説明

繊維強化樹脂面材

【課題】孔開け加工の際のバリの発生を効果的に抑止できる繊維強化樹脂面材を提供する。
【解決手段】繊維強化樹脂面材10Aは、炭素繊維を束ねてなる炭素繊維束が同一配向を有した姿勢で複数並べられ、面状を呈する第一の繊維束群と、第一の繊維束群と異なる方向に配向する炭素繊維束が同一配向を有した姿勢で複数並べられ、面状を呈する第二の繊維束群と、を少なくとも具備し、少なくとも第一、第二の繊維束群が積層された姿勢で硬化樹脂にて一体に形成されることで炭素繊維強化樹脂基材(CFRPシート1)を成し、炭素繊維強化樹脂基材の表面には、ガラス繊維のクロス材と硬化樹脂とが一体に形成されたガラス繊維強化樹脂表材(GFRPシート2)が固着されている。好ましくは、GFRPシート2はガラス繊維を経編みした構造または緯編みした構造を呈している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維にて強化された樹脂面材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂に強化用繊維材が混入されてなる繊維強化プラスチック(FRP)は、軽量かつ高強度であることから、自動車産業、建設産業、航空産業等、広い産業分野で使用されている。
【0003】
上記するFRPは、面状に配設された複数の繊維束をその配向方向を変化させて積層し、この姿勢で樹脂が含浸されることで面材を形成しており、例えば特許文献1に開示の繊維マットを従来技術として挙げることができる。
【0004】
ところで、上記FRPにおいて、強化繊維にカーボンファイバーを使用したものはCFRP(カーボンファイバー強化プラスチック)として一般に知られている。このCFRPからなるシート(面材)は多数のカーボンファイバーの束が同一配向姿勢でマトリックス樹脂にて一体にされており、これを複数用意するとともに各CFRPシートのファイバー配向を異なるように積層させ、ステッチングすることによって、いわゆる多軸基材が製造されている。
【0005】
この多軸基材の適宜箇所には図6で示すように、別部材との締結用の加工孔b(たとえばボルト孔)が機械加工されるが、表層のCFRPシートaは上記のごとく一方向に配向した繊維束からなるがゆえに機械加工時にドリルに繊維が引っ掛かり、結果としてバリcが生じ易いという課題があった。このバリは、精密なボルト締結にとって大きな障害であり、さらには、バリの生じた状態でボルト留めすることでガタが生じる等、締結部の強度低下に繋がるものである。また、この機械加工時にシート表層にいわゆる口開きが生じた場合には、製品として使用することはできず、したがって従来のCFRPからなる多軸基材においては最終的な孔開け加工によって製造歩留まりが低下するという課題も生じていた。
【0006】
したがって、ドリル等による機械加工にて孔開け加工をおこなうに際し、バリの発生を効果的に抑制することのできる繊維強化樹脂面材の開発が切望されていた。
【0007】
【特許文献1】特開2005−324473号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、孔開け加工の際のバリの発生を効果的に抑止できる繊維強化樹脂面材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による繊維強化樹脂面材は、炭素繊維を束ねてなる炭素繊維束が同一配向を有した姿勢で複数並べられ、面状を呈する第一の繊維束群と、前記第一の繊維束群と異なる方向に配向する炭素繊維束が同一配向を有した姿勢で複数並べられ、面状を呈する第二の繊維束群と、を少なくとも具備し、少なくとも前記第一、第二の繊維束群が積層された姿勢で硬化樹脂にて一体に形成されることで炭素繊維強化樹脂基材を成し、前記炭素繊維強化樹脂基材の表面には、ガラス繊維のクロス材と硬化樹脂とが一体に形成されたガラス繊維強化樹脂表材が固着されていることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の繊維強化樹脂面材は、炭素繊維束が同一配向を有した姿勢で複数並べられて面状(シート状)を呈する第一の繊維束群と、これと異なる配向の炭素繊維束がやはり複数並べられて面状を呈する第二の繊維束群とがポリエステル等の縫い糸にてステッチングされ、これらにマトリックス樹脂が含浸硬化して炭素繊維強化樹脂基材が形成され、この炭素繊維強化樹脂基材のたとえば両面にガラス繊維のクロス材と硬化樹脂とが一体に形成されたガラス繊維強化樹脂表材が固定された繊維強化樹脂面材である。なお、第三または第四の繊維束群等を有し、3層以上の積層体から炭素繊維強化樹脂基材が形成されてもよいことは勿論のことである。
