説明

繊維強化プラスチック平板およびその製造方法

【課題】強化繊維として、例えば長さ1インチ程度のガラス繊維等のように平板厚みよりも長い長繊維を含有するSMCまたはBMCによる繊維強化プラスチック平板において、強度を維持しつつ平板の反りを低減することができる繊維強化プラスチック平板およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】シートモールディングコンパウンド(SMC)またはバルクモールディングコンパウンド(BMC)による成型品である繊維強化プラスチック平板において、前記成型品の平板厚みよりも全長が長い長繊維と、この平板厚みよりも全長が短い短繊維および/または放射状針状結晶とを含有することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化プラスチック平板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維強化プラスチック(FRP)は複合材料であり、一般に熱硬化性樹脂、無機充填剤、強化繊維としてのガラス繊維等から構成される。
【0003】
繊維強化プラスチック成型品のうち、特にシートモールディングコンパウンド(SMC)やバルクモールディングコンパウンド(BMC)を用いた成型品では、高温高圧のプレス工程により非常に短サイクルでの成型品の作製が可能となっている(特許文献1、2参照)。そのため、一般家庭に多く用いられる浴槽、洗い場床、洗面カウンター等のSMCやBMCによる繊維強化プラスチック成型品が商品化されている。
【0004】
SMCやBMCの成型品は一般に、意匠面の欠陥を抑制したり、金型の面転写性を良くしたりするために、意匠面側の温度を最裏面側に比べて5〜15℃高くして成型されることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−231641号公報
【特許文献2】特開2005−232408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この温度差に起因して、金型取り出し(脱型)後、材料収縮量の差により成型面内のうねりや成型品全体としての反り等を生じる傾向がある。
【0007】
そのため、特に平板に近い成型品をSMCやBMCを用いて成型する際には、反りを抑制するために、リブ構造を設けて補強したり、肉厚を増したりすることにより材料剛性を上げ、脱型後の線膨張差による反りを低減することが多い。
【0008】
しかしながら、例えばキッチンに用いられる天板(キッチンカウンター)等に用いられる繊維強化プラスチック平板の場合には、収納部位との兼ね合いにより、前記のようなリブ構造を設けることが難しい。そのため、成型後に材料収縮が終了するまで、すなわち成型温度から常温に下がるまで繊維強化プラスチック平板を矯正治具に取り付け、反りを矯正することが多い。
【0009】
また、材料全体の線膨張を小さくし、脱型後の熱収縮を小さくするために、大量の無機充填剤を配合することや、大量のポリスチレンやブタジエンゴム等の低収縮剤を配合することにより低収縮化を図る場合もある。
【0010】
しかしながら、大量の無機充填剤を配合すると、金型内の樹脂流動性が低下することにより成型不良が発生する場合がある。また、大量の低収縮剤を配合すると、低収縮剤に起因するボイドによる白濁等により、透明性が低下して意匠性の低下を生じる場合がある。そのため、キッチンカウンター等では、無機充填剤や低収縮剤は必要最低限の量しか配合されないのが通常である。
【0011】
また、特にSMCにおいては、強化繊維として長さ1インチ(2.54cm)程度のガラス繊維が用いられることが多いが、一般的な繊維強化プラスチック平板の平板厚み(3〜5mm程度)に対してガラス繊維が極端に長くなる。そのため、基本的にガラス繊維は平板面に対して2次元的にしか配向できず、成型品の収縮率低減とそれによる平板厚み方向の反り低減を実現することが困難となっている。
【0012】
本発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、強化繊維として、例えば長さ1インチ程度のガラス繊維等のように平板厚みよりも長い長繊維を含有するSMCまたはBMCによる繊維強化プラスチック平板において、強度を維持しつつ平板の反りを低減することができる繊維強化プラスチック平板およびその製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明の繊維強化プラスチック平板は、シートモールディングコンパウンド(SMC)またはバルクモールディングコンパウンド(BMC)による成型品である繊維強化プラスチック平板において、前記成型品の平板厚みよりも全長が長い長繊維と、この平板厚みよりも全長が短い短繊維および/または放射状針状結晶とを含有することを特徴としている。
