説明

組成物、成形体とその製造方法、およびフィルムとその製造方法

【課題】広範なマトリクス材料を用いても混ぜ合わせることが可能であって、なおかつ、透明性と低熱膨張性に優れた複合材料を提供する。
【解決手段】短軸長が3〜100nmで長軸長が10〜2000nmである有機物結晶と、マトリクス材料とを含む組成物であって、前記有機物結晶には界面活性剤が吸着しているか、ケイ素、チタン、アルミニウム、リン、ジルコニウム、バリウム等の無機元素が含まれているか、あるいは、前記有機物結晶には−(L1n−R1[L1は−O−、−CO−、−COO−等、nは0〜4、R1は有機基を表す。]で表される有機基が存在している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物結晶とマトリクス材料を含む組成物に関する。また本発明は、その組成物を用いて製造された成形体およびフィルムに関する。さらに本発明は、その成形体とフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂材料は、軽量で安価であり、成形が容易であるという特徴を備えていることから、様々な用途で利用されており、現代社会において必要不可欠な材料の一つとなっている。しかしながら、一般に樹脂材料は、無機材料や金属材料に比べて耐熱性が低い、熱膨張率が大きい、剛性が小さい、耐衝撃性が小さいなどの劣っている性能がある。
【0003】
このため、それらの性能を向上させるための手段として、樹脂材料を他の材料と複合化させることが行われている。樹脂をマトリクスとした複合材料では、ガラス繊維による複合材料が一般的である。また、バクテリアにより産生されたセルロース繊維(バクテリアセルロース)を強化用繊維として用いた材料も開発されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−60680号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の樹脂マトリクスにガラス繊維を複合化させた材料は、透明性を損なわれ、成形性が低下してしまうという問題を有している。一方、上記のバクテリアセルロース繊維強化複合材料は、セルロース繊維の幅が可視光より十分に小さいことから、可視光の散乱を生じにくく、透明性を有している。また、セルロース繊維が低熱膨張性であることから、複合材料の熱膨張も小さくすることに成功している。しかしながら、そのセルロース繊維が3次元状に絡み合った構造を持っているために、マトリクスとして使用できる樹脂が、液状の硬化性樹脂に限定されるという制約がある。またセルロース繊維とマトリクス樹脂からなる複合材料は不溶不融であり成形性を持たないことから、加工性がないという問題を有している。
【0005】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、広範なマトリクス材料を用いても混ぜ合わせることが可能であって、なおかつ、透明性と低熱膨張性に優れた複合材料を提供することを本発明の目的として設定した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、特定の条件を満たす有機物結晶を用いれば広範なマトリクス材料と混ぜ合わせることが可能であり、透明性と低熱膨張性に優れた複合材料を製造できることを見出した。すなわち、課題を解決する手段として、以下の本発明を提供するに至った。
【0007】
(1)短軸長が3〜100nmかつ長軸長が10〜2000nmである有機物結晶と、マトリクス材料とを含む組成物であって、
前記有機物結晶は下記の(条件1)〜(条件4)の少なくとも1つを満たす組成物。
(条件1)界面活性剤が吸着している。
(条件2)無機イオンが吸着している。
(条件3)酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化バリウム、およ びハイドロキシアパタイトからなる群より選択される1以上の無機化合物が結合してい る。
(条件4)下記一般式(1)で表される基で修飾されている。
【化1】

[一般式(1)中、L1は下記一般式(2)〜(21)のいずれかで表される連結基であり、nは0〜4の整数を表す。nが2〜4の整数であるとき、n個のL1は互いに同一であっても異なっていてもよい。R1は有機基を表す。]
【化2】

