説明

繊維強化成形材料

【課題】成形性、平滑性等の各種物性に優れ、かつ、VOC放散量が充分に抑制され、自動車室内と隔離されていないルーフやドア等の自動車外板に好適に用いられる繊維強化成形材料及びその成形品を提供する。
【解決手段】(a)不飽和ポリエステル、(b)ビニル系単量体、(c)低収縮化剤、(d)硬化剤、(e)充填材及び(f)強化繊維を含んで構成される繊維強化成形材料であって、該(c)低収縮化剤は、共役ジエン単量体の重合体、及び、芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体とのブロック共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂を必須とし、該(d)硬化剤は、t−ヘキシルパーオキシアセテートを必須とすることを特徴とする繊維強化成形材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化成形材料及びその成形品に関する。より詳しくは、住宅設備や自動車、電気等の分野で、特に自動車室内と隔離されていないルーフやドア等の自動車外板に好適に用いられる繊維強化成形材料及びその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維を補強材とした繊維強化成形材料は、熱硬化性樹脂や硬化剤、充填材等を配合した樹脂組成物(マトリックス)を、ガラス繊維や合成繊維、天然繊維等の強化繊維に含浸させて得られるものであり、例えば、シート状の成形材料(Sheet Molding Compound;以下、「SMC」ともいう。)等が汎用され、その成形品が呈する優れた外観や機械的特性、耐水性、耐食性等により、住宅設備や自動車、電気等の分野に広く利用されている。中でも、不飽和ポリエステル樹脂やビニルエステル樹脂を用いたSMCは、成形サイクルが短く生産性に優れ、多様な形状を実現することができることから、自動車分野においてはエンジンフード、トランクリッド、フェンダー、ガーニッシュ等の高度な平滑性が求められる外板部品や外装部品に広く用いられるに至っている。また、低収縮化剤として、共役ジエン単量体の重合体や芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体とのブロック共重合体を用いたSMCは、平滑性に特に優れている。更に、近年、自動車の軽量化や多様化の要求が高まるにつれ、SMCの更なる用途の拡大が検討されている。
【0003】
SMC等の成形材料として、ラジカル重合型熱硬化性樹脂100質量部に特定の構造を有するt−アルキルパーオキシアルキレートを0.1〜5質量部配合し、さらに低収縮剤、充填剤、増粘剤、離型剤、重合禁止剤及び強化材を配合した成形材料が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。そして、成形材料をこのようなものとすることで、成形材料中に未反応の不飽和単量体が残留するのを抑制することができる、としている。
また、自動車外装部品の成形品用樹脂組成物として、成分(a):不飽和ポリエステル、成分(b):重合性単量体、成分(c):熱可塑性樹脂、成分(d):重合開始剤、成分(e):真比重が0.5〜1.3g/cmで、溶出アルカリ度が0.05meq/g以下のガラス中空体、を含有する塗装性に優れた自動車外装部品の成形品用不飽和ポリエステル樹脂組成物であって、20〜40重量部の成分(a)、30〜70重量部の成分(b)及び5〜30重量部の成分(c)をこれらの合計が100重量部となるように配合した樹脂組成物に、更に0.1〜5.0重量部の成分(d)及び5〜100重量部の成分(e)を配合した不飽和ポリエステル樹脂組成物が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−146125号公報(第1−4頁)
【特許文献2】特許第3263164号公報(第1―2頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、成形材料や成形品用樹脂組成物についてその構成の検討が行われており、自動車分野において外板部品や外装部品に用いられるSMCの更なる用途の拡大が検討されているが、用途の一つとして、自動車室内と隔離されていないルーフやドア等の外板部品に用いることが考えられる。このような用途の場合には、生産性、形状の多様性や高度な平滑性に加えて、室内環境を考慮して、VOC(揮発性有機物質;Volatile Organic Compounds)の放散量が充分に抑制されたものであることが求められる。
【0006】
特許文献1においては、そのような成形材料とした時の効果として、成形材料中に未反応の不飽和単量体が残留するのを抑制することができると謳われている。そして、その実施例においても、硬化物中の残存不飽和単量体量が評価されている。
しかしながら、平滑性に特に優れているために、自動車分野における外板部品用として利用価値の高いSMCである、低収縮化剤として共役ジエン単量体の重合体や芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体とのブロック共重合体を用いたSMCのVOC放散量を測定してみると、SMCにおけるVOCとして一般的に問題となることの多いSMC中の残存スチレンモノマーの放散の量は少なく、室内環境において用いても問題となるレベルではないが、室内環境において用いる際に問題となるレベルのアルデヒドの放散が確認された。このことから、低収縮化剤として共役ジエン単量体の重合体や芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体とのブロック共重合体を用いたSMCを室内環境において用いるにはアルデヒドの発生量を抑えるための工夫をすることが求められるところであった。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、成形性、平滑性等の各種物性に優れ、かつ、VOC放散量が充分に抑制され、自動車室内と隔離されていないルーフやドア等の自動車外板に好適に用いられる繊維強化成形材料及びその成形品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、低収縮化剤として平滑性に優れる共役ジエン単量体の重合体や芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体とのブロック共重合体を用いながら、自動車室内と隔離されていない箇所にも使用できる程度にアルデヒドの放散量充分に抑制された繊維強化成形材料について種々検討し、繊維強化成形材料に用いられる硬化剤に着目した。