説明

組成物

【課題】本発明は、上記問題点を解決するため、半導体素デバイスなどにおける層間絶縁膜として使用するのに適し、適当な均一な厚さを有する膜の形成可能で、かつ誘電率、ヤング率等の特性に優れた膜を製造することができる膜形成用組成物、およびその膜形成組成物より得られる絶縁膜を提供することを目的とする。
【解決手段】加熱、光照射、放射線照射またはそれらの組み合わせにより、その一部が脱離して揮発性成分を生じ、残部に不飽和基を生成する官能基を有する化合物(X)を含有する組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物に関し、さらに詳しくは、半導体素子などにおける層間絶縁膜材料として、適当な均一な厚さを有する塗膜が形成可能で、かつ、誘電率特性などに優れた絶縁膜を製造することができる膜形成用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子などにおける層間絶縁膜として、気相成長(CVD)法などの真空プロセスで形成されたシリカ(SiO2)膜が多用されている。そして、近年、より均一な層間絶縁膜を形成することを目的として、SOG(Spin on Glass)膜と呼ばれるテトラアルコキシランの加水分解生成物を主成分とする塗布型の絶縁膜も使用されるようになっている。また、半導体素子などの高集積化に伴い、有機SOGと呼ばれるポリオルガノシロキサンを主成分とする低誘電率の層間絶縁膜が開発されている。
【0003】
しかし、無機材料の膜の中で最も低い誘電率を示すCVD−SiO2膜でも、比誘電率は約4程度である。また、低誘電率CVD膜として最近検討されているSiOF膜の比誘電率は約3.3〜3.5であるが、この膜は吸湿性が高く、使用しているうちに誘電率が上昇するという問題がある。
【0004】
かかる状況下、絶縁性、耐熱性、耐久性に優れた絶縁膜材料として、オルガノポリシロキサンに高沸点溶剤や熱分解性化合物を添加して空孔を形成し、誘電率を下げる方法が提案されている。しかしながら、このような多孔質膜では、多孔化することにより誘電率特性が下がっても、機械強度が低下すること、吸湿による誘電率増加がおこることなどが問題になっていた。また、互いに連結した空孔が形成されるため、配線に用いられた銅が、絶縁膜中に拡散するといった問題が生じていた。
一方、有機ポリマーに低分子のカゴ型化合物を添加した溶液を塗布することによって、低屈折率、低密度の膜を得る試みも知られている(特許文献1参照)。しかし、カゴ型化合物単量体を添加する方法では、得られる膜の誘電率およびヤング率などの諸特性が実用的な観点からは必ずしも満足いくものではなく、さらに塗布面状悪化や焼成時の膜減りが大きいなどの問題点があった。
【0005】
【特許文献1】特開2000−334881号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するため、半導体素子デバイスなどにおける層間絶縁膜として使用するのに適し、適当な均一な厚さを有する膜の形成が可能で、かつ誘電率、ヤング率等の特性に優れた絶縁膜を製造することができる組成物、およびその組成物より得られる絶縁膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、下記の手段より達成されることが見出された。
<1> 加熱、光照射、放射線照射またはそれらの組み合わせにより、その一部が脱離して揮発性成分を生じ、残部に不飽和基を生成する官能基を有する化合物(X)を含有する組成物。
<2> 前記化合物(X)が、共役ジエン構造とジエノフィル構造とのディールス・アルダー反応によって形成され、加熱、光照射、放射線照射またはそれらの組み合わせにより逆ディールス・アルダー反応が進行して前記共役ジエン構造と前記ジエノフィル構造が生成されるディールス・アルダー反応付加部を有し、かつ、シロキサン構造を有する化合物である<1>に記載の組成物。
<3> 前記化合物(X)が、ジエノフィル構造を有し、かつ、シロキサン構造を有する化合物(A)と、共役ジエン構造を有する化合物(B)とのディールス・アルダー反応により形成され、加熱、光照射、放射線照射またはそれらの組み合わせにより逆ディールス・アルダー反応を介して前記共役ジエン構造を有する化合物(B)を放出する化合物である、<2>に記載の組成物。
<4> 前記シロキサン構造を有する化合物(A)が、m個のRSi(O0.5)3ユニット(mは8〜16の整数を表し、Rは、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。)を有し、各ユニットが各ユニットにおける酸素原子を共有して他のユニットに連結しカゴ構造を形成している化合物(I)またはその重合体である、<3>に記載の組成物。
<5> 前記化合物(I)が、下記一般式(Q−1)〜(Q−7)のいずれかで表される化合物である、<4>に記載の組成物。
【化1】


(一般式(Q−1)〜(Q−7)中、Rは、それぞれ独立して、水素原子または置換基を表す。一般式(Q−1)〜一般式(Q−7)のそれぞれにおいて、Rのうち少なくとも1つは、アルケニル基またはアルキニル基を表す。)
<6> 前記共役ジエン構造を有する化合物(B)が、一般式(B−1)〜一般式(B−3)のいずれかで表される化合物である、<3>〜<5>のいずれかに記載の組成物。
【化2】


(一般式(B−1)〜一般式(B−3)中、X〜X16は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。
一般式(B−1)および一般式(B−2)中、Wは、−O−、−C(O)−、−C(O)O−、−S(O)−、−S(O)−、−C(X17)(X18)−、または、−N(X19)−を表す。X17〜X19は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。)
<7> 前記化合物(X)中における前記共役ジエン構造を有する化合物(B)の付加量が、前記化合物(X)全量に対して、5〜80質量%である<3>〜<6>のいずれかに記載の組成物。
<8> さらに、溶剤を含む<1>〜<7>のいずれかに記載の組成物。
<9> 絶縁膜形成用途に用いられる<1>〜<8>のいずれかに記載の組成物。
<10> <1>〜<9>のいずれかに記載の組成物を基板上に塗布した後、硬膜することを特徴とする絶縁膜の製造方法。
<11> <10>に記載の製造方法を用いて製造された絶縁膜。
<12> <11>に記載の絶縁膜を用いて製造された電子デバイス。
<13> 加熱、光照射、放射線照射またはそれらの組み合わせにより、その一部が脱離して揮発性成分を生じ、残部に不飽和基を生成する官能基を有する化合物。
<14> 共役ジエン構造とジエノフィル構造とのディールス・アルダー反応によって形成され、加熱、光照射、放射線照射またはそれらの組み合わせにより逆ディールス・アルダー反応が進行して前記共役ジエン構造と前記ジエノフィル構造が生成されるディールス・アルダー反応付加部を有し、かつ、シロキサン構造を有する樹脂。
<15> ジエノフィル構造を有し、かつ、シロキサン構造を有する化合物(A)と、共役ジエン構造を有する化合物(B)とのディールス・アルダー反応により形成され、加熱、光照射、放射線照射またはそれらの組み合わせにより逆ディールス・アルダー反応を介して前記共役ジエン構造を有する化合物(B)を放出する樹脂。
<16> 一般式(Q−1)〜(Q−7)のいずれかで表される化合物またはその重合体と、一般式(B−1)〜(B−3)のいずれかで表される化合物とのディールス・アルダー反応により形成され、加熱、光照射、放射線照射またはそれらの組み合わせにより逆ディールス・アルダー反応を介して前記一般式(B−1)〜(B−3)のいずれかで表される化合物を放出する樹脂。
【化3】


(一般式(Q−1)〜(Q−7)中、Rは、それぞれ独立して、水素原子または置換基を表す。一般式(Q−1)〜一般式(Q−7)のそれぞれにおいて、Rのうち少なくとも1つは、アルケニル基またはアルキニル基を表す。)
【化4】


(一般式(B−1)〜一般式(B−3)中、X〜X16は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。
一般式(B−1)および一般式(B−2)中、Wは、−O−、−C(O)−、−C(O)O−、−S(O)−、−S(O)−、−C(X17)(X18)−、または、−N(X19)−を表す。X17〜X19は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。)
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、半導体素子デバイスなどにおける層間絶縁膜として使用するのに適し、適当な均一な厚さを有する膜が形成可能であり、かつ誘電率、ヤング率等の特性に優れた絶縁膜を製造することができる組成物、およびその組成物より得られる絶縁膜を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の組成物、およびその組成物より得られる絶縁膜について詳細に記述する。
本発明の組成物には、加熱、光照射、放射線照射またはそれらの組み合わせにより、その一部が脱離して揮発性成分を生じ、残部に不飽和基を生成する官能基を有する化合物(X)が含まれる。まず、化合物(X)について詳述する。
【0010】
<化合物(X)>
化合物(X)は、加熱、光照射、放射線照射またはそれらの組み合わせにより、その一部が脱離して揮発性成分を生じ、残部に不飽和基を生成する官能基を有する。
化合物(X)を含む組成物は、後述するように種々の用途に用いることができる。特に、化合物(X)を含む組成物を用いて膜の製造を行うと、硬膜時に行われる加熱処理や光照射や放射線照射などの高エネルギー線照射処理の際に、官能基から揮発性成分の脱離が進行する。揮発性成分が生じることにより、膜中に空孔が形成される。さらに、官能基の残部に不飽和基が生じ、残基間で硬化反応が生ずるため、低誘電率、高屈折率、高機械強度、高耐熱性、高酸化ストレス耐性を示し、誘電率が長期安定な膜が形成できる。
なお、加熱条件、光照射、放射線照射条件などは、使用される化合物(X)の構造によって最適な条件は変化する。なお、通常、後述する膜形成時の加熱処理または高エネルギー線照射の条件において、揮発性成分の脱離反応が良好に進行する。
【0011】
化合物(X)が有する官能基は、加熱、光照射、放射線照射またはそれらの組み合わせにより、その一部が脱離して揮発性成分を生じ、残部に不飽和基を生成する。このような官能基は、特に制限されないが、ジチオカルボン酸エステルを含む基、チオエステルを含む基、エステルを含む基、アゾ基を含む基、炭素−炭素二重結合を含む基、スルホン酸エステルを含む基、カルバマート基を含む基、カーボネート基を含む基、ケイ素原子を含む基などが挙げられる。
この官能基の具体例としては、以下のような(G−1)〜(G−7)などの官能基や、後述するディールス・アルダー反応付加部などが挙げられる。
【0012】
【化5】

【0013】
(G−1)および(G−3)中、R30は、炭化水素基を表す。
炭化水素基としては、例えば、飽和炭化水素基(例えば、アルキル基)や芳香族炭化水素基(例えば、ベンゼン基)などが挙げられる。なお、*は結合位置を表す。
【0014】
(G−1)中、Xは、S、O、Se、Teを表す(好ましくはSまたはO)。(G−1)中の2つのXは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
(G−1)中、Lは、2価の連結基を表す。2価の連結基としては、例えば、置換または無置換の炭素数1〜20のアルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、イソプロピレン基など)、置換または無置換のアリーレン基(例えば、o−フェニレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基、1,4−ナフチレン基など)などが挙げられる。
(G−2)中、Yは、それぞれ独立に、アルキル基、アルケニル基、ケイ素原子含有基、シクロアルキル基、またはアリール基を表す。複数のYは、同一であっても異なっていてもよい。Lは、2価の連結基を表す。連結基の具体例は、上記と同様である。
なお、ケイ素原子含有基は、後述するRで表されるケイ素原子含有基と同義である。
【0015】
官能基より脱離して生じる揮発性成分は、特に限定されず、官能基の構造によって異なる。例えば、ジチオカルボン酸、チオエステル、チオール、エステル、窒素分子、アミン、アルカン、アルケン、アルキン、アルコール、スルホン酸、シラン、シラノール、二酸化炭素などがある。
また、残部として生じる不飽和基としては、特に限定されず、炭素−炭素二重結合または炭素−炭素三重結合を含む基であればよい。例えば、アルケニル基(炭素数1〜6が好ましく、さらに炭素数1〜2が好ましい。具体的には、ビニル基、アリル基)、アルキニル基(炭素数1〜6が好ましく、さらに炭素数1〜2が好ましい。具体的には、エチニル基)などが好ましく挙げられる。
このような不飽和基が生じることにより、硬膜時に不飽和基間で架橋反応が進行し、優れた機械的強度を示す膜を得ることができる。
【0016】
化合物(X)は、低分子化合物および高分子化合物(例えば、樹脂)であってもよく、その構造は特に制限されない。例えば、高分子化合物の場合、その主骨格としては、ポリイミド、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリフェニレンエーテル、ポリベンゾオキサゾール、ポリアリーレンエーテル、シロキサン構造(Si−O結合)、カゴ型構造、ダイヤモンドイド構造、ダイヤモンドイド−アリーレン構造などが挙げられる。
化合物(X)としては、耐熱性に優れる点で、ポリアリーレンエーテル、ポリベンゾオキサゾール、シロキサン構造(Si−O結合)を有する化合物またはその重合体、アダマンタン、ビアダマンタン、ジアマンタン、トリアマンタン、テトラマンタン、およびドデカヘドランからなる群から選ばれるカゴ型構造を有する化合物またはその重合体が挙げられる。なかでも、シロキサン構造(Si−O結合)を有する化合物またはその重合体が好ましい。
【0017】
化合物の主骨格がポリアリーレンエーテルである化合物(X)は、例えば、特表2003−520864号公報を参照して合成することができる。
また、化合物の主骨格がポリベンゾオキサゾールである化合物(X)は、ベンゾオキサゾール前駆体を利用する国際公開第2005−019305号パンフレットを参照して合成することができる。
【0018】
シロキサン構造を有する化合物は、ケイ素原子と酸素原子とでなるシロキサン構造を有する化合物であって、優れた耐熱性を示す。この化合物の好ましい態様としては、低誘電特性、機械的特性が優れるという観点から、シルセスキオキサン化合物が好ましい。シルセスキオキサン化合物は、少なくともシルセスキオキサン構造を有する化合物である。シルセスキオキサン構造とは、各ケイ素原子が3個の酸素原子と結合し、各酸素原子が2個のケイ素原子と結合している構造(珪素原子数に対する酸素原子数が1.5)(Si(O0.5)である。シルセスキオキサン化合物としては、例えば、ラダー型、カゴ型、カゴ型の一部が欠損した不完全カゴ型、およびこれらの混合物などが挙げられ、耐熱性などの観点から、カゴ型(カゴ型シルセスキオキサン)が好ましい。なお、カゴ型構造は、共有結合した原子で形成された複数の環によって容積が定まり、容積内に位置する点は環を通過せずには容積から離れることができないような構造を指す。
【0019】
上述した官能基を有し、かつシロキサン構造を有する化合物としては、例えば、以下の構造の化合物が挙げられる。なお、以下の化合物は公知の合成方法により製造することができる。
【0020】
【化6】

