説明

粘度指数が80〜140の基油を製造する方法

(a)蒸留物又は脱アスファルト油からなる原料を水素の存在下、酸性非晶質シリカ−アルミナ担体上にニッケル及びタングステンを含有する水素化脱硫用硫化触媒と接触させる工程、及び(b)工程(a)の流出物に対し流動点降下工程を行って基油を得る工程により、蒸留物又は脱アスファルト油から出発して、粘度指数が80〜140の基油を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空蒸留物原料又は脱アスファルト油原料を水素の存在下、非晶質担体上に第VIB族金属及び第VIII族非貴金属を含有する触媒と接触させ、次いで脱蝋工程を行うことにより、真空蒸留物原料又は脱アスファルト油原料から出発して、粘度指数が80〜140の基油を製造する方法に向けたものである。
【背景技術】
【0002】
この種の方法は周知で、例えばLubricant Base Oil and Wax Processing,Avilino Sequeira,Jr,Marcel Dekker Inc.,New York,1994,第6章、121〜131頁に記載されている。この刊行物によれば、アルミナ上のニッケル−タングステンは、この水素化分解用に最も広く使用されている触媒である。この刊行物は、幾つかの製油所では、触媒活性を高めるため、弗素の注入も行っているとも述べている。
【0003】
GB−A−1493620には、水素化分解による基油の製造方法が記載されている。GB−A−149362は、アルミナ触媒上に水素化成分としてニッケル及びタングステンを担持してなる触媒を開示している。触媒に必要な酸性度は、弗素の存在で付与される。
【0004】
商業的操作では、このような弗素含有触媒は、基油の製造法において触媒活性及び基油選択性の点で優れた触媒であることが証明されている。しかし、弗素の環境への流出を避けるための対策を取らねばならないし、また腐蝕や弗素の添加費用を避けるための対策を取らねばならないという欠点がある。
【特許文献1】GB−A−1493620
【特許文献2】WO−A−9941337
【特許文献3】US−A−3130007
【特許文献4】US−A−3536605
【特許文献5】US−A−4859311
【特許文献6】WO−A−9718278
【特許文献7】US−A−5053373
【特許文献8】US−A−5252527
【特許文献9】US−A−4574043
【特許文献10】US−A−5157191
【特許文献11】WO−A−0029511
【特許文献12】WO−A−0029511
【特許文献13】EP−B−832171
【特許文献14】US−A−6576120
【非特許文献1】Lubricant Base Oil and Wax Processing,Avilino Sequeira,Jr,Marcel Dekker Inc.,New York,1994,第6章、121〜131頁
【非特許文献2】Kishan G.,Coulier L.,de Beer V.H.J.,van Veen J.A.R.,Niemantsverdriet J.W,,Journal of Catalysis 196,180−189(2000)
【非特許文献3】Von Bremer H.,Jank M.,Weber M.,Wendlandt K.P.,Z.anorg.allg.Chem.505,79−88(1983)
【非特許文献4】Leonard A.J.Ratnasamy P.,Declerck F.D.,Fripiat J.J.,Disc.of the Faraday Soc.1971,98−108
【非特許文献5】Toba M.等、J.Mater.Chem.,1994,4(7),1131−1135
【非特許文献6】W.M.Meier及びD.H.Olson,“ATLAS OF ZEOLITE STRUCTURE TYPES”第3編、Butterworth−Heinemann,1992
【非特許文献7】Lubricant Base Oil and Wax Processing,Avilino Sequeira,Jr,Marcel Dekker Inc.,New York,1994,第7章
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、弗化触媒と同じか、更には向上した活性、及び/又は基油への選択性を有する非弗化触媒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、以下の方法で達成される。
(a)蒸留物又は脱アスファルト油からなる原料を水素の存在下、酸性非晶質シリカ−アルミナ担体上にニッケル及びタングステンを含有する水素化脱硫用硫化触媒と接触させる工程、及び
