説明

窒化物系化合物半導体およびその製造方法

【課題】高い静電破壊耐性を示す素子を与える窒化物系化合物半導体の製造方法を提供する。
【解決手段】〔1〕一般式InxGayAlzN(ただし、x+y+z=1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1)で表される窒化物系化合物半導体の製造方法であって、p型コンタクト層とn型コンタクト層との間に、550〜850℃の範囲で50〜500nmのノンドープの一般式InaGabAlcN(ただし、a+b+c=1、0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦1)で表される窒化物系化合物半導体(A)を設けることを特徴とする窒化物系化合物半導体の製造方法。〔2〕上記窒化物系化合物半導体(A)とn型コンタクト層との間に、900〜1200℃の範囲で20〜600nmのノンドープの一般式IndGaeAlfN(ただし、d+e+f=1、0≦d≦1、0≦e≦1、0≦f≦1)で表される窒化物系化合物半導体(B)を設けることを特徴とする〔1〕記載の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般式InxGayAlzN(ただし、x+y+z=1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1)で表される窒化物系化合物半導体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、一般式InxGayAlzN(ただし、x+y+z=1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1)で表される窒化物系化合物半導体を用いた発光素子は、青色、緑色、または白色発光装置の光源として組み込まれ、商品化されている。この種の発光素子は、窒化物系化合物半導体層をサファイア基板等の基板上に形成したものである。
【0003】
以上のように構成されている発光素子を組み込んだ発光装置を製造する過程や、発光装置を動作させている状況において、静電気によって窒化物系化合物半導体に瞬間的に大電流が流れるために、これが破壊されるという問題が生じている。
【0004】
この問題を解決するため、半導体発光素子を構成する窒化物系化合物半導体において、多重量子井戸からなる発光層の上にp型多層膜を積層し、p型多層膜とp型コンタクト層との間に、1050℃でノンドープのp型層を設ける方法(例えば、特許文献1)、n型多層膜と多重量子井戸とp型多層膜を積層する方法(例えば、特許文献2)、発光層とn側コンタクト層との間にn側コンタクト層よりも電子濃度の低いn型層を1150℃で設ける方法(例えば、特許文献3)等が提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開2001−148507号公報
【特許文献2】特開2000−244072号公報
【特許文献3】特開平9−92880号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記1050℃でノンドープのp型層を設ける方法、n型多層膜と多重量子井戸とp型多層膜を積層する方法等においては、静電破壊耐性が十分満足し得るものではなく、また電子濃度の低いn型層を1150℃で設ける方法では、正方向の静電耐圧を改善できても、逆方向の静電耐圧の改善は不十分であるという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、従来技術における上述の問題点を解決する点にあり、高い静電破壊耐性を示す素子を与える窒化物系化合物半導体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、p型コンタクト層とn型コンタクト層との間に特定の窒化物半導体層を設けることにより、静電耐圧が飛躍的に向上することを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち本発明は、[1]一般式InxGayAlzN(ただし、x+y+z=1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1)で表される窒化物系化合物半導体の製造方法であって、p型コンタクト層とn型コンタクト層との間に、550〜850℃の範囲で50〜500nmのノンドープの一般式InaGabAlcN(ただし、a+b+c=1、0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦1)で表される窒化物系化合物半導体(A)を設けることを特徴とする窒化物系化合物半導体の製造方法を提供するものである。
