説明

端末装置、移動体端末及びナビゲーションプログラム

【課題】目標の方向を正確に伝達することを課題とする。
【解決手段】端末装置10は、目標に対する自装置の向きを算出する向き算出部14を有する。さらに、端末装置10は、向き算出部14によって算出された向きに応じて目標を示す音の属性に関する加工度を決定する加工度決定部15を有する。さらに、端末装置10は、加工度決定部15によって決定された加工度にしたがって音を出力するように制御する出力制御部18を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端末装置、移動体端末及びナビゲーションプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
目標の位置を利用者に伝達することによって利用者を目標に誘導するナビゲーション(navigation)技術が知られている。かかるナビゲーションが実施される場合には、目標の位置は、映像を介して伝達される他、より直感的な認識を可能とするために音声を介して伝達される。ここで言う「目標」は、利用者が自己の意思で行き着くものであればよく、場所、人、移動体などの任意のものを目標として採用できる。
【0003】
一例としては、次のような残距離切替え型のナビゲーション装置が挙げられる。この残距離切替え型のナビゲーション装置は、近接案内地点ごとに自車両が近接案内地点に到達するまでの残りの距離を複数の区間に分けてそれぞれの区間に割り当てられた効果音を効果音セットとして記憶する。そして、残距離切替え型のナビゲーション装置は、地図データから抽出した近接案内地点に対応する効果音セットのうち、自車位置から近接案内地点までの距離に該当する区間の効果音を再生して案内を行う。これによって、近接案内地点が連続する場合でも各近接案内地点までの残距離を案内する。
【0004】
他の一例としては、次のような車速切替え型のナビゲーション装置が挙げられる。この車速切替え型のナビゲーション装置は、車両の速度に基づいて、案内地点に至るまでに再生する一連の案内用の効果音の種類数を決定し、決定した種類数の一連の案内用の効果音を再生することにより案内を行う。これによって、案内地点までの距離感をよりわかり易く提示する。
【0005】
更なる一例としては、次のような音像定位型のナビゲーション装置が挙げられる。この音像定位型のナビゲーション装置は、車室内に設置された複数のスピーカ(speaker)から、目標物に対応する音、すなわちサウンドアイコン(sound icon)を出力して運転者に目標物を認識させる。例えば、音像定位型のナビゲーション装置は、各スピーカで出力させる音声のレベル及び遅延時間を制御することにより、サウンドアイコンの音像を目標物又はその近傍に定位させる。また、音像定位型のナビゲーション装置は、目標物までの距離に応じてサウンドアイコンに残響を付加する。このようにして、聴覚により目標物の位置を正確に把握させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−286749号公報
【特許文献2】特開2008−292235号公報
【特許文献3】特開2003−156352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の従来技術は、以下に説明するように、目標の方向を正確に伝達することができないという問題がある。
【0008】
例えば、残距離切替え型および車速切替え型のナビゲーション装置は、いずれも目標までの距離感を伝達するものに過ぎない。このため、利用者は、目標までどの程度離れているかを把握できたとしても、目標がどのような方向に所在するのかは把握することはできない。
【0009】
また、音像定位型のナビゲーション装置は、サウンドアイコンの音像を目標物又はその近傍に定位させることにより、目標物の方向を伝達するものである。ところが、目標物又はその近傍にサウンドアイコンの音像を定位させたとしても、利用者は僅かな方向感の違いまで知覚することはできず、利用者に目標物の方向を大まかにしか伝達することはできない。すなわち、仮に目標が利用者の正面に位置したとしても、利用者は、スピーカからの出力によって目標が利用者の正面に位置するのか、あるいは目標が利用者の正面から少し逸れて位置するのかを聞き分けることはできない。また、利用者は、自己の進行方向を変更した場合に目標が利用者の正面に近づいたのか、あるいは目標が利用者の正面から遠ざかったのかを聞き分けることもできない。
【0010】
開示の技術は、上記に鑑みてなされたものであって、目標の方向を正確に伝達できる端末装置、移動体端末及びナビゲーションプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願の開示する端末装置は、目標に対する自装置の向きを算出する算出部を有する。さらに、前記端末装置は、前記算出部によって算出された向きに応じて前記目標を示す音の属性に関する加工度を決定する決定部を有する。さらに、前記端末装置は、前記決定部によって決定された加工度にしたがって前記音を出力するように制御する出力制御部を有する。
【発明の効果】
【0012】
本願の開示する端末装置の一つの態様によれば、目標の方向を正確に伝達できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、実施例1に係る端末装置の構成を示すブロック図である。
【図2A】図2Aは、音源の距離の加工例を示す図である。
【図2B】図2Bは、音源の距離の加工例を示す図である。
【図3】図3は、伝達特性の測定を説明するための図である。
【図4】図4は、実施例1に係るナビゲーション処理の手順を示すフローチャートである。
【図5A】図5Aは、音源の方向の加工例を示す図である。
【図5B】図5Bは、音源の方向の加工例を示す図である。
【図6】図6は、音の音量の加工例を示す図である。
【図7】図7は、音の音程の加工例を示す図である。
【図8】図8は、音のテンポの加工例を示す図である。
【図9】図9は、誘導音の周波数成分に与えるゲインの一例を示す図である。
【図10】図10は、音の周波数特性の加工例を示す図である。
【図11】図11は、音の周波数特性および回帰直線を示す図である。
【図12】図12は、誘導音の周波数成分に与えるゲインの一例を示す図である。
【図13】図13は、音の周波数特性の加工例を示す図である。
【図14】図14は、音の帯域幅の加工例を示す図である。
【図15】図15は、音のSNRの加工例を示す図である。
【図16】図16は、端末装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本願の開示する端末装置、移動体端末及びナビゲーションプログラムの実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例は開示の技術を限定するものではない。そして、各実施例は、処理内容を矛盾させない範囲で適宜組み合わせることが可能である。
【実施例1】
【0015】
[端末装置の構成]
図1は、実施例1に係る端末装置の構成を示すブロック図である。図1に示す端末装置10は、目標の位置を利用者に伝達することによって利用者を目標に誘導するものであり、とりわけ音によって目標の方向を正確に伝達するものである。ここで言う「目標」は、利用者が自己の意思で行き着くものであればよく、場所、人、移動体などの任意のものを目標として採用できる。
【0016】
すなわち、本実施例に係る端末装置10は、音によって利用者に目標への方向感を与える場合に、目標が端末装置10の正面から外れる程、音の属性に関する加工度を大きくして正面からのズレを強調する。このため、本実施例に係る端末装置10では、目標が利用者の正面に相対しているか否か、あるいは目標が利用者の正面に近づいたか否かを知覚しやすい誘導音を出力できる。したがって、本実施例に係る端末装置10によれば、目標の方向を正確に伝達できる。
【0017】
なお、端末装置10は、ナビゲーション(navigation)機能を搭載可能な情報処理装置であればよく、次に例示する各種の装置によって実現できる。一例としては、移動体である利用者によって携帯される端末として、携帯電話、PHS(Personal Handyphone System)やPDA(Personal Digital Assistant)などを採用できる。他の一例としては、車両などの移動体に搭載される端末として、ナビゲーション装置などを採用できる。また、端末装置10は、必ずしも移動体端末である必要はなく、パーソナルコンピュータ(personal computer)などの固定端末であってもよい。