【0021】
カゴ型構造を有する化合物の「カゴ型構造」の定義は、上記と同様であり、具体的なカゴ型構造としては、アダマンタン、ビアダマンタン、ジアマンタン、トリアマンタン、テトラマンタンまたはドデカヘドランなどの構造であり、低誘電性および耐熱性の観点より、より好ましくはアダマンタン、ビアダマンタンまたはジアマンタンである。
【0022】
上記のカゴ型構造を有する化合物は、重合可能な炭素−炭素二重結合および/または炭素−炭素三重結合を有するカゴ型構造を有する化合物の重合体であることが好ましい。さらには、一般式(H−1)〜一般式(H−6)のいずれかで表される化合物、およびその重合体であることがより好ましい。
【0023】
【化7】

【0024】
一般式(H−1)〜一般式(H−6)中、V〜Vは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、シリル基、アシル基、アルコキシカルボニル基またはカルバモイル基を表す。Z〜Zは、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基またはシリル基を表す。mおよびmは、それぞれ独立に、1〜16(好ましくは1〜3、より好ましくは2)の整数を表す。nおよびnは、それぞれ独立に、0〜15(好ましくは0または1)の整数を表す。m、m、m、およびmは、それぞれ独立に、1〜15(好ましくは1〜3、より好ましくは2)の整数を表す。n、n、n、およびnは、それぞれ独立に、0〜14(好ましくは0または1)の整数を表す。mおよびmは、それぞれ独立に、1〜20(好ましくは1〜3、より好ましくは2)の整数を表す。nおよびnは、それぞれ独立に、0〜19(好ましくは0または1)の整数を表す。
なお、上述した残部に不飽和基を生成する官能基は、一般式(H−1)〜一般式(H−6)のいずれかで表される化合物またはその重合体中のいずれの部分に結合していてもよい。
【0025】
一般式(H−1)〜一般式(H−6)のいずれかで表される化合物の重合は、公知の重合方法(例えば、ラジカル重合)で行うことができる。
【0026】
<化合物(Y)>
上記化合物(X)の好適な実施態様の一つとして、共役ジエン構造とジエノフィル構造とのディールス・アルダー反応によって形成され、加熱、光照射、放射線照射またはそれらの組み合わせにより逆ディールス・アルダー反応が進行して共役ジエン構造とジエノフィル構造が生成されるディールス・アルダー反応付加部を有し、かつ、シロキサン構造を有する化合物(Y)が挙げられる。まず、化合物(Y)について詳述する。
【0027】
化合物(Y)は、ディールス・アルダー反応付加部を有し、かつ、シロキサン構造を有する化合物である。本発明においてディールス・アルダー反応付加部とは、共役ジエン構造とジエノフィル構造とのディールス・アルダー反応により形成される環構造を有する部位であって、加熱、光照射、放射線照射またはそれらの組み合わせにより逆ディールス・アルダー反応が進行して共役ジエン構造とジエノフィル構造が生成される。
化合物(Y)を含む組成物は、後述するように種々の用途に用いることができる。特に、化合物(Y)を含む組成物を用いて膜の製造を行うと、硬膜時に行われる加熱処理や光照射や放射線照射などの高エネルギー線照射処理の際に、逆ディールス・アルダー反応が進行する。その際、ディールス・アルダー反応付加部が共役ジエン構造とジエノフィル構造とに解離し、一方または両方が揮発して膜空隙が増大する。更に、残基間で硬化反応が生ずるため、低誘電率、高屈折率、高機械強度、高耐熱性、高酸化ストレス耐性を示し、誘電率が長期安定な膜が形成できる。
【0028】
<共役ジエン構造>
ディールス・アルダー反応付加部を形成する共役ジエン構造は、特に限定されず、鎖状共役ジエン構造、および環状共役ジエン構造を用いることができる。共役ジエン構造の好適な例としては、例えば、以下のような構造が挙げられる。
【0029】
【化8】

【0030】
なかでも、熱等に対する安定性が優れるため、環状共役ジエン構造が好ましく、特に、(D−1)骨格、(D−2)骨格、(D−8)骨格、(D−9)骨格、(D−10)骨格、(D−11)骨格などが好ましい。
なお、(D−1)〜(D−17)骨格中、Y〜Y10は、それぞれ独立に、水素原子また置換基を表す。置換基の定義は、後述する一般式(F−1)〜一般式(F−4)中の置換基と同義である。
【0031】
<ジエノフィル構造>
ディールス・アルダー反応付加部を形成するジエノフィル構造は、上記の共役ジエン構造と付加的に反応して環式構造を与える不飽和構造であれば特に限定されず、炭素−炭素二重結合を有するアルケニル基や、炭素−炭素三重結合を有するアルキニル基などが挙げられる。ジエノフィル構造の好適な例としては、例えば、以下のような構造が挙げられる。なかでも、(E−1)骨格、(E−2)骨格、(E−3)骨格などが好ましい。
【0032】
【化9】

【0033】
なお、(E−1)〜(E−16)骨格中、Y〜Yは、それぞれ独立に、水素原子また置換基を表す。置換基の定義は、後述する一般式(F−1)〜一般式(F−4)中の置換基と同義である。
【0034】
<ディールス・アルダー反応付加部>
本発明におけるディールス・アルダー反応付加部は、上記共役ジエン構造とジエノフィル構造との付加反応により得られる付加部であり、加熱、光照射、放射線照射またはそれらの組み合わせにより逆ディールス・アルダー反応が進行して共役ジエン構造とジエノフィル構造が生成される。
なお、加熱条件、光照射、放射線照射条件などは、使用される化合物によって最適な条件は変化する。なお、通常、後述する膜形成時の加熱処理または高エネルギー線照射の条件において、逆ディールス・アルダー反応が進行する。
【0035】
化合物(Y)中におけるディールス・アルダー反応付加部の数は特に限定されず、用途により適宜最適な個数が選択される。
【0036】
ディールス・アルダー反応付加部の好適な例としては、以下の一般式(F−1)〜一般式(F−4)で表される構造が挙げられる。これらの構造であれば、逆ディールス・アルダー反応の進行がより制御しやすく、後述する絶縁膜などの用途に好適に使用することができる。
【0037】
【化10】

