説明

紙成形品の成形方法及び成形用金型

【課題】本発明は、上部金型のインロー部を下部金型のキャビティに挿入し、各通気部材から脱水・脱気することにより、強度と耐水性に優れた紙成形品を得ることを目的とする。
【解決手段】本発明による紙成形品の成形方法及び成形用金型は、上部用通気部材(10)、上部用脱気孔(7)及びインロー部(4A)を有する上部金型(4)と、キャビティ(5)、下部用通気部材(12)及び下部用脱気孔(7A)を有する下部金型(3)とを備え、前記インロー部(4A)を前記キャビティ(5)内に挿入し、前記各通気部材(10、12)及び各脱気孔(7、7A)を用いて脱気・脱水し紙成形品(20A)を成形する方法と構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙成形品の成形方法及び成形用金型に関し、特に、下部金型のキャビティに対して上部金型のインロー部を挿入し、インロー部と通気部材とOリングを用いて気密状態で圧縮成形し、成形時の水分等を通気部材及び脱気孔を介して外部に逃がし、強度と耐水性に優れた紙成形品を得るための新規な改良に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、紙繊維を主原料とした成形品を製造する方法として、パルプ、古紙などを水でスラリー化して型内で脱水、成形して乾燥するパルプモールド法が用いられている。また、ポリビニルアルコールのような水溶性高分子結合材を添加することで、スラリー中の水分を低下させるとともにプラスチック用射出成形機で利用できる流動性に調整して金型で成形する方法がある。
また、紙及びその成形品は水に弱いため、そのままでは食品容器など水分を含む環境下で用いることはできず、そのため、成形品の耐水性を向上させる方法として、従来はプラスチックの含浸やフィルムの貼付が行われてきた。
また、再生時の異物混入を防止する方法として、リグノフェノール誘導体溶液を含浸した紙成形品が製造されるようになった。
【0003】
また、パルプモールド法の解説については、日本パルプモールド工業会のホームページなどがある。
さらに、射出成形機を用いた成形法については、特許文献1、特許文献2、特許文献3などがある。
図8に示すものは、特許文献1により提案されているものであり、紙繊維などを含む原料の成形法に関するものである。図8において、1は内部に水管2を有する延長ノズル、3は固定側型板、4は可動側型板、5は固定側型板3と可動側型板4とにより形成されるキャビティ、6はキャビティ5の壁面に取り付けた多孔性の脱気手段、7は一端が脱気手段6に、他端が金型の外部に連通している脱気孔、8は固定側型板3及び可動側型板4を加熱する電気ヒータ、9は延長ノズル1とキャビティ5を連通するスプルである。脱気手段6は通気性の多孔質体からなり、例えば平均空孔径が7μm、空孔率が約25%の多孔性の金属粉末焼結体を放電加工法によって加工したものである。成形材料は、延長ノズル1よりスプル9を通ってキャビティ5に充填される。前記型板3、4は、電気ヒータ8によってキャビティ5の壁面温度が120℃〜220℃となるように加熱されている。成形材料に添加された水分は気化して、脱気手段6を介して脱気孔7から外部に放散する。
尚、前記リグノフェノールを添加した成形体については、特許文献4、特許文献5などがある。
【0004】
【特許文献1】特開平9−76213号公報
【特許文献2】特開平9−109113号公報
【特許文献3】特開平11−280000号公報
【特許文献4】特開2000−72888号公報
【特許文献5】特開2004−306479号公報
【非特許文献1】日本パルプモールド工業会ホームページ(http://www.pulpmold.gr.jp/index.html)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の紙成形品の成形方法は、以上のように構成されていたため、次のような課題が存在していた。
