説明

窒化物半導体発光素子、及び、窒化物半導体発光素子の作製方法

【課題】半極性面上に設けられ発光に必要なバイアス電圧の上昇が抑制された窒化物半導体発光素子と、この窒化物半導体発光素子の作製方法とを提供すること。
【解決手段】半極性面の主面13aを有する六方晶系窒化物半導体からなる支持基体上に設けられた発光層17の多重量子井戸構造は、井戸層17a及び井戸層17cとバリア層17bとからなり、バリア層17bは、井戸層17a及び井戸層17cの間に設けられ、井戸層17a及び井戸層17cは、InGaNからなり、井戸層17a及び井戸層17cは、0.15以上0.50以下の範囲にあるインジウム組成を有し、六方晶系窒化物半導体のc面に対する主面13aの傾斜角αは、50度以上80度以下の範囲、及び、130度以上170度以下の範囲、の何れかの範囲にあり、バリア層17bの膜厚の値Lは、1.0nm以上4.5nm以下の範囲にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、発光素子の量子井戸構造(MQW構造、SQW構造)における正孔の注入・拡散状態を改善し、発光効率を改善するための技術が開示されている。発光層がMQW構造の場合、正孔がp型半導体層の側からn型半導体層の側へと、該MQW構造中をより遠く移り易いように、MQW構造中の複数の障壁層のうちの少なくとも2層のバンドギャップが互いに異なるように、好ましくは多層で段階的にp型側からn型側に向かって低くなっていく部分が存在するように、MQW構造を構成する。発光層がSQW構造の場合には、p型側の障壁層を組成傾斜させ、バンドギャップがp型側からn型側に向かって低くなっていくように形成する。
【0003】
特許文献2には、活性層におけるピエゾ分極の向きを適切な方向に選択可能な、半導体発光素子を作製する方法が開示されている。まず、選択された一又は複数の傾斜角で発光層のための量子井戸構造並びにp型及びn型窒化ガリウム系半導体層を成長して形成された基板生産物のフォトルミネッセンスの測定を基板生産物にバイアスを印加しながら行って、基板生産物のフォトルミネッセンスのバイアス依存性を得る。次に、バイアス依存性から、基板主面の選択された傾斜角の各々において発光層におけるピエゾ分極の向きの見積もりを行う。次に、基板主面に対応する傾斜角及び基板主面の裏面に対応する傾斜角のいずれかの使用を見積りに基づき判断して、半導体発光素子の作製のための成長基板の面方位を選択する。半導体発光素子のための半導体積層を成長基板の主面上に形成する。
【0004】
特許文献3には、井戸層へのキャリアの注入効率が向上された窒化物系半導体発光素子が開示されている。特許文献3の窒化物半導体発光素子は、六方晶系窒化ガリウム系半導体からなる基板と、基板の主面に設けられたn型窒化ガリウム系半導体領域と、このn型窒化ガリウム系半導体領域上に設けられた単一量子井戸構造の発光層と、発光層上に設けられたp型窒化ガリウム系半導体領域とを備える。発光層は、n型窒化ガリウム系半導体領域とp型窒化ガリウム系半導体領域との間に設けられており、井戸層とバリア層及びバリア層とを含む。
井戸層は、InGaNである。基板の主面は、六方晶系窒化ガリウム系半導体のc軸方向に直交する面から63度以上80度以下または100度以上117度以下の範囲内の傾斜角で傾斜した基準平面に沿って延びている。
【0005】
非特許文献1には、青緑色レーザを発する多重量子井戸構造を有するLEDが開示されている。非特許文献1のLEDは、m面上に形成されている。非特許文献2には、緑色レーザを発する多重量子井戸構造を有するLDが開示されている。非特許文献2のLDは、(20−21)面上に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−270894号公報
【特許文献2】特開2011−77395号公報
【特許文献3】特開2011−40709号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】“Characterization of blue-green m-plane InGaN light emitting diodes”、You-Da Lin, Arpan Chakraborty, Stuart Brinkley, Hsun Chih Kuo, Thiago Melo, Kenji Fujito, James S. Speck, Steven P. DenBaars, and Shuji Nakamura、Applied Physics Letters 94、261108 (2009)。
【非特許文献2】“High Quality InGaN/AlGaN Multiple Quantum Wells for Semipolar InGaN Green Laser Diodes”、You-Da Lin, Shuichiro Yamamoto, Chia-Yen Huang, Chia-Lin Hsiung, Feng Wu, Kenji Fujito, Hiroaki Ohta, James S. Speck, Steven P. DenBaars, and Shuji Nakamura、Applied Physics Express 3、(2010) 082001。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1〜3、及び、非特許文献1,2等には、多様な複数の量子井戸構造が示されている。しかしながら、半極性面の上に設けられる量子井戸構造は、c面の上に設けられる量子井戸構造とは異なった歪や極性を有する。このような量子井戸構造の性質の違いは、半極性面の上に設けられる量子井戸構造のバンド構造に、c面上とは異なる歪みを与えるので、量子井戸構造における電子の注入効率が低下する場合がある。電子の注入効率の低下は、発光に必要なバイアス電圧の上昇を招く。そこで、本発明の目的は、上記の事項を鑑みてなされたものであり、半極性面上に設けられ発光に必要なバイアス電圧の上昇が抑制された窒化物半導体発光素子と、この窒化物半導体発光素子の作製方法とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
六方晶系窒化物半導体のc面の上に設けられる従来のInGaNの量子井戸構造には、例えば5nm以上20nm以下の膜厚のバリア層が用いられる。特に、比較的に長い波長の光を発する発光素子の場合、井戸層のインジウム組成も比較的に高いので、バリア層の膜厚が比較的に厚い方が好ましい。井戸層の結晶品質は、インジウム組成が比較的に高い場合に低下するが、バリア層の成長に伴って、結晶表面の性状が整えられる等によって、結晶品質が回復されるからである。このような事情によって、発明者は、半極性面の上に量子井戸構造を有する発光素子を作製する場合に、当初、c面の上に量子井戸構造を有する発光素子と同様に、15nm程度の厚みのバリア層を有する多重量子井戸構造の発光層を形成した。しかし、半極性面の上に量子井戸構造を有する発光素子の場合には、比較的に高いバイアス電圧が発光に必要となることが判明した。
【0010】
そこで、発明者は、このような比較的に高いバイアス電圧が発光に必要となる原因を解明するために、バイアス電圧を印加している状態においてPL(Photo Luminescence)を測定する等の方法によって、InGaNの量子井戸構造の結晶面の光物性を調べた。この結果、発明者は、当該半極性面の上に設けられたInGaNの量子井戸構造の井戸層のピエゾ分極の向きは、c面の上に設けられたInGaNの量子井戸構造の井戸層のピエゾ分極の向きと反対になっていることを見出した。そして、発明者は、半極性面の上に設けられたInGaNの井戸層のピエゾ分極の向きがc面の上に設けられたInGaNの井戸層のピエゾ分極の向きと反対になっている、という現象が、InGaNの量子井戸構造内における電子の注入効率を低下させ、よって、発光に必要なバイアス電圧の上昇を招く、ということを見出した。なお、このようなInGaNの量子井戸構造内における電子の注入効率についての課題は、従来のc面上に設けられたInGaNの量子井戸構造においては、c面上に設けられたInGaNの井戸層のピエゾ分極の向きがInGaNの量子井戸構造内における電子の注入を低下させる向きではないこと、及び、正孔は、元々、バンドオフセットが小さいので、このようなピエゾ分極が関連する注入効率に対する影響が比較的に小さいこと、等の理由によって、一般には認識されていなかった。
【0011】
一方、発明者は、ある傾斜角の半極性面上に設けられるInGaNの多重量子井戸構造の場合、インジウムの取り込みやInGaNの成長モードが高品質化に有利に働き、比較的に高いインジウム組成の井戸層に対しても、結晶品質を大きく低下させずに成長できる、というInGaN結晶の特質を見出した。発明者は、このInGaN結晶の特質によって、c面の上では結晶性の回復効果が不十分で発光効率が劣化するような薄い膜厚のバリア層を有するInGaNの量子井戸構造であっても、半極性面上であれば、発光効率の劣化が生じない比較的に高い結晶品質の量子井戸構造を成長させることができることを見出した。発明者は、半極性面上に設けられたInGaNの多重量子井戸構造のバリア層の膜厚と、この量子井戸構造の結晶品質との関係を、鋭意、検証した。この検証の結果、発明者は、井戸層の膜厚と同オーダーの比較的に薄い膜厚のバリア層でも、半極性面上に設けられている場合には、結晶性を反映するPL発光強度が低下せずに、良好な結晶品質を維持できることを確認した。更に発明者は、井戸層の膜厚と同オーダーの比較的に薄い膜厚のバリア層を有し半極性面上に設けられたInGaNの量子井戸構造の発光素子を実際に作製し、発光に必要なバイアス電圧の低減、発光波長の半値幅の低減、発光効率の向上、等の効果が発現し、キャリア注入効率が改善されたことを確認した。
【0012】
本発明の下記の複数の側面は、半極性面の上に設けられたInGaNの多重量子井戸構造に対し発明者が得た上記の知見に基づいてなされた。
【0013】
本発明に係る第1の側面は、窒化物半導体発光素子に関する発明であり、六方晶系窒化物半導体からなり、前記六方晶系窒化物半導体のc面から予め規定された方向に傾斜した主面を有する支持基体と、前記支持基体の前記主面上に設けられたn型窒化ガリウム系半導体層と、前記n型窒化ガリウム系半導体層上に設けられ、窒化ガリウム系半導体からなる発光層と、前記発光層上に設けられたp型窒化ガリウム系半導体層と、を備え、前記発光層は、多重量子井戸構造を有し、前記多重量子井戸構造は、少なくとも二つの井戸層と、少なくとも一つのバリア層とからなり、前記バリア層は、前記二つの井戸層の間に設けられ、前記二つの井戸層は、InGaNからなり、前記二つの井戸層は、0.15以上0.50以下の範囲にある第1のインジウム組成を有し、前記c面に対する前記主面の傾斜角は、50度以上80度以下の範囲、及び、130度以上170度以下の範囲、の何れかの範囲にあり、前記バリア層の膜厚は、1.0nm以上4.5nm以下の範囲にある、ことを特徴とする。