[一般式(11)中のR2、一般式(13)中のR3、一般式(17)中のR4、一般式(21)中のR5は互いに独立に有機基を表す。]
(2)前記界面活性剤がカチオン性界面活性剤であることを特徴とする(1)に記載の組成物。
(3)前記有機物結晶が、アルキル基、アシル基、アシルアミノ基、シアノ基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基、アリールオキシ基、およびシリル基からなる群より選択される少なくとも一つの基で修飾されていることを特徴とする(1)または(2)に記載の組成物。
(4)前記有機物結晶が有機高分子結晶であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか一項に記載の組成物。
(5)前記有機物結晶が硫酸根を実質的に含まないことを特徴とする(1)〜(4)のいずれか一項に記載の組成物。
(6)前記有機物結晶が結晶性セルロースであることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか一項に記載の組成物。
(7)前記マトリクス材料が樹脂であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれか一項に記載の組成物。
(8)前記樹脂が熱可塑性樹脂、溶媒可溶性樹脂または硬化性樹脂であることを特徴とする(7)に記載の組成物。
(9)前記樹脂が熱可塑性樹脂、溶媒可溶性樹脂またはこれらの混合物であることを特徴とする(7)に記載の組成物。
(10)前記樹脂が硬化性樹脂であることを特徴とする(7)に記載の組成物。
(11)前記有機物結晶が結晶性セルロースであり、前記樹脂がセルロース系樹脂であることを特徴とする(7)に記載の組成物。
(12)前記有機物結晶が結晶性セルロースであり、前記樹脂が脂肪族ポリエステル樹脂であることを特徴とする(7)に記載の組成物。
(13)(1)〜(12)のいずれか一項に記載の組成物からなることを特徴とする成形体。
(14)(1)〜(12)のいずれか一項に記載の組成物を、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、または粉末成形によって成形する工程を含むことを特徴とする成形体の製造方法。
(15)(1)〜(12)のいずれか一項に記載の組成物からなることを特徴とするフィルム。
(16)(1)〜(12)のいずれか一項に記載の組成物を溶液流延法により製膜する工程を含むことを特徴とするフィルムの製造方法。
(17)(1)〜(12)のいずれか一項に記載の組成物を無溶剤で製膜する工程を含むことを特徴とするフィルムの製造方法。
(18)(1)〜(12)のいずれか一項に記載の組成物を溶融押出法により製膜する工程を含むことを特徴とするフィルムの製造方法。
(19)前記製膜をインフレーション法により行うことを特徴とする(18)に記載のフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の組成物には、広範なマトリクス材料を用いることができ、さまざまな機能を持たせることができる。例えば、マトリクス材料として熱可塑性樹脂を選択した場合、加工性を有する組成物を提供することができる。本発明の組成物を用いて製造した成形体やフィルムは、透明性、低熱膨張性を示す。また、本発明の製造方法を用いれば、そのような特徴を有する成形体やフィルムを簡便に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下において、本発明の組成物およびそれを用いた成形体とフィルムについて詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0010】
[有機物結晶]
(種類)
本発明の組成物は、有機物結晶を含む。
本発明で用いる有機物結晶の種類は特に制限されないが、アルキル基、アシル基、アシルアミノ基、シアノ基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基、アリールオキシ基、およびシリル基からなる群より選択される少なくとも一つの基で修飾されていることが好ましい。さらに、本発明で用いる有機物結晶は、有機高分子結晶であることが好ましい。有機高分子であることで、耐熱性が向上するためである。有機高分子結晶としては、セルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアラミド、ポリベンゾオキサゾール、液晶ポリマー、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ(p−オキシベンゾイル)などが挙げられるが、セルロース、液晶ポリマー、ポリ(p−オキシベンゾイル)が好ましく、セルロースが特に好ましい。結晶性セルロースは、木材、竹、ケナフ、麻などの植物性由来のもの、酢酸菌などのバクテリアが産生するもの、ホヤ貝などの海洋生物が産生するものなどから得ることができる。
【0011】
(短軸長と長軸長)
本発明で用いる有機物結晶は、短軸長が3〜100nmであり、3〜50nmであることが好ましく、3〜30nmであることがより好ましい。短軸長が3nm未満のものは取り扱い性に乏しく、100nmを超えるものは可視光の散乱のために透明性を損なう要因となる。また、本発明で用いる有機物結晶は、長軸長が10〜2000nmであり、50〜1500nmであることがより好ましく、100〜1000nmであることがさらに好ましい。10nm未満では形状が球形に近くなり、マトリクスとの複合効果が低下し、2000nmを超えると混合性が低下する。長軸長を2000nm以下にすることで、マトリクスとの混合が容易となり、利用可能なマトリクスの種類の範囲が広がるという利点がある。
【0012】
短軸長が3〜100nmで長軸長が10〜2000nmである有機物結晶の取得方法は特に制限されない。例えば、バクテリアセルロースや市販の微結晶セルロースなどの結晶性の高いセルロースを鉱酸にて加水分解する方法や、高圧ホモジナイザーで離解・分散する方法などを用いることにより得ることができる。
【0013】
(条件1)
本発明の組成物には、界面活性剤が吸着している有機物結晶を好ましく用いることができる。界面活性剤が吸着することで、マトリクスへの分散性が向上し、凝集が抑制されるため、透明性の向上、弾性率の向上などに効果がある。ここで用いる界面活性剤の種類は特に制限されず、アニオン性、カチオン性、ノニオン性のいずれを用いてもよいが、カチオン性の界面活性剤を用いることが好ましい。
【0014】
カチオン性界面活性剤として、例えば、アンモニウムイオン、ホスホニウムイオン、ピリジニウムイオン、イミダゾリニウムイオン、キヌクリジニウムイオンなどが挙げられる。耐熱性の観点からは、ホスホニウムイオン、キヌクリジウムイオンが好ましい。アニオン性界面活性剤として、例えば、硫酸イオン、スルホン酸イオン、カルボン酸イオンが挙げられ、スルホン酸イオンが好ましい。ノニオン性界面活性剤として、例えば、ポリエチレングリコールを主鎖中に含むポリマーが挙げられる。
【0015】
界面活性剤は、低分子型でもよく、高分子型でもよい。ここでいう低分子型とは、分子量が15以上2000未満であるものを意味し、100〜1000であるものが好ましい。また、高分子型とは、分子量が2000〜1000000であるものを意味し、5000〜500000であるものが好ましい。
【0016】
本発明で用いる界面活性剤は、アルキル基(好ましくは炭素数1〜36、より好ましくは炭素数1〜24)、アリール基(好ましくは炭素数6〜40、より好ましくは炭素数6〜30)、アルカリール基(好ましくは炭素数7〜30、より好ましくは炭素数7〜15)、アラルキル基(好ましくは炭素数7〜20、より好ましくは炭素数7〜12)、ヘテロアリール基(好ましくは炭素数5〜40、より好ましくは炭素数5〜30)、シクロアルキル基(好ましくは炭素数5〜20、より好ましくは炭素数5〜15)を有するものが好ましい。
【0017】
以下に、本発明で用いることができる界面活性剤の具体例を例示するが、本発明で用いることができる界面活性剤はこれらに限定されるものではない。
【0018】
【化3】

【0019】
【化4】