そして、共役ジエン単量体の重合体や芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体とのブロック共重合体を用いる場合に、硬化剤としてt−ヘキシルパーオキシアセテートを用いることによって、残存スチレンモノマーの放散量を少なくしたまま、アルデヒドの発生量をも大幅に低減することが可能であることを見出した。これにより、成形性、平滑性等の各種物性に優れていながら、VOC放散量が少ないために、自動車室内と隔離されていない部分にも好適に用いることができる繊維強化成形材料及びその成形品とすることができることを見出し、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。本発明は、共役ジエン単量体の重合体、及び、芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体とのブロック共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂を必須とする低収縮化剤を用いた場合には、残存スチレンモノマー量は少ないものの、アルデヒドの放散量が多いという特有の課題があることを見出すとともに、この課題を解決するものであり、このような特定の低収縮化剤と硬化剤とを組み合わせることで、硬化物の平滑性が良好でありながら、残存スチレンモノマー量が少なく、更にアルデヒドの放散量も少ない繊維強化成形材料となる点に技術的意義を有するものである。
【0009】
すなわち本発明は、(a)不飽和ポリエステル、(b)ビニル系単量体、(c)低収縮化剤、(d)硬化剤、(e)充填材及び(f)強化繊維を含んで構成される繊維強化成形材料であって、上記(c)低収縮化剤は、共役ジエン単量体の重合体、及び、芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体とのブロック共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂を必須とし、上記(d)硬化剤は、t−ヘキシルパーオキシアセテートを必須とする繊維強化成形材料である。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明の繊維強化成形材料は、(a)不飽和ポリエステル、(b)ビニル系単量体、(c)低収縮化剤、(d)硬化剤、(e)充填材及び(f)強化繊維を含むものであるが、これらをそれぞれ1種含むものであってもよく、2種以上含むものであってもよい。また、これらを含むものである限り、その他の成分を含んでいてもよい。
上記(a)不飽和ポリエステルは、特に制限されないが、例えば、多塩基酸及び多価アルコールにより形成される構成単位を有するものが挙げられ、そのような不飽和ポリエステル(A)としては、多塩基酸(多塩基酸の酸無水物を含む)と多価アルコールとを、通常の手法で縮合重合することによって得ることができる。
上記(a)不飽和ポリエステルはまた、ジシクロペンタジエン(DCPD)により変性されていてもよい。
【0011】
上記多塩基酸としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸等の不飽和二塩基酸又はその無水物;フタル酸、無水フタル酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸無水物、イソフタル酸、テレフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ヘット酸、コハク酸等の飽和二塩基酸又はその無水物;トリメリト酸、トリメリト酸無水物、ピロメリト酸、ピロメリト酸二無水物等の三官能以上の多塩基酸又はその無水物等が挙げられる。これらの多塩基酸は、1種類のみを用いてもよく、また、2種類以上を併用してもよい。これらの中でも、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸が好ましい。より好ましくは、無水マレイン酸、フマル酸である。
【0012】
上記多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、水素添加ビスフェノールA等のグリコール;グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の三官能以上のアルコール;グリシジルメタクリレート等のエチレンオキシド、プロピレンオキシド等のエポキシド等が挙げられる。これらアルコールは1種類のみを用いてもよく、また、2種類以上を併用してもよい。これらの中でも、エチレングリコール、プロピレングリコール、水素添加ビスフェノールAが好ましい。より好ましくは、プロピレングリコールである。
なお、上記多価アルコールは、更に、オクチルアルコール、オレイルアルコール、トリメチロールプロパン等の1価又は3価のアルコールを併用してもよい。
【0013】
上記(a)不飽和ポリエステルの数平均分子量は、500〜10000であることが好ましい。より好ましくは、800〜4000である。
【0014】
上記(b)ビニル系単量体としては、単官能ビニル単量体、多官能ビニル単量体、アリル単量体等が挙げられる。
単官能ビニル単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、α−エチルスチレン、p−クロルスチレン、ビニルトルエン、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸アルキル(炭素原子数12又は13)、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルベンジルクロライド塩、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸ヘプタデカフルオロデシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール等の単官能(メタ)アクリルモノマー等が挙げられる。
【0015】
