説明

窒化物系発光ダイオード素子とその製造方法

【課題】光取出し効率および軸上光度の両方または少なくとも一方が改善された窒化物系LED等を提供する。
【解決手段】
本発明の一形態の窒化物系LEDは、窒化物半導体基板のおもて面上に窒化物半導体からなる発光構造を有し、該基板の裏面には粗化領域が設けられており、該粗化領域は複数の突起を有しており、該複数の突起の各々は頂点または頂面を有し、かつ、その水平断面が隣接する他の突起と接する部分を除いて円形であり、かつ、該水平断面の面積が該頂点または頂面に近づくにつれて減少しており、更に、該複数の突起は、いずれのひとつに対しても他の6つが接触するように配置されており、該発光構造で生じる光が該粗化領域を通して外部に出射される、ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学式AlInGa1−a−bN(0≦a≦1、0≦b≦1、0≦a+b≦1)で表される窒化物半導体で形成された発光構造を有する窒化物系発光ダイオード素子(以下、窒化物系LEDともいう)に関する。窒化物半導体は、III族窒化物系半導体あるいは窒化物系III−V族化合物半導体などと呼ばれることもある。また、窒化物半導体は(Al,Ga,In)Nと表される場合がある。
【背景技術】
【0002】
GaN、GaInN、AlGaN、AlGaInNのような窒化物半導体を用いた半導体素子が実用化されている。代表的な素子は、窒化物半導体でダブルヘテロpn接合型の発光構造を構成した、発光ダイオードやレーザダイオードなどの発光素子である。特に、c面サファイア基板上にヘテロエピタキシャル成長された発光構造を有する窒化物系LEDは、バックライトや照明のための光源として大量に生産されている。
【0003】
発光素子に用いられる窒化物半導体の結晶は、六方晶のウルツ鉱型構造を有している。上述の、c面サファイア基板を用いた窒化物系LEDは、発光構造を構成するn型層、活性層およびp型層がc軸方向に積層された発光構造を有しているために、発光効率を低下させるピエゾ電界が活性層内部に形成されるといわれている。この問題を解決するために提案されているのが、無極性または半極性のGaN基板上に発光構造をホモエピタキシャル成長させることにより得られる、無極性または半極性の窒化物系LEDである(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4)。
【0004】
ここで、無極性のGaN基板とは、c面から90度傾いた面(m面、a面など。無極性面と呼ばれる。)を主面とするGaN基板のことである。また、半極性のGaN基板とは、c面からの傾斜が無極性面よりも小さいかまたは大きい面(半極性面と呼ばれる。)を主面とするGaN基板のことである。ただし、主面のc面からの傾斜が僅かであるGaN基板は、通常、オフ角が付されたc面基板として取り扱われる。窒化物半導体基板に付与されるオフ角は、通常は10度以内である。
【0005】
c面GaN基板のGa極性面(c+面)上に発光構造を有する窒化物系LEDにおいて、光取出し面として利用する基板の裏面(N極性面;c−面)を光電気化学(PEC)エッチングのようなウェットエッチング加工で粗くして、光取出し効率を改善する試みが行われている。一方、無極性または半極性のGaN基板を用いた窒化物系LEDにおいては、ウェットエッチング加工により基板の裏面を粗くすることができないという問題が指摘されている(非特許文献5)。そこで、かかる窒化物系LEDについては、基板の裏面を粗く加工するための手段として、ドライエッチングを用いた方法が検討されている(特許文献1、非特許文献5、非特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2009/070809号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】A. Chakraborty, B. A. Haskell, S. Keller, J. S. Speck, S. P.DenBaars, S. Nakamura and U. K. Mishra: Japanese Journal of Applied Physics 44(2005) L173
【非特許文献2】K. Okamoto, H. Ohta, D. Nakagawa, M. Sonobe, J. Ichiharaand H.Takasu: Japanese Journal of Applied Physics 45 (2006) L1197
【非特許文献3】R. B. Chung, Y-D. Lin, I.Koslow, N. Pfaff, H. Ohta, J. Ha, S. P.DenBaarsand S. Nakamura: Japanese Journal of Applied Physics 49 (2010) 070203
【非特許文献4】I. L. Koslow, J. Sonoda, R. B. Chung, C-C. Pan, S. Brinkley, H.Ohta, S. Nakamura and S. P. DenBaars: Japanese Journal of Applied Physics 49(2010) 080203
【非特許文献5】H. Zhong, A. Tyagi, N. Pfaff, M. Saito, K. Fujito, J. S. Speck, S.P. DenBaars and S. Nakamura: Japanese Journal of Applied Physics 48 (2009)030201
【非特許文献6】Y. Zhao, J. Sonoda, C-C. Pan, S. Brinkley, I. Koslow, K. Fujito, H.Ohta, S. P. DenBaars and S. Nakamura: Applied Physics Express 3 (2010) 102101
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明のひとつの側面における目的は、光取出し効率および軸上光度の両方または少なくとも一方が改善された窒化物系LEDと、その製造方法を提供することにある。
本発明の他の側面における目的は、半極性の窒化物半導体基板または半極性の窒化物半導体層の上に形成された発光構造を有し、光取出し効率および軸上光度の両方または少なくとも一方が改善された窒化物系LEDと、その製造方法を提供することにある。
本発明の更に他の側面における目的は、窒化物半導体基板のおもて面上に発光構造を有し、該基板の裏面に粗化領域が設けられた窒化物系LEDを用いた発光装置の改良を提供することであり、より具体的にいえば、該粗化領域に含まれる粗化面の変形や破壊に起因する発光特性の変動が防止された発光装置を提供することである。
なお、本発明の目的は上記に限定して解釈されるべきではない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の側面によれば、以下に記載する窒化物系LEDおよび窒化物系LEDの製造方法が提供される。
(A1)窒化物半導体基板のおもて面上に窒化物半導体からなる発光構造を有する窒化物系LEDであって、
該基板の裏面には粗化領域が設けられており、
該粗化領域は各々が円錐または円錐台である複数の突起を有しており、
該粗化領域を平面視したときの該複数の突起の各々の外周形状は多角形であり
該発光構造で生じる光が該粗化領域を通して外部に出射される、
ことを特徴とする窒化物系LED。
【0010】
(A2)窒化物半導体基板と、該基板上に積層された多層膜構造の窒化物半導体からなる発光部と、を含む窒化物半導体積層体を有する窒化物系LEDであって、
該積層体の該基板側の面には粗化領域が設けられており、
該粗化領域は各々が円錐または円錐台である複数の突起を有しており、
該粗化領域を平面視したときの該複数の突起の各々の外周形状は多角形であり
該発光部で生じる光が該粗化領域を通して外部に出射される、
ことを特徴とする窒化物系LED。
【0011】
(A3)n型窒化物半導体層、活性層およびp型窒化物半導体層を含む複数の窒化物半導体層が第1の窒化物半導体層の一方の面上に積層されており、
該第1の窒化物半導体層の他方の面には粗化領域が設けられており、
該粗化領域は各々が円錐または円錐台である複数の突起を有しており、
該粗化領域を平面視したときの該複数の突起の各々の外周形状は多角形であり、
該活性層で生じる光が該粗化領域を通して外部に出射される窒化物系LED。
【0012】
(A4)上記粗化領域を平面視したときの上記複数の突起の各々の外周形状が六角形である、上記(A1)〜(A3)のいずれかの窒化物系LED。
【0013】
(A5)上記粗化領域を平面視したときの上記複数の突起の各々の外周形状が正六角形である、上記(A4)の窒化物系LED。
【0014】
(A6)上記複数の突起の各々が三角格子の格子位置に配置されており、かつ、上記複数の突起の各々の高さは該三角格子のピッチの0.4〜1.5倍である、上記(A5)の窒化物系LED。
【0015】
(A7)上記複数の突起の各々の高さが1〜8μmである、上記(A1)〜(A6)のいずれかの窒化物系LED。
【0016】
(A8)窒化物半導体からなる発光構造がおもて面上に形成された窒化物半導体基板の裏面に、粗化領域を設ける第1ステップを有し、
該粗化領域は各々が円錐または円錐台である複数の突起を有しており、かつ、該粗化領域を平面視したときの該複数の突起の各々の外周形状が多角形であり、
該第1ステップでは該基板をドライエッチング法で加工することによって該粗化領域を形成する、
窒化物系LEDの製造方法。
【0017】
(A9)窒化物半導体基板と、該基板上に積層された多層膜構造の窒化物半導体からなる発光部と、を含む窒化物半導体積層体を準備する第1ステップと、
該積層体の該基板側の面に粗化領域を設ける第2ステップと、を有し、
該粗化領域は各々が円錐または円錐台である複数の突起を有しており、かつ、該粗化領域を平面視したときの該複数の突起の各々の外周形状が多角形であり、
該第2ステップでは該積層体をドライエッチング法で加工することによって該粗化領域を形成する、
窒化物系LEDの製造方法。
【0018】
(A10)n型窒化物半導体層、活性層およびp型窒化物半導体層を含む複数の窒化物半導体層が第1の窒化物半導体層の一方の面上に積層された多層構造を準備する第1ステップと、
該第1の窒化物半導体層の他方の面に粗化領域を設ける第2ステップと、を有し、
該粗化領域は各々が円錐または円錐台である複数の突起を有しており、かつ、該粗化領域を平面視したときの該複数の突起の各々の外周形状が多角形であり、
該第2ステップでは該第1の窒化物半導体層をドライエッチング法で加工することによって該粗化領域を形成する、
窒化物系LEDの製造方法。
【0019】
(A11)上記粗化領域を平面視したときの上記複数の突起の各々の外周形状が六角形である、上記(A8)〜(A10)のいずれかの製造方法。
【0020】
(A12)上記粗化領域を平面視したときの上記複数の突起の各々の外周形状が正六角形である、上記(A11)の製造方法。
【0021】
(A13)上記複数の突起の各々が三角格子の格子位置に配置されており、かつ、上記複数の突起の各々の高さは該三角格子のピッチの0.4〜1.5倍である、上記(A12)の製造方法。
【0022】
(A14)上記複数の突起の各々の高さが1〜8μmである、上記(A8)〜(A13)のいずれかの製造方法。
【0023】
本発明の第2の側面によれば、以下に記載する窒化物系LEDおよび窒化物系LEDの製造方法が提供される。
(B1)窒化物半導体基板のおもて面上に窒化物半導体からなる発光構造を有する窒化物系LEDであって、
該基板の裏面には粗化領域が設けられており、
該粗化領域は複数の突起を有しており、
該複数の突起の各々は頂点または頂面を有し、かつ、その水平断面が隣接する他の突起と接する部分を除いて円形であり、かつ、該水平断面の面積が該頂点または頂面に近づくにつれて減少しており、
更に、該複数の突起は、いずれのひとつに対しても他の6つが接触するように配置されており、
該発光構造で生じる光が該粗化領域を通して外部に出射される、
ことを特徴とする窒化物系LED。
【0024】
(B2)窒化物半導体基板と、該基板上に積層された多層膜構造の窒化物半導体からなる発光部と、を含む窒化物半導体積層体を有する窒化物系LEDであって、
該積層体の該基板側の面には粗化領域が設けられており、
該粗化領域は複数の突起を有しており、
該複数の突起の各々は頂点または頂面を有し、かつ、その水平断面が隣接する他の突起と接する部分を除いて円形であり、かつ、該水平断面の面積が該頂点または頂面に近づくにつれて減少しており、
更に、該複数の突起は、いずれのひとつに対しても他の6つが接触するように配置されており、
該発光部で生じる光が該粗化領域を通して外部に出射される、
ことを特徴とする窒化物系LED。
【0025】
(B3)n型窒化物半導体層、活性層およびp型窒化物半導体層を含む複数の窒化物半導体層が第1の窒化物半導体層の一方の面上に積層されており、
該第1の窒化物半導体層の他方の面には粗化領域が設けられており、
該粗化領域は複数の突起を有しており、
該複数の突起の各々は頂点または頂面を有し、かつ、その水平断面が隣接する他の突起と接する部分を除いて円形であり、かつ、該水平断面の面積が該頂点または頂面に近づくにつれて減少しており、
更に、該複数の突起は、いずれのひとつに対しても他の6つが接触するように配置されており、
