説明

絶対位置測定装置

【課題】小型化を容易に図れ、製造上の負担を軽減でき、スピンドルの絶対位置を測定可能な絶対位置測定装置を提供すること。
【解決手段】スピンドル3の回転量を第1の周期で変化する位相信号として検出する第1のロータリーエンコーダと、スピンドル3の回転量を第2の周期で変化する位相信号として検出する第2のロータリーエンコーダとを備える。第1のロータリーエンコーダの第1のロータ42の回転は、第1の回転円筒43の外周に形成された第1の歯車48と、第2の回転円筒52の外周に形成された第2の歯車55とに噛合する中継歯車53によって、第2のロータ51に伝達される。従って、二つの異なる周期の位相信号に基づいてスピンドルの絶対位置を算出できる。また、従来のようなスピンドルの螺旋状のキー溝を設ける必要がなく、小型化を容易に図れる。また、製造上の負担を軽減させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶対位置測定装置に関する。例えば、マイクロメータヘッド、マイクロメータ、ホールテスト等のように、回転しながら軸方向に移動するスピンドルを有する測定装置であって、スピンドルの絶対位置を測定する絶対位置測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、長さまたは大きさ等を測定する小型測定器として、例えば、マイクロメータやマイクロメータヘッドが知られ、固定部材に対する可動部材の相対移動量を検出することによって、被測定対象の測定が行われてきた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1に記載の小型測定器における、固定部材に対する可動部材の相対移動量を検出する構成について、図面に基づいて以下に説明する。
図6は、特許文献1に開示される小型測定器としての従来のマイクロメータヘッド101を示す図である。
このマイクロメータヘッド101は、貫通孔121を有する本体102と、この貫通孔121に挿通され当該貫通孔121に沿って進退自在に支持されたスピンドル103と、スピンドル103の進退移動に応じて位相信号を発信する位相信号発信手段104と、この位相信号に基づいてスピンドル103の絶対位置を算出する演算処理手段105と、算出されたスピンドル103の絶対位置を表示する表示手段106とを備えている。
【0004】
本体102に対してスピンドル103が進退移動する構成について説明する。本体102の貫通孔121の内周には、雌ねじ122が形成されている。また、スピンドル103には、本体102の雌ねじ122と螺合する送りねじ131が形成され、端部につまみ部132が設けられている。従って、つまみ部132によりスピンドル103を回転操作すると、雌ねじ122と送りねじ131との螺合によって、スピンドル103が本体102に対して軸方向に進退する。
【0005】
位相信号発信手段104は、二つのロータリーエンコーダによって構成され、スピンドル103の進退移動に応じて二つの異なる周期の位相信号を発信する機能を備えている。これらのロータリーエンコーダは、本体102に固定された一枚のステータ141と、このステータ141を挟んで両側にそれぞれ配置された二枚のロータ142、145とから構成される。
【0006】
これらステータ141およびロータ142、145について、以下に詳しく説明する。
ステータ141には、スピンドル103の軸方向に貫通孔148が形成され、この貫通孔148にスピンドル103が挿通されている。このスピンドル103の外周には、2本のキー溝133、134が形成されている。第1のキー溝133は、スピンドル103の軸に沿って直線状に設けられ、第2のキー溝134は、スピンドル103の軸に対して螺旋状に設けられている。この第1のキー溝133と係合する第1のキー144を内周に有する第1の回転円筒143と、第2のキー溝134と係合する第2のキー147を内周に有する第2の回転円筒146とが、スピンドル103の軸の外周に配設されている。回転円筒143、146は、ステータ141の位置からスピンドル103の軸に沿って両方向に並んでいる。
【0007】
ロータ142、145は、それぞれスピンドル103の軸方向に貫通する孔149,150を有し、回転円筒143、146にそれぞれ設けられている。すなわち、第1のロータ142は、第1の回転円筒143の外周に嵌合され、第1のロータ142は、第1の回転円筒143の外周に嵌合されている。このようにして、ロータ142、145は、ステータ141の両面にそれぞれ対向して配置される。
