説明

空孔付き光ファイバの空孔径、空孔位置、空孔表面荒さまたは曲げ損失の測定方法、空孔付き光ファイバの製造方法および空孔付き光ファイバ光線路の試験方法

【課題】空孔付き光ファイバの空孔径の測定に際して、空孔付き光ファイバを切断することなく、簡便にその空孔径、空孔位置、空孔の表面粗さ、曲げ損失などの特性値を知ることができるようにする。
【解決手段】空孔付き光ファイバ3の両端にレファレンス用光ファイバ2をそれぞれ接続し、この接続光ファイバ2の両端からから測定光をそれぞれ入射して後方散乱光を計測する双方向OTDR測定を行い、これにより得られた2つの後方散乱光波形からレファレンス用光ファイバ2部分における相加平均値Irefと、空孔付き光ファイバ3の位置xでの相加平均値Ihf(x)とを算出し、相加平均値Ihfと相加平均値Irefとの差分(Ihf−Iref)ΔIを求め、予め求められた差分ΔIと空孔付き光ファイバ3の空孔径との相関関係に基づいて、位置xにおける空孔径、空孔径、空孔位置、空孔の表面粗さ、曲げ損失を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、空孔付き光ファイバの空孔径、空孔位置、空孔表面荒さまたは曲げ損失を非破壊的に測定する方法と、この測定方法を応用した空孔付き光ファイバの製造方法と、空孔付き光ファイバを有する既設の光線路の試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空孔付き光ファイバは、石英ガラスなどからなる光ファイバ中に複数個の空孔が形成され、それら空孔が光ファイバの長手方向に延びて存在する構造のものである。この空孔付き光ファイバにあっては、空孔の存在によって、従来の光ファイバでは実現できない光学特性が得られることが知られている。
例えば、特許第3854627号公報、2009年電子情報通信学会総合大会 B−13−24でも報告されているように、高屈折率のコアの周囲に空孔を複数個配置した空孔アシスト光ファイバでは、空孔による実効屈折率差の拡大により、曲げ損失特性の大幅な改善が見込まれる。
【0003】
このような空孔付き光ファイバは、例えば、特開2002−145634号公報などに記載があるように、空孔を設けた光ファイバ母材(プリフォーム)を線引きすることによって得られる。また、空孔を設けた光ファイバ母材は、光ファイバ母材にドリル穿孔加工を施すことにより孔開を行なうドリル法などの孔開方法によって得られる。
空孔付き光ファイバの線引きは、プリフォームの空孔に窒素ガスなどのガスを圧入して加圧する方法で行われ、圧入するガスの圧力を制御することによって、所望の空孔径を持つ空孔付き光ファイバが得られる。
【0004】
一方で、空孔付き光ファイバの空孔径は光学特性に大きく影響することが知られている。例えば、前記空孔アシスト光ファイバでは空孔径が小さいほど、光の閉じ込め効果が弱まることによって曲げ損失が増大することが知られている。このように、空孔径は光学特性に影響する因子であるため、空孔付き光ファイバの空孔径をその長手方向で一定の値に維持する必要がある。
【0005】
前述したように、空孔付き光ファイバの空孔径は光学特性に大きく影響するため、空孔径の長手方向の均一性を評価する必要がある。具体的には、空孔付き光ファイバを長手方向に複数個所切断して、その端面における空孔径、光学特性を測定することにより、品質保証を行なう必要がある。
この方法では、空孔付き光ファイバが短尺となるため、長尺の光ケーブルへの導入が難しく、また、長手方向の光学特性の品質保証方法としては不十分である。このような問題を回避するためには、空孔付き光ファイバの長手方向の空孔径の測定を非破壊で行い、さらに曲げ損失などの光学特性の保証を行なう手段が必要となる。
【0006】
この解決手段として、特許第4084762号公報では、線引き工程中での空孔径測定方法が提案されている。この方法は、線引き工程中の光ファイバの一端から光を入射してOTDR測定を行い、光ファイバに曲げを与えることによる後方散乱光の減衰量を測定することによって、空孔の内径を推定するものである。
しかしながら、この方法では線引き工程中に曲げ径10〜20mmの曲げを空孔付き光ファイバに付与する必要があるため、曲げ応力によって、局所的に空孔付き光ファイバが断線する可能性があり、生産性が悪いといった問題が生じる。また、空孔アシスト光ファイバのように曲げ損失が小さい空孔付きファイバを対象とした場合では、後方散乱光の減衰量の測定が困難となる。
また、空孔付き光ファイバの特性に影響を与えるとされている空孔位置、空孔の表面粗さの長手方向での値を知ることが必要とされることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4084762号公報
【特許文献2】特許第3854627号公報
【特許文献3】特開2002−145634号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】2009年電子情報通信学会総合大会 B−13−24
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明の課題は、空孔付き光ファイバの空孔径の測定に際して、空孔付き光ファイバを切断することなく、簡便にその空孔径を推定することができ、さらにその曲げ損失を推定できるようにすることにある。
同時に、空孔付き光ファイバの特性に影響を与える空孔位置、空孔の表面粗さをも該光ファイバを切断することなく推定できるようにすることにある。
また、この測定方法を適用して曲げ損失値を制御し、その曲げ損失値を保証できる空孔付き光ファイバを製造する方法を、さらにはこの測定方法を適用した空孔付き光ファイバを有する光線路の試験方法を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するために、
