説明

絶縁積層材、絶縁回路基板、パワーモジュール用ベースおよびパワーモジュール

【課題】冷熱サイクル時の絶縁板のクラックの発生や、絶縁板と第2金属板との接合界面での剥離の発生を抑制しうる絶縁回路基板を提供する。
【解決手段】絶縁回路基板4は、絶縁板5と、絶縁板5の片面にろう付されかつ絶縁板5とは反対側の面が、発熱体となるパワーデバイス3を搭載する電子素子搭載部11を有する配線面9となされている回路板6と、絶縁板5の他面にろう付された応力緩和板7とよりなる。回路板6の電子素子搭載部11に取り付けられるパワーデバイス3から発せられる熱は、回路板6および絶縁板5を経て応力緩和板7に伝わる。応力緩和板7の輪郭を形成しかつ応力緩和板(7)の厚み方向に幅を持つ輪郭面10に、応力緩和板7の輪郭面10の沿ってのびかつ絶縁板5の熱応力を低減する熱応力緩和用凹部となる凹溝12を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、絶縁積層材、絶縁回路基板、パワーモジュール用ベースおよびパワーモジュールに関し、さらに詳しくは、たとえばパワーデバイスなどの電子素子が実装される絶縁回路基板に用いられる絶縁積層材、絶縁積層材からなる絶縁回路基板、絶縁回路基板に実装されたパワーデバイスなどの電子素子を冷却するのに用いられるパワーモジュール用ベース、およびパワーモジュール用ベースの絶縁回路基板にパワーデバイスが実装されたパワーモジュールに関する。
【0002】
この明細書および特許請求の範囲において、「アルミニウム」という用語には、「純アルミニウム」と表現する場合を除いて、純アルミニウムの他にアルミニウム合金を含むものとする。また、この明細書および特許請求の範囲において、「純アルミニウム」という用語は、純度99.00質量%以上の純アルミニウムを意味するものとする。
【背景技術】
【0003】
たとえばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などの半導体素子(電子素子)からなるパワーデバイスを備えたパワーモジュールにおいては、半導体素子から発せられる熱を効率良く放熱して、半導体素子の温度を所定温度以下に保つ必要がある。
【0004】
この種のパワーモジュールとして、アルミニウム製冷却器および冷却器にろう付された絶縁回路基板からなるパワーモジュール用ベースと、パワーモジュール用ベースの絶縁回路基板に実装されたパワーデバイスとよりなり、パワーモジュール用ベースが、セラミック製絶縁板、絶縁板の一面にろう付された純アルミニウム製回路板(第1金属板)および絶縁板の他面にろう付された純アルミニウム製伝熱板(第2金属板)よりなる絶縁回路基板と、絶縁回路基板の伝熱板における絶縁板にろう付された面と反対側の面にろう付されたアルミニウム製ヒートシンクとからなり、絶縁回路基板の回路板における絶縁板にろう付された面とは反対側の面が電子素子搭載部を有する配線面となされ、当該配線面の電子素子搭載部にパワーデバイスが実装されているパワーモジュールが知られている(特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1記載のパワーモジュールにおいては、パワーデバイスから発せられた熱は、回路板、絶縁板および伝熱板を経てヒートシンクに伝えられ、放熱されるようになっている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されたようなパワーモジュールにおいては、使用時の冷熱サイクル、すなわち絶縁回路基板が繰り返して加熱、冷却された場合に、絶縁板とヒートシンクにろう付されている伝熱板との線膨張係数の相違に起因して、絶縁板にクラックが発生したり、絶縁板と伝熱板との接合界面に剥離が発生して絶縁性や放熱性が比較的短期間で低下するという問題がある。
【0007】
