説明

窒化物結晶の製造方法、製造容器および部材

【課題】種結晶上以外の部分に窒化物結晶が析出するのを抑制し、種結晶上へ成長する窒化ガリウム単結晶の生産効率を向上させることのできる窒化物結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】鉱化剤を含有する溶液を入れた容器1内でアモノサーマル法により窒化物結晶を製造する際に、容器1および容器1内に設置される部材5、6の表面のうち溶液に接触する部分の少なくとも一部が、タンタル(Ta)、タングステン(W)およびチタン(Ti)からなる群より選択される1種以上の原子を含む金属または合金で構成され、且つ、表面粗さ(Ra)が1.80μm未満となるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物結晶を成長させるアモノサーマル法に関する。特に該窒化物結晶を成長させる容器の材質に特徴のあるアモノサーマル法に関する。
【背景技術】
【0002】
アモノサーマル法は、超臨界状態および/または亜臨界状態にあるアンモニア溶媒を用いて、原材料の溶解−析出反応を利用して所望の材料を製造する方法である。アモノサーマル法を結晶成長へ適用するときは、アンモニア溶媒への原料溶解度の温度依存性を利用して温度差により過飽和状態を発生させて結晶を析出させる。
【0003】
アモノサーマル法と類似のハイドロサーマル法は、溶媒に超臨界および/または亜臨界状態の水を用いて結晶成長を行うが、主に水晶(SiO2)および酸化亜鉛(ZnO)などの酸化物結晶に適用される方法である。
【0004】
一方、アモノサーマル法は窒化物結晶に適用することができ、窒化ガリウムなどの窒化物結晶の成長に利用されている。アモノサーマル法による窒化ガリウム結晶の育成は、高温高圧(500℃以上、150MPa以上)の超臨界アンモニア環境下での反応であり、このような環境に耐える装置の設計および材料の選定は容易ではない。
【0005】
超臨界状態の純アンモニア中への窒化ガリウムの溶解度は極めて小さいため、溶解度を向上させて結晶成長を促進させるために、鉱化剤を添加する。鉱化剤は、ハロゲン化アンモニウムNH4X(X=Cl、BrまたはI)に代表される酸性鉱化剤と、アルカリアミドXNH2(X=Li、NaまたはK)に代表される塩基性鉱化剤とに分類される。これら鉱化剤を含む超臨界アンモニア環境は、極めて苛酷な腐食環境となっている。
【0006】
前記腐食環境の温度圧力に耐える強度を有する材料(例えば、Ni基超合金であるAlloy625およびRENE41など)を用いて圧力容器(オートクレーブ)を製造することができるが、超臨界アンモニアに対する完全防食性は有していない。特に、酸性鉱化剤は前記合金に対する腐食性が強いため、高い耐腐食性を有する材料による防食技術の確立が必要となる。
【0007】
これに対して、酸性鉱化剤を用いる場合、防食性が確認されている貴金属(白金、イリジウムおよび白金イリジウム合金)が、オートクレーブ内面ライニング用材料または内筒式反応容器用材料として用いられる(特許文献1)。
【0008】
アモノサーマル法による窒化ガリウム単結晶成長では、通常種結晶を使用する。種結晶としては、成長させる結晶と格子定数が同じかまたは極めて近い結晶が用いられる。最も理想的な種結晶は、窒化ガリウム単結晶であり、その上にホモエピタキシャル成長させることにより、窒化ガリウム単結晶を得る。
【0009】
しかし実際には、種結晶上以外の場所にも、意図せずに窒化ガリウム微結晶が析出することがある。当該析出は自発核発生によるものである。種結晶上以外の場所とは、反応容器の内面、つまり貴金属ライニング材の表面または種結晶を保持している構造物の表面を意味する。
【0010】
前記自発核発生による窒化ガリウム微結晶は、本来析出するはずの種結晶上への結晶成長を阻害し、生産性を低下させる原因となる。従って、種結晶上以外への窒化ガリウム微結晶の析出をできるだけ抑制することが、窒化物結晶の生産性を向上するために不可欠である。
【0011】
このような問題を解決する方法として、溶媒であるアンモニアと臨界密度の異なる物質とを反応容器内に導入し、臨界密度差を利用して該物質を反応容器上部または下部に偏在させることにより、当該部分での結晶析出を抑制する方法が提案されている(特許文献2)。
【0012】
更に、発生した窒化ガリウム微結晶が離脱し、育成している窒化物結晶中に取り込まれるのを防ぐために析出物捕集ネットおよび析出防止の傘板などを設置することが提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】日本国特開2005−289797号公報
【特許文献2】日本国特開2007−39321号公報
【特許文献3】日本国特開2004−2152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
超臨界アンモニアによる腐食を防ぐために反応容器内面を白金、イリジウムおよび白金イリジウム合金などの貴金属でライニングする手法が広く用いられている。しかし、これら貴金属ライニング材の表面には、自発核発生による窒化物微結晶が大量に付着する。そのため、本来析出すべき種結晶上への析出量を奪い、窒化物結晶の生産性を低下させることが問題となっている。
【0015】
これまでは超臨界アンモニア中での耐腐食性のみを考慮に入れて材料を選択していたために、自発核発生結晶の生成しやすさおよび付着性に関しては考慮されてこなかった。実際の結晶成長では、前記問題点は極めて重要であり、耐腐食性に加えて自発核発生結晶の生成および付着を抑制できる材料の選定が必要である。
【0016】
貴金属ライニング材表面に窒化物微結晶が付着すると、窒化物単結晶として種結晶上に析出すべき原料を消費し、生産性を低下させるばかりでなく、析出により壁面に凹凸が生ずるために溶液の対流を妨げる原因にもなる。
【0017】
さらに、生成した窒化物微結晶は溶液中に離脱し、対流に乗って運ばれることにより成長中の窒化物単結晶表面に到達すると、結晶内部に取り込まれて固相インクルージョンの原因となる。
【0018】
また、窒化物微結晶が厚く堆積すると、熱伝導を妨げるためオートクレーブ内部環境を変化させ、窒化物単結晶の成長にとって最重要パラメータである溶液中の窒化物原料の過飽和度を変化させてしまうことに繋がる。
【0019】
従って、従来技術による材料は耐腐食性を満たしていたが、当該耐腐食性材料によりライニングされた表面への窒化物微結晶の析出および付着に関しては、全く解決の出口が見えていなかった。
【0020】
特許文献2に提案されている超臨界アンモニア臨界密度の異なる物質の反応容器内への導入による効果は、上部配管部位などに限定されており、自発核発生による窒化物微結晶の大半を占める反応容器内面および反応容器内部の構造物表面への析出および付着を抑制するには至っていない。
【0021】
また、特許文献3に提案されている捕集ネットおよび傘板の設置も、窒化物微結晶の析出と付着を抑制する機能は備えておらず、窒化物結晶の生産性の低下を防ぐには至っていない。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、アモノサーマル法による窒化物結晶の製造において、自発核発生による窒化物微結晶の析出量が、製造容器内部の材料の種類および表面状態により予想以上に大きく異なることを見出した。
【0023】
さらに、製造容器内部の材料に、平滑な表面状態を有する特定種の材料を用いることにより、該製造容器内部の表面への窒化物微結晶の析出量を極めて少ない量に抑えることができることを見出した。また、見出された材料は超臨界アンモニアに対する耐腐食性も極めて良好であることが確認された。
【0024】
前記の極めて特徴的な特性を有する特定種の材料を製造容器のライニング材の内表面または内部構造材表面に適用することにより、自発核発生による窒化物微結晶の生成を抑制し、窒化物結晶の生産性向上に大きな効果があることを見出し、本発明に到達した。