請求項1にかかる発明は、空孔付き光ファイバの双方向OTDR測定によって得られた2つの後方散乱光波形の位置xでの2つの後方散乱光強度から相加平均値I(x)を算出し、予め求められた相加平均値I(x)と空孔付き光ファイバの空孔径との相関関係に基づいて、位置xにおける空孔径を求めることを特徴とする空孔付き光ファイバの空孔径の測定方法である。
請求項2にかかる発明は、空孔付き光ファイバの双方向OTDR測定によって得られた2つの後方散乱光波形の位置xでの2つの後方散乱光強度から相加平均値I(x)を算出し、予め求められた相加平均値I(x)と空孔付き光ファイバの曲げ損失との相関関係に基づいて、位置xにおける曲げ損失を求めることを特徴とする空孔付き光ファイバの曲げ損失の測定方法である。
請求項3にかかる発明は、空孔付き光ファイバの双方向OTDR測定によって得られた2つの後方散乱光波形の位置xでの2つの後方散乱光強度から相加平均値I(x)を算出し、予め求められた相加平均値I(x)と空孔付き光ファイバの空孔位置との相関関係に基づいて、位置xにおける空孔位置を求めることを特徴とする空孔付き光ファイバの空孔位置の測定方法である。
請求項4にかかる発明は、空孔付き光ファイバの双方向OTDR測定によって得られた2つの後方散乱光波形の位置xでの2つの後方散乱光強度から相加平均値I(x)を算出し、予め求められた相加平均値I(x)と空孔付き光ファイバの空孔の表面粗さとの相関関係に基づいて、位置xにおける空孔の表面粗さを求めることを特徴とする空孔付き光ファイバの空孔の表面粗さの測定方法である。
【0011】
請求項5にかかる発明は、空孔付き光ファイバの両端にレファレンス用光ファイバをそれぞれ接続してなる接続光ファイバの双方向OTDR測定によって得られた2つの後方散乱光波形からレファレンス用光ファイバ部分における相加平均値Irefと、空孔付き光ファイバの位置xでの相加平均値Ihf(x)とを算出し、相加平均値Ihfと相加平均値Irefとの差分(Ihf−Iref)ΔIを求め、予め求められた差分ΔIと空孔付き光ファイバの空孔径との相関関係に基づいて、位置xにおける空孔径を求めることを特徴とする空孔付き光ファイバの空孔径の測定方法である。
請求項6にかかる発明は、空孔付き光ファイバの両端にレファレンス用光ファイバをそれぞれ接続してなる接続光ファイバの双方向OTDR測定によって得られた2つの後方散乱光波形からレファレンス用光ファイバ部分における相加平均値Irefと、空孔付き光ファイバの位置xでの相加平均値Ihf(x)とを算出し、相加平均値Ihfと相加平均値Irefとの差分(Ihf−Iref)ΔIを求め、予め求められた差分ΔIと空孔付き光ファイバの曲げ損失との相関関係に基づいて、位置xにおける曲げ損失を求めることを特徴とする空孔付き光ファイバの曲げ損失の測定方法である。
請求項7にかかる発明は、空孔付き光ファイバの両端にレファレンス用光ファイバをそれぞれ接続してなる接続光ファイバの双方向OTDR測定によって得られた2つの後方散乱光波形からレファレンス用光ファイバ部分における相加平均値Irefと、空孔付き光ファイバの位置xでの相加平均値Ihf(x)とを算出し、相加平均値Ihfと相加平均値Irefとの差分(Ihf−Iref)ΔIを求め、予め求められた差分ΔIと空孔付き光ファイバの空孔位置との相関関係に基づいて、位置xにおける空孔位置を求めることを特徴とする空孔付き光ファイバの空孔位置の測定方法である。
請求項8にかかる発明は、空孔付き光ファイバの両端にレファレンス用光ファイバをそれぞれ接続してなる接続光ファイバの双方向OTDR測定によって得られた2つの後方散乱光波形からレファレンス用光ファイバ部分における相加平均値Irefと、空孔付き光ファイバの位置xでの相加平均値Ihf(x)とを算出し、相加平均値Ihfと相加平均値Irefとの差分(Ihf−Iref)ΔIを求め、予め求められた差分ΔIと空孔付き光ファイバの空孔の表面粗さとの相関関係に基づいて、位置xにおける空孔の表面粗さを求めることを特徴とする空孔付き光ファイバの空孔の表面粗さの測定方法である。
【0012】
請求項9にかかる発明は、レファレンス用光ファイバがシングルモード光ファイバである請求項5記載の空孔付き光ファイバの空孔径の測定方法である。
請求項10にかかる発明は、レファレンス用光ファイバがシングルモード光ファイバである請求項6記載の空孔付き光ファイバの曲げ損失の測定方法である。
請求項11にかかる発明は、レファレンス用光ファイバがシングルモード光ファイバである請求項7記載の空孔付き光ファイバの空孔位置の測定方法である。
請求項12にかかる発明は、レファレンス用光ファイバがシングルモード光ファイバである請求項8記載の空孔付き光ファイバの空孔の表面粗さの測定方法である。
【0013】
請求項13にかかる発明は、空孔付き光ファイバの双方向OTDR測定によって得られた2つの後方散乱光波形の位置xでの2つの後方散乱光強度から算出される相加平均値I(x)を用いてモードフィールド径2W(x)を導出し、予め求められたモードフィールド径2W(x)と空孔付き光ファイバの空孔径との相関関係に基づいて、位置xにおける空孔径を求めることを特徴とする空孔付き光ファイバの空孔径の測定方法。
請求項14にかかる発明は、空孔付き光ファイバの双方向OTDR測定によって得られた2つの後方散乱光波形の位置xでの2つの後方散乱光強度から算出される相加平均値I(x)を用いてモードフィールド径2W(x)を導出し、予め求められたモードフィールド径2W(x)と空孔付き光ファイバの曲げ損失値との相関関係に基づいて、位置xにおける曲げ損失値を求めることを特徴とする空孔付き光ファイバの曲げ損失の測定方法である。