【0038】
(一般式(F−1)〜一般式(F−4)中、Y〜Y11は水素原子または置換基を表す。
一般式(F−2)〜一般式(F−4)中、Wは、−O−、−C(O)−、−C(O)O−、−S(O)−、−S(O)−、−C(Y12)(Y13)−、または、−N(Y14)−を表す。Y12〜Y14は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。
一般式(F−1)〜一般式(F−4)中、*は化合物(Y)との結合位置を表す。)
【0039】
一般式(F−1)〜一般式(F−4)中、Y〜Y11は水素原子または置換基を表す。置換基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、ケイ素原子含有基、またはそれらを組み合わせた基が挙げられる。なかでも、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、ケイ素原子含有基が好ましい。
なお、上記各基は、後述するRで表される各基と同義である。
【0040】
一般式(F−2)〜一般式(F−4)中、Wは、−O−、−C(O)−、−C(O)O−、−S(O)−、−S(O)−、−C(Y12)(Y13)−、または、−N(Y14)−を表す。なかでも、−O−、−C(O)−、−C(Y12)(Y13)−が好ましい。
12〜Y14は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。Y12〜Y14で表される置換基の定義は、Y〜Y11で表される置換基の定義と同義である。なかでも、アルキル基、シクロアルキル基が好ましい。
【0041】
<シロキサン構造>
化合物(Y)は、シロキサン構造(Si−O結合)をもつ化合物であり、低分子化合物および高分子化合物(例えば、樹脂)を含む。本発明の効果を損なわない限り、いかなるシロキサン構造を有する化合物であってもよい。ケイ素原子と酸素原子とでなるシロキサン構造を有する化合物(Y)は、優れた耐熱性を示す。化合物(Y)中におけるシロキサン構造の含有量としては、化合物(Y)全量に対して、30〜100質量%が好ましく、60〜100質量%がより好ましい。
【0042】
シロキサン構造を有する化合物の好ましい態様としては、低誘電特性、機械的特性が優れるという観点から、シルセスキオキサン化合物が好ましい。シルセスキオキサン化合物は、少なくともシルセスキオキサン構造を有する化合物である。シルセスキオキサン構造とは、各ケイ素原子が3個の酸素原子と結合し、各酸素原子が2個のケイ素原子と結合している構造(珪素原子数に対する酸素原子数が1.5)(Si(O0.5)である。シルセスキオキサン化合物としては、例えば、ラダー型、カゴ型、カゴ型の一部が欠損した不完全カゴ型、およびこれらの混合物などが挙げられ、耐熱性などの観点から、カゴ型(カゴ型シルセスキオキサン)が好ましい。なお、カゴ型は、共有結合した原子で形成された複数の環によって容積が定まり、容積内に位置する点は環を通過せずには容積から離れることができないような構造を指す。
【0043】
上述のシルセスキオキサン化合物の好ましい態様として、耐熱性に優れるという観点から、カゴ型シルセスキオキサンまたはその重合体が挙げられる。
より好ましくは、m個のRSi(O0.5ユニットが、その酸素原子を共有しながら他のRSi(O0.5ユニットと互いに連結することで形成されるカゴ型シルセスキオキサン、およびそれを繰り返し単位とする重合体等が挙げられる。なお、mは8〜16の整数を表す。Rは、それぞれ独立して、水素原子または置換基を表し、少なくとも一つがディールス・アルダー反応付加部を表すことが好ましい。
【0044】
mは8〜16の整数を表す。誘電率低下効果の点から、mは8、10、12、14、16が好ましく、入手性の観点から、8、10、12がより好ましく、更に重合制御性の観点から8、12が最も好ましい。
【0045】
Rの置換基の例としては、好ましくは炭素数1〜20であり、具体的には、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、ケイ素原子含有基、またはそれらを組み合わせた基などが挙げられる。
【0046】
Rで表されるアルキル基は、置換基を有していてもよく、好ましくは炭素数1〜20の直鎖または分岐アルキル基であり、アルキル鎖中に酸素原子、硫黄原子、窒素原子を有していてもよい。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−ドデシル基、n−テトラデシル基、n−オクタデシル基などの直鎖アルキル基、イソプロピル基、イソブチル基、t−ブチル基、ネオペンチル基、2−エチルヘキシル基などの分岐アルキル基を挙げることができる。
【0047】
Rで表されるシクロアルキル基は、置換基を有していてもよく、好ましくは炭素数3〜20のシクロアルキル基であり、多環でもよく、環内に酸素原子を有していてもよい。具体的には、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基などを挙げることができる。
【0048】
Rで表されるアリール基としては、置換基を有していてもよく、好ましくは炭素数6〜14のアリール基であり、例えば、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。
【0049】
Rで表されるアラルキル基は、置換基を有していてもよく、好ましくは炭素数7〜20のアラルキル基であり、例えば、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、ナフチルエチル基が挙げられる。
【0050】
Rで表されるアルコキシ基としては、置換基を有していてもよく、好ましくは炭素数1〜20のアルコキシ基であり、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基などが挙げられる。
【0051】
Rで表されるケイ素原子含有基は、ケイ素が含有されていれば特に制限されないが、一般式(2)で表される基が好ましい。
*−L1−Si−(R20(2)
【0052】
一般式(2)中、*はケイ素原子との結合位置を表す。L1はアルキレン基、−O−、−S−、−Si(R21)(R22)−、−N(R23)−または、これらを組み合わせた2価の連結基を表す。L1は、アルキレン基、−O−または、これらを組み合わせた2価の連結基が好ましい。
アルキレン基としては、炭素数1〜12が好ましく、炭素数1〜6がより好ましい。R21、R22、R23およびR20は、それぞれ独立にアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルコキシ基を表す。R21、R22、R23およびR20で表されるアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルコキシ基の定義は、上述のRの定義と同じであり、好ましくはメチル基、エチル基、ブチル基、シクロヘキシル基、ビニル基、エチニル基などが挙げられる。Rとしてのケイ素原子含有基としては、シリルオキシ基(トリメチルシリルオキシ、トリエチルシリルオキシ、t−ブチルジメチルシリルオキシ)がもっとも好ましい。
【0053】
Rで表されるアルケニル基は、上記アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、ケイ素原子含有基の任意の位置に2重結合を有する基が挙げられる。炭素数1〜12が好ましく、さらに炭素数1〜6が好ましい。例えば、ビニル基、アリル基などが挙げられ、重合制御性の容易さ、機械強度の観点から、ビニル基が好ましい。
【0054】
Rで表されるアルキニル基は、上記アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、ケイ素原子含有基、の任意の位置に3重結合を有する基が挙げられる。炭素数1〜12が好ましく、さらに炭素数1〜6が好ましい。重合制御性の容易さ、機械強度の観点から、エチニル基が好ましい。
【0055】
化合物(Y)の好ましい一つの態様としては、上記のディールス・アルダー反応付加部を有するシルセスキオキサン化合物が挙げられる。より好ましくは、上記のディールス・アルダー反応付加部を有する、カゴ型シルセスキオキサンまたはその重合体が挙げられる。より好ましくは、一般式(F−1)〜一般式(F−4)で表されるディールス・アルダー反応付加部を少なくとも1つ有する、カゴ型シルセスキオキサンまたはその重合体が挙げられる。
【0056】
化合物(Y)の他の好ましい態様としては、上記のディールス・アルダー反応付加部を有するシランカップリング剤、またはその加水分解縮合物が挙げられる。より好ましくは、以下の式で表されるシランカップリング剤、またはその加水分解縮合物が挙げられる。
(R404−n−Si−(X) 一般式(K)
上記一般式(K)中、R40は一般式(F−1)〜一般式(F−4)で表されるディールス・アルダー反応付加部を表す。Xは、アルコキシ基またはハロゲン元素(例えば、塩素原子)を表す。nは1〜3の整数を表す。
なお、一般式(K)で表されるシランカップリング剤の加水分解反応は、加熱などの公知の方法により行うことができる。
【0057】
化合物(Y)の分子量は特に限定されず、低分子化合物または高分子化合物(例えば、樹脂)であってもよい。
化合物(Y)が高分子化合物の場合、その重量平均分子量(M)は、2.5×10〜75×10であることが好ましく、3.5×10〜35×10であることがより好ましく、4.5×10〜25×10であることが最も好ましい。
化合物(Y)が高分子化合物の場合、その数平均分子量(M)は、1.5×10〜35×10であることが好ましく、1.5×10〜20×10であることがより好ましく、2.5×10〜15×10であることが最も好ましい。
化合物(Y)が高分子化合物の場合、そのZ+1平均分子量(MZ+1)は、1.5×10〜65×10であることが好ましく、2.5×10〜50×10であることがより好ましく、3.5×10万〜35×10であることが最も好ましい。
上記範囲の重量平均分子量および数平均分子量に設定することにより、有機溶剤に対する溶解性およびフィルターろ過性が向上し、保存時のパーティクルの発生が抑制でき、塗布膜の面状が改善された、低誘電率である膜を形成することができる。
【0058】
有機溶剤に対する溶解性、フィルターろ過性、および塗布膜面状の観点から本発明の化合物(Y)は分子量300万以上の成分を実質的に含まないことが好ましく、200万以上の成分を実質的に含まないことがより好ましく、100万以上の成分を含まないことが最も好ましい。
【0059】
なお、化合物(Y)については、固形分のGPCチャート、HPLCチャート、NMRスペクトル、UVスペクトル、IRスペクトル等から定量できる。共重合物中の成分については、重合の仕込み比で判断できる場合もあるが、固形分を必要に応じて精製した後、NMRスペクトル、UVスペクトル、IRスペクトル、元素組成等の測定を行うことによっても定量できる。
【0060】
<製造方法>
化合物(Y)の製造方法は、特に限定されないが、以下の2つの態様が好ましい。
(1)ジエノフィル構造を有し、かつ、シロキサン構造を有する化合物と、共役ジエン構造を有する化合物とのディールス・アルダー反応により形成される化合物(Y)
(2)共役ジエン構造を有し、かつ、シロキサン構造を有する化合物と、ジエノフィル構造を有する化合物とのディールス・アルダー反応により形成される化合物(Y)
なかでも、合成が容易であり、後述する用途に好適に使用できる点で、(1)の態様がより好ましい。
以下に、(1)の態様で使用されるジエノフィル構造を有し、かつ、シロキサン構造を有する化合物(A)と、共役ジエン構造を有する化合物(B)について詳述する。
【0061】
<化合物(A)>
化合物(A)とは、ジエノフィル構造を有し、かつ、シロキサン構造を有する化合物である。
ジエノフィル構造は上述のように共役ジエン構造と付加的に反応して環式構造を与える不飽和構造であり、その構造は特に制限されず、上記に例示した構造などが挙げられる。なかでも、アルケニル基、アルキニル基が好ましく挙げられる。
【0062】
化合物(A)は、シロキサン構造(Si−O結合)をもつ化合物であり、本発明の効果を損なわない限り、いかなるシロキサン構造を有する化合物であってもよい。化合物(A)は、低分子化合物および高分子化合物(例えば、樹脂)を含む。ケイ素原子と酸素原子とでなるシロキサン構造を有する化合物は、優れた耐熱性を示す。化合物(A)中におけるシロキサン構造の含有量としては、化合物(A)全量に対して、30〜100質量%が好ましく、60〜100質量%がより好ましい。
【0063】
化合物(A)としては、低誘電特性、機械的特性が優れるという観点から、シルセスキオキサン化合物が好ましい。シルセスキオキサン化合物は、少なくともシルセスキオキサン構造を有する化合物である。シルセスキオキサン構造とは、各ケイ素原子が3個の酸素原子と結合し、各酸素原子が2個のケイ素原子と結合している構造(珪素原子数に対する酸素原子数が1.5)である。シルセスキオキサン化合物としては、例えば、ラダー型、カゴ型、カゴ型の一部が欠損した不完全カゴ型、およびこれらの混合物などが挙げられ、耐熱性、経時安定性などの観点から、カゴ型が好ましい。なお、カゴ型は、共有結合した原子で形成された複数の環によって容積が定まり、容積内に位置する点は環を通過せずには容積から離れることができないような構造を指す。カゴ型構造を有するシルセスキオキサン化合物は、カゴ型シルセスキオキサン化合物とも称する。
【0064】
上記カゴ型シルセスキオキサン化合物としては、m個のRSi(O0.5ユニットが、その酸素原子を共有しながら他のRSi(O0.5ユニットと互いに連結することで形成されるカゴ型構造を含む化合物(以下、化合物(I)とも称する)、およびそれを繰り返し単位とする重合体等が挙げられる。Rは、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。
【0065】
化合物(I)におけるmは8〜16の整数を表す。誘電率低下効果の点から、mは8、10、12、14、16が好ましく、入手性の観点から、8、10、12がより好ましく、更に重合制御性の観点から8、12が最も好ましい。
【0066】
化合物(I)で表されるカゴ構造の好適な例としては、下記一般式(Q−1)〜一般式(Q−7)で表される化合物が挙げられる。下記における自由結合手はRが結合する位置を表す。なかでも、入手性、重合制御性、溶解性の観点から、一般式(Q−6)で表される化合物が最も好ましい。
【0067】
【化11】

【0068】
化合物(I)におけるRは、それぞれ独立して水素原子、置換基を表す。複数のRは、同一でも異なっていてもよく、少なくとも1つはアルケニル基、アルキニル基を示す。
【0069】
Rで表される置換基は、上記化合物(Y)で詳述した置換基の定義と同義あり、好ましくは炭素数1〜20であり、具体的には、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、ケイ素原子含有基、またはそれらを組み合わせた基などが挙げられる。
【0070】
Rのうち、少なくとも1つはアルケニル基、アルキニル基を示す。好ましくは、Rのうち2つ以上がアルケニル基またはアルキニル基であることが好ましく、3つ以上がより好ましく、全部が特に好ましい。このように複数のアルケニル基、アルキニル基があると、硬膜時に逆ディールス・アルダー反応によってジエノフィルであるアルケニル基、アルキニル基が膜中において生成され、これらによる架橋反応(硬化反応)が進行する。これにより得られる膜の機械強度が向上する。
【0071】
化合物(I)で表されるカゴ型シルセスキオキサン化合物の具体例としては、以下のものが挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0072】
【化12】

【0073】
化合物(I)は、アルドリッチ、Hybrid Plastics社から購入できるものを使用してもよいし、Polymers, 20, 67-85, 2008, Journal of Inorganic and Organometallic Polymers, 11(3), 123-154, 2001, Journal of Organometallic Chemistry, 542, 141-183, 1997, Journal of Macromolecular Science. A. Chemistry, 44(7), 659-664, 2007, Chem. Rev., 95, 1409-1430, 1995, Journal of Inorganic and Organometallic Polymers, 11(3), 155-164, 2001, Dalton Transactions, 36-39, 2008, Macromolecules, 37(23), 8517-8522, 2004, Chem. Mater.,8, 1250-1259, 1996などに記載の公知の方法で合成してもよい。
【0074】
本発明の化合物(I)におけるRが、下記一般式(II)で表される基である場合も好ましい。この場合、一般式(II)で表される基は、下記一般式(III)で表される化合物と下記一般式(IV)で表される化合物を反応させることで合成できる。
(R13−Si−O− (II)
〔MO-Si(O0.5)3m (III)
(R13−Si−Cl (IV)
【0075】
一般式(III)で表わされ化合物は、例えば、Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 1997, 36, No.7, 743-745などに記載の方法に従って合成できる。
【0076】
これらの式中、R1はそれぞれ独立に置換基を表すが、R1で表される置換基の具体例としては、アルキル基、アリール基、ビニル基、エチニル基などが挙げられる。mおよびR1は、化合物(I)におけるmとRとそれぞれ同義である。Mは金属原子(例えば、Na、K、Cu、Ni、Mn)またはオニウムカチオン(例えば、テトラメチルアンモニウム)を表す。なお、Mが多価の金属原子である場合は、複数の−O−Si(O0.5)3が多価の金属原子Mに結合した形態を意味する。
【0077】
一般式(III)で表される化合物と、一般式(IV)で表される化合物との反応は、例えば、溶媒中に、一般式(III)で表される化合物と、一般式(III)で表される化合物中に含まれるSi−OM基数の1〜100倍モルの一般式(IV)で表される化合物を添加し、撹拌しながら、通常0〜180℃、10分〜20時間行う。
溶媒としては、トルエン、ヘキサン、テトラヒドロフラン(THF)などの有機溶剤が好ましい。
一般式(III)で表される化合物と一般式(IV)で表される化合物を反応させる際には、トリエチルアミン、ピリジンなどの塩基を添加してもよい。
【0078】
また、化合物(A)の他の好適な実施態様としては、以下の一般式(Q−8)および一般式(Q−9)で表される化合物が挙げられる。
【0079】
【化13】