絶縁板のクラックの発生や、絶縁板と伝熱板との接合界面の剥離の発生のメカニズムは明確には分かっていないが、次の通りであると推測される。すなわち、絶縁板および伝熱板が収縮する際には、伝熱板が絶縁板よりも大きく収縮するので、絶縁板の収縮が伝熱板の収縮に追いつかず、絶縁板が伝熱板側に反って絶縁板に曲げモーメントがかかり、絶縁板の回路板側に比較的大きな引張応力が発生してクラックが発生すると考えられる。一方、絶縁板および伝熱板が膨張する際には、伝熱板が絶縁板よりも大きく膨張するので、絶縁板の膨張が伝熱板の膨張に追いつかず、絶縁板に大きな引張応力が発生してクラックが発生すると考えられる。また、クラックが発生しない場合であっても、膨張、収縮を繰り返すと、絶縁板と伝熱板との接合界面に大きな力が作用して、両者の接合界面での剥離が発生すると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−311527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明の目的は、上記問題を解決し、冷熱サイクル時の絶縁板のクラックの発生や、絶縁板と第2金属板との接合界面での剥離の発生を抑制しうる絶縁積層材、絶縁回路基板、パワーモジュール用ベースおよびパワーモジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために以下の態様からなる。
【0011】
1)絶縁板と、絶縁板の片面に接合されかつ絶縁板とは反対側の面に発熱体が取り付けられるようになされている第1金属板と、絶縁板の他面に接合された第2金属板とよりなり、第1金属板に取り付けられる発熱体から発せられる熱が、第1金属板および絶縁板を経て第2金属板に伝わるようになされている絶縁積層材であって、第2金属板の輪郭を形成しかつ第2金属板の厚み方向に幅を持つ輪郭面に、絶縁板の熱応力を低減する熱応力緩和用凹部が設けられている絶縁積層材。
【0012】
2)絶縁板と両金属板とがろう付されている上記1)記載の絶縁積層材。
【0013】
3)熱応力緩和用凹部が、第2金属板の前記輪郭面に沿ってのびる凹溝からなる上記1)または2)記載の絶縁積層材。
【0014】
4)絶縁板および両金属板が多角形であり、前記凹溝が、第2金属板の全周のうち少なくとも各角部に、当該角部を挟む2つの辺部にまたがるように形成されている上記3)記載の絶縁積層材。
【0015】
5)前記凹溝が、第2金属板の厚み方向における絶縁板側の端部に形成されており、絶縁板における第2金属板が接合された側の面の一部が、前記凹溝内に臨むとともに前記凹溝の一方の側面となっている上記3)または4)記載の絶縁積層材。
【0016】
6)前記凹溝が角溝であり、第2金属板全体の厚みをT1mm、第2金属板における絶縁板とは反対側の面から前記凹溝までの厚みをT2mmとした場合、T2/T1≧0.5という関係を満たす上記5)記載の絶縁積層材。
【0017】
7)前記凹溝が、第2金属板の厚み方向の中間部に形成されている上記3)記載の絶縁積層材。
【0018】
8)絶縁板の外周縁部が、第2金属板の外周縁部よりも外側に位置している上記7)記載の絶縁積層材。
【0019】
9)前記凹溝が、第2金属板の全周にわたって形成されている上記3)〜8)のうちのいずれかに記載の絶縁積層材。
【0020】
10)前記凹溝の底と、第1金属板の外周縁との距離をXmm、第1金属板の厚みをYmmとした場合、X≦2Yという関係を満たす上記3)〜9)のうちのいずれかに記載の絶縁積層材。
【0021】
11)第2金属板に、第2金属板の厚み方向にのびかつ第2金属板の両面のうち少なくともいずれか一面に開口した複数の穴が形成されている上記1)〜10)のうちのいずれかに記載の絶縁積層材。
【0022】
12)上記1)〜11)のうちのいずれかに記載された絶縁積層材の第1金属板における絶縁板に接合された面とは反対側の面が、発熱体となる電子素子を搭載する電子素子搭載部を有する配線面となされている絶縁回路基板。
【0023】
13)上記12)記載の絶縁回路基板の第2金属板における絶縁板と接合された面とは反対側の面が、冷却器に接合されているパワーモジュール用ベース。
【0024】
14)第2金属板と冷却器とがろう付されている上記13)記載のパワーモジュール用ベース。
【0025】
15)上記13)または14)記載のパワーモジュール用ベースの絶縁回路基板における第1金属板の電子素子搭載部に、パワーデバイスがはんだ付されているパワーモジュール。
【発明の効果】
【0026】