【0018】
図1に示すように、端末装置10は、入力部11aと、表示部11bと、位置取得部12と、向き取得部13と、向き算出部14と、加工度決定部15と、伝達特性記憶部16と、誘導音記憶部17と、出力制御部18と、音声出力部19とを有する。なお、端末装置10は、図1に示した機能部以外にも端末装置10の実装態様に応じて各種の機能部を搭載できる。一例として、端末装置10が利用者によって携帯される携帯端末として実装される場合には、キャリア(carrier)による通信を行う無線通信部を有する。
【0019】
入力部11aは、各種の情報の指示入力を受け付ける入力デバイス(device)である。例えば、入力部11aは、利用者による操作を介して、ナビゲーション機能、以下「ナビ機能」と記載の起動や終了を受け付ける。また、入力部11aは、利用者が誘導を希望する目標の設定を受け付ける。かかる入力部11aの一態様としては、各種の操作キー(key)を採用できる。一例としては、数字および文字等を入力するテンキー(ten+key)、さらには、メニュー(menu)を選択したり、画面表示をスクロール(scroll)したりなどに用いられるカーソルキー(cursor key)などが挙げられる。また、入力部11aの他の態様としては、後述の表示部11bと一体化されたタッチパネル(touch panel)を採用できる。
【0020】
表示部11bは、各種の情報を表示する表示デバイスである。例えば、表示部11bは、目標を設定したり、目標を画面上で確認するために地図データを表示する。かかる表示部11bの一態様としては、モニタ(monitor)、ディスプレイ(display)やタッチパネル(touch panel)などを採用できる。
【0021】
ここで、以下では、端末装置10を携帯する利用者が端末装置10に搭載されるナビ機能を利用して目標への誘導サービス(service)を受ける場合を想定して説明を行う。さらに、目標の設定の一例として、利用者が入力部11aを操作することによってナビ機能が起動され、表示部11bによって地図データが表示された画面上でランドマーク(landmark)や交差点などが目標として設定される例を想定する。なお、ここでは、地図上の目標を受け付ける例を想定するが、必ずしも地図上の目標を受け付ける必要はない。例えば、端末装置10が携帯電話やPHSなどの通信装置である場合には、自装置と呼接続されている他の通信装置を目標に自動設定することもできる。この場合には、他の通信装置を携帯する者、例えば待ち合わせ相手などが位置する方向を音声によって伝達する。
【0022】
位置取得部12は、端末装置10の位置および目標の位置を取得する処理部である。例えば、自装置の位置を取得する一態様としては、位置取得部12は、GPS(Global Positioning System)受信機を用いて、自装置が所在する緯度および経度を測定する。その上で、位置取得部12は、測定した緯度および経度から平面直角座標上における自装置の座標位置を算出することによって自装置の位置を取得する。また、目標の位置を取得する一態様としては、位置取得部12は、地図データの中で入力部11aを介して目標が指定された箇所の平面直角座標を目標の位置として取得する。
【0023】
なお、緯度および経度から平面直角座標上における端末装置10の位置を求める場合には、次のような既存技術を利用できる。この既存技術の一例としては、「TOTAL INVERSE SOLUTIONS FOR THE GEODESIC AND GREAT ELLIPTIC」 B.R.Bowring Survey Review33,261(July,1996)461-476,URL「http://vldb.gsi.go.jp/sokuchi/surveycalc/algorithm/(2010年9月1日検索)」がある。また、この既存技術の他の一例としては、URL「http://vldb.gsi.go.jp/sokuchi/surveycalc/algorithm/bl2xy/bl2xy.htm(2010年9月1日検索)」もある。
【0024】
向き取得部13は、端末装置10の向きを取得する処理部である。一例としては、向き取得部13は、電子コンパスを用いて、水平面上において自装置の中心縦軸が指す方向、例えば端末装置の長手方向と、北方向(0°)とがなす角度Aを端末の向きとして取得する。他の一例としては、向き取得部13は、GPS受信機を用いて、自装置が移動する軌跡を抽出することによってその進行方向が北方向(0°)に対してなす角度Aを端末の向きとして取得することもできる。上記の2つの例では、北方向(0°)を基準として角度を取得する場合を説明したが、開示の装置はこれに限定されず、基準とする方向として任意の方向を採用できる。
【0025】
なお、ここでは、端末の向きと利用者の正面方向とが同じ方向であるものと仮定して端末の向きを取得する例を説明した。ところが、利用者の耳に添えて使用される通信装置として端末装置10が使用される場合などには、両者が必ずしも同じ方向になるとは限らない。このような場合には、端末の向きを補正して利用者の正面方向を算出する任意の技術を採用すればよい。
【0026】
向き算出部14は、目標に対する端末の向きを算出する処理部である。一例としては、向き算出部14は、位置取得部12によって取得された自装置の位置および目標の位置に基づいて、端末装置10から目標へ向かう方向を求める。さらに、向き算出部14は、先に求めた目標の所在方向と北方向(0°)とがなす角度Bを目標の所在方向として求める。その上で、向き算出部14は、このようにして求めた目標の所在方向である角度Bと、向き取得部13によって端末の向きとして取得された角度Aとに基づいて、目標に対する自装置の向き、例えば「角度B−角度A」を求める。
【0027】
加工度決定部15は、向き算出部14によって算出された目標に対する端末の向き、すなわち目標に対する利用者の向きΦ(t)に応じて目標を示す音の属性に関する加工度を決定する処理部である。
【0028】
一例として、音の属性のうち音源の距離(r)を加工することによって目標の方向を伝達する場合を例示する。ここで言う「音源の距離」とは、自装置の所在位置から仮想音源を配置する位置までの距離を指す。また、「加工度」は、音源の距離の大きさを指す。図2A及び図2Bは、音の距離の加工例を示す図である。図2A及び図2Bに示すグラフの横軸は、目標に対する利用者の向き(Φ)を指す。図2A及び図2Bに示すグラフの縦軸は、音源の距離(r)を指す。図2A及び図2Bの例では、いずれも目標が利用者の正面に位置する場合、すなわちΦ(t)=0である場合に音源の距離を最短(r=b)とする場合を想定している。なお、図2Bにおけるb、c、dの大小関係は「b<c<d」であるものとする。
【0029】
図2Aに示す例で言えば、加工度決定部15は、2次関数「r=aΦ+b」にしたがって音源の距離を決定する。すなわち、加工度決定部15は、目標に対する利用者の向き(Φ)の絶対値が大きくなるほど、音源の距離(r)を大きくすることによって距離(r)を切片bから乖離させる度合いを大きくする。このとき、2次関数の傾きaは、値を高く設定するほど、利用者が目標に正対するか、あるいは利用者が目標に概ね正対した場合にだけ音を明瞭に知覚させ、それ以外の場合には音源を利用者から遠ざけることによって音をぼやけて知覚させることができる。これによって、目標が利用者の正面からズレている場合、あるいは利用者の正面からズレた場合にその旨を強調できる。例えば、2次関数の傾きaには、正面からのズレを強調する観点から1よりも大きい2を設定するのが好ましい。また、2次関数の切片bは、利用者が音源を間近に知覚できる程度の値、例えば「1m」を設定するのが好ましい。なお、上記の例は、あくまで一例であり、2次関数の傾きaおよび切片bには任意の値を設定できる。
【0030】
