説明

第10族遷移金属化合物含有重合性組成物、プリプレグ、及び積層体

【課題】機械強度や靭性に優れ、かつ耐酸化性にも優れた積層体を生産効率良く製造するのに有用な、重合性組成物及びプリプレグ、並びに該積層体を提供すること。
【解決手段】ノルボルネン系モノマー、第10族遷移金属化合物、及びラジカル発生剤を含有してなる重合性組成物、前記重合性組成物を強化繊維に含浸させた後に重合してなるプリプレグ、及び前記プリプレグと、当該プリプレグ及び/又は他の材料とを積層した後、硬化してなる積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合性組成物、プリプレグ、及び積層体に関する。さらに詳しくは、誘電正接や吸水性が極めて小さく、機械強度や靭性に優れ、かつ耐酸化性にも優れた積層体を生産効率良く製造するのに有用な、重合性組成物及びプリプレグ、並びに該積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
透明性や耐熱性に優れた材料としてノルボルネンなどの環状オレフィン化合物の付加重合体が数多く知られているが、かかる重合体は一般に、フィルムやシートなどへ成形することが困難な上、得られた成形物の靭性が低く、割れやすいなどの欠点があり、取り扱いが難しい。
【0003】
環状オレフィン化合物の付加重合体の取扱い性の改良に関し、例えば、特許文献1には、特定のトリシクロオレフィン化合物を含む単量体を特定のニッケル触媒を用いて付加重合してなる、室温で特定の混合溶媒に易溶であり、架橋反応可能な反応性基を導入し得る環状オレフィン系付加重合体、該重合体とラジカル発生剤とを含有してなる架橋性組成物、及び光学透明性や耐熱性に優れ、かつ靭性にも優れ、フィルムやシートなどの材料として好適な、該組成物を架橋してなる架橋体が記載されている。
【0004】
一方、特許文献2には、触媒として特定の遷移金属化合物を用い、特定のノルボルネン系モノマーの塊状重合を成形型内で行い、重合反応と成形を同時に行う、実質的に不飽和結合を含まず、耐候性や耐熱性、機械特性に優れたノルボルネン系ポリマー成形体の製造方法、及び該成形体が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−51949号公報
【特許文献2】特開平8−325329号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術は、フィルムやシートを作製する際、重合体を溶剤に溶解し、支持体上に塗工又は流延し、徐々に加熱しながら重合体中の溶剤を蒸発させる工程を必要とし、フィルムやシート、ひいてはそれらを用いた成形体の生産効率に劣る。一方、特許文献2の技術によれば、フィルムやシートの他、様々な成形体を生産効率良く製造可能であり、重合体中から不飽和結合を排除することで、成形体は耐候性等に優れたものとなるが、成形後にさらに成形体を架橋させることは実質的に不可能であるため、成形体の機械強度や靭性は実用上未だ不充分であることが、本発明者らの検討により明らかとなった。
本発明の目的は、機械強度や靭性に優れ、かつ耐酸化性にも優れた成形体、特に、誘電正接や吸水性が極めて小さい、ノルボルネン系モノマーの付加重合体を基材とする積層体を生産効率良く製造するのに有用な、重合性組成物及びプリプレグ、並びに該積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討の結果、ノルボルネン系モノマーにパラジウムアセチルアセトネート等の第10族遷移金属触媒とラジカル発生剤を含有させた重合性組成物を用いて、金型内で架橋反応が進まない温度、具体的には、ラジカル発生剤の1分間半減期温度以下で付加重合を行なって後架橋可能なプリプレグを得、次いで該プリプレグを積層した後に加熱架橋して積層体を製造することにより、所望の特性を有する積層体が容易に得られることを見出した。本発明者らは、かかる知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、
〔1〕ノルボルネン系モノマー、第10族遷移金属化合物、及びラジカル発生剤を含有してなる重合性組成物、
〔2〕連鎖移動剤をさらに含有してなる前記〔1〕記載の重合性組成物、
〔3〕架橋助剤をさらに含有してなる前記〔1〕又は〔2〕記載の重合性組成物、
〔4〕前記〔1〕〜〔3〕いずれかに記載の重合性組成物を強化繊維に含浸させた後に重合してなるプリプレグ、並びに
〔5〕前記〔4〕に記載のプリプレグと、当該プリプレグおよび/または他の材料とを積層した後、硬化してなる積層体、
が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、誘電正接や吸水性が極めて小さく、機械強度や靭性に優れ、かつ耐酸化性にも優れた積層体を生産効率良く製造するのに有用な、重合性組成物及びプリプレグ、並びに該積層体が提供される。本発明の積層体はかかる特性を有するので、種々の絶縁用材料や構造材料等として、様々な用途に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の重合性組成物は、ノルボルネン系モノマー、第10族遷移金属化合物、及びラジカル発生剤を含有してなる。本発明のプリプレグは、前記重合性組成物を強化繊維に含浸させた後に重合してなり、本発明の積層体は、前記プリプレグと、当該プリプレグ及び/又は他の材料とを積層した後、硬化してなる。
【0011】
(ノルボルネン系モノマー)
本明細書において「ノルボルネン系モノマー」とは、ノルボルネン環構造を分子内に有するモノマーをいう。本発明において、ノルボルネン系モノマーは、通常、ノルボルネン環中に存在する付加重合性の脂肪族炭素−炭素二重結合の他、1以上の架橋性の炭素−炭素不飽和結合を有していてもよい。本明細書において「架橋性の炭素−炭素不飽和結合」とは、付加重合には関与せず、架橋反応に関与可能な炭素−炭素不飽和結合をいう。架橋反応とは橋架け構造を形成する反応をいう。架橋性の炭素−炭素不飽和結合としては、芳香族炭素−炭素不飽和結合を除く炭素−炭素不飽和結合、すなわち、脂肪族炭素−炭素二重結合又は三重結合が挙げられ、本発明においては、通常、脂肪族炭素−炭素二重結合をいう。架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有するノルボルネン系モノマー中、不飽和結合の位置は特に限定されるものではなく、炭素原子で形成される環構造内の他、該環構造以外の任意の位置、例えば、側鎖の末端や内部に存在していてもよい。