該活性層で生じる光が該粗化領域を通して外部に出射される、
ことを特徴とする窒化物系LED。
【0026】
(B4)上記粗化領域を平面視したときの上記複数の突起の各々の外周形状が六角形である、上記(B1)〜(B3)のいずれかの窒化物系LED。
【0027】
(B5)上記粗化領域を平面視したときの上記複数の突起の各々の外周形状が正六角形である、上記(B4)の窒化物系LED。
【0028】
(B6)上記複数の突起の各々が三角格子の格子位置に配置されており、かつ、上記複数の突起の各々の高さは該三角格子のピッチの0.4〜1.5倍である、上記(B1)〜(B5)のいずれかの窒化物系LED。
【0029】
(B7)上記複数の突起の各々の高さが1〜8μmである、上記(B1)〜(B6)のいずれかの窒化物系LED。
【0030】
(B8)窒化物半導体からなる発光構造がおもて面上に形成された窒化物半導体基板の裏面に、粗化領域を設ける第1ステップを有し、
該粗化領域は複数の突起を有しており、
該複数の突起の各々は頂点または頂面を有し、かつ、その水平断面が隣接する他の突起と接する部分を除いて円形であり、かつ、該水平断面の水平断面積が該頂点または頂面に近づくにつれて減少しており、
更に、該複数の突起は、いずれのひとつに対しても他の6つが接触するように配置されており、
該第1ステップでは該基板をドライエッチング法で加工することによって該粗化領域を形成する、
窒化物系LEDの製造方法。
【0031】
(B9)窒化物半導体基板と、該基板上に積層された多層膜構造の窒化物半導体からなる発光部と、を含む窒化物半導体積層体を準備する第1ステップと、
該積層体の該基板側の面に粗化領域を設ける第2ステップと、を有し、
該粗化領域は複数の突起を有しており、
該複数の突起の各々は頂点または頂面を有し、かつ、その水平断面が隣接する他の突起と接する部分を除いて円形であり、かつ、該水平断面の水平断面積が該頂点または頂面に近づくにつれて減少しており、
更に、該複数の突起は、いずれのひとつに対しても他の6つが接触するように配置されており、
該第2ステップでは、該窒化物半導体積層体をドライエッチング法で加工することによって該粗化領域を形成する、
窒化物系LEDの製造方法。
【0032】
(B10)n型窒化物半導体層、活性層およびp型窒化物半導体層を含む複数の窒化物半導体層が第1の窒化物半導体層の一方の面上に積層された多層構造を準備する第1ステップと、
該第1の窒化物半導体層の他方の面に粗化領域を設ける第2ステップと、を有し、
該粗化領域は複数の突起を有しており、
該複数の突起の各々は頂点または頂面を有し、かつ、その水平断面が隣接する他の突起と接する部分を除いて円形であり、かつ、該水平断面の水平断面積が該頂点または頂面に近づくにつれて減少しており、
更に、該複数の突起は、いずれのひとつに対しても他の6つが接触するように配置されており、
該第2ステップでは、該第1の窒化物半導体層をドライエッチング法で加工することによって該粗化領域を形成する、
窒化物系LEDの製造方法。
【0033】
(B11)上記粗化領域を平面視したときの上記複数の突起の各々の外周形状が六角形である、上記(B8)〜(B10)のいずれかの製造方法。
【0034】
(B12)上記粗化領域を平面視したときの上記複数の突起の各々の外周形状が正六角形である、上記(B11)の製造方法。
【0035】
(B13)上記複数の突起の各々が三角格子の格子位置に配置されており、かつ、上記複数の突起の各々の高さは該三角格子のピッチの0.4〜1.5倍である、上記(B8)〜(B12)のいずれかの製造方法。
【0036】
(B14)上記複数の突起の各々の高さが1〜8μmである、上記(B8)〜(B13)のいずれかの製造方法。
【0037】
本発明の第3の側面によれば、以下に記載する窒化物系LEDおよび窒化物系LEDの製造方法が提供される。
(C1)半極性の窒化物半導体基板のGaリッチ面上に窒化物半導体からなる発光構造を有し、
該基板のNリッチ面には、頂点または頂面を有するとともにその高さ方向に直交する断面の面積が該頂点または頂面に近づくにつれて減少する突起が、該基板をドライエッチング法により加工することによって形成されている、窒化物系LED。
【0038】
(C2)半極性の窒化物半導体基板と、該基板のGaリッチ面上に積層された多層膜構造の窒化物半導体からなる発光部と、を含む窒化物半導体積層体を有する窒化物系LEDであって、
該窒化物半導体積層体の該窒化物半導体基板側の面には、頂点または頂面を有するとともにその高さ方向に直交する断面の面積が該頂点または頂面に近づくにつれて減少する突起が、該積層体をドライエッチング法により加工することによって形成されている、窒化物系LED。
【0039】
(C3)n型窒化物半導体層、活性層およびp型窒化物半導体層を含む複数の窒化物半導体層が、Gaリッチ面とNリッチ面とを有する第1の窒化物半導体層の該Gaリッチ面上に積層されており、
該第1の窒化物半導体層の該Nリッチ面には、頂点または頂面を有するとともにその高さ方向に直交する断面の面積が該頂点または頂面に近づくにつれて減少する突起が、該第1の窒化物半導体層をドライエッチング法により加工することによって形成されている、窒化物系LED。
【0040】
(C4)上記突起の高さが1〜8μmである、上記(C1)〜(C3)のいずれかの窒化物系LED。
【0041】
(C5)複数の上記突起の各々が三角格子の格子位置に配置されており、かつ、上記突起の各々の高さが該三角格子のピッチの0.4〜1.5倍である、上記(C1)〜(C4)のいずれかの窒化物系LED。
【0042】
(C6)複数の上記突起が、いずれのひとつに対しても他の少なくとも4つが接触するように配置されている、上記(C1)〜(C5)のいずれかの窒化物系LED。
【0043】
(C7)半極性の窒化物半導体基板のNリッチ面に、頂点または頂面を有するとともにその高さ方向に直交する断面の面積が該頂点または頂面に近づくにつれて減少する突起を、該基板をドライエッチング法により加工することによって形成するステップを有する、窒化物系LEDの製造方法。
【0044】
(C8)半極性の窒化物半導体基板と、該基板のGaリッチ面上に積層された多層膜構造の窒化物半導体からなる発光部と、を含む窒化物半導体積層体の該窒化物半導体基板側の面に、頂点または頂面を有するとともにその高さ方向に直交する断面の面積が該頂点または頂面に近づくにつれて減少する突起を、該積層体をドライエッチング法により加工することによって形成するステップを有する、窒化物系LEDの製造方法。
【0045】
(C9)n型窒化物半導体層、活性層およびp型窒化物半導体層を含む複数の窒化物半導体層が、Gaリッチ面とNリッチ面とを有する第1の窒化物半導体層の該Gaリッチ面上に積層された積層構造を準備するステップと、
該第1の窒化物半導体層の該Nリッチ面に、頂点または頂面を有するとともにその高さ方向に直交する断面の面積が該頂点または頂面に近づくにつれて減少する突起を、該第1の窒化物半導体層をドライエッチング法により加工することによって形成するステップとを有する、窒化物系LEDの製造方法。
【0046】
(C10)上記突起の高さが1〜8μmである、上記(C7)〜(C9)のいずれかの製造方法。
【0047】
(C11)複数の上記突起を、各々が三角格子の格子位置に配置されるように、かつ、各々の高さが該三角格子のピッチの0.4〜1.5倍となるように形成する、上記(C7)〜(C10)のいずれかの製造方法。
【0048】
(C12)複数の上記突起を、いずれのひとつに対しても他の少なくとも4つが接触するように形成する、上記(C7)〜(C11)のいずれかの製造方法。
【0049】
本発明の第4の側面によれば、以下に記載する発光装置が提供される。
(D1)窒化物半導体基板のおもて面上に窒化物半導体からなる発光構造を有する窒化物系LEDが、支持部材に固定された発光装置であって、
該基板の裏面には粗化領域と平坦領域とが設けられており、
該粗化領域は該発光構造で生じる光を拡散させ、
該平坦領域は接合材料を介して該支持部材と面接触している、
発光装置。
【0050】
(D2)上記基板の裏面には複数の上記平坦領域が設けられており、該複数の上記平坦領域の少なくともひとつは上記粗化領域に周囲を囲まれている、上記(D1)の発光装置。
【0051】
(D3)上記支持部材は、上記窒化物系LEDが固定される部分に反射面を有する、上記(D1)または(D2)の発光装置。
【0052】
(D4)上記反射面は、白色セラミック、セラミック粉が充填された白色樹脂、銀またはアルミニウムを含む反射材料で形成されている、上記(D3)の発光装置。
【0053】
(D5)導電性を有する窒化物半導体基板のおもて面上に窒化物半導体からなる発光構造を有する窒化物系LEDが、支持部材に固定された発光装置であって、
該基板の裏面には粗化領域と平坦領域とが設けられ、該平坦領域上には上記発光構造と上記基板を介して電気的に接続された電極パッドが形成され、該粗化領域は該発光構造で生じる光を拡散させ、
該支持部材は表面に電極層を有しており、該電極パッドは導電性の接合材料を介して該電極層と面接触している、
発光装置。
【0054】
(D6)上記基板の裏面には複数の上記平坦領域が設けられており、該複数の上記平坦領域の少なくともひとつは上記粗化領域に周囲を囲まれている、上記(D5)の発光装置。
【0055】
(D7)上記窒化物系LEDと上記支持部材との隙間に、アンダーフィルが充填されている、上記(D1)〜(D5)のいずれかの発光装置。
【0056】
(D8)上記粗化領域には複数の突起が形成されており、該複数の突起の各々の高さは2μm以下である、上記(D1)〜(D7)のいずれかの発光装置。
【発明の効果】
【0057】
本発明のひとつの実施形態によれば、光取出し効率および軸上光度の両方または少なくとも一方が改善された窒化物系LEDと、その製造方法が提供される。
更に、本発明の他の実施形態によれば、半極性の窒化物半導体基板または半極性の窒化物半導体層の上に形成された発光構造を有し、光取出し効率および軸上光度の両方または少なくとも一方が改善された窒化物系LEDと、その製造方法が提供される。
更に、本発明の他の実施形態によれば、窒化物半導体基板のおもて面上に発光構造を有し、該基板の裏面に粗化領域が設けられた窒化物系LEDを用いた発光装置であって、該粗化領域に含まれる粗化面の変形や破壊に起因する発光特性の変動が防止された発光装置が提供される。
その他、本発明によれば、実施形態に応じて、本明細書に記載された効果が奏される。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施形態に係る窒化物系LEDの構造を示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る窒化物系LEDの構造を示す断面図である。
【図3】GaN基板の裏面において、粗化領域と平坦領域とがなすパターンを示す平面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る発光装置の構造を示す断面図である。
【図5】GaN基板の裏面において、粗化領域と平坦領域とがなすパターンを示す平面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る窒化物系LEDの構造を示す断面図である。
【図7】本発明の実施形態に係る発光装置の構造を示す断面図である。
【図8】GaN基板をRIE加工により粗化するときに用いることのできるマスクパターンを示す。
【図9】マスクパターンの方向を説明するための図面である。
【図10】RIE加工されたm面GaN基板のSEM像であり、(a)は平面視像、(b)は側面視像、(c)は斜視像である。
【図11】RIE加工されたm面GaN基板のSEM像であり、(a)は平面視像、(b)は側面視像、(c)は斜視像である。
【図12】RIE加工されたm面GaN基板のSEM像であり、(a)は平面視像、(b)は側面視像、(c)は斜視像である。
【図13】RIE加工されたc面GaN基板のc−面のSEM像であり、(a)は平面視像、(b)は側面視像、(c)は斜視像である。
【図14】RIE加工されたc面GaN基板のc−面のSEM像であり、(a)は平面視像、(b)は側面視像、(c)は斜視像である。
【図15】RIE加工されたc面GaN基板のc+面のSEM像であり、(a)は平面視像、(b)は側面視像、(c)は斜視像である。
【図16】RIE加工された半極性(20−21)GaN基板のNリッチ面のSEM像であり、(a)は平面視像、(b)は斜視像である。
【図17】RIE加工された半極性(20−21)GaN基板のGaリッチ面のSEM像(斜視像)である。
【図18】RIE加工された半極性(10−1−1)GaN基板のGaリッチ面のSEM像であり、(a)は平面視像、(b)は斜視像である。
【図19】シミュレーションで仮定した粗化面Aを示す斜視図である。
【図20】シミュレーションで仮定した粗化面Bを示す斜視図である。
【図21】RIE加工されたm面GaN基板のSEM像であり、(a)は平面視像、(b)は側面視像、(c)は斜視像である。
【図22】RIE加工されたm面GaN基板のSEM像であり、(a)は平面視像、(b)は側面視像、(c)は斜視像である。
【図23】RIE加工された半極性(20−21)GaN基板のNリッチ面のSEM像(平面視像)である。
【図24】本発明の実施形態に係る窒化物系LEDが支持部材上にフリップチップ実装された発光装置の構造を示す断面図である。