上記1)〜11)の絶縁積層材によれば、第2金属板の輪郭を形成しかつ第2金属板の厚み方向に幅を持つ輪郭面に、絶縁板の熱応力を低減する熱応力緩和用凹部が設けられているので、第1金属板に発熱体が取り付けられるとともに、発熱体から発せられた熱が第1金属板および絶縁板を経て第2金属板に伝わって第2金属板から放熱されることによって絶縁積層材が加熱、冷却される冷熱サイクル時に、第2金属板が絶縁板に対して大きく膨張、収縮したとしても、第2金属板が、輪郭面に熱応力緩和用凹部が設けられた部分において変形する。したがって、絶縁板および第2金属板が収縮する際には、絶縁板に曲げモーメントが係ることに起因する絶縁板の第1金属板側に発生する上述した引張応力が緩和されて絶縁板へのクラックの発生が抑制される。一方、絶縁板および金属板が膨張する際には、絶縁板の膨張が第2金属板の膨張に追いつかなくても、絶縁板に発生する引張応力が緩和されて絶縁板へのクラックの発生が抑制される。また、クラックが発生しないで、膨張、収縮を繰り返したとしても、絶縁板と第2金属板との接合界面に作用する力が低減され、当該接合界面での剥離の発生が抑制される。
【0027】
上記5)の絶縁積層材によれば、熱応力緩和用凹部となる凹溝が、第2金属板の厚み方向における絶縁板側の端部に形成されており、絶縁板における第2金属板が接合された側の面の一部が、前記凹溝内に臨むとともに前記凹溝の一方の側面となっているので、冷熱サイクル時に、第2金属板が絶縁板に対して大きく膨張、収縮したとしても、第2金属板が、輪郭面に前記凹溝が設けられた部分において比較的大きく変形し、絶縁板のクラックの発生や、絶縁板と第2金属板との接合界面での剥離の発生が効果的に抑制される。
【0028】
上記6)の絶縁積層材によれば、絶縁積層材が加熱された場合に絶縁板に発生する応力を効果的に低減することができ、絶縁板のクラックの発生や、絶縁板と第2金属板との接合界面での剥離の発生が効果的に抑制される。
【0029】
上記8)の絶縁積層材によれば、上記7)の絶縁積層材のように、前記凹溝が、第2金属板の厚み方向の中間部に形成されている場合であっても、第1金属板と第2金属板との間の絶縁距離を長くすることができ、両金属板間の絶縁性が向上する。
【0030】
上記9)の絶縁積層材によれば、絶縁積層材が加熱、冷却される冷熱サイクル時に、第2金属板が比較的大きく変形し、絶縁板のクラックや、絶縁板と第2金属板との接合界面での剥離が効果的に抑制される。
【0031】
上記10)の絶縁積層材によれば、熱応力緩和用凹部となる凹溝の底と、第1金属板の外周縁との距離をX、第1金属板の厚みをYとした場合、X≦2Yという関係を満たしているので、絶縁積層材が加熱された場合に絶縁板における第1金属板側に発生する応力を効果的に低減することができ、絶縁板のクラックの発生が効果的に抑制される。
【0032】
上記11)の絶縁積層材によれば、絶縁積層材が加熱、冷却される冷熱サイクル時に、第2金属板が比較的大きく変形し、絶縁板のクラックや、絶縁板と第2金属板との接合界面での剥離が効果的に抑制される。
【0033】
上記12)の絶縁回路基板によれば、第1金属板の配線面の電子素子搭載部に発熱体となる電子素子が搭載されて使用され、電子素子から発せられる熱が第2金属板に伝わって第2金属板から放熱されることによって絶縁回路基板が加熱、冷却される冷熱サイクル時に、上記1)〜10)の絶縁積層材と同様な効果を奏する。
【0034】
上記13)および14)のパワーモジュール用ベースによれば、第1金属板の配線面の電子素子搭載部に発熱体となる電子素子が搭載されて使用され、電子素子から発せられる熱が第2金属板に伝わって第2金属板から冷却器に放熱される。そして、絶縁回路基板が加熱、冷却される冷熱サイクル時に、上記1)〜10)の絶縁積層材で述べたのと同様な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】この発明による絶縁回路基板を有するパワーモジュール用ベースにパワーデバイスが実装されることにより構成されたパワーモジュールを示す垂直断面図である。
【図2】図1の部分拡大図である。
【図3】図1のパワーモジュールに用いられている応力緩和板を示す斜視図である。
【図4】図1のパワーモジュールにおいて、絶縁板のクラックや、絶縁板と回路板との接合界面での剥離の発生が抑制されるメカニズムを示す概略図である。
【図5】図1のパワーモジュールについて、応力緩和板の凹溝の下側面の幅Wを変化させてコンピュータシミュレーションを行うことにより求めた絶縁板の上側に発生する最大主応力を示すグラフである。
【図6】図1のパワーモジュールについて、応力緩和板全体の厚みをT1mm、応力緩和板における下面から凹溝の下縁までの厚みをT2mmとした場合のT2/T1を変化させてコンピュータシミュレーションを行うことにより求めた絶縁板の上側に発生する最大主応力を示すグラフである。