【0025】
すなわち、本発明の要旨は以下である。
[1] 鉱化剤を含有する溶液を入れた容器内でアモノサーマル法により窒化物結晶を製造する方法であって、該容器および該容器内に設置される部材の表面のうち該溶液に接触する部分の少なくとも一部が、タンタル(Ta)、タングステン(W)およびチタン(Ti)からなる群より選択される1種以上の原子を含む金属または合金で構成され、且つ、表面粗さ(Ra)が1.80μm未満であることを特徴とする窒化物結晶の製造方法。
[2] 前記容器における結晶成長領域の表面の少なくとも一部が、前記金属または合金で構成されていることを特徴とする[1]に記載の窒化物結晶の製造方法。
[3] 前記結晶成長領域の表面の面積の20%以上が、前記金属または合金で構成されていることを特徴とする[2]に記載の窒化物結晶の製造方法。
[4] 前記部材の表面が前記金属または合金で構成されていることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
[5] 前記部材が前記容器の結晶成長領域に設置されていることを特徴とする[4]に記載の窒化物結晶の製造方法。
[6] 前記金属または合金で構成されている部分に、酸素を含んだ物質が接触しないように制御することを特徴とする[1]〜[5]のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
[7] 前記容器が、オートクレーブの中に設置されている内筒であり、該オートクレーブと該内筒の間に酸素を含まない物質が充填された状態で、該内筒内にて窒化物結晶を製造することを特徴とする[1]〜[6]のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
[8] 鉱化剤を含有する溶液を入れてアモノサーマル法により窒化物結晶を製造するための容器であって、該容器の表面のうち該溶液に接触する部分の少なくとも一部が、タンタル(Ta)、タングステン(W)およびチタン(Ti)からなる群より選択される1種以上の原子を含む金属または合金で構成され、且つ、表面粗さ(Ra)が1.80μm未満であることを特徴とする窒化物結晶製造容器。
[9] 前記容器内に存する結晶成長領域の表面の少なくとも一部が、前記金属または合金で構成されていることを特徴とする[8]に記載の結晶製造容器。
[10] 前記結晶成長領域の表面の面積の20%以上が、前記金属または合金で構成されていることを特徴とする[9]に記載の結晶製造容器。
[11] 前記容器の表面のうち前記溶液に接触する部分の少なくとも一部が、Wで構成されているか、またはWを含む合金で構成されていることを特徴とする[8]〜[10]のいずれか一項に記載の窒化物結晶製造容器。
[12] 鉱化剤を含有する溶液を用いてアモノサーマル法により窒化物結晶を製造する系内に設置される部材であって、該部材の表面の少なくとも一部が、タンタル(Ta)、タングステン(W)およびチタン(Ti)からなる群より選択される1種以上の原子を含む金属または合金で構成され、且つ、表面粗さ(Ra)が1.80μm未満であることを特徴とする部材。
[13] ガスケットである[12]に記載の部材。
[14] [1]〜[7]のいずれか一項に記載の製造方法により製造される窒化物結晶。
[15] 窒化ガリウムである[14]に記載の窒化物結晶。
【発明の効果】
【0026】
本発明の製造方法によれば、単結晶として析出すべき種結晶上以外の部分に窒化物微結晶が析出するのを抑制することができる。その結果、種結晶上に成長する窒化物結晶の生産効率を著しく向上させることが可能となる。
【0027】
また、本発明の窒化物結晶は均一で高品質であることから、発光デバイスまたは電子デバイス用の半導体結晶等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、本発明の窒化物結晶製造容器を備えた製造装置の模式図である。
【図2】図2は、本発明の別の窒化物結晶製造容器を備えた製造装置の模式図である。
【図3】図3は、実施例1を実施した後の試験片の断面SEM写真(5000倍)である。
【図4】図4は、比較例5を実施した後の試験片の断面SEM写真(1000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下において、本発明の窒化物結晶の製造方法、およびそれに用いる製造容器および部材について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0030】
(容器)
本発明の窒化物結晶の製造方法は容器内で行う。ここでいう「容器」とは、鉱化剤含有溶液がその内壁面に直接接触しうる状態でアモノサーマル法による窒化物結晶の製造を行うための容器を意味する。
【0031】
容器としては、例えば、オートクレーブそのもの、およびオートクレーブ内に設置される内筒を好適に挙げることができる。本発明に用いるオートクレーブおよび内筒などの容器は、アモノサーマル法により窒化物結晶を成長させるときの高温高圧条件に耐え得るもの中から選択する。
【0032】
前記容器を構成する材料としては、高温強度が高く耐腐食性を有する材料が好ましく、アンモニア等の溶媒に対する耐腐食性に優れる、Ni系の合金、およびステライト(デロロ・ステライト・カンパニー・インコーポレーテッドの登録商標)等のCo系合金がより好ましく、Ni系の合金が更に好ましい。
【0033】
前記Ni系の合金としては、具体的には、例えば、Inconel625(Inconelはハンティントン アロイズ カナダ リミテッドの登録商標、以下同じ)、Nimonic90(Nimonicはスペシャル メタルズ ウィギン リミテッドの登録商標、以下同じ)、RENE41、ハステロイおよびワスパロイが挙げられる。
【0034】
これらの合金の組成比率は、系内の溶媒の温度および圧力条件、系内に含まれる鉱化剤およびそれらの反応物との反応性および/または酸化力若しくは還元力、並びにpH等の条件に従い、適宜選択すればよい。
【0035】
これら合金の耐腐食性は高いとはいえ、結晶品質に影響を全く及ぼさないほどに高い耐腐食性を有しているわけではない。そのため、超臨界アンモニア雰囲気、特に鉱化剤を含有するより厳しい腐食環境下においては、該合金からNi、CrおよびFeなどの成分が溶液中に溶け出して結晶中に取り込まれることとなる。
【0036】
したがって本発明の製造方法では、前記容器の内面腐食を抑制するために、容器の内面を更に耐腐食性に優れる材料によって直接ライニングする等の方法により覆うことが好ましい。
【0037】
本発明の製造方法は、容器内に部材を設置した状態で行うのが一般的である。ここでいう「部材」とは、鉱化剤を含有する溶液中でアモノサーマル法により窒化物結晶を製造する際に容器中に設置するものであって、容器から分離することができるものを意味する。
【0038】
例えば、種結晶を保持するための育成枠、溶液の対流を制御するバッフル板、原料カゴおよび種結晶を吊るすワイヤーなどを挙げることができる。本発明では、これら部材の表面も、耐腐食性に優れる材料によって覆うことが好ましい。
【0039】
(鉱化剤を含有する溶液に接触する部分に使用する材料)
本発明の製造方法は、窒化ガリウム等の窒化物の結晶成長を行う容器内において、アンモニアに接触する部分、少なくとも鉱化剤を含んだアンモニアに接触する部分に特定の材料を使用する点に特徴がある。
【0040】
鉱化剤を含有する溶液に接触する部分とは、オートクレーブの内面、内筒の内面、種結晶を保持するための育成枠、溶液の対流を制御するバッフル板および原料カゴなどの表面である。これら表面を構成する材料の種類と表面粗さを適切に制御することにより、自発核発生による窒化物微結晶の発生を抑制することを特徴とする。
【0041】