【0014】
請求項15にかかる発明は、請求項2、6、10および14のいずれかに記載の測定方法を用いて、既設の空孔付き光ファイバを有する光線路の曲げ損失および曲げ損失の欠陥位置の検知を行うことを特徴とする光線路の試験方法である。
請求項16にかかる発明は、空孔が形成された光ファイバ母材を溶融線引きして空孔付き光ファイバを得る第1の工程と、この第1の工程で得られた空孔付き光ファイバの空孔径、空孔位置、空孔の表面粗さまたは曲げ損失を測定する第2の工程を有する空孔付き光ファイバの製造方法であって、
第2の工程での空孔付き光ファイバの空孔径、空孔位置、空孔の表面粗さまたは曲げ損失を測定する方法が、請求項1、2、3、4、13および14のいずれかに記載の測定方法によって行われることを特徴とする空孔付き光ファイバの製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の測定方法にあっては、空孔付き光ファイバに対して双方向OTDR測定を行うことによって得られる後方散乱光強度から求められる相加平均値と、その空孔径、空孔位置、空孔の表面粗さとには高い相関関係が存在することが判明した。このため、本発明の測定方法によれば、双方向OTDR測定によって得られた2つの後方散乱光波形のある位置での後方散乱光強度から相加平均値を求め、予め求められている相加平均値と空孔径、空孔位置、空孔の表面粗さとの相関関係に基づいてその位置での空孔径、空孔位置、空孔の表面粗さを知ることができる。
したがって、空孔付き光ファイバを切断する必要がないとともに得られた空孔径からこれと相関関係が高い曲げ損失を推定することができる。
【0016】
また、本発明の光線路の試験方法によれば、空孔付き光ファイバを有する既設の光線路における任意の地点での曲げ損失値を知ることができ、曲げ損失値が異常な値を示す欠陥位置を特定することができる。このため、光線路の敷設の際などに過剰な外力が加わり、曲げ損失が増大した位置を検出でき、光線路の運用に寄与する。
【0017】
また、本発明の製造方法によれば、溶融線引きして得られた空孔付き光ファイバの曲げ損失値を推定でき、これにより空孔付き光ファイバの品質保証が可能となって、品質保証された空孔付き光ファイバを提供することができる。また、この製造方法によれば、曲げ損失値を所定値以下に抑えた空孔付き光ファイバを製造することができる。また、空孔付き光ファイバの空孔位置、空孔の表面粗さを推定でき、これら値を規定値内に収めた空孔付き光ファイバを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の測定方法の実施形態を示す概略構成図である。
【図2】実施形態における相加平均値I(x)の空孔付き光ファイバの長手方向での変化を示すグラフである。
【図3】実施形態における差分ΔIの空孔付き光ファイバの長手方向での変化を示すグラフである。
【図4】実施形態において使用した空孔付き光ファイバの断面構造を示す概略構成図である。
【図5】空孔アシスト光ファイバにおける差分ΔIと空孔径との関係をその長手方向での変化として示したグラフである。
【図6】空孔径と差分ΔIとの相関関係を示すグラフである。
【図7】曲げ損失値と差分ΔIとの相関関係を示すグラフである。
【図8】モードフィールド径と空孔径との相関関係を示すグラフである。
【図9】空孔径と曲げ損失値との相関関係を示すグラフである。
【図10】空孔付き光ファイバの空孔位置を示す断面図である。
【図11】空孔付き光ファイバの両端に参照用の光ファイバを接続した形態を示す図面である。
【図12】空孔の内径dと空孔位置2Rとの相関関係を示すグラフである。
【図13】差分ΔIと空孔位置2Rとの相関関係を示すグラフである。
【図14】本発明の光線路の試験方法の実施形態を示す概略構成図である。
【図15】本発明の製造方法の実施形態を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の測定方法あるいは試験方法の概略は、双方向OTDR測定技術を応用して空孔付き光ファイバの長手方向の空孔径、空孔位置、空孔の表面粗さまたは曲げ損失を推定するものである。
本発明での双方向OTDR測定技術は全反射OTDR測定技術を包含するものと定義する。
双方向OTDR測定技術とは、ITU−T G.650.1にあるように、光ファイバの双方向からOTDRにより後方散乱光波形を取得し、その波形から長手方向のコア径や比屈折率差などの構造変化を取得できる測定技術である。
【0020】
全反射OTDR測定技術とは、光ファイバの一方の端部(遠端)に全反射終端器を接続し、他方の端部(近端)から測定光を入射して、実質的に双方向からの後方散乱光波形を得るもので、その波形から長手方向のコア径や比屈折率差などの構造変化を取得できる測定技術であり、双方向OTDR測定技術と同様の機能を有するものである。
このような理由により、全反射OTDR測定技術を双方向OTDR測定技術に包含するものとしている。
このため、以下の実施形態では、本来の双方向OTDR測定技術と全反射OTDR測定技術とを区別して記載している。
【0021】
初めに、空孔付き光ファイバの空径と曲げ損失を求める方法について説明する。
種々の検討を重ねた結果、空孔付き光ファイバに対して双方向OTDR測定を行なった場合、得られる後方散乱光波形は空孔径と高い相関関係があることが判明した。
図1は、本発明の空孔径または曲げ損失の測定方法の一実施形態を示すもので、この実施形態は双方向OTDR測定法によるものである。
図中符号1は周知の双方向OTDR測定装置を示す。長さLの空孔付き光ファイバ3の両端に2本のレファレンス用光ファイバ2、2をそれぞれ接続し、この接続後の光ファイバの両端を双方向OTDR測定装置1に接続する。