すなわち、従来におけるパルプモールドは、金型に多数の脱水孔を加工し、原料スラリーの脱水時に繊維の流出を防ぐため表面に金網を貼っている。そのため、成形品の表面には網や固定用のビス頭の形状が転写され美観を損ねている。網の耐久性も低いので、定期的に補修が必要となる。脱水成形された成形品には多量の水分が残存するため、天日ないし乾燥炉で乾燥が必要であるが、収縮による寸法変化が避けられないため、厚肉品や複雑形状品の作成が困難であった。
【0006】
一方、高分子結合材を添加した成形原料を用いた射出成形機による成形は、成形用の金型に水分を脱気する機能を付与しなければならず、特許文献1及び特許文献2では、金型内に多孔性の脱気手段を有しているが、多孔質の素材は繊維や結合材によって容易に閉塞し、その除去は困難である。また、特許文献3では、成形材料をキャビティ内に充填後、金型を僅かに開いて気化した水分を放散している。この場合、脱気部の面積や位置が限定されるために、肉厚品や大型品の成形は困難である。これらの射出成形機による成形法では、水分の低減と流動性の調整のために高分子結合材を成形原料に添加することが不可欠である。また、水分の脱気乾燥のために金型の温度を120℃〜220℃と水の沸点より高く設定しているが、様々な添加剤を含んでいる成形品の変色を招くおそれがあった。
【0007】
また、耐水性を向上させるために、プラスチックの含浸やフィルムの貼付をおこなった成形品は、再生品にプラスチックやフィルムが異物として混入する問題がある。
また、リグノフェノールの添加による耐水性の向上は、成形品に対してリグノフェノールを均質で生産性高く添加する方法が必要となる。特許文献4では、請求項において具体的な添加方法が記載されておらず実施例において紙マットを容器内でリグノフェノール−アセトン溶液で含浸させ、マットの上下を適時反転させながらアセトンの蒸発を行っている。この方法では、成形品に対してリグノフェノール誘導体を均質で生産性の高い添加を行うことができない。成形品にリグノフェノール誘導体を含浸するためには、成形品より大きな体積を有する容器及び含浸液を準備しなければならないが、リグノフェノール誘導体は高価であるため高コストとなっていた。
【0008】
特許文献5では、紙繊維、リグノフェノール誘導体、アルコールを混合した成形材料を射出成形機で成形している。この手法では既に成形された紙に対してリグノフェノール誘導体を添加することはできず紙の強度は繊維間の水素結合によって保たれているため、強度が高く均質な紙成形品を得るためには、水中で繊維間に働く水素結合力を失わせて、機械力により繊維を分散離解させて流動性を有する成形原料とした後に、脱水成形、乾燥によって繊維間の水素結合を復活させる必要がある。ところがリグノフェノール誘導体は水に不溶であるため、水分の混入はリグノフェノールの添加ムラの原因となる。さらに、特許文献5では、繊維とリグノフェノールを混合するためにアルコールを用いているが、アルコールでは水素結合力が弱く繊維の離解が不十分なため健全な成形品を得るのは難しい。また、金型内に脱気手段を有せず、金型の隙間より脱気を行うため、肉厚品や大型品の成形は困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による紙成形品の成形方法は、キャビティのキャビティ壁面に水分及び蒸気が通過可能で繊維が通過不能な下部用通気部材を有すると共に前記下部用通気部材に連通する下部用脱気孔を有する下部金型と、前記キャビティ内に挿入されるインロー部を有すると共に前記インロー部の内側に前記下部用通気部材と同一材の上部用通気部材を有しかつ前記上部用通気部材と連通する上部用脱気孔を有する上部金型とを用い、前記キャビティ内に設けられ少なくとも紙繊維からなる主原料及び水分からなる成形原料を前記キャビティ内で圧縮して紙成形品を成形する方法であり、また、前記紙成形品の密度は、0.3Mg/m以上で0.9Mg/m以下の範囲である方法であり、また、前記成形原料に含まれる水分量が重量比で50%以上で97%以下である方法であり、また、前記各金型の温度を80℃以上で200℃以下とする方法であり、また、前記紙成形品には添加液としてリグノフェノール誘導体が含まれている方法であり、また、前記紙成形品