繊維強化プラスチックの製造方法
【課題】良好な流動性、複雑な形状の成形追従性を有する基材を用いて、繊維強化プラスチックとした場合、優れた力学特性、その低バラツキ性、優れた寸法安定性を安定して発現する高品位・高品質の繊維強化プラスチックの製造方法を提供すること。
【解決手段】板厚の異なる段差部を有する繊維強化プラスチックを、
(1)プリプレグ基材の積層数が多い厚肉部と、プリプレグ基材の積層数が少ない薄肉部と、厚肉部と薄肉部との境界である段差部とが形成されるように積層し、板厚の異なる平板状の積層体を得、
(2)成形型に設けられている段差部に、積層体の段差部が位置するように位置決めして配置し、積層体を伸長させて充填させ、
(3)前記成形型から前記繊維強化プラスチックを取り出して、成形する。
【解決手段】板厚の異なる段差部を有する繊維強化プラスチックを、
(1)プリプレグ基材の積層数が多い厚肉部と、プリプレグ基材の積層数が少ない薄肉部と、厚肉部と薄肉部との境界である段差部とが形成されるように積層し、板厚の異なる平板状の積層体を得、
(2)成形型に設けられている段差部に、積層体の段差部が位置するように位置決めして配置し、積層体を伸長させて充填させ、
(3)前記成形型から前記繊維強化プラスチックを取り出して、成形する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な流動性、成形追従性を有する基材を用いて、繊維強化プラスチックとした場合、優れた力学特性、その低バラツキ性、優れた寸法安定性を安定して発現する、高品位・高品質な繊維強化プラスチックの製造方法に関する。かかる繊維強化プラスチックは、例えば自動車や航空機などの輸送機器、自転車などのスポーツ用具などの構造部材に特に好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
強化繊維とマトリックス樹脂とからなる繊維強化プラスチックは、比強度、比弾性率が高く、力学特性に優れること、耐薬品性などの高機能特性を有することなどから、その需要は年々高まりつつある。
【0003】
繊維強化プラスチックの成形方法としては、プリプレグ基材と称される連続した強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸せしめた半硬化状態の中間基材を積層し、高温高圧釜で加熱加圧することにより熱硬化性樹脂を硬化させ繊維強化プラスチックを成形するオートクレーブ成形が最も一般的に行われている。得られた繊維強化プラスチックは、連続繊維である所以優れた力学物性を有する。また、連続繊維は規則的な配列であるため、基材の配置により必要とする力学物性に設計することが可能であり、力学物性のバラツキも小さい。しかしながら、連続繊維である所以3次元形状を形成することは難しいという問題があった。特にダブルコンター部を有する複雑な3次元形状の場合、連続繊維を用いた中間基材を賦形した場合には、形状表面を覆いきれない箇所で突っ張りが、中間基材が余った箇所でシワが発生するため、高品位・高品質を満足する賦形が難しいという問題があった。
【0004】
かかる問題に対して、連続繊維のプリプレグ基材を積層した積層体(例えば、特許文献1)を用いて、C型の2次元形状を形成する提案(例えば、特許文献2)、板厚が異なる段差形状を形成する提案(例えば、特許文献3)、積層体を予熱して複雑形状に賦形して3次元形状を形成する提案(例えば、特許文献4、5)がある。しかしながら、連続繊維のプリプレグ基材を用いているため、とりわけ板厚が異なる段差形状を3次元形状(特にダブルコンター部を有する形状)の賦形が困難であった。
【0005】
一方、連続繊維ではなく不連続繊維を用いた中間基材、例えば、BMC(バルクモールディングコンパウンド)(例えば、特許文献6)、SMC(シートモールディングコンパウンド)、スタンパブルシート(例えば、特許文献7)、プリプレグに切込を入れた基材(例えば、特許文献8)のように束状の不連続繊維をマトリックス樹脂に分散させた中間基材を用いれば、上述のダブルコンター部を有する3次元形状にも成形追従することが分かっているものの、力学的特性を高くできず、高い力学特性が要求される構造部材には適用できないという問題があった。
【特許文献1】特開2006−188597号公報
【特許文献2】特開2006−312260号公報
【特許文献3】特開2007−230036号公報
【特許文献4】特開2008−068532号公報
【特許文献5】特開2008−055609号公報
【特許文献6】特開平08−118379号公報
【特許文献7】特開平9−267344号公報
【特許文献8】国際公開公報WO2007/0135418号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、良好な流動性、複雑な形状の成形追従性を有する基材を用いて、繊維強化プラスチックとした場合、優れた力学特性、その低バラツキ性、優れた寸法安定性を安定して発現する、高品位・高品質な繊維強化プラスチックおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、一方向に引き揃えられた強化繊維とマトリックス樹脂とを含んで構成されるプリプレグ基材の積層体をプレス成形して板厚の異なる段差部を有する繊維強化プラスチックを製造する方法であって、前記プリプレグ基材として、前記強化繊維を横切る方向に複数の切込によって少なくとも一部の強化繊維を10〜100mmの長さに分断した切込プリプレグ基材を用いて、少なくとも次の(1)〜(3)の工程を順次経て繊維強化プラスチックを成形する、繊維強化プラスチックの製造方法である。
【0008】
(1)少なくとも切込プリプレグ基材を含む複数枚のプリプレグ基材を積層して積層体を得るに際し、少なくとも前記積層体の一部に、プリプレグ基材の積層数が多い厚肉部と、プリプレグ基材の積層数が少ない薄肉部と、厚肉部と薄肉部との境界である段差部とが形成されるように積層し、板厚の異なる平板状の積層体を得る積層工程
(2)積層体を成形型に押し付けて硬化または固化させ、繊維強化プラスチックとするに際し、前記積層体を、前記成形型に設けられている段差部に、該積層体の段差部が対応するように位置決めして該成形型に配置し、前記積層体の厚肉部、薄肉部または段差部の少なくともいずれかを伸長させて、前記成形型の厚肉部、薄肉部、段差部のそれぞれに充填させる成形工程
(3)前記成形型から前記繊維強化プラスチックを取り出す脱型工程。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、良好な流動性、複雑な形状の成形追従性を有する基材を用いて、繊維強化プラスチックとした場合、優れた力学特性、その低バラツキ性、優れた寸法安定性を安定して発現する、高品位・高品質な繊維強化プラスチックを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の繊維強化プラスチックの製造方法は、一方向に引き揃えられた強化繊維とマトリックス樹脂とを含んで構成されるプリプレグ基材の積層体をプレス成形して板厚の異なる繊維強化プラスチックを製造する方法であって、前記プリプレグ基材として、該強化繊維を横切る方向に複数の切込によって少なくとも一部の強化繊維を10〜100mmの長さに分断した切込プリプレグ基材を用いて、少なくとも以下に詳述する(1)〜(3)の工程を順次経て繊維強化プラスチックを成形する。
【0011】
なお、本発明の製造方法で成形する繊維強化プラスチックは、少なくとも、板厚の異なる厚肉部および薄肉部、両者の境界である段差部を有する。より本発明の効果を高く発現させるためには、繊維強化プラスチックがさらにダブルコンター部を有する3次元形状を有するのが好ましい。また、繊維強化プラスチックの一部にリブやボスなどがあってもよい。ここで、本発明における“ダブルコンター部を有する繊維強化プラスチック”とは、繊維強化プラスチックの表面を二次曲面として取り出してきた際、該二次曲面上の点であって、該点を通るどのような平面を参照しても、該平面と該二次曲面の交線のうち該点を通る交線が直線となることがない点がダブルコンター部に属し、これらダブルコンター部を少なくとも一部に含む繊維強化プラスチックを指す。具体的には鞍型、半球形状や凹凸部を有する平板などが該当するが段差部のない平板、円錐形状や円筒形状は該当しない。本明細書では、特に断らない限り、繊維あるいは繊維を含む用語(例えば“繊維方向”など)において、繊維とは強化繊維を表すものとする。また、本明細書では連続繊維とは100mm以上の繊維長さを持つ強化繊維を指す。
【0012】
本発明で用いられるプリプレグ基材には、一方向に引き揃えられた強化繊維や強化繊維基材に樹脂が完全に含浸した基材に加え、樹脂シートが繊維間に完全に含浸していない状態で一体化した樹脂半含浸基材(セミプレグ:以下、半含浸プリプレグと称することもある。)を含むものとする。
【0013】
本発明で用いられる切込プリプレグ基材は、一方向に引き揃えられた強化繊維とマトリックス樹脂とから構成され、該強化繊維を横切る方向に複数の切込によって少なくとも一部の強化繊維を10〜100mmの長さに分断しているものを指す。切込プリプレグ基材上において強化繊維が10〜100mmの長さに分断されている切込部は、後述(2)の成形工程で基材が伸長することができる領域に対応している。したがって、複雑形状の繊維強化プラスチックを成形するにあたり、厚肉部、薄肉部または段差部の少なくともいずれかに対応する領域の積層体は、切込プリプレグ基材上で切込によって強化繊維が10〜100mmの長さに分断されている切込部が積層されていることを必須とする。
【0014】
本発明に用いる切込プリプレグ基材は強化繊維が一方向に引き揃えられているので、繊維方向の配向制御により任意の力学物性を有する成形体の設計が可能となる。加えて、繊維を横切る方向に複数の切込によって少なくとも一部の繊維を100mm以下の長さに分断していることによって、成形時に繊維が流動可能、特に繊維長手方向にも流動可能となり、複雑な形状の成形追従性にも優れる。切込がない場合、すなわち連続繊維のみの場合、繊維長手方向には流動しないため、複雑形状を形成することはできない。一方、繊維長さを10mm未満にすると、さらに流動性が向上するが、他の要件を満たしても構造材として必要な高い力学特性は得られない。流動性と力学特性との関係を鑑みると、繊維長さが10〜100mmである必要があり、さらに好ましくは20〜60mmの範囲内である。
【0015】
図2は、本発明に用いる積層体の流動のメカニズムの一例を示す断面図である。
【0016】
図2(a)のとおり、90°のプリプレグ基材に0°の切込プリプレグ基材が挟まれた積層体12の上から圧力13が加わり成形する際、図2(b)のように、圧力で押し出された樹脂が90°方向に流れ14を作り、その流れに従って強化繊維の不連続端4の開き15が起こる。すなわち、一方向に引き揃えられた繊維からなるプリプレグ基材に切込を設け、少なくとも一部の強化繊維が10〜100mmの長さである切込プリプレグ基材を積層することではじめて、繊維長手方向への流動が可能となり、複雑な形状の成形追従性が生まれる。上述の通りに強化繊維の流動はマトリックス樹脂の流動が駆動源であるため、適性のVf(繊維体積含有率)であることが好ましい。すなわち、Vfは65%以下で十分な流動性が得られるようになり好ましい。また、Vfが低いほど流動性は向上するが、Vfが45%を下回ると、構造材に必要な高力学特性が得られなくなる可能性があるので、Vfは45%以上であることが好ましい。流動性と力学特性との関係を鑑みると、さらに好ましくは55〜60%の範囲内である。
【0017】
本発明の繊維強化プラスチックの製造方法は、上述の切込プリプレグ基材を用いて、少なくとも次の(1)〜(3)の工程を順次経て成形される。本発明の特長の一つは、板厚の異なる段差部を有する繊維強化プラスチックを容易かつ安定して成形することができる点にある。
【0018】
(1)積層工程
少なくとも切込プリプレグ基材を含む複数枚のプリプレグ基材を積層して積層体を得るに際し、少なくとも積層体の一部に、プリプレグ基材の積層数が多い厚肉部と、プリプレグ基材の積層数が少ない薄肉部と、厚肉部と薄肉部との境界である段差部とが形成されるように積層し、板厚の異なる平板状の積層体を得る。
【0019】
図1は、本発明の繊維強化プラスチックの製造方法の一例を示す斜視図である。例えば、図1(c)に示すように段差部12cを有し、かつ、厚肉部12aおよび薄肉部12bに半球状のダブルコンター部25を有する繊維強化プラスチック16を製造するにあたり、次のような工程を順次経る。
【0020】
まず、切込プリプレグ基材を少なくとも含む複数枚のプリプレグ基材を積層して平板状の積層体12を作成する。従来は、プリプレグ基材を、成形型に沿って一枚一枚積層、賦形しながら複雑形状の積層体を作製したり、最終形状である成形後の繊維強化プラスチックの略形状(得られる繊維強化プラスチックの形状を単純にした形状であって、凹凸の数が少なくなったり、起伏が少なくなったりした形状)に沿って一枚一枚積層、賦形しながら複雑形状の積層体を作製したりする方法が採用されており、本工程に非常に長い時間を必要としていたが、本発明ではプリプレグ基材を単に平板状に積層するだけで成形可能であり、より低コストに積層体を作成することができる。
【0021】
図3は、本発明に用いる積層体の一例を示す平面図および断面図である。図3(a)、図3(b)はそれぞれの積層体の一部に切込部を有した例を示しており、図3のそれぞれは上に平面図、下にA−A断面の断面図を示している。
【0022】
図3(a)では、切込により繊維が10〜100mmの長さに分断された切込プリプレグ基材のみを用いて、全面に切込を入れられた切込プリプレグ基材10aを5枚積層した上に、切込プリプレグ基材10aより面積の小さな全面に切込を入れられた切込プリプレグ基材10aを2枚、さらに面積の小さな切込プリプレグ基材10aを2枚、合計4枚表層に積層した例を示す。厚肉部12aは9枚の切込プリプレグ基材で、薄肉部12bは5枚の切込プリプレグ基材で、段差部12cは5枚を越え9枚未満の枚数、すなわち7枚の切込プリプレグ基材により形成されている。特に、ダブルコンター部25を有する複雑形状の繊維強化プラスチックを製造する場合は、切込プリプレグ基材のみが積層されてなる切込部37を形成することが好ましい。切込部37では積層体の厚み方向に、実質的に10〜100mmの繊維のみからなる、切込プリプレグ基材のみが積層されている。ここで“実質的に10〜100mmの繊維のみからなる”とは該領域に含まれる強化繊維本数のうち95%以上が10〜100mmに分断されていることを言う。かかる領域を以下、積層体の切込部と称す。ダブルコンター部25を有する複雑形状の繊維強化プラスチックを成形するにあたり、ダブルコンター部25に対応する積層体の領域が切込部であることで、切込プリプレグ基材が成形時に容易に伸長することができ、複雑形状に沿わせることができる。ダブルコンター部を有する複雑形状の繊維強化プラスチックを成形するに際しては、連続繊維のプリプレグ基材のみを用いて成形する場合は、繊維強化プラスチックの表面形状を展開した平面状のカットパターンを作成し、該カットパターンで裁断した連続繊維基材を成形型に厳密に沿わせて複雑形状に賦形し、積層数分だけそれを繰り返して積層体を作製する必要がある。一方、本発明にかかる切込プリプレグ基材を用いて成形する場合には、切込プリプレグ基材(特に切込部)が伸長して複雑形状に沿うため、複雑なカットパターンとしなくてもよく、また成形型(すなわち成形後の繊維強化プラスチック)の形状に完全に沿わせて複雑形状に賦形せずに、平板状に積層した積層体を用いて一気に成形型での成形でダブルコンター部を有する複雑形状を形成できるので、極めて高効率に繊維強化プラスチックを製造できる。
【0023】
図3(b)では、少なくともこの積層体の一部に、切込プリプレグ基材10a、10bおよび連続繊維のプリプレグ基材11を用いて、全面に切込を入れられた切込プリプレグ基材10aを6枚積層した上に、切込プリプレグ基材10aより面積の小さな連続繊維のプリプレグ基材11を2枚積層し、さらにその上に切込プリプレグ基材10aと同面積の一部に切込が入れられた切込プリプレグ基材10bを1枚積層した例を示す。厚肉部12aは7枚の切込プリプレグ基材10a、10bおよび2枚の連続繊維のプリプレグ基材11の合計9枚で、薄肉部12bは7枚の切込プリプレグ基材10a、10bで、段差部12cは直線(積層体の厚み方向を考慮すると平面)として形成されている。また、図3(a)と同様に、連続繊維からなるプリプレグ基材11に覆われていない切込部37が存在する。ここで、連続繊維のプリプレグ基材11としては、一方向に連続繊維を引き揃えたプリプレグ基材や織物のプリプレグ基材などが挙げられる。
【0024】
かかる段差部12cにおいて、厚肉部12aと薄肉部12bとの積層数の差がプリプレグ基材1〜4枚の範囲内、または、0.1〜1mm厚の範囲内であれば、図3(b)に示す通り積層数を一気に減らして(増やして)段差を形成してもよいが、積層数の差がプリプレグ基材4枚を越える場合、または、1mm厚を越える場合は、繊維強化プラスチックにおいて段差部での応力集中が顕著になるため、図3(a)に示す通り1〜4枚の範囲内、または、0.1〜1mm厚の範囲内の段差を徐々に形成するようにテーパー積層するのが好ましい。より好ましい段差を形成する積層枚数の差は、1〜2枚の範囲内、または、0.1〜0.5mm厚の範囲内である。換言すると、上述の通り段差部12cにおいて、プリプレグ基材の不連続端10cは、同一箇所で4枚を越えて、または、1mm厚を越えて隣り合って重ならないように積層するのが好ましく、プリプレグ基材2枚を越えて隣り合って重ならないように積層するのがさらに好ましい。4枚を越えて、または、1mm厚を越えて隣り合ってプリプレグ基材の端部が段差部において重なると、繊維強化プラスチックにおいて段差部での応力集中が顕著になり力学特性が低下する場合がある。
【0025】
また、かかる段差部12cにおいて、積層体の表面のそれぞれのプリプレグ基材は、厚肉部12a、段差部12c、薄肉部12bにわたって該表面のそれぞれのプリプレグ基材以外のプリプレグ基材を覆うように配置されて(図3(b)中では上面の切込プリプレグ10b、下面の最下層の切込プリプレグ10aに相当)、積層されているのが好ましい。すなわち、段差部で段差を形成するための積層数を減らしている(増やしている)プリプレグ基材の不連続端10cを、積層体における表面のそれぞれに露出しないように積層するのが好ましい。段差部12cでプリプレグ基材の不連続端10cが露出していると、繊維強化プラスチックにおいて段差部12cに応力集中した際に、引き剥がし(ピール)応力が作用し、段差部からの破壊が加速される場合がある。積層体の表面のそれぞれのプリプレグ基材が、該表面のそれぞれのプリプレグ基材以外のプリプレグ基材を覆うように配置されていれば、かかる引き剥がし応力を最小限に抑制し、引き剥がし応力を受け止めることができる。なお、表面のそれぞれのプリプレグ基材としては、略号同形状のものを用いることが好ましい。
【0026】
また、図3に示した積層体12の切込部37に金属インサートを埋め込み、硬化、一体化させると、アセンブリコストが低減することができる。その際、金属インサートの周囲に複数の凹部設けることにより、流動した繊維が凹部に進入し、容易に隙間を充填することができるとともに、成形温度から低下することで、金属と繊維の熱膨張差でかしめられ、強固に一体化させることができる。
【0027】
(1a)脱気工程
後述(2)の成形工程、または、後述(1b)の予熱工程に先立って、積層体は、例えば伸縮性フィルムなどで覆って密閉した後にその中を減圧することや、真空乾燥機を用いることなどにより、脱気しておくのが好ましい。脱気しておくことにより、積層される際に噛み込んだエア(ボイド)や、マトリックス樹脂が吸湿した水分(水蒸気)などを積層体から除去しておくことができ、後述(2)の成形工程においてより優れた品位・品質の繊維強化プラスチックを得ることができる。脱気に際しては、効率的にエアや水分を除去するために、積層体を予備加熱するのが好ましい。好ましい加熱温度はマトリックス樹脂にも依存するが、一般的に40〜120℃である。装置的な制約を鑑みると60〜90℃がより好ましい。
【0028】
本工程では、積層体を脱気した後に、後述(2)の成形工程、または、後述(1b)の予熱工程まで、例えば、デシケータ内や密閉フィルム(真空パック等)内など減圧環境を維持した状態を保存または保管しておくのがさらに効果的である。特に、積層体を密閉フィルム内で減圧環境を保っておく態様は、積層体の運搬、マトリックス樹脂の性能を維持するための低温保管、作業現場の環境・衛生維持、後述(1b)の予熱工程での予熱など、積層体の取扱性の観点から特に好ましい態様といえる。
【0029】
(1b)予熱工程
後述(2)の成形工程に先立って、積層体を加熱してマトリックス樹脂を軟化させることができる。本発明では、前述の通り伸長できる切込プリプレグ基材を用いるため、本工程においてマトリックス樹脂を予め軟化させ、マトリックス樹脂が流動性を発現するレベルに樹脂粘度をさげておくことにより、後述(2)の成形工程で積層体の切込部を伸長させて容易に成形型に充填させることが可能となるという、連続繊維の中間基材を用いた場合とは異なる、格別な効果を奏することができる。特に、3mmを越える厚肉の繊維強化プラスチックを成形する場合は積層体の熱伝導に時間がかかるため積層体の内外層の差が生じ易く、本工程の後に後述(2)の成形工程を経るのが好ましい。
【0030】
また、繊維強化プラスチックがダブルコンター部を有する形状である場合、本工程において、マトリックス樹脂を予め軟化させて、成形後の繊維強化プラスチックの略形状に積層体に予賦形を行い、後述(2)の成形工程においてダブルコンター部を有する形状に成形することができる。ダブルコンター部を有する形状を成形するにあたり、平板状に積層体を作成した後、成形工程の前に、積極的に切込プリプレグ基材を伸長させることのない、折り曲げなどの簡単な操作で予賦型することで、成形型へ配置する際の位置決めが楽になり、また伸長させる方向を明確にすることで品位・品質の安定した繊維強化プラスチックを得ることができる。この場合、平板状から一気に成形するよりも生産性は若干低下するものの、より一層高品位、高品質の繊維強化プラスチックを得ることができる。
【0031】
好ましい予賦形の形状としては、本工程で、積層体をシングルコンター部を有する簡易形状に予賦形しておくのがよい。ここで、“シングルコンター形状”とは凹凸形状の種類を指し、積層体の表面を二次曲面として取り出してきた際、該二次曲面上の点であって、該点を通る任意の平面を参照した際、該平面と該二次曲面の交線のうち該点を通る交線が直線となる交線が1つだけ存在する点の集合を指し、具体的には円錐形状や円筒形状、それらの一部が該当する。シングルコンター形状であれば、切込プリプレグ基材の伸長を伴わなくてもある程度の形状であれば追従可能である。例えば、弁当箱の蓋のような面板1面と立壁4面とで構成されるダブルコンター形状の繊維強化プラスチックを成形するにあたり、積層体を面板1面と立壁2面とで構成されるシングルコンター形状、すなわちコの字型に予賦型した後に成形型に配置すると、配置する際の位置決めが容易となり、成形時に積層体が伸長する方向を制御することができる。
【0032】
予賦形はできるだけ簡易に行うのが好ましいため、その手段としては、平板状の積層体を予賦形型とシリコンラバーフィルム等とで密閉して、密閉空間を減圧することで予賦形型に押し付けるのが好ましい。
【0033】
なお、前記(1a)の脱気工程において、積層体を密閉フィルム内で減圧環境を保っておいた場合、本工程でも密閉された状態のままで予熱することにより、エアや水分などをさらに効率的に積層体から除去しておくことができる。
【0034】
(2)成形工程
積層体を成形型に押し付けて硬化または固化させ、繊維強化プラスチックとするに際し、成形型に形成されている板厚が異なる段差部に、積層体の段差部が対応するように位置決めして配置し、積層体の厚肉部、薄肉部または段差部の少なくともいずれかを伸長させて、成形型の厚肉部、薄肉部、段差部のそれぞれに充填させる。本発明では、伸長できる切込プリプレグ基材を用いて成形するため、積層体(特に切込部)を伸長させて容易に成形型に充填させることが可能となるが、段差を有する積層体を伸長させる際に、成形型に設けられている段差部、すなわち積層体の段差部に対応する箇所を基準として伸長させて成形することにより、本発明の課題を解決できることを見出したものであり、かかる点が本発明の最大の特徴といえる。段差部を最初に型と接触させてそこを基準とすることで、厚肉部および薄肉部での切込プリプレグ基材の伸長が格段に制御し易くなる。逆にいえば、伸長させるべき積層体の厚肉部または薄肉部を基準として、積層体の段差部での伸長および積層体の段差部の位置を制御するのは極めて困難であり、バラツキなく、所望寸法の繊維強化プラスチックを安定して成形することができない。
【0035】
本工程において、積層体の積層体への位置決めは、成形型もしく積層体固定ジグに予め表示している配置する箇所に、機械的に把持して固定するか、または、マトリックス樹脂の有する粘着性で固定する手段を採ることが好ましい。かかる位置決め手段により、成形型に形成されている板厚が異なる段差部に、積層体の段差部が対応するように確実に位置決めして配置することが可能となる。特に、機械的に把持して固定する場合には、所定の箇所を点状に把持してもよいし、所定の箇所を線状または面状に把持してもよい。成形型の形状にもよるが、位置決めを簡便に行い、配置した後の積層体の伸長を可能な限り妨げないという観点からは、点状に積層体を把持するのが好ましい。また、特に、マトリックス樹脂の有する粘着性で固定する場合には、点状の把持だけでは確実な固定が困難な場合があるため、線状または面状に積層体を成形型に固定するのが好ましい。さらに、前記(1b)の予熱工程を経ると、マトリックス樹脂の粘着性が一層向上して確実に成形型に固定、配置することができる。