【0020】
【化5】

【0021】
界面活性剤の吸着量は、有機物結晶の100質量部あたり通常1〜100質量部であり、好ましくは1〜50質量部であり、より好ましくは1〜20質量部である。有機物結晶に対する界面活性剤の吸着は、通常用いられる方法のいずれかにより行うことができる。好ましいのは、有機物結晶を溶媒に分散させ、界面活性剤を添加することにより界面活性剤を吸着させる方法である。
【0022】
(条件2)
本発明の組成物には、無機イオンが吸着している有機物結晶を好ましく用いることができる。無機イオンが吸着することで、熱分解温度を向上させ、耐熱温度を向上させることができる。耐熱温度を向上させることによって、熱可塑性樹脂との溶融混合する際に高温まで温度を上げて使用することができるという利点がある。
【0023】
吸着に用いる無機イオンとして、例えば、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、アルミニウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン、ラジウムイオン、銅イオン、銀イオン、金イオン、亜鉛イオン、ニッケルイオン、コバルトイオンなどが挙げられ、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオンが好ましい。
【0024】
無機イオンの吸着量は、有機物結晶の100質量部あたり通常0.00001〜20質量部であり、好ましくは0.0001〜10質量部であり、より好ましくは0.0001〜5質量部である。有機物結晶に対する無機イオンの吸着は、通常用いられる方法のいずれかにより行うことができる。好ましいのは、有機物結晶を溶媒に分散させ、無機塩を添加することにより無機イオンを吸着させる方法である。
【0025】
(条件3)
本発明の組成物には、特定の無機化合物が結合している有機物結晶を好ましく用いることができる。ここでいう特定の無機化合物とは、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化バリウム、およびハイドロキシアパタイトからなる群より選択される1以上の無機化合物である。これらの無機化合物が結合することにより、マトリクス材料中での分散性を向上させ、熱分解温度を上昇させる効果が得られる。
【0026】
無機化合物の割合は、有機物結晶の100質量部あたり通常0.0001〜100質量部であり、好ましくは0.0001〜50質量部であり、より好ましくは0.0001〜30質量部である。有機物結晶に対する無機化合物の結合は、通常用いられる方法のいずれかにより行うことができる。好ましいのは、有機物結晶を溶媒に分散させ、金属アルコキシド、シランカップリング剤などを添加することにより無機化合物を結合させる方法である。
【0027】
(条件4)
本発明の組成物には、一般式(1)で表される基を有する有機物結晶を好ましく用いることができる。有機基が結合することで、先述の界面活性剤の吸着と同様の効果がある。つまり、マトリクスへの分散性が向上し、凝集が抑制されることにより、透明性の向上、弾性率の向上などに効果がある。
【0028】
一般式(1)において、L1は上記一般式(2)〜(21)のいずれかで表される連結基である。なかでも、結合の形成させやすさの観点から、一般式(2)、(3)、(4)、(6)、(7)、(8)、(10)、(11)、(15)、(16)、(17)、(18)、(19)のいずれかで表される連結基であることが好ましく、一般式(2)、(3)、(4)、(6)、(7)、(8)、(15)、(16)、(18)のいずれかで表される連結基であることがより好ましく、一般式(2)、(4)、(6)、(7)、(15)のいずれかで表される連結基であることがさらに好ましい。
【0029】
有機物結晶が結晶性セルロースである場合には、結晶表面のヒドロキシル基との反応により、一般式(1)で表される基を導入することができる。この場合、一般式(1)のL1は(2)、(4)、(6)、(7)、(15)、(21)のいずれかで表される連結基であることが好ましい。
【0030】
一般式(1)において、nは0〜4の整数を表し、0〜2であることが好ましく、1〜2であることがより好ましい。nが2〜4の整数であるとき、n個のL1は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0031】
一般式(1)において、R1は有機基を表す。有機基の分子量は1000以下のものであってもよいし、1000を超えるものであってもよい。
分子量1000以下の有機基として、アルキル基(好ましくは炭素数1〜36、より好ましくは炭素数1〜18;例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基など)、アリール基(好ましくは炭素数6〜36、より好ましくは炭素数6〜24;例えば、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基など)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜36、より好ましくは炭素数1〜18;例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基など)、アシル基(好ましくは炭素数2〜36、より好ましくは炭素数2〜18;例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基など)、アシルアミノ基(好ましくは炭素数1〜36、より好ましくは炭素数1〜18;例えば、ホルミルアミノ基、アセチルアミノ基など)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜36、より好ましくは炭素数6〜24;例えば、フェノキシ基など)、シアノ基、シリル基(例えば、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基、ジメチルブチルシリル基など)などが挙げられる。
【0032】
有機基は、置換基を有していていもよい。置換基としては、ハロゲン原子、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基など)、アリール基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜15;例えば、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基など)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜12;例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基など)、アシル基(好ましくは炭素数2〜36、より好ましくは炭素数2〜18;例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基など)、アシルアミノ基(好ましくは炭素数1〜36、より好ましくは炭素数1〜18;例えば、ホルミルアミノ基、アセチルアミノ基など)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜36、より好ましくは炭素数6〜18;例えば、フェノキシ基など)、アシルオキシ基(好ましくは炭素数2〜36、より好ましくは炭素数2〜18;例えば、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基など)、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基などが挙げられる。
【0033】
分子量1000を超える有機基として、ポリマー、オリゴマーを用いることができる。ポリマー、オリゴマーが結合する場合、マトリクス中での立体反発により凝集が抑制される点で好ましい。ポリマー、オリゴマーは前記で示した置換基を有していてもよい。
【0034】
本発明で用いることができる有機基の具体例を以下に例示するが、本発明で採用することができる有機基はこれらに限定されるものではない。
【0035】
【化6】