【0012】
ノルボルネン系モノマー中の、架橋性の炭素−炭素不飽和結合の数は特に限定されるものではないが、得られる積層体の機械強度を向上させる観点から、当該数としては、好ましくは1〜5、より好ましくは1〜3である。また、ノルボルネン系モノマーを構成する環構造の数としては、通常、2以上、好ましくは2〜6である。各環構造を構成する炭素数に特に限定はないが、通常、4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個である。さらに、ノルボルネン系モノマーは、アルキル基、アルケニル基、アルキリデン基、アリール基などの炭素数1〜30の炭化水素基や、カルボキシル基又は酸無水物基などの極性基が置換基として有していてもよいが、極性基を含まない、すなわち、炭素原子と水素原子のみで構成されるノルボルネン系モノマーが好ましい。かかるモノマーによれば、誘電正接や吸水性が極めて小さい重合体が得られるため好適である。
【0013】
前記ノルボルネン系モノマーとしては、工業的に用いられるものであれば格別な限定なく用いることができる。ノルボルネン系モノマーの好適な例としては、ノルボルネン類、ジシクロペンタジエン類、テトラシクロドデセン類などが挙げられる。
【0014】
ノルボルネン類としては、例えば、2−ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−ブチル−2−ノルボルネン、5−ヘキシル−2−ノルボルネン、5−デシル−2−ノルボルネン、5−シクロヘキシル−2−ノルボルネン、5−シクロペンチル−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン、5−プロペニル−2−ノルボルネン、5−シクロヘキセニル−2−ノルボルネン、5−シクロペンテニル−2−ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン、テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロ−9H−フルオレンともいう)、テトラシクロ[10.2.1.02,11.04,9]ペンタデカ−4,6,8,13−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9,9a,10−ヘキサヒドロアントラセンともいう)、5−ノルボルネン−2−カルボン酸メチル、5−ノルボルネン−2−カルボン酸エチル、2−メチル−5−ノルボルネン−2−カルボン酸メチル、2−メチル−5−ノルボルネン−2−カルボン酸エチル、酢酸5−ノルボルネン−2−イル、酢酸2−メチル−5−ノルボルネン−2−イル、アクリル酸5−ノルボルネン−2−イル、メタクリル酸5−ノルボルネン−2−イル、5−ノルボルネン−2−カルボン酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、5−ノルボルネン−2−メタノール、5−ノルボルネン−2,3−ジメタノール、5−ノルボルネン−2,2−ジメタノール、5−ノルボルネン−2−オール、5−ノルボルネン−2−カルボニトリル、5−ノルボルネン−2−カルバルデヒド、5−ノルボルネン−2−カルボキサミド、2−アセチル−5−ノルボルネン、3−メトキシカルボニル−5−ノルボルネン−2−カルボン酸などが挙げられる。
【0015】
ジシクロペンタジエン類としては、例えば、ジシクロペンタジエン、メチルジシクロペンタジエン、ジヒドロジシクロペンタジエン(トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−エン)などが挙げられる。
【0016】
テトラシクロドデセン類としては、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−エチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−シクロヘキシルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−シクロペンチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−メチレンテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−エチリデンテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−ビニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−プロペニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−シクロヘキセニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−シクロペンテニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−フェニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸メチル、4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸メチル、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−メタノール、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−オール、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4,5−ジカルボン酸、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4,5−ジカルボン酸無水物、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボニトリル、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルバルデヒド、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボキサミド、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4,5−ジカルボン酸イミド、9−クロロテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、4−トリメトキシシリルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン、9−アセチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エンなどが挙げられる。