これにより、各測定方向:方向Aおよび方向Bにそれぞれ測定光を入射して、方向Aおよび方向Bの2つの後方散乱光波形SおよびSを得る。
レファレンス用光ファイバ2、2には空孔付き構造もしくは空孔無し構造のどちらでも構わないが、光学特性が既知であり、かつ、長さ方向で光学特性が安定したシングルモード光ファイバが望ましい。2本のシングルモード光ファイバの長さは等しくとも異なっていてもよく、その長さは通常2〜5kmで十分である。
【0022】
得られた2つの後方散乱光波形SA、SBについて、空孔付き光ファイバ3での位置が一致する箇所において、後方散乱光強度の相加平均値を計算すれば、相加平均波形が得られる。例えば、方向Aからの長さxの位置における後方散乱光強度をSA(x)とし、方向Bからの長さL−xの位置における後方散乱光強度をSB(L−x)とすると、その相加平均値I(x)は、下記式(1)で表される。この相加平均値I(x)は、空孔付き光ファイバ3に2本のレファレンス用ファイバ2、2を接続してなる接続光ファイバのある位置xでの値となる。
【0023】
【数1】

【0024】
図2に、長さ約50kmの空孔付き光ファイバ3の両側にレファレンス用光ファイバ2、2として空孔無しのシングルモード光ファイバを2km長接続し、その双方向OTDR測定により得られた後方散乱光波形SAおよび後方散乱光波形SBから算出した相加平均値I(x)の光ファイバ長手方向の変化の結果、すなわち相加平均波形を示す。
【0025】
検討の結果、双方向OTDR測定から得られた相加平均値I(x)の変化と実際に空孔付き光ファイバの断面計測により得られた空孔径の変化とに相関関係があり、空孔径は相加平均値I(x)の一次関数で近似できることを見出した。
また、空孔の存在によって曲げ損失を大きく低減できる空孔アシスト光ファイバの場合、空孔径によってその曲げ損失特性が変化することが知られている。このことは、双方向OTDR測定から得られる相加平均値I(x)より、空孔アシスト光ファイバ長手方向の曲げ損失特性や遮断波長特性を推定できる可能性を示しており、実際に検証を行なった結果、相加平均値I(x)と曲げ損失に相関関係があり、曲げ損失は相加平均の指数関数として近似できることを見出した。
【0026】
さらに、測定長が異なる空孔付き光ファイバを比較評価する場合、相加平均値I(x)の絶対値は測定長によって異なるため、下記式で定義された差分ΔIにより、空孔付き光ファイバの長手方向の空孔変動および光学特性変動を評価することが望ましい。差分ΔIを用いることで測定長の影響を受けることがなくなる。
【0027】
【数2】

【0028】
図3は、図2の相加平均値I(x)の長手方向での変化を差分ΔIの長手方向での変化に換算して表したものである。
【0029】
また、測定対象である空孔付き光ファイバの末端の光学特性を予め測定しておき、差分ΔIについて得られた末端部の光学特性値で規格化した値で評価してもよい。
実用上、光ファイバ母材は製造ロット間もしくは母材長手方向において、コア径、比屈折率差などの構造パラメータに若干の製造バラつきを有するため、規格化した差分ΔIを用いることによって、製造ロット間ならびに母材長手方向の製造バラつきに起因する前記相関関係への影響を軽減でき、より精度の高い光ファイバ長手方向の空孔径さらには曲げ損失の推測が可能となる。
【0030】
具体的な規格化手法の一例は、まず測定対象である空孔付き光ファイバの末端におけるモードフィールド径Wと遮断波長λcを測定する。その後、双方向OTDR測定により前述のようにして差分ΔIを取得する。そして、規格化はΔI/(W/λc)とするものがある。
【0031】
また、本発明の空孔径または曲げ損失の測定方法では、空孔付き光ファイバの双方向OTDR測定から得られる相加平均値Iからモードフィールド径を算出し、このモードフィールド径から空孔径および曲げ損失値を推定することもできる。
空孔付き光ファイバの長さx地点における相加平均値I(x)からモードフィールド径2W(x)の算出方法としては、ITU−T G.650.1に記載に記載された下記式(3)から求められる。
【0032】
【数3】

【0033】
したがって、x0地点におけるモードフィールド径2W(x0)を予め測定しておけば、x地点におけるモードフィールド径2W(x)が算出できる。
また、電子情報通信学会技術報告OCS2005-89 社団法人電子情報通信学会 にもあるように、次の式(4)を用いても相加平均値I(x)からモードフィールド径2W(x)を算出できる。
【0034】
【数4】

【0035】
ここで、2W(x1)はx1地点におけるモードフィールド径、I(x1)はx1地点における相加平均値であり、x0地点ならびにx1地点におけるモードフィールド径2W(x0)、2W(x1)を予め測定し、x地点におけるモードフィールド径2W(x)を算出する方法である。
ここで、x0地点ならびにx1地点におけるモードフィールド径2W(x0)、2W(x1)、相加平均値I(x0)、I(x1)は、レファレンス用ファイバの値であってもよいし、空孔付き光ファイバの端末地点の値でもよい。
本発明では、空孔付き光ファイバのモードフィールド径と空孔径および曲げ損失に相関関係があることを見出した。
【0036】
以下に具体例を示して詳しく説明する。
図4は、本具体例に用いた空孔付き光ファイバを示すもので、ゲルマニウムドープシリカからなる高屈折率のコア6の近傍周囲のシリカからなるクラッド7中に10個の空孔7、7・・が同一円周上に均等に配置されて形成されてなる外径125μmの空孔アシスト光ファイバ4である。
図1に示した測定系を用いて、レファレンス用光ファイバ2、2として空孔無しのシングルモード光ファイバを2km長接続し、相加平均値I(x)の測定を行なった。なお、測定波長は1550nmとした。
