説明

筒状芯体付成形品の成形型及び製造方法

【課題】筒状芯体の外周にゴム状弾性体を一体成形した筒状芯体付成形品を成形するにあたり、バリの発生を抑制するとともに、成形材料の不要部分の除去作業を簡略化して生産性を向上することができる筒状芯体付成形品の成形型及び製造方法を提供すること。
【解決手段】中型7を上型5と下型6とで挟んで型締めした際に、内筒2の外周でキャビティ8が中型7に面して形成され、キャビティ8にゴム状弾性体の成形材料を注入充填可能に構成された成形型において、その中型7が、分割面71に凹設されたバリカット溝部72と、バリカット溝部72とキャビティ8とを連通させる第1連通溝73a及び第2連通溝73bを有する連通溝部73と、分割面71に凹設され、バリカット溝部72に堰部76を介して通じる溜り溝部75と、溜り溝部75を型外部に連通させる排出溝部74と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として車両用の防振ブッシュや防振マウント等に使用される筒状芯体付成形品の成形型と、その筒状芯体付成形品の製造方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
かかる筒状芯体付成形品としては、筒状芯体としての内筒とそれを取り囲む外筒との間にゴム状弾性体を介設したものや、或いは、外筒を省略して筒状芯体の外周にゴム状弾性体を一体成形したものが知られている。また、下記特許文献1には、中型を上型と下型とで挟んで型締めすることで筒状芯体の外周にキャビティが形成され、そのキャビティにゴム状弾性体の成形材料を注入充填できるように構成した成形型が記載されている。このような成形型を用いて外筒を省略した筒状芯体付成形品を成形する場合、キャビティは中型に面して形成される。
【0003】
ところで、ゴム状弾性体の成形材料をキャビティに注入充填する際、キャビティ内のエアが、成形材料の充填圧力により各型の合わせ部の隙間からキャビティ外へ排出されると、その合わせ部に沿ってバリが生じることがある。その一方で、成形材料の充填圧力を低くすると、バリの発生が抑制されるものの、キャビティ内にエアが残留しやすくなり、成形品に跡が残って成形不良の原因になることがある。したがって、成形不良を発生させずにバリを抑制するには、成形材料の充填圧力のバランスが非常に重要となる。
【0004】
しかしながら、多数個(例えば12個や16個)の成形品を一度に成形する多数個取りの成形型では、必ずしも全てのキャビティで成形材料の充填が同時に完了するわけではなく、他に先んじて充填が完了したキャビティには、他のキャビティで充填が完了するまでの間、充填圧力が作用し続けることになる。そのため、比較的早期に充填が完了したキャビティでは、充填圧力が過大になる傾向にあり、バリの発生が顕著であった。
【0005】
このような不具合を解消すべく、成形材料の注入孔とは別個に逃がし用孔(ゴムベント)を設け、キャビティに充填しきれない成形材料の余剰分をキャビティ外に送り込むことでキャビティ間の充填バランスを保ち、バリを抑制することが提案されている。例えば下記特許文献2、3に記載の成形型では、キャビティの上面に通じる逃がし用孔を上型に設けるとともに、その逃がし用孔を逃がし用溝で型外部に連通させることで、成形材料の余剰分やキャビティ内のエアを排出できるように構成している。
【0006】
かかる成形型においては、逃がし用孔に送り込まれた成形材料の余剰分が不要部分となるため、それを取り除く作業が必要となる。具体的には、脱型時にランナープレートを上型から分離する度に、作業者が逃がし用孔内の不要部分をつまんで引き抜き、更に逃がし用溝内の不要部分を取り除くという作業が必要になる。特に多数個取りの成形型の場合、ランナーで繋がっている注入孔内の不要部分は一括して取り除くことができるものの、逃がし用孔内の不要部分はキャビティごとに個別に取り除く必要があり、加硫サイクルに影響を及ぼして生産性を低下させるという問題がある。
【特許文献1】特開平7−276382号公報
【特許文献2】特開2002−79551号公報
