説明

緻密なシリカ質膜を得ることができるポリシラザン化合物含有組成物

【課題】従来よりも低温で、または加熱により迅速に緻密なシリカ質膜を形成させることができポリシラザン化合物含有組成物の提供。
【解決手段】ポリシラザン化合物と特定のアミン化合物と溶媒とを含んでなるポリシラザン化合物含有組成物と、それを基板上に塗布し、シリカ質物質に転化させるシリカ質物質の形成方法。特定のアミン化合物は、ふたつのアミン基の間隔が、C−C結合5つに相当する距離以上であることが好ましく、アミン基は炭化水素基により置換されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリシラザン化合物を含有する組成物に関するものである。より詳しくは、従来利用されていた組成物よりも低温で、更に迅速に緻密なシリカ質膜の形成が可能なポリシラザン化合物含有組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリシラザン化合物は、加熱によりシリカ質物質に転換される性質を有している。このようにして形成されるシリカ質物質は絶縁性に優れていることから、絶縁膜として電気または電子分野において利用されている。しかしながら、ポリシラザン化合物をそのまま用いた場合には、シリカ物質への転換速度が遅かったり、シリカ質物質への変換に高温が必要であったりするなどの改良すべき点が多くあった。このため、このような点を改良すべく種々の検討がなされてきた。
【0003】
例えば、ポリシラザン化合物そのものを変性させたり、ポリシラザン化合物含有組成物に特定の添加剤を併用したりすることで上記のような問題点を改良することが検討されている。具体的には、低温でのシリカ質膜形成を可能とする方法として、ポリシラザン化合物含有組成物に、N−ヘテロ環状化合物を添加したもの(例えば、特許文献1)、アルカノールアミンを添加したもの(例えば、特許文献2)、アミン類又は/及び酸類を添加したもの(例えば、特許文献3)がある。これらの文献において利用されているアミン化合物は、その他の目的、具体的には、被膜凹凸、塗布ムラを低減させるためにジアミン化合物を添加したもの(例えば、特許文献4および5)、エポキシ樹脂を硬化させるためにポリアミンを添加したもの(たとえば、特許文献6)にも利用されている。
【0004】
上記の特許文献1に記載された、N−ヘテロ環状化合物を添加剤とするポリシラザン化合物含有組成物は周囲条件下で1週間、より好適には150℃以上の焼成により、緻密なシリカ質膜を形成することが出来るが、周囲条件下でより迅速に、あるいは更により低温の焼成で好適に緻密なシリカ質膜を形成することが出来るポリシラザン組成物が求められている。また、N−ヘテロ環状化合物は溶媒への溶解性が低い傾向にあるため、組成物に添加する際、その化合物を溶解させるために溶解力の高い有機溶媒、具体的には芳香族炭化水素、が一般的に用いられている。しかし、芳香族炭化水素は一般に揮発性が高く、また人体への有害性が高いため、近年、その使用量の低減が強く求められている。そのことから、より迅速に、より低温で好適にシリカ質膜を形成することができると同時に、芳香族炭化水素溶媒の含有量が低いポリシラザン化合物含有組成物が熱望されている。
【0005】
また、上記の特許文献3に記載された、アミン類又は/及び酸類を添加剤として含有するポリシラザン化合物含有組成物は様々な溶媒を選定することが可能であるが、緻密なシリカ質膜を形成させるためには長時間、高温の水蒸気と接触させる必要があり、周囲条件下での低温焼成で緻密なシリカ質膜を形成するためにはまだ改良の余地がある。
【0006】
また、上記の特許文献2に記載された、アルカノールアミンを添加剤としたポリシラザン化合物含有組成物では 様々な溶媒を選定することが可能である上に、低温焼成で緻密なシリカ質膜を形成することができるという特徴を有している。この組成物においては、添加されたアルカノールアミンをポリシラザン化合物と反応させることで、ポリシラザン化合物を有用な変性物に転換させる、反応の際、激しい発熱と発泡を伴うため、溶媒に希釈させたアルカノールアミンをゆっくりと時間を掛けて添加させる必要がある。この点は大量生産の際には生産効率または生産コストの観点から改良する余地がある。
【0007】
また、特許文献4または5などには比較的広範な範囲を包含するアミン化合物の一般式が示され、そのようなアミン化合物をポリシラザン組成物に配合することにより塗布ムラを低減させることができることが開示されている。しかしながら、これらの特許文献にはそのようなポリシラザン含有組成物を用い、かつ低温焼成によりシリカ質膜を得ることについての記載が見あたらない。本発明者らの検討によれば、これらの引用文献に例示されている、例えばヘキサメチレンジアミン、p−フェニレンジアミン、N,N,N’,N’,−テトラメチルエチレンジアミン等を含むポリシラザン含有組成物はいずれも低温焼成により十分な特性を有するシリカ質膜を形成させることができず、さらなる改良の余地があることがわかった。
【特許文献1】特開平11−116815号公報
【特許文献2】特開平11−60736号公報
【特許文献3】特開平9−31333号公報
【特許文献4】特開平8−176511号公報
【特許文献5】特開平8−176512号公報
【特許文献6】特開2004−536196号公報
【特許文献7】特公昭63−16325号公報
【特許文献8】特開昭61−89230号公報
【特許文献9】特開昭49−69717号公報
【特許文献10】特開平1−138108号公報
【特許文献11】特開平1−138107号公報
【特許文献12】特開平1−203429号公報
【特許文献13】特開平1−203430号
【特許文献14】特開平4−63833号公報
【特許文献15】特開平3−320167号公報
【特許文献16】特開平2−175726号
【特許文献17】特開平5−86200号
【特許文献18】特開平5−331293号
【特許文献19】特開平3−31326号公報
【非特許文献1】D.Seyferthら、Communication of Am.Cer.Soc.,C−13,January 1983
【非特許文献2】D.Seyferthら、Polym.Prepr.Am.Chem.Soc.,Div.Polym.Chem,.25,10(1984)
【非特許文献3】D.Seyferthら、Communication of Am.Cer.Soc.,C−132,July 1984
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような問題点に鑑み、従来利用されていた組成物よりも低温で、更に迅速に緻密なシリカ質膜の形成が可能なポリシラザン化合物含有組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるポリシラザン化合物含有組成物は、ポリシラザン化合物と、
下記一般式(A)
【化1】

