説明

窒化物単結晶の製造方法

【課題】フラックス法により、基板上に生成する単結晶の膜厚を種結晶全面に対して均一化することが可能な窒化物単結晶の育成方法を提供する。
【解決手段】育成容器1の底壁部10に、相対的に高温の高温部10bと相対的に低温の低温部10aとを設け、融液2内に種結晶基板5を浸漬し、種結晶基板5が高温部10b上に位置するように固定した状態で育成を開始する。高温部10b付近から矢印6のように種結晶基板の育成面5a(あるいは5b)に添って上昇流が生じ、次いで気液界面の近くでは育成容器の外側へと向かって流れ、次いで矢印8のように育成容器の内壁面に添って下降流が生じる。このように、整流でかつ効率よく対流させることができるため、気液界面付近で窒素を融液に溶解させた後に、その融液を育成容器の全体にすみやかに供給することができ、種結晶基板の育成面にステップフロー成長がおこり、品質の良い平滑な窒化物単結晶が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物単結晶の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム系III-V窒化物は、優れた青色発光素子として注目を集めており、発光ダイオードや半導体レーザーダイオード用材料として実用化されている。特許文献1記載の方法では、フラックス法によってIII族窒化物単結晶を育成している。すなわち、均一に加熱したフラックス中に種結晶基板を配置し、単結晶を育成している。
【特許文献1】WO2006−030718 A1
【0003】
原料ガスと接する気液界面から原料液内部に向かう流れが生じるように、装置を揺動及び、坩堝内に撹拌羽根の設置を行なう等の手法を組み合わせて、窒化物半導体を育成する方法が開示されている(特許文献2)。
【特許文献2】特開2005−263622
【0004】
また、特許文献3、4記載の方法では、坩堝(育成容器)の底部に低温部を設け、坩堝底部上に種結晶基板を固定し、種結晶基板の周辺を低温にすることによって、固液界面近傍の過飽和度を上げて結晶の成長を促進する。
【特許文献3】WO96/15297
【特許文献4】特許第3087065号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本出願人は、特許文献5、6において、坩堝内の融液に種結晶基板を垂直方向に浸漬し、フラックス法によって種結晶基板の表面に窒化物単結晶を成長させることを開示した。
【特許文献5】特願2007−081476
【特許文献6】PCT/2007/053853
【0006】
特許文献5、6では、坩堝内の融液の下部を高温にすることにより、上方へと向かう熱対流を発生させ、融液の攪拌を行っている。しかし、坩堝内に種結晶基板を固定することにより、種結晶基板が一種の邪魔板となってしまい、種結晶基板表面上での融液対流が未だ不十分な領域のあることが分かった。このため、基板上で横方向成長して平滑な表面を保ちつつ成長している箇所が限定されていた。
【0007】
本発明の課題は、フラックス法によって窒化物単結晶を育成するのに際して、種結晶基板全面の表面近傍での融液の対流を促進し、品質の良い平滑な単結晶を生成させることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る製造方法は、育成容器内でフラックスおよび単結晶原料を含む融液に種結晶基板を浸漬し、育成容器の底壁部に高温部と低温部とを設け、高温部上に種結晶基板を固定し、種結晶基板の育成面上に窒化物単結晶を育成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明者は、育成容器内の融液の底部を加熱する場合の融液の流れを種々検討した。育成容器の底部から加熱を行った場合には、融液の底部から上部へと向かって熱対流が生じ、融液が攪拌される。しかし、底部にある無秩序な起点から融液が熱対流によって、上へと向かって上昇するので、その流れは複雑となる。このため、融液と種結晶基板との接触は乱雑になり、単結晶膜が再現よく層状かつ規則的に成長しにくいと考えられる。この結果、得られた単結晶膜に膜厚不均一や欠陥が生じやすくなったものと考えられた。
【0010】
本発明者は、この知見に基づき、図1(a)、(b)に模式的に示すように、育成容器1の底壁部10に、相対的に高温の高温部10bと相対的に低温の低温部10aとの両方を生じさせた。そして、融液2内に種結晶基板5を浸漬する際に、種結晶基板5が高温部10b上に位置するように固定した。
