説明

紙塗工用共重合体ラテックス及び紙塗工用組成物

【課題】 白紙光沢、印刷光沢及び印刷時の強度に優れる塗工紙が得られる紙塗工用共重合体ラテックス及び紙塗工用組成物を提供する。
【解決手段】 異なる単量体組成から構成される少なくとも2段の重合工程を有し、かつ、1段目に脂肪族共役ジエン系単量体1.5〜24重量%、シアン化ビニル系単量体5.1〜25重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体3.1〜20重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体0〜22.3重量%から構成される単量体の合計が13〜32重量%(全単量体合計100重量%)を重合して得られる共重合体ラテックスであって、該共重合体ラテックスを透明基材に塗布後乾燥したフィルム(塗工量が乾燥重量で13g/m2±1g/m2)について、JIS K7136に準じて測定したヘーズと、透明基材自身のヘーズとの差が0〜1.0%であることを特徴とする紙塗工用共重合体ラテックス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙塗工用共重合体ラテックス及び紙塗工用組成物に関するものである。詳しくは、紙塗工用組成物にバインダーとして使用される共重合体ラテックスであり、該ラテックスを含有する紙塗工用組成物を紙に塗工して得られる塗工紙が白紙光沢、印刷光沢及び印刷時の強度に優れる紙塗工用共重合体ラテックス及び紙塗工用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、塗工紙は、その印刷効果が高い等の理由から、非常に数多くの印刷物に利用されている。季刊、月間紙等の定期刊行物の中にも、全ての頁に塗工紙が使用される場合もかなり増えている。特に、メールオーダービジネスにおけるダイレクトメールや商品カタログ等においては、そのほとんどが全ての頁に塗工紙を使用している。
一般に紙塗工用組成物は、クレーや炭酸カルシウムなどの白色顔料を水に分散した顔料分散液、顔料同士および顔料を原紙に接着固定するためのバインダー、およびその他の添加剤によって構成される水性塗料である。バインダーとしてはスチレン−ブタジエン系共重合体ラテックスに代表されるような合成エマルションバインダーやデンプン、カゼインに代表されるような天然バインダーが使用される。その中でもスチレン−ブタジエン系共重合体ラテックスは、品質設計の自由度が大きく、今日では紙塗工用組成物に最も適したバインダーとして広く使用されており、スチレン−ブタジエン系共重合体ラテックスの性能が紙塗工用組成物の性能や塗工紙作成時の操業性あるいは最終的な塗工紙製品の品質に影響することが知られている。
【0003】
塗工紙の品質の中でも特に最終製品の見栄えに大きく影響する白紙光沢や印刷光沢は非常に重要な項目である。塗工紙の光沢は塗工紙表面やインキ皮膜表面の光の正反射率で表されるため、塗工紙表面やインキ皮膜表面が平滑であると光沢は高くなる。これは塗工層に使用される顔料の要因が非常に大きい事がわかっている。一般に共重合体ラテックスなどのバインダーは顔料の配向を阻害する要因であるため、添加することによって塗工紙表面が粗くなり白紙光沢が低下する傾向が見られる。一方、印刷光沢については、インキ中のビヒクルが塗工紙表面に吸収されにくいほどインキ皮膜がゆっくり乾燥され、より平滑なインキ皮膜表面になることから、一般に共重合体ラテックスなどのバインダーを増やしたほうが塗工紙の空隙が減り、印刷光沢は高くなる。このように白紙光沢と印刷光沢は相反する物性であり、いずれも改善するのは難しい。さらに加えて印刷の高速化に伴い、塗工紙の印刷時の強度も改善することが要求されており、これら課題の解決のために、様々な提案が出されている。
【0004】
例えば、特開2001−31727(特許文献1)には、特定組成範囲の共重合体ラテックスを用いることで、塗工紙の白紙光沢、印刷光沢、接着強度などに優れるとの技術が紹介されている。例えば、特開2005−139577(特許文献2)では、pHが2〜6でありアルカリ金属含有量が特定量以下である特定組成の共重合体ラテックスによれば、塗工操業性に優れ、かつ白紙光沢、印刷光沢、表面平滑性、表面強度に優れる塗工紙が得られるとの技術開示がある。また、特開2007−204513号公報(特許文献3)では、ラテックスに含まれる揮発性成分中のスチレン2量体、スチレン3量体の量を200ppm以下にコントロールする事で、臭気を抑えつつ白紙光沢、印刷光沢、インキ乾燥性、表面強度に優れた共重合体ラテックスが得られると技術が紹介されている。
一方、塗工紙の製造方法では、一般的な無機顔料に中空プラスチック顔料を併用する事で白紙光沢を向上させることができる。しかし、中空プラスチック顔料を添加するとインキ乾燥性が速くなり、印刷光沢は発現しにくい傾向になるため、特開2006−37312号公報(特許文献4)では、2層塗工において下塗り用の紙塗工用組成物中に中空プラスチックピグメントと重質炭酸カルシウムを含有する事で白紙光沢及び印刷光沢の良好な塗工層が得られるとの技術開示がある。