前述のように、オートクレーブ内面および内筒の内面を構成する材料は、超臨界アンモニアおよび/または鉱化剤を含む超臨界アンモニアに対して高い耐腐食性を持っていることが必要である。
【0042】
従来は、内表面材料の選定基準は耐腐食性のみであったため、最も好ましい材料としてはPtおよびPt−Ir合金といった貴金属が選択されてきた。しかし、これら貴金属表面には自発核発生による窒化物の微結晶が多く付着するために、種結晶上への析出を阻害し生産性の低下を招く結果となっていた。
【0043】
高い耐腐食性と自発核発生による窒化物の微結晶が付着し難いという二つの要求を満足する材料として、本発明者は以下の材料を見出した。
【0044】
本発明で用いることができる鉱化剤を含有する溶液に接触する部分の材料は、タンタル(Ta)、タングステン(W)およびチタン(Ti)からなる群より選択される1種以上の原子を含む金属または合金である。すなわち、タンタル(Ta)、タンタル合金(Ta合金)、タングステン(W)、タングステン合金(W合金)、チタン(Ti)およびチタン合金(Ti合金)である。
【0045】
Ta合金として、例えば、タンタル−タングステン合金(Ta−W合金)を挙げることができる。
【0046】
なお、本明細書において「M合金」(Mは金属)という場合は、組成としてMが最も多く含まれる合金を意味する。
【0047】
Ta合金の組成は、Taが50重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましく、85重量%以上であることがさらに好ましい。
【0048】
Ta−W合金の組成は、Wが0.1重量%以上であることが好ましく、1.0重量%以上であることがより好ましく、2.5重量%以上であることがさらに好ましい。
【0049】
Ta−W合金の組成は、Wが20重量%以下であることが好ましく、15重量%以下であることがより好ましく、10重量%以下であることがさらに好ましい。
【0050】
W合金の組成は、Wが50重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましく、85重量%以上であることがさらに好ましい。
【0051】
Ti合金の組成は、Tiが50重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましく、85重量%以上であることがさらに好ましい。
【0052】
本発明では上記材料を1種類または2種類以上組み合わせて用いてもよい。また、上記以外の材料、例えば従来から耐腐食ライニング材料として用いられている白金(Pt)、白金イリジウム合金(Pt−Ir合金)、イリジウム(Ir)などの材料と組み合わせて用いてもよい。
【0053】
例えば自発核発生による窒化物の微結晶の析出が特に著しいのは、溶液中の窒化物原料の過飽和度が大きくなる部分であることから、微結晶の析出が著しい部分のみに上記材料を用いてもよい。
【0054】
特に過飽和度の大きくなる部分は種結晶に窒化物単結晶が成長する領域(以下、結晶成長領域と称する)であり、そのなかでも温度の低くなる部分である。温度分布は容器の加熱冷却構造に依存するが、一般的には結晶成長領域の上部ほど冷却が大きくなるため、結晶成長領域の上部に自発核発生による窒化物の微結晶が析出し易い。
【0055】
したがって少なくともこれら微結晶が析出し易い範囲のみをライニングすればよく、Ta、WおよびTiからなる群より選択される1種以上の原子を含む金属または合金によってライニングすべき範囲は、結晶成長領域の内表面積の20%以上であることが好ましく、35%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。
【0056】
本発明は、自発核発生による窒化物の微結晶の析出をより効果的に抑制するために、前記ライニング材料等といった、容器および容器内に設置される部材の表面のうち、少なくとも鉱化剤を含有する溶液に接触する部分の表面粗さを調整する点にも特徴がある。すなわち、これらの表面粗さ(Ra)が1.80μmよりも小さいほうが自発核発生の窒化物の微結晶の析出が抑制される。
【0057】
本発明における容器および容器内に設置される部材の表面のうち、少なくとも鉱化剤を含有する溶液に接触する部分の表面粗さ(Ra)は1.80μm未満であり、好ましくは1.6μm未満であり、より好ましくは1.0μm未満であり、さらに好ましくは0.1μm未満である。当該表面粗さ(Ra)が1.80μm以上では、自発核発生により窒化物の微結晶が析出する。
【0058】
表面粗さ(Ra)を上記の範囲に調整する方法としては、特に限定されず、容器および容器内に設置される部材の表面に対して公知の処理方法を適宜行えばよい。例えば、容器および容器内に設置される部材の表面に対して、バイトによる切削加工、砥石による研削加工、バフ研磨および電解研磨などの処理を行い、表面粗さ(Ra)を上記の範囲に調整することが好ましい。表面粗さ(Ra)は実施例で後述する方法により測定する。
【0059】
(オートクレーブ内面へのライニング)
オートクレーブ内面へのライニング方法としては、例えば日本国特開2006−193355号公報に記載の方法を参照することができる。オートクレーブ内面へのライニング材料としては、Ta、W、およびTiからなる群より選択される1種以上の原子を含む金属または合金を好適に用いることができる。
【0060】
そのなかでも延性に優れたTa、Ta合金およびTa−W合金が好ましく、このうちTaおよびTa−W合金がより好ましい。また、機械的強度および耐久性の点では、WおよびW合金が好ましい。
【0061】
ライニング層の厚みは、耐腐食性を発揮する厚みであれば特に規定されないが、機械的耐久性を考慮すると、100μm以上の厚みが好ましく、200μm以上がより好ましく、500μm以上がさらに好ましい。
【0062】
また、ライニング層の厚みは15mm以下が好ましく、10mm以下がより好ましく、5mm以下がさらに好ましい。15mm以下とすることにより、オートクレーブ内径が小さくなることによる生産性の低下を防ぐことができる。
【0063】
ライニング方法としては、オートクレーブ内面の形状にほぼ合致するように、前記ライニング材を製作し、オートクレーブ内面に機械的にはめ込む方法が好適に用いられる。ライニング材とオートクレーブ内面との隙間には空間が生じないように密着させることが好ましい。
【0064】
特に、TaおよびTa−W合金は酸素が存在すると高温環境下で酸化するため、隙間に存在する酸素を取り除くことが好ましい。そのためには、前記ライニング材をオートクレーブ内に挿入後、真空排気装置により隙間に残存する酸素を脱気する方法が適用できる。
【0065】
真空脱気後、ライニング材とオートクレーブ内面との密着性をさらに高めるため、オートクレーブ内部に圧力を発生させ、ライニング材をオートクレーブ内面に圧着させる方法も好適に用いられる。
【0066】
圧着時の温度が高ければ、熱による相互拡散が起こるため、さらに強固な密着性が得られる。内圧による圧着は、結晶製造容器の製造工程内で行ってもよいし、結晶製造運転時の昇温昇圧時に付随的に行ってもよい。
【0067】
ライニング材は前記のように、直接オートクレーブ内面に密着させてもよいが、ライニング材を第二の材料で製作した補強管の内面に挿入し、この補強管をオートクレーブ内に挿入することもできる。
【0068】
第二の材料はオートクレーブと同一の材料、例えば、インコネル625などのニッケル基合金が超臨界アンモニアに対して良好な耐腐食性を有することから好適に用いられる。ニッケル基合金以外でも超臨界アンモニアに対する耐腐食性を有する材料であれば使用できる。
【0069】
例えば、ライニング材としても使用可能なTiまたはTi合金にて補強管を作製し、本補強管内面にTaまたはTa−W合金にてライニングをしてもよい。ライニング材と補強管内面の密着性、補強管とオートクレーブ内面の密着性も前記のライニング材とオートクレーブ内面との密着性を高めるのと同様の方法で高めることができる。