【0017】
これらのノルボルネン系モノマーは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、本発明の所望の効果の発現を阻害しない限り、ノルボルネン系モノマーと共重合可能な公知のモノマーを任意に使用してもよい。
【0018】
(第10族遷移金属化合物)
本発明に使用される第10族遷移金属化合物は、長周期型周期表の第10族遷移金属元素を含む化合物である。第10族遷移金属元素としては、ニッケル、パラジウム、及び白金が挙げられ、好ましくはニッケルとパラジウムであり、より好ましくはパラジウムである。第10族遷移金属化合物は、ノルボルネン系モノマーの付加重合において触媒として機能する。
【0019】
かかる第10族遷移金属元素を含む化合物としては、例えば、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、過塩素酸ニッケル等のニッケルの無機酸塩;酢酸ニッケル、シュウ酸ニッケル等のニッケルの有機酸塩;ニッケルアセチルアセトネート、ニッケルフタロシアニン等のニッケル錯体;塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、硫酸パラジウム、硝酸パラジウム等のパラジウムの無機酸塩;酢酸パラジウム、トリフルオロ酢酸パラジム等のパラジウムの有機酸塩;パラジウムアセチルアセトネート、ビス(アリル)パラジウム、ジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)パラジウム、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム、カルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ジクロロビス(トリエチルホスフィン)パラジウム、ジアセトビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ジクロロ[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム、ビス[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム、テトラアミンパラジウムナイトレート、テトラキス(アセトニトリル)パラジウムテトラフルオロボレート、パラジウムビス(2,4−ペンタジオナート)等のパラジウム錯体;塩化白金、ヨウ化白金等の白金の無機酸塩;白金アセチルアセトネート等の白金錯体などが挙げられる。これらの中でも、第10族遷移金属元素を含む化合物としては、パラジウムの無機酸塩と有機酸塩、及びパラジウム錯体が好ましく、パラジウム錯体がより好ましい。
【0020】
これらの第10族遷移金属化合物は、それぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。第10族遷移金属化合物の配合量は、所望により適宜選択すればよいが、配合するノルボルネン系モノマー100モルに対して、通常、0.00001〜1モル、好ましくは0.0001〜0.1モルの範囲である。
【0021】
(ラジカル発生剤)
ラジカル発生剤は、本発明の重合性組成物を付加重合反応に供して得られる重合体において、架橋反応を誘起する目的で使用される。従って、該重合体は、後架橋可能な熱可塑性樹脂となる。
【0022】
本発明に使用されるラジカル発生剤としては、工業的に用いられるものであれば格別な限定なく用いることができる。例えば、有機過酸化物、ジアゾ化合物及び非極性ラジカル発生剤などが挙げられ、好ましくは有機過酸化物や非極性ラジカル発生剤である。
【0023】
有機過酸化物としては、例えば、t−ブチルヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド類;ジクミルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンなどのジアルキルペルオキシド類;ジプロピオニルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシドなどのジアシルペルオキシド類;2,2−ジ(t−ブチルペルオキシ)ブタン、1,1−ジ(t−ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサンなどのペルオキシケタール類;t−ブチルペルオキシアセテート、t−ブチルペルオキシベンゾエートなどのペルオキシエステル類;t−ブチルペルオキシイソプロピルカルボナート、ジ(イソプロピルペルオキシ)ジカルボナートなどのペルオキシカルボナート類;t−ブチルトリメチルシリルペルオキシドなどのアルキルシリルペルオキシド類;3,3,5,7,7−ペンタメチル−1,2,4−トリオキセパン、3,6,9−トリエチル−3,6,9−トリメチル−1,4,7−トリパーオキソナン、3,6−ジエチル−3,6−ジメチル−1,2,4,5−テトロキサンなどの環状パーオキサイド類;が挙げられる。中でも、重合反応に対する障害が少ない点で、ジアルキルペルオキシド類、ペルオキシケタール類、及び環状パーオキサイド類が好ましい。
【0024】
ジアゾ化合物としては、例えば、4,4’−ビスアジドベンザル(4−メチル)シクロヘキサノン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)シクロヘキサノンなどが挙げられる。
【0025】