上記多官能ビニル単量体としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(n=4〜23)、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート(n=4〜10)、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート(n=8,9)、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジペントールジ(メタ)アクリレート、ソルビトールジ(メタ)アクリレート、トリスヒドロキシエチルイソシアヌレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、2,2−ビス〔4−((メタ)アクリロキシエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−((メタ)アクリロキシジエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−((メタ)アクリロキシポリエトキシ)フェニル〕プロパン(n=3〜30)、2−ヒドロキシ−1−アクリロキシ−3−メタクリロキシプロパン等の多官能アクリルモノマー等が挙げられる。
【0016】
上記アリル単量体としては、例えば、グリセリンモノアリルエーテル、ペンタエリスリトールジアリルエーテル、ペンタエリスリトールモノアリルエーテル、トリメチロールプロパンモノアリルエーテル等の1官能アリル化合物;グリセリンジアリルエーテル、グリセリントリアリルエーテル、ペンタエリスリトールジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ペンタエリスリトールテトラアリルエーテル、アリルグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、トリメチロールプロパントリアリルエーテル等の多官能アリル化合物が挙げられる。
【0017】
これらの中でも、(b)ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、α−エチルスチレン、p−クロルスチレン等のスチレン系単量体が好適に用いられる。より好ましくは、スチレンである。
なお、(b)ビニル系単量体は、(a)不飽和ポリエステル、(c)低収縮化剤の希釈剤として用いることができるものであるが、本発明においても、(a)不飽和ポリエステル及び/又は(c)低収縮化剤に(b)ビニル系単量体が配合されていてもよい。その場合、本明細書においては、(a)不飽和ポリエステル及び/又は(c)低収縮化剤に配合されたビニル系単量体の量と、(b)ビニル系単量体として本発明の繊維強化成形材料に配合されたビニル系単量体の量とを合わせた総量を、本発明の繊維強化成形材料に含まれる(b)ビニル系単量体の量とする。
【0018】
上記(c)低収縮化剤は、共役ジエン単量体の重合体、及び、芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体とのブロック共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂を必須とするものである。低収縮化剤は、共役ジエン単量体の重合体、芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体とのブロック共重合体のいずれか一方のみを含むものであってもよく、両方を含むものであってもよい。
低収縮化剤がこのような重合体を含むゴム系のものであると、残存スチレンモノマーは少ないものの、アルデヒドの発生量が多くなることが確認されている。この現象は、このような特定の低収縮化剤を用いた場合に特有のものである。この現象の理由は明らかではないが、このような低収縮化剤を含む繊維強化成形材料では、スチレンがゴム成分に膨潤しており、加熱硬化の際に、スチレンが酸化されてアルデヒドが発生するためであることが考えられる。本発明の繊維強化成形材料では、このような特定の低収縮化剤を用いる場合に、硬化剤として後述するt−ヘキシルパーオキシアセテートを必須とするものを用いることで、このようなアルデヒドの発生を充分に抑制することができる。
【0019】
上記共役ジエン単量体の重合体としては、例えば、ポリブタジエン、ポリブタジエンの水素添加物、ポリイソプレン、ポリイソプレンの水素添加物等が挙げられる。
上記芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体とのブロック共重合体としては、スチレン、クロルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル単量体と、ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン単量体とのブロック共重合体、又は、それらのブロック共重合体の水素添加物等が挙げられる。
また、上記共役ジエン単量体の重合体、芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体とのブロック共重合体をカルボキシ変性させたものを用いてもよい。
【0020】
これらの中でも、(c)低収縮化剤としては、芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体とのブロック共重合体が好ましく、具体的により好ましくは、スチレンとブタジエンとのブロック共重合体である。
【0021】
上記芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体とのブロック共重合体における芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体とのモル比は、75:25〜5:95であることが好ましい。より好ましくは、50:50〜10:90である。
【0022】
上記(c)低収縮化剤が含む共役ジエン単量体の重合体や、芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体とのブロック共重合体は、数平均分子量が10000〜500000であるものが好ましい。数平均分子量が10000〜500000の範囲であった場合、充分に低収縮効果が発現するとともに、不飽和ポリエステル樹脂への充分な分散が可能となる。より好ましくは、30000〜200000である。