(式中、
はそれぞれ独立に水素またはC〜Cの炭化水素基を示し、ここで、一つの窒素に結合する二つのRは同時に水素ではなく、
およびLはそれぞれ独立に、−CH−、−NRA1−(ここで、RA1は水素またはC〜Cの炭化水素基であり)、または−O−であり、
p1およびp3はそれぞれ独立に0〜4の整数であり、
p2は1〜4の整数である)、
または下記一般式(B)
【化2】

(式中、
はそれぞれ独立に水素またはC〜Cの炭化水素基を示し、
q1およびq2はそれぞれ独立に1〜4の整数である)
で示されるアミン化合物と、
前記ポリシラザン化合物および前記アミン化合物を溶解し得る溶剤と
を含んでなることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明によるシリカ質膜の形成方法は、ポリシラザン化合物含有組成物を基板上に塗布し、シリカ質膜に転化させることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明によるシリカ質膜は、前記のシリカ質膜形成方法により形成されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来利用されていた組成物よりも低温、例えば室温で緻密なシリカ質膜を形成させることができ、また加熱をした場合には迅速に緻密なシリカ質膜の形成が可能である。特に室温のような低温でシリカ質膜を形成可能であるため、製造設備の負荷が小さく、また設備の設計の自由度も高くなる。さらに得られるシリカ質膜は、十分な緻密性を有するものであって、従来のシリカ質膜と同様の用途に用いることが可能である。また、本発明によるポリシラザン化合物含有組成物から形成されたシリカ質膜は、硬さの点でも従来のポリシラザン化合物含有組成物から形成されたシリカ質膜に比べて有意に優れており、その用途をさらに広げることを可能としている。
【0013】
また、本発明によるポリシラザン化合物含有組成物は、適用できる溶媒の自由度が高く、揮発性の低い溶媒を用いることができるので安全性の観点から非常に好ましいものである。このため、本発明によるポリシラザン化合物含有組成物から形成されるシリカ質物質は、層間絶縁膜、上面保護膜、保護膜用プライマー等の電子材料として用いられ、また電子材料以外の分野においても、金属、ガラス、またはプラスチック等の基材表面の保護膜としても有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
アミン化合物
本発明によるポリシラザン化合物含有組成物は、特定のアミン化合物を含んでなる。本発明において用いられる特定のアミン化合物は、
下記一般式(A)
【化3】