【図25】LEDの軸上光度を高くすることが、当該LEDを用いた発光装置の出力改善にとって好ましいことであることを説明するための図面(断面図)である。
【図26】LEDの軸上光度を高くすることが、当該LEDを用いた発光装置の出力改善にとって好ましいことであることを説明するための図面(断面図)である。
【図27】RIE加工された半極性(10−1−1)GaN基板のNリッチ面のSEM像であり、(a)は平面視像、(b)は斜視像である。
【図28】本発明の実施形態に係る窒化物系LEDの構造を示す断面図である。
【図29】本発明の実施形態に係る窒化物系LEDの構造を示す断面図である。
【図30】本発明の実施形態に係る窒化物系LEDが支持部材上にフリップチップ実装された発光装置の構造を示す断面図である。
【図31】GaN基板をRIE加工により粗化するときに用いることのできるマスクパターンを示す。
【図32】RIE加工された半極性(20−21)GaN基板のGaリッチ面のSEM像であり、(a)は平面視像、(b)は斜視像である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
本明細書においては、オフ角を有さないc面基板(ジャスト基板)およびオフ角が付されたc面基板を総称して「c面基板」と呼んでいる。m面基板、c面窒化物半導体基板、m面窒化物半導体基板などという場合も同様である。本明細書にいう「Gaリッチ面」、「Nリッチ面」については、Samantha C. Cruz et al., Journal of Crystal Growth 311 (2009)
3817-3823を参照されたい。
【0060】
本明細書において、窒化物半導体基板の「おもて面」と「裏面」、ならびに、窒化物半導体基板上に発光構造を有する窒化物系LEDの「おもて側」と「裏側」は、次のように定めている。すなわち、窒化物系LEDに含まれる窒化物半導体基板が有する2つの主面のうち、発光構造を構成するエピタキシャル膜が形成されている側の主面を「おもて面」と呼ぶことにし、その反対側の主面を「裏面」と呼ぶことにしている。また、窒化物系LEDを「おもて側」から見たときには、発光構造を構成するエピタキシャル膜が基板よりも手前となり、窒化物系LEDを「裏側」から見たときには、該エピタキシャル膜よりも基板が手前となるものとして、窒化物半導体基板上に発光構造を有する窒化物系LEDの「おもて側」と「裏側」を定めている。
【0061】
一方、発光構造を形成した後に、該発光構造を含むエピタキシャル膜に支持基板を接合するとともに、該エピタキシャル膜の成長に用いられた単結晶基板の一部または全部を該エピタキシャル膜から切り離す方法で製造される窒化物系LEDに関しては、特に「おもて側」と「裏側」とを定めないことにする。ただし、その製造過程で用いられる単結晶基板については、その2つの主面のうち、該エピタキシャル膜の成長に用いられる側の主面を「おもて面」と呼び、その反対側の主面を「裏面」と呼ぶことにする。
【0062】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る窒化物系LED100の構造を示す断面図である。
窒化物系LED100は、GaN基板110のおもて面110a上に、窒化物半導体からなる多層エピタキシャル膜120を有している。多層エピタキシャル膜120は、n型層121とp型層123とが活性層122を挟むダブルヘテロpn接合型の発光構造を含んでいる。GaN基板110の裏面110bは、全体がRIE(反応性イオンエッチング)によって粗面に加工されている。GaN基板110がc面基板である場合、窒化物半導体のエピタキシャル成長が可能なのはc+面上であるから、おもて面がc+面、裏面がc−面となる。GaN基板110が半極性基板の場合には、Gaリッチ面上およびNリッチ面上のいずれにも窒化物半導体のエピタキシャル成長が可能であるが、後述する理由から、おもて面がGaリッチ面となるようにLEDを構成する。
【0063】
p型層123の表面には、ITO(インジウム錫酸化物)からなる透光性電極130が形成されている。その透光性電極130上の一部に、p電極パッド140が形成されている。p型層123および活性層122が一部除去された部位に露出したn型層121の表面には、n電極パッド150が形成されている。SiOからなるパッシベーション膜160が窒化物系LED100のおもて側表面(ただし、電極パッドの表面を除く)を覆っている。ここで、ドーピングによりGaN基板110に十分なn型導電性が付与されている場合には、n電極パッド150をn型層121の表面に形成する代わりに、GaN基板の裏面110b上の一部に形成することも可能である。
【0064】
RIE加工によって粗化されたGaN基板の裏面110bには、多数の突起が規則的に配置されている。突起が規則的に配置された凹凸面は、周期的マスクパターンを用いたRIE加工により形成することができる。発光構造で生じる光が、GaN基板の粗化された裏面110bで拡散される結果、LED100内部での多重反射が抑制され、光取出し効率が改善される。また、粗化されたGaN基板の裏面110bは、発光構造側から入射する光に対する反射率が低くなることも、光取出し効率の改善に寄与する。
【0065】
より高い改善効果を得るには、GaN基板の裏面110bにおける突起の密度を高くすることが望ましい。従って、最も好ましい規則的配置のひとつは三角格子配置、つまり、突起を三角格子の格子位置に置く配置である。
【0066】
突起を三角格子配置した粗化面を得るには、例えば、図8に示すマスクパターンを用いてGaN基板の裏面をRIE加工すればよい。このような、円形のエッチングマスクが三角格子の格子位置に配置されたパターンは、比較的精度の高いものを容易に製造できるという利点がある。GaN基板110がc面基板である場合、このマスクパターンを用いて裏面(c−面)をRIE加工することにより、図13や図14に示すような、光取出し効率の改善効果が極めて高い粗化面を形成することができる。これらの図に示す粗化面では、それぞれが円錐形状または円錐台形状を呈する複数の突起が、間隔なしで形成されていることから、図13(a)や図14(a)に示すように、粗化面を平面視すると各突起の外周形状は正六角形となっている。
【0067】
円錐形状または円錐台形状を呈する突起の各々の高さは、活性層122で生じる光のGaN基板110の内部における波長と同等以上となるようにする。また、この高さは三角格子のピッチの0.4〜1.5倍となるようにすることが好ましい。GaN系LEDが発することのできる光の波長は紫外線から緑光までと範囲が広いが、突起の高さを1μm〜8μmの範囲内に設定すれば、光取出し効率または軸上光度の少なくともいずれかを好ましく改善することができる。
【0068】
発光装置を構成するには、電極が表面に設けられた支持部材(サブマウントなど)の上に窒化物系LED100を固定する。好ましくは、図24に例示するように、窒化物系LEDのおもて側が支持部材を向くように固定する。このような実装形式は、いわゆるフリップチップ実装と呼ばれるものである。
【0069】
図24において、支持部材S3は、セラミック製の絶縁基板S31と、その表面に設けられた一対の上部電極層S32a、S32bと、その下面に設けられた一対の下部電極層S33a、S33bとを有している。上部電極層S32aと下部電極層S33aとは、絶縁基板に形成されたヴィアに充填された接続金属部S34aによって電気的に接続されている。上部電極層S32bと下部電極層S33bとは、絶縁基板に形成されたもうひとつのヴィアに充填された接続金属部S34bによって電気的に接続されている。
【0070】
窒化物系LED100のp電極パッド140およびn側電極パッド150は、それぞれ、上部電極層S32a、S32bと導電性接合材料Cを用いて接合されている。導電性接合材料Cとして、ハンダ(例えばAuSnハンダ)、金属バンプ(例えばAuバンプ)、導電ペースト(例えばAgペースト)などが使用可能である。
【0071】
GaN基板の裏面110bを図13あるいは図14に示す粗化面とすることにより、フリップチップ実装した窒化物系LED100の軸上光度は著しく高いものとなる。LEDの軸上光度を高くすることは、当該LEDを用いた発光装置の出力改善にとって好ましいことである。
【0072】
このことを図25を用いて説明する。LEDを用いた発光装置では、指向性を高めるために、LEDから側方に放出される光Lを軸上方向に向けて反射させるリフレクタがしばしば使用されるところであるが、軸上光度の高いLEDを用いると、リフレクタの助けを借りずにLEDから直接軸上に放出される光Lが多くなる。従って、光Lsがリフレクタで反射される際に生じる損失に起因する出力低下が小さくなる。LEDの軸上光度が十分に高い場合には、リフレクタを省略することすら可能となる。
【0073】
軸上光度の高いLEDは、複数のLEDを一平面上に並べて配置するタイプの発光装置においても有利である。このタイプの発光装置では、図26に示すように、ひとつのLEDから側方に放出される光Lが、他のLEDによる吸収や散乱を受けるので、それによる出力低下が生じる。それに対して、LEDから直接軸上に放出される光Lは他のLEDの影響を受け難い。従って、軸上光度の高いLEDを用いることによって、このような他のLEDによる吸収や散乱による出力低下が低減された発光装置を得ることができる。
【0074】
ところで、同じマスクパターンとRIE条件を用いて加工した場合であっても、c面GaN基板のc+面(Ga極性面)とc−面(N極性面)では形状が全く異なる粗化面が形成される。図14に示す粗化面を形成したときと同じエッチングマスクとRIE条件を用いて、GaN基板のc+面を加工して得た粗化面(突起の高さ約6μm)のSEM像を図15に示す。図15(a)は平面視像、(b)は側面視像、(c)は斜視像である。c−面をRIE加工したときには、側壁が緩やかな斜面となった円錐形状の突起が形成されたのに対し、c+面では、細長い柱状の突起が形成されている。後述のシミュレーション結果が示すように、フリップチップ実装したLEDの軸上光度は、基板の裏面に設けられた粗化領域の突起がこのような柱状であるときには、該突起が円錐であるときに比べて低くなる。
【0075】
本発明者等は、c面基板で観察されたのと類似の現象を、半極性のGaN基板においても見出している。すなわち、Nリッチ面をRIE加工すると、側壁面に緩やかな斜面を含む突起が密に配置された粗化面が得られるのに対し、Gaリッチ面をRIE加工した場合には、細長い柱状の突起が間隔を置いて配置された粗化面が形成される傾向があった。以下に、このことを示すいくつかの具体例を挙げる。
【0076】
図16に示すのは、一方の主面が(20−21)面、他方の主面が(20−2−1)面である半極性GaN基板の、Nリッチ面である(20−21)面を、図8に示すマスクパターンを用いてRIE加工することにより得た粗化面のSEM像である。使用したエッチングガスは塩素である。エッチングマスクはSiOで形成しており、突起の高さは約6μmである。平面視像である図16(a)においては、上下方向がGaNのa軸方向であるから、突起は、a軸に直交する方向の幅の方が、a軸方向の幅より広くなっている。ここでいう幅とは全幅をいい、以下においても、突起の幅に言及する場合は同様とする。斜視像である図16(b)が示すように、各突起は緩やかな傾斜面を側壁の一部に有している。
【0077】
図16(a)から判るように、各突起は周囲の4つの突起、すなわち、図中において右上、右下、左上および左下にそれぞれ位置する他の突起と、間隔なしで接している。また、同図中で左右方向に隣り合う突起同士の間、および、上下方向に隣り合う突起同士の間には、間隔が存在しているものの、これらの間隔は大きなものではない。
【0078】
一方、図17に示すのは、同じ半極性GaN基板のGaリッチ面である(20−2−1)面を、同じマスクパターンおよびRIE条件を用いて加工することにより得た粗化面(突起の高さ約6μm)のSEM像である。この粗化面には、細長い柱状の突起が相互間に大きな間隔を置いて配置されていることが判る。
【0079】
また、図18に示すのは、一方の主面が(10−1−1)面、他方の主面が(10−11)面である半極性GaN基板のGaリッチ面である(10−1−1)面を、図8に示すマスクパターンを用いてRIE加工することにより得た粗化面のSEM像である。エッチングマスクはSiOで形成しており、突起の高さは約6μmである。平面視像である図18(a)においては上下方向がGaNのa軸方向であるから、突起は、a軸方向の幅の方が、a軸に直交する方向の幅より広くなっている。該図18(a)および斜視像である図18(b)がそれぞれ示すように、突起は細長い柱状で、相互間に大きな間隔を置いて配置されている。
【0080】
一方、図27に示すのは、同じ半極性GaN基板のNリッチ面である(10−11)面を、同じマスクパターンおよびRIE条件を用いて加工することにより得た粗化面(突起の高さ約6μm)のSEM像である。平面視像である図27(a)から判るように、各突起は周囲の4つの突起、すなわち、図中において右上、右下、左上および左下にそれぞれ位置する他の突起と接している。また、同図中で左右方向に隣り合う突起同士の間、および、上下方向に隣り合う突起同士の間には間隔が存在しているものの、これらの間隔は大きなものではない。斜視像である図27(b)が示すように、各突起は緩やかな傾斜面を側壁の一部に含んでいる。
【0081】