【0037】
まずは、光ファイバ長手方向において空孔径が大きく変動している空孔アシスト光ファイバを準備し、相加平均値I(x)の測定から得られた差分ΔIの長手方向の変動と実際の空孔径変動を確認した。実際の空孔径の測定方法は、空孔アシスト光ファイバを切断し、その切断端面部について光学顕微鏡を用いて測定を行なった。
図5に空孔アシスト光ファイバの長手方向における差分ΔIの変動と空孔径の変動の比較を示した。差分ΔIと空孔径の変動はよく一致していることが分かった。
【0038】
このことから、空孔アシスト光ファイバの長手方向での位置(x)での差分ΔIを算出すれば、その位置(x)での空孔径を知ることができる。そして、空孔アシスト光ファイバでは、その空孔径と曲げ損失との間には高い相関関係があることが知られているので、差分ΔIから直接曲げ損失を知ることもできる。
【0039】
実際に、空孔径が異なる複数の空孔アシスト光ファイバの空孔径と曲げ損失を測定し、差分ΔIとの比較を行なった。曲げ損失は、IEC60793−1−47に準拠した測定方法で実施し、曲げ半径が5mm、測定波長が1550nmとした時の曲げ損失値を得た。
図6に差分ΔIと空孔径との関係を、図7に差分ΔIと曲げ損失との関係を示した。差分ΔIと空孔径または曲げ損失とは非常に良い相関関係を示し、空孔径は差分ΔIの一次関数で近似できることが判明した。
【0040】
したがって、1本の空孔付き光ファイバに対して双方向OTDR測定技術を用いて、図2に示すような差分ΔIと該光ファイバの長手方向での位置(x)との関係を求めれば、任意の位置(x)における差分ΔIが求められ、この差分ΔIに基づいて図6あるいは図7に示した相関関係から空孔付き光ファイバの長手方向での空孔径の変動または曲げ損失の変動を推定することができる。
【0041】
なお、前述の説明では、2本のレファレンス用光ファイバを空孔付き光ファイバの両端に接続してなる接続ファイバを測定対象とした例を挙げているが、必ずしもレファレンス用光ファイバを接続したものを用いる必要はない。
双方向OTDR測定装置1から直接空孔付き光ファイバ3の両端に測定光を入射して、2つの後方散乱光波形を取得し、図2に示す相加平均値I(x)と位置(x)との関係を求める。相加平均値I(x)と実際の空孔径もしくは実際の曲げ損失との間には、図6あるいは図7に示すような相関関係に似た相関関係が存在することが確認されている。このため、同様にして空孔付き光ファイバの長手方向の空孔径変動、光学特性変動を推定することができる。
【0042】
しかし、レファレンス用光ファイバを接続して測定する場合に比較して、相加平均値I(x)と空孔径との相関性が低くなる。
一般に、OTDR測定法では、OTDR測定装置から測定光を対象となる光ファイバに入射する際、その入射端から数kmまでの位置から戻ってくる後方散乱光強度にあっては、ノイズなどの要因により計測に不向きで計測精度に劣ることが知られており、通常のOTDR測定にあっても、測定対象となる光ファイバにレファレンス用光ファイバを接続する手法がとられている。
【0043】
本発明の測定方法でも、同様の理由により2本のレファレンス用光ファイバを接続することで、高い相関性が得られるようにしている。しかし、レファレンス用光ファイバを接続しない場合でも、入射端から離れた位置での相加平均値I(x)を求めるものでは十分な相関性が得られ、空孔径を知ることができる。
【0044】
次に、相加平均値I(x)からモードフィールド径を算出し、このモードフィールド径から、空孔径または曲げ損失を推定する具体的な方法について説明する。
測定に用いたファイバは図4に示した空孔アシスト光ファイバであり、予め空孔アシスト光ファイバの両端末におけるモードフィールド径2W(x0)、2W(x1)をITU−T G.650.1に準拠した測定方法より測定した。モードフィールド径の測定波長は1550nmとした。さらに、双方向OTDR測定から得られた相加平均値I(x)から式(4)を用いて、地点xにおけるモードフィールド径2W(x)を算出した。
算出したモードフィールド径と実際に測定した空孔径の関係を図8に示す。算出したモードフィールド径2Wと空孔径dに相関関係が認められ、次式(5)の一次関数で近似できる。
【0045】
【数5】

【0046】
さらに、図9に空孔径と曲げ損失値(曲げ半径5mm、測定波長1550nm)との関係を示す。空孔径と曲げ損失値αbは次式の指数関数で近似できることがわかる。
【0047】
【数6】

【0048】
以上から、予め、算出したモードフィールド径と実測した空孔径または曲げ損失値との相関関係を調査し、式(5)ならびに式(6)の定数a1、a2、b1、b2を決定することによって、空孔径または曲げ損失値の長手方向の分布を推定することができる。
なお、この推定法は、異種の構造(コア径、比屈折率差、空孔位置、空孔数など)を有する空孔付き光ファイバでも適用できるが、推定には同一の構造を有する空孔付き光ファイバにおいて適用することが望ましく、異種の構造の空孔付き光ファイバについては、それぞれ定数a1、a2、b1、b2を決定し、推定に用いることが望ましい。
【0049】
次に、空孔付き光ファイバの双方向OTDR測定技術によって得られた相加平均値I(x)に基づいて、空孔付き光ファイバの空孔位置、空孔内表面の表面粗さを求める方法について説明する。
前記空孔位置とは、図10に示すように、空孔付き光ファイバのすべての空孔7、7・・の外周に内接する仮想円を想定し、この仮想円の直径2Rで定義されるもので、空孔7、7・・のコア6からの離間度合いを示すものである。