【0014】
本発明の第1の側面に係る窒化物半導体発光素子の支持基体の主面は、50度以上80度以下の範囲、及び、130度以上170度以下の範囲の何れかの範囲にある半極性面であり、本発明の第1の側面に係る窒化物半導体発光素子は、この主面の上に設けられた多重量子井戸構造の発光層を有する。このような半極性面の上に設けられた多重量子井戸構造の井戸層に生じるピエゾ分極の向きは、c面上に設けられた井戸層に生じるピエゾ分極の向きと逆向きになっており、よって、半極性面の上に設けられた多重量子井戸構造のバンド構造には、c面上とは異なる歪みが生じる。このバンド構造の歪みによって、発光層における電子の注入効率が低下する。しかし、本発明の第1の側面に係る窒化物半導体発光素子のバリア層の膜厚は、比較的に薄く、1.0nm以上4.5nm以下の範囲にあるので、電子がバリア層のエネルギー障壁を乗り越えて隣の井戸層に移動しやすくなり、バンド構造に歪みが生じていても、発光層における電子の注入効率が改善できる。
【0015】
更に、本発明の第1の側面に係る窒化物半導体発光素子の二つの井戸層は、比較的に高い、0.15以上0.50以下の範囲にある第1のインジウム組成を有する。このように比較的に高いインジウム組成の井戸層に対しては、バリア層の結晶性を低下させないようにするために比較的に厚い膜厚のバリア層が望ましいと考えられるが、本発明の第1の側面に係る窒化物半導体発光素子の発光層(多重量子井戸構造)はInGaNの成長に対してインジウムの取り込みや成長モードが好適となる角度範囲の半極性面の上に設けられているので、1.0nm以上4.5nm以下の範囲のように比較的に薄い膜厚のバリア層であっても結晶性を整えることができ、発光層の結晶品質は維持できる。なお、バリア層の膜厚が1.0nm未満の場合、結晶性の回復が不十分となり、発光層の結晶性が低下する場合がある。
【0016】
本発明の第1の側面では、前記バリア層の膜厚は、前記井戸層の膜厚に0.50nmを足し合わせた値以下であり、且つ、前記井戸層の膜厚から0.50nmを差し引いた値以上である、ことが好ましい。バリア層の膜厚は、井戸層の膜厚と同程度の厚みを有する。よって、発光層のバンド構造にc面上とは逆向きのピエゾ分極による歪が生じていても、電子がバリア層のエネルギー障壁を乗り越えて隣の井戸層に移動しやすくなるので、発光層における電子の注入効率の低減が抑制される。
【0017】
本発明の第1の側面では、前記バリア層は、InGaNからなり、前記バリア層は、0.01以上0.10以下の範囲にある第2のインジウム組成を有する、ことが好ましい。バリア層の第2のインジウム組成が0.01以上0.10以下の範囲にあるので、バリア層のバンドギャップが低減される。よって、発光層のバンド構造にc面上とは逆向きのピエゾ分極による歪が生じていても、電子がバリア層のエネルギー障壁を乗り越えやすくなるので、発光層における電子の注入効率の低減が抑制される。バリア層の第2のインジウム組成が0.10を超えるとき、バリア層及び発光層の結晶性が低下する場合がある。
【0018】
本発明の第1の側面では、前記n型窒化ガリウム系半導体層は、InGaN層を有し、前記InGaN層上に前記発光層が設けられ、前記n型窒化ガリウム系半導体層の内部における前記InGaN層の前記支持基体側の表面にミスフィット転位が存在し、前記ミスフィット転位は、前記InGaN層の前記表面に直交し前記六方晶系窒化物半導体のc軸を含む基準面と前記InGaN層の前記表面とが共有する基準軸と、前記c軸とに直交する方向に延びており、前記ミスフィット転位の密度は、5×10cm−1以上1×10cm−1以下の範囲にある、ことが好ましい。支持基体と発光層との間にInGaN層が設けられており、このInGaN層の支持基体側の表面には比較的に高い密度のミスフィット転位が生じている。従って、このInGaN層によって、支持基体上の歪が緩和されるので、井戸層が内包する歪も、低減される。よって、発光層のバンド構造にc面上とは逆向きのピエゾ分極による歪が生じていても、ピエゾ分極が低減されるので、発光層における電子の注入効率の低減が抑制される。ミスフィット転位の密度が1×10cm−1を超えるとき、欠陥の悪影響が発光層にも及び発光効率の低下を招く恐れがある。
【0019】
本発明の第1の側面では、前記InGaN層は、0.03以上0.05以下の範囲にある第3のインジウム組成を有する、ことが好ましい。支持基体と発光層との間に設けられ、支持基体上の歪を緩和するInGaN層のインジウム組成が0.03以上0.05以下の範囲にあるので、支持基体上の歪が十分に緩和される。よって、発光層のバンド構造にc面上とは逆向きのピエゾ分極による歪が生じていても、発光層における電子の注入効率の低減が効果的に抑制される。InGaN層の第3のインジウム組成が0.05を超えるとき、ミスフィット転位の密度が高くなりすぎ、発光効率の低下を招く恐れがある。
【0020】
本発明の第1の側面では、前記第2のインジウム組成は、前記p型窒化ガリウム系半導体層の側から、前記n型窒化ガリウム系半導体層の側に向かって、増加している、ことが好ましい。バリア層のインジウム組成は、p型窒化ガリウム系半導体層の側からn型窒化ガリウム系半導体層の側に向かって増加しているので、n型窒化ガリウム系半導体層の側のインジウム組成がp型窒化ガリウム系半導体層の側のインジウム組成と同様の場合に比較して、バリア層のバンドギャップが、n型窒化ガリウム系半導体層の側において、低減される。よって、発光層のバンド構造にc面上とは逆向きのピエゾ分極による歪が生じていても、その歪を緩和するようにバリア層のバンドギャップを変化させることで、電子がバリア層のエネルギー障壁を乗り越えやすくなるので、発光層における電子の注入効率の低減が抑制される。
【0021】
本発明の第1の側面では、前記c面に対する前記主面の傾斜角は、63度以上80度以下の範囲にある、ことが好ましい。主面の傾斜角が63度以上80度以下の範囲にあるとき、特にInGaNの成長に対してインジウムの取り込みや成長モードが好適となるため、膜厚の薄いバリア層でも結晶性を回復させることができ、発光効率の低下を抑制することができる。その結果、発光効率の低下を招くことなく、優れた電子の注入効率を提供することができる。
【0022】
本発明の第1の側面では、前記第1のインジウム組成は、0.24以上0.40以下の範囲にある、ことが好ましい。井戸層のインジウム組成が0.24以上0.40以下の範囲にあるので、発光層は、500nm以上570nm以下の発光波長の光を発する。このように、井戸層のインジウム組成が比較的に大きい場合、井戸層とバリア層とのバンドオフセットが比較的大きいので、ピエゾ分極によるバンド構造の歪の影響が顕著となるが、このような場合においても、発光層における電子の注入効率の低減を十分に抑制できる。
【0023】
本発明の第1の側面では、前記第2のインジウム組成は、0.01以上0.06以下の範囲にある、ことが好ましい。バリア層のインジウム組成が0.01以上0.06以下の範囲にあるので、結晶性の低下が十分に抑制される。
【0024】
本発明の第1の側面では、前記バリア層の膜厚は、1.0nm以上3.5nm以下の範囲にある、ことが好ましい。バリア層の膜厚が1.0nm以上3.5nm以下の範囲にあるので、比較的に薄い。よって、バンド構造に歪みが生じていても、電子がバリア層のエネルギー障壁を乗り越えて隣の井戸層に移動しやすくなるので、発光層における電子の注入効率の低減が十分に抑制できる。
【0025】
本発明の第2の側面は、窒化物半導体発光素子の製造方法に関する発明であり、六方晶系窒化物半導体からなり、前記六方晶系窒化物半導体のc面から予め規定された方向に傾斜した主面を有する基板を用意する工程と、前記基板の前記主面上にn型窒化ガリウム系半導体層を成長する工程と、前記n型窒化ガリウム系半導体層上に、窒化ガリウム系半導体からなる発光層を成長する工程と、前記発光層上にp型窒化ガリウム系半導体層を成長する工程と、を備え、前記発光層は、少なくとも第1の井戸層及び第2の井戸層と、少なくとも一つのバリア層とを有し、前記発光層を成長する工程では、前記n型窒化ガリウム系半導体層上において、前記第1の井戸層、前記バリア層、前記第2の井戸層を順に成長し、前記第1の井戸層及び前記第2の井戸層は、InGaNからなり、前記第1の井戸層及び前記第2の井戸層は、0.15以上0.50以下の範囲にある第1のインジウム組成を有し、前記c面に対する前記主面の傾斜角は、50度以上80度以下の範囲、及び、130度以上170度以下の範囲、の何れかの範囲にあり、前記バリア層の膜厚は、1.0nm以上4.5nm以下の範囲にある、ことを特徴とする。
【0026】
本発明の第2の側面に係る窒化物半導体発光素子の支持基体の主面は、50度以上80度以下の範囲、及び、130度以上170度以下の範囲の何れかの範囲にある半極性面であり、本発明の第2の側面に係る窒化物半導体発光素子は、この主面の上に設けられた多重量子井戸構造の発光層を有する。このような半極性面の上に設けられた多重量子井戸構造の井戸層に生じるピエゾ分極の向きは、c面上に設けられた井戸層に生じるピエゾ分極の向きと逆向きになっており、よって、半極性面の上に設けられた多重量子井戸構造のバンド構造には、c面上とな異なる歪みが生じる。このバンド構造の歪みによって、発光層における電子の注入効率が低下する。しかし、本発明の第2の側面に係る窒化物半導体発光素子のバリア層の膜厚は、比較的に薄く、1.0nm以上4.5nm以下の範囲にあるので、電子がバリア層のエネルギー障壁を乗り越えて隣の井戸層に移動しやすくなり、バンド構造に歪みが生じていても、発光層における電子の注入効率が改善できる。
【0027】
更に、本発明の第2の側面に係る窒化物半導体発光素子の二つの井戸層は、比較的に高い、0.15以上0.50以下の範囲にある第1のインジウム組成を有する。このように比較的に高いインジウム組成の井戸層に対しては、バリア層の結晶性を低下させないようにするために比較的に厚い膜厚のバリア層が望ましいと考えられるが、本発明の第2の側面に係る窒化物半導体発光素子の発光層(多重量子井戸構造)はInGaNの成長に対してインジウムの取り込みや成長モードが好適となる角度範囲の半極性面の上に設けられているので、1.0nm以上4.5nm以下の範囲のように比較的に薄い膜厚のバリア層であっても結晶性を整えることができ、発光層の結晶品質は維持できる。なお、バリア層の膜厚が1.0nm未満の場合、結晶性の回復が不十分となり、発光層の結晶性が低下する場合がある。
