説明

細胞外マトリックス組成物

本発明は、胎児性タンパク質を含む組成物を作製する方法に関する。本方法は、インビトロにおいて生体適合性の二次元または三次元の表面上にて低酸素条件下で細胞を培養する段階を含む。この培養方法により可溶性画分も不溶性画分もともに産生され、これらを別々にまたは一緒に用いて、種々の医療的用途および治療的用途において有用な生理学的に許容される組成物を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は全体として、細胞外マトリックス組成物の作製および使用に関し、より具体的には、低酸素条件の下、適した増殖培地における表面上にて細胞を培養することによって得られるタンパク質に関する。
【背景技術】
【0002】
背景情報
細胞外マトリックス(ECM)は、哺乳類の組織内にインビボで見られる細胞を取り囲むかまたは支持する複雑な構造実体である。ECMは結合組織といわれることも多い。ECMは、コラーゲンおよびエラスチンなどの構造タンパク質、フィブリリン、フィブロネクチンおよびラミニンなどの特殊なタンパク質、ならびにプロテオグリカンを含む三つの主要な部類の生体分子から主に構成される。
【0003】
インビトロにおけるECM組成物の増殖ならびに種々の治療的および医学的用途におけるその使用が当技術分野において報告されている。そのようなECM組成物の一つの治療的用途には、軟組織としわおよび瘢痕などの皮膚欠損との処置および修復が含まれる。
【0004】
欠損、例えば、にきび、外科手術の瘢痕または老化が原因となる軟組織の欠損の修復または増強は、非常に困難であることが証明されている。軟組織の欠損を矯正するためにさまざまな成功の度合いでいくつかの材料が用いられてきたが、完全に安全かつ有効な材料はなかった。例えば、シリコンは、小結節、再発性蜂巣炎および皮膚潰瘍などの、長期にわたる副作用を含む種々の生理学的および臨床的問題を引き起こす。
【0005】
コラーゲン組成物も軟組織増強のための注射可能な材料として使用されている。コラーゲンは、結合組織の主要なタンパク質であり、哺乳類において最も豊富なタンパク質であり、総タンパク質含有量の約25%を構成する。文献に記述されているコラーゲンは現在28種ある(例えば、詳細な一覧については、以下の表1および2を参照のこと)。しかしながら、身体内の90%超のコラーゲンはコラーゲンI、II、IIIおよびIVである。
【0006】
再構成される注射可能なウシコラーゲン、架橋コラーゲンまたは他の異種コラーゲンのような、様々なコラーゲン材料が軟組織の欠損の処置に使用されている。しかしながら、そのようなコラーゲンにはいくつかの問題がある。よくある問題には、被験体におけるアレルギー反応を回避するために潜在的に免疫原性の物質を除去するようにしてインプラント材料を作出することの複雑さおよび費用の高さがある。さらに、そのようなコラーゲンを用いた処置は、長持ちすることも証明されていない。
【0007】
水性ゲル中の生体適合性セラミック粒子(米国特許第5,204,382号(特許文献1))、熱可塑性および/または熱硬化性材料(米国特許第5,278,202号(特許文献2))、ならびに乳酸に基づく重合体混合物(米国特許第4,235,312号(特許文献3))などの、軟組織の修復または増強に使用できる他の材料も報告されている。さらに、天然分泌型ECM組成物の使用も報告されている(米国特許第6,284,284号(特許文献4))。しかしながら、そのような材料はどれも限界があることが証明されている。
【0008】
したがって、軟組織の修復および増強のために従来の材料の欠陥を克服する新しい材料が必要とされている。安全で、注射可能で、長持ちし、生体吸収性の、軟組織の修復および増強材料を提供する必要がある。
【0009】
インビトロで培養されたECM組成物はさらに、損傷した組織、例えば、損傷した心筋および関連組織を処置するために用いることもできる。該組成物は、インプラント、またはステントのような移植可能な装置の生物学的コーティング; 心臓および関連組織のような、器官における脈管化を促進するための人工血管; ならびにパッチなどのような、ヘルニア修復、骨盤底修復、創傷修復および腱板修復において有用な装置として有用である。
【0010】
冠動脈疾患(CAD)、虚血性心疾患およびアテローム硬化性心疾患とも呼ばれる、冠動脈性心疾患(CHD)は、血液および酸素を心臓に供給する小血管の狭窄によって特徴付けられる。冠動脈性心疾患は、通常、脂肪物質およびプラークが動脈壁に集積し、動脈を狭窄させる場合に生じる、アテローム性動脈硬化と呼ばれる状態によって引き起こされる。冠動脈が狭くなると、心臓への血流が減速または停止し、胸痛(安定狭心症)、息切れ、心臓発作および他の症状を引き起こしうる。
【0011】
冠動脈性心疾患(CHD)は米国において男性および女性の死亡原因の第1位である。米国心臓協会によれば、1500万超の人々がこの疾患を何らかの形で抱えている。冠動脈性心疾患の症状および徴候はこの疾患が進行した状態で明らかになるとはいえ、冠動脈性心疾患を有する大部分の個体は、突然の心臓発作が起こるより前に疾患が進行しても数十年間、疾患の証拠は明らかでない。この疾患は突然死の最も一般的な原因であり、年齢20歳超の男性および女性の最も一般的な死因でもある。米国における現在の傾向によれば、健常な40歳男性の半数、および健常な40歳女性の3人に1人が将来CHDを発症するであろう。
【0012】
疾患のある心臓またはその他の形で損傷を受けた心臓において血流を改善するための現行の方法は、侵襲手術手技、例えば、冠動脈バイパス形成手術、血管形成術および動脈内膜切除術を伴う。そのような手順は手術中および手術後に高度の固有リスクを必然的に伴い、心虚血に対する一時的な治療法となるにすぎないことが多い。したがって、CHDおよび関連する症状を処置するために現在利用可能な技法の成果を高めるために、新しい処置選択肢が必要である。
【0013】
インビトロで培養されたECM組成物はさらに、損傷した組織または組織、例えば軟骨細胞または骨軟骨細胞を修復および/または再生するために用いることもできる。骨軟骨組織は、骨または軟骨に関連するまたはそれらを含む任意の組織である。本発明の組成物は、骨軟骨欠損、例えば変性結合組織疾患、例えばリウマトイドおよび/または変形性関節炎ならびに外傷による軟骨欠損を有する患者における欠損の処置に有用である。
【0014】
骨軟骨欠損を修復する現行の試みには、関節軟骨損傷を回復する可能性を改善させようとした、生体適合性かつ生分解性ヒドロゲル移植片中のヒト軟骨細胞の移植が含まれる。さらに、ヒアリン様軟骨組織を作出するためにアルギン酸ビーズ、またはポリ硫酸化アルギン酸を含むマトリックス中で軟骨細胞を培養する技法が報告されている。しかしながら、ヒト自己軟骨細胞の移植により関節軟骨の軟骨内損傷を修復する試みは、成果が限られてきた。したがって、骨軟骨欠損を処置するために現在利用可能な技法の成果を高めるために、新しい処置選択肢が必要である。
【0015】
インビトロで培養されたECM組成物は、遺伝子操作された組織インプラントの作製のための組織培養システムにおいても有用である。組織工学の分野は、新しい生物組織を作出するためのまたは損傷組織を修復するための細胞培養技術の使用を伴う。部分的に幹細胞革命に刺激されて、組織工学技術は、外傷または変性疾患の処置後の組織再生および置換の見込みを与える。それを美容的処置との関連で用いることもできる。
【0016】
種々の細胞種および培養技術を用いて自己および異種の両方の組織または細胞を作製するために、組織工学の技法を用いることができる。自己インプラントを作出する際には、ドナー組織を収集し、個々の細胞へばらばらにし、その後、基質上に付着させ基質上で培養して、機能性組織の所望の部位に移植することができる。細胞培養の技法を用いてインビトロで多くの単離された細胞種を増殖させることができるが、足場依存性細胞は、三次元の足場の存在を含むことが多い特異的な環境が増殖のためのテンプレートとして働くことを要する。
【0017】
現行の組織工学技術は、一般的に人工のインプラントを提供する。成功裏の細胞移植治療法は、インビトロおよびインビボ両方の組織培養に適した基質の開発に依存する。すなわち、天然材料のみ含んだ、かつ移植に適したECMの開発は、より多くの内因性組織の特徴があると考えられる。したがって、天然ECM材料の作製は、組織工学の分野における進行中の課題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許第5,204,382号
【特許文献2】米国特許第5,278,202号
【特許文献3】米国特許第4,235,312号
【特許文献4】米国特許第6,284,284号
【発明の概要】
【0019】
本発明は、初期胎児期環境を刺激する条件(例えば、低酸素および重力の低減)の下、表面(例えば、二次元または三次元表面)上で培養された細胞が、胎児性特性を有するECM組成物を作出するという独創性に富んだ発見に部分的に基づいている。1種または複数種の胎児性タンパク質を含有する表面上にて低酸素条件の下で細胞を培養することにより作出されるECM組成物は、種々の有益な用途を有する。
【0020】
1つの態様において、本発明は、1種または複数種の胎児性タンパク質を含有するECM組成物を作製する方法を提供する。該方法は、適した増殖培地における表面(例えば、二次元または三次元表面)上にて低酸素条件の下で細胞を培養して、可溶性画分および不溶性画分を産生する段階を含む。さまざまな局面において、該組成物は可溶性画分または不溶性画分を別々に、ならびに可溶性画分と不溶性画分との組み合わせを含む。さまざまな局面において、産生される該組成物は、ラミニン、コラーゲンおよびWnt因子の遺伝子発現および産生の上方制御を含む。他の局面において、産生される該組成物は、ラミニン、コラーゲンおよびWnt因子の遺伝子発現の下方制御を含む。他の局面において、組成物は種特異的であり、単一の動物種由来の細胞および/または生物材料を含む。インビトロで培養されたECM組成物は、ヒトの処置において有用であるが、そのような組成物を他の動物種に適用することができる。したがって、そのような組成物は獣医学的用途によく適している。
【0021】
別の態様において、本発明は、Wntタンパク質および血管内皮増殖因子(VEGF)を産生する方法を提供する。該方法は、適した増殖培地培地における表面(例えば、二次元または三次元表面)上にて低酸素条件の下で細胞を培養し、それによってWntタンパク質およびVEGFを産生する段階を含む。さまざまな局面において、増殖培地は無血清であり、低酸素の酸素条件は酸素1〜5%である。関連する局面において、Wnt種は、酸素約15〜20%の酸素条件において産生される培地と比べて上方制御される。例示的な局面において、Wnt種はwnt 7aおよびwnt 11である。
【0022】
別の態様において、本発明は、修復または再生される細胞を、本明細書において記述されるECM組成物と接触させることによる細胞の修復および/または再生の方法を含む。1つの局面において、細胞は骨軟骨細胞である。したがって、該方法は骨軟骨欠損の修復を企図する。
【0023】
別の態様において、ECM組成物は、インプラント、または移植可能な装置の生物学的コーティングとして有用である。さまざまな局面において、本発明の組成物は、インプラント中に含まれ、またはステントのような移植可能な装置の生物学的コーティング、ならびに心臓および関連組織のような、器官における脈管化を促進するための人工血管として使用される。関連する局面において、該組成物は、ヘルニア修復、骨盤底修復、創傷修復、腱板修復などにおいて有用な、組織再生パッチまたはインプラントの中に含まれる。
【0024】
別の態様において、本発明は、被験体のしわの部位に本明細書において記述されるECM組成物を投与する段階を含む被験体における皮膚表面の改善のための方法を含む。さらなる態様において、本発明は、患者のしわの部位に本明細書において記述されるECM組成物を投与する段階を含む被験体における軟組織の修復または増強のための方法を含む。
【0025】
別の態様において、本発明は組織培養システムを含む。さまざまな局面において、培養システムは、二次元または三次元の支持体材料に含まれるような、本明細書において記述されるECM組成物から構成される。別の局面において、本明細書において記述されるECM組成物は、さまざまな細胞種の増殖のための支持体または二次元もしくは三次元支持体として働く。例えば、培養システムを用いて、幹細胞の増殖を補助することができる。1つの局面において、幹細胞は胚幹細胞、間葉系幹細胞または神経幹細胞である。
【0026】
別の態様において、本発明の組成物を用いて、内皮細胞化および脈管化を促進するために被験体における装置の移植に関連して用いられる表面コーティングを提供することができる。
【0027】
別の態様において、本発明の組成物を用いて、損傷組織を処置する方法を提供することができる。該方法は、損傷組織の処置を可能にする条件の下で1種または複数種の胎児性タンパク質を含有する二次元または三次元表面上にて低酸素条件の下で細胞を培養することにより作製される組成物と損傷組織を接触させる段階を含む。
【0028】
別の態様において、本発明は、本明細書において記述されるECM組成物を含む、送達の部位に細胞を送達または維持するための生物学的ビヒクルを含む。このビヒクルは、損傷した心筋へのまたは腱および靱帯修復のための、幹細胞などの、細胞の注射のような用途において用いることができる。
【0029】
別の態様において、本発明は、育毛を刺激または促進するための方法を提供する。該方法は、本明細書において記述されるECM組成物と細胞を接触させる段階を含む。例示的な局面において、細胞は毛包細胞である。さまざまな局面において、細胞をインビボでまたはエクスビボで接触させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】hECMでコーティングされたポリプロピレンメッシュの移植から2週間後のFBGC形成のグラフ表示を示す。図1A: コーティングされていない繊維(第1カラム)およびhECMでコーティングされた繊維(第2カラム)に対する移植から2週間後のFBGCの数/繊維を示す。図1B: コーティングされていない繊維(カラム1〜3)およびECMでコーティングされた繊維(カラム4〜6)に対する移植から2週間後のFBGCの数/繊維を示す。はp<0.05を示す。
【図2】hECMでコーティングされたポリプロピレンメッシュの移植から2週間後のFBGC形成のグラフ表示を示す。図2A: コーティングされていない繊維(第1カラム)およびhECMでコーティングされた繊維(第2カラム)に対する移植から5週間後のFBGCの数/繊維を示す。図2B: コーティングされていない繊維(カラム1および3)およびhECMでコーティングされた繊維(カラム2および4)に対する移植から5週間後のFBGCの数/繊維を示す。
【図3】ヒト毛包細胞の画像表示を示す。図3Aは、hECMの存在下での4週間の細胞培養、引き続きマウスへの移植およびさらに4週間の増殖後のヒト毛包細胞の像であり、図3Bは、対照濾胞細胞の像である。
【図4】MTTアッセイによって示される細胞外マトリックス組成物(マウスECMおよびヒトECMの両方)に対する線維芽細胞の代謝応答のグラフ表示を示す。
【図5】Pico Greenアッセイによって測定した場合のhECMへのヒト線維芽細胞曝露に応じた細胞数のグラフ表示である。
【図6】レーザー処置後3、7および14日の時点で行われたヒト被験体41名に対する紅斑評価のグラフ表示である。紅斑の重症度を0 (なし)〜4 (重症)の尺度で評価した。4つのデータセット(左から右に0.1×hECM、1×hECM、10×hECMおよび対照)の各群は3日目(左)、7日目(真ん中)および14日目(右)の時点での評価に当たる。