には添加液としてリグノクレゾールのアセトン溶液が含まれている方法であり、また、前記キャビティ内を減圧することにより、前記添加液を加圧ポンプ無しで前記キャビティ内の前記紙成形品に含浸させる方法であり、また、前記各金型の温度を30℃以上で60℃未満とする方法であり、また、本発明による成形用金型は、キャビティのキャビティ壁面に水分及び蒸気が通過可能で繊維が通過不能な下部用通気部材を有すると共に前記下部用通気部材に連通する下部用脱気孔を有する下部金型と、前記キャビティ内に挿入されるインロー部を有すると共に前記インロー部の内側に前記下部用通気部材と同一材の上部用通気部材を有しかつ前記上部用通気部材と連通する上部用脱気孔を有する上部金型とを備え、前記上部金型のインロー部を前記下部金型のキャビティ内に挿入し、前記キャビティ内の少なくとも紙繊維からなる主原料及び水分からなる成形原料を圧縮し、前記水分を前記各通気部材及び各脱気孔を介して外部に逃がすようにした構成であり、また、前記下部金型には、前記キャビティに連通するイジェクトピンがOリングを介して設けられ、前記インロー部にはインロー用Oリングが設けられている構成である。
【発明の効果】
【0010】
本発明による紙成形品の成形方法及び成形用金型は、以上のように構成されているため、次のような効果を得ることができる。
(1)本発明によれば、圧縮成形が可能で圧縮中にキャビティ内の気密を保つ構造を有するインロー部と、キャビティ壁面に非多孔質素材による通気部を併せ持つ金型によって、乾燥炉、寸法矯正機を用いずに最小限の設備で紙繊維を主成分とする成形材料から強度と耐水性に優れ、肉厚で複雑形状を有する紙繊維成形品を得ることができる。
(2)キャビティ壁面の通気部材より、抄紙、脱水、乾燥、含浸、脱気を行うことができるので、紙成形品の製造に必要な抄紙、成形、乾燥、含浸、脱気工程を一つの金型で行うことができる。
(3)キャビティ壁面に脱水経路である通気部材を設けているので、プレス脱水により射出成形機では扱い難い高水分、低粘度のスラリー状の原料を扱うことができる。
(4)キャビティ壁面に脱水、乾燥経路である通気部材を設けているので、脱水、乾燥が難しい成形品の中心部や肉厚部近傍から水分を除くことができる。
(5)成形原料をキャビティ内に入れながら、通気部材より減圧することで繊維をキャビティ内に残しながら脱水することができる。この工程により、キャビティの容積以上の原料を挿入することができる。
(6)圧縮成形により成形材料に内圧が付加されるので、流動性が悪い材料でもキャビティ内に対して良好に充填させることができる。
(7)キャビティ内を減圧することで、比較的低い温度で水分の乾燥を迅速に行うことができる。
(8)乾燥の進展に伴い、成形品は変形するが、金型内で拘束されているため変形量は最小限に抑えられる。
(9)乾燥の進展に伴い、成形品は収縮するが、圧縮成形により収縮分に対応してキャビティ容積が減少するため、高密度の成形品が得られる。
(10)成形原料の量を変化させることにより、強度に大きな影響を与える成形品の密度を調整することができる。
(11)キャビティ壁面の通気部材より、リグノフェノール誘導体溶液などの液をキャビティ内に導入することができる。このとき必要な含浸液は、成形品が有する空孔体積の総和に等しく、成形品を容器内で含浸させるときと比較して大幅に少なくできる。
(12)キャビティ内部を減圧することにより、送液ポンプを使わずに、大気圧により含浸液としての添加液をキャビティ内部に導入することができる。
(13)キャビティ内部を減圧することにより、送液ポンプを使わずに、大気圧により成形品の中心まで迅速に含浸液を浸透させることができる。
(14)キャビティ内を減圧することで、比較的低い温度で含浸液溶媒の脱気を迅速に行うことができる。
(15)成形原料を乾燥させてから、リグノフェノール誘導体を含浸できるので、水素結合を利用した強靭な成形品に対してリグノフェノール誘導体をムラ無く含浸できる。