この空孔位置は、様々の光学特性に影響を与えることが知られ、空孔位置がコア6に近いと光の閉じ込め損失が低くなり、曲げ損失が低下し、モードフィールド径が小さくなる。さらに、波長分散特性にも影響を与え、空孔位置の変化によって分散値のほか、分散がゼロとなる零分散波長や分散スロープも変化する。この空孔位置を知ることによって、曲げ損失、モードフィールド径、分散特性の長手方向の情報を得ることができる。
一方、空孔7、7・・の内面の表面粗さГ(x)は、空孔付き光ファイバの光損失に影響を与え、表面粗さを知ることによって光損失増加の要因を特定することができる。
【0050】
以下、相加平均値I(x)に基づいて、空孔付き光ファイバの空孔位置、空孔内表面の表面粗さを知る具体的な方法について説明する。
前記(1)式の相加平均値I(x)は、以下の(7)式にように定義できる(M.Ohashi.,IEEE Photonics Tech.Lett.vol.18,pp.2584−2586,2006)。
【0051】
【数7】

【0052】
いま、図10に示すように、コア6の直径2a、比屈折率差Δ、空孔7の直径d、すべての空孔7、7・・に内接する仮想円の半径Rを有する空孔付き光ファイバを考える。ここで、仮想円の半径Rはコア6からの距離を示すもので、クラッド5内での空孔7、7・・に位置を示すものと考えることができ、ここでは半径R又は直径2Rを空孔位置とする。
このような空孔付き光ファイバのモードフィールド径MFDは、2a、Δの変化だけではなく、dおよびRの変化の影響を受け(K.Nakajima et al.,58th IWCS,9−3,2009)、式(9)で表される。
【0053】
【数8】

【0054】
ここで、x=xにおけるI(x)でI(x)を規格化したΔI(x)は、式(8)〜式(10)から、式(11)のように表せることを見出した。
【0055】
【数9】

【0056】
この式(11)を実証するため、x=xでの参照する光ファイバを、測定対象の空孔付き光ファイバとコア構造が同一で、空孔を形成していないシングルモード光ファイバなどのレファレンス用光ファイバとし、図11のように、このレファレンス用光ファイバ8、9を空孔付き光ファイバ4の両端に接続し、双方向OTDR測定を実施した。
このように、x=xでの参照する光ファイバを、測定対象の空孔付き光ファイバとコア構造が同一で、空孔を形成していない光ファイバとした場合、双方向OTDR測定から得られる規格化したΔI(x)は、式(11)から位置xにおけるコア半径a(x)、比屈折率差Δ(x)およびコアの屈折率n(x)を省略することができ、式(12)に簡単化される。
【0057】
【数10】

【0058】
前記測定に用いた空孔付き光ファイバとして、意図的に空孔7の直径dを変化させた複数水準のサンプルと、空孔の内面の表面荒さが異なる2種のサンプルを準備した。
図12には、これらサンプルの空孔付き光ファイバにおける空孔7の直径dと前記仮想円の直径2Rとの関係を示す。このグラフから、直径dと直径2Rとは良好な相関関係を有していることがわかる。また、表面荒さが異なるものであっても、両者には良好な相関関係があることがわかる。なお、双方向OTDR測定における測定波長は1550nmである。
【0059】
図13は、表面粗さの異なるサンプルの空孔付き光ファイバについて、測定した空孔付き光ファイバの仮想円の直径2Rと、双方向OTDR測定から得られたΔI(x)との関係を示すグラフである。
このグラフから、直径2RとΔI(x)との間には高い相関関係があることが認められ、この相関関係は表面粗さが異なっても成立することがわかる。したがって、相加平均値ΔI(x)を双方向OTDR測定により求めることによって、図13に示された相関関係に基づいて空孔付き光ファイバの位置(x)での空孔位置および空孔の内面の表面粗さを知ることができることが理解できる。
【0060】
以上の説明では、測定対象となる空孔付き光ファイバ4の両端にレファレンス用光ファイバ8、9を接続したものを双方向OTDR測定している形態で説明を行ったが、これに限らず、先の空孔径および曲げ損失の測定と同様に、レファレンス用光ファイバを接続しないものでも、同様に空孔位置および空孔内面の表面粗さを知ることができる。
この場合、式(11)中のαs(x)、n(x)、a(x)、Δ(x)、R(x)、d(x)、Г(x)およびI(x)は、空孔付き光ファイバの端末地点での値を採用することで、同様の解析が可能となる。
【0061】
なお、以上の実施形態では、双方向OTDR測定法によって相加平均値を求めて、これから空孔径または曲げ損失を推定する方法について説明しているが、全反射OTDR測定法によって、相加平均値を求めて空孔径または曲げ損失を推定することもできる。
全反射OTDR測定法によって相加平均値を求める具体的な方法は、以下の光線路の試験方法において詳しく説明する。
【0062】
次に、本発明の空孔付きファイバが敷設されてなる光線路の試験方法について説明する。
この光線路の試験方法は、全反射OTDR測定技術を用いるものである。
既設光線路の場合、一方の測定端末が遠端に存在するため、双方向OTDR法での測定は困難である。そのため、全反射OTDR測定法を用いる。
図14に示すように、空孔付き光ファイバが敷設された既設の光ファイバ伝送路31の遠端31aに、高い反射率を有する全反射終端器32を接続し、該伝送路31の近端31bにOTDR測定装置33を接続し、このOTDR測定装置33から測定光を近端31bから遠端31aに向けて該伝送路31に入射する。
光ファイバ伝送路31は、空孔付き光ファイバのみから構成されていても、またそれ以外の種類の光ファイバが接続されたものであってもよい。
【0063】
近端31bから入射された測定光に起因する後方散乱光はOTRD測定装置33で受光される。測定光は全反射終端器32で反射され、この反射光が仮想的に遠端31a側から入射された測定光として近端31b側に向けて伝搬する。この仮想的な測定光に起因する後方散乱光は再度全反射終端器32で反射され、OTDR測定装置33で受光される。