しかし、これらの様々な改良技術は、未だ塗工紙に要求される白紙光沢と印刷光沢の性能を十分に満足するレベルには至っておらず、かつ、中空プラスチック顔料は白紙光沢に及ぼす影響は大きいが塗料コストが大幅に増大するため、特に共重合体ラテックス面からの更なる改良が強く求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−31727号公報
【0006】
【特許文献2】特開2005−139577号公報
【0007】
【特許文献3】特開2007−204513号公報
【0008】
【特許文献4】特開2006−37312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、白紙光沢、印刷光沢に優れ、かつ、印刷時強度が良好な塗工紙が得られる紙塗工用共重合体ラテックスおよび紙塗工用組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、紙塗工用共重合体ラテックス及び紙塗工用組成物に関するものである。詳しくは、異なる単量体組成からなる少なくとも2段の重合工程を有し、かつ、1段目に脂肪族共役ジエン系単量体1.5〜24重量%、シアン化ビニル系単量体5.1〜25重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体3.1〜20重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体0〜22.3重量%から構成される単量体の合計が13〜32重量%(全単量体合計100重量%)であり、さらに2段目以降に脂肪族共役ジエン系単量体10〜60重量%、シアン化ビニル単量体5〜30重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体0〜13重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体0〜72重量%から構成される単量体合計68〜87重量%(全単量体合計100重量%)を重合して得られる共重合体ラテックスであって、該共重合体ラテックスを透明基材に塗布後乾燥したフィルム(塗工量が乾燥重量で13g/m±1g/m)について、JIS K7136に準じて測定したヘーズと、透明基材自身のヘーズとの差が0〜1.0%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の共重合体ラテックスおよび紙塗工用組成物によれば、白紙光沢、印刷光沢に優れ、かつ、印刷時強度が良好な塗工紙が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の共重合体ラテックスは、脂肪族共役ジエン系単量体、シアン化ビニル単量体、エチレン系不飽和カルボン酸単量体およびこれらと共重合可能な他の単量体を乳化重合して得られる。
脂肪族共役ジエン系単量体としては、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換および側鎖共役ヘキサジエン類などが挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特に1,3−ブタジエンの使用が好ましい。
【0013】
シアン化ビニル単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリルなどが挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特にアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルの使用が好ましい。
【0014】
エチレン系不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸などの1塩基酸または2塩基酸(無水物)を挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。
【0015】
上記脂肪族共役ジエン系単量体、シアン化ビニル単量体およびエチレン系不飽和カルボン酸単量体と共重合可能な他の単量体としては、アルケニル芳香族単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体、ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体、不飽和カルボン酸アミド単量体等が挙げられる。
【0016】
アルケニル芳香族単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、メチルα−メチルスチレン、ビニルトルエンおよびジビニルベンゼン等が挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特にスチレンの使用が好ましい。