【0008】
このような構成において、スピンドル103の絶対位置を測定する手順を説明する。
まず、スピンドル103を回転させると、スピンドル103が軸方向に進退移動する。同時に、第1の回転円筒143は、第1のキー144と第1のキー溝133との係合により回転し、第2の回転円筒146は、第2のキー147と第2のキー溝134との係合により回転する。
【0009】
第1の回転円筒143が回転する場合、第1のキー溝133がスピンドル103の軸に沿って直線状に設けられているので、第1の回転円筒143は、スピンドル103と同期して回転する。一方、第2の回転円筒146が回転する場合、第2のキー溝134がスピンドル103の軸に対して螺旋状に設けられているので、第2の回転円筒146は、スピンドル103より遅れて回転する。これによって、二つのロータ142、145の回転速度の差が生じて、二つのロータリーエンコーダから、二つの異なる周期の位相信号が発信される。
【0010】
従って、二つのロータリーエンコーダからそれぞれ検出される位相信号の位相差が、常に異なり、図7に示されるようなスピンドル103の回転数と二つのロータリーエンコーダの位相信号との関係が得られる。図7に示されるこれらの関係は、一例であるが、スピンドル103の移動範囲内で第1のロータ142から100周期の位相変化が得られるとき、第2のロータ145からは99周期の位相変化が得られるようになっている。このように、二つのロータリーエンコーダから得られる位相信号の位相差がスピンドル103の可動範囲において常に異なっていることを利用して、当該位相差からスピンドル103の軸方向の絶対位置が算出される。
【0011】
【特許文献1】特開2003−207307号公報(図1、図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1に記載の図6に示される構成では、一枚のステータ141を間にして二枚のロータ142、145を配置することになるので、ロータ142、145を回転させるために回転円筒143、146にそれぞれ設けられる二つのキー144、147の位置がスピンドル103の軸方向で離れてしまうことになる(図6中のL1)。
【0013】
このようにスピンドル103の軸方向に離れた二つのキー144、147に対してそれぞれ係合可能な二つのキー溝133、134をスピンドル103に刻まなければならないので、各キー溝133、134の始点が互いに大きくずれることになり、結果としてキー溝133、134を刻む範囲L2がスピンドル103の軸方向の移動範囲L3に対して長くなってしまい、小型化を図る上での障害となっている。
また、スピンドル103の外周に螺旋状のキー溝134を精度よく加工する必要があり、製造上の負担が大きくなるという問題もある。
【0014】
本発明の目的は、小型化を容易に図ることができ、製造上の負担を軽減できるとともに、スピンドルの絶対位置を測定可能な絶対位置測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の絶対位置測定装置は、本体と、この本体に螺合されて、軸周りに回転しながら進退自在に設けられたスピンドルと、このスピンドルの回転量を第1の周期で変化する位相信号として検出する第1のロータリーエンコーダと、スピンドルの回転量を第2の周期で変化する位相信号として検出する第2のロータリーエンコーダと、これらのロータリーエンコーダからそれぞれ出力される位相信号に基づいてスピンドルの絶対位置を演算処理する演算処理手段とを備え、第1のロータリーエンコーダは、第1のロータと、この第1のロータをスピンドルの軸周りに回転可能に保持するとともにスピンドルの回転によって回転され、外周に第1の歯車が形成された第1の保持体と、本体に支持されるとともに第1のロータと所定の隙間を介して対向配置された第1のステータとを含んで構成され、第2のロータリーエンコーダは、第2のロータと、この第2のロータをスピンドルの軸周りに回転可能に保持するとともに外周に第2の歯車が形成された第2の保持体と、本体に支持されるとともに第2のロータと所定の隙間を介して対向配置された第2のステータと、第1の歯車から第2の歯車に回転を伝達する中継歯車とを含んで構成され、第1の歯車、中継歯車、および、第2の歯車の各歯数は、第1歯車および第2歯車の各回転速度に差が生じるように設定されていることを特徴とする。