【0010】
また本発明は、[2]上記窒化物系化合物半導体(A)とn型コンタクト層との間に、900〜1200℃の範囲で20〜600nmのノンドープの一般式IndGaeAlfN(ただし、d+e+f=1、0≦d≦1、0≦e≦1、0≦f≦1)で表される窒化物系化合物半導体(B)を設けることを特徴とする上記[1]の製造方法、
【0011】
さらには、上記[1]、[2]の製造方法によって得られた窒化物系化合物半導体、及び該窒化物系化合物半導体を有する発光素子を提供するものである。
ただし、ノンドープとは本発明においては、意図的に不純物を添加しないことを意味する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、静電気を原因とする異常な高電圧・高電流パルスが窒化物系化合物半導体に印加されても、窒化物系化合物半導体の静電破壊を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態の一例について図面を参照して説明する。
【0014】
本発明の対象となる窒化物系化合物半導体は、一般式InxGayAlzN(ただし、x+y+z=1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1)で表される化合物半導体である。
【0015】
該窒化物系化合物半導体を成長させるための基板としては、窒化物系化合物半導体基板、サファイア基板、SiC基板、Si基板、ZrB2基板等を好適に用いることができる。 ここで、窒化物系化合物半導体基板以外のこれら基板上に直接該窒化物系化合物半導体を成長した場合、格子不整合のため、十分高品質な結晶が得られない場合がある。このような場合、バッファ層としてGaN、AlN、SiC等の層を先ず基板上に成長させた後、さらに該窒化物系化合物半導体を成長させて成る2段階成長法によって、高品質な結晶が得られることが公知である。
【0016】
図1は、本発明を適用した窒化物系化合物半導体の構造を模式的に示す断面図である。
該窒化物系化合物半導体の製造方法としては、種々の公知方法が挙げられるが、有機金属気相成長法(MOVPE法)を用いることが好ましい。以下、MOVPE法による製造方法を説明する。
サファイア基板1の上に、GaNバッファ層2を形成し、さらに該GaNバッファ層上にn型コンタクト層3を形成する。GaNバッファ層2の厚さは10〜100nmとすることが望ましい。また、バッファ層は、AlNバッファ層も用いることができ、一般式GayAl1-yN(ただし、0<y<1)で表されるAlNとGaNとの混晶も用いることができる。
【0017】
n型コンタクト層3は発光素子の動作電圧を上昇させないためにn型キャリア濃度1×1018cm-3以上とし、かつ、1×1021cm-3以下とすることが望ましい。このようなn型コンタクト層は、成長温度900℃〜1200℃でのInxGayAlzN(ただし、x+y+z=1、0≦x<1、0<y≦1、0≦z<1)結晶成長時にn型ドーパントガス、あるいは有機金属原料を適当量混入させる公知方法により容易に得られる。n型ドーパント原料としては、シラン、ジシラン、ゲルマン、テトラメチルゲルマニウムなどが好適である。また、n型キャリア濃度が1×1021cm-3を超えると結晶性が悪化し、発光素子特性に悪影響を及ぼすため好ましくない。
またIn、Alの混晶比が高いと特に低温では結晶品質が低下し、キャリア濃度が高くなるため、In組成は好ましくは5%以下、より好ましくは1%以下である。また、Al組成は好ましくは5%以下、より好ましくは1%以下である。n型コンタクト層3はGaNであることが最も好ましい。
【0018】