【0023】
上記(c)低収縮化剤は、共役ジエン単量体の重合体、及び、芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体とのブロック共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂を必須とする限り、その他の低収縮化剤として使用される成分の1種又は2種以上を併用してもよい。この場合、上記共役ジエン単量体の重合体、及び、芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体とのブロック共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂の含有量は、上記(c)低収縮化剤の総量100質量部に対して、25質量部以上であることが好ましく、より好ましくは50質量部以上である。
【0024】
上記その他の低収縮化剤として使用される成分としては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、スチレンと酢酸ビニルとのブロック共重合体、ポリ酢酸ビニル、架橋ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、飽和ポリエーテル、飽和ポリエーテルのウレタン化物、ポリエーテル等が挙げられる。
【0025】
本発明の繊維強化成形材料において、上記(a)不飽和ポリエステル、(b)ビニル系単量体及び(c)低収縮化剤の質量比((a)/(b)/(c))としては、20〜45/30〜70/5〜35であることが好ましい。このような範囲とすることで、繊維強化成形材料をSMCの形態として使用することができるものとすることが可能となる。より好ましくは、22〜40/40〜65/10〜30であり、更に好ましくは、25〜35/45〜60/12〜25である。
【0026】
上記(d)硬化剤は、t−ヘキシルパーオキシアセテートを必須とするものであるが、t−ヘキシルパーオキシアセテートを含む限り、その他の硬化剤として使用される成分の1種又は2種以上を併用してもよい。この場合、t−ヘキシルパーオキシアセテートの含有量は、上記(d)硬化剤の総量100質量部に対して、25質量部以上であることが好ましく、より好ましくは50質量部以上である。
【0027】
上記その他の硬化剤として使用される成分としては、例えば、t−アミルパーオキシアセテート、t−ヘキシルパーオキシ3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−アミルパーオキシ3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルイソプロピルカーボネート、t−ブチルイソプロピルパーオキシカーボネート、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−アミルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、t−アミルパーオキシベンゾエート、キュメンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、1,1−ジブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサノン、1,1−ジブチルパーオキシシクロヘキサノン、1,1−ジアミルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサノン、1,1−ジアミルパーオキシシクロヘキサノン、t−ブチルパーオキシ−2−エチルへキサノエート、アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、2−エチルヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−へキシルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシオクトエート、t−アミルパーオキシオクトエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン等が挙げられる。
【0028】
上記(d)硬化剤の配合量としては、(a)不飽和ポリエステルと(b)ビニル系単量体と(c)低収縮化剤との合計質量100質量部に対して、0.3〜5.0質量部であることが好ましい。このような範囲とすることによって、硬化させる際の可使時間や硬化に必要な時間を適切に調整することができる。より好ましくは、1.0〜3.0質量部であり、更に好ましくは、1.5〜3.0質量部である。
【0029】
上記(e)充填材としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、ガラス中空体、シリカ、溶融シリカ、アエロジル(商品名)、クレー、マイカ、タルク、セラミック、酸化チタン、硫酸バリウム、ガラスパウダー、リン酸カルシウム、ホタル石、スメクタイト、水酸化マグネシウム、寒水等が挙げられる。これらの中でも、炭酸カルシウム、ガラス中空体、水酸化アルミニウム、溶融シリカ、シリカ、ガラスパウダーを用いることが好ましく、より好ましくは、炭酸カルシウム、ガラス中空体である。
これら充填材は1種類のみを用いてもよく、また、2種類以上を併用してもよい。
【0030】
上記(e)充填材の配合量としては、(a)不飽和ポリエステルと(b)ビニル系単量体と(c)低収縮化剤との合計質量100質量部に対して、1〜500質量部であることが好ましい。このような範囲とすることによって、硬化物の平滑性や成形する際の流動性をより適切に調整することが可能となる。より好ましくは、50〜300質量部であり、更に好ましくは、70〜250質量部である。
【0031】
上記(f)強化繊維としては、通常使用される再生繊維、合成繊維、天然繊維が挙げられ、例えば、レーヨン等からなる再生繊維、ナイロン6、ナイロン66等の脂肪族ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリル繊維(PAN)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ビニロン等の合成繊維、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、ポリオキシメチレン(POM)等のいわゆる耐熱性の高い高分子からなる繊維、アラミド繊維、全芳香族ポリエステル、ポリイミド等のいわゆる高弾性率、高強度な高分子からなる繊維、ジュート繊維、竹繊維等の天然繊維等が挙げられる。これらの中でも、ガラス繊維、炭素繊維を用いることが好ましく、より好ましくは、ガラス繊維である。