(16)非多孔質素材の部品を組み合わせて通気部を構成しているので、多孔質素材と比較して通気部の閉塞時の分解掃除が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、下部金型のキャビティに対して上部金型のインロー部を挿入し、インロー部と通気部材とOリングを用いて気密状態で圧縮成形し、成形時の水分等を通気部材及び脱気孔を介して外部に逃がし、強度と耐水性に優れた紙成形品を得るようにした紙成形品の成形方法及び成形用金型を提供することを目的とする。
【実施例】
【0012】
以下、図面と共に本発明による紙成形品の成形方法及び成形用金型の好適な実施の形態について説明する。
尚、従来例と同一又は同等部分については同一符号を用いて説明する。
本発明は、上記の課題を解決することを目的として、紙繊維成形材料を成形する金型に、圧縮成形のためのインロー部とキャビティ壁面に非多孔質材による通気部と、Oリングなどにより外部と気密を保ちながら圧縮成形できるインロー部を設けたものである。
本発明で使用される金型の一形態を、図1に示す。図1において4は上部金型、3は下部金型、10は非多孔質素材により水分及び蒸気が通過可能で繊維が通過不能な上部用通気部材、7は上部用脱気孔、11はインロー部4Aのインロー用Oリング、8は上部用熱媒孔、3は下部金型、5はキャビティ、5Aはキャビティ壁面、7Aは下部用脱気孔、12は前記上部用通気部材10と同一材で形成された下部用通気部材、14はOリング13で作動自在に設けられたイジェクトピン、7Aは下部用脱気孔、8Aは下部用熱媒孔である。前記上部金型4と下部金型3は互いに嵌めあうことができるインロー構造であり、プレス機などにより金型内部の成形原料20を加圧成形する機能を有する。前記上部用脱気孔7は、一端が通気部材10と連通して接続し、他端が図示しないバルブを介して、大気、真空ポンプ、コンプレッサー、含浸液タンクとつながっている。インロー用Oリング11は、上部金型4と下部金型3の嵌め合い時に気密を保つように構成されている。このインロー用Oリング11の材質は、熱媒による加熱や有機溶剤を含む含浸液に耐えることが必要である。このような材質として、耐熱シリコンやフッ素系ゴムなどがある。温水などの熱媒を、熱媒孔8、8Aに流すことで、上部金型4及び下部金型3の温度を制御することができる。イジェクトピン14は、図示しないアクチュエータによって成形品を金型よりイジェクトする。Oリング13は、イジェクトピン14の摺動時に下部金型3との気密を保つ構成である。
本発明で試作した金型3、4は、キャビティ形状がφ125×4mmで、通気部材10、12は図5、6に示した円筒形のものを用いた。
【0013】
次に作用について説明する。
図2は、各金型3、4が開いた状態である。成形材料20の投入は、各金型3、4を開いて行う。この成形原料20が水分の多いスラリー状であれば、脱気孔7、7Aを真空ポンプで減圧することで、通気部材10、12より成形原料20中の水分を脱水する、抄紙工程を行い、下部金型3のキャビティ5より体積の大きな成形原料20を投入することができる。
図3は、各金型3、4が圧縮中の状態であり、成形原料20を充填してプレス圧縮することで、原料の水分はキャビティ壁面の通気部材10、12より脱水される。このとき成形原料20に内圧がかかるために、成形原料20は金型3、4内部の空間に沿って充填される。金型3、4内で圧縮成形を行うことで、射出成形法では成形が難しい水分が多く粘度の低い原料や流動性の悪い材料を成形することができる。通気部材10、12及び各脱気孔7、7Aに残存する水分は、コンプレッサーより供給される圧搾空気により系外に排出される。
【0014】
この脱水工程に続いて各脱気孔7、7Aを真空ポンプで減圧することで、各通気部材10、12を介して成形原料20は減圧乾燥される。乾燥に伴って成形原料20は収縮するが、プレス圧縮により収縮に伴ってキャビティ体積も減少するために、成形原料20の密度は高く保たれる。この時の収縮を補うために必要な圧縮荷重は、圧縮成形時と比べて低いので、大気圧との差圧と金型そのものの重量で充分である。つまりこの工程においては、プレス機は必ずしも必要ではない。紙成形品20Aは金型3、4内で拘束されているため、乾燥時において変形は生じない。また、紙成形品20Aの表面は平滑に加工された金型3、4に接しているため、網やビスなど美観を損ねる模様は転写されない。さらに、通気部材10、12を紙成形品20Aが接しているキャビティ壁面に設けているので、金型のすきまから行うのと比較して、脱水及び乾燥が効率的に行える。