【0036】
【化7】

【0037】
【化8】

【0038】
【化9】

【0039】
【化10】

【0040】
【化11】

【0041】
【化12】

【0042】
【化13】

【0043】
【化14】

【0044】
【化15】

【0045】
(有機物結晶の好ましい性質)
本発明で用いる有機物結晶は、上記の条件1〜4のうちの1つだけを満たすものであってもよいし、2つ以上を満たすものであってもよい。マトリクス中への分散性を向上させるためには、条件(1)、(3)および(4)のいずれか1つ以上を満たすことが好ましい。
【0046】
本発明で用いる有機物結晶の引張弾性率は、10GPa以上が好ましく、50GPa以上がさらに好ましく、100GPa以上が特に好ましい。弾性率が大きいことで、複合組成物の性能向上効果が大きくなるためである。例えば、弾性率向上、低熱膨張化に効果がある。
【0047】
本発明で用いる有機物結晶の熱膨張係数は、20ppm/℃以下であることが好ましく、15ppm/℃以下であることがさらに好ましく、10ppm/℃以下であることが特に好ましい。熱膨張係数が小さいことにより、マトリクスとの複合化後の熱膨張の低下効果が大きくなるためである。
【0048】
本発明で用いる有機物結晶は、硫酸根を実質的に含まないことが好ましい。実質的に含まないとは、誘導結合プラズマ法(ICP)などの分析方法で定量される硫酸根に由来する硫黄の量が、有機物結晶1g当たりに、0.01mmol以下であることを指す。硫酸根を実質的に含まないことで、有機物結晶の熱分解温度の低下を抑制し、マトリクス樹脂との複合化でより高温のプロセスに用いることができる、複合組成物の耐熱性が向上するなどの利点がある。有機物結晶が結晶性セルロースである場合には特に、熱分解温度の低下の抑制に効果がある。実質的に硫酸根を含まない有機物結晶の調製方法としては、結晶性セルロースの場合を例にとると、塩酸による微結晶セルロースの加水分解による方法や、特開2005−270891号公報に開示されている対向衝突法等が挙げられる。
【0049】
本発明で用いる有機物結晶が硫酸根を含んでいる場合、硫酸根の量に対応した無機イオンが吸着していることが好ましい。吸着する無機イオンの好ましい量(硫酸根の量に対してのモル比)は、無機イオンが一価の場合、0.8〜1.2が好ましく、0.9〜1.1がさらに好ましく、0.95〜1.05が特に好ましい。二価の場合、0.4〜0.6が好ましく、0.45〜0.55がさらに好ましく、0.47〜0.52が特に好ましい。好ましい無機イオンは先述したものが挙げられる。無機イオンが吸着することで硫酸根による熱分解温度の低下を抑制する効果がある。しかしながら、無機イオンの吸着は本発明の有機物結晶のマトリクスへの分散性を低下させる。無機イオンによる分散性低下を補うため、本発明の有機物結晶に界面活性剤が吸着している、および/または有機基で修飾されていることが好ましい。
【0050】
[マトリクス材料]
本発明の組成物は、マトリクス材料を含む。
本発明でいうマトリクス材料とは、本発明で用いる有機物結晶の周囲に存在する物質のことであり、気体、液体、固体のいずれであってもよい。本発明で用いるマトリクス材料の種類は特に限定されるものではないが、樹脂材料を用いることが好ましい。樹脂は複数種使用してもよく、熱可塑性樹脂、溶媒可溶性樹脂または硬化性樹脂を好適に使用することができる。熱可塑性樹脂を用いた場合は、本発明の組成物の成形がしやすくなるという特徴がある。また、熱可塑性樹脂、硬化性樹脂を用いた場合は、本発明の組成物の光学的な異方性が小さくなるという特徴がある。
【0051】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ABS樹脂、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリシクロオレフィン(日本ゼオン社ゼオノア、JSR社製アートン、ポリプラスチック社製TOPAS、三井化学社製アペルなど)、ポリ乳酸、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリカプロラクトン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンサクシネート、ポリ3ヒドロキシブチレート、ポリアリレート、ナイロン、アラミド、熱可塑性エラストマー、シリコーンなどが挙げられる。
【0052】
熱硬化性樹脂としては、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、フラン樹脂、ビスマレイミド樹脂、シアネート樹脂などが挙げられる。
【0053】
溶媒可溶性樹脂は、水または有機溶媒に可溶であるものを用いることができる。溶媒可溶性樹脂を溶解する有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、塩化メチレン、クロロホルム、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)、DMAc(N,N−ジメチルアセトアミド)、NMP(N−メチルピロリドン)、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、1,4−ジオキサン、THF、酢酸エチル、酢酸メチル、アセトニトリル、グリセリン、エチレングリコール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノール、トルエン、キシレン、アニソール、n−ヘキサン、シクロヘキサン、1,2−ジクロロエタン、酢酸、トリフルオロ酢酸、ピリジン、DMSO(ジメチルスルホキシド)、ニトロメタン、ニトロベンゼンなどが挙げられ、これらを単独または複数混合して用いることができる。
【0054】
本発明の組成物に用いる有機物結晶によって、使用するマトリクス材料を選択することが好ましい場合がある。
例えば、前記のS−4、S−10に代表されるような疎水性の高い界面活性剤が吸着している有機物結晶を用いる場合には、マトリクス樹脂として、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリ乳酸、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオキシメチレンなどが好ましく用いられる。また、一般式(1)で表される基として、前記のZ−1、Z−3、Z−20に代表されるような疎水性の高い基が結合している有機物結晶を用いる場合には、マトリクス樹脂として、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリ乳酸、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオキシメチレンなどが好ましく用いられる。
【0055】
本発明の組成物に用いる有機物結晶とマトリクス材料の好ましい組み合わせとしては、有機物結晶がセルロースである場合には、マトリクス材料としてセルローストリアセテート、セルロースジアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのセルロース系樹脂や、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリヒドロキシアルカノエートなどの脂肪族ポリエステルが好ましい。
【0056】
[組成物の作成方法]
本発明の組成物は、有機物結晶とマトリクス材料を混合することにより得られる。
例えば、マトリクス材料が熱可塑性樹脂である場合は、二軸混練機などを用いて加熱して樹脂を溶融させた状態で有機物結晶と混合することができる。混練温度は、熱可塑性樹脂の溶融粘度が低くなる温度であって、なおかつ、有機物結晶の熱分解温度以下である温度とすることが好ましい。
有機物結晶が結晶性セルロースである場合には、混練温度は、270℃以下であることが好ましく、260℃以下であることがさらに好ましく、250℃以下であることが特に好ましい。
【0057】
