’も位相が互いに異なったものとなる。そして、一対のドップラー信号E,E’は各々増幅回路13A,13Bで増幅された後に検知回路8に取り込まれる。
【0051】
検知回路8では、一対のドップラー信号E,E’をサンプリング回路87において所定のサンプリング周期でサンプリングし且つ量子化することでアナログ値からディジタル値に変換し、さらに変換したディジタル値を不揮発性のメモリ81に順次格納する。ここで、一方のドップラー信号Eをサンプリング回路87で変換したディジタル値(ディジタルデータ)をXn、他方のドップラー信号E’をサンプリング回路87で変換したディジタル値(ディジタルデータ)をYn(nは正の整数)とし、二次元直交座標系の原点を始点とし且つ(Xn,Yn)を終点とするベクトルRnを定義する。なお、ベクトルRnの大きさはドップラー信号E,E’の振幅に対応している。
【0052】
前回のサンプリングで得られてメモリ81に格納しているベクトルRn−1と今回のサンプリングで得られたベクトルRnとがなす角度(この角度をベクトルの回転角と呼ぶ。)φnを検知回路8のベクトル回転角演算回路88で演算する(図5参照)。なお、ベクトル回転角演算回路88では下記式により回転角φnを演算している。
【0053】
φn=arctan{(Xn−1Yn-Yn−1Xn)/(Xn−1Xn-Yn−1Yn)}
従って、物体Oが近付く場合はベクトルRnが反時計回りに回転するから回転角φnの極性は正となり、物体Oが遠ざかる場合はベクトルRnが時計回りに回転するから回転角φnの極性は負となる。そして、ベクトル回転角演算回路88で求めた回転角φnを回転角積算回路89で積算すれば、その積算値(=φ+φ+…+φn+…)が物体Oの移動距離に比例することになる。さらに回転角積算回路89で積算した積算値が閾値回路84で所定の閾値と比較され、積算値が閾値を越えると閾値回路84の出力がLレベルからHレベルに変化する。そして、閾値回路84の出力(H,Lの2値信号)は判定回路86に取り込まれる。
【0054】
ここで、位相変調がかかった反射波が受波器4で受波された場合、ドップラー信号E,E’をサンプリングして得られる振幅レベルの値Xn,Ynに位相変調によるノイズ分が重畳されて両者の間に大きな差が生じ、その結果、ベクトルRnの軌跡が図6の一点波線ロあるいは二点破線ハで示すように楕円上を移動することになって物体を誤検出してしまう虞がある。そのために本実施形態では、一対のドップラー信号E,E’の振幅レベルの値Xn,Ynを比較し双方の振幅レベル値の値Xn,Ynの差が所定値を越えているときは、上述のようにベクトルRnの軌跡が楕円上を移動していることになるから移動物体Oによる反射波ではないとみなし、当該ドップラー信号E,E’に対応する回転角φnをゼロまたは所定の最小値とする振幅レベル判定手段を備えることにより、移動物体以外の物体、例えば、振動する物体(窓ガラスなど)からの反射波に対する誤検出を防止している。
【0055】
本実施形態においては、検知回路8に設けられた振幅演算回路800並びに振幅判定回路801によって振幅レベル判定手段を構成している。振幅演算回路800では、一対のドップラー信号E,E’をサンプリング回路85でサンプリングして得られる振幅レベルの値Xn,Ynの実効値を演算して振幅判定回路801に出力する。振幅判定回路801では、振幅レベルの値Xn,Ynの実効値に対して両者の比(振幅比)を求めるとともに、その比を1よりも十分に大きい上限値並びに1よりも十分に小さい下限値と比較し、上限値よりも小さく且つ下限値よりも大きければ、ベクトル回転角演算回路88に対して回転角φnの演算を許可し、上限値以上あるいは下限値以下であれば、回転角φnの値をゼロまたは所定の最小値とするようにベクトル回転角演算回路88に指示する。
【0056】
すなわち、振幅レベルの値Xn,Ynの実効値の比が上限値以上あるいは下限値以下であるときは当該振幅レベルの値Xn,Ynに位相変調によるノイズ分が重畳されているとみなし、当該振幅レベルの値Xn,Ynから演算される回転角φnをゼロあるいは最小値とすることで回転角φnの積算値に対するノイズの影響を減らし、物体の誤検出を防止することができる。
【0057】
判定回路86では、閾値回路84の出力がHレベルに変化すると周波数切換回路85に対して第1周波数f1から第2周波数f2への切換を指示し、実施形態1と同様に、周波数切換回路85で切り換えて設定されるすべての周波数(第1周波数f1並びに第2周波数f2)において回転角積算回路89で積算した積算値が閾値を越えているという比較結果が閾値回路84から出力された場合にだけ、報知器駆動回路11に対して検出信号を送出する。検出信号は報知器駆動回路11に入力され、移動物体Oの存在が適宜報知器により報知される。なお、判定回路86の動作は実施形態1と共通であるから詳細な説明は省略する。
【0058】
ここで、従来例並びに実施形態1では象限転移の回数で移動する物体を検出しているため、受波信号Einに対応するベクトルが同一象限内に留まる程度にしか物体が移動しないときには当該物体を検出することができない。これに対して本実施形態では、二次元直交座標系において原点を始点とし一対のドップラー信号E,E’の振幅レベルの値Xn,Ynを終点とするベクトルRnが時間の経過に伴って回転するときの回転角φnを求めてこれを積算し、さらに回転角φnの積算値を閾値回路84にて所定の閾値と比較しているので、従来例や実施形態1のように一対のドップラー信号E,E’を2値化する際に欠落してしまう情報を含めてドップラー信号E,E’の変化を詳細に調べることができる。その結果、従来例並びに実施形態1では検出し得なかったような僅かしか移動しない物体、例えば、同一象限内に留まる程度の移動しかしない物体でも検出することができる。
【0059】