図2Bに示す例で言えば、加工度決定部15は、目標に対する利用者の向き(Φ)の絶対値が大きくなるにしたがって音源の距離(r)を段階的に大きくする。具体的には、加工度決定部15は、「−π/3≦Φ<π/3」の範囲、すなわち目標が利用者の正面または概ね正面である場合には、音源の距離を最短(r=b)とする。また、加工度決定部15は、「−π/2≦Φ<−π/3」の範囲及び「π/3≦Φ<π/2」の範囲、すなわち目標が利用者の正面から少し外れる場合には、音源の距離をc(>b)とする。さらに、加工度決定部15は、「−π≦Φ<−π/2」の範囲及び「π/2≦Φ<π」の範囲、すなわち目標が利用者の正面から大きく外れる場合には、音源の距離をd(>c)とする。これによって、利用者は、音源の距離の僅かな違いを知覚せずとも、自身が目標に正対しているのか否かを段階的に知覚できる。このため、目標が利用者の正面からズレている場合、あるいは利用者の正面からズレた場合にその旨を強調できる。なお、図2Bの例では、音源の距離を3段階とする場合を例示したが、音源の距離は任意の段階に分けることができる。
【0031】
伝達特性記憶部16は、伝達特性を記憶する記憶部である。この伝達特性記憶部16には、後述の出力制御部18で頭部伝達関数の畳み込み演算を行うことによって任意の位置に音源を定位させるために、左右の耳ごとに予め測定された伝達特性が予め登録される。
【0032】
図3は、伝達特性の測定を説明するための図である。図3に示すHL(l,α)は、音源から左耳への伝達特性を指す。図3に示すHR(l,α)は、音源から右耳への伝達特性を指す。図3に示すINは、左耳用の出力音を指す。図3に示すINは、右耳用の出力音を指す。図3に示すように、伝達特性記憶部16には、仮想音源を定位させる位置、すなわち距離(l)および方向(α)に関し、左右の耳ごとに予め測定された左耳への伝達特性HL(l,α)及び右耳への伝達特性HR(l,α)が登録される。これら伝達特性HL(l,α)及び伝達特性HR(l,α)の測定は、仮想音源を定位させようとする位置の伝達特性を網羅するように、距離(l)および方向(α)を変更して測定される。これら伝達特性HL(l,α)及び伝達特性HR(l,α)は、後述の出力制御部18によって左右の耳の頭部伝達関数hrtf(Head-Related Transfer Function)へ算出された後に左耳用の出力音IN及び右耳用の出力音INの生成に使用される。
【0033】
誘導音記憶部17は、利用者を目標へ誘導するための誘導音を記憶する記憶部である。この誘導音記憶部17には、電子音、例えば「ピッ ピピッ・・・」を予め登録しておくこともできるし、あるいは所望の楽曲をプリインストール(preinstall)あるいはダウンロード(download)後にインストールすることもできる。なお、誘導音は、人間が知覚できる音であれば如何なる種類の音であってもかまわない。
【0034】
出力制御部18は、加工度決定部15によって決定された音の属性に関する加工度にしたがって目標を示す音を出力するように制御する処理部である。一例としては、出力制御部18は、伝達特性記憶部16に記憶された伝達特性のうち、加工度決定部15によって決定された音源の距離(r)に最も近い伝達特性を取り出す。すなわち、出力制御部18は、音源の距離の差が|l−r|となる伝達特性HL(l,α)及び伝達特性HR(l,α)を取り出す。そして、出力制御部18は、伝達特性HL(l,α)及び伝達特性HR(l,α)に周波数時間変換、いわゆるフーリエ変換を行う。これによって、出力制御部18は、左右の耳の頭部伝達関数、いわゆるインパルス応答hrtfL(l,α,m)およびhrtfR(l,α,m)を算出する。なお、mは、インパルス応答長であり、m=0,・・・M−1,Mである。その上で、出力制御部18は、FIRフィルタ(Finite impulse response)を用いて、下記の式(1)及び式(2)に示す畳み込み演算を実行する。すなわち、出力制御部18は、誘導音記憶部17から取り出した誘導音の信号sig(n)に左耳へのインパルス応答hrtfL(l,α,m)および右耳へのインパルス応答hrtfR(l,α,m)を畳み込む。このようにして、出力制御部18は、左耳用の出力音IN及び右耳用の出力音INのステレオ信号を生成した後にそのステレオ信号を音声出力部19へ出力する。
【0035】
【数1】

【数2】

【0036】
音声出力部19は、出力制御部18によって出力された音声信号を出力する音声出力デバイスである。かかる音声出力部19の一態様としては、スピーカ(speaker)やイヤホン(earphone)を採用できる。例えば、スピーカを介して音声を出力する場合には、音声出力部19は、複数のスピーカのうち左スピーカLから左耳用の出力音INを出力するとともに、右スピーカRから右耳用の出力音INを出力する。また、イヤホンを介して音声を出力する場合には、音声出力部19は、左耳用のイヤホンLから左耳用の出力音INを出力するとともに、右耳用のイヤホンRから右耳用の出力音INを出力する。
【0037】
なお、上述した端末装置10は、例えば、RAM(Random Access Memory)やフラッシュメモリ(flash memory)などの半導体メモリ素子を有し、各種処理に利用する。また、上述した端末装置10は、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)などの電子回路を有し、RAMやフラッシュメモリを用いて各種処理を実行する。なお、上述した端末装置10は、CPUやMPUの代わりに、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)などの集積回路を有することとしてもよい。
【0038】
[処理の流れ]
次に、本実施例に係る端末装置の処理の流れについて説明する。図4は、実施例1に係るナビゲーション処理の手順を示すフローチャートである。このナビゲーション処理は、入力部11aを介して、ナビ機能の起動を受け付けた場合に処理が起動する。
【0039】
図4に示すように、ナビ機能の起動を受け付けると(ステップS101)、入力部11aは、表示部11bによって地図データが表示された画面上で目標の設定を受け付ける(ステップS102)。
【0040】
その後、位置取得部12は、端末装置10の位置および目標の位置を取得する(ステップS103)。そして、向き取得部13は、端末装置10の向きを取得する(ステップS104)。続いて、向き算出部14は、位置取得部12によって取得された自装置の位置および目標の位置から目標の所在方向を求めた後に目標の所在方向と向き取得部13によって取得された端末の向きとから目標に対する自装置の向きを算出する(ステップS105)。
【0041】
そして、加工度算出部15は、向き算出部14によって算出された目標に対する端末の向き、すなわち目標に対する利用者の向きに応じて目標を示す音の属性に関する加工度を決定する(ステップS106)。続いて、出力制御部18は、加工度決定部15によって決定された音の属性に関する加工度にしたがって誘導音を加工した上で加工後の誘導音を音声出力部19に出力させる(ステップS107)。
【0042】
そして、ナビ機能が終了されるまで(ステップS108否定)、上記のステップS103〜ステップS107までの処理を繰り返し行う。その後、ナビ機能が終了されると(ステップS108肯定)、処理を終了する。なお、ナビ機能は、利用者から入力部11aを介して終了指示を受け付けた場合に終了されたり、利用者の目標への到達をもって自動的に終了されたりする。
【0043】
[実施例1の効果]
上述してきたように、本実施例に係る端末装置10は、目標に対する自装置の向きを算出し、算出した向きに応じて音源の距離に関する加工度を決定した上でその加工度にしたがって音を出力するように制御する。このため、利用者は、音源の距離の僅かな違いを知覚せずとも、自身が目標に正対しているのか否かを知覚できる。したがって、本実施例に係る端末装置10によれば、目標の方向を正確に伝達することが可能になる。
【0044】
また、本実施例に係る端末装置10は、目標に対する自装置の向きが正面から遠ざかる程、音源の距離に関する加工度を大きくする。このため、本実施例に係る端末装置10では、目標が自動値の正面から外れる程、音の距離に関する加工度を大きくして正面からのズレを強調できる。このため、本実施例に係る端末装置10では、目標が利用者の正面に相対しているか否か、あるいは目標が利用者の正面に近づいたか否かを知覚しやすい誘導音を出力できる。したがって、本実施例に係る端末装置10によれば、目標の方向をより正確に伝達できる。
【実施例2】
【0045】
さて、上記の実施例1では、音の属性のうち音源の距離(r)を加工することによって目標の方向を伝達する場合を例示したが、他の音の属性を用いることもできる。そこで、実施例2では、音の属性のうち音源の方向(θ)を加工することによって目標の方向を伝達する場合について説明する。