【図7】図1のパワーモジュールについて、凹溝の底と回路板の外周縁との距離Xを変化させてコンピュータシミュレーションを行うことにより求めた絶縁板の上側に発生する最大主応力を示すグラフである。
【図8】図1のパワーモジュールに用いられる応力緩和板の変形例を示す斜視図である。
【図9】図1のパワーモジュールに用いられる絶縁回路基板の変形例を示す図2相当の図である。
【図10】図1のパワーモジュールに用いられる絶縁回路基板の第2の変形例を示す図2相当の図である。
【図11】図1のパワーモジュールに用いられる絶縁回路基板の第3の変形例を示す図2相当の図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、この発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0037】
なお、以下の説明において、図1の上下、左右を上下、左右というものとする。
【0038】
また、全図面を通じて同一部分および同一物には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0039】
図1はこの発明による絶縁回路基板を備えたパワーモジュール用ベースにおける回路板の電子素子搭載部にパワーデバイスが実装されたパワーモジュールを示し、図2は図1の要部を示し、図3は応力緩和板を示す。また、図4は、この発明による絶縁回路基板において、絶縁板のクラックや、絶縁板と回路板との接合界面での剥離の発生が抑制されるメカニズムを示す。図5〜図7は、図1に示すパワーモジュールについて行ったコンピュータシミュレーションの結果を示す。
【0040】
図1および図2において、パワーモジュール(1)は、パワーモジュール用ベース(2)と、パワーモジュール用ベース(2)に実装されたパワーデバイス(3)(電子素子)とよりなる。
【0041】
パワーモジュール用ベース(2)は、方形のセラミックス製絶縁板(5)、絶縁板(5)の上面にろう付された方形のアルミニウム製回路板(6)(第1金属板)、および絶縁板(5)の下面にろう付された方形のアルミニウム製応力緩和板(7)(第2金属板)からなる絶縁回路基板(4)と、絶縁回路基板(4)の応力緩和板(7)の下面がろう付されたアルミニウム製冷却器(8)(ヒートシンク)とからなる。なお、図1においては1つの絶縁回路基板(4)だけが図示されているが、パワーモジュール用ベース(2)は、複数の絶縁回路基板(4)を備えているのが一般的である。
【0042】
絶縁回路基板(4)の絶縁板(5)は、必要とされる絶縁特性、熱伝導率および機械的強度を満たしていれば、どのようなセラミックから形成されていてもよいが、たとえばAlN、Al、Siなどにより形成される。絶縁板(5)の外周縁部は回路板(6)および応力緩和板(7)の外周縁部よりも外側に位置している。なお、応力緩和板(7)の外周縁部が、絶縁板(5)の外周縁部よりも外側に位置していてもよい。いずれの場合も、回路板(6)と応力緩和板(7)との間の絶縁性能は十分に確保される。
【0043】
回路板(6)は、電気伝導率および熱伝導率が高く、変形能が高く、しかも半導体素子とのはんだ付け性に優れた純度の高い純アルミニウム、たとえば純度99.99質量%以上の純アルミニウムにより形成されていることが好ましい。そして、回路板(6)の上面、すなわち回路板(6)における絶縁板(5)にろう付された面とは反対側の面が、電子素子搭載部(11)を有する配線面(9)となされている。
【0044】
応力緩和板(7)は、熱伝導率が高く、しかも変形能が高い純アルミニウム、たとえば純度99.99質量%以上の純アルミニウムにより形成されていることが好ましい。応力緩和板(7)の外周縁部は、回路板(6)の外周縁部よりも外側に位置している。応力緩和板(7)の輪郭を形成しかつ応力緩和板(7)の厚み方向に幅を持つ輪郭面(10)の上端部、すなわち応力緩和板(7)の輪郭面(10)における応力緩和板(7)の厚み方向の絶縁板(5)側の端部に、上記輪郭をなぞるように輪郭面(10)に沿ってのびかつ絶縁板(5)の熱応力を低減する熱応力緩和用凹部となる凹溝(12)が形成されている。凹溝(12)は角溝からなり、応力緩和板(7)の全周わたって形成されている。そして、絶縁板(5)における応力緩和板(7)が接合された側の面の一部が、凹溝(12)内に臨むとともに凹溝(12)の上側面(12a)となっている。