【特許文献3】特開2005−131970号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、筒状芯体の外周にゴム状弾性体を一体成形した筒状芯体付成形品を成形するにあたり、バリの発生を抑制するとともに、成形材料の不要部分の除去作業を簡略化して生産性を向上することができる筒状芯体付成形品の成形型及び製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、下記の如き構成の本発明により達成することができる。即ち、本発明に係る筒状芯体付成形品の成形型は、周方向に分割された中型を上型と下型とで挟んで型締めした際に、筒状芯体の外周でキャビティが前記中型に面して形成され、前記キャビティにゴム状弾性体の成形材料を注入充填可能に構成された筒状芯体付成形品の成形型において、前記中型が、前記中型の分割面に凹設されたバリカット溝部と、前記成形材料の余剰分が前記バリカット溝部に送り込まれるように前記バリカット溝部と前記キャビティとを連通させ、前記筒状芯体の軸方向に互いに離れて配置された第1連通溝及び第2連通溝を有する連通溝部と、前記分割面に凹設され、前記バリカット溝部に堰部を介して通じる溜り溝部と、前記溜り溝部を型外部に連通させる排出溝部と、を有するものである。
【0009】
本発明に係る成形型を用いて筒状芯体付成形品を成形するときの作用効果について説明する。筒状芯体付成形品を成形するにあたっては、まず、上型と下型とで中型を挟んで型締めし、成形型内にセットした筒状芯体の外周にキャビティを形成する。このキャビティは、中型に面して形成され、ゴム状弾性体に対応した形状を有する。中型は、周方向に分割されているが、型締め状態では分割面同士が密着した状態となる。
【0010】
次に、ゴム状弾性体の成形材料をキャビティに注入充填し、筒状芯体の外周にゴム状弾性体を一体成形する。このとき、キャビティ内のエアは、成形材料の充填圧力により連通溝部を介してバリカット溝部に送り込まれ、溜り溝部及び排出溝部を通って型外部に適切に排出されるため、各型の合わせ部でのバリの発生を抑制できる。更に、キャビティに充填しきれない成形材料の余剰分が連通溝部を介してバリカット溝部に送り込まれ、続いてバリカット溝部に充填しきれない成形材料の余剰分が溜り溝部に溜められるため、成形材料の充填圧力が過大になることを防ぎ、多数個取りの場合にはキャビティ間の充填バランスを保って、バリの発生を抑制することができる。
【0011】
また、溜り溝部が堰部を介してバリカット溝部に通じることにより、バリカット溝部に送り込まれた成形材料の余剰分は、直ちには溜り溝部へ送り込まれず、堰部を越えうるようになるまでバリカット溝部内に充填される。そのため、連通溝部が有する第1連通溝及び第2連通溝の両者に成形材料の余剰分を充填することができ、バリカット溝部内の不要部分を成形品に少なくとも2箇所で連結することができる。
【0012】
ゴム状弾性体の成形後、上型と下型とを型開きするとともに中型の分割面を開放し、成形品を脱型する。このとき、バリカット溝部内の不要部分(成形材料の余剰分)は、連通溝部内の不要部分を介して成形品に連結されており、溜り溝部内の不要部分もバリカット溝部内の不要部分に連結されていることから、両不要部分は該成形品と一緒に脱型される。しかも、成形品に2箇所で連結されているバリカット溝部内の不要部分は、成形品との連結強度が確保されているため、より確実に成形品と一緒に脱型することができる。
【0013】
成形品と一緒に脱型された不要部分は、その後の任意のタイミングで成形品から切り離される。かかる不要部分の切り離し作業は、脱型後であるため加硫サイクル外となり、連通溝部内にあった不要部分をカットするだけでよい。以上より、本発明によれば、キャビティ内のエアを適切に排出してバリの発生を抑制でき、しかも不要部分の成形型からの除去作業を簡略化して生産性を向上することができる。
【0014】
上記において、前記バリカット溝部及び前記溜り溝部の溝断面が、前記分割面に向かって溝幅が大となる台形状をなすことが好ましい。これにより、バリカット溝部及び溜り溝部内の不要部分が中型から抜け出し易くなるとともに、不要部分同士の連結強度を好適に確保して脱型性を高めることができる。
【0015】