【0011】
たとえば、炭素繊維強化樹脂基材を公知のCFRP(カーボンファイバー強化プラスチック)の多軸基材とし、ガラス繊維強化樹脂表材を公知のGFRP(ガラスファイバー強化プラスチック)とすることができる。ここで、繊維束の配向は、通常の平織りの0/90°配向であり、多軸基材では積層される各シートが±45°方向に積層される。
【0012】
従来は、CFRPシート、GFRPシートがそれぞれ単独で使用されるのが一般的であったが、本発明では、たとえば複数のCFRPシートからなる多軸基材の表面にGFRPシートを固着させることで、上記する従来の課題、すなわち、機械加工による孔開けの際のバリの発生を効果的に抑止することを実現するものである。
【0013】
これにより、従来の多軸基材の場合のバリの除去工程を無くすことができ、また、バリを許容しながら他の部材との間でボルト留めした際の締結部の強度低下といった問題も完全に解消することができる。
【0014】
さらに、本発明による繊維強化樹脂面材の好ましい実施の形態において、前記ガラス繊維のクロス材は、ガラス繊維を経編みした構造または緯編みした構造のいずれか一方の構造を有していることを特徴とするものである。
【0015】
たとえばCFRPの多軸基材表面にGFRPシートが貼付された本発明の繊維強化樹脂面材とすることで、孔開け加工時のバリの発生を抑止できることは上述した。ここで、CFRPの多軸基材表面にGFRPシートを貼付するに際し、多軸基材を構成するCFRPの繊維配向が±45°方向の場合、ガラス繊維が通常の平織りの0/90°配向を呈するGFRPシートをこの方向で貼付しようとすると、CFRPが本来有する繊維配向(±45°)への伸び易さが配向の異なるGFRPシートによって拘束され、繊維強化樹脂面材に要求される所望の伸びを発揮できなくなってしまう。
【0016】
そこで、GFRPシートもCFRPの多軸基材と同様に±45°方向として当該多軸基材に貼付する方法があるが、この場合には、複数のCFRPの多軸基材を隣り合わせて併設し、この上に所定形状にカットしたGFRPシートをガラス繊維配向を±45°方向として(CFRPの繊維配向と同方向)として貼付する必要が生じ、作業工程が大幅に増大してしまう。なお、CFRPの多軸基材の両面にGFRPシートを貼付し、次いで、所望のカットパターンでカットして繊維強化樹脂面材片を作り、これを所望形状に貼り合わせることで車両ボディー等を製造することになる。
【0017】
上記する作業工程増という課題を解消すべく、本実施の形態では、ガラス繊維が経編みされた構造、または緯編みされた構造のいずれか一方の構造を有するものを使用することで、これらの編み態様のGFRPシートは±45°方向、0,90°方向以外の多様な方向へ同様な伸びを呈することができるため、その方向性を考慮することなくCFRPの多軸基材両面に貼付することが可能となる。すなわち、GFRPシートの繊維配向がCFRPの繊維配向と異なるいずれの配向であっても、CFRP多軸基材の所期の伸びが阻害されることがない。また、方向性を考慮することなく貼付することが可能となるため、作業効率は格段に向上することになる。
【0018】