【0015】
図4は、金型3、4が閉じた状態である。乾燥に伴う収縮が終了した時点で金型3、4が閉じるように成形原料20の挿入量を設定することで、安定した形状で密度の高い紙成形品20Aを得ることができる。
この成形原料20の乾燥後に脱気孔7、7Aを真空ポンプで減圧することで、通気部材10、12を介して成形原料20は減圧される。成形原料20の主成分は紙繊維であるため、成形原料20の中心まで減圧することができる。減圧雰囲気を保ったまま、リグノフェノール誘導体溶液を各脱気孔7、7Aより通気部材10、12を介して成形原料20に含浸させる。この場合、差圧によって、リグノフェノール誘導体溶液は成形原料20の中心まで容易に含浸する。この場合、加圧ポンプなどは不要である。含浸に必要なリグノフェノール誘導体溶液の量はキャビティ5の容積に等しいので、高価なリグノフェノールを効率的に使うことができる。また、含浸前に紙成形品20Aを乾燥することができるので、水分による含浸ムラは生じない。
含浸工程に続いて各脱気孔7、7Aを真空ポンプで減圧することで、各通気部材10、12を介してリグノフェノール誘導体溶液で含浸された成形原料20は減圧脱気される。
【0016】
このように、抄紙、脱水、乾燥、含浸、脱気工程を一つの金型で行うことができるので、設備投資は最小限におさえられる。また、同じ金型を複数個用いることにより、連続的な生産も可能である。
図5から図7は、非多孔質素材で構成された通気部材10、12の一例である。図5は円筒形通気部材の上面図、図6は断面図で、棒及びパイプ状の部品を同心円状に配列している。図7は直方形通気部材10、12で、板状の部品の組み合わせにより構成されている。各部品間のすきまは、JIS B 0401で規定されているすきまばめ(30mmの軸寸法であれば直径で数十μm〜数百μmの公差)に設定しておけば、水分や蒸気はすきまを通ることができるが、数mm前後の長さである紙繊維は通ることはできない。通気部材10、12の素材は特に規定しないが、金型3、4と組み合わせて紙成形品20Aと直接接触するキャビティ5の一部分となるので、取扱いの面から金型本体と同じであることが好ましい。閉塞した多孔質素材の通気性の回復は難しいが、この通気部材10、12は各部品から構成されているため、閉塞時において分解整備が容易である。
【0017】
尚、成形原料20に含まれる繊維は、植物由来であれば種類は問わないが、古紙、パルプなど紙繊維が望ましい。紙繊維を離解し流動性を持たせるために水が必要となる。水の含有量は、多すぎると脱水、乾燥が困難になる。一般的な離解機の運転条件はパルプの重量比で3%〜5%であるため、パルプスラリーの水分量は重量比で97%以下とする。圧縮成形は流動性の悪い材料に対応した成形法であるため、紙繊維を離解した後であれば脱水によって、最低限の流動性を残しながら水分量を低下させても問題はない。さらに、高分子結合材を添加することで、成形原料に流動性を持たせながら、水分量を低下させることができる。紙繊維に水と各種結合材を添加して実験用混連機で混連したところ、重量比で50%以上の水分量であれば均一でまとまりのある成形原料を得ることができた。
よって、成形原料20には重量比で50%以上の水分が必要である。高分子結合材は水溶性が好ましい。例えば、ポリビニアルコール、でんぷん、カルボキシメチルセルロース、HEC、HPC、MFC、PEOなどを用いることができる。
【0018】
また、各金型3、4は減圧脱気することにより、紙成形品20Aの変色を生じない低い温度で水分を乾燥することができる。これは、加熱手段として取扱いが容易で安価な温水を使うことができることを意味している。一般的な温水器の最高加熱温度は90℃ないし120℃である。熱媒としてシリコンオイルなどを用いると、さらに加熱温度をあげることができる。ところが、紙繊維ないし古紙に含まれている添加剤は高温で変色するため、熱媒の温度の上限を一般的な耐熱紙の最高使用温度である200℃とする。一方、熱媒の温度が低いと乾燥に要する時間が増加するため、一般的に入手容易な温水温度である80℃を下限とする。