以上の観察結果と、後述するシミュレーション結果とを総合すると、フリップチップ実装したときの軸上光度の高いLEDを半極性GaN基板を用いて作製するには、該基板のGaリッチ面上に発光構造を設け、Nリッチ面をRIE加工して粗化面とすることが好ましいといえる。
【0082】
無極性基板であるm面GaN基板の場合にはGaリッチ面とNリッチ面の区別がないが、RIE加工に対する感受性に関しては、極性基板のN極性面や半極性基板のNリッチ面と類似した性質を有していると考えられる。図8に示すマスクパターンを用いてRIE加工すると、極性基板のN極性面や半極性基板のNリッチ面と同じように、側壁に緩やかな斜面を含む突起が、密に配置された粗化面が形成されるからである。
【0083】
図8に示すマスクパターンを用いてm面GaN基板をRIE加工する場合、エッチング時間が短いと、突起は円柱に近い形状となり、突起間の間隔が広い粗化面が形成される。エッチング時間を長くすることによって、突起の形状が対称性の低いものに変化するとともに、突起間の間隔が狭くなる。突起の幅に関しては、GaN基板のc軸方向の幅が、a軸方向の幅よりも広くなる。
【0084】
図8に示すマスクパターンを用いたRIE加工によりm面GaN基板に形成される突起の形状の一例を、図10および図12に示す。図10の例(突起の高さ1.5μm)でも図12の例(突起の高さ6μm)の例でも、突起のそれぞれは形状に回転対称性を有しておらず、側壁面の形状がc+方向側とc−方向側とで全く異なっている。図12の例では、突起のc−方向側(図中では右側)の側壁面の傾斜が基部では緩やかであるのに対し、上部では極めて急なものとなっている。
【0085】
m面基板の表面や半極性基板のNリッチ面にマスクパターンを形成してRIE加工すると、側壁に緩やかな斜面を含む凹凸面が形成されるという傾向は、恐らくは、加工される半導体表面の性質によるものであり、エッチングマスクの形状や種類とは無関係である。すなわち、この傾向は、図8のパターンとは異なるマスクパターンを用いた場合や、ランダムエッチングマスク(意図的なパターニングを行わないマスク)を用いた場合であっても変わらないものと考えられる。ランダムエッチングマスクの一例には次のようなものがある:i)ミクロ相分離構造を有するブロックコポリマーを用いたマスク、ii)金属薄膜(例えば、Au膜、Pt膜)を加熱したときに表面張力によって生じる凝集現象(いわゆるボールアップ)を利用して被加工面上に形成される金属微粒子マスク、iii)コロイド分散液を塗布することにより被加工面上に分散させた無機または有機微粒子からなる微粒子マスク。
【0086】
(実施形態1の第1変形例)
図28は、実施形態1の第1変形例に係る窒化物系LED101の断面図である。構成要素のうち、実施形態1に係る窒化物系LED100と共通する構成要素については同一の符号を付している。
【0087】
窒化物系LED101は、n電極パッド150をGaN基板110の裏面上に有している。必須構成ではないが、GaN基板110とn電極パッド150との間には、接触抵抗の低減を図る目的で、Hf(ハフニウム)がn型不純物として添加された窒化物半導体薄膜170が設けられている。この薄膜170は、好ましくはAlGa1−xN(0≦x≦0.2)で形成され、Hf濃度は好ましくは1×1019〜2×1021cm−3、より好ましくは1×1020cm−3〜2×1021cm−3とされ、厚さは1nm〜5μmとされる。窒化物半導体薄膜170が特に有用となるのは、GaN基板110のキャリア濃度が5×1017cm−3以下のときである。
【0088】
Hfでドープされた窒化物半導体薄膜170の形成方法に特に限定はなく、MOVPE法を用いることができる他、低温成膜に適したPLD(パルスレーザ蒸着:Pulsed Laser Deposition)法、PSD(パルススパッタ堆積;Pulsed Sputtering Deposition)法、PED(パルス電子ビーム蒸着;Pulsed
Electron-beam Deposition)法などのいわゆるPXD(パルス励起堆積;Pulsed Excitation Deposition)法も好適に使用できる。PXD法によれば、薄膜状の窒化物半導体結晶を700℃以下の温度で成長させることができるので、GaN基板のおもて面110a側に発光構造を形成した後に、該発光構造に熱ダメージを殆ど与えることなく、窒化物半導体膜170を形成することが可能である。
【0089】
窒化物系LED101では薄膜170がn電極パッド150の直下のみに設けられているが、GaN基板の裏面110bの全体を覆うように形成してもよい。Hfでドープされた窒化物半導体薄膜は、高キャリア濃度でありながら、透明性が良好であるからである。この場合には、成膜温度などの調節によって、表面が自然に粗面となるように薄膜170を成長させることができる。
【0090】
GaN基板110のキャリア濃度が低い場合には、その裏面110bの全体に、Hfでドープされた窒化物半導体薄膜170を0.1μm以上、好ましくは0.5μm以上の厚さに形成し、該薄膜170を導電経路として働かせることによって、n電極パッド150からLED素子に注入される電流を水平方向(GaN基板110の厚さ方向に直交する方向)に十分に拡散させることができる。
【0091】
窒化物系LED101では、フリップチップ実装したときにn電極パッド150の直下となる領域では活性層122に電流が供給されないように、p型層123上に設けられる透光性電極130は該n電極パッド150に対応する部分に貫通孔を有している。また、p電極パッド140は透光性電極130を覆うパッシベーション膜160の上に形成されており、パッシベーション膜160に設けられた貫通孔を通して透光性電極130と接触している。
【0092】
(実施形態1の第2変形例)
図29は、実施形態1の第2変形例に係る窒化物系LED102の断面図である。構成要素のうち、実施形態1に係る窒化物系LED100と共通する構成要素については同一の符号を付している。
【0093】
窒化物系LED102は、多層エピタキシャル膜120のp型層123側に接合された金属製の支持基板180を有している。この支持基板180は、導電性接合材料(図示せず)によってp電極パッド140と接着されている。GaN基板110は、多層エピタキシャル膜120を成長させるためのベースとして使用された基板である。
【0094】
窒化物系LED102の製造過程では、多層エピタキシャル膜120の成長後、GaN基板110の大部分が裏面側からのグラインディング加工とそれに続くラッピング加工によって削り取られる。その後、かかる加工によって厚さが数μmまで減じられたGaN基板110の裏面にマスクパターンが形成され、RIE加工による粗化が行われる。このRIE加工により形成される凹部の深さがGaN基板110の厚さを超えると、該凹部の底部にn型層121が露出する。
【0095】
GaN基板110はSi、O(酸素)、Hf(ハフニウム)などでドープすることによってn型導電性とされており、n電極パッド150は部分的に残存するGaN基板110の裏面に形成されている。
【0096】
(実施形態1の第3変形例)
図30は、実施形態1の第3変形例に係る窒化物系LED103が支持部材S3上に固定された発光装置の断面図である。窒化物系LED103の構成要素のうち、実施形態1に係る窒化物系LED100と共通する構成要素については同一の符号を付している。
【0097】
多層エピタキシャル膜120は、そのp型層123側が導電性接合材料Cによって支持部材S3に結合されている。多層エピタキシャル膜120は、サファイア基板上にn型層121、活性層122、p型層123を順次成長させることにより形成されたものであるが、そのサファイア基板は窒化物系LED103には含まれていない。製造過程においてこのサファイア基板は、多層エピタキシャル層120が支持部材S3に結合された後に、レーザリフトオフ技法によってn型層121から切り離される。サファイア基板のリフトオフ後、露出したn型層121の表面にマスクパターンが形成され、RIE加工による粗化が行われる。
【0098】
(その他のマスクパターン)
実施形態1およびその変形例に係る窒化物系LEDの製造過程において、GaN基板の裏面あるいはn型層の表面をRIE加工して粗化する際に使用可能なマスクパターンは、図8に示すマスクパターンに限定されるものではない。
【0099】
一例では、図31に示すように、エッチングマスクを正方格子の格子位置に配置したマスクパターンを使用することができる。この場合には、突起の頂点または頂面の中心が正方格子の格子位置に配置された凹凸面が形成される。また、図示しないが、エッチングマスクをペンローズ格子の格子位置に配置したマスクパターンを使用することもできる。この場合には、突起の頂点または頂面の中心がペンローズ格子の格子位置に配置された凹凸面が形成される。
【0100】
(実施形態2)
一般に、窒化物系LEDを用いて発光装置を構成するに際しては、回路基板、絶縁基板、リードフレーム、セラミック板、金属板または金属スラグのような支持部材の上に、接合材料を用いて、窒化物系LEDを固定する。前述の実施形態1に係る窒化物系LED100を用いて発光装置を構成する場合、素子の裏側を支持部材に接合させてもよい。しかし、窒化物系LED100ではGaN基板の裏面110b全体が粗化面であることから、GaN基板と支持部材とが面接触しないので、接合強度が低くなる傾向がある。また、接合の際に該裏面110bを支持部材に対して強過ぎる力で押し当てると、粗化面の変形や破壊が生じるために、得られる発光装置の発光特性が変動する可能性がある。そこで、これらの問題を解決するために、実施形態2に係る窒化物系LEDでは、窒化物半導体基板の裏面の全体を粗面に加工しないで、一部のみを粗面に加工する。
【0101】
実施形態2に係る窒化物系LED200の断面構造を図2に示す。窒化物系LED200は、GaN基板210のおもて面210a上に、窒化物半導体からなる多層エピタキシャル膜220を有している。GaN基板の裏面210bには、粗化領域210b−1と平坦領域210b−2とが設けられている。粗化領域210b−1では、GaN基板の裏面がエッチング加工により粗化されている。一方、平坦領域210b−2では、GaN基板の裏面はラッピング、ポリッシングのような平坦化処理を受けたままの面である。
【0102】
多層エピタキシャル膜220は、n型層221とp型層223とが活性層222を挟むダブルヘテロpn接合型の発光構造を含んでいる。p型層223の表面には、ITO(インジウム錫酸化物)のような透明導電性酸化物からなる透光性電極230が形成されている。その透光性電極230上の一部に、p電極パッド240が形成されている。p型層223および活性層222が一部除去された部位に露出したn型層221の表面には、n電極パッド250が形成されている。SiOのような絶縁性酸化物からなるパッシベーション膜260が、電極パッドの表面を除いて、LED200のおもて側表面を覆っている。
【0103】
窒化物系LED200の製造過程では、GaN基板210の裏面全体を平坦化処理する平坦化工程の後、所定の領域のみをエッチング加工を施して粗化する粗化工程が行われる。この粗化工程で粗化された領域が粗化領域210b−1となり、粗化されずに残された領域が平坦領域210b−2となる。粗化工程で用いるエッチング加工の方法は、使用するGaN基板210の種類に応じて適宜選択される。GaN基板210が極性基板(c面基板)の場合には、ドライエッチングとウェットエッチングのいずれの方法も使用できる。GaN基板210が無極性または半極性の場合にはドライエッチング法を用いるべきである。ドライエッチングとウェットエッチングの併用は適宜行うことができる。
【0104】
粗化領域210b−1の表面は、前述の実施形態1に係るGaN系LED100におけるGaN基板の裏面110bと同様の、複数の突起を有する粗化面とすることができる他、複数の窪みを有する粗化面や、不規則な形状を有する粗化面とすることができる。
該粗化面における突起の高さ、あるいは窪みの深さは、活性層222で生じる光のGaN基板210の内部における波長と同等以上とすれば、この光を拡散させることができる。この高さまたは深さは2μm程度もあれば十分な効果が得られ、それよりも高く、あるいは深くしても、光取出し効率の改善効果はそれ程大きくなることはない。
【0105】
GaN基板210の裏面210bに直接粗化領域と平坦領域とを設ける代わりに、GaN基板210の裏面に、Hfを例えば1×1019cm−3以上の高濃度に添加した窒化物半導体層を成長させ、この層の表面に粗化領域と平坦領域を設けてもよい。Hfを高濃度に含む窒化物半導体結晶は欠陥を多く含むので、マスクパターンを使用しないでも、その表面をウェットエッチングまたはドライエッチングすることによって自然な粗化面とすることができる。
【0106】
GaN基板の裏面210bにおいて粗化領域210b−1と平坦領域210b−2とがなすパターンを図3に示す。図3において、灰色の部分が粗化領域210b−1、白色の部分が平坦領域210b−2である。GaN基板の裏面210bは長方形をしており、その2つの短辺のそれぞれに沿って帯状の平坦領域210b−2が設けられている。
【0107】