(式中、
はそれぞれ独立に水素またはC〜Cの炭化水素基を示し、ここで、一つの窒素に結合する二つのRは同時に水素ではなく、
およびLはそれぞれ独立に、−CH−、−NRA1−(ここで、RA1は水素またはC〜Cの炭化水素基であり)、または−O−であり、
p1およびp3はそれぞれ独立に0〜4の整数であり、
p2は1〜4の整数である)、
または下記一般式(B)
【化4】

(式中、
はそれぞれ独立に水素またはC〜Cの炭化水素基を示し、
q1およびq2はそれぞれ独立に1〜4の整数である)
で示されるものである。これらのアミン化合物は、1分子中に2つ以上のN原子を有するアミン化合物であり、N原子の間の距離は、おおよそ5つのC−C結合と同程度かそれ以上の距離であるものである。もしアミン化合物が2個を超えるN原子を有する場合は、そのうちの任意の2個の間の距離が、前記した条件を満たしていればよい。更にN原子には短鎖の炭化水素基が結合していることが望ましく、炭化水素基の数も多い方がより好ましい。すなわち、N−H結合は少ない方が望ましい。ただし、一般式(B)で示されるアミン化合物に関しては、末端のN原子に二つの水素が結合していても本発明の効果が達成される。
【0015】
このようなアミン化合物のうち、特に好ましいものは下記式で示されるものである。
【化5】

【0016】
これらのアミン化合物は、必要に応じて2種類以上を組み合わせて用いることもできる。
【0017】
本発明により特定されたアミン化合物の存在により本発明の効果が達成されるメカニズムは未だ明らかになっていないが、以下のように推測される。本発明において特定されたアミン化合物は、複数のN原子同士が適当な間隔を有しており、このためにポリシラザン中の複数のSi原子に同時に作用することにより、ポリシラザンのSi−N結合の開裂が容易となり、シリカ転化が促進されるものと考えられる。またN原子に炭化水素基が結合していることで溶解性が向上すると同時に、電子供与能力が高まり ポリシラザン中のSi原子への作用も起こりやすくなっていると考えられる。このため、N原子に結合した炭化水素基は炭素数3までが適当であり、それが過度に長いと立体的な嵩高さが増し、作用が起こりにくくなってしまうことも考えられる。
【0018】
ポリシラザン化合物
本発明に用いられるポリシラザン化合物は特に限定されず、本発明の効果を損なわない限り任意に選択することができる。これらは、無機化合物あるいは有機化合物のいずれのものであってもよい。これらポリシラザンのうち、無機ポリシラザンとしては、例えば一般式(I):
【化6】

で示される構造単位を有する直鎖状構造を包含し、690〜2000の分子量を持ち、一分子中に3〜10個のSiH基を有し、化学分析による元素比率がSi:59〜61、N:31〜34およびH:6.5〜7.5の各重量%であるペルヒドロポリシラザン(特許文献7)、およびポリスチレン換算平均分子量が3,000〜20,000の範囲にあるペルヒドロポリシラザンが挙げられる。
【0019】
これらのペルヒドロポリシラザンは、特許文献7に記載された方法あるいは非特許文献1などに報告されている方法により製造することができ、基本的には分子内に鎖状部分と環状部分を含むもので、
【0020】
【化7】

