説明

移動物体検出装置

【課題】僅かしか移動しない物体でも検出できる移動物体検出装置を提供する。
【解決手段】二次元直交座標系において原点を始点とし一対のドップラー信号E,E’の振幅レベルの値Xn,Ynを終点とするベクトルRnが時間の経過に伴って回転するときの回転角φnを求めてこれを積算する。さらに回転角φnの積算値を閾値回路88にて所定の閾値と比較し、積算値が閾値を越えたときに検出信号を送出する。従来例のように一対のドップラー信号E,E’を2値化する際に欠落してしまう情報を含めてドップラー信号E,E’の変化を詳細に調べることができるから、従来例では検出し得なかったような僅かしか移動しない物体、例えば、同一象限内に留まる程度の移動しかしない物体Oでも検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波や電波などの連続エネルギ波を監視空間に放射し、監視空間内の物体の移動により生じる反射波の周波数偏移を検出することにより、監視空間内において移動する物体の存在を検出する移動物体検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の車両盗難並びに車上盗難が増加しているため、駐車中の車両に不審者が侵入した場合に警報音を鳴動する車載用盗難警報装置が普及してきており、かかる車載用盗難警報装置には監視空間(車内)における移動物体(人)の存否を検出するために移動物体検出装置が搭載されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この種の移動物体検出装置は、所定周波数の連続エネルギ波(例えば、超音波)を監視空間内に放射しておき、監視空間内に存在する物体の移動に伴なってドップラー効果として生じる反射波の周波数偏移を検出するように構成されている(例えば、特許文献2,3参照)。
【0004】
図9に従来の移動物体検出装置の一例を示す。発振器1が発振する所定周波数の送波信号を受けて送波回路2が送波器3を駆動することにより、発振器1の発振周波数と同周波数の超音波が監視空間に送波され、監視空間内に存在する物体Oに超音波が反射して生じる反射波を受波器4で受波する。受波器4では受波した反射波を受波信号Einに変換し、この受波信号Einを第1及び第2の位相検波回路6A,6Bにそれぞれ入力して発振器1の発振周波数と同周波数の基準信号E0,E0’と混合する。ここで、一方の基準信号E0は移相回路10の出力であって、両基準信号E0,E0’の位相が互いに異なるように設定される。したがって、第1及び第2の位相検波回路6A,6Bの出力にビート信号として得られる一対のドップラー信号E,E’も位相が互いに異なったものとなる。ドップラー信号E,E’はそれぞれローパスフィルタ7A,7Bで高調波成分が除去された後にコンパレータ9A,9Bにおいて信号の正負に対応した2値信号(以下、「軸符号信号」と呼ぶ。)X,Yに変換される。軸符号信号X,Yはそれぞれ2値(ハイレベルとローレベル)を有しているから、両者の組み合わせにより4つの状態を表わすことができるのであり、これら4状態はドップラー信号E,E’を基本軸とするベクトル平面の4つの象限のうちで、受波信号Einに対応するベクトルがどの象限に存在しているかを示すことになる。したがって、ドップラー信号E,E’の極性の組み合わせにより4つの状態(正正、正負、負負、負正)を考えれば、ベクトル平面上の各象限(第1象限乃至第4象限)に対応させることができるのである。要するに正負両極性を有したドップラー信号E,E’の極性を組み合わせることによって4つの状態を分類すれば、両ドップラー信号E,E’の信号値を成分としたベクトルが存在する象限(第1象限乃至第4象限)と上記各状態とが一対一に対応することになる。このベクトルは、受波信号Einの基準信号E,E’に対する周波数偏移に応じてベクトル平面内の象限を移動し、周波数が低くなるか高くなるか、すなわち物体Oが遠ざかるか近付くかに応じて、象限を右回りもしくは左回りに移動するのである。
【0005】
そこで、この従来例では象限信号発生回路80、メモリ81、転移方向検出回路82、演算回路83、閾値回路84で検知回路8を構成し、以下のような処理を行っている。但し、検知回路8をマイコンで構成し、マイコンにおいてプログラムを実行することで象限信号発生回路80、転移方向検出回路82、演算回路83、閾値回路84の機能を実現することも可能ある。
【0006】
象限信号発生回路80では、上述した信号処理により、上記ベクトル平面上において受波信号Einが存在する象限を検出して対応する象限信号Qを出力し、同時に受波信号Einが各象限の境界線を越えて転移するときに転移信号Zを発生する。象限信号Qは4状態を表わせばよいから、2ビット以上あればよい。また、象限信号Qは、転移信号Zの発生毎にメモリ81に一時的に記憶されると同時に、転移方向検出回路82にも入力される。ここに、メモリ81に記憶される象限信号Qは転移信号Zの発生毎に更新される。