マトリクス材料が溶媒可溶性樹脂である場合は、溶媒に樹脂を溶解させることで有機物結晶を混合することができる。溶媒可溶性樹脂の場合は、有機物結晶の熱分解温度より十分低い温度で混合することができるという利点がある。用いる溶媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、塩化メチレン、クロロホルム、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)、DMAc(N,N−ジメチルアセトアミド)、NMP(N−メチルピロリドン)、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、1,4−ジオキサン、THF、酢酸エチル、酢酸メチル、アセトニトリル、グリセリン、エチレングリコール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノール、トルエン、キシレン、アニソール、n−ヘキサン、シクロヘキサン、1,2−ジクロロエタン、酢酸、トリフルオロ酢酸、ピリジン、DMSO(ジメチルスルホキシド)、ニトロメタン、ニトロベンゼンなどを挙げることができる。これら溶媒を複数混合した混合溶媒として用いてもよい。
【0058】
マトリクス材料が硬化性樹脂である場合には、液状モノマーおよび/またはプレポリマーに有機物結晶を添加することにより混合することができる。この際、適宜溶剤を使用してもよい。溶剤としては上記に示したものを使用することができる。
【0059】
本発明の組成物における、マトリクスと有機物結晶との混合質量比は、通常1:0.01〜3であり、好ましくは1:0.01〜2であり、より好ましくは1:0.02〜2であり、さらに好ましくは1:0.03〜1である。有機物結晶の割合が少なすぎると、熱膨張係数の低下や弾性率の向上の効果がほとんど見られなくなる傾向があり、有機物結晶の割合が多すぎると成型が困難となる傾向がある。
【0060】
本発明の組成物には、有機物結晶とマトリクス材料以外の成分が含まれていてもよい。そのような成分として、例えば、熱安定剤、可塑剤、UV吸収剤、着色剤、ゴム、エラストマーなどを挙げることができる。これらの成分の添加量は、組成物の0.0001〜20質量%であるのが好ましく、0.0001〜 10質量%であるのがより好ましく、0.0001〜5質量%であるのがさらに好ましい。
【0061】
[成形体]
本発明の組成物を成形して、成形体として用いることができる。成形方法としては、射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形、圧空成形、インフレーション成形、圧縮成形、トランスファ成形、粉末成形など一般に広く用いられている成形方法を利用することができ、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、または粉末成形であることが好ましい。成形体の形状やサイズは、成形体の使用目的に応じて適宜決定することができる。本発明の成形体は、例えば、構造材料、繊維、光学部品(カメラレンズ、ピックアップレンズなど)、パッキン、ギア、肉薄部品、ハードコート材料などとして用いることができる。
【0062】
[フィルム]
本発明の組成物を製膜して、フィルムとして用いることもできる。本発明のフィルムには、一般にシート状であるとみなされる形状を有するものも包含される。フィルムの製造方法としては、溶融製膜法、溶液流延法などの公知の方法が用いることができる。
【0063】
本発明のフィルムは、延伸されていてもよい。延伸は、ロール一軸延伸法、テンター一軸延伸法、同時二軸延伸法、逐次二軸延伸法、インフレーション法、プレス延伸法により行うことができる。
【0064】
本発明のフィルムの厚みは、特に規定されないが30〜700μmであることが好ましく、40〜200μmであることがより好ましく、50〜150μmであることがさらに好ましい。また、いずれの場合もヘイズは3%以下であることが好ましく、2%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。また、全光線透過率は70%以上が好ましく、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上である。
【0065】
本発明のフィルムの引張弾性率は、2GPa以上が好ましく、3GPa以上がさらに好ましく、4GPa以上が特に好ましい。本発明のフィルムの熱膨張係数は、50ppm/℃以下が好ましく、30ppm/℃以下がさらに好ましく、20ppm/℃以下が特に好ましい。
【0066】
本発明のフィルムは、用途に応じて光学的な機能を持たせることが可能である。例えば、Re(面内のレタデーション)やRth(膜厚方向のレタデーション)を有するフィルムを提供することができる。本発明のフィルムのReは、通常0〜500nmであり、好ましくは0〜300nmであり、より好ましくは0〜200nmである。Reを好ましい範囲内に調整するためには、フィルムを延伸するなどの方法を採用することができる。本発明のフィルムのRthは、通常0〜3000nmであり、好ましくは0〜2000nmであり、より好ましくは0〜1000nmである。Rthを比較的低く抑えたフィルムを製造したい場合には、例えば溶媒を用いずに製膜する方法を採用することができる。溶媒を用いずに製膜した場合のRth抑制効果は、本発明の組成物を用いた場合に特に顕著である。
【0067】
本発明のフィルムは、表面処理したり積層したりすることができる。例えば、本発明のフィルム表面には、部品等との密着性を高めるために、ケン化、コロナ処理、火炎処理、グロー放電処理等の方法により処理することができる。また、フィルムの少なくとも片面に接着層、アンカー層を設けてもよい。さらに、フィルム表面には、平滑化層、ハードコート層、紫外線吸収層、表面粗面化層、透明導電層、ガスバリア層、耐溶剤性層など目的に応じて種々の公知の機能性層を設けることもできる。
【0068】
本発明のフィルムは、光学フィルム、位相差フィルム、偏光板保護フィルム、透明導電フィルム、表示装置用基板、フレキシブルディスプレイ用基板、フラットパネルディスプレイ用基板、太陽電池用基板、タッチパネル用基板、フレキシブル回路用基板、光ディスク保護フィルム、磁気記録媒体用基板、調光フィルム、農業用フィルム、ガスバリアフィルム、包装用フィルム、電磁波防止フィルム、防犯フィルム、制振フィルム、防音フィルム、振動板、スピーカーコーンなどに用いることができる。
【実施例】
【0069】
以下に製造例、実施例、比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0070】
[測定法]
製造例、実施例、比較例で用いた測定法を以下に記載する。
【0071】
(有機物結晶の大きさ)
有機物結晶の大きさは、透過型電子顕微鏡にて観察し、視野内で無作為に選んだ100個の粒子の幅(短軸長)および長さ(長軸長)を集計し、その平均値を算出することにより求めた。
【0072】
(有機物結晶中の硫酸根および金属の定量)
有機物結晶を50mgにHNO3を3mL添加し、これをマイクロウェーブにて灰化した。これに水を加えて総量を50mLとした。この調製液を誘導結合プラズマ法(ICP-OES)にて分析することで、硫黄、ナトリウムおよびカルシウムの定量を行った。ここで検出された硫黄量を硫酸根量とした。
【0073】
(熱分解温度)
セイコーインスツルメンツ(株)製 TG/DTA6200を用いて、窒素下、昇温速度10℃/分にて重量減少を測定し、2%重量減少温度を熱分解温度とした。
【0074】
(重量平均分子量)
東ソー(株)製のHLC−8120GPCを用いて、テトラヒドロフランを溶媒とするポリスチレン換算GPC測定により、ポリスチレンの分子量標準品と比較して求めた。
【0075】
(フィルムの膜厚)
アンリツ(株)製のK402Bを用いて、ダイヤル式厚さゲージにより測定した。
【0076】
(フィルムの光線透過率)
分光光度計(島津製、UV−3100PC)で測定した。測定波長550nmの値を代表値とし、膜厚を100μmの場合の透過率の値に換算した。
【0077】
(フィルムのヘイズ)
ヘイズメーター(日本電色製、Haze Meter NDH2000)で測定した。
【0078】
(フィルムの線熱膨張係数)
フィルムサンプル(19mm×5mm)を作製し、TMA(セイコーインスツルメンツ製、EXSTAR6000)を用いて測定した。測定速度は、3℃/minとした。測定は3サンプルについて行い、その平均値を用いた。測定は50℃から250℃の温度範囲で行い、線熱膨張係数は昇温時の100℃から150℃の範囲で計算した。但し、ガラス転移温度(Tg)が200℃以下の比較例サンプルについては、50℃から(Tg−30)℃の温度範囲で算出した。
【0079】
(フィルムの引張弾性率)