の化学式で表すことができるものである。ペルヒドロポリシラザン構造の一例を示すと下記のごとくである。
【0021】
【化8】

【0022】
また、他のポリシラザンの例として、例えば、主として一般式:
【化9】

(式中、R、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、もしくはこれらの基以外でフルオロアルキル基等のケイ素に直結する基が炭素である基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基またはアルコキシ基を表す。但し、R、RおよびRの少なくとも1つは水素原子である。)で表される構造単位からなる骨格を有する数平均分子量が約100〜50,000のポリシラザンまたはその変性物が挙げられる。
【0023】
例えば、上記一般式(II)でRおよびRに水素原子、Rにメチル基を有するポリシラザンの製造方法は、非特許文献2に報告されている。この方法により得られるポリシラザンは、繰り返し単位が−(SiHNCH)−の鎖状ポリマーと環状ポリマーであり、いずれも架橋構造をもたない。
【0024】
また、上記一般式(II)でRおよびRに水素原子、Rに有機基を有するポリオルガノ(ヒドロ)シラザンの製造法は、非特許文献2、特許文献8に報告されている。これら方法により得られるポリシラザンには、−(RSiHNH)−を繰り返し単位として、主として重合度が3〜5の環状構造を有するものや(RSiHNH)〔(RSiH)1.5N〕1−X(0.4<X<1)の化学式で示される分子内に鎖状構造と環状構造を同時に有するものがある。
【0025】
さらに、上記一般式(II)でRに水素原子、R、Rに有機基を有するポリシラザン、またRおよびRに有機基、R3に水素原子を有するものは−(RSiNR)−を繰り返し単位として、主に重合度が3〜5の環状構造を有しているものもある。
【0026】
また、上記一般式(II)以外の有機ポリシラザンとしては、例えば一般式:
【化10】

で表わされる架橋構造を分子内に有するポリオルガノ(ヒドロ)シラザン(非特許文献3)、RSiX(X:ハロゲン)のアンモニア分解によって得られる架橋構造を有するポリシラザンRSi(NH)、あるいはRSiXおよびRSiXの共アンモニア分解によって得られる、下記の構造を有するポリシラザン(特許文献9)が挙げられる。
【0027】
【化11】