【0070】
TaまたはTa−W合金をライニング材として使用する場合、酸素の存在により酸化が起きる可能性がある。オートクレーブ内面または補強管内面と接するライニング材の外面を酸化から保護するために、保護膜を形成してもよい。
【0071】
ライニング材の外面にニッケル(Ni)、クロム(Cr)、銅(Cu)、金(Au)および白金(Pt)などの金属をコーティングすることで耐酸化性を高めることができる。これら金属が中間層となり相互拡散するため、オートクレーブ内面および補強管内面との密着性を高めるため、機械的強度と酸化抑止の両方の作用が期待できる。
【0072】
本発明の製造方法に用いるオートクレーブは、最高で温度650℃、圧力300MPaもの高温高圧に耐えることが要求される。オートクレーブの蓋は開閉可能な構造であり、蓋は密閉性が高く前記温度圧力にてリークが起きないような気密構造が求められる。さらに結晶成長のための運転毎に開閉を繰り返し、しかもその気密性が回数を経ても維持される機械的強度を持った気密シール部であることが求められる。
【0073】
上記のライニング構造はオートクレーブ内面においては好ましく適用できるが、気密シール部においては、高温での機械強度を備えた材料を選定する必要がある。気密シール部は機械強度と超臨界アンモニアへの耐腐食性とをともに満たす材料であることが必要であり、Ta−W合金、Ti合金およびIrが好ましく用いられる。
【0074】
ここで前記Ta−W合金におけるWの含有量は5重量%以上が好ましく、9重量%以上がより好ましい。また、前記Ti合金としては、例えば、Ti−6Al−4V(Tiに6重量%アルミニウム、4重量%バナジウム)などの高強度チタン合金が挙げられる。
【0075】
気密シール部へのライニング材とオートクレーブ本体のライニング材とで材料が異なる場合は、溶接にて接合することができる。大気中での溶接は材料の酸化、窒化により材料の劣化をもたらすため、TIG(Tungsten Inert Gas)溶接が好ましく用いられる。通常は、アルゴンガス雰囲気中で行なうことにより、良好な溶接結果を得ることができる。TIG溶接以外にも、電子ビーム溶接およびレーザー溶接も適用することができる。
【0076】
気密シール部を用いて蓋とオートクレーブ本体とを密閉するためには、通常はガスケットを間に挟み、ガスケットと気密シール部との間にシール面圧を発生させることにより高い気密性を発揮させる。オートクレーブ内部を高圧に保つには、前記シール面圧がオートクレーブ内部圧力よりも高ければよい。
【0077】
シート面圧は、気密シール部にガスケットが強く押さえつけられることにより発生するが、ガスケットの材質も気密シール部と同様の強度が必要とされる。ガスケットの材質としては、同様に鉱化剤を含んだ超臨界アンモニアと接触する部分であるため、気密シール部に用いられるものと同じ材料、すなわちTa−W合金、Ti合金およびIrが好ましい。
【0078】
(内筒を使用する場合)
結晶成長環境下において耐腐食性と自発核発生による微結晶の付着を抑止するためには、オートクレーブ内面に直接ライニングする方法のほかに、オートクレーブ内に内筒を挿入する方法がある(例えば、図2の20参照)。
【0079】
種結晶上の窒化物結晶の成長はこの内筒内で行なわれるため、鉱化剤を含有した超臨界アンモニアは内筒の内面のみに接触する。したがって、本発明の材料により構成される範囲は少なくとも内筒内面であればよい。
【0080】
内筒の外側とオートクレーブ内面との空間には、アンモニア、水などの静水圧を発生させる媒体が充填されている。当該媒体は好ましくはアンモニアである。内筒内に充填する溶媒と同じ物質を充填することにより内筒の内外での圧力バランスを取りやすくする効果がある。
【0081】
通常外側に充填するアンモニアには鉱化剤を添加する必要はないので、オートクレーブ材質に対する腐食性は低下する。したがって、内筒を用いる場合はオートクレーブ内面に耐腐食性ライニングが施されていなくてもよい。
【0082】
同様に内筒の外面は耐腐食性に優れた材料でなくてもよく、Ni基合金などのオートクレーブに用いられる材料でもよい。この場合、Ni基合金で内筒を製作し、内面にオートクレーブ内面へのライニング方法と同様の方法で同様の材料をライニングすることができる。
【0083】
内筒の内面にライニングする方法のほかに、内筒をTa、WおよびTiからなる群より選択される1種以上の原子を含む金属または合金で作製することも好ましく行なわれる。この場合、内筒の内面と外面の両方が同じ材料となる。内筒は内筒内と内筒外の圧力バランスが取れていれば内筒を変形させる応力は小さいため、内筒の厚みは大きな問題になることはない。0.1mm程度の厚みがあればよい。
【0084】
一方、内筒を用いて結晶成長を行なう手順として、内筒内にアンモニアを充填するプロセスがある。ここで、内筒をアンモニアの液化温度(−33℃)以下としてアンモニアを充填する。ガスとして注入されたアンモニアは冷却された内筒内にて液化され、負圧を生じるため、さらに充填が進行する。
【0085】
アンモニアを内筒内に充填する前には、内筒内部の酸素、水分などの不純物を除去するために、内筒の高温ベーキング、窒素置換および真空引きを行うことが好ましい。特に真空引き工程では大気圧(約1気圧)による外圧が内筒に付与されるため、内筒が変形しない程度の強度が必要である。変形が起こらないように、内筒の厚みを大きくして強度を付与したり、部分的に厚みを増したりすることにより変形を防いでもよい。
【0086】
次に充填後の内筒をオートクレーブ内に挿入する工程に移るが、室温ではアンモニアの蒸気圧が上昇し(20℃で約8kg/cm2)、内筒内部の圧力が上昇するため、取り扱い温度におけるアンモニアの蒸気圧に耐えうる強度設計が必要である。
【0087】
内筒上部にはアンモニアを注入するための配管が接続されており、この配管の内面もTa、W、およびTiからなる群より選択される1種以上の原子を含む金属または合金でライニングすることが好ましい。配管全体を前記材料で作製してもよいし、Ni基合金などで作製し少なくとも内面に前記材料をライニングしてもよい。
【0088】
(結晶製造装置の構成例1:オートクレーブ内面ライニング)
本発明の製造方法に用いることができるオートクレーブを含む結晶製造装置の具体例を図1に示す。
【0089】
図1のオートクレーブの内面には、Ta、WおよびTiからなる群より選択される1種以上の原子を含む金属または合金によるライニングが施されている。図1は、バッフル板5で内部が2つに仕切られたオートクレーブ1を備えた結晶製造装置である。2つに仕切られた内部のうち、下側は原料8をアンモニア中に溶解させるための原料溶解領域であり、上側は種結晶7を装填して窒化物結晶を成長させるための結晶成長領域である。
【0090】
オートクレーブ1は蓋で密閉され、外側に設置されたヒーターにより加熱することができるようになっている。加熱温度は熱電対により測定することができる。オートクレーブの蓋には導管が備えられており、そこからバルブ10を通して図示するように真空ポンプ11、アンモニアボンベ12および窒素ボンベ13へと導かれている。図1に示す製造装置の具体的な使用態様については、後述する実施例を参考にすることができる。
【0091】
バッフル板5は、結晶成長領域と原料溶解領域を区画するものである。バッフル板5の開孔率は2〜30%であることが好ましく、5〜20%であることがより好ましい。バッフル板の表面の材質は、前記オートクレーブ内面ライニングの材料と同一であることが好ましい。
【0092】
オートクレーブ内部に設置される部材の表面の材質は、前記オートクレーブ内面ライニングの材料と同一であることが好ましい。内部に設置される部材とはバッフル板以外のオートクレーブ内の構造物全てを指し、種結晶を保持するための枠、種結晶を吊るすワイヤー、原料カゴがそれにあたる。
【0093】