非極性ラジカル発生剤としては、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、3,4−ジメチル−3,4−ジフェニルヘキサン、1,1,2−トリフェニルエタン、1,1,1−トリフェニル−2−フェニルエタンなどが挙げられる。
【0026】
ラジカル発生剤の1分間半減期温度は、硬化(本発明の重合性組成物を付加重合反応に供して得られる重合体の架橋)の条件により適宜選択されるが、通常、100〜300℃、好ましくは150〜250℃、より好ましくは160〜230℃の範囲である。ここで1分間半減期温度は、ラジカル発生剤の半量が1分間で分解する温度である。ラジカル発生剤の1分間半減期温度は、例えば、各ラジカル発生剤メーカー(例えば、日本油脂株式会社)のカタログやホームページを参照すればよい。
【0027】
これらのラジカル発生剤は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。ラジカル発生剤の配合量は、ノルボルネン系モノマー100重量部に対して、通常、0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.5〜5重量部の範囲である。
【0028】
(重合性組成物)
本発明の重合性組成物には、上記する、ノルボルネン系モノマー、第10族遷移金属化合物、及びラジカル発生剤を必須成分として、所望により、連鎖移動剤、架橋助剤、重合調整剤、充填剤、老化防止剤、及びその他の添加剤を配合することができる。
【0029】
本発明に使用される連鎖移動剤は、付加重合に関与でき、本発明の重合性組成物を付加重合反応に供して得られる重合体の末端に結合可能な脂肪族炭素−炭素二重結合を1つ有する化合物である。当該二重結合の例としては、末端ビニル基が挙げられる。連鎖移動剤は、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有していてもよい。
当該連鎖移動剤を配合することにより、本発明の重合性組成物を付加重合反応に供して得られる重合体を粘弾性測定した際、本発明の重合性組成物とは連鎖移動剤を含まない点で異なる重合性組成物から得られる重合体と比べて、本発明に係る重合体は、粘性項の値は実質的に変化せず、弾性項の値が低下し、損失正接が大きくなるという物性を発現し得る。すなわち、本発明の重合性組成物から得られる重合体は高粘度でありながら、流動性に優れたものとなり、当該重合体を含んでなる、後述のプリプレグは、例えば、他の材料と積層する際、溶融積層が可能となり、また、層間の密着性に非常に優れる。なお、粘弾性測定において粘性項はG”(損失剪断弾性率)、弾性項はG’(貯蔵剪断弾性率)、損失正接はG”/G’(tanδ)と記載される。
【0030】
かかる連鎖移動剤の具体例としては、1−ヘキセン、2−ヘキセン、スチレン、ビニルシクロヘキサン、アリルアミン、アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、エチルビニルエーテル、メチルビニルケトン、2−(ジエチルアミノ)エチルアクリレート、4−ビニルアニリンなどの、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を持たない連鎖移動剤;ジビニルベンゼン、メタクリル酸ビニル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸スチリル、アクリル酸アリル、メタクリル酸ウンデセニル、アクリル酸スチリル、エチレングリコールジアクリレートなどの、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1つ有する連鎖移動剤;アリルトリビニルシラン、アリルメチルジビニルシランなどの、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を2以上有する連鎖移動剤などが挙げられる。これらの中でも、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有するものが好ましく、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1つ有するものがより好ましい。かかる連鎖移動剤の中でも、ビニル基とメタクリル基とを1つずつ有する連鎖移動剤が好ましく、メタクリル酸ビニル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸スチリル、メタクリル酸ウンデセニルなどが特に好ましい。
これらの連鎖移動剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明の重合性組成物への連鎖移動剤の配合量としては、配合するノルボルネン系モノマー100重量部に対して、通常、0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部である。
【0031】
架橋助剤の配合は、得られる積層体において機械強度や靭性を高度に改善でき好適である。架橋助剤としては、通常、付加重合に関与せず、架橋剤により誘起される架橋反応に関与可能な架橋性の炭素−炭素不飽和結合を2以上有する多官能性架橋助剤が好適に用いられる。かかる架橋性の炭素−炭素不飽和結合は、架橋助剤を構成する化合物中、例えば、末端ビニリデン基として、中でも、イソプロペニル基やメタクリル基として、特にメタクリル基として存在するのが好ましい。
【0032】
架橋助剤の具体例としては、p−ジイソプロペニルベンゼン、m−ジイソプロペニルベンゼン、o−ジイソプロペニルベンゼンなどの、イソプロペニル基を2以上有する多官能性架橋助剤;エチレンジメタクリレート、1,3−ブチレンジメタクリレート、1,4−ブチレンジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、2,2’−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、トリメチロ−ルプロパントリメタクリレート、ペンタエリトリトールトリメタクリレートなどの、メタクリル基を2以上有する多官能性架橋助剤などを挙げることができる。中でも、架橋助剤としては、メタクリル基を2以上有する多官能性架橋助剤が好ましい。メタクリル基を2以上有する多官能性架橋助剤の中では、特に、トリメチロ−ルプロパントリメタクリレート、ペンタエリトリトールトリメタクリレートなどの、メタクリル基を3つ有する多官能性架橋助剤がより好適である。