【図7】レーザー処置後3、7および14日の時点で行われたヒト被験体41名に対する浮腫評価のグラフ表示である。紅斑の重症度を0 (なし)〜2.5 (重症)の尺度で評価した。4つのデータセット(左から右に0.1×hECM、1×hECM、10×hECMおよび対照)の各群は3日目(左)、7日目(真ん中)および14日目(右)の時点での評価に当たる。
【図8】レーザー処置後3、7および14日の時点で行われたヒト被験体41名に対する痂皮形成評価のグラフ表示である。紅斑の重症度を0 (なし)〜3.5 (重症)の尺度で評価した。4つのデータセット(左から右に0.1×hECM、1×hECM、10×hECMおよび対照)の各群は3日目(左)、7日目(真ん中)および14日目(右)の時点での評価に当たる。
【図9】レーザー処置後3、7および14日の時点で行われたヒト被験体41名に対する経表皮水分喪失(TWEL)値のグラフ表示である。TWELの重症度を0 (なし)〜4 (重症)の尺度で評価した。4つのデータセット(左から右に0.1×hECM、1×hECM、10×hECMおよび対照)の各群は3日目(左)、7日目(真ん中)および14日目(右)の時点での評価に当たる。
【図10】眼周囲域のシリコン複製物の三次元形状計測画像解析のグラフ表示である。レーザー処置前、処置後4週間および処置後10週間に被験体22名についてデータ点をとった。データ系列AはhECM投与の場合の値に相当し、データ系列Bは対照に相当する。
【図11】レーザー手術後のワセリン使用の分析のグラフ表示である。
【図12】レーザー手術後の日数0、3、5、7、10および14日の時点でデータ点をとった、皮膚紅斑の分析のグラフ表示である。
【図13】レーザー手術後の日数0、3、5、7、10および14日の時点でデータ点をとった、メグザメーター(mexameter)分析のグラフ表示である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
発明の詳細な説明
本発明は、1種または複数種の胎児性タンパク質を含むECM組成物を作出するための方法に関する。具体的には、該組成物は、適した増殖培地における表面(例えば、二次元または三次元表面)上にて低酸素条件の下で細胞を培養することによって作製される。培養方法により、種々の用途を有する生理学的に許容される組成物を得るために別々にまたは一緒に使用されうる可溶性画分も不溶性画分もともに産生される。
【0032】
本発明の組成物は、損傷細胞または組織の修復および/または再生の促進、組織再生(例えば、ヘルニア修復、骨盤底修復、腱板修復および創傷修復)を促進するためのパッチおよびインプラントにおける使用、幹細胞などの細胞を培養するための組織培養システムにおける使用、移植可能な装置(例えば、ペースメーカー、ステント、ステントグラフト、人工血管、心臓弁、シャント、薬物送達ポートまたはカテーテル、ヘルニアおよび骨盤底修復パッチ)に関連して用いられる表面コーティングにおける使用、軟組織修復の促進、しわなどの皮膚表面の増強および/または改善、生物学的癒着防止剤としてのまたは送達部位での細胞送達もしくは維持のための生物学的ビヒクルとしての使用を含むが、これらに限定されない、種々の用途を有する。
【0033】
本発明は、胎児性タンパク質の作製を含む、血管形成の前に初期胎児期環境を刺激する条件(低酸素および重力の低減)の下、二次元または三次元表面上で培養された細胞が胎児性特性を有するECM組成物を産生するという発見に部分的に基づいている。低酸素条件下での細胞の増殖は、胎児性特性を有する独特のECMと増殖因子発現とを示す。従来の培養条件下でのECMの培養とは異なり、低酸素条件下で培養されたECMでは5000種超の遺伝子が差次的に発現される。これは、異なる特性および異なる生物学的組成を有する培養ECMをもたらす。例えば、低酸素条件下で産生されたECMは、III型、IV型およびV型コラーゲン、糖タンパク質、例えばフィブロネクチン、SPARC、トロンボスポンジン、ならびにヒアルロン酸に比較的富んでいるという点で胎児間葉組織に類似している。
【0034】
低酸素はまた、VEGF、FGF-7およびTGF-βなどの、創傷治癒および器官形成を調節する因子、ならびにwnt 2b、4、7a、10aおよび11を含む複数のWnt因子の発現を高める。培養胎児性ヒトECMはまた、酵素活性の増大によって測定した場合、インビトロでヒト線維芽細胞における代謝活性の増大を刺激する。さらに、培養胎児性ECMに応じた細胞数の増加も認められる。
【0035】
本発明の組成物および方法について記述する前に、本発明は、記述した特定の組成物、方法および実験条件に限定されず、したがって組成物、方法および条件は変更可能であることが理解されるべきである。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるため、本明細書において用いられる専門用語は、特定の態様を記述する目的のためのみのものであって、限定を意図するものではないことも理解されるべきである。
【0036】
本明細書および添付の特許請求の範囲において用いられる場合、「ある(a)」、「ある(an)」および「その(the)」という単数形は、文脈上明らかにそうでない場合を除き、その対象物の複数形も含む。したがって、例えば、「その方法」への言及は、本開示を読めば当業者には明らかとなる本明細書において記述される種類などの1つまたは複数の方法、および/または段階を含む。
【0037】
さまざまな態様において、本発明は、1種または複数種の胎児性タンパク質を含むECM組成物を作製するための方法およびその用途を含む。具体的には、該組成物は、適した増殖培地における二次元または三次元表面上にて低酸素条件の下で細胞を培養することによって作製される。該組成物は、多層細胞培養システムを生じさせる二次元または三次元の骨組み上で細胞を増殖させることによって得られる。本発明によって、骨組み支持体上で増殖された細胞は、多層中で増殖し、細胞マトリックスを形づくる。低酸素条件下での培養細胞の増殖は、従来の培養に比べて低酸素の培養条件の結果として差次的な遺伝子発現をもたらす。
【0038】
ECMは、細胞の培養によって産生される、組織を実質的に含んだタンパク質および生重合体の組成物である。線維芽細胞のような、間質細胞は、細胞培養に適した材料および表面に付着されたままでの増殖を要する足場依存性の細胞種である。培養細胞によって産生されるECM材料は、三次元的配列で沈積され、組織様構造の形成のための空間をもたらす。
【0039】
三次元構造をもたらす培養材料は足場といわれる。ECMの沈積のための空間は、例えば織布メッシュ内の開口部、またはマイクロキャリアと呼ばれる、球状ビーズのぎっしり詰まった配置の中に作り出された間隙の形態にある。
【0040】
本明細書において用いられる場合、「細胞外マトリックス組成物」とは、可溶性画分および不溶性画分の両方またはそれらの任意の部分を含む。不溶性画分は、支持体または足場上に沈積される分泌ECMタンパク質および生物学的成分を含む。可溶性画分は、細胞が培養されたかつ細胞が活性作用物質を分泌した培地をいい、かつ足場上に沈積されていないそれらのタンパク質および生物学的成分を含む。両方の画分が回収されてもよく、任意でさらに加工処理されてもよく、本明細書に記述の種々の用途において別々にまたは一緒に使用されてもよい。
【0041】
間質細胞を培養するために用いられる支持体または足場は、(a) 細胞をそれに付着させられる(もしくは細胞をそれに付着させるように改変できる); かつ(b) 細胞を2層以上の層で増殖させられる(すなわち、三次元組織を形成する)任意の材料および/または形状のものであってよい。他の態様において、実質的に二次元のシートもしくは膜またはビーズを用いて、形状が実質的に三次元の細胞を培養することができる。
【0042】
1つの局面において、生体適合性材料は、三次元組織への細胞の付着および増殖のための間質腔を有した、構造または足場に形成される。いくつかの態様における骨組みの開口部または間質腔は、細胞が開口部または腔を横切って伸長することを可能とするのに適したサイズのものである。骨組みを横切って伸長した活発に増殖する細胞を維持することで、本明細書において記述の活性を担う増殖因子のレパートリーの産生が高められるようである。開口部が小さすぎると、細胞は迅速に集密に達するが、メッシュから容易に出られない可能性がある。これらの捕捉された細胞は、接触阻害を示し、増殖の支持および長期培養の維持に必要な適した因子の産生を止めてしまいうる。開口部が大きすぎると、細胞は、開口部を横切って伸長できない可能性があり、増殖の支持および長期培養の維持に必要な適した因子の間質細胞による産生の減少を引き起こしかねない。典型的には、間質腔は少なくとも約100 um、少なくとも140 um、少なくとも約150 um、少なくとも約180 um、少なくとも約200 umまたは少なくとも約220 umである。本明細書に例示されるような、メッシュ型のマトリックスを用いる場合、本発明者らは、約100 μm〜約220 μmに及ぶ開口部が満足に働くことを認めた。しかしながら、骨組みの構造および複雑さに応じて、他のサイズも許容される。長期にわたり細胞を伸長させ、複製かつ増殖し続けさせるどんな形状または構造のものでも、本明細書における方法によって細胞因子を生産するように機能することができる。
【0043】
いくつかの局面において、骨組みは、メッシュもしくは織物などの骨組みを形成するように編まれ、織られ、ニット編みされまたは別の形で配置された重合体または糸から形成される。材料の投入によりまたは気泡、マトリックス、もしくはスポンジ様の足場への加工により、材料を形成させることもできる。他の局面において、骨組みは、重合体または他の繊維を一緒に圧縮して間質腔を有する材料を生成させることにより作製された、マット繊維の形態にある。骨組みは、培養細胞の増殖のためにどんな形態または幾何学的形状を取ってもよい。したがって、以下でさらに記述するように、他の形態の骨組みも、適切な馴化培地の作製に十分でありうる。
【0044】
いくつかの異なる材料を用いて、足場または骨組みを形成させることができる。これらの材料は、非重合体材料および重合体材料を含む。重合体は、使用時、ホモ重合体、ランダム重合体、共重合体、ブロック重合体、共ブロック重合体(例えば、ジ、トリなど)、線状または分枝状重合体、および架橋または非架橋重合体のような、任意のタイプの重合体であってよい。足場または骨組みとして用いる材料の非限定的な例としては、特に、ガラス繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド(例えば、ナイロン)、ポリエステル(例えば、ダクロン)、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリビニル化合物(例えば、ポリビニルクロリド; PVC)、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE; TEFLON)、サーマノックス(TPX)、ニトロセルロース、ポリサッカライド(例えば、セルロース、キトサン、アガロース)、ポリペプチド(例えば、シルク、ゼラチン、コラーゲン)、ポリグリコール酸(PGA)、およびデキストランが挙げられる。
【0045】
いくつかの局面において、骨組みまたはビーズは、使用の条件下で経時的に分解する材料から構成されうる。生分解性とは、インビボでの投与時のまたはインビトロの条件下での化合物または組成物の吸収性または分解もいう。生分解は、生物学的因子の作用を通じて、直接的または間接的に起こりうる。分解性材料の非限定的な例としては、特に、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(すなわち、PLGA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカプロラクトン、腸線縫合糸材料、コラーゲン(例えば、ウマコラーゲン気泡)、ポリ乳酸、またはヒアルロン酸が挙げられる。例えば、これらの材料はコラーゲンスポンジまたはコラーゲンゲルなどの、三次元の骨組みに織り込むことができる。
【0046】
培養物を長期間維持する、凍結保存する場合、および/またはさらなる構造的完全性が望まれる場合の、他の局面において、骨組みは非生分解性材料から構成されうる。本明細書において用いられる場合、非生分解性材料とは、培地中の条件下では有意に分解しない材料を言う。例示的な非分解性材料は、非限定的な例として、ナイロン、ダクロン、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリビニル、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、拡張PTFE (ePTFE)およびセルロースを含む。例示的な非分解性の骨組みは、Nitex (登録商標)の商品名で市販されているナイロンメッシュ、つまり、140 μmの平均孔径および90 μmの平均ナイロン繊維直径を有するナイロンろ過メッシュ(#3-210/36, Tetko, Inc., N.Y.)を含む。
【0047】
他の局面において、ビーズ、足場または骨組みは、生分解性材料と非生分解性材料との組み合わせである。非生分解性材料は、培養中の足場に安定性をもたらすが、生分解性材料では、治療的用途に十分な細胞因子を産生する細胞ネットワークの創生に十分な間質腔の形成を可能にする。生分解性材料は、非生分解性材料上にコーティングされてもよく、またはメッシュへ織られ、編まれまたは形成されてもよい。生分解性材料と非生分解性材料とのさまざまな組み合わせを用いることができる。例示的な組み合わせは、極性構造を得るために、薄い生分解性重合体フィルムポリ[D-L-乳酸-コ-グリコール酸)でコーティングされたポリ(エチレンテレフタレート) (PET)織物である。
【0048】
さまざまな局面において、足場または骨組み材料を細胞接種の前に前処理し、細胞の付着を強化することができる。例えば、細胞接種の前に、いくつかの態様においてナイロン製の篩を、0.1 M酢酸で処理し、ポリリジン、ウシ胎仔血清および/またはコラーゲン中でインキュベートしてナイロンをコーティングする。ポリスチレンは硫酸を用いて同様に処理することができる。他の態様において、細胞の付着を改善するために、タンパク質(例えば、コラーゲン、エラスチン繊維、細網繊維)、糖タンパク質、グリコサミノグリカン(例えば、ヘパラン硫酸、コンドロイチン-4-硫酸、コンドロイチン-6-硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸など)、フィブロネクチンおよび/もしくは糖重合体(ポリ[N-p-ビニルベンジル-D-ラクトアミド]、PVLA)を骨組みに添加することにより、またはそれらで骨組みをコーティングすることにより、支持体の骨組みの存在下での細胞の増殖をさらに高めることができる。足場または骨組みの処理は、材料が細胞の付着のために不十分な基質である場合に有用である。
【0049】
1つの局面において、ECMの産生のためにメッシュが用いられる。メッシュは、およそ100 μmの開口部およびおよそ125 μmの厚さを有する平織り形態のナイロン6織布材料である。培養中、線維芽細胞は、荷電タンパク質相互作用を通じてナイロンに付着し、ECMタンパク質を産生かつ沈積しながらメッシュの間隙内へ増殖する。過度に大きいまたは小さいメッシュ開口部は、有効でない場合があるが、ECMを産生または沈積する能力を実質的に変えないで、上記のものとは異なってもよい。別の局面において、ECMの産生のために、細胞増殖およびECM沈積に適した形状を与える織布配置の、ポリオレフィンのような、他の織布材料が用いられる。
【0050】