(b)工程(a)の流出流に対し流動点降下工程を行って基油を得る工程、
により、蒸留物又は脱アスファルト油から出発して、粘度指数が80〜140の基油を製造する方法。
【0007】
出願人は、工程(a)において、水素化脱硫(HDS)活性が比較的高いニッケル/タングステン触媒及び酸性非晶質シリカ−アルミナ担体を用いることにより、基油が高収率で製造できることを見い出した。更に、工程(a)で使用される触媒の触媒活性は、現行技術の弗化ニッケル−タングステン触媒よりも高い。第二の利点は、本発明方法を用いた場合の基油中の(ポリ)芳香族化合物の含有量が、同等の方法条件下で弗化ニッケル−タングステン触媒を用いた場合と比較して少ないことである。
【0008】
工程(a)の蒸留物原料は、好適には、基油の沸点範囲の沸点を有するフラクションである。基油の沸点範囲の沸点は、好適には350℃を超え、更に通常は、370℃を超える。蒸留物原料から、100℃での動粘度が2cStを超え、通常は2〜15cStである基油を製造することが可能である。このような蒸留物原料は、好適な鉱物原油を大気圧条件で蒸留して得ることが好ましい。次に、こうして得られた残留物は、更に真空圧条件で1つ以上の蒸留物フラクションと、いわゆる真空残留物とに蒸留する。これらの蒸留物フラクションは、工程(a)の原料として使用できる。真空残留物、及び前記原油の大気圧蒸留で得られた残留物は、いわゆる脱アスファルト油を生成する周知の脱アスファルト法でアスファルト化合物を分離後、工程(a)の原料として使用してもよい。脱アスファルト油からは、100℃での動粘度が25〜35cStの更に粘稠な基油が製造される。
【0009】
工程(a)の原料中の蝋含有量は、MEK/トルエン中、−27℃で溶剤脱蝋により測定して、通常、30重量%未満、更に通常、20重量%未満である。
工程(a)で使用される触媒は、好ましくはニッケルを2〜10重量%及びタングステンを5〜30重量%含有する。
【0010】
工程(a)で使用される水素化脱流用硫化触媒は、比較的高い水素化脱硫活性を有する。ここで比較的高い水素化脱硫活性とは、シリカ−アルミナ担体をベースとする現行技術のニッケル/タングステン含有触媒に比べて、かなり高い活性を意味する。触媒の水素化脱硫活性は、30%よりも高いことが好ましく、更に好ましくは40%未満であり、最も好ましくは、35%未満である。ここで水素化脱硫活性は、チオフェンを標準水素化脱硫条件下で触媒と接触させた時のC−炭化水素分解生成物の重量%収率として表す。この標準条件は、全ガス原料において水素速度が54ml/分で、チオフェン濃度が6容量%である水素/チオフェン混合物を30〜80メッシュの硫化触媒200mgと1バール、350℃で接触させることからなる。
【0011】
この試験で使用される触媒粒子は、まず圧潰してから、30〜80メッシュのふるいでふるい分けする。次いでこの触媒は、300℃で少なくとも30分乾燥した後、乾燥触媒200mgをガラス反応器に装填する。次にこの触媒は、HSの速度が8.6ml/分で、Hの速度が54ml/分であるHS/H混合物と約2時間接触させることにより、予備硫化する。予備硫化処理中の温度は、10℃/分の割合で20℃の室温から270℃まで上昇させ、270℃で30分保持した後、10℃/分の割合で350℃まで上昇させる。予備硫化中、ニッケル及びタングステンの酸化物は、活性金属硫化物に転化される。予備硫化後、HS流は停止し、またHは、チオフェンを入れた2つの恒温ガラス容器中に54ml/分の速度で泡立たせる。第一のガラス容器の温度は25℃に維持し、第二のガラス容器の温度は16℃に維持する。16℃でのチオフェンの蒸気圧が55mmHgになると、このガラス容器に入る水素ガスは、6容量%のチオフェンで飽和される。この試験は、1バール、350℃の温度で行なう。ガス状生成物は、火炎イオン化検出器付きオンラインガス液体クロマトグラフで30分毎に4時間分析する。
【0012】
水素化脱硫活性について再現性のある値を得るため、上記方法で得られた試験値は、基準触媒の水素化脱硫活性に対応するように修正する。基準触媒は、Criterion Catalyst Company(Houston)の申込日(the date of filing)に得られる市販のC−454触媒で、その基準水素化脱硫活性は、上記試験で22重量%である。基準触媒(“試験C−454”)及び試験触媒(“測定値”)の両方を試験すれば、上記試験によるばらつきのない実際の水素化脱硫活性は、下記式に従って容易に計算できる。
実活性=“測定値”+((22−“試験C−454”)/22)“測定値”
【0013】