オートクレーブに接続される、バルブ、圧力計および導管についても、少なくとも表面が耐腐食性の材質で構成されるものを用いることが好ましい。例えば、SUS316(JIS規格)であり、Inconel625を使用することがより好ましい。なお、本発明の製造方法を実施する際に用いる結晶製造装置には、バルブ、圧力計および導管は必ずしも設置されていなくても構わない。
【0094】
(結晶製造装置の構成例2:内筒)
図2にオートクレーブ中に内筒を挿入した場合の結晶製造装置の具体例を示す。オートクレーブ1の中に内筒20が設置され、さらに内筒の内部には図1のオートクレーブ内部と同一の構成、すなわち結晶成長領域と原料溶解領域を区画するバッフル板5が設置され、上部に種結晶7および種結晶を保持する枠6、下部に原料8および原料カゴが配置される。
【0095】
内筒の少なくとも内面21は、Ta、WおよびTiからなる群より選択される1種以上の原子を含む金属または合金により構成されている。または、内筒全体が前記と同一材料で作製されていることが好ましい。
【0096】
(結晶成長条件)
本発明における窒化物結晶の成長条件としては、通常のアモノサーマル法における窒化物結晶の成長条件を適宜選択して採用することができる。例えば、本発明における窒化物結晶の成長時の圧力は、通常80〜400MPaに設定することが好ましく、100〜300MPaに設定することがより好ましく、100〜250MPaに設定することがさらに好ましい。
【0097】
また、結晶成長用原料としては、アモノサーマル法による窒化物結晶の成長に通常用いられる原料を適宜選択して用いることができる。例えば、窒化ガリウム結晶を成長させる場合には、ガリウム源となる原料として、金属ガリウム若しくは窒化ガリウムまたはこれらの混合物を用いることができる。
【0098】
その他の窒化物結晶の成長条件等については、日本国特開2007−238347号公報の製造条件の欄を参照することができる。
【0099】
本発明の製造方法によれば、通常0.3〜500μm/dayの範囲内の速度で結晶を成長させることができる。成長速度は1〜400μm/dayの範囲内であることが好ましく、10〜300μm/dayの範囲内であることがより好ましく、20〜250μm/dayの範囲内であることがさらに好ましい。ここでの成長速度は、任意の結晶面で切り出された板状種結晶の両面に成長した合計寸法を育成日数で割った値である。
【0100】
(種結晶)
本発明では、結晶成長領域内に種結晶をあらかじめ用意しておき、その種結晶上に窒化物結晶を成長させることが好ましい。種結晶を用いれば、特定のタイプの結晶を選択的に成長させることが可能である。例えば、窒化ガリウム結晶を成長させる場合、種結晶として六方晶の窒化ガリウム結晶を用いれば、種結晶上に六方晶の窒化ガリウム単結晶を成長させることができる。
【0101】
種結晶は通常薄板状の平板単結晶を用いるが、主面の結晶方位は任意に選択することができる。ここで主面とは薄板状の種結晶で最も広い面を指す。
【0102】
六方晶窒化ガリウム単結晶の場合は、(0001)面および(000−1)面に代表される極性面、(10−12)面、(10−1−2)面、(20−21)面および(20−2−1)面に代表される半極性面、並びに(10−10)面および(11−20)面に代表される非極性面と様々な方位の主面を有する種結晶を用いることにより、任意の方位へ結晶成長させることができる。
【0103】
種結晶の切り出し方位は前記のような特定の面に限らず、特定の面から任意の角度をずらした面を選択することもできる。
【0104】
また、種結晶の表面粗さ(Rms)は、0.03〜1.0nmの範囲内であることが好ましく、0.03〜0.5nmの範囲内であることがより好ましく、0.03〜0.2nmの範囲内であることがさらに好ましい。
【0105】
ここでいう表面粗さ(Rms)は、原子間力顕微鏡により測定される値である。表面粗さ(Rms)が上記の好ましい範囲内にあれば、初期成長界面での二次元成長がスムーズに開始され、界面での結晶欠陥の導入を抑制し、立方晶窒化ガリウムの生成を抑えやすくなるという利点がある。このような表面粗さ(Rms)にするためには、例えば、CMP(化学機械的研磨)を行なえばよい。
【0106】
上記表面粗さを有さない種結晶については、表面に対して化学エッチング等を行うことにより、加工変質層を除去した後に窒化物結晶を成長させることが好ましい。例えば、100℃程度のKOHまたはNaOHなどのアルカリ水溶液でエッチングすることにより、好ましく加工変質層を除去することができる。この場合も上記表面粗さ(Rms)を制御した場合と同様の効果がある。
【0107】
(製造工程)
本発明の製造方法を実施する際には、まず、容器内に、種結晶、窒素元素を含有する溶媒、結晶成長のための原料物質および鉱化剤を入れて封止する。鉱化剤の代わりにアンモニアと反応して鉱化剤を生成する物質を入れてもよい。
【0108】
鉱化剤の濃度は、充填するアンモニア量に対して、0.1〜10mol%の範囲であればよい。これらの材料を容器内に導入するのに先立って、容器内は脱気しておいてもよい。また、材料の導入時には、窒素ガスなどの不活性ガスを流通させてもよい。
【0109】
容器として内筒を用いる場合は、前記のように封止後、内筒をオートクレーブ内に設置したのち、オートクレーブを密閉する。オートクレーブを密閉後、オートクレーブ内に窒素ガスなどの不活性ガスを流通させてもよいし、真空排気装置で脱気してもよい。または、その両方を組み合わせて行なってもよい。
【0110】
次にアンモニアの充填であるが、内筒を用いない場合、オートクレーブに接続された配管からアンモニアを所定量充填する。内筒を使用する場合の説明で記載したように、アンモニアの液化温度以下の温度で注入することにより、オートクレーブ内で液化アンモニアとして充填してもよい。常温にて加圧しながらアンモニアをオートクレーブ内に充填することもできる。
【0111】
オートクレーブおよび内筒などの容器内への種結晶の装填は、通常は、原料物質、鉱化剤およびアンモニア熱分解触媒を充填する際に同時に行うか、または原料物質および鉱化剤を充填した後にアンモニア熱分解触媒とともに装填する。種結晶は、容器内表面を構成する貴金属と同様の貴金属製の治具に固定することが好ましい。装填後には、必要に応じて加熱脱気をしてもよい。
【0112】
超臨界条件では、窒化物結晶の十分な成長速度が得られる。反応時間は、特に鉱化剤の反応性および熱力学的パラメータ、すなわち温度および圧力の数値に依存する。窒化物結晶の合成中または成長中、容器内は上記の好ましい温度範囲と圧力範囲内に保持することが好ましい。
【0113】
圧力は、温度および容器の容積に対する溶媒体積の充填率によって適宜決定される。本来、容器内の圧力は、温度と充填率によって一義的に決まるものではあるが、実際には、原料、鉱化剤などの添加物、容器内の温度の不均一性、および死容積の存在によって多少異なる。
【0114】
上記の容器の温度範囲、圧力範囲を達成するための容器への溶媒の注入割合、すなわち充填率は、容器のフリー容積、すなわち、(i)容器に多結晶原料、および種結晶を用いる場合には、種結晶とそれを設置する構造物の体積を容器の容積から差し引いて残存する容積、また(ii)バッフル板を設置する場合には、さらにそのバッフル板の体積を容器の容積から差し引いて残存する容積、の溶媒の沸点における液体密度を基準として、通常20〜95%とすることが好ましく、40〜90%とすることがより好ましく、45〜85%とすることがさらに好ましい。
【0115】
容器内での窒化物結晶の成長は、熱電対を有する電気炉などを用いて容器を加熱昇温することにより、容器内をアンモニア等の溶媒の亜臨界状態または超臨界状態に保持することにより行われる。加熱の方法、所定の反応温度への昇温速度に付いては特に限定されないが、通常、数時間から数日かけて行われる。必要に応じて、多段の昇温を行ったり、温度域において昇温スピードを変えたりすることもできる。また、部分的に冷却しながら加熱したりすることもできる。