【0080】
一般式(Q−8)および一般式(Q−9)におけるRは、それぞれ独立して水素原子、置換基を表す。複数のRは、同一でも異なっていてもよく、少なくとも1つはアルケニル基、アルキニル基を示す。なお、Rで表される置換基の定義は、上記化合物(I)中のRの定義と同義である。
【0081】
<重合体>
シロキサン構造を有する化合物(A)の好適な実施態様の一つとしては、化合物(I)を繰り返し単位とする重合体が挙げられ、複数の異なった化合物(I)の重合物が含まれていてもよい。その場合、複数の異なった化合物(I)からなる共重合体であってもよいし、ホモポリマーの混合物であってもよい。本発明の組成物が、複数の異なった化合物(I)からなる共重合体を含む場合、m=8、10、および12から選ばれる2種以上の化合物(I)の混合物の共重合体であることが好ましい。
【0082】
シロキサン構造を有する化合物(A)は、化合物(I)以外の化合物との共重合物であってもよい。その場合に用いられる化合物としては、重合性炭素−炭素不飽和結合またはSiH基を複数有する化合物が好ましい。好ましい化合物の例としては、ビニルシラン類、ビニルシロキサン類、フェニルアセチレン類、ビニルアダマンタン類、[(HSiO0.5]等が挙げられる。
この場合、化合物(I)由来の成分は、共重合物中の50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることが最も好ましい。
化合物(I)を繰り返し単位とする重合体を製造した際に含まれる未反応の化合物(I)の含量は、全固形分に対して、15質量%以下が好ましく、さらに好ましくは10質量%以下であり、最も好ましくは7質量%以下である。これにより塗布面状が改善できる。なお、全固形分とは、化合物(I)の重合体と未反応物との合計成分を意味する。
【0083】
シロキサン構造を有する化合物(A)の重量平均分子量(M)は、化合物(I)単量体を除いて、2.0×10〜70×10であることが好ましく、3.0×10〜30×10であることがより好ましく、4.0×10〜20×10であることが最も好ましい。
シロキサン構造を有する化合物(A)の数平均分子量(M)は、化合物(I)単量体を除いて、1.0×10〜30×10であることが好ましく、1.0×10〜15×10であることがより好ましく、2.0×10〜10×10であることが最も好ましい。
シロキサン構造を有する化合物(A)のZ+1平均分子量(MZ+1)は、化合物(I)単量体を除いて、1.0×10〜60×10であることが好ましく、2.0×10〜45×10であることがより好ましく、3.0×10〜30×10であることが最も好ましい。
上記範囲の重量平均分子量および数平均分子量に設定することにより、有機溶剤に対する溶解性およびフィルターろ過性が向上し、塗布膜の面状が改善された、低誘電率である膜を形成することができる。
【0084】
有機溶剤に対する溶解性、フィルターろ過性の観点から、上記重合体は分子量300万以上の成分を実質的に含まないことが好ましく、200万以上の成分を実質的に含まないことがより好ましく、100万以上の成分を含まないことが最も好ましい。
【0085】
化合物(I)の重合体には、化合物(I)由来の未反応のアルケニル基およびアルキニル基が残存していることが好ましく、化合物(I)由来のアルケニル基およびアルキニル基のうち、10〜90モル%が未反応で残存していることが好ましく、20〜80モル%が未反応で残存していることが好ましく、30〜70モル%が未反応で残存していることが最も好ましい。上記範囲内であれば、得られる膜の硬化性、機械強度がより向上する。
化合物(I)の重合体には、重合開始剤、添加剤または重合溶媒が重合体全量に対して0.1〜40質量%結合していてもよい。それらの含有量は、重合体全量に対して、0.1〜20質量%が好ましく、0.1〜10質量%が、より好ましく、0.1〜5質量%が最も好ましい。
これらについては、組成物のNMRスペクトル等から定量することができる。
【0086】
化合物(I)の重合体を製造するための方法としては、化合物(I)の炭素−炭素不飽和結合の重合反応、ハイドロシリレーション反応、酸あるいは塩基触媒を用いたゾルゲル反応を用いた製造法が挙げられる。
化合物(I)の炭素−炭素不飽和結合の重合反応としてはどのような重合反応でもよいが、例えば、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、開環重合、重縮合、重付加、付加縮合、遷移金属触媒重合などが挙げられる。
【0087】
ハイドロシリレーション反応は、例えば、本発明の化合物と、それに加えて、分子内に2個以上のSiH基を含む化合物(例えばビス(ジメチルシリル)エタン、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンなど)を有機溶媒(例えばトルエン、キシレンなど)に溶解し、触媒(例えば、Platinum(0)-1,3-divinyl- 1,1,3,3- tetramethyl disiloxane complexなど)を添加して20〜200℃で加熱する、などの方法で行うことができる。
ゾルゲル反応は、例えば、ゾル−ゲル法のナノテクノロジーへの応用(CMC、2005)、ゾル-ゲル法応用の展開(CMC、2008)に記載の方法が挙げられる。
【0088】
上記重合体を製造するための方法としては、化合物(I)の炭素−炭素不飽和結合の重合反応が好ましく、ラジカル重合が最も好ましい。合成方法としては、化合物(I)および開始剤を溶剤に溶解させ、加熱することにより重合を行う一括重合法、化合物(I)を溶剤に溶解させ加熱し、開始剤の溶液を1〜10時間かけて滴下して加える滴下重合法(連続添加)、開始剤を複数回分割して加える分割添加重合法(分割添加)などが挙げられる。膜強度および分子量再現性がより改善される点で、分割添加および連続添加が好ましい。
【0089】
本発明における重合反応の反応温度は、通常0℃〜200℃であり、好ましくは40℃〜170℃、さらに好ましくは80℃〜160℃である。
また、酸素による重合開始剤の不活性化を抑制するために不活性ガス雰囲気下(例えば窒素、アルゴン等)で反応させることが好ましい。反応時の酸素濃度は、好ましくは100ppm以下、より好ましくは50ppm以下、特に好ましくは20ppm以下である。
【0090】
重合時の反応液中の化合物(I)の濃度は、反応液全質量に対して、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることが更に好ましく、10質量%以下が最も好ましい。上記濃度範囲に設定することにより、ゲル化成分などの不純物の生成を抑制することができる。
【0091】
上記重合反応で使用する溶剤は、化合物(I)が必要な濃度で溶解可能であり、かつ得られる重合体から形成される膜の特性に悪影響を与えないものであればどのようなものを使用してもよい。以下の記述において、例えば、エステル系溶剤とは分子内にエステル基を有する溶剤のことである。
溶剤としては、例えば、水や、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン等のケトン系溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、酢酸ヘキシル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン、メチルベンゾエート等のエステル系溶剤、1,4−ジオキサン、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、アニソール、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル等のエーテル系溶剤、トルエン、キシレン、メシチレン、1,2,4,5−テトラメチルベンゼン、ペンタメチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、1,4−ジイソプロピルベンゼン、t−ブチルベンゼン、1,4−ジ−t−ブチルベンゼン、1,3,5−トリエチルベンゼン、1,3,5−トリ−t−ブチルベンゼン、4−t−ブチル−オルトキシレン、1−メチルナフタレン、1,3,5−トリイソプロピルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶剤、N−メチルピロリジノン、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶剤、四塩化炭素、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、クロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン等のハロゲン系溶剤、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶剤などが利用できる。
これらの中でより好ましい溶剤は、エステル系溶剤、エーテル系溶剤および芳香族炭化水素系溶剤であり、具体的には、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、酢酸ヘキシル、プロピオン酸メチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、アニソール、トルエン、キシレン、メシチレン、t−ブチルベンゼンが好ましく、特に好ましくは酢酸エチル、酢酸ブチル、ジフェニルエーテル、アニソール、メシチレン、t−ブチルベンゼンである。これらは単独でも2種以上を混合して用いてもよい。
反応時に重合開始剤を分解させるのに必要な温度まで反応液を加温できるために、溶剤の沸点は65℃以上であることが好ましい。
【0092】
化合物(I)の重合反応は、非金属の重合開始剤の存在下で行うことが好ましい。例えば、加熱によって炭素ラジカルや酸素ラジカル等の遊離ラジカルを発生して活性を示す重合開始剤の存在下で重合することができる。
重合開始剤としては、特に、有機過酸化物または有機アゾ系化合物が好ましく用いられる。
有機過酸化物としては、日本油脂株式会社より市販されているパーヘキサH等のケトンパーオキサイド類、パーヘキサTMH等のパーオキシケタール類、パーブチルH−69等のハイドロパーオキサイド類、パークミルD、パーブチルC、パーブチルD等のジアルキルパーオキサイド類、ナイパーBW等のジアシルパーオキサイド類、パーブチルZ、パーブチルL等のパーオキシエステル類、パーロイルTCP等のパーオキシジカーボネート、ジイソブチリルパーオキサイド、クミルパーオキシネオデカノエート、ジ‐n‐プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ‐sec−ブチルパーオキシジカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、ジ(4−t−ブチルクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシピバレート、ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジコハク酸パーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ(4−メチルベンゾイル)パーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ(3−メチルベンゾイル)パーオキサイド、ベンゾイル(3−メチルベンゾイル)パーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ジ(4,4−ジ‐(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキシル)プロパン、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシ‐3,5,5、−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル‐2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブタン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、n−ブチル−4,4−ジ−t−ブチルパーオキシバレレート、ジ(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジクミルパーオキサイド、ジ‐t−ヘキシルパーオキサイド、2,5−ジメチル‐2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーイキサイド、ジ‐t−ブチルパーオキサイド、p−メタンヒドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン‐3、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイド、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、o−クロロベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、トリス−(t−ブチルパーオキシ)トリアジン、2,4,4−トリメチルペンチルパーオキシネオデカノエート、α−クミルパーオキシネオデカノエート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート、ジ−t−ブチルパーオキシトリメチルアジペート、ジ−3−メトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ−イソプロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、1,6−ビス(t−ブチルパーオキシカルボニルオキシ)ヘキサン、ジエチレングリコールビス(t−ブチルパーオキシカーボネート)、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、アルケマ吉冨社より市販されているルペロックス11等が好ましく用いられる。
有機アゾ系化合物としては、和光純薬工業株式会社で市販されているV−30、V−40、V−59、V−60、V−65、V−70等のアゾニトリル化合物類、VA−080、VA−085、VA−086、VF−096、VAm−110、VAm−111等のアゾアミド化合物類、VA−044、VA−061等の環状アゾアミジン化合物類、V−50、VA−057等のアゾアミジン化合物類、V−601等のアゾエステル化合物類、2,2−アゾビス(4−メトキシ-2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル) 、2,2−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルブチロニトリル)、1,1−アゾビス(シクロヘキサン−1−カーボニトリル)、1−〔(1−シアノ-1−メチルエチル)アゾ〕ホルムアミド、2,2−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2−アゾビス〔2−メチル−N−(2−ヒドロキシブチル)プロピオンアミド〕、2,2−アゾビス〔N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド〕、2,2−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオアミド)、2,2−アゾビス〔2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕ジヒドロクロリド、2,2−アゾビス〔2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕ジスルフェートジヒドレート、2,2−アゾビス{2−〔1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン‐2−イル〕プロパン}ジヒドロクロリド、2,2−アゾビス〔2−〔2−イミダゾリン‐2−イル〕プロパン〕、2,2−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリジノ−2−メチルプロパン)ジヒドロクロリド、2,2−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド、2,2−アゾビス〔N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン〕テトラヒドレート、ジメチル2,2−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、4,4−アゾビス(4−シアノバレリックアシッド)、2,2−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)等が好ましく用いられる。
【0093】
重合開始剤としては、試薬自体の安全性および重合反応の分子量再現性から、有機アゾ系化合物が好ましく、なかでも重合体中に有害なシアノが取り込まれないV−601などのアゾエステル化合物が好ましい。
重合開始剤の10時間半減期温度は、100℃以下であることが好ましい。10時間半減期温度が100℃以下であれば、重合開始剤を反応終了時に残存しないようにすることが容易である。
重合開始剤は1種のみ、または2種以上を混合して用いてもよい。
重合開始剤の使用量はモノマー1モルに対して、好ましくは0.0001〜2モル、より好ましくは0.003〜1モル、特に好ましくは0.001〜0.5モルである。
【0094】
重合反応終了時の重合体の重量平均分子量(M)は、2×10〜50×10であることが好ましく、3×10〜40×10であることがより好ましく、4×10〜40×10であることが最も好ましい。
重合反応終了時のポリマーのZ+1平均分子量(MZ+1)は10×10〜60×10であることが好ましく、9×10〜55×10であることがより好ましく、8×10〜40×10であることが最も好ましい。
重合反応終了時の重合体は、分子量300×10以上の成分を実質的に含まないことが好ましく、200×10以上の成分を実質的に含まないことがより好ましく、100×10以上の成分を含まないことが最も好ましい。
重合時に、これらの分子量条件を満たすと、塗布面状がよく、焼成時の膜減りが小さい膜形成用組成物を収率よく製造することができる。
【0095】
化合物(Y)を製造する際には、化合物(I)の重合反応を行った反応液をそのまま用いてもよいが、反応終了後、精製処理を実施することが好ましい。精製の方法としては、水洗や適切な溶媒を組み合わせることにより残留単量体やオリゴマー成分を除去する液々抽出法、特定の分子量以下のもののみを抽出除去する限外ろ過、遠心分離処理、カラムクロマトグラフィー等の溶液状態での精製方法や、重合体溶液を貧溶媒へ滴下することで重合体を貧溶媒中に凝固させ、残留単量体等を除去する再沈澱法や、ろ別した重合体スラリーを貧溶媒で洗浄する等の固体状態での精製方法など通常の方法を適用できる。
例えば、上記重合体が難溶または不溶の溶媒(貧溶媒)を、該反応溶液の10倍以下の体積量、好ましくは10〜5倍の体積量で、接触させることにより重合体を固体として析出させる。重合体溶液からの沈殿または再沈殿操作の際に用いる溶媒(沈殿または再沈殿溶媒)としては、該重合体の貧溶媒であればよく、重合体の種類に応じて、炭化水素、ハロゲン化炭化水素、ニトロ化合物、エーテル、ケトン、エステル、カーボネート、アルコール、カルボン酸、水、これらの溶媒を含む混合溶媒等の中から適宜選択して使用できる。これらの中でも、沈殿または再沈殿溶媒として、少なくともアルコール(特に、メタノールなど)または水を含む溶媒が好ましい。
【0096】
沈殿または再沈殿溶媒の使用量は、効率や収率等を考慮して適宜選択できるが、一般には、重合体溶液100質量部に対して、100〜10000質量部、好ましくは200〜2000質量部、さらに好ましくは300〜1000質量部である。
沈殿または再沈殿する際の温度としては、効率や操作性を考慮して適宜選択できるが、通常0〜50℃程度、好ましくは室温付近(例えば20〜35℃程度)である。沈殿または再沈殿操作は、攪拌槽などの慣用の混合容器を用い、バッチ式、連続式等の公知の方法により行うことができる。
沈殿または再沈殿した重合体は、通常、濾過、遠心分離等の慣用の固液分離に付し、乾燥して使用に供される。濾過は、耐溶剤性の濾材を用い、好ましくは加圧下で行われる。乾燥は、常圧または減圧下(好ましくは減圧下)、30〜100℃程度、好ましくは30〜50℃程度の温度で行われる。
【0097】
尚、一度、重合体を析出させて、分離した後に、再び良溶媒に溶解させ、該重合体が難溶あるいは不溶の溶媒と接触させてもよい。即ち、重合反応終了後、該重合体が難溶あるいは不溶の溶媒を接触させ、重合体を析出させ(工程a)、重合体を溶液から分離し(工程b)、改めて良溶媒に溶解させ重合体溶液Aを調製(工程c)、その後、該重合体溶液Aに、該重合体が難溶あるいは不溶の溶媒を、重合体溶液Aの10倍未満の体積量(好ましくは5倍以下の体積量)で、接触させることにより重合体固体を析出させ(工程d)、析出した重合体を分離する(工程e)ことを含む方法でもよい。
良溶媒としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランなどが好ましい。良溶媒として、本発明の重合体の等質量〜50倍質量を用いることが好ましく、2倍質量〜20倍質量用いることがより好ましい。
【0098】
化合物(I)の重合体およびその製造工程において、必要以上の重合を抑制するために重合禁止剤を添加してもよい。重合禁止剤の例としては4−メトキシフェノール、2,6−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−メチルフェノール、カテコールなどが挙げられる。
【0099】
<共役ジエン構造を有する化合物(B)>
共役ジエン構造を有する化合物(B)は、上述化合物(A)とディールス・アルダー反応可能な共役ジエン構造を有する化合物である。共役ジエン構造としては、特に限定されず、上述した例示構造などが挙げられる。なお、共役ジエン構造を有する化合物(B)は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0100】
共役ジエン構造を有する化合物としては、共役ジエン骨格を持つものであれば何れも使用可能であり、揮発可能な低分子量ジエンが好ましい。共役ジエン構造を有する化合物としては、例えば、Dienes in the Diels-Alder Reaction(Wiley-Interscience、1990)、The Diels-Alder Reaction: Selected Practical Methods (John Wiley & Sons Inc、2002)にジエンとして記載されているもの等が挙げられる。
その他に共役ジエン構造を有する化合物としては、共役ジエン構造を有する炭化水素化合物などが挙げられ、より具体的には、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、1,3−オクタジエン、エチリデンノルボルネン、ビニルノルボルネン、ジシクロペンタジエン、シクロペンタジエン、ペンタメチルシクロペンタジエン、4−エチリデン−8−メチル−1,7−ノナジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、4,5−ジエチル−1,3−オクタジエン、3−ブチル−1,3−オクタジエン、1,3,7−オクタトリエン、シクロオクタジエン、ノルボルナジエン、1,3,5,5−テトラメチル−1,3−シクロヘキサジエン、α-フェランドレン、α−テルピネン、1,2,3,4−テトラフェニル−1,3−シクロペンタジエン、1,2,3,4,5−ペンタフェニル−1,3−シクロペンタジエン、テトラフェニルシクロペンタジエノン、フラン、チオフェン、ピロール、N−メチルピロール、N−フェニルピロールなどが挙げられる。
これらのなかでは、ジシクロペンタジエン、シクロペンタジエン、ペンタメチルシクロペンタジエン、α-フェランドレン、α−テルピネン、テトラフェニルシクロペンタジエノンが好ましい。
【0101】
上記共役ジエン構造を有する化合物の好適な実施態様の一つとして、一般式(B−1)〜一般式(B−3)で表される化合物が挙げられる。これらの化合物を使用すると、ディールス・アルダー反応が収率よく進行し、得られる膜の誘電率がより低下するとともに、より高いヤング率、良好な経時安定性が得られる。
【0102】
【化14】