凹溝(12)の下側面(12b)はアルミニウムからなる。ここで、絶縁板(5)の外周縁部が応力緩和板(7)の外周縁部よりも外側に位置しているので、凹溝(12)の上側面(12a)における凹溝(12)の開口側端部(外端部)は下側面(12b)の外端部よりも外側に位置している。凹溝(12)は、図3に示すように、応力緩和板(7)の上面の周縁部に、全周にわたる除去部(7a)を形成しておき、応力緩和板(7)を絶縁板(5)にろう付することによって設けられる。なお、凹溝(12)は応力緩和板(7)の全周わたって連続的に形成されていることが好ましいが、少なくとも1箇所において途切れていてもよい。この場合も、凹溝(12)が、応力緩和板(7)の全周のうち少なくとも各角部に、当該角部を挟む2つの辺部にまたがるように形成されていることが望ましい。
【0045】
ここで、応力緩和板(7)全体の厚みをT1mm、応力緩和板(7)における下面(絶縁板(5)とは反対側の面)から凹溝(12)の下縁(下側面(12b))までの厚みをT2mmとした場合、T2/T1≧0.5という関係を満たしていることが好ましい。T2/T1<0.5の場合、冷却器(8)の影響を受けて応力緩和板(7)による熱応力緩和効果が十分に得られないからである。
【0046】
また、凹溝(12)の底(12c)と回路板(6)の外周縁との距離をXmm、回路板(6)の厚みをYmmとした場合、X≦2Yという関係を満たしていることが好ましい。X>Yの場合、応力緩和板(7)による熱応力緩和効果が十分に得られないからである。また、Xの下限は、パワーモジュール用ベース(2)に実装されたパワーデバイス(3)から冷却器(8)への熱伝導性を低下させないように、適宜決められる。
【0047】
冷却器(8)は、複数の冷却流体通路(13)が並列状に設けられた扁平中空状であり、熱伝導性に優れるとともに、軽量であるアルミニウムにより形成されていることが好ましい。冷却流体としては、液体および気体のいずれを用いてもよい。なお、冷却器(8)としては、ケース内にインナーフィンが配置されたものが用いられてもよい。
【0048】
パワーデバイス(3)は、絶縁回路基板(4)の回路板(6)の配線面(9)における電子素子搭載部(11)上にはんだ付けされており、これによりパワーモジュール用ベース(2)に実装されている。パワーデバイス(3)から発せられる熱は、回路板(6)、絶縁板(5)および応力緩和板(7)を経て冷却器(8)に伝えられ、冷却流体通路(13)内を流れる冷却流体に放熱されるようになっている。
【0049】
パワーモジュール用ベース(2)の製造方法は次の通りである。
【0050】
まず、冷却器(8)上に、応力緩和板(7)、絶縁板(5)および回路板(6)をこの順序で配置する。冷却器(8)と応力緩和板(7)との間、応力緩和板(7)と絶縁板(5)との間および絶縁板(5)と回路板(6)との間にはそれぞれアルミニウムろう材層を設けておく。ろう材層は、たとえばSi10質量%、Mg1質量%を含み、残部Alおよび不可避不純物からなるアルミニウムろう材からなる。冷却器(8)と絶縁板(5)との間に配置されるろう材層は、アルミニウムろう材からなる箔や、心材の両面にろう材層が形成されたアルミニウムブレージングシートなどからなる。絶縁板(5)と回路板(6)との間に配置されるろう材層は、アルミニウムろう材からなる箔や、心材の両面にろう材層が形成されたアルミニウムブレージングシートからなる。また、絶縁板(5)と回路板(6)との間に配置されるろう材層は、回路板(6)の下面に予めクラッドされていてもよい。
【0051】
その後、適当な治具により回路板(6)、絶縁板(5)、応力緩和板(7)および冷却器(8)を加圧した状態にして仮止めしたものを真空雰囲気とされた加熱炉中に入れ、適当な温度に適当な時間加熱し、絶縁板(5)と回路板(6)および応力緩和板(7)とをろう付することにより絶縁回路基板(4)を製造すると同時に、絶縁回路基板(4)の応力緩和板(7)と冷却器(8)とをろう付する。こうして、パワーモジュール用ベース(2)が製造される。
【0052】
上述したパワーモジュール(1)において、パワーデバイス(3)から発せられる熱は、回路板(6)、絶縁板(5)および応力緩和板(7)を経て冷却器(8)に伝えられ、冷却流体通路(13)内を流れる冷却流体に放熱される。したがって、絶縁回路基板(4)が繰り返して加熱、冷却されることになるが、この冷熱サイクル時においても、次のメカニズムにより、絶縁板(5)のクラックや、絶縁板(5)と回路板(6)との接合界面での剥離の発生が抑制されると考えられる。