前記n型コンタクト層3上に、一般式InaGabAlcN(ただし、a+b+c=1、0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦1)で表されるノンドープの窒化物系化合物半導体4を設ける。該半導体層4は、550〜850℃の範囲で成長させる。好ましくは700〜800℃の範囲で成長させる。例えば、成長温度775℃にし、アンモニアガスを5族原料、トリエチルガリウムを3族原料とし、結晶成長させる。このとき、n型ドーパントガスおよびp型ドーパントガスは意図的に混入させず、ノンドープ条件とすることが重要である。このような結晶成長条件によって形成される窒化物系化合物半導体層4のn型キャリア濃度は1×1017〜1×1018cm-3とすることができる。
窒化物系化合物半導体4は、In、Alの混晶比が高いと特に低温では結晶品質が低下し、キャリア濃度が高くなるため、In組成は好ましくは5%以下、より好ましくは1%以下である。また、Al組成は好ましくは5%以下、より好ましくは1%以下である。最も好ましくはGaNである。
【0019】
また、窒化物系化合物半導体層4の膜厚は、薄すぎると静電耐圧の改善効果が低下する傾向にあり、厚すぎると発光素子動作時のリーク電流が増加するなどの素子特性に悪影響をおよぼすことがある。従って、該窒化物半導体層4の膜厚は、通常50〜500nmの範囲にする。好ましくは、70〜250nmの範囲である。
なお、窒化物系化合物半導体層4は、ここでは以下に示すとおり、発光層である井戸層の下に接するバリア層を兼ねているが、n型コンタクト層とバリア層の間に設けても良い。また井戸層の上に接するバリア層を兼ねても良いし、p型コンタクト層とバリア層の間に設けても良い。
【0020】
また、n型コンタクト層3と窒化物半導体層4との間にIndGaeAlfN(ただし、d+e+f=1、0≦d≦1、0≦e≦1、0≦f≦1)で表されるノンドープの窒化物系化合物半導体層7を設けても良い。これにより一層良好な静電耐圧特性と良好なLED発光特性と電気特性を得ることができるために好ましい。該半導体層7は、900〜1200℃の範囲で成長させる。好ましくは、1000〜1150℃の範囲で成長させる。例えば、成長温度1100℃、アンモニアガスを5族原料、トリメチルガリウムを3族原料とし、結晶成長する。このとき、n型ドーパントガスおよびp型ドーパントガスは意図的に混入させず、ノンドープ条件とする。このような結晶成長条件によって形成される半導体層7のn型キャリア濃度は5×1016cm-3未満とすることができる。好ましくは1×1016cm-3以下である。
ただし、このような低キャリア濃度層が厚すぎると発光素子の直列抵抗成分となるので、半導体層7の膜厚は600nm以下にすることが好ましい。より好ましくは、20〜300nmである。さらに好ましくは、50〜300nmである。
窒化物系化合物半導体7は、In、Alの混晶比が高いと特に低温では結晶品質が低下し、キャリア濃度が高くなるため、In組成は好ましくは5%以下、より好ましくは1%以下である。また、Al組成は好ましくは5%以下、より好ましくは1%以下である。最も好ましくはGaNである。
【0021】
次に、前記窒化物半導体層4上に発光層5を形成する。図1に示す発光層5は、障壁層であるGaN層の5A〜5Eと、井戸層であるIngGahN(ただし、g+h=1、0<g<1、0<h<1)層の5F〜5Jからなる多重量子井戸構造としている。図1では井戸層を5層にしているが、少なくとも1つの井戸層があればよい。ここで、GaN層5A〜5Eおよび、IngGahN層の5F〜5Jの膜厚、混晶比は目的とする発光素子の特性にあわせて、適宜決めることができる。例えば、発光波長470nm程度の青色発光素子を目的とするならば、GaN層を3〜30nm、IngGahN層を1〜5nm、平均In組成は、5〜40%程度にすればよい。
【0022】
前記発光層5の上にp型コンタクト層6を形成する。p型コンタクト層6は発光素子の動作電圧を上昇させないためにP型キャリア濃度5×1015cm-3以上とすることが好ましい。より好ましくは、1×1016〜5×1019cm-3である。このようなp型コンタクト層は、成長温度800℃〜1100℃でのInaGabAlcN(ただし、a+b+c=1、0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦1)結晶成長時にドーパント用原料ガスを適当量、混入させて結晶成長した後、熱処理をする等の公知方法により容易に得られる。