【0028】
本発明の第2の側面では、前記バリア層の膜厚は、前記井戸層の膜厚に0.50nmを足し合わせた値以下であり、且つ、前記井戸層の膜厚から0.50nmを差し引いた値以上である、ことが好ましい。バリア層の膜厚は、井戸層の膜厚と同程度の厚みを有する。よって、発光層のバンド構造にc面上とは逆向きのピエゾ分極による歪が生じていても、電子がバリア層のエネルギー障壁を乗り越えて隣の井戸層に移動しやすくなるので、発光層における電子の注入効率の低減が抑制される。
【0029】
本発明の第2の側面では、前記バリア層は、InGaNからなり、前記バリア層は、0.01以上0.10以下の範囲にある第2のインジウム組成を有する、ことが好ましい。バリア層の第2のインジウム組成が0.01以上0.10以下の範囲にあるので、バリア層のバンドギャップが低減される。よって、発光層のバンド構造にc面上とは逆向きのピエゾ分極による歪が生じていても、電子がバリア層のエネルギー障壁を乗り越えやすくなるので、発光層における電子の注入効率の低減が抑制される。バリア層の第2のインジウム組成が0.10を超えるとき、バリア層及び発光層の結晶性が低下する場合がある。
【0030】
本発明の第2の側面では、前記n型窒化ガリウム系半導体層は、InGaN層を有し、前記InGaN層上に前記発光層が設けられ、前記n型窒化ガリウム系半導体層の内部における前記InGaN層の前記基板側の表面にミスフィット転位が存在し、前記ミスフィット転位は、前記InGaN層の前記表面に直交し前記六方晶系窒化物半導体のc軸を含む基準面と前記InGaN層の前記表面とが共有する基準軸と、前記c軸とに直交する方向に延びており、前記ミスフィット転位の密度は、5×10cm−1以上1×10cm−1以下の範囲にある、ことが好ましい。基板と発光層との間にInGaN層が設けられており、このInGaN層の基板側の表面には比較的に高い密度のミスフィット転位が生じている。従って、このInGaN層によって、基板上の歪が緩和されるので、井戸層が内包する歪も、低減される。よって、発光層のバンド構造にc面上とは逆向きのピエゾ分極による歪が生じていても、ピエゾ分極が低減されるので、発光層における電子の注入効率の低減が抑制される。ミスフィット転位の密度が1×10cm−1を超えるとき、欠陥の悪影響が発光層にも及び発光効率の低下を招く恐れがある。
【0031】
本発明の第2の側面では、前記InGaN層は、0.03以上0.05以下の範囲にある第3のインジウム組成を有する、ことが好ましい。基板と発光層との間に設けられ、基板上の歪を緩和するInGaN層のインジウム組成が0.03以上0.05以下の範囲にあるので、基板上の歪が十分に緩和される。よって、発光層のバンド構造にc面上とは逆向きのピエゾ分極による歪が生じていても、発光層における電子の注入効率の低減が効果的に抑制される。InGaN層の第3のインジウム組成が0.05を超えるとき、ミスフィット転位の密度が高くなりすぎ、発光効率の低下を招く恐れがある。
【0032】
本発明の第2の側面では、前記第2のインジウム組成は、前記p型窒化ガリウム系半導体層の側から、前記n型窒化ガリウム系半導体層の側に向かって、増加している、ことが好ましい。バリア層のインジウム組成は、p型窒化ガリウム系半導体層の側からn型窒化ガリウム系半導体層の側に向かって増加しているので、n型窒化ガリウム系半導体層の側のインジウム組成がp型窒化ガリウム系半導体層の側のインジウム組成と同様の場合に比較して、バリア層のバンドギャップが、n型窒化ガリウム系半導体層の側において、低減される。よって、発光層のバンド構造にc面上とは逆向きのピエゾ分極による歪が生じていても、その歪を緩和するようにバリア層のバンドギャップを変化させることで、電子がバリア層のエネルギー障壁を乗り越えやすくなるので、発光層における電子の注入効率の低減が抑制される。
【0033】
本発明の第2の側面では、前記c面に対する前記主面の傾斜角は、63度以上80度以下の範囲にある、ことが好ましい。主面の傾斜角が63度以上80度以下の範囲にあるとき、特にInGaNの成長に対してインジウムの取り込みや成長モードが好適となるため、膜厚の薄いバリア層でも結晶性を回復させることができ、発光効率の低下を抑制することができる。その結果、発光効率の低下を招くことなく、優れた電子の注入効率を提供することができる。
【0034】
本発明の第2の側面では、前記第1のインジウム組成は、0.24以上0.40以下の範囲にある、ことが好ましい。井戸層のインジウム組成が0.24以上0.40以下の範囲にあるので、発光層は、500nm以上570nm以下の発光波長の光を発する。このように、井戸層のインジウム組成が比較的に大きい場合、井戸層とバリア層とのバンドオフセットが比較的大きいので、ピエゾ分極によるバンド構造の歪の影響が顕著となるが、このような場合においても、発光層における電子の注入効率の低減を十分に抑制できる。
【0035】
本発明の第2の側面では、前記第2のインジウム組成は、0.01以上0.06以下の範囲にある、ことが好ましい。バリア層のインジウム組成が0.01以上0.06以下の範囲にあるので、結晶性の低下が十分に抑制される。
【0036】
本発明の第2の側面では、前記バリア層の膜厚は、1.0nm以上3.5nm以下の範囲にある、ことが好ましい。バリア層の膜厚が1.0nm以上3.5nm以下の範囲にあるので、比較的に薄い。よって、バンド構造に歪みが生じていても、電子がバリア層のエネルギー障壁を乗り越えて隣の井戸層に移動しやすくなるので、発光層における電子の注入効率の低減が十分に抑制できる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、半極性面上に設けられ発光に必要なバイアス電圧の上昇が抑制された窒化物半導体発光素子と、この窒化物半導体発光素子の作製方法とが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、実施形態に係る発光素子の構成を示す図である。
【図2】図2は、実施形態に係る発光素子の効果を説明するための図である。
【図3】図3は、実施形態に係る発光素子の作製方法を説明するための図である。
【図4】図4は、本実施形態に係る発光素子の作製方法の主要な工程における生産物を模式的に示す図である。
【図5】図5は、実施形態に係る発光素子の実施例の構成を示す図である。
【図6】図6は、実施例及び比較例に対するPL発光波長の測定結果を示す図である。
【図7】図7は、実施例及び比較例に対する発光波長の電流密度依存性の測定結果を示す図である。
【図8】図8は、実施例及び比較例に対する発光出力の電流密度依存性の測定結果を示す図である。
【図9】図9は、実施例及び比較例に対する発光波長の半値幅の電流密度依存性の測定結果を示す図である。
【図10】図10は、実施例及び比較例に対するIV特性の測定結果を示す図である。
【図11】図11は、実施例及び比較例に対するIV特性の測定結果を示す図である。
【図12】図12は、実施例及び比較例に対するIV特性の測定結果を示す図である。
【図13】図13は、実施例及び比較例に対するIV特性の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面を参照して、本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において、可能な場合には、同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。図1は、実施の形態に係る窒化物半導体発光素子である発光素子11の構造及び発光素子11のためのエピタキシャル基板の構造を概略的に示す図面である。図1に示す発光素子11は、レーザダイオード(LD)向けのエピタキシャル構造(LDに適用されるエピタキシャル構造)の自然放出光を評価するための発光ダイオード(LED)として例示されているが、LDであることもできる。
【0040】
図1の(a)部に発光素子11が示され、図1の(b)部に発光素子11のためのエピタキシャル基板EP1が示される。エピタキシャル基板EP1は、発光素子11が有するエピタキシャル層構造(支持基体13、n型窒化ガリウム系半導体層15、発光層17及びp型窒化ガリウム系半導体層19)と同様のエピタキシャル層構造を有する。引き続く説明では、発光素子11を構成する半導体層を説明する。エピタキシャル基板EP1は、これらの発光素子11を構成する半導体層に対応する半導体層(半導体膜)を含み、対応する半導体層には、発光素子11のための説明が適用される。
【0041】
図1には、座標系Sと結晶座標系CRとが示されている。結晶座標系CRは、支持基体13の六方晶系窒化物半導体の結晶軸(c軸,a軸,m軸)を示すための座標系である。X軸は、支持基体13の六方晶系窒化物半導体のa軸と同方向であり、YZ平面は、支持基体13の六方晶系窒化物半導体のm軸と、支持基体13の六方晶系窒化物半導体のc軸とによって規定される面と平行である。
【0042】
図1の(a)部に示されるように、発光素子11は、支持基体13、n型窒化ガリウム系半導体層15、発光層17、p型窒化ガリウム系半導体層19、p側電極21、絶縁膜23及びn側電極25を備える。n型窒化ガリウム系半導体層15は、n型GaN層15a、n型クラッド層15b及びn型ガイド層15cを有する。発光層17は、井戸層17a、バリア層17b及び井戸層17cからなる多重量子井戸構造を有する。なお、発光層17は、三つ以上の井戸層を含む多重量子井戸構造を有していてもよい。p型窒化ガリウム系半導体層19は、p型ガイド層19a、p型クラッド層19b及びp型コンタクト層19cを有する。n型窒化ガリウム系半導体層15、発光層17及びp型窒化ガリウム系半導体層19は、支持基体13の上においてエピタキシャル成長によって形成されている。支持基体13の主面13a上において、n型GaN層15a、n型クラッド層15b、n型ガイド層15c、井戸層17a、バリア層17b、井戸層17c、p型ガイド層19a、p型クラッド層19b、p型コンタクト層19cが順次設けられている。
【0043】