【0036】
成形型は、固定型と可動型との少なくとも2つで構成されることが望ましい。また、スライド型や中子やあて板(カウルプレート)など2つ以上の固定型または可動型を組み合わせて成形型として用いてもよい。固定型としては、例えば鉄鋼やアルミ系合金やニッケル系合金などの金属製の金型を用いることもできるし、簡易的に繊維強化プラスチック製のFRP型などを用いることもできる。可動型としては、例えば金属製の金型を用いることもできるし、簡易的に伸縮性フィルムなどを用いることもできる。
【0037】
固定型と可動型との少なくとも2つで構成される成形型を用いて、積層体を固定型に配置し、可動型をこの固定型に押し付けて成形するにあたり、積層体が成形型に最初に接触する部分に少なくとも段差部を配置するのが好ましい。例えば、固定型および可動型として金型を用いるケースでは、成形型の型締前に、固定型に形成されている段差部に、積層体の段差部が対応するように積層体を固定型上に配置し、しかる後に、型締して積層体を成形することができる。積層体の位置決めは、上述の通り、成形型もしく積層体固定ジグに予め表示している配置する箇所に、機械的に把持して固定するか、または、マトリックス樹脂の有する粘着性で固定する手段を採ることができる。
【0038】
また、成形型の型締前には固定型にも可動型にも触れないように積層体を配置する場合(後述の図4の態様)には、成形型を型締していき積層体に可動型が接触する際に、可動型に形成されている段差部に、積層体の段差部が対応するように配置した後に、型締して積層体を成形することができる。特にこの場合の積層体の位置決め手段は、積層体固定ジグに予め表示している配置する箇所に、機械的に把持して固定するのが好ましい。
【0039】
一方、可動型として伸縮性フィルムを用いるケースでは、固定型の上に積層体を配置する場合(後述の図5の態様)には、固定型に形成されている段差部に、積層体の段差部が対応するように積層体を固定型上に配置した後に、キャビティ内を減圧して積層体を成形することができる。また、可動型として伸縮性フィルムに加えてあて板を組み合わせて用いるケースでは、あて板に形成されている段差部に、積層体の段差部が対応するように配置した後に、キャビティ内を減圧して積層体を成形することができる。特にこの場合の積層体の位置決め手段は、マトリックス樹脂の有する粘着性で固定する手段を採ることができ、とりわけ線状または面状に固定するのが好ましい。
【0040】
成形型として固定型および可動型のいずれも熱容量の大きい金属製の金型で構成すると、積層体を素早く金型温度に制御することができ、高効率に大量の繊維強化プラスチックを成形できる。また、成形型の型締により、積層体を硬化または固化させる際に高い圧力を積層体に付与することができ、切込プリプレグ基材を充分に伸長させて繊維強化プラスチックの品位・品質を高めることができる。特に、3mmを越える厚肉の繊維強化プラスチックを成形する場合は積層体の熱伝導に時間がかかるため、固定型および可動型のいずれも金型を用いるのが好ましい。金型を用いる場合の加熱手段としては、成形型自体をカートリッジヒーターや熱媒体の循環により加熱して温度制御するのが好ましい。
【0041】
図4は、本発明の繊維強化プラスチックの製造方法の一例を示す断面図である。
【0042】
図4における成形型28は、可動型28aと固定型28bとから構成されている。また、成形型の型締に伴って移動できる枠状の積層体の位置決め用クランプ(積層体固定ジグ)28dを有している。積層体12を、スプリング27で支えられたクランプ28dに、機械的に点状に把持して固定して、位置決めしている。その後、可動型を下降させて、まず可動型28aの段差部と積層体12の段差部12cとを接触させる。この際、積層体12の薄肉部12bも同時に可動型28aに接触している。可動型28aと最初に接触する積層体12の段差部12cおよび薄肉部12bは可動型28aと固定型28bとにより一旦固定される。しかる後に、固定型28bに積層体12の厚肉部12aが接触し、厚肉部が伸長されて繊維強化プラスチックを得ている。少なくとも段差部から接触させて型締していくことで、伸長の起点を固定して流動を制御することで、均一な切込プリプレグ基材の伸長を実現して、高品位・高品質の繊維強化プラスチックを不良品少なく成形することができる。また、脱型の機構を備えると量産性に優れる。
【0043】
一方、可動型を安価な伸縮性フィルムで構成すると、成形型やその昇降機など大型設備を用いずに固定費を抑制することができ、安価に繊維強化プラスチックを成形できるため、特に少量多品種への対応が容易となる。また、可動型として伸縮性フィルムとあて板(金属製または繊維強化プラスチック製など)とを組み合わせて用いてもよい。この場合、固定型は金型でもよいし、FRP型でもよい。伸縮性フィルムを用いる場合の加熱手段としては、固定型のみを加熱して温度制御してもよいし、固定型および伸縮性フィルムをオーブン(熱風、誘導加熱、高周波加熱など)の中に配置してそれぞれを温度制御してもよいし、両者を組み合わせてもよい。特に3mm以下の薄肉の繊維強化プラスチックを成形する場合は積層体の熱伝導が短時間ですむため前者が好ましく、3mmを越える厚肉の繊維強化プラスチックを成形する場合は積層体の熱伝導に時間がかかるため後者が好ましい。厚肉部が3mmを越え薄肉部が3mm以下である場合は、両者を組み合わせるのが好ましい。
【0044】
図5は、本発明の繊維強化プラスチックの製造方法の一例を示す平面図および断面図である。
【0045】
図5における成形型28は、固定型28cと伸縮性フィルム32とから構成されている。積層体12を固定型28cに形成されている段差部に、積層体12の段差部12cが対応するように接触させて、マトリックス樹脂の有する粘着性で、線状に成形型上に固定して、位置決めしている。この際、積層体12の厚肉部12aおよび薄肉部12bも同時に固定型28cに線状に接触している。しかる後に、固定型28cと可動型として伸縮性フィルム32を脱気口26となるパイプを残してシーラント31などで密封し、真空ポンプなどを用いて密封された空間(キャビティ)30を減圧し、大気圧との差圧により積層体12を固定型28cに面状に押し付けて、厚肉部12a、薄肉部12bおよび段差部12cがそれぞれ伸長されて繊維強化プラスチックを得ている。大きく伸長している部分は、凸形状36を有する両端部(ダブルコンター部25)を形成する厚肉部12aと薄肉部12bとである。
【0046】
さらにオートクレーブなどの圧力容器中にこの成形型を入れ、圧力容器内の圧力と密封された空間30との差圧(0.1〜0.6MPa程度)で積層体12を固定型28cに押し当てることも可能である。成形ごとに伸縮性フィルムを使い捨てにしてもよいが、耐久性のあるシリコンラバーフィルムなどを開閉式の蓋として用いることも可能で、副資材のコスト抑制の面からは好ましい。
【0047】
マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂である場合、前記(1b)の予熱工程における加熱温度が、本工程の成形型の温度よりも低いのが好ましい。すなわち、予熱工程でプリプレグ基材における熱硬化性樹脂のガラス転移温度以上(好ましくは35〜110℃、さらに好ましくは40〜90℃)にIRヒーターやオーブンなどで加熱してマトリックス樹脂を軟化させ、予熱温度よりも高温(好ましくは繊維強化プラスチックにおけるガラス転移温度である120〜200℃)に温度制御された成形型に押し付けて、マトリックス樹脂を硬化させるホットプレス成形により繊維強化プラスチックを得るのが好ましい。熱硬化性樹脂は、後述の熱可塑性樹脂とは異なり、樹脂の硬化反応によりガラス転移温度が向上するため、上述のような温度制御を行い成形すると、成形型の占有時間を短くしながらに本発明の課題を解決することができる。
【0048】
マトリックス樹脂として熱硬化性樹脂を用いた場合の成形条件としては、成形工程における成形型の温度T1と、脱型工程における成形型の温度T2とを実質的に一定とするのがよい。なお、成形型の温度は積層体に触れるキャビティの表面を複数点(可動型、固定型である場合には、少なくとも一点以上どちらの型も測定)、熱電対で測定した温度の平均で代表する。ここで、本発明における金型温度Tが実質的に一定とは、通常金型温度の変動が±10℃の範囲内であることを表す。また、T1、T2ともに経時的に変化しないのがよい。
【0049】
本発明において、繊維強化プラスチックは、金型温度Tが、プリプレグ基材に用いられる熱硬化性樹脂の示差走査熱量測定(DSC)に拠る発熱ピーク温度Tpに対して、
(Tp−60)≦T≦(Tp+20)・・・(I)
の範囲内で製造することが好ましい。さらに好ましくは、
(Tp−30)≦T≦Tp ・・・(II)
の範囲内である。金型温度Tが、Tp−60より低い場合、樹脂の硬化に要する時間が非常に長くなり、また硬化が不十分である場合もある。一方、Tp+20より高い場合、樹脂の急激な反応により樹脂内部でのボイドの生成、硬化不良を引き起こすことがある。なお、本発明におけるDSCに拠る発熱ピーク温度Tpは、JIS K7121(1987)に準じて行われ、温度30〜180℃で、昇温速度10℃/分の条件にて昇温させて得た発熱曲線のピークをとった値である。JIS K7121(1987)に言う試験片は、本発明においてはペーストである。従って、「試験片の状態調節」、「試験片」はそれぞれ「ペーストの状態調節」、「ペースト」ということができる。ペーストの状態調節は、原則として、温度23±2℃及び相対湿度50±5%において6〜8時間静置して行い、熱処理などは一切行わない。また、ペーストはペースト状のまま測定するため、寸法に関する規定はない。
【0050】
マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂である場合、前記(1b)の予熱工程における加熱温度が、本工程の成形型の温度よりも高いのが好ましい。すなわち、予熱工程で熱可塑性樹脂のガラス転移温度もしくは融点付近もしくはそれ以上(熱可塑性樹脂の種類にも依存するが、一般的には180〜350℃)にIRヒーターやオーブンなどで加熱してマトリックス樹脂を軟化させ、室温、もしくは積層体よりも低温(熱可塑性樹脂の種類にも依存するが、一般的には30〜100℃)に温度制御された成形型に押し付けて、マトリックス樹脂を固化させるコールドプレス(スタンピング)成形により繊維強化プラスチックを得るのが好ましい。一般的に、熱可塑性樹脂を用いたコールドプレス成形は、熱硬化性樹脂を用いたホットプレス成形よりも成形サイクルタイムを短くすることができるというメリットがある。
【0051】
(3)脱型工程
前記成形型から前記繊維強化プラスチックを取り出す。マトリックス樹脂に熱硬化性樹脂を用いた場合は硬化が終わった後、もしくは脱型可能な程度硬化した後に、熱可塑性樹脂を用いた場合は固化が終わった後、もしくは脱型可能な程度に固化した後に、成形型から繊維強化プラスチックを取り出す。
【0052】
(4)後加熱工程
必要に応じて、繊維強化プラスチックを前記(2)の成形工程の成形型温度以上の温度に加熱するのが好ましい。マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂の場合は、前記(2)の成形工程でプレスしている時間を脱型できるレベルに最小限に短くして、本工程を経ることにより完全硬化することができる。また、マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂の場合は、コールドプレス(スタンピング)成形すると、前記(2)の成形工程での成形型温度がガラス転移温度や融点より低い温度に制御される。このような場合、例えば、ガラス転移温度を超える温度に後加熱する本工程を経ることにより、繊維強化プラスチックに発生したソリの矯正や、結晶化を進めるアニール処理などをおこなうことができる。
【0053】
本工程では、成形型を用いずに、複数の繊維強化プラスチックを同時に後加熱すると、前記(2)の成形工程で用いる高価な成形型の型占有時間を短くできるため好ましい。もちろん、繊維強化プラスチックの寸法を厳密に制御するために本工程では後加熱工程のための型を用いてもよいが、簡易な固定ジグ等を用いると、本工程を経る目的をより安価に達成できるため好ましい。本工程での加熱手段としては、成形型を用いずに、複数の繊維強化プラスチックを同時に後加熱するのが好ましいため、加熱領域を広くとれるオーブン(熱風、誘導加熱、高周波加熱など)を用いるのが好適である。
【0054】
以上の通り、本発明によれば、繊維強化プラスチックが複雑形状であっても、マトリックス樹脂として熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれを用いても、高品位・高品質の繊維強化プラスチックを容易に製造することが可能である。こうして得られた繊維強化プラスチックは、連続繊維基材のように成形時に繊維が突っ張ることがないため、積層体がしっかり成形型に押し付けられる。また、板厚の異なる段差部を有していても、積層体の段差部を基準として伸長させて成形することにより、充分に型面が転写された高品位・高品質な繊維強化プラスチックを得ることができる。さらに、成形時に伸長できる切込プリプレグ基材を用いているため、最終形状である繊維強化プラスチックよりも小さめに積層体を用意してもよいため、嵩高である積層体が成形型に収まりきれずバリやシワ、型間への繊維噛み込みが発生することが少ない。また、マッチドダイを用いることで、トリムレスの繊維強化プラスチックを得ることができる。繊維強化プラスチックの特徴としては、少なくとも繊維強化プラスチックの一部の領域(特にダブルコンター部)に含まれるすべての強化繊維の繊維長さLcが10〜100mmの範囲内である。
【0055】
より好ましくは、切込プリプレグ基材を構成する強化繊維の全てが切込により分断されており、前記切込により分断されている繊維長さLが10〜100mmの範囲内である。切込プリプレグ基材の全ての繊維長さLを100mm以下とすることで、最終的に製造される繊維強化プラスチックの形状を考慮することなく、切込プリプレグ基材や積層体を製造することができるため、設計、作業効率の面で大きなメリットがある。また、積層時にトラップされた空気が厚み方向に切込を通じて脱気しやすく、ボイドが発生しにくく、高い力学特性が期待できる。なお、本発明において“強化繊維の全てが前記切込により分断され”ているとは、プリプレグ基材に含まれる強化繊維本数のうち95%以上が10〜100mmに分断されていることをいう。
【0056】
好ましい切込プリプレグ基材の切込の形態の一つとして、切込が直線状であり、かつ、切込を強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWsが30μm〜100mmであり、断続的かつ周期的に配置されている切込プリプレグ基材、より好ましい切込プリプレグ基材の形態の一つとしては、前記切込が、さらに全面にわたって配置されている切込プリプレグ基材が挙げられる。切込が連続的ではなく断続的に入っていることで、切込プリプレグ基材が切込によりばらばらになることなく、積層時などの取り扱い性に優れる。また、周期的に切込が配置することで、切込の位置を制御することができ、力学特性を制御することができる。ここで、“切込を強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWs”とは図6に示す通り、切込4を強化繊維3の垂直方向(繊維直交方向2)を投影面として、切込4から該投影面に垂直(繊維長手方向1)に投影した際の長さ9を指す。また、切込が“全面にわたって配置されている”とは、切込プリプレグ基材全面に含まれる強化繊維をすべて10〜100mmの長さに分断する切込を設けることを意味する。
【0057】
切込により生成された強化繊維の不連続端は、繊維強化プラスチックに荷重が加わったときに応力集中が起こり、破壊の起点となる可能性が高い。したがって、切込が小さい方が強度上有利である。Wsは分断する強化繊維の量を示す指標であり、Wsが100mm以下の場合には強度が大きく向上する。しかしながら、Wsが30μmより小さくとなると、切込の制御が難しくなる場合があり、強化繊維の切込部全体に渡ってLが10〜100mmとなるよう、保障することが難しくなることがある。すなわち、切込により分断されていない強化繊維が複雑形状に沿うことを期待されている切込部中に存在すると、繊維が突っ張り流動性は著しく低下することがあるが、長めに切込を入れるとLが10mmを下回る領域が多くなってしまい設計値より低い強度となってしまうことがある、という問題点がある。逆にWsが100mmより大きいときにはほぼ強度が一定に落ち着く。すなわち、強化繊維の不連続端がある一定以上に大きくなると、破壊が始まる荷重がほぼ同等となる。さらに好ましくは、Wsが1.5mm以下であるときに、強度向上が著しい。すなわち、簡易な装置で切込を挿入することができるという観点からは、Wsは1〜100mmであることが好ましく、一方、切込の制御のしやすさと力学特性との関係を鑑みると、Wsは30μm〜1.5mmであることが好ましく、さらに好ましくは50μm〜1mmの範囲内である。
【0058】
図6は、本発明に用いる切込プリプレグ基材の一例を示す拡大平面図である。
【0059】
以下、好ましい切込パターンの一例を、図6を用いて詳細に説明する。強化繊維が一方向に引き揃えられたプリプレグ基材上に制御されて整列した切込4を複数入れる。繊維長手方向1の対になる切込同士で繊維が分断され、その間隔6を10〜100mmとすることで、プリプレグ基材上の強化繊維の繊維長さLを実質的に10〜100mmにすることができる。
【0060】
図6では繊維長さLと切込を強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWsがいずれも一種類である例を示している。第1の断続的な切込からなる列7aと、第3の断続的な切込からなる列7cは繊維長手方向1にL平行移動することで重ねることができ、また、第2の断続的な切込からなる列7bと、第4の断続的な切込からなる列7dは繊維長手方向1にL平行移動することで重ねることができる。また、第1、第2の切込の列と第3、第4の切込の列に互いに切り込まれた繊維があり、繊維長さL以下に切り込まれた幅5が存在することによって、安定的に繊維長さを100mm以下で切込プリプレグ基材を製造できる。
【0061】
図7は、本発明に用いる切込プリプレグ基材の例を示す平面図である。
【0062】
切込のパターンとしては図7(a)〜(f)にいくつか例示したが、上記条件を満たせばどのようなパターンでも構わない。図7において、強化繊維の配列の図示は省略しているが、強化繊維の配列方向は上下方向である。図7(a)、(b)あるいは(c)は、切込が繊維直交方向2に入っている態様、図7の(d)、(e)あるいは(f)は、切込が繊維直交方向2から傾いている様態を示している。対になる切込以外の切込に分断される繊維の中には、前記繊維長さより短い繊維も存在するが、かかる繊維は本発明で規定する繊維長さLを有する繊維には含まない。そして、そのような10mm以下の繊維は少なければ少ないほどよい。
【0063】
図2でも説明したとおり、本発明で用いられる切込プリプレグ基材は、90°方向へのマトリックス樹脂の流動が強化繊維の流動の駆動力であるため、強化繊維が一方向に引き揃えられたプリプレグ基材を2層以上異なる繊維方向に積層すると、繊維長手方向への流動性が発現する。したがって、切込プリプレグ基材に隣接する層は一方向に強化繊維が配向したプリプレグ基材(本発明に係る切込プリプレグ基材を含む)であり、切込プリプレグ基材とは異なる繊維方向に積層されているのがよい。やむを得ず同一繊維方向の切込プリプレグ基材を隣接して積層する際には、切込が重ならないように積層するのがよい。またこれら切込プリプレグ基材の層間に樹脂フィルムなどを積層し、流動性を向上させてもよい。また流動しなくてもよい領域には連続繊維基材を配し、さらにその領域の力学特性を向上させることもできる。
【0064】
層同士で繊維方向が異なると、層ごとの流動方向、距離に違いが生じるが、層間が滑ることで変位差を吸収できる。すなわち、繊維体積含有率Vfが45〜65%と高くても、本発明に用いる積層体は層間に樹脂を偏在させることができる構成のため、高い流動性を発現することができる。例えばSMCの場合は、ランダムに分散したチョップドストランド同士で流動性が異なり、互いに違う方向に流動しようとするが、繊維同士が干渉して流動しにくく、最大でVfが40%程度までしか流動性を確保することができない。すなわち、本発明に用いる積層体は力学特性を向上することができる高Vfの構成であっても高い流動性を発現できる、という特徴を有する。また、本流動性の特長により、得られた繊維強化プラスチックは、複雑形状であっても積層構造を保つことができ、高い弾性率や強度が発現し、強度ばらつきが低減し、さらに衝撃特性も大きく向上する。
【0065】
さらに好ましくは、切込プリプレグ基材が2層以上連続して隣接し、該2層以上の層のうち隣接する任意の2層について、一方の切込プリプレグ基材上の任意の切込の幾何中心と他方の切込プリプレグ基材上のいずれの切込の幾何中心とも5mm以上離れる様に積層するのがよい。隣接する切込プリプレグ基材の切込の幾何中心同士が離れているのは、2つの意味で重要である。一つ目は、成形時に積層体が伸長される際、切込同士がつながっていると、そこから裂け易く、本発明の成形が失敗してしまうことがあるからである。また、成形時に裂けなくても、切込の幾何中心同士が近い領域では繊維含有率が低くなり、肉厚が減ってしまうなどの、品質に影響を与えてしまう可能性がある。二つ目は、繊維強化プラスチックとなった際、切込によって分断された強化繊維束端部は、いわゆる応力集中点のため、破壊の起点となりやすいが、切込同士がつながっていると、容易にクラックがつながりやすく、強度が低くなる場合がある。
【0066】
図8は、本発明に用いる積層体の切込位置関係の例を示す平面図である。
【0067】
図8に示した通り、積層された切込プリプレグ基材の2層の関係において、1層目の切込4aと2層目の切込4bの内、最近接の切込の幾何中心8同士が図8(b)〜(d)のように離れており、好ましくは5mm以上離れていれば、成形時の懸念点も、力学特性の面の懸念点も払拭できるが、図8(a)のように5mmより近づくと、問題が起こってくる場合がある。なお、ここでいう“幾何中心”とは、そのまわりで一次モーメントが0であるような点であり、切込上の点xに対して、幾何中心点gが次のような式が成り立つ。
【0068】
【数1】
【0069】
本発明の切込プリプレグ基材を得るためにプリプレグ基材に切込を入れる方法としては、まず一方向に引き揃えられた連続繊維のプリプレグ基材を作製し、その後カッターを用いての手作業や裁断機により切込を入れる方法、あるいは一方向に引き揃えられた連続繊維のプリプレグ基材製造工程において所定の位置に刃を配置した回転ローラーを連続的に押し当てたり、多層にプリプレグ基材を重ねて所定の位置に刃を配置した型で押し切ったりするなどの方法がある。成形の現場などで簡易にプリプレグ基材の一部に切込を入れる場合には前者が、生産効率を考慮し大量に切込プリプレグ基材を作製する場合、特に全面に切込を入れる場合には後者が適している。回転ローラーを用いる場合には、直接ローラーを削りだして所定の刃を設けてもよいが、マグネットローラーなどに平板を削りだして所定の位置に刃を配置したシート状の型を巻きつけることにより、刃の取りかえが容易で好ましい。このような回転ローラーを用いることで、Wsの小さな(具体的には1mm以下であっても)切込プリプレグ基材でも良好に切込を挿入することができる。切込を入れた後、さらに、切込プリプレグ基材をローラーなどで熱圧着することで、切込部に樹脂が充填、融着することにより、取り扱い性を向上させてもよい。
【0070】
以上のようにして得られた切込プリプレグ基材の一例を用いて本発明により成形して得た繊維強化プラスチックの特徴を、図9を用いて説明する。図9は、本発明に用いる積層体の伸長の様子の一例を示す平面図および断面図である。
【0071】
切込4が繊維3を90°方向に横切っている切込プリプレグ基材10を積層した積層体12の一部を(図9(a)、その積層体12を本発明により成形して得た繊維強化プラスチック16の一部を図9(b)に、それぞれ切込プリプレグ基材10由来の層をクローズアップした平面図と平面図のA−A断面を切り出した断面図を示した。図9(a)の切込プリプレグ基材10は、図7(a)〜(c)のように、繊維に垂直な切込を全面に設けられており、切込4は層の厚み方向に貫いている。繊維長さLを100mm以下とすることで、流動性が確保され、容易に積層体12より面積が伸長した繊維強化プラスチック16を得ることができる(ただし、厚みは減る)。図9(b)のように、伸長した繊維強化プラスチック16を得た際、切込プリプレグ基材10由来の不連続繊維層17は、繊維垂直方向に伸長すると共に、繊維が存在しない領域(切込開口部)18が生成される。これは一般的に強化繊維が成形程度の圧力では伸長しないためであり、図9のケースでは、伸長した長さ分だけ切込開口部18が生成される。この領域18は断面図に示すとおり、隣接層19が侵入してきて、略三角形の樹脂リッチ部20と隣接層19が侵入している領域とで占められる。例えば、繊維強化プラスチックの表層に、全面に切込を入れた切込プリプレグ基材が配されている場合、繊維が流動した領域では積層体切込開口部18が観察される、という特徴がある。さらに好ましくは、繊維強化プラスチックを構成する層すべてが、繊維長さLcが10〜100mmの範囲内であり、幅Wscが30μm〜150mmの短冊状の集合体から構成されることである。本発明において、図9の点線で囲まれた領域35に示したように、2つの対になる強化繊維の不連続端22に囲まれた領域を短冊状と表現する。切込プリプレグ基材の切込を強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWsに対して、成形後の繊維垂直方向の広がり幅である短冊状の幅Wscは、成形により最大50%程度まで伸長されることが予想されるため、Wscは30μm〜150mmの範囲となる。