【0014】
この繊維強化プラスチック平板においては、前記放射状針状結晶としてテトラポット状の針状結晶を含有することが好ましい。
【0015】
本発明の繊維強化プラスチック平板は、SMCまたはBMCによる成型品である繊維強化プラスチック平板において、前記成型品の平板厚みよりも全長が長い長繊維と、この平板厚みに対する全長の比率が5:4〜50:1の範囲内にある短繊維および/または結晶とを含有することを特徴としている。
【0016】
本発明の繊維強化プラスチック平板の製造方法は、SMCまたはBMCによる成型品である繊維強化プラスチック平板の製造方法において、前記成型品の平板厚みよりも全長が長い長繊維と、この平板厚みよりも全長が短い短繊維および/または放射状針状結晶とを含有する前記SMCまたはBMCを調製する工程と、前記SMCまたはBMCを金型に設置し意匠面の温度を最裏面の温度よりも高くして成型する工程とを含むことを特徴としている。
【0017】
この繊維強化プラスチック平板の製造方法においては、前記放射状針状結晶としてテトラポット状の針状結晶を含有することが好ましい。
【0018】
本発明の繊維強化プラスチック平板の製造方法は、SMCまたはBMCによる成型品である繊維強化プラスチック平板の製造方法において、前記成型品の平板厚みよりも全長が長い長繊維と、この平板厚みに対する全長の比率が5:4〜50:1の範囲内にある短繊維および/または結晶とを含有する前記SMCまたはBMCを調製する工程と、前記SMCまたはBMCを金型に設置し意匠面の温度を最裏面の温度よりも高くして成型する工程とを含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明の繊維強化プラスチック平板によれば、強度を維持しつつ平板の反りを低減することができる。
【0020】
本発明の繊維強化プラスチック平板の製造方法によれば、成型時における意匠面と最裏面との金型温度差により生じる収縮速度の違いに起因する平板の反りを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(a)は長繊維、(b)は短繊維、(c)はテトラポット状の針状結晶、(d)はアラレ石の全長を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0023】
本発明において、SMCまたはBMC用のコンパウンド(樹脂組成物)としては、例えば、熱硬化性樹脂として不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等を用いた熱硬化性樹脂組成物を用いることができる。中でも、熱硬化性樹脂としては不飽和ポリエステル樹脂が好ましい。
【0024】
不飽和ポリエステル樹脂を用いたコンパウンドとしては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、重合性単量体、低収縮剤、および無機充填剤を配合するとともに、繊維を含む強化材料として、繊維強化プラスチック平板の成型品の平板厚みよりも全長が長い長繊維と、この平板厚みよりも全長が短い短繊維および/または結晶とを配合したものを用いることができる。
【0025】
不飽和ポリエステル樹脂は、脂肪族不飽和ポリカルボン酸、脂肪族飽和ポリカルボン酸、芳香族ポリカルボン酸等の不飽和または飽和のポリカルボン酸と、ジオール、トリオール、テトラオール等の有機ポリオールとの縮合反応により得られる熱硬化性樹脂である。
【0026】
脂肪族不飽和ポリカルボン酸としては、例えば、(無水)マレイン酸、フマル酸等を用いることができる。脂肪族飽和ポリカルボン酸としては、例えば、セバシン酸、(無水)コハク酸、アジピン酸等を用いることができる。芳香族ポリカルボン酸としては、例えば、(無水)フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
有機ポリオールとしては、例えば、脂肪族ポリオール、芳香族ポリオール等を用いることができる。脂肪族ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサメチレングリコール、トリメチレングリコール、グリセリン、水素化ビスフェノールA等を用いることができる。芳香族ポリオールとしては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールS等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