したがって、OTDR測定装置33では、近端31bから入射された測定光に起因する後方散乱光と、仮想的に遠端31aから入射したと見なされる測定光に起因する後方散乱光が受光され、この結果本来の双方向OTDR測定法と同様に2つの後方散乱光波形を得ることができる。
【0064】
例えば、線路長Lの光線路を測定した場合、近端側からの長さxの位置における後方散乱光強度をSA(x)、遠端側からの長さL−xの位置における後方散乱光強度をSB(2L−x)とすることができ、相加平均値I(x)を求めることができる。
このようにして、相加平均値I(x)が求められれば、既設線路においても、前述の説明にように、空孔径または曲げ損失値を推定することができる。例えば、線路中において敷設の際などに過剰な外力が加わり、曲げ損失が増大したような異常地点を抽出できる光線路試験方法が可能となる。
【0065】
また、図2に示したように、空孔付き光ファイバは、汎用のシングルモード光ファイバと異なる相関平均値I(x)を示すことから、本試験方法により、既設線路における光ファイバ種を特定することができる。例えば、シングルモード光ファイバと空孔付き光ファイバが直列に接続された混合線路において、光ファイバ種の特定が可能となる。
さらに、前述のようにして、光ファイバ伝送路31の相加平均値I(x)に基づいて空孔位置、表面粗さをも知ることができる。
【0066】
本発明の空孔付き光ファイバの製造方法は、空孔付き光ファイバ母材を溶融線引きして空孔付き光ファイバとし、この空孔付き光ファイバの空孔径、曲げ損失、空孔位置、空孔内面の表面粗さを前述の測定方法によって推定する一連の工程を有するものである。
このような製造方法にあっては、作製した空孔付き光ファイバの空孔径、曲げ損失、空孔位置、表面粗さを知ることができ、曲げ損失値などの特性値を保証した製品として出荷できる利点がある。また、曲げ損失値などの特性値を規定値内に収めた空孔付き光ファイバを製造することができる。
【0067】
図15は、本発明の製造方法の一実施形態を示すもので、第1の工程の部分を示すものである。
図15中、符号11は空孔付き光ファイバ母材を示す。この空孔付き光ファイバ母材11は、空孔のない光ファイバ母材にドリル穿孔加工を施す方法などによって得られたものである。この空孔付き光ファイバ母材11の基端部は図示しない把持部によって自転可能かつ上下動可能に把持されている。また、空孔付き光ファイバ母材11の基端部にはガス導入パイプ12が気密に接続され、後述するように乾燥窒素ガスなどの加圧ガスを空孔付き光ファイバ母材11の空孔に送り込み、空孔内の空間を所定の圧力にするようになっている。
【0068】
ガス導入パイプ12は、中継ボックス13を介して加圧ガス供給源14に接続されており、この加圧ガス供給源14からは圧力が調整された加圧ガスが中継ボックス13、ガス導入パイプ12を経て空孔付き光ファイバ母材11の空孔内に送られる。これにより、空孔付き光ファイバ母材11の溶融線引き中に空孔がつぶれずに所定の径を保持することができ、所定の空孔径を有する空孔が形成された空孔付き光ファイバ素線を得ることができる。
【0069】
空孔付き光ファイバ母材11の先端側は溶融炉15内に配置され、その先端部分から溶融線引きされて空孔付き光ファイバ裸線が得られる。この空孔付き光ファイバ裸線は引き続いて第1被覆装置16および第2被覆装置17に導かれ、一次被覆層および二次被覆層が設けられて空孔付き光ファイバ素線とされる。この空孔付き光ファイバ素線は引取装置18によって引き取られ、ボビン19に巻き取られる。以上の工程が本発明の製造方法の第1の工程となる。
【0070】
ついで、第1の工程で作製された空孔付き光ファイバ素線の品質保証の目的のために、その曲げ損失値などの特性値を知る必要がある。本発明の製造方法では、このために前述の測定方法にならって空孔径、曲げ損失値、空孔位置、空孔の表面粗さを推定することで、品質保証を行うことができる。この空孔径、曲げ損失値、空孔位置、空孔の表面粗さの測定が本発明の製造方法の第2の工程となる。
【0071】
このように、本発明の製造方法では、製造された空孔付き光ファイバの曲げ損失値などの特性を保証することが可能になり、信頼性、安定性の高い空孔付き光ファイバをユーザーに提供できることになる。また、曲げ損失値などの特性値を規定値内に収めた空孔付き光ファイバを製造することができる。
【符号の説明】
【0072】
1、33・・OTDR測定装置、2・・レファレンス用ファイバ、3・・空孔付き光ファイバ、11・・空孔付き光ファイバ母材、12・・ガス導入パイプ、14・・加圧ガス供給源、15・・溶融炉、16・・第1被覆装置、17・・第2被覆装置、18・・引取装置、19・・ボビン、31・・光ファイバ伝送路、32・・全反射終端器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空孔付き光ファイバの双方向OTDR測定によって得られた2つの後方散乱光波形の位置xでの2つの後方散乱光強度から相加平均値I(x)を算出し、予め求められた相加平均値I(x)と空孔付き光ファイバの空孔径との相関関係に基づいて、位置xにおける空孔径を求めることを特徴とする空孔付き光ファイバの空孔径の測定方法。
【請求項2】
空孔付き光ファイバの双方向OTDR測定によって得られた2つの後方散乱光波形の位置xでの2つの後方散乱光強度から相加平均値I(x)を算出し、予め求められた相加平均値I(x)と空孔付き光ファイバの曲げ損失との相関関係に基づいて、位置xにおける曲げ損失を求めることを特徴とする空孔付き光ファイバの曲げ損失の測定方法。
【請求項3】