【0072】
図7(a)〜(c)に示すように切込が繊維に垂直な切込プリプレグ基材以外の、本発明に好適に用いられる切込プリプレグ基材としては、図7(d)〜(f)に示すように、切込が繊維直交方向2から傾いているのがよい。工業的に回転ローラーなどで切込を入れる際、繊維方向に供給されたプリプレグ基材に繊維直交方向2に切込を入れようとすると、繊維を一気に分断する必要があり、大きな力が必要な他、刃の耐久性が低くなり、また繊維が直交方向2に逃げやすく、繊維の切り残りが増える。一方、切込が繊維直交方向2から傾いていることにより、刃の単位長さあたり裁断する繊維量が減少し、小さな力で繊維を裁断でき、刃の耐久性が高く、繊維の切り残り少なくできる。さらに、切込が繊維直交方向2から傾いていることにより、切込長さに対して、切込を強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWsを小さくすることができ、一つ一つの切込により分断される繊維量が減ることにより、強度向上が見込まれる。繊維直交方向2に切込を入れる場合には、Wsを小さくするために、小さな刃を用意するのが好ましいが、小さくし過ぎると耐久性、加工性に問題が生じる可能性がある。
【0073】
さらに別の切込プリプレグ基材の好ましい形態としては、切込が強化繊維となす角度Θの絶対値が2〜15°の範囲内である切込プリプレグ基材が挙げられる。この切込プリプレグ基材の場合は、断続的な切込であって、かつ切込が強化繊維となす角度Θが小さい、図11に示す切込でもよいし、図10に示す連続的な切込でもよい。Θの絶対値が15°より大きくても流動性は得ることができ、従来のSMCなどと比較して高い力学特性は得ることができるが、特にΘの絶対値が15°以下であることで力学特性の向上が著しい。一方、Θの絶対値は2°より小さくても流動性も力学特性も十分得ることが出来るが、切込を安定して入れることが難しくなる。すなわち、繊維に対しする切込の角度が小さくなってくると、切込を入れる際、繊維が刃から逃げやすく、また、繊維長さLを100mm以下とするためには、Θの絶対値が2°より小さいと少なくとも切込同士の最短距離が0.9mmより小さくなるなど、生産安定性に欠ける場合がある。また、このように切込同士の距離が小さいと積層時の取り扱い性が難しくなるという問題が生じることがある。切込の制御のしやすさと力学特性との関係に鑑みると、さらに好ましくは5〜11°の範囲内である。
【0074】
図12は、本発明に用いる切込プリプレグ基材の例を示す平面図である。
【0075】
切込は、図12(c)のように曲線でも構わないが、直線状が流動性をコントロールしやすく好ましい。また、切込により分断される強化繊維の長さLは、図12(b)に示す通り一定でなくてもよいが、図12(a)のように繊維長さLが全面で一定であると流動性をコントロールしやすく、強度ばらつきをさらに押さえることができるため好ましい。なお、ここで規定の直線状とは、幾何学上の直線の一部をなしている状態を意味するが、前記流動性のコントロールを容易とするという効果を損なわない限り、前記幾何学上の直線の一部をなしていない箇所があっても差支えが無く、その結果、繊維長さLが全面で一定とはならない箇所があっても(この場合、繊維長さLが実質的に全面で一定であるといえるので)差し支えがない。
【0076】
好ましい例[1]としては、図10や図12(a)〜(c)のように、切込4cが連続して入れられているのがよい。例[1]のパターンでは、切込4cが断続的でないため、切込端部付近での流動乱れが起きず、切込4cを入れた領域では、すべての繊維長さLを一定とすることができ、流動が安定している。切込をプリプレグ基材の全面に設ける場合、切込4cが連続的に入れられているため、切込プリプレグ基材10がバラバラになってしまうのを防ぐ目的で、切込プリプレグ基材の周辺部に切込がつながっていない領域を設けたり、切込の入っていないシート状の離型紙やフィルムなどの支持体で把持することで取扱性を向上させたりすることができる。また、積層時の取扱性を向上するために、予め切込を連続的に入れた切込プリプレグ基材を切込が重ならないように2枚重ねて、連続的に入れた切込がX字状になるように積層した2層積層体としてもよい。
【0077】
また、他の好ましい例[2]としては、図11に示す通り、強化繊維の垂直方向に投影した長さ9をWsとするとWsが30μm〜100mmの範囲内である断続的な切込4dが切込プリプレグ基材10全面に設けられており、切込4d1と前記切込4d1の繊維長手方向に隣接した切込4d2の幾何形状が同一であるとよい。図11では、LとWsがいずれも一種類である例を示している。いずれの切込4d(例えば4d1)も繊維方向に平行移動することで重なる他の切込4d(例えば4d2)がある。前記繊維方向の対になる切込4d同士により分断される繊維長さLよりさらに短い繊維長さで隣接する切込により分断され繊維が分断される幅5が存在することによって、安定的に繊維長さを100mm以下で切込プリプレグ基材10を製造できる。例[2]のパターンでは、得られた切込プリプレグ基材10を積層する際、切込が断続的なため取り扱い性に優れる。図12(d)、(e)にはその他のパターンも例示したが、上記条件を満たせばどのようなパターンでも構わない。
【0078】
このようにして得られた好ましい例[1]の切込プリプレグ基材を用いて本発明により成形して得られた繊維強化プラスチックの繊維強化プラスチック16の特徴を、図13を用いて説明する。図13は、本発明に用いる積層体の伸長の様子の一例を示す平面図および断面図である。
【0079】
本発明に係る切込プリプレグ基材10を積層した積層体12の一部を図13(a)、その積層体12を本発明により成形して得た繊維強化プラスチックの繊維強化プラスチック16の一部を図13(b)に、それぞれ切込プリプレグ基材10由来の層をクローズアップした平面図と平面図のA−A断面を切り出した断面図を示した。図13(a)に示すとおり、切込プリプレグ基材10は、繊維3との角度が15°以下の切込4cを全面に設けられており、切込4cは層の厚み方向を貫いている。繊維長さLを100mm以下とすることで、流動性が確保され、容易に積層体12より面積が伸長した繊維強化プラスチック16を得ることが出来る。図13(b)のように、伸長した繊維強化プラスチック16を得た際、切込プリプレグ基材10由来の不連続繊維層17は、繊維垂直方向に伸長すると共に、繊維3自体が回転24して伸長領域の面積を稼ぐため、図9のように繊維が存在しない領域(切込開口部)18が実質的に生成せず、切込開口部の層の表面における面積が層の表面積と比較して10%以下である。従って、断面図からも分かるとおり、隣接層19が侵入することもなく、層のうねりや樹脂リッチ部のない高剛性、高強度で品位の高い繊維強化プラスチック16を得ることができる。面内全体にくまなく繊維3が配されているため、面内での剛性差がなく、設計も従来の連続繊維強化プラスチックと同様、簡易に適用できる。この繊維が回転して伸長し、層うねりのない繊維強化プラスチックを得るというさらなる画期的効果は、切込の繊維となす角度Θの絶対値が15°以下であることで初めて得ることができる。また、強度の面では、前述と同様に荷重方向から±10°以下程度に向いている繊維に注目すると、図13(b)のように、繊維束端部22が荷重方向に対して寝てきている様子がわかる。繊維束端部22が層厚み方向に斜めとなっているため、荷重の伝達がスムーズであり、繊維束端部22からの剥離も起こりにくい。従って、図9に比べさらなる強度向上が見込まれる。この繊維束端部22が層厚み方向に斜めとなるのは上述の繊維が回転する際、上面と下面の摩擦により上面から下面で繊維3の回転24になだらかな分布があるためで、そのため、層厚み方向に繊維3の存在分布が発生し、繊維束端部22が層厚み方向に斜めとなったと考えられる。このような繊維強化プラスチック16の層内で層厚み方向に斜めの繊維束端部を形成し、強度を著しく向上するというさらなる画期的効果は、切込4cの繊維3となす角度Θの絶対値が15°以下であることで初めて得ることができる。
【0080】
図14は、本発明に用いる積層体の伸長の様子の一例を示す平面図である。
【0081】
図14には、好ましい例[2]の切込プリプレグ基材10を積層した積層体12の一部を図14(a)、その積層体12を成形した繊維強化プラスチック16の一部を図14(b)に、それぞれ切込プリプレグ基材10由来の層をクローズアップした平面図を示した。図14(a)に示すとおり、切込プリプレグ基材10は、繊維3となす角度Θの絶対値が15°以下の断続的な切込4dが全面に設けられており、切込4dは層の厚み方向を貫いている。切込4dにより繊維長さLを切込プリプレグ基材10の全面で100mm以下とすることで、流動性が確保され、容易に積層体12より面積が伸長した繊維強化プラスチック16とすることができる。切込長さ、切込角度を小さくすることにより、切込を強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWsを1.5mm以下とすることができる。図14(b)のように、伸長した繊維強化プラスチック16を得た際、切込プリプレグ基材10由来の不連続繊維層17は、繊維垂直方向に伸長する際、繊維方向に繊維が伸長しないため、繊維が存在しない領域(切込開口部)18が生成されるが、隣接する不連続繊維群が繊維垂直方向に流動することで、切込開口部18を埋め、切込開口部18の面積が小さくなる。この傾向は特に、切込を強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWsを1.5mm以下とすることで顕著となり、実質的に切込開口部18が生成せず、切込開口部18の層の表面における面積が層の表面積と比較して0.1〜10%の範囲内とすることができる。従って、厚み方向に隣接層が侵入することもなく、層のうねりや樹脂リッチ部のない高剛性、高強度で品位の高い繊維強化プラスチック16を得ることができる。面内全体にくまなく繊維3が配されているため、面内での剛性差がなく、設計も従来の連続繊維強化プラスチックと同様、簡易に適用できる。この切込開口部18を繊維垂直方向の流動により埋め、層うねりのない繊維強化プラスチック16を得るという画期的効果は切込角度Θの絶対値が15°以下であり、かつ切込を強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWsを1.5mm以下とすることで初めて得ることができる。さらに好ましくはWsが1mm以下であることにより、より高剛性、高強度、高品位とすることができ、外板部材としての適用も可能となる。
【0082】
さらに、積層体が切込プリプレグ基材のみから構成されるのが、流動性向上のために好ましい。さらに好ましくは、積層体が切込プリプレグ基材のみから構成され、かつ、その切込プリプレグ基材を構成する強化繊維の全ての繊維長さLが10〜100mmの範囲内であるのがよい。形状に合わせて切込を入れるのは、設計、作業の面で非常に手間がかかりやすいため、品質安定性のためにも、プリプレグ基材の全面に切込を入れ、積層体のどの領域が複雑形状にあたっても沿いやすくしておくことが好ましい。また、全面に切込を入れることで、積層体は平板状であっても、積層体が全体的に伸長し、隅々まで繊維が行き渡った繊維強化プラスチックとなるため、本発明の効果を効率よく発現できる。また、成形型のキャビティより積層体を小さく用意することができ、成形型の固定型と可動型との間に積層体を噛み込むことなく型締が容易となる。
【0083】
本発明のプリプレグ基材に用いられる強化繊維としては、例えば、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサドール(PBO)繊維などの有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、チラノ繊維、玄武岩繊維、セラミックス繊維などの無機繊維、ステンレス繊維やスチール繊維などの金属繊維、その他、ボロン繊維、天然繊維、変性した天然繊維などを繊維として用いた強化繊維などが挙げられる。その中でも特に炭素繊維は、これら強化繊維の中でも軽量であり、しかも比強度および比弾性率において特に優れた性質を有しており、さらに耐熱性や耐薬品性にも優れていることから、軽量化が望まれる自動車パネルなどの部材に好適である。なかでも、高強度の炭素繊維が得られやすいPAN系炭素繊維が好ましい。
【0084】
本発明のプリプレグ基材に用いられるマトリックス樹脂としては、例えば、エポキシ、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、フェノール、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、フェノキシ、ウレタン、ビスマレイミド、シアネートエステルなどの熱硬化性樹脂や、ポリアミド、ポリアセタール、ポリスルフォン、ABS、アクリル、ポリブチレンテレフタレートやポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレンなどフッ素樹脂、シリコーン、などの熱可塑性樹脂が挙げられる。その中でも特に熱硬化性樹脂を用いるのが好ましい。マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂であることにより、切込プリプレグ基材は室温においてタック性を有しているため、該基材を積層した際に上下の該基材と粘着により一体化され、意図したとおりの積層構成を保ったままで成形することができる。
【0085】
さらに好ましくは、熱硬化性樹脂の中でも、エポキシ、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、フェノールなどや、それらの混合樹脂がよい。これらの樹脂の常温(25℃)における樹脂粘度としては、1×106Pa・s以下であることが好ましく、この範囲内であれば本発明に好適なタック性およびドレープ性を有するプリプレグ基材を得ることができる。中でもエポキシは炭素繊維と組み合わせて得られる繊維強化プラスチックとしての力学特性に最も優れている。
【0086】
本発明において、プリプレグ基材に用いられる熱硬化性樹脂は、動的粘弾性測定(DMA)に拠る最低粘度が0.1〜100Pa・sで製造することが好ましい。さらに好ましくは0.1〜10Pa・sである。最低粘度が0.1Pa・sより小さい場合、加圧時に樹脂のみが流動し、突起部の先端まで十分に強化繊維が充填されない場合がある。一方、100Pa・sより大きい場合、樹脂の流動性が乏しいため、突起部の先端まで十分に強化繊維および樹脂が充填されない場合がある。なお、本発明におけるDMAに拠る最低粘度は、回転粘度計を使用して、半径20mmの平行平板を用い、平行平板間の距離1mm、測定開始温度40℃、昇温速度1.5℃/分、測定周波数0.5Hzの条件にて測定し、観測された最低粘度の値である。
【0087】
また、本発明の切込プリプレグ基材は、テープ状支持体に密着されていてもよい。切込が挿入された基材は、全ての繊維が切込により切断されてもその形態を保持することが可能となり、賦形時に繊維が脱落してバラバラになってしまうという問題はない。マトリックス樹脂がタック性を有する熱硬化性樹脂であるとさらに好ましい。ここで、テープ状支持体とは、クラフト紙などの紙類やポリエチレン・ポリプロピレンなどのポリマーフィルム類、アルミなどの金属箔類などが挙げられ、さらに樹脂との離型性を得るために、シリコーン系や“テフロン(登録商標)”系の離型剤や金属蒸着などを表面に付与しても構わない。
【0088】
本発明により製造された繊維強化プラスチックは、強度、剛性、軽量性が要求される用途に好適に用いられ、フレーム、サドル、ポール、フォーク、クランク、アーム、ハンドルなどの自転車用品、ゴルフシャフトやヘッド、ラケット、などのスポーツ部材、ドア等の外板、インナーパネル等の補強材、シートフレーム・パネル、メンバー、ビーム、などの自動車部材、ダブラー、窓枠、リブ、ストリンガー、スパー、フレーム、ビーム、スキンなどの航空機部材、ロボットアーム・フォークなどの産業部材がある。中でも、強度、軽量に加え、部材形状が複雑で、本材料のように形状追従性が要求される航空機部材、または、自動車部材に好ましく適用できる。
【実施例】
【0089】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
【0090】
(実施例1)
<プリプレグ基材の作製>
以下に示す手順にてエポキシ樹脂組成物を得て、リバースロールコーターを使用し離型紙上に塗布し、樹脂フィルムを作製した。
【0091】
(a)エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製“エピコート(登録商標)”828:30重量部、エピコート1001:35重量部、エピコート154:35重量部)と、熱可塑性樹脂ポリビニルホルマール(チッソ(株)製“ビニレック(登録商標)”K)5重量部とを、150〜190℃に加熱しながら1〜3時間攪拌し、ポリビニルホルマールを均一に溶解した。
【0092】
(b)樹脂温度を55〜65℃まで降温した後、硬化剤ジシアンジアミド(ジャパンエポキシレジン(株)製DICY7)3.5重量部と、硬化促進剤3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア(保土谷化学工業(株)製DCMU99)4重量部とを加え、該温度で30〜40分間混練後、ニーダー中から取り出してエポキシ樹脂組成物を得た。得られたエポキシ樹脂組成物のDSCに拠る発熱ピーク温度Tpは152℃であった。測定装置としては、ティー・エイ・インスツルメンツ社製“DSC2910”を用いて、昇温速度10℃/分の条件にて測定した。また、DMAに拠る最低粘度は0.5Pa・sであった。測定装置としては、ティー・エイ・インスツルメンツ社製動的粘弾性測定装置“ARES”を用いて、昇温速度1.5℃/分、周波数0.5Hz、パラレルプレート(半径20mm)の条件にて、温度と粘度の関係曲線から最低粘度を求めた。
【0093】
次に、シート状に一方向に整列させた炭素繊維(引張強度4,900MPa、引張弾性率235GPa)に樹脂フィルム2枚を炭素繊維の両面から重ね、加熱し、加圧して樹脂組成物を含浸させ、炭素繊維目付150g/m2、樹脂重量分率33%(繊維体積含有率Vf58%相当)の一方向プリプレグ基材を作製した。
【0094】
<切込プリプレグ基材の作製>
上記プリプレグ基材に、自動裁断機を用いて図15に示すような切り込みを全面に挿入することにより、等間隔で規則的な切り込みを有する切込プリプレグ基材を得た。切り込みの方向は繊維直交方向2で、切り込みの長さWは10.1mm(すなわち、Ws=10.1mm)であり、間隔L(繊維長さ)は30mmである。図15に示すように、隣り合う切り込みの列7aと7bは繊維直交方向に10mm移動すると、幾何的に同等である。また、繊維長手方向に対になる切り込みの列には、7aと7c、7bと7dの組があり、切り込みの列のパターンは2パターン存在する。さらに、隣り合う列の切り込みが互いに切り込んでいる5の範囲は0.1mmである。切込の方向は繊維直交方向2で、切込の長さWは10.1mm(すなわち、Ws=10.1mm)であり、間隔L(繊維長さ)は30mmである。図15に示すように、隣り合う切込の列7aと7bは繊維直交方向に10mm移動すると、幾何的に同等である。また、繊維長手方向に対になる切込の列には、7aと7c、7bと7dの組があり、切込の列のパターンは2パターン存在する。さらに、隣り合う列の切込が互いに切り込んでいる5の範囲は0.1mmである。
【0095】
<繊維強化プラスチックの成形>
図16に示すような、300×200mmの投影面積を有する、立ち壁の高20mmの弁当箱の蓋形状に段差部12cが設けられた繊維強化プラスチック16を成形した。
【0096】
(1)積層工程
まず、薄肉部12bとして、矩形の長手方向を0°として、炭素繊維の配向方向(0°方向)と、炭素繊維の配向方向から右に45度ずらした方向(45°方向)と、炭素繊維の配向直交方向(90°方向)とに切込プリプレグ基材を矩形(長270mm×幅180mm)に切り出し、[45/0/−45/90/90/−45/0/45]の積層構成で8枚積層した。
【0097】
次いで、段差部12cとして、同様に切込プリプレグ基材を矩形(長140mm×幅180mm)に切り出して[45/0]の積層構成で2枚積層し、切込プリプレグ基材を矩形(長135mm×幅180mm)に切り出して[−45/90]の積層構成で2枚積層し、切込プリプレグ基材を矩形(長130mm×幅180mm)に切り出して[90/−45]の積層構成で2枚積層し、切込プリプレグ基材を矩形(長125mm×幅180mm)に切り出して[0]の積層構成で1枚、それぞれを薄肉部12bの一方の片端部を基準に積層した。
【0098】
最後に、厚肉部12aとして、切込プリプレグ基材を矩形(長120mm×幅180mm)に切り出し、[45]の積層構成で、薄肉部12bの片端部を基準に1枚積層した。
【0099】
すなわち、厚肉部12aの積層枚数(16枚、長125mm×幅180mm)と、薄肉部12bの積層数(8枚、長130mm×幅180mm)と、その間に段差部(長15mm×幅180mm)がテーパー状に積層数が1〜2枚ずつ減じられ、積層体の両表面(長270mm×幅180mm)が[45]の同一の切込プリプレグ基材で覆われている。
【0100】
(2)成形工程
成形型は、可動型、固定型からなり、両型を合わせた際のキャビティは最終成形品の外形状と同じで、成形型には段差部が設けられている。成形型はプレス機に設置され、可動型が昇降する。成形工程における成形型の温度T1が、プリプレグ基材に用いたエポキシ樹脂組成物のDSCに拠る発熱ピーク温度Tpとほぼ同となるよう150℃に温度制御した。固定型の上に積層体を、成形型の段差部に、積層体の段差部が対応するように位置決めして配置し、成形型に予め表示している配置する箇所にマトリックス樹脂の有する粘着性で積層体を固定して型締した。このときのプレス圧は、300×200mmの面積で割り返した圧力を6MPaに調節した。積層体がキャビティより小さめに用意されているため、金型への配置に時間がかからないというメリットがあった。金型内で30分間加熱、加圧した。
【0101】
(3)脱型工程
加熱、加圧した後、成形型の温度T2をT1から低下させることなく150℃のまま成形型を型開し、繊維強化プラスチック16を取り出した。
【0102】
積層体はキャビティよりも小さかったものの隅々まで炭素繊維が流動し、成形型の外形上に沿った段差部を有する維強化プラスチックを得ることができた。段差部だけでなく、厚肉部および薄肉部ともに切込プリプレグ基材が伸長し、切込により分断された繊維束端部間に存在する切込開口部と、繊維長さLcが30mm、幅Wsが11〜15mm程度の分布を持つ短冊状の繊維束が全体的に分布していた。特にこのような段差部を有する弁当箱の蓋形状では、連続繊維基材を用いた成形では繊維が必ず突っ張るため、賦形工程として成形前にあらかじめ成形型に沿わした積層体の予賦形が必須であり、また仮に予賦形したとしてもシワや繊維の突っ張りによる表面品位悪化をなくすことは極めて困難である。本発明のように、平板状に積層した積層体から簡便に高品位な繊維強化プラスチックを得られる点が本発明の特徴であり、さらに本実施例では、トリムレスで繊維強化プラスチックが得られたため、その工数削減の効果は極めて大きい。
【0103】
(実施例2)
共重合ポリアミド樹脂(東レ(株)製“アミラン”(登録商標)CM4000、融点155℃)のペレットを、200℃で加熱した平板プレス機で34μm厚みのフィルム状に加工した。ポリアミド樹脂の25℃雰囲気下における粘度は固体であるため測定不可能であり、該基材はタック性がなかった。離型紙を用いなかった他は実施例1と同様にして、プリプレグ基材を作製し、実施例1と同様にプリプレグ基材へ切込を導入し、切込プリプレグ基材を得た。
【0104】
(1)積層工程
実施例1と同様にして積層体を得た。但し、プリプレグ基材にタックがないため、積層工程において、アイロンを用いて切込プリプレグ基材同士を仮固定して積層体を一体化した。
【0105】
(1b)予熱工程
実施例1に加えて、積層体をオーブンにて200℃に加熱し、マトリックス樹脂を予め軟化させた。
【0106】
(2)成形工程
実施例1と同様な両面型を70℃に温度制御しておき、表面温度が160℃に達した時点で予熱工程を終えてオーブンから取り出し、固定型の上に積層体を、成形型の段差部に、積層体の段差部が対応するように位置決めして配置し、前記(1b)の予熱工程にてマトリックス樹脂を軟化させておいたため高温状態で粘着性を有しており、その粘着性で積層体を成形型に予め表示している配置する箇所に固定して直ちに型締した。このときのプレス圧は、300×200mmの面積で割り返した圧力を6MPaに調節した。積層体がキャビティより小さめに作成されているため、簡単に配置でき、積層体の温度が下がりきる前にコールドプレスすることができた。
【0107】
(3)脱型工程
金型内で90秒間冷却、加圧した後、脱型した。コールドプレスであるので、脱型は非常に容易に行えた。
【0108】
積層体はキャビティよりも小さかったものの隅々まで炭素繊維が流動し、成形型の外形上に沿った段差部を有する維強化プラスチックを得ることができた。段差部だけでなく、厚肉部および薄肉部ともに切込プリプレグ基材が伸長し、切込により分断された繊維束端部間に存在する切込開口部と、繊維長さLcが30mm、幅Wsが11〜15mm程度の分布を持つ短冊状の繊維束が全体的に分布していた。若干、層間にボイドがみられたため、実施例1よりは力学特性に高くはない可能性はあるものの、本発明を用いて極めてサイクルタイムの短いコールドプレス成形を行うことができた。
【0109】
(実施例3)