重合性単量体としては、特に限定されず、一般に繊維強化プラスチックに用いられるもの、例えば熱硬化性樹脂と架橋可能な不飽和単量体等を用いることができる。例えば、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、アクリル酸エステル(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等)、メタクリル酸エステル(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等)を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
低収縮剤は、不飽和ポリエステル樹脂の硬化収縮を低減させる目的で配合されるものであり、通常は熱可塑性樹脂が用いられる。低収縮剤としては、例えば、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、セルロース・アセテート・ブチレート、ポリカプロラクタン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン酢酸ビニル共重合体等のポリスチレン変性共重合体等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
低収縮剤の配合量は、不飽和ポリエステル樹脂、重合性単量体、および低収縮剤の混合物を100質量部とした場合に、固形分として3〜20質量部が好ましい。低収縮剤の配合量が少な過ぎると、不飽和ポリエステル樹脂の硬化収縮を十分に抑制することができない場合がある。また、その結果として成型時のクラック発生や表面外観不良が生じる場合がある。低収縮剤の配合量が多過ぎると、コンパウンド粘度が上昇して含浸不良等が発生し、成型品にピンホールや強度欠陥部を生じてしまう場合がある。また、粘度を低下させるために希釈溶剤を多量に添加すると、増粘不良による分離に起因する成型時の色むら等が発生する場合がある。
【0031】
無機充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、シリカ、マイカ、ガラスビーズ等の無機物を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。例えば、無機充填剤として平均粒径2〜20μmの粒子状無機物を用いることができる。
【0032】
無機充填剤の配合量は、不飽和ポリエステル樹脂、重合性単量体、および低収縮剤の混合物を100質量部とした場合に、100〜250質量部が好ましい。無機充填剤の配合量が少な過ぎると、SMC、BMC中におけるガラス繊維等の強化繊維の流動時の分散が均一になりにくいため、強度バラツキが大きくなり易くなる。無機充填剤の配合量が多過ぎると、コンパウンドの粘性が高くなり過ぎ、ガラス繊維等の繊維材料への樹脂含浸が悪くなり、繊維強化プラスチックとしての強度が発現されにくくなる。
【0033】
繊維を含む強化材料としては、繊維強化プラスチック平板の成型品の平板厚みよりも全長が長い長繊維と、この平板厚みよりも全長が短い短繊維および/または結晶とを配合したものを用いることができる。
【0034】
長繊維は、その全長が繊維強化プラスチック平板の成型品の平板厚みよりも長いものであり、例えば、従来より不飽和ポリエステル樹脂による繊維強化プラスチックの強化繊維として用いられているガラス繊維を用いることができる。また、ガラス繊維の代替物として、例えば、炭素繊維、金属繊維、ビニロン繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維等も用いることができる。
【0035】
短繊維は、その全長が繊維強化プラスチック平板の成型品の平板厚みよりも短いものであり、例えば、ガラス繊維を用いることができる。また、ガラス繊維の代替物として、例えば、炭素繊維、金属繊維、ビニロン繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維等も用いることができる。
【0036】
結晶は、その全長が繊維強化プラスチック平板の成型品の平板厚みよりも短いものである。結晶は、線膨張が不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂よりも小さいことが好ましく、このような点を考慮すると線膨張率が10-5以下の材質のものが好ましい。
