説明

移動装置の物体検出方法

【課題】物体の種類や環境変化の条件などの影響により、移動装置において物体を検出できないことがあり、移動装置が物体に衝突することがある。
【解決手段】赤外線量検出部17で構成される物体検出機構13と、熱媒体放出部18から構成される熱媒体放出機構14と、制御機構15と、駆動機構16とを備える移動ロボット12によって物体の有無とその位置を検出することで、確実に物体を検出でき、移動ロボット12の安全性を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットなどの移動装置の周囲に存在する物体を検出する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の物体検出装置としては、自動カートや自律走行自動車などに代表される自律移動装置に搭載されたセンサを用いて進路上の物体を検出するものがある。ここで用いるセンサは、超音波センサ、光学センサ、赤外線センサなどがある。
【0003】
これらのセンサはそれぞれ長所と短所を有するため、それぞれを組み合わせることで課題を解決しようとする技術がある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
図8(a)は特許文献1における走行装置の概略説明図であり、図8(b)は特許文献1における走行装置の課題の概略説明図である。以下、同じ要素については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0005】
図8(a)において、自律走行装置1には、超音波センサ2と赤外線センサ3が搭載されている。超音波センサ2と赤外線センサ3とを併用することで、それぞれの短所を補いながら物体4の検出を行う。
【0006】
ここで、特許文献1における課題について図8(b)を用いて説明する。特許文献1に開示されているように、赤外線による物体検出を行う場合は、赤外線センサ3を用いて、物体4で反射した反射光5を受光する。しかしながら、図8(b)に示すように、特許文献1における自律走行装置1においては、自然光源6などからの自然光7も赤外線センサ3に入射する。特許文献1には、この自然光7の影響をできる限り小さくするために、超音波センサ2と赤外線センサ3とを切り替えてセンシングを行い、赤外線センサ3でのセンシングを少なくするための手段が開示されている。
【0007】
また、赤外線センサを用いた物体の検出において、物体周囲との温度差を用いて高精度に物体の検出を行う技術がある(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
図9は特許文献2における走行装置の概略説明図である。
【0009】
図9において、走行車両8は、第1の赤外線センサ9と第2の赤外線センサ10とを有している。特許文献2における走行装置は、この2つの赤外線センサを用いて物体11を検出し、より検出精度の高い方の赤外線センサのデータを用いることで、高精度な物体の検出を行うものである。
【特許文献1】特開2006−11594号公報
【特許文献2】特開2003−04860号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示されている物体検出方法では、環境変化の影響によりハレーション(乱反射)などを生じるおそれがある。また、特許文献2に開示されている物体検出方法では、周囲との温度差が小さい場合に物体を検出するのが困難である。それらを解決するために、複数のセンサを複合して設ける技術があるが、透過性を有し、周囲との温度差が小さいガラスなどの物体では、赤外線センサと光学センサとを用いても物体を検出することは困難である。
【0011】
本発明は、前記従来の課題を解決するものであり、物体の有無とその位置を確実に検出できる移動装置の物体検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に記載の移動装置の物体検出方法は、移動装置から所定の領域における赤外線量を測定する第1工程と、前記移動装置から前記所定の領域に熱を放出した後、再度、前記所定の領域における赤外線量を測定する第2工程と、前記第1工程の赤外線量と前記第2工程の赤外線量とに基づいて物体の存在を特定する第3工程と、前記第3工程の比較結果に基づいて前記移動装置に対する物体の相対位置関係を検出する第4工程と、を有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項2に記載の移動装置の物体検出方法は、請求項1に記載の方法であって、第3工程で物体の相対位置関係を検出した場合は、前記物体が存在する領域以外へ熱を放出することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項3に記載の移動装置の物体検出方法は、請求項1または2に記載の方法であって、第3工程での物体特定結果と、光センサを用いて測定した物体検出結果とを比較し、前記第3工程での物体特定結果に存在し、前記光センサを用いた物体検出結果に存在しない物体を、透明な物体であると認識することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明の移動装置の物体検出方法によれば、センサ同士の干渉や周囲環境の変化の影響を受けず、確実に物体の有無とその位置を検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明を行う。なお、本発明の説明において、同じ構成に対しては同じ符号を付して説明を省略する。