【0011】
これによって、高温部10b付近から矢印6のように種結晶基板の育成面5a(あるいは5b)に添って上昇流が生じ、次いで気液界面の近くでは育成容器の外側へと向かって流れ、次いで矢印8のように育成容器の内壁面に添って下降流が生ずる。この場合、上下に温度勾配を設けたのみの場合と比べて、基板表面上の流れの方向が定まっており、整流になりやすい。しかも、効率よく対流させることができるため、気液界面付近で窒素を融液に溶解させた後に、その融液を育成容器の全体にすみやかに供給することができる。この結果として、種結晶基板の育成面にステップフロー成長がおこり、品質の良い平滑な窒化物単結晶を形成できることを見いだし、本発明に到達した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明においては、育成容器の底壁部に高温部と低温部とを設ける。底壁部の高温部の温度と低温部の温度とは、以下のようにして測定する。すなわち、育成容器1の底壁部10に接触するように熱電対を設置し、この熱電対が示す温度を測定する。
【0013】
育成容器の底壁部の高温部10bにおける温度と低温部10aにおける温度との差は、本発明の効果という観点からは、3℃以上であることが好ましく、10℃以上であることが更に好ましい。また、この温度差が大きくなりすぎると、熱対流によって乱流が発生しやすくなり、窒化物単結晶の品質が低下する可能性があるので、50℃以下とすることが好ましく、30℃以下とすることが更に好ましい。
【0014】
対流促進という観点からは、融液2の気液界面2bにおける温度と底壁部10bにおける温度との差を0.5℃/cm以上とすることが更に好ましく、1℃/cm以上とすることが一層好ましい。また、上下方向の熱対流に起因する乱流の発生を抑制するという観点、かつ、気液界面の温度が低いことによる気液界面付近での雑晶発生を防止するという観点からは、融液2の気液界面2aにおける温度と高温部10bの温度との差は、10℃/cm以下とすることが好ましく、5℃/cm℃以下とすることが更に好ましい。
【0015】
本発明において、育成容器の底壁部に相対的に高温な高温部を形成する方法は特に限定されない。例えば以下の方法を例示できる。
(1) 育成容器の下に支持板を設け、この支持板が高熱伝導部と低熱伝導部とを備えている。高熱伝導部上に高温部を設ける。
(2) 育成容器の下に支持板を設け、底壁部が肉厚部と肉薄部とを備えている。肉厚部上が高温部となる。
(3) 育成容器の下に熱制御板を設け、この熱制御板に貫通孔を形成する。貫通孔上に底壁部の高温部を設ける。
【0016】
図1(a)は、本発明の一実施形態によって単結晶を育成している状態を模式的に示す断面図であり、(b)は、種結晶基板5、支持板9、高温部9b、低温部9aの平面的な位置関係を示す模式図である。
【0017】
本例では、育成容器の下に支持板を設け、この支持板が高熱伝導部と低熱伝導部とを備えている。本例では、育成容器1を柱状となっているが形は限定しない。例えば、円柱状である。育成容器1内に融液2が収容されており、融液2内に種結晶基板5が浸漬されている。育成容器1は、側壁部4と底壁部10とからなる。底壁部10の下には、支持板9が設置されており、底壁部10と支持板9とは接触している。
【0018】
支持板9の下の空間温度は、育成容器1の周辺温度よりも高くなっており、従って矢印Hのように熱が支持板9に向かって上昇してくる。ここで、支持板9には、高熱伝導部9bと低熱伝導部9aとを設ける。高熱伝導部9bとは、支持板中で相対的に熱伝導率が高い材質からなる部分であり、低熱伝導部9aとは、支持板中で相対的に熱伝導率が低い材質からなる部分である。この結果、低熱伝導部9a上には、底壁部9の低温部10aが位置し、高熱伝導部9b上には、底壁部9の高温部10bが位置する。
【0019】
そして、高温部10b上に種結晶基板5を固定する。すると、高温部10bから上方へと矢印6のように対流が生ずる。この流れは比較的整流である。そして、気液界面の付近を外側へと向かって流れ、側壁部4の近くを下方へと向かって矢印8のように下降する。
【0020】