【0053】
すなわち、絶縁板(5)、応力緩和板(7)および冷却器(8)が膨張する際には、線膨張係数の相違に起因して、応力緩和板(7)および冷却器(8)が絶縁板(5)よりも大きく膨張するが、図4(a)に示すように、応力緩和板(7)における輪郭面(10)に凹溝(12)が設けられた部分、すなわち凹溝(12)の下側面(12b)よりも上方の部分において変形する。したがって、絶縁板(5)に発生する引張応力が緩和されて特許文献1のパワーモジュールに比べて小さくなり、その結果絶縁板(5)へのクラックの発生が抑制される。
【0054】
一方、絶縁板(5)、応力緩和板(7)および冷却器(8)が収縮する際には、線膨張係数の相違に起因して、応力緩和板(7)および冷却器(8)が絶縁板(5)よりも大きく収縮するが、図4(b)に示すように、応力緩和板(7)における輪郭面(10)に凹溝(12)が設けられた部分、すなわち凹溝(12)の下側面(12b)よりも上方の部分において変形する。したがって、絶縁板(5)の応力緩和板(7)側への反りの程度が、特許文献1のパワーモジュールに比べて小さくなって、絶縁板(5)に係る曲げモーメントが小さくなり、その結果絶縁板(5)の回路板(6)側に発生する引張応力が緩和されてクラックの発生が抑制される。
【0055】
また、クラックが発生せずに膨張、収縮を繰り返したとしても、上述した応力緩和板(7)の変形によって、絶縁板(5)および応力緩和板(7)の接合界面に作用する力が低減され、絶縁板(5)および応力緩和板(7)の接合界面での剥離の発生が抑制される。
【0056】
以下、図1および図2に示すパワーモジュール(1)について、コンピュータシミュレーションを行った結果を図5〜図7に示す。シミュレーション条件は、回路板(6)の厚み:0.6mm、縦:26.5mm、横:31.5mm、材質:重度99.99質量%の純アルミニウム、絶縁板(5)の厚み:0.6mm、縦:29mm、横:34mm、材質AlN、応力緩和板(7)の厚み:1.6mm、縦:26.5mm、横:31.5mm、材質:純度99.99質量%の純アルミニウム、冷却器(8)の代わりに厚み:5mm、縦:100mm、横100mm、材質:A3003を共通の条件とし、ろう付後の冷却工程の条件を580℃→20℃とし、その後125℃に加熱→−40℃に冷却を1サイクル行ったとして、絶縁板(5)の上側に発生する最大主応力を求めた。図5に示す結果は、凹溝(12)の下側面(12a)の幅W、すなわち下側面(12a)の外端と凹溝(12)の底(12c)との間の距離を変化させて求め、図6に示す結果は、応力緩和板(7)全体の厚みをT1mm、応力緩和板(7)における下面から凹溝(12)の下縁までの厚みをT2mmとした場合のT2/T1を変化させて求め、図7に示す結果は、凹溝(12)の底(12c)と回路板(6)の外周縁との距離Xを変化させて求めた。図5に示す最大主応力は、W=0.6mmの場合の最大主応力を1とし、これに対する比として求めた。図6に示す最大主応力は、T2/T1=0.625の場合の最大主応力を1とし、これに対する比として求めた。図7に示す最大主応力は、X=0.5mmの場合の最大主応力を1とし、これに対する比として求めた。なお、回路板(6)の厚み(Y)が0.6mmであるから、X=1.2mmの場合に、X=2Yとなる。また、X<0の場合とは、凹溝(12)の底(12c)が回路板(6)の外周縁よりも内側に位置していることである。
【0057】
図5に示す結果から、応力緩和板(7)の輪郭面(10)に凹溝(12)が形成されている場合、絶縁板(5)の上側に発生する最大主応力は、ある深さまで低減され、その後は一定となることが分かる。図6に示す結果から、T2/T1≧0.5という関係を満たす場合、絶縁板(5)の上側に発生する最大主応力の増大を抑制しうることが分かる。さらに、図7に示す結果から、X≦2Yという関係を満たす場合に、絶縁板(5)の上側に発生する最大主応力の増大を抑制しうることが分かる。
【0058】
図8は、パワーモジュールに用いられる応力緩和板の変形例を示す。
【0059】
図8に示す応力緩和板(7)には、応力緩和板(7)を厚み方向(上下方向)に貫通した複数の貫通穴(15)が形成されている。なお、これに限定されるものではなく、応力緩和板(7)には、応力緩和板(7)の厚み方向にのびかつ上下いずれか一面に開口した複数の有底穴が形成されていてもよい。また、貫通穴(7)と有底穴とが混在していてもよい。