例えば、ナイロンメッシュは、所望のサイズへの切断、0.1〜0.5 M酢酸での洗浄の後、高純度水でのすすぎによる本発明の段階のいずれかで培養のために調製され、次いで蒸気滅菌される。ECM産生用の三次元の足場として用いるため、メッシュはおよそ10 cm×10 cmの四角形のサイズにされる。しかしながら、メッシュは、意図する用途に適した任意のサイズであってよく、接種、細胞増殖およびECM産生のための培養方法を含む本発明の方法のいずれかならびに最終形態の調製において、用いることができる。
【0051】
他の局面において、培養組織を作製するための足場はマイクロキャリアから構成され、これはビーズまたは粒子である。ビーズは、微視的または巨視的であってよく、組織への透過を可能とするよう特定の寸法にさらに切られても、または特定の形状を形成するよう圧縮されてもよい。いくつかの組織透過による態様において、細胞培養用の骨組みは、細胞と組み合わさって、三次元の組織を形成する粒子を含む。細胞は、粒子に付着し、互いに付着して、三次元の組織を形成する。粒子および細胞の複合体は、注射またはカテーテルによるような、組織または器官に投与されるのに十分なサイズのものである。ビーズまたはマイクロキャリアは、典型的には、二次元のシステムまたは足場と考えられる。
【0052】
本明細書において用いられる場合、「マイクロキャリア」とは、ナノメートルからマイクロメートルのサイズを有する粒子をいい、この粒子は、不揃いの、非球形の、球形のまたは楕円形の、任意の形または形状であってよい。
【0053】
本明細書における目的に適したマイクロキャリアのサイズは、特定の用途に適した任意のサイズのものであることができる。いくつかの態様において、三次元組織に適したマイクロキャリアのサイズは、注射により投与可能なものでありうる。いくつかの態様において、マイクロキャリアは、少なくとも約1 μm、少なくとも約10 μm、少なくとも約25 μm、少なくとも約50 μm、少なくとも約100 μm、少なくとも約200 μm、少なくとも約300 μm、少なくとも約400 μm、少なくとも約500 μm、少なくとも約600 μm、少なくとも約700 μm、少なくとも約800 μm、少なくとも約900 μm、少なくとも約1000 μmの粒径範囲を有する。
【0054】
いくつかの局面において、マイクロキャリアは生分解性材料から構成される。いくつかの局面において、異なる生分解性重合体の2つまたはそれ以上の層を含むマイクロキャリアを用いることができる。いくつかの態様において、少なくとも外側第1層は、培養液中で三次元組織を形成させるために生分解性の特性を有するのに対し、第1層とは異なる特性を有する、少なくとも生分解性の内側第2層は、組織または器官への投与時に、浸食されるように作出される。
【0055】
いくつかの局面において、マイクロキャリアは多孔性マイクロキャリアである。多孔性マイクロキャリアとは、分子が通り抜けて微粒子中にまたは微粒子外に拡散できる隙間を有するマイクロキャリアをいう。他の態様において、マイクロキャリアは無孔性マイクロキャリアである。無孔性微粒子とは、選択サイズの分子が微粒子中にまたは微粒子外に拡散しない微粒子をいう。
【0056】
組成物で用いるマイクロキャリアは、生体適合性であり、細胞に対する毒性が低いかまたはない。適したマイクロキャリアは、処置される組織、処置される損傷の種類、望ましい処置の長さ、インビボでの細胞培養物の寿命、および三次元組織を形成するのに必要な時間に応じて選択することができる。マイクロキャリアは、天然または合成の、荷電性(すなわち、陰イオン性もしくは陽イオン性)または非荷電性の、生分解性または非生分解性の、さまざまな重合体を含むことができる。この重合体は、ホモ重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体および分枝重合体であることができる。
【0057】
いくつかの局面において、マイクロキャリアは、非生分解性のマイクロキャリアを含む。非生分解性のマイクロカプセルおよびマイクロキャリアは、ポリスルホン、ポリ(アクリロニトリル-コ-塩化ビニル)、エチレン酢酸ビニル、ヒドロキシエチルメタクリレート-メチル-メタクリレート共重合体でできたものを含むが、これらに限定されることはない。これらは、組織充填特性を提供するために、またはマイクロキャリアが身体により排除される態様において有用である。
【0058】
いくつかの局面において、マイクロキャリアは分解性の足場を含む。これらは天然の重合体から作出されたマイクロキャリアを含み、その非限定的な例としては、特に、フィブリン、カゼイン、血清アルブミン、コラーゲン、ゼラチン、レシチン、キトサン、アルギン酸、またはポリリジンなどのポリアミノ酸が挙げられる。他の局面において、分解性マイクロキャリアは、合成重合体でできており、その非限定的な例としては、特に、ポリラクチド(PLA)、ポリグリコリド(PGA)、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド) (PLGA)、ポリ(カプロラクトン)、ポリジオキサノントリメチレンカルボネート、ポリヒドロキシアルコネート(例えば、ポリ(ヒドロキシブチレート)、ポリ(エチルグルタメート)、ポリ(DTHイミノカルボニル(ビスフェノールAイミノカルボネート)、ポリ(オルトエステル)、およびポリシアノアクリレートが挙げられる。
【0059】
いくつかの局面において、マイクロキャリアは、典型的には水で充填された親水性重合体ネットワークであるヒドロゲルを含む。ヒドロゲルは、重合体膨張の選択的引き金であるという利点を有する。重合体ネットワークの組成に応じて、マイクロキャリアの膨張を、pH、イオン強度、熱活性、電気的活性、超音波活性および酵素活性を含む種々の刺激により誘発することができる。ヒドロゲル組成物において有用な重合体の非限定的な例としては、特に、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド); ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド); ポリ(メタクリル酸-g-ポリエチレングリコール); ポリアクリル酸およびポリ(オキシプロピレン-コ-オキシエチレン)グリコール; ならびに硫酸クロンドロイタン(chrondroitan sulfate)、キトサン、ゼラチン、フィブリノーゲンなどの天然化合物の重合体、または合成および天然の重合体の混合物、例えば、キトサン-ポリ(エチレンオキシド)から形成されたものが挙げられる。これらの重合体を可逆的または不可逆的に架橋して、三次元組織を形成するのに適合可能なゲルを形成させることができる。
【0060】
例示的な局面において、本発明で用いるマイクロキャリアまたはビーズは、デキストランから完全に構成され、またはデキストランから部分的に構成される。
【0061】
本発明によれば、培養方法は、線維芽細胞のような、間質細胞、および具体的には、初代ヒト新生児包皮線維芽細胞を含む、異なる種類の細胞の増殖に適用できる。さまざまな局面において、足場または骨組みに接種される細胞は、以下でさらに記述するように、他の細胞を含むかまたは含まない線維芽細胞を含む、間質細胞であることができる。いくつかの態様において、細胞は、(1) 骨; (2) コラーゲンおよびエラスチンを含む、疎性結合組織; (3) 靭帯および腱を形成する繊維性結合組織; (4) 軟骨; (5) 血液のECM; (6) 脂肪細胞を含む脂肪組織; ならびに(7) 線維芽細胞を含むが、これらに限定されない、典型的には結合組織に由来する間質細胞である。
【0062】
間質細胞は、皮膚、心臓、血管、骨髄、骨格筋、肝臓、膵臓、脳、包皮などの、さまざまな組織または器官に由来することができ、これらは生検(適切な場合)によりまたは剖検の際に採取することができる。1つの局面において、胎児線維芽細胞は新生児包皮などの、包皮から大量に採取することができる。
【0063】
いくつかの局面において、細胞は線維芽細胞を含み、これは胎児由来、新生児由来、成人由来、またはその組み合わせであってよい。いくつかの局面において、間質細胞は胎児線維芽細胞を含み、これは種々の異なる細胞および/または組織の増殖を補助することができる。本明細書において用いられる場合、胎児線維芽細胞とは、胎児起源に由来する線維芽細胞をいう。本明細書において用いられる場合、新生児線維芽細胞とは、新生児起源に由来する線維芽細胞をいう。適切な条件下で、線維芽細胞は他の細胞、例えば骨細胞、脂肪細胞、および平滑筋細胞ならびに中胚葉由来の他の細胞を生じることができる。いくつかの態様において、線維芽細胞は皮膚線維芽細胞を含み、これは皮膚に由来する線維芽細胞である。正常ヒト皮膚線維芽細胞は、新生児の包皮から単離することができる。これらの細胞は、典型的には、初代培養の最後に凍結保存される。
【0064】
他の局面において、三次元組織は、幹細胞または前駆細胞を単独で、または本明細書において論じられる細胞種のいずれかとの組み合わせで用いて作出することができる。幹細胞および前駆細胞は、限定ではないが例えば、胚性幹細胞、造血幹細胞、神経幹細胞、表皮幹細胞、および間葉幹細胞を含む。
【0065】
いくつかの態様において、本明細書において記述される方法によって特定の器官、すなわち、皮膚、心臓に由来する細胞、ならびに/または培養で増殖させた細胞および/もしくは組織を後に受容する特定の個体に由来する細胞を、足場に接種することにより、「特異的な」三次元組織を調製することができる。
【0066】
インビボでのある種の用途のためには、患者自身の組織から間質細胞を得ることが好ましい。タンパク質、例えば、コラーゲン、ラミニン、弾性繊維、細網繊維、糖タンパク質; グリコサミノグリカン、例えば、ヘパリン硫酸、コンドロイチン-4-硫酸、コンドロイチン-6-硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸など; 細胞マトリックス、および/または他の材料を骨組みに添加することによって、またはこれらを用いて骨組み支持体をコーティングすることによって、間質支持体の骨組みの存在下での細胞の増殖をさらに高めることができる。
【0067】
したがって、本明細書において記述される二次元または三次元の培養システムは、多様な細胞種および組織の増殖に適するので、培養される組織および所望とされるコラーゲン型に応じ、適した間質細胞を選択して、骨組みに接種することができる。
【0068】
本発明の方法および出願は、本明細書において論じられる組織特異的な細胞またはいろいろな種類の間質細胞のような、いろいろな細胞種で用いるのに適するが、本発明で用いる細胞の導出は種特異的であってもよい。したがって、種特異的であるECM組成物を作製することができる。例えば、本発明で用いる細胞はヒト細胞を含むことができる。例えば、細胞はヒト線維芽細胞でありうる。同様に、細胞はウマ科(ウマ)、イヌ科(イヌ)またはネコ科(ネコ)細胞のような、別種の動物由来である。さらに、ある種または種系統に由来する細胞を用いて、他の種または関連する系統(例えば、同種異系の、同系間のおよび異種間の)で用いるECM組成物を作製することもできる。さまざまな種に由来する細胞を組み合わせて、多種ECM組成物を作製できることも理解されるべきである。
【0069】
したがって、本発明の方法および組成物は、非ヒト動物を伴う用途に適している。本明細書において用いられる場合、「獣医学」とは、動物、とりわけ家畜の医学的または外科的処置に関係しているまたは関連している医療科学をいう。一般的な獣医学的動物は、哺乳類、両生類、鳥類、爬虫類および魚類を含むことができる。例えば、典型的な哺乳類はイヌ、ネコ、ウマ、ウサギ、霊長類、げっ歯類、ならびにウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジおよびブタのような、農場動物を含むことができる。
【0070】
上記で論じられるように、さらなる細胞が、間質細胞を含む培養物中に存在してもよい。これらのさらなる細胞は、特に培養液中での長期増殖の支持、増殖因子の合成を高めること、および足場への細胞の付着の促進を含むいくつかの有益な効果を持ちうる。さらなる細胞種は非限定的な例として、平滑筋細胞、心筋細胞、内皮細胞、骨格筋細胞、内皮細胞、周皮細胞、マクロファージ、単球、および脂肪細胞を含む。そのような細胞を、線維芽細胞とともにまたはいくつかの局面において線維芽細胞の非存在下で、骨組みに接種することができる。これらの間質細胞は、限定ではないが例えば、皮膚、心臓、血管、骨髄、骨格筋、肝臓、膵臓および脳を含む、適切な組織または器官に由来することができる。他の局面において、線維芽細胞を除く、1種または複数種の他の細胞種が足場に接種される。さらに他の局面において、線維芽細胞だけが足場に接種される。
【0071】
線維芽細胞の供給源となる適切な器官または組織をバラバラにすることにより、線維芽細胞を容易に単離することができる。例えば、組織または器官を機械的にバラバラにすることができ、ならびに/または隣接する細胞間の結合を弱め、それによって、相当の細胞破砕なしに個々の細胞の懸濁液へと組織を分散させることを可能にする消化酵素および/もしくはキレート剤で処理することができる。酵素的解離は、組織を細かく刻み、細かく刻まれた組織を、いくつかの消化酵素のうちのいずれかを単独でまたは組み合わせで用いて処理することにより、達成することができる。これらにはトリプシン、キモトリプシン、コラゲナーゼ、エラスターゼ、ヒアルロニダーゼ、DNase、プロナーゼおよび/またはディスパーゼなどが含まれるが、これらに限定されることはない。機械的破壊は、ほんの数例を挙げれば、圧砕機、混合機、篩、ホモジナイザー、圧力セルまたは超音波破砕機の使用を含むが、これらに限定されない、いくつかの方法によって達成することもできる。1つの局面において、摘出された包皮組織を消化酵素、典型的にはコラゲナーゼおよび/またはトリプシナーゼによって処理し、封入構造から細胞をバラバラにする。
【0072】
線維芽細胞の単離は、例えば、次のように行うことができる。血清を除去するために、新鮮な組織サンプルをHanksの平衡化塩溶液(HBSS)中で十分に洗浄し、細かく刻む。細かく刻まれた組織を、トリプシンなどの解離酵素の新鮮調製液中で1〜12時間インキュベートする。そのようなインキュベーションの後、解離した細胞を懸濁し、遠心分離によってペレット化し、培養皿上にプレーティングする。他の細胞の前に全ての線維芽細胞が付着するので、適切な間質細胞を選択的に単離し増殖させることができる。次いで、単離された線維芽細胞を集密まで増殖させ、集密培養物から引き上げ、三次元の骨組みに接種することができる。Naughton et al., 1987, J. Med. 18(3&4):219-250を参照されたい。高濃度の間質細胞、例えば、およそ106〜5×107細胞/mlを三次元の骨組みに接種することは、より短時間での三次元の間質支持体の確立をもたらすであろう。
【0073】
組織を個々の細胞の懸濁液にすると、この懸濁液を亜集団に分画することができ、これより線維芽細胞ならびに/または他の間質細胞および/もしくは要素を得ることができる。これを、特定の細胞種のクローニングおよび選択、望ましくない細胞の選択的破壊(陰性選択)、混合集団中の示差的細胞凝集性に基づく分離、凍結解凍法、混合集団中の細胞の示差的接着特性、ろ過、従来の遠心分離およびゾーン遠心分離、遠心分離水簸(対抗流遠心分離)、単位重力分離、向流分配、電気泳動ならびに蛍光活性化細胞選別を含むが、これらに限定されない、細胞分離のための標準的な技法を用いて達成することもできる。クローン選択および細胞分離技法の総説については、Freshney, Culture of Animal Cells. A Manual of Basic Techniques, 2d Ed., A. R. Liss, Inc., New York, 1987, Ch. 11 and 12, pp. 137-168を参照されたい。
【0074】