【0007】
転移方向検出回路82では、受波信号Einに対応するベクトルが隣接する象限(第1象限乃至第4象限)に転移して転移信号Zが発生するのに伴って象限信号発生回路80から入力された現在の象限信号Q(すなわち、転移後の象限信号Q)と、前回の転移信号Zの発生に伴ってメモリ81に記憶されていた前回の象限信号Q(すなわち、転移前の象限信号Q)とが比較され、象限が右回りに転移したか左回りに転移したかが判定される。ここで、転移方向検出回路82の出力としては、受波信号Einに対応するベクトルが原点を中心として反時計回りに象限の境界線(基本軸)を横切る場合に加算、時計回りに象限の境界線を横切る場合に減算を指示する方向信号が出力されるように設定しておく。こうして、転移方向検出回路82の出力である方向信号が得られるとメモリ81の内容は更新される。転移方向検出回路82の出力である方向信号と象限検出回路80の出力である転移信号Zとは演算回路83に入力され、演算回路83では、転移信号Zが発生するたびに転移方向検出回路82の出力信号を読み込み、演算回路83に記憶されている値に対して方向信号が反時計回りなら1を加え、時計回りなら1を引くようにする。したがって、受波信号Einに対応するベクトルが第1象限から第2象限を通過して第3象限に至る軌跡を描いて移動した場合、演算回路83の初期値が0であれば、最終値は3になる。こうして演算回路83の出力値の絶対値が閾値回路84に予め設定されている閾値を越えると、閾値回路84は検出信号を送出する。検出信号は報知器駆動回路11に入力され、移動物体Oの存在が適宜報知器により報知される。
【0008】
上記構成によれば、超音波を送出して反射波の周波数偏移を検出するのであるから、送波信号の周波数をf0、物体の移動速度をv、超音波の伝播速度をcとすれば、ドップラー信号E,E’の周波数Δfは、|Δf|≒2vf0/cとなり(一般に、v≪c)、ドップラー信号E,E’の周波数は物体の移動速度vに比例することになる。また、物体が単位距離だけ移動したときに発生する、ドップラー信号E,E’の波数Nは、N=2f0/cとなるから、超音波の伝播速度cと送波周波数f0とが一定であれば、物体の移動速度vとは無関係に波数Nは一定となる。したがって、受波信号Einに対応するベクトルのベクトル平面での象限転移の回数も一定となる。つまり、上述のように4象限で表わせば、象限転移の回数は4×N回となり、物体の移動距離に比例することになる。また、象限の転移の向きは物体の移動する向きを表わすから、象限の転移が生じたときに転移の向きに応じて転移回数を加減算すれば、物体の移動距離と向きを知ることができるのである。換言すれば、監視空間内での物体Oの移動距離が閾値回路84の判定基準となり、物体Oが監視空間内で移動する時間には関係なく、物体の存在を検出することができるのである。
【特許文献1】特開平9−272402号公報
【特許文献2】特公昭62−43507号公報
【特許文献3】特公平6−16085号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来例では象限転移の回数で移動する物体Oを検出しているため、受波信号Einに対応するベクトルが同一象限内に留まる程度にしか物体Oが移動しないときには当該物体Oを検出することができない。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みて為されたものであり、その目的は、僅かしか移動しない物体でも検出できる移動物体検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明は、上記目的を達成するために、所定の周波数で発振する発振手段と、発振手段から出力する送波信号により振幅が周期的に変化する連続エネルギ波を監視空間に送波する送波手段と、前記連続エネルギ波が監視空間に存在する物体に反射して生じる反射波を受波する受波手段と、送波信号と同周波数で互いに位相の異なる基準信号と受波信号とを混合することで基準信号との位相差に応じた振幅を有し且つ互いに位相の異なる一対のドップラー信号を得る位相検波手段と、二次元直交座標系において原点を始点とし一対のドップラー信号の振幅レベルの数値を終点とするベクトルが時間の経過に伴って回転するときの回転角を演算する回転角演算手段と、回転角演算手段で演算された回転角を積算する積算手段と、積算手段で積算された回転角の積算値を所定の閾値と比較する比較手段とを備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、一対のドップラー信号の振幅レベルを比較し双方の振幅レベル間の差が所定値を越えているときは当該ドップラー信号に対応する回転角をゼロまたは所定の最小値とする振幅レベル判定手段を備えたことを特徴とする。