【0017】
不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート、2−エチルヘキシルアクリレート等が挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特にメチルメタクリレートの使用が好ましい。
【0018】
ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体としては、β−ヒドロキシエチルアクリレート、β−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジ−(エチレングリコール)マレエート、ジ−(エチレングリコール)イタコネート、2−ヒドロキシエチルマレエート、ビス(2−ヒドロキシエチル)マレエート、2−ヒドロキシエチルメチルフマレートなどが挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特にβ−ヒドロキシエチルアクリレートの使用が好ましい。
【0019】
不飽和カルボン酸アミド単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミドなどが挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特にアクリルアミドまたはメタクリルアミドの使用が好ましい。
【0020】
さらに、上記単量体の他に、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン等、通常の乳化重合において使用される単量体は何れも使用可能である。
【0021】
本発明の共重合体ラテックスは、乾燥してフィルムになった際に透明度が高く、塗工層表面や塗工層内部において光の乱反射を抑えることで、正反射率を高くし、白紙光沢及び印刷光沢が向上するものである。具体的には、共重合体ラテックスを透明基材に塗布・乾燥して得られたラテックスフィルム(塗工量が乾燥重量で13g/m±1g/m)のJIS K7136によるヘーズの測定値と、透明基材自身のヘーズとの差が0〜1.0%であるものである。ここで、一般的にヘーズ(曇価)とは試験片を通過する透過光のうち、前方散乱によって入射光から2.5°以上それた透過光の百分率であり、「全光線透過率(平行透過率+拡散透過率)に対する拡散透過率の比」として定義されるものである。したがってヘーズの数値が小さい方がより透明度が高いこととなる。上記ラテックスフィルムと透明基材のヘーズ差が1.0%を超えると、塗工層表面や塗工層内部におけるフィルム化したラテックス部分の透明性が悪く、乱反射が増えることによって白紙光沢及び印刷光沢が低下する。
【0022】
本発明の共重合体ラテックスは、異なる単量体組成からなる少なくとも2段の重合工程を有し、かつ、1段目に脂肪族共役ジエン系単量体1.5〜24重量%、シアン化ビニル系単量体5.1〜25重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体3.1〜20重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体0〜22.3重量%から構成される単量体合計が13〜32重量%であることが必要である。さらに2段目以降に脂肪族共役ジエン系単量体10〜60重量%、シアン化ビニル単量体5〜30重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体0〜13重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体0〜72重量%から構成される単量体合計68〜87重量%を重合することが必要である。
上記に示した1段目及び2段目以降の単量体組成範囲外では、共重合体ラテックスのフィルムと塗工基材とのヘーズ差が1.0%以下にならずに、白紙光沢や印刷光沢が劣る。
【0023】
1段目に添加するエチレン系不飽和カルボン酸単量体は、3.6重量%以上であると塗工紙の印刷時強度の発現がさらに良好となるため好ましい。さらに好ましくは4.1重量%以上である。
また、エチレン系不飽和カルボン酸単量体は全体量の60重量%が1段目の重合工程で添加されるのが好ましく、60重量%未満では塗工紙の印刷時の強度発現が劣る傾向があり好ましくない。
【0024】
更に好ましくは、単量体組成の異なる3段以上の重合工程を有し、1段目に脂肪族共役ジエン系単量体1.5〜24重量%、シアン化ビニル単量体5.1〜25重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体4.1〜20重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体0〜21.3重量%からなる単量体合計13〜32重量%を重合し、2段目以降に脂肪族共役ジエン系単量体10〜60重量%、シアン化ビニル単量体5〜30重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体0〜13重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体0〜72重量%からなる単量体合計68〜87重量%を重合することで、塗工紙の印刷時強度の発現性がより良好となるため好ましい。