図4は、支持部材S1上に固定された窒化物系LED200を有する発光装置の断面図である。窒化物系LED200の裏側と支持部材S1との間には、接合材料(図示せず)が介在されている。接合材料には、ダイアタッチとして通常使用されている、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂などをベースとする熱硬化性の接着剤を用いることができる。上記の製造プロセスから理解されるように、粗化領域210b−1に形成された突起は、平坦領域210b−2の表面よりも外側に突き出していないので、平坦領域210b−2と支持部材S1とは接合材料を介して面接触することになる。ゆえに、窒化物系LED200と支持部材S1は強固に接合される。そして、上述のように、2つの帯状の平坦領域210b−2の間に粗化領域210b−1が挟まれているために、固定後の窒化物系LED200の姿勢は極めて安定している。また、平坦領域210b−2を支持部材S1に強く押し当てたとしても、粗化領域210b−1が変形したり破壊されることがない。
【0108】
GaN基板210の裏面において粗化領域210b−1と平坦領域210b−2とがなすパターンは、図3に示すものに限定されず、任意に設定することができる。該パターンの一例を図5(a)〜(d)に示す。図5(a)では、GaN基板の裏面が長方形であり、その2つの長辺のそれぞれに沿って帯状の平坦領域210b−2が設けられている。図5(b)では、GaN基板の裏面が矩形であり、その縁部に沿って環をなす帯状の平坦領域210b−2が、粗化領域210b−1を取り囲んでいる。図5(c)では、GaN基板の裏面が矩形であり、その四隅のそれぞれに平坦領域210b−2が設けられている。図5(d)では、粗化領域210b−1に周囲を囲まれたドット状(この例では矩形ドット状)の平坦領域210b−2が、GaN基板の裏面に複数配置されている。
【0109】
窒化物系LED200の駆動時に多層エピタキシャル膜220内で生じる熱を、効果的に支持部材S1に逃がすためには、GaN基板の裏面において粗化領域と平坦領域とがなすパターンを、図5(d)に示すパターンとすることが望ましい。つまり、粗化領域に周囲を囲まれたドット状の平坦領域が、複数設けられたパターンである。この場合、ドット状の平坦領域の形状や配置は図5(d)の例に限定されず、様々に設定することができる。例えば、ドット状の平坦領域の形状は、矩形以外の多角形(三角形、六角形など)、円形、楕円形などとし得る。また、複数のドット状の平坦領域が、図5(d)の例では四角格子の格子位置に配置されているが、三角格子または六角格子の格子位置に配置することもできる。
【0110】
支持部材S1は、少なくとも窒化物系LED200が固定される部分を、反射率の高い材料で構成することが望ましい。特に好ましい高反射率材料として、白色セラミック、白色樹脂、銀、アルミニウムなどが挙げられる。白色セラミックの好適例はアルミナセラミックである。白色樹脂とは、白色顔料が透明なベース樹脂に充填されてなる、白色を呈する樹脂である。白色顔料の好適例はアルミナ粉、チタニア粉などであり、ベース樹脂の好適例はシリコーン樹脂、ポリアミド樹脂などである。最も好適な白色樹脂は、アルミナ粉が充填されたシリコーン樹脂である。銀、アルミニウムは近紫外〜可視の波長域における反射率の高い金属の典型例である。このような金属を鏡面仕上げしたうえ、透明な誘電体薄膜でコーティングして得られる表面は、高い反射率を示す。
【0111】
(実施形態3)
上述の実施形態2に係る窒化物系LEDにおいて、GaN基板としてケイ素、酸素、ハフニウムなどでドープすることにより十分なn型導電性が付与されたGaN基板を使用する場合には、n電極パッドをエピタキシャル膜に含まれるn型層の表面に形成する代わりに、GaN基板の裏面にn電極パッドを形成することができる。このように構成した窒化物系LED300の断面構造を図6に示す。
【0112】
窒化物系LED300は、GaN基板310のおもて面310a上に、窒化物半導体からなる多層エピタキシャル膜320を有している。GaN基板の裏面310bには、粗化領域310b−1と平坦領域310b−2とが設けられている。粗化領域310b−1では、GaN基板の裏面がエッチング加工により粗化されている。一方、平坦領域310b−2では、GaN基板の裏面はラッピング、ポリッシングのような平坦化処理を受けたままの面である。
【0113】
多層エピタキシャル膜320は、n型層321とp型層323とが活性層322を挟むダブルヘテロpn接合型の発光構造を含んでいる。p型層323の表面には、ITO(インジウム錫酸化物)のような透明導電性酸化物からなる透光性電極330が形成されている。その透光性電極330上の一部に、p電極パッド340が形成されている。GaN基板の裏面の平坦領域310b−2上には、n電極パッド350が形成されている。n電極パッド350とn型層321は、GaN基板310を介して電気的に接続されている。SiOのような絶縁性酸化物からなるパッシベーション膜360が、電極パッドの表面を除いて、LED300のおもて側表面を覆っている。
【0114】
窒化物系LED300は、n電極パッド350をGaN基板の裏面310bに形成することの他は、前述の実施形態2に係る窒化物系LED200と同様にして製造することができる。n電極パッド350は、GaN基板310と接する部分を、n型GaNとオーミック接触を形成する材料で形成する。かかる材料として、Al(アルミニウム)、Cr(クロム)、Ti(チタン)、W(タングステン)のような金属が例示される。接触抵抗の低減を図るために、n電極パッド350とGaN基板310との間に透明導電性酸化物膜を介在させることができる。具体例として、ITOやIZO(インジウム亜鉛酸化物)のような酸化インジウムベースの導電性酸化物膜、AZO(アルミニウム亜鉛酸化物)やGZO(ガリウム亜鉛酸化物)のような酸化亜鉛ベースの導電性酸化物膜、FTO(フッ素ドープ酸化錫)のような酸化錫ベースの導電性酸化物膜が挙げられる。かかる導電性酸化物膜が特に有用となるのは、GaN基板のキャリア濃度が5×1017cm−3以下のときである。この導電性酸化物膜を、1×1019〜2×1021cm−3という高濃度にHfを添加した窒化物半導体膜に置き換えることもできる。
【0115】
n電極パッド350の最表面層をAu層とすると、その表面にAuSnハンダ、Auワイヤ、Auバンプのような接続材料を接合させることが容易となり好ましい。更に、このAu層と、GaN基板310に接する層との間には、Auよりも高融点の金属を含むバリア層を介在させることが好ましい。バリア層に好ましく使用し得る金属として、Pt(白金)、Cr(クロム)、Ti(チタン)、Ni(ニッケル)などが例示される。
【0116】
窒化物系LED300においても、GaN基板の裏面で粗化領域310b−1と平坦領域310b−2とがなすパターンは、実施形態2の場合と同様に、様々に設定することができる。好適例では、粗化領域に周囲を囲まれたドット状の平坦領域が、GaN基板の裏面に複数配置され、その平坦領域のそれぞれにn電極パッドが形成される。特に好ましくは、ドット状の平坦領域は三角格子の格子位置に配置される。このような構成によれば、n電極パッドからGaN基板およびn型層を通して活性層に注入される電流の密度を、活性層の面内で均一化させることができる。
【0117】
平坦領域310b−2の表面は、好ましくは、ポリッシング仕上げされる。それによって、該平坦領域310b−2に接するn電極パッド350の底面が平滑となり、反射率が改善されるので、活性層322で生じる光を該n電極パッドの底面が吸収することによる損失を低減できる。n電極パッド350の反射率を改善するには、n電極パッドの底面を含む部分を反射率の高い材料で形成することも有効である。好ましい高反射率材料として、Al、Al合金、透明導電性酸化物などが例示される。
【0118】
図7は、支持部材S2上に固定された窒化物系LED300を有する発光装置の断面図である。支持部材S2は、セラミック製の絶縁基板S21と、上部電極層S22と、下部電極層S23と、絶縁基板S21に形成されたヴィアに充填された接続金属部S24とを有しており、上部電極層S22と下部電極層S23は接続金属部S24によって電気的に接続されている。窒化物LED300のn電極パッド350と支持部材の上部電極層S22との間は、導電性の接合材料(図示せず)により接合されている。接合材料には、ハンダ(例えばAuSnハンダ)、金属バンプ(例えばAuバンプ)、導電ペースト(例えばAgペースト)、異方導電フィルムなどが使用できる。n電極パッド350および接合材料(図示せず)を介して、GaN基板の裏面の平坦領域310b−2と支持部材S2の表面(上部電極層S22の表面)との間に面的な接触が形成されることから、窒化物系LED300と支持部材S2の間の接合は強固である。窒化物系LED300と支持部材S2との間に形成される空間には、透明樹脂または白色樹脂からなるアンダーフィルを充填してもよい。
【0119】
(実験例1)
上述の実施形態1に係る窒化物系LED100と同様の基本構造を有する窒化物系LEDを、以下に詳述する(i)エピタキシャル成長、(ii)電極形成および(iii)GaN基板の裏面加工の、3つの工程を順次行なうことによりウェハ上に作製し、その発光出力を評価した。
【0120】
(i)エピタキシャル成長
エピタキシャル成長用に鏡面仕上げされた表面を有する、厚さ330μmのm面GaN基板(無極性基板)を準備した。このm面GaN基板の上記鏡面仕上げされた表面上に、通常のMOVPE装置を用いて、窒化物半導体からなるダブルヘテロpn接合型の発光構造を含む多層エピタキシャル膜を成長させて、エピウェハを作製した。
【0121】
具体的には、m面GaN基板側から順に、厚さ20nmのアンドープGaN層、厚さ1000nmのSiドープGaNコンタクト層、厚さ100nmのアンドープGaN層、厚さ20nmのSiドープGaN層、MQW構造の活性層、厚さ130nmのMgドープAl0.18Ga0.82N層、厚さ60nmのMgドープAl0.03Ga0.97Nコンタクト層を順次成長させた。MQW構造の活性層は、7層のGaN障壁層と6層のInGaN井戸層とを、最下層および最上層がGaN障壁層となるように交互に積層することにより形成した。GaN障壁層の厚さは15nm、InGaN井戸層の厚さは10nmとした。InGaN井戸層を成長させるときには、最終的に得られるLEDの発光ピーク波長が約400nmとなるよう、III族原料であるTMG(トリメチルガリウム)とTMI(トリメチルインジウム)の供給量を制御した。
【0122】
Mgドープ層に添加したMgの活性化は、多層エピタキシャル膜の最上層であるMgドープAl0.03Ga0.97Nコンタクト層の成長完了後、エピウェハの温度を室温まで降下させる間に、MOVPE成長炉内に供給する窒素ガスおよびアンモニアガスの流量を制御する方法を用いて行った。
【0123】
(ii)電極形成
電極形成工程では、まず、上記エピタキシャル成長工程で得たエピウェハのp型Al0.03Ga0.97Nコンタクト層上に、ITO膜からなる透光性電極を形成した。このITO膜は電子ビーム蒸着法を用いて形成し、フォトリソグラフィ技法を用いて所定の形状にパターニングした。
【0124】
次に、RIE法を用いて、後の工程でn電極パッドを形成する部分に、SiドープGaNコンタクト層を露出させた。同時に、この工程では素子分離(device isolation)のために、ウェハ上で隣接するLED間の境界上の部位にもSiドープGaNコンタクト層を露出させた。これによって、活性層およびp型層がウェハ上でLED毎に切り離された。各LEDのサイズは約350μm角とした。
【0125】
上記RIE工程の後、リフトオフ法を用いて、透光性電極上にp電極パッドを形成すると同時に、SiドープGaNコンタクト層の露出面上にn電極パッドを形成した。これら2つの電極パッドを構成するメタル膜は、スパッタリング法を用いてTiW、Au、Pt、Au、Pt、Au、Pt、Auをこの順に堆積することにより形成した。電極パッド形成後、リフトオフ法を用いて、電極パッドの表面を除くLEDのおもて側表面をSiO膜で被覆した。このようにして、ウェハ上に行列配置された複数の窒化物系LEDを形成した。
【0126】
(iii)GaN基板の裏面加工
上記電極形成工程を経たウェハに対し、m面GaN基板の裏面を粗化する加工を施した。
この工程では、まず、窒化物系LEDのおもて側(ウェハのエピ側)をフォトレジストによって保護した後、m面GaN基板の裏面にラッピングと、それに続けてポリッシングを施すことにより、該基板の厚さを330μmから200μmまで減じた。
【0127】
次に、該基板のポリッシングされた裏面に、ノボラック樹脂を用いたポジ型フォトレジスト(住友化学株式会社製 スミレジストPFI−34AL)を1.6μmの厚さにコーティングし、フォトリソグラフィ技法を用いて該フォトレジストをパターニングすることによって、図8に示すマスクパターンを形成した。すなわち、複数の円形エッチングマスクが三角格子の格子位置に配置されたマスクパターンである。各円形マスクの直径(図8中のR)は2μm、隣り合う円形マスク間のスペース(図8中のS)は2.5μmとした。
【0128】
マスクパターンの方向は、図9に示すように、三角格子の6つの格子位置を頂点とする正六角形ABCDEFの2つの辺BC、EFが、m面GaN基板のc軸と直交するように定めた。
上記のように形成したマスクパターンを用いてRIE加工を行うことにより、m面GaN基板の裏面を粗化した。エッチングガスとして塩素を用い、アンテナ/バイアスを100W/20W、チャンバー内圧力を0.5Paと設定して、エッチング選択比が約1となるようにした。なお、ここでいうエッチング選択比は、エッチング時間が800秒以下であるときの、〔GaNのエッチングレート〕/〔マスクのエッチングレート〕である。この条件で、1500秒間、RIE加工を行った。マスクパターンは、エッチング時間が約800秒に達したところで殆ど消失した。RIE加工後、有機溶剤を用いてウェハを洗浄した。