【0013】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記振幅レベル判定手段は、前記二次元直交座標系を原点のまわりに所定角度だけ回転させる座標変換を行うとともに座標変換後の前記一対のドップラー信号の振幅レベル間の差を所定値と比較することを特徴とする。
【0014】
請求項4の発明は、請求項1の発明において、前記ベクトルの大きさが所定の下限値を越えるか否かを判断し且つ越えていないときは当該ベクトルに対応する回転角をゼロまたは所定の最小値とするベクトル判定手段を備えたことを特徴とする。
【0015】
請求項5の発明は、請求項1の発明において、前記ベクトルの大きさの経時的な変化量が所定の範囲から外れるか否かを判断し且つ外れているときは当該ベクトルに対応する回転角をゼロまたは所定の最小値とするベクトル判定手段を備えたことを特徴とする。
【0016】
請求項6の発明は、請求項1の発明において、前記回転角の絶対値が所定の下限値を越えるか否かを判断し且つ越えていないときは当該回転角をゼロまたは所定の最小値とする回転角判定手段を備えたことを特徴とする。
【0017】
請求項7の発明は、請求項1の発明において、前記回転角の絶対値が所定の上限値を越えるか否かを判断し且つ越えているときは当該回転角をゼロまたは所定の最小値とする回転角判定手段を備えたことを特徴とする。
【0018】
請求項8の発明は、請求項1の発明において、前記回転角の経時的な変化量が所定の上限値を越えるか否かを判断し且つ越えているときは当該回転角をゼロまたは所定の最小値とする回転角判定手段を備えたことを特徴とする。
【0019】
請求項9の発明は、請求項1の発明において、前記回転角の一定時間内における積算値が所定の下限値を越えているか否かを判断し且つ越えていないときは当該積算値を初期値に戻す積算値判定手段を備えたことを特徴とする。
【0020】
請求項10の発明は、請求項1の発明において、前記回転角の一定時間内における積算値が所定の下限値を越えているか否かを判断し且つ越えていないときは当該積算値に1未満の係数を乗算する積算値判定手段を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
請求項1の発明によれば、回転角演算手段により、二次元直交座標系において原点を始点とし一対のドップラー信号の振幅レベルの数値を終点とするベクトルが時間の経過に伴って回転するときの回転角を演算するとともに、回転角演算手段で演算された回転角を積算手段で積算し、さらに積算手段で積算された回転角の積算値を比較手段にて所定の閾値と比較するので、従来例のように一対のドップラー信号を2値化する際に欠落してしまう情報を含めてドップラー信号の変化を詳細に調べることができる。その結果、従来例では検出し得なかったような僅かしか移動しない物体でも検出できる。
【0022】
請求項2の発明によれば、一対のドップラー信号の振幅レベルを比較し双方の振幅レベル間の差が所定値を越えているときは当該ドップラー信号に対応する回転角をゼロまたは所定の最小値とする振幅レベル判定手段を備えたので、移動物体以外の物体、例えば、振動する物体からの反射波に対する誤検出が防止できる。
【0023】
請求項3の発明によれば、前記振幅レベル判定手段が、前記二次元直交座標系を原点のまわりに所定角度だけ回転させる座標変換を行うとともに座標変換後の前記一対のドップラー信号の振幅レベル間の差を所定値と比較するので、移動物体以外の物体、例えば、振動する物体からの反射波に対する誤検出がさらに確実に防止できる。
【0024】
請求項4の発明によれば、移動物体までの距離が遠いほどベクトルの大きさが小さくなるから、ベクトル判定手段にてベクトルの大きさが所定の下限値を越えるか否かを判断し且つ越えていないときは当該ベクトルに対応する回転角をゼロまたは所定の最小値とすることで本来検出すべきでない遠方の物体の誤検出が防止できる。
【0025】
請求項5の発明において、前記ベクトルの大きさの経時的な変化量が所定の範囲から外れるか否かを判断し且つ外れているときは当該ベクトルに対応する回転角をゼロまたは所定の最小値とするベクトル判定手段を備えたので、移動物体以外の物体、例えば、振動する物体からの反射波に対する誤検出が防止できる。
【0026】
請求項6の発明によれば、前記回転角の絶対値が所定の下限値を越えるか否かを判断し且つ越えていないときは当該回転角をゼロまたは所定の最小値とする回転角判定手段を備えたので、超音波における空気のように連続エネルギ波を伝搬する媒体が揺らぐことによる誤検出が防止できる。