【0025】
3段以上の重合工程を有する際には、2段目以降に使用されるシアン化ビニル単量体の55重量%以上が最終段より前の重合工程で添加されることがラテックスフィルムのベタツキ性(粘着性)や印刷時の強度発現が優れる点で好ましい。
また、2段目の単量体合計が10〜66重量%、3段目以降の単量体合計が2〜62重量%であると、より塗工紙の印刷時の強度発現が良好となるため好ましい。
【0026】
本発明の共重合体ラテックスの重合には、公知の乳化剤(界面活性剤)を使用することができる。例えば、高級アルコールの硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、脂肪族カルボン酸塩、デヒドロアビエチン酸塩、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、非イオン性界面活性剤の硫酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤、ポリエチレングリコールのアルキルエステル型、アルキルフェニルエーテル型、アルキルエーテル型等のノニオン性界面活性剤が挙げられ、これらを1種又は2種以上使用することができる。
【0027】
本発明の共重合体ラテックスの重合には、公知の連鎖移動剤(分子量調整剤)を制限されることなく使用することができる。例えば、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ステアリルメルカプタン等のアルキルメルカプタン、ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイド等のキサントゲン化合物、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のチウラム系化合物、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノール等のフェノール系化合物、アリルアルコール等のアリル化合物、ジクロルメタン、ジブロモメタン、四臭化炭素等のハロゲン化炭化水素化合物、α−ベンジルオキシスチレン、α−ベンジルオキシアクリロニトリル、α−ベンジルオキシアクリルアミド等のビニルエーテル、トリフェニルエタン、ペンタフェニルエタン、アクロレイン、メタアクロレイン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2−エチルヘキシルチオグリコレート、ターピノレン、α−メチルスチレンダイマー等が挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。
【0028】
本発明の共重合体ラテックスの重合には、公知の重合開始剤として、過硫酸リチウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性重合開始剤、クメンハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、t−ブチルハイドロパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等の油溶性重合開始剤を適宜用いることができる。特に過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイドの使用が好ましい。
【0029】
本発明において好ましく用いられる還元剤の具体例としては、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩、亜ニチオン酸塩、ニチオン酸塩、チオ硫酸塩、ホルムアルデヒドスルホン酸塩、ベンズアルデヒドスルホン酸塩、また、L−アスコルビン酸、エリソルビン酸、酒石酸、クエン酸などのカルボン酸類及びその塩、更にはデキストロース、サッカロースなどの還元糖類、更にはジメチルアニリン、トリエタノールアミンなどのアミン類が挙げられる。特にL−アスコルビン酸、エリソルビン酸、が好ましい。
【0030】
本発明の共重合体ラテックスの重合には、必要により、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の飽和炭化水素、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、4−メチルシクロヘキセン、1−メチルシクロヘキセン等の不飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素などの炭化水素化合物を使用することができる。特に、沸点が適度に低く、重合終了後に水蒸気蒸留などによって回収、再利用しやすいシクロヘキセンやトルエンが、本発明の目的とは異なるものの、環境問題の観点から好適である。