この場合、単純に上下に温度勾配を設けた場合と比べて、起点が決まるため、基板表面上の流れの方向が定まっており、整流になりやすい。しかも、効率よく対流させることができるため、気液界面付近で窒素を融液に溶解させた後に、その融液を育成容器の全体にすみやかに供給することができる。この結果として、種結晶基板の育成面においてステップ成長が起こりやすく、窒化物単結晶の広面積の膜厚を再現よく均一化しやすい。
【0021】
本発明の観点からは、低熱伝導部9aを構成する材質の熱伝導率と、高熱伝導部9bを構成する材質の熱伝導率との差は、10W・m−1・K−1以上とすることが好ましく、30W・m−1・K−1以上とすることが更に好ましい。また、低熱伝導部9aを構成する材質の熱伝導率と、高熱伝導部9bを構成する材質の熱伝導率との差は、500W・m−1・K−1以下とすることが好ましく、350W・m−1・K−1以下とすることが更に好ましい。
【0022】
本発明においては、育成容器の底壁部の高温部上に種結晶基板を設置する。この際、種結晶基板の全体が高温部上空間E内に存在していることが好ましい。種結晶基板の全体が高温部上空間E内に存在していることは必須ではないが、種結晶基板の育成面の面積のうち30%以上が空間E内に位置していることが好ましい。
【0023】
図2は、他の実施形態において育成容器内で種結晶基板上に単結晶を育成している状態を模式的に示す斜視図であり、図3は、支持板9A、育成容器2、高熱伝導部9b、低熱伝導部9a、種結晶基板5の平面的位置関係を示す図である。
【0024】
本例では、図1の例と同様に、育成容器1の下に支持板9Aを設け、この支持板9Aが高熱伝導部9bと低熱伝導部9aとを備えている。育成容器1内に融液2が収容されており、融液2内に種結晶基板5が浸漬されている。育成容器1は、側壁部4と底壁部10とからなる。底壁部10の下には、支持板9Aが設置されており、底壁部10と支持板9Aとは接触している。
【0025】
支持板9Aの下の空間温度は、育成容器1の周辺温度よりも高くなっており、熱が支持板9Aに向かって上昇してくる。ここで、支持板9Aには、高熱伝導部9bと低熱伝導部10aとを設ける。高熱伝導部9bとは、支持板中で相対的に熱伝導率が高い材質からなる部分であり、低熱伝導部9aとは、支持板中で相対的に熱伝導率が低い材質からなる部分である。この結果、低熱伝導部9a上には、底壁部10の低温部10aが位置し、高熱伝導部9b上には、底壁部10の高温部10bが位置する。本例では、高熱伝導部9bが、支持板9Aのほぼ対角線上に沿って延びている。
【0026】
そして、高温部10b上に種結晶基板5を固定する。すると、高温部10bから上方へと矢印6のように対流が生ずる。この流れは比較的整流である。そして、気液界面の付近を外側へと向かって流れ、側壁部4の近くを下方へと向かって矢印8のように流れる。
【0027】
図4は、本発明の一実施形態によって単結晶を育成している状態を模式的に示す断面図である。本例では、育成容器1Aの下に支持板9Bを設け、底壁部10が肉厚部10bと肉薄部10aとを備えている。
【0028】
育成容器1内に融液2が収容されており、融液2内に種結晶基板5が浸漬されている。育成容器1は、側壁部4と底壁部10とからなる。底壁部10の下には、支持板9Bが設置されており、底壁部10と支持板9Bとは接触している。支持板9Bは本例では単一材料からなっていてよい。
【0029】
支持板9Bの下の空間温度は、育成容器1の周辺温度よりも高くなっており、従って矢印Hのように熱が支持板9Bに向かって上昇してくる。ここで、底壁部10の肉厚部10bは支持板9Bに接触している。肉薄部10aは、支持板9Bに接触しておらず、両者の間には空隙12が形成されている。支持板9Bの下から上昇してきた熱Hは、肉厚部10bを優先的に熱伝導する。従って、肉厚部10bは高温部となり、肉薄部10aは低温部となる。
【0030】
そして、高温部10b上に種結晶基板5を固定する。すると、高温部10bから上方へと不印6のように対流が生ずる。この流れは比較的整流である。そして、気液界面の付近を外側へと向かって流れ、側壁部4の近くを下方へと向かって矢印8のように流れる。
【0031】
図5は、本発明の一実施形態によって単結晶を育成している状態を模式的に示す断面図である。本例では、育成容器1の下に熱制御板9Cを設け、この熱制御板9Cに貫通孔18を形成する。貫通孔18上に底壁部10の高温部10bを設ける。
【0032】
育成容器1内に融液2が収容されており、融液2内に種結晶基板5が浸漬されている。育成容器1は、側壁部4と底壁部10とからなる。底壁部10と熱制御板9Cとは、接触していてよく、接触していなくともよい。熱制御板9Cは本例では単一材料からなっていてよい。