上記において、前記バリカット溝部が前記分割面内にて終端していることが好ましい。かかる構成によれば、成形材料の余剰分をバリカット溝部内に容易且つ効率的に充填できるため、第1連通溝及び第2連通溝の両者に余剰分をより確実に充填することができる。その結果、上述のようにバリカット溝部内の不要部分と成形品との連結強度を確保して、脱型性を好適に高めることができる。
【0016】
上記において、前記キャビティに前記成形材料を注入するための注入孔と、前記バリカット溝部及び前記連通溝部とが、前記筒状芯体を挟んで相対向する位置に設けられていることが好ましい。かかる構成によれば、注入孔から注入された成形材料が筒状芯体の両側を回ってキャビティ全体に充填されるため、キャビティ内のエアを押し出すようにして連通溝部及びバリカット溝部に送り込んで排出でき、続いて成形材料の余剰分を連通溝部及びバリカット溝部に送り込むことができる。その結果、キャビティ内のエアや成形材料の余剰分を排出することによるバリ抑制効果を適切に奏することができる。
【0017】
また、本発明の筒状芯体付成形品の製造方法は、周方向に分割された中型を上型と下型とで挟んで型締めし、筒状芯体の外周で前記中型に面して形成されたキャビティにゴム状弾性体の成形材料を注入充填する注入工程と、前記筒状芯体にゴム状弾性体を一体成形した後に成形品を脱型する脱型工程と、を備える筒状芯体付成形品の製造方法において、前記中型が、前記中型の分割面に凹設されたバリカット溝部と、前記バリカット溝部と前記キャビティとを連通させ、前記筒状芯体の軸方向に互いに離れて配置された第1連通溝及び第2連通溝を有する連通溝部と、前記分割面に凹設され、前記バリカット溝部に堰部を介して通じる溜り溝部と、前記溜り溝部を型外部に連通させる排出溝部とを有する成形型を用いて、前記注入工程では、前記成型材料の余剰分を前記連通溝部を介して前記バリカット溝部に送り込むとともに、前記バリカット溝部に充填しきれない前記成型材料の余剰分を前記堰部を介して前記溜り溝部に送り込み、前記脱型工程では、前記上型と前記下型とを型開きするとともに前記中型の分割面を開放して、前記バリカット溝部内の不要部分及び前記溜り溝部内の不要部分を成形品と共に脱型するものである。
【0018】
本発明に係る筒状芯体付成形品の製造方法によれば、上述した作用効果を奏することができる。即ち、キャビティ内のエアを適切に排出しつつ、成型材料の余剰分をバリカット溝部に送り込むことでキャビティ間の充填バランスを保ってバリを抑制でき、しかも、バリカット溝部内の不要部分(成型材料の余剰分)と溜り溝部内の不要部分を成形品と共に脱型することで、該不要部分の除去作業を簡略化して生産性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1は、筒状芯体付成形品の一例としての防振ブッシュを示す断面図である。図2は、本発明に係る筒状芯体付成形品の成形型の一例を示す要部断面図である。図3は、図2のA−A矢視断面図である。図3において、B−B矢視方向から見た成形型の断面が図2に相当する。
【0020】
まず、図1に示した防振ブッシュ1について簡単に説明する。この防振ブッシュ1は、筒状芯体としての内筒2と、内筒2の外周面に加硫成形されたゴム状弾性体3とを備える。内筒2は、公知の高剛性材料にて形成することができ、例えば鋼材や高剛性樹脂材料を使用することができる。また、ゴム状弾性体3としては、自動車用防振ゴムの技術分野における公知のゴム材料を限定なく使用することができる。
【0021】
この防振ブッシュ1は、例えば自動車のサスペンション機構に組み込まれて振動伝播を緩和するのに用いられ、車体とサスペンションとの連結部位に取り付けた状態では、内筒2に挿通した取付ボルトを介して車体側に連結されるとともに、サスペンションアーム先端に設けられた外筒に圧入されてサスペンション側に連結される。ゴム状弾性体3の外径は、前記外筒の内径よりも大きく、圧入時に縮径して所定の絞り率が得られるように設定されている。
【0022】
次に、防振ブッシュ1を成形するための成形型について説明する。図2に示した成形型は、中型7を挟んで型締めされる上型5と下型6とを備え、上型上面5aには上型5から分離可能なランナープレート4が敷設されている。ランナープレート4の下面には、射出口19に連通したランナー溝20が設けられている。
【0023】