【0031】
本発明における共重合体ラテックスの粒子径は、特に制限がないが50〜150nmであることが好ましい。数平均粒子径が50nm未満では白紙光沢が劣る傾向があり、また150nmを超えると塗工紙の印刷時強度が発現しにくくなるので好ましくない。
【0032】
本発明における共重合体ラテックスのゲル含量にはなんら制限はないが、ゲル含量が60〜100重量%が好ましい。ゲル含量が60重量%未満では塗工紙の強度が低下する傾向がある。特に好ましくは65〜95重量%である。
【0033】
本発明の共重合体ラテックスの重合には、必要に応じて酸素補足剤、キレート剤、分散剤等の公知の添加剤を用いることも差し支えなく、これらは種類、使用量ともに特に限定されず、適宜適量使用することが出来る。更には消泡剤、老化防止剤、防腐剤、抗菌剤、難燃剤、紫外線吸収剤などの公知の添加剤を用いることも差し支えなく、これらも種類、使用量ともに特に限定されず、適宜適量使用することが出来る。また、本発明の共重合体ラテックスは、その使用目的に応じて他のラテックスと適宜適量ブレンドすることもできる。
【0034】
本発明の共重合体ラテックスの製造にあたって、単量体ならびにその他の成分の添加方法については特に制限されるものではなく、分割添加方法、連続添加方法、パワーフィード方法の何れでも採用することができるが、本発明の重合方法においては、2段以上の多段階重合を行う必要がある。
【0035】
本発明の紙塗工用組成物は、公知の顔料、例えば、カオリンクレー、炭酸カルシウム、タルク、硫酸バリウム、酸化チタン、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、サチンホワイトなどの無機顔料、あるいはポリスチレンラテックスのような有機顔料をそれぞれ単独または混合して使用することができる。
また、紙塗工用組成物中の本発明の共重合体ラテックスの含有量は、顔料100重量部(固形分)に対して2〜15重量部(固形分)を使用することが好ましい。共重合体ラテックスの含有量が2重量部以下では顔料を充分に接着できず好ましくなく、15重量部を超えると塗料中に占める共重合体ラテックスの製造コストの上昇を招く。より好ましくは2.5〜12部重量部(固形分)である。
【0036】
また、必要に応じて澱粉、酸化澱粉、エステル化澱粉等の変性澱粉、大豆蛋白、カゼインなどの天然バインダー、あるいはポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなどの水溶性合成バインダーなどを使用しても差し支えない。さらに、ポリ酢酸ビニルラテックス、アクリル系ラテックスなどの合成ラテックス等を本発明の共重合体ラテックスと併用してもよい。
【0037】
本発明の紙塗工用組成物を調整する際には、さらにその他の助剤、例えば分散剤(ピロリン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウムなど)、消泡剤(ポリグリコール、脂肪酸エステル、リン酸エステル、シリコーンオイルなど)、レベリング剤(ロート油、ジシアンジアミド、尿素など)、防腐剤、離型剤(ステアリン酸カルシウム、パラフィンエマルジョンなど)、蛍光染料、カラー保水性向上剤(アルギン酸ナトリウムなど)を必要に応じて添加しても良い。
【0038】
さらに、紙塗工用組成物を塗工用紙へ塗布する方法には、公知の技術、例えばエアナイフコーター、ブレードコーター、ロールコーター、バーコーターなどのいずれの塗工機を使用しても差し支えない。また、塗工後、表面を乾燥し、カレンダーリングなどにより仕上げる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。なお実施例中、割合を示す部および%は特に断りのない限り重量基準によるものである。また実施例における諸物性の評価は次の方法に拠った。
【0040】
共重合体ラテックスのゲル含有量の測定
温度40℃、湿度85%の雰囲気にてラテックスフィルムを作成する。その後ラテックスフィルムを約1g秤量しXgとする。これを400mlのトルエンに入れ48時間膨潤溶解させる。その後、これを秤量済みの300メッシュの金網で濾過し、その後トルエンを蒸発乾燥させ、その乾燥後重量からメッシュ重量を減じて、試料の乾燥後重量を秤量しYgとする。
ゲル含量(%)=Y/X*100
【0041】
共重合体ラテックスの数平均粒子径の測定
共重合体ラテックスの数平均粒子径を動的光散乱法により測定した。尚、測定に際しては、FPAR−1000(大塚電子製)を使用した。
【0042】
塗工紙のドライピック強度の評価
RI印刷機で各塗工紙試料を同時に印刷した際のピッキングの程度を肉眼で判定し、5級(優)から1級(劣)まで相対的に目視評価した。
【0043】
塗工紙の白紙光沢の評価
各塗工紙試料の光沢度をJIS P−8142に従い測定した。数値が大きいほど白紙光沢が良い。
【0044】