【0033】
熱制御板9Cの下の空間温度は、育成容器1の周辺温度よりも高くなっており、従って矢印Hのように熱が板9Cに向かって上昇してくる。ここで、貫通孔18では熱が優先的に通過し、底壁部10に向かって伝達されやすい。この結果、貫通孔18上は高温部10bとなり、その他は低温部10aとなる。
【0034】
そして、高温部10b上に種結晶基板5を固定する。すると、高温部10bから上方へと矢印6のように対流が生ずる。この流れは比較的整流である。そして、気液界面の付近を外側へと向かって流れ、側壁部4の近くを下方へと向かって矢印8のように流れる。
【0035】
本発明では、図6に示すように、種結晶基板を傾斜させた状態で設置してもよい。好適な実施形態においては、融液の気液界面2aと種結晶基板5の育成面5aとがなす角度θを30°以上、150°以下とする。好ましくは、θを60°以上、120°以下とする。特に好ましくは、融液の気液界面と種結晶の成長面とをほぼ垂直とする。これによって、雑晶が一層単結晶に対して付着しにくくなる。
【0036】
好適な実施形態においては、図7に模式的に示すように、複数の発熱体26A、26B、26C、26D、26E、26F、26Gを上下方向、水平方向に設置し、発熱体ごとに発熱量を独立して制御する。つまり、上下方向、水平方向へと向かって多ゾーン制御を行なう。各発熱体を発熱させ、気体タンク21、圧力制御装置22、配管23を通して、雰囲気制御用容器14内の育成容器1へと窒素含有雰囲気を流し、加熱および加圧すると、育成容器内で混合原料がすべて溶解し、融液を生成する。
【0037】
本発明において、発熱体の材質は特に限定されないが、鉄-クロム-アルミ系、ニッケル-クロム系などの合金発熱体、白金、モリブデン、タンタル、タングステンなどの高融点金属発熱体、炭化珪素、モリブデンシリサイト、カーボンなどの非金属発熱体を例示できる。
【0038】
本発明の単結晶育成装置において、原料混合物を加熱して融液を生成させるための装置は特に限定されない。この装置は熱間等方圧プレス装置が好ましいが、それ以外の雰囲気加圧型加熱炉であってもよい。
【0039】
融液を生成するためのフラックスは特に限定されないが、アルカリ金属およびアルカリ土類金属からなる群より選ばれた一種以上の金属またはその合金が好ましい。この金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムが例示でき、リチウム、ナトリウム、カルシウムが特に好ましく、ナトリウムが最も好ましい。
【0040】
また、上記アルカリ金属およびアルカリ土類金属からなる群より選ばれた一種以上の金属と合金を形成する物質としては、以下の金属を例示できる。
ガリウム、アルミニウム、インジウム、ホウ素、亜鉛、ケイ素、錫、アンチモン、ビスマス。
【0041】
本発明の育成方法によって、例えば以下の単結晶を好適に育成できる。
GaN、AlN、InN、これらの混晶(AlGaInN)、BN。
【0042】
単結晶育成工程における加熱温度、圧力は、単結晶の種類によって選択するので特に限定されない。加熱温度は例えば800〜1500℃とすることができる。好ましくは800〜1200℃であり、更に好ましくは800〜1100℃である。圧力も特に限定されないが、圧力は1MPa以上であることが好ましく、2MPa以上であることが更に好ましい。圧力の上限は特に規定しないが、例えば200MPa以下とすることができ、100MPa以下が好ましい。
【0043】
反応を行なうための育成容器の材質は特に限定されず、目的とする加熱および加圧条件において耐久性のある材料であればよい。こうした材料としては、金属タンタル、タングステン、モリブデンなどの高融点金属、アルミナ、サファイア、イットリアなどの酸化物、窒化アルミニウム、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化ホウ素などの窒化物セラミックス、タングステンカーバイド、タンタルカーバイドなどの高融点金属の炭化物、p−BN(パイロリティックBN)、p−Gr(パイロリティックグラファイト)などの熱分解生成体が挙げられる。
【0044】
以下、更に具体的な単結晶およびその育成手順について例示する。
(窒化ガリウム単結晶の育成例)