ニッケル/タングステン触媒の水素化脱硫活性は、例えばKishan G.,Coulier L.,de Beer V.H.J.,van Veen J.A.R.,Niemantsverdriet J.W,,Journal of Catalysis 196,180−189(2000)に記載されるように、触媒製造時の含浸段階でキレート化剤を使用することにより向上できる。キレート化剤の例は、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)及び1,2−シクロヘキサンジアミン−N,N,N’,N’−四酢酸である。
【0014】
触媒用の担体は、非晶質シリカ−アルミナである。用語“非晶質”は、特定の短かい範囲の規則(ordering)は存在してもよいが、X線回折で定義されるような結晶構造の欠落を示す。触媒担体の製造に使用するのに好適な非晶質シリカ−アルミナは、市販品として入手できる。或いはこのようなシリカ−アルミナは、当該技術分野で周知のように、アルミナとシリカヒドロゲルとを沈殿させ、次いで得られた材料を乾燥し、焼成することにより製造してもよい。この担体は、非晶質シリカ−アルミナ担体である。非晶質シリカ−アルミナは、アルミナを、担体単独を基準として、好ましくは5〜75重量%、更に好ましくは10〜60重量%の範囲で含有する。触媒担体の製造に使用される極めて好適な非晶質シリカ−アルミナ生成物は、シリカを45重量%、アルミナを55重量%含有し、市販品として入手できる(例えば米国Criterion Catalyst Company)。
【0015】
触媒の合計表面積測定値は、好ましくは100m/gを超え、更に好ましくは200〜300m/gである。合計細孔容積は、好ましくは0.4ml/gを超える。上限の細孔容積は、必要とする最小表面積により決定される。好ましくは、合計細孔容積の5〜40容量%は、350Aよりも大きい孔径を有する細孔として存在する。合計細孔容積とは、ASTM D 4284−88のStanderd Test Method for Determining Pore Volume Distribution of Catalysts by Mercury Intrusion Porosimetryを用いて測定した細孔容積を云う。
【0016】
触媒は硫化する。触媒の硫化は、現場又は現場外(ex−situ)での硫化のような、当該技術分野で公知のいかなる方法で行なってもよい。例えば触媒を、水素と硫化水素との混合物、水素と二硫化炭素との混合物又は水素とメルカプタン、例えばブチルメルカプタンとの混合物のような硫黄含有ガスと接触させることにより、硫化を行なうことができる。或いは、触媒を水素及び硫黄含有ケロシン又は硫黄含有ガス油のような硫黄含有炭化水素と接触させることにより、硫化を行なうことができる。硫黄は、好適な硫黄含有化合物、例えば二硫化ジメチル又はtert−イオノニル(tertiononyl)ポリスルフィドの添加により炭化水素油に導入できる。
【0017】
触媒を硫化状態に維持するため、供給原料は最小量の硫黄を含有することが好ましい。工程(a)の原料中には、好ましくは少なくとも200ppm、更に好ましくは700ppmの硫黄が存在する。したがって、原料が低水準の硫黄を含むものであれば、工程(a)の原料に、例えばジメチルスルフィドのような追加用の硫黄又は硫黄含有補助(co−)原料を添加する必要があるかも知れない。
【0018】
触媒の非晶質シリカ−アルミナ担体は、特定の最小酸性度、換言すれば最小分解(cracking)活性を有する。所要の活性を有する好適な担体の例は、WO−A−9941337に記載される。更に好ましくは触媒担体は、好適には400〜1000℃の温度で焼成した後、以下に更に詳細に説明するように、特定の最小n−ヘプタン分解活性を有する。
【0019】
n−ヘプタン分解性の測定には、まず焼成担体と白金0.4重量%とからなる標準触媒を作る。標準触媒は、40〜80メッシュの粒子として試験される。この粒子は、200℃で乾燥した後、試験反応器に装填する。反応は、長さと直径との比が10〜0.2の従来の固定床反応器中で行なわれる。標準触媒は試験する前に、水素の流速2.24Nml/分、圧力30バールにおいて400℃で2時間還元する。実試験の反応条件は、n−ヘプタン/Hモル比 0.25、全圧 30バール、ガスの時間当り空間速度 1020Nml/(g.h)である。温度は、0.22℃/分の割合で400℃から200℃まで低下させることにより変化させる。流出流は、オンラインガスクロマトグラフィーで分析する。転化率が40重量%に達した時の温度は、n−ヘプタン試験値である。n−ヘプタン試験値が低いほど、一層活性な触媒と相関する。
【0020】
好ましい触媒のn−ヘプタン分解温度は、上記試験法で測定して、360℃より低く、更に好ましくは350℃より低く、最も好ましくは345℃より低い。最低のn−ヘプタン分解温度は、好ましくは310℃より高く、更に好ましくは320℃より高い。