これら強化繊維は、1種類のみを用いてもよく、また、2種類以上を併用してもよい。
【0032】
上述したように、本発明の繊維強化成形材料に含まれる構成成分(a)〜(f)は、特定の配合割合で配合されていることが好ましい。すなわち、本発明の繊維強化成形材料が、(a)不飽和ポリエステルが20〜45質量部、(b)ビニル系単量体が30〜70質量部、(c)低収縮化剤が5〜35質量部であり、これら(a)〜(c)の合計量を100質量部とすると、(d)硬化剤が0.3〜5.0質量部、(e)充填材が1〜500質量部であり、繊維強化成形材料の総量を100質量部とすると、(f)強化繊維が15〜50質量部であることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0033】
上記(f)強化繊維の配合量としては、繊維強化成形材料の総量100質量部に対して、15〜50質量部であることが好ましい。このような範囲とすることによって、硬化物の機械的特性や強化繊維のマトリックスへの含浸性を適切に調整することが可能となる。より好ましくは、20〜45質量部であり、更に好ましくは、22〜40質量部である。
【0034】
本発明の繊維強化成形材料は、更に硬化禁止剤(重合禁止剤ともいう。)を含むことが好ましい。繊維強化成形材料に硬化禁止剤を含めることによって、繊維強化材料を硬化させる際の硬化反応の立ち上がりを調整することが可能となる。
上記硬化禁止剤としては、例えば、パラベンゾキノン、ハイドロキノン、t−ブチルハイドロキノン、メチル−t−ブチルハイドロキノン、t−ブチルカテコール、2,6−ジ−tーブチル−4−メチルフェノール等の通常の重合禁止剤の他、N−オキシル化合物を用いることができ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
【0035】
上記N−オキシル化合物としては、例えば、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−オール、4−ヒドロキシ−2,2,6,6 −テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−メトキシ−2,2,6,6 −テトラメチルピペリジン−1−オキシル、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル−アセテート、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル−2−エチルヘキサノエート、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル−ステアレート、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル−4−t−ブチルベンゾエート、ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)コハク酸エステル、ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アジピン酸エステル、ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)セバケート、ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)n−ブチルマロン酸エステル、ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)フタレート、ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)イソフタレート、ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)テレフタレート、ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)ヘキサヒドロテレフタレート、N,N’−ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アジパミド、N−ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)カプロラクタム、N−ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)ドデシルサクシンイミド、2,4,6−トリス−[N−ブチル−N−(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)]−s−トリアジン、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−オン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0036】
上記硬化禁止剤の含有量としては、(a)不飽和ポリエステルと(b)ビニル系単量体と(c)低収縮化剤との合計質量100質量部に対して、0.001〜1質量部であることが好適である。このような範囲とすることによって、繊維強化成形材料を硬化させる際の可使時間や硬化反応の立ち上がりをより適切に調整することが可能となる。上記硬化禁止剤の含有量の下限値としては、より好ましくは0.005質量部であり、上限値としては、より好ましくは0.5質量部である。
【0037】
本発明の繊維強化成形材料は、硬化剤と共に硬化促進剤を併用することもできる。硬化促進剤としては、例えば、コバルトアセテート、銅アセテート、マンガンアセテート、コバルトオクトエート、銅オクトエート、マンガンオクトエート、コバルトナフテネート、銅ナフテネート、マンガンナフテネート、コバルトアセチルアセトネート、銅アセチルアセトネート、マンガンアセチルアセトネート等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0038】