【0037】
結晶としては、例えば、無機結晶を用いることができる。無機結晶としては、例えば、無機鉱物の結晶化されたものを用いることができ、中でも強化材料として要求される特性等を考慮すると、放射状針状結晶が好ましい。
【0038】
放射状針状結晶としては、例えば、炭酸カルシウム放射状針状結晶、テトラポット状の針状結晶である酸化亜鉛単結晶体等を用いることができる。炭酸カルシウム放射状針状結晶としては、例えば、アラレ石を用いることができる。酸化亜鉛単結晶体としては、例えば、市販の酸化亜鉛ウィスカ(パナテトラ(登録商標))を用いることができる。
【0039】
繊維強化プラスチック平板におけるプラスチックの強化材料として、繊維を含む強化材料、すなわち前記の長繊維と、短繊維および/または結晶とを併用することで、強度を付与するとともに平板の反りを低減することができる。すなわち、短繊維と結晶は、その全長が繊維強化プラスチック平板の成型品の平板厚みよりも短いため平板厚み方向に配向することができる。そのため、2次元的にしか配向できない長繊維のみを用いた場合に比べて成型品の収縮を抑制し、これにより平板の反りを低減することができる。そして長繊維を短繊維および/または結晶と適切に併用することで、成型品の強度も十分に高めることができる。
【0040】
繊維と結晶は、平板厚みに対する全長の比率が好ましくは5:4〜50:1の範囲内にある。比率をこの範囲内にすることで、平板の反りを特に低減することができる。
【0041】
なお、本発明において全長とは、図1(a)〜(d)を参照しながら説明すると、図1(a)の長繊維1の場合は、全長Lはその繊維に沿った長さのことである。図1(b)の短繊維2の場合も全長Lはその繊維に沿った長さのことである。図1(c)のテトラポット状の針状結晶3や図1(d)のアラレ石4の場合は、全長Lはその最大長さのことである。なお、これらの全長Lは統計的に有意な平均値として定義することもできる。
【0042】
強化材料としての長繊維と短繊維および/または結晶との合計での配合量は、最終成型品の10〜40wt%の範囲内であることが好ましい。この配合量が少な過ぎると強化材料による補強作用が十分に発現しない場合があり、この配合量が多過ぎると外観の低下等が生じる場合がある。
【0043】
長繊維と短繊維および/または結晶との配合比率は、好ましくは質量比率で5:10〜10:5である。配合比率をこの範囲内にすることで、強度維持と平板の反りを低減することができる。
【0044】
不飽和ポリエステル樹脂を用いたコンパウンドには、前記の成分以外に、必要に応じて他の成分を配合することができる。このような他の成分としては、例えば、増粘剤、不飽和ポリエステル樹脂の硬化条件を調整するための硬化剤、硬化促進剤、重合禁止剤等が挙げられる。その他、着色剤、離型剤等の有機系、無機系の添加剤を必要に応じて配合することができる。
【0045】
以上に説明したような配合成分を原料としてSMCを調製し繊維強化プラスチック平板を成型する際には、その方法は特に限定されないが、例えば、次のようにして行うことができる。
【0046】
SMCは、例えば、公知のSMC製造装置を用いて、前記の配合成分を含むコンパウンドの塗布等により、1〜5mm程度の所定厚みのシート状にすることができる。これを例えば35℃〜50℃程度で一定期間熟成させ、コンパウンドを増粘させることにより、SMCを得ることができる。
【0047】
このSMCを用いて成型を行う際には、例えば、上金型(キャビティ)および下金型(コア)を備えた金型を用いて行うことができる。
【0048】
なお、SMCは1枚のシートを単独で用いてその片面を意匠面として成型することができるが、意匠面のSMCと最裏面のSMCとを積層して金型に設置し、あるいは意匠面のSMCと最裏面のSMCとの間に1枚または複数枚のSMCを設置して2枚以上のSMCの積層体として成型することもできる。
【0049】
上金型および下金型によりSMCシートまたはその積層体を加熱加圧することにより成型を行い繊維強化プラスチック平板の成型品を得ることができる。このとき、意匠面の欠陥を抑制したり、金型の面転写性を良くしたりするために、SMCシートまたはその積層体の意匠面の温度を最裏面の温度よりも高くして成型を行うことができる。例えば、意匠面側の温度を最裏面側に比べて5〜15℃高くして成型することができる。
【0050】
成形条件は、特に限定されないが、例えば、成形圧力3〜10MPa、金型温度125〜150℃、成形時間3〜7分で行うことができる。
【0051】
このようにして、繊維強化プラスチック平板を得ることができる。
【0052】