シリカ−アルミナ担体の分解活性は、当業者に一般に知られているように、例えば担体中のアルミナ分布の変化、担体中のアルミナの%割合の変化及びアルミナの種類により影響され得る。この点については、以下の論文参照:Von Bremer H.,Jank M.,Weber M.,Wendlandt K.P.,Z.anorg.allg.Chem.505,79−88(1983);Leonard A.J.Ratnasamy P.,Declerck F.D.,Fripiat J.J.,Disc.of the Faraday Soc.1971,98−108;Toba M.等、J.Mater.Chem.,1994,4(7),1131−1135。
【0021】
触媒は、大細孔モレキュラーシーブ、好ましくはアルミノシリケートゼオライトを8重量%以下含有する。更に好ましくは、触媒は、モレキュラーシーブを0.1〜8重量%含有する。このような触媒は、前述のモレキュラーシーブを含有しない触媒よりもなお一層活性であることが見い出された。このような活性の向上は、粘度指数が120〜140の基油を製造した時に特に示される。第二の利点は、モノ−及びポリ−の両芳香族の飽和向上が観察されることである。このようなゼオライトは、当該技術分野で周知であり、例えばX、Y、超安定Y、脱アルミ化Y、ホウジャサイト、ZSM−12、ZSM−18、L、モルデナイト、β、オフレタイト(offretite)、SSZ−24、SSZ−25、SSZ−26、SSZ−31、SSZ−33、SSZ−35、SSZ−37、SAPO−5、SAPO−31、SAPO−36、SAPO−40、SAPO−41及びVPI−5のようなゼオライトが挙げられる。大細孔ゼオライトは、一般に12−環の開孔口を有する大細孔ゼオライトとして同定されている。W.M.Meier及びD.H.Olson,“ATLAS OF ZEOLITE STRUCTURE TYPES”第3編、Butterworth−Heinemann,1992は、好適なゼオライトの例を同定し、纏めている。大細孔モレキュラーシーブを用いる場合は、例えばUS−A−3130007に記載されるような周知の合成ゼオライトYや、例えばUS−A−3536605に記載されるような超安定Yゼオライトは、好適なモレキュラーシーブである。その他の好適なモレキュラーシーブは、ZSM−12、ゼオライトβ及びモルデナイトである。
【0022】
工程(a)で使用される触媒は、当該技術分野で公知のいかなる好適な方法によっても製造できる。担体の好ましい製造方法は、例えばEP−A−666894に記載されるように、非晶質シリカ−アルミナと好適な液体との混合物を磨砕し、この混合物を押し出し、次いで得られた押出物を乾燥、焼成するというものである。押出物は、当該技術分野で公知のいかなる好適な形状、例えば円筒形、中空円筒形、多葉体形(multilobed)又は捻り多葉体形であってよい。触媒粒子の最も好適な形状は円筒形である。押出物の呼び径は、通常0.5〜5mm、好ましくは1〜3mmである。押し出し後、押出物は乾燥する。乾燥は、高温、好ましくは800℃以下、更に好ましくは300℃以下で行なってよい。乾燥時間は、通常5時間以下、好ましくは30分〜3時間である。押出物は、乾燥後、焼成することが好ましい。焼成は、高温、好ましくは400〜1000℃で行なわれる。押出物の焼成は、通常5時間以下、好ましくは30分〜4時間行なわれる。いったん担体を作れば、この担体材料にニッケル及びタングステンを沈着してよい。当該技術分野で公知のいかなる好適な方法、例えばイオン交換、競争的イオン交換及び含浸も採用できる。ニッケル及びタングステンは、前述のようなキレート化剤を用いる含浸法で添加することが好ましい。含浸後、得られた触媒は、好ましくは200〜500℃の温度で乾燥、焼成する。
【0023】
工程(a)は、高温高圧で行なわれる。この方法に好適な操作温度は、290〜450℃の範囲、好ましくは360〜420℃の範囲である。好ましい全圧は、20〜180バール、更に好ましくは100〜180バールである。炭化水素原料は、通常、重量の時間当り空間速度 0.3〜1.5kg/l/hの範囲、更に好ましくは0.3〜1.2kg/l/hの範囲で処理される。
【0024】
原料は、純水素の存在下で触媒と接触させてよい。或いは水素含有ガス、通常、水素を50容量%よりも多く、更に好ましくは60容量%よりも多く含む水素含有ガスを用いると便利であるかも知れない。好適な水素含有ガスは、接触改質プラントで生じるガスである。他の水素処理操作から生じる水素に富むガスも使用できる。水素対油比は、水素の容量を1バール、0℃における標準リットルで表して、通常300〜5000リットル/kg、好ましくは500〜2500リットル/kg、更に好ましくは500〜2000リットル/kgの範囲である。
【0025】