フィルムサンプル(1.0cm×5.0cm片)を作製し、25℃、相対湿度60%で一晩放置後、25℃、引張速度3mm/分の条件下でテンシロン(東洋ボールドウィン(株)製、テンシロンRTM−25)を用いて引張弾性率を測定した(チャック間距離3cm)。測定は3サンプルについて行い、その平均値を求めることにより評価した。
【0080】
(フィルムのレタデーション)
波長589.3nmにおける値を位相差測定装置(王子計測機器(株)製、KOBRA−WR)により測定した。
【0081】
(フィルムの表面粗さ)
マイクロマップMM3200(マイクロマップ社)を用いて表面粗さを測定した。
【0082】
[セルロース結晶の調製]
<製造例1>
3Lの三口フラスコに結晶セルロース(旭化成ケミカルズ社製、セオラスTGF20)50gを入れ、あらかじめ45℃に加温した64%硫酸(和光純薬製)500mLをフラスコに加えた。懸濁液の温度を45℃になるように水浴にて保温し、窒素下にて攪拌した。2時間後、水浴を氷にて冷却しながら、500mLの冷水を内温が45℃を越えないように徐々に加えた。懸濁液を遠心分離(10000rpm、10分間)し、残った沈殿に対して水洗と遠心分離を繰り返した。上澄みが濁ってきたところで、上澄みと沈殿をすべて回収し、上澄みと追加する水の量の総量が2000mLとなるように水を加えた。この液を1時間超音波処理した。懸濁液を遠心分離機すると、白濁した上澄みが得られた。この白濁液を回収し、蒸留水にて透析することで、セルロース結晶の水分散液(以下、分散液1と呼ぶ)を得た。これを凍結乾燥することでセルロース結晶粉体(以下W0と呼ぶ)を得た。分散液中のセルロース結晶の割合は0.94重量%であった。透過型電子顕微鏡にて観察したところ、セルロース結晶の大きさは、平均短軸長8nm、平均長軸長158nmであった。
分散液1を0.2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液にて中和し、蒸留水にて透析することでナトリウム中和分散液(以下、分散液2と呼ぶ)を得た。これを凍結乾燥することで、セルロース結晶粉体(以下W1と呼ぶ)を得た。
【0083】
<製造例2>
Macromolecules誌、1995年発刊、28巻、6365−6367頁に記載の方法で、セルロース結晶分散液(分散液3)を得た。分散液3中のセルロース結晶の割合は0.61重量%であった。透過型電子顕微鏡にて観察したところ、セルロース結晶の大きさは、平均短軸長10nm、平均長軸長1255nmであった。
分散液3を0.2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液にて中和し、蒸留水にて透析することでナトリウム中和分散液(以下、分散液3Naと呼ぶ)を得た。これを凍結乾燥することで、セルロース結晶粉体(以下WT1と呼ぶ)を得た。
【0084】
<製造例3>
製造例1と同様の方法にて、原料として、リンターパルプを用いることで、セルロース結晶の水分散液(以下、分散液4と呼ぶ)を得た。分散液4中のセルロース結晶の割合は0.55重量%であった。透過型電子顕微鏡にて観察したところ、セルロース結晶の大きさは、平均短軸長5nm、平均長軸長326nmであった。
分散液4を0.2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液にて中和し、蒸留水にて透析することでナトリウム中和分散液(以下、分散液4Naと呼ぶ)を得た。これを凍結乾燥することで、セルロース結晶粉体(以下WC1と呼ぶ)を得た。
【0085】
<製造例4>
Langmuir誌、Vol. 17、21〜27頁に記載されている方法(塩酸による微結晶セルロースの加水分解法)にて、セルロース結晶の水分散液(以下、分散液5と呼ぶ)を得た。分散液5中のセルロース結晶の割合は0.66重量%であった。透過型電子顕微鏡にて観察したところ、セルロース結晶の大きさは、平均短軸長7nm、平均長軸長165nmであった。
これを凍結乾燥することで、セルロース結晶粉体(以下WE1と呼ぶ)を得た。
【0086】
[界面活性剤による吸着]
<製造例5>
製造例1で調製した分散液2の1Lに、トリブチルステアリルホスホニウムブロマイド(アルドリッチ社製)1.07gを添加し、室温にて1時間攪拌した。遠心分離により沈殿を分離し、水洗と遠心分離を3回繰り返した。最終的な沈殿物を蒸留水の流水中で透析した後、凍結乾燥することで界面活性剤吸着セルロース結晶(以下W2と呼ぶ)を得た。
【0087】
<製造例6>
製造例5と同様の操作にて、界面活性剤としてトリブチルステアリルホスホニウムブロマイドの代わりにトリブチルヘキサデシルホスホニウムブロマイド(アルドリッチ社製)1.02gを用いることで界面活性剤吸着セルロース結晶(以下W3と呼ぶ)を得た。
【0088】
<製造例7>
製造例5と同様の操作にて、界面活性剤としてトリブチルステアリルホスホニウムブロマイドの代わりにトリメチルステアリルアンモニウムクロライド0.69gを用いることで界面活性剤吸着セルロース結晶(以下W4と呼ぶ)を得た。
【0089】
<製造例8>
製造例5と同様の操作にて、界面活性剤としてトリブチルステアリルホスホニウムブロマイドの代わりにジメチルジステアリルアンモニウムクロライド2.24gを用いることで界面活性剤吸着セルロース結晶(以下W5と呼ぶ)を得た。
【0090】
<製造例9>
製造例5と同様の操作を行い、水洗後の沈殿を水酸化カルシウム水溶液(0.01重量%)中で1時間攪拌後、遠心分離、水洗の操作を追加することで、界面活性剤吸着セルロース結晶(以下W6と呼ぶ)を得た。
【0091】
<製造例10>
製造例4と同様の操作にて、分散液として分散液3の1Lを用いることで、界面活性剤吸着セルロース結晶(以下WT2と呼ぶ)を得た。
【0092】
<製造例11>
製造例4と同様の操作にて、分散液として分散液4の1Lを用いることで、界面活性剤吸着セルロース結晶(以下WC2と呼ぶ)を得た。
【0093】
<製造例12>
製造例1で調製した分散液1をテトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液にて中和し、蒸留水にて透析した。これを凍結乾燥することで、界面活性剤吸着セルロース結晶(以下WA1と呼ぶ)を得た。
【0094】
[化学結合による修飾]
<製造例13>
製造例1で調製したW1を1.0g用意して脱水DMAc50mLに加え、超音波処理することで、DMAc分散液を得た。ここに、無水酢酸1.42mL(15mmol)、ピリジン1.82mL(22.5mmol)、ジメチルアミノピリジン10mgを添加し、窒素下、100℃にて、5時間加熱した。反応液を3gの塩化ナトリウムを溶解させた水/メタノール混合液(体積比1/1)250mLLに投入し、攪拌後、遠心分離により沈殿を回収した。沈殿を水/メタノール混合液(体積比1/1)中で攪拌し遠心分離する操作を2回繰り返した。沈殿物を凍結乾燥することにより、アセチル化セルロース結晶(以下W7と呼ぶ)を得た。
【0095】
<製造例14>
製造例13と同様の操作にて、無水酢酸の代わりに酪酸無水物を使用することで、ブチリル化セルロース結晶(以下W8と呼ぶ)を得た。
【0096】
<製造例15>
製造例13と同様の操作にて、無水酢酸の代わりに安息香酸塩化物を使用することで、ベンゾイル化セルロース結晶(以下W9と呼ぶ)を得た。
【0097】
<製造例16>
製造例13と同様の操作にて、無水酢酸の代わりにオクタン酸塩化物を使用することで、オクタノイル化セルロース結晶(以下W10と呼ぶ)を得た。
【0098】
<製造例17>
製造例13と同様の操作にて、無水酢酸の代わりにトリフルオロ酢酸無水物を使用することで、トリフルオロアセチル化セルロース結晶(以下W11と呼ぶ)を得た。
【0099】
<製造例18>
製造例13と同様の操作を行い、水洗後の沈殿を水酸化カルシウム水溶液(0.01重量%)中で1時間攪拌後、蒸留水中で二日間透析した。透析後の分散液を凍結乾燥することで、アセチル化セルロース結晶(以下W12と呼ぶ)を得た。
【0100】
<製造例19>
製造例14と同様の操作を行い、水洗後の沈殿を水酸化カルシウム水溶液(0.01重量%)中で1時間攪拌後、蒸留水中で二日間透析した。透析後の分散液を凍結乾燥することで、ブチリル化セルロース結晶(以下W13と呼ぶ)を得た。
【0101】
<製造例20>
製造例14と同様の操作にて原料にWE1を用いることで、ブチリル化セルロース結晶(以下WE2と呼ぶ)を得た。
【0102】
[セルロース結晶の熱分解温度]
製造例1、3、14、18、19、20で調製したセルロース結晶の硫酸根と金属イオンの測定値と熱分解温度を表1にまとめた。
【表1】