【0027】
請求項7の発明によれば、前記回転角の絶対値が所定の上限値を越えるか否かを判断し且つ越えているときは当該回転角をゼロまたは所定の最小値とする回転角判定手段を備えたので、検出対象の移動体が移動し得る速度よりも速い速度で移動する検出対象外の物体を誤検出するのを防止できる。
【0028】
請求項8の発明によれば、前記回転角の経時的な変化量が所定の範囲から外れるか否かを判断し且つ外れているときは当該回転角をゼロまたは所定の最小値とする回転角判定手段を備えたので、検出対象の移動体が出し得る加速度よりも大きい加速度で移動する検出対象外の物体を誤検出するのを防止できる。
【0029】
請求項9の発明によれば、積算値においては回転角の誤差が累積されていくから、前記回転角の一定時間内における積算値が所定の下限値を越えているか否かを判断し且つ越えていないときは当該積算値を初期値に戻す積算値判定手段を備えることにより、積算値の累積誤差による誤検出が防止できる。
【0030】
請求項10の発明によれば、積算値においては回転角の誤差が累積されていくから、前記回転角の一定時間内における積算値が所定の下限値を越えているか否かを判断し且つ越えていないときは当該積算値に1未満の係数を乗算する積算値判定手段を備えたことにより、積算値の累積誤差による誤検出が防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、連続エネルギ波として超音波を用いる実施形態について図面を参照して詳細に説明する。但し、超音波の代わりに電波を用いる場合にも本発明の技術思想は適用可能である。
【0032】
(実施形態1)
本発明の実施形態1のブロック図を図1に示す。但し、機能的に従来例と共通する構成要素については同一の符号を付して適宜説明を省略する。
【0033】
発振回路1が発振する所定周波数の正弦波形の送波信号により送波器3が駆動され、発振回路1の発振周波数と同周波数の超音波が監視空間に送波され、監視空間内に存在する物体Oに超音波が反射して生じる反射波を受波器4で受波する。受波器4では受波した反射波を受波信号Einに変換し、この受波信号Einを第1及び第2の位相検波回路6A,6Bにそれぞれ入力して発振回路1の発振周波数と同周波数の基準信号E0,E0’と混合(ミキシング)する。ここで、一方の基準信号E0は移相回路10の出力であって、両基準信号E0,E0’の位相が互いに異なるように設定される。したがって、第1及び第2の位相検波回路6A,6Bの出力にビート信号として得られる一対のドップラー信号E,E’も位相が互いに異なったものとなる。そして、一対のドップラー信号E,E’は各々増幅回路13A,13Bで増幅された後に信号処理部8に取り込まれる。
【0034】
信号処理部8では、一対のドップラー信号E,E’をサンプリング回路85において所定のサンプリング周期でサンプリングし且つ量子化することでアナログ値からディジタル値に変換し、さらに変換したディジタル値を不揮発性のメモリ81に順次格納する。ここで、一方のドップラー信号Eをサンプリング回路85で変換したディジタル値(ディジタルデータ)をXn、他方のドップラー信号E’をサンプリング回路85で変換したディジタル値(ディジタルデータ)をYn(nは正の整数)とし、二次元直交座標系の原点を始点とし且つ(Xn,Yn)を終点とするベクトルRnを定義する。なお、ベクトルRnの大きさはドップラー信号E,E’の振幅に対応している。
【0035】
前回のサンプリングで得られてメモリ81に格納しているベクトルRn−1と今回のサンプリングで得られたベクトルRnとがなす角度(この角度をベクトルの回転角と呼ぶ。)φnを信号処理部8のベクトル回転角演算回路86で演算する(図2参照)。なお、ベクトル回転角演算回路86では下記式により回転角φnを演算している。
【0036】
φn=arctan{(Xn−1Yn-Yn−1Xn)/(Xn−1Xn-Yn−1Yn)}
従って、物体Oが近付く場合はベクトルRnが反時計回りに回転するから回転角φnの極性は正となり、物体Oが遠ざかる場合はベクトルRnが時計回りに回転するから回転角φnの極性は負となる。そして、ベクトル回転角演算回路86で求めた回転角φnを回転角積算回路87で積算すれば、その積算値(=φ+φ+…+φn+…)が物体Oの移動距離に比例することになる。さらに回転角積算回路87で積算した積算値を閾値回路88で所定の閾値と比較し、積算値が閾値を越えたときに閾値回路88が検出信号を送出する。検出信号は報知器駆動回路11に入力され、移動物体Oの存在が適宜報知器{図示せず}により報知される。
【0037】