上記硬化促進剤を用いる場合、その含有量としては、(a)不飽和ポリエステルと(b)ビニル系単量体と(c)低収縮化剤との合計質量100質量部に対し、0.001〜1質量部であることが好適である。このような範囲とすることによって、繊維強化成形材料を硬化させる際の可使時間や硬化反応の立ち上がりをより適切に調整することが可能となる。上記硬化促進剤の含有量の下限値としては、より好ましくは0.005質量部であり、上限値としては、より好ましくは0.5質量部である。
【0039】
本発明の繊維強化成形材料としてはまた、性能を損なわない範囲内で、カップリング剤、内部離型剤等の添加剤、増粘剤、繊維強化剤、顔料、染料等の着色剤、柄剤(加飾粒)等の1種又は2種以上を含有するものであってもよい。
上記カップリング剤としては、例えば、メタクリロキシシラン、アクリロキシシラン、エポキシシラン、ビニルシラン等が挙げられる。これらは、1種類のみを用いてもよく、また2種類以上を併用してもよい。
上記カップリング剤の添加量は、(a)不飽和ポリエステルと(b)ビニル系単量体と(c)低収縮化剤との合計質量100質量部に対して、0.1〜3質量部の範囲とすることが好適である。
【0040】
上記内部離型剤(離型剤)としては、例えば、ステアリン酸、ラウリン酸等の脂肪酸及びステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の脂肪酸金属塩等が挙げられる。また、パラフィン、液体ワックス、フッ素ポリマー、シリコン系ポリマー等の熱硬化性樹脂用途の内部離型剤を用いることができる。これらは、1種類のみを用いてもよく、また2種類以上を併用してもよい。
上記離型剤の添加量は、(a)不飽和ポリエステルと(b)ビニル系単量体と(c)低収縮化剤との合計質量100質量部に対して、0.5〜10質量部の範囲とすることが好適である。
【0041】
上記増粘剤は、例えば、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、ストロンチウム等の2価金属の酸化物や水酸化物、アクリルポリマー等が用いられる。このような増粘剤は、1種又は2種以上を使用することができる。
上記増粘剤の添加量は、(a)不飽和ポリエステルと(b)ビニル系単量体と(c)低収縮化剤との合計質量100質量部に対して、0.5〜10質量部とすることが好適である。
【0042】
上記着色剤としては、特に限定されるものではなく、通常、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ビニルエステル樹脂等の熱硬化性樹脂に使用されている種々の着色剤を用いることができる。
上記着色剤としては、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、弁柄、フタロシアニンブルー等の公知の顔料が用いられる。着色剤の添加量は特に限定されるものではなく、成形品の用途により適宜設定される。(a)不飽和ポリエステルと(b)ビニル系単量体と(c)低収縮化剤との合計質量100質量部に対して、30質量部以内で使用されることが多い。
【0043】
本発明の繊維強化成形材料は更に、難燃剤、抗菌剤(有機系及び/又は無機系)、親水剤、光触媒、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、粘度低下剤、分離防止剤、帯電防止剤、潤滑分散剤、チクソ付与剤、チクソ安定剤等を含有するものであってもよい。また必要に応じて、可塑剤を含有してもよい。これらは、それぞれ1種類のみを用いてもよく、また2種類以上を併用してもよい。
【0044】
本発明の繊維強化成形材料は、シートモールディングコンパウンド(SMC)、チックモールディングコンパウンド(TMC)又はバルクモールディングコンパウンド(BMC)等の形態として用いることが特に好適であるが、その製造方法としては、例えば、成形材料がSMCである場合には、(a)不飽和ポリエステル、(b)ビニル系単量体、(c)低収縮化剤、(d)硬化剤、(e)充填材、硬化禁止剤を均一となるよう充分に混合した後、増粘剤を加えてSMC含浸機に供し、(f)強化繊維と充分に含浸させてから、増粘させる方法が好適である。ここで、増粘工程としては、例えば、25〜50℃で、8〜72時間熟成することが好適である。
また、含浸させる(f)強化繊維としては、例えば、直径が8〜20μm、長さが0.25〜2インチのガラス繊維を用いることが好適である。ガラス繊維の長さとしてより好ましくは、0.5〜1.5インチである。
【0045】
上記繊維強化成形材料としてはまた、140℃での熱板法によるゲル化時間が15〜150秒であるものが好適である。15秒未満では、圧縮成形時に成形材料の充分な流動時間を確保できず、充填不良、プレゲルにより成形品の平滑性が充分とはならないおそれがあり、また、150秒を超えると、成形材料を充分に硬化させるために型締め時間の延長が必要となり、生産性が充分とはならないおそれがある。より好ましくは、30〜120秒である。
【0046】
上記繊維強化成形材料を用いて成形品(成形体)を成形する方法としては、通常用いられる圧縮成形法や射出成形法等の成形加工法を採用することができる。中でも、上記成形材料を、所望の形状を有する金型に充填して加熱加圧成形(加熱圧縮成形)することにより、より容易に硬化、成形することができる。このように上記繊維強化成形材料を硬化して得られる成形品、又は、繊維強化成形材料を加熱加圧成形して得られる成形品もまた、本発明の1つである。
上記加熱加圧成形において、成形品にかかる圧力としては、0.3〜20MPaとすることが好適である。より好ましくは2〜15MPaである。
【0047】
上記繊維強化成形材料を用いて成形された成形品は、以下の測定方法で測定した残存スチレンモノマー量が500ppm以下であることが好ましい。残存スチレンモノマー量がこのような値であると、成形後の塗装工程等による熱履歴を経て、低VOCの要求が厳しい自動車室内と隔離されていない箇所に用いる部品の材料にも好適に用いることができる。より好ましくは、100ppmであり、更に好ましくは、70ppm以下である。このような値であると、特定の熱履歴を受けずとも、低VOCの要求が厳しい自動車室内と隔離されていない箇所に用いる部品の材料にも好適に用いることができる。
(残存スチレンモノマー量測定方法)
繊維強化成形材料を成形後1日間、25℃で保管した後に残存スチレンモノマー量を測定した。ガスクロマトグラフィーを使用して内部標準法で測定する。
【0048】