上記するように、本発明による繊維強化樹脂面材によれば、機械加工時のバリの発生を効果的に抑止でき、したがって製造歩留まりの低下もなく、さらには、CFRP多軸基材に要求される所期の伸びを確保しながら、その製造効率も高めることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上の説明から理解できるように、本発明の繊維強化樹脂面材によれば、孔開け機械加工時のバリの発生が完全に抑止でき、もって製造歩留まりを向上でき、多軸基材の有する所期の伸び性を満足しながらその製造効率を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1a,b、図2a,bの順に、本発明の繊維強化樹脂面材の一実施の形態の製作工程の概要を説明した図である。図3は繊維強化樹脂面材に加工孔が加工された状態を説明した図である。図4は図4a〜図4cの順に、本発明の繊維強化樹脂面材の他の実施の形態の製作工程の概要を説明した図である。図5aはガラス繊維が経編みされた形態の拡大図であり、図5bはガラス繊維が緯編みされた形態の拡大図である。
【0021】
図1,2に基づいて本発明の繊維強化樹脂面材の一実施の形態の製作工程を説明する。
まず、図1aのごとく、0/90°に平織りされた繊維束群が並べられた面材2枚を±45°方向に積層してステッチングし、これらの繊維内に熱硬化性のマトリックス樹脂が含浸硬化してなるCFRPシート1を複数用意し、これらを隣り合わせて並べる。
【0022】
次いで、図1bのごとく、上記CFRPシート1の繊維配向方向と同方向(±45°方向)のGFRPシート2を用意し、これを図2aで示すように隣り合わせて並べられたCFRPシート1,…の両面に貼付する。なお、図示例では一方面にGFRPシート2が貼付されているが、この裏面にも同様にGFRPシート2が貼付されている。
【0023】
図2aの段階で、CFRPシート1を構成する繊維配向とGFRPシート2を構成する繊維配向はともに同一配向となっており、これにより、CFRPシート1の所期の伸び性を確保することができる。
【0024】
これをGFRPシート2の形状に沿って切り出し、図2bで示すような繊維強化樹脂面材10が製作される。なお、実際には、図2bのように切り出すことなく、図2aに次いで、CFRPシート1にGFRPシート2が貼付された範囲は繊維強化樹脂面材10を成している。したがってこの範囲内で所望のカットパターンがカットされ、適宜形状のカットパターンを貼り合わせていくことで、最終製造品であるたとえば車両のボディーを形成することになる。
【0025】
図3は、製作された繊維強化樹脂面材10にドリルによる機械加工にて加工孔b(ボルト孔)が加工された状態を示している。図示するように、GFRPシート2がCFRPシート1の表層に形成されていることで、ドリルの押し込みや引抜きの際に当該ドリルがCFRPの繊維にかんでこれを引張ることが抑止され、その結果、加工孔bにはバリが発生しない。
【0026】
次に、図4に基づいて本発明の繊維強化樹脂面材の他の実施の形態の製作工程を説明する。
【0027】
まず、図4aのごとく、0/90°に平織りされた繊維束群が並べられた面材2枚を±45°方向に積層し、これらの繊維内をマトリックス樹脂が含浸硬化してなるCFRPシート1を用意する。
【0028】
次いで、図1bの平織り態様とは異なる編み態様のGFRPシート2Aを用意する(図4b参照)。
【0029】
ここで、このGFRPシート2Aは、図5aで示すようなガラス繊維を経編みしてなるもの、もしくは図5bで示すようなガラス繊維を緯編みしてなるもののいずれか一方からなる。
【0030】
これら経編み態様もしくは緯編み態様のGFRPシート2Aは、繊維が相互に編みこまれたループ領域がシートの可撓性を齎す作用を呈し、したがって、いずれの編み態様のGFRPシートを使用した場合でも、図5a,bの矢印で示すように360°いずれの方向へも伸びることができる。
【0031】
このGFRPシート2AをCFRPシート1の両面に貼付することにより、図4cで示すような繊維強化樹脂面材10Aが製作される。
【0032】
この繊維強化樹脂面材10Aによれば、多様な方向への伸び性を有するGFRPシート2Aを使用していることで、CFRPシート1への貼付に際し、当該CFRPシート1の繊維配向を勘案する(この伸び性を阻害しないように貼付する)必要がなく、よって製造効率は繊維強化樹脂面材10の製作に比して格段に向上する。
【0033】