支持基体13のc面は、面SCに沿って延びている。支持基体13の主面13aは、Z軸の方向を向いており、XY面が延びる方向に延びている。主面13aは、c面から予め規定された方向に傾斜している。主面13aの傾斜角αは、支持基体13の六方晶系窒化物半導体のc面((0001)面であり、図1に示す面SC)を基準にして規定される。主面13aは、例えば、c面に対応する面SCを基準にして、支持基体13のm軸に向けて、傾斜角αで傾斜することができる。傾斜角αは、支持基体13の主面13aの法線ベクトルVNと、c軸を示すc軸ベクトルVCとの成す角度によって規定される。傾斜角αは、50度以上80度以下の範囲、及び、130度以上170度以下の範囲、の何れかの範囲にある。傾斜角αは、特に、63度以上80度以下の範囲にあることもできる。主面13aは、例えば、c面からm軸に向かって傾斜したものであることができ、特に、m軸に向かうc面からの傾斜角αが75度の場合、主面13aは、支持基体13の六方晶系窒化物半導体の(20−21)面に対応することができる。c軸ベクトルVCは、(0001)面の法線ベクトルに対応する。
【0044】
主面13aの上において、発光層17は、n型窒化ガリウム系半導体層15とp型窒化ガリウム系半導体層19との間に設けられている。主面13aの上において、n型窒化ガリウム系半導体層15、発光層17及びp型窒化ガリウム系半導体層19は、法線ベクトルVNの向き(Z軸方向)に順に配列されている。主面13aの上において、n型窒化ガリウム系半導体層15に含まれているn型GaN層15a、n型クラッド層15b及びn型ガイド層15cが法線ベクトルVNの向き(Z軸方向)に順に配列されている。主面13aの上において、発光層17に含まれている井戸層17a、バリア層17b及び井戸層17cが法線ベクトルVNの向き(Z軸方向)に順に配列されている。主面13aの上において、p型窒化ガリウム系半導体層19に含まれているp型ガイド層19a、p型クラッド層19b及びp型コンタクト層19cが、法線ベクトルVNの向き(Z軸方向)に順に配列されている。
【0045】
支持基体13は、GaNからなる。GaNは、二元化合物である窒化ガリウム系半導体であるので、良好な結晶品質と安定した基板主面とを提供できる。支持基体13は、GaN以外にも、例えば、GaN、InGaN、AlGaN等の六方晶系窒化物半導体からなることができる。
【0046】
n型窒化ガリウム系半導体層15は、n型の窒化ガリウム系半導体からなる。n型窒化ガリウム系半導体層15のn型ドーパントは、例えばシリコン(Si)である。n型窒化ガリウム系半導体層15は、支持基体13上に設けられる。n型窒化ガリウム系半導体層15のn型GaN層15aは、主面13aを介して支持基体13に接している。n型GaN層15aは、n型のGaNからなる。n型クラッド層15bは、n型GaN層15aに接している。n型クラッド層15bは、例えば、n型のInAlGaN等のn型の窒化物系半導体からなる。n型ガイド層15cは、n型クラッド層15bに接している。n型ガイド層15cは、例えば、n型のGaNや、n型のInGaN等のn型の窒化ガリウム系半導体からなることができる。
【0047】
n型ガイド層15cは、二つの層からなることができる。この二つの層のうち、一つ目の層は、n型のGaNからなるn型GaNガイド層15dであり、二つ目の層は、n型のInGaNからなるn型InGaNガイド層15eであり、n型GaNガイド層15dは、n型クラッド層15bに接し、n型InGaNガイド層15eは、n型GaNガイド層15d上に設けられ、n型InGaNガイド層15eは、n型GaNガイド層15dに接している。n型ガイド層15cの内部におけるn型InGaNガイド層15eの支持基体13側の表面15f(n型GaNガイド層15dとn型InGaNガイド層15eとの界面)は、ミスフィット転位を含む。このミスフィット転位は、n型InGaNガイド層15eの表面15fに直交しc軸を含む基準面(a面に沿って延びる面)と表面15fとが共有する基準軸と、c軸と、に直交する方向に(a軸に沿って)延びている。このミスフィット転位の密度は、5×10cm−1以上1×10cm−1以下の範囲にある。n型InGaNガイド層15eのインジウム組成(第3のインジウム組成)は、0.03以上0.05以下の範囲にある。
【0048】
発光層17は、多重量子井戸構造を有する。発光層17は、インジウムを含み、InGaN等の窒化ガリウム系半導体からなることができる。井戸層17aは、n型ガイド層15cのn型InGaNガイド層15eに接している。井戸層17aは、インジウムを含み、InGaN等の窒化ガリウム系半導体からなることができる。バリア層17bは、井戸層17aに接している。バリア層17bは、井戸層17aと井戸層17cとの間に設けられている。バリア層17bは、インジウムを含み、InGaN等の窒化ガリウム系半導体からなることができる。井戸層17cは、バリア層17bに接している。井戸層17cは、インジウムを含み、InGaN等の窒化ガリウム系半導体からなることができる。井戸層17aのバンドギャップと井戸層17cのバンドギャップとは、何れも、バリア層17bのバンドギャップよりも小さい。なお、発光層17は、三つ以上の井戸層と、二つ以上のバリア層とを含むことができる。
【0049】
井戸層17aのインジウム組成(第1のインジウム組成)は、0.15以上0.50以下の範囲にある。井戸層17aのインジウム組成は、例えば、0.30程度であるが、0.25程度、0.35程度の何れかであることができる。井戸層17aの膜厚は、例えば2.5nm程度である。
【0050】
バリア層17bのインジウム組成(第2のインジウム組成)は、0.01以上0.10以下の範囲にあるが、0.01以上0.06以下の範囲にあることができる。バリア層17bの膜厚は、井戸層17a又は井戸層17cの膜厚に0.5nmを足し合わせた値以下であり、且つ、井戸層17a又は井戸層17cの膜厚から0.5nmを差し引いた値以上であることができる。バリア層17bの膜厚は、具体的には、1.0nm以上4.5nm以下の範囲にあるが、バリア層17bの膜厚の上限値を、4.0nm、3.5nm、3.0nm、の何れかの値とすることもできる。例えば、バリア層17bの膜厚を、1.0nm以上3.5nm以下の範囲にあるようにすることができる。なお、バリア層17bは、p型窒化ガリウム系半導体層19の側から、n型窒化ガリウム系半導体層15の側に向かって増加するインジウム組成を有することもできる。
【0051】
井戸層17cのインジウム組成(第1のインジウム組成)は、0.15以上0.50以下の範囲にある。井戸層17cのインジウム組成は、例えば、0.30程度であるが、0.25程度、0.35程度の何れかであることができる。井戸層17cの膜厚は、例えば2.5nm程度である。
【0052】
発光層17の発光波長は、発光層17の井戸層(井戸層17a、井戸層17c)のインジウム組成が0.15以上0.50以下の範囲にあるので、480nm以上600nm以下である。なお、発光層17の発光波長を、500nm以上570nm以下とすることもできる。500nm以上570nm以下の発光波長の場合、発光層17の井戸層(井戸層17a、井戸層17c)のインジウム組成は、0.24以上0.40以下の範囲にある。
【0053】
p型窒化ガリウム系半導体層19は、p型の窒化ガリウム系半導体からなる。
p型窒化ガリウム系半導体層19のp型ドーパントは、例えばマグネシウム(Mg)である。p型窒化ガリウム系半導体層19は、発光層17の井戸層17cに接している。p型ガイド層19aは、発光層17上に設けられ、発光層17に接している。p型ガイド層19aは、一又は複数のp型の窒化ガリウム系半導体層を含む。p型ガイド層19aは、アンドープ(ud)のInGaN層を含む。このアンドープのInGaN層は、井戸層17cに接している。p型ガイド層19aは、このアンドープのInGaN層上に設けられたp型のInGaN層を含む。このp型のInGaN層は、アンドープのInGaN層に接している。p型ガイド層19aは、このp型のInGaN層上に設けられたp型のGaN層を含む。このp型のGaN層は、p型のInGaN層に接している。
【0054】
p型クラッド層19bは、例えば、p型のInAlGaNからなることができる。p型クラッド層19bは、p型ガイド層19aに含まれているp型のGaN層上に設けられ、このp型のGaN層に接している。
【0055】
p型コンタクト層19cは、p型クラッド層19b上に設けられ、p型クラッド層19bに接している。p型コンタクト層19cは、例えば、p型のGaNからなることができる。
【0056】
発光素子11がLEDの場合、図1に示すように、p型コンタクト層19c上にp側電極21及が設けられている。p側電極21は、例えば、Pdからなることができる。n側電極25は、支持基体13の裏面13bに設けられている。n側電極25は、裏面13bを覆っている。n側電極25は、裏面13bを介して支持基体13に接している。
【0057】
なお、発光素子11がLDの場合、p型窒化ガリウム系半導体層19はリッジ形状部を含み、p側電極21は、例えば、Ni/Auからなる電極と、Ti/Auからなるパッド電極とを含むことができ、n側電極25は、例えば、Ti/Alからなる電極と、Ti/Auからなるパッド電極とを含むことができる。そして、共振器端面には、誘電体多層膜が設けられる。この誘電体多層膜は、例えば、SiO/TiOからなることができる。
【0058】
以上説明した構成を有する発光素子11において、支持基体13の主面13aは、50度以上80度以下の範囲、及び、130度以上170度以下の範囲の何れかの範囲にある半極性面であり、発光素子11は、主面13aの上に設けられた多重量子井戸構造の発光層17を有する。このような半極性面の上に設けられた多重量子井戸構造の発光層17に生じるピエゾ分極の向きは、c面上に設けられた井戸層17a及び井戸層17cに生じるピエゾ分極の向きと逆向きになっており、よって、半極性面の上に設けられた多重量子井戸構造のバンド構造には、c面上とは異なる歪みが生じる。このバンド構造の歪みによって、発光層17における電子の注入効率が低下する。図2に示すバンドダイヤグラムを参照すると、ピエゾ分極によるバンド構造の歪みに起因して、井戸層17aのp型窒化ガリウム系半導体層19の側(p側)の障壁V2(量子準位Q1を基準とする値)が、井戸層17aのn型窒化ガリウム系半導体層15の側(n側)の障壁V1(量子準位Q1を基準とする値)よりも高いので、n型窒化ガリウム系半導体層15からの電子Eがバリア層17bのエネルギー障壁を乗り越えて井戸層17aから井戸層17cに移動しにくくなり、発光層17における注入効率が低下することがわかる。しかし、発光素子11のバリア層17bの膜厚は、比較的に薄く、1.0nm以上4.5nm以下の範囲にあるので、バンド構造に歪みが生じていても、発光層17における電子の注入効率が改善できる。図2に示すバンドダイヤグラムを参照すると、バリア層17bの膜厚の値Lが、1.0nm以上4.5nm以下の範囲にあり、比較的に薄いので、n型窒化ガリウム系半導体層15からの電子Eが井戸層17aからバリア層17bのエネルギー障壁を乗り越えて井戸層17cに移動しやすくなり、発光層17における注入効率の低減が抑制できる。
【0059】