塗工紙の印刷光沢の評価
RI印刷機で各塗工紙試料をプロセスインキ(0.5g)で印刷した後、一昼夜放置し、印刷面の光沢感を目視により判定した。
(優)◎ > ○ > △ > ×(劣)
【0045】
共重合体ラテックスフィルムのヘーズの測定方法
透明な基材(三菱樹脂株式会社製ポリエステルフィルム DIA
FOIL S100−100 厚み100μm ヘーズ2.2%)に#12番ワイヤーバーを用いて共重合体ラテックスを塗布した後、120℃熱風循環式オーブン中で1分間乾燥させたラテックスフィルムを準備し、塗布量が固形分で13g/m±1g/mであることを確認した。得られたラテックスフィルムについて、村上色彩技術研究所製分光光度計CMS35SPを用い、JIS K7136、プラスチック−透明材料のヘーズの求め方(2000)の測定方法に準じて測定した。
ヘーズ値(%)=(散乱成分のみの透過光)/(全光線透過光)×100
上記計算式より透明基材に塗布したラテックスフィルムのヘーズ値を求め、透明基材自身のヘーズ値との差を計算した。このラテックスフィルムと透明基材のヘーズ差が小さいほうが、より透明であり、光の乱反射が少ないラテックスフィルムである。
【0046】
共重合体ラテックス(A)の合成
耐圧製の重合反応器に、重合水140部と表1に示す1段目に記載の各単量体および他の化合物を加えて70℃にて重合を開始し、重合転化率が80%を越えた時点で、2段目の各単量体および他の化合物を加えて70℃にて重合を行い最終の重合転化率が96%を超えた時点で重合を終了した。
次いで、得られた共重合体ラテックスを、水酸化ナトリウムを用いてpHを7に調整し、水蒸気蒸留により未反応単量体および他の低沸点化合物を除去し、共重合体ラテックスAを得た。
共重合体ラテックス(B、G〜J)の合成
各段の単量体組成を表1および表2に記載の内容に変更して、ラテックスAと同様に重合を行いラテックスB、およびG〜Jを得た。
共重合体ラテックス(C〜E、K、M〜N)の合成
耐圧製の重合反応器に、重合水140部と表1および表2に示す1段目に記載の各単量体および他の化合物を加えて70℃にて重合を開始し、重合転化率が50%を越えた時点で、2段目の各単量体および他の化合物を加えて70℃にて重合を行う。2段目を添加後、重合転化率が80%を越えた時点で3段目の各単量体および他の化合物を加えて、最終重合転化率が96%を超えた時点で重合を終了した。
次いで、得られた共重合体ラテックスを、水酸化ナトリウムを用いてpHを7に調整し、水蒸気蒸留により未反応単量体および他の低沸点化合物を除去し、共重合体ラテックスC〜E、K、M〜Nを得た。
共重合体ラテックス(F)の合成
耐圧製の重合反応器に、重合水140部と表1に示す1段目に記載の各単量体および他の化合物を加えて70℃にて重合を開始し、重合転化率が50%を越えた時点で、次いで2段目の各単量体および他の化合物を加えて70℃にて重合を行う。2段目の単量体を添加後、重合転化率が80%を越えた時点で3段目の各単量体および他の化合物を加えて、重合転化率が85%を越えた時点で4段目の各単量体および他の化合物を加えて最終の重合転化率が96%を超えた時点で重合を終了した。
次いで、得られた共重合体ラテックスを、水酸化ナトリウムを用いてpHを7に調整し、水蒸気蒸留により未反応単量体および他の低沸点化合物を除去し、共重合体ラテックスFを得た。
共重合体ラテックス(L)の合成
耐圧製の重合反応器に、重合水140部と表2に示す1段目に記載の各単量体および他の化合物を加えて70℃にて重合を開始し、重合転化率が96%を超えた時点で重合を終了した。
次いで、得られた共重合体ラテックスを、水酸化ナトリウムを用いてpHを7に調整し、水蒸気蒸留により未反応単量体および他の低沸点化合物を除去し、共重合体ラテックスLを得た。
【0047】
紙塗工用組成物の作製と評価
下記に示した配合処方に従って共重合体ラテックスA〜Nを用い、水酸化ナトリウムでpH9.5に調整し、紙塗工用組成物を作製した。
(紙塗工用組成物の配合処方)
配合処方
微粒カオリン 40部
重質炭酸カルシウム 60部
変性デンプン 2部
共重合体ラテックス 7部
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
固形分濃度 67%
【0048】
塗工紙の作製と評価
塗工原紙(坪量55g/m)に、上記の紙塗工用組成物を片面あたりの塗被量が10g/mとなるようにワイヤーバーを用いて塗工し乾燥した後、線圧60kg/cm、温度50℃の条件でカレンダー処理を行って塗工紙を得た。得られた塗工紙を各試験に供して評価し、その結果を表1および表2に示した。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
表1、2に示すとおり、本発明による共重合体ラテックスA〜Fはいずれも塗工紙の印刷時強度が良好で、かつ、白紙光沢値、印刷光沢値が高い。
【0052】
比較例1は、1段目に添加するシアン化ビニル系単量体およびエチレン性不飽和カルボン酸単量体が請求項1に記載の範囲外であり、ラテックスフィルムと基材のヘーズ差が1.0%を超え、白紙光沢・印刷光沢が劣る。