【0103】
一般式(B−1)〜一般式(B−3)中、X〜X16は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。
一般式(B−1)および一般式(B−2)中、Wは、−O−、−C(O)−、−C(O)O−、−S(O)−、−S(O)−、−C(X17)(X18)−、または、−N(X19)−を表す。X17〜X19は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。
【0104】
一般式(B−1)中、X1〜X16は、それぞれ独立に、水素原子、または置換基を表す。X1〜X16で表される置換基は、一般式(F−1)〜一般式(F−4)中のY〜Y11で表される置換基と同義である。なかでも、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ケイ素原子含有基などが好ましい。
また、X17〜X19は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。X17〜X19で表される置換基は、上記のX1〜X16で表される置換基と同義である。
【0105】
このようなジエン構造を有する化合物(B)を、シロキサン構造を有する化合物(A)に結合させて得られる化合物(Y)を含む塗膜において、加熱、光照射、放射線照射、またはそれらの組み合わせを用いた硬膜処理を行うことにより、逆ディールス・アルダー反応を進行させることができる。これにより化合物(Y)から、空孔形成剤として作用するジエン構造を有する化合物(B)が揮発して膜空隙が増大し、更に残基間で硬化反応が生ずるため、低誘電率、高屈折率、高機械強度、高耐熱性、高酸化ストレス耐性を示し、誘電率が長期安定な膜が形成できる。
ジエン構造を有する化合物の付加量(含有量)は、化合物(Y)全量に対して、5〜80質量%が好ましく、5〜60質量%がより好ましく、10〜50質量%がさらに好ましい。上記範囲であれば、連結孔の生成が抑えられ、また膜平坦性の点で好ましい。ジエン構造を有する化合物の付加量はNMRスペクトルや、加熱または冷却しながら質量変化を測定する熱重量分析 (TGA)、比熱や反応熱の変化を測定する示差熱分析(DTA)や示差走査熱量測定(DSC)によって定量できる。
【0106】
本発明では化合物(B)を用いて合成した化合物(Y)を使用すると、硬膜時に空孔形成剤として作用する化合物(B)が放出されると同時に、架橋部となり得るジエノフィル構造が生成される。そのため、膜中の同一領域内で空孔形成と膜架橋とを同時に進行させることができ、よりサイズの小さい且つサイズの揃った多数の空孔を膜中均一に形成させることができる。公知の空孔形成剤を使用する場合は、通常、空孔形成剤同士が凝集して大きなドメインを形成し、空孔形成剤が揮発する領域と架橋構造が形成される領域とが分離しているため、サイズが大きい且つサイズ分布が不均一の空孔しか得られず、かつ機械強度も十分でない膜が製造されてしまう。
なお、本発明では化合物(Y)を使用すると、比較的気体透過性のよいシロキサン構造の膜が得られるため、化合物(B)の揮発がより容易となり所望のサイズの空孔が形成されたと推測される。
【0107】
<反応条件>
上記化合物(A)と化合物(B)とをディールス・アルダー反応を行う条件は、使用する化合物の種類などにより適宜最適な条件が選択される。
ディールス・アルダー反応を行う反応溶媒としては、使用する化合物が溶解し、反応に影響を与えない溶媒であれば特に限定されない。例えば、上記の化合物(I)の重合反応に使用される溶媒などが挙げられる。
反応温度は、特に制限されないが、通常25℃〜250℃であり、好ましくは50℃〜200℃、さらに好ましくは80℃〜200℃である。
【0108】
反応液中の化合物(A)の濃度は、反応液全量に対して30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることが更に好ましい。上記濃度範囲に設定することにより、ゲル化成分などの不純物の生成を抑制することができる。
また、酸素による重合開始剤の不活性化を抑制するために、不活性ガス雰囲気下(例えば、窒素、アルゴン等)で反応させることが好ましい。反応時の酸素濃度は、好ましくは100ppm以下、より好ましくは50ppm以下、特に好ましくは20ppm以下である。
反応終了後、上記化合物(A)で述べた精製処理を実施することが好ましい。
化合物(Y)の製造工程においては、重合反応を抑制するために重合禁止剤を添加することが好ましい。重合禁止剤の例としては、4−メトキシフェノール、2,6−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−メチルフェノール、カテコールなどが挙げられる。なかでも、4−メトキシフェノール、2,6−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−メチルフェノールが特に好ましい。重合禁止剤の添加量は、シロキサン構造を有する化合物(A)全量に対して、5質量%以上が好ましい。
【0109】
<組成物>
本発明の組成物には、上記の化合物(X)が含有される。なお、本発明の組成物は、化合物(X)が溶剤(例えば、有機溶剤)に溶解した溶液であってもよいし、化合物(X)の反応物を含む固形物であってもよい。
本発明の組成物は、種々の用途に用いることができ、その目的に応じて化合物(X)の含有量や添加する添加剤などの種類が決められる。用途としては、例えば、膜(例えば、絶縁膜)を製造するため(膜形成用組成物)や、低屈折率膜、低屈折率材料、ガス吸着材料、レジスト材料などが挙げられる。
【0110】
組成物に含まれる固形分のうち、化合物(X)の含有量は、特に限定されないが、後述する膜形成に使用する場合には、全固形分に対して、70質量%以上であることが好ましく、更に好ましくは80質量%以上であり、最も好ましくは90質量%以上である。固形分中のこれらの含量が大きいほど、塗布性が改善し、更に誘電率の低い膜を形成することができる。なお、固形分とは、後述する膜を構成する固形成分を意味し、溶媒などは含まれない。
【0111】
上述した化合物(A)と化合物(B)とを用いて化合物(X)を製造した場合、本発明の組成物に含まれる固形分中の未反応の化合物(A)および未反応の共役ジエン構造を有する化合物(B)の合計含有量は、全固形分に対して、15質量%以下が好ましく、さらに好ましくは10質量%以下であり、最も好ましくは7質量%以下である。上記範囲であれば、より塗布面状がよい膜、低誘電率の膜を形成できる。
【0112】
本発明の組成物は、溶剤を含有していてもよい。つまり、化合物(X)は、適当な溶剤に溶解させて、支持体上に塗布して使用することが好ましい。
溶剤としては、25℃で化合物(X)を5質量%以上溶解する溶剤が好ましく、10質量%以上がより好ましい。具体的には、エチレンジクロライド、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、2−ヘプタノン、メチルイソブチルケトン、γ−ブチロラクトン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、ジメチルイミダゾリジノン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、2−メトキシエチルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、イソプロパノール、エチレンカーボネート、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸プロピル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等が好ましく、これらの溶剤を単独あるいは混合して使用する。
上記の中でも、好ましい溶剤としてはプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、2−ヘプタノン、シクロヘキサノン、γ−ブチロラクトン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレンカーボネート、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、メチルイソブチルケトン、キシレン、メシチレン、ジイソプロピルベンゼンを挙げることができる。
【0113】
本発明の組成物を適当な溶剤に溶解させて得られる溶液も、本発明の組成物の範囲に含まれる。組成物が溶剤を含む場合、組成物中の全固形分濃度は、組成物全量に対して、好ましくは1〜30質量%であり、使用目的に応じて適宜調整される。組成物の全固形分濃度が1〜30質量%であると、塗膜の膜厚が適当な範囲となり、塗布液の保存安定性もより優れるものとなる。
【0114】
本発明の組成物には、重合開始剤が含まれていてもよい。特に、本発明の組成物を低温で硬膜する必要がある場合は、重合開始剤は含んでいることが好ましい。その場合の重合開始剤の種類は特に制限されないが、例えば、上述した化合物(I)の重合の際に使用される重合開始剤などが挙げられる。また、この目的で、放射線により重合を引きおこす開始剤を使用することもができる。
【0115】
本発明の組成物では、不純物としての金属含量が充分に少ないことが好ましい。組成物中の金属濃度はICP−MS法等により高感度に測定可能であり、その場合の遷移金属以外の金属含有量は好ましくは30ppm以下、より好ましくは3ppm以下、特に好ましくは300ppb以下である。また、遷移金属に関しては酸化を促進する触媒能が高く、後述するプリベーク、熱硬化プロセスにおいて酸化反応によって本発明で得られた膜の誘電率を上げてしまうという観点から、含有量がより少ないほうがよく、好ましくは10ppm以下、より好ましくは1ppm以下、特に好ましくは100ppb以下である。
組成物中の金属濃度は、組成物を用いて得られた膜に対して全反射蛍光X線測定を行うことによっても評価できる。X線源としてW線を用いた場合、金属元素としてK、Ca、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Pdが観測可能であり、それぞれ100×1010cm−2以下が好ましく、より好ましくは50×1010cm−2以下、特に好ましくは10×1010cm−2以下である。また、ハロゲンであるBrも観測可能であり、残存量は10000×1010cm−2以下が好ましく、より好ましくは1000×1010cm−2以下、特に好ましくは400×1010cm−2以下である。また、ハロゲンとしてClも観測可能であるが、CVD装置、エッチング装置等へダメージを与えるという観点から残存量は100×1010cm−2以下が好ましく、より好ましくは50×1010cm−2以下、特に好ましくは10×1010cm−2以下である。
【0116】
<添加剤>
更に、本発明の組成物には、組成物を用いて得られる膜の特性(耐熱性、誘電率、機械強度、塗布性、密着性等)を損なわない範囲で、ラジカル発生剤、コロイド状シリカ、界面活性剤、密着剤などの添加剤を添加してもよい。
【0117】
本発明の組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、いかなるコロイド状シリカを使用してもよい。例えば、高純度の無水ケイ酸を親水性有機溶媒または水に分散した分散液であり、通常、平均粒径5〜30nm、好ましくは10〜20nm、固形分濃度が5〜40質量%程度のものである。
【0118】
本発明の組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、いかなる界面活性剤を使用してもよい。例えば、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤などが挙げられ、さらにシリコーン系界面活性剤、含フッ素系界面活性剤、ポリアルキレンオキシド系界面活性剤、アクリル系界面活性剤が挙げられる。使用する界面活性剤は、一種類のみでもよいし、二種類以上を併用してもよい。界面活性剤としては、シリコーン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、含フッ素系界面活性剤、アクリル系界面活性剤が好ましく、特にシリコーン系界面活性剤が好ましい。
【0119】
本発明で使用する界面活性剤の添加量は、組成物全量に対して、0.01質量%以上1質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上0.5質量%以下であることが更に好ましい。
【0120】
本発明において、シリコーン系界面活性剤とは、少なくとも1原子のSi原子を含む界面活性剤である。本発明に使用するシリコーン系界面活性剤としては、いかなるシリコーン系界面活性剤でもよく、アルキレンオキシドおよびジメチルシロキサンを含む構造であることが好ましい。下記化学式を含む構造であることが更に好ましい。
【0121】
【化11】