なお、CFRPシートとGFRPシートのマトリックス樹脂は、双方の接着性の観点から同一素材の熱硬化性樹脂であるのが好ましく、この熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等を使用することができる。
【0034】
[CFRPシートに貼付されるGFRPシートの目付け量を変化させた場合の、腑形性、機械加工性、積層時間に関する実験とその結果]
本発明者等は、±45°配向の多軸CFRP材(マトリックス樹脂はエポキシ樹脂、目付け量330gsm)と、平織りのガラスクロスおよび経編みGFRP(マトリックス樹脂はエポキシ樹脂)の目付け量を多様に変化させて、その際の腑形性、機械加工性、積層時間の相違を検証した。その結果を以下の表1に示す。なお、表中、○は良好、もしくは時間が許容範囲内(短い)であることを示しており、×は悪い、もしくは時間が許容範囲を満足しない(長い)ことを示している。
【0035】
【表1】

【0036】
表1より、経編みGFRPは20gsm以上であれば自身の腑形性、機械加工性、積層時間のすべてにおいて良好であるが、繊維強化樹脂面材の軽量化の観点から、200gsm以下であることが好ましい。それに対し、GFRPが平織りクロスの場合は、多軸CFRP材と繊維配向が相違する0/90°配向の場合は腑形性が悪く、その繊維配向が±45°の場合には、既述のごとく多軸CFRP材との積層時間が長時間となり、製造効率が悪化することになる。
【0037】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】(a)、(b)の順に、本発明の繊維強化樹脂面材の一実施の形態の製作工程の概要を説明した図である。
【図2】図1に続き、(a)、(b)の順に、本発明の繊維強化樹脂面材の一実施の形態の製作工程の概要を説明した図である。
【図3】繊維強化樹脂面材に加工孔が加工された状態を説明した図である。
【図4】(a)〜(c)の順に、本発明の繊維強化樹脂面材の他の実施の形態の製作工程の概要を説明した図である。
【図5】(a)はガラス繊維が経編みされた形態の拡大図であり、(b)はガラス繊維が緯編みされた形態の拡大図である。
【図6】従来のCFRP多軸基材への孔開け機械加工の際にバリが生じている状態を説明した図である。
【符号の説明】
【0039】
1…CFRPシート(炭素繊維強化樹脂基材)、2,2A…GFRPシート(ガラス繊維強化樹脂表材)、10,10A…繊維強化樹脂面材、b…加工孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維を束ねてなる炭素繊維束が同一配向を有した姿勢で複数並べられて面状を呈する第一の繊維束群と、
前記第一の繊維束群と異なる方向に配向する炭素繊維束が同一配向を有した姿勢で複数並べられて面状を呈する第二の繊維束群と、を少なくとも具備し、
少なくとも前記第一、第二の繊維束群が積層された姿勢で硬化樹脂にて一体に形成されることで炭素繊維強化樹脂基材を成し、
前記炭素繊維強化樹脂基材の表面には、ガラス繊維のクロス材と硬化樹脂とが一体に形成されたガラス繊維強化樹脂表材が固着されていることを特徴とする、繊維強化樹脂面材。
【請求項2】
前記ガラス繊維のクロス材は、ガラス繊維を経編みした構造または緯編みした構造のいずれか一方の構造を有していることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化樹脂面材。
【請求項3】
前記炭素繊維強化樹脂基材がCFRP(カーボンファイバー強化プラスチック)からなり、前記ガラス繊維強化樹脂表材がGFRP(ガラスファイバー強化プラスチック)からなることを特徴とする請求項1または2に記載の繊維強化樹脂面材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−23163(P2009−23163A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−187414(P2007−187414)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】