内筒2は成形型内で直立姿勢で支持されており、内筒2の外周でキャビティ8が中型7に面して形成されている。したがって、中型7の内壁面7aは、キャビティ8の外周面を構成しており、ゴム状弾性体3の外形に対応した形状をしている。注入孔9は、上型上面5aから下方に延びてキャビティ8の上面に通じており、その上端がランナー溝20の端部に連通している。ゴム状弾性体3の成形材料は、この注入孔9を介してキャビティ8に注入充填される。
【0024】
上型5には、入れ子型10が凹陥部12に嵌合された状態で固定されている。また、下型6には、入れ子型30が凹陥部32に嵌合された状態で固定されており、入れ子型10と入れ子型30とがキャビティ8を挟んで上下に相対向して配置されている。入れ子型10、30は、ゴム状弾性体3の軸方向側面に対応した形状の成形面部11、31を有しており、それらは型締め状態にて中型7の内壁面7aに連続している。入れ子型10、30の中型7との合わせ部には、断面台形状をなす環状溝84、85が内筒2と軸平行にして設けられている。
【0025】
上型5の入れ子型10の中央部には、下方に突出して内筒2の上端開口より挿入される支持ピン14が設けられている。支持ピン14は、成形品の脱型性を向上するため、その基部15に取り付けられたバネ16によって下方に付勢されている。基部15には、内筒2の端面を係止する係止段部が形成されており、その外周にシールリング18が配設されている。
【0026】
下型6の入れ子型30の中央部には、上方に突出して内筒2の下端開口より挿入される支持ピン34が設けられている。支持ピン34の基部35には、内筒2の端面を係止する係止段部が形成されており、その外周にシールリング38が配設されている。支持ピン34は、脱型時に成形品を簡単に取り出せるように、下方に連設されたエジェクタにより突き上げ可能に構成されている。
【0027】
中型7は、周方向に分割された複数の型部の組み合わせからなり、本実施形態では図3の上側と下側とに(図2の紙面に対して奥側と手前側とに)2分割されている例を示す。図2、3に示す型締め状態において、中型7を構成する各型部は、分割面71同士を互いに密着させた状態となっているが、不図示の型開き状態では、各型部が互いに離間する方向に変位し、分割面71を開放した状態となる。
【0028】
分割面71の内壁面7aの近傍には、内筒2の軸方向に延びるバリカット溝部72が凹設されている。バリカット溝部72は、図2に示すように、内壁面7aからの距離が一定となるよう局部で折れ曲がりながら内壁面7aに沿って延在しており、内壁面7aと略同等の軸方向長さ(図2の上下方向長さ)を有している。バリカット溝部72の端部は、中型7の上下面には達しておらず、分割面71内にて終端している。また、バリカット溝部72の溝断面は、図3に示すように分割面71に向かって溝幅が大となる台形状をなしている。
【0029】
分割面71のバリカット溝部72と内壁面7aとの間には、連通溝部73が凹設されている。連通溝部73は、バリカット溝部72及び内壁面7aの両者に通じており、キャビティ8に注入された成形材料の余剰分がバリカット溝部72に送り込まれるよう、バリカット溝部72とキャビティ8とを連通させている。連通溝部73は、内筒2の軸方向に互いに離れて配置された第1連通溝73aと第2連通溝73bとにより構成されている。
【0030】
本実施形態では、注入孔9と、バリカット溝部72及び連通溝部73とが、内筒2を挟んで180度相対向する位置に設けられている。また、上型5と中型7との合わせ部となる上型下面5bには、型外部に通じる排出溝部74が設けられている。排出溝部74は、バリカット溝部72に通じる溜り溝部75を型外部に連通させており、換言すると溜り溝部75を介してバリカット溝部72を型外部に連通させている。
【0031】
溜り溝部75は、バリカット溝部72と排出溝部74との間に介在し、バリカット溝部72が設けられた分割面71に凹設されている。溜り溝部75は、バリカット溝部72の外周側に近接配置されており、図3に示すような堰部76を介してバリカット溝部72に通じている。堰部76は、成形材料の余剰分の溜り溝部75への流動を制限するよう、バリカット溝部72の深さ方向とは反対側に向かって隆起しつつ、相対する分割面との間に隙間Gを設けてバリカット溝部72と溜り溝部75とを連通させている。溜り溝部75の溝断面は、図3に示すように分割面71に向かって溝幅が大となる台形状をなしており、バリカット溝部72よりも断面積及び容積が大きく形成されている。