実施例1と同様にして、プリプレグ基材を作製した。このプリプレグ基材に、自動裁断機を用いて図10に示すような繊維から10°方向の直線的な切込を連続的に挿入して、切込プリプレグ基材を得た。
【0110】
(1)積層工程
切込プリプレグ基材を繊維方向が同一で切込が交差するように(10°方向と−10°方向に)2枚表裏に重ねて積層し、連続的な切込によりプリプレグ基材がバラバラになるのを防いだ。
【0111】
薄肉部12bとして、この2層積層体を4セット、炭素繊維の配向方向(0°方向)と、炭素繊維の配向直交方向(90°方向)とに矩形(長270mm×幅180mm)に切り出し、[0/0/90/90/0/0/90/90]の積層構成で8枚積層した。
【0112】
次いで、厚肉部12aとして、2層積層体を4セット、矩形(長125mm×幅180mm)に切り出し、[90/90/0/0/90/90/0/0]の積層構成で、薄肉部12bの一方の片端部を基準に8枚積層した。
【0113】
すなわち、厚肉部12aの積層枚数(16枚、長125mm×幅180mm)と、薄肉部12bの積層数(8枚、長145mm×幅180mm)と、段差部(長0mm×幅180mm)が一気に積層数が4枚減じられ、積層体の片表面(長270mm×幅180mm)のみが[0]の同一の切込プリプレグ基材で覆われている。
【0114】
(1a)脱気工程
実施例1に加えて、積層した積層体を伸縮性のフィルムで覆って密閉した後にその中を減圧して脱気し、積層される際に噛み込んだエアや、マトリックス樹脂が吸湿した水分などを積層体から除去した。
【0115】
(1b)予熱工程
実施例1に加えて、積層体をオーブンにて70℃に加熱し、マトリックス樹脂を予め軟化させた。
【0116】
それ以外は、実施例1と同様にして成形を行い、繊維強化プラスチックを得た。
【0117】
得られた繊維強化プラスチックは、実施例1と同様に、キャビティ通りの形状に成形されていた。繊維強化プラスチック表面のプリプレグ基材の切込においても、ほとんど切込開口部が見られず、強化繊維が存在せずに樹脂リッチとなっている領域や、隣接層の強化繊維が覗いている領域はほとんどなく、良好な外観品位と平滑性が得られた。繊維方向は積層体を配置したときから回転しており、その回転により切込開口部を埋め、平滑な繊維強化プラスチックとなっており、特にこの効果は(1b)予熱工程により一段と顕著に発現したと推測された。また、層間には全くボイドがみられず、(1a)脱気工程によりボイドの抑制効果の確実性が増したと考えられる。
【0118】
(実施例4)
実施例1と同様にして、プリプレグ基材を作成した。このプリプレグ基材に、自動裁断機を用いて図11に示すような繊維から11°方向に、1mmの直線状の切込を断続的に挿入することで、切込を強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWsを0.34mmとした。対になる切込4d1、4d2により、繊維は分断され、得られた切込プリプレグ基材の全面で繊維長さLは30mmとなった。
【0119】
こうして得られた切込プリプレグ基材を用いた以外は、実施例1と同様に積層工程、成形工程、脱型工程を経て繊維強化プラスチックを得た。
【0120】
得られた繊維強化プラスチックは、図14(b)のように、繊維3が若干うねりながら、切込開口部18を埋め、表面にほとんど切込開口部18が見られず、切込が判別つかないレベルに良好な外観品位と平滑性を有する繊維強化プラスチックを得ることができた。
【0121】
(実施例5)
図4に示すような成形型を用いて、図1(c)のような500×500mmの正方形の平板上にダブルコンター部(直径350mmの円を境界線として、R800mmの球が頭を出した形状)および段差部が中央に設けられた繊維強化プラスチックを成形した。
【0122】
(1)積層工程
実施例1と同様にして、プリプレグ基材を作製し、まず0°、45°および90°の方向に長500×幅500mmの正方形に切り出した。正方形の中央部に直径360mmの範囲内に実施例1と同様の切込を入れ、繊維長が実質的に25mmの強化繊維のみで構成される領域を形成した。さらに、その切込を入れたプリプレグを半分の大きさ(長250mm×幅500mm)に裁断したものも用意した。
【0123】
薄肉部12bとして、部分的に切込を入れたプリプレグ基材を長500×幅500mmの正方形で[45/0/−45/90]1Sの積層構成で8枚積層した。
【0124】
次いで、厚肉部12aとして、半分に裁断した部分的に切込を入れたプリプレグ基材を長250mm×幅500mmの長方形に[45/0/−45/90]1Sの積層構成で、薄肉部12bの一方の片端部を基準に8枚積層した。
【0125】
すなわち、厚肉部12aの積層枚数(16枚、長250mm×幅500mm)と、薄肉部12bの積層数(8枚、長250mm×幅500mm)と、段差部(長0mm×幅500mm)が一気に積層数が4枚減じられ、積層体の片表面(長500mm×幅500mm)のみが[45]の同一の部分的に切込まれたプリプレグ基材で覆われている。また、25mmの強化繊維のみで構成される領域は各層すべて重なっており、図1a)のように積層体の中央部直径360mmの範囲内に不連続部37を形成した。
【0126】
(1b)予熱工程
得られた積層体をオーブンにて70℃に加熱し、マトリックス樹脂を予め軟化させ、温度変化が最小限になるように直ちに後述の位置決め用クランプにセットした。
【0127】
(2)成形工程
図4の成形型は、可動型28a、固定型28bとともに、スプリング27で支持された枠状の積層体の位置決め用クランプ(積層体固定ジグ)28dから形成されている。固定型28bはダブルコンター部25のみの形状を決定する型であり、クランプ28dは固定型28bが可動型28aにアクセスできるように平板を円形にくり抜いた枠状であり、平板部の形状を決定する型である。クランプ28dはスプリングで支えられ、型が開いている時は、固定型28bより上方、可動型28aより下方にある。成形型全体を実施例1と同様に150℃で温度制御し、積層体12をクランプ28d上に機械的に点状に把持して固定して、予め表示されている箇所に位置決めした。次に可動型28aを下降させ、段差部12cはこの段階で固定され、積層体12の伸長の起点となった。さらに可動型28aを押し込むことで、固定型28bと可動型28aとによりダブルコンター部25の形状が決定され、成形型のキャビティが閉じられた。このときのプレス圧は、500×500mmの面積で割り返した圧力が6MPaとなるよう、調節した。実施例1と同様に、金型内で30分間加熱、加圧した。
【0128】
その他は、実施例1と同様にして繊維強化プラスチックを得た。
【0129】
得られた強化繊維プラスチックは、成形型の外形上に沿ったダブルコンター部を有するものであった。実施例1と同様に表面品位はよく、ダブルコンター部のみが伸長され、切込により分断された繊維束端部間に存在する切込開口部と、繊維長さLcが30mm、幅Wsが11〜15mm程度の分布を持つ短冊状の繊維束がダブルコンター部に集中して分布していた。また、積層体12の周辺部はほとんど流動しておらず、キャビティ通り成形されていた。(1b)予熱工程により、より一層ダブルコンター部のような複雑形状にも容易に追従することができた。
【0130】
(実施例6)
図5に示すような成形型を用いて、楕円形の弁当箱の蓋形状の繊維強化プラスチックを成形した。
【0131】
(1)積層工程
積層体12を、実施例4と同様にして作製した。
【0132】
(2)成形工程
成形型としては、図5に示した最終形状をかたどった凸部(ダブルコンター部25)と、その周りに溝33を設けた片面型28cを用意した。固定型28cの周囲にはシーラント31を配し、また、真空ポンプと連結したチューブをシーラント31上に配置し脱気口26とし、150℃に温度制御されたオーブン内で加熱した。固定型28cが150℃一定となったところで、凸部の表面積よりも小さな積層体12を固定型の段差部に、積層体の段差部が対応するように位置決めして配置し、成形型に予め表示している配置する箇所にマトリックス樹脂の有する粘着性で積層体を固定して、可動型である伸縮性のシリコンラバーフィルム32を被せてシーラント31で密着させ、フィルム32と型28c間に密閉空間30を形成した。と同時に、真空ポンプを起動させ、真空引き38を行い、脱気口26から排気して、外気と密閉空間30との差圧(約0.1MPa)で軟化した積層体12を伸長させ型28cに押し付けて、ホットドレープ成形した。溝33の存在により、フィルム32がしっかり凸部の根元まで形状に沿い、凸部の根元までしっかり圧力が加わった。30分間オーブン内に放置した後、オーブンから成形装置全体を取り出し、フィルム32を破って、繊維強化プラスチックを型28cから脱型した。
【0133】
積層体12は得られた繊維強化プラスチックよりも小さな平板状であったものの、設計どおり楕円形の弁当箱の蓋のような形状の繊維強化プラスチックを得ることができた。実施例1、2と比べると成形の圧力が小さいため、大きくは伸長していないものの、ダブルコンター部の形状はきれいに転写されており、表面品位のよい繊維強化プラスチックを得ることができた。
【0134】
(実施例7)
実施例1と同様のプリプレグ基材を用いて、実施例4と同様の図11に示すような繊維から20°の方向に、1mmの直線状の切込(Wsは0.34mm)を入れ、全面で繊維長さLが30mmとなる切込プリプレグ基材を作成した。実施例1に以下の工程を追加して、実施例1と同様の繊維強化プラスチックを得た。
【0135】
(1a)脱気工程
積層した積層体を伸縮性のフィルムで覆って密閉した後にその中を減圧して脱気し、積層される際に噛み込んだエアや、マトリックス樹脂が吸湿した水分などを積層体から除去した。この工程を、後述(1b)の予熱工程での予熱温度70℃のオーブン中で行った。
【0136】
(1b)予熱工程
積層体をオーブンにて70℃に加熱し、マトリックス樹脂を予め軟化させ、図17(a)のように、積層体をR部で折り返してコの字型とし、シングルコンター形状の簡易形状に予賦形した。
【0137】
それ以外は、実施例1と同様にして成形を行い、繊維強化プラスチックを得た。
【0138】
得られた繊維強化プラスチック16は、図17(b)に示すように2つの立ち面も含め良好に繊維が充填していた。予賦形により2つの立ち面を形成していたため、積層体12の伸長方向が制御され、さらに安定した品質の繊維強化プラスチック16が得られた。また、成形時に充填した立ち面と平面の角におけるR部断面40を観察したところ、成形時に充填されたにもかかわらず、平面と変わらない積層構造(若干のうねりを含む)が形成されていた。また、層間には全くボイドがみられず、(1a)脱気工程(加えて(1b)予熱工程)によりボイドの抑制効果の確実性が増したと考えられる。
【0139】
(参考例1)
実施例1の繊維強化プラスチックが優れた力学特性を発現することを、繊維強化プラスチックの平板で実証した。実施例1と同様にして、プリプレグ基材を作製し、切込を導入して切込プリプレグ基材を作製した。炭素繊維の配向方向(0°方向)と、炭素繊維の配向方向から右に45度ずらした方向(45°方向)に、それぞれ250×250mmの大きさのサイズに切出した。切り出したプリプレグ基材を16層で疑似等方に積層して([45/0/−45/90]2S)、積層体を得た。
【0140】
さらに、上記の積層体を用いて、300×300mmのキャビティを有する平板金型上の概中央部に配置した後、加熱型プレス成形機により、6MPaの加圧のもと、150℃×30分間の条件により硬化せしめ、300×300mmの平板状の繊維強化プラスチックを得た。
【0141】
得られた平板状の繊維強化プラスチックより、長さ250±1mm、幅25±0.2mmの引張強度試験片を切り出した。JIS K−7073(1998)に規定する試験方法に従い、標点間距離を150mmとし、クロスヘッド速度2.0mm/分で引張強度を測定した。なお、本参考例においては、試験機としてインストロン(登録商標)万能試験機4208型を用いた。測定した試験片の数はn=5とし、平均値を引張強度とした。さらに、測定値より標準偏差を算出し、その標準偏差を平均値で除することにより、バラツキの指標である変動係数(CV値)を算出した。引張弾性率は43GPa、引張強度に関しても370MPaと高い値が発現し、そのCV値も3%ときわめてバラツキの小さい結果となった。
【0142】
繊維強化プラスチックは端部まで繊維が均等に流動しており、実施例1と同様に繊維長さLcが30mm、幅Wsが11〜15mm程度の分布を持つ短冊状の繊維束が表面全体にほぼ均等に分布していたことから、実施例1で得られた繊維強化プラスチックも優れた力学特性を発現することが予想された。
【0143】
(参考例2)
実施例3の繊維強化プラスチックが高力学特性であることを、繊維強化プラスチックの平板で実証した。実施例3と同様にして、2層積層体を得た。この2層積層体から、炭素繊維の配向方向(0°方向)と、炭素繊維の配向方向から右に45度ずらした方向(45°方向)に、それぞれ250×250mmの大きさに切り出し、2層積層体を8枚それぞれの方向に疑似等方([45/45/0/0/−45/−45/90/90]S)に積層して、全面に切込を有する250×250mmの積層体を得た。
【0144】
こうして得られた積層体を参考例1と同様にしてホットプレス成形し、平板の繊維強化プラスチックを得た。得られた繊維強化プラスチックを参考例1と同様に引張試験した。引張弾性率は46GPa、引張強度に関しても470MPaと高い値が発現し、そのCV値も4%ときわめてバラツキの小さい結果となった。
【0145】
繊維強化プラスチックは端部まで繊維が均等に流動しており、表面にほとんど切込開口部が見られず、繊維方向も積層体を配置したときから回転している様子も実施例3と同様であるため、実施例3で得られた繊維強化プラスチックも優れた力学特性を発現することが予想された。
【0146】
(参考例3)
実施例4の繊維強化プラスチックが高力学特性であることを、平板で実証した。実施例4と同様にして、切込プリプレグ基材を得、参考例1と同様にして切り出し、積層、ホットプレス成形した。得られた繊維強化プラスチックを参考例1と同様に引張試験したところ、引張弾性率は46GPa、引張強度は620MPaと高い値が発現し、そのCV値も4%ときわめてバラツキの小さい結果となった。繊維強化プラスチックは端部まで繊維が均等に流動しており、繊維が若干うねりながら、切込開口部を埋め、表面にほとんど切込開口部が見られず、切込があったことさえ、見分けがつかない様子も実施例4と同様であるため、実施例4で得られた繊維強化プラスチックも優れた力学特性を発現することが予想された。
【0147】
(比較例1)
実施例1と同じ、図16に示す段差部が設けられた繊維強化プラスチックを連続繊維プリプレグ基材で成形した。実施例1と同様にして、プリプレグ基材を作製した。プリプレグ基材に切込を入れずに、実施例1と同様に積層して積層体を得、成形を行った。
【0148】
得られた繊維強化プラスチックは、特に立ち壁での段差部の表面はざらざらで、繊維強化プラスチックが成形型に完全に密着できていなかった。この原因は、連続の炭素繊維が突っ張り、積層体が伸長することができず、成形型に沿わなかったことが原因と推測された。
【0149】
(比較例2)
実施例1と同じ、図16に示す段差部が設けられた繊維強化プラスチックをSMC基材で成形した。用いたSMCとしては、次のものを用いた。マトリックス樹脂としてビニルエステル樹脂(ダウ・ケミカル(株)製、デラケン790)を100重量部、硬化剤としてtert−ブチルパーオキシベンゾエート(日本油脂(株)製、パーブチルZ)を1重量部、内部離型剤としてステアリン酸亜鉛(堺化学工業(株)製、SZ−2000)を2重量部、増粘剤として酸化マグネシウム(協和化学工業(株)製、MgO#40)を4重量部用いて、それらを十分に混合撹拌し、樹脂ペーストを得た。樹脂ペーストをドクターブレードにて、ポリプロピレン製の離型フィルム上に塗布した。その上から、長さ25mmにカットされた炭素繊維束(引張強度4,900MPa、引張弾性率235GPa、12,000本)を単位面積あたりの重量が500g/m2になるよう均一に落下、散布した。さらに、樹脂ペーストを塗布したもう一方のポリプロピレンフィルムとで樹脂ペースト側を内にして挟んだ。炭素繊維のSMCシートに対する体積含有量Vfは40%とした。得られたシートを40℃にて24時間静置することにより、樹脂ペーストを十分に増粘化させて、SMCシートを得た。このSMCシートを270×180mmの矩形に切り出し、3枚積層し、積層体を得た。その後は実施例1と同様に成形し、繊維強化プラスチックを得た。
【0150】
得られた繊維強化プラスチックはキャビティの端部まで繊維が十分に流動していた。ソリはなかったが、表面に繊維の粗密による若干のヒケが見られた。また、Vfが40%であることから、強度も実施例1ほどは得られないと推測された。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】本発明の繊維強化プラスチックの製造方法の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明に用いる積層体の流動のメカニズムの一例を示す断面図である。
【図3】本発明に用いる積層体の一例を示す平面図および断面図である。
【図4】本発明の繊維強化プラスチックの製造方法の一例を示す断面図である。
【図5】本発明の繊維強化プラスチックの製造方法の一例を示す平面図および断面図である。
【図6】本発明に用いる切込プリプレグ基材の一例を示す拡大平面図である。
【図7】本発明に用いる切込プリプレグ基材の例を示す平面図である。
【図8】本発明に用いる積層体の切込位置関係の例を示す平面図である。
【図9】本発明に用いる積層体の伸長の様子の一例を示す平面図および断面図である。
【図10】本発明に用いる切込プリプレグ基材の一例を示す拡大平面図である。
【図11】本発明に用いる切込プリプレグ基材の一例を示す拡大平面図である。
【図12】本発明に用いる切込プリプレグ基材の例を示す平面図である。
【図13】本発明に用いる積層体の伸長の様子の一例を示す平面図および断面図である。
【図14】本発明に用いる積層体の伸長の様子の一例を示す平面図である。
【図15】本発明に用いる切込プリプレグ基材の一例を示す拡大平面図である。
【図16】本発明により製造された繊維強化プラスチックの一例を示す概略図である。
【図17】本発明の繊維強化プラスチックの製造方法の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0152】
1:繊維長手方向
2:繊維直交方向
3:強化繊維
4:強化繊維の不連続端(切込)
4a:a層の切込
4b:b層の切込
4c:連続的な切込
4d(4d1,4d2):断続的な切込
5:互いに切り込んでいる幅
6:繊維方向に対になる切込の幾何中心同士の間隔L(繊維長さL)
7:断続的な切込の列
7a:第1の断続的な切込の列
7b:第2の断続的な切込の列
7c:第3の断続的な切込の列
7d:第4の断続的な切込の列
8:切込の幾何中心
8a:a層の切込の幾何中心
8b:b層の切込の幾何中心
9:切込を強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWs
10:切込プリプレグ基材
10a:全面に切込が入れられた切込プリプレグ基材
10b:一部に切込が入れられた切込プリプレグ基材
10c:プリプレグの不連続端
11:連続繊維のプリプレグ基材
12:積層体
12a:厚肉部
12b:薄肉部
12c:段差部
13:積層体に加わる圧力
14:樹脂の流れ
15:強化繊維の不連続端の開き
16:繊維強化プラスチック
17:不連続繊維層
18:強化繊維の存在しない領域(切込開口部)
19:隣接層
20:樹脂リッチ部
21:層うねり
22:強化繊維の不連続端
23:切込と繊維方向のなす角度Θ
24:強化繊維の回転
25:ダブルコンター部
26:脱気口
27:スプリング
28:成形型
28a:可動型
28b、28c:固定型
28d:積層体の位置決め用クランプ
29、30:キャビティ
31:シーラント
32:伸縮性フィルム
33:溝
34:切込プリプレグ基材を2層積層した基材
35:2つの対になる繊維束分断部に囲まれた領域(短冊状の繊維束)
36:凸形状
37:繊維が10〜100mmの長さに分断された切込プリプレグ基材のみが積層されてなる切込部
38:減圧
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な流動性、成形追従性を有する基材を用いて、繊維強化プラスチックとした場合、優れた力学特性、その低バラツキ性、優れた寸法安定性を安定して発現する、高品位・高品質な繊維強化プラスチックの製造方法に関する。かかる繊維強化プラスチックは、例えば自動車や航空機などの輸送機器、自転車などのスポーツ用具などの構造部材に特に好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
強化繊維とマトリックス樹脂とからなる繊維強化プラスチックは、比強度、比弾性率が高く、力学特性に優れること、耐薬品性などの高機能特性を有することなどから、その需要は年々高まりつつある。
【0003】
繊維強化プラスチックの成形方法としては、プリプレグ基材と称される連続した強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸せしめた半硬化状態の中間基材を積層し、高温高圧釜で加熱加圧することにより熱硬化性樹脂を硬化させ繊維強化プラスチックを成形するオートクレーブ成形が最も一般的に行われている。得られた繊維強化プラスチックは、連続繊維である所以優れた力学物性を有する。また、連続繊維は規則的な配列であるため、基材の配置により必要とする力学物性に設計することが可能であり、力学物性のバラツキも小さい。しかしながら、連続繊維である所以3次元形状を形成することは難しいという問題があった。特にダブルコンター部を有する複雑な3次元形状の場合、連続繊維を用いた中間基材を賦形した場合には、形状表面を覆いきれない箇所で突っ張りが、中間基材が余った箇所でシワが発生するため、高品位・高品質を満足する賦形が難しいという問題があった。
【0004】
かかる問題に対して、連続繊維のプリプレグ基材を積層した積層体(例えば、特許文献1)を用いて、C型の2次元形状を形成する提案(例えば、特許文献2)、板厚が異なる段差形状を形成する提案(例えば、特許文献3)、積層体を予熱して複雑形状に賦形して3次元形状を形成する提案(例えば、特許文献4、5)がある。しかしながら、連続繊維のプリプレグ基材を用いているため、とりわけ板厚が異なる段差形状を3次元形状(特にダブルコンター部を有する形状)の賦形が困難であった。
【0005】
一方、連続繊維ではなく不連続繊維を用いた中間基材、例えば、BMC(バルクモールディングコンパウンド)(例えば、特許文献6)、SMC(シートモールディングコンパウンド)、スタンパブルシート(例えば、特許文献7)、プリプレグに切込を入れた基材(例えば、特許文献8)のように束状の不連続繊維をマトリックス樹脂に分散させた中間基材を用いれば、上述のダブルコンター部を有する3次元形状にも成形追従することが分かっているものの、力学的特性を高くできず、高い力学特性が要求される構造部材には適用できないという問題があった。
【特許文献1】特開2006−188597号公報
【特許文献2】特開2006−312260号公報
【特許文献3】特開2007−230036号公報
【特許文献4】特開2008−068532号公報
【特許文献5】特開2008−055609号公報
【特許文献6】特開平08−118379号公報
【特許文献7】特開平9−267344号公報
【特許文献8】国際公開公報WO2007/0135418号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、良好な流動性、複雑な形状の成形追従性を有する基材を用いて、繊維強化プラスチックとした場合、優れた力学特性、その低バラツキ性、優れた寸法安定性を安定して発現する、高品位・高品質な繊維強化プラスチックおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、一方向に引き揃えられた強化繊維とマトリックス樹脂とを含んで構成されるプリプレグ基材の積層体をプレス成形して板厚の異なる段差部を有する繊維強化プラスチックを製造する方法であって、前記プリプレグ基材として、前記強化繊維を横切る方向に複数の切込によって少なくとも一部の強化繊維を10〜100mmの長さに分断した切込プリプレグ基材を用いて、少なくとも次の(1)〜(3)の工程を順次経て繊維強化プラスチックを成形する、繊維強化プラスチックの製造方法である。
【0008】
(1)少なくとも切込プリプレグ基材を含む複数枚のプリプレグ基材を積層して積層体を得るに際し、少なくとも前記積層体の一部に、プリプレグ基材の積層数が多い厚肉部と、プリプレグ基材の積層数が少ない薄肉部と、厚肉部と薄肉部との境界である段差部とが形成されるように積層し、板厚の異なる平板状の積層体を得る積層工程
(2)積層体を成形型に押し付けて硬化または固化させ、繊維強化プラスチックとするに際し、前記積層体を、前記成形型に設けられている段差部に、該積層体の段差部が対応するように位置決めして該成形型に配置し、前記積層体の厚肉部、薄肉部または段差部の少なくともいずれかを伸長させて、前記成形型の厚肉部、薄肉部、段差部のそれぞれに充填させる成形工程
(3)前記成形型から前記繊維強化プラスチックを取り出す脱型工程。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、良好な流動性、複雑な形状の成形追従性を有する基材を用いて、繊維強化プラスチックとした場合、優れた力学特性、その低バラツキ性、優れた寸法安定性を安定して発現する、高品位・高品質な繊維強化プラスチックを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の繊維強化プラスチックの製造方法は、一方向に引き揃えられた強化繊維とマトリックス樹脂とを含んで構成されるプリプレグ基材の積層体をプレス成形して板厚の異なる繊維強化プラスチックを製造する方法であって、前記プリプレグ基材として、該強化繊維を横切る方向に複数の切込によって少なくとも一部の強化繊維を10〜100mmの長さに分断した切込プリプレグ基材を用いて、少なくとも以下に詳述する(1)〜(3)の工程を順次経て繊維強化プラスチックを成形する。