硫酸根を実質的に含まない(<0.01mmol/g)WE1、WE2は熱分解温度が高い。硫酸根を含有しているW0、W7、W8は熱分解温度が低い。これらにアルカリ金属イオンを吸着させることで熱分解温度を向上させることができる。熱分解温度が高いことで、マトリクス樹脂との複合化プロセスにおいて溶融混練などの高温にさらされる手法を用いることができる。
【0103】
[組成物およびフィルムの調製]
<実施例1>
製造例5で調製したW2(2.0g)をDMAc80mLに添加し、超音波処理することで均一な分散液を調製した。ここに下記構造式で表されるP−1(重量平均分子量83000)を18.0g添加し、ローターミキサーにて攪拌することで、ドープを作製した。ガラス板の上にドープを展開し、アプリケータ−にてクリアランス800μmとして、流延した。ガラス板に蓋をかぶせ、120℃の送風乾燥機中にて2時間乾燥したのち、ガラス板より剥ぎ取り後、金枠に固定し、真空乾燥機中で、80℃で1時間、100℃で1時間、120℃で1時間、140℃で1時間、150℃で1時間乾燥した。乾燥機から取り出し、室温に冷却することで厚み85μmのフィルムF−1を作製した。
【0104】
【化16】

【0105】
<実施例2>
実施例1と同様の操作にて、W2(6.0g)とP−1(14.0g)を用いてフィルムF−2を作製した。
【0106】
<実施例3>
実施例1と同様の操作にて、W2(10.0g)とP−1(10.0g)を用いてフィルムF−3を作製した。
【0107】
<実施例4>
実施例2と同様の操作にて、樹脂として下記構造式で表されるP−2(重量平均分子量80000)を用いることでフィルムF−4を作製した。
【0108】
【化17】

【0109】
<実施例5>
製造例12で調製したWA1(6.0g)をN,N−ジメチルアセトアミド115mLに添加し、超音波処理することで均一な分散液を調製した。ここにセルロースジリアセテート(アセチル基置換度2.15)を14.0g添加し、ローターミキサーにて攪拌することで、均一なドープを作製した。ガラス板の上にドープを展開し、アプリケータ−にて(クリアランス800μm)流延した。ガラス板に蓋をかぶせ、120℃の送風乾燥機中にて2時間乾燥したのち、ガラス板より剥ぎ取り後、金枠に固定し、真空乾燥機中で、80℃で1時間、100℃で1時間、120℃で1時間、140℃で1時間、150℃で1時間乾燥した。乾燥機から取り出し、室温に冷却することで厚み85μmのフィルムF−5を作製した。
【0110】
<実施例6>
実施例2と同様の操作にて、樹脂としてポリカーボネート(重量平均分子量60000)を用いることでフィルムF−6を作製した。
【0111】
<実施例7>
実施例2と同様の操作にて、樹脂としてポリスチレン(重量平均分子量75000)を用いることでフィルムF−7を作製した。
【0112】
<実施例8>
製造例14で調製したW8(4.0g)をジシクロペンタジエニルジアクリレートとアクリロイルエトキシビスフェノールAおよび1−ヒドロキシフェニルケトンの混合物(重量比で60/40/2)16.0gと混合し、均一な混合物とした。
ガラス板の上に混合液を展開し、アプリケータ−にて(クリアランス100μm)流延した。UVを1000mJ/cm2照射後、イナートオーブン中にて窒素下、100℃で1時間、170℃で1時間加熱することで、マトリクスを硬化させた。これらの操作により、厚み90μmのフィルムF−8を得た。
【0113】
<実施例9>
実施例1と同様の操作にて、製造例10で調製したWT2(6.0g)とP−1(14.0g)を用いてフィルムF−9を作製した。
【0114】
<実施例10>
実施例1と同様の操作にて、製造例11で調製したWC2(6.0g)とP−1(14.0g)を用いてフィルムF−10を作製した。
【0115】
<実施例11>
実施例1と同様の操作にて、WE2(6.0g)とP−1(14.0g)を用いてフィルムF−11を作製した。
【0116】
<実施例12>
実施例1と同様の操作にて、WA1(6.0g)とP−1(14.0g)を用いてフィルムF−12を作製した。
【0117】
<実施例13>
実施例1と同様の操作にて、W13(6.0g)とセルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル社製、CAP482-20、14.0g)を用いてフィルムF−13を作製した。
【0118】
<実施例14>
実施例1と同様の操作にて、WA1(6.0g)とセルロースアセテートプロピオネート(14.0g)を用いてフィルムF−14を作製した。
【0119】
<比較例1>
実施例1と同様の操作にて、W1(6.0g)とP−1(14.0g)を用いてフィルムH−1を作製した。
【0120】
<比較例2>
特開2005−60680号公報の製造例1に記載の方法にて、セルロースミクロフィブリルからなるシート(以下HS−1と呼ぶ)を調製した。走査型電子顕微鏡で観察したところ、平均幅10nm長さ100μm以上の長繊維が3次元に絡まったものであった。これに硬化マトリクスとしてジシクロペンタジエニルジアクリレートとビス[(4−アクリロイルエトキシ)フェニル]イソプロピリデンおよび1−ヒドロキシフェニルケトンの混合物(重量比で60/40/2)を用いて、特開2005−60680号公報の実施例1〜3に記載の方法にてシートに含浸させた。このときシートに対して混合物を30重量%となる量で含浸させた。UVを1000mJ/cm2照射後、イナートオーブン中にて窒素下、100℃で1時間、170℃で1時間加熱することで、マトリクスを硬化させた。これらの操作により、厚み52μmのフィルムH−2を得た。
【0121】
<比較例3>
HS−1にP−1のDMAc溶液(10重量%)を特開2005−60680号公報の実施例1〜3に記載の方法にて含浸させようとしたが、ほとんど含浸しなかった。
【0122】
<比較例4>
HS−1にセルロースジアセテート(アセチル置換度2.15)のDMAc溶液(10重量%)を特開2005−60680号公報の実施例1〜3に記載の方法にて含浸させようとしたが、ほとんど含浸しなかった
【0123】
<比較例5>
HS−1にセルロースアセテートプロピオネートのDMAc溶液(10重量%)を特開2005−60680号公報の実施例1〜3に記載の方法にて含浸させようとしたが、ほとんど含浸しなかった
【0124】
<比較例6>
実施例1と同様の操作にて、フィラーとしてホウ酸アルミニウムウィスカー(四国化成工業製、アルボレックスYS3A、繊維径0.5〜1.0μm、繊維長10〜30μm、アミノシラン系で表面修飾されている、以下YS3Aと呼ぶ)2.0gとP−1を18.0g用いることで、厚み90μmのフィルムH−3を得た。
【0125】
<比較例7>
実施例4と同様の操作にて、フィラーとしてYS3Aを2.0gとセルロースジアセテートを18.0g用いることで、フィルムH−4を得た。
【0126】
<比較例8>
実施例5と同様の操作にて、フィラーとしてYS3Aを2.0gとセルロースアセテートプロピオネートを18.0g用いることで、フィルムH−5を得た。
【0127】
<比較例9>
実施例1と同様の操作にて、W2を添加せずに、P−1からなるフィルムH−6を作製した。
【0128】
<比較例10>
実施例4と同様の操作にて、W2を添加せずに、P−2からなるフィルムH−7を作製した。
【0129】
<比較例11>
実施例5と同様の操作にて、WA1を添加せずに、セルロースジアセテートからなるフィルムH−8を作製した。
【0130】
<比較例12>
実施例13と同様の操作にて、W13を添加せず、セルロースアセテートプロピオネートフィルムH−9を作製した。
【0131】
<比較例13>
特開2005−60680号公報の実施例5に記載の方法にて、酢酸菌から産生されたセルロースミクロフィブリルの表面がアセチル化されたシート(以下HS−2と呼ぶ)を調製した。走査型電子顕微鏡で観察したところ、平均幅10nmの長さ100μm以上の長繊維が3次元に絡まったものであった。これに硬化マトリクスとしてジシクロペンタジエニルジアクリレートとビス[(4−アクリロイルエトキシ)フェニル]イソプロピリデンおよび1−ヒドロキシフェニルケトンの混合物(重量比で60/40/2)を用いて、特開2005−60680号公報の実施例1〜3に記載の方法にてシートに含浸させた。UVを1000mJ/cm2照射後、イナートオーブン中にて窒素下100℃で1時間加熱し、さらに170℃で1時間加熱することで、マトリクスを硬化させた。これらの操作により、厚み53μmのフィルムH−10を得た。
【0132】
<比較例14>
HS−2にP−1のDMAc溶液(10重量%)を特開2005−60680号公報の実施例1〜3に記載の方法にて含浸させようとしたが、ほとんど含浸しなかった。
【0133】
[測定結果]
上記で作製したフィルムF−1〜F−14、H−1〜H−10の測定結果を表2に示す。なお、フィルムH−3〜H−5については、フィルムの白濁度が大きく、透過率が低いために、透過率、ヘイズ、Re、Rthの測定ができなかった。また、フィルムH−1については、フィルムの光の散乱が大きいためにReとRthの測定ができなかった。
【0134】
【表2】