更に、発光素子11の二つの井戸層(井戸層17a及び井戸層17c)は、比較的に高い、0.15以上0.50以下の範囲にあるインジウム組成を有する。このように比較的に高いインジウム組成の井戸層17a及び井戸層17cに対しては、井戸層の成長で悪化しかける結晶性をバリア層17bの成長中に回復させるために比較的に厚い膜厚のバリア層17bが望ましいと考えられるが、発光素子11の発光層17はInGaNの成長に対してインジウムの取り込みや成長モードが好適となる角度範囲の半極性面の上に設けられているので、1.0nm以上4.5nm以下の範囲のように比較的に薄い膜厚のバリア層17bであっても結晶性を整えることができ、発光層17の結晶品質は維持できる。
【0060】
なお、バリア層17bの膜厚が1.0nm未満の場合、結晶成長時にバリア層17bで結晶性を回復しきれず、発光層17の結晶性が低下する場合がある。また、図2を参照すると、正孔Hは、ピエゾ分極に起因してバンド構造に歪みが生じた場合であっても、バンドオフセットは比較的に小さいので、注入効率対する影響は比較的に小さい。
【0061】
また、バリア層17bの膜厚の値Lは、井戸層17a又は井戸層17cの膜厚に0.50nmを足し合わせた値以下であり、且つ、井戸層17a又は井戸層17cの膜厚から0.50nmを差し引いた値以上である、ことができる。この場合、バリア層17bの膜厚は、井戸層17a又は井戸層17cの膜厚と同程度の厚みを有する。よって、発光層17のバンド構造がc面上とは逆向きのピエゾ分極による歪が生じていても、電子がバリア層17bのエネルギー障壁を乗り越えて井戸層17aから隣の井戸層17bに移動しやすくなるので、発光層17における電子の注入効率の低減が抑制される。
【0062】
また、バリア層17bは、InGaNからなり、バリア層17bは、0.01以上0.1以下の範囲にあるインジウム組成を有する、ことができる。この場合、バリア層17bのインジウム組成が0.01以上0.10以下の範囲にあるので、バリア層17bのバンドギャップが低減される。よって、発光層17のバンド構造にc面上とは逆向きのピエゾ分極による歪が生じていても、その歪を緩和するようにバリア層17bのバンドギャップを変化させることで、電子がバリア層17bのエネルギー障壁を乗り越えやすくなるので、発光層17における電子の注入効率の低減が抑制される。なお、バリア層17bのインジウム組成が0.10を超えるとき、バリア層17b及び発光層17の結晶性が低下する場合がある。
【0063】
また、n型窒化ガリウム系半導体層15のn型ガイド層15cは、n型InGaNガイド層15eを有し、n型InGaNガイド層15e上に発光層17が設けられることができる。n型窒化ガリウム系半導体層15の内部におけるn型InGaNガイド層15eの支持基体13側の表面15fにミスフィット転位が存在し、このミスフィット転位は、n型InGaNガイド層15eの表面15fに直交し支持基体13の六方晶系窒化物半導体のc軸を含む基準面と表面15fとが共有する基準軸と、c軸とに直交する方向に延びており、このミスフィット転位の密度は、5×10cm−1以上1×10cm−1以下の範囲にある、ことができる。この場合、支持基体13と発光層17との間にn型InGaNガイド層15eが設けられており、このn型InGaNガイド層15eの支持基体13の側の表面15fには比較的に高い密度のミスフィット転位が生じている。従って、このn型InGaNガイド層15eによって、支持基体13上の歪が緩和されるので、発光層17が内包する歪も、低減される。よって、発光層17のバンド構造にc面上とは逆向きのピエゾ分極による歪が生じていても、ピエゾ分極が低減されるので、発光層17における電子の注入効率の低減が抑制される。ミスフィット転位の密度が1×10cm−1を超えるとき、欠陥の悪影響が発光層17にも及び発光効率の低下を招く恐れがある。
【0064】
また、n型InGaNガイド層15eは、0.03以上0.05以下の範囲にあるインジウム組成を有する、ことができる。支持基体13と発光層17との間に設けられ、支持基体13上の歪を緩和するn型InGaNガイド層15eのインジウム組成が0.03以上0.05以下の範囲にあるので、支持基体13上の歪が十分に緩和される。よって、発光層17のバンド構造にc面上とは逆向きのピエゾ分極による歪が生じていても、発光層17における電子の注入効率の低減が効果的に抑制される。なお、n型InGaNガイド層15eのインジウム組成が0.05を超えるとき、ミスフィット転位の密度が高くなりすぎ、発光効率の低下を招く恐れがある。
【0065】
また、バリア層17bのインジウム組成は、p型窒化ガリウム系半導体層19の側から、n型窒化ガリウム系半導体層15の側に向かって、増加している、ことができる。発光層17のインジウム組成は、p型窒化ガリウム系半導体層19の側からn型窒化ガリウム系半導体層15の側に向かって増加しているので、n型窒化ガリウム系半導体層15の側のインジウム組成がp型窒化ガリウム系半導体層19の側のインジウム組成と同様の場合に比較して、バリア層17bのバンドギャップが、n型窒化ガリウム系半導体層15の側において、低減される。よって、発光層17のバンド構造にc面上とは逆向きのピエゾ分極による歪が生じていても、その歪を緩和するようにバリア層17のバンドギャップを変化させることで、電子がバリア層17bのエネルギー障壁を乗り越えやすくなるので、発光層17における電子の注入効率の低減が抑制される。
【0066】
また、c面に対する主面13aの傾斜角αは、63度以上80度以下の範囲にある、ことができる。主面13aの傾斜角αが63度以上80度以下の範囲にあるとき、特にInGaNの成長に対してインジウムの取り込みや成長モードが好適となるため、膜厚の薄いバリア層でも結晶性を回復させることができ、発光効率の低下を抑制することができる。その結果、発光効率の低下を招くことなく、優れた電子の注入効率を提供することができる。
【0067】
また、井戸層17a及び井戸層17cのインジウム組成は、0.24以上0.40以下の範囲にある、ことができる。井戸層17a及び井戸層17cのインジウム組成が0.24以上0.40以下の範囲にあるので、発光層17は、500nm以上570nm以下の発光波長の光を発する。このように、発光層17のインジウム組成が比較的に大きい場合、井戸層17a及び井戸層17cとバリア層17bとのバンドオフセットが比較的大きいので、ピエゾ分極によるバンド構造の歪の影響が顕著となるが、このような場合においても、発光層17における電子の注入効率の低減を十分に抑制できる。
【0068】
また、バリア層17bのインジウム組成は、0.01以上0.06以下の範囲にある、ことができる。バリア層17bのインジウム組成が0.01以上0.06以下の範囲にあるので、結晶性の低下が十分に抑制される。
【0069】
また、バリア層17bの膜厚は、1.0nm以上3.5nm以下の範囲にある、ことができる。バリア層17bの膜厚が1.0nm以上3.5nm以下の範囲にあるので、比較的に薄い。よって、バンド構造に歪みが生じていても、電子がバリア層17bのエネルギー障壁を乗り越えて井戸層17aから隣の井戸層17bに移動しやすくなるので、発光層17における電子の注入効率の低減が十分に抑制できる。
【0070】
図1の(b)部に示すように、発光素子11のエピタキシャル基板EP1は、発光素子11の上記の各半導体層に対応する半導体層(半導体膜)を含み、対応する半導体層には、上記の発光素子11のための説明が当てはまる。エピタキシャル基板EP1の表面粗さは、例えば、10μm角の範囲で1nm以下の算術平均粗さを有する。
【0071】
次に、図3及び図4を参照して、実施形態に係る発光素子11の作製方法を説明する。図3は、実施形態に係る発光素子11の製造方法の主要な工程を示す図面である。図4は、実施形態に係る発光素子11の作製方法の主要な工程における生産物を模式的に示す図面である。図4に示すエピタキシャル基板EPは、図1の(b)部に示すエピタキシャル基板EP1に対し、p側電極及びn側電極等が形成された基板生産物である。エピタキシャル基板EP1から更にエピタキシャル基板EPが作製され、このエピタキシャル基板EPから発光素子11が分離される。
【0072】
図3に示される工程フローに従って、有機金属気相成長法により、発光素子11の構造のエピタキシャル基板EPと、発光素子11とを作製した。エピタキシャル成長のための原料として、トリメチルガリウム(TMG)、トリメチルインジウム(TMI)、トリメチルアルミニウム(TMA)、アンモニア(NH)、シラン(SiH)、及び、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(CpMg)が用いられる。
【0073】
工程S1では、窒化ガリウム系半導体からなる主面13a_1(主面13aに対応)を有する基板13_1(支持基体13に対応)を用意する。基板13_1は、図4の(a)部等に示される。基板13_1は、裏面13b_1(裏面13bに対応)を有する。裏面13b_1は、主面13a_1の反対側にある。主面13a_1は鏡面研磨されている(以上、工程S1)。
【0074】
次に、基板13_1の上に以下の条件でエピタキシャル成長を行う。まず、工程S3では、基板13_1を反応炉10内に設置する。反応炉10内には、例えば石英フローチャネル等の石英製の治具が配置されている。必要な場合には、摂氏1050度程度の温度及び27kPa程度の炉内圧力において、NHとHを含む熱処理ガスを反応炉10に供給しながら、10分間程度、熱処理を行う。この熱処理により、主面13a_1等において表面改質が生じる(以上、工程S3)。
【0075】
この熱処理の後に、工程S5では、基板13_1の上に窒化ガリウム半導体層を成長してエピタキシャル基板EP及びエピタキシャル基板EP1を形成する。雰囲気ガスは、キャリアガス及びサブフローガスを含む。雰囲気ガスは、例えば、N及びHの少なくとも一方を含むことができる。工程S5は、下記の工程S51、工程S52及び工程S53を含む。
【0076】