【0129】
上記のように加工したm面GaN基板の裏面のSEM像を図10(a)〜(c)に示す。(a)は平面視像、(b)は側面視像、(c)は斜視像である。図10(a)〜(c)のいずれにおいても、右から左に向かう方向が、GaNの[0001]方向(c+方向)であり、左から右に向かう方向がGaNの[000−1]方向(c−方向)である。また、図10(a)においては、上下方向がGaNのa軸方向である。図10(a)では、傾斜が緩やかな部分ほど色が濃く、傾斜の急な部分ほど色が薄くなるように、コントラストが付いている。
【0130】
図10(a)が示すように、RIE加工したm面GaN基板の裏面には、三角格子の格子位置に突起が配置されたパターンが形成されていた。各突起の高さは1.5μmであった。各突起はGaN基板のa面に平行な対称面を有する面対称形状を呈していたが、c+方向側とc−方向側とでは形状が大きく異なっていた。平面形状についていえば、c軸方向を長径方向とする楕円から、c−側が切り取られた形状であった。図10(a)〜(c)から分かるように、突起の頂には小さな平坦面が存在していた。この平坦面のc−側の側壁面(対称面と交差する側壁面)は、上部(該平坦面と交わる部分)に急な傾斜面を有する一方、その中央部から下部にかけての傾斜は緩やかであった。一方、対称面の一方側と他方側にそれぞれ存する側壁面においては、下部における傾斜の方が、上部における傾斜よりも急であった。突起の幅については、c軸方向の幅の方が、a軸方向の幅よりも大きかった。
【0131】
上述の(i)〜(iii)の工程を経て作製したウェハ上のLEDに、20mAの電流を印加したときのEL(Electro Luminescence)強度を、オートプローバを用いて測定した。そして、測定したEL強度を、(iii)の工程でポリッシングまで完了させた段階にある同一のLEDの、同様に測定したEL強度と比較した。その結果、LEDのおもて側から測定したRIE加工後のEL強度(IF2)は、RIE加工前の値(IF1)より170%増加していた[(IF2-IF1)/IF1=1.7]。また、LEDの裏側から測定したRIE加工後のEL強度(IB2)は、RIE加工前の値(IB1)より120%増加していた[(IB2-IB1)/IB1=1.2]。
【0132】
本実験例1において、m面GaN基板の裏面に形成された突起の形状に非対称性が生じたのは、恐らく、次の二つの要因による。第一に、六方晶ウルツ鉱型のGaN結晶が持つ原子配列の非対称性のせいで、GaN基板に形成される突起の側壁の化学的作用に対する感受性がc+方向側とc−方向側とで異なっていたことである。第二に、使用したRIE条件においては、GaN基板に対する比較的強い化学的エッチング作用が生じたことである。これら二つの要因が組み合わさることによって、突起の側壁が受ける化学的エッチングのレートに方向依存性が生じ、突起のc+方向側とc−方向側の形状が大きく異なったと考えられる。
【0133】
上記の推定を支持する観察結果が得られている。図11は、上記実験例1と同じマスクパターンおよび同じRIE条件を用いて、エッチング時間を800秒としたときの、RIE加工後のm面GaN基板の裏面のSEM像であり、(a)は平面視像、(b)は側面視像、(c)は斜視視像である。(a)〜(c)のいずれにおいても、右から左に向かう方向が、GaNのc+方向であり、左から右に向かう方向がGaNのc−方向である。また、図11(a)においては、上下方向がGaNのa軸方向である。図11(a)では、傾斜が緩やかな部分ほど色が濃く、傾斜の急な部分ほど色が薄くなるように、コントラストが付いている。
【0134】
図11(b)が示すように、800秒のRIE加工により形成された突起の高さは1.5μmであり、RIE加工時間が1500秒のときと同じであった。しかし、図11(a)および(c)から分かるように、エッチング時間が短いときの突起の形状は、実験例1で得られた突起よりもずっと円柱に近いものであった。また、突起の、c軸に平行な方向の幅と、a軸に平行な方向の幅とは、略同じであった。このことから、形状の非対称性の小さい突起をm面GaN基板の裏面に形成しようとする場合には、化学的エッチング作用が弱くなるドライエッチング条件を用いればよいと考えられる。
【0135】
このm面GaN基板の裏面のRIE加工時間を800秒とした窒化物系LEDについて、実験例1と同様にしてRIE加工前後のEL強度の変化を調べた。その結果、LEDのおもて側から測定したRIE加工後のEL強度(IF2)は、RIE加工前の値(IF1)より110%増加していた[(IF2-IF1)/IF1=1.1]。また、LEDの裏側から測定したRIE加工後のEL強度(IB2)は、RIE加工前の値(IB1)より90%増加していた[(IB2-IB1)/IB1=0.9]。RIE加工によりEL強度は増加しているものの、加工時間を1500秒としたLEDと比べると増加率は低いことがわかる。
【0136】
(実験例2)
本実験例2では、(iii)の工程に次の3つの変更を加えた他は、上述の実験例1と同様にしてウェハ上にLEDを作製した。
第一に、RIE加工時に用いるマスクを、フォトレジストに代えて厚さ1μmのSiO膜で形成した。第二に、このSiOマスクを、隣り合う円形ドット間のスペース(図8のS)が3.0μmとなるようにパターニングした。第三に、RIE加工時間を3000秒とした。RIE条件は実験例1と同じとしたが、エッチング選択比は7であった。少なくとも加工時間が3000秒以下の範囲では、エッチング深さは加工時間に略比例していた。RIE加工後、残留したSiOマスクの除去は行わなかった。ただし、このマスクはBHFなどを用いてウェハを洗浄すれば、溶解除去することができる。
【0137】
本実験例2で作製したLEDの、m面GaN基板の裏面のSEM像を図12に示す。図12において、(a)は平面視像、(b)は側面視像、(c)は斜視像である。図12(a)〜(c)のいずれにおいても、右から左に向かう方向が、GaNのc+方向であり、左から右に向かう方向がGaNのc−方向である。また、図12(a)においては、上下方向がGaNのa軸方向である。図12(a)では、傾斜が緩やかな部分ほど色が薄くなり、傾斜の急な部分ほど色が濃くなるように、コントラストが付いている。
【0138】
図12(a)が示すように、RIE加工したm面GaN基板の裏面には、三角格子の格子位置に突起が配置されたパターンが形成されていた。各突起の高さ(=エッチング深さ)は6.0μmであった。各突起はGaN基板のa面に平行な対称面を有する面対称形状を呈していたが、c+方向側の部分とc−方向側の部分とでは形状が大きく異なっていた。図12(a)に見られる色の濃い円形部は、SiOマスクが残留している部分である。図12(a)〜(c)が示すように、c−方向側の側壁面の下方に緩やかな傾斜面が形成されており、この部分を除くと、側壁の傾斜は全体的に急であった。また、図12(a)が示すように、突起の幅については、c軸方向の幅の方が、a軸方向の幅よりも広かった。更に、図12(a)から判るように、突起のそれぞれは、少なくとも4つの他の突起、すなわち、図中において右上、右下、左上および左下にそれぞれ位置する他の突起と、間隔なしで接していた。また、図中で左右に並んだ突起同士の間隔や、上下に並んだ突起同士の間隔も、かなり小さかった。
【0139】
本実験例2で作製したLEDについて、実験例1と同様にしてEL強度を測定し、そのEL強度を、(iii)の工程でポリッシングまで完了させた段階にある同一のLEDの、同様に測定したEL強度と比較した。その結果、LEDのおもて側から測定したRIE加工後のEL強度(IF2)は、RIE加工前の値(IF1)より190%増加していた[(IF2-IF1)/IF1=1.9]。また、LEDの裏側から測定したRIE加工後のEL強度(IB2)も、RIE加工前の値(IB1)より190%増加していた[(IB2-IB1)/IB1=1.9]。
本実験例2に係る図12の粗化面は、突起の高さが前記実験例1に係る図10の粗化面の突起の4倍であることを考慮すると、光取出し効率の改善効果がそれ程高いとはいえない。
【0140】
(実験例3)
上述の実施形態1に係る窒化物系LED100と同様の基本構造を有する窒化物系LEDを、以下に詳述する(i)エピタキシャル成長、(ii)電極形成および(iii)GaN基板の裏面加工の、3つの工程を順次行なうことによりウェハ上に作製し、その発光出力を評価した。
【0141】
(i)エピタキシャル成長
エピタキシャル成長用に鏡面仕上げされた表面(c+面)を有する、厚さ400μmのc面GaN基板(極性基板)を準備した。このc面GaN基板の上記鏡面仕上げされた表面上に、通常のMOVPE装置を用いて、窒化物半導体からなるダブルヘテロpn接合型の発光構造を含む多層エピタキシャル膜を成長させて、エピウェハを作製した。
【0142】
具体的には、c面GaN基板側から順に、厚さ10nmのアンドープGaN層、厚さ4000nmのSiドープGaNコンタクト層、厚さ200nmのアンドープGaN層、厚さ20nmのSiドープGaN層、MQW構造の活性層、厚さ130nmのMgドープAl0.09Ga0.91N層、厚さ60nmのMgドープAl0.03Ga0.97Nコンタクト層を順次成長させた。MQW構造の活性層は、7層のGaN障壁層と6層のInGaN井戸層とを、最下層および最上層がGaN障壁層となるように交互に積層することにより形成した。GaN障壁層の厚さは15nm、InGaN井戸層の厚さは2.3nmとした。InGaN井戸層を成長させるときには、最終的に得られるLEDの発光ピーク波長が約440nmとなるよう、III族原料であるTMG(トリメチルガリウム)とTMI(トリメチルインジウム)の供給量を制御した。Mgドープ層に添加したMgの活性化は、実験例1の場合と同様にして行った。
【0143】
(ii)電極形成
電極形成工程では、まず、上記エピタキシャル成長工程で得たエピウェハのp型Al0.03Ga0.97Nコンタクト層上に、ITO膜からなる透光性電極を形成した。このITO膜は電子ビーム蒸着法を用いて形成し、フォトリソグラフィ技法を用いて所定の形状にパターニングした。
【0144】
次に、RIE法を用いて、後の工程でn電極パッドを形成する部分に、SiドープGaNコンタクト層を露出させた。同時に、この工程では素子分離(device isolation)のために、ウェハ上で隣接するLED間の境界上の部位にもSiドープGaNコンタクト層を露出させた。これによって、活性層およびp型層がウェハ上でLED毎に切り離された。
各LEDのサイズは約350μm角とした。
【0145】
上記RIE工程の後、リフトオフ法を用いて、SiドープGaNコンタクト層の露出面上に、n電極パッドの最下層としてAl層を形成した。このAl層を熱処理した後、リフトオフ法を用いて、透光性電極上にp電極パッドを形成すると同時に、p電極パッドを構成するメタル膜と同じメタル膜を上記のAl層上に積層した。p電極パッドを構成するメタル膜は、スパッタリング法を用いてTiW、Au、Pt、Au、Pt、Au、Pt、Auをこの順に堆積することにより形成した。このようにして2つの電極パッドを形成した後、リフトオフ法を用いて、電極パッドの表面を除くLEDのおもて側表面をSiO膜で被覆した。このようにして、ウェハ上に行列配置された複数の窒化物系LEDを形成した。
【0146】
(iii)GaN基板の裏面加工
上記電極形成工程を経たウェハに対し、c面GaN基板の裏面(c−面)を粗化する加工を施した。
この工程では、まず、窒化物系LEDのおもて側をフォトレジストによって保護した後、c面GaN基板の裏面にラッピングと、それに続けてポリッシングを施すことにより、該基板の厚さを400μmから200μmまで減じた。
【0147】
次に、該基板のポリッシングされた裏面に、ノボラック樹脂を用いたポジ型フォトレジスト(住友化学株式会社製 スミレジストPFI−34AL)を1.6μmの厚さにコーティングし、フォトリソグラフィ技法を用いて該フォトレジストをパターニングすることによって、図8に示すマスクパターンを形成した。すなわち、複数の円形エッチングマスクが三角格子の格子位置に配置されたマスクパターンである。各円形マスクの直径(図8中のR)は2μm、隣り合う円形マスク間のスペース(図8中のS)は2.5μmとした。マスクパターンの方向は、三角格子の6つの格子位置を頂点とする正六角形の2つの辺が、GaNのm軸と直交するように定めた。
【0148】
上記のように形成したマスクパターンを用いてRIE加工を行うことにより、c面GaN基板の裏面を粗化した。エッチングガスとして塩素を用い、アンテナ/バイアスを100W/20W、チャンバー内圧力を0.5Paと設定して、エッチング選択比が約1.2となるようにした。なお、ここでいうエッチング選択比は、エッチング時間が1000秒以下であるときの、〔GaNのエッチングレート〕/〔マスクのエッチングレート〕である。この条件で、1000秒間、RIE加工を行った。マスクパターンは、エッチング時間が約1000秒に達したところで殆ど消失していた。RIE加工後、有機溶剤を用いてウェハを洗浄した。
【0149】
上記のように加工したc面GaN基板の裏面のSEM像を図13(a)〜(c)に示す。(a)は平面視像、(b)は側面視像、(c)は斜視像である。図13(a)および(c)においては、左右方向がGaNのm軸方向である。また、図13(a)においては、上下方向がGaNのa軸方向である。図13(a)では、傾斜が緩やかな部分ほど色が濃く、傾斜の急な部分ほど色が薄くなるように、コントラストが付いている。