また、上記繊維強化成形材料を用いて成形された成形品は、JIS A1460(2001年)に記載の方法(デシケータ法)に準拠して測定したアルデヒド放散量が70μg/L以下であることが好ましい。アルデヒド放散量がこのような値であると、低VOCの要求が厳しい自動車室内と隔離されていない箇所に用いる部品の材料にも好適に用いることができる。より好ましくは、50μg/L以下であり、更に好ましくは、40μg/L以下である。
【0049】
上記成形品としては、例えば、風呂の洗い場の床、洗面台化粧板、日本料理店等の厨房の床等の水回り部分の床、壁、ベランダの床、自動車分野における外板部品や外装部品等に用いられる。具体的には、浴槽、浴室用壁材、浴室用床材、浴室用グレーチング、浴室用天井、シャワーフック、浴槽ハンドグリップ、浴槽エプロン部、浴槽排水栓、浴室用窓枠、排水ピット、浴室扉、浴室扉枠、浴室窓の桟、浴室扉の桟、すのこ、マット、石鹸置き、手桶、風呂椅子、トランスファーボード、浴室用収納棚、浴室用手摺、風呂蓋、浴室用タオル掛け、シャワーチェア、洗面器置き台等の浴室用部材;台所用キッチンバック、台所用床材、シンク、キッチンカウンター、排水籠、レンジフード、換気扇、コンロのつまみ等の台所用部材;小便器、大便器、便器用トラップ、便器用配管、トイレ用床材、トイレ用壁材、トイレ用天井、ボールタップ、止水栓、紙巻き器、便座、昇降便座、トイレ用扉、トイレ用タオル掛け、便蓋、トイレ用手摺、トイレ用カウンタ、フラッシュバルブ、タンク、洗浄機能付き便座の吐水ノズル等のトイレ用部材;洗面ボウル、洗面トラップ、洗面用収納棚、排水栓、歯ブラシ立て、洗面カウンタ、水石鹸供給器、洗面器、口腔洗浄器、手指乾燥機、回転タイル等の洗面用部材;洗濯槽、洗濯機蓋、洗濯機パン、脱水槽、空調機フィルタ、タッチパネル、人体検知センサーのカバー、シャワーホース、シャワーヘッド、シャワー吐水部、シーラント;競技場等の野外用の椅子、ベンチ、食器トレー、化粧板;エンジンフード、トランクリッド、フェンダー、ガーニッシュ等の自動車用外板部品や外装部品;ルーフやドア等の自動車室内と隔離されていない箇所に用いる自動車用外板部品等が挙げられる。自動車用分野において、特に自動車室内と隔離されていない室内環境といえる箇所に用いる部品に対しては、低VOCのニーズが強いことから、ルーフやドア等の自動車室内と隔離されていない箇所に用いる自動車用外板部品用途に用いることが好適である。
すなわち、上記成形品は、自動車を構成する部材として用いられ、自動車室内の空気と接し得る箇所に設置される成形品であることもまた、本発明の1つである。
【発明の効果】
【0050】
本発明の繊維強化成形材料は、上述の構成よりなり、残存スチレンモノマー量を少なくしたまま、アルデヒドの放散量も充分に抑制することができ、かつ、成形性、平滑性等の各種物性に優れた成形品を与えることができるため、自動車室内と隔離されていないルーフやドア等の自動車外板に好適に用いることができる繊維強化成形材料及びその成形品として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
なお、下記の合成例等において、酸価は、JIS K6911 4.3(1995年)に記載の方法に準拠して測定した。
【0052】
合成例1(不飽和ポリエステル樹脂(a))
温度計、窒素ガス導入管、還流冷却器及び攪拌機を備えたフラスコを反応器とした。この反応器に、プロピレングリコール1600g、無水マレイン酸1860g、ハイドロキノン0.31gを仕込んだ。次に上記の内容物を窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら、210℃で反応させた。これにより、不飽和ポリエステル(a')を得た。この不飽和ポリエステル(a')の酸価は23.6mgKOH/gであった。得られた不飽和ポリエステル(a')100質量部に対して、重合禁止剤としてのハイドロキノンを0.015質量部添加した後、スチレン43質量部を添加して、不飽和ポリエステル樹脂(a)を得た。
【0053】
(実施例1)
不飽和ポリエステル樹脂(a)43質量部、スチレンモノマー7質量部、スチレンとブタジエンとのブロック共重合体溶液(KRATON D−KX410(商品名、KRATON Polymers社製)30質量部をスチレンモノマー70質量部に攪拌して分散させたもの)50質量部、硬化剤としてt−ヘキシルパーオキシアセテートを2.0質量部、硬化禁止剤としてパラベンゾキノンを0.04質量部、炭酸カルシウム(商品名「NS−100」、日東粉化社製)を80質量部、ガラス中空体(商品名「S60HS」、住友スリーエム社製)を20質量部、カップリング剤としてメタクリロキシシラン(商品名「A−174」、モメンティブ パフォーマンス マテリアルズ社製)を1質量部、及び、内部離型剤としてステアリン酸亜鉛を5質量部を均一となるよう充分に混合した。こうして得られるペーストに、増粘剤として酸化マグネシウム1質量部を加えて、2分間攪拌した後、直ちに汎用のSMC含浸機(月島機械社製)を用いて、シート厚さが2mmになるよう調整し、強化繊維としてガラス繊維(商品名「RS480 PG−551」、日東紡社製)を1インチ長に切断したものをガラス含有率が繊維強化成形材料の35質量%になるように添加して充分に含浸させた。その後、48時間、40℃にて熟成させ、シート状成形材料(SMC)を得た。なお、繊維強化成形材料の組成等について表1に示した。
このSMCについて、熟成後の表面状態及び熱板法硬化特性のゲル化時間を測定した。この結果を表1に示す。
また得られたSMCを150mm角に切り出し、5枚重ね合わせて、上金型145℃、下金型135℃に温度調節された300mm角の平板成形用金型の中央に置き、90トンにて3分間加熱加圧を行い、300mm角で約2.5mm厚さの成形板を得た。
そして、得られた成形板について、成形収縮率、平滑性、残存スチレンモノマー量、ホルムアルデヒド放散量を評価した。これらの結果を表1に示す。
なお、各評価方法・測定方法は下記のとおりある。
【0054】
<SMC評価>
熱板法硬化特性
自動車技術協会規格 JASO M406−87に準拠し、ゲル化時間を測定した。50mm角SMC試験片の中央部に熱を設置し、140℃に温度調整した金型を用いてエアープレスでSMC試験片を加熱圧縮した際の温度−時間曲線からゲル化時間を測定した。SMC温度が50℃到達後、温度-時間曲線の変曲点近傍に引いた接線の交点までの時間をゲル化時間とした。
【0055】
<成形品評価>