工程S51では、原料ガスと雰囲気ガスとを反応炉10に供給して、n型窒化ガリウム系半導体層15_1(n型窒化ガリウム系半導体層15に対応)をエピタキシャルに成長して形成する。n型窒化ガリウム系半導体層15_1は、図4の(a)部等に示される。工程S51において用いられる原料ガスは、III族構成元素及びV族構成元素のための原料と、n型ドーパントとを含む。まず、n型GaN層15a_1(n型GaN層15aに対応)を主面13a_1上に成長し、次に、n型GaN系半導体層15b_1(n型クラッド層15bに対応)をn型GaN層15a_1上に成長し、次に、n型GaN系半導体層15c_1(n型ガイド層15cに対応)をn型GaN系半導体層15b_1上に成長する。n型窒化ガリウム系半導体層15_1の表面15_1a(n型GaN系半導体層15c_1の表面)の傾斜角は、主面13a_1の傾斜角(傾斜角αに対応)に対応している(以上、工程S51)。また、n型GaN系半導体層15c_1は、二つの層(それぞれ、n型GaNガイド層15d及びn型InGaNガイド層15eに対応)からなることができる。n型GaN系半導体層15c_1を構成する二つの層のうちn型InGaNガイド層15eに対応する層の基板13_1の側の表面(n型GaN系半導体層15c_1を構成する二つの層の界面)は、ミスフィット転位を含む。このミスフィット転位は、n型GaN系半導体層15c_1を構成する二つの層の界面に直交しc軸を含む基準面(a面に沿って延びる面)とn型GaN系半導体層15c_1を構成する二つの層の界面とが共有する基準軸と、c軸と、に直交する方向に(a軸に沿って)延びている。このミスフィット転位の密度は、5×10cm−1以上1×10cm−1以下の範囲にある。n型GaN系半導体層15c_1を構成する二つの層のうちn型InGaNガイド層15eに対応する層のインジウム組成は、0.03以上0.05以下の範囲にある。
【0077】
工程S52では、原料ガスと雰囲気ガスとを反応炉10に供給して、GaN系量子井戸層17_1(発光層17に対応)をエピタキシャルに成長して形成する。GaN系量子井戸層17_1は、図4の(b)部等に示される。工程S52において用いられる原料ガスは、III族構成元素及びV族構成元素のための原料を含む。工程S52は、下記の工程S52a、工程S52b及び工程52cを含む。工程S52aでは、GaN系井戸層17a_1(井戸層17aに対応)を、n型GaN系半導体層15c_1上に成長して形成する。工程S52bでは、GaN系バリア層17b_1(バリア層17bに対応)を、GaN系井戸層17a_1上に成長して形成する。工程S52cでは、GaN系井戸層17c_1(井戸層17cに対応)を、GaN系バリア層17b_1上に成長して形成する(以上、工程S52)。
【0078】
次に、工程S53において、原料ガスと雰囲気ガスとを反応炉10に供給して、p型窒化ガリウム系半導体層19_1(p型窒化ガリウム系半導体層19に対応)をエピタキシャルに成長して形成する。p型窒化ガリウム系半導体層19_1は、図4の(c)部等に示される。工程S53において用いられる原料ガスは、III族構成元素及びV族構成元素のための原料と、p型ドーパントとを含む。まず、p型GaN系半導体層19a_1(p型ガイド層19aに対応)をGaN系井戸層17c_1上に成長し、次に、p型GaN系半導体層19b_1(p型クラッド層19bに対応)をp型GaN系半導体層19a_1上に成長し、次に、p型GaN系半導体層19c_1(p型コンタクト層19cに対応)をp型GaN系半導体層19b_1上に成長する(以上、工程S53)。以上の工程S51、工程S52及び工程S53が全て実施されることによって、エピタキシャル基板EP1が形成され、工程S5が終了する。
【0079】
そして、工程S7及び工程S9において、n側電極及びp側電極を形成する。まず、LEDの発光素子11を作製する場合の工程S7及び工程S8について説明する。工程S7において、エピタキシャル基板EP1に対し、n側電極及びp側電極を形成し、エピタキシャル基板EPを形成する。まず、p型窒化ガリウム系半導体層19_1の表面19_1aに絶縁膜(絶縁膜23に対応)を形成する。次に、フォトリソグラフィ及びドライエッチングによって絶縁膜に開口(開口23aに対応)を設けて、p型GaN系半導体層19c_1の表面19_1aを露出する。次に、絶縁膜上に、p側電極(p側電極21に対応)を、真空蒸着によって形成する。次に、基板13_1の裏面13b_1を研磨した後、裏面13b_1上にn側電極(n側電極25に対応)を、真空蒸着によって形成する。n側電極は、研磨後の裏面13b_1を覆う。以上によって、エピタキシャル基板EPが形成される(以上、工程S7)。そして、工程S9において、エピタキシャル基板EPから、発光素子11を分離する(工程S9)。
【0080】
次に、LDの発光素子11を作製する場合の工程S7及び工程S9について説明する。工程S7では、まず、ドライエッチングによって、p型窒化ガリウム系半導体層19_1にリッジ形状部を形成する。次に、リッジ形状部の側面にSiOの絶縁膜(絶縁膜23に対応)を形成し、リッジ形状部の上面は露出する。次に、露出したリッジ形状部の上面にNi/Auの電極を真空蒸着によって形成し、更に、絶縁膜及びNi/Au電極上に、Ti/Auのパッド電極を真空蒸着によって形成する。Ti/Auのパッド電極は、絶縁膜及びNi/Au電極を覆う。Ni/Auの電極とTi/Auのパッド電極とは、p側電極(p側電極21に対応)を構成する。次に、基板13_1の裏面13b_1を、例えば、エピタキシャル基板EP1の厚みが80μm程度となるまで研磨した後に、裏面13b_1上に、Ti/Alの電極を真空蒸着によって形成し、このTi/Alの電極上に、Ti/Auのパッド電極を真空蒸着によって形成する。Ti/Alの電極とTi/Auのパッド電極とは、n側電極(n側電極25に対応)を構成する。n側電極は、研磨後の裏面13b_1を覆う(以上、LDの場合の工程S7)。そして、工程S9では、レーザバーをエピタキシャル基板EPから分離し、このレーザバーの共振器端面に、誘電体多層膜(例えばSiO/TiO)からなる反射膜を成膜した後に、発光素子11に分離する(以上、LDの場合の工程S9)。
【0081】
(実施例)
次に、実施形態に係る発光素子11の実施例について説明する。図5は、発光素子11の実施例の構成を示す図である。図5に示す構成は、エピタキシャル基板EP1の構成に対応する。まず、半極性の主面(主面13a_1及び主面13aに対応)を有するGaN基板(基板13_1及び支持基体13に対応)を用意した。GaN基板の主面は、c面からGaN基板のm軸に向けて75度だけ傾斜している(20−21)面に沿って、延びていた。そして、GaN基板をNH及びHの雰囲気中において、摂氏1050度程度のもとで10分程度の間だけ保持し、前処理(サーマルクリーニング)を行う。
【0082】
次に、サーマルクリーニングの後、n−GaN層(n型GaN層15a_1及びn型GaN層15aに対応)を、摂氏1050度程度のもとでエピタキシャルに成長した。次に、温度を摂氏840度程度に下げ、2μm程度の膜厚のn−In0.03Al0.14Ga0.83N層(n型GaN系半導体層15b_1及びn型クラッド層15bに対応)をエピタキシャルに成長した。次に、摂氏840度程度の温度のもとで、200nm程度の膜厚のn−GaN層(n型GaNガイド層15dに対応)をエピタキシャルに成長した。次に、摂氏840度程度の温度のもとで、150nm程度の膜厚のn−InGa1−JN層(n型InGaNガイド層15eに対応)をエピタキシャルに成長した。
【0083】
次に、温度を摂氏790度程度に下げて、2.5nm程度の膜厚のIn0.30Ga0.70N層(GaN系井戸層17a_1及び井戸層17aに対応)をエピタキシャルに成長した。次に、温度を摂氏840度程度に上げて、L(nm)の膜厚のInGa1−KN層(GaN系バリア層17b_1及びバリア層17bに対応)をエピタキシャルに成長した。次に、温度を摂氏790度程度に下げて、2.5nm程度の膜厚のIn0.30Ga0.70N層(GaN系井戸層17c_1及び井戸層17cに対応)をエピタキシャルに成長した。
【0084】
次に、温度を摂氏840度程度に上げて、50nm程度の膜厚のアンドープのIn0.02Ga0.98N層をエピタキシャルに成長し、この後、100nm程度の膜厚のp−In0.02Ga0.98N層をエピタキシャルに成長し、この後、200nm程度の膜厚のp−GaN層をエピタキシャルに成長した。この50nm程度の膜厚のアンドープのIn0.02Ga0.98N層と、100nm程度の膜厚のp−In0.02Ga0.98N層と、200nm程度の膜厚のp−GaN層とからなる領域は、p型GaN系半導体層19a_1及びp型ガイド層19aに対応する。次に、摂氏840度程度の温度のもとで、400nm程度の膜厚のp−In0.02Al0.07Ga0.91N層(p型GaN系半導体層19b_1及びp型クラッド層19bに対応)をエピタキシャルに成長した。次に、温度を摂氏1000度程度に上げて、50nm程度の膜厚のp−GaN層(p型GaN系半導体層19c_1及びp型コンタクト層19cに対応)をエピタキシャルに成長した。
【0085】
以下、n型InGaNガイド層15eに対応するn−InGa1−JN層のインジウム組成Jが0.02であり、GaN系バリア層17b_1及びバリア層17bに対応するInGa1−KN層のインジウム組成Kが0.02であり、GaN系バリア層17b_1及びバリア層17bに対応するInGa1−KN層の膜厚の値Lが2.5nmの場合に作製される発光素子11を、実施例1とする。
【0086】
n型InGaNガイド層15eに対応するn−InGa1−JN層のインジウム組成Jが0.02であり、GaN系バリア層17b_1及びバリア層17bに対応するInGa1−KN層のインジウム組成Kが0.04であり、GaN系バリア層17b_1及びバリア層17bに対応するInGa1−KN層の膜厚の値Lが2.5nmの場合に作製される発光素子11を、実施例2とする。実施例2と実施例1との相違点は、GaN系バリア層17b_1及びバリア層17bに対応するInGa1−KN層のインジウム組成Kの値のみである。
【0087】
n型InGaNガイド層15eに対応するn−InGa1−JN層のインジウム組成Jが0.02であり、GaN系バリア層17b_1及びバリア層17bに対応するInGa1−KN層のインジウム組成Kが、p側からn側に向かって0.02から0.04に連続的に変化する(増加する)値であり、GaN系バリア層17b_1及びバリア層17bに対応するInGa1−KN層の膜厚の値Lが2.5nmの場合に作製される発光素子11を、実施例3とする。実施例3と実施例1との相違点は、GaN系バリア層17b_1及びバリア層17bに対応するInGa1−KN層のインジウム組成Kの値のみである。
【0088】
n型InGaNガイド層15eに対応するn−InGa1−JN層のインジウム組成Jが0.04であり、GaN系バリア層17b_1及びバリア層17bに対応するInGa1−KN層のインジウム組成Kが0.02であり、GaN系バリア層17b_1及びバリア層17bに対応するInGa1−KN層の膜厚の値Lが2.5nmの場合に作製される発光素子11を、実施例4とする。実施例4と実施例1との相違点は、n型InGaNガイド層15eに対応するn−InGa1−JN層のインジウム組成Jの値のみである。
【0089】