また、本実施形態において移動物体Oを検出した場合、理想的には、図6に実線イで示すようにベクトルRnの軌跡が原点を中心とする円周上を移動し、また、反射波が位相変調された場合には、ドップラー信号E,E’をサンプリングして得られる振幅レベルの値Xn,Ynに位相変調によるノイズ分が重畳されて両者の間に大きな差が生じ、その結果、ベクトルRnの軌跡が図6の一点波線ロあるいは二点破線ハで示すように楕円上を移動することになる。しかしながら、既に説明したように振幅レベルの値Xn,Ynの実効値の比が上限値以上あるいは下限値以下であるときは当該振幅レベルの値Xn,Ynに位相変調によるノイズ分が重畳されているとみなし、当該振幅レベルの値Xn,Ynから演算される回転角φnをゼロあるいは最小値としているので、回転角φnの積算値に対するノイズの影響を減らして物体の誤検出を防止することができる。
【0060】
さらに、監視空間の外から大きなエネルギ波(音圧レベルが非常に高い音波)が到来したときには、送波信号(超音波)の周波数を切り換えて監視空間内における超音波の分布が変化することにより、例えば、第1周波数f1に対してはベクトルRnの軌跡が図6の実線イで示すように円上を移動していたとしても、第2周波数f2に対してはベクトルRnの軌跡が図6の実線ロで示すように楕円上を移動するように変化し、その結果、移動物体として検知されなくなる。
【0061】
なお、実施形態1並びに実施形態2の何れにおいても物体の移動向き(送波器3並びに受波器4に対して近付く向き又は遠ざかる向き)を判別することが可能であるから、第1周波数f1並びに第2周波数f2の送波信号について移動物体を検知するとともに、それぞれの移動物体の移動向きが一致したときにのみ判定回路86から検出信号を出力するようにしても構わない。例えば、車室内に吊り下げられているお守りやアクセサリー等は振り子のように揺れ動くものを移動物体として検出することは望ましくないので、上述のように「それぞれの移動物体の移動向きが一致する」という条件を付加すれば、上述のように揺れている物体を移動物体と誤検出するのを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】実施形態1を示すブロック図である。
【図2】同上の動作説明用のフローチャートである。
【図3】同上における送波器の出力特性図である。
【図4】実施形態2を示すブロック図である。
【図5】同上の動作説明図である。
【図6】同上の動作説明図である。
【図7】従来例を示すブロック図である。
【図8】同上の動作説明図である。
【図9】同上の動作説明図である。
【図10】他の従来例を示すブロック図である。
【図11】同上の動作説明用の波形図である。
【図12】同上における軸符号信号の説明図である。
【図13】同上における象限信号の説明図である。
【符号の説明】
【0063】
1 発振回路
3 送波器
4 受波器
5 受波回路
6A,6B 位相検波回路
8 検知回路
84 閾値回路
85 周波数切換回路
86 判定回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発振周波数が可変である発振手段と、発振手段から出力する送波信号により振幅が周期的に変化する連続エネルギ波を監視空間に送波する送波手段と、前記連続エネルギ波が監視空間に存在する物体に反射して生じる反射波を受波する受波手段と、送波信号と同周波数で互いに位相の異なる基準信号と受波信号とを混合することで基準信号との位相差に応じた振幅を有し且つ互いに位相の異なる一対のドップラー信号を得る位相検波手段と、当該一対のドップラー信号を信号処理して前記監視空間における移動物体を検知して検出信号を出力する検知手段とを備え、
検知手段は、発振手段から基本周波数の送波信号を送波手段に出力させて移動物体を検知したときに当該基本周波数と異なる1乃至複数種類の周波数の送波信号を発振手段から送波手段に出力させ、当該1乃至複数種類の周波数のすべての送波信号について移動物体を検知したときにのみ検出信号を出力することを特徴とする移動物体検出装置。
【請求項2】
送波手段は、連続エネルギ波のエネルギが最大となる中心周波数を頂点とする山型の出力特性を有し、
検知手段は、基本周波数並びに前記1乃至複数種類の周波数が前記中心周波数よりも高い周波数と低い周波数に振り分けて設定されることを特徴する請求項1記載の移動物体検出装置。
【請求項3】
検知手段は、基本周波数並びに前記1乃至複数種類の周波数が、送波手段から送波される連続エネルギ波のエネルギが略同一となる周波数に設定されてなることを特徴とする請求項2記載の移動物体検出装置。
【請求項4】
検知手段は、発振手段から出力する送波信号の周波数を切り換えた時点から所定の待機時間が経過するまでは移動物体の検知を行わないことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の移動物体検出装置。
【請求項5】
検知手段は、送波手段から送波される連続エネルギ波が監視空間内を往復するのに要する時間の最大値よりも短くない時間に前記待機時間が設定されてなることを特徴とする請求項4記載の移動物体検出装置。
【請求項6】
検知手段は、基本周波数において検知された移動物体の移動向きと、1乃至複数種類の周波数において検知された移動物体の移動向きとが一致する場合に検出信号を出力することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の移動物体検出装置。
【請求項7】
検知手段は、1乃至複数種類の周波数において移動物体が検知されなければ、所定の不検知時間が経過した時点で移動物体の検知処理を初期化することを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の移動物体検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−145255(P2008−145255A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−332432(P2006−332432)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】