【0116】
所定の温度に達した後の反応時間については、窒化物結晶の種類、用いる原料、鉱化剤の種類並びに製造する結晶の大きさおよび量によっても異なるが、通常、数時間から数百日とすることができる。反応中、反応温度は一定にしてもよいし、徐々に昇温または降温させることもできる。
【0117】
所望の結晶を生成させるための反応時間を経た後、降温させる。降温方法は特に限定されないが、ヒーターの加熱を停止してそのまま炉内に容器を設置したまま放冷してもかまわないし、容器を電気炉から取り外して空冷してもかまわない。必要であれば、冷媒を用いて急冷することも好適に用いられる。
【0118】
容器外面の温度または推定される容器内部の温度が所定温度以下になった後、容器を開栓する。このときの所定温度は特に限定はなく、通常、−80℃〜200℃が好ましく、−33℃〜100℃がより好ましい。ここで、容器に付属したバルブの配管接続口に配管を接続し、水などを満たした容器に通じておき、バルブを開けてもよい。
【0119】
さらに必要に応じて、真空状態にするなどして容器内のアンモニア溶媒を十分に除去した後、乾燥し、容器の蓋等を開けて生成した窒化物結晶および未反応の原料および鉱化剤等の添加物を取り出すことができる。
【0120】
上記のようにして、本発明の方法により窒化物結晶を製造することができる。所望の結晶構造を有する窒化物結晶を製造するためには、製造条件を適宜調整することが必要である。
【0121】
(窒化物結晶)
本発明の製造方法により得られる窒化物結晶の種類は、選択する結晶成長用原料の種類等によって決まる。本発明によれば、周期表III族窒化物結晶を好ましく成長させることができる。周期表III族窒化物結晶としては、ガリウム含有窒化物結晶がより好ましく、窒化ガリウム結晶がさらに好ましい。
【0122】
本発明の製造方法によれば、比較的径が大きな窒化物結晶も得ることができる。例えば、好ましくは最大径が50mm以上である窒化物結晶を得ることも可能である。窒化物結晶の最大径は、76mm以上であることがより好ましく、100mm以上であることがさらに好ましい。
【0123】
また、本発明の製造方法によれば、種結晶上以外の部分への窒化物微結晶の析出を抑えることができるため、窒化物微結晶が種結晶上に成長する窒化物結晶中へ取り込まれにくくなり、従来法にしたがって製造される窒化物結晶よりも結晶欠陥が少ない窒化物結晶を得ることができる。
【0124】
さらに、本発明の製造方法によれば、原料が窒化物微結晶の析出に消費されるのを抑えることができるため、そのような結晶欠陥が少ない窒化物結晶を収率よく製造することができる。
【実施例】
【0125】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容および処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0126】
(実施例1)
本実施例では、図1に示す反応装置を用いて、種結晶と試験片を吊り下げて原料を加熱する実験を行った。
【0127】
白金を内張りした内寸が直径15mm、長さ154mmのInconel625製オートクレーブ1(内容積約27cm3)を用い、実験を行った。オートクレーブ1の内面2を十分に洗浄し乾燥した。試験片を支持するために使用する白金製ワイヤー、白金製育成枠6、白金製バッフル板5、白金メッシュ製原料カゴも同様に洗浄乾燥した。
【0128】
窒化物結晶成長用の原料8として多結晶GaN粒子を用いた。多結晶GaN粒子に対して濃度約50重量%のフッ酸を用いて付着物の除去を目的とした洗浄を行い、純水で十分リンスした後乾燥させ、12.98gを秤量し白金メッシュ製原料カゴに充填した。
【0129】
鉱化剤として十分に乾燥させた塩化アンモニウムの試薬を0.74g秤量し、白金メッシュ製原料カゴに多結晶GaN原料と一緒に充填した後、オートクレーブ下部原料域内に原料8として設置した。
【0130】
次にオートクレーブ下部の原料溶解領域と上部の結晶成長領域をほぼ2分する位置に白金製のバッフル板5(開口率10%)を設置した。
【0131】
最後に、種結晶と試験片である板状のタングステン(5mm×5mm×2mm)を直径0.2mmの白金ワイヤーにより白金製支持枠に吊るし、種結晶の中心がオートクレーブ上部の結晶成長領域の上端から25mm下方に位置し、タングステン金属の中心がオートクレーブ上部の結晶成長領域の上端から40mm下方に位置するように設置した後、素早くバルブが装着されたオートクレーブの蓋を閉じてオートクレーブの計量を行った。
【0132】
次いで、オートクレーブに付属したバルブ10を介して導管を真空ポンプ11に通じるように操作し、バルブ10を開けて真空脱気した後、真空状態を維持しながらオートクレーブをドライアイスメタノール溶媒によって冷却し、一旦バルブ10を閉じた。
【0133】
次いで、導管がアンモニアボンベ12に通じるように操作した後、再びバルブ10を開け連続して外気に触れることなくアンモニアをオートクレーブ1に充填した。その後、流量制御に基づき、17.5リットルのアンモニアを毎分2リットルの流量で充填した後、自動的にラインが閉じ充填がストップするのでバルブ10を閉じた。アンモニア投入前後の重量変化を測定することにより、アンモニアの投入量が12.17gであることを確認した。
【0134】
続いてオートクレーブ1を上下に2分割されたヒーターで構成された電気炉内に収納した。12時間かけて昇温し、オートクレーブ下部溶液温度が540℃に、上部溶液温度が420℃になるようにオートクレーブ外壁温度を設定したのち、その温度でさらに96時間保持した。
【0135】
オートクレーブ外壁温度とオートクレーブ内部溶液温度との関係をあらかじめ実測して相関式を作成しておいた。オートクレーブ1内の圧力は約130MPaであった。また保持中の制御温度のバラツキは±5℃以下であった。
【0136】
加熱終了後、オートクレーブ1の下部外面の温度が150℃になるまでプログラムコントローラーを用いておよそ8時間で降温した後、ヒーターによる加熱を止め、電気炉内で自然放冷した。オートクレーブ1の下部外面の温度がほぼ室温にまで降下したことを確認した後、まず、オートクレーブに付属したバルブを開放しオートクレーブ1内のアンモニアを取り除いた。
【0137】
次に真空ポンプでオートクレーブ1内のアンモニアを完全に除去した。
その後、オートクレーブの蓋を開け内部から支持枠、バッフル板および原料カゴを取り出した。種結晶上には、GaN単結晶の成長が認められた。
【0138】
その後、試験片について以下の測定と評価を行い、結果を表1にまとめて示した(下記の実施例2〜4および比較例1〜5も同じ)。
【0139】
1)GaN結晶付着の有無
実施例1を実施後の試験片の表面を目視および断面の電子線マイクロアナライザー(EPMA)(日本電子社製、電子プローブマイクロアナライザ JXA-8200)による分析にて観察し、GaN結晶付着の有無を以下の2段階で評価した。
○:GaN結晶付着は観察されなかった。
×:GaN結晶付着が観察された。
【0140】
2)表面凹凸の測定
実施例1を実施後の試験片の断面の凹凸を走査電子顕微鏡(SEM)(日本電子社製、分析走査電子顕微鏡 JSM-6060A)にて観察して、以下の3段階で評価した。
○:ほとんど凹凸が観察されなかった。
△:僅かに凹凸が観察された。
×:大きな凹凸が観察された。
【0141】
3)腐食状況の評価
実施例1を実施した後の試験片の腐食状況を確認するため、試験片の断面を電子線マイクロアナライザー(EPMA)(日本電子社製、電子プローブマイクロアナライザ JXA-8200)で分析し、以下の2段階で評価した。
○:試験片の腐食は観察されなかった。
×:試験片の腐食が観察され、試験片を構成する金属元素が溶出していることが確認された。
【0142】