【0017】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における移動ロボット制御系のブロック構成図である。
【0018】
図1において、移動ロボットは、物体検出機構13と熱媒体放出機構14、制御機構15と駆動機構16を備える。
【0019】
物体検出機構13は赤外線のエネルギー量を検出する赤外線量検出部17から構成されており、熱媒体放出機構14は熱媒体放出部18から構成されている。
【0020】
本実施の形態では、赤外線量検出部17として赤外線サーモグラフィを用いる。この赤外線サーモグラフィは、受信した赤外線のエネルギー量(波長)を熱量に変換して熱情報のセンサ信号として出力する機能を有する。更に、複数台の赤外線サーモグラフィを設けてステレオビジョンとして用いることで、移動ロボット12に対する熱源の相対方向や相対距離などの相対位置情報を取得することができる。また、熱媒体放出部18としてヒートガンを用いる。この熱媒体放出部18としては、この他にマイクロ波などの電磁波や赤外線ヒータなどの熱線照射手段や、温冷風などの温度制御された風を送る送風手段を用いることができる。
【0021】
また、制御機構15は、赤外線量検出部17で取得した熱情報のセンサ信号を解析する解析部19と、熱媒体放出部18での熱媒体の放出量や放出範囲(放出領域)を調整する放出設定部20と、解析部19での解析結果を基に移動ロボット12の周囲の物体の有無を判断する判断部21と、必要な情報を蓄積しておくための記憶部22とから構成されている。
【0022】
本実施の形態では、解析部19、放出設定部20、判断部21はCPU等により構成し、記憶部22はRAM等により構成している。これらは、完全に独立したハードウェアに限られるものではなく、他の処理部とハードウェアを共有していても良い。つまり、同一のハードウェアを複数のソフトウェアにより、異なるブロック構成とすることも可能である。
【0023】
また、駆動機構16は、例えば部屋等の空間内における移動ロボット12の位置(絶対位置)を検出する位置検出部23と、判断部21での判断結果を基に移動ロボット12の移動を制御する移動制御部24と、移動制御部24の移動指令に従って駆動する駆動部25とから構成されている。
【0024】
本実施の形態では、駆動部25として車輪を用い、位置検出部23として車輪軸に取り付けられたエンコーダの値から得られるオドメトリによって位置を検出する機構を用いている。なお、本実施の形態では駆動部25として車輪を用いたが、車輪の代わりに少なくとも1本以上の脚部を用いた歩行移動でも実現可能である。
【0025】
図2は、実施の形態1における物体検出方法の処理フローを示す図である。図2を用いて、本実施の形態における物体検出方法の概要を説明する。
【0026】
図2において、まず、熱媒体放出部18から熱媒体27を移動ロボット12の周囲の所定の領域に放出する。このようにして放出された熱媒体27は、移動ロボット12の周囲の物体に照射され、熱媒体27によって物体の温度が上昇する。その後、熱媒体27を放出していない場合の赤外線26の検出結果と、熱媒体27を放出した後の赤外線26の検出結果とを比較することで、熱媒体27により温度が上昇する物体を検出することができる(ステップS1)。
【0027】
次に、赤外線量検出部17で受け取る赤外線26のエネルギー量を検出する。物体が存在し、その物体から赤外線26が放出されている場合は、物体からの赤外線26のエネルギー量を赤外線量検出部17で検出できる(ステップS2)。
【0028】
次に、受け取った赤外線26に基づいて物体(熱源)の位置情報Hoを解析し、その位置情報Hoを移動ロボットとの相対位置情報Poとして記憶部22で記憶する。また、それに併せて、位置検出部23から移動ロボット12の位置情報Roを検出し、記憶部22に記憶する。この相対位置情報Poと位置情報Roとに基づいて、移動ロボット12に対する物体の絶対位置情報Aoを判断する(ステップS3)。
【0029】
これら一連の処理フローにより求められた物体の位置情報に基づいて、移動ロボット12の移動制御部24で回避運動を制御する。
【0030】
図3は、実施の形態1における赤外線量検出部17と熱媒体放出部18の配置例を示す図である。
【0031】
図3において、移動ロボット12の周囲に熱媒体放出部18から熱媒体27を放出した後、検出範囲28内の物体29の熱分布30を赤外線量検出部17で調べることで、物体29を検出する。