【0016】
ここで、第1の歯車、中継歯車、および、第2の歯車の各歯数を、第1歯車および第2歯車の各回転速度に差が生じるように設定する方法としては、例えば、第1の歯車を第2の歯車の歯数と異なる歯数に設定する方法、または、中継歯車を複数の歯車で構成して第1の歯車の回転を変速させて第2の歯車に伝達する方法等を採用できる。
本発明によれば、第1のロータリーエンコーダについては、スピンドルの回転によって第1の保持体が回転され、同時に第1のロータが回転される。すると、第1のロータと第1のステータとの間で、スピンドルの回転量に応じて第1の周期で変化する位相信号が検出される。また、第2のロータリーエンコーダについては、中継歯車によって第1の歯車の回転が第2の歯車に伝達されるので、第1の保持体の回転によって第2の保持体が回転され、同時に第2のロータが回転される。すると、第2のロータと第2のステータとの間で、スピンドルの回転量に応じて第2の周期で変化する位相信号が検出される。この際、第1の歯車、中継歯車、および、第2の歯車の各歯数が、第1歯車および第2歯車の各回転速度に差が生じるように設定されているので、第1のロータリーエンコーダで検出される位相信号の第1の周期と、第2のロータリーエンコーダで検出される位相信号の第2の周期とを、互いに異なった周期とすることができ、これらの異なる2つの周期で変化する位相信号に基づいてスピンドルの絶対位置を算出することができる。
【0017】
また、中継歯車によって第1の歯車から第2の歯車に回転が伝達されるので、従来のように、スピンドルに直線状のキー溝と螺旋状のキー溝とを両方設けなくてもよい。従って、スピンドルの軸方向の移動範囲に対してスピンドルの長さ寸法を短くすることができ、小型化を容易に図ることができるとともに、製造上の負担を軽減させることができる。
【0018】
本発明の絶対位置測定装置では、第1の保持体は、スピンドルの外周に沿った円筒状に形成され、第1のロータは、第1の保持体の一端部に固定され、第2の保持体は、第1の保持体の外周に沿った円筒状に形成され、第2のロータは、第2の保持体の一端部に固定されるとともに、第1のロータの外周位置に設けられ、第1のステータの第1のロータに対向する面と、第2のステータの第2のロータに対向する面とは、同一平面上に配置されていることが好ましい。
【0019】
本発明によれば、第1の保持体および第2の保持体によって、スピンドルの外周に二重円筒構造が形成されているので、従来のように第1の保持体および第2の保持体をスピンドルの軸に沿って並べて配設する場合と比べて、第1の保持体および第2の保持体の占めるスピンドルの軸方向のスペースを小さくすることができる。
また、第1のロータおよび第2のロータを、第1の保持体および第2の保持体の各一端部に固定して、第2のロータを第1のロータの外周位置に設けることによって、第1のステータの第1のロータに対向する面と、第2のステータの第2のロータに対向する面とを同一平面上に配置することができる。これによって、第2のステータを第1のステータの外周位置に設けて2重構造としたり、第1のステータおよび第2のステータを一体形成したりすることができ、二つのステータの占めるスペースを小さくすることができる。また、第1のステータおよび第2のステータを一体形成すれば、部品点数が少なくなり、組み立て作業の負担を軽減させることもできる。
【0020】
本発明の絶対位置測定装置では、第1の歯車は、第1の保持体の他端部に形成され、第2の歯車は、第2の保持体の他端部に形成されるとともに、第1の歯車とスピンドルの軸方向に並んで配置され、中継歯車は、第1の歯車に噛合する第1の中継歯車と、第2の歯車に噛合する第2の中継歯車と、これらの第1の中継歯車および第2の中継歯車を同一軸上に軸支する軸部とを有することが好ましい。
【0021】