工程(a)の原料に対しては、工程(a)で原料を使用する前に、水素化脱硫(HDS)を行うことが好ましい。特に粘度指数が120未満の基油を所望する場合は好ましい。使用可能の好適なHDS触媒は、第VIII族非貴金属、例えばニッケル又はコバルト、及び第VIB族金属、例えばタングステン又はモリブデンを含有する。本発明方法で使用するのに好ましい触媒は、ニッケル及びモリブデンを含む触媒、例えばKF−847及びKF−8010(AKZO Nobel)、M−8−24及びM−8−25(BASF)、並びにC−424、DN−3100、DN−3120、HDS−3及びHDS−4(Criterion Catalyst Company)である。原料のHDS処理は、工程(a)と同じ反応器、例えば頂部床がHDS触媒で構成される積層床構造で行うのが好ましい。したがって、水素対油比、圧力及び温度についての方法条件は、工程(a)と同等である。原料は、好適には重量の時間当り空間速度 0.3〜1.5kg/l/hの範囲、更に好ましくは0.3〜1.2kg/l/hの範囲で処理される。
【0026】
工程(b)では、工程(a)の流出流に対し、流動点降下処理を行う。好ましくは、流動点降下工程(b)を行う前に、硫化水素及びアンモニアを含むガス状フラクションは分離する。更に好ましくは、流動点降下工程(b)を行う前に、工程(a)の流出流から中間蒸留物の沸点範囲以下及び沸点範囲を含むフラクションは、フラッシング及び/又は蒸留により分離する。流動点降下処理とは、処理毎に基油の流動点が10℃より大きく、好ましくは20℃より大きく、更に好ましくは25℃より大きく降下する処理であると理解する。
【0027】
流動点降下処理は、いわゆる溶剤脱蝋法又は接触脱蝋法により実施できる。溶剤脱蝋は、当業者に周知の方法で、1つ以上の溶剤及び/又は蝋沈殿剤を基油前駆体フラクションと添加混合し、この混合物を−10〜−40℃の範囲、好ましくは−20〜−35℃の範囲の温度に冷却して該油から蝋を分離するというものである。この蝋含有油は、通常、フィルタークロスでろ過する。フィルタークロスは、綿のような織物繊維、多孔質金属布、又は合成材料布で作ることができる。溶剤脱蝋法で使用できる溶剤の例としては、C〜Cケトン(例えばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン及びそれらの混合物)、C〜C10芳香族炭化水素(例えばトルエン)、ケトンと芳香族との混合物(例えばメチルエチルケトンとトルエン)、液化した通常ガス状のC〜C炭化水素のような自己冷却性炭化水素、例えばプロパン、プロピレン、ブタン、ブチレン及びそれらの混合物が挙げられる。一般にメチルエチルケトンとトルエンとの混合物又はメチルエチルケトンとメチルイソブチルケトンとの混合物が好ましい。これら及び他の好適な溶剤脱蝋法の例は、Lubricant Base Oil and Wax Processing,Avilino Sequeira,Jr,Marcel Dekker Inc.,New York,1994,第7章に記載されている。
【0028】
或いは工程(b)は接触脱蝋法により行なわれる。このような方法は、例えば溶剤脱蝋法で得られるよりも低い流動点を所望する場合に好ましい。−30℃よりも充分に低い流動点が容易に得られる。接触脱蝋法は、触媒及び水素の存在下で基油前駆体フラクションの流動点が前記特定されるように低下するいかなる方法でも実施できる。好適な脱蝋触媒は、モレキュラーシーブ及び任意に第VIII族金属のような水素化機能を有する金属との組合せを含む不均質触媒である。モレキュラーシーブ、更に好適には中間細孔サイズのゼオライトは、接触脱蝋条件下での基油前駆体フラクションの流動点低下に良好な触媒能を示した。中間細孔サイズのゼオライトは、好ましくは0.35〜0.8nmの孔径を有する。好適な中間細孔サイズのゼオライトは、ZSM−5、ZSM−12、ZSM−22、ZSM−23、SSZ−32、ZSM−35及びZSM−48である。他の好ましいモレキュラーシーブ群は、シリカ−アルミナホスフェート(SAPO)材料である。これら材料のうち、SAPO−11は、例えばUS−A−4859311に記載されるように、最も好ましい。ZSM−5は、いずれの第VIII族金属が存在しなくても、そのHSMZ−5の形態で任意に使用できる。その他のモレキュラーシーブは、添加した第VIII族金属と組合せて使用することが好ましい。好適な第VIII族金属は、ニッケル、コバルト、白金及びパラジウムである。可能な組合せの例は、Ni/ZSM−5、Pt/ZSM−23、Pd/ZSM−23、Pt/ZSM−48及びPt/SAPO−11である。好適なモレキュラーシーブ及び脱蝋条件の更なる詳細及び例は、WO−A−9718278、US−A−5053373、US−A−5252527及びUS−A−4574043に記載されている。
【0029】