【0033】
前記架橋助剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明の重合性組成物への架橋助剤の配合量としては、配合するノルボルネン系モノマー100重量部に対して、通常、0.1〜100重量部、好ましくは0.5〜50重量部、より好ましくは1〜30重量部である。
【0034】
本発明においては、第10族遷移金属化合物に重合活性調整剤を配合することで、付加重合反応をより活性化でき好適である。
重合活性調整剤としては、例えば、ホスフィン化合物、有機アルミニウム化合物及び有機ホウ素化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を用いることができる。
【0035】
ホスフィン化合物としては、未置換又は炭素数1〜20のアルキル置換のシクロペンチル基又はシクロヘキシル基を少なくとも2つ有するホスフィン化合物が好ましく、具体的には、トリシクロペンチルホスフィン、ジシクロペンチル(シクロヘキシル)ホスフィン、ジシクロペンチル(3−メチルシクロヘキシル)ホスフィン、ジシクロペンチル(イソプロピル)ホスフィン、ジシクロペンチル(s-ブチル)ホスフィン、ジシクロペンチル(t−ブチル)ホスフィン、ジシクロペンチル(2−メチルフェニル)ホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、ジシクロヘキシル(シクロペンチル)ホスフィン、ジシクロヘキシル(3−メチルシクロヘキシル)ホスフィン、ジシクロヘキシル(イソプロピル)ホスフィン、ジシクロヘキシル(2−メチルフェニル)ホスフィンなどが挙げられる。これらのホスフィン化合物の中では、炭素数5〜12のアルキル置換のトリシクロペンチルホスフィンが特に好ましい。
【0036】
有機アルミニウム化合物としては、例えば、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)アルミナート、トリフェニルカルベニウムテトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]アルミナート、トリフェニルカルベニウムテトラキス(2,4,6−トリフルオロフェニル)アルミナート、トリフェニルカルベニウムテトラフェニルアルミナートなどのイオン性有機アルミニウム化合物;トリス(ペンタフルオロフェニル)アルミニウム、トリス(3,5−フルオロフェニル)アルミニウム、トリス〔3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル〕アルミニウム、三フッ化アルミニウム、ジエチルエーテル錯体、エチルアルミニウムジフロライド、エチルアルミニウムジクロライド、ブチルアルミニウムジブロマイド、ジエチルアルミニウムフロライド、3,5−ジメチルフェニルアルミニウムジフロライドなどのルイス酸性有機アルミニウム化合物;メチルアルモキサン、エチルアルモキサン、ブチルアルモキサンなどのアルキルアルモキサン化合物;トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、などのトリアルキルアルミニウム化合物;ジイソブチルアルミニウムヒドリド、ジエチルアルミニウムヒドリドなどのジアルキルアルキルアルミニウムヒドリド化合物;などが挙げられる。
【0037】
有機ホウ素化合物としては、例えば、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリ(p-トリル)カルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジフェニル(メチル)カルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ビス(ジフェニル)メチルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルカルベニウムテトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート、トリフェニルカルベニウムテトラキス(2,4,6−トリフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルカルベニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフォニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジフェニルホスフォニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N−ジエチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N−ジフェニルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、リチウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、リチウムテトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート、などのイオン性有機ホウ素化合物;トリス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素、トリス(3,5−フルオロフェニル)ホウ素、トリス〔3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル〕ホウ素、三フッ化ホウ素・ジエチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素・ジブチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素・トリエチルアミン錯体、などのルイス酸性有機ホウ素化合物などが挙げられる。
【0038】
これらの重合活性調整剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合活性調整剤の配合量は、第10族遷移金属化合物1モル当たり、通常、0.1〜100モル、好ましくは0.5〜10モルの範囲である。