【0150】
図13(a)が示すように、c面GaN基板の裏面には、三角格子の格子位置に突起が配置されたパターンが形成されていた。各突起の高さは2.0μmであった。図13(a)〜(c)が示すように、突起の形状は円錐台で、側壁の上部(上面と交わる部分)に傾斜が緩やかになった部分があり、側壁の中央部から下部にかけての傾斜は上部より急であった。図13(a)から判るように、突起間に間隔がないため、粗化面を平面視したときの各突起の外周形状は正六角形となった。
【0151】
本実験例3で作製したLEDについて、実験例1と同様にして、EL強度を測定し、そのEL強度を、(iii)の工程でポリッシングまで完了させた段階の同一のLEDの、同様に測定したEL強度と比較した。その結果、LEDのおもて側から測定したRIE加工後のEL強度(IF2)は、RIE加工前の値(IF1)より170%増加していた[(IF2-IF1)/IF1=1.7]。また、LEDの裏側から測定したRIE加工後のEL強度(IB2)は、RIE加工前の値(IB1)より320%増加していた[(IB2-IB1)/IB1=3.2]。この結果は、RIE加工によって、LEDの内部側から入射する光に対するGaN基板の裏面の反射率が大きく低下したことを示唆している。
本実験例3に係る図13の粗化面は、突起の高さが前記実験例2に係る図12の粗化面の突起の3分の1であることを考慮すると、光取出し効率の改善効果が非常に優れているといえる。
【0152】
(実験例4)
本実験例4では、(iii)の工程に次の3つの変更を加えた他は、上述の実験例3と同様にしてウェハ上にLEDを作製した。
第一に、RIE加工時に用いるマスクを、フォトレジストに代えて厚さ1μmのSiO膜で形成した。第二に、このSiOマスクを、隣り合う円形ドット間のスペース(図8のS)が3.0μmとなるようにパターニングした。第三に、RIE加工時間を3000秒とした。RIE条件は実験例1と同じとしたが、エッチング選択比は約7であった。
少なくとも加工時間が3000秒以下の範囲では、エッチング深さは加工時間に略比例していた。RIE加工後、残留したSiOマスクの除去は行わなかった。ただし、このマスクはBHFなどを用いてウェハを洗浄すれば、溶解除去することができる。
【0153】
本実験例4で作製したLEDの、c面GaN基板の裏面のSEM像を図14に示す。図14において、(a)は平面視像、(b)は側面視像、(c)は斜視像である。図14(a)〜(c)のいずれにおいても、左右方向がGaNのm軸方向である。また、図14(a)においては、上下方向がGaNのa軸方向である。図14(a)では、傾斜が緩やかな部分ほど色が濃く、傾斜の急な部分ほど色が薄くなるように、コントラストが付いている。
【0154】
図14(a)が示すように、c面GaN基板の裏面には、三角格子の格子位置に突起が配置されたパターンが形成されていた。各突起の高さ(=エッチング深さ)は5.9μmであった。図14(a)〜(c)が示すように、突起の形状は狭い上面を有する円錐台であり、円錐に近いものであった。図14(a)から分かるように、突起間には間隔が存在しておらず、そのために、粗化面を平面視したときの各突起の外周形状は正六角形となっていた。
【0155】
本実験例4で作製したLEDについて、実験例1と同様にして、EL強度を測定し、そのEL強度を、(iii)の工程でポリッシングまで完了させた段階の同一のLEDの、同様に測定したEL強度と比較した。その結果、LEDのおもて側から測定したRIE加工後のEL強度(IF2)は、RIE加工前の値(IF1)より180%増加していた[(IF2-IF1)/IF1=1.8]。また、LEDの裏側から測定したRIE加工後のEL強度(IB2)は、RIE加工前の値(IB1)より540%増加していた[(IB2-IB1)/IB1=5.4]。
突起の高さが同じである前記実験例2においては、LEDの裏側から測定したEL強度のRIE加工による増加が190%であったことを考慮すると、本実験例4における540%という高い値は驚異的である。
【0156】
(実験例5)
実験例1では(iii)の工程においてマスクパターンの方向を、図9に示すように、三角格子の6つの格子位置を頂点とする正六角形ABCDEFの2つの辺BC、EFが、m面GaN基板のc軸と直交するように定めた。それに対して、本実験例5では、マスクパターンの方向を30度回転させて、三角格子の6つの格子位置を頂点とする正六角形の2つの辺が、m面GaN基板のc軸と平行となるようにした。その他は実験例1と同様にして、m面GaN基板の裏面をRIE加工した窒化物系LEDを作製した。
【0157】
RIE加工後のm面GaN基板の裏面のSEM像を図21に示す。図21(a)は平面視像、図21(b)は側面視像、図21(c)は斜視像である。これらのSEM像から分かるように、突起のそれぞれは三角格子の格子位置に配置されており、各突起の高さは1.5μmであった。実験例1とマスクパターンの方向が異なるにもかかわらず、個々の突起の形状が持つ特徴は実験例1と共通していた。すなわち、各突起はGaN基板のa面に平行な対称面を有する面対称形状を呈する一方、c−方向側とc+方向側とでは形状が大きく異なっていた。この結果は、突起形状の非対称性が生じるメカニズムに関する前述の推定と矛盾しない。
RIE加工後のEL強度(I2)のRIE加工前のEL強度(I1)に対する増加率(I2-I1)/I1については、LEDのおもて側および裏側のいずれから測定した場合についても、実験例1と略同じであった。
【0158】
(実験例6)
実験例2では(iii)の工程においてマスクパターンの方向を、図9に示すように、三角格子の6つの格子位置を頂点とする正六角形ABCDEFの2つの辺BC、EFが、m面GaN基板のc軸と直交するように定めた。それに対して、本実験例6では、マスクパターンの方向を30度回転させて、三角格子の6つの格子位置を頂点とする正六角形の2つの辺が、m面GaN基板のc軸と平行となるようにした。その他は実験例2と同様にして、m面GaN基板の裏面をRIE加工した窒化物系LEDを作製した。
【0159】
RIE加工後のm面GaN基板の裏面のSEM像を図22に示す。図22(a)は平面視像、図22(b)は斜視像、図22(c)は側面視像である。これらのSEM像から分かるように、突起のそれぞれは三角格子の格子位置に配置されており、各突起の高さは6.5μmであった。実験例2とマスクパターンの方向が異なるにもかかわらず、個々の突起の形状が持つ特徴は実験例2と共通していた。すなわち、各突起はGaN基板のa面に平行な対称面を有する面対称形状を呈する一方、c−方向側とc+方向側とでは形状が大きく異なっていた。
【0160】
(実験例7)
本実験例7では、半極性(20−21)面GaN基板を使用して窒化物系LEDを作製した。発光構造を含むエピタキシャル膜はNリッチ面である(20−21)面上に成長させ、Gaリッチ面である(20−2−1)面をRIE加工した。使用したエッチングマスク(フォトレジスト製)およびRIE条件(エッチング時間を含む)は実験例1と同じである。マスクパターンの方向は、三角格子の6つの格子位置を頂点とする正六角形の2つの辺が、(20−21)面GaN基板のc軸と直交するように定めた。
【0161】
RIE加工後のGaN基板の裏面のSEM像を図32に示す。図32(a)は平面視像、図32(b)は斜視像である。各突起の高さは1.5μmであった。
また、実験例1と同様にしてRIE加工前後のEL強度の変化を調べたところ、LEDのおもて側から測定したRIE加工後のEL強度(IF2)は、RIE加工前の値(IF1)より50%増加していた[(IF2-IF1)/IF1=0.5]。また、LEDの裏側から測定したRIE加工後のEL強度(IB2)は、RIE加工前の値(IB1)より30%増加していた[(IB2-IB1)/IB1=0.3]。RIE加工によりEL強度は増加しているものの、実験例1の結果と比べると増加率はかなり低いといえる。
【0162】
(実験例8)
本実験例8では、半極性(20−21)面GaN基板を使用して窒化物系LEDを作製した。発光構造を含むエピタキシャル膜はGaリッチ面である(20−2−1)面上に成長させ、Nリッチ面である(20−21)面をRIE加工した。使用したエッチングマスク(フォトレジスト製)およびRIE条件(エッチング時間を含む)は実験例1と同じである。マスクパターンの方向は、三角格子の6つの格子位置を頂点とする正六角形の2つの辺が(20−21)面GaN基板のa軸と直交するように定めた。
【0163】
RIE加工後の(20−21)面のSEM像(平面視像)を図23に示す。突起のそれぞれは三角格子の格子位置に配置されており、各突起の高さは約1.7μmであった。各突起はGaN基板のa面に平行な対称面を有する面対称形状を呈する一方、c−方向側とc+方向側とでは形状が大きく異なっていた。また、各突起は側壁に緩やかな傾斜面を含んでおらず、ある1つの突起に対して間隔なしで隣接する他の突起は2つのみであった。
【0164】
(実験例9)
本実験例9では、半極性(20−21)面GaN基板を使用して窒化物系LEDを作製した。発光構造を含むエピタキシャル膜はGaリッチ面である(20−2−1)面上に成長させ、Nリッチ面である(20−21)面をRIE加工した。使用したエッチングマスクおよびRIE条件(エッチング時間を含む)は実験例2と同じである。マスクパターンの方向は、三角格子の6つの格子位置を頂点とする正六角形の2つの辺が、(20−21)面GaN基板のc軸と直交するように定めた。
【0165】
RIE加工後のGaN基板の裏面のSEM像を図16に示す。図16(a)は平面視像、図16(b)は斜視像である。これらのSEM像から分かるように、突起のそれぞれは三角格子の格子位置に配置されており、各突起の高さは約6μmであった。また、各突起はGaN基板のa面に平行な対称面を有する面対称形状を呈する一方、c−方向側とc+方向側とでは形状が大きく異なっていた。
【0166】
(実験例10)
本実験例10では、発光構造を含むエピタキシャル膜をNリッチ面である(20−21)面上に成長させ、Gaリッチ面である(20−2−1)面をRIE加工したこと以外は実験例9と同様にして、窒化物系LEDを作製した。
【0167】
RIE加工後のGaN基板の裏面のSEM像(斜視像)を図17に示す。
実験例2と同様にしてRIE加工前後のEL強度の変化を調べた結果、LEDのおもて側から測定したRIE加工後のEL強度(IF2)は、RIE加工前の値(IF1)より30%増加していた[(IF2-IF1)/IF1=0.3]。また、LEDの裏側から測定したRIE加工後のEL強度(IB2)は、RIE加工前の値(IB1)より40%増加していた[(IB2-IB1)/IB1=0.4]。RIE加工によりEL強度は増加しているものの、実験例2の結果と比べると増加率はかなり低いといえる。
【0168】
(実験例11)
本実験例11では、半極性(10−11)面GaN基板を使用して窒化物系LEDを作製した。発光構造を含むエピタキシャル膜はGaリッチ面である(10−1−1)面上に成長させ、Nリッチ面である(10−11)面をRIE加工した。使用したエッチングマスクおよびRIE条件(エッチング時間を含む)は実験例2と同じである。マスクパターンの方向は、三角格子の6つの格子位置を頂点とする正六角形の2つの辺が、(20−21)面GaN基板のc軸と直交するように定めた。
【0169】
RIE加工後のGaN基板の裏面のSEM像を図27に示す。図27(a)は平面視像、図27(b)は斜視像である。これらのSEM像から分かるように、突起のそれぞれは三角格子の格子位置に配置されており、各突起の高さは約6μmであった。また、各突起はGaN基板のa面に平行な対称面を有する面対称形状を呈する一方、c−方向側とc+方向側とでは形状が大きく異なっていた。
【0170】
(実験例12)
本実験例12では、発光構造を含むエピタキシャル膜をNリッチ面である(10−11)面上に成長させ、Gaリッチ面である(10−1−1)面をRIE加工したこと以外は実験例11と同様にして、窒化物系LEDを作製した。
RIE加工後のGaN基板の裏面のSEM像(斜視像)を図18に示す。
【0171】
(シミュレーション)
c面GaN基板のc−面のRIE加工により得られた粗化面(図14)と、c+面のRIE加工により得られた粗化面(図15)とでは、いずれがより高い光取出し効率の改善効果を有するのかを、シミュレーション手法を用いて評価した。その詳細および結果を以下に記す。
【0172】
このシミュレーションでは、図1に示す窒化物系LED100における、GaN基板110の裏面が図19に示す粗化面Aであるときと、図20に示す粗化面Bであるときの、光取出し効率および軸上放射束を比較した。
粗化面A(図19)と粗化面B(図20)は、いずれも、各々が三角格子の格子位置に位置する複数の突起を有しており、三角格子の格子ピッチ(4.5μm)および突起の高さ(5.7μm)は同じである。異なるのは突起の形状であり、粗化面Aでは突起15Aが円錐であるのに対し、粗化面Bでは突起15Bが、円柱の先端側を円錐状に尖らせた形状を有している。
粗化面Aにおける各突起15Aの底面の直径は三角格子のピッチと同じである。すなわち、複数の突起15Aは、いずれのひとつに対しても、その周囲の6つが接触するように配置されている。
一方、粗化面Bにおいては、複数の突起15Bのそれぞれは、周囲の6つとの間に所定の間隔を有している。シミュレーションでは、突起15Bの底面(円柱部分の底面)の直径は3.0μmとし、先端側の円錐部分の高さは2.7μmとした。