脱蝋触媒は、好適にはバインダーも含有する。バインダーは、合成物質でも天然産の(無機)物質、例えば粘土、シリカ及び/又は金属酸化物であってもよい。天然産の粘土は、例えばモンモリロナイト族及びカオリン族である。バインダーは、多孔質バインダー材料、例えば耐火性酸化物が好ましく、耐火性酸化物の例としては、アルミナ、シリカ−アルミナ、シリカ−マグネシア、シリカ−ジルコニア、シリカ−トリア、シリカ−ベリリア、シリカ−チタニアや、三元組成、例えばシリカ−アルミナ−トリア、シリカ−アルミナ−ジルコニア、シリカ−アルミナ−マグネシア及びシリカ−マグネシア−ジルコニアがある。更に好ましくは、本質的にアルミナを含まない低酸性度耐火性酸化物バインダー材料が使用される。これらバインダー材料の例としては、シリカ、ジルコニア、二酸化チタン、二酸化ゲルマニウム、ボリア及びこれらの2種以上の上記例のような混合物がある。最も好ましいバインダーはシリカである。
【0030】
好ましい種類の脱蝋触媒は、前述のような中間のゼオライト微結晶と、前述のような本質的にアルミナを含まない低酸性度耐火性酸化物バインダー材料とを含有するが、このアルミノシリケートゼオライト微結晶の表面は、表面脱アルミ化処理により変性したものである。好ましい脱アルミ化処理は、バインダー及びゼオライトの押出物を、例えばUS−A−5157191又はWO−A−0029511に記載されるようなフルオロシリケート塩の水溶液と接触させることによるものである。前述のような好適脱蝋触媒の例は、例えばWO−A−0029511やEP−B−832171に記載されるように、シリカ結合脱アルミ化Pt/ZSM−5、シリカ結合脱アルミ化Pt/ZSM−23、シリカ結合脱アルミ化Pt/ZSM−12及びシリカ結合脱アルミ化Pt/ZSM−22である。
【0031】
接触脱蝋条件は、当該技術分野で公知であり、通常、操作温度は200〜500℃、好適には250〜400℃の範囲であり、水素圧は10〜200バールである。脱蝋工程では一般に40〜70バールの低圧が好ましいが、工程(a)及び(b)を一体化方法として操作する場合には、好適には圧力は、工程(a)と同じ範囲が可能である。したがって、工程(a)を70バールを超える圧力で行なった場合は、脱蝋工程も70バールを超える圧力で行なうのが好適である。重量の時間当り空間速度(WHSV)は、1時間当り触媒1リットル当り油0.1〜10kg(kg/l/hr)、好ましくは0.2〜5kg/l/hr、更に好ましくは0.5〜3kg/l/hrの範囲であり、また水素対油比は油1リットル当り水素100〜2,000リットルの範囲である。
工程(b)の流出流は、極少量の(ポリ)芳香族化合物しか含有しないことが見い出された。これは、追加の水素仕上げ工程を省略できるので、有利である。
本発明を以下の非限定的実施例により説明する。
【実施例1】
【0032】
実施例1
シリカ/アルミナ上のニッケル/タングステン触媒として、Criterion Catalyst Company (Houston)から得たLH−21触媒を反応器に装填し、固定床として保持した。LH−21触媒の水素化脱硫活性は、32%であった。この触媒の担体は、ヘプタン分解試験値が320〜345℃であった。
【0033】
【表1】

【0034】
第1表に示す特性を有する、脱アスファルト油と重質蒸留物とのブレンドを、重量の時間当り空間速度 1kg/l/hで反応器に供給した。水素は、入口圧 160バール、流速 1000Nl/hで反応器に供給した。反応温度(IABT)は、380〜430℃の範囲で変化させた。沸点370℃未満の生成物を除去するため、炭化水素生成物を蒸留し、更に−20℃で溶剤脱蝋により精製し、基油を得た。
【0035】
異なる反応器温度で得られた基油サンプルの粘度指数を測定し、図1に示した。
工程(a)の流出流中の炭素原子数1〜6のガス状炭化水素フラクションを測定し、得られた基油の粘度指数の関数として図2に示した。
【0036】
基油中のポリ芳香族化合物(2つより多い環を有する)を測定し、粘度指数の関数として図3に示した。
第1表の原料に対する基油の収率を粘度指数の関数として測定し、図4に示した。
実施例1の結果は、図1〜4にX(x)として示す。
【実施例2】
【0037】
実施例2
LH−21触媒床の上流半分を市販のニッケル/モリブデンHDS触媒で置き換えた他は、実施例1を繰り返した。その結果を、図1〜4に、綴じ込まない(non−filed)円(○)として示す。
【0038】
比較実験A
Criterion Catalyst Companyから得た市販の弗化C−454で実施例1を繰り返した。その結果を、図1〜4に黒の四角(■)として示す。