比較例2は、比較例1からさらに1段目に添加する脂肪族共役ジエン系単量体、シアン化ビニル系単量体およびエチレン性不飽和カルボン酸単量体が請求項1に記載の範囲外であり、ラテックスフィルムと基材のヘーズ差が1.0%を超え、白紙光沢・印刷光沢が劣り、さらにドライピック強度が劣る。
比較例3は、1段目の単量体合計が32重量%を超えるためラテックスフィルムと基材のヘーズ差が1.0%を超え、白紙光沢・印刷光沢が劣る。
比較例4は、2段目以降に添加するシアン化ビニル系単量体が30重量%を超えており、ラテックスフィルムと基材のヘーズ差が1.0%を超え、白紙光沢・印刷光沢が劣る。
比較例5は、1段目に添加するエチレン性不飽和カルボン酸単量体が20重量%を超えており、ラテックスフィルムと基材のヘーズ差が1.0%を超え、白紙光沢が特に大きく劣り、印刷光沢も劣る。
比較例6では、重合工程が1段しかなくラテックスフィルムと基材のヘーズ差が1.0%を超え、白紙光沢・印刷光沢が劣る。
比較例7は、2段目以降に使用する脂肪族共役ジエン系単量体が60重量%を越えるため、ラテックスフィルムと基材のヘーズ差が1.0%を超え、白紙光沢・印刷光沢が劣り、ドライピック強度も劣っている。
比較例8では、2段目以降の工程で添加されるシアン化ビニル単量体が5重量%未満であり、ドライピック強度が劣り、ラテックスフィルムと基材のヘーズ差が1.0%を超え、白紙光沢・印刷光沢が劣る。
【産業上の利用可能性】
【0053】
上記のとおり、本発明の共重合体ラテックスおよび紙塗工用組成物を用いることで、白紙光沢、印刷光沢が良好で、かつ、印刷時強度に優れた塗工紙が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる単量体組成から構成される少なくとも2段の重合工程を有し、かつ、1段目に脂肪族共役ジエン系単量体1.5〜24重量%、シアン化ビニル系単量体5.1〜25重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体3.1〜20重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体0〜22.3重量%から構成される単量体の合計が13〜32重量%(全単量体合計100重量%)であり、さらに2段目以降に脂肪族共役ジエン系単量体10〜60重量%、シアン化ビニル単量体5〜30重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体0〜13重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体0〜72重量%から構成される単量体合計68〜87重量%(全単量体合計100重量%)を重合して得られる共重合体ラテックスであって、該共重合体ラテックスを透明基材に塗布後乾燥したフィルム(塗工量が乾燥重量で13g/m±1g/m)について、JIS K7136に準じて測定したヘーズと、透明基材自身のヘーズとの差が0〜1.0%であることを特徴とする紙塗工用共重合体ラテックス。
【請求項2】
異なる単量体組成から構成される少なくとも3段の重合工程を有し、1段目に脂肪族共役ジエン系単量体1.5〜24重量%、シアン化ビニル単量体5.1〜25重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体4.1〜20重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体0〜21.3重量%から構成される単量体合計13〜32重量%を重合し、2段目以降に脂肪族共役ジエン系単量体10〜60重量%、シアン化ビニル単量体5〜30重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体0〜13重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体0〜72重量%から構成される単量体合計68〜87重量%を重合することを特徴とする請求項1に記載の共重合体ラテックス。
【請求項3】
エチレン系不飽和カルボン酸単量体全使用量の60重量%以上が1段目の重合工程で添加され、最終段の重合工程では添加されないことを特徴とする請求項1または2に記載の共重合体ラテックス。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の共重合体ラテックスを含有する紙塗工用組成物。

【公開番号】特開2011−195972(P2011−195972A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61674(P2010−61674)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(399034220)日本エイアンドエル株式会社 (186)
【Fターム(参考)】