【0011】
なお、本発明の製造方法で成形する繊維強化プラスチックは、少なくとも、板厚の異なる厚肉部および薄肉部、両者の境界である段差部を有する。より本発明の効果を高く発現させるためには、繊維強化プラスチックがさらにダブルコンター部を有する3次元形状を有するのが好ましい。また、繊維強化プラスチックの一部にリブやボスなどがあってもよい。ここで、本発明における“ダブルコンター部を有する繊維強化プラスチック”とは、繊維強化プラスチックの表面を二次曲面として取り出してきた際、該二次曲面上の点であって、該点を通るどのような平面を参照しても、該平面と該二次曲面の交線のうち該点を通る交線が直線となることがない点がダブルコンター部に属し、これらダブルコンター部を少なくとも一部に含む繊維強化プラスチックを指す。具体的には鞍型、半球形状や凹凸部を有する平板などが該当するが段差部のない平板、円錐形状や円筒形状は該当しない。本明細書では、特に断らない限り、繊維あるいは繊維を含む用語(例えば“繊維方向”など)において、繊維とは強化繊維を表すものとする。また、本明細書では連続繊維とは100mm以上の繊維長さを持つ強化繊維を指す。
【0012】
本発明で用いられるプリプレグ基材には、一方向に引き揃えられた強化繊維や強化繊維基材に樹脂が完全に含浸した基材に加え、樹脂シートが繊維間に完全に含浸していない状態で一体化した樹脂半含浸基材(セミプレグ:以下、半含浸プリプレグと称することもある。)を含むものとする。
【0013】
本発明で用いられる切込プリプレグ基材は、一方向に引き揃えられた強化繊維とマトリックス樹脂とから構成され、該強化繊維を横切る方向に複数の切込によって少なくとも一部の強化繊維を10〜100mmの長さに分断しているものを指す。切込プリプレグ基材上において強化繊維が10〜100mmの長さに分断されている切込部は、後述(2)の成形工程で基材が伸長することができる領域に対応している。したがって、複雑形状の繊維強化プラスチックを成形するにあたり、厚肉部、薄肉部または段差部の少なくともいずれかに対応する領域の積層体は、切込プリプレグ基材上で切込によって強化繊維が10〜100mmの長さに分断されている切込部が積層されていることを必須とする。
【0014】
本発明に用いる切込プリプレグ基材は強化繊維が一方向に引き揃えられているので、繊維方向の配向制御により任意の力学物性を有する成形体の設計が可能となる。加えて、繊維を横切る方向に複数の切込によって少なくとも一部の繊維を100mm以下の長さに分断していることによって、成形時に繊維が流動可能、特に繊維長手方向にも流動可能となり、複雑な形状の成形追従性にも優れる。切込がない場合、すなわち連続繊維のみの場合、繊維長手方向には流動しないため、複雑形状を形成することはできない。一方、繊維長さを10mm未満にすると、さらに流動性が向上するが、他の要件を満たしても構造材として必要な高い力学特性は得られない。流動性と力学特性との関係を鑑みると、繊維長さが10〜100mmである必要があり、さらに好ましくは20〜60mmの範囲内である。
【0015】
図2は、本発明に用いる積層体の流動のメカニズムの一例を示す断面図である。
【0016】
図2(a)のとおり、90°のプリプレグ基材に0°の切込プリプレグ基材が挟まれた積層体12の上から圧力13が加わり成形する際、図2(b)のように、圧力で押し出された樹脂が90°方向に流れ14を作り、その流れに従って強化繊維の不連続端4の開き15が起こる。すなわち、一方向に引き揃えられた繊維からなるプリプレグ基材に切込を設け、少なくとも一部の強化繊維が10〜100mmの長さである切込プリプレグ基材を積層することではじめて、繊維長手方向への流動が可能となり、複雑な形状の成形追従性が生まれる。上述の通りに強化繊維の流動はマトリックス樹脂の流動が駆動源であるため、適性のVf(繊維体積含有率)であることが好ましい。すなわち、Vfは65%以下で十分な流動性が得られるようになり好ましい。また、Vfが低いほど流動性は向上するが、Vfが45%を下回ると、構造材に必要な高力学特性が得られなくなる可能性があるので、Vfは45%以上であることが好ましい。流動性と力学特性との関係を鑑みると、さらに好ましくは55〜60%の範囲内である。
【0017】
本発明の繊維強化プラスチックの製造方法は、上述の切込プリプレグ基材を用いて、少なくとも次の(1)〜(3)の工程を順次経て成形される。本発明の特長の一つは、板厚の異なる段差部を有する繊維強化プラスチックを容易かつ安定して成形することができる点にある。
【0018】
(1)積層工程
少なくとも切込プリプレグ基材を含む複数枚のプリプレグ基材を積層して積層体を得るに際し、少なくとも積層体の一部に、プリプレグ基材の積層数が多い厚肉部と、プリプレグ基材の積層数が少ない薄肉部と、厚肉部と薄肉部との境界である段差部とが形成されるように積層し、板厚の異なる平板状の積層体を得る。
【0019】
図1は、本発明の繊維強化プラスチックの製造方法の一例を示す斜視図である。例えば、図1(c)に示すように段差部12cを有し、かつ、厚肉部12aおよび薄肉部12bに半球状のダブルコンター部25を有する繊維強化プラスチック16を製造するにあたり、次のような工程を順次経る。
【0020】
まず、切込プリプレグ基材を少なくとも含む複数枚のプリプレグ基材を積層して平板状の積層体12を作成する。従来は、プリプレグ基材を、成形型に沿って一枚一枚積層、賦形しながら複雑形状の積層体を作製したり、最終形状である成形後の繊維強化プラスチックの略形状(得られる繊維強化プラスチックの形状を単純にした形状であって、凹凸の数が少なくなったり、起伏が少なくなったりした形状)に沿って一枚一枚積層、賦形しながら複雑形状の積層体を作製したりする方法が採用されており、本工程に非常に長い時間を必要としていたが、本発明ではプリプレグ基材を単に平板状に積層するだけで成形可能であり、より低コストに積層体を作成することができる。
【0021】
図3は、本発明に用いる積層体の一例を示す平面図および断面図である。図3(a)、図3(b)はそれぞれの積層体の一部に切込部を有した例を示しており、図3のそれぞれは上に平面図、下にA−A断面の断面図を示している。
【0022】
図3(a)では、切込により繊維が10〜100mmの長さに分断された切込プリプレグ基材のみを用いて、全面に切込を入れられた切込プリプレグ基材10aを5枚積層した上に、切込プリプレグ基材10aより面積の小さな全面に切込を入れられた切込プリプレグ基材10aを2枚、さらに面積の小さな切込プリプレグ基材10aを2枚、合計4枚表層に積層した例を示す。厚肉部12aは9枚の切込プリプレグ基材で、薄肉部12bは5枚の切込プリプレグ基材で、段差部12cは5枚を越え9枚未満の枚数、すなわち7枚の切込プリプレグ基材により形成されている。特に、ダブルコンター部25を有する複雑形状の繊維強化プラスチックを製造する場合は、切込プリプレグ基材のみが積層されてなる切込部37を形成することが好ましい。切込部37では積層体の厚み方向に、実質的に10〜100mmの繊維のみからなる、切込プリプレグ基材のみが積層されている。ここで“実質的に10〜100mmの繊維のみからなる”とは該領域に含まれる強化繊維本数のうち95%以上が10〜100mmに分断されていることを言う。かかる領域を以下、積層体の切込部と称す。ダブルコンター部25を有する複雑形状の繊維強化プラスチックを成形するにあたり、ダブルコンター部25に対応する積層体の領域が切込部であることで、切込プリプレグ基材が成形時に容易に伸長することができ、複雑形状に沿わせることができる。ダブルコンター部を有する複雑形状の繊維強化プラスチックを成形するに際しては、連続繊維のプリプレグ基材のみを用いて成形する場合は、繊維強化プラスチックの表面形状を展開した平面状のカットパターンを作成し、該カットパターンで裁断した連続繊維基材を成形型に厳密に沿わせて複雑形状に賦形し、積層数分だけそれを繰り返して積層体を作製する必要がある。一方、本発明にかかる切込プリプレグ基材を用いて成形する場合には、切込プリプレグ基材(特に切込部)が伸長して複雑形状に沿うため、複雑なカットパターンとしなくてもよく、また成形型(すなわち成形後の繊維強化プラスチック)の形状に完全に沿わせて複雑形状に賦形せずに、平板状に積層した積層体を用いて一気に成形型での成形でダブルコンター部を有する複雑形状を形成できるので、極めて高効率に繊維強化プラスチックを製造できる。
【0023】
図3(b)では、少なくともこの積層体の一部に、切込プリプレグ基材10a、10bおよび連続繊維のプリプレグ基材11を用いて、全面に切込を入れられた切込プリプレグ基材10aを6枚積層した上に、切込プリプレグ基材10aより面積の小さな連続繊維のプリプレグ基材11を2枚積層し、さらにその上に切込プリプレグ基材10aと同面積の一部に切込が入れられた切込プリプレグ基材10bを1枚積層した例を示す。厚肉部12aは7枚の切込プリプレグ基材10a、10bおよび2枚の連続繊維のプリプレグ基材11の合計9枚で、薄肉部12bは7枚の切込プリプレグ基材10a、10bで、段差部12cは直線(積層体の厚み方向を考慮すると平面)として形成されている。また、図3(a)と同様に、連続繊維からなるプリプレグ基材11に覆われていない切込部37が存在する。ここで、連続繊維のプリプレグ基材11としては、一方向に連続繊維を引き揃えたプリプレグ基材や織物のプリプレグ基材などが挙げられる。
【0024】
かかる段差部12cにおいて、厚肉部12aと薄肉部12bとの積層数の差がプリプレグ基材1〜4枚の範囲内、または、0.1〜1mm厚の範囲内であれば、図3(b)に示す通り積層数を一気に減らして(増やして)段差を形成してもよいが、積層数の差がプリプレグ基材4枚を越える場合、または、1mm厚を越える場合は、繊維強化プラスチックにおいて段差部での応力集中が顕著になるため、図3(a)に示す通り1〜4枚の範囲内、または、0.1〜1mm厚の範囲内の段差を徐々に形成するようにテーパー積層するのが好ましい。より好ましい段差を形成する積層枚数の差は、1〜2枚の範囲内、または、0.1〜0.5mm厚の範囲内である。換言すると、上述の通り段差部12cにおいて、プリプレグ基材の不連続端10cは、同一箇所で4枚を越えて、または、1mm厚を越えて隣り合って重ならないように積層するのが好ましく、プリプレグ基材2枚を越えて隣り合って重ならないように積層するのがさらに好ましい。4枚を越えて、または、1mm厚を越えて隣り合ってプリプレグ基材の端部が段差部において重なると、繊維強化プラスチックにおいて段差部での応力集中が顕著になり力学特性が低下する場合がある。
【0025】
また、かかる段差部12cにおいて、積層体の表面のそれぞれのプリプレグ基材は、厚肉部12a、段差部12c、薄肉部12bにわたって該表面のそれぞれのプリプレグ基材以外のプリプレグ基材を覆うように配置されて(図3(b)中では上面の切込プリプレグ10b、下面の最下層の切込プリプレグ10aに相当)、積層されているのが好ましい。すなわち、段差部で段差を形成するための積層数を減らしている(増やしている)プリプレグ基材の不連続端10cを、積層体における表面のそれぞれに露出しないように積層するのが好ましい。段差部12cでプリプレグ基材の不連続端10cが露出していると、繊維強化プラスチックにおいて段差部12cに応力集中した際に、引き剥がし(ピール)応力が作用し、段差部からの破壊が加速される場合がある。積層体の表面のそれぞれのプリプレグ基材が、該表面のそれぞれのプリプレグ基材以外のプリプレグ基材を覆うように配置されていれば、かかる引き剥がし応力を最小限に抑制し、引き剥がし応力を受け止めることができる。なお、表面のそれぞれのプリプレグ基材としては、略号同形状のものを用いることが好ましい。
【0026】
また、図3に示した積層体12の切込部37に金属インサートを埋め込み、硬化、一体化させると、アセンブリコストが低減することができる。その際、金属インサートの周囲に複数の凹部設けることにより、流動した繊維が凹部に進入し、容易に隙間を充填することができるとともに、成形温度から低下することで、金属と繊維の熱膨張差でかしめられ、強固に一体化させることができる。
【0027】
(1a)脱気工程
後述(2)の成形工程、または、後述(1b)の予熱工程に先立って、積層体は、例えば伸縮性フィルムなどで覆って密閉した後にその中を減圧することや、真空乾燥機を用いることなどにより、脱気しておくのが好ましい。脱気しておくことにより、積層される際に噛み込んだエア(ボイド)や、マトリックス樹脂が吸湿した水分(水蒸気)などを積層体から除去しておくことができ、後述(2)の成形工程においてより優れた品位・品質の繊維強化プラスチックを得ることができる。脱気に際しては、効率的にエアや水分を除去するために、積層体を予備加熱するのが好ましい。好ましい加熱温度はマトリックス樹脂にも依存するが、一般的に40〜120℃である。装置的な制約を鑑みると60〜90℃がより好ましい。
【0028】
本工程では、積層体を脱気した後に、後述(2)の成形工程、または、後述(1b)の予熱工程まで、例えば、デシケータ内や密閉フィルム(真空パック等)内など減圧環境を維持した状態を保存または保管しておくのがさらに効果的である。特に、積層体を密閉フィルム内で減圧環境を保っておく態様は、積層体の運搬、マトリックス樹脂の性能を維持するための低温保管、作業現場の環境・衛生維持、後述(1b)の予熱工程での予熱など、積層体の取扱性の観点から特に好ましい態様といえる。
【0029】
(1b)予熱工程
後述(2)の成形工程に先立って、積層体を加熱してマトリックス樹脂を軟化させることができる。本発明では、前述の通り伸長できる切込プリプレグ基材を用いるため、本工程においてマトリックス樹脂を予め軟化させ、マトリックス樹脂が流動性を発現するレベルに樹脂粘度をさげておくことにより、後述(2)の成形工程で積層体の切込部を伸長させて容易に成形型に充填させることが可能となるという、連続繊維の中間基材を用いた場合とは異なる、格別な効果を奏することができる。特に、3mmを越える厚肉の繊維強化プラスチックを成形する場合は積層体の熱伝導に時間がかかるため積層体の内外層の差が生じ易く、本工程の後に後述(2)の成形工程を経るのが好ましい。
【0030】
また、繊維強化プラスチックがダブルコンター部を有する形状である場合、本工程において、マトリックス樹脂を予め軟化させて、成形後の繊維強化プラスチックの略形状に積層体に予賦形を行い、後述(2)の成形工程においてダブルコンター部を有する形状に成形することができる。ダブルコンター部を有する形状を成形するにあたり、平板状に積層体を作成した後、成形工程の前に、積極的に切込プリプレグ基材を伸長させることのない、折り曲げなどの簡単な操作で予賦型することで、成形型へ配置する際の位置決めが楽になり、また伸長させる方向を明確にすることで品位・品質の安定した繊維強化プラスチックを得ることができる。この場合、平板状から一気に成形するよりも生産性は若干低下するものの、より一層高品位、高品質の繊維強化プラスチックを得ることができる。
【0031】
好ましい予賦形の形状としては、本工程で、積層体をシングルコンター部を有する簡易形状に予賦形しておくのがよい。ここで、“シングルコンター形状”とは凹凸形状の種類を指し、積層体の表面を二次曲面として取り出してきた際、該二次曲面上の点であって、該点を通る任意の平面を参照した際、該平面と該二次曲面の交線のうち該点を通る交線が直線となる交線が1つだけ存在する点の集合を指し、具体的には円錐形状や円筒形状、それらの一部が該当する。シングルコンター形状であれば、切込プリプレグ基材の伸長を伴わなくてもある程度の形状であれば追従可能である。例えば、弁当箱の蓋のような面板1面と立壁4面とで構成されるダブルコンター形状の繊維強化プラスチックを成形するにあたり、積層体を面板1面と立壁2面とで構成されるシングルコンター形状、すなわちコの字型に予賦型した後に成形型に配置すると、配置する際の位置決めが容易となり、成形時に積層体が伸長する方向を制御することができる。
【0032】
予賦形はできるだけ簡易に行うのが好ましいため、その手段としては、平板状の積層体を予賦形型とシリコンラバーフィルム等とで密閉して、密閉空間を減圧することで予賦形型に押し付けるのが好ましい。
【0033】
なお、前記(1a)の脱気工程において、積層体を密閉フィルム内で減圧環境を保っておいた場合、本工程でも密閉された状態のままで予熱することにより、エアや水分などをさらに効率的に積層体から除去しておくことができる。
【0034】
(2)成形工程
積層体を成形型に押し付けて硬化または固化させ、繊維強化プラスチックとするに際し、成形型に形成されている板厚が異なる段差部に、積層体の段差部が対応するように位置決めして配置し、積層体の厚肉部、薄肉部または段差部の少なくともいずれかを伸長させて、成形型の厚肉部、薄肉部、段差部のそれぞれに充填させる。本発明では、伸長できる切込プリプレグ基材を用いて成形するため、積層体(特に切込部)を伸長させて容易に成形型に充填させることが可能となるが、段差を有する積層体を伸長させる際に、成形型に設けられている段差部、すなわち積層体の段差部に対応する箇所を基準として伸長させて成形することにより、本発明の課題を解決できることを見出したものであり、かかる点が本発明の最大の特徴といえる。段差部を最初に型と接触させてそこを基準とすることで、厚肉部および薄肉部での切込プリプレグ基材の伸長が格段に制御し易くなる。逆にいえば、伸長させるべき積層体の厚肉部または薄肉部を基準として、積層体の段差部での伸長および積層体の段差部の位置を制御するのは極めて困難であり、バラツキなく、所望寸法の繊維強化プラスチックを安定して成形することができない。
【0035】
本工程において、積層体の積層体への位置決めは、成形型もしく積層体固定ジグに予め表示している配置する箇所に、機械的に把持して固定するか、または、マトリックス樹脂の有する粘着性で固定する手段を採ることが好ましい。かかる位置決め手段により、成形型に形成されている板厚が異なる段差部に、積層体の段差部が対応するように確実に位置決めして配置することが可能となる。特に、機械的に把持して固定する場合には、所定の箇所を点状に把持してもよいし、所定の箇所を線状または面状に把持してもよい。成形型の形状にもよるが、位置決めを簡便に行い、配置した後の積層体の伸長を可能な限り妨げないという観点からは、点状に積層体を把持するのが好ましい。また、特に、マトリックス樹脂の有する粘着性で固定する場合には、点状の把持だけでは確実な固定が困難な場合があるため、線状または面状に積層体を成形型に固定するのが好ましい。さらに、前記(1b)の予熱工程を経ると、マトリックス樹脂の粘着性が一層向上して確実に成形型に固定、配置することができる。
【0036】
成形型は、固定型と可動型との少なくとも2つで構成されることが望ましい。また、スライド型や中子やあて板(カウルプレート)など2つ以上の固定型または可動型を組み合わせて成形型として用いてもよい。固定型としては、例えば鉄鋼やアルミ系合金やニッケル系合金などの金属製の金型を用いることもできるし、簡易的に繊維強化プラスチック製のFRP型などを用いることもできる。可動型としては、例えば金属製の金型を用いることもできるし、簡易的に伸縮性フィルムなどを用いることもできる。
【0037】
固定型と可動型との少なくとも2つで構成される成形型を用いて、積層体を固定型に配置し、可動型をこの固定型に押し付けて成形するにあたり、積層体が成形型に最初に接触する部分に少なくとも段差部を配置するのが好ましい。例えば、固定型および可動型として金型を用いるケースでは、成形型の型締前に、固定型に形成されている段差部に、積層体の段差部が対応するように積層体を固定型上に配置し、しかる後に、型締して積層体を成形することができる。積層体の位置決めは、上述の通り、成形型もしく積層体固定ジグに予め表示している配置する箇所に、機械的に把持して固定するか、または、マトリックス樹脂の有する粘着性で固定する手段を採ることができる。
【0038】
また、成形型の型締前には固定型にも可動型にも触れないように積層体を配置する場合(後述の図4の態様)には、成形型を型締していき積層体に可動型が接触する際に、可動型に形成されている段差部に、積層体の段差部が対応するように配置した後に、型締して積層体を成形することができる。特にこの場合の積層体の位置決め手段は、積層体固定ジグに予め表示している配置する箇所に、機械的に把持して固定するのが好ましい。
【0039】
一方、可動型として伸縮性フィルムを用いるケースでは、固定型の上に積層体を配置する場合(後述の図5の態様)には、固定型に形成されている段差部に、積層体の段差部が対応するように積層体を固定型上に配置した後に、キャビティ内を減圧して積層体を成形することができる。また、可動型として伸縮性フィルムに加えてあて板を組み合わせて用いるケースでは、あて板に形成されている段差部に、積層体の段差部が対応するように配置した後に、キャビティ内を減圧して積層体を成形することができる。特にこの場合の積層体の位置決め手段は、マトリックス樹脂の有する粘着性で固定する手段を採ることができ、とりわけ線状または面状に固定するのが好ましい。
【0040】
成形型として固定型および可動型のいずれも熱容量の大きい金属製の金型で構成すると、積層体を素早く金型温度に制御することができ、高効率に大量の繊維強化プラスチックを成形できる。また、成形型の型締により、積層体を硬化または固化させる際に高い圧力を積層体に付与することができ、切込プリプレグ基材を充分に伸長させて繊維強化プラスチックの品位・品質を高めることができる。特に、3mmを越える厚肉の繊維強化プラスチックを成形する場合は積層体の熱伝導に時間がかかるため、固定型および可動型のいずれも金型を用いるのが好ましい。金型を用いる場合の加熱手段としては、成形型自体をカートリッジヒーターや熱媒体の循環により加熱して温度制御するのが好ましい。
【0041】
図4は、本発明の繊維強化プラスチックの製造方法の一例を示す断面図である。
【0042】
図4における成形型28は、可動型28aと固定型28bとから構成されている。また、成形型の型締に伴って移動できる枠状の積層体の位置決め用クランプ(積層体固定ジグ)28dを有している。積層体12を、スプリング27で支えられたクランプ28dに、機械的に点状に把持して固定して、位置決めしている。その後、可動型を下降させて、まず可動型28aの段差部と積層体12の段差部12cとを接触させる。この際、積層体12の薄肉部12bも同時に可動型28aに接触している。可動型28aと最初に接触する積層体12の段差部12cおよび薄肉部12bは可動型28aと固定型28bとにより一旦固定される。しかる後に、固定型28bに積層体12の厚肉部12aが接触し、厚肉部が伸長されて繊維強化プラスチックを得ている。少なくとも段差部から接触させて型締していくことで、伸長の起点を固定して流動を制御することで、均一な切込プリプレグ基材の伸長を実現して、高品位・高品質の繊維強化プラスチックを不良品少なく成形することができる。また、脱型の機構を備えると量産性に優れる。
【0043】
一方、可動型を安価な伸縮性フィルムで構成すると、成形型やその昇降機など大型設備を用いずに固定費を抑制することができ、安価に繊維強化プラスチックを成形できるため、特に少量多品種への対応が容易となる。また、可動型として伸縮性フィルムとあて板(金属製または繊維強化プラスチック製など)とを組み合わせて用いてもよい。この場合、固定型は金型でもよいし、FRP型でもよい。伸縮性フィルムを用いる場合の加熱手段としては、固定型のみを加熱して温度制御してもよいし、固定型および伸縮性フィルムをオーブン(熱風、誘導加熱、高周波加熱など)の中に配置してそれぞれを温度制御してもよいし、両者を組み合わせてもよい。特に3mm以下の薄肉の繊維強化プラスチックを成形する場合は積層体の熱伝導が短時間ですむため前者が好ましく、3mmを越える厚肉の繊維強化プラスチックを成形する場合は積層体の熱伝導に時間がかかるため後者が好ましい。厚肉部が3mmを越え薄肉部が3mm以下である場合は、両者を組み合わせるのが好ましい。
【0044】
図5は、本発明の繊維強化プラスチックの製造方法の一例を示す平面図および断面図である。
【0045】
図5における成形型28は、固定型28cと伸縮性フィルム32とから構成されている。積層体12を固定型28cに形成されている段差部に、積層体12の段差部12cが対応するように接触させて、マトリックス樹脂の有する粘着性で、線状に成形型上に固定して、位置決めしている。この際、積層体12の厚肉部12aおよび薄肉部12bも同時に固定型28cに線状に接触している。しかる後に、固定型28cと可動型として伸縮性フィルム32を脱気口26となるパイプを残してシーラント31などで密封し、真空ポンプなどを用いて密封された空間(キャビティ)30を減圧し、大気圧との差圧により積層体12を固定型28cに面状に押し付けて、厚肉部12a、薄肉部12bおよび段差部12cがそれぞれ伸長されて繊維強化プラスチックを得ている。大きく伸長している部分は、凸形状36を有する両端部(ダブルコンター部25)を形成する厚肉部12aと薄肉部12bとである。
【0046】
さらにオートクレーブなどの圧力容器中にこの成形型を入れ、圧力容器内の圧力と密封された空間30との差圧(0.1〜0.6MPa程度)で積層体12を固定型28cに押し当てることも可能である。成形ごとに伸縮性フィルムを使い捨てにしてもよいが、耐久性のあるシリコンラバーフィルムなどを開閉式の蓋として用いることも可能で、副資材のコスト抑制の面からは好ましい。
【0047】
マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂である場合、前記(1b)の予熱工程における加熱温度が、本工程の成形型の温度よりも低いのが好ましい。すなわち、予熱工程でプリプレグ基材における熱硬化性樹脂のガラス転移温度以上(好ましくは35〜110℃、さらに好ましくは40〜90℃)にIRヒーターやオーブンなどで加熱してマトリックス樹脂を軟化させ、予熱温度よりも高温(好ましくは繊維強化プラスチックにおけるガラス転移温度である120〜200℃)に温度制御された成形型に押し付けて、マトリックス樹脂を硬化させるホットプレス成形により繊維強化プラスチックを得るのが好ましい。熱硬化性樹脂は、後述の熱可塑性樹脂とは異なり、樹脂の硬化反応によりガラス転移温度が向上するため、上述のような温度制御を行い成形すると、成形型の占有時間を短くしながらに本発明の課題を解決することができる。
【0048】
マトリックス樹脂として熱硬化性樹脂を用いた場合の成形条件としては、成形工程における成形型の温度T1と、脱型工程における成形型の温度T2とを実質的に一定とするのがよい。なお、成形型の温度は積層体に触れるキャビティの表面を複数点(可動型、固定型である場合には、少なくとも一点以上どちらの型も測定)、熱電対で測定した温度の平均で代表する。ここで、本発明における金型温度Tが実質的に一定とは、通常金型温度の変動が±10℃の範囲内であることを表す。また、T1、T2ともに経時的に変化しないのがよい。
【0049】
本発明において、繊維強化プラスチックは、金型温度Tが、プリプレグ基材に用いられる熱硬化性樹脂の示差走査熱量測定(DSC)に拠る発熱ピーク温度Tpに対して、
(Tp−60)≦T≦(Tp+20)・・・(I)
の範囲内で製造することが好ましい。さらに好ましくは、
(Tp−30)≦T≦Tp ・・・(II)
の範囲内である。金型温度Tが、Tp−60より低い場合、樹脂の硬化に要する時間が非常に長くなり、また硬化が不十分である場合もある。一方、Tp+20より高い場合、樹脂の急激な反応により樹脂内部でのボイドの生成、硬化不良を引き起こすことがある。なお、本発明におけるDSCに拠る発熱ピーク温度Tpは、JIS K7121(1987)に準じて行われ、温度30〜180℃で、昇温速度10℃/分の条件にて昇温させて得た発熱曲線のピークをとった値である。JIS K7121(1987)に言う試験片は、本発明においてはペーストである。従って、「試験片の状態調節」、「試験片」はそれぞれ「ペーストの状態調節」、「ペースト」ということができる。ペーストの状態調節は、原則として、温度23±2℃及び相対湿度50±5%において6〜8時間静置して行い、熱処理などは一切行わない。また、ペーストはペースト状のまま測定するため、寸法に関する規定はない。
【0050】
マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂である場合、前記(1b)の予熱工程における加熱温度が、本工程の成形型の温度よりも高いのが好ましい。すなわち、予熱工程で熱可塑性樹脂のガラス転移温度もしくは融点付近もしくはそれ以上(熱可塑性樹脂の種類にも依存するが、一般的には180〜350℃)にIRヒーターやオーブンなどで加熱してマトリックス樹脂を軟化させ、室温、もしくは積層体よりも低温(熱可塑性樹脂の種類にも依存するが、一般的には30〜100℃)に温度制御された成形型に押し付けて、マトリックス樹脂を固化させるコールドプレス(スタンピング)成形により繊維強化プラスチックを得るのが好ましい。一般的に、熱可塑性樹脂を用いたコールドプレス成形は、熱硬化性樹脂を用いたホットプレス成形よりも成形サイクルタイムを短くすることができるというメリットがある。
【0051】
(3)脱型工程
前記成形型から前記繊維強化プラスチックを取り出す。マトリックス樹脂に熱硬化性樹脂を用いた場合は硬化が終わった後、もしくは脱型可能な程度硬化した後に、熱可塑性樹脂を用いた場合は固化が終わった後、もしくは脱型可能な程度に固化した後に、成形型から繊維強化プラスチックを取り出す。
【0052】
(4)後加熱工程
必要に応じて、繊維強化プラスチックを前記(2)の成形工程の成形型温度以上の温度に加熱するのが好ましい。マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂の場合は、前記(2)の成形工程でプレスしている時間を脱型できるレベルに最小限に短くして、本工程を経ることにより完全硬化することができる。また、マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂の場合は、コールドプレス(スタンピング)成形すると、前記(2)の成形工程での成形型温度がガラス転移温度や融点より低い温度に制御される。このような場合、例えば、ガラス転移温度を超える温度に後加熱する本工程を経ることにより、繊維強化プラスチックに発生したソリの矯正や、結晶化を進めるアニール処理などをおこなうことができる。
【0053】
本工程では、成形型を用いずに、複数の繊維強化プラスチックを同時に後加熱すると、前記(2)の成形工程で用いる高価な成形型の型占有時間を短くできるため好ましい。もちろん、繊維強化プラスチックの寸法を厳密に制御するために本工程では後加熱工程のための型を用いてもよいが、簡易な固定ジグ等を用いると、本工程を経る目的をより安価に達成できるため好ましい。本工程での加熱手段としては、成形型を用いずに、複数の繊維強化プラスチックを同時に後加熱するのが好ましいため、加熱領域を広くとれるオーブン(熱風、誘導加熱、高周波加熱など)を用いるのが好適である。
【0054】
以上の通り、本発明によれば、繊維強化プラスチックが複雑形状であっても、マトリックス樹脂として熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれを用いても、高品位・高品質の繊維強化プラスチックを容易に製造することが可能である。こうして得られた繊維強化プラスチックは、連続繊維基材のように成形時に繊維が突っ張ることがないため、積層体がしっかり成形型に押し付けられる。また、板厚の異なる段差部を有していても、積層体の段差部を基準として伸長させて成形することにより、充分に型面が転写された高品位・高品質な繊維強化プラスチックを得ることができる。さらに、成形時に伸長できる切込プリプレグ基材を用いているため、最終形状である繊維強化プラスチックよりも小さめに積層体を用意してもよいため、嵩高である積層体が成形型に収まりきれずバリやシワ、型間への繊維噛み込みが発生することが少ない。また、マッチドダイを用いることで、トリムレスの繊維強化プラスチックを得ることができる。繊維強化プラスチックの特徴としては、少なくとも繊維強化プラスチックの一部の領域(特にダブルコンター部)に含まれるすべての強化繊維の繊維長さLcが10〜100mmの範囲内である。
【0055】
より好ましくは、切込プリプレグ基材を構成する強化繊維の全てが切込により分断されており、前記切込により分断されている繊維長さLが10〜100mmの範囲内である。切込プリプレグ基材の全ての繊維長さLを100mm以下とすることで、最終的に製造される繊維強化プラスチックの形状を考慮することなく、切込プリプレグ基材や積層体を製造することができるため、設計、作業効率の面で大きなメリットがある。また、積層時にトラップされた空気が厚み方向に切込を通じて脱気しやすく、ボイドが発生しにくく、高い力学特性が期待できる。なお、本発明において“強化繊維の全てが前記切込により分断され”ているとは、プリプレグ基材に含まれる強化繊維本数のうち95%以上が10〜100mmに分断されていることをいう。
【0056】
好ましい切込プリプレグ基材の切込の形態の一つとして、切込が直線状であり、かつ、切込を強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWsが30μm〜100mmであり、断続的かつ周期的に配置されている切込プリプレグ基材、より好ましい切込プリプレグ基材の形態の一つとしては、前記切込が、さらに全面にわたって配置されている切込プリプレグ基材が挙げられる。切込が連続的ではなく断続的に入っていることで、切込プリプレグ基材が切込によりばらばらになることなく、積層時などの取り扱い性に優れる。また、周期的に切込が配置することで、切込の位置を制御することができ、力学特性を制御することができる。ここで、“切込を強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWs”とは図6に示す通り、切込4を強化繊維3の垂直方向(繊維直交方向2)を投影面として、切込4から該投影面に垂直(繊維長手方向1)に投影した際の長さ9を指す。また、切込が“全面にわたって配置されている”とは、切込プリプレグ基材全面に含まれる強化繊維をすべて10〜100mmの長さに分断する切込を設けることを意味する。
【0057】
切込により生成された強化繊維の不連続端は、繊維強化プラスチックに荷重が加わったときに応力集中が起こり、破壊の起点となる可能性が高い。したがって、切込が小さい方が強度上有利である。Wsは分断する強化繊維の量を示す指標であり、Wsが100mm以下の場合には強度が大きく向上する。しかしながら、Wsが30μmより小さくとなると、切込の制御が難しくなる場合があり、強化繊維の切込部全体に渡ってLが10〜100mmとなるよう、保障することが難しくなることがある。すなわち、切込により分断されていない強化繊維が複雑形状に沿うことを期待されている切込部中に存在すると、繊維が突っ張り流動性は著しく低下することがあるが、長めに切込を入れるとLが10mmを下回る領域が多くなってしまい設計値より低い強度となってしまうことがある、という問題点がある。逆にWsが100mmより大きいときにはほぼ強度が一定に落ち着く。すなわち、強化繊維の不連続端がある一定以上に大きくなると、破壊が始まる荷重がほぼ同等となる。さらに好ましくは、Wsが1.5mm以下であるときに、強度向上が著しい。すなわち、簡易な装置で切込を挿入することができるという観点からは、Wsは1〜100mmであることが好ましく、一方、切込の制御のしやすさと力学特性との関係を鑑みると、Wsは30μm〜1.5mmであることが好ましく、さらに好ましくは50μm〜1mmの範囲内である。
【0058】
図6は、本発明に用いる切込プリプレグ基材の一例を示す拡大平面図である。
【0059】
以下、好ましい切込パターンの一例を、図6を用いて詳細に説明する。強化繊維が一方向に引き揃えられたプリプレグ基材上に制御されて整列した切込4を複数入れる。繊維長手方向1の対になる切込同士で繊維が分断され、その間隔6を10〜100mmとすることで、プリプレグ基材上の強化繊維の繊維長さLを実質的に10〜100mmにすることができる。
【0060】
図6では繊維長さLと切込を強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWsがいずれも一種類である例を示している。第1の断続的な切込からなる列7aと、第3の断続的な切込からなる列7cは繊維長手方向1にL平行移動することで重ねることができ、また、第2の断続的な切込からなる列7bと、第4の断続的な切込からなる列7dは繊維長手方向1にL平行移動することで重ねることができる。また、第1、第2の切込の列と第3、第4の切込の列に互いに切り込まれた繊維があり、繊維長さL以下に切り込まれた幅5が存在することによって、安定的に繊維長さを100mm以下で切込プリプレグ基材を製造できる。
【0061】
図7は、本発明に用いる切込プリプレグ基材の例を示す平面図である。
【0062】
切込のパターンとしては図7(a)〜(f)にいくつか例示したが、上記条件を満たせばどのようなパターンでも構わない。図7において、強化繊維の配列の図示は省略しているが、強化繊維の配列方向は上下方向である。図7(a)、(b)あるいは(c)は、切込が繊維直交方向2に入っている態様、図7の(d)、(e)あるいは(f)は、切込が繊維直交方向2から傾いている様態を示している。対になる切込以外の切込に分断される繊維の中には、前記繊維長さより短い繊維も存在するが、かかる繊維は本発明で規定する繊維長さLを有する繊維には含まない。そして、そのような10mm以下の繊維は少なければ少ないほどよい。
【0063】
図2でも説明したとおり、本発明で用いられる切込プリプレグ基材は、90°方向へのマトリックス樹脂の流動が強化繊維の流動の駆動力であるため、強化繊維が一方向に引き揃えられたプリプレグ基材を2層以上異なる繊維方向に積層すると、繊維長手方向への流動性が発現する。したがって、切込プリプレグ基材に隣接する層は一方向に強化繊維が配向したプリプレグ基材(本発明に係る切込プリプレグ基材を含む)であり、切込プリプレグ基材とは異なる繊維方向に積層されているのがよい。やむを得ず同一繊維方向の切込プリプレグ基材を隣接して積層する際には、切込が重ならないように積層するのがよい。またこれら切込プリプレグ基材の層間に樹脂フィルムなどを積層し、流動性を向上させてもよい。また流動しなくてもよい領域には連続繊維基材を配し、さらにその領域の力学特性を向上させることもできる。
【0064】
層同士で繊維方向が異なると、層ごとの流動方向、距離に違いが生じるが、層間が滑ることで変位差を吸収できる。すなわち、繊維体積含有率Vfが45〜65%と高くても、本発明に用いる積層体は層間に樹脂を偏在させることができる構成のため、高い流動性を発現することができる。例えばSMCの場合は、ランダムに分散したチョップドストランド同士で流動性が異なり、互いに違う方向に流動しようとするが、繊維同士が干渉して流動しにくく、最大でVfが40%程度までしか流動性を確保することができない。すなわち、本発明に用いる積層体は力学特性を向上することができる高Vfの構成であっても高い流動性を発現できる、という特徴を有する。また、本流動性の特長により、得られた繊維強化プラスチックは、複雑形状であっても積層構造を保つことができ、高い弾性率や強度が発現し、強度ばらつきが低減し、さらに衝撃特性も大きく向上する。
【0065】
さらに好ましくは、切込プリプレグ基材が2層以上連続して隣接し、該2層以上の層のうち隣接する任意の2層について、一方の切込プリプレグ基材上の任意の切込の幾何中心と他方の切込プリプレグ基材上のいずれの切込の幾何中心とも5mm以上離れる様に積層するのがよい。隣接する切込プリプレグ基材の切込の幾何中心同士が離れているのは、2つの意味で重要である。一つ目は、成形時に積層体が伸長される際、切込同士がつながっていると、そこから裂け易く、本発明の成形が失敗してしまうことがあるからである。また、成形時に裂けなくても、切込の幾何中心同士が近い領域では繊維含有率が低くなり、肉厚が減ってしまうなどの、品質に影響を与えてしまう可能性がある。二つ目は、繊維強化プラスチックとなった際、切込によって分断された強化繊維束端部は、いわゆる応力集中点のため、破壊の起点となりやすいが、切込同士がつながっていると、容易にクラックがつながりやすく、強度が低くなる場合がある。
【0066】
図8は、本発明に用いる積層体の切込位置関係の例を示す平面図である。
【0067】
図8に示した通り、積層された切込プリプレグ基材の2層の関係において、1層目の切込4aと2層目の切込4bの内、最近接の切込の幾何中心8同士が図8(b)〜(d)のように離れており、好ましくは5mm以上離れていれば、成形時の懸念点も、力学特性の面の懸念点も払拭できるが、図8(a)のように5mmより近づくと、問題が起こってくる場合がある。なお、ここでいう“幾何中心”とは、そのまわりで一次モーメントが0であるような点であり、切込上の点xに対して、幾何中心点gが次のような式が成り立つ。
【0068】
【数1】
【0069】
本発明の切込プリプレグ基材を得るためにプリプレグ基材に切込を入れる方法としては、まず一方向に引き揃えられた連続繊維のプリプレグ基材を作製し、その後カッターを用いての手作業や裁断機により切込を入れる方法、あるいは一方向に引き揃えられた連続繊維のプリプレグ基材製造工程において所定の位置に刃を配置した回転ローラーを連続的に押し当てたり、多層にプリプレグ基材を重ねて所定の位置に刃を配置した型で押し切ったりするなどの方法がある。成形の現場などで簡易にプリプレグ基材の一部に切込を入れる場合には前者が、生産効率を考慮し大量に切込プリプレグ基材を作製する場合、特に全面に切込を入れる場合には後者が適している。回転ローラーを用いる場合には、直接ローラーを削りだして所定の刃を設けてもよいが、マグネットローラーなどに平板を削りだして所定の位置に刃を配置したシート状の型を巻きつけることにより、刃の取りかえが容易で好ましい。このような回転ローラーを用いることで、Wsの小さな(具体的には1mm以下であっても)切込プリプレグ基材でも良好に切込を挿入することができる。切込を入れた後、さらに、切込プリプレグ基材をローラーなどで熱圧着することで、切込部に樹脂が充填、融着することにより、取り扱い性を向上させてもよい。
【0070】
以上のようにして得られた切込プリプレグ基材の一例を用いて本発明により成形して得た繊維強化プラスチックの特徴を、図9を用いて説明する。図9は、本発明に用いる積層体の伸長の様子の一例を示す平面図および断面図である。
【0071】
切込4が繊維3を90°方向に横切っている切込プリプレグ基材10を積層した積層体12の一部を(図9(a)、その積層体12を本発明により成形して得た繊維強化プラスチック16の一部を図9(b)に、それぞれ切込プリプレグ基材10由来の層をクローズアップした平面図と平面図のA−A断面を切り出した断面図を示した。図9(a)の切込プリプレグ基材10は、図7(a)〜(c)のように、繊維に垂直な切込を全面に設けられており、切込4は層の厚み方向に貫いている。繊維長さLを100mm以下とすることで、流動性が確保され、容易に積層体12より面積が伸長した繊維強化プラスチック16を得ることができる(ただし、厚みは減る)。図9(b)のように、伸長した繊維強化プラスチック16を得た際、切込プリプレグ基材10由来の不連続繊維層17は、繊維垂直方向に伸長すると共に、繊維が存在しない領域(切込開口部)18が生成される。これは一般的に強化繊維が成形程度の圧力では伸長しないためであり、図9のケースでは、伸長した長さ分だけ切込開口部18が生成される。この領域18は断面図に示すとおり、隣接層19が侵入してきて、略三角形の樹脂リッチ部20と隣接層19が侵入している領域とで占められる。例えば、繊維強化プラスチックの表層に、全面に切込を入れた切込プリプレグ基材が配されている場合、繊維が流動した領域では積層体切込開口部18が観察される、という特徴がある。さらに好ましくは、繊維強化プラスチックを構成する層すべてが、繊維長さLcが10〜100mmの範囲内であり、幅Wscが30μm〜150mmの短冊状の集合体から構成されることである。本発明において、図9の点線で囲まれた領域35に示したように、2つの対になる強化繊維の不連続端22に囲まれた領域を短冊状と表現する。切込プリプレグ基材の切込を強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWsに対して、成形後の繊維垂直方向の広がり幅である短冊状の幅Wscは、成形により最大50%程度まで伸長されることが予想されるため、Wscは30μm〜150mmの範囲となる。
【0072】
図7(a)〜(c)に示すように切込が繊維に垂直な切込プリプレグ基材以外の、本発明に好適に用いられる切込プリプレグ基材としては、図7(d)〜(f)に示すように、切込が繊維直交方向2から傾いているのがよい。工業的に回転ローラーなどで切込を入れる際、繊維方向に供給されたプリプレグ基材に繊維直交方向2に切込を入れようとすると、繊維を一気に分断する必要があり、大きな力が必要な他、刃の耐久性が低くなり、また繊維が直交方向2に逃げやすく、繊維の切り残りが増える。一方、切込が繊維直交方向2から傾いていることにより、刃の単位長さあたり裁断する繊維量が減少し、小さな力で繊維を裁断でき、刃の耐久性が高く、繊維の切り残り少なくできる。さらに、切込が繊維直交方向2から傾いていることにより、切込長さに対して、切込を強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWsを小さくすることができ、一つ一つの切込により分断される繊維量が減ることにより、強度向上が見込まれる。繊維直交方向2に切込を入れる場合には、Wsを小さくするために、小さな刃を用意するのが好ましいが、小さくし過ぎると耐久性、加工性に問題が生じる可能性がある。
【0073】
さらに別の切込プリプレグ基材の好ましい形態としては、切込が強化繊維となす角度Θの絶対値が2〜15°の範囲内である切込プリプレグ基材が挙げられる。この切込プリプレグ基材の場合は、断続的な切込であって、かつ切込が強化繊維となす角度Θが小さい、図11に示す切込でもよいし、図10に示す連続的な切込でもよい。Θの絶対値が15°より大きくても流動性は得ることができ、従来のSMCなどと比較して高い力学特性は得ることができるが、特にΘの絶対値が15°以下であることで力学特性の向上が著しい。一方、Θの絶対値は2°より小さくても流動性も力学特性も十分得ることが出来るが、切込を安定して入れることが難しくなる。すなわち、繊維に対しする切込の角度が小さくなってくると、切込を入れる際、繊維が刃から逃げやすく、また、繊維長さLを100mm以下とするためには、Θの絶対値が2°より小さいと少なくとも切込同士の最短距離が0.9mmより小さくなるなど、生産安定性に欠ける場合がある。また、このように切込同士の距離が小さいと積層時の取り扱い性が難しくなるという問題が生じることがある。切込の制御のしやすさと力学特性との関係に鑑みると、さらに好ましくは5〜11°の範囲内である。
【0074】
図12は、本発明に用いる切込プリプレグ基材の例を示す平面図である。
【0075】
切込は、図12(c)のように曲線でも構わないが、直線状が流動性をコントロールしやすく好ましい。また、切込により分断される強化繊維の長さLは、図12(b)に示す通り一定でなくてもよいが、図12(a)のように繊維長さLが全面で一定であると流動性をコントロールしやすく、強度ばらつきをさらに押さえることができるため好ましい。なお、ここで規定の直線状とは、幾何学上の直線の一部をなしている状態を意味するが、前記流動性のコントロールを容易とするという効果を損なわない限り、前記幾何学上の直線の一部をなしていない箇所があっても差支えが無く、その結果、繊維長さLが全面で一定とはならない箇所があっても(この場合、繊維長さLが実質的に全面で一定であるといえるので)差し支えがない。
【0076】
好ましい例[1]としては、図10や図12(a)〜(c)のように、切込4cが連続して入れられているのがよい。例[1]のパターンでは、切込4cが断続的でないため、切込端部付近での流動乱れが起きず、切込4cを入れた領域では、すべての繊維長さLを一定とすることができ、流動が安定している。切込をプリプレグ基材の全面に設ける場合、切込4cが連続的に入れられているため、切込プリプレグ基材10がバラバラになってしまうのを防ぐ目的で、切込プリプレグ基材の周辺部に切込がつながっていない領域を設けたり、切込の入っていないシート状の離型紙やフィルムなどの支持体で把持することで取扱性を向上させたりすることができる。また、積層時の取扱性を向上するために、予め切込を連続的に入れた切込プリプレグ基材を切込が重ならないように2枚重ねて、連続的に入れた切込がX字状になるように積層した2層積層体としてもよい。
【0077】
また、他の好ましい例[2]としては、図11に示す通り、強化繊維の垂直方向に投影した長さ9をWsとするとWsが30μm〜100mmの範囲内である断続的な切込4dが切込プリプレグ基材10全面に設けられており、切込4d1と前記切込4d1の繊維長手方向に隣接した切込4d2の幾何形状が同一であるとよい。図11では、LとWsがいずれも一種類である例を示している。いずれの切込4d(例えば4d1)も繊維方向に平行移動することで重なる他の切込4d(例えば4d2)がある。前記繊維方向の対になる切込4d同士により分断される繊維長さLよりさらに短い繊維長さで隣接する切込により分断され繊維が分断される幅5が存在することによって、安定的に繊維長さを100mm以下で切込プリプレグ基材10を製造できる。例[2]のパターンでは、得られた切込プリプレグ基材10を積層する際、切込が断続的なため取り扱い性に優れる。図12(d)、(e)にはその他のパターンも例示したが、上記条件を満たせばどのようなパターンでも構わない。
【0078】
このようにして得られた好ましい例[1]の切込プリプレグ基材を用いて本発明により成形して得られた繊維強化プラスチックの繊維強化プラスチック16の特徴を、図13を用いて説明する。図13は、本発明に用いる積層体の伸長の様子の一例を示す平面図および断面図である。
【0079】