【0046】
ここで、本実施例では、図1に示した加工度決定部15及び出力制御部18以外の機能部については上記の実施例1と同様の機能を有するため、その説明は省略する。また、本実施例では、上記の実施例1の端末装置、加工度決定部及び出力制御部と区別する観点から、端末装置の符号を「20」とし、加工度決定部の符号を「21」とし、出力制御部の符号を「22」として以下の説明を行う。
【0047】
このうち、加工度決定部21は、向き算出部14によって算出された目標に対する端末の向き、すなわち目標に対する利用者の向きに応じて音源の方向に関する加工度を決定する。ここで言う「音源の方向」とは、仮想音源を配置する方向を指す。また、「加工度」は、音源の方向の大きさを指す。
【0048】
図5A及び図5Bは、音源の方向の加工例を示す図である。図5A及び図5Bに示すグラフの横軸は、目標に対する利用者の向き(Φ)を指す。図5A及び図5Bに示すグラフの縦軸は、音源の方向(θ)を指す。図5A及び図5Bの例では、いずれも目標が利用者の正面に位置する場合、すなわちΦ(t)=0である場合に音源の方向を正面(θ=0)とする場合を想定している。
【0049】
図5Aに示す例で言えば、加工度決定部21は、目標に対する利用者の向き(Φ)が「−π≦Φ<−π/12」である場合には、関数1「θ=6Φ/11−5π/11」にしたがって音源の方向(θ)を決定する。また、加工度決定部21は、目標に対する利用者の向き(Φ)が「−π/12≦Φ<π/12」である場合には、関数2「θ=6Φ」にしたがって音源の方向(θ)を決定する。さらに、加工度決定部21は、目標に対する利用者の向き(Φ)が「π/12≦Φ<π」である場合には、関数3「θ=6Φ/11+5π/11」にしたがって音源の方向(θ)を決定する。このように、目標に対する利用者の向きが正面に近い所定の範囲では、関数1及び関数2よりも傾きが大きい関数3にしたがって音源の方向(θ)を決定する。このため、目標が利用者に概ね正対していたとしても音源が利用者の正面からは外れた位置に配置され、利用者に正対しない限りは音源が利用者の正面に配置されないことなる。それゆえ、利用者は、目標に正対したことを知覚しやすくなる。
【0050】
図5Bに示す例で言えば、加工度決定部21は、目標に対する利用者の向き(Φ)が「−π≦Φ<−π/2」及び「π/2≦Φ<π」である場合には、関数4「θ=Φ」にしたがって音源の方向(θ)を決定する。また、加工度決定部21は、目標に対する利用者の向き(Φ)が「−π/2≦Φ<π/2」である場合には、関数4よりも傾きが大きい非線形の関数5にしたがって音源の方向(θ)を決定する。このため、図5Aに示した例と同様に、目標が利用者に概ね正対していたとしても音源が利用者の正面からは外れた位置に配置され、利用者に正対しない限りは音源が利用者の正面に配置されないことなる。それゆえ、利用者は、目標に正対したことを知覚しやすくなる。
【0051】
出力制御部22は、誘導音記憶部17に記憶された誘導音に加工度決定部21によって決定された音源の方向(θ)に定位させるインパルス応答を畳み込み演算することによりステレオ信号を生成する。一例としては、出力制御部22は、伝達特性記憶部16に記憶された伝達特性のうち、加工度決定部21によって決定された音源の方向(θ)に最も近い伝達特性を取り出す。すなわち、出力制御部22は、音源の距離の差が|α−θ|となる伝達特性HL(l,α)及び伝達特性HR(l,α)を取り出す。そして、出力制御部22は、伝達特性HL(l,α)及び伝達特性HR(l,α)にフーリエ変換を行う。これによって、出力制御部22は、左耳のインパルス応答hrtfL(l,α,m)および右耳のインパルス応答hrtfR(l,α,m)を算出する。その上で、出力制御部22は、FIRフィルタを用いて、上記の式(1)及び式(2)に示す畳み込み演算を実行する。すなわち、出力制御部22は、誘導音記憶部17から取り出した誘導音の信号sig(n)に左耳へのインパルス応答hrtfL(l,α,m)および右耳へのインパルス応答hrtfR(l,α,m)を畳み込む。このようにして、出力制御部22は、左耳用の出力音IN及び右耳用の出力音INのステレオ信号を生成した後にそのステレオ信号を音声出力部19へ出力する。
【0052】
[実施例2の効果]
上述してきたように、本実施例に係る端末装置20は、音の属性のうち音源の方向(θ)を加工することによって目標の方向を伝達する。このため、利用者は、上記の実施例1と同様に、音源の方向の僅かな違いを知覚せずとも、自身が目標に正対しているのか否かを知覚できる。よって、本実施例に係る端末装置20によれば、目標の方向を正確に伝達することが可能になる。
【0053】
さらに、本実施例に係る端末装置20は、目標に対する利用者の向きが正面から所定の範囲内である場合に、当該範囲において向きが正面から遠ざかるにしたがって増加させる加工度の増加量を他の範囲において増加させる加工度の増加量よりも大きくする。このため、目標が利用者に概ね正対していたとしても音源が利用者の正面からは外れた位置に配置され、利用者に正対しない限りは音源が利用者の正面に配置されないことなる。それゆえ、利用者は、目標に正対したことを知覚しやすくなる。よって、本実施例に係る端末装置20によれば、利用者が目標に正対するのを効果的に支援することが可能になる。
【実施例3】
【0054】
さて、上記の実施例2では、音の属性のうち音源の方向(θ)を加工することによって目標の方向を伝達する場合を例示したが、さらに異なる音の属性を用いることもできる。そこで、実施例3では、音の属性のうち音の音量(V)を加工することによって目標の方向を伝達する場合について説明する。
【0055】
ここで、本実施例では、図1に示した加工度決定部15及び出力制御部18以外の機能部については上記の実施例1と同様の機能を有するため、その説明は省略する。また、本実施例では、上記の実施例1及び実施例2の端末装置、加工度決定部及び出力制御部と区別する観点から、端末装置の符号を「30」とし、加工度決定部の符号を「31」とし、出力制御部の符号を「32」として以下の説明を行う。
【0056】
このうち、加工度決定部31は、向き算出部14によって算出された目標に対する端末の向き、すなわち目標に対する利用者の向きに応じて音の音量(V)に関する加工度を決定する。ここで言う「加工度」は、最大音量Vmaxに対する出力音量の倍率(%)の制御量を指す。
【0057】
図6は、音の音量の加工例を示す図である。図6に示すグラフの横軸は、目標に対する利用者の向き(Φ)を指す。図6に示すグラフの縦軸は、出力音量の倍率(v)を指す。図6の例では、目標が利用者の正面に位置する場合、すなわちΦ(t)=0である場合に出力音量の倍率(v)を最大倍率(Vmax=100%)とする場合を想定している。
【0058】
図6に示す例で言えば、加工度決定部31は、出力音量の倍率の算出式「v(Φ)=((Vmax−Vmin)/2)sin(Φ+π/2)+(Vmax+Vmin)/2」にしたがって出力音量の倍率(v)を決定する。この算出式によれば、目標に対する利用者の向き(Φ)が「−π/2≦Φ<π/2」である場合には、出力音量の倍率(v)は次のようになる。すなわち、出力音量の倍率(v)は、目標に対する利用者の向き(Φ)と出力音量の倍率(v)とを線形に変化させた場合、すなわち図中の一点鎖線にしたがって変化させる場合よりも出力音量の倍率(v)が大きくなる。一方、目標に対する利用者の向き(Φ)が「−π≦Φ<−π/2」または「π/2≦Φ<π」である場合には、出力音量の倍率(v)は次のようになる。すなわち、出力音量の倍率(v)は、目標に対する利用者の向き(Φ)と出力音量の倍率(v)とを線形に変化させた場合よりも出力音量の倍率(v)が小さくなる。このため、利用者が目標に正対するか、あるいは利用者が目標に概ね正対した場合にだけ音を大きく知覚させ、それ以外の場合には音源を利用者から遠ざけることによって音を小さく知覚させることができる。これによって、目標が利用者の正面からズレている場合、あるいは利用者の正面からズレた場合にその旨を強調できる。
【0059】