本発明によれば、第1の保持体の他端部に形成された第1の歯車と、第2の保持体の他端部に形成された第2の歯車とが、スピンドルの軸方向に並んで配置されているので、第1の中継歯車と、第2の中継歯車と、これらの第1の中継歯車および第2の中継歯車を同一軸上に軸支する軸部とを有する中継歯車を用いて第1の歯車の回転を第2の歯車に伝達することができる。すなわち、中継歯車を1つの回転軸からなる1段の歯車で構成することができる。従って、中継歯車を多段の歯車で構成する場合と比べて、中継歯車の占めるスペースが小さくなって、小型化をさらに図ることができるとともに、部品点数が少なくなり、組み立て作業の負担を軽減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の絶対位置測定装置の一実施形態としてのマイクロメータヘッドを図面に基づいて説明する。
図1は、マイクロメータヘッドの構成を示す断面図である。図2および図3は、ロータリーエンコーダの要部を示す斜視図および分解斜視図である。
このマイクロメータヘッド1は、本体2と、スピンドル3と、位相信号発信手段としてのロータリーエンコーダ4,5と、送受信制御部6と、演算処理手段としての演算処理部7と、表示手段としての表示部8とを備え、ロータリーエンコーダ4,5で検出され、演算処理部7で算出されるスピンドル3の絶対位置を表示部8に表示するように構成されている。
【0023】
以下、図1〜図3に基づいて、マイクロメータヘッド1の各要素を詳しく説明する。
本体2は、略円筒状に形成され、内部に収納空間21,22を備えている。収納空間21,22は、中仕切り板23で仕切られている。この略円筒状の本体2の先端側(図中、左側)の端部および中仕切り板23には、それぞれ貫通孔24,25が形成され、本体2の基端側(図中、右側)の端部には、雌ねじ26が形成されている。これらの貫通孔24,25および雌ねじ26は、同軸上に配置されている。
【0024】
スピンドル3は、略円柱状に形成され、先端側の端部に被測定物(不図示)との接触面31を有し、基端側の端部につまみ部32を有する。このつまみ部32は、スピンドル3を外部から回転操作するためのものである。そして、スピンドル3は、本体2の貫通孔24,25に挿通され、本体2から両端が突出した状態となっている。また、スピンドル3の外周には送りねじ33が形成され、本体2の雌ねじ26に螺合されている。このようにして、つまみ部32が回転されると、送りねじ33と雌ねじ26との螺合によって、スピンドル3が貫通孔24,25に沿って進退するようになっている。送りねじ33は、例えば、0.5mmピッチで40回転分形成され、スピンドル3を20mm進退させることができる。また、スピンドル3の略中央部には、軸方向に沿って直線状のキー溝34が形成されている。
【0025】
ロータリーエンコーダ4,5は、第1のロータリーエンコーダ4と、第2のロータリーエンコーダ5とから構成され、本体2の収納空間22に収納されている。
第1のロータリーエンコーダ4は、ステータ41と、第1のロータ42と、第1の回転円筒(保持体)43とを備えている。
ステータ41は、円板の中央にスピンドル3が挿通される挿通孔44を有し、中仕切り板23に固定されている。具体的には、ステータ41は、中仕切り板23の貫通孔25周りに形成された縁部材27に外嵌されている。
【0026】
第1のロータ42は、円板の中央にスピンドル3が挿通される挿通孔45を有し、ステータ41と所定寸法だけ離れた位置に、ステータ41に対向して配置されている。
第1の回転円筒43は、当該第1の回転円筒43にスピンドル3が挿通された状態で、ステータ41よりもスピンドル3の先端側に配設され、第1のロータ42をスピンドル3の軸周りに回転可能に支持している。すなわち、第1の回転円筒43のステータ41側の端部には、スピンドル3の外周に沿ってロータ支持部46が形成され、このロータ支持部46の外周に第1のロータ42が外嵌されている。
【0027】
また、第1の回転円筒43は、外周から中心に向かって螺入されたねじ状のキー47を備えている。このキー47の先端は、第1の回転円筒43の内周から突出し、スピンドル3の外周のキー溝34と係合している。すなわち、スピンドル3が回転すると、スピンドル3のキー溝34にキー47が係合していることから、第1の回転円筒43はスピンドル3と同期して回転するようになっている。
また、第1の回転円筒43の外周には、第1の歯車48が形成されている。この歯車48は、第1の回転円筒43においてスピンドル3の先端側の端部に設けられ、回転円筒43の他の部分の外周よりも大きい外径寸法を有している。第1の歯車48の歯数は、例えば、40枚に設定されている。
【0028】
第2のロータリーエンコーダ5は、前述のステータ41と、第2のロータ51と、第2の回転円筒(保持体)52と、中継歯車53とを備えている。