【0032】
ここで、赤外線量検出部17と熱媒体放出部18とは1対の構成となっており、移動ロボット12の移動方向前方(移動ロボット12の進路上)の物体を検出するために、それぞれ少なくとも1つは移動ロボット12の移動方向前方に配置する必要がある。
【0033】
本実施の形態では、移動ロボット12の水平方向における周囲360度をカバーするために、赤外線量検出部17と熱媒体放出部18とを60度おきに6個配置している。ここで、赤外線量検出部17は扇形の検出範囲28(60度の扇形)内において赤外線量を正確に検出できるものであり、熱媒体放出部18は扇形の熱媒体放出範囲を備えるものである。ここで、本実施の形態のように60度おきに6個の熱媒体放出部18が配置されている場合は、熱媒体放出部18の熱媒体放出範囲は60度より大きくなることが好ましい(例えば、90度)。すなわち、複数の熱媒体放出部18による熱媒体放出範囲の合計範囲が、移動ロボット12の周囲360度以上となることが好ましい。これは、後述するように特定の方向への熱媒体を停止した場合に対応するためである。
【0034】
熱媒体放出部18からの熱媒体27が作用する範囲内に物体29が存在すると、物体29に放出された熱媒体27によって熱分布30が発生する。このように、移動ロボット12から移動ロボット12の周囲への熱媒体27によって物体29を熱上昇させ、それにより発生した熱分布30を得ることで、物体29を検出する。
【0035】
図4(a)は、熱媒体放出前の温度分布を示す図であり、図4(b)は、熱媒体体放出後の温度分布を示す図である。
【0036】
図4(a)に示すように、物体29が周囲との温度差が生じていないと、移動ロボット12の赤外線量検出部17を用いても物体29を検出できない。
【0037】
ここで、熱媒体放出部18として、風速1250m/min、風量0.2m3/min、ノズル口より10mm離れた位置の温度が最高温度約500度であるヒートガンを、環境温度30度で用いた場合について考察する。図4(b)に示すように、熱媒体放出部18から熱媒体27を放出した後だと、赤外線量検出部17で検出できる熱分布30が発生する。この熱分布30が発生している空間を物体29が存在している空間とすることで、物体29を検出できる。
【0038】
物体29を検出する原理について説明する。前述のヒートガンを用い、1m離れた場所に存在する1辺10cmのコンクリートへ1秒間熱媒体27を放出し、コンクリートの表面温度を31度に上昇させたとする。この場合、コンクリートより約0.055Wの赤外線エネルギー量が放出される。ここで、赤外線量検出部17として分解能が約0.001Wの赤外線サーモグラフィを用いるとコンクリートの熱分布30を検出することができ、この熱分布30に基づいて物体29を検出できる。
【0039】
図5は、実施の形態1におけるロボットの位置を示す図である。
【0040】
図5を用いて、物体29の絶対位置を測定する方法について説明する。例えば部屋の中などの限定された空間内において、位置検出部23によるオドメトリの計算等で移動ロボット12の位置(X1、Y1)を求める。その後、移動ロボット12と物体29との相対位置関係が分かれば、移動ロボット12の位置(X1、Y1)に基づいて、物体29の位置(X3、Y3)を求めることができる。これによって、物体29の絶対位置(X3、Y3)を把握できるため、例えば、物体の位置情報を含むマップを作成することができる。ここで、移動ロボット12の進路上に物体29が存在する場合は、位置(X2、Y2)等への回避運動を行う。
【0041】
図6は、実施の形態1における物体検出の概略説明図である。
【0042】
図6において、移動ロボット12の熱媒体放出部18から放出された熱媒体27は、移動ロボット12の周囲に存在する物体29に熱エネルギーとして吸収される。吸収されたエネルギーは物体29に熱分布30を発生させ、赤外線26を放射する。放出された赤外線26を赤外線量検出部17で検出することで、物体29を検出する。
【0043】
可燃温度の低い物体などの熱による影響が大きい物体に熱媒体を放出する場合や、移動ロボット12の省エネルギー化を図る場合などは、熱媒体27を常に放出するのではなく、必要に応じて熱媒体27を放出する構成とすることで、より効率的な物体回避を行うことができる。この処理フローを含む物体検出方法のフローについて説明する。
【0044】
図7は、実施の形態1における物体検出方法のフロー処理フローを示す図である。
【0045】
図7において、まず、赤外線量検出部17で移動ロボット12周辺の赤外線26を検出する。その後、熱によって発生する赤外線が存在しているか否かを判断し、存在している場合はステップS5に、存在していない場合はステップS9に進む(ステップS4)。
【0046】
続いて、解析部19で解析した熱検出情報と位置検出部23で検出した移動ロボット12の位置情報(図5における(X1、Y1)とに基づいて、赤外線26を発している熱源の位置情報(図5における(X2、Y2)を測定する(ステップS5)。