【0028】
さらには、分子量を増加させたり、耐加水分解性を向上させたりした無機シラザン高重合体や改質ポリシラザン(特許文献10〜15)、ポリシラザンに有機成分を導入した厚膜化に有利な共重合シラザン(特許文献16〜19)、などが挙げられる。これらのポリシラザン化合物は2種類以上を組み合わせて用いることもできる。
【0029】
溶媒
本発明による組成物は、前記のポリシラザン化合物および前記アミン化合物を溶解し得る溶媒を含んでなる。このような溶媒としては、前記の各成分を溶解し得るものであれば特に限定されるものではないが、好ましい溶媒の具体例としては、次のものが挙げられる:
(a)芳香族化合物、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、トリエチルベンゼン等、(b)飽和炭化水素化合物、例えばn−ペンタン、i−ペンタン、n−ヘキサン、i−ヘキサン、n−ヘプタン、i−ヘプタン、n−オクタン、i−オクタン、n−ノナン、i−ノナン、n−デカン、i−デカン等、(c)脂環式炭化水素化合物、例えばエチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキセン、p−メンタン、デカヒドロナフタレン、ジペンテン、リモネン等、(d)エーテル類、例えばジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル(以下、MTBEという)、アニソール等、および(e)ケトン類、例えばメチルイソブチルケトン(以下、MIBKという)等。これらのうち、(b)飽和炭化水素化合物、(c)脂環式炭化水素化合物(d)エーテル類、および(e)ケトン類がより好ましい。
【0030】
これらの溶媒は、溶剤の蒸発速度の調整のため、人体への有害性を低くするため、または各成分の溶解性の調製のために、適宜2種以上混合したものも使用できる。
【0031】
このような溶媒として、市販の溶媒も用いることができる。例えば、C8以上の芳香族炭化水素を5重量%以上25重量%以下含有する脂肪族/脂環式炭化水素混合物として、ペガソールAN45(商品名:エクソンモービル社製)、芳香族炭化水素を含まない脂肪族/脂環式炭化水素混合物として、エクソールD40(商品名:エクソンモービル社製)などが市販されているが、これらを用いることもできる。なお、溶媒の混合物を用いる場合、人体への有害性を低減するという観点から、芳香族炭化水素の含有率は溶媒混合物の総重量に対して30重量%以下であることが好ましい。
【0032】
本発明において特定されたアミン化合物は溶解性が比較的高いため、溶媒選択の自由度が高いという特徴がある。このため、安全性の観点から、揮発性の低い溶剤を用いること好ましい。具体的には、前記した溶媒のうち、揮発性の低い次のものを用いることがより好ましい:
(b1)n−ペンタン、i−ペンタン、n−ヘキサン、i−ヘキサン、n−ヘプタン、i−ヘプタン、n−オクタン、i−オクタン、n−ノナン、i−ノナン、n−デカン、またはi−デカン、
(c1)エチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキセン、p−メンタン、またはジペンテン、
(d1)ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、またはMTBE、
(e1)MIBK。
さらに前記したエクソールD40(商品名:エクソンモービル社製)も好ましいもののひとつである。
【0033】
好ましい溶媒を選択するための一つの指標として、溶媒の蒸気圧を用いることができる。すなわち、揮発性との関係から、20℃における蒸気圧が、0.8kPa以下である溶媒が好ましく、0.65kPa以下である溶媒がより好ましく、0.5kPa以下である溶媒がさらに好ましい。このような蒸気圧の条件を満たすものとして、ジブチルエーテル(20℃における蒸気圧:0.48kPa)、ペガゾールAN45(20℃における蒸気圧:0.29kPa)、エクソールD40(20℃における蒸気圧:0.18kPa)、サートレックス60(20℃における蒸気圧:0.017kPa)、ソルベッソ150(20℃における蒸気圧:0.083kPa)(それぞれ商品名:エクソンモービル社製)などが挙げられる。これらは例えばキシレン(20℃における蒸気圧:0.87kPa)に比較して揮発性が低く、人体に対する有害性も低いものである。
【0034】
その他の添加剤
本発明による組成物は、必要に応じてその他の添加剤成分を含有することもできる。そのような成分として、例えば粘度調整剤、架橋促進剤等が挙げられる。また、半導体装置に用いられたときにナトリウムのゲッタリング効果などを目的に、リン化合物、例えばトリス(トリメチルシリル)フォスフェート等、を含有することもできる。
【0035】
ポリシラザン化合物含有組成物
本発明によるポリシラザン化合物含有組成物は、前記のポリシラザン化合物、特定のアミン化合物、および必要に応じてその他の添加物を前記の溶媒に溶解または分散させて組成物とする。ここで、有機溶媒に対して各成分を溶解させる順番は特に限定されない。また、配合成分を反応をさせた上で、溶媒を置換することもできる。
【0036】
アミン化合物の配合量は、ポリシラザン化合物の重量に対して、一般に50重量%以下、好ましくは10重量%以下とされる。特に、ケイ素にアルキル基などが結合していないペルヒドロポリシラザン化合物を用いる場合には、電子的または立体的に有利に作用するため、アミン化合物の添加量が相対的に少なくても本発明の効果を得ることができる。具体的には、一般に1〜20%、好ましくは3〜10%、より好ましくは4〜8%、さらに好ましくは4〜6%とされる。アミン化合物の配合量は、その触媒作用や膜の緻密さを改善する効果を最大限得るために、一定量以上であることが好ましい一方で、組成物の相溶性を維持し、製膜したときの膜ムラを防ぐために一定量以下であることが好ましい。
【0037】
また、前記の各成分の含有量は、目的とする組成物の用途によって変化するが、十分な膜厚のシリカ質材料を形成させるためにポリシラザン化合物の含有率が0.1〜40重量%であることが好ましく、0.5〜20重量%とすることがより好ましく、5〜20重量%とすることがさらに好ましい。通常、ポリシラザン化合物の含有量を5〜20重量%とすることで、一般的に好ましい膜厚、例えば2000〜8000Å、を得ることができる。
【0038】
シリカ質膜の製造法
本発明によるシリカ質膜の製造法は、前記したポリシラザン化合物含有組成物を基板に塗布し、必要に応じて加熱などによりシリカ質物質に転化させることにより、シリカ質膜を形成させるものである。
【0039】
用いられる基板の表面材質は特に限定されないが、例えばベアシリコン、必要に応じて熱酸化膜や窒化珪素膜を成膜したシリコンウェハー、などが挙げられる。必要に応じて、基板上にトレンチアイソレーション溝などの構造が形成されていてもよい。
【0040】
基板表面に対する組成物の塗布方法としては、従来公知の方法、例えば、スピンコート法、ディップ法、スプレー法、転写法等が挙げられる。これらのうち、特に好ましいのはスピンコート法である。
【0041】
基板表面に形成された塗布膜を、必要に応じて過剰の有機溶媒を除去(乾燥)したあと、好ましくは水蒸気、酸素、またはその混合ガスを含む雰囲気中、すなわち酸化雰囲気中でポリシラザンをシリカ質物質に転化させる。本発明においては、特に転化を酸素を含む雰囲気下で焼成することが好ましい。ここで、酸素の含有率は体積を基準として1%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましい。ここで、本発明の効果を損なわない範囲で、雰囲気中に窒素やヘリウムなどの不活性ガスが混在していてもよい。
【0042】
また、本発明の方法において、水蒸気を含む雰囲気下で転化を行う場合には、体積を基準として0.1%以上であることが好ましく、1%以上であることがより好ましい。本発明においては、特に酸素と水蒸気とを含む混合ガス雰囲気下で焼成を行うことが好ましい。
【0043】
転化させるときの温度は、ポリシラザン化合物がシリカ質膜に添加し得る温度で行うことが必要である。一般的には20〜1000℃、好ましくは20〜300℃、より好ましくは20〜100℃で転化させる。また、転化時間は転化温度に応じて適切に選択することができるが、一般に5分〜1週間、好ましくは15分〜1日、より好ましくは15分〜2時間である。また、転化を高湿度条件下で行うことにより、転化に必要な温度を低くし、また必要な時間を短縮することが可能である。具体的には、相対湿度70%以上で転化を行うことにより、転化に要する温度を80℃以下、転化に要する時間を1時間以下とすることが可能である。
【0044】
シリカ質膜、およびシリカ質膜付き基板
本発明によるシリカ質膜およびシリカ質膜付き基板は、前記したポリシラザン化合物含有組成物を用いて製造される。本発明によるポリシラザン化合物含有組成物を利用する限り、その製造条件などは特に限定されないが、例えば前記した方法により製造することができる。これらのシリカ質膜またはシリカ質膜付き基板は、層間絶縁膜、上面保護膜、保護膜用プライマー等の電子材料として用いられ、また電子材料以外の分野においても、金属、ガラス、またはプラスチック等の基材表面の保護膜としても有用である。
【0045】
本発明を例を用いて説明すると以下の通りである。
【0046】
合成例1[ペルヒドロポリシラザンの合成]
特許文献1に記載された方法に従い、以下の通りペルヒドロポリシラザンを合成した。
内容積1リットルの四つ口フラスコにガス吹き込み管、メカニカルスターラー、ジュワーコンデンサーを装着した。反応器内部を脱酸素した乾燥窒素で置換した後、四つ口フラスコに脱気した乾燥ピリジンを1500ml入れ、これを氷冷した。次に、ジクロロシラン100gを加えると、白色固体状のアダクト(SiHCl・2CN)が生成した。反応混合物を氷冷し、撹拌しながらアンモニア70gを吹き込んだ。引き続き、乾燥窒素を液層に30分間吹き込み、余剰のアンモニアを除去した。
【0047】
得られた生成物をブッフナーロートを用いて乾燥窒素雰囲気下で減圧濾過し、濾液1200mlを得た。エバポレーターを用いてピリジンを留去したところ、40gのペルヒドロポリシラザンを得た。得られたペルヒドロポリシラザンの数平均分子量をGPC(展開液:CDC1)により測定したところ、ポリスチレン換算で800あった。そのIR(赤外吸収)スペクトルを測定すると、波数(cm−1)3350、及び1200付近のN−Hに基づく吸収:2170のSi−Hに基づく吸収:1020〜820のSi−N−Siに基づく吸収を示すことが確認された。
【0048】
実施例1〜11および比較例1〜7
容量100mlのガラス製ビーカーに、合成例1で得られたペルヒドロポリシラザン16gとジブチルエーテル64gを導入し、ポリシラザン溶液を調整した。次に、そのポリシラザン溶液に表1に示す通りのテトラメチルヘキサンジアミン0.8g(ペルヒドロポリシラザンに対して5.0wt%)をスターラーで攪拌しながら、添加して、実施例1のポリシラザン化合物含有組成物を調製した。さらに、実施例1に対して、アミン化合物の種類、アミン化合物の添加量、溶媒を変更して、表1に示された実施例1〜11および比較例1〜7のポリシラザン化合物含有組成物を調製した。
【0049】
【表1】