本発明に係る切込プリプレグ基材10を積層した積層体12の一部を図13(a)、その積層体12を本発明により成形して得た繊維強化プラスチックの繊維強化プラスチック16の一部を図13(b)に、それぞれ切込プリプレグ基材10由来の層をクローズアップした平面図と平面図のA−A断面を切り出した断面図を示した。図13(a)に示すとおり、切込プリプレグ基材10は、繊維3との角度が15°以下の切込4cを全面に設けられており、切込4cは層の厚み方向を貫いている。繊維長さLを100mm以下とすることで、流動性が確保され、容易に積層体12より面積が伸長した繊維強化プラスチック16を得ることが出来る。図13(b)のように、伸長した繊維強化プラスチック16を得た際、切込プリプレグ基材10由来の不連続繊維層17は、繊維垂直方向に伸長すると共に、繊維3自体が回転24して伸長領域の面積を稼ぐため、図9のように繊維が存在しない領域(切込開口部)18が実質的に生成せず、切込開口部の層の表面における面積が層の表面積と比較して10%以下である。従って、断面図からも分かるとおり、隣接層19が侵入することもなく、層のうねりや樹脂リッチ部のない高剛性、高強度で品位の高い繊維強化プラスチック16を得ることができる。面内全体にくまなく繊維3が配されているため、面内での剛性差がなく、設計も従来の連続繊維強化プラスチックと同様、簡易に適用できる。この繊維が回転して伸長し、層うねりのない繊維強化プラスチックを得るというさらなる画期的効果は、切込の繊維となす角度Θの絶対値が15°以下であることで初めて得ることができる。また、強度の面では、前述と同様に荷重方向から±10°以下程度に向いている繊維に注目すると、図13(b)のように、繊維束端部22が荷重方向に対して寝てきている様子がわかる。繊維束端部22が層厚み方向に斜めとなっているため、荷重の伝達がスムーズであり、繊維束端部22からの剥離も起こりにくい。従って、図9に比べさらなる強度向上が見込まれる。この繊維束端部22が層厚み方向に斜めとなるのは上述の繊維が回転する際、上面と下面の摩擦により上面から下面で繊維3の回転24になだらかな分布があるためで、そのため、層厚み方向に繊維3の存在分布が発生し、繊維束端部22が層厚み方向に斜めとなったと考えられる。このような繊維強化プラスチック16の層内で層厚み方向に斜めの繊維束端部を形成し、強度を著しく向上するというさらなる画期的効果は、切込4cの繊維3となす角度Θの絶対値が15°以下であることで初めて得ることができる。
【0080】
図14は、本発明に用いる積層体の伸長の様子の一例を示す平面図である。
【0081】
図14には、好ましい例[2]の切込プリプレグ基材10を積層した積層体12の一部を図14(a)、その積層体12を成形した繊維強化プラスチック16の一部を図14(b)に、それぞれ切込プリプレグ基材10由来の層をクローズアップした平面図を示した。図14(a)に示すとおり、切込プリプレグ基材10は、繊維3となす角度Θの絶対値が15°以下の断続的な切込4dが全面に設けられており、切込4dは層の厚み方向を貫いている。切込4dにより繊維長さLを切込プリプレグ基材10の全面で100mm以下とすることで、流動性が確保され、容易に積層体12より面積が伸長した繊維強化プラスチック16とすることができる。切込長さ、切込角度を小さくすることにより、切込を強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWsを1.5mm以下とすることができる。図14(b)のように、伸長した繊維強化プラスチック16を得た際、切込プリプレグ基材10由来の不連続繊維層17は、繊維垂直方向に伸長する際、繊維方向に繊維が伸長しないため、繊維が存在しない領域(切込開口部)18が生成されるが、隣接する不連続繊維群が繊維垂直方向に流動することで、切込開口部18を埋め、切込開口部18の面積が小さくなる。この傾向は特に、切込を強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWsを1.5mm以下とすることで顕著となり、実質的に切込開口部18が生成せず、切込開口部18の層の表面における面積が層の表面積と比較して0.1〜10%の範囲内とすることができる。従って、厚み方向に隣接層が侵入することもなく、層のうねりや樹脂リッチ部のない高剛性、高強度で品位の高い繊維強化プラスチック16を得ることができる。面内全体にくまなく繊維3が配されているため、面内での剛性差がなく、設計も従来の連続繊維強化プラスチックと同様、簡易に適用できる。この切込開口部18を繊維垂直方向の流動により埋め、層うねりのない繊維強化プラスチック16を得るという画期的効果は切込角度Θの絶対値が15°以下であり、かつ切込を強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWsを1.5mm以下とすることで初めて得ることができる。さらに好ましくはWsが1mm以下であることにより、より高剛性、高強度、高品位とすることができ、外板部材としての適用も可能となる。
【0082】
さらに、積層体が切込プリプレグ基材のみから構成されるのが、流動性向上のために好ましい。さらに好ましくは、積層体が切込プリプレグ基材のみから構成され、かつ、その切込プリプレグ基材を構成する強化繊維の全ての繊維長さLが10〜100mmの範囲内であるのがよい。形状に合わせて切込を入れるのは、設計、作業の面で非常に手間がかかりやすいため、品質安定性のためにも、プリプレグ基材の全面に切込を入れ、積層体のどの領域が複雑形状にあたっても沿いやすくしておくことが好ましい。また、全面に切込を入れることで、積層体は平板状であっても、積層体が全体的に伸長し、隅々まで繊維が行き渡った繊維強化プラスチックとなるため、本発明の効果を効率よく発現できる。また、成形型のキャビティより積層体を小さく用意することができ、成形型の固定型と可動型との間に積層体を噛み込むことなく型締が容易となる。
【0083】
本発明のプリプレグ基材に用いられる強化繊維としては、例えば、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサドール(PBO)繊維などの有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、チラノ繊維、玄武岩繊維、セラミックス繊維などの無機繊維、ステンレス繊維やスチール繊維などの金属繊維、その他、ボロン繊維、天然繊維、変性した天然繊維などを繊維として用いた強化繊維などが挙げられる。その中でも特に炭素繊維は、これら強化繊維の中でも軽量であり、しかも比強度および比弾性率において特に優れた性質を有しており、さらに耐熱性や耐薬品性にも優れていることから、軽量化が望まれる自動車パネルなどの部材に好適である。なかでも、高強度の炭素繊維が得られやすいPAN系炭素繊維が好ましい。
【0084】
本発明のプリプレグ基材に用いられるマトリックス樹脂としては、例えば、エポキシ、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、フェノール、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、フェノキシ、ウレタン、ビスマレイミド、シアネートエステルなどの熱硬化性樹脂や、ポリアミド、ポリアセタール、ポリスルフォン、ABS、アクリル、ポリブチレンテレフタレートやポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレンなどフッ素樹脂、シリコーン、などの熱可塑性樹脂が挙げられる。その中でも特に熱硬化性樹脂を用いるのが好ましい。マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂であることにより、切込プリプレグ基材は室温においてタック性を有しているため、該基材を積層した際に上下の該基材と粘着により一体化され、意図したとおりの積層構成を保ったままで成形することができる。
【0085】
さらに好ましくは、熱硬化性樹脂の中でも、エポキシ、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、フェノールなどや、それらの混合樹脂がよい。これらの樹脂の常温(25℃)における樹脂粘度としては、1×106Pa・s以下であることが好ましく、この範囲内であれば本発明に好適なタック性およびドレープ性を有するプリプレグ基材を得ることができる。中でもエポキシは炭素繊維と組み合わせて得られる繊維強化プラスチックとしての力学特性に最も優れている。
【0086】
本発明において、プリプレグ基材に用いられる熱硬化性樹脂は、動的粘弾性測定(DMA)に拠る最低粘度が0.1〜100Pa・sで製造することが好ましい。さらに好ましくは0.1〜10Pa・sである。最低粘度が0.1Pa・sより小さい場合、加圧時に樹脂のみが流動し、突起部の先端まで十分に強化繊維が充填されない場合がある。一方、100Pa・sより大きい場合、樹脂の流動性が乏しいため、突起部の先端まで十分に強化繊維および樹脂が充填されない場合がある。なお、本発明におけるDMAに拠る最低粘度は、回転粘度計を使用して、半径20mmの平行平板を用い、平行平板間の距離1mm、測定開始温度40℃、昇温速度1.5℃/分、測定周波数0.5Hzの条件にて測定し、観測された最低粘度の値である。
【0087】
また、本発明の切込プリプレグ基材は、テープ状支持体に密着されていてもよい。切込が挿入された基材は、全ての繊維が切込により切断されてもその形態を保持することが可能となり、賦形時に繊維が脱落してバラバラになってしまうという問題はない。マトリックス樹脂がタック性を有する熱硬化性樹脂であるとさらに好ましい。ここで、テープ状支持体とは、クラフト紙などの紙類やポリエチレン・ポリプロピレンなどのポリマーフィルム類、アルミなどの金属箔類などが挙げられ、さらに樹脂との離型性を得るために、シリコーン系や“テフロン(登録商標)”系の離型剤や金属蒸着などを表面に付与しても構わない。
【0088】
本発明により製造された繊維強化プラスチックは、強度、剛性、軽量性が要求される用途に好適に用いられ、フレーム、サドル、ポール、フォーク、クランク、アーム、ハンドルなどの自転車用品、ゴルフシャフトやヘッド、ラケット、などのスポーツ部材、ドア等の外板、インナーパネル等の補強材、シートフレーム・パネル、メンバー、ビーム、などの自動車部材、ダブラー、窓枠、リブ、ストリンガー、スパー、フレーム、ビーム、スキンなどの航空機部材、ロボットアーム・フォークなどの産業部材がある。中でも、強度、軽量に加え、部材形状が複雑で、本材料のように形状追従性が要求される航空機部材、または、自動車部材に好ましく適用できる。
【実施例】
【0089】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
【0090】
(実施例1)
<プリプレグ基材の作製>
以下に示す手順にてエポキシ樹脂組成物を得て、リバースロールコーターを使用し離型紙上に塗布し、樹脂フィルムを作製した。
【0091】
(a)エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製“エピコート(登録商標)”828:30重量部、エピコート1001:35重量部、エピコート154:35重量部)と、熱可塑性樹脂ポリビニルホルマール(チッソ(株)製“ビニレック(登録商標)”K)5重量部とを、150〜190℃に加熱しながら1〜3時間攪拌し、ポリビニルホルマールを均一に溶解した。
【0092】
(b)樹脂温度を55〜65℃まで降温した後、硬化剤ジシアンジアミド(ジャパンエポキシレジン(株)製DICY7)3.5重量部と、硬化促進剤3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア(保土谷化学工業(株)製DCMU99)4重量部とを加え、該温度で30〜40分間混練後、ニーダー中から取り出してエポキシ樹脂組成物を得た。得られたエポキシ樹脂組成物のDSCに拠る発熱ピーク温度Tpは152℃であった。測定装置としては、ティー・エイ・インスツルメンツ社製“DSC2910”を用いて、昇温速度10℃/分の条件にて測定した。また、DMAに拠る最低粘度は0.5Pa・sであった。測定装置としては、ティー・エイ・インスツルメンツ社製動的粘弾性測定装置“ARES”を用いて、昇温速度1.5℃/分、周波数0.5Hz、パラレルプレート(半径20mm)の条件にて、温度と粘度の関係曲線から最低粘度を求めた。
【0093】
次に、シート状に一方向に整列させた炭素繊維(引張強度4,900MPa、引張弾性率235GPa)に樹脂フィルム2枚を炭素繊維の両面から重ね、加熱し、加圧して樹脂組成物を含浸させ、炭素繊維目付150g/m2、樹脂重量分率33%(繊維体積含有率Vf58%相当)の一方向プリプレグ基材を作製した。
【0094】
<切込プリプレグ基材の作製>
上記プリプレグ基材に、自動裁断機を用いて図15に示すような切り込みを全面に挿入することにより、等間隔で規則的な切り込みを有する切込プリプレグ基材を得た。切り込みの方向は繊維直交方向2で、切り込みの長さWは10.1mm(すなわち、Ws=10.1mm)であり、間隔L(繊維長さ)は30mmである。図15に示すように、隣り合う切り込みの列7aと7bは繊維直交方向に10mm移動すると、幾何的に同等である。また、繊維長手方向に対になる切り込みの列には、7aと7c、7bと7dの組があり、切り込みの列のパターンは2パターン存在する。さらに、隣り合う列の切り込みが互いに切り込んでいる5の範囲は0.1mmである。切込の方向は繊維直交方向2で、切込の長さWは10.1mm(すなわち、Ws=10.1mm)であり、間隔L(繊維長さ)は30mmである。図15に示すように、隣り合う切込の列7aと7bは繊維直交方向に10mm移動すると、幾何的に同等である。また、繊維長手方向に対になる切込の列には、7aと7c、7bと7dの組があり、切込の列のパターンは2パターン存在する。さらに、隣り合う列の切込が互いに切り込んでいる5の範囲は0.1mmである。
【0095】
<繊維強化プラスチックの成形>
図16に示すような、300×200mmの投影面積を有する、立ち壁の高20mmの弁当箱の蓋形状に段差部12cが設けられた繊維強化プラスチック16を成形した。
【0096】
(1)積層工程
まず、薄肉部12bとして、矩形の長手方向を0°として、炭素繊維の配向方向(0°方向)と、炭素繊維の配向方向から右に45度ずらした方向(45°方向)と、炭素繊維の配向直交方向(90°方向)とに切込プリプレグ基材を矩形(長270mm×幅180mm)に切り出し、[45/0/−45/90/90/−45/0/45]の積層構成で8枚積層した。
【0097】
次いで、段差部12cとして、同様に切込プリプレグ基材を矩形(長140mm×幅180mm)に切り出して[45/0]の積層構成で2枚積層し、切込プリプレグ基材を矩形(長135mm×幅180mm)に切り出して[−45/90]の積層構成で2枚積層し、切込プリプレグ基材を矩形(長130mm×幅180mm)に切り出して[90/−45]の積層構成で2枚積層し、切込プリプレグ基材を矩形(長125mm×幅180mm)に切り出して[0]の積層構成で1枚、それぞれを薄肉部12bの一方の片端部を基準に積層した。
【0098】
最後に、厚肉部12aとして、切込プリプレグ基材を矩形(長120mm×幅180mm)に切り出し、[45]の積層構成で、薄肉部12bの片端部を基準に1枚積層した。
【0099】
すなわち、厚肉部12aの積層枚数(16枚、長125mm×幅180mm)と、薄肉部12bの積層数(8枚、長130mm×幅180mm)と、その間に段差部(長15mm×幅180mm)がテーパー状に積層数が1〜2枚ずつ減じられ、積層体の両表面(長270mm×幅180mm)が[45]の同一の切込プリプレグ基材で覆われている。
【0100】
(2)成形工程
成形型は、可動型、固定型からなり、両型を合わせた際のキャビティは最終成形品の外形状と同じで、成形型には段差部が設けられている。成形型はプレス機に設置され、可動型が昇降する。成形工程における成形型の温度T1が、プリプレグ基材に用いたエポキシ樹脂組成物のDSCに拠る発熱ピーク温度Tpとほぼ同となるよう150℃に温度制御した。固定型の上に積層体を、成形型の段差部に、積層体の段差部が対応するように位置決めして配置し、成形型に予め表示している配置する箇所にマトリックス樹脂の有する粘着性で積層体を固定して型締した。このときのプレス圧は、300×200mmの面積で割り返した圧力を6MPaに調節した。積層体がキャビティより小さめに用意されているため、金型への配置に時間がかからないというメリットがあった。金型内で30分間加熱、加圧した。
【0101】
(3)脱型工程
加熱、加圧した後、成形型の温度T2をT1から低下させることなく150℃のまま成形型を型開し、繊維強化プラスチック16を取り出した。
【0102】
積層体はキャビティよりも小さかったものの隅々まで炭素繊維が流動し、成形型の外形上に沿った段差部を有する維強化プラスチックを得ることができた。段差部だけでなく、厚肉部および薄肉部ともに切込プリプレグ基材が伸長し、切込により分断された繊維束端部間に存在する切込開口部と、繊維長さLcが30mm、幅Wsが11〜15mm程度の分布を持つ短冊状の繊維束が全体的に分布していた。特にこのような段差部を有する弁当箱の蓋形状では、連続繊維基材を用いた成形では繊維が必ず突っ張るため、賦形工程として成形前にあらかじめ成形型に沿わした積層体の予賦形が必須であり、また仮に予賦形したとしてもシワや繊維の突っ張りによる表面品位悪化をなくすことは極めて困難である。本発明のように、平板状に積層した積層体から簡便に高品位な繊維強化プラスチックを得られる点が本発明の特徴であり、さらに本実施例では、トリムレスで繊維強化プラスチックが得られたため、その工数削減の効果は極めて大きい。
【0103】
(実施例2)
共重合ポリアミド樹脂(東レ(株)製“アミラン”(登録商標)CM4000、融点155℃)のペレットを、200℃で加熱した平板プレス機で34μm厚みのフィルム状に加工した。ポリアミド樹脂の25℃雰囲気下における粘度は固体であるため測定不可能であり、該基材はタック性がなかった。離型紙を用いなかった他は実施例1と同様にして、プリプレグ基材を作製し、実施例1と同様にプリプレグ基材へ切込を導入し、切込プリプレグ基材を得た。
【0104】
(1)積層工程
実施例1と同様にして積層体を得た。但し、プリプレグ基材にタックがないため、積層工程において、アイロンを用いて切込プリプレグ基材同士を仮固定して積層体を一体化した。
【0105】
(1b)予熱工程
実施例1に加えて、積層体をオーブンにて200℃に加熱し、マトリックス樹脂を予め軟化させた。
【0106】
(2)成形工程
実施例1と同様な両面型を70℃に温度制御しておき、表面温度が160℃に達した時点で予熱工程を終えてオーブンから取り出し、固定型の上に積層体を、成形型の段差部に、積層体の段差部が対応するように位置決めして配置し、前記(1b)の予熱工程にてマトリックス樹脂を軟化させておいたため高温状態で粘着性を有しており、その粘着性で積層体を成形型に予め表示している配置する箇所に固定して直ちに型締した。このときのプレス圧は、300×200mmの面積で割り返した圧力を6MPaに調節した。積層体がキャビティより小さめに作成されているため、簡単に配置でき、積層体の温度が下がりきる前にコールドプレスすることができた。
【0107】
(3)脱型工程
金型内で90秒間冷却、加圧した後、脱型した。コールドプレスであるので、脱型は非常に容易に行えた。
【0108】
積層体はキャビティよりも小さかったものの隅々まで炭素繊維が流動し、成形型の外形上に沿った段差部を有する維強化プラスチックを得ることができた。段差部だけでなく、厚肉部および薄肉部ともに切込プリプレグ基材が伸長し、切込により分断された繊維束端部間に存在する切込開口部と、繊維長さLcが30mm、幅Wsが11〜15mm程度の分布を持つ短冊状の繊維束が全体的に分布していた。若干、層間にボイドがみられたため、実施例1よりは力学特性に高くはない可能性はあるものの、本発明を用いて極めてサイクルタイムの短いコールドプレス成形を行うことができた。
【0109】
(実施例3)
実施例1と同様にして、プリプレグ基材を作製した。このプリプレグ基材に、自動裁断機を用いて図10に示すような繊維から10°方向の直線的な切込を連続的に挿入して、切込プリプレグ基材を得た。
【0110】
(1)積層工程
切込プリプレグ基材を繊維方向が同一で切込が交差するように(10°方向と−10°方向に)2枚表裏に重ねて積層し、連続的な切込によりプリプレグ基材がバラバラになるのを防いだ。
【0111】
薄肉部12bとして、この2層積層体を4セット、炭素繊維の配向方向(0°方向)と、炭素繊維の配向直交方向(90°方向)とに矩形(長270mm×幅180mm)に切り出し、[0/0/90/90/0/0/90/90]の積層構成で8枚積層した。
【0112】
次いで、厚肉部12aとして、2層積層体を4セット、矩形(長125mm×幅180mm)に切り出し、[90/90/0/0/90/90/0/0]の積層構成で、薄肉部12bの一方の片端部を基準に8枚積層した。
【0113】
すなわち、厚肉部12aの積層枚数(16枚、長125mm×幅180mm)と、薄肉部12bの積層数(8枚、長145mm×幅180mm)と、段差部(長0mm×幅180mm)が一気に積層数が4枚減じられ、積層体の片表面(長270mm×幅180mm)のみが[0]の同一の切込プリプレグ基材で覆われている。
【0114】
(1a)脱気工程
実施例1に加えて、積層した積層体を伸縮性のフィルムで覆って密閉した後にその中を減圧して脱気し、積層される際に噛み込んだエアや、マトリックス樹脂が吸湿した水分などを積層体から除去した。
【0115】
(1b)予熱工程
実施例1に加えて、積層体をオーブンにて70℃に加熱し、マトリックス樹脂を予め軟化させた。
【0116】
それ以外は、実施例1と同様にして成形を行い、繊維強化プラスチックを得た。
【0117】
得られた繊維強化プラスチックは、実施例1と同様に、キャビティ通りの形状に成形されていた。繊維強化プラスチック表面のプリプレグ基材の切込においても、ほとんど切込開口部が見られず、強化繊維が存在せずに樹脂リッチとなっている領域や、隣接層の強化繊維が覗いている領域はほとんどなく、良好な外観品位と平滑性が得られた。繊維方向は積層体を配置したときから回転しており、その回転により切込開口部を埋め、平滑な繊維強化プラスチックとなっており、特にこの効果は(1b)予熱工程により一段と顕著に発現したと推測された。また、層間には全くボイドがみられず、(1a)脱気工程によりボイドの抑制効果の確実性が増したと考えられる。
【0118】
(実施例4)
実施例1と同様にして、プリプレグ基材を作成した。このプリプレグ基材に、自動裁断機を用いて図11に示すような繊維から11°方向に、1mmの直線状の切込を断続的に挿入することで、切込を強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWsを0.34mmとした。対になる切込4d1、4d2により、繊維は分断され、得られた切込プリプレグ基材の全面で繊維長さLは30mmとなった。
【0119】
こうして得られた切込プリプレグ基材を用いた以外は、実施例1と同様に積層工程、成形工程、脱型工程を経て繊維強化プラスチックを得た。
【0120】
得られた繊維強化プラスチックは、図14(b)のように、繊維3が若干うねりながら、切込開口部18を埋め、表面にほとんど切込開口部18が見られず、切込が判別つかないレベルに良好な外観品位と平滑性を有する繊維強化プラスチックを得ることができた。
【0121】
(実施例5)
図4に示すような成形型を用いて、図1(c)のような500×500mmの正方形の平板上にダブルコンター部(直径350mmの円を境界線として、R800mmの球が頭を出した形状)および段差部が中央に設けられた繊維強化プラスチックを成形した。
【0122】
(1)積層工程
実施例1と同様にして、プリプレグ基材を作製し、まず0°、45°および90°の方向に長500×幅500mmの正方形に切り出した。正方形の中央部に直径360mmの範囲内に実施例1と同様の切込を入れ、繊維長が実質的に25mmの強化繊維のみで構成される領域を形成した。さらに、その切込を入れたプリプレグを半分の大きさ(長250mm×幅500mm)に裁断したものも用意した。
【0123】
薄肉部12bとして、部分的に切込を入れたプリプレグ基材を長500×幅500mmの正方形で[45/0/−45/90]1Sの積層構成で8枚積層した。
【0124】
次いで、厚肉部12aとして、半分に裁断した部分的に切込を入れたプリプレグ基材を長250mm×幅500mmの長方形に[45/0/−45/90]1Sの積層構成で、薄肉部12bの一方の片端部を基準に8枚積層した。
【0125】
すなわち、厚肉部12aの積層枚数(16枚、長250mm×幅500mm)と、薄肉部12bの積層数(8枚、長250mm×幅500mm)と、段差部(長0mm×幅500mm)が一気に積層数が4枚減じられ、積層体の片表面(長500mm×幅500mm)のみが[45]の同一の部分的に切込まれたプリプレグ基材で覆われている。また、25mmの強化繊維のみで構成される領域は各層すべて重なっており、図1a)のように積層体の中央部直径360mmの範囲内に不連続部37を形成した。
【0126】
(1b)予熱工程
得られた積層体をオーブンにて70℃に加熱し、マトリックス樹脂を予め軟化させ、温度変化が最小限になるように直ちに後述の位置決め用クランプにセットした。
【0127】
(2)成形工程
図4の成形型は、可動型28a、固定型28bとともに、スプリング27で支持された枠状の積層体の位置決め用クランプ(積層体固定ジグ)28dから形成されている。固定型28bはダブルコンター部25のみの形状を決定する型であり、クランプ28dは固定型28bが可動型28aにアクセスできるように平板を円形にくり抜いた枠状であり、平板部の形状を決定する型である。クランプ28dはスプリングで支えられ、型が開いている時は、固定型28bより上方、可動型28aより下方にある。成形型全体を実施例1と同様に150℃で温度制御し、積層体12をクランプ28d上に機械的に点状に把持して固定して、予め表示されている箇所に位置決めした。次に可動型28aを下降させ、段差部12cはこの段階で固定され、積層体12の伸長の起点となった。さらに可動型28aを押し込むことで、固定型28bと可動型28aとによりダブルコンター部25の形状が決定され、成形型のキャビティが閉じられた。このときのプレス圧は、500×500mmの面積で割り返した圧力が6MPaとなるよう、調節した。実施例1と同様に、金型内で30分間加熱、加圧した。
【0128】
その他は、実施例1と同様にして繊維強化プラスチックを得た。
【0129】
得られた強化繊維プラスチックは、成形型の外形上に沿ったダブルコンター部を有するものであった。実施例1と同様に表面品位はよく、ダブルコンター部のみが伸長され、切込により分断された繊維束端部間に存在する切込開口部と、繊維長さLcが30mm、幅Wsが11〜15mm程度の分布を持つ短冊状の繊維束がダブルコンター部に集中して分布していた。また、積層体12の周辺部はほとんど流動しておらず、キャビティ通り成形されていた。(1b)予熱工程により、より一層ダブルコンター部のような複雑形状にも容易に追従することができた。