図1〜3から、実施例1及び2で示した本発明方法は、弗化触媒を用いた場合に比べて、同じ粘度指数の基油を得るのに低温で操作できることが判る。基油の収率は、図4に示すように、本発明方法では一層良好である。図示(図1)の約10℃の活性増加(activity gain)は意味がある。このような方法の改良は、空間速度の2倍と同等、即ち、触媒装填量をファクター2減少させるのと同等である。更に、弗化C−454触媒を用いた場合に比べて、工程(a)ではガス状副生物の形成が減少し、また最終基油中のジ−芳香族化合物の含有量が減少する。
【実施例3】
【0039】
実施例3
シリカ/アルミナ上のニッケル/タングステン触媒として、Criterion Catalyst Company (Houston)から得たLH−21触媒を、極めて超安定なゼオライトYが2重量%(担体を基準として)含まれるように変性した。この変性触媒を反応器に装填し、固定床として保持した。
この触媒床の上流には、HDS触媒として、Criterion Catalyst Companyから得たDN−3100を同じ容量置いた。
【0040】
【表2】

【0041】
第2表に示す特性を有するアラビア中間蒸留物を、重量の時間当り空間速度 1kg/l/hで反応器に供給した(反応器全体に対し定義した通り)。水素は、入口圧 160バール、流速 1700Nl/hで反応器に供給した。反応温度(IABT)は、370〜410℃の範囲で変化させた。沸点390℃未満の生成物を除去するため、炭化水素生成物を蒸留し、更に−20℃で溶剤脱蝋により精製し、基油を得た。
【0042】
異なる反応器温度で得られた基油サンプルの粘度指数を測定し、図5に示した。
基油サンプル中のモノ芳香族含有量(ミリモル/100g)を測定し、図6に示した。
基油中のポリ芳香族化合物(2つ以上の環を有する)を測定し、図7に示した。
【実施例4】
【0043】
実施例4
触媒床の下流に非変性LH−21触媒を用いた他は、実施例3を繰り返した。異なる反応器温度で得られた基油サンプルの粘度指数を測定し、図5に示した。
基油中のモノ芳香族含有量(ミリモル/100g)を測定し、図6に示した。
基油中のポリ芳香族化合物(2つ以上の環を有する)を測定し、図7に示した。
【実施例5】
【0044】
実施例5
蝋状蒸留物を実施例1と同様に、触媒と接触させ、原料として第3表に示すような特性を有する中間体生成物を得た。この原料は、第3表に示すような異なる条件で、Ptを0.7%装填したシリカ担体上に表面脱アルミ化ZSM−12を30重量%含有してなる触媒と接触させることにより、接触脱蝋した。この触媒は、US−A−6576120の実施例に記載の方法に従って製造した。
【0045】
【表3】

【実施例6】
【0046】
実施例6
脱蝋触媒について、ZSM−5をZSM−12に代えた他は、実施例5を繰り返した。流動点が−15℃の基油を得るための基油の収率は、78.5%であった。この基油の粘度指数は、104であった。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施例1、2及び比較実験Aにおいて、反応器温度と、得られた基油の粘度指数との関係を示す。
【図2】実施例1、2及び比較実験Aにおいて、工程(a)の流出流中の炭素原子数1〜6のガス状炭化水素フラクションと、得られた基油の粘度指数との関係を示す。
【図3】実施例1、2及び比較実験Aにおいて、反応器温度と、得られた基油中のジ−芳香族化合物の含有量との関係を示す。
【図4】実施例1、2及び比較実験Aにおいて、得られた基油の粘度指数と収率との関係を示す。
【図5】実施例3、4において、得られた基油の粘度指数と反応器温度との関係を示す。
【図6】実施例3、4において、得られた基油の粘度指数とモノ芳香族化合物の含有量との関係を示す。
【図7】実施例3、4において、得られた基油の粘度指数とポリ芳香族化合物の含有量との関係を示す。
【符号の説明】
【0048】
X 図1〜4での実施例1
○ 図1〜4での実施例2
■ 図1〜4での比較実験A

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)蒸留物又は脱アスファルト油からなる原料を水素の存在下、酸性非晶質シリカ−アルミナ担体上にニッケル及びタングステンを含有する水素化脱硫用硫化触媒と接触させる工程、及び
(b)工程(a)の流出物に対し流動点降下工程を行って基油を得る工程、
により、蒸留物又は脱アスファルト油から出発して、粘度指数が80〜140の基油を製造する方法。
【請求項2】