実施例1を実施した後の試験片の外観は、実施前とほとんど変化が無く、付着物も見られなかった。EPMAによる測定でも表面にGaN結晶の生成は認められなかった。試験片の表面の凹凸を断面SEMにより観察したところ、多少の凹凸が見られたが、比較例5に示すタングステン試験片の断面SEMと比較して明らかに凹凸が小さかった。
【0143】
なお、比較例5の試験片と同等の試験片(5mm×5mm×2mm)を実験前に接触式表面粗さ測定装置(東京精密 Surfcom 130A)を用いて測定した結果、表面粗さ(Ra)は1.806μmであった。したがって実施例1の試験片の表面粗さ(Ra)は1.80μmよりも小さいことが確認された。断面をEPMAで観察した結果、試験片表面には窒化層、その他の変質層は認められず腐食は確認されなかった。
【0144】
実施例1を実施した後の試験片の断面SEM写真(5000倍)を図3に示す。また、この断面SEM写真を用いて、表面粗さ(Ra)を算出したところ、表面粗さ(Ra)は、0.56μmであると推定された。なお、断面SEM写真を用いた表面粗さ(Ra)の算出方法は以下の通りである。
【0145】
表面粗さ(Ra)とは、粗さ曲線の平均線の方向に基準長さ(L)分を抜き取り、この抜き取り部分の平均線の方向にX軸、平均線と垂直方向にY軸をとり、粗さ曲線をy=f(x)とした場合に次の式で得られる値をμm単位で表したものをいう。
【0146】
【数1】

【0147】
実施例1のSEM写真(図3)からの表面粗さ(Ra)の計算を例に説明する。ここでは、簡易的に、図3の断面SEM写真の横方向をX軸方向とし、縦方向をY軸方向として、基準長さ(L)を写真にうつっている幅とした。X軸方向に平行な直線を設定し、タングステン試験片の表面までの高さを0.5μm幅ごとにスケールで測定した(50点)。
【0148】
これら測定値の平均値(平均線に該当)を計算し、各測定データと平均値の差の絶対値をとり、この絶対値の合計を基準長さ(L)で割ることでRaを計算したところ、0.56μmであった。
【0149】
(実施例2)
実施例2では試験片としてブロック状のTa−2.5重量%W合金を使用した。種結晶を吊さなかった点を変更し、それ以外は実施例1と同様の条件で実験を行った。
【0150】
実施例2を実施した後の試験片の外観を観察したところ、実施前とほとんど変化は無く、付着物も見られなかった。EPMAによる測定でも表面にGaNの生成は認められなかった。試験片の凹凸を断面SEMにより観察したところ、ほとんど凹凸は確認されなかった。
【0151】
実施例2の試験片と同等の試験片の表面粗さを吊り下げ実験前に測定したところ、表面粗さ(Ra)は0.463μmであった。断面をEPMAで観察した結果、試験片表面には窒化層、その他の変質層は認められず腐食は確認されなかった。
【0152】
(実施例3)
実施例3では試験片として板状のタンタルを使用した。種結晶を吊さなかった点を変更し、それ以外は実施例1と同様の条件で実験を行った。
【0153】
実施例3を実施した後の試験片の外観を観察したところ、実施前とほとんど変化は無く、付着物も見られなかった。EPMAによる測定でも表面にGaNの生成は認められなかった。試験片の凹凸を断面SEMにより観察したところ、極めて平坦な断面であることが確認された。
【0154】
実施例3の試験片と同等の試験片の表面粗さを吊り下げ実験前に測定したところ、表面粗さ(Ra)は0.079μmであった。断面をEPMAで観察した結果、試験片表面には窒化層、その他の変質層は認められず腐食は確認されなかった。
【0155】
(実施例4)
実施例4では試験片として柱状のチタンを使用した。種結晶を吊さなかった点を変更し、それ以外は実施例1と同様の条件で実験を行った。
【0156】
実施例4を実施した後の試験片の外観を観察したところ、実施前とほとんど変化は無く、付着物も見られなかった。EPMAによる測定でも表面にGaNの生成は認められなかった。試験片の凹凸を断面SEMにより観察したところ、円柱状の試験片なので断面はカーブを描いているが、極めて平坦な断面であることが確認された。
【0157】
実施例4の試験片はφ2mmの円柱状で表面粗さの測定が困難であったため、表面粗さ(Ra)の測定ができなかったが、SEMによる断面観察から実施例2,3の範囲と同等の表面粗さであることが確認された。断面をEPMAで観察した結果、試験片表面には窒化層、その他の変質層は認められず腐食は確認されなかった。
【0158】
(比較例1)
比較例1では試験片として板状のルテニウムを使用した。種結晶を吊さなかった点を変更し、それ以外は実施例1と同様の条件で実験を行った。
【0159】
比較例1を実施した後の試験片の外観を観察したところ、表面に付着物が確認された。EPMAによる測定では、表面付着物は主にGaとNからなり、GaNが生成していることが確認された。試験片の凹凸を断面SEMにより観察したところ、大きな凹凸は無いがミクロンオーダーの凹凸が確認された。
【0160】
表面粗さの測定は行なかったが、SEMによる断面観察から、実施例2,3の範囲と同等の表面粗さであることが確認された。断面をEPMAで観察した結果、ルテニウムの結晶粒界と考えられる空洞が観察されたが、試験片表面には窒化層、その他の変質層は認められず腐食は確認されなかった。
【0161】
(比較例2)
比較例2では試験片として板状のPt−20重量%Ir合金を使用した。種結晶を吊さなかった点を変更し、それ以外は実施例1と同様の条件で実験を行った。
【0162】
比較例2を実施した後の試験片の外観を観察したところ、表面に付着物が確認された。EPMAによる測定では、表面付着物は主にGaとNからなりGaNが生成していることが確認された。
【0163】
試験片の凹凸を断面SEMにより観察したところ、極めて平坦な断面であることが確認された。比較例2の試験片と同等の試験片の表面粗さを吊り下げ実験前に測定したところ、表面粗さ(Ra)は0.059μmであった。断面をEPMAで観察した結果、試験片表面には窒化層、その他の変質層は認められず腐食は確認されなかった。
【0164】
(比較例3)
比較例3では試験片としてブロック状のRene41を使用した。種結晶を吊さなかった点を変更し、それ以外は実施例1と同様の条件で実験を行った。
【0165】
比較例3を実施した後の試験片の外観を観察したところ、金属光沢を失い黒色に変化していることが確認された。表面が変質し、重量の減少も大きかったことから、耐腐食性に問題があることは明らかであるため、付着物および表面凹凸の評価は詳細に行なわなかった。
【0166】
腐食程度を確認するため断面をEPMAで観察した結果、試験片表面から約80μmの深さまで腐食変質層が形成されており、腐食変質層ではFe、NiおよびCoの顕著な溶脱が観察された。
【0167】
(比較例4)
比較例4では試験片としてブロック状のInconel625を使用した。種結晶を吊さなかった点を変更し、それ以外は実施例1と同様の条件で実験を行った。
【0168】
比較例4を実施した後の試験片の外観を観察したところ、金属光沢を失い黒色に変化していることが確認された。表面が変質し、重量減も大きかったことから、耐腐食性に問題があることは明らかであるため、付着物および表面凹凸の評価は詳細に行なわなかった。
【0169】
腐食程度を確認するため断面をEPMAで観察した結果、試験片表面から約70μmの深さまで腐食変質層が形成されており、腐食変質層ではFe、NiおよびCrの顕著な溶脱が観察された。
【0170】
(比較例5)
比較例5では試験片として板状のタングステンを使用した。材質は実施例1と同じだが、表面粗さが異なる試験片を用いた。種結晶を吊さなかった点を変更し、それ以外は実施例1と同様の条件で実験を行った。
【0171】
比較例5の試験片と同等の試験片の表面粗さを吊り下げ実験前に測定したところ、表面粗さ(Ra)は1.806μmであった。比較例5を実施した後の試験片の外観を観察したところ、表面に付着物が確認された。