空孔付き光ファイバの双方向OTDR測定によって得られた2つの後方散乱光波形の位置xでの2つの後方散乱光強度から相加平均値I(x)を算出し、予め求められた相加平均値I(x)と空孔付き光ファイバの空孔位置との相関関係に基づいて、位置xにおける空孔位置を求めることを特徴とする空孔付き光ファイバの空孔位置の測定方法。
【請求項4】
空孔付き光ファイバの双方向OTDR測定によって得られた2つの後方散乱光波形の位置xでの2つの後方散乱光強度から相加平均値I(x)を算出し、予め求められた相加平均値I(x)と空孔付き光ファイバの空孔の表面粗さとの相関関係に基づいて、位置xにおける空孔の表面粗さを求めることを特徴とする空孔付き光ファイバの空孔の表面粗さの測定方法。
【請求項5】
空孔付き光ファイバの両端にレファレンス用光ファイバをそれぞれ接続してなる接続光ファイバの双方向OTDR測定によって得られた2つの後方散乱光波形からレファレンス用光ファイバ部分における相加平均値Irefと、空孔付き光ファイバの位置xでの相加平均値Ihf(x)とを算出し、相加平均値Ihfと相加平均値Irefとの差分(Ihf−Iref)ΔIを求め、予め求められた差分ΔIと空孔付き光ファイバの空孔径との相関関係に基づいて、位置xにおける空孔径を求めることを特徴とする空孔付き光ファイバの空孔径の測定方法。
【請求項6】
空孔付き光ファイバの両端にレファレンス用光ファイバをそれぞれ接続してなる接続光ファイバの双方向OTDR測定によって得られた2つの後方散乱光波形からレファレンス用光ファイバ部分における相加平均値Irefと、空孔付き光ファイバの位置xでの相加平均値Ihf(x)とを算出し、相加平均値Ihfと相加平均値Irefとの差分(Ihf−Iref)ΔIを求め、予め求められた差分ΔIと空孔付き光ファイバの曲げ損失との相関関係に基づいて、位置xにおける曲げ損失を求めることを特徴とする空孔付き光ファイバの曲げ損失の測定方法。
【請求項7】
空孔付き光ファイバの両端にレファレンス用光ファイバをそれぞれ接続してなる接続光ファイバの双方向OTDR測定によって得られた2つの後方散乱光波形からレファレンス用光ファイバ部分における相加平均値Irefと、空孔付き光ファイバの位置xでの相加平均値Ihf(x)とを算出し、相加平均値Ihfと相加平均値Irefとの差分(Ihf−Iref)ΔIを求め、予め求められた差分ΔIと空孔付き光ファイバの空孔位置との相関関係に基づいて、位置xにおける空孔位置を求めることを特徴とする空孔付き光ファイバの空孔位置の測定方法。
【請求項8】
空孔付き光ファイバの両端にレファレンス用光ファイバをそれぞれ接続してなる接続光ファイバの双方向OTDR測定によって得られた2つの後方散乱光波形からレファレンス用光ファイバ部分における相加平均値Irefと、空孔付き光ファイバの位置xでの相加平均値Ihf(x)とを算出し、相加平均値Ihfと相加平均値Irefとの差分(Ihf−Iref)ΔIを求め、予め求められた差分ΔIと空孔付き光ファイバの空孔の表面粗さとの相関関係に基づいて、位置xにおける空孔の表面粗さを求めることを特徴とする空孔付き光ファイバの空孔の表面粗さの測定方法。
【請求項9】
レファレンス用光ファイバがシングルモード光ファイバである請求項5記載の空孔付き光ファイバの空孔径の測定方法。
【請求項10】
レファレンス用光ファイバがシングルモード光ファイバである請求項6記載の空孔付き光ファイバの曲げ損失の測定方法。
【請求項11】
レファレンス用光ファイバがシングルモード光ファイバである請求項7記載の空孔付き光ファイバの空孔位置の測定方法。
【請求項12】
レファレンス用光ファイバがシングルモード光ファイバである請求項8記載の空孔付き光ファイバの空孔の表面粗さの測定方法。
【請求項13】
空孔付き光ファイバの双方向OTDR測定によって得られた2つの後方散乱光波形の位置xでの2つの後方散乱光強度から算出される相加平均値I(x)を用いてモードフィールド径2W(x)を導出し、予め求められたモードフィールド径2W(x)と空孔付き光ファイバの空孔径との相関関係に基づいて、位置xにおける空孔径を求めることを特徴とする空孔付き光ファイバの空孔径の測定方法。
【請求項14】
空孔付き光ファイバの双方向OTDR測定によって得られた2つの後方散乱光波形の位置xでの2つの後方散乱光強度から算出される相加平均値I(x)を用いてモードフィールド径2W(x)を導出し、予め求められたモードフィールド径2W(x)と空孔付き光ファイバの曲げ損失値との相関関係に基づいて、位置xにおける曲げ損失値を求めることを特徴とする空孔付き光ファイバの曲げ損失の測定方法。
【請求項15】
請求項2、6、10および14のいずれかに記載の測定方法を用いて、既設の空孔付き光ファイバを有する光線路の曲げ損失および曲げ損失の欠陥位置の検知を行うことを特徴とする光線路の試験方法。
【請求項16】
空孔が形成された光ファイバ母材を溶融線引きして空孔付き光ファイバを得る第1の工程と、この第1の工程で得られた空孔付き光ファイバの空孔径、空孔位置、空孔の表面粗さまたは曲げ損失を測定する第2の工程を有する空孔付き光ファイバの製造方法であって、
第2の工程での空孔付き光ファイバの空孔径、空孔位置、空孔の表面粗さまたは曲げ損失を測定する方法が、請求項1、2、3、4、13および14のいずれかに記載の測定方法によって行われることを特徴とする空孔付き光ファイバの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−63340(P2012−63340A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21886(P2011−21886)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】