【0122】
上記式中Rは水素原子または炭素原子数1〜5のアルキル基であり、xは1〜20の整数であり、m、nはそれぞれ独立に2〜100の整数である。複数のRは同じでも異なっていてもよい。
【0123】
本発明に使用するシリコーン系界面活性剤としては、例えばBYK306、BYK307(ビックケミー社製)、SH7PA、SH21PA、SH28PA、SH30PA(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製)、TroysolS366(トロイケミカル社製)等を挙げることができる。
【0124】
本発明に使用するノニオン系界面活性剤としては、本発明の目的を損なわない範囲で、いかなるノニオン系界面活性剤でもよい。例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアリールエーテル類、ポリオキシエチレンジアルキルエステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、脂肪酸変性ポリオキシエチレン類、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体等を挙げることができる。
【0125】
本発明に使用する含フッ素系界面活性剤としては、本発明の目的を損なわない範囲で、いかなる含フッ素系界面活性剤でもよい。例えば、パーフルオルオクチルポリエチレンオキシド、パーフルオルデシルポリエチレンオキシド、パーフルオルドデシルポリエチレンオキシド等が挙げられる。
【0126】
本発明に使用するアクリル系界面活性剤としては、本発明の目的を損なわない範囲で、いかなるアクリル系界面活性剤でもよい。例えば、(メタ)アクリル酸系共重合体等が挙げられる。
【0127】
本発明の組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、いかなる密着促進剤を使用してもよい。例えば、3−グリシジロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノグリシジロキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシジロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、1−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−アミノプロピルトリメトキシシラン、2−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−エトキシカルボニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−エトキシカルボニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−トリエトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、N−トリメトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、10−トリメトキシシリル−1,4,7−トリアザデカン、10−トリエトキシシリル−1,4,7−トリアザデカン、9−トリメトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、9−トリエトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、N−ベンジル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−ビス(オキシエチレン)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ビス(オキシエチレン)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、トリメトキシシリル安息香酸、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、トリメトキシビニルシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−ベンジル−3−アミノプロピルトリメトキシシランアルミニウムモノエチルアセトアセテートジイソプロピレート、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、N−(2−アミノエチル) −3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、トリメチルクロロシラン、ジメチルビニルクロロシラン、メチルジフェニルクロロシラン、クロロメチルジメチルクロロシラン、トリメチルメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルビニルエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、N,N’−ビス(トリメチルシリル)ウレア、ジメチルトリメチルシリルアミン、トリメチルシリルイミダゾール、ビニルトリクロロシラン、ベンゾトリアゾール、ベンズイミダゾール、インダゾール、イミダゾール、2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾオキサゾール、ウラゾール、チオウラシル、メルカプトイミダゾール、メルカプトピリミジン、1,1−ジメチルウレア、1,3−ジメチルウレア、チオ尿素化合物等を挙げることができる。官能性シランカップリング剤が密着促進剤として好ましい。本発明で使用する密着促進剤は、一種類のみを用いてもよいし、二種類以上を併用してもよい。
密着促進剤の好ましい使用量は、特に制限されないが、通常、組成物中の全固形分に対して、10質量%以下、特に0.05〜5質量%であることが好ましい。
【0128】
本発明の組成物はフィルターろ過により、不溶物、ゲル状成分等を除いてから膜形成に用いることが好ましい。その際に用いるフィルターの孔径は0.005〜0.5μmが好ましく、孔径0.005〜0.2μmがより好ましく、孔径孔径0.005〜0.1μmが最も好ましい。フィルターの材質はポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロンが好ましく、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンおよびナイロンがより好ましい。
【0129】
<膜製造方法>
本発明の組成物は、上記のように種々の用途に用いることができる。例えば、その用途としては、絶縁膜を作製するために使用することができる(以下、適宜、膜形成用組成物と称する。)。
本発明の膜形成用組成物を使用して得られる絶縁膜は、膜形成用組成物をスピンコーティング法、ローラーコーティング法、ディップコーティング法、スキャン法、スプレー法、バー塗布法等の任意の方法により、シリコンウエハ、SiO2ウエハ、SiNウエハ、ガラス、プラスチックフィルムなどの基板に塗布した後、溶剤を必要に応じて加熱処理で除去することにより形成することができる。
基板に塗布する方法としては、スピンコーティング法、スキャン法によるものが好ましい。特に好ましくは、スピンコーティング法によるものである。スピンコーティングについては、市販の装置を使用できる。例えば、クリーントラックシリーズ(東京エレクトロン製)、D-スピンシリーズ(大日本スクリーン製)、SSシリーズあるいはCSシリーズ(東京応化工業製)等が好ましく使用できる。
スピンコート条件としては、いずれの回転速度でもよいが、絶縁膜の面内均一性の観点より、300mmシリコン基板においては1300rpm程度の回転速度が好ましい。また組成物溶液の吐出方法においては、回転する基板上に組成物溶液を吐出する動的吐出、静止した基板上へ組成物溶液を吐出する静的吐出のいずれでもよいが、膜の面内均一性の観点より、動的吐出が好ましい。また、組成物の消費量を抑制する観点より、予備的に組成物の主溶剤のみを基板上に吐出して液膜を形成した後、その上から組成物を吐出するという方法を用いることもできる。スピンコート時間については特に制限はないが、スループットの観点から180秒以内が好ましい。また、基板の搬送の観点より、基板エッジ部の膜を残存させないための処理(エッジリンス、バックリンス)をすることも好ましい。
熱処理の方法は、特に限定されないが、一般的に使用されているホットプレート加熱、ファーネス炉を使用した加熱方法、RTP(Rapid Thermal Processor)等によるキセノンランプを使用した光照射加熱等を適用することができる。好ましくは、ホットプレート加熱、ファーネスを使用した加熱方法である。ホットプレートとしては市販の装置を好ましく使用でき、クリーントラックシリーズ(東京エレクトロン製)、D-スピンシリーズ(大日本スクリーン製)、SSシリーズあるいはCSシリーズ(東京応化工業製)等が好ましく使用できる。ファーネスとしては、αシリーズ(東京エレクトロン製)等が好ましく使用できる。
【0130】
本発明の組成物は基板上に塗布して塗膜を形成した後に、硬膜することが好ましい。硬膜とは、基板上の組成物(塗膜)を硬化し、膜に溶剤耐性を与えることを意味する。硬膜の方法としては、加熱処理(焼成)することが特に好ましい。例えば、化合物(X)中に残存するビニル基の後加熱時の重合反応が利用できる。この後加熱処理の条件は、好ましくは100〜600℃、より好ましくは200〜500℃、特に好ましくは200℃〜450℃で、好ましくは1分〜3時間、より好ましくは1分〜2時間、特に好ましくは1分〜1時間の範囲である。後加熱処理は数回に分けて行ってもよい。また、この後加熱は、酸素による熱酸化を防ぐために、窒素雰囲気下で行うことが特に好ましい。
【0131】
また、本発明では加熱処理ではなく、光照射や放射線照射などの高エネルギー線を照射することで、化合物(X)中に残存するビニル基またはエチニル基の重合反応を起こして硬膜してもよい。高エネルギー線とは、例えば、電子線、紫外線、X線などが挙げられるが、特にこれらの方法に限定されるものではない。
高エネルギー線として、電子線を使用した場合のエネルギーは0.1〜50keVが好ましく、より好ましくは0.2〜30keV、特に好ましくは0.5〜20keVである。電子線の総ドーズ量は好ましくは0.01〜5μC/cm 2 、より好ましくは0.01〜2μC/cm 2 、特に好ましくは0.01〜1μC/cm 2である。電子線を照射する際の基板温度は0〜500℃が好ましく、より好ましくは20〜450℃、特に好ましくは20〜400℃である。圧力は好ましくは0〜133kPa、より好ましくは0〜60kPa、特に好ましくは0〜20kPaである。
本発明の重合物の酸化を防止するという観点から、基板周囲の雰囲気はAr、He、窒素などの不活性雰囲気を用いることが好ましい。また、電子線との相互作用で発生するプラズマ、電磁波、化学種との反応を目的に酸素、炭化水素、アンモニアなどのガスを添加してもよい。電子線照射は複数回行ってもよく、この場合は電子線照射条件を毎回同じにする必要はなく、毎回異なる条件で行ってもよい。
【0132】
高エネルギー線として紫外線を用いてもよい。紫外線を用いる際の照射波長領域は160〜400nmが好ましく、その出力は基板直上において0.1〜2000mWcm−2が好ましい。紫外線照射時の基板温度は250〜450℃が好ましく、より好ましくは250〜400℃、特に好ましくは250〜350℃である。本発明の重合物の酸化を防止するという観点から、基板周囲の雰囲気はAr、He、窒素などの不活性雰囲気を用いることが好ましい。また、その際の圧力は0〜133kPaが好ましい。
【0133】
加熱処理と光照射や放射線照射などの高エネルギー線処理照射を、同時にまたは順次行うことにより硬膜してもよい。
【0134】
絶縁膜を形成する際の膜厚は、乾燥膜厚として、1回塗りで厚さ0.05〜1.5μm程度、2回塗りでは厚さ0.1〜3μm程度の塗膜を形成することができる。
カゴ構造が焼成時に分解しないために、組成物および膜の製造中にSi原子に求核攻撃する基(水酸基、シラノール基など)が実質的に存在しないことが好ましい。
【0135】
より具体的には、本発明の膜形成用組成物を、例えばスピンコート法により、基板(通常は金属配線を有する基板)上に塗布し、予備熱処理を行うことにより溶媒を乾燥させ、次いで300℃以上430℃以下の温度で最終熱処理(アニール)を行うことにより低誘電率の絶縁膜を形成できる。
【0136】
<絶縁膜>
上述した膜形成用組成物から得られる絶縁膜の厚さは、特に限定されないが、0.005〜10μmであることが好ましく、0.01〜5.0μmであることがより好ましく、0.01〜1.0μmであることがさらに好ましい。
ここで、本発明の絶縁膜の厚さは、光学干渉式膜厚測定器にて任意の3箇所以上を測定した場合の単純平均値を意味するものとする。
【0137】
上述の本発明の方法により得られる絶縁膜の比誘電率は、使用する材料によって異なるが、測定温度25℃において、比誘電率が好ましくは2.4以下、つまり1.8〜2.4であることが好ましい。
【0138】
本発明の絶縁膜のヤング率は、使用する材料によって異なるが、2.0〜15.0GPaであることが好ましく、3.0〜15.0GPaであることがより好ましい。
【0139】
上述した膜形成用組成物から得られる膜は好ましくは多孔質膜であり、多孔質膜中の空孔の空孔分布曲線における最大ピークを示す空孔直径(以後、最大分布直径とも称する)は5nm以下であることが好ましい。最大分布直径が5nm以下であると、より優れた機械的強度と比誘電率特性との両立が可能となる。
最大分布直径は、3nm以下がより好ましい。なお、最大分布直径の下限は、特に制限されないが、公知の測定装置により測定可能な下限として0.5nmが挙げられる。
なお、最大分布直径とは、窒素ガス吸着法により得られた空孔分布曲線における最大ピークを示す空孔直径を意味する。
【0140】
本発明の膜形成用組成物を使用して得られる絶縁膜は、半導体用層間絶縁膜として使用する際、その配線構造において、配線側面にはメタルマイグレーションを防ぐためのバリア層があってもよい。また、配線や層間絶縁膜の上面底面にはCMP(化学的機械的研磨)での剥離を防ぐキャップ層、層間密着層の他、エッチングストッパー層等があってもよく、更には層間絶縁膜の層を必要に応じて他種材料で複数層に分けてもよい。
【0141】
本発明の絶縁膜は、他の含Si絶縁膜または有機膜と積層構造を形成させて用いてもよい。炭化水素系の膜と積層して用いることが好ましい。
【0142】
本発明の膜形成用組成物を使用して得られる絶縁膜は、銅配線またはその他の目的でエッチング加工をすることができる。エッチングとしては、ウェットエッチング、ドライエッチングのいずれでもよいが、ドライエッチングが好ましい。ドライエッチングは、アンモニア系プラズマ、フルオロカーボン系プラズマのいずれもが適宜使用できる。これらプラズマにはArだけでなく、酸素、窒素、水素、ヘリウム等のガスを用いることができる。また、エッチング加工後に、加工に使用したフォトレジスト等を除く目的でアッシングすることもでき、さらにはアッシング時の残渣を除くため、洗浄することもできる。
【0143】
本発明の膜形成用組成物を使用して得られる絶縁膜は、銅配線加工後に、銅めっき部を平坦化するためCMPをすることができる。CMPスラリー(薬液)としては,市販のスラリー(例えば、フジミ製、ロデールニッタ製、JSR製、日立化成製等)を適宜使用できる。また、CMP装置としては市販の装置(アプライドマテリアル社製,荏原製作所製等)を適宜使用することができる。さらにCMP後のスラリー残渣除去のため、洗浄することができる。