p型コンタクト層6は、Alの混晶比が高いと接触抵抗が高くなる傾向にあるので、Al組成は通常5%以下、好ましくは1%以下である。より好ましくはGaAlN、GaN、最も好ましくはGaNである。
【0023】
MOVPE法を用いて上記のような各層を成長させる場合は、以下のような原料から適宜選択し、これを用いることができる。
【0024】
3族のガリウム原料としては、例えば、トリメチルガリウム(TMG)、トリエチルガリウム(TEG)等の一般式R123Ga(ここで、R1、R2、R3は低級アルキル基を示す。)で表されるトリアルキルガリウムが挙げられる。
【0025】
アルミニウム原料としては、トリメチルアルミニウム(TMA)、トリエチルアルミニウム(TEA)、トリイソブチルアルミニウム等の一般式R123Al(ここで、R1、R2、R3は低級アルキル基を示す。)で表されるトリアルキルアルミニウムが挙げられる。
【0026】
インジウム原料としては、トリメチルインジウム(TMI)、トリエチルインジウム等の一般式R123In(ここで、R1、R2、R3は低級アルキル基を示す。)で表されるトリアルキルインジウム、ジエチルインジウムクロライドなどのトリアルキルインジウムから1ないし3つのアルキル基をハロゲン原子に交換したもの、インジウムクロライドなど一般式InX(Xはハロゲン原子)で表されるハロゲン化インジウム等があげられる。
【0027】
また、5族原料としては、例えばアンモニア、ヒドラジン、メチルヒドラジン、1,1−ジメチルヒドラジン、1,2−ジメチルヒドラジン、t−ブチルアミン、エチレンジアミン、などがあげられる。これらは単独で、または任意の組み合わせで混合して用いることができる。これらの原料のうち、アンモニアとヒドラジンは分子中に炭素原子を含まないため、半導体中への炭素汚染の影響が少なく好適である。
【0028】
p型ドーパントとしては、例えばMg、Zn、Cd、Ca、Be等があげられる。なかでもMg、Caが好ましく使用される。p型ドーパントであるMgの原料としては、例えばビスシクロペンタジエニルマグネシウム[(C552Mg]、ビスメチルシクロペンタジエニルマグネシウム[(C54CH32Mg]、ビスエチルシクロペンタジエニルマグネシウム[(C54252Mg]などを使用することができる。Caの原料としては、ビスシクロペンタジエニルカルシウム((C552 Ca)およびその誘導体、例えば、ビスメチルシクロペンタジエニルカルシウム((C54 CH32 Ca)、ビスエチルシクロペンタジエニルカルシウム((C54252 Ca)、ビスパーフロロシクロペンタジエニルカルシウム((C552 Ca)、または、ジ−1−ナフタレニルカルシウムおよびその誘導体、または、カルシウムアセチリドおよびその誘導体、例えば、ビス(4,4−ジフロロー3−ブテン−1−イニル)−カルシウム、ビスフェニルエチニルカルシウムなどを使用することができる。これらの原料を単独あるいは、複数混合して使用してもよい。
【0029】
なお、本実施形態ではMOVPE法を用いた場合を説明したが、本発明はこの方法に限定されるものではなく、分子線エピタキシーなど他の公知の3−5族化合物半導体結晶成長方法も用いることができる。
本発明の発光素子は、前記の製造方法によって得られた窒化物系化合物半導体を有することを特徴とする。
例えば、図3は、本発明を適用した窒化物系化合物半導体を有する、発光素子の実施の形態の一例を示す断面図である。該窒化物系化合物半導体に公知の方法で、p型コンタクト層上にp電極を形成し、n型コンタクト層上にn電極を形成し、チップ化加工を施す。
第1リードフレーム34の内端に一体形成された台座部上に、チップ化加工後の該窒化物系化合物半導体が固定されている。第1リードフレーム34に対して第2リードフレーム36が略平行となるように設けられており、発光素子32のn電極が第1接続導体33によって台座部に電気的に接続され、p電極が第2接続導体35によって第2リードフレーム36に電気的に接続されている。そして、第1リードフレーム34及び第2リードフレーム36の内端部は透明な熱硬化性樹脂31によって封されている。したがって、第1リードフレームと第2リードフレームとの間に電圧を印加することにより該発光素子において発光が得られ、該発光素子からの光は透明な熱硬化性樹脂31を通って外部に放出される。
【実施例】