本発明を利用し、少なくともナトリウム金属を含むフラックスを使用して窒化ガリウム単結晶を育成できる。このフラックスには、ガリウム原料物質を溶解させる。ガリウム原料物質としては、ガリウム単体金属、ガリウム合金、ガリウム化合物を適用できるが、ガリウム単体金属が取扱いの上からも好適である。
【0045】
このフラックスには、ナトリウム以外の金属、例えばリチウムを含有させることができる。ガリウム原料物質とナトリウムなどのフラックス原料物質との使用割合は、適宜であってよいが、一般的には、ナトリウム過剰量を用いることが考慮される。もちろん、このことは限定的ではない。
【0046】
この実施形態においては、窒素ガスを含む混合ガスからなる雰囲気下で、全圧1MPa以上、200MPa以下の圧力下で窒化ガリウム単結晶を育成する。全圧を1MPa以上とすることによって、例えば800℃以上の高温領域において、更に好ましくは900℃以上の高温領域において、良質の窒化ガリウム単結晶を育成可能であった。
【0047】
好適な実施形態においては、育成時雰囲気中の窒素分圧を1MPa以上、200MPa以下とする。この窒素分圧を1MPa以上とすることによって、例えば800℃以上の高温領域において、フラックス中への窒素の溶解を促進し、良質の窒化ガリウム単結晶を育成可能であった。この観点からは、雰囲気の窒素分圧を2MPa以上とすることが更に好ましい。また、窒素分圧は実用的には100MPa以下とすることが好ましい。
【0048】
雰囲気中の窒素以外のガスは限定されないが、不活性ガスが好ましく、アルゴン、ヘリウム、ネオンが特に好ましい。窒素以外のガスの分圧は、全圧から窒素ガス分圧を除いた値である。
好適な実施形態においては、窒化ガリウム単結晶の育成温度は、800℃以上であり、800℃以上とすることが好ましく、1000℃以上とすることが更に好ましい。このような高温領域においても良質な窒化ガリウム単結晶が育成可能である。また、高温・高圧での育成により、生産性を向上させ得る可能性がある。
【0049】
窒化ガリウム単結晶の育成温度の上限は特にないが、育成温度が高すぎると結晶が成長しにくくなるので、1500℃以下とすることが好ましく、この観点からは、1200℃以下とすることが更に好ましい。
【0050】
窒化ガリウム結晶をエピタキシャル成長させるための育成用基板の材質は限定されないが、サファイア、AlNテンプレート、GaNテンプレート、シリコン単結晶、SiC単結晶、MgO単結晶、スピネル(MgAl)、LiAlO、LiGaO2、LaAlO,LaGaO,NdGaO等のペロブスカイト型複合酸化物を例示できる。また組成式〔A1−y(Sr1−xBa〕〔(Al1−zGa1−u・D〕O(Aは、希土類元素である;Dは、ニオブおよびタンタルからなる群より選ばれた一種以上の元素である;y=0.3〜0.98;x=0〜1;z=0〜1;u=0.15〜0.49;x+z=0.1〜2)の立方晶系のペロブスカイト構造複合酸化物も使用できる。また、SCAM(ScAlMgO)も使用できる。
【0051】
(AlN単結晶の育成例)
本発明は、少なくともアルミニウムとアルカリ土類を含むフラックスを含む融液を特定の条件下で窒素含有雰囲気中で加圧することによって、AlN単結晶を育成する場合にも有効であることが確認できた。
【実施例】
【0052】
(予備実験)
図2、図3に示すような育成装置を作成し、図7に示すような装置内に設置した。育成容器の寸法は35mm×40mm×70mmとした。種結晶基板の寸法はφ2インチとした。育成容器内に水を収容し、トレーサーとしてのポリエステルを添加した。下部から育成容器を加熱することにより、水内に対流を発生させた。レーザー光を側壁から照射することによって対流を可視化させたところ、図2、図3に示すような所望の対流が観測された。
【0053】
(実施例1)
図2、図3を参照しつつ説明した前記方法に従い、Naフラックス法によりGaN単結晶を育成した。具体的には、金属Na74 g、金属Ga50 g、添加物として炭素100mgを真空グローブボックス内で秤量し、内径幅16×奥行き55mm×高さ75mmのアルミナルツボ1に入れた。種結晶基板5として、直径2インチのGaNテンプレート基板を用い、ルツボの対角線上に略垂直〜水平から80度くらいの角度に立てかけた。ルツボ1を、図7に示す容器14内に収容した。このとき、図2、3のように、高温部9bの材質を窒化アルミニウムセラミックスとし、低温部9aの材質をアルミナセラミックスとした。窒化アルミニウムセラミックスの熱伝導率は150W・m−1・K−1であり、アルミナセラミックスの熱伝導率は32W・m−1・K−1である。