上述のように本実施形態では、二次元直交座標系において原点を始点とし一対のドップラー信号E,E’の振幅レベルの値Xn,Ynを終点とするベクトルRnが時間の経過に伴って回転するときの回転角φnを求めてこれを積算し、さらに回転角φnの積算値を閾値回路88にて所定の閾値と比較しているので、従来例のように一対のドップラー信号E,E’を2値化する際に欠落してしまう情報を含めてドップラー信号E,E’の変化を詳細に調べることができる。その結果、従来例では検出し得なかったような僅かしか移動しない物体、例えば、同一象限内に留まる程度の移動しかしない物体Oでも検出することができる。なお、信号処理部8をマイコンで構成し、マイコンにおいてプログラムを実行することでベクトル回転角演算回路86、回転角積算回路87、閾値回路88の機能を実現することも可能である。
【0038】
(実施形態2)
ところで、移動物体Oを検出した場合、理想的には、図4(a)に破線イで示すようにベクトルRnの軌跡が原点を中心とする円周上を移動するはずである。一方、本発明に係る移動物体検出装置を車載用盗難警報装置に搭載した場合、他の車両(自動車、電車、オートバイなど)が側を通過することで発生する振動や音が駐車中の車両(自動車)に伝わって当該車両の窓ガラスや送波器3又は受波器4が微少な振幅で振動することがあり、その微少振動に起因して超音波の伝搬経路が時間的に変動して反射波に位相変調がかかることがある。そして、このような位相変調がかかった反射波が受波器4で受波された場合、ドップラー信号E,E’をサンプリングして得られる振幅レベルの値Xn,Ynに位相変調によるノイズ分が重畳されて両者の間に大きな差が生じ、その結果、ベクトルRnの軌跡が図4(a)の一点波線ロや二点破線ハで示すように楕円上を移動することになって物体を誤検出してしまう虞がある。
【0039】
そこで本実施形態では、一対のドップラー信号E,E’の振幅レベルの値Xn,Ynを比較し双方の振幅レベル値の値Xn,Ynの差が所定値を越えているときは、上述のようにベクトルRnの軌跡が楕円上を移動していることになるから移動物体Oによる反射波ではないとみなし、当該ドップラー信号E,E’に対応する回転角φnをゼロまたは所定の最小値とする振幅レベル判定手段を備えることにより、移動物体以外の物体、例えば、振動する物体(窓ガラスなど)からの反射波に対する誤検出を防止している。
【0040】
本実施形態のブロック図を図3に示す。但し、本実施形態の基本構成は実施形態1と共通であるから、共通の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0041】
本実施形態においては、信号処理部8に設けられた振幅演算回路89並びに振幅判定回路90によって振幅レベル判定手段を構成している。振幅演算回路89では、一対のドップラー信号E,E’をサンプリング回路85でサンプリングして得られる振幅レベルの値Xn,Ynの実効値を演算して振幅判定回路90に出力する。振幅判定回路90では、振幅レベルの値Xn,Ynの実効値に対して両者の比(振幅比)を求めるとともに、その比を1よりも十分に大きい上限値並びに1よりも十分に小さい下限値と比較し、上限値よりも小さく且つ下限値よりも大きければ、ベクトル回転角演算回路86に対して回転角φnの演算を許可し、上限値以上あるいは下限値以下であれば、回転角φnの値をゼロまたは所定の最小値とするようにベクトル回転角演算回路86に指示する。
【0042】
すなわち、振幅レベルの値Xn,Ynの実効値の比が上限値以上あるいは下限値以下であるときは当該振幅レベルの値Xn,Ynに位相変調によるノイズ分が重畳されているとみなし、当該振幅レベルの値Xn,Ynから演算される回転角φnをゼロあるいは最小値とすることで回転角φnの積算値に対するノイズの影響を減らし、物体の誤検出を防止することができる。なお、信号処理部8をマイコンで構成する場合、マイコンにおいてプログラムを実行することで振幅演算回路89並びに振幅判定回路90の機能を実現することも可能である。
【0043】
ところで、上述のように振動する物体からの反射波に対しては、振幅レベルの値Xn,Ynの実効値の比が上限値よりも十分大きく又は下限値よりも十分小さくなってベクトルRnの軌跡が二次元直交座標系の何れかの座標軸を長軸とするような楕円を描く場合もあれば、振幅レベルの値Xn,Ynが双方とも増減してベクトルRnの軌跡が二次元直交座標系の座標軸に対して長軸の傾いた楕円を描く場合があることを本発明者らは見出した(図4(a)の実線ニ参照)。しかしながら、このようにベクトルRnの軌跡が長軸の傾いた楕円を描く場合、振幅レベルの値Xn,Ynの実効値の比が上限値と下限値の間に収まってしまい、移動物体として誤検出されてしまう虞がある。なお、図4(a)の実線ニで示すようにベクトルRnの軌跡が長軸の傾いた楕円を描く場合として、上述のような位相変調以外にもドップラー信号E,E’に同相の交流ノイズが重畳した場合にも起こり得ることが判っている。