1つの局面において、単離された線維芽細胞を増殖させて、細胞バンクを産生することができる。細胞バンクは、さまざまな量での開始および培養バッチの適時選択を可能とするように、ならびに混入および特異的細胞特性に関する細胞の予防的試験を可能とするように作出される。その後、細胞バンク由来の線維芽細胞を増殖させて、足場の播種に適したレベルまで細胞数を増やす。細胞および細胞接触材料の環境曝露を伴う操作を無菌的に行って、外来物質または望ましくない微生物の混入の可能性を減らす。
【0075】
本発明の別の局面において、単離後、細胞を数回の継代により万能細胞バンクの構築に適した量にまで増殖させることができる。次いで細胞バンクを収集し、適切な容器の中に充填し、極低温状態の中で保存することができる。万能細胞バンク由来、凍結バイアル中の細胞を融解し、さらなる(通常は2回またはそれ以上の)継代によって増殖させることができる。次いで、これらの細胞を用いて、極低温で保存された常用の細胞バンクを調製することができる。
【0076】
細胞増殖段階で常用の細胞バンクの段階にある細胞のバイアルを用いて、メッシュ(例えば、三次元の)またはマイクロキャリア(例えば、ビーズ、二次元の)などの、足場または支持体に接種するために細胞数をさらに増やす。各継代は、細胞増殖表面の接種、インキュベーション、細胞の供給および収集を含む一連の継代培養段階である。
【0077】
細胞バンクの培養および細胞増殖は、培養フラスコ、ローラーボトルまたはマイクロキャリアのような、培養容器に接種することによって行うことができる。線維芽細胞のような、間質細胞は、意図した増殖表面に付着し、培地の存在下で増殖する。培養フラスコ、ローラーボトルおよびマイクロキャリアのような、培養容器は、細胞培養のために特別に構成され、意図した用途に適格とされた種々のプラスチック材料から一般的に作出される。マイクロキャリアは、典型的には、微視的または巨視的ビーズであり、典型的には、種々のプラスチック材料でできている。しかしながら、それらは他の材料、例えばガラスもしくは固体/半固体の生物学に基づく材料、例えばコラーゲンまたは他の材料、例えばデキストラン、つまり上記の修飾糖複合体から作出されることもできる。
【0078】
培養中、消費された培地を細胞増殖の過程で新鮮な培地と定期的に交換して、栄養素の十分な可用性および培養の阻害産物の除去を維持する。培養フラスコおよびローラーボトルは、細胞が増殖する表面を提供し、典型的には、足場依存性細胞の培養に用いられる。
【0079】
1つの局面において、インキュベーションは、37℃で加熱された室中で行われる。培地と室環境とのやりとりを要する培養形態では、室ガス空間に空気中5% v/vのCO2を用いて、pHの調節を補助する。代わりに、培養温度およびpHを維持するために備えられた容器を、細胞増殖操作にもECM産生操作にも用いることができる。35℃未満または38℃超の温度ならびに3%未満または12%超のCO2濃度は、適切ではない場合がある。
【0080】
付着表面からの細胞の収集は、増殖培地の除去および酵素競合性タンパク質を減らすための緩衝塩溶液による細胞のすすぎ、解離用酵素の適用、その後の細胞脱離後の該酵素の中和により行うことができる。収集された細胞懸濁液を回収し、収集液を遠心分離によって分離する。継代培養収集物からの細胞懸濁液をサンプリングして、回収された細胞の量および他の細胞特性を評価することができ、これをその後、新鮮な培地と合わせ、接種材料として適用する。細胞バンクおよび足場接種材料を調製するために使われる継代数は、許容されるECM特性の達成に関して極めて重要である。
【0081】
適切な足場を調製した後で、それに、調製された間質細胞を播種することによって接種を行う。足場への接種は、沈降などの種々の方法で行うことができる。好気条件下でのECMの培養のために調製されるメッシュは、低酸素条件を作出するために嫌気室が使用されないことを除いて、低酸素増殖メッシュの場合と同じように調製される。
【0082】
例えば、好気および低酸素の両条件下でのECMの培養のために調製されるどちらのメッシュの場合も、調製され滅菌されたメッシュを無菌の直径150 mm×深さ15 mmのペトリ皿に配し、およそ10枚の厚さに積み重ねる。次いで、メッシュの積み重なりに沈降によって接種を行う。細胞を新鮮培地に添加して、接種に適した細胞濃度を得る。接種材料をメッシュの積み重なりに添加すると、インキュベート条件の間中、細胞はナイロン繊維上に沈降し付着する。十分な時間の後、個々に播種されたメッシュシートを積み重なりから無菌的に分離し、およそ50 mlの増殖培地を含有する別々の150 mm×15 mmのペトリ皿の中に個々に配することができる。
【0083】
接種培養物のインキュベーションを、通常の培養条件の下で作製されるECMと比べて独特な特性を有するECMおよび周囲媒質を生み出すことが発見されている低酸素条件の下で行う。本明細書において用いられる場合、低酸素条件は、周囲空気の酸素濃度(酸素およそ15%〜20%)と比べてさらに低い酸素濃度によって特徴付けられる。1つの局面において、低酸素条件は約10%未満の酸素濃度によって特徴付けられる。別の局面において、低酸素条件は約1%〜10%、1%〜9%、1%〜8%、1%〜7%、1%〜6%、1%〜5%、1%〜4%、1%〜3%または1%〜2%の酸素濃度によって特徴付けられる。ある種の局面において、そのシステムでは培養容器内で酸素約1〜3%を維持する。周囲ガス濃度を制御することを可能にする培養装置、例えば、嫌気室を用いることにより、低酸素条件を作出し、維持することができる。
【0084】
細胞培養物のインキュベーションは、通例、増殖および播種の場合、15〜20%の酸素および5%のCO2を含む通常の大気中で行われるが、低酸素培養物はその時点で、低酸素環境が培地内に作出されるように95%窒素/5% CO2で満たされた気密室に分割される。
【0085】
例えば、低酸素条件下でECMを産生するために培養されるメッシュ有りのペトリ皿を、初めは、2〜3週間37℃および95%空気/5% CO2でのインキュベーションで増殖させる。ほぼ大気での培養の期間の後、メッシュのペトリ皿を、およそ95%の窒素および5% CO2のガス混合物でパージされている嫌気性培養用にデザインされた室中で、インキュベートする。消費された増殖培地を培養期間の間中、大気酸素レベルにある新鮮培地と交換し、培地を交換した後にメッシュで満たされたペトリ皿を嫌気室中に配し、この室を95%窒素/5% CO2でパージし、次に37℃でインキュベートする。培養メッシュを、それらが所望のサイズに達した時点で、または所望の生物学的成分を含有した時点で収集する。
【0086】
インキュベーションの期間中に、間質細胞は、骨組みの開口部へ増殖し始める前に、三次元の骨組みに沿って直線的に増殖し、三次元の骨組みを包み込むであろう。増殖細胞は、無数の増殖因子、調節因子およびタンパク質を産生し、そのなかには周囲の培地に分泌されるものもあり、支持体に沈積されて、以下に詳述のECMを構成するものもある。増殖因子および調節因子は培養物に添加されてもよいが、必要ではない。間質細胞の培養物は、不溶性画分も可溶性画分もともに産生する。細胞を適切な程度にまで増殖させて、ECMタンパク質の十分な沈積を可能にする。
【0087】
三次元組織の培養の間に、増殖細胞が骨組みから放出され、かつそれらが増殖し続け集密的な単層を形成することができる培養容器の壁に固着することがある。細胞の増殖に影響を及ぼす可能性のあるこの出来事を最小限に抑えるために、供給の間にまたは細胞培養物を新しい培養容器に移入することにより、放出された細胞を除去することができる。集密的な単層の除去または新しい容器中の新鮮培地への培養組織の移入は、培養物の増殖活性を維持または回復する。いくつかの局面において、除去または移入は、25%の集密度を超える培養細胞の単層を有する培養容器において行うことができる。あるいは、いくつかの態様における培養物を撹拌して、放出された細胞が固着するのを阻止し; その他においては、システムを通じて新鮮な培地を連続的に注入する。いくつかの局面において、2種またはそれ以上の細胞種を同時に一緒に培養してもよく、または一方を最初に培養し、その後にもう一方を培養してもよい(例えば線維芽細胞および平滑筋細胞または内皮細胞)。
【0088】
足場に接種した後に、細胞培養物を、三次元組織への細胞の増殖を補助する適切な栄養培地およびインキュベーション条件にてインキュベートする。ダルベッコの改変イーグル培地(Dulbecco's Modified Eagles Medium (DMEM))、RPMI 1640培地、Fisherの培地、Iscoveの培地およびMcCoyの培地のような多くの市販の培地が、細胞培養物の増殖の補助に適しうる。この培地にさらなる塩、炭素源、アミノ酸、血清および血清成分、ビタミン、ミネラル、還元剤、緩衝剤、脂質、ヌクレオシド、抗生物質、付着因子、ならびに増殖因子を補充してもよい。いろいろな種類の培地の組成は、当業者に利用可能な種々の参考文献に記述されている(例えば、Methods for Preparation of Media, Supplements and Substrates for Serum Free Animal Cell Cultures, Alan R. Liss, New York (1984); Tissue Culture: Laboratory Procedures, John Wiley & Sons, Chichester, England (1996); Culture of Animal Cells, A Manual of Basic Techniques, 4th Ed., Wiley-Liss (2000))。
【0089】
本発明の培養段階のいずれかにおいて用いられる増殖培地または培養培地は、好気条件であれ低酸素条件であれ、血清を含んでもよく、または無血清であってもよい。1つの局面において、培地は4.5 g/Lのグルコース、アラニル-L-グルタミン、Eq 2 mMを含んだ、および名目上、10%ウシ胎仔血清を補充したダルベッコの改変イーグル培地である。別の局面において、培地は、無血清の培地であり、0.5%血清アルブミン、2 μg/mlのヘパリン、1 μg/mlの組換え塩基性FGF、1 μg/mlのダイズトリプシン阻害因子、1×ITS補充物質(インスリン-トランスフェリン-セレン、Sigmaカタログ番号I3146)、1:1000希釈の脂肪酸補充物質(Sigmaカタログ番号7050)、および1:1000希釈のコレステロールを補充した、Glutamax(登録商標)入り4.5 g/Lのグルコース基本培地を含むダルベッコの改変イーグル培地である。さらに、同じ培地を低酸素培養にも好気培養にも用いることができる。1つの局面において、増殖培地を播種および第一週の増殖の後、血清に基づく培地から無血清培地に変える。
【0090】
インキュベーション条件は、低酸素増殖条件を維持するためにpH、温度およびガス(例えば、O2、CO2など)の適切な条件の下にある。いくつかの態様において、増殖活性を最大限にするためおよび画分の所望の生物活性を促進する因子を作出するため、インキュベーション期間中に培地に細胞培養物を懸濁することができる。さらに、培養物を定期的に「供給して」消費された培地を除去し、放出された細胞を減らし、新たな栄養源を添加してもよい。インキュベーションの期間中に、培養細胞は足場の開口部へ増殖し始める前に、三次元の足場の微細線維に沿って直線的に増殖し、三次元の足場の微細線維を包み込む。
【0091】
低酸素条件下でのインキュベーションの間に、約15〜20%の通常の大気酸素濃度下でのインキュベーションと比べて、何千もの遺伝子が差次的に発現される。そのような組成中ではいくつかの遺伝子、最も注目すべきは、ある種のラミニン種、コラーゲン種およびWnt因子が上方制御または下方制御されることが分かっている。さまざまな局面において、三次元ECMは、通常の条件下での増殖と比べて低酸素条件での増殖に起因して細胞により産生される細胞生成物に特徴的なフィンガープリントまたは組によって定義することができる。本明細書において具体的に例示されるECM組成物において、三次元組織および周囲媒質は、さまざまな因子の発現および/または分泌によって特徴付けられる。
【0092】
本明細書において記述される三次元の組織および組成物は、足場または骨組みに存在するECMを有する。いくつかの局面において、ECMは、低酸素条件下での増殖および支持体上で増殖される細胞の選択により、さまざまなラミニンおよびコラーゲン型を含む。沈積されるECMタンパク質の割合は、適切なコラーゲン型を生産する線維芽細胞の選択、ならびに特定のラミニンおよびコラーゲン種の発現が上方制御または下方制御される低酸素条件下での細胞の増殖によって、操作または高めることができる。
【0093】
線維芽細胞の選択は、いくつかの局面では、特定のコラーゲン型を決める適切なアイソタイプまたはサブクラスのモノクローナル抗体を用いて達成することができる。他の局面において、磁気ビーズなどの、固体基材を用いて、抗体に結合した細胞を選択または排除することができる。これらの抗体の組み合わせを用いて、所望のコラーゲン型を発現する線維芽細胞を(陽性的にまたは陰性的に)選択することができる。あるいは、骨組みに接種するのに用いられる間質は、所望のコラーゲン型を合成する細胞の混合物であってもよい。例示的なコラーゲン型の分布および起源を表1に示す。
【0094】
(表1)さまざまなコラーゲン型の分布および起源

【0095】
ECM組成物に存在しうるさらなるコラーゲン型を表2に示す。
【0096】
(表2)コラーゲン型および対応する遺伝子


【0097】
上記のように、本明細書において記述されるECM組成物は、さまざまなコラーゲンを含む。実施例1の表3に示されるように、いくつかのコラーゲン種の発現は、低酸素培養されたECM組成物において上方制御されることが分かっている。したがって、本発明の1つの局面において、1種または複数種の胎児性タンパク質を含むECM組成物は、酸素約15〜20%の酸素条件において産生されるものと比べてコラーゲン種の上方制御を含む。別の局面において、上方制御されるコラーゲン種は、V型α1; IX型α1; IX型α2; VI型α2; VIII型α1; IV型α5; VII型α1; XVIII型α1; およびXII型α1である。
【0098】
さまざまなコラーゲンに加えて、本明細書において記述されるECM組成物は、さまざまなラミニンを含む。ラミニンは、コイルド・コイルドメインを通じてともに連結されたα、βおよびγ鎖サブユニットから構成される糖タンパク質ヘテロ三量体のファミリーである。これまでに、組み合わさって15種の異なるアイソフォームを形成しうる5種のα、4種のβおよび3種のγラミニン鎖が特定されている。この構造のなかには、他のラミニンおよび基底膜分子、ならびに膜結合受容体に対する結合活性を保有する特定可能なドメインがある。ドメインVI、IVbおよびIVaは球状構造を形成し、ドメインV、IIIbおよびIIIa (これらはシステインリッチなEGF様要素を含む)は棒状構造を形成する。3つの鎖のうちのドメインIおよびIIは、三本鎖コイルド・コイル構造(長腕)の形成に関与する。
【0099】
ラミニン鎖は、共通かつ独特の機能を保有し、特異的な時間的(発生的)および空間的(組織部位特異的)パターンで発現される。ラミニンα鎖は、組織特異的な分布パターンを示し、主要な細胞相互作用部位を含むので、ヘテロ三量体のうちの機能的に重要な部分であるものと考えられる。血管内皮は2種のラミニンアイソフォームを発現することが知られており、発生段階、血管型、および内皮の活性化状態に応じて発現が異なる。
【0100】
したがって、本発明の1つの局面において、1種または複数種の胎児性タンパク質を含むECM組成物は、酸素約15〜20%の酸素条件において産生されるものと比べてさまざまなラミニン種の上方制御または下方制御を含む。
【0101】