【0060】
図9〜図12は、パワーモジュールに用いられる絶縁回路基板の変形例を示す。
【0061】
図9に示す絶縁回路基板(20)の場合、絶縁板(5)の外周縁部は、回路板(6)および絶縁板(5)の下面にろう付された応力緩和板(21)の外周縁部よりも外側に位置している。また、応力緩和板(21)の輪郭面(10)の厚み方向の中間部に、応力緩和板(21)の輪郭をなぞるように輪郭面(10)に沿ってのびかつ絶縁板(5)の熱応力を低減する熱応力緩和用凹部となる凹溝(22)が形成されている。凹溝(22)は角溝からなり、応力緩和板(21)の全周わたって形成されている。凹溝(22)の上下両側面(22a)(22b)の外端部は同一位置にある。なお、凹溝(22)は応力緩和板(21)の全周わたって連続的に形成されていることが好ましいが、少なくとも1箇所において途切れていてもよい。この場合も、凹溝(22)が、応力緩和板(21)の全周のうち少なくとも各角部に、当該角部を挟む2つの辺部にまたがるように形成されていることが望ましい。
【0062】
図10に示す絶縁回路基板(25)の場合、絶縁板(5)の外周縁部は、回路板(6)および絶縁板(5)の下面にろう付された応力緩和板(26)の外周縁部よりも外側に位置している。また、応力緩和板(26)の輪郭面(10)の厚み方向の中間部に、応力緩和板(26)の輪郭をなぞるように輪郭面(10)に沿ってのびかつ絶縁板(5)の熱応力を低減する熱応力緩和用凹部となる凹溝(27)が形成されている。凹溝(27)はV溝からなり、応力緩和板(27)の全周わたって形成されている。凹溝(27)の上下両側面(27a)(27b)の外端部は同一位置にある。なお、凹溝(27)は応力緩和板(21)の全周わたって連続的に形成されていることが好ましいが、少なくとも1箇所において途切れていてもよい。この場合も、凹溝(27)が、応力緩和板(21)の全周のうち少なくとも各角部に、当該角部を挟む2つの辺部にまたがるように形成されていることが望ましい。
【0063】
図9および図10に示す絶縁回路基板(20)(25)において、絶縁板(5)の外周縁部は回路板(6)および応力緩和板(21)(26)の外周縁部よりも外側に位置しているので、回路板(6)と応力緩和板(21)(26)との間の絶縁距離を長くすることができ、回路板(6)と応力緩和板(21)(26)との間の絶縁性が向上する。
【0064】
図11に示す絶縁回路基板(30)の場合、絶縁板(5)の外周縁部は回路板(6)および絶縁板(5)の下面にろう付された応力緩和板(31)の外周縁部よりも外側に位置している。また、応力緩和板(31)の輪郭面(10)における応力緩和板(31)の厚み方向の絶縁板(5)側の端部に、応力緩和板(31)の輪郭をなぞるように輪郭面(10)に沿ってのびかつ絶縁板(5)の熱応力を低減する熱応力緩和用凹部となる凹溝(32)が形成されている。凹溝(32)はV溝からなり、輪郭面(10)の厚み方向の全幅にわたって開口しており、応力緩和板(31)の全周わたって形成されている。そして、絶縁板(5)における応力緩和板(31)が接合された側の面の一部が、凹溝(32)内に臨むとともに凹溝(32)の水平な上側面(32a)となっている。凹溝(32)の下側面(32b)はアルミニウムからなり、応力緩和板(31)の下端から上方に向かって凹溝(32)の底方向に傾斜している。ここで、絶縁板(5)の外周縁部が応力緩和板(31)の外周縁部よりも外側に位置しているので、凹溝(32)の上側面(32a)における凹溝(32)の開口側端部(外端部)は下側面(32b)の外端部よりも外側に位置している。なお、凹溝(32)は応力緩和板(31)の全周わたって連続的に形成されていることが好ましいが、少なくとも1箇所において途切れていてもよい。この場合も、凹溝(32)が、応力緩和板(31)の全周のうち少なくとも各角部に、当該角部を挟む2つの辺部にまたがるように形成されていることが望ましい。
【0065】
図11に示す絶縁回路基板(30)において、応力緩和板(31)の凹溝(32)の下側面は、応力緩和板(32)の下端よりも若干上方の位置から上方に向かって凹溝(32)の底方向に傾斜していてもよい。すなわち、応力緩和板(31)の下面の周縁に連なって低い垂直面が存在し、当該垂直面の上端に凹溝(32)の下側面(32b)が連なっていてもよい。