【0144】
<用途>
本発明の絶縁膜は、多様の目的に使用することができ、特に電子デバイスへ好適に用いることができる。電子デバイスとは、半導体装置や、磁気記録ヘッドなどを含めた広範な電子機器を意味する。例えば、LSI、システムLSI、DRAM、SDRAM、RDRAM、D−RDRAM等の半導体装置、マルチチップモジュール多層配線板等の電子部品における絶縁皮膜として好適であり、半導体用層間絶縁膜、エッチングストッパー膜、表面保護膜、バッファーコート膜の他、LSIにおけるパッシベーション膜、α線遮断膜、フレキソ印刷版のカバーレイフィルム、オーバーコート膜、フレキシブル銅張板のカバーコート、ソルダーレジスト膜、液晶配向膜等として使用することができる。また、光学装置用の表面保護膜、反射防止膜、位相差膜としても用いることができる。
【実施例】
【0145】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例により制約されるものではない。
【0146】
以下のGPC測定は、Waters2695およびShodex製GPCカラムKF−805L(カラム3本を直結)を使用し、カラム温度40℃、試料濃度0.5質量%のテロラヒドロフラン溶液を50μl注入し、溶出溶媒としてテトラヒドロフランを毎分1mlの流量でフローさせ、RI検出装置(Waters2414)およびUV検出装置(Waters2996)にて試料ピークを検出することでおこなった。M、MおよびMz+1は標準ポリスチレンを用いて作製した検量線を用いて計算した。
【0147】
<化合物I−mの合成>
電子グレード濃塩酸67g、n-ブタノール305g、イオン交換水133gの混合溶液を10℃に冷却し、これにビニルトリエトキシシラン59gを15分間かけて滴下した。その後更に、25℃で18時間攪拌した。析出した結晶を濾取し、電子グレードメタノール50gで洗浄した。これをテトラヒドロフラン42gに溶解し、攪拌しながら電子グレードメタノール42g、続いてイオン交換水127gを滴下した。析出した結晶を濾取、乾燥して白色固体の目的物(化合物I−m)4.2gを得た。H−NMR測定の結果は以下の通りであった。1H-NMR (300 MHz, CDCl3) :6.13-5.88 (m, 24H)
【0148】
<化合物I−kの合成>
電子グレード濃塩酸136g、n-ブタノール1L、イオン交換水395gの混合溶液を10℃に冷却し、これにビニルトリエトキシシラン78.3gとメチルトリエトキシシラン73.3gの混合溶液を15分間かけて滴下した。その後更に、25℃で18時間攪拌した。析出した結晶を濾取し、電子グレードメタノール100mLで洗浄した。これをテトラヒドロフラン500mLに溶解し、攪拌しながら電子グレードメタノール200mL、続いてイオン交換水200mLを滴下した。析出した結晶を濾取、乾燥して白色固体の目的物(化合物I−k)7.8gを得た。H−NMR測定の結果は以下の通りであった。1H-NMR (300 MHz, CDCl3) :0.28-0.18 (m, 12H), 6.08-5.88 (m, 12H)
【0149】
上記製造例を参照して、化合物I−a、化合物I−j、化合物I−rを合成した。なお、それぞれの化合物は、上記の化合物(I)の例示化合物として記載した化合物に該当する。
【0150】
<樹脂A−1の合成>
化合物(I−m)50gを電子グレード酢酸ブチル1320gに加えた。得られた溶液を窒素気流中120℃に加熱し、重合開始剤として和光純薬工業社製V−601(10時間半減温度66℃)0.47gと2,6−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−メチルフェノール113mgとを電子グレード酢酸ブチル235mlに溶解させた溶液50.4mlを80分かけて滴下した。滴下終了後、更に1時間120℃にて攪拌した。攪拌終了後、反応液に電子グレードメタノール3L、イオン交換水3Lを加え、析出した固体を濾取し、電子グレードメタノール100mLで洗浄した。これをテトラヒドロフラン724gに溶解し、攪拌しながら電子グレードメタノール50g、続いて水150gを滴下した。1時間攪拌した後、デカンテーションで上澄みを捨て、電子グレードメタノール200gを加えた。析出した固体を濾取、乾燥して白色固体の目的物(樹脂A−1)17.7gを得た。得られた樹脂をGPCで分析すると、M=8.7×10、M=5.4×10であった。固形物中には未反応の化合物(I−m)は2質量%以下であり、分子量300万以上の成分は観測されなかった。重クロロホルムを測定溶媒として、H−NMRスペクトルを測定したところ、ビニル基が重合して生成したアルキル基由来のプロトンピーク(0.2〜3.0ppm)と、残存したビニル基のプロトンピーク(4.9〜6.8ppm)が2.6/5.4の積分比率で観察された。
【0151】
<樹脂A−2の合成>
化合物(I−m)109gをジフェニルエーテル2878gに加えた。得られた溶液を窒素気流中120℃に加熱し、重合開始剤として和光純薬工業社製V−601(10時間半減温度66℃)168mgをジフェニルエーテル74gに溶解させた溶液15.0mlを30分かけて滴下した。滴下終了後、更に1時間120℃にて攪拌した。攪拌終了後に、反応液に電子グレードメタノール5.4L、水200mLを加え、析出した固体を濾取し、電子グレードメタノール200mLで洗浄した。これをテトラヒドロフラン1Lに溶解し、攪拌しながら電子グレードメタノール2L、続いてイオン交換水125gを加え、析出した固体を濾取し、電子グレードメタノール200mLで洗浄した。この操作を計2回繰り返し、乾燥して白色固体の目的物(樹脂A−2)7.26gを得た。得られた樹脂をGPCで分析すると、M=8.1×10、M=4.98×10であった。固形物中には未反応の化合物(I−m)は0.2質量%以下であり、分子量300万以上の成分は観測されなかった。重クロロホルムを測定溶媒として、H−NMRスペクトルを測定したところ、ビニル基が重合して生成したアルキル基由来のプロトンピーク(0.2〜3.0ppm)と、残存したビニル基のプロトンピーク(4.9〜6.8ppm)が2.2/5.8の積分比率で観察された。
【0152】
<樹脂A−3の合成>
化合物(I−m)30gをジフェニルエーテル792gに加えた。得られた溶液を窒素気流中150℃に加熱し、重合開始剤として和光純薬工業社製VR−110(Azodi−tert−octane、10時間半減温度110℃)112mgと2,6−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−メチルフェノール22mgをジフェニルエーテル49.8gに溶解させた溶液11.4mlを30分かけて滴下した。滴下終了後、更に1時間150℃にて攪拌した。攪拌終了後、反応液に電子グレードメタノール3.5L、イオン交換水150mLを加え、析出した固体を濾取し、電子グレードメタノール200mLで洗浄した。これをテトラヒドロフラン300mLに溶解し、攪拌しながら電子グレードメタノール30mL、続いてイオン交換水60mLを加え、析出した固体を濾取し、電子グレードメタノール100mLで洗浄した。この操作を計2回繰り返し、乾燥して白色固体の目的物(樹脂A−3)12.5gを得た。得られた樹脂をGPCで分析すると、M=18.3×10、M=5.58×10であった。固形物中には未反応の化合物(I−m)は2質量%以下であり、分子量300万以上の成分は観測されなかった。重クロロホルムを測定溶媒として、H−NMRスペクトルを測定したところ、ビニル基が重合して生成したアルキル基由来のプロトンピーク(0.2〜3.0ppm)と、残存したビニル基のプロトンピーク(4.9〜6.8ppm)が1.3/6.7の積分比率で観察された。
【0153】
<樹脂A−4の合成>
化合物(I−m)1gを電子グレード酢酸ブチル26.4gに加えた。得られた溶液を窒素気流中、内温127℃で加熱還流しながら、重合開始剤として和光純薬工業製V−601(10時間半減温度66℃)1.8mgを電子グレード酢酸ブチル2mlに溶解させた溶液を2時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに1時間加熱還流した。重合禁止剤として4−メトキシフェノール20mgを加えた後、室温まで冷却した。その後、液重量2gまで減圧濃縮し、電子グレードメタノール20mlを加え、1時間攪拌した後、固形物を濾取、乾燥した。これをテトラヒドロフラン15mlに溶解し、攪拌しながらイオン交換水5mlを滴下した。1時間攪拌した後、デカンテーションで上澄みを捨て、電子グレードメタノール10mlを加えた。固形分を濾取、乾燥し、白色固体の目的物(樹脂A−4)0.60gを得た。得られた樹脂をGPCで分析すると、Mw=11.8×10、Mn=3.1×10、Mz+1=27×10であった。固形物中には未反応の化合物(I−m)は3質量%以下であり、分子量300万以上の成分は観測されなかった。重クロロホルムを測定溶媒として、固形分のH−NMRスペクトルを測定したところ、ビニル基が重合して生成したアルキル基由来のプロトンピーク(0.2〜3.0ppm)と、残存したビニル基のプロトンピーク(4.9〜6.8ppm)が42/58の積分比率で観察された。
【0154】
<樹脂A−5の合成>
化合物(I−m)1gを電子グレード酢酸ブチル13.2gに加えた。得られた溶液を窒素気流中、内温127℃で加熱還流しながら、重合開始剤として和光純薬工業製V−40(10時間半減温度88℃)1mgを電子グレード酢酸ブチル1mlに溶解させた溶液を4時間かけて滴下した。滴下終了後、1時間加熱還流した。重合禁止剤として4−メトキシフェノール20mgを加えた後、室温まで冷却した。その後、液重量2gまで減圧濃縮し、電子グレードメタノール20mlを加え、1時間攪拌した後、固形物をろ取、乾燥した。これをテトラヒドロフラン10mlに溶解し、攪拌しながらイオン交換水1.8mlを滴下した。1時間攪拌した後、デカンテーションで上澄みを捨て、電子グレードメタノール10mlを加えた。固形分を濾取、乾燥し、白色固体の目的物(樹脂A−5)0.41gを得た。得られた樹脂をGPCで分析すると、M=12.8×10、M=3.3×10、Mz+1=38×10であった。固形物中には未反応の例示化合物(I−m)は3質量%以下であり、分子量300万以上の成分は観測されなかった。重クロロホルムを測定溶媒として、固形分のH−NMRスペクトルを測定したところ、ビニル基が重合して生成したアルキル基由来のプロトンピーク(0.2〜3.0ppm)と、残存したビニル基のプロトンピーク(4.9〜6.8ppm)が53:47の積分比率で観察された。
【0155】
上記の製造例を参照して、樹脂A−6〜樹脂A−11を合成した。なお、それぞれの樹脂の合成に使用した化合物(I)の種類および組成、ならびに、重量平均分子量および数平均分子量を表1に示す。
【0156】
<樹脂X−1の合成>
樹脂(A−1)800mg、2,6−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−メチルフェノール50mg、ジシクロペンタジエン8gをジフェニルエーテル4gに加えた。
得られた溶液を窒素気流中180℃に加熱し、3時間攪拌した。攪拌終了後、反応液を電子グレードメタノール200mlに加え、析出固体を濾取、乾燥し、一般式(F−2)で表されるディールス・アルダー反応付加部を有する白色固体の目的物(樹脂X−1)820mgを得た。得られた樹脂をGPCで分析すると、M=11.5×10、M=5.29×10であった。固形物中には未反応のシクロペンタジエンおよび分子量300万以上の成分は観測されなかった。重クロロホルムを測定溶媒として、固形分のH−NMRスペクトルを測定したところ、ビニル基が重合して生成したアルキル基およびディールス・アルダー反応して生成したアルキル基由来のプロトンピーク(0.2〜3.0ppm)と、残存したビニル基およびディールス・アルダー反応して生成したオレフィン由来のプロトンピーク(4.9〜6.8ppm)が30:70の積分比率で観察された。熱重量分析 (TA Instruments社SDT Q600を使用、窒素流量 100 ml/min, 20℃/minで昇温)の結果、340℃で28%の重量減少が観測され、樹脂X−1中におけるシクロペンタジエンの付加量(質量%)が確認された。
【0157】
<樹脂X−2の合成>
樹脂(A−2)800mg、2,6−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−メチルフェノール50mg、ペンタメチルシクロペンタジエン800mgをジフェニルエーテル4gに加えた。得られた溶液を窒素気流中180℃に加熱し、3時間攪拌した。反応液を電子グレードメタノール200mlに加え、析出固体を濾取、乾燥し、一般式(F−2)で表されるディールス・アルダー反応付加部を有する白色固体の目的物(樹脂X−2)910mgを得た。得られた樹脂をGPCで分析すると、M=9.47×10、M=5.86×10であった。固形物中には未反応のペンタメチルシクロペンタジエンおよび分子量300万以上の成分は観測されなかった。重クロロホルムを測定溶媒として、固形分のH−NMRスペクトルを測定したところ、ビニル基が重合して生成したアルキル基およびディールス・アルダー反応して生成したアルキル基由来のプロトンピーク(0.2〜3.0ppm)と、残存したビニル基およびディールス・アルダー反応して生成したオレフィン由来のプロトンピーク(4.9〜6.8ppm)が85:15の積分比率で観察された。熱重量分析 (TA Instruments社SDT Q600を使用、窒素流量 100 ml/min, 20℃/minで昇温)の結果、336℃で44%の重量減少が観測され、樹脂X−2中におけるペンタメチルシクロペンタジエンの付加量(質量%)が確認された。
【0158】
<樹脂X−3の合成>
樹脂(A−2)800mg、2,6−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−メチルフェノール50mg、ペンタメチルシクロペンタジエン240mgをジフェニルエーテル4gに加えた。得られた溶液を窒素気流中180℃に加熱し、3時間攪拌した。反応液を電子グレードメタノール200mlに加え、析出固体を濾取、乾燥し、一般式(F−2)で表されるディールス・アルダー反応付加部を有する白色固体の目的物(樹脂X−3)910mgを得た。得られた樹脂をGPCで分析すると、M=10.6×10、M=5.49×10であった。固形物中には未反応のペンタメチルシクロペンタジエンおよび分子量300万以上の成分は観測されなかった。重クロロホルムを測定溶媒として、固形分のH−NMRスペクトルを測定したところ、ビニル基が重合して生成したアルキル基およびディールス・アルダー反応して生成したアルキル基由来のプロトンピーク(0.2〜3.0ppm)と、残存したビニル基およびディールス・アルダー反応して生成したオレフィン由来のプロトンピーク(4.9〜6.8ppm)が60:40の積分比率で観察された。熱重量分析 (TA Instruments社SDT Q600を使用、窒素流量 100 ml/min, 20℃/minで昇温)の結果、330℃で14%の重量減少が観測され、樹脂X−3中におけるペンタメチルシクロペンタジエンの付加量(質量%)が確認された。
【0159】
上記の製造例を参照して、樹脂X−4〜樹脂X−12を合成した。なお、それぞれの樹脂の合成に使用した樹脂Aおよびジエン系化合物の種類、ならびに、重量平均分子量および数平均分子量を表1に示す。
なお、表1中におけるジエンBの付加量は、樹脂X中におけるジエンBの質量%(wt%)である。
【0160】
【表1】