ラミニン8はα-4、β-1およびγ-1ラミニン鎖から構成される。ラミニンα-4鎖は、成体においても発生の間にも広く分布している。成体では、それは心筋、骨格筋および平滑筋繊維の周辺の基底膜において、ならびに肺の肺胞中隔において特定されうる。それは毛細血管と大血管の両方の内皮基底膜に、末梢神経の神経周膜の基底膜に、ならびに類洞内空間(intersinusoidal space)、大動脈および骨随の小細動脈に存在することも知られている。ラミニン8は、血管内皮における主要なラミニンアイソフォームであり、血小板により発現され血小板に接着され、3T3-L1含脂肪細胞において合成され、その合成レベルは、細胞の脂肪変換によって増すことが明らかである。ラミニン8は、結合組織において微小血管を誘導するために間葉細胞系統において一般に発現されるラミニンアイソフォームであるものと考えられる。ラミニン8は、マウス骨髄初代細胞培養物、細動脈壁、および類洞内空間においても特定されている。それは、類洞内空間では発達中の骨髄における主要なラミニンアイソフォームである。α-4鎖を含有するラミニンアイソフォームは、造血細胞に隣接した成体骨髄におけるその局在により、発生中の造血細胞との生物学的に関連する相互作用を有する可能性が高い。
【0102】
したがって、本発明の別の局面において、ECMは、ラミニン8などのラミニン種の上方制御を含む。別の局面において、本発明の三次元組織により産生されるラミニンは、組成物中に存在するラミニンタンパク質の特徴または痕跡を決める少なくともラミニン8を含む。
【0103】
本明細書において記述されるECM組成物は、さまざまなWnt因子を含むことができる。Wntファミリー因子は、無数の細胞経路および細胞間の相互作用過程に関与しているシグナル伝達分子である。Wntシグナル伝達は、腫瘍形成、胚の早期中胚葉パターン形成、脳および腎臓の形態形成、乳腺増殖の調節、ならびにアルツハイマー病に関連付けられている。実施例1の表4に示されるように、Wntタンパク質のいくつかの種の発現は、低酸素培養されたECM組成物において上方制御されることが分かっている。したがって、本発明の1つの局面において、1種または複数種の胎児性タンパク質を含むECM組成物は、酸素約15〜20%の酸素条件において産生されるものと比べてWnt種の上方制御を含む。別の局面において、上方制御されるWnt種はwnt 7aおよびwnt 11である。別の局面において、本発明の三次元組織により産生されるWnt因子は、組成物中に存在するWntタンパク質の特徴または痕跡を決める少なくともwnt7aおよびwnt11を含む。
【0104】
低酸素条件下での培養を含む本明細書において記述される培養方法は、さまざまな増殖因子の発現を上方制御することも示されている。したがって、本明細書において記述されるECM組成物は、血管内皮増殖因子(VEGF)などのさまざまな増殖因子を含むことができる。本明細書において用いられる場合、VEGFは、全ての公知のVEGFファミリーメンバーを含むよう意図される。VEGFは増殖因子のサブファミリーであり、より具体的には、シスチンノット増殖因子の血小板由来増殖因子ファミリーのサブファミリーである。VEGFは脈管形成および血管形成の両方において周知の役割を有する。他のVEGF種の発見の前にはVEGFとして公知であったVEGF-Aを含むいくつかのVEGFが、公知である。他のVEGF種は胎盤増殖因子(PlGF)、VEGF-B、VEGF-CおよびVEGF-Dを含む。さらに、ヒトVEGFのいくつかのアイソフォームが周知である。
【0105】
本明細書において記述の低酸素条件下での培養によるWntタンパク質および増殖因子の産生の増大により、本発明は、Wntタンパク質および血管内皮増殖因子(VEGF)を産生する方法をさらに提供する。該方法は、Wntタンパク質およびVEGFを産生するために、本明細書において記述の低酸素条件の下、適した増殖培地における表面上で細胞を培養する段階を含むことができる。例示的な局面において、Wnt種はwnt 7aおよびwnt 11であり、VEGFはVEGF-Aである。これらのタンパク質を、本明細書においてさらに記述するようにまたは当技術分野において公知の方法により、さらにプロセッシングまたは収集することもできる。
【0106】
全体を通じて論じられる本発明のECM組成物は、可溶性画分および不溶性画分の両方またはその任意の部分を含む。本発明の組成物は、一方または両方の画分、およびそれらの任意の組み合わせを含むことができると理解されるべきである。さらに、個々にまたは他の単離物もしくは個々の組成物と組み合わせて使用される画分から、個々の成分を単離することもできる。
【0107】
したがって、さまざまな局面において、本発明の方法を用いて産生されるECM組成物は、直接使用されてもよく、またはさまざまな方法で加工処理されてもよく、その方法は不溶性画分にも可溶性画分にも適用可能でありうる。無細胞上清および培地を含む可溶性画分は、因子を保存するためにおよび/または濃縮するために凍結乾燥に供することができる。必要な場合、さまざまな生体適合性の保存剤、凍結防止剤および安定剤を用いて活性を保存することができる。生体適合性剤の例としては、特に、グリセロール、ジメチルスルホキシドおよびトレハロースが挙げられる。凍結乾燥物は、緩衝剤、充填剤および等張性調節剤のような1種または複数種の賦形剤を有することもできる。凍結乾燥された培地は、以下でさらに記述するように、適した溶液または薬学的希釈剤の添加によって再構成することができる。
【0108】
他の局面において、可溶性画分は透析される。透析は、多孔質膜の反対側への選択的拡散に基づいてサンプル成分を分離するために最もよく使われる技法のうちの1つである。細孔径は、溶質の90%が膜により保持される分子量によって特徴付けられる膜の分子量カットオフ(MWCO)を決めるものである。ある種の局面において、所望のカットオフに応じて任意の細孔径を有する膜が企図される。典型的なカットオフは、5,000ダルトン、10,000ダルトン、30,000ダルトンおよび100,000ダルトンであるが、全てのサイズが企図される。
【0109】
いくつかの局面において、活性成分(例えば、増殖因子)を培地中で沈殿させることにより、可溶性画分を加工処理することができる。沈殿では、硫酸アンモニウムでの塩析または親水性重合体、例えばポリエチレングリコールの使用などの、さまざまな手順を用いることができる。
【0110】
他の局面において、可溶性画分は、さまざまな選択的フィルタによるろ過に供される。ろ過による可溶性画分の加工処理は、画分中に存在する因子の濃縮で、また、可溶性画分において使用された小分子および溶質の除去で有用である。特定の分子量に対して選択性を有するフィルタには、<5000ダルトン、<10,000ダルトンおよび<15,000ダルトンが含まれる。他のフィルタを使用することもでき、加工処理された培地を本明細書において記述の治療活性についてアッセイすることができる。例示的なフィルタおよび濃縮器システムとしては、特に、中空繊維フィルタ、フィルタディスクおよびフィルタプローブに基づくものが挙げられる(例えば、Amicon Stirred Ultrafiltration Cellsを参照のこと)。
【0111】
さらに他の局面において、可溶性画分をクロマトグラフィーに供して、塩、不純物を除去し、または培地の各種成分を分画する。分子篩、イオン交換、逆相および親和性クロマトグラフィー技法などのさまざまなクロマトグラフィー技法を使用することができる。生物活性を著しく損なわずに馴化培地を加工処理するため、穏やかなクロマトグラフィー媒体を用いることができる。非限定的な例としては、特に、デキストラン、アガロース、ポリアクリルアミドに基づく分離媒体(例えば、セファデックス、セファロースおよびセファクリルなどの、さまざまな商品名で市販されている)が挙げられる。
【0112】
さらに他の局面において、馴化培地はリポソームとして製剤化される。送達のためおよび活性因子の寿命を引き延ばすため、リポソームの内腔に増殖因子を導入または封入することができる。当技術分野において公知のように、リポソームは各種タイプ: 多層型(MLV)、安定多数層型(SPLV)、小型単層型(SUV)または大型単層型(LUV)小胞に分類することができる。リポソームは、ホスファチジルエーテルおよびエステル、例えばホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ジミリストイルホスファチジルコリン; ステロイド、例えばコレステロール; セレブロシド; スフィンゴミエリン; グリセロ脂質; ならびに他の脂質(例えば、米国特許第5,833,948号参照)を含み、合成されても天然に存在してもよい、さまざまな脂質化合物から調製することができる。
【0113】
可溶性画分は、さらなる添加剤なしに直接使用されてもよく、またはさまざまな薬学的に許容される賦形剤、ビヒクルもしくは担体とともに薬学的組成物として調製されてもよい。「薬学的組成物」とは、可溶性画分および/または不溶性画分ならびに少なくとも1つの薬学的に許容されるビヒクル、担体または賦形剤の形態をいう。皮内、皮下または筋肉内投与の場合、該組成物は、水性または油性ビヒクル中のECM組成物の無菌懸濁液、溶液または乳濁液において調製することができる。組成物は、懸濁化剤、安定化剤または分散化剤などの配合剤を含有することもできる。注射用製剤を、保存剤有りまたは無しで、複数用量容器中の単位投与剤形のアンプルで提供することができる。あるいは、該組成物は、限定ではないが例えば、無菌の発熱物質不含水、生理食塩水、緩衝液またはデキストロース溶液を含む適したビヒクルで再構成される粉末の形態で提供することもできる。
【0114】
他の局面において、三次元組織は凍結保存された調製物であり、これは使用の前に融解される。薬学的に許容される凍結保存剤は、特に、グリセロール、サッカライド、ポリオール、メチルセルロースおよびジメチルスルホキシドを含む。サッカライド剤は、モノサッカライド、ジサッカライド、および少なくとも-60、-50、-40、-30、-20、-10、または0℃である、最大に凍結濃縮された溶液のガラス転移温度(Tg)を有する他のオリゴサッカライドを含む。凍結保存で用いる例示的なサッカライドは、トレハロースである。
【0115】
いくつかの局面において、三次元組織を処理し、使用の前に細胞を殺処理する。いくつかの局面において、足場上に沈積されたECMを回収し、投与のために加工処理してもよい(参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,830,708号および同第6,280,284号を参照のこと)。
【0116】
他の態様において、三次元組織を濃縮し、投与のため薬学的に許容される媒体で洗浄することができる。遠心分離またはろ過などの、組成物を濃縮するための種々の技法が当技術分野において利用可能である。例としてはデキストラン沈降法および分画遠心法が挙げられる。三次元組織の製剤は、懸濁液のイオン強度を、等張性(すなわち、約0.1〜0.2)に、および生理的pH (すなわち、pH 6.8〜7.5)に調整することを伴ってもよい。この製剤は、細胞懸濁液の投与もしくは安定性を補助するための滑沢剤または他の賦形剤を含んでもよい。これらは、特に、サッカライド(例えば、マルトース)ならびにポリエチレングリコールおよびヒアルロン酸などの有機重合体を含む。さまざまな製剤の調製に関するさらなる詳細は、参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願公開第2002/0038152号に記述されている。
【0117】
上記のように、本発明のECM組成物は、期待される用途ならびにECM組成物の適切な送達および投与に応じていくつかの方法で加工処理することができる。例えば、組成物は足場もしくはインプラントとして送達されてもよく、または組成物は上記のように注射用に製剤化されてもよい。「投与」または「投与する」という用語は、処置を必要としている被験体に本発明の化合物または薬学的組成物を提供する行為を含むものと定義される。本明細書において用いられる「非経口投与」および「非経口的に投与される」という語句は、通常は注射による、腸内および局所投与以外の投与方法のことを意味し、静脈内の、筋肉内の、動脈内の、髄内の、嚢内の、眼窩内の、心臓内の、皮内の、腹腔内の、経気管の、皮下の、表皮下の、関節内の、被膜下の、くも膜下の、脊髄内のおよび胸骨内の注射および注入を含むが、これらに限定されることはない。本明細書において用いられる「全身投与」、「全身に投与される」、「末梢投与」および「末梢に投与される」という語句は、化合物、薬物または他の材料が被験体の身体に入る、すなわち、代謝および他の類似の過程に供されるような、中枢神経系への直接投与以外の投与、例えば、皮下投与のことを意味する。
【0118】
本明細書において用いられる「被験体」という用語は、本方法が行われる任意の個体または患者をいう。一般的に、被験体はヒトであるが、当業者によって理解されるように、被験体は動物であってよい。したがって、げっ歯類(マウス、ラット、ハムスターおよびモルモットを含む)、ネコ、イヌ、ウサギ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ブタなどを含む家畜、ならびに霊長類(サル、チンパンンジー、オランウータンおよびゴリラを含む)のような哺乳類を含む他の動物が被験体の定義のなかに含まれる。
【0119】
本発明のECM組成物は、損傷細胞または組織の修復および/または再生の促進、組織再生を促進するためのパッチにおける使用、幹細胞などの、細胞を培養するための組織培養システムにおける使用、移植可能な装置(例えば、ペースメーカー、ステント、ステントグラフト、人工血管、心臓弁、シャント、薬物送達ポートまたはカテーテル)に関連して用いられる表面コーティングにおける使用、軟組織修復の促進、しわなどの皮膚表面の増強および/または改善、生物学的癒着防止剤としてのまたは送達部位での細胞送達もしくは維持のための生物学的ビヒクルとしての使用を含むが、これらに限定されない、種々の用途を有する。
【0120】
さらに、本明細書におけるいずれかの方法において記述されるように細胞を培養することから得られるECM組成物を、本発明のその他任意の用途または方法において用いることもできる。例えば、本発明の組織培養システムを用いて細胞を培養することにより作製されるECM組成物は、例えば、細胞の修復および/または再生、組織再生を促進するためのパッチにおける使用、幹細胞などの、細胞を培養するための組織培養システムにおける使用、移植可能な装置(例えば、ペースメーカー、ステント、ステントグラフト、人工血管、心臓弁、シャント、薬物送達ポートまたはカテーテル)に関連して用いられる表面コーティングにおける使用、軟組織修復の促進、しわなどの皮膚表面の増強および/または改善、生物学的癒着防止剤としてのまたは送達部位での細胞送達もしくは維持のための生物学的ビヒクルとしての使用において用いることができる。
【0121】
さまざまな態様において、本発明は、細胞または組織の修復および/または再生ならびに軟組織修復の促進のための方法を含む。1つの態様では、修復または再生される細胞を本発明のECM組成物と接触させることによる細胞の修復および/または再生の方法を含む。該方法は、骨軟骨細胞を含む本明細書において論じられる種々の細胞の修復および/または再生のために用いることができる。
【0122】
1つの局面において、本方法は骨軟骨欠損の修復を企図する。本明細書において用いられる場合、「骨軟骨細胞」とは、軟骨形成もしくは骨形成の系統に属する細胞、または環境シグナルによって、軟骨形成もしくは骨形成の系統への分化を起こしうる細胞をいう。この可能性は公知の技法によりインビトロまたはインビボで試験することができる。したがって、1つの局面において、本発明のECM組成物を用いて、軟骨形成細胞、例えば、軟骨を産生できる細胞またはそれ自体が軟骨を産生する細胞へ分化する細胞、例えば軟骨細胞およびそれ自体が軟骨細胞へ分化する細胞(例えば、軟骨細胞前駆細胞)などを修復および/または再生する。したがって、別の局面において、本発明の組成物は結合組織の修復および/または再生において有用である。本明細書において用いられる場合、「結合組織」とは、骨、軟骨、靱帯、腱、半月板、真皮、皮膚の外層(hyperdermis)、筋肉、脂肪組織、関節包を含むが、これらに限定されない、哺乳類体内のいくつかの構造組織のいずれかをいう。