【0047】
続いて、記憶部22に熱源の位置情報を記憶する(ステップS6)。
【0048】
続いて、記憶部22に記憶した熱源の位置情報に基づいて、熱媒体放出部18からの熱媒体27放出の設定が必要か否かを判断する(ステップS7)。
【0049】
ステップS7で熱媒体27放出の設定が必要だと判断されると、放出設定部20で熱媒体27の温度、放出量、放出範囲(放出領域)の少なくとも一つを設定する(ステップS8)。
【0050】
続いて、必要に応じて設定された熱媒体27を熱媒体放出部18から放出する(ステップS9)。
【0051】
続いて、熱媒体27の放出回数をカウントし、熱媒体放出回数が1回目以下か否かを判断する。ここで、熱媒体放出回数が1回目以下の場合は、ステップS4に戻り、再度同じステップを繰り返す(ステップS10)。
【0052】
続いて、移動ロボット12で検出された熱源に基づいて、物体29を検出する(ステップS11)。
【0053】
このステップS4〜ステップS11の工程を繰り返すことで、移動ロボット12は物体29を検出する。本実施の形態を用いて移動ロボット12が障害物を回避する場合は、移動ロボット12の移動方向前方(進路上)における熱源(物体29)を障害物とみなして回避を行う。
【0054】
なお、本実施の形態では、位置検出部23で検出した移動ロボット12の位置情報を用いて、熱源(物体29)の絶対位置を検出したが、熱源(物体29)との相対位置のみを検出すればよい場合は、ステップS5を省略することも可能である。
【0055】
また、移動ロボット12が複数台存在した場合は、放射される赤外線エネルギー量が増加するので、より検出が容易になる。
【0056】
また、本実施の形態を用いることで、真空で超音波が伝わらず、かつ、太陽光からの外乱の影響を激しく受ける宇宙空間においても、物体の検出が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の移動装置の物体検出方法によれば、移動ロボットの数量や環境の変化などの影響を受けず、かつ、物体を確実に検出できる。そのため、家庭、ホテル、ゴルフ場、工場、空港などの生活環境の中の自動カートや搬送ロボットなどに適しているだけでなく、超音波が伝わらず、かつ、太陽光の影響を激しく受ける宇宙空間などで適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実施の形態1における移動ロボット制御系のブロック構成図
【図2】実施の形態1における物体検出方法の処理フローを示す図
【図3】実施の形態1における赤外線量検出部17と熱媒体放出部18の配置例を示す図
【図4】(a)熱媒体放出前の温度分布を示す図、(b)熱媒体体放出後の温度分布を示す図
【図5】実施の形態1におけるロボットの位置を示す図
【図6】実施の形態1における物体検出の概略説明図
【図7】実施の形態1における物体検出方法の処理フローを示す図
【図8】(a)特許文献1における走行装置の概略説明図、(b)特許文献1における走行装置の課題の概略説明図
【図9】特許文献2における走行装置の概略説明図
【符号の説明】
【0059】
13 物体検出機構
14 熱媒体放出機構
15 制御機構
16 駆動機構
17 赤外線量検出部
18 熱媒体放出部
19 解析部
20 放出設定部
21 判断部
22 記憶部
23 位置検出部
24 移動制御部
25 駆動部
26 赤外線
27 熱媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動装置から所定の領域における赤外線量を測定する第1工程と、
前記移動装置から前記所定の領域に熱を放出した後、再度、前記所定の領域における赤外線量を測定する第2工程と、
前記第1工程の赤外線量と前記第2工程の赤外線量とに基づいて物体の存在を特定する第3工程と、
前記第3工程の比較結果に基づいて前記移動装置に対する物体の相対位置関係を検出する第4工程と、を有すること
を特徴とする移動装置の物体検出方法。
【請求項2】
第3工程で物体の相対位置関係を検出した場合は、前記物体が存在する領域以外へ熱を放出すること
を特徴とする請求項1記載の移動装置の物体検出方法。
【請求項3】
第3工程での物体特定結果と、光センサを用いて測定した物体検出結果とを比較し、
前記第3工程での物体特定結果に存在し、前記光センサを用いた物体検出結果に存在しない物体を、透明な物体であると認識すること
を特徴とする請求項1または請求項2記載の移動装置の物体検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−134177(P2008−134177A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−321481(P2006−321481)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】