【0044】
そこで、図4(b)に示すように二次元直交座標系の座標軸を原点Oのまわりに所定角度(例えば、45度)だけ回転させて座標変換すれば、図4(b)の破線イに示すように移動物体Oに対する反射波から得られるベクトルRnの軌跡は真円に近い円であるから変化はほとんどないが、振動する物体に対する反射波から得られるベクトルRnの軌跡が座標変換後の座標軸を長軸とする楕円に変換される、つまり、座標変換後の振幅レベルの値X’n,Y’nの実効値の比が上限値以上あるいは下限値以下となるので、上述のように振動する物体を誤検出する虞はなくなる。なお、上述のような座標変換の処理は振幅演算回路89で実行すればよい。
【0045】
(実施形態3)
本実施形態のブロック図を図5に示す。但し、本実施形態の基本構成は実施形態1と共通であるから、共通の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0046】
本実施形態においては、ベクトルRnの大きさを演算するベクトル演算回路91と、ベクトル演算回路91で求めたベクトルRnの大きさが所定の下限値を越えるか否かを判定するベクトル判定回路92とが信号処理部8に設けられている。ベクトル演算回路91は、ベクトルRnの大きさ|Rn|を求めるために下記式の演算を行っている。
|Rn|={Xn2+Yn2}1/2
またベクトル判定回路92は、ベクトルRnの大きさ|Rn|を下限値と比較し、ベクトルRnの大きさ|Rn|が下限値を越えているときはベクトル回転角演算回路86に対して回転角φnの演算を許可し、下限値を越えていなければ、回転角φnの値をゼロまたは所定の最小値とするようにベクトル回転角演算回路86に指示する。
【0047】
すなわち、物体Oが遠方にあるほどベクトルRnの大きさ|Rn|が小さくなるが、本発明に係る移動物体検出装置を車載用盗難警報装置に搭載した場合、車外を移動する物体Oを検出することは本来の目的ではないので、ベクトルRnの大きさ|Rn|が所定の下限値を越えていなければ物体Oが車外に在るとみなし、当該ベクトルRnから演算される回転角φnをゼロあるいは最小値とすることで遠方の物体を誤検出することが防止できる。
【0048】
ここで、車載用盗難警報装置のように検出対象の移動物体が人である場合、サンプリング回路85におけるサンプリング周期程度の時間差ではベクトルRnの大きさ|Rn|はほとんど変化しないと考えられるので、前回のベクトルRn−1の大きさ|Rn−1|と今回のベクトルRnの大きさ|Rn|が大きく異なっていれば、ベクトルRn−1,Rnの大きさ|Rn−1|,|Rn|に位相変調によるノイズ分が重畳されているとみなすことができる。
【0049】
そこで、ベクトル演算回路91で求めたベクトルRnの大きさ|Rn|をメモリ81に格納しておき、ベクトル判定回路92にて前回のベクトルRn−1の大きさ|Rn−1|と今回のベクトルRnの大きさ|Rn|との比を求めるとともに、その比を1よりも十分に大きい上限値並びに1よりも十分に小さい下限値と比較し、上限値よりも小さく且つ下限値よりも大きければ、ベクトル回転角演算回路86に対して回転角φnの演算を許可し、上限値以上あるいは下限値以下であれば、回転角φnの値をゼロまたは所定の最小値とするようにベクトル回転角演算回路86に指示するようにしても構わない。
【0050】
すなわち、前回のベクトルRn−1の大きさ|Rn−1|と今回のベクトルRnの大きさ|Rn|との比が上限値以上あるいは下限値以下であるときは当該前回のベクトルRn−1の大きさ|Rn−1|又は今回のベクトルRnの大きさ|Rn|に位相変調によるノイズ分が重畳されているとみなし、前回並びに今回のベクトルRn−1,Rnから演算される回転角φnをゼロあるいは最小値とすることで回転角φnの積算値に対するノイズの影響を減らし、物体の誤検出を防止することができる。なお、信号処理部8をマイコンで構成する場合、マイコンにおいてプログラムを実行することでベクトル演算回路91並びにベクトル判定回路92の機能を実現することも可能である。
【0051】
(実施形態4)
本実施形態のブロック図を図6に示す。但し、本実施形態の基本構成は実施形態1と共通であるから、共通の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0052】
本発明に係る移動物体検出装置を車載用盗難警報装置に搭載した場合、駐車中に僅かに窓を開けた状態で警戒状態に設定されると窓から吹き込む風によって車内の空気が移動して超音波に低周波の揺らぎが発生し、その揺らぎによって物体の移動が誤検出される虞がある。
【0053】