更に、実施例1に対し、GaN系バリア層17b_1及びバリア層17bに対応するInGa1−KN層の膜厚の値Lを0.5nmとした場合に作製される発光素子を、比較例1とする。実施例1に対し、GaN系バリア層17b_1及びバリア層17bに対応するInGa1−KN層の膜厚の値Lを5nmとした場合に作製される発光素子を、比較例2とする。実施例1に対し、GaN系バリア層17b_1及びバリア層17bに対応するInGa1−KN層の膜厚の値Lを10nmとした場合に作製される発光素子を、比較例3とする。
【0090】
図6を参照して、実施例1に対する考察を行う。図6は、実施例及び比較例に対するPL発光波長の測定結果を示す図である。図中符号G1aは、実施例1に対する結果であり、図中符号G1bは、比較例1に対する結果であり、図中符号G1cは、比較例2に対する結果であり、図中符号G1dは、比較例3に対する結果である。図6を参照すると、実施例1、及び、比較例1〜3は、何れも、井戸層のインジウム組成は同じだが、実施例1のPL発光波長は、比較例1〜3に比べて、大幅に短くなった。この原因としては、次のことが考えられる。支持基体の主面が(20−21)面のような半極性面に対応する場合、井戸層のピエゾ分極が負であるために、図2に示すように発光層のバンド構造に歪が生じ、電子Eの波動関数は、井戸層のn側に偏り、正孔の波動関数は井戸層のp側に偏る。しかしながら、実施例1の場合のように、隣接する二つの井戸層の間に設けられたバリア層の膜厚が比較的に薄いと、このバリア層の両側にある隣接する二つの井戸層の間の波動関数にも重なりが生じ、同一井戸層において電子と正孔とが結合して発光が生じるだけでなく、バリア層を介してバリア層の一方の側の井戸層の電子と他方の側の井戸層の正孔とが結合して発光が生じる現象も生じるため、大幅に短いPL発光波長が検出されたものと考えられる。一方、図中符号G1bに示すように、バリア層の膜厚が、実施例1のような2.5nmよりも更に薄く、比較例1のような0.5nmの場合には、井戸層の膜厚が厚い単一量子井戸構造とほぼ等価となるので、PL発光波長は比較的に長くなる。なお、図示しないが、実施例及び比較例に対し、PL発光強度の測定も行った。PL発光強度についての測定結果については、実施例1、比較例2,3の場合、すなわち、バリア層の膜厚が2.5nm以上10nm以下の場合には、PL発光強度に有意な差が見られなかったが、比較例1の場合、すなわち、バリア層の膜厚が0.5nmの場合のPL発光強度は、実施例1、比較例2,3の場合のPL発光強度の60%程度と低かった。このような比較例1に対するPL発光強度に対する測定結果は、バリア層の膜厚が比較的に薄く、結晶性の回復が不十分なまま、このバリア層上に新たな井戸層が成長されているために、発光層の全体的な結晶品質が低下したことが原因と考えられる。
【0091】
次に、図7〜図11を参照して、実施例1に対する考察を行う。図7は、実施例1及び比較例2に対する発光波長の電流密度依存性の測定結果を示す図であり、図8は、実施例1及び比較例2に対する発光出力の電流密度依存性の測定結果を示す図であり、図9は、実施例1及び比較例2に対する発光波長の半値幅の電流密度依存性の測定結果を示す図であり、図10及び図11は、実施例1及び比較例2に対するIV特性の測定結果を示す図である。図12は、実施例2、実施例3及び下記の比較例4に対するIV特性の測定結果を示す図である。図11は、図10の縦軸(電流密度)を対数で表示した図であり、図13は、図12の縦軸(電流密度)を対数で表示した図である。図7〜図13に示す測定結果は、100μm×100μmのサイズのPd電極がp側の電極に用いられており、裏面全面に設けられたTi/Al/Ti/Au電極がn側電極に用いられたLEDの実施例1、実施例2、実施例3、比較例2及び比較例4によって得られた。図7〜図9に示す結果は、実施例1及び比較例2に対しパルス電流の印加によって得られた。図10〜図13に示す結果は、実施例1、実施例2、実施例3、比較例2及び比較例4に対し直流電流の印加によって得られた。比較例4の発光素子は、実施例1の構造のうち、多重量子井戸構造の発光層が、単一量子井戸構造の発光層となっているLEDであった。
【0092】
図7において、図中符号G2aは、実施例1に対する結果であり、図中符号G2bは、比較例2に対する結果である。電流密度が小さい場合には、実施例1の方が比較例2よりも発光波長が短く、PL発光波長に対する図6に示す測定結果と一致していた。しかし、電流密度が大きくなり比較的に高い電流注入が行われた段階では、実施例1の発光波長と比較例2の発光波長との波長差は縮まり、ほぼ同等となった。このことは、電流注入に伴ってピエゾ分極が弱まり、実施例1においても、スクリーニングにより、隣接する井戸層間における遷移確率が低下したためと考えられる。なお、バリア層の膜厚が2.5nm程度の場合、c面上に形成された発光素子であれば、発光効率は低下するが、(20−21)面のような半極性面上にInGaN層を成長する実施例1の場合には、InGaN層の成長が均質で高品質となる傾向があるので、バリア層の膜厚が極端に薄くとも発光効率を維持できると考えられる。
【0093】
図8において、図中符号G3aは、実施例1に対する結果であり、図中符号G3bは、比較例2に対する結果である。図8に示す測定結果によれば、実施例1の方が比較例2よりも発光出力が高かった。上述の通り、実施例1と比較例2のPL発光強度は同等であったため、井戸層の品質に大きな違いはないはずであるので、電流注入によって図8に示すような実施例1と比較例2との間に生じた発光出力の差異の原因は、実施例1の方が比較例2よりもキャリア注入効率に優れる点にあると考えられる。
【0094】
図9において、図中符号G4aは、実施例1に対する結果であり、図中符号G4bは、比較例2に対する結果である。図8に示す測定結果によれば、実施例1の方が比較例2よりも半値幅(FWHM)が狭く、特に、実施例1と比較例2との半値幅の差は、電流密度が比較的に低く電子の注入が比較的に小さい段階において顕著であった。比較例2の場合、キャリア注入効率が悪く、井戸間のキャリア密度が不均一なために、半値幅が広がったと考えられる。電流密度を増加させると、キャリア密度の不均一性が多少とも緩和されるので、実施例1と比較例2との半値幅の差は小さくなるが、同等になるまでには至らなかった。
【0095】
図10において、図中符号G5aは、実施例1に対する結果であり、図中符号G5bは、比較例2に対する結果である。図11において、図中符号G6aは、実施例1に対する結果であり、図中符号G6bは、比較例2に対する結果である。図10を参照すると、実施例1の方が比較例2よりも、拡散電流が流れ始める電流密度の立ち上がりが早く、この結果も、実施例1がキャリア注入効率に優れていることを裏付けている。図11を参照すると、拡散電流が流れ始める電流密度の立ち上がり電圧は、実施例1の場合には2.4ボルトであり、比較例2の場合には2.6ボルトであった。
【0096】
以上の図7〜図11に示す測定結果によれば、バリア層の膜厚を比較的に薄く(例えば、2.5nm程度に)することによって、井戸層のピエゾ分極が負の場合であっても、発光層における電子の注入効率を改善できることが、わかった。この現象は、弱励起の発光波長が短くなる点にも反映されている(弱励起は、図7に示す測定結果において、0.05kA/cm以下の電流密度に対応)。また、この現象は拡散電流が流れ始める立ち上がり電圧が低くなる点にも反映されており、例えば立ち上がり電圧を2.5V以下にすることができる。なお、キャリア注入効率と発光効率とを両立させる観点から、井戸層の膜厚とバリア層の膜厚とを同程度にすることが特に好適である。すなわち、弱励起の発光波長が短くなるときに、キャリア注入効率と発光効率の両方に優れた発光層を得ることができる。
【0097】
次に、図12及び図13を参照して、実施例2と実施例3とに対する考察を行う。図12において、図中符号G7aは、実施例2に対する結果であり、図中符号G7bは、実施例3に対する結果であり、図中符号G7cは、比較例4に対する結果である。図13において、図中符号G8aは、実施例2に対する結果であり、図中符号G8bは、実施例3に対する結果であり、図中符号G8cは、比較例4に対する結果である。拡散電流が流れ始める立ち上がり電圧は、実施例2で2.3ボルトであり、実施例3で2.2ボルトとなっており、2.4ボルト(図10を参照)の実施例1よりも、実施例2と実施例3の立ち上がり電圧は改善されており、単一量子井戸構造の比較例4の2.2ボルトとは、ほぼ同等であった。図12に示す結果及び図13に示す結果は、実施例2についてはバリア層全体のバンドギャップエネルギーを下げた効果、及び、実施例3についてはピエゾ分極によるバンド曲がりを緩和するようなバンド構造を組成傾斜によって形成し電子に対する障壁の高さを低くした効果によって、キャリア注入効率が改善された、ということを示唆する結果である。
【0098】
また、実施例1及び実施例4については、断面TEM観察を行って、ミスフィット転位の測定を行った。断面TEM観察を行ったところ、実施例4においては、n側のガイド層に含まれている150nm程度の膜厚のn−InGaN層と200nm程度の膜厚のn−GaN層との界面に、2×10cm−1程度のミスフィット転位が認められた。これに対し、実施例1における同じ箇所には、ミスフィット転位は認められなかった。これより、実施例4においては、n側のガイド層のインジウム組成が比較的に高くされていることによって、n側のガイド層に含まれている150nm程度の膜厚のInGaN層が支持基体に対して緩和しているために、発光層が内包する歪が緩和されていることが、わかる。
【0099】
次に、実施例4に対する考察を行う。LDの場合の実施例1とLDの場合の実施例4とに対し、パルス電流印加によって、レーザ特性を評価した。実施例1のIth(電流閾値)が85mAであり、実施例4のIthが60mAであった。実施例4のIthの方が実施例1のIthよりも、低い値であった。実施例4の場合、ガイド層に含まれる150nm程度の膜厚のn−InGaN層の緩和によって井戸層のピエゾ分極が若干小さくなり、よって、キャリア注入効率が改善された、ということが予想される。各井戸層にキャリアが均一に注入されることによって、発光効率の改善だけでなく、内部ロスの低減も実現されているものと考えられる(キャリア注入が不均一な場合は、複数の井戸層のうち、キャリア密度が低く透明化していない井戸層が、光の吸収源として働く。)。更に、実施例4の場合、ガイド層に含まれる150nm程度の膜厚のn−InGaN層のインジウム組成が比較的に高いので、光閉じ込めの効果が比較的に大きい、ということも、実施例4のIthの方が実施例1のIthよりも低い値であったことの一因であると、考えられる。