【0032】
各部の寸法例としては、中型7の内壁面7aからバリカット溝部72までの距離が0.7mm、バリカット溝部72の深さが1.5mm、第1連通溝73aの深さが0.2mm、第1連通溝73aの溝幅が1.5mm、第2連通溝73bの深さが0.15mm、第2連通溝73bの溝幅が1.5mm、溜り溝部75の深さが3mm、溜り溝部75の容積が2cm以上、堰部76上面の幅が1mm、隙間Gが0.2mmであるものが挙げられる。
【0033】
本実施形態では、内筒2を挟んでバリカット溝部72と180度相対向する位置に、連通溝部83を介してキャビティ8に通じるバリカット溝部82が設けられている。バリカット溝部82及び連通溝部83は、バリカット溝部72及び連通溝部73と略同じ構造であるため、重複した部分については説明を省略する。なお、バリカット溝部72の端部が、既述のように分割面71内で終端しているのに対して、バリカット溝部82の端部は中型7の上下面に達しており、入れ子型10、30に設けられた環状溝84、85に連通している。
【0034】
本実施形態の成形型は、多数個(例えば16個)の防振ブッシュ1を一度に成形できるよう、複数個のキャビティ8が形成されるように構成されている。上型5及び下型6には、キャビティ8に応じた数のバリカット溝部72、連通溝部73、排出溝部74及び溜り溝部75、並びに支持ピン14、34などが設けられている。なお、各ランナー溝20は、共通の射出口19の先端から分岐して延びており、注入孔9同士は互いに繋がっている。
【0035】
以下、上記の成形型を用いて防振ブッシュ1を製造する方法について説明する。まず、成形型内に内筒2をセットし、図2に示すように上型5と下型6とで中型7を挟んで型締めして、内筒2の外周にキャビティ8を形成する。このとき、内筒2は、上下端の開口に支持ピン14、34が挿入された状態となり、直立姿勢で支持される。また、中型7は、分割面71同士を密着させた状態で、キャビティ8に外周側から面する。
【0036】
続いて、ゴム状弾性体3の成形材料を注入孔9よりキャビティ8内に注入する(前記注入工程に相当する。)。成形材料は、射出装置から射出口19、ランナー溝20及び注入孔9を介して、各キャビティ8に所定量が注入される。注入された成形材料は、キャビティ8内の注入孔9側から内筒2の外周に回り込んでキャビティ8内に充満する。このとき、キャビティ8内のエアを、成形材料の充填圧力により連通溝部73を介してバリカット溝部72に送り込み、溜り溝部75及び排出溝部74を通って型外部に適切に排出できる。それとともに、キャビティ8に充填しきれない成形材料の余剰分を、連通溝部73を介してバリカット溝部72に送り込み、続いてバリカット溝部72に充填しきれない成形材料の余剰分を溜り溝部75に溜めることができる。そのため、他に先んじて充填が完了したキャビティ8において、他のキャビティでの充填が完了するまでの間、成形材料の余剰分を溜り溝部75に溜めることで充填圧力が過大になることを抑制し、キャビティ間の充填バランスを保ってバリの発生をより確実に防止することができる。
【0037】
本実施形態では、注入孔9とバリカット溝部72及び連通溝部73とが、内筒2を挟んで相対向する位置に設けられていることから、注入された成形材料が内筒2の両側を回ってキャビティ8全体に充満し、その充填圧力によりキャビティ8内のエアを押し出すようにして連通溝部73及びバリカット溝部72に送り込むことができ、続いて成形材料の余剰分を送り込むことができる。
【0038】
本実施形態では、溜り溝部75が堰部76を介してバリカット溝部72に通じることから、成形材料の余剰分の溜り溝部75への送り込みは、バリカット溝部72への送り込み直後に行われず、余剰分がバリカット溝部72内に適度に充填して隙間Gを通過しうる程の圧力が作用する状態になった段階で開始される。これにより、連通溝部73のうち下方に位置する第1連通溝73aだけでなく、上方に位置する第2連通溝73bに対しても成形材料の余剰分を適切に充填することができる。隙間Gの大きさは、かかる作用効果が得られるように、且つ、上述したエアの排出が適切に行われるように設定されている。