【0130】
(実施例6)
図5に示すような成形型を用いて、楕円形の弁当箱の蓋形状の繊維強化プラスチックを成形した。
【0131】
(1)積層工程
積層体12を、実施例4と同様にして作製した。
【0132】
(2)成形工程
成形型としては、図5に示した最終形状をかたどった凸部(ダブルコンター部25)と、その周りに溝33を設けた片面型28cを用意した。固定型28cの周囲にはシーラント31を配し、また、真空ポンプと連結したチューブをシーラント31上に配置し脱気口26とし、150℃に温度制御されたオーブン内で加熱した。固定型28cが150℃一定となったところで、凸部の表面積よりも小さな積層体12を固定型の段差部に、積層体の段差部が対応するように位置決めして配置し、成形型に予め表示している配置する箇所にマトリックス樹脂の有する粘着性で積層体を固定して、可動型である伸縮性のシリコンラバーフィルム32を被せてシーラント31で密着させ、フィルム32と型28c間に密閉空間30を形成した。と同時に、真空ポンプを起動させ、真空引き38を行い、脱気口26から排気して、外気と密閉空間30との差圧(約0.1MPa)で軟化した積層体12を伸長させ型28cに押し付けて、ホットドレープ成形した。溝33の存在により、フィルム32がしっかり凸部の根元まで形状に沿い、凸部の根元までしっかり圧力が加わった。30分間オーブン内に放置した後、オーブンから成形装置全体を取り出し、フィルム32を破って、繊維強化プラスチックを型28cから脱型した。
【0133】
積層体12は得られた繊維強化プラスチックよりも小さな平板状であったものの、設計どおり楕円形の弁当箱の蓋のような形状の繊維強化プラスチックを得ることができた。実施例1、2と比べると成形の圧力が小さいため、大きくは伸長していないものの、ダブルコンター部の形状はきれいに転写されており、表面品位のよい繊維強化プラスチックを得ることができた。
【0134】
(実施例7)
実施例1と同様のプリプレグ基材を用いて、実施例4と同様の図11に示すような繊維から20°の方向に、1mmの直線状の切込(Wsは0.34mm)を入れ、全面で繊維長さLが30mmとなる切込プリプレグ基材を作成した。実施例1に以下の工程を追加して、実施例1と同様の繊維強化プラスチックを得た。
【0135】
(1a)脱気工程
積層した積層体を伸縮性のフィルムで覆って密閉した後にその中を減圧して脱気し、積層される際に噛み込んだエアや、マトリックス樹脂が吸湿した水分などを積層体から除去した。この工程を、後述(1b)の予熱工程での予熱温度70℃のオーブン中で行った。
【0136】
(1b)予熱工程
積層体をオーブンにて70℃に加熱し、マトリックス樹脂を予め軟化させ、図17(a)のように、積層体をR部で折り返してコの字型とし、シングルコンター形状の簡易形状に予賦形した。
【0137】
それ以外は、実施例1と同様にして成形を行い、繊維強化プラスチックを得た。
【0138】
得られた繊維強化プラスチック16は、図17(b)に示すように2つの立ち面も含め良好に繊維が充填していた。予賦形により2つの立ち面を形成していたため、積層体12の伸長方向が制御され、さらに安定した品質の繊維強化プラスチック16が得られた。また、成形時に充填した立ち面と平面の角におけるR部断面40を観察したところ、成形時に充填されたにもかかわらず、平面と変わらない積層構造(若干のうねりを含む)が形成されていた。また、層間には全くボイドがみられず、(1a)脱気工程(加えて(1b)予熱工程)によりボイドの抑制効果の確実性が増したと考えられる。
【0139】
(参考例1)
実施例1の繊維強化プラスチックが優れた力学特性を発現することを、繊維強化プラスチックの平板で実証した。実施例1と同様にして、プリプレグ基材を作製し、切込を導入して切込プリプレグ基材を作製した。炭素繊維の配向方向(0°方向)と、炭素繊維の配向方向から右に45度ずらした方向(45°方向)に、それぞれ250×250mmの大きさのサイズに切出した。切り出したプリプレグ基材を16層で疑似等方に積層して([45/0/−45/90]2S)、積層体を得た。
【0140】
さらに、上記の積層体を用いて、300×300mmのキャビティを有する平板金型上の概中央部に配置した後、加熱型プレス成形機により、6MPaの加圧のもと、150℃×30分間の条件により硬化せしめ、300×300mmの平板状の繊維強化プラスチックを得た。
【0141】
得られた平板状の繊維強化プラスチックより、長さ250±1mm、幅25±0.2mmの引張強度試験片を切り出した。JIS K−7073(1998)に規定する試験方法に従い、標点間距離を150mmとし、クロスヘッド速度2.0mm/分で引張強度を測定した。なお、本参考例においては、試験機としてインストロン(登録商標)万能試験機4208型を用いた。測定した試験片の数はn=5とし、平均値を引張強度とした。さらに、測定値より標準偏差を算出し、その標準偏差を平均値で除することにより、バラツキの指標である変動係数(CV値)を算出した。引張弾性率は43GPa、引張強度に関しても370MPaと高い値が発現し、そのCV値も3%ときわめてバラツキの小さい結果となった。
【0142】
繊維強化プラスチックは端部まで繊維が均等に流動しており、実施例1と同様に繊維長さLcが30mm、幅Wsが11〜15mm程度の分布を持つ短冊状の繊維束が表面全体にほぼ均等に分布していたことから、実施例1で得られた繊維強化プラスチックも優れた力学特性を発現することが予想された。
【0143】
(参考例2)
実施例3の繊維強化プラスチックが高力学特性であることを、繊維強化プラスチックの平板で実証した。実施例3と同様にして、2層積層体を得た。この2層積層体から、炭素繊維の配向方向(0°方向)と、炭素繊維の配向方向から右に45度ずらした方向(45°方向)に、それぞれ250×250mmの大きさに切り出し、2層積層体を8枚それぞれの方向に疑似等方([45/45/0/0/−45/−45/90/90]S)に積層して、全面に切込を有する250×250mmの積層体を得た。
【0144】
こうして得られた積層体を参考例1と同様にしてホットプレス成形し、平板の繊維強化プラスチックを得た。得られた繊維強化プラスチックを参考例1と同様に引張試験した。引張弾性率は46GPa、引張強度に関しても470MPaと高い値が発現し、そのCV値も4%ときわめてバラツキの小さい結果となった。
【0145】
繊維強化プラスチックは端部まで繊維が均等に流動しており、表面にほとんど切込開口部が見られず、繊維方向も積層体を配置したときから回転している様子も実施例3と同様であるため、実施例3で得られた繊維強化プラスチックも優れた力学特性を発現することが予想された。
【0146】
(参考例3)
実施例4の繊維強化プラスチックが高力学特性であることを、平板で実証した。実施例4と同様にして、切込プリプレグ基材を得、参考例1と同様にして切り出し、積層、ホットプレス成形した。得られた繊維強化プラスチックを参考例1と同様に引張試験したところ、引張弾性率は46GPa、引張強度は620MPaと高い値が発現し、そのCV値も4%ときわめてバラツキの小さい結果となった。繊維強化プラスチックは端部まで繊維が均等に流動しており、繊維が若干うねりながら、切込開口部を埋め、表面にほとんど切込開口部が見られず、切込があったことさえ、見分けがつかない様子も実施例4と同様であるため、実施例4で得られた繊維強化プラスチックも優れた力学特性を発現することが予想された。
【0147】
(比較例1)
実施例1と同じ、図16に示す段差部が設けられた繊維強化プラスチックを連続繊維プリプレグ基材で成形した。実施例1と同様にして、プリプレグ基材を作製した。プリプレグ基材に切込を入れずに、実施例1と同様に積層して積層体を得、成形を行った。
【0148】
得られた繊維強化プラスチックは、特に立ち壁での段差部の表面はざらざらで、繊維強化プラスチックが成形型に完全に密着できていなかった。この原因は、連続の炭素繊維が突っ張り、積層体が伸長することができず、成形型に沿わなかったことが原因と推測された。
【0149】
(比較例2)
実施例1と同じ、図16に示す段差部が設けられた繊維強化プラスチックをSMC基材で成形した。用いたSMCとしては、次のものを用いた。マトリックス樹脂としてビニルエステル樹脂(ダウ・ケミカル(株)製、デラケン790)を100重量部、硬化剤としてtert−ブチルパーオキシベンゾエート(日本油脂(株)製、パーブチルZ)を1重量部、内部離型剤としてステアリン酸亜鉛(堺化学工業(株)製、SZ−2000)を2重量部、増粘剤として酸化マグネシウム(協和化学工業(株)製、MgO#40)を4重量部用いて、それらを十分に混合撹拌し、樹脂ペーストを得た。樹脂ペーストをドクターブレードにて、ポリプロピレン製の離型フィルム上に塗布した。その上から、長さ25mmにカットされた炭素繊維束(引張強度4,900MPa、引張弾性率235GPa、12,000本)を単位面積あたりの重量が500g/m2になるよう均一に落下、散布した。さらに、樹脂ペーストを塗布したもう一方のポリプロピレンフィルムとで樹脂ペースト側を内にして挟んだ。炭素繊維のSMCシートに対する体積含有量Vfは40%とした。得られたシートを40℃にて24時間静置することにより、樹脂ペーストを十分に増粘化させて、SMCシートを得た。このSMCシートを270×180mmの矩形に切り出し、3枚積層し、積層体を得た。その後は実施例1と同様に成形し、繊維強化プラスチックを得た。
【0150】
得られた繊維強化プラスチックはキャビティの端部まで繊維が十分に流動していた。ソリはなかったが、表面に繊維の粗密による若干のヒケが見られた。また、Vfが40%であることから、強度も実施例1ほどは得られないと推測された。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】本発明の繊維強化プラスチックの製造方法の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明に用いる積層体の流動のメカニズムの一例を示す断面図である。
【図3】本発明に用いる積層体の一例を示す平面図および断面図である。
【図4】本発明の繊維強化プラスチックの製造方法の一例を示す断面図である。
【図5】本発明の繊維強化プラスチックの製造方法の一例を示す平面図および断面図である。
【図6】本発明に用いる切込プリプレグ基材の一例を示す拡大平面図である。
【図7】本発明に用いる切込プリプレグ基材の例を示す平面図である。
【図8】本発明に用いる積層体の切込位置関係の例を示す平面図である。
【図9】本発明に用いる積層体の伸長の様子の一例を示す平面図および断面図である。
【図10】本発明に用いる切込プリプレグ基材の一例を示す拡大平面図である。
【図11】本発明に用いる切込プリプレグ基材の一例を示す拡大平面図である。
【図12】本発明に用いる切込プリプレグ基材の例を示す平面図である。
【図13】本発明に用いる積層体の伸長の様子の一例を示す平面図および断面図である。
【図14】本発明に用いる積層体の伸長の様子の一例を示す平面図である。
【図15】本発明に用いる切込プリプレグ基材の一例を示す拡大平面図である。
【図16】本発明により製造された繊維強化プラスチックの一例を示す概略図である。
【図17】本発明の繊維強化プラスチックの製造方法の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0152】
1:繊維長手方向
2:繊維直交方向
3:強化繊維
4:強化繊維の不連続端(切込)
4a:a層の切込
4b:b層の切込
4c:連続的な切込
4d(4d1,4d2):断続的な切込
5:互いに切り込んでいる幅
6:繊維方向に対になる切込の幾何中心同士の間隔L(繊維長さL)
7:断続的な切込の列
7a:第1の断続的な切込の列
7b:第2の断続的な切込の列
7c:第3の断続的な切込の列
7d:第4の断続的な切込の列
8:切込の幾何中心
8a:a層の切込の幾何中心
8b:b層の切込の幾何中心
9:切込を強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWs
10:切込プリプレグ基材
10a:全面に切込が入れられた切込プリプレグ基材
10b:一部に切込が入れられた切込プリプレグ基材
10c:プリプレグの不連続端
11:連続繊維のプリプレグ基材
12:積層体
12a:厚肉部
12b:薄肉部
12c:段差部
13:積層体に加わる圧力
14:樹脂の流れ
15:強化繊維の不連続端の開き
16:繊維強化プラスチック
17:不連続繊維層
18:強化繊維の存在しない領域(切込開口部)
19:隣接層
20:樹脂リッチ部
21:層うねり
22:強化繊維の不連続端
23:切込と繊維方向のなす角度Θ
24:強化繊維の回転
25:ダブルコンター部
26:脱気口
27:スプリング
28:成形型
28a:可動型
28b、28c:固定型
28d:積層体の位置決め用クランプ
29、30:キャビティ
31:シーラント
32:伸縮性フィルム
33:溝
34:切込プリプレグ基材を2層積層した基材
35:2つの対になる繊維束分断部に囲まれた領域(短冊状の繊維束)
36:凸形状
37:繊維が10〜100mmの長さに分断された切込プリプレグ基材のみが積層されてなる切込部
38:減圧
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に引き揃えられた強化繊維とマトリックス樹脂とを含んで構成されるプリプレグ基材の積層体をプレス成形して板厚の異なる段差部を有する繊維強化プラスチックを製造する方法であって、前記プリプレグ基材として、前記強化繊維を横切る方向に複数の切込によって少なくとも一部の強化繊維を10〜100mmの長さに分断した切込プリプレグ基材を用いて、少なくとも次の(1)〜(3)の工程を順次経て繊維強化プラスチックを成形する、繊維強化プラスチックの製造方法。
(1)少なくとも切込プリプレグ基材を含む複数枚のプリプレグ基材を積層して積層体を得るに際し、少なくとも前記積層体の一部に、プリプレグ基材の積層数が多い厚肉部と、プリプレグ基材の積層数が少ない薄肉部と、厚肉部と薄肉部との境界である段差部とが形成されるように積層し、板厚の異なる平板状の積層体を得る積層工程
(2)積層体を成形型に押し付けて硬化または固化させ、繊維強化プラスチックとするに際し、前記積層体を、前記成形型に設けられている段差部に、該積層体の段差部が対応するように位置決めして該成形型に配置し、前記積層体の厚肉部、薄肉部または段差部の少なくともいずれかを伸長させて、前記成形型の厚肉部、薄肉部、段差部のそれぞれに充填させる成形工程
(3)前記成形型から前記繊維強化プラスチックを取り出す脱型工程
【請求項2】
前記(2)の成形工程において、積層体の成形型への位置決め手段が、成形型もしく積層体固定ジグに予め表示している配置する箇所に、機械的に把持して固定するか、または、マトリックス樹脂の有する粘着性で固定するものである、請求項1に記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項3】
切込プリプレグ基材の切込が直線状であり、切込の長さWが30μm〜100mmであり、かつ、切込が強化繊維となす角度Θの絶対値が2〜15°の範囲内で、断続的かつ周期的に配置されている、請求項1または2に記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項4】
前記(1)の積層工程において、積層体の段差部がテーパー状になるように積層するとともに、該積層体の両表面のプリプレグ基材を、該両表面のプリプレグ基材以外のプリプレグ基材を覆うように配置する、請求項1または2に記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項5】
繊維強化プラスチックがダブルコンター部を有する形状であり、前記(1)の積層工程において、少なくとも前記積層体の一部に、切込により強化繊維が10〜100mmの長さに分断した切込プリプレグ基材のみが積層されている切込部が形成されるように積層し、前記(2)の成形工程において、成形型のダブルコンター部に切込部を配置し、切込部を伸長させてダブルコンター部に沿わせて成形する、請求項1〜4のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項6】
前記(2)の成形工程に先立って、(1b)積層体を加熱してマトリックス樹脂を軟化させる予熱工程を経る、請求項1〜5のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項7】
前記(2)の成形工程、または、前記(1b)の予熱工程に先立って、(1a)積層体を脱気する脱気工程を経る、請求項1〜6のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項8】
繊維強化プラスチックがダブルコンター部を有する形状であり、前記(1b)の予熱工程において、シングルコンター部を有する簡易形状に積層体に予賦形を行い、前記(2)の成形工程において、ダブルコンター部を有する形状に成形する、請求項6または7記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項9】
前記(2)の成形工程において、成形型が少なくとも可動型と固定型とで構成され、積層体を、可動型を固定型に押し付けて成形するに際し、積層体が成形型に最初に接触する部分に少なくとも段差部を配置する、請求項1〜8のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項10】
前記(2)の成形工程において、成形型が少なくとも固定型と伸縮性フィルムからなる可動型とで構成され、伸縮性フィルムと固定型とで形成するキャビティと外気との差圧により積層体を固定型に押し付けて成形する、請求項9に記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項11】
マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂であり、前記(1b)の予熱工程における加熱温度が、前記(2)の成形工程の成形型の温度よりも低い、請求項6〜10のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項12】
マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂であり、前記(1b)の予熱工程における加熱温度が、前記(2)の成形工程の成形型の温度よりも高い、請求項6〜10のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項13】
前記(3)の脱型工程の後に、(4)繊維強化プラスチックを前記(2)の成形工程の成形型温度以上の温度に加熱する後加熱工程を経る、請求項1〜12のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項14】
積層体が切込プリプレグ基材のみから構成される、請求項1〜13のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項1】
一方向に引き揃えられた強化繊維とマトリックス樹脂とを含んで構成されるプリプレグ基材の積層体をプレス成形して板厚の異なる段差部を有する繊維強化プラスチックを製造する方法であって、前記プリプレグ基材として、前記強化繊維を横切る方向に複数の切込によって少なくとも一部の強化繊維を10〜100mmの長さに分断した切込プリプレグ基材を用いて、少なくとも次の(1)〜(3)の工程を順次経て繊維強化プラスチックを成形する、繊維強化プラスチックの製造方法。
(1)少なくとも切込プリプレグ基材を含む複数枚のプリプレグ基材を積層して積層体を得るに際し、少なくとも前記積層体の一部に、プリプレグ基材の積層数が多い厚肉部と、プリプレグ基材の積層数が少ない薄肉部と、厚肉部と薄肉部との境界である段差部とが形成されるように積層し、板厚の異なる平板状の積層体を得る積層工程
(2)積層体を成形型に押し付けて硬化または固化させ、繊維強化プラスチックとするに際し、前記積層体を、前記成形型に設けられている段差部に、該積層体の段差部が対応するように位置決めして該成形型に配置し、前記積層体の厚肉部、薄肉部または段差部の少なくともいずれかを伸長させて、前記成形型の厚肉部、薄肉部、段差部のそれぞれに充填させる成形工程
(3)前記成形型から前記繊維強化プラスチックを取り出す脱型工程
【請求項2】
前記(2)の成形工程において、積層体の成形型への位置決め手段が、成形型もしく積層体固定ジグに予め表示している配置する箇所に、機械的に把持して固定するか、または、マトリックス樹脂の有する粘着性で固定するものである、請求項1に記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項3】
切込プリプレグ基材の切込が直線状であり、切込の長さWが30μm〜100mmであり、かつ、切込が強化繊維となす角度Θの絶対値が2〜15°の範囲内で、断続的かつ周期的に配置されている、請求項1または2に記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項4】
前記(1)の積層工程において、積層体の段差部がテーパー状になるように積層するとともに、該積層体の両表面のプリプレグ基材を、該両表面のプリプレグ基材以外のプリプレグ基材を覆うように配置する、請求項1または2に記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項5】
繊維強化プラスチックがダブルコンター部を有する形状であり、前記(1)の積層工程において、少なくとも前記積層体の一部に、切込により強化繊維が10〜100mmの長さに分断した切込プリプレグ基材のみが積層されている切込部が形成されるように積層し、前記(2)の成形工程において、成形型のダブルコンター部に切込部を配置し、切込部を伸長させてダブルコンター部に沿わせて成形する、請求項1〜4のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項6】
前記(2)の成形工程に先立って、(1b)積層体を加熱してマトリックス樹脂を軟化させる予熱工程を経る、請求項1〜5のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項7】
前記(2)の成形工程、または、前記(1b)の予熱工程に先立って、(1a)積層体を脱気する脱気工程を経る、請求項1〜6のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項8】
繊維強化プラスチックがダブルコンター部を有する形状であり、前記(1b)の予熱工程において、シングルコンター部を有する簡易形状に積層体に予賦形を行い、前記(2)の成形工程において、ダブルコンター部を有する形状に成形する、請求項6または7記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項9】
前記(2)の成形工程において、成形型が少なくとも可動型と固定型とで構成され、積層体を、可動型を固定型に押し付けて成形するに際し、積層体が成形型に最初に接触する部分に少なくとも段差部を配置する、請求項1〜8のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項10】
前記(2)の成形工程において、成形型が少なくとも固定型と伸縮性フィルムからなる可動型とで構成され、伸縮性フィルムと固定型とで形成するキャビティと外気との差圧により積層体を固定型に押し付けて成形する、請求項9に記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項11】
マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂であり、前記(1b)の予熱工程における加熱温度が、前記(2)の成形工程の成形型の温度よりも低い、請求項6〜10のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項12】
マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂であり、前記(1b)の予熱工程における加熱温度が、前記(2)の成形工程の成形型の温度よりも高い、請求項6〜10のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項13】
前記(3)の脱型工程の後に、(4)繊維強化プラスチックを前記(2)の成形工程の成形型温度以上の温度に加熱する後加熱工程を経る、請求項1〜12のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項14】
積層体が切込プリプレグ基材のみから構成される、請求項1〜13のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2009−292002(P2009−292002A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−146554(P2008−146554)
【出願日】平成20年6月4日(2008.6.4)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月4日(2008.6.4)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
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