出力制御部32は、加工度決定部31によって決定された出力音量の倍率にしたがって誘導音記憶部17に記憶された誘導音の音量を変更する。一例としては、出力制御部32は、出力音量の算出式「es(t)=s(t)×v/100」にしたがって誘導音の音声信号を減衰させた上で減衰後の誘導音の音声信号を音声出力部19に出力する。ここで言う「es(t)」は、加工後の誘導音のサンプルを指す。また、「s(t)」は、加工前の誘導音のサンプルを指す。
【0060】
[実施例3の効果]
上述してきたように、本実施例に係る端末装置30は、音の属性のうち音の音量(V)を加工することによって目標の方向を伝達する。このため、利用者は、上記の実施例1と同様に、音の音量の僅かな違いを知覚せずとも、自身が目標に正対しているのか否かを知覚できる。よって、本実施例に係る端末装置30によれば、目標の方向を正確に伝達することが可能になる。さらに、本実施例に係る端末装置30では、頭部伝達関数を使用せずとも音量を加工できるので、ステレオ出力のみならず、モノラル出力の場合にも好適に適用できる。
【実施例4】
【0061】
さて、上記の実施例3では、音の属性のうち音の音量(V)を加工することによって目標の方向を伝達する場合を例示したが、さらに異なる音の属性を用いることもできる。そこで、実施例4では、音の属性のうち音の音程(P)を加工することによって目標の方向を伝達する場合について説明する。
【0062】
ここで、本実施例では、図1に示した加工度決定部15及び出力制御部18以外の機能部については上記の実施例1と同様の機能を有するため、その説明は省略する。また、本実施例では、上記の実施例1〜実施例3の端末装置、加工度決定部及び出力制御部と区別する観点から、端末装置の符号を「40」とし、加工度決定部の符号を「41」とし、出力制御部の符号を「42」として以下の説明を行う。
【0063】
このうち、加工度決定部41は、向き算出部14によって算出された目標に対する端末の向き、すなわち目標に対する利用者の向きに応じて音の音程(P)に関する加工度を決定する。ここで言う「加工度」は、最大音程Pmaxに対する出力音程の倍率(%)の制御量を指し、最大音程Pmaxが原音の音調であるものとする。
【0064】
図7は、音の音程の加工例を示す図である。図7に示すグラフの横軸は、目標に対する利用者の向き(Φ)を指す。図7に示すグラフの縦軸は、出力音程の倍率(p)を指す。図7の例では、目標が利用者の正面に位置する場合、すなわちΦ(t)=0である場合に出力音程の倍率(p)を最大倍率(Pmax=100%)とする場合を想定している。
【0065】
図7に示す例で言えば、加工度決定部41は、目標に対する利用者の向き(Φ)が「0≦Φ」である場合には、出力音量の倍率(p)の算出式(イ)「p(Φ)=Pmax+(Pmin−Pmax)Φ/π」にしたがって出力音程の倍率を決定する。また、目標に対する利用者の向き(Φ)が「Φ<0」である場合には、出力音量の倍率(p)の算出式(ロ)「p(Φ)=Pmin+(Pmax−Pmin)Φ/π」にしたがって出力音程の倍率(p)を決定する。これによって、利用者は、音の音程の僅かな違いを知覚せずとも、自身が目標に正対しているのか否かを知覚できる。なお、上記の実施例3で説明した出力音量の倍率(v)の算出式と類似した出力音程の倍率(p)の算出式「p(Φ)=((Pmax−Pmin)/2)sin(Φ+π/2)+(Pmax+Pmin)/2」を使用することもできる。
【0066】
出力制御部42は、加工度決定部41によって決定された出力音程の倍率にしたがって誘導音記憶部17に記憶された誘導音の音程を変更する。一例としては、出力制御部42は、誘導音記憶部17に記憶された誘導音の音声信号を時間周波数変換、いわゆるフーリエ逆変換を行うことによって周波数成分を得る。かかる周波数成分は、周波数(Hz)ごとの複素数である。ここで、周波数成分を所定の帯域幅で分割した数、以外「帯域分割数」と記載をNとし、k番目(k=0,・・・,N−1)の帯域の周波数成分をS(k)として以下の説明を行う。出力制御部42は、小数点以下を四捨五入して整数を出力するROUND関数を用いて、誘導音の周波数成分を出力音程の倍率p(Hz)分低くする処理を行う。すなわち、出力制御部42は、「j=round(p/Δf)」及び「Δf・f(k)-f(k-1)」を用いて、「k=0,・・・,N−j−1」を対象にS′(k)=S(k+j)0を計算し、「k=N−j,・・・,N−1」を対象にS′(k)=0を計算する。その上で、出力制御部42は、S′(k)に周波数時間変換を行うことによって周波数成分が出力音程の倍率p(Hz)分低くなった誘導音の音声信号を生成する。
【0067】
[実施例4の効果]
上述してきたように、本実施例に係る端末装置40は、音の属性のうち音の音程(P)を加工することによって目標の方向を伝達する。このため、利用者は、上記の実施例1と同様に、音の音程の僅かな違いを知覚せずとも、自身が目標に正対しているのか否かを知覚できる。よって、本実施例に係る端末装置40によれば、目標の方向を正確に伝達することが可能になる。さらに、本実施例に係る端末装置40では、頭部伝達関数を使用せずとも音程を加工できるので、ステレオ出力のみならず、モノラル出力の場合にも好適に適用できる。
【実施例5】
【0068】
さて、上記の実施例4では、音の属性のうち音の音程(P)を加工することによって目標の方向を伝達する場合を例示したが、さらに異なる音の属性を用いることもできる。そこで、実施例5では、音の属性のうち音のテンポ(T)を加工することによって目標の方向を伝達する場合について説明する。
【0069】
ここで、本実施例では、図1に示した加工度決定部15及び出力制御部18以外の機能部については上記の実施例1と同様の機能を有するため、その説明は省略する。また、本実施例では、上記の実施例1〜実施例4の端末装置、加工度決定部及び出力制御部と区別する観点から、端末装置の符号を「50」とし、加工度決定部の符号を「51」とし、出力制御部の符号を「52」として以下の説明を行う。
【0070】
このうち、加工度決定部51は、向き算出部14によって算出された目標に対する端末の向き、すなわち目標に対する利用者の向きに応じて音のテンポ(T)に関する加工度を決定する。ここで言う「加工度」は、最大テンポTmaxに対する出力テンポの倍率(%)の制御量を指し、最大テンポTmaxが原音のテンポであるものとする。
【0071】
図8は、音のテンポの加工例を示す図である。図8に示すグラフの横軸は、目標に対する利用者の向き(Φ)を指す。図8に示すグラフの縦軸は、出力テンポの倍率(t)を指す。図8の例では、目標が利用者の正面に位置する場合、すなわちΦ(t)=0である場合に出力テンポの倍率(t)を最大テンポ(Tmax=100%)とする場合を想定している。
【0072】
図8に示す例で言えば、加工度決定部51は、出力テンポの倍率(t)の算出式「t(Φ)=(Tmax−Tmin)sin(Φ/2+π/2)+Tmin」にしたがって出力テンポの倍率(t)を決定する。すなわち、加工度決定部51は、目標に対する利用者の向き(Φ)の絶対値が大きくなるほど、出力テンポの倍率(t)の制御量を大きくする。このように出力テンポの倍率(t)を決定した場合には、利用者が目標に正対するか、あるいは利用者が目標に概ね正対した場合にだけ音を原音通り速さで違和感なく知覚させることができる。一方、それ以外の場合には、原音よりも音の速さを遅くすることによって音を間延びして知覚させることができる。これによって、目標が利用者の正面からズレている場合、あるいは利用者の正面からズレた場合にその旨を強調できる。
【0073】
出力制御部52は、加工度決定部51によって決定された出力テンポの倍率にしたがって誘導音記憶部17に記憶された誘導音のテンポを変更する。一例としては、出力制御部52に次のような既存技術を適用することによって誘導音の音声信号の速度を変換することができる。この既存技術の一例としては、「電子情報通信工学シリーズ 音声情報処理 古井貞熙著 森北出版株式会社」の信号波形を用いた速度変換の方法として時間領域調波構造伸縮(TDHS:time-domainharmonic scaling)が記載されている。
【0074】
[実施例5の効果]
上述してきたように、本実施例に係る端末装置50は、音の属性のうち音のテンポ(T)を加工することによって目標の方向を伝達する。このため、利用者は、上記の実施例1と同様に、音のテンポの僅かな違いを知覚せずとも、自身が目標に正対しているのか否かを知覚できる。よって、本実施例に係る端末装置50によれば、目標の方向を正確に伝達することが可能になる。さらに、本実施例に係る端末装置50では、頭部伝達関数を使用せずともテンポを加工できるので、ステレオ出力のみならず、モノラル出力の場合にも好適に適用できる。