ステータ41は、第1のロータリーエンコーダ4のステータ41であり、ロータリーエンコーダ4,5に共通する部品となっている。
第2のロータ51は、円板の中央に第1のロータ42を配置可能な孔54を有し、当該第1ロータ42の外周に配置されている。また、第2のロータ51は、第1ロータ42と同様に、ステータ41と所定寸法だけ離れた位置に、ステータ41に対向して配置されている。このように、各ロータ42,51のステータ41と対向する面同士が略同一平面を形成している。
【0029】
第2の回転円筒52は、第1の回転円筒43(第1の歯車48を除く部分)が内部に挿通された状態で、当該第1の回転円筒43に支持されている。この第2の回転円筒52のステータ41側の端部に、第2のロータ51が貼付されている。このようにして、第2のロータ51がスピンドル3の軸周りに回転可能に支持されている。すなわち、ロータリーエンコーダ4,5は、内側と外側の2重円筒構造となっている。
また、第2の回転円筒52の外周には、第2の歯車55が形成されている。この歯車55は、第2の回転円筒52においてスピンドル3の先端側の端部に設けられ、第1の回転円筒43の歯車48と略同じ外径寸法を有している。第2の歯車55の歯数は、例えば、41枚に設定され、第1の歯車48の歯数より1枚だけ大きくなっている。
【0030】
中継歯車53は、本体2に回転可能に支持され、第1の歯車48と第2の歯車55との両方に噛合した状態で配置されている。すなわち、中継歯車53は、第1の歯車48に噛合する第1の中継歯車53Aと、第2の歯車55に噛合する第2の中継歯車53Bと、これらの中継歯車53A,53Bを同一軸上に軸支する軸部53Cとを有して構成されている。中継歯車53A,53Bの各歯数は同数に設定され、例えば12枚となっている。ここで、一対の歯車となる第1の歯車48および第1の中継歯車53Aの各モジュールは一致しており、他の一対の歯車となる第2の歯車55および第2の中継歯車53Bの各モジュールも一致しており、これによって、第1の回転円筒43が回転すると、中継歯車53を介して、第2の回転円筒52が円滑に回転できるようになっている。
この際、歯車48と歯車55との歯数の違いによって、各ロータ42,51は、異なる速さで回転する。例えば、本実施形態のように歯車48の歯数を40枚として、歯車55の歯数を41枚とした場合には、スピンドル3が進退移動範囲内で40回転する間に、第1のロータ42は40回転し、第2のロータ51は39回転する。
【0031】
また、第1のロータリーエンコーダ4および第2のロータリーエンコーダ5は、それぞれのロータ42、51の一回転以内の絶対角度を検出可能となっている。
すなわち、ステータ41は、第1のロータ42の一回転あたり一周期の変化を示す位相信号を出力する。そして、第1のロータ42はスピンドル3と同期して回転するので、第1のロータ42に関する位相信号は、スピンドル3の一回転によって本発明の第1の周期の変化を示す。例えば、スピンドル3が40回転する間に40周期の変化を示す。
【0032】
ステータ41は、第2のロータ51についても一回転あたり一周期の変化を示す位相信号を出力する。そして、第2のロータ51はスピンドル3が40回転する間に39回転するので、第2のロータ51に関する位相信号は、スピンドル3の40回転によって39周期(本発明の第2の周期)の変化を示す。
【0033】
図4は、送受信制御部6および演算処理部7の構成を示す図である。
送受信制御部6は、第1ロータリーエンコーダ4に対する信号の送受信を制御する第1送受信制御部61と、第2ロータリーエンコーダ5に対する信号の送受信を制御する第2送受信制御部62とを備える。
【0034】
第1送受信制御部61は、第1送信制御部63と第1受信制御部64とを備え、第1送信制御部63はステータ41に第1のロータ42用の所定の交流信号を送信し、第1受信制御部64はステータ41から第1のロータ42の位相信号を受信する。
同様に、第2送受信制御部62は、第2送信制御部65と第2受信制御部66とを備え、第2送信制御部65はステータ41に第2のロータ51用の所定の交流信号を送信し、第2受信制御部66はステータ41から第2のロータ51の位相信号を受信する。
第1受信制御部64および第2受信制御部66は、ステータ41から受信した各ロータ42,51の位相信号を演算処理部7に出力する。