【0039】
本実施形態では、バリカット溝部72を分割面71内にて終端させているため、成形材料の余剰分をバリカット溝部72内に容易且つ効率的に充填することができる。その結果、上述した第1連通溝73a及び第2連通溝73bの両者への余剰分の充填がより確実なものになる。
【0040】
また、本実施形態では、内筒2を挟んでバリカット溝部72と相対向する位置で充填圧力が高くなったとしても、バリカット溝部82及び連通溝部83が設けられていて、しかもバリカット溝部82を環状溝84、85に連通させていることから、成形材料の余剰分をキャビティ8外に逃がしてバリを適切に防止することができる。
【0041】
成形材料がキャビティ8内に充填されると、ゴム状弾性体3が内筒2の外周に一体的に成形される。ゴム状弾性体3の成形後は、上型5と下型6とを型開きして成形品である防振ブッシュ1を脱型する(前記脱型工程に相当する。)。脱型では、まず、中型7及び下型6を下降させて上型5から分離するとともに、ランナープレート4を上昇させて上型5から分離する。注入孔9内の不要部分は、ランナープレート4の上昇によりゴム状弾性体3からゲートで切り離されて注入孔9から引き抜かれ、射出口19及びランナー溝20内の不要部分に繋がった状態となり、他の注入孔内の不要部分と共に成形型から一括して取り除かれる。
【0042】
次に、中型7を構成する各型部を径方向外側に変位させ、分割面71を開放して防振ブッシュ1を成形型から取り出す。防振ブッシュ1には、図4に示すように、バリカット溝部72内の不要部分R1(バリカット溝部72に送り込まれた成形材料の余剰分)が、連通溝部73内の不要部分R2を介して連結されており、溜り溝部75内の不要部分R3も不要部分R1に連結されていることから、成形品と一緒に不要部分R1、R2、R3も脱型される。排出溝部74内に余剰分が送り込まれた場合に形成される不要部分(不図示)についても同様に脱型される。
【0043】
既述のように、第1連通溝73a及び第2連通溝73bの両者に成形材料の余剰分を適切に充填できているため、2つの不要部分R2を確実に形成し、不要部分R1の連結強度を確保して防振ブッシュ1と共に円滑に取り出すことができる。第1連通溝73a及び第2連通溝73bのサイズや間隔は、脱型時に不要部分R1が防振ブッシュ1から離脱しない程度の連結強度を確保できるように設定されている。
【0044】
更に、本実施形態では、バリカット溝部72の溝断面が、分割面71に向かって溝幅が大となる台形状をなすことにより、不要部分R1がバリカット溝部72から抜け出し易くなるとともに、不要部分R2との連結強度を好適に確保して脱型性を高めることができる。溜り溝部75の溝断面も同様に構成されており、上記と同じく脱型性を高めることができる。これに対して、溝断面を半円形状とした場合には、分割面71に対する溝壁の角度(接線の角度)が台形状と同じであっても、不要部分同士の連結部が薄肉化する傾向にあり、脱型時に切り離されてしまうおそれがある。また、連結強度を高めるために溝壁の角度を大きくすると、溝部から抜け出し難くなり、脱型性を低下させる傾向にある。かかる観点から、本実施形態ではバリカット溝部72等の溝断面を台形状としており、分割面71に対する溝壁の角度を60度に設定している。
【0045】
なお、本実施形態では、バリカット溝部82内の不要部分R4についても、連通溝部83内の不要部分R5を介して防振ブッシュ1に連結させており、不要部分R1と同様に防振ブッシュ1と一緒に脱型できる。また、環状溝84、85内に余剰分が送り込まれた場合に形成される不要部分は、不要部分R4の端部に連結されるため、他の不要部分と同様に成形品と一緒に脱型される。
【0046】
不要部分R1〜R5は、脱型後の任意のタイミングで成形品から取り除くことができるため、不要部分の除去作業は加硫サイクル外となり、その切り離し作業は不要部分R2、R5をカットするだけでよい。これらのことから、本発明によれば、成形材料の不要部分の除去作業を簡略化して生産性を向上することができる。
【0047】