【0123】
本発明のECM組成物は、膝、足首、肘、臀部、手首、手指もしくは足指のいずれかの指関節、または顎関節などの、可動関節の骨軟骨欠損の処置に用いることができる。そのような骨軟骨欠損は、外傷性損傷(例えば、スポーツ損傷もしくは過剰摩耗)または変形性関節炎などの疾患の結果でありうる。特定の局面は、変形性関節症軟骨の表層病巣の処置または予防における本発明のマトリックスの使用に関する。さらに、本発明は、老化から生じるまたは出産から生じる骨軟骨欠損の処置または予防において有用である。本発明との関連で骨軟骨欠損は、また、以下に限定されないが、整形手術(例えば、鼻、耳)などの、外科手術との関連で軟骨および/または骨の修復が必要とされるような状態を含むものと理解されるべきである。すなわち、そのような欠損は、軟骨もしくは骨形成が破壊される体内のどこかに、または遺伝的欠陥により軟骨もしくは骨が損なわれているもしくは存在しない体内のどこかに生じうる。
【0124】
上記のように、増殖因子または特定の細胞の増殖を誘導もしくは刺激する他の生物学的因子を本発明のECM組成物に含めることができる。増殖因子の種類は、細胞種と、組成物が対象とする用途とによると考えられる。例えば、軟骨細胞の場合、細胞増殖因子(例えば、TGF-β)、軟骨形成を刺激する物質(例えば、BMP-2、BMP-12およびBMP-13などの軟骨形成を刺激するBMP)、間質細胞の足場への遊走を刺激する因子、マトリックス沈積を刺激する因子、抗炎症薬(例えば、非ステロイド性抗炎症薬)、免疫抑制薬(例えば、サイクロスポリン)のような、さらなる生物活性剤が存在してもよい。他の増殖因子、例えば血小板由来増殖因子(PDGF)、インスリン様増殖因子(IGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、上皮増殖因子(EGF)、ヒト内皮細胞増殖因子(ECGF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、軟骨由来形態形成タンパク質(CDMP)、他の骨形成タンパク質、例えばOP-1、OP-2、BMP3、BMP4、BMP9、BMP11、BMP14、DPP、Vg-1、60AおよびVgr-1、コラーゲン、弾性繊維、細網繊維、糖タンパク質またはグリコサミノグリカン、例えばヘパリン硫酸、コンドロイチン-4-硫酸、コンドロイチン-6-硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸などのような、他のタンパク質を含めることもできる。例えば、アスコルビン酸塩とともに、TGF-βなどの増殖因子は、軟骨細胞分化および軟骨細胞による軟骨形成を誘発することが分かっている。さらに、ヒアルロン酸は、軟骨細胞および他の間質細胞の付着のための良好な基質であり、足場の一部として組み込まれてもよく、または足場にコーティングされてもよい。
【0125】
さらに、特定の細胞の増殖および/または活性に影響を与える他の因子を用いることもできる。例えば、軟骨細胞の場合、参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願第2002/0122790号に記述されているように異常肥大状態において軟骨細胞を維持するために、軟骨細胞による軟骨産生を刺激するコンドロイチナーゼなどの因子をマトリックスに添加することができる。別の局面において、本発明の方法は、ポリ硫酸化アルギン酸もしくは他のポリ硫酸化ポリサッカライド、例えばポリ硫酸化シクロデキストリンおよび/もしくはポリ硫酸化インスリン、または参照により本明細書に組み入れられる国際特許公報の国際公開公報第2005/054446号に記述されているように結合組織細胞のECMの産生を刺激できる他の成分の存在を含む。
【0126】
修復されおよび/または再生される細胞または組織は、本明細書において記述される方法のいずれかによりインビボでまたはインビトロで接触させることができる。例えば、ECM組成物を被験体へ(例えば、本発明のECM組織、パッチまたはコーティングを施した装置によって)注射または注入することができる。別の局面において、修復されおよび/または再生される組織または細胞は、公知の外科技法を用いて被験体から収集され、インビトロで培養され、その後、被験体に移植または投与されることができる。
【0127】
上記のように、本発明のECM組成物は、種々の方法で加工処理することができる。したがって、1つの態様において、本発明は組織培養システムを含む。さまざまな局面において、培養システムは、本明細書において記述されるECM組成物から構成される。本発明のECM組成物は、種々の方法で組織培養システムに組み入れることができる。例えば、本明細書において記述されるように足場材料を含浸させることにより、コーティングとして、または細胞を培養するための培地への添加剤として、組成物を組み入れることができる。したがって、1つの局面において、培養システムは、増殖因子または胎児性タンパク質などの、本明細書において記述されるECM組成物のいずれかを含浸させた三次元の支持体材料を含むことができる。
【0128】
本明細書において記述されるECM組成物は、さまざまな細胞種の増殖のための支持体または三次元支持体となることができる。細胞培養ができる任意の細胞種が企図される。1つの局面において、培養システムを用いて、幹細胞の増殖を補助することができる。別の局面において、幹細胞は胚幹細胞、間葉系幹細胞または神経幹細胞である。
【0129】
移植可能な組織などのさらなるECM組成物を作製するために、組織培養システムを用いることができる。したがって、本発明の組織培養システムを用いた細胞の培養をインビボでまたはインビトロで行うことができる。例えば、本発明の組織培養システムを用いて、被験体への注射または移植のためのECM組成物を作製することができる。組織培養システムにより作製されたECM組成物を加工処理し、本明細書において記述されるいずれかの方法において用いてもよい。
【0130】
本発明のECM組成物を細胞送達のための生物学的ビヒクルとして用いることができる。本明細書において記述されるように、ECM組成物は可溶性画分および/または不溶性画分の両方を含むことができる。したがって、本発明の別の態様において、本発明のECM組成物を含む送達部位での細胞の送達または維持のための生物学的ビヒクルについて記述する。細胞および三次元組織組成物を含む本発明のECM組成物を用いて、インビボでの細胞の増殖を促進および/または支持することができる。任意の適切な用途において、例えば、損傷した心筋への幹細胞などの、細胞の注射を支持するため、または上記のように腱および靭帯修復のため、ビヒクルを用いることができる。
【0131】
ECM組成物が移植または投与される前に、後にまたは間に、適切な細胞組成物(例えば、本発明の単離されたECM細胞および/またはさらなる生物学的因子)を投与することができる。例えば、培養システムまたは生物学的送達媒体が被験体に移植される前に、投与、欠損および/または移植の部位に細胞を播種することができる。あるいは、適切な細胞組成物を後で(例えば、部位への注射により)投与することもできる。細胞はその場所で作用して、組織再生および/または細胞修復を誘導する。例えば、注射による欠損部位への細胞の投与を可能にする任意の手段により、細胞を播種することができる。細胞の注射は、注射器または関節鏡によるような、細胞の生存性を維持する任意の手段によることができる。
【0132】
ECM組成物は、このような組成物を投与して、心臓および関連組織での内皮細胞化および脈管化を促進することにより、器官および組織での血管形成を促進することが報告されている。したがって、別の態様において、本発明は、本明細書において記述されるECM組成物を含む被験体における装置の移植に関連して用いられる表面コーティングを含む。コーティングは、ペースメーカー、ステント、ステントグラフト、人工血管、心臓弁、シャント、薬物送達ポートまたはカテーテルなどの、被験体への移植または浸透において用いられる任意の装置に適用することができる。ある種の局面において、コーティングは、創傷治癒の改変、炎症の改変、線維性被膜形成の改変、組織内殖の改変、または細胞内殖の改変に用いることができる。別の態様において、本発明は、心臓、腸の、梗塞または虚血組織などの、損傷組織の処置を含む。以下に提示するのは、そのような用途のために企図されたECM組成物の作製について論じた例である。通常の酸素条件の下で増殖されるECM組成物の調製および使用は、参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願第2004/0219134号に記述されている。
【0133】
別の態様において、本発明は、組織内殖などの、利点を可能にする本明細書において記述のECM組成物を含む種々の移植可能な装置および組織再生パッチを含む。本明細書において論じられる場合、ECM組成物は、パッチまたは他の移植可能な装置などの医療装置のコーティングとなることができる。さまざまな局面において、そのような装置は創傷修復、ヘルニア修復、骨盤底修復(例えば、骨盤臓器脱)、腱板修復などに有用である。関連する局面において、コーティングは整形外科用インプラント、心臓血管インプラント、尿道スリングおよびペースメーカースリングに有用である。
【0134】
例えば、ヘルニアの基礎的症状は、筋膜内の欠損部への腹腔内容物の突出である。ヘルニア修復に対する外科的アプローチは、腹膜腔へのヘルニア内容物の低減および補綴材料、同種異系材料または自家材料の使用による筋膜欠損部の強固な封鎖の作出に集中している。この封鎖を作出するためにいくつかの技法が用いられているが、現行の製品および手順に対する弱点にはヘルニアの再発があり、この場合、封鎖が再び弱まって、腹腔内容物を欠損部に逆戻りさせる。ヘルニア縫合術では、ECM組成物でコーティングされた生体吸収性または合成メッシュのような、矯正用組織再生パッチを用いることができよう。
【0135】
本発明で使用されうる医療装置表面に生物学的コーティングを適用するのに当技術分野において種々の技法が公知である。例えば、紫外線放射の適用による架橋剤の活性化により、装置表面への永続的な共有結合を可能にする光活性架橋剤を用いてECM組成物をコーティングすることができる。例示的な架橋剤は、TriLite(商標)架橋剤であり、これは非細胞毒性、生物組織に対して非刺激性および非感作性であることが示されている。ECM材料は、種々の移植可能な装置へのコーティングまたは組み入れの前に、ヒトコラーゲン、ヒアルロン酸(HA)、フィブロネクチンなどのような、個々の成分へ分離されなくてもまたは分離されてもよい。さらに、さらなる増殖因子などを組み入れて、細胞浸潤の改善のような、有益な移植特性を可能にしてもよい。
【0136】
種々の関連する態様において、本発明は、限定されることはないが、老化防止、しわ取り、皮膚充填剤、保湿剤、色素沈着増強、皮膚の引き締めなどのような、化粧品/薬用化粧品の用途において適用可能な方法および装置を提供する。したがって、1つの態様において、本発明は、患者のしわの部位に本明細書において記述されるECM組成物を投与する段階を含む被験体における皮膚表面の改善のための方法を含む。関連する態様において、本発明は、患者のしわの部位に本明細書において記述されるECM組成物を投与する段階を含む被験体における軟組織の修復または増強のための方法を含む。さまざまな化粧用途において、組成物を注射製剤および局所製剤など、必要に応じて製剤化することができる。本明細書において含まれる実施例でさらに論じられるように、局所製剤として製剤化されたECM組成物は、さまざまな皮膚美的用途、例えばしわ取り、老化防止の用途および切除(ablative)レーザー手術の補助において有効であることが示されている。局所製剤を含むECMのいくつかの有益な特徴が示されている。そのような利点には、1) 表面置換後の再上皮化の促進; 2) 非除去および除去フラクショナルレーザー表面置換による症候(例えば、紅斑、浮腫、痂皮形成および感覚的不快感)の低減; 3) 滑らかな、さらにきめのある皮膚の生成; 4) 皮膚湿潤の生成; 5) 小じわ/縮緬じわの出現の低減; 6) 皮膚の堅さおよび柔軟さの増大; 7) 皮膚色素沈着異常の低減; ならびに8) 赤く炎症を起こした皮膚の低減が含まれる。
【0137】
本発明の組成物は、当技術分野において公知であるように調製されるが、本明細書において記述される革新的な培養方法(例えば、低酸素条件下での培養)を使用することができる。細胞の修復および/または再生、皮膚表面の改善、ならびに軟組織修復のため通常の酸素培養条件の下で作出されたECM組成物の調製および使用は、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,830,708号、米国特許第6,284,284号、米国特許出願第2002/0019339号および米国特許出願第2002/0038152号に記述されている。
【0138】
別の態様において、本発明は、本明細書において記述されるECM組成物を含む生物学的癒着防止剤を含む。この薬剤は、腸または血管吻合の構築後に使用される癒着防止パッチのような用途において用いることができる。
【0139】
本明細書において用いられる組成物または活性成分は、処置されている特定の疾患を処置または予防するのに有効な量で一般に使用されよう。組成物は治療的有用性を達成するため治療的に投与されても、または予防的有用性を達成するため予防的に投与されてもよい。治療的有用性とは、処置されている基礎病状または障害の根絶または改善を意味する。治療的有用性には、改善が実現されるかどうかにかかわらず、疾患の進行の停止または遅延も含まれる。
【0140】
投与される組成物の量は、例えば、組成物の種類、処置されている特定の適応症、投与の方法、望ましい有用性が予防的であるか治療的であるか、処置されている適応症の重症度および患者の年齢と体重、ならびに剤形の有効性を含む、種々の要因に依存すると考えられる。有効な投与量の判定は、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0141】
初期の投与量は、最初にインビトロでのアッセイから推定することができる。初期の投与量は動物モデルなど、インビボでのデータから推定することもできる。育毛を強化するための組成物の効力を試験するのに有効な動物モデルは、特に、げっ歯類、霊長類および他の哺乳類を含む。当業者は、インビトロおよび動物でのデータからの外挿によってヒトでの投与に適した投与量を判定することができる。
【0142】
投与量は、馴化培地の活性、投与の方法、処置されている病状、および上記のさまざまな因子に依存すると考えられる。投与量および間隔は、治療的または予防的効果を維持するのに十分なレベルを与えるよう個別に調整することができる。
【0143】
以下に提示するのは、論じられている用途のために企図されたECM組成物の作製について論じた例である。以下の例は、本発明の態様をさらに例証するように提供されるが、本発明の範囲を限定するように意図されるものではない。それらは使用されうるものの典型であるが、当業者に公知の他の手順、方法論または技術が代わりに用いられてもよい。
【実施例】
【0144】
実施例1
低酸素条件の下で増殖されたECM組成物における差次的な遺伝子発現