【0135】
本発明の組成物からなるフィルムは、高い透明性を保ちつつ、熱膨張係数が低下し、弾性率を向上させることができた。これに対して、比較例のセルロースミクロフィブリルを用いた組成物では、ヘイズが大きくなり、硬化系モノマー以外のマトリクスとの複合化は不可能であった。ホウ酸アルミニウムウィスカーを用いた場合には、フィルム化は可能であったが、ウィスカーが大きいために透明性が大きく低下した。本発明にしたがって、マトリクス材料に有機物結晶を使用することによって、得られるフィルムのReを大きくすることができた。
【0136】
<実施例15>
W13を10gとセルロースアセテートプロピオネート40gを攪拌混合したものを、2軸混練機(テクノベル社製、ULT Nano 15TW)にて、220℃で溶融混練した。作成したストランドをカットすることで、複合ペレットを作成した。ペレットを熱プレス機にて、220℃、5MPaの条件でプレスすることで、熱成形フィルム F−15を作成した。
【0137】
<実施例16>
WE2を用いて実施例15と同様の方法にて、複合ペレットおよび熱成形フィルム F−16を作成した。
【0138】
<実施例17>
W13を10gとポリ乳酸(三井化学製、レイシアH−100)40gを攪拌混合したものを、2軸混練機(テクノベル社製、ULT Nano 15TW)にて、190℃で溶融混練した。作成したストランドをカットすることで、複合ペレットを作成した。ペレットを熱プレス機にて、200℃、5MPaの条件でプレスすることで、熱成形フィルム F−17を作成した。
【0139】
<比較例15>
HS−1を2mm角にカットしたものを用いて、実施例15と同様の方法にてセルロースアセテートプロピオネートと2軸混練を行ったが、ほとんど混練できず、HS−1がそのままの形で残った。
【0140】
<比較例16>
HS−2を2mm角にカットしたものを用いて、実施例15と同様の方法にてセルロースアセテートプロピオネートと2軸混練を行ったが、ほとんど混練できず、HS−2がそのままの形で残った。
【0141】
<比較例17>
実施例15と同様の方法にて、W13を添加せずに、セルロースアセテートプロピオネートをペレット化し、熱成形フィルムH−11を作成した。
【0142】
<比較例18>
実施例17と同様の方法にて、W13を添加せずに、ポリ乳酸をペレット化し、熱成形フィルムH−12を作成した。
【0143】
[測定結果]
上記で作製したフィルムF−15〜F−17およびH−11〜H−12の測定結果を表3に示す。
本発明の組成物からなるフィルムは、溶液で作製したフィルムと同様に高い透明性を保ちつつ、熱膨張係数が低下し、弾性率を向上させることができた。これに対して、比較例のセルロースミクロフィブリルを用いた組成物では、溶融混練が不可能であった。また、熱成形にてフィルム化することで、Rthを低下させ、より光学的に等方なフィルムを作製することができた。
【0144】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明によれば、広範なマトリクス材料を用いて、透明性、低熱膨張性、高弾性率を有する成形体やフィルムを提供することができる。特に、マトリクス材料として熱可塑性樹脂を選択すれば、加工性を有する組成物を提供することができ、上記の特徴を有する成形体やフィルムを容易に製造することができる。したがって、本発明は産業上の利用可能性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
短軸長が3〜100nmかつ長軸長が10〜2000nmである有機物結晶と、マトリクス材料とを含む組成物であって、
前記有機物結晶は下記の(条件1)〜(条件4)の少なくとも1つを満たす組成物。
(条件1)界面活性剤が吸着している。
(条件2)無機イオンが吸着している。
(条件3)酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化バリウム、およ びハイドロキシアパタイトからなる群より選択される1以上の無機化合物が結合してい る。
(条件4)下記一般式(1)で表される基で修飾されている。
【化1】

[一般式(1)中、L1は下記一般式(2)〜(21)のいずれかで表される連結基であり、nは0〜4の整数を表す。nが2〜4の整数であるとき、n個のL1は互いに同一であっても異なっていてもよい。R1は有機基を表す。]
【化2】

[一般式(11)中のR2、一般式(13)中のR3、一般式(17)中のR4、一般式(21)中のR5は互いに独立に有機基を表す。]
【請求項2】
前記界面活性剤がカチオン性界面活性剤であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記有機物結晶が、アルキル基、アシル基、アシルアミノ基、シアノ基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基、アリールオキシ基、およびシリル基からなる群より選択される少なくとも一つの基で修飾されていることを特徴とする請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記有機物結晶が有機高分子結晶であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記有機物結晶が硫酸根を実質的に含まないことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記有機物結晶が結晶性セルロースであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記マトリクス材料が樹脂であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記樹脂が熱可塑性樹脂、溶媒可溶性樹脂または硬化性樹脂であることを特徴とする請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記樹脂が熱可塑性樹脂、溶媒可溶性樹脂またはこれらの混合物であることを特徴とする請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
前記樹脂が硬化性樹脂であることを特徴とする請求項7に記載の組成物。
【請求項11】
前記有機物結晶が結晶性セルロースであり、前記樹脂がセルロース系樹脂であることを特徴とする請求項7に記載の組成物。
【請求項12】
前記有機物結晶が結晶性セルロースであり、前記樹脂が脂肪族ポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項7に記載の組成物。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物からなることを特徴とする成形体。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物を、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、または粉末成形によって成形する工程を含むことを特徴とする成形体の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物からなることを特徴とするフィルム。
【請求項16】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物を溶液流延法により製膜する工程を含むことを特徴とするフィルムの製造方法。
【請求項17】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物を無溶剤で製膜する工程を含むことを特徴とするフィルムの製造方法。
【請求項18】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物を溶融押出法により製膜する工程を含むことを特徴とするフィルムの製造方法。
【請求項19】
前記製膜をインフレーション法により行うことを特徴とする請求項18に記載のフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2009−52016(P2009−52016A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85519(P2008−85519)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】