そこで本実施形態では、上述のような低周波の揺らぎに起因した誤検出を防止するため、回転角φnの絶対値|φn|が所定の下限値を越えるか否かを判断し且つ越えていないときは当該回転角φnをゼロまたは所定の最小値とする回転角判定手段を備えている。本実施形態における回転角判定手段は、信号処理部8に設けられたベクトル回転角判定回路93で構成される。このベクトル回転角判定回路93では、ベクトル回転角演算回路86で求めた回転角φnの絶対値|φn|を所定の下限値と比較し、下限値を越えていれば当該回転角φnを回転角積算回路87に積算させ、下限値以下であれば回転角φnの値をゼロまたは所定の最小値として回転角積算回路87に積算させる。その結果、超音波に発生する低周波の揺らぎに起因した移動物体の誤検出を防止することができる。
【0054】
また、検出対象の物体が人である場合、人が出し得る加速度(手足や頭部などの身体の一部の加速度を含む。)の上限値を越えるときにはノイズと判断して誤検出を防止することが望ましい。そのため、回転角判定回路93において回転角φnの絶対値|φn|を人の出し得る加速度に対応した上限値と比較し、上限値を越えていなければ当該回転角φnを回転角積算回路87に積算させ、上限値以上であれば回転角φnの値をゼロまたは所定の最小値として回転角積算回路87に積算させるようにしても構わない。なお、信号処理部8をマイコンで構成する場合、マイコンにおいてプログラムを実行することでベクトル回転角判定回路93の機能を実現することも可能である。
【0055】
(実施形態5)
本実施形態のブロック図を図7に示す。但し、本実施形態の基本構成は実施形態1と共通であるから、共通の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0056】
実施形態4でも説明したように検出対象の物体が人である場合、人が出し得る加速度の上限値を越えるときにはノイズと判断して誤検出を防止することが望ましい。そのために本実施形態では、回転角φnの経時的な変化量が所定の範囲から外れるか否かを判断し且つ外れているときは当該回転角φnをゼロまたは所定の最小値とする回転角判定手段を備えている。本実施形態における回転角判定手段は、信号処理部8に設けられたメモリ81並びに回転角度差判定回路94で構成される。
【0057】
而して、ベクトル回転角演算回路86で求めた回転角φnをメモリ81に記憶し、回転角度差判定回路94において前回のサンプリングの回転角φn−1と今回のサンプリングの回転角φnとの差分(|φn−φn−1|)を求めるとともに当該差分が人が出し得る加速度に対応した所定範囲内に収まっているか否かを判定し、当該差分が所定範囲内に収まっていれば今回の回転角φnを回転角積算回路87に積算させ、所定範囲内に収まっていなければ今回の回転角φnの値をゼロまたは所定の最小値として回転角積算回路87に積算させることでノイズによる誤検出を防止することができる。なお、信号処理部8をマイコンで構成する場合、マイコンにおいてプログラムを実行することで回転角度差判定回路94の機能を実現することも可能である。
【0058】
(実施形態6)
本実施形態のブロック図を図8に示す。但し、本実施形態の基本構成は実施形態1と共通であるから、共通の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0059】
実施形態1〜5ではベクトル回転角演算回路86で求めた回転角φnを回転角積算回路87で積算しているため、積算時間(積算する回転角φnの個数)が増えるにつれて個々の回転角φnに含まれている誤差も積算されて閾値を越えてしまう虞がある。
【0060】
そこで本実施形態では、回転角φnの一定時間内における積算値が所定の下限値を越えているか否かを判断し且つ越えていないときは当該積算値を初期値に戻す積算値判定手段を備えている。この積算値判定手段は、メモリ81に格納されている数回分の回転角φnの積算値を演算する回転角積算値演算回路95と、回転角積算値演算回路95で求められた積算値を所定の下限値と比較して判定する回転角積算値判定回路96とで構成される。
【0061】
而して、ベクトル回転角演算回路86で求めた回転角φnをメモリ81に記憶し、回転角積算値演算回路95において数回分(一定時間内)の回転角φnの積算値を求め、さらに回転角積算値判定回路96にて当該積算値が所定の下限値を越えているか否かを判定し、下限値を越えていれば何もせず、下限値を越えていなければ回転角積算回路87における積算値を所定の初期値(ゼロあるいはゼロに近い微少な値)にリセットすることで積算値の累積誤差による誤検出が防止できる。なお、信号処理部8をマイコンで構成する場合、マイコンにおいてプログラムを実行することで回転角積算値演算回路95並びに回転角積算値判定回路96の機能を実現することも可能である。
【0062】