【0035】
演算処理部7について説明する。
演算処理部7は、第1のロータ42および第2のロータ51の回転角θ1,θ2をそれぞれ算出する回転角算出部71と、回転角算出部71にて算出された各ロータ42,51の回転角θ1,θ2に基づいてスピンドル3の回転位相を算出する回転位相算出部72と、この回転位相算出部72にて算出されたスピンドル3の回転位相に基づいてスピンドル3の絶対位置を算出するスピンドル位置算出部73とを備える。
【0036】
回転角算出部71は、第1受信制御部64からの位相信号に基づいて第1のロータ42の回転角θ1を算出する第1回転角算出部74と、第2受信制御部66からの位相信号に基づいて第2のロータ51の回転角θ2を算出する第2回転角算出部75とを備える。
【0037】
第1回転角算出部74は、第1受信制御部64からの位相信号に基づいて第1のロータ42の回転角θ1を一回転内の絶対角度(0°<θ1<360°)として算出する。すなわち、第1受信制御部64からの位相信号は、第1のロータ42の一回転内においては、同一の位相を生じず、第1回転角算出部74には、第1のロータ42の回転角θ1と位相信号とが一対一の関係で設定記憶されている。このようにして、第1受信制御部64から出力される位相信号に応じて、第1のロータ42の回転角θ1が一義的に決まり、第1のロータ42の一回転以内の絶対角度が算出される。
また、第2回転角算出部75は、第1回転角算出部74と同様に、第2受信制御部66からの位相信号に基づいて第2のロータ51の回転角θ2を一回転内の絶対角度として算出する。
【0038】
回転位相算出部72は、回転角算出部71で算出された各ロータ42,51の回転角θ1,θ2の差分θ3を算出する差分算出部76と、この差分θ3に基づいてスピンドル3の総回転位相を算出する総回転位相算出部77とを備える。
【0039】
総回転位相算出部77には、差分θ3とスピンドル3の総回転位相とが一対一の関係で設定記憶されている。すなわち、スピンドル3が進退移動範囲内で40回転する間に各ロータ42,51の回転角θ1,θ2の差が1回転となるように設定されているので、差分θ3が0°〜360°の範囲内で算出され、この差分θ3に応じてスピンドル3の総回転位相θTが一義的に算出される。
【0040】
スピンドル位置算出部73には、スピンドル3の一回転当たりの移動ピッチ(0.5mm)が予め設定記憶されている。そして、スピンドル位置算出部73において、移動ピッチ(0.5mm)と総回転位相θTとが乗算されることにより、スピンドル3の総移動量、すなわち、スピンドル3の絶対位置が算出される。
表示部8は、例えば、デジタル表示によってスピンドル3の絶対位置を表示する。
【0041】
このような構成を備える本実施形態の動作について説明する。
つまみ部32によってスピンドル3を回転させると、本体2の雌ねじ26とスピンドル3の送りねじ33との螺合によりスピンドル3が軸方向に進退される。スピンドル3が回転すると、スピンドル3のキー溝34に係合したキー47によって第1の回転円筒43がスピンドル3とともに回転する。
【0042】
第1の回転円筒43が回転すると、第1の回転円筒43とともに第1のロータ42が回転する。第1のロータ42の回転がステータ41によって検出されて第1受信制御部64に送られる。続いて、第1回転角算出部74において第1のロータ42の一回転以内の回転角θ1が算出される。
ここで、第1のロータ42はスピンドル3と同期して回転するので、第1のロータ42の一回転内の回転角θ1とは、スピンドル3の一回転内の回転角を示している。
【0043】
また、第1の回転円筒43が回転すると、第1の回転円筒43の歯車48に噛み合った中継歯車53の第1中継歯車53Aが回転する。さらに、中継歯車53の第2中継歯車53Bに噛み合った第2の回転円筒52の歯車55が回転し、第2の回転円筒52とともに第2のロータ51が回転する。
第2のロータ51の一回転以内の位相信号がステータ41によって検出されて第2受信制御部66に送られる。続いて、第2回転角算出部75において第2のロータ51の一回転以内の回転角θ2が算出される。
【0044】
続いて、回転位相算出部72において、各ロータ42,51の回転角θ1,θ2の差分θ3が算出され、この差分θ3に基づいてスピンドル3の総回転位相θTが算出される。最後に、スピンドル位置算出部73において、総回転位相θTとスピンドル3の送りピッチ(0.5mm)とに基づいてスピンドル3の絶対位置が算出され、表示部8に表示される。