【0030】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)
基板としてサファイアのC面を鏡面研磨したものを用いた。結晶成長方法はMOVPE法により実施し、低温成長GaNをバッファ層として用いる2段階成長法を用いた。成長炉内の圧力を1気圧とし、基板温度を550℃、キャリアガスを水素とし、TMG及びアンモニアを供給して、厚みが約50nmのGaNバッファ層を成長した。
次に、基板の温度を1120℃にしたのち、水素キャリアガス、TMG、シラン及びアンモニアを供給して、厚さが約4μmのSiをドープしたn型GaN層を成長し、さらにシランの供給のみ停止し、本発明の窒化物半導体層BとしてのノンドープのGaN層を300nm成長した。
【0032】
次いで、基板温度を780℃、成長炉内の圧力を50kPa、キャリアガスを窒素とし、TEGとアンモニアをそれぞれ、610sccm、40slm供給して、本発明の窒化物半導体層AとしてのノンドープのGaN層を100nm成長した。
【0033】
次いで、TEG、TMI、アンモニアをそれぞれ、610sccm、1160sccm、40slm、供給して、In0.12Ga0.88N層を3nm成長した。次いでTEG、アンモニアをそれぞれ、610sccm、40slm、供給して、ノンドープGaN層を15nm成長した。
このIn0.12Ga0.88N井戸層(3nm)とノンドープGaN障壁層(15nm)とを成長させる操作をさらに4回繰り返したが、最上部のノンドープGaN障壁層の膜厚のみ18nmとした。
【0034】
次いで、基板温度を940℃にしたのち、TEG、TMA、ビスエチルシクロペンタジエニルマグネシウム(以下EtCp2Mgと略記する)、アンモニアをそれぞれ600sccm、200sccm、3000sccm、40slm、供給して、保護層であるMgドープAl0.1Ga0.9N層を30nm成長した。さらに基板温度を1000℃にしたのち、EtCp2Mg、TMG、アンモニアを供給して、Mgをドープしたp型GaN層を150nm成長してp層とした。
以上により作製した窒化物系化合物半導体試料を反応炉から取り出したのち、窒素中で700℃、20分アニール処理を施し、最上層であるMgをドープしたGaN層を低抵抗のp型層にした。
【0035】
こうして得た試料に常法により電極を形成し、発光ダイオード(以下LEDと略記する。)とした。p電極としてNi−Au合金、n電極としてAlを用いた。このLEDに順方向に20mAの電流を流したところ、明瞭な青色発光を示した。このLEDの静電気放電に対する耐性を以下のように試験した。
【0036】
図2は、LEDの静電気放電に対する耐性を試験するための回路図である。ここでVoは可変直流電源、Rp、Rは抵抗器、Cはコンデンサ、Swは切替スイッチである。試験は次のようにマシンモデル試験をおこなった。マシンモデル試験は、静電気帯電した装置または治具などから、LEDに静電気放電するモデルであり、R=0Ω、C=200pFとする条件である。図2中の可変直流電源Voの電圧をある値に設定し、切替スイッチSwを実線で示されるように切り替えて抵抗器Rpを介してコンデンサCに充電した後、切替スイッチSwを点線で示されるように切り替えて、LEDに対して放電する。これを3回繰り返した後、発光素子の電圧−電流特性を評価した。発光素子の電圧−電流特性が変化することで素子が破壊されたか否かの判別が可能である。以下、測定全素子中の50%が破壊したときのVo値を静電耐圧値とした。本実施例におけるLEDの静電耐圧は417Vであった。
【0037】
(実施例2)
実施例1において、窒化物半導体層Aの膜厚を200nmとする以外は実施例1に準拠して実施することによりLEDを作製した。このLEDに順方向に20mAの電流を流したところ、明瞭な青色発光を示した。静電耐圧は417Vであった。
【0038】
(実施例3)
実施例1において、窒化物半導体層Bの膜厚を150nmとする以外は実施例1に準拠して実施することによりLEDを作製した。このLEDに順方向に20mAの電流を流したところ、明瞭な青色発光を示した。静電耐圧は200Vであった。
【0039】
(比較例1)
実施例1において、窒化物半導体層Aを成長するときの基板温度を889℃とする以外は実施例1に準拠して実施することによりLEDを作製した。このLEDに順方向に20mAの電流を流したところ、明瞭な青色発光を示した。静電耐圧は75Vであった。