以上に、SMCを用いて繊維強化プラスチック平板を成型する場合について説明したが、コンパウンドとしてBMCを用いる場合も、上述したSMCの場合と同様に、BMCを金型に設置して成型することができる。
【0053】
本発明の繊維強化プラスチック平板は、成型品の平板厚みよりも全長が長い長繊維と、この平板厚みよりも全長が短い短繊維および/または結晶とを含有している。好ましい態様では、成型品の平板厚みよりも全長が長い長繊維と、この平板厚みよりも全長が短い短繊維および/または放射状針状結晶とを含有している。好ましい別の態様では、成型品の平板厚みよりも全長が長い長繊維と、この平板厚みに対する全長の比率が5:4〜50:1の範囲内にある繊維および/または結晶とを含有している。
【0054】
このような本発明の繊維強化プラスチック平板によれば、強度を維持しつつ平板の反りを低減することができる。すなわち、短繊維と結晶は、その全長が繊維強化プラスチック平板の成型品の平板厚みよりも短いため厚み方向に配向することができる。そのため2次元的にしか配向できない長繊維のみを用いた場合に比べて成型品の収縮を抑制し、平板の反りを低減することができる。そしてプラスチックの強化材料として、長繊維と短繊維および/または結晶とを適切に併用することで、強度も維持することができる。
【0055】
そして、本発明の繊維強化プラスチック平板の製造方法は、前記のような長繊維と短繊維および/または結晶とを含有するSMCまたはBMCを調製する工程と、SMCまたはBMCを金型に設置し意匠面の温度を最裏面の温度よりも高くして成型する工程とを含む。
【0056】
このような本発明の繊維強化プラスチック平板の製造方法によれば、成型時における意匠面と最裏面との金型温度差により生じる収縮速度の違いに起因する平板の反りを低減することができる。
【0057】
本発明の繊維強化プラスチック平板は、反りが少なく、また従来のような成型後の反り矯正、リブ構造、厚肉化による剛性向上等を必要としないため、例えば、浴槽、洗面化粧台、キッチンのカウンター等の住宅設備機器等に好適である。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0059】
<実施例1>
1.SMCの作製
SMC用のコンパウンドの材料として次のものを用いた。
(不飽和ポリエステル樹脂)
昭和高分子株式会社製、M−580
(重合性単量体)
スチレン、三菱化学株式会社製、CAS(100−42−5)準拠スチレンモノマー
(無機充填剤)
水酸化アルミニウム、住友化学株式会社製、CW−308
(低収縮剤)
昭和高分子株式会社製、M−5590−2
(増粘剤)
酸化マグネシウム、協和化学株式会社製、キョーマグ#40
(ガラス繊維)
日東紡績株式会社製、RS480PB−549
【0060】
なお、ガラス繊維の長さは切断工程により適宜に調整した。
【0061】
まず、不飽和ポリエステル樹脂80質量部と低収縮剤/重合性単量体溶液15質量部(質量比35/65)と、水酸化アルミニウム200質量部とを混合して樹脂組成物を得た。また、酸化マグネシウム1質量部と低収縮剤5質量部とを予備混合して増粘材料を得た。この増粘材料と前記の樹脂組成物とを本混合し、その後長繊維として全長1インチのガラス繊維を10wt%(全量に対するwt%)、短繊維として全長4mmのガラス繊維を5wt%の割合でSMC作製工程により含浸させ、SMCシートを得た。このコンパウンドを40℃で24時間養生させてSMCを得た。
【0062】
<実施例2>
実施例1において、短繊維のガラス繊維の全長を2mmに変更した。それ以外は実施例1と同様にしてSMCを得た。
【0063】
<実施例3、4>
実施例1において、長繊維のガラス繊維と短繊維のガラス繊維の配合量を表1に示すように変更した。それ以外は実施例1と同様にしてSMCを得た。
【0064】
<実施例5>
実施例1において、短繊維のガラス繊維を放射状針状結晶のアラレ石(非市販品)5wt%に変更した。それ以外は実施例1と同様にしてSMCを得た。
【0065】
<実施例6>
実施例1において、短繊維のガラス繊維を放射状針状結晶(テトラポット状の針状結晶)の酸化亜鉛単結晶体(株式会社アムテック製「パナテトラ WZ-0511L」)5wt%に変更した。それ以外は実施例1と同様にしてSMCを得た。
【0066】
<比較例1>
実施例1において、短繊維を配合せずに、長繊維の全長1インチのガラス繊維を15wt%配合した。それ以外は実施例1と同様にしてSMCを得た。
【0067】
<比較例2>
実施例1において、長繊維を配合せずに、短繊維の全長4mmのガラス繊維を15wt%配合した。それ以外は実施例1と同様にしてSMCを得た。