【0100】
なお、実施例4の場合、測定の結果、PL発光波長が527nmであったのに対して発振波長は522nmであったが、実施例1の場合、測定の結果、PL発光波長が525nmであったのに対して発振波長は517nmであった。(20−21)面のような半極性面の主面上に設けられている発光素子の場合、ピエゾ分極がゼロではないが、ピエゾ分極の発生にもかかわらず、このように、PL発光波長と、発振波長との差が比較的に小さい、ということは、少なくとも実施例1及び実施例4の場合においては、PL発光波長の測定時にはバリア層の膜厚が比較的に薄いことによって隣接する井戸層間において遷移確率が増大するメカニズム(図6に示す結果を参照)が作用している、ということを示唆している。このメカニズムが作用するときに、キャリア注入効率が向上する。このように、実施例1及び実施例4によって実際に確認されているように、発光素子がキャリア注入効率に優れる構造を有する場合、電流密度が0.05kA/cm程度におけるEL発光波長(EL:Electro Luminescence)のピーク値、又は、このEL発振波長のピーク値に相当する励起密度におけるPL発光波長のピーク値から、発振波長までのブルーシフト量は、15nm以下であった。
【0101】
以上、好適な実施の形態において本発明の原理を図示し説明してきたが、本発明は、そのような原理から逸脱することなく配置および詳細において変更され得ることは、当業者によって認識される。本発明は、本実施の形態に開示された特定の構成に限定されるものではない。したがって、特許請求の範囲およびその精神の範囲から来る全ての修正および変更に権利を請求する。
【符号の説明】
【0102】
10…反応炉、11…発光素子、13…支持基体、13_1…基板、13a,13a_1…主面、13b,13b_1…裏面、15,15_1…n型窒化ガリウム系半導体層、15_1a,15f,17_1a,19_1a…表面、15a,15a_1…n型GaN層、15b…n型クラッド層、15b_1…n型GaN系半導体層、15c…n型ガイド層、15c_1…n型GaN系半導体層、15d…n型GaNガイド層、15e…n型InGaNガイド層、17…発光層、17_1…GaN系量子井戸層、17a,17c…井戸層、17a_1,17c_1…GaN系井戸層、17b…バリア層、17b_1…GaN系バリア層、19,19_1…p型窒化ガリウム系半導体層、19a…p型ガイド層、19a_1…p型GaN系半導体層、19b…p型クラッド層、19b_1…p型GaN系半導体層、19c…p型コンタクト層、19c_1…p型GaN系半導体層、21…p側電極、25…n側電極、AX…法線軸、CR…結晶座標系、EP,EP1…エピタキシャル基板、S…座標系、SC…面、VC…c軸ベクトル、VN…法線ベクトル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
六方晶系窒化物半導体からなり、前記六方晶系窒化物半導体のc面から予め規定された方向に傾斜した主面を有する支持基体と、
前記支持基体の前記主面上に設けられたn型窒化ガリウム系半導体層と、
前記n型窒化ガリウム系半導体層上に設けられ、窒化ガリウム系半導体からなる発光層と、
前記発光層上に設けられたp型窒化ガリウム系半導体層と、
を備え、
前記発光層は、多重量子井戸構造を有し、
前記多重量子井戸構造は、少なくとも二つの井戸層と、少なくとも一つのバリア層とからなり、
前記バリア層は、前記二つの井戸層の間に設けられ、
前記二つの井戸層は、InGaNからなり、
前記二つの井戸層は、0.15以上0.50以下の範囲にある第1のインジウム組成を有し、
前記c面に対する前記主面の傾斜角は、50度以上80度以下の範囲、及び、130度以上170度以下の範囲、の何れかの範囲にあり、
前記バリア層の膜厚は、1.0nm以上4.5nm以下の範囲にある、
ことを特徴とする窒化物半導体発光素子。
【請求項2】
前記バリア層の膜厚は、前記井戸層の膜厚に0.50nmを足し合わせた値以下であり、且つ、前記井戸層の膜厚から0.50nmを差し引いた値以上である、ことを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項3】
前記バリア層は、InGaNからなり、
前記バリア層は、0.01以上0.10以下の範囲にある第2のインジウム組成を有する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項4】
前記n型窒化ガリウム系半導体層は、InGaN層を有し、
前記InGaN層上に前記発光層が設けられ、
前記n型窒化ガリウム系半導体層の内部における前記InGaN層の前記支持基体側の表面にミスフィット転位が存在し、
前記ミスフィット転位は、前記InGaN層の前記表面に直交し前記六方晶系窒化物半導体のc軸を含む基準面と前記InGaN層の前記表面とが共有する基準軸と、前記c軸とに直交する方向に延びており、
前記ミスフィット転位の密度は、5×10cm−1以上1×10cm−1以下の範囲にある、ことを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項5】
前記InGaN層は、0.03以上0.05以下の範囲にある第3のインジウム組成を有する、ことを特徴とする請求項4に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項6】
前記第2のインジウム組成は、前記p型窒化ガリウム系半導体層の側から、前記n型窒化ガリウム系半導体層の側に向かって、増加している、ことを特徴とする請求項3に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項7】
前記c面に対する前記主面の傾斜角は、63度以上80度以下の範囲にある、ことを特徴とする請求項1〜請求項6の何れか一項に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項8】
前記第1のインジウム組成は、0.24以上0.40以下の範囲にある、ことを特徴とする請求項1〜請求項7の何れか一項に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項9】
前記第2のインジウム組成は、0.01以上0.06以下の範囲にある、ことを特徴とする請求項3に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項10】
前記バリア層の膜厚は、1.0nm以上3.5nm以下の範囲にある、ことを特徴とする請求項1〜請求項9の何れか一項に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項11】
六方晶系窒化物半導体からなり、前記六方晶系窒化物半導体のc面から予め規定された方向に傾斜した主面を有する基板を用意する工程と、
前記基板の前記主面上にn型窒化ガリウム系半導体層を成長する工程と、
前記n型窒化ガリウム系半導体層上に、窒化ガリウム系半導体からなる発光層を成長する工程と、
前記発光層上にp型窒化ガリウム系半導体層を成長する工程と、
を備え、
前記発光層は、少なくとも第1の井戸層及び第2の井戸層と、少なくとも一つのバリア層とを有し、
前記発光層を成長する工程では、前記n型窒化ガリウム系半導体層上において、前記第1の井戸層、前記バリア層、前記第2の井戸層を順に成長し、
前記第1の井戸層及び前記第2の井戸層は、InGaNからなり、
前記第1の井戸層及び前記第2の井戸層は、0.15以上0.50以下の範囲にある第1のインジウム組成を有し、
前記c面に対する前記主面の傾斜角は、50度以上80度以下の範囲、及び、130度以上170度以下の範囲、の何れかの範囲にあり、
前記バリア層の膜厚は、1.0nm以上4.5nm以下の範囲にある、
ことを特徴とする窒化物半導体発光素子の作製方法。
【請求項12】
前記バリア層の膜厚は、前記井戸層の膜厚に0.50nmを足し合わせた値以下であり、且つ、前記井戸層の膜厚から0.50nmを差し引いた値以上である、ことを特徴とする請求項11に記載の窒化物半導体発光素子の作製方法。
【請求項13】
前記バリア層は、InGaNからなり、
前記バリア層は、0.01以上0.10以下の範囲にある第2のインジウム組成を有する、ことを特徴とする請求項11又は請求項12に記載の窒化物半導体発光素子の作製方法。
【請求項14】
前記n型窒化ガリウム系半導体層は、InGaN層を有し、
前記InGaN層上に前記発光層が設けられ、
前記n型窒化ガリウム系半導体層の内部における前記InGaN層の前記基板側の表面にミスフィット転位が存在し、
前記ミスフィット転位は、前記InGaN層の前記表面に直交し前記六方晶系窒化物半導体のc軸を含む基準面と前記InGaN層の前記表面とが共有する基準軸と、前記c軸とに直交する方向に延びており、
前記ミスフィット転位の密度は、5×10cm−1以上1×10cm−1以下の範囲にある、ことを特徴とする請求項11〜請求項13の何れか一項に記載の窒化物半導体発光素子の作製方法。
【請求項15】
前記InGaN層は、0.03以上0.05以下の範囲にある第3のインジウム組成を有する、ことを特徴とする請求項14に記載の窒化物半導体発光素子の作製方法。
【請求項16】
前記第2のインジウム組成は、前記p型窒化ガリウム系半導体層の側から、前記n型窒化ガリウム系半導体層の側に向かって、増加している、ことを特徴とする請求項13に記載の窒化物半導体発光素子の作製方法。
【請求項17】
前記c面に対する前記主面の傾斜角は、63度以上80度以下の範囲にある、ことを特徴とする請求項11〜請求項16の何れか一項に記載の窒化物半導体発光素子の作製方法。
【請求項18】
前記第1のインジウム組成は、0.24以上0.40以下の範囲にある、ことを特徴とする請求項11〜請求項17の何れか一項に記載の窒化物半導体発光素子の作製方法。
【請求項19】
前記第2のインジウム組成は、0.01以上0.06以下の範囲にある、ことを特徴とする請求項13に記載の窒化物半導体発光素子の作製方法。
【請求項20】
前記バリア層の膜厚は、1.0nm以上3.5nm以下の範囲にある、ことを特徴とする請求項11〜請求項19の何れか一項に記載の窒化物半導体発光素子の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−98429(P2013−98429A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241523(P2011−241523)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】