【0050】
各組成物のうち、均一なものとしてえられた組成物を、厚さ0.5mmの4インチシリコンウェハーにスピンコーターを用い、塗布した(500rpm/5秒、次いで1000rpm/20秒)。その後、以下の条件で組成物をシリカ質物質に転化させた。
転化条件A: 周囲条件下(室温、相対湿度40〜55%)で24時間放置
転化条件A3: 周囲条件下(室温、相対湿度40〜55%)で3日間放置
転化条件B: 40℃、相対湿度95%の高温高湿層で60分間加湿処理
転化条件C: 300℃のホットプレートで2時間焼成
転化条件D: 80℃のホットプレートで15分焼成してから周囲条件下(室温、相対湿度40〜55%)で24時間放置
転化条件E: 40℃、相対湿度95%の高温高湿層で10分間加湿処理
転化条件F: 200℃の加熱水蒸気で1時間処理
なお比較例8〜10については、均一な被膜を得ることができなかったので、以下のWER評価もすることができなかった。特に比較例8〜10は、アミン化合物の添加量を著しく少なくしているにも関わらず、十分溶解しておらず、本発明の範囲外のアミン化合物は溶媒選択の自由度が低いことを示している。
【0051】
転化の前後で、IRスペクトルを測定して組成物がシリカ質物質に転化した度合いを評価した。転化により得られるシリカ質膜のIRスペクトルは、一般に1030cm−1、および450cm−1付近にあるSi−O結合に基づく吸収、1270cm−1および780cm−1付近にあるSi−C結合に基づく吸収、2970cm−1付近にあるC−H結合に基づく吸収が認められ、転化前に存在している3350cm−1および1200cm−1付近にあるN−H結合に基づく吸収、および2200cm−1にあるSi−H結合に基づく吸収が消失するので、これによりシリカ質膜に転化されたことが確認できる。本発明による実施例1〜11の組成物から得られたシリカ質膜では、いずれもポリシラザンに独特なピークが消失し、シリカ質物質に転化していることが確認できた。一方で比較例の組成物はいずれも3350cm−1および1200cm−1付近にあるN−H結合に基づく吸収が残り、完全にシリカ質物質に転化していなかった。
【0052】
また、WER評価は、転化の前後の膜付きシリコンウェハーを、それぞれフッ酸0.5%水溶液中に1〜5分間浸漬し、浸漬前後の膜厚をエリプソメーターで測定して1分あたりの膜厚減少速度を測定することにより評価した(単位Å/min.)。得られた結果は表2および3に示すとおりであった。これらの表において、WERは値が小さいほどエッチングを受けにくいことを示し、すなわちシリカ質膜の緻密性が高いことを示している。
【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
また、転化条件A3で転化させた後の膜付きシリコンウェハーの硬さを、ナノインデンタ硬度測定計により測定した。得られた結果は表4に示すとおりであった。
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリシラザン化合物と、
下記一般式(A)
【化1】