【0040】
(比較例2)
実施例1において、窒化物半導体層Aの膜厚を15nmとする以外は実施例1に準拠して実施することによりLEDを作製した。このLEDに順方向に20mAの電流を流したところ、明瞭な青色発光を示した。静電耐圧は60Vであった。
【0041】
(比較例3)
実施例1において、窒化物半導体層Aを成長するときの基板温度を1124℃とし、膜厚を300nmとする以外は実施例1に準拠して実施することによりLEDを作製した。このLEDに順方向に20mAの電流を流したところ、明瞭な青色発光を示した。静電耐圧は88Vであった。
【0042】
表1に窒化物半導体層Aの成長条件と静電耐圧値を示す。
窒化物半導体層Aのキャリア濃度は、サファイア基板上に低温バッファー層を成長させその上にキャリア濃度が1×1016 cm-3以下であることが既知であるGaN下地層を約3000nmの膜厚で成長させ、その上に目的の窒化物半導体層Aを約200nmの膜厚で成長させた試料をホール測定法で測定し、窒化物半導体層Aのキャリア濃度を算出した値である。
比較例1〜3の青色発光ダイオード素子では、静電耐圧値は100V未満であった。
一方、実施例1および2の場合、静電耐圧値は417V、実施例3では、静電耐圧値は200Vであった。つまり、本発明の製造方法で作製したLEDでは、静電破壊に至る耐圧が著しく改善されていること、実施例1、2では約300V以上改善されていることが確認された。
【0043】
【表1】

【0044】
実施例1に準じて、窒化物半導体層AとBの成長温度と厚さを次表に示す条件で行うと、静電耐圧の優れた窒化物系化合物半導体が得られる。
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の製造方法により製造した窒化物系化合物半導体の一例を示す断面図。
【図2】発光素子の静電気放電に対する耐性を試験するための回路図。
【図3】本発明の発光素子の構造を示す図。
【符号の説明】
【0046】
01 基板
02 低温バッファ層
03 n型コンタクト層
04 窒化物系化合物半導体層A
05 発光層
5A〜5F 障壁層
5G〜5K 井戸層
06 p型コンタクト層
07 窒化物系化合物半導体層B
31 熱硬化性樹脂
32 発光素子(LEDチップ)
33 第一の接続導体(発光素子のカソード電極に接続する)
34 第一のリードフレーム
35 第二の接続導体(発光素子のアノード電極に接続する)
36 第二のリードフレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式InxGayAlzN(ただし、x+y+z=1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1)で表される窒化物系化合物半導体の製造方法であって、p型コンタクト層とn型コンタクト層との間に、550〜850℃の範囲で50〜500nmのノンドープの一般式InaGabAlcN(ただし、a+b+c=1、0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦1)で表される窒化物系化合物半導体(A)を設けることを特徴とする窒化物系化合物半導体の製造方法。
【請求項2】
上記窒化物系化合物半導体(A)とn型コンタクト層との間に、900〜1200℃の範囲で20〜600nmのノンドープの一般式IndGaeAlfN(ただし、d+e+f=1、0≦d≦1、0≦e≦1、0≦f≦1)で表される窒化物系化合物半導体(B)を設けることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2の製造方法によって得られた窒化物系化合物半導体。
【請求項4】
請求項3記載の窒化物系化合物半導体を有する発光素子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−66900(P2006−66900A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−217019(P2005−217019)
【出願日】平成17年7月27日(2005.7.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】