【0045】
このような構成を備える本実施形態によれば、次の効果を奏することができる。
(1)第2のロータ51は、第1のロータ42の回転によって中継歯車53を介して回転されるので、第1の歯車48の歯数を40枚、第2の歯車55の歯数を41枚に設定することによって、第1のロータ42の回転速度と第2のロータ51の回転速度との差を容易につけることができる。従って、各ロータリーエンコーダ4,5から出力される各位相信号の周期を互いに異なった周期とすることができ、これら二つの位相信号に基づいてスピンドル3の絶対位置を算出することができる。
【0046】
(2)中継歯車53によって第1の歯車48から第2の歯車55に回転が伝達されるので、二つのロータリーエンコーダ4,5から得られる各位相信号に位相差を設けるために、従来のようなスピンドルの螺旋状のキー溝を設ける必要をなくすことができる。従って、スピンドル3の軸方向の移動範囲に対してスピンドル3の長さ寸法を短くすることができ、小型化を容易に図ることができるとともに、製造上の負担を軽減させることができる。
【0047】
(3)第1の回転円筒43および第2の回転円筒52によって、スピンドル3の外周に二重円筒構造が形成されているので、従来のように各回転円筒をスピンドルの軸に沿って並べて配設する場合と比べて、両回転円筒43,52の占めるスピンドル3の軸方向のスペースを小さくすることができる。
【0048】
(4)第1のロータ42および第2のロータ51を、各回転円筒43,52の各一端部に固定して、第2のロータ51を第1のロータ42の外周位置に設けることによって、ステータ41を各ロータリーエンコーダに共通する部品として設けることができ、ステータ41の占めるスペースを小さくすることができるとともに、部品点数が少なくなり、組み立て作業の負担を軽減させることもできる。
【0049】
(5)第1の回転円筒43の第1の歯車48と、第2の回転円筒52の第2の歯車55とが、スピンドル3の軸方向に並んで配置され、かつ、それぞれ略等しい外径寸法を有しているので、中継歯車53の歯車を第1の歯車48と第2の歯車55とに同時に噛み合わせることができる。従って、中継歯車53を多段の歯車で構成する場合と比べて、中継歯車53の占めるスペースが小さくすることができる。
【0050】
なお、本発明は前述の各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前記実施形態では、第1の歯車48と第2の歯車55の歯数を異なる歯数に設定することによって、第1のロータ42の回転速度と第2のロータ51の回転速度とに差を設けると説明したが、各ロータ42,51の回転速度に差を設ける方法としては、これに限らない。例えば、図5に示すように、第1の中継歯車56Aと、第2の中継歯車56Bと、これらの中継歯車56A,56Bを同一軸上に軸支する軸部56Cとを有する中継歯車56を用いてもよく、第1の中継歯車56Aおよび第2の中継歯車56Bの各歯数を異なる枚数に設定してもよい。例えば、第1の中継歯車56Aの歯数を12枚として、第2の中継歯車56Bの歯数を13枚として、第1ロータ42よりも第2ロータ51を早く回転させるようにしてもよい。あるいは、複数の回転軸を有する多段の歯車から構成される中継歯車を用いてもよい。このようにすれば、第1の歯車48Aと第2の歯車55Aとの各歯数を同じにしても、各ロータ42,51の回転速度に差を設けることができる。
【0051】
また、前記実施形態では、各ロータリーエンコーダに共通するステータ41を用いると説明したが、これに限らず、第1のロータリーエンコーダ4の第1のステータと、第2のロータリーエンコーダ5の第2のステータと、別体で設けてもよい。第2のステータを第1のステータの外周位置に設けて2重構造としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、マイクロメータヘッド、マイクロメータ、ホールテスト等のように、回転しながら軸方向に移動するスピンドルを有する測定装置であって、スピンドルの絶対位置を測定する絶対位置測定装置に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の一実施形態に係る絶対位置測定装置を示す断面図。