(式中、
はそれぞれ独立に水素またはC〜Cの炭化水素基を示し、ここで、一つの窒素に結合する二つのRは同時に水素ではなく、
およびLはそれぞれ独立に、−CH−、−NRA1−(ここで、RA1は水素またはC〜Cの炭化水素基であり)、または−O−であり、
p1およびp3はそれぞれ独立に0〜4の整数であり、
p2は1〜4の整数である)、
または下記一般式(B)
【化2】

(式中、
はそれぞれ独立に水素またはC〜Cの炭化水素基を示し、
q1およびq2はそれぞれ独立に1〜4の整数である)
で示されるアミン化合物と、
前記ポリシラザン化合物および前記アミン化合物を溶解し得る溶剤と
を含んでなることを特徴とする、ポリシラザン化合物含有組成物。
【請求項2】
前記アミン化合物が、下記(A1)〜(A5)および(B1)〜(B2)からなる群から選択されるものである、請求項1に記載のポリシラザン化合物含有組成物。
【化3】

【請求項3】
前記溶剤が(b)飽和炭化水素化合物、(c)脂環式炭化水素化合物(d)エーテル類、または(e)ケトン類を含んでなる、請求項1または2に記載のポリシラザン化合物含有組成物。
【請求項4】
前記ポリシラザン化合物がペルヒドロポリシラザンである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリシラザン化合物含有組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリシラザン化合物含有組成物を基板上に塗布し、シリカ質膜に転化させることを特徴とするシリカ質膜の形成方法。
【請求項6】
シリカ質膜への転化を100℃以下、相対湿度40〜95%の条件下で行う、請求項5に記載のシリカ質膜の形成方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の方法により形成されたことを特徴とするシリカ質膜。

【公開番号】特開2009−111029(P2009−111029A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−279374(P2007−279374)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(504435829)AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社 (79)
【Fターム(参考)】