【0039】
充填剤の配合は、得られる積層体において誘電特性や耐熱性等の特性を高度に向上させることができ、好適である。充填剤としては、工業的に一般に使用されるものであれば格別な限定はなく、無機充填剤や有機充填剤のいずれも用いることができるが、好適には無機充填剤である。
【0040】
無機充填剤としては、例えば、鉄、銅、ニッケル、金、銀、アルミニウム、鉛、タングステン等の金属粒子;カーボンブラック、グラファイト、活性炭、炭素バルーン等の炭素粒子;シリカ、シリカバルーン、アルミナ、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化すず、酸化ベリリウム、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト等の無機酸化物粒子;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム等の無機炭酸塩粒子;硫酸カルシウム等の無機硫酸塩粒子;タルク、クレー、マイカ、カオリン、フライアッシュ、モンモリロナイト、ケイ酸カルシウム、ガラス、ガラスバルーン等の無機ケイ酸塩粒子;チタン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸鉛等のチタン酸塩粒子、窒化アルミニウム、炭化ケイ素粒子やウィスカー等が挙げられる。
【0041】
有機充填剤としては、例えば、木粉、デンプン、有機顔料、ポリスチレン、ナイロン、ポリエチレンやポリプロピレンのようなポリオレフィン、塩化ビニル、各種エラストマー、廃プラスチック等の粒子化合物が挙げられる。
【0042】
これらの充填剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その配合量は、配合するノルボルネン系モノマー100重量部に対して、通常、50重量部以上、好ましくは50〜1,000重量部、より好ましくは50〜750重量部、さらに好ましくは50〜500重量部の範囲である。
【0043】
また、老化防止剤として、フェノール系老化防止剤、アミン系老化防止剤、リン系老化防止剤及びイオウ系老化防止剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の老化防止剤を配合することは、架橋反応を阻害しないで、得られる積層体の耐熱性を高度に向上させることができ、好適である。これらの中でも、フェノール系老化防止剤とアミン系老化防止剤が好ましく、フェノール系老化防止剤がより好ましい。これらの老化防止剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。老化防止剤の使用量は、所望により適宜選択されるが、配合するノルボルネン系モノマー100重量部に対して、通常、0.0001〜10重量部、好ましくは0.001〜5重量部、より好ましくは0.01〜2重量部の範囲である。
【0044】
本発明の重合性組成物には、その他の配合剤を配合することができる。その他の配合剤としては、着色剤、光安定剤、顔料、発泡剤などを用いることができる。着色剤としては、染料、顔料などが用いられる。染料の種類は多様であり、公知のものを適宜選択して使用すればよい。これらのその他の配合剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その使用量は、本発明の効果を損ねない範囲で適宜選択される。
【0045】
本発明の重合性組成物は、上記成分を混合して得ることができる。混合方法としては、常法に従えばよく、例えば、重合触媒を適当な溶媒に溶解若しくは分散させた液(触媒液)を調製し、別にノルボルネン系モノマーや架橋剤などの必須成分、及び所望によりその他の配合剤を配合した液(モノマー液)を調製し、該モノマー液に該触媒液を添加し、攪拌することによって調製することができる。
【0046】
(強化繊維)
本発明に使用される強化繊維としては、格別な制限はないが、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)繊維、アラミド繊維、超高分子ポリエチレン繊維、ポリアミド(ナイロン)繊維、液晶ポリエステル繊維などの有機繊維;ガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、タングステン繊維、モリブデン繊維、ブデン繊維、チタン繊維、スチール繊維、ボロン繊維、シリコンカーバイド繊維、シリカ繊維などの無機繊維;などを挙げることができる。これらの中でも、有機繊維やガラス繊維が好ましく、特にアラミド繊維、液晶ポリエステル繊維、ガラス繊維が好ましい。ガラス繊維としては、Eガラス、NEガラス、Sガラス、Dガラス、Hガラス等の繊維が好適に用いることができる。
これらの強化繊維は、それぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その使用量は、所望により適宜選択されるが、プリプレグあるいは積層体中の、通常、10〜90重量%、好ましくは20〜80重量%、より好ましくは30〜70重量%の範囲であり、この範囲にあれば、得られる積層体の誘電特性と機械的強度が高度にバランスされ、好適である。
【0047】
(プリプレグ)
本発明のプリプレグは、前記重合性組成物を上記強化繊維に含浸させた後に重合してなるものである。
重合性組成物の強化繊維への含浸は、例えば、重合性組成物の所定量を、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、ダイコート法、スリットコート法等の公知の方法により強化繊維に塗布し、所望によりその上に保護フィルムを重ね、上側からローラーなどで押圧することにより行うことができる。本発明においては、重合性組成物を強化繊維に含浸させた後、含浸物を所定温度に加熱することにより、重合性組成物を塊状重合させることができ、それによってシート状又はフィルム状のプリプレグが得られる。