【0161】
上記樹脂A−1〜A−5の製造方法を参照し、上記で述べた化合物(X)の例示化合物である(I−s)〜(I−aa)を用いて、表2に示す重合条件(重合溶媒、温度)にて重合を行った。表2に重合反応により得られた重合体の重量平均分子量および数平均分子量を示す。
なお、例示化合物(I−s)〜(I−aa)は、上記例示化合物(I−k)などの製造方法および特開2008−210970号公報の合成方法を参照して合成した。
【0162】
【表2】

【0163】
<樹脂H−1の合成>
特開2007−161788号公報に記載の方法に従い、1,3−ジエチニルアダマンタンの重合体(G−1)を合成した。得られた重合体をGPCで分析すると、M=1.37×10、M=0.39×10であった。
重合体(G−1)12.9gをトルエン30mLに溶解させ、このトルエン溶液を0℃に冷却しながらDIBAL−H(1M,ヘキサン溶液)175mLを加えた。その後、室温で3時間攪拌した。次に、飽和塩化アンモニウム水溶液230mLを冷却し、ここに反応液を加えて、ろ過した後、ろ液を酢酸エチルで抽出した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶液を減圧濃縮した。得られた粗生成物を少量のテトラヒドロフランに溶解させ、その溶液をメタノール300mLに加え、析出固体を濾取、乾燥し、白色固体の目的物(樹脂H−1)10.3gを得た。得られた樹脂をGPCで分析すると、M=1.35×10、M=0.39×10であった。
【0164】
【化12】

【0165】
<樹脂H−2の合成>
特開2007−161786号公報に記載の方法に従い、4,9−ジエチニルジアマンタンの重合体(G−2)を合成した。得られた重合体をGPCで分析すると、M=1.66×10、M=0.54×10であった。
上記の重合体(G−1)の代わりに重合体(G−2)を用いた以外は、樹脂(H−1)の合成と同様に反応を行い、樹脂(H−2)を得た。得られた樹脂をGPCで分析すると、M=1.65×10、M=0.51×10であった。
【0166】
【化13】

【0167】
<樹脂H−3の合成>
特表2003−520864号公報に記載の方法に準じて、ビニル基を有するポリアリーレンエーテル(樹脂H−3)を合成した。
【0168】
【化14】

【0169】
<化合物H−4の合成>
特表2004−504455号公報に記載のテトラキス(トラニル)アダマンタンの合成法において、フェニルアセチレンの代わりにフェニルアセチレンと(トリメチルシリル)アセチレンの混合物(等モル量)を用いて化合物(G−4)を合成した。次に、特開2007−314778号公報に記載の方法に従い、(トリメチルシリル)エチニル基をビニル基に変換し、化合物(H−4)を得た。
なお、以下の式中のRはフェニル基とトリメチルシリル基の混合物であり、Rはフェニルエチニル基とビニル基の混合物である。
【0170】
【化15】

【0171】
<樹脂H−5の合成>
国際公開第2005−019305号パンフレットに記載の方法に準じて、ビニル基を有するポリベンゾオキサゾール(樹脂H−5)を合成した。
【0172】
【化16】

【0173】
上記の樹脂X−1〜樹脂X−3の製造例を参照し、樹脂H−1〜H−5を用いて樹脂X−23〜樹脂X−28を合成した。なお、それぞれの樹脂の合成に使用した樹脂Hおよびジエン系化合物の種類、ならびに、重量平均分子量および数平均分子量を表3に示す。
なお、表3中におけるジエンBの付加量は、樹脂X中におけるジエンBの質量%(wt%)である。
【0174】
【表3】

【0175】
<組成物の調製>
上記で得られた樹脂を下記表4に示すように溶剤に溶解させ、それぞれについて固形分濃度8質量%の溶液を調製した。得られた溶液を0.1μmのテトラフルオロエチレン製フィルターでろ過した後、スピンコート法で4インチシリコンウエハ上に塗布し、ホットプレート上にて110℃で1分間、ついで200℃で1分間、基板を予備乾燥し、膜厚400nmの塗布膜を形成させた。
【0176】
得られた塗布膜を以下の次の何れかの方法で硬化を実施した。
(1)加熱
光洋サーモ社製クリーンオーブンCLH-21CD(III)により、窒素雰囲気下、クリーンオーブン中で400℃、60分間加熱した。
(2)EB照射
ウシオ電機社製Mini−EBにてAr雰囲気、圧力100kPa、基板温度350℃の条件で、電子加速電圧20keV、電子線ドーズ量1μCcm−2を5分間照射した。
(3)UV照射
ウシオ電機社製誘電体バリア放電方式エキシマランプUER20−172を用い、窒素気流下、350℃のホットプレート上で172nmの波長光100mJ/cmを5分照射した。
【0177】
得られた硬化膜について下記の方法で評価した。結果を表4に示す。
なお、表4中において、界面活性剤の含有量は、組成物(塗布液)全量に対する質量%を表す。一方、密着促進剤の含有量は、組成物(塗布液)中の全固形物に対する質量%で表される。
【0178】
【表4】

【0179】
【表5】

【0180】
<比誘電率>
フォーディメンジョンズ製水銀プローバおよび横川ヒューレットパッカード製のHP4285ALCRメーターを用いて、1MHzにおける容量値(測定温度25℃)から算出した。
<ヤング率>
MTS社ナノインデンターSA2を使用してヤング率を測定した。
<比誘電率の経時安定性>
得られたウエハを23℃、40%RH(相対湿度)の雰囲気に放置し,4週間後に比誘電率を上記の方法で測定した。比誘電率変化量が±0.1の範囲にあるものを○、範囲にあるものを×と表記した。
<膜形成後の耐熱性の評価>
耐熱性の評価は、得られた膜を空気中400℃、60秒加熱し、膜厚変化率を測定することによって行った。値が0に近い値である塗膜ほど、耐熱性が良いといえる。実施例1および2はそれぞれ6.8%、4.8%であり、比較例1および2はそれぞれ10.1、8.9%であった。
【0181】
表4の結果より、本発明の膜形成用組成物を使用した場合、加熱、EB照射、UV照射など種々の硬化方法により、比誘電率が低く、比誘電率の経時安定性および耐熱性に優れ、かつ、ヤング率が高い膜が得られることが確認された。
一方、硬化処理時にジエン化合物を放出しない比較例1および2において得られた膜は、比誘電率は高く、かつ、ヤング率も低かった。比誘電率の経時安定性および耐熱性の点でも劣っていた。
【0182】
<実施例29>
50ml三口フラスコにbicyclo[2.2.1]hept-5-en-2-yltrimethoxysilane(下式)2.79g、テトラエトシキシラン625mg、メチルトリエトキシシラン2.32g、シュウ酸100mg、イソプロピルアルコール12ml、ブタノール8ml、イオン交換水3mlを入れ、7時環加熱還流した。放冷後0.1μmのテトラフルオロエチレン製フィルターでろ過した。
得られた組成物をスピンコート法で4インチシリコンウエハ上に塗布後、ホットプレート上にて80℃で5分間、200℃で5分間基板を乾燥し、さらに窒素雰囲気のオーブン中にて400℃で60分間焼成して、膜厚400nmの膜を形成させた。
得られた膜について上記と同様の測定を行ったところ、比誘電率は2.1、ヤング率は5.4MPa、誘電率の経時安定性は○であった。
【0183】
【化17】

【0184】
<空孔径測定>
得られた硬化膜をウエハごと2.0cm×0.5cmの矩形にカットしてガス吸着測定用セルに入れ、QUANTACHROME社製細孔分布・比表面積測定装置AUTOSORB‐1を用いて窒素ガスによるガス吸着測定を行った。測定後のデータはN2/DFT(N2 at 77K on silica(cylinder pore, NLDFT equibrium model))法により解析し、得られた細孔分布(空孔分布)の最大頻度径(最大ピーク)を最大分布直径とした。
実施例1、2、17の最大頻度径はそれぞれ2.5nm、2.8nm、1.9nmであり、比較例1および2はそれぞれ7.8nm、9.2nmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱、光照射、放射線照射またはそれらの組み合わせにより、その一部が脱離して揮発性成分を生じ、残部に不飽和基を生成する官能基を有する化合物(X)を含有する組成物。
【請求項2】
前記化合物(X)が、共役ジエン構造とジエノフィル構造とのディールス・アルダー反応によって形成され、加熱、光照射、放射線照射またはそれらの組み合わせにより逆ディールス・アルダー反応が進行して前記共役ジエン構造と前記ジエノフィル構造が生成されるディールス・アルダー反応付加部を有し、かつ、シロキサン構造を有する化合物である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記化合物(X)が、ジエノフィル構造を有し、かつ、シロキサン構造を有する化合物(A)と、共役ジエン構造を有する化合物(B)とのディールス・アルダー反応により形成され、加熱、光照射、放射線照射またはそれらの組み合わせにより逆ディールス・アルダー反応を介して前記共役ジエン構造を有する化合物(B)を放出する化合物である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記シロキサン構造を有する化合物(A)が、m個のRSi(O0.5)3ユニット(mは8〜16の整数を表し、Rは、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。)を有し、各ユニットが各ユニットにおける酸素原子を共有して他のユニットに連結しカゴ構造を形成している化合物(I)またはその重合体である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記化合物(I)が、下記一般式(Q−1)〜(Q−7)のいずれかで表される化合物である、請求項4に記載の組成物。
【化1】


(一般式(Q−1)〜(Q−7)中、Rは、それぞれ独立して、水素原子または置換基を表す。一般式(Q−1)〜一般式(Q−7)のそれぞれにおいて、Rのうち少なくとも1つは、アルケニル基またはアルキニル基を表す。)
【請求項6】
前記共役ジエン構造を有する化合物(B)が、一般式(B−1)〜一般式(B−3)のいずれかで表される化合物である、請求項3〜5のいずれかに記載の組成物。
【化2】


(一般式(B−1)〜一般式(B−3)中、X〜X16は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。
一般式(B−1)および一般式(B−2)中、Wは、−O−、−C(O)−、−C(O)O−、−S(O)−、−S(O)−、−C(X17)(X18)−、または、−N(X19)−を表す。X17〜X19は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。)
【請求項7】
前記化合物(X)中における前記共役ジエン構造を有する化合物(B)の付加量が、前記化合物(X)全量に対して、5〜80質量%である請求項3〜6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
さらに、溶剤を含む請求項1〜7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
絶縁膜形成用途に用いられる請求項1〜8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
請求項1〜9いずれかに記載の組成物を基板上に塗布した後、硬膜することを特徴とする絶縁膜の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の製造方法を用いて製造された絶縁膜。
【請求項12】
請求項11に記載の絶縁膜を用いて製造された電子デバイス。
【請求項13】
加熱、光照射、放射線照射またはそれらの組み合わせにより、その一部が脱離して揮発性成分を生じ、残部に不飽和基を生成する官能基を有する化合物。
【請求項14】
共役ジエン構造とジエノフィル構造とのディールス・アルダー反応によって形成され、加熱、光照射、放射線照射またはそれらの組み合わせにより逆ディールス・アルダー反応が進行して前記共役ジエン構造と前記ジエノフィル構造が生成されるディールス・アルダー反応付加部を有し、かつ、シロキサン構造を有する樹脂。
【請求項15】
ジエノフィル構造を有し、かつ、シロキサン構造を有する化合物(A)と、共役ジエン構造を有する化合物(B)とのディールス・アルダー反応により形成され、加熱、光照射、放射線照射またはそれらの組み合わせにより逆ディールス・アルダー反応を介して前記共役ジエン構造を有する化合物(B)を放出する樹脂。
【請求項16】
一般式(Q−1)〜(Q−7)のいずれかで表される化合物またはその重合体と、一般式(B−1)〜(B−3)のいずれかで表される化合物とのディールス・アルダー反応により形成され、加熱、光照射、放射線照射またはそれらの組み合わせにより逆ディールス・アルダー反応を介して前記一般式(B−1)〜(B−3)のいずれかで表される化合物を放出する樹脂。
【化3】


(一般式(Q−1)〜(Q−7)中、Rは、それぞれ独立して、水素原子または置換基を表す。一般式(Q−1)〜一般式(Q−7)のそれぞれにおいて、Rのうち少なくとも1つは、アルケニル基またはアルキニル基を表す。)
【化4】


(一般式(B−1)〜一般式(B−3)中、X〜X16は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。
一般式(B−1)および一般式(B−2)中、Wは、−O−、−C(O)−、−C(O)O−、−S(O)−、−S(O)−、−C(X17)(X18)−、または、−N(X19)−を表す。X17〜X19は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。)

【公開番号】特開2010−159385(P2010−159385A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36610(P2009−36610)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】