【実施例6】
【0075】
さて、上記の実施例5では、音の属性のうち音のテンポ(T)を加工することによって目標の方向を伝達する場合を例示したが、さらに異なる音の属性を用いることもできる。そこで、実施例6では、音の属性のうち音の周波数特性を加工することによって目標の方向を伝達する場合について説明する。
【0076】
ここで、本実施例では、図1に示した加工度決定部15及び出力制御部18以外の機能部については上記の実施例1と同様の機能を有するため、その説明は省略する。また、本実施例では、上記の実施例1〜実施例5の端末装置、加工度決定部及び出力制御部と区別する観点から、端末装置の符号を「60」とし、加工度決定部の符号を「61」とし、出力制御部の符号を「62」として以下の説明を行う。
【0077】
このうち、加工度決定部61は、向き算出部14によって算出された目標に対する端末の向き、すなわち目標に対する利用者の向きに応じて音の周波数特性(T)に関する加工度を決定する。
【0078】
ここで言う「加工度」は、誘導音の周波数成分に与える最大ゲインCmaxに対する付与ゲインの倍率(%)の制御量を指す。図9は、誘導音の周波数成分に与えるゲインの一例を示す図である。図9に示すグラフの横軸は、周波数(Hz)を指し、左端は最小可聴値を表すものとする。図9に示すグラフの縦軸は、ゲインを指す。図9の例では、誘導音の周波数成分に与える最大ゲインCmaxを表している。図9に示すように、最大ゲインCmaxは、人間の聴覚が知覚しやすい周波数帯域のゲインが大きく設定され、最大ゲインCmaxが誘導音の音声信号に付与されることによって最小可聴値をはじめとする周波数成分全体の音が同等に聞こえるように設定される。
【0079】
図10は、音の周波数特性の加工例を示す図である。図10に示すグラフの横軸は、目標に対する利用者の向き(Φ)を指す。図10に示すグラフの縦軸は、付与ゲインの倍率(c)を指す。図10の例では、目標が利用者の正面に位置する場合、すなわちΦ(t)=0である場合に付与ゲインの倍率(c)を最大ゲイン(Cmax=100%)とする場合を想定している。
【0080】
図10に示す例で言えば、加工度決定部61は、付与ゲインの倍率(c)の算出式「c(Φ)=(Cmax−Cmin)sin(Φ/2+π/2)+Cmin」にしたがって付与ゲインの倍率(c)を決定する。すなわち、加工度決定部61は、目標に対する利用者の向き(Φ)の絶対値が大きくなるほど、付与ゲインの倍率(c)の制御量を大きくする。このように付与ゲインの倍率(c)を決定した場合には、利用者が目標に正対するか、あるいは利用者が目標に概ね正対した場合にだけ音を敏感に知覚させることができる。一方、それ以外の場合には、原音に付与するゲインを小さくすることによって音を鈍らせて知覚させることができる。これによって、目標が利用者の正面からズレている場合、あるいは利用者の正面からズレた場合にその旨を強調できる。
【0081】
出力制御部62は、加工度決定部61によって決定された付与ゲインの倍率にしたがって誘導音記憶部17に記憶された誘導音の周波数特性を変更する。一例としては、出力制御部62は、付与ゲインの算出式「e(f)=10^((c(Φ)*g(f))/100/20」にしたがって誘導音の音声信号に付与する付与ゲインe(f)を算出する。この算出式に含まれる「g(f)」は、図9に示した最大ゲインCmaxを指す。そして、出力制御部62は、誘導音記憶部17に記憶された誘導音の音声信号を時間周波数変換を行うことによって周波数成分を得る。かかる周波数成分は、周波数(Hz)ごとの複素数である。ここで、周波数成分を所定の帯域幅で分割した数、以外「帯域分割数」と記載をNとし、k番目(k=0,・・・,N−1)の帯域の周波数成分をS(k)として以下の説明を行う。そして、出力制御部62は、誘導音の各帯域の周波数成分S(k)に付与ゲインe(f)を乗算することによってゲイン付与後の誘導音の周波数成分S′′(k)を生成する。その後、出力制御部62は、ゲイン付与後の誘導音の周波数成分S′′(k)に周波数時間変換を行うことによって周波数特性が加工された誘導音の音声信号を生成する。
【0082】
[実施例6の効果]
上述してきたように、本実施例に係る端末装置60は、音の属性のうち音の周波数特性を加工することによって目標の方向を伝達する。このため、利用者は、上記の実施例1と同様に、音の周波数特性の僅かな違いを知覚せずとも、自身が目標に正対しているのか否かを知覚できる。よって、本実施例に係る端末装置60によれば、目標の方向を正確に伝達することが可能になる。さらに、本実施例に係る端末装置60では、頭部伝達関数を使用せずとも周波数特性を加工できるので、ステレオ出力のみならず、モノラル出力の場合にも好適に適用できる。
【0083】
[実施例6の応用例]
ところで、上記の実施例6では、誘導音の各周波数成分にゲインを付与することによって利用者が知覚しやすいように音の周波数特性を加工する場合を説明したが、開示の装置はこれに限定されない。例えば、誘導音の各周波数成分にゲインを付与することによって利用者が知覚しにくいように音の周波数特性を加工するようにしてもよい。
【0084】
図11は、音の周波数特性および回帰直線を示す図である。図11に示すグラフの横軸は、周波数(Hz)を指す。図11に示すグラフの縦軸は、パワー(dB)を指す。図11に示す符号65及び符号66の破線は、音の周波数特性を示す。図11に示す符号65a及び符号66aの実線は、音の周波数特性の回帰直線を指す。
【0085】
図11に示すように、人間は、高い周波数帯域の音を聞き取りにくい傾向にあるため、目標に対する利用者の向き(Φ)の絶対値が大きくなるほど音の周波数特性の傾きが低くするように制御することにより、次のような作用を得られる。すなわち、上記の音の周波数特性の傾き制御を行った場合には、利用者が目標に正対するか、あるいは利用者が目標に概ね正対した場合にだけ音を敏感に知覚させることができる。図11の例で言えば、目標に対する利用者の向き(Φ)の絶対値が大きい場合には、音の周波数特性の回帰直線65aの傾きが音の周波数特性の回帰直線66aの傾きになるようにゲインを乗算する。これによって、音の周波数特性65が音の周波数特性66となり、音を鈍らせることができる。
【0086】
このような傾き制御を行う場合には、加工度決定部61は、向き算出部14によって算出された目標に対する端末の向き、すなわち目標に対する利用者の向きに応じて音の周波数特性(T)に与える付与ゲインの傾き制御量を決定する。
【0087】
図12は、誘導音の周波数成分に与えるゲインの一例を示す図である。図12に示すグラフの横軸は、周波数(Hz)を指し、左端は最小可聴値を表すものとする。図12に示すグラフの縦軸は、ゲインを指す。図12の例では、誘導音の周波数成分に与えるゲインの傾き制御量が最大傾き制御量Amaxである場合を表している。図12に示すように、最大ゲインAmaxは、人間の聴覚が知覚しにくい周波数帯域のゲインが大きく設定され、最大ゲインAmaxが誘導音の音声信号に付与されることによって高周波域の音が聞こえにくくなるように設定される。
【0088】
図13は、音の周波数特性の加工例を示す図である。図13に示すグラフの横軸は、目標に対する利用者の向き(Φ)を指す。図13に示すグラフの縦軸は、付与ゲインの傾き制御量A(dB/Hz)を指す。図13の例では、目標が利用者の正面に位置する場合、すなわちΦ(t)=0である場合に付与ゲインの傾き制御量(A)を最小(=0)とし、目標が利用者の正面に位置する場合に最大傾き制御量(Amax=100%)とする場合を想定している。
【0089】
図13に示す例で言えば、加工度決定部61は、目標に対する利用者の向き(Φ)が「0≦Φ」である場合には、付与ゲインの傾き制御量の算出式1「A(t)=−(Amax/180)Φ(t)」にしたがって傾き制御量Aを決定する。また、加工決定部61は、目標に対する利用者の向き(Φ)が「Φ<0」である場合には、付与ゲインの傾き制御量の算出式2「A(t)=−Amax+(Amax/180)Φ(t)」にしたがって傾き制御量Aを決定する。このようにして傾き制御量Aを決定した場合には、利用者が目標に正対するか、あるいは利用者が目標に概ね正対したケースを除いては、原音に高周波域の音が劣化させるゲインを大きく付与することによって音を鈍らせて知覚させることができる。これによって、目標が利用者の正面からズレている場合、あるいは利用者の正面からズレた場合にその旨を強調できる。