【0019】
(実施例1)成形原料20として、クラフトパルプと蒸留水を家庭用ミキサーで1分間解繊して、重量比で4%パルプスラリーとしたものを用いた。この成形原料400gを95℃の温水で加熱した金型3、4で成形して、未含浸の成形品を成形した。圧縮成形時のプレス荷重は9.8kN(0.8MPa)で、乾燥時のプレス荷重は0.98kN(0.08MPa)である。得られた紙成形品20Aは柔らかく、密度は0.34Mg/mであった。
(実施例2)成形原料を800gとした。その他の条件は、実施例1と同じである。得られた成形品は緻密で、密度は0.68Mg/mであった。
(実施例3)成形原料を1200gとした。その他の条件は、実施例1と同じである。得られた成形品は緻密で、密度は0.84Mg/mであった。
(比較例1)通気部材10、12の素材を、金属粉末を焼結した多孔質材とした。その他の条件は、実施例1と同じである。数回の成形試験で通気部材10、12が閉塞したために、再現性のある試験結果を得ることはできなかった。
実施例1、2、3で得られた紙成形品20Aの平均重量、平均密度及び性状を表1に、比較例1の結果を表2に示す。実施例1の成形品は柔らかく強度が低かったので、これより低い密度では成形品として不適と思われる。実施例2、3では緻密な成形品が得られたが、今回の金型では、実施例3より成形原料の量を大きく増やすことはできなかった。したがって、本発明における含浸前の成形品の密度は、0.3Mg/m〜0.9Mg/mの範囲が適当と思われる。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
(実施例4)実施例1の条件で得られた成形品に対して、金型内含浸を行った。含浸液として、10%(重量比)リグノクレゾール−アセトン溶液を用いた。リグノクレゾールは、リグノフェノール誘導体の一種である。30℃の温水で加熱した金型3、4内の成形品に含浸液を1分間導入して、減圧下においてアセトンの脱気を行った。脱気が完了するまで20分以上要した。成形品は均一に含浸していた。
(実施例5)金型3、4の加熱に40℃の温水を用いた。その他の条件は、実施例4と同じである。脱気が完了するまで20分以上要した。成形品は均一に含浸していた。
(実施例6)金型3、4の加熱に50℃の温水を用いた。その他の条件は、実施例4と同じである。脱気が完了するまで15分以下であった。成形品は均一に含浸していた。
(実施例7)金型3、4の加熱に60℃の温水を用いた。その他の条件は、実施例4と同じである。成形品の表面にリグノフェノールの粉末が付着して、均一な含浸はできなかった。
実施例4、5、6、7の紙成形品20Aの性状を表3に示す。加熱温度が高いほど脱気時間が短いが、アセトンの沸点(約56℃)を超えると均一な含浸ができない。よって、本発明においてはリグノクレゾール−アセトン溶液含浸時における金型温度は30℃以上、60℃未満、好ましくは50℃以上、55℃以下とする。
【0023】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、紙成形品だけではなく、例えば、生分解性原料を用いた成形品にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明による紙成形品の成形金型を示す断面図である。
【図2】図1のキャビティに成形原料を入れた金型開状態を示す断面図である。
【図3】図2の圧縮成形している状態を示す断面図である。
【図4】図3の金型閉状態を示す断面図である。
【図5】図1の通気部材を示す平面図である。
【図6】図5の断面図である。
【図7】図5の他の形態を示す斜視図である。
【図8】従来の紙成形品の成形金型を示す断面図である。
【符号の説明】
【0026】
3 下部金型
4 上部金型
4A インロー部
5 キャビティ
7 上部用脱気孔