ここで、数回分の回転角φnの積算値が下限値を越えていない場合、回転角積算回路87における積算値を所定の初期値にリセットする代わりに、当該積算値に1未満の係数を乗算して閾値回路88に出力するようにしても積算値の累積誤差による誤検出が防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】実施形態1を示すブロック図である。
【図2】同上の動作説明図である。
【図3】実施形態2を示すブロック図である。
【図4】同上の動作説明図である。
【図5】実施形態3を示すブロック図である。
【図6】実施形態4を示すブロック図である。
【図7】実施形態5を示すブロック図である。
【図8】実施形態6を示すブロック図である。
【図9】従来例を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0064】
1 発振器
3 送波器
4 受波器
5 受波回路
6A,6B 位相検波回路
8 信号処理部
85 サンプリング回路
86 ベクトル回転角演算回路
87 回転角積算回路
88 閾値回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の周波数で発振する発振手段と、発振手段から出力する送波信号により振幅が周期的に変化する連続エネルギ波を監視空間に送波する送波手段と、前記連続エネルギ波が監視空間に存在する物体に反射して生じる反射波を受波する受波手段と、送波信号と同周波数で互いに位相の異なる基準信号と受波信号とを混合することで基準信号との位相差に応じた振幅を有し且つ互いに位相の異なる一対のドップラー信号を得る位相検波手段と、二次元直交座標系において原点を始点とし一対のドップラー信号の振幅レベルの数値を終点とするベクトルが時間の経過に伴って回転するときの回転角を演算する回転角演算手段と、回転角演算手段で演算された回転角を積算する積算手段と、積算手段で積算された回転角の積算値を所定の閾値と比較する比較手段とを備えたことを特徴とする移動物体検出装置。
【請求項2】
一対のドップラー信号の振幅レベルを比較し双方の振幅レベル間の差が所定値を越えているときは当該ドップラー信号に対応する回転角をゼロまたは所定の最小値とする振幅レベル判定手段を備えたことを特徴とする請求項1記載の移動物体検出装置。
【請求項3】
前記振幅レベル判定手段は、前記二次元直交座標系を原点のまわりに所定角度だけ回転させる座標変換を行うとともに座標変換後の前記一対のドップラー信号の振幅レベル間の差を所定値と比較することを特徴とする請求項2記載の移動物体検出装置。
【請求項4】
前記ベクトルの大きさが所定の下限値を超えるか否かを判断し且つ越えていないときは当該ベクトルに対応する回転角をゼロまたは所定の最小値とするベクトル判定手段を備えたことを特徴とする請求項1記載の移動物体検出装置。
【請求項5】
前記ベクトルの大きさの経時的な変化量が所定の範囲から外れるか否かを判断し且つ外れているときは当該ベクトルに対応する回転角をゼロまたは所定の最小値とするベクトル判定手段を備えたことを特徴とする請求項1記載の移動物体検出装置。
【請求項6】
前記回転角の絶対値が所定の下限値を越えるか否かを判断し且つ越えていないときは当該回転角をゼロまたは所定の最小値とする回転角判定手段を備えたことを特徴とする請求項1記載の移動物体検出装置。
【請求項7】
前記回転角の絶対値が所定の上限値を越えるか否かを判断し且つ越えているときは当該回転角をゼロまたは所定の最小値とする回転角判定手段を備えたことを特徴とする請求項1記載の移動物体検出装置。
【請求項8】
前記回転角の経時的な変化量が所定の上限値を越えるか否かを判断し且つ越えているときは当該回転角をゼロまたは所定の最小値とする回転角判定手段を備えたことを特徴とする請求項1記載の移動物体検出装置。
【請求項9】
前記回転角の一定時間内における積算値が所定の下限値を越えているか否かを判断し且つ越えていないときは当該積算値を初期値に戻す積算値判定手段を備えたことを特徴とする請求項1記載の移動物体検出装置。
【請求項10】
前記回転角の一定時間内における積算値が所定の下限値を越えているか否かを判断し且つ越えていないときは当該積算値に1未満の係数を乗算する積算値判定手段を備えたことを特徴とする請求項1記載の移動物体検出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2008−151506(P2008−151506A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−332436(P2006−332436)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】