【図2】前記絶対位置測定装置の内部構成を部分的に示す斜視図。
【図3】前記絶対位置測定装置の内部構成を部分的に示す分解斜視図。
【図4】前記絶対位置測定装置の回路構成を説明するブロック図。
【図5】本発明の変形例に係る絶対位置測定装置の内部構成を部分的に示す斜視図。
【図6】従来の絶対位置測定装置を示す断面図。
【図7】従来の絶対位置測定装置において、スピンドルの回転数と二つのロータから得られる位相信号との関係の例を示す図。
【符号の説明】
【0054】
1…マイクロメータヘッド(絶対位置測定装置)
2…本体
3…スピンドル
4…第1のロータリーエンコーダ
5…第2のロータリーエンコーダ
7…演算処理部(演算処理手段)
41…ステータ(第1のステータ、第2のステータ)
42…第1のロータ
51…第2のロータ
43…第1の回転円筒(第1の保持体)
48,48A…第1の歯車
52…第2の回転円筒(第2の保持体)
53,56…中継歯車
53A,56A…第1の中継歯車
53B,56B…第2の中継歯車
53C,56C…中継歯車の軸部
55,55A…第2の歯車。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体と、この本体に螺合されて、軸周りに回転しながら進退自在に設けられたスピンドルと、このスピンドルの回転量を第1の周期で変化する位相信号として検出する第1のロータリーエンコーダと、前記スピンドルの回転量を第2の周期で変化する位相信号として検出する第2のロータリーエンコーダと、これらのロータリーエンコーダからそれぞれ出力される位相信号に基づいて前記スピンドルの絶対位置を演算処理する演算処理手段とを備え、
前記第1のロータリーエンコーダは、第1のロータと、この第1のロータを前記スピンドルの軸周りに回転可能に保持するとともに前記スピンドルの回転によって回転され、外周に第1の歯車が形成された第1の保持体と、前記本体に支持されるとともに前記第1のロータと所定の隙間を介して対向配置された第1のステータとを含んで構成され、
前記第2のロータリーエンコーダは、第2のロータと、この第2のロータを前記スピンドルの軸周りに回転可能に保持するとともに外周に第2の歯車が形成された第2の保持体と、前記本体に支持されるとともに前記第2のロータと所定の隙間を介して対向配置された第2のステータと、前記第1の歯車から前記第2の歯車に回転を伝達する中継歯車とを含んで構成され、
前記第1の歯車、前記中継歯車、および、前記第2の歯車の各歯数は、前記第1歯車および前記第2歯車の各回転速度に差が生じるように設定されていることを特徴とする絶対位置測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の絶対位置測定装置において、
前記第1の保持体は、前記スピンドルの外周に沿った円筒状に形成され、
前記第1のロータは、前記第1の保持体の一端部に固定され、
前記第2の保持体は、前記第1の保持体の外周に沿った円筒状に形成され、
前記第2のロータは、前記第2の保持体の一端部に固定されるとともに、前記第1のロータの外周位置に設けられ、
前記第1のステータの前記第1のロータに対向する面と、前記第2のステータの前記第2のロータに対向する面とは、同一平面上に配置されていることを特徴とする絶対位置測定装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の絶対位置測定装置において、
前記第1の歯車は、前記第1の保持体の他端部に形成され、
前記第2の歯車は、前記第2の保持体の他端部に形成されるとともに、前記第1の歯車と前記スピンドルの軸方向に並んで配置され、
前記中継歯車は、前記第1の歯車に噛合する第1の中継歯車と、前記第2の歯車に噛合する第2の中継歯車と、これらの第1の中継歯車および第2の中継歯車を同一軸上に軸支する軸部とを有することを特徴とする絶対位置測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−36718(P2009−36718A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−203299(P2007−203299)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(000137694)株式会社ミツトヨ (979)
【Fターム(参考)】