含浸を型内で行う場合は、型内に強化繊維を設置し、該型内に重合性組成物を注ぎ込んで行う。この方法によれば、任意の形状のプリプレグを得ることができる。その形状としては、シート状、フィルム状、柱状、円柱状、多角柱状等が挙げられる。ここで用いる型としては、従来公知の成形型、例えば、割型構造、すなわち、コア型とキャビティー型を有する成形型を用いることができ、それらの空隙部(キャビティー)に重合性組成物を注入して塊状重合させる。コア型とキャビティー型は、目的とするプリプレグの形状にあった空隙部を形成するように作製される。また、成形型の形状、材質、大きさなどは特に制限されない。また、ガラス板や金属板などの板状成形型と所定の厚さのスペーサーとを用意し、スペーサーを2枚の板状成形型で挟んで形成される空間内に重合性組成物を注入し、該型内で硬化を行うことにより、シート状又はフィルム状のプリプレグを得ることができる。
【0048】
本発明の重合性組成物は、エポキシ樹脂等の従来の重合体ワニスと比較して低粘度であり、強化繊維に対する含浸性に優れるので、重合で得られる樹脂を強化繊維基材に均一に含浸させることができる。前記樹脂を構成する重合体は、実質的に架橋構造を有さず、例えば、トルエンに可溶である。当該重合体の分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(溶離液:テトラヒドロフラン)で測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量で、通常、1,000〜1,000,000、好ましくは5,000〜500,000、より好ましくは10,000〜100,000の範囲である。
【0049】
上記いずれの方法においても、重合性組成物を重合させるための加熱温度は、通常、50〜250℃、好ましくは100〜200℃、より好ましくは120〜170℃の範囲であって、かつ通常、ラジカル発生剤の1分間半減期温度以下、好ましくは10℃以下、より好ましくは20℃以下である。また、重合時間は適宜選択すればよいが、通常、10秒間から60分間、好ましくは20分間以内である。重合性組成物をかかる条件で加熱することにより未反応モノマーの少ないプリプレグが得られるので好適である。
【0050】
本発明のプリプレグの厚みは、使用目的の応じて適宜選択されるが、通常、0.001〜10mm、好ましくは0.005〜1mm、より好ましくは0.01〜0.5mmの範囲である。この範囲にあれば、積層時の賦形性、また、硬化して得られる積層体の機械強度や靭性の特性が充分に発揮され好適である。
【0051】
本発明のプリプレグの揮発成分量は、200℃で1時間加熱したときに揮発する量で、通常、30重量%以下、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、もっとも好ましくは1重量%以下である。プリプレグの揮発成分量が過度に多いと、プリプレグのベタつきが発生し操作性及び保存安定性が不良化する傾向がある。
【0052】
(積層体)
本発明の積層体は、本発明のプリプレグと、当該プリプレグ及び/又は当該プリプレグ以外の他の材料とを積層し、所望により更に賦形した後に、硬化することで製造することができる。
積層してもよい他の材料としては、使用目的に応じて適宜選択されるが、例えば、熱可塑性樹脂材料、金属材料などが挙げられ、特に金属材料が好適に用いられる。金属材料としては、回路基板で一般に用いられるものを格別な制限なく用いることができ、通常、金属箔、好ましくは銅箔が用いられる。金属材料の厚みは、使用目的に応じて適宜選択されるが、通常、0.5〜50μm、好ましくは1〜30μm、より好ましくは3〜20μm、最も好ましくは3〜15μmの範囲である。また、金属材料は、その表面が、シランカップリング剤、チオール系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、各種接着剤などで処理されているものが好ましい。中でもシランカップリング剤で処理されているものがより好ましい。
本発明のプリプレグと、金属材料との接着界面における、金属材料からなる層表面の粗度(Rz)は、特に限定されないが、通常10μm以下、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下、さらに好ましくは2μm以下である。一方、粗度の下限は、格別な限定はないが、通常10nm以上、好ましくは5nm以上、より好ましくは1nm以上である。金属材料からなる層表面の粗度が上記範囲にあれば、高周波伝送に於けるノイズ、遅延、伝送ロス等の発生が抑えられ好ましい。金属材料からなる層表面の粗度の調整は、積層する金属材料表面の粗度が所望の範囲にあるものを選択して使用することにより容易に行うことができる。かかる表面粗度を有する金属材料は市販品として入手可能である。なお、粗度(Rz)は、AFM(原子間力顕微鏡)により測定可能である。
【0053】
積層及び硬化させる方法は、常法に従えばよい。例えば、平板成形用のプレス枠型を有する公知のプレス機、シートモールドコンパウンド(SMC)やバルクモールドコンパウンド(BMC)などのプレス成形機を用いて熱プレスを行なうことができる。加熱温度は、ラジカル発生剤により架橋反応が誘起される温度以上である。通常、ラジカル発生剤の1分間半減期温度以上、好ましくは1分間半減期温度より5℃以上高い温度、より好ましくは1分間半減期温度より10℃以上高い温度であり、通常、100〜400℃、好ましくは150〜350℃の範囲である。加熱時間は、0.1〜180分、好ましくは1〜120分、より好ましくは2〜60分の範囲である。プレス圧力としては、通常、0.1〜20MPa、好ましくは0.1〜10MPa、より好ましくは1〜5MPaである。また、熱プレスは、真空又は減圧雰囲気下で行ってもよい。
かくして得られる本発明の積層体は、高周波領域での伝送ロスが少なく、かつ機械強度、靭性、及び耐酸化性に優れるため、広範囲の用途を有する高周波基板材料として好適に用いることができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における部及び%は、特に断りのない限り重量基準である。
【0055】
実施例及び比較例における各特性は、下記の方法に従い測定、評価した。
(1)機械強度
JIS K−7073に規定する試験方法に従い、標点間距離を150mmとし、クロスヘッド速度1.5mm/分で引張強度を測定した。後述の比較例1で得られた積層体の引張強度を100として、下記基準で評価した。
◎:100以上
×:100未満
(2)靭性
積層体を70°に曲げ、その曲げ部分の表面観察を行い、下記基準で評価した。