初代ヒト新生児包皮線維芽細胞を組織培養フラスコ中で標準的な単層として培養し、自然に沈積された、胎性様ECM内の、三次元線維芽細胞培養物と比較した。培養物は本明細書において開示されるように増殖された。遺伝子の差次的発現を評価するため、製造元のプロトコルにしたがい広範な遺伝子発現(40,000個未満の遺伝子を含む)を目的にAgilent Whole Human Genome Oligo Microarrays (登録商標)を用いて総RNAのサンプルをそろえた。
【0145】
比較してみると、線維芽細胞は、低酸素培養され自然に分泌されたECM内での三次元培養物においてコラーゲンおよびECM遺伝子発現を調節することが分かった。各種コラーゲンおよびECM遺伝子の発現の上方制御および下方制御は、表3において明らかである。
【0146】
(表3)低酸素の三次元線維芽細胞培養物における差次的なコラーゲンおよびECM発現

【0147】
比較してみると、線維芽細胞は、低酸素培養され自然に分泌されたECM内での三次元培養物において、Wnt経路遺伝子の遺伝子発現を調節することが分かった。各種Wnt経路遺伝子の発現の上方制御および下方制御は、表4において明らかである。
【0148】
(表4)低酸素の三次元線維芽細胞培養物における差次的なWnt発現


【0149】
比較してみると、線維芽細胞は、低酸素培養され自然に分泌されたECM内での三次元培養物において、骨形成タンパク質(BMP)経路遺伝子の遺伝子発現を調節することが分かった。各種BMP経路遺伝子の発現の上方制御および下方制御は、表5において明らかである。
【0150】
(表5)低酸素の三次元線維芽細胞培養物における差次的なBMP発現

【0151】
比較してみると、線維芽細胞は、低酸素培養され自然に分泌されたECM内での三次元培養物においてさらなる遺伝子の発現を調節することが分かった。さらなる遺伝子の発現の上方制御および下方制御は、表6において明らかである。
【0152】
(表6)インビボでの線維芽細胞ECMの低酸素培養によって生じるさらなる遺伝子発現の変化


【0153】
実施例2
初代ヒト新生児包皮線維芽細胞を用いた低酸素ECMの産生
初代ヒト新生児包皮線維芽細胞を用いたECMの低酸素培養について2つの例を提供する。
【0154】
初代ヒト新生児包皮線維芽細胞を10%ウシ胎仔血清、2 mM L-グルタミン入りの90%高グルコースDMEM (10%FBS/DMEM)の存在下、組織培養フラスコ中で増殖させた。0.05%トリプシン/EDTA溶液を用いて細胞を3回目の継代まで継代培養し、その時点で、それらをCytodex-1デキストランビーズに0.04 mg乾燥ビーズ/ml培地(100〜120 mlで満たされている125 mlのスピナーフラスコ中5e6細胞/10 mgビーズ)で、またはナイロンメッシュ(25e6細胞/6×100 cm2ナイロン)に播種した。全培養物は増殖および播種で、通常大気および5% CO2中において維持したが、低酸素培養物はその時点で、低酸素環境が培地内に作出されうるように95%窒素/5% CO2で満たされた気密室に分割した。このシステムを培養容器内の酸素およそ1〜5%で維持する。播種のためにナイロンまたはビーズを覆うのに必要な最小限の容量中で細胞を十分に混合し、引き続いて、これを30分後に一度混合し、次に加湿した37℃のインキュベーター中で終夜静置させた。2〜3日ごとに50〜70%の培地を交換しながら、培養物に2〜4週間10%FBS/DMEMを供給すると、その間に細胞は増殖し、その後、ECMを沈積し始めた。鉄補充物入りの10%ウシ胎仔血清、およびFBSの代わりに20 ug/mlのアスコルビン酸を用いてさらに4〜6週間培養物に供給を行った。スピナーフラスコを最初および約2〜4週間15〜25 rpmで混合し、その時点で、それらを45 rpmに増やし、その後、この速度で維持した。ビーズ培養物は、4週間後に幅および直径が0.5〜1.0 cmほどのECMを含有する大きな不定形構造を形成し、これらの培養物はそれゆえ、ガス拡散および高い代謝性要求により低酸素状態であった。
【0155】
さらなる例において、初代ヒト新生児包皮線維芽細胞を単層フラスコ中で増殖し、次いで、ナイロンメッシュの足場上で培養して、インビトロでのECMの発達を支持した。線維芽細胞を、高グルコース、2 mM L-グルタミンおよび10% (v/v)ウシ胎仔血清を含むDMEM中で増殖させた。培養物にまた、20 μg/mlのアスコルビン酸を補充した。大気酸素(酸素およそ16%〜20%)中で3週間後、二通りのECM含有培養物を、95%窒素/5%二酸化炭素で十分に流した密閉室(カタログ番号MC-101, Billups-Rothenberg, Inc., Del Mar, CA)において低酸素培養条件(酸素1%〜5%)に切り替えた。培地からの大気酸素の枯渇を確実とするため、2〜3時間後に大気を交換して培地におよそ1〜3%の酸素が含まれることを確実とした。ECM含有培養物の両セットをさらに4週間、週2回の供給を行いながら増殖させ、その後、培養物をRNA単離のために調製した。市販のキットを製造元の使用説明書(カタログ番号Z3100, Promega, Inc.)にしたがって用い、総細胞RNAを単離した。Agilent Whole Human Genome Oligo Microarrays(登録商標)を用いた遺伝子発現のマイクロアレイ解析のために加工処理する前に、精製されたRNAサンプルを-80℃で保存した。
【0156】
この結果を分析する際に、Agilent Whole Human Genome Oligo Microarrays(登録商標)を用い、低酸素培養物由来のプローブと比べて大気酸素から調製されたプローブより検出され、差次的に発現された転写産物が、約5,500種存在した。これらのうち、約半分(2,500種)は低酸素により2.0倍増を超え、約半分(2,500種)は低酸素で2.0倍を超えて減少していた。これは、低酸素がインビトロでの遺伝子発現の顕著な変化をもたらしたことを示唆している。特に興味深いのは、ECMタンパク質に対する転写産物、特にいくつかのコラーゲン遺伝子が上方制御されたのに対し、マトリックス分解酵素に対するいくつかの遺伝子は下方制御された。
【0157】
実施例3
治療用途のための組織工学的ヒト胎児性細胞外マトリックス
胎児性ECMは、瘢痕または癒着の形成がなく迅速な細胞増殖および治癒につながる環境を生み出す。血管形成前の初期胎児期環境を刺激する条件(低酸素および重力の低減)下での3次元のヒト新生児線維芽細胞の増殖は、胎児性特性を有するECMを作出するものと仮定された。遺伝子チップアレイ分析は、従来の組織培養条件に比べて低酸素の組織培養条件の下での5000種を超える遺伝子の差次的発現を明らかにした。産生されたECMは、III型、IV型およびV型コラーゲン、糖タンパク質、例えばフィブロネクチン、SPARC、トロンボスポンジン、ならびにヒアルロン酸に比較的富んでいるという点で胎児間葉組織に類似していた。ECMは、鍵となる増殖因子によって再生幹細胞集団を支持する推定上のニッチにおける増殖因子の提示および結合に重要な調節的役割も果たすので、本発明者らは、培養下の胎児様ECMの発達中の増殖因子発現に及ぼす低酸素の影響について評価した。低酸素は、VEGF、FGF-7およびTGF-βなどの、創傷治癒および器官形成を調節する因子、ならびにWnt 2b、4、7a、10aおよび11を含む複数のWntの発現を高めることもできる。胎児性ヒトECMはまた、MTTアッセイを用いて酵素活性の増大によって測定をした場合、インビトロでヒト線維芽細胞における代謝活性の増大を刺激した。さらに、本発明者らは、ヒトECMに応じた細胞数の増加を検出した。このヒトECMは、生物学的な表面コーティングとして、および瘢痕または癒着なしに新しい組織を増殖させ治癒する種々の治療用途での組織充填処置において用いることができる。
【0158】
実施例4
再生医療用途のための天然可溶性WNT活性の作出
皮膚または血液のような、成体組織を再生できる幹細胞または前駆細胞は、胚発生をある程度繰り返して、この再生を達成する。ますます多くの研究から、胚形成中に活性な幹細胞多分化能および系統特異的分化の鍵となる調節因子は、ある種の環境下で成体において再発現されることが明らかにされている。分泌型の形態形成増殖および発生因子のWNTファミリーは、有益な研究ツール、ひいては臨床における治療的処置となる可能性のある増殖因子の一つである。しかしながら、Wntのものは、今日まで商業規模での標準的な組換え発現および精製技法が無効なことが証明されており、WNTに基づく製品の臨床開発を可能にする大規模なWNTタンパク質の産生に関する報告はない。培養下のさまざまな足場に新生児ヒト皮膚線維芽細胞を用い培養下の胎児様ECMを増大させて三次元の組織等価物を作製するための技法が開発されている。この過程において、これらの培養物は、ECM産生に使われる無血清馴化培地中に含有される生物活性のWNTのものの商業規模の供給源となりうることが発見された。ここで、本発明者らはこのWNT製品候補に関するデータを提示する。
【0159】
細胞の遺伝子発現解析は、少なくとも3種のWNT遺伝子が発現され(wnt 5a、wnt 7aおよびwnt 11)、wntシグナル伝達に関連する少数の遺伝子が同様に発現されたことを示したが、それらの機能は完全には理解されていない。遺伝子発現データをwntシグナル伝達に対するインビトロでのバイオアッセイ(初代ヒト表皮角化細胞におけるβ-カテニンの核転座)にまで拡張し、血液幹細胞に及ぼすwnt活性を評価した。どちらのアッセイでも基準のwnt活性と一致する活性を示した。さらに、これらの培養物由来の馴化培地は、マウスの皮膚へ注射された場合にwnt活性を示し、毛包幹細胞が成長期に入るよう誘導し、かくして育毛を引き起こした。このことは、規定のかつ無血清の培地内で安定化されたWNT活性には精製の必要がなかったことを示唆している。この生成物を毛包再生のためにおよびさまざまなヒト幹細胞の培養用の有益な研究ツールとして用いることができる。
【0160】
実施例5
低酸素線維芽細胞は独特のECM産生および増殖因子発現を示す
ヒト新生児皮膚線維芽細胞は、インビトロで培養されると、真皮を綿密に模倣する、かつ創傷治癒などの再生医療用途において損傷真皮に取って代わりうるECMを産生する。創傷治癒の過程はまた、胎児期環境を刺激することにより胚発生を繰り返すので、本発明者らは、産生されたECMが組織再生用途のための強化されたECMとなるものとの仮説を立てた。それゆえ、ヒト新生児線維芽細胞に由来するECMを培養液中、低酸素条件下で増殖させて、血管形成前の初期胚に存在する低酸素状態を刺激した。この目標は、培養下の組織発達の間に低酸素状態を用いて胎児性特性を有するECMを作製することであった。
【0161】
これらの低酸素培養において産生されたECMは、III型およびV型コラーゲン、糖タンパク質、例えばフィブロネクチン、SPARC、トロンボスポンジン、ならびにヒアルロン酸に比較的富んでいるという点で胎児間葉組織に類似していた。ECMは、鍵となる増殖因子によって再生幹細胞集団を支持する推定上のニッチにおける増殖因子の提示および結合で重要な調節的役割も果たすので、本発明者らは、培養下の胎児様ECMの発達中の増殖因子発現に及ぼす低酸素の影響について評価した。低酸素はまた、VEGF、FGF-7およびTGF-βなどの、創傷治癒および器官形成を調節する因子の発現を高めることができることが明らかにされた。
【0162】
ヒトECMはまた、MTTアッセイを用いて酵素活性の増大によって測定した場合、インビトロでヒト線維芽細胞における代謝活性の増大を刺激した。さらに、ヒトECMに応じた細胞数の増加が検出された。これらの結果はこのヒトECMの、幹細胞培養におけるコーティング/足場としての、およびさまざまな治療用途または医療装置における生物学的な表面コーティング/充填剤としての使用を支持するものである。
【0163】
実施例6
ヒト細胞外マトリックス(hECM)でコーティングされた生体医用材料
ヒト由来の材料(hECM)を用いて作製されたECM組成物を、光活性架橋剤を用いてプロピレンメッシュ上にコーティングした。hECMでコーティングされたポリプロピレンメッシュの抗フィブロネクチン免疫蛍光染色から、ECM材料はコーティングされていないメッシュと比べてメッシュの繊維上に均一なコーティングを形成することが明らかである。HECMでコーティングされたメッシュは、ヘルニア修復および骨盤底修復などの、医療用途向けの移植可能なパッチに適している。ECM材料は、細胞内殖の改善を可能にするフィブロネクチン抗体での免疫蛍光染色によって示されるようにメッシュの個々の繊維をコーティングすることが明らかである。
【0164】
hECMでコーティングされたポリプロピレンメッシュの移植後2週間および5週間の時点で、生体適合性の評価を行った。異物巨細胞(FBGC)の数を調べた。移植後2週間の、繊維あたりのFBGCの数を図1A〜Bに示してある。移植後5週間の、繊維あたりの異物巨細胞の数を図2A〜Bに示してある。コーティングされていないメッシュと比較した場合にhECMでコーティングされたポリプロピレンメッシュに対するFBGCの低減が明白である。
【0165】
FBGC形成の機構は、ポリプロピレンなどの移植可能な生体材料に対する免疫応答でのマクロファージ融合の結果である。これらの大きな多核細胞は、移植可能な生体材料に対する炎症応答を定量的に評価するのに有効な手段となる。コーティングされていないポリプロピレンに比べてヒトECMでコーティングされたポリプロピレンによるサンプルあたりのFBGC数の顕著な低減が2週間の時点で認められた。このデータは、ヒトECM表面コーティングが種々の移植可能な装置に対する用途で役立ちうることを示唆している。
【0166】
歴史的に、移植可能な装置の有効性および寿命は、FBGCおよび線維性被膜形成を含む特異的な免疫応答に見舞われてきた。具体的には、FBGCは、スーパーオキシドおよびフリーラジカルのような分解性の作用物質を排出しうる。FBGCは、インプラントの存在する期間中インプラントのすぐ周囲に局在化したままであることが知られているので、これらの悪影響は特に重要である。宿主または宿主組織から外来の移植可能異物を単離するように、インプラント周囲の堅い血管コラーゲン被包として生じる線維性被膜の形成が行われる。この応答はある場合において患者に不快感を与えうるだけでなく、装置の実行可能性の長さを短縮し、装置の有効性を減少しさえすることがある。したがって、FBGCおよび線維性被包を低減するコーティングは、移植可能な装置の寿命および機能にとって非常に望ましい結果である。
【0167】
実施例7
育毛の刺激のための細胞外マトリックス組成物の使用
本実施例では、ECM組成物の投与による育毛の刺激について例証する。
【0168】
ヒト毛包細胞および毛包から採取した細胞は、本明細書において記述のECM組成物が毛髪形成能を刺激かつ維持する能力を判定するために得た。毛包細胞はAlderans Research Internationalから入手した。細胞をECMの存在下で培養した。4週間および8週間の培養の時点での細胞の分析から、毛包に似た構造および毛幹に似た構造が示された。2ヶ月の連続培養の後、細胞は、生き続け増殖し続けた。
【0169】
ECM組成物の存在下で4週間培養された細胞をマウスに移植した。移植から4週間後、顕微鏡画像解析を用いて観察した場合にごく正常な数の小型休止期の毛包を示した対照細胞と比べて、培養されたヒト毛包は多くの大型の毛包を形成した。
【0170】
実施例8
ヒト細胞外マトリックス組成物(hECM)の作製
新生児ヒト線維芽細胞を用いてヒトECM組成物を作製した。液体培地で馴化されたビーズ様構造に線維芽細胞を播種した。ウシ胎仔血清の必要なしに培養条件を最適化した。数日内に、本明細書において記述される胚培養条件の下で、細胞は密な胚様ECMを産生した。Wntファミリータンパク質、およびいくつかの増殖因子の分泌が認められた。
【0171】