(1)成形収縮率
JIS K6911(1995年)に記載の方法に準拠して測定した。
(2)平滑性
直管型蛍光灯の反射像直線性を目視にて自動車外板の水準で目視評価した。
評価基準:
良好:直線性に問題無し。
不良:直線性に問題あり。(波打ち、ガラスパターン、ソリ等)
(3)残存スチレンモノマー量
成形後1日間、25℃で保管した後に残存スチレンモノマー量を測定した。ガスクロマトグラフィーを使用して内部標準法で測定した(検出限界10ppm)。
(4)ホルムアルデヒド放散量
建築用ボードのホルムアルデヒド放散量の試験方法であるJIS A1460(2001年)に記載の方法(デシケータ法)に準拠して測定した。
【0056】
(実施例2、3及び比較例1〜7)
繊維強化成形材料の配合を表1の通りにした以外は、実施例1と同様に、SMC及び成形板を得て、評価を行った。
なお、比較例5〜7において用いているポリ酢酸ビニル溶液としては、VINAPA C501(商品名、WACKER POLYMER SYSTEM社製)30質量部をスチレンモノマー70質量部に攪拌して分散させたものを用いている。
【0057】
【表1】

【0058】
なお、表1中、(不飽和ポリエステル)は、不飽和ポリエステル樹脂(a)に含まれる不飽和ポリエステルの量を、スチレン/ブタジエン共重合体溶液は、スチレンとブタジエンとのブロック共重合体溶液を、(低収縮化剤)は、スチレンとブタジエンとのブロック共重合体溶液、又は、ポリ酢酸ビニル溶液に含まれる低収縮化剤成分の量を、(含:上記成分中のビニル単量体)は、不飽和ポリエステル樹脂(a)及びスチレンとブタジエンとのブロック共重合体溶液、若しくは、ポリ酢酸ビニル溶液に含まれるスチレンモノマーの量も含めた繊維強化成形材料に含まれるスチレンモノマーの総量を、それぞれ表している。
【0059】
上述した実施例及び比較例から、以下のことが分かった。
繊維強化成形材料を本発明の構成とすることにより、成形品中の残存スチレンモノマー量を低くしたままに、アルデヒド放散量を低減させることができ、かつ、成形性、平滑性等の物性において有利な効果を発揮する成形品を得ることが可能であることが明らかとなった(実施例1〜3)。また、比較例1〜4の結果から、硬化剤として、t−ヘキシルパーオキシアセテートを用いない場合には、アルデヒドの放散量を低減することができないことが明らかであり、この結果と実施例1〜3の結果から、硬化剤として、t−ヘキシルパーオキシアセテートを用いることによる顕著な効果が示されている。また、比較例5〜7の結果から、低収縮化剤として、ポリ酢酸ビニルを用いた場合には、アルデヒドの放散量は少ないが、成形品の平滑性が充分とはならず、自動車用外板部品に用いることのできる品質とはならなかった。
なお、低収縮化剤として平滑性に優れるスチレンとブタジエンとのブロック共重合体を用いる系において、実施例1〜3では、硬化剤として、t−ヘキシルパーオキシアセテートを用いることにより、アルデヒドの放散量を低減させることができるのに対して、比較例1〜4では、硬化作用においては有用ではあるが別の過酸化物を用いたことから、アルデヒドの放散量を低減することができなかった。近年、自動車室内等においては低VOCの要求の厳しく、アルデヒド放散量が多い成形品は、そのような自動車室内と隔離されていない箇所等に用いる部品の材料として好適に用いることはできない。それに対して、本発明によれば低VOCの要求に対応することができ、そこに本発明の技術的意義がある。ここに示された実施例、比較例においては、そのような技術的意義を持つことが示され、本発明が際立って優れた効果を奏することが実証されたと言える。また、低収縮化剤として、共役ジエン単量体の重合体や芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体とのブロック共重合体を用いた場合にはアルデヒドの放散量が多くなり、これに対して本発明における特定の硬化剤を用いることによってこれを低減する作用機構は本明細書において開示した種々の形態において同様である。従って、上記実施例、比較例の結果から、本発明の全般に亘って有利な作用効果を発揮できることが明らかとなったものと言える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)不飽和ポリエステル、(b)ビニル系単量体、(c)低収縮化剤、(d)硬化剤、(e)充填材及び(f)強化繊維を含んで構成される繊維強化成形材料であって、
該(c)低収縮化剤は、共役ジエン単量体の重合体、及び、芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体とのブロック共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂を必須とし、
該(d)硬化剤は、t−ヘキシルパーオキシアセテートを必須とする
ことを特徴とする繊維強化成形材料。
【請求項2】
前記繊維強化成形材料は、(a)不飽和ポリエステルが20〜45質量部、(b)ビニル系単量体が30〜70質量部、(c)低収縮化剤が5〜35質量部であり、これら(a)〜(c)の合計量を100質量部とすると、(d)硬化剤が0.3〜5.0質量部、(e)充填材が1〜500質量部であり、繊維強化成形材料の総量を100質量部とすると、(f)強化繊維が15〜50質量部であることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化成形材料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の繊維強化成形材料を硬化して得られることを特徴とする成形品。
【請求項4】
前記成形品は、自動車を構成する部材として用いられ、自動車室内の空気と接し得る箇所に設置されることを特徴とする請求項3に記載の成形品。

【公開番号】特開2011−127023(P2011−127023A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287799(P2009−287799)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(503090980)ジャパンコンポジット株式会社 (38)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(308031108)内浜化成株式会社 (18)
【Fターム(参考)】