◎:粉落ち、形状崩れ、ひび割れのいずれも認められない
×:粉落ち、形状崩れ、ひび割れ等が認められる
(3)耐酸化性
積層体を120℃のオーブンに36時間放置した後の外観を観察し、以下の基準で評価した。
◎:変色、形状崩れ等が認められない
×:変色、形状崩れ等が認められる
【0056】
実施例1
パラジウムアセチルアセトネートの110.001mol%ノルボルネン(NB)/テトラシクロドデセン(TCD)の9/1重量比のノルボルネン系モノマー溶液に、アリルメタクリレート(東京化成製)を前記ノルボルネン系モノマー100重量部に対して15重量部を配合した溶液(A)を調製した。
テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸トリチルの0.001mol%ノルボルネン(NB)/テトラシクロドデセン(TCD)の9/1重量比のノルボルネン系モノマー溶液に、ジ−t−ブチルペルオキシド(化薬アクゾ製 カヤブチルD:1分間半減期温度186℃)を前記ノルボルネン系モノマー100重量部に対して1重量部を配合し溶液(B)を調製した。窒素中で溶液(A)及び溶液(B)を1:1の割合で混合し重合性組成物を調製しながら、金型内に圧送した。ここで、金型として、0.15mm×120mm×120mmの平板成形用で、ヒーター付きクロームメッキ鉄板にコ字型スペーサーを挟んだものを用いた。金型温度は、片面は50℃、もう一方の面は50℃にセットした。重合性組成物を金型内に圧送した後5分間で脱型しプリプレグを取り出した。
次いで、該プリプレグを100mm角の正方形に切り出し、2枚積層させ、熱プレスして、板厚み0.3mmの積層体を得た。熱プレスの条件は、プレス温度280℃にて15分間、プレス圧5MPaとした。
得られた積層体の機械強度、靭性及び耐酸化性を評価した。それらの結果を表1に示す。
【0057】
実施例2
パラジウムアセチルアセトネートの0.001mol%ノルボルネン(NB)/テトラシクロドデセン(TCD)の9/1重量比のノルボルネン系モノマー溶液に、スチレン(前記ノルボルネン系モノマー100重量部に対して、10重量部)を加えた溶液(A)を調製した。
テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸トリチルの0.001mol%ノルボルネン(NB)/テトラシクロドデセン(TCD)の9/1重量比のノルボルネン系モノマー溶液に、ジ−t−ブチルペルオキシド(化薬アクゾ製 カヤブチルD)を前記ノルボルネン系モノマー100重量部に対して1重量部配合して溶液(B)を調製した。窒素中で溶液(A)及び溶液(B)を1:1の割合で混合し重合成組成物を調製しながら、金型内に圧送した。ここで、金型として、0.15mm×120mm×120mmの平板成形用で、ヒーター付きクロームメッキ鉄板にコ字型スペーサーを挟んだものを用いた。金型温度は、片面を50℃、もう一方の面も50℃にセットした。重合性組成物を金型内に圧送した後5分間で脱型し、プリプレグを取り出した。
次いで、該プリプレグを100mm角の正方形に切り出し、2枚積層させ、熱プレスして、板厚み0.3mmの積層体を得た。熱プレスの条件は、プレス温度280℃にて15分間、プレス圧5MPaとした。得られた積層体の機械強度、靭性及び耐酸化性を評価した。それらの結果を表1に示す。この平板を用いて各種評価を行った。
【0058】
実施例3
触媒をパラジウムビス(2,4−ペンタジオナート)とし、この触媒の0.001mol%ノルボルネン(NB)/テトラシクロドデセン(TCD)の9/1重量比のノルボルネン系モノマー溶液に、スチレン(前記ノルボルネン系モノマー100重量部に対して、15重量部)を加えた溶液(A)を調製した以外は実施例1と同様にしてプリプレグ及び積層体を得た。得られた積層体の各特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0059】
実施例4
ジ−t−ブチルペルオキシド(化薬アクゾ社製 カヤブチルD)の代わりに、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン(日油社製 ノフマーBC)を5部加えた溶液(A)を調製した以外は実施例1と同様にしてプリプレグ及び積層体を得た。得られた積層体の各特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0060】
実施例5
金型内にガラスクロス(旭シュエーベル社製 厚み90μm 品番2116)を金型内に平行になるよう挿入した以外は実施例1と同様にしてプリプレグ及び積層体を得た。得られた積層体の各特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0061】
比較例1
ジ−t−ブチルペルオキシドが配合されていない以外は実施例1と同様にしてプリプレグ及び積層体を得た。得られた積層体の各特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
実施例1〜5で得られた積層体はいずれも機械強度、靭性及び耐酸化性に優れていた。一方、重合性組成物にジ−t−ブチルペルオキシドを配合しなかった比較例1で得られた積層体では機械強度及び靭性の点で劣る結果となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノルボルネン系モノマー、第10族遷移金属化合物、及びラジカル発生剤を含有してなる重合性組成物。
【請求項2】
連鎖移動剤をさらに含有してなる請求項1記載の重合性組成物。
【請求項3】
架橋助剤をさらに含有してなる請求項1または2記載の重合性組成物。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の重合性組成物を強化繊維に含浸させた後に重合してなるプリプレグ。
【請求項5】
請求項4に記載のプリプレグと、当該プリプレグおよび/または他の材料とを積層した後、硬化してなる積層体。

【公開番号】特開2010−84074(P2010−84074A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−256691(P2008−256691)
【出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】