7A 下部用脱気孔
8 上部用熱媒孔
8A 下部用熱媒孔
10 上部用通気部材
11 インロー用Oリング
12 下部用通気部材
13 Oリング
14 イジェクトピン
20 成形原料
20A 紙成形品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティ(5)のキャビティ壁面(5A)に水分及び蒸気が通過可能で繊維が通過不能な下部用通気部材(12)を有すると共に前記下部用通気部材(12)に連通する下部用脱気孔(7A)を有する下部金型(3)と、前記キャビティ(5)内に挿入されるインロー部(4A)を有すると共に前記インロー部(4A)の内側に前記下部用通気部材(12)と同一材の上部用通気部材(10)を有しかつ前記上部用通気部材(10)と連通する上部用脱気孔(7)を有する上部金型(4)とを用い、前記キャビティ(5)内に設けられ少なくとも紙繊維からなる主原料及び水分からなる成形原料(20)を前記キャビティ(5)内で圧縮して紙成形品(20A)を成形することを特徴とする紙成形品の成形方法。
【請求項2】
前記紙成形品(20A)の密度は、0.3Mg/m以上で0.9Mg/m以下の範囲であることを特徴とする請求項1記載の紙成形品の成形方法。
【請求項3】
前記成形原料(20)に含まれる水分量が重量比で50%以上で97%以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の紙成形品の成形方法。
【請求項4】
前記各金型(3、4)の温度を80℃以上で200℃以下とすることを特徴とする請求項1ないし3の何れかに記載の紙成形品の成形方法。
【請求項5】
前記紙成形品(20A)には添加液としてリグノフェノール誘導体が含まれていることを特徴とする請求項1ないし4の何れかに記載の紙成形品の成形方法。
【請求項6】
前記紙成形品(20A)には添加液としてリグノクレゾールのアセトン溶液が含まれていることを特徴とする請求項1ないし4の何れかに記載の紙成形品の成形方法。
【請求項7】
前記キャビティ(5)内を減圧することにより、前記添加液を加圧ポンプ無しで前記キャビティ(5)内の前記紙成形品(20A)に含浸させることを特徴とする請求項5又は6記載の紙成形品の成形方法。
【請求項8】
前記各金型(3、4)の温度を30℃以上で60℃未満とすることを特徴とする請求項6記載の紙成形品の成形方法。
【請求項9】
キャビティ(5)のキャビティ壁面(5A)に水分及び蒸気が通過可能で繊維が通過不能な下部用通気部材(12)を有すると共に前記下部用通気部材(12)に連通する下部用脱気孔(7A)を有する下部金型(3)と、前記キャビティ(5)内に挿入されるインロー部(4A)を有すると共に前記インロー部(4A)の内側に前記下部用通気部材(12)と同一材の上部用通気部材(10)を有しかつ前記上部用通気部材(10)と連通する上部用脱気孔(7)を有する上部金型(4)とを備え、前記上部金型(4)のインロー部(4A)を前記下部金型(3)のキャビティ(5)内に挿入し、前記キャビティ(5)内の少なくとも紙繊維からなる主原料及び水分からなる成形原料(20)を圧縮し、前記水分を前記各通気部材(10、12)及び各脱気孔(7、7A)を介して外部に逃がすように構成したことを特徴とする成形用金型。
【請求項10】
前記下部金型(3)には、前記キャビティ(5)に連通するイジェクトピン(14)がOリング(13)を介して設けられ、前記インロー部(4A)にはインロー用Oリング(11)が設けられていることを特徴とする請求項9記載の成形用金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−144284(P2008−144284A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−329571(P2006−329571)
【出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【出願人】(395018778)機能性木質新素材技術研究組合 (17)
【Fターム(参考)】