【0090】
その後、出力制御部62は、加工度決定部61によって決定された付与ゲインの傾き制御量Aにしたがって誘導音記憶部17に記憶された誘導音の周波数特性を変更する。一例としては、出力制御部62は、付与ゲインの算出式「e(f)=10^((f*A)/100/20)」にしたがって誘導音の音声信号に付与する付与ゲインe(f)を算出する。その後、出力制御部62は、上述した実施例6と同様の処理を行う。
【0091】
[応用例の効果]
上述してきたように、本応用例に係る端末装置60は、音の属性のうち音の周波数特性を加工することによって目標の方向を伝達する。このため、利用者は、上記の実施例6と同様に、音の周波数特性の僅かな違いを知覚せずとも、自身が目標に正対しているのか否かを知覚できる。よって、本応用例に係る端末装置60によれば、目標の方向を正確に伝達することが可能になる。さらに、本応用例に係る端末装置60では、頭部伝達関数を使用せずとも周波数特性を加工できるので、ステレオ出力のみならず、モノラル出力の場合にも好適に適用できる。
【実施例7】
【0092】
さて、上記の実施例6では、音の属性のうち音の周波数特性を加工することによって目標の方向を伝達する場合を例示したが、さらに異なる音の属性を用いることもできる。そこで、実施例7では、音の属性のうち音の帯域幅を加工することによって目標の方向を伝達する場合について説明する。
【0093】
ここで、本実施例では、図1に示した加工度決定部15及び出力制御部18以外の機能部については上記の実施例1と同様の機能を有するため、その説明は省略する。また、本実施例では、上記の実施例1〜実施例6の端末装置、加工度決定部及び出力制御部と区別する観点から、端末装置の符号を「70」とし、加工度決定部の符号を「71」とし、出力制御部の符号を「72」として以下の説明を行う。
【0094】
このうち、加工度決定部71は、向き算出部14によって算出された目標に対する端末の向き、すなわち目標に対する利用者の向きに応じて音の帯域幅(W)に関する加工度を決定する。ここで言う「加工度」は、最大帯域幅Wmaxに対する出力帯域幅の倍率(%)の制御量を指し、最大帯域幅Wmaxが原音の帯域幅であるものとする。
【0095】
図14は、音の帯域幅の加工例を示す図である。図14に示すグラフの横軸は、目標に対する利用者の向き(Φ)を指す。図14に示すグラフの縦軸は、出力帯域幅の倍率(w)を指す。図14の例では、目標が利用者の正面に位置する場合、すなわちΦ(t)=0である場合に出力帯域幅の倍率(w)を最大帯域幅(Wmax=100%)とする場合を想定している。
【0096】
図14に示す例で言えば、加工度決定部71は、出力帯域幅の倍率(w)の算出式「w(Φ)=(Wmax−Wmin)sin(Φ/2+π/2)+Wmin」にしたがって出力帯域幅の倍率(w)を決定する。すなわち、加工度決定部71は、目標に対する利用者の向き(Φ)の絶対値が大きくなるほど、出力帯域幅の倍率(w)の制御量を大きくする。このように出力帯域幅の倍率(w)を決定した場合には、利用者が目標に正対するか、あるいは利用者が目標に概ね正対した場合にだけ音を原音通りの帯域幅で違和感なく知覚させることができる。一方、それ以外の場合には、原音よりも音の帯域幅を狭くすることによって音を鈍らせて知覚させることができる。これによって、目標が利用者の正面からズレている場合、あるいは利用者の正面からズレた場合にその旨を強調できる。
【0097】
出力制御部72は、加工度決定部71によって決定された出力帯域幅の倍率にしたがって誘導音記憶部17に記憶された誘導音の帯域幅を変更する。一例としては、出力制御部72は、誘導音記憶部17に記憶された誘導音の音声信号を時間周波数変換を行うことによって周波数成分を得る。かかる周波数成分は、周波数(Hz)ごとの複素数である。ここで、周波数成分を所定の帯域幅で分割した数、以外「帯域分割数」と記載をNとし、k番目(k=0,・・・,N−1)の帯域の周波数成分をS(k)として以下の説明を行う。そして、出力制御部72は、小数点以下を四捨五入して整数を出力するROUND関数を用いて、誘導音の周波数成分のうち出力帯域幅の倍率に応じて一部の周波数成分を間引く処理を行う。すなわち、出力制御部72は、「q=round(N*w/100)」を用いて、「k=0,・・・,q−1」を対象にS′′′(k)=S(k)0を計算し、「k=q,・・・,N−1」を対象にS′′′(k)=0を計算する。これによって、原音の周波数成分のうち「k=q,・・・,N−1」の周波数成分が間引かれる。その上で、出力制御部72は、S′′′(k)に周波数時間変換を行うことによって周波数成分が出力帯域幅の倍率wに間引かれた誘導音の音声信号を生成する。
【0098】
[実施例7の効果]
上述してきたように、本実施例に係る端末装置70は、音の属性のうち音の帯域幅(W)を加工することによって目標の方向を伝達する。このため、利用者は、上記の実施例1と同様に、音の帯域幅の僅かな違いを知覚せずとも、自身が目標に正対しているのか否かを知覚できる。よって、本実施例に係る端末装置70によれば、目標の方向を正確に伝達することが可能になる。さらに、本実施例に係る端末装置70では、頭部伝達関数を使用せずとも帯域幅を加工できるので、ステレオ出力のみならず、モノラル出力の場合にも好適に適用できる。
【実施例8】
【0099】
さて、上記の実施例7では、音の属性のうち音の帯域幅を加工することによって目標の方向を伝達する場合を例示したが、さらに異なる音の属性を用いることもできる。そこで、実施例8では、音の属性のうち音のSNR(Signal to Noise Ratio)を加工することによって目標の方向を伝達する場合について説明する。
【0100】
ここで、本実施例では、図1に示した加工度決定部15及び出力制御部18以外の機能部については上記の実施例1と同様の機能を有するため、その説明は省略する。また、本実施例では、上記の実施例1〜実施例7の端末装置、加工度決定部及び出力制御部と区別する観点から、端末装置の符号を「80」とし、加工度決定部の符号を「81」とし、出力制御部の符号を「82」として以下の説明を行う。
【0101】
このうち、加工度決定部81は、向き算出部14によって算出された目標に対する端末の向き、すなわち目標に対する利用者の向きに応じて音のSNRに関する加工度を決定する。ここで言う「加工度」は、最大SNRmaxに対する出力信号のSNRの倍率(%)の制御量を指し、最大SNRmaxが原音のSNRであるものとする。
【0102】
図15は、音のSNRの加工例を示す図である。図15に示すグラフの横軸は、目標に対する利用者の向き(Φ)を指す。図15に示すグラフの縦軸は、出力信号のSNRの倍率(%)を指す。図15の例では、目標が利用者の正面に位置する場合、すなわちΦ(t)=0である場合に出力信号のSNRの倍率を最大SNR(SNRmax=100%)とする場合を想定している。
【0103】
図15に示す例で言えば、加工度決定部81は、出力信号のSNRの倍率の算出式「SNR(Φ)=(SNRmax−SNRmin)sin(Φ/2+π/2)+SNRmin」にしたがって出力信号のSNRの倍率を決定する。すなわち、加工度決定部81は、目標に対する利用者の向き(Φ)の絶対値が大きくなるほど、出力信号のSNRの倍率の制御量を大きくする。このように出力信号のSNRの倍率を決定した場合には、利用者が目標に正対するか、あるいは利用者が目標に概ね正対した場合にだけ音を原音通りに違和感なく知覚させることができる。一方、それ以外の場合には、原音に白色雑音を重畳することによって音質を劣化させて知覚させることができる。これによって、目標が利用者の正面からズレている場合、あるいは利用者の正面からズレた場合にその旨を強調できる。
【0104】
出力制御部82は、加工度決定部81によって決定された出力信号のSNRの倍率にしたがって誘導音記憶部17に記憶された誘導音に白色雑音を重畳する。ここで言う白色雑音とは、振幅成分が正規分布となる、全ての周波数帯域でパワーが均一な雑音である。正規分布を有する。
【0105】