前記水素化脱硫用硫化触媒の水素化脱硫活性(但し、該水素化脱硫活性は、チオフェンを標準水素化脱硫条件下で該触媒と接触させた時のC−炭化水素分解生成物の重量%収率として表し、該標準水素化脱硫条件は、水素−チオフェン混合物において水素速度が54ml/分で、チオフェン濃度が6容量%である該水素−チオフェン混合物を、30〜80メッシュの触媒200mgと1バール、350℃で接触させることからなる)が、30%よりも高い請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記触媒の水素化脱硫活性が、40%未満である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記水素化脱硫触媒が、ニッケル及びタングステンをキレート化剤の存在下で酸性非晶質シリカ−アルミナ担体に含浸する方法で得られる請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記水素化脱硫触媒のアルミナ含有量が、担体単独を基準として、10〜60重量%である請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記シリカ−アルミナ担体が、310〜360℃のn−ヘプタン分解試験値(ここで、該分解試験値は、標準試験条件下でn−ヘプタンを、該担体とPt0.4重量%とからなる触媒と接触させた際、n−ヘプタンの40%が転化する温度を測定することにより得られる)を有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記シリカ−アルミナ担体のn−ヘプタン分解試験値が、320〜350℃である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記触媒が、ニッケルを2〜10重量%及びタングステンを5〜30重量%含有する請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記水素化脱硫触媒の表面積が、200〜300m/gである請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記水素化脱硫触媒の合計細孔容積が、0.4ml/gを超える請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記水素化脱硫触媒の合計細孔容積の5〜40容量%が、孔径350Aを超える細孔として存在する請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
工程(a)の前記原料が、700ppmを超える硫黄を含有する請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
粘度指数が120を超える基油を製造する際、工程(a)で原料を使用する前に、工程(a)の原料に対し、まず水素化脱硫工程を行う請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
工程(a)での前記触媒が、モレキュラーシーブを0.1〜8重量%含有する請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記モレキュラーシーブが、ゼオライトY、超安定ゼオライトY、ZSM−12、ゼオライトβ又はモルデナイトモレキュラーシーブである請求項14に記載の方法。
【請求項16】
工程(b)が、溶剤脱蝋により行われる請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
工程(b)が、接触脱蝋により行われる請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記脱蝋触媒が、シリカ結合脱アルミ化Pt/ZSM−12、シリカ結合脱アルミ化Pt/ZSM−22又はシリカ結合脱アルミ化Pt/ZSM−23である請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記脱蝋触媒が、シリカ結合脱アルミ化Pt/ZSM−12である請求項18に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公表番号】特表2006−509091(P2006−509091A)
【公表日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−558118(P2004−558118)
【出願日】平成15年12月9日(2003.12.9)
【国際出願番号】PCT/EP2003/050966
【国際公開番号】WO2004/053029
【国際公開日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(390023685)シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ (411)
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
【Fターム(参考)】