【0066】
図9〜図11の絶縁回路基板(20)(25)(30)において、応力緩和板(21)(26)(31)の凹溝(22)(27)(32)の底と回路板(6)の外周縁との距離をXmm、回路板(6)の厚みをYmmとした場合、X≦2Yという関係を満たしていることが好ましい。
【符号の説明】
【0067】
(1):パワーモジュール
(2):パワーモジュール用ベース
(3):パワーデバイス(発熱体となる電子素子)
(4)(20)(25)(30):絶縁回路基板
(5):絶縁板
(6):回路板(第1金属板)
(7)(21)(26)(31):応力緩和板(第2金属板)
(8):冷却器
(9):配線面
(11):電子素子搭載部
(12)(22)(27)(32)::凹溝(熱応力緩和用凹部)
(12a)(32a):上側面
(12b)(32b):下側面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁板と、絶縁板の片面に接合されかつ絶縁板とは反対側の面に発熱体が取り付けられるようになされている第1金属板と、絶縁板の他面に接合された第2金属板とよりなり、第1金属板に取り付けられる発熱体から発せられる熱が、第1金属板および絶縁板を経て第2金属板に伝わるようになされている絶縁積層材であって、第2金属板の輪郭を形成しかつ第2金属板の厚み方向に幅を持つ輪郭面に、絶縁板の熱応力を低減する熱応力緩和用凹部が設けられている絶縁積層材。
【請求項2】
絶縁板と両金属板とがろう付されている請求項1記載の絶縁積層材。
【請求項3】
熱応力緩和用凹部が、第2金属板の前記輪郭面に沿ってのびる凹溝からなる請求項1または2記載の絶縁積層材。
【請求項4】
絶縁板および両金属板が多角形であり、前記凹溝が、第2金属板の全周のうち少なくとも各角部に、当該角部を挟む2つの辺部にまたがるように形成されている請求項3記載の絶縁積層材。
【請求項5】
前記凹溝が、第2金属板の厚み方向における絶縁板側の端部に形成されており、絶縁板における第2金属板が接合された側の面の一部が、前記凹溝内に臨むとともに前記凹溝の一方の側面となっている請求項3または4記載の絶縁積層材。
【請求項6】
前記凹溝が角溝であり、第2金属板全体の厚みをT1mm、第2金属板における絶縁板とは反対側の面から前記凹溝までの厚みをT2mmとした場合、T2/T1≧0.5という関係を満たす請求項5記載の絶縁積層材。
【請求項7】
前記凹溝が、第2金属板の厚み方向の中間部に形成されている請求項3記載の絶縁積層材。
【請求項8】
絶縁板の外周縁部が、第2金属板の外周縁部よりも外側に位置している請求項7記載の絶縁積層材。
【請求項9】
前記凹溝が、第2金属板の全周にわたって形成されている請求項3〜8のうちのいずれかに記載の絶縁積層材。
【請求項10】
前記凹溝の底と、第1金属板の外周縁との距離をXmm、第1金属板の厚みをYmmとした場合、X≦2Yという関係を満たす請求項3〜9のうちのいずれかに記載の絶縁積層材。
【請求項11】
第2金属板に、第2金属板の厚み方向にのびかつ第2金属板の両面のうち少なくともいずれか一面に開口した複数の穴が形成されている請求項1〜10のうちのいずれかに記載の絶縁積層材。
【請求項12】
請求項1〜11のうちのいずれかに記載された絶縁積層材の第1金属板における絶縁板に接合された面とは反対側の面が、発熱体となる電子素子を搭載する電子素子搭載部を有する配線面となされている絶縁回路基板。
【請求項13】
請求項12記載の絶縁回路基板の第2金属板における絶縁板とは接合された面とは反対側の面が、冷却器に接合されているパワーモジュール用ベース。
【請求項14】
第2金属板と冷却器とがろう付されている請求項13記載のパワーモジュール用ベース。
【請求項15】
請求項13または14記載のパワーモジュール用ベースの絶縁回路基板における第1金属板の電子素子搭載部に、パワーデバイスがはんだ付されているパワーモジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−169319(P2012−169319A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26743(P2011−26743)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】