これを説明すると、出力制御部82は、下記の式(3)を用いて、誘導音記憶部17に記憶された誘導音の音声信号の大きさSl(dB)を算出する。この式(3)に含まれる「Q」は、フレームのサンプル数を指す。出力制御部82は、正規分布を持つ乱数を生成する既存技術を用いて、白色雑音w(t)を生成する。その後、出力制御部82は、下記の式(4)を用いて、白色雑音の大きさが加工度決定部81によって決定された出力信号のSNR(Φ)となるように調節する。この式(4)に含まれる「w(t)」は、加工前の白色雑音の音声信号のサンプルであり、また、「w′(t)」は、加工後の白色雑音の音声信号のサンプルである。その上で、出力制御部62は、誘導音の音声信号s(t)に加工後の白色雑音w′(t)を重畳することによって出力信号w′(t)を生成する。
【0106】
【数3】

【数4】

【0107】
[実施例8の効果]
上述してきたように、本実施例に係る端末装置80は、音の属性のうち音のSNRを加工することによって目標の方向を伝達する。このため、利用者は、上記の実施例1と同様に、音のSNRの僅かな違いを知覚せずとも、自身が目標に正対しているのか否かを知覚できる。よって、本実施例に係る端末装置80によれば、目標の方向を正確に伝達することが可能になる。さらに、本実施例に係る端末装置80では、頭部伝達関数を使用せずともSNRを加工できるので、ステレオ出力のみならず、モノラル出力の場合にも好適に適用できる。
【実施例9】
【0108】
さて、これまで開示の装置に関する実施例について説明したが、本発明は上述した実施例以外にも、種々の異なる形態にて実施されてよいものである。そこで、以下では、本発明に含まれる他の実施例を説明する。
【0109】
(1)適用例
例えば、上記の実施例1〜実施例8では、各実施例を個別に実施する場合を説明したが、各実施例のうち2つ以上の実施例を組み合わせて実施することもできる。すなわち、開示の装置は、音の距離、音の方向、音の音量、音の音程、音のテンポ、音の周波数特性、音の帯域幅または音のSNRのうち少なくともいずれか1つもしくはこれらの組合せの属性に関する加工度を決定する。これによって、開示の装置は、目標が利用者の正面に相対しているか否か、あるいは目標が利用者の正面に近づいたか否かを知覚しやすい誘導音を多面的に生成できる。したがって、開示の装置によれば、目標の方向をより正確に伝達できる。
【0110】
また、図示した各装置の各構成要素は、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。例えば、位置取得部12、向き取得部13、向き算出部14、加工度決定部15または出力制御部18を端末装置の外部装置としてネットワーク経由で接続するようにしてもよい。また、位置取得部12、向き取得部13、向き算出部14、加工度決定部15または出力制御部18を別の装置がそれぞれ有し、ネットワーク接続されて協働することで、上記の端末装置の機能を実現するようにしてもよい。また、伝達特性記憶部16または誘導音記憶部17の全部または一部を別の装置がそれぞれ有し、ネットワーク接続されて協働することで、上記の端末装置の機能を実現するようにしてもかまわない。
【0111】
(2)端末装置のハードウェア構成
次に、図16を用いて、実施例1に係る端末装置のハードウェアの構成例について説明する。図16は、端末装置のハードウェア構成の一例を示す図である。図16に示すように、端末装置100は、アンテナ110と、無線通信部120と、表示部130と、マイク140aと、スピーカ140bと、音声入出力部140と、入力部150と、記憶部160と、プロセッサ170とを有する。
【0112】
このうち、無線通信部120、表示部130、音声入出力部140、入力部150及び記憶部160は、プロセッサ170と接続される。また、アンテナ110は、無線通信部120と接続される。また、マイク140a及びスピーカ140bは、音声入出力部140と接続される。
【0113】
無線通信部120は、図1には示していないが、例えば、端末装置10が有する通信制御部に対応する。また、表示部130は、例えば、図1に示した表示部11bに対応する。また、音声入出力部140、マイク140a及びスピーカ140bは、例えば、図1に示した音声出力部19に対応する。また、入力部150は、例えば、図1に示した入力部11aに対応する。
【0114】
記憶部160及びプロセッサ170は、例えば、図1に示した位置取得部12、向き取得部13、向き算出部14、加工度算出部15、伝達特性記憶部16、誘導音記憶部17および出力制御部18などの機能を実現する。具体的には、記憶部160のプログラム記憶部160aは、例えば、図4などに示す処理を実現するナビゲーションプログラム等の各種プログラムを記憶する。そして、プロセッサ170は、プログラム記憶部160aに記憶された各プログラムを読み出して実行することで、上述の各機能を実現するプロセスを生成する。また、データ記憶部160bは、例えば、図4などに示す処理に用いる各種データを保持する。また、RAM(Random Access Memory)160cは、例えば、図4等に示す処理を実行する場合に、プロセッサ170により生成されたプロセスに使用される記憶領域を有する。
【0115】
なお、上記のナビゲーションプログラムは、必ずしも最初から記憶部160に記憶させておく必要はない。例えば、端末装置100に挿入されるメモリカード(memory card)などの「可搬用の物理媒体」に各プログラムを記憶させる。そして、端末装置100がこれらの可搬用の物理媒体から各プログラムを取得して実行するようにしてもよい。また、公衆回線、インターネット、LAN、WANなどを介して端末装置100に接続される他のコンピュータまたはサーバ装置などに各プログラムを記憶させておき、端末装置100がこれらから各プログラムを取得して実行するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0116】
10 端末装置
11a 入力部
11b 表示部
12 位置取得部
13 向き取得部
14 向き算出部
15 加工度決定部
16 伝達特定記憶部
17 誘導音記憶部
18 出力制御部
19 音声出力部
100 端末装置
110 アンテナ
120 無線通信部
130 表示部
140 音声入出力部
140a マイク
140b スピーカ
150 入力部
160 記憶部
160a プログラム記憶部
160b データ記憶部
160c RAM
170 プロセッサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標に対する自装置の向きを算出する算出部と、
前記算出部によって算出された向きに応じて前記目標を示す音の属性に関する加工度を決定する決定部と、
前記決定部によって決定された加工度にしたがって前記音を出力するように制御する出力制御部と
を有することを特徴とする端末装置。
【請求項2】
前記決定部は、前記目標に対する自装置の向きが正面から遠ざかる程、前記音の属性に関する加工度を大きくすることを特徴とする請求項1に記載の端末装置。
【請求項3】
前記決定部は、前記目標に対する自装置の向きが正面から所定の範囲内である場合に、当該範囲において前記向きが正面から遠ざかるにしたがって増加させる加工度の増加量を他の範囲において増加させる加工度の増加量よりも大きくすることを特徴とする請求項1に記載の端末装置。
【請求項4】
前記決定部は、音の距離、音の方向、音の音量、音の音程、音のテンポ、音の周波数特性、音の帯域幅または音のSNRのうち少なくともいずれか1つの属性に関する加工度を決定することを特徴とする請求項1、2または3に記載の端末装置。
【請求項5】
目標に対する自装置の向きを算出する算出部と、
前記算出部によって算出された向きに応じて前記目標を示す音の属性に関する加工度を決定する決定部と、
前記決定部によって決定された加工度にしたがって前記音を出力するように制御する出力制御部と
を有することを特徴とする移動体端末。
【請求項6】
端末装置に、
目標に対する自装置の向きを算出し、
算出された向きに応じて前記目標を示す音の属性に関する加工度を決定し、
決定された加工度にしたがって前記音を出力するように制御する
処理を実行させることを特徴とするナビゲーションプログラム。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−70192(P2012−70192A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212825(P2010−212825)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】