本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能であり、例えばゴム状弾性体の形状などは、前述の実施形態で示したものに限られない。また、前述の実施形態では、互いに密着する中型の分割面のうち、バリカット溝部や溜り溝部を片方にのみ設けた例を示したが、これらを両方の分割面に設けたり、バリカット溝部と溜り溝部とを異なる分割面に設けたりしても構わない。但し、不要部分の脱型性を確保しつつ型構造をシンプルにする観点から、前述の実施形態のように片方の分割面にのみ設けることが好ましく、特に作業者から見易い側に配置することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】防振ブッシュの断面図
【図2】本発明に係る筒状芯体付成形品の成形型の一例を示す要部断面図
【図3】図2のA−A矢視断面図
【図4】脱型直後の防振ブッシュを示す正面図
【符号の説明】
【0049】
1 防振ブッシュ(筒状芯体付成形品)
2 内筒(筒状芯体)
3 ゴム状弾性体
5 上型
6 下型
7 中型
7a 内壁面
8 キャビティ
9 注入孔
71 分割面
72 バリカット溝部
73 連通溝部
73a 第1連通溝
73b 第2連通溝
74 排出溝部
75 溜り溝部
76 堰部
R1 不要部分
R2 不要部分
R3 不要部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に分割された中型を上型と下型とで挟んで型締めした際に、筒状芯体の外周でキャビティが前記中型に面して形成され、前記キャビティにゴム状弾性体の成形材料を注入充填可能に構成された筒状芯体付成形品の成形型において、
前記中型が、
前記中型の分割面に凹設されたバリカット溝部と、
前記成形材料の余剰分が前記バリカット溝部に送り込まれるように前記バリカット溝部と前記キャビティとを連通させ、前記筒状芯体の軸方向に互いに離れて配置された第1連通溝及び第2連通溝を有する連通溝部と、
前記分割面に凹設され、前記バリカット溝部に堰部を介して通じる溜り溝部と、
前記溜り溝部を型外部に連通させる排出溝部と、を有することを特徴とする筒状芯体付成形品の成形型。
【請求項2】
前記バリカット溝部及び前記溜り溝部の溝断面が、前記分割面に向かって溝幅が大となる台形状をなす請求項1記載の筒状芯体付成形品の成形型。
【請求項3】
前記バリカット溝部が前記分割面内にて終端している請求項1又は2記載の筒状芯体付成形品の成形型。
【請求項4】
前記キャビティに前記成形材料を注入するための注入孔と、前記バリカット溝部及び前記連通溝部とが、前記筒状芯体を挟んで相対向する位置に設けられている請求項1〜3いずれか1項に記載の筒状芯体付成形品の成形型。
【請求項5】
周方向に分割された中型を上型と下型とで挟んで型締めし、筒状芯体の外周で前記中型に面して形成されたキャビティにゴム状弾性体の成形材料を注入充填する注入工程と、前記筒状芯体にゴム状弾性体を一体成形した後に成形品を脱型する脱型工程と、を備える筒状芯体付成形品の製造方法において、
前記中型が、前記中型の分割面に凹設されたバリカット溝部と、前記バリカット溝部と前記キャビティとを連通させ、前記筒状芯体の軸方向に互いに離れて配置された第1連通溝及び第2連通溝を有する連通溝部と、前記分割面に凹設され、前記バリカット溝部に堰部を介して通じる溜り溝部と、前記溜り溝部を型外部に連通させる排出溝部とを有する成形型を用いて、
前記注入工程では、前記成型材料の余剰分を前記連通溝部を介して前記バリカット溝部に送り込むとともに、前記バリカット溝部に充填しきれない前記成型材料の余剰分を前記堰部を介して前記溜り溝部に送り込み、
前記脱型工程では、前記上型と前記下型とを型開きするとともに前記中型の分割面を開放して、前記バリカット溝部内の不要部分及び前記溜り溝部内の不要部分を成形品と共に脱型することを特徴とする筒状芯体付成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−229891(P2008−229891A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−68934(P2007−68934)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】