【0172】
EPMAによる測定では表面付着物は主にGaとNからなり、GaNが生成していることが確認された。試験片の凹凸を断面SEMにより観察したところ、大きな凹凸が確認された。断面をEPMAで観察した結果、表面にはGaNが付着しているが、試験片表面には窒化層、その他の変質層は認められず腐食は確認されなかった。
【0173】
比較例5を実施した後の試験片の断面SEM写真(1000倍)を図4に示す。
【0174】
【表1】

【0175】
表1の実施例1〜4に示すように、試験片の材料としてタングステン、Ta−2.5重量%W、タンタルまたはチタンを使用し、かつ試験片の表面粗さが小さい場合は、表面にはGaNが付着しないことが確認された。
【0176】
これに対して、比較例5に示すように、試験片の材料として同じタングステンを使用した場合であっても、試験片の表面粗さが大きい場合は、表面にGaNの付着が認められた。
【0177】
これらの結果から、アモノサーマル法による窒化物結晶の製造に用いる部材を構成する材料の種類とその表面粗さの組み合わせにより、GaNの付着を抑制することができることが示された。
【0178】
また、比較例1,2では、試験片の材料としてルテニウムまたはPt−20重量%Irを使用したが、表面にGaNの付着が認められた。これら材料は耐腐食性があり、耐腐食性ライニング材料としては使用可能であるが、GaN付着の観点から見れば、表面粗さが小さいにも関わらず、GaNの付着が多いことから、アモノサーマル法による窒化物結晶の製造に用いる部材を構成する材料として最適材料ではないことが示された。
【0179】
比較例3,4では、試験片の材料としてRene41またはInconel625を使用したが、これら材料では腐食が顕著に進行するため、耐腐食性の観点からアモノサーマル法による窒化物結晶の製造に用いる部材を構成する材料として使用できないことが確認された。
【0180】
以上より、本発明にしたがって特定の材料を用いることにより、材料表面へのGaN付着を抑制できることが確認された。
【0181】
実施例2〜4と同じ実験を、実施例1と同様に結晶成長領域に種結晶を存在させて行うと、種結晶上にGaN単結晶が成長することが確認される。このとき、Ta、WおよびTiからなる群より選択される1種以上の原子を含む金属または合金が存在することによって、種結晶上へのGaN単結晶の成長が阻害されることはないことが確認される。種結晶は、実施例1〜4で用いた試験片上に固定したうえで容器内に設置することも可能であり、その場合も種結晶上にGaN単結晶が成長することが確認される。
【0182】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更及び変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお本出願は、2009年11月27日付で出願された日本特許出願(特願2009−269777)に基づいており、その全体が引用により援用される。
【産業上の利用可能性】
【0183】
本発明は、周期表III族元素の窒化物の塊状単結晶、とりわけGaNの塊状単結晶の育成に有用である。特に原料を効率よく利用して窒化物結晶を得ることができる。さらに、容器を再利用できるようにするための洗浄等の手間を軽減することもできるため、時間とコストの両面において大幅な改善が期待できる。よって、本発明は産業上の利用可能性が極めて高い。
【符号の説明】
【0184】
1 オートクレーブ
2 オートクレーブ内面
3 ライニング
4 ライニング内面
5 バッフル板
6 育成枠
7 種結晶
8 原料
10 バルブ
11 真空ポンプ
12 アンモニアボンベ
13 窒素ボンベ
14 マスフローメータ
20 内筒
21 内筒内面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱化剤を含有する溶液を入れた容器内でアモノサーマル法により窒化物結晶を製造する方法であって、該容器および該容器内に設置される部材の表面のうち該溶液に接触する部分の少なくとも一部が、タンタル(Ta)、タングステン(W)、およびチタン(Ti)からなる群より選択される1種以上の原子を含む金属または合金で構成され、且つ、表面粗さ(Ra)が1.80μm未満であることを特徴とする窒化物結晶の製造方法。
【請求項2】
前記容器における結晶成長領域の表面の少なくとも一部が、前記金属または合金で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項3】
前記結晶成長領域の表面の面積の20%以上が、前記金属または合金で構成されていることを特徴とする請求項2に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項4】
前記部材の表面が前記金属または合金で構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項5】
前記部材が前記容器の結晶成長領域に設置されていることを特徴とする請求項4に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項6】
前記金属または合金で構成されている部分に、酸素を含んだ物質が接触しないように制御することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項7】
前記容器が、オートクレーブの中に設置されている内筒であり、該オートクレーブと該内筒の間に酸素を含まない物質が充填された状態で、該内筒内にて窒化物結晶を製造することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項8】
鉱化剤を含有する溶液を入れてアモノサーマル法により窒化物結晶を製造するための容器であって、該容器の表面のうち該溶液に接触する部分の少なくとも一部が、タンタル(Ta)、タングステン(W)、およびチタン(Ti)からなる群より選択される1種以上の原子を含む金属または合金で構成され、且つ、表面粗さ(Ra)が1.80μm未満であることを特徴とする窒化物結晶製造容器。
【請求項9】
前記容器内に存する結晶成長領域の表面の少なくとも一部が、前記金属または合金で構成されていることを特徴とする請求項8に記載の結晶製造容器。
【請求項10】
前記結晶成長領域の表面の面積の20%以上が、前記金属または合金で構成されていることを特徴とする請求項9に記載の結晶製造容器。
【請求項11】
前記容器の表面のうち前記溶液に接触する部分の少なくとも一部が、Wで構成されているか、またはWを含む合金で構成されていることを特徴とする請求項8〜10のいずれか一項に記載の窒化物結晶製造容器。
【請求項12】
鉱化剤を含有する溶液を用いてアモノサーマル法により窒化物結晶を製造する系内に設置される部材であって、該部材の表面の少なくとも一部が、タンタル(Ta)、タングステン(W)およびチタン(Ti)からなる群より選択される1種以上の原子を含む金属または合金で構成され、且つ、表面粗さ(Ra)が1.80μm未満であることを特徴とする部材。
【請求項13】
ガスケットである請求項12に記載の部材。
【請求項14】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の製造方法により製造される窒化物結晶。
【請求項15】
窒化ガリウムである請求項14に記載の窒化物結晶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−132119(P2011−132119A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263564(P2010−263564)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】