前記の実施例および比較例のSMCを用いて次の測定および評価を行った。
【0068】
[寸法収縮率]
高温側/低温側(意匠面側/最裏面側):145℃/130℃の平板プレス機により成型して300mm角、5mm厚の繊維強化プラスチック平板の成型品を作製し評価板を得た。この評価板の成型後の寸法を測定し、300mmからの収縮量を測定しその成型品の寸法収縮率とした。
【0069】
[平均反り量]
前記の評価板を常盤上に設置し、評価板の中心から上下左右方向および対角方向の辺の近傍位置における合計8箇所において中心との厚み方向の変位を測定することにより各点の反り量とし、変位量の8点平均値を成型品の平均反り量とした。
【0070】
[強度]
強度としては、JIS K 7017に示される条件を用いて曲げ強度試験を実施し、その最大応力値を強度とした。
【0071】
以上の測定に基づき実施例および比較例の繊維強化プラスチック平板について平板反りと強度の観点から次の基準により評価した。
◎:平均反り量1.0mm未満かつ強度60MPa以上
○:平均反り量1.0mm以上2.0mm未満かつ強度60MPa以上
×:平均反り量2.0mm以上または強度60MPa未満
【0072】
以上の測定結果および評価結果を表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
表1より、実施例1〜6の繊維強化プラスチック平板は、短繊維または放射状針状結晶を配合せず強化材料として長繊維のみ配合した比較例1に比べて平板の反りが大きく低減した。また、強化材料として長繊維を配合せず短繊維のみ配合した比較例2では反りは低減したものの強度が大幅に低下したが、実施例1〜6の繊維強化プラスチック平板は、所要の強度も確保することができた。
【符号の説明】
【0075】
1 長繊維
2 短繊維
3 テトラポット状の針状結晶
4 アラレ石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートモールディングコンパウンド(SMC)またはバルクモールディングコンパウンド(BMC)による成型品である繊維強化プラスチック平板において、前記成型品の平板厚みよりも全長が長い長繊維と、この平板厚みよりも全長が短い短繊維および/または放射状針状結晶とを含有することを特徴とする繊維強化プラスチック平板。
【請求項2】
前記放射状針状結晶としてテトラポット状の針状結晶を含有することを特徴とする請求項2に記載の繊維強化プラスチック平板。
【請求項3】
シートモールディングコンパウンド(SMC)またはバルクモールディングコンパウンド(BMC)による成型品である繊維強化プラスチック平板において、前記成型品の平板厚みよりも全長が長い長繊維と、この平板厚みに対する全長の比率が5:4〜50:1の範囲内にある短繊維および/または結晶とを含有することを特徴とする繊維強化プラスチック平板。
【請求項4】
シートモールディングコンパウンド(SMC)またはバルクモールディングコンパウンド(BMC)による成型品である繊維強化プラスチック平板の製造方法において、前記成型品の平板厚みよりも全長が長い長繊維と、この平板厚みよりも全長が短い短繊維および/または放射状針状結晶とを含有する前記SMCまたはBMCを調製する工程と、前記SMCまたはBMCを金型に設置し意匠面の温度を最裏面の温度よりも高くして成型する工程とを含むことを特徴とする繊維強化プラスチック平板の製造方法。
【請求項5】
前記放射状針状結晶としてテトラポット状の針状結晶を含有することを特徴とする請求項4に記載の繊維強化プラスチック平板の製造方法。
【請求項6】
シートモールディングコンパウンド(SMC)またはバルクモールディングコンパウンド(BMC)による成型品である繊維強化プラスチック平板の製造方法において、前記成型品の平板厚みよりも全長が長い長繊維と、この平板厚みに対する全長の比率が5:4〜50:1の範囲内にある短繊維および/または結晶とを含有する前記SMCまたはBMCを調製する工程と、前記SMCまたはBMCを金型に設置し意匠面の温度を最裏面の温度よりも高くして成型する工程とを含むことを特徴とする繊維強化プラスチック平板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−111909(P2012−111909A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−264365(P2010−264365)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】