【0173】
その他のシミュレーション条件については次のように設定した。
窒化物系LED100の発光波長は405nmであるものとした。GaN基板110は屈折率2.53を有するものとし、そのサイズは縦横350μm×350μm、厚さ100μmとした。多層エピタキシャル膜120の厚さは10μmとした。便宜のために、多層エピタキシャル膜120はその内部が光学的に一様であるものとし、その屈折率はGaN基板110と同じとした。また、GaN基板110および多層エピタキシャル膜120は消衰係数1×10−7を有するものと設定した。ITOで形成された透光性電極130は、屈折率2.0、消衰係数0.02、面積58656μmを有するものと設定した。p電極パッド140とn電極パッド150はいずれも直径100μmとし、屈折率1.5、消衰係数1.88を有するものとした。この屈折率および消衰係数はAuの値を参照したものである。単純化のために、パッシベーション膜160は省略した。GaN基板110の裏面を除いて、窒化物系LED100の表面は滑らかな光学表面であるものとした。
【0174】
窒化物系LED100は反射率80%のフラットな拡散反射板上に、電極パッド140と150が該拡散反射板の表面に接するように、すなわち、フリップチップ実装の姿勢で設置されているものとした。また、窒化物系LED100を取り囲む媒体は屈折率1を有するものとした。
【0175】
シミュレーションはORA社(現Synopsis社)の照明設計解析ソフトウェアであるLightTools(登録商標)を用いて光線追跡法により行った。活性層122から出る光線エネルギーに対する、窒化物系LED100の内部から外側の媒体中に脱出する光線エネルギーの比を、光取出し効率として算出した。また、軸上方向(発光層122に平行な平面と見なしたGaN基板110の裏面に対する法線方向)を中心とする所定の角度範囲内に放射される光線エネルギーを、軸上放射束として算出した。
【0176】
シミュレーションの結果を表1に示す。光取出し効率と軸上放射束はいずれも、GaN基板110の裏面が粗化面Bであるときの値を1とした相対値で示している。
【0177】
【表1】

【0178】
表1には±30°、±20°、±10°という3種類の軸上放射束が示されている。これらは、それぞれ、発光層122に平行な平面と見なしたGaN基板110の裏面に対する法線方向から30°、20°、10°の範囲内に放射される光線のみが軸上放射束に寄与すると仮定したときの値を示している。
【0179】
表1のシミュレーション結果は、粗化面Aの方が粗化面Bよりも光取出し効率の改善効果が高いことを示している。また、GaN基板110の裏面が粗化面Aである窒化物系LED100は、該裏面が粗化面Bであるものに比べて、軸上放射束が著しく高いものとなることを示している。後者は、GaN基板110の裏面を粗化面Aとしたときの方が、粗化面Bとしたときよりも、窒化物系LED100をフリップチップ実装した発光装置の軸上光度がずっと高くなることを意味している。
【0180】
以上、本発明を具体的な実施形態に即して説明したが、本発明は本明細書において明示された実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内において種々変形することができる。
【0181】
(付記)
更に、次の発明を開示する。
(E1)窒化物半導体基板または窒化物半導体層の一方面上に形成され、Hfが1×1019cm−3以上2×1021cm−3以下の濃度に添加された窒化物半導体膜と、該窒化物半導体膜の表面に形成された電極パッドと、を有する半導体素子。
(E2)上記窒化物半導体基板または窒化物半導体層の他方面上に窒化物半導体からなる発光構造を有する、上記(E1)の半導体素子。
(E3)上記窒化物半導体膜が、上記窒化物半導体基板または窒化物半導体層の上記一方面の全体または略全体を覆うように形成されている、上記(E2)の半導体素子。
(E4)上記窒化物半導体膜の厚さが0.1〜5μmである、上記(E3)の半導体素子。
(E5)上記窒化物半導体基板または窒化物半導体層のキャリア濃度が5×1017cm−3以下である、上記(E4)の半導体素子。
(E6)上記窒化物半導体膜の表面に粗化領域と平坦領域とが設けられており、上記電極パッドは該平坦領域上に形成されている、上記(E2)〜(E5)のいずれかの半導体素子。
(E7)窒化物半導体基板または窒化物半導体層の一方面上に、Hfが1×1019cm−3以上2×1021cm−3以下の濃度に添加された窒化物半導体膜を形成する第1ステップと、該窒化物半導体膜の表面に電極パッドを形成する第2ステップと、を有する半導体素子の製造方法。
(E8)上記窒化物半導体基板または窒化物半導体層の他方面上に窒化物半導体からなる発光構造が設けられている、上記(E7)の製造方法。
(E9)上記窒化物半導体膜を、上記窒化物半導体基板または窒化物半導体層の上記一方面の全体または略全体を覆うように形成する、上記(E8)の製造方法。
(E10)上記窒化物半導体膜の厚さが0.1〜5μmである、上記(E9)の製造方法。
(E11)上記窒化物半導体基板または窒化物半導体層のキャリア濃度が5×1017cm−3以下である、上記(E10)の製造方法。
(E12)上記第1ステップの後に、上記窒化物半導体膜の表面に粗化領域と平坦領域とを設ける第3ステップを有し、上記第2ステップでは上記電極パッドを該平坦領域上に形成する、(E8)〜(E11)のいずれかの製造方法。
(E13)上記第1ステップの後に、上記窒化物半導体膜の表面の少なくとも一部をマスクパターンを用いることなくウェットエッチングまたはドライエッチングすることによって自然な粗化面とする第4ステップを有する、上記(E7)〜(E12)のいずれかの製造方法。
(E14)上記第1ステップにおける上記窒化物半導体膜の成膜温度が700℃以下である、上記(E7)〜(E13)の製造方法。
(E15)上記第1ステップにおける上記窒化物半導体膜の形成方法がPXD法を含む、上記(E7)〜(E14)の製造方法。
【符号の説明】
【0182】
100、101、102、103、200、300 窒化物系LED
110、210、310 GaN基板
110a、210a、310a おもて面
110b、210b、310b 裏面
110b−1、210b−1、310b−1 粗化領域
110b−2、210b−2、310b−2 平坦領域
120、220、320 多層エピタキシャル膜
121、221、321 n型層
122、222、322 活性層
123、223、323 p型層
130、230、330 透光性電極
140、240、340 p電極パッド
150、250、350 n電極パッド
160、260、360 パッシベーション膜
S1、S2、S3 支持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物半導体基板のおもて面上に窒化物半導体からなる発光構造を有する窒化物系LEDであって、
該基板の裏面には粗化領域が設けられており、
該粗化領域は複数の突起を有しており、
該複数の突起の各々は頂点または頂面を有し、かつ、その水平断面が隣接する他の突起と接する部分を除いて円形であり、かつ、該水平断面の面積が該頂点または頂面に近づくにつれて減少しており、
更に、該複数の突起は、いずれのひとつに対しても他の6つが接触するように配置されており、
該発光構造で生じる光が該粗化領域を通して外部に出射される、
ことを特徴とする窒化物系LED。
【請求項2】
窒化物半導体基板と、該基板上に積層された多層膜構造の窒化物半導体からなる発光部と、を含む窒化物半導体積層体を有する窒化物系LEDであって、
該積層体の該基板側の面には粗化領域が設けられており、
該粗化領域は複数の突起を有しており、
該複数の突起の各々は頂点または頂面を有し、かつ、その水平断面が隣接する他の突起と接する部分を除いて円形であり、かつ、該水平断面の面積が該頂点または頂面に近づくにつれて減少しており、
更に、該複数の突起は、いずれのひとつに対しても他の6つが接触するように配置されており、
該発光部で生じる光が該粗化領域を通して外部に出射される、
ことを特徴とする窒化物系LED。
【請求項3】
n型窒化物半導体層、活性層およびp型窒化物半導体層を含む複数の窒化物半導体層が第1の窒化物半導体層の一方の面上に積層されており、
該第1の窒化物半導体層の他方の面には粗化領域が設けられており、
該粗化領域は複数の突起を有しており、
該複数の突起の各々は頂点または頂面を有し、かつ、その水平断面が隣接する他の突起と接する部分を除いて円形であり、かつ、該水平断面の面積が該頂点または頂面に近づくにつれて減少しており、
更に、該複数の突起は、いずれのひとつに対しても他の6つが接触するように配置されており、
該活性層で生じる光が該粗化領域を通して外部に出射される、
ことを特徴とする窒化物系LED。
【請求項4】
前記粗化領域を平面視したときの前記複数の突起の各々の外周形状が六角形である、請求項1〜3のいずれかに記載の窒化物系LED。
【請求項5】
前記粗化領域を平面視したときの前記複数の突起の各々の外周形状が正六角形である、請求項4に記載の窒化物系LED。
【請求項6】
前記複数の突起の各々が三角格子の格子位置に配置されており、かつ、前記複数の突起の各々の高さは該三角格子のピッチの0.4〜1.5倍である、請求項1〜5のいずれかに記載の窒化物系LED。
【請求項7】
前記複数の突起の各々の高さが1〜8μmである、請求項1〜6のいずれかに記載の窒化物系LED。
【請求項8】
窒化物半導体からなる発光構造がおもて面上に形成された窒化物半導体基板の裏面に、粗化領域を設ける第1ステップを有し、
該粗化領域は複数の突起を有しており、
該複数の突起の各々は頂点または頂面を有し、かつ、その水平断面が隣接する他の突起と接する部分を除いて円形であり、かつ、該水平断面の水平断面積が該頂点または頂面に近づくにつれて減少しており、
更に、該複数の突起は、いずれのひとつに対しても他の6つが接触するように配置されており、
該第1ステップでは該基板をドライエッチング法で加工することによって該粗化領域を形成する、
窒化物系LEDの製造方法。
【請求項9】
窒化物半導体基板と、該基板上に積層された多層膜構造の窒化物半導体からなる発光部と、を含む窒化物半導体積層体を準備する第1ステップと、
該積層体の該基板側の面に粗化領域を設ける第2ステップと、を有し、
該粗化領域は複数の突起を有しており、
該複数の突起の各々は頂点または頂面を有し、かつ、その水平断面が隣接する他の突起と接する部分を除いて円形であり、かつ、該水平断面の水平断面積が該頂点または頂面に近づくにつれて減少しており、
更に、該複数の突起は、いずれのひとつに対しても他の6つが接触するように配置されており、
該第2ステップでは、該窒化物半導体積層体をドライエッチング法で加工することによって該粗化領域を形成する、
窒化物系LEDの製造方法。
【請求項10】
n型窒化物半導体層、活性層およびp型窒化物半導体層を含む複数の窒化物半導体層が第1の窒化物半導体層の一方の面上に積層された多層構造を準備する第1ステップと、
該第1の窒化物半導体層の他方の面に粗化領域を設ける第2ステップと、を有し、
該粗化領域は複数の突起を有しており、
該複数の突起の各々は頂点または頂面を有し、かつ、その水平断面が隣接する他の突起と接する部分を除いて円形であり、かつ、該水平断面の水平断面積が該頂点または頂面に近づくにつれて減少しており、
更に、該複数の突起は、いずれのひとつに対しても他の6つが接触するように配置されており、
該第2ステップでは、該第1の窒化物半導体層をドライエッチング法で加工することによって該粗化領域を形成する、
窒化物系LEDの製造方法。
【請求項11】
前記粗化領域を平面視したときの前記複数の突起の各々の外周形状が六角形である、請求項8〜10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
前記粗化領域を平面視したときの前記複数の突起の各々の外周形状が正六角形である、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記複数の突起の各々が三角格子の格子位置に配置されており、かつ、前記複数の突起の各々の高さは該三角格子のピッチの0.4〜1.5倍である、請求項8〜12のいずれかに記載の製造方法。
【請求項14】
前記複数の突起の各々の高さが1〜8μmである、請求項8〜13のいずれかに記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図19】
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【図20】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図27】
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【図32】
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【公開番号】特開2012−231122(P2012−231122A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−36851(P2012−36851)
【出願日】平成24年2月22日(2012.2.22)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】