【0054】
次いで、窒素ガスにて4.5MPaに加圧し、炉内を850 ℃まで45分で昇温し、850°Cで200時間保持し結晶育成を行った。この期間中、容器の底部は880℃になるように、別系統のヒーターで加熱制御した。その後室温まで冷却した。エタノールにてフラックスを処理し、結晶を取り出したところ、種基板上に厚さ約1mmのGaN結晶が成長していた。結晶の表面は種基板上で全面的に平滑であり、ステップが観察された。不純物帯発光が少なく、結晶の色はほぼ無色透明であった。
【0055】
(比較例1)
実施例1と同様にGaN単結晶を育成した。ただし、ルツボ1の下に支持板9Aを設置しなかった。この結果、種結晶基板上に約1mmの結晶が成長したが、結晶の表面は平滑であったが、三次元成長している部分が所々に存在した。また、その部分では結晶は茶色〜黒色に着色しており、不純物帯発光も強く観察された。これは、種結晶基板5上での融液の対流が不十分であったことを示唆する。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】(a)は、本発明の一実施形態において単結晶を育成している状態を模式的に示す断面図であり、(b)は、種結晶基板5、支持板9、高熱伝導部9bおよび低熱伝導部9aの平面的位置関係を模式的に示す図である。
【図2】他の実施形態において単結晶を育成している状態を模式的に示す斜視図である。
【図3】図2において、育成容器1、種結晶基板5、高熱伝導部9bおよび低熱伝導部9aの平面的位置関係を模式的に示す図である。
【図4】更に他の実施形態において単結晶を育成している状態を模式的に示す断面図である。
【図5】更に他の実施形態において単結晶を育成している状態を模式的に示す断面図である。
【図6】種結晶を縦に置いたときの溶質対流を示す模式図である。
【図7】本発明で使用可能な育成装置の模式図である。
【符号の説明】
【0057】
1、1A 育成容器 2 融液 2a 気液界面 2b 融液の底部 4 側壁部 5 種結晶基板 5a 育成面 6、6A、6B、6C 高温部からの上昇流 8 下降流 9、9A,9B、9C 支持板 9a 低熱伝導部 9b 高熱伝導部 10 底壁部 10a 低温部 10b 高温部 12 空隙 E 高温部上の領域 H 熱の流れ θ 育成面と気液界面とがなす角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
育成容器内でフラックスおよび単結晶原料を含む融液に種結晶基板を浸漬し、前記育成容器の底壁部に高温部と低温部とを設け、前記高温部上に前記種結晶基板を固定し、前記種結晶基板の育成面上に窒化物単結晶を育成することを特徴とする、窒化物単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記育成容器の下に支持板を設け、この支持板が高熱伝導部と低熱伝導部とを備えており、前記高熱伝導部上に前記底壁部の前記高温部が設けられていることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記育成容器の下に支持板を設け、前記底壁部が肉厚部と肉薄部とを備えており、前記肉厚部が前記高温部をなしていることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記育成容器の下に熱制御板を設け、この熱制御板に貫通孔が形成されており、この貫通孔上に前記育成容器の前記高温部が設けられていることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記融液の気液界面と前記種結晶基板の育成面とがなす角度を30°以上、150°以下とすることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つの請求項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−227539(P2009−227539A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−77592(P2008−77592)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】