培養物を集密まで増殖させた。その後、培養物を滅菌水に曝露して、細胞の均一な溶解を誘導した。次いで、無細胞性hECMを洗浄して全ての生細胞および細胞残屑の除去を確実とし、顕微鏡検査して細胞残屑の除去を確認した。次に、ヒト線維芽細胞を、hECMでコーティングした培養フラスコに曝露し、または非処理フラスコ上にプレーティングし、次いで厚いマトリックス層で覆った。hECMにおいて特定されたECMタンパク質を表7に示す。
【0172】
(表7)hECMにおいて認められた細胞外マトリックスタンパク質

【0173】
図4に示されるようにMTTアッセイを用いて酵素活性の増大によって測定した場合、hECMは細胞の代謝活性の増大を誘導することが認められた。ヒトECMは、マウスECMと異なり、MTTアッセイによって測定した場合、細胞代謝(metabilic)活性の用量依存的(dependant)増加を誘導した。細胞はhECM重層材料を迅速かつ均一に浸潤することが認められた。さらに、Pico Greenアッセイによって測定した場合、hECMに応じた細胞数の用量依存的な増加が認められた。
【0174】
公知のコーティング、注射剤、および移植可能なマトリックス製品は、通例、ウシコラーゲン、腸もしくは膀胱に由来するブタマトリックスタンパク質、ヒアルロン酸、または死体皮膚に由来するヒトECMのいずれかである。これらの製品は、いっそう生理学的に等価な環境を作出することによって利益をもたらしうるが、どれも完全にヒトのものではなく、若い、発達中の組織に見られる全範囲のマトリックスタンパク質を含んでいない。産生されたhECMは、若い健常組織に見られる同一のECM材料を含む。また、ヒト細胞の活発な増殖および細胞の迅速な内殖を支持することも認められた。ヒト被験体を伴う用途においてhECMを使用することには明白な利点がいくつかある。例えば、hECMは迅速な宿主細胞集積および治癒の改善を促進する(宿主細胞とその後の組織修復のための通常の足場として作用する)。さらに、hECMは非ヒト動物組織およびヒト組織からのウイルス伝播(特にウシ組織からのBSEおよびヒト組織からのTSE)に関する懸念を解消する。さらに、生物学的製品、特にヒト真皮および大腿筋膜と比べhECMで一貫した製品組成および性能を認めた。さらに、hECMは合成インプラントと比べて宿主組織の侵食を低減する。
【0175】
実施例9
美容医療用途のためのヒト線維芽細胞由来の低酸素馴化細胞外マトリックス
顔面切除レーザー手術後の局所hECM投与の二重盲検無作為化試験を行った。本試験には年齢40歳から年齢60歳の被験体41名が参加した。本試験群の全員とも従来の侵襲手術もしくは最小侵襲手術、または、過去12ヶ月以内の局所的な老化防止処置はなしであった。レーザー治療には全面の、眼周囲の、口周囲のおよび全顔のフラクショナル切除レーザー治療が含まれた。Palomar Starluz 550pレーザーを用いた(1540-non-ablativeおよび2940 ablative)。被験体に局所hECM組成物を1日1回(異なる濃度で)または偽薬ビヒクルを14日間投与した。試験の終点には臨床写真(3回の盲検評価-皮膚科医)、経表皮水分喪失(TEWL)、パンチ生検、ならびに紅斑、浮腫および痂皮形成の評価が含まれた。
【0176】
10倍強度のhECM組成物は、ビヒクル対照と比べて最も臨床的な症状改善をもたらした(評価は、臨床試験の何らの実施にも関わりのない、2名の美容皮膚科医によって「盲目的に」行われた)。これらの結果を図6 (紅斑)、図7 (浮腫)および図8 (痂皮形成)に示す。写真評価から3日目、7日目および14日目の数名の患者における紅斑重症度の低減も示された。
【0177】
また、経表皮水分喪失(TEWL)値を被験体41名全員についてレーザー処置から3日、7日および14日後に評価した。これらの結果を図9に示す。10倍強度のhECM組成物は、ビヒクル対照と比べて3日目および7日目の時点で分かるように角質層障壁機能の改善をもたらした。7日目の時点で、hECM組成物はビヒクル対照と比べて(p<0.05)で統計的に有意である。この知見は、切除フラクショナルレーザー処置後7日目の時点で再上皮化を示していた被験体が認められたという事実と一致している。
【0178】
老化防止(例えば、しわ取り)のための局所hECM投与の二重盲検無作為化試験も行った。本試験には年齢40歳から年齢65歳の被験体26名が参加した。本試験群の全員とも従来の侵襲手術もしくは最小侵襲手術、または、過去12ヶ月以内の局所的な老化防止処置はなしであった。被験体に局所hECM組成物を1日2回または偽薬ビヒクルを10週間投与した。試験の終点には臨床写真(2名の盲検美容皮膚科医)、水分計-表面水和、粘弾計-弾力性、パンチ生検、分子的評価(Epidermal Genetic Information Retrieval (EGIR))が含まれた。
【0179】
顔面野の写真評価からhECM投与10週間後には、より軽い色素沈着、より滑らかな肌のきめ、より均等に張りのある皮膚の生成、ならびに縮緬じわおよび小じわの出現の減少が示された。
【0180】
被験体26名中22名について眼周囲域のシリコン複製物の三次元形状計測画像解析も行った。解析を行うため、平行光光源を複製物の面から25度の角度に向けた。複製物を回転させてタブ方向を入射光方向に垂直または平行に整列させられるように、複製物のタブ位置の方向を固定した容器の中に複製物を入れた。タブ方向を耳の方に向けてそれぞれの目に接した目尻のしわの領域から複製物を取った。垂直なサンプリング方向は大きい方の、表情によるしわ(目尻のしわ)に鋭敏なきめの測定を可能にした。平行なサンプリング方向は小さい方の、小じわに鋭敏なきめの測定を可能にした。これらの結果を図10に示す。
【0181】
顔面切除レーザー手術後の局所hECM投与の二重盲検無作為化試験を行った。本試験には年齢40歳から年齢60歳の被験体49名が参加した。本試験群の全員とも従来の侵襲手術もしくは最小侵襲手術、または、過去12ヶ月以内の局所的な老化防止処置はなしであった。レーザー治療には全面の、眼周囲の、口周囲のおよび全顔のフラクショナル切除レーザー治療が含まれた。Palomar Starluz 550pレーザーを用いた(1540-non-ablativeおよび2940 ablative)。被験体に局所hECM組成物を1日2回または偽薬ビヒクルを14日間投与した。試験の終点には臨床写真(3回の盲検評価-皮膚科医)、メグザメーターおよび被験体の評価が含まれた。
【0182】
手術後1、3、5、7および14日目の顔面野の写真評価から偽薬と比べすべての時点で紅斑の明らかな低減が示された。
【0183】
ワセリン使用の日数を図11に示されるように手術後に評価した。紅斑の等級付けは図12に示されるように行った。切除(2940)および非切除(1540)の両方のレーザー値について図13にメグザメーターの結果を示す。
【0184】
試験の結果から、局所製剤を含むhECMのいくつかの有益な特徴が示された。そのような利点には、1) 表面置換後の再上皮化の促進; 2) 非除去および除去フラクショナルレーザー表面置換による症候(例えば、紅斑、浮腫、痂皮形成および感覚的不快感)の低減; 3) 滑らかな、さらにきめのある皮膚の生成; 4) 皮膚湿潤の生成; 5) 小じわ/縮緬じわの出現の低減; 6) 皮膚の堅さおよび柔軟さの増大; 7) 皮膚色素沈着異常の低減; ならびに8) 赤く炎症を起こした皮膚の低減が含まれた。
【0185】
本発明を上記の例に関連して記述してきたが、変更および変形は本発明の趣旨および範囲のなかに包含されることが理解されよう。したがって、本発明は以下の特許請求の範囲によってのみ限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
適した増殖培地における表面上にて低酸素条件の下で細胞を培養し、それによって1種または複数種の胎児性タンパク質を含む可溶性組成物および不溶性組成物を産生する段階
を含む、1種または複数種の胎児性タンパク質を含む組成物を作製する方法。
【請求項2】
前記増殖培地が血清を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記増殖培地が無血清である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
低酸素の酸素条件が酸素1〜5%である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
コラーゲン種が、酸素約15〜20%の酸素条件において産生される培地と比べて上方制御される、請求項1記載の方法。
【請求項6】
コラーゲンが、V型α1; IX型α1; IX型α2; VI型α2; VIII型α1; IV型α5; VII型α1; XVIII型α1; またはXII型α1から選択される、請求項5記載の方法。
【請求項7】
Wnt種が、酸素約15〜20%の酸素条件において産生される培地と比べて上方制御される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
Wnt種がwnt 7aおよびwnt 11である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
ラミニン種が、酸素約15〜20%の酸素条件において産生される培地と比べて上方制御される、請求項1記載の方法。
【請求項10】
ラミニン種がラミニン8である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
無細胞上清が、透析され、凍結乾燥され、かつ緩衝液中で再構成される、請求項1記載の方法。
【請求項12】
無細胞上清が、透析され、乾燥され、かつ緩衝液中で再構成される、請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記細胞が線維芽細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項14】
前記線維芽細胞が新生児線維芽細胞である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記表面が三次元である、請求項1記載の方法。
【請求項16】
前記表面がメッシュを含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記表面が二次元である、請求項1記載の方法。
【請求項18】
前記表面がビーズを含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記細胞が種特異的である、請求項1記載の方法。
【請求項20】
可溶性画分である、請求項1記載の方法により調製される組成物。
【請求項21】
不溶性画分である、請求項1記載の方法により調製される組成物。
【請求項22】
可溶性画分と不溶性画分との組み合わせである、請求項1記載の方法により調製される組成物。
【請求項23】
修復または再生される細胞を請求項20、21または22のいずれか一項記載の組成物と接触させる段階
を含む、細胞の修復および/または再生の方法。
【請求項24】
前記細胞が骨軟骨細胞である、請求項23記載の方法。
【請求項25】
請求項20、21または22のいずれか一項記載の組成物を含む、組織再生パッチ。
【請求項26】
請求項20、21または22のいずれか一項記載の組成物を含む、組織培養システム。
【請求項27】
幹細胞の増殖を補助するために用いられる、請求項26記載の組織培養システム。
【請求項28】
前記幹細胞が、胚幹細胞、間葉系幹細胞または神経幹細胞である、請求項27記載の組織培養システム。
【請求項29】
請求項20、21または22のいずれか一項記載の組成物を含む、被験体での被験体における装置の移植に関連して用いられる表面コーティング。
【請求項30】
前記装置が、ペースメーカー、ステント、ステントグラフト、人工血管、心臓弁、シャント、薬物送達ポート、カテーテル、またはパッチである、請求項29記載のコーティング。
【請求項31】
創傷治癒の改変、炎症の改変、線維性被膜形成の改変、組織内殖の改変、または細胞内殖の改変に用いられる、請求項29記載のコーティング。
【請求項32】
損傷組織の処置を可能にする条件の下で請求項20、21または22のいずれか一項記載の組成物と損傷組織を接触させる段階
を含む、損傷組織を処置する方法。
【請求項33】
前記組織が心臓組織である、請求項32記載の方法。
【請求項34】
前記組織が梗塞組織または虚血組織である、請求項32記載の方法。
【請求項35】
前記組織が腸組織である、請求項32記載の方法。
【請求項36】
被験体のしわの部位に、請求項20、21または22のいずれか一項記載の組成物を投与し、それによって皮膚表面の改善を提供する段階
を含む、被験体における皮膚表面の改善のための方法。
【請求項37】
請求項20、21または22のいずれか一項記載の組成物を含む、生物学的癒着防止剤。
【請求項38】
請求項20、21または22のいずれか一項記載の組成物を含む、送達部位での細胞の送達または維持のための生物学的ビヒクル。
【請求項39】
被験体のしわの部位に、請求項20、21または22のいずれか一項記載の組成物を投与し、それによって軟組織の修復または増強を提供する段階
を含む、被験体における軟組織の修復または増強のための方法。
【請求項40】
請求項20、21または22のいずれか一項記載の組成物と細胞を接触させ、それによって育毛を促進する段階
を含む、育毛を促進する方法。
【請求項41】
前記細胞が毛包細胞である、請求項40記載の方法。
【請求項42】
前記細胞をインビボで接触させる、請求項40記載の方法。
【請求項43】
前記細胞をエクスビボで接触させる、請求項40記載の方法。
【請求項44】
前記細胞が被験体に移植される、請求項43記載の方法。
【請求項45】
適した増殖培地における表面上にて低酸素条件の下で細胞を培養し、それによってWntタンパク質および血管内皮増殖因子(VEGF)を産生する段階
を含む、Wntタンパク質およびVEGFを産生する方法。
【請求項46】
前記増殖培地が無血清である、請求項45記載の方法。
【請求項47】
低酸素の酸素条件が酸素1〜5%である、請求項45記載の方法。
【請求項48】
Wnt種が、酸素約15〜20%の酸素条件において産生される培地と比べて上方制御される、請求項47記載の方法。
【請求項49】
Wnt種がwnt 7aおよびwnt 11である、請求項48記載の方法。
【請求項50】
VEGF種が、酸素約15〜20%の酸素条件において産生される培地と比べて上方制御される、請求項45記載の方法。
【請求項51】
VEGF種がVEGF-Aまたはそのアイソフォームである、請求項50記載の方法。
【請求項52】
前記細胞が線維芽細胞である、請求項45記載の方法。
【請求項53】
前記表面が三次元である、請求項45記載の方法。
【請求項54】
前記表面がメッシュを含む、請求項53記載の方法。
【請求項55】
前記表面が二次元である、請求項45記載の方法。
【請求項56】
前記表面がビーズを含む、請求項55記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公表番号】特表2011−510662(P2011−510662A)
【公表日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−545221(P2010−545221)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【国際出願番号】PCT/US2009/032697
【国際公開番号】WO2009/097559
【国際公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
【出願人】(510207265)ヒストジェン インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】