説明

繊維強化複合体の製造方法

【課題】
本発明は、所望の形状に容易に成形できると共に、ボイドの発生を従来に比べ飛躍的に少なくする製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明1の繊維強化複合体の製造方法は、所望の形状に型付けした繊維体にVaRTM(真空含浸)工法にて前記樹脂溶液を含浸し、引き続き、真空引き状態で、加熱して、前記溶媒を除去して後、硬化することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、繊維体に溶媒に溶解した樹脂溶液を含浸させて強化された材料からなる繊維強化複合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
第4図および第5図は従来の溶媒を含んだ樹脂を用いた繊維強化複合体の製造方法を示したものである。第4図に示すように一方向または織物状の強化繊維(1)に溶媒を含んだ樹脂(5)を含浸させ、オーブン(12)にて加熱し、溶媒除去(乾燥)を行う。溶媒除去後の強化繊維(1)と離型紙またはフィルム(15)を巻き取ることでプリプレグ(繊維強化複合体の前駆体)(16)を得る。その後、第5図に示すように定盤もしくは成形型(2)に必要な形状、繊維配向および量に裁断したプリプレグ(16)を積層成形する。プレス機(圧縮成形機)やオートクレーブ(圧力容器)(9)にて、1MPa以上の高圧と加熱により繊維強化複合体(11)を得る。
【0003】
従来の製造方法では、溶媒除去後のプリプレグ(16)を用いる。プリプレグ(16)の粘度が高い、密着性(タック性)が低い、プリプレグ(16)間に隙間を生じる等の問題からプリプレグ(16)のプレス機(圧縮成形機)やオートクレーブ(圧力容器)(9)硬化時に1MPa以上の高圧を用いなければ、品質の良い繊維強化複合体(11)を得ることができなかった。「非特許文献1・2」
【0004】
【非特許文献1】FAROUK A, KWON TH, “EFFECT OF PROCESSING PARAMETERS ON COMPRESSION MOLDED PMR-15/C3K COMPOSITES”, POLYMER COMPOSITES 11 (6): 379-386 DEC 1990
【非特許文献2】BOWLES KJ, FRIMPONG S, “VOID EFFECTS ON THE INTERLAMINAR SHEAR-STRENGTH OF UNIDIRECTIONAL GRAPHITE-FIBER-REINFORCED COMPOSITES”, JOURNAL OF COMPOSITE MATERIALS 26 (10): 1487-1509 1992
【0005】
また、プリプレグ(16)の粘度が高く、曲面や複雑形状の成形型(2)にプリプレグ(16)を積層成形する過程で樹脂(5)が強化繊維(1)から脱落することがあり、曲面や複雑形状を有する繊維強化複合体(11)の製作や繊維含有率の制御が困難であった。
オーブン(12)での溶媒除去(乾燥)が不足すれば、プリプレグ(16)の粘度が低く、必要な形状、繊維配向および量に裁断したプリプレグ(16)を積層成形することが困難であった。
樹脂(5)の流れ出しを生じ繊維強化複合体(11)の繊維含有率の制御が困難であった。
また、オーブン(12)での溶媒除去(乾燥)でプリプレグ(16)の加熱に伴うボイド(空隙)を生じることがあった。
プリプレグ(16)を用いるため別々な2つの製造工程が必要であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような実情に鑑み、所望の形状に容易に成形できると共に、ボイドの発生を従来に比べ飛躍的に少なくする製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明1の繊維強化複合体の製造方法は、所望の形状に型付けした繊維体にVaRTM(真空含浸)工法にて前記樹脂溶液を含浸し、引き続き、真空引き状態で、加熱して、前記溶媒を除去して後、硬化することを特徴とする。
【0008】
発明2は、発明1の製造方法において、1MPa未満で加圧することにより硬化することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
発明1により、樹脂含浸前の繊維体を成形することにより、従来のプレプレグの成形に比べ遙かに容易な加工で、従来には望めない高精度の形状に加工することも可能になった。
また、最終的な硬化処理においても、従来には望めなかった1MPa未満の低圧硬化にもかかわらずボイドの少ない良好なものにすることが可能になった。
【0010】
また、発明2により、1MPa未満の低圧で硬化することで、繊維強化複合体の製造工程全体で高圧処理を必要としなくなり、その生産性と工程の安全性を向上することが出来た。また、このような低圧硬化は、既に成型された形状の型くずれを無くし、所期した形状通りの繊維強化複合体を得ることができた。
【0011】
以上のようにこの発明によれば、溶媒を含んだ樹脂を用いた繊維強化複合体においても硬化工程で1MPa未満の低圧で品質の良い(欠陥やボイドの少ない)繊維強化複合体が得られるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
第1図はこの発明による溶媒を含んだ樹脂を用いた繊維強化複合体の製造方法の例を示す図である。この図において、一方向または織物状の強化繊維(1)が定盤もしくは曲面や複雑な形状の成形型(2)にあり、枠板(3)および透明あるいは半透明な当て板(4)が配置された状態で、VaRTM(真空含浸)工法に基づいた樹脂を含浸させるための溶媒を含んだ樹脂(5)から樹脂注入口(6)までの準備および真空引き口(7)から余剰樹脂あるいは溶媒をためる容器樹脂(8)を経たオートクレーブ(圧力容器)(9)の真空引き接続口(10)への準備がなされている。樹脂含浸工程を開始し、溶媒を含んだ樹脂(5)が強化繊維(1)に含浸される状態を目視確認する。含浸完了後、オートクレーブ(9)にて溶媒除去工程、1MPa未満の低圧での硬化工程を連続して行う。本製造方法により品質の良い(欠陥やボイドの少ない)繊維強化複合体(11)が得られる。
【0013】
なお、VaRTM(真空含浸)工法においては真空引きにより溶媒を含んだ樹脂(5)を強化繊維(1)に含浸させるため、真空度は−0.09MPa以下であり、また、溶媒除去による樹脂の粘度上昇を避けるため、この過程における温度は室温とするのが望ましい。
また、溶媒除去時は、前記含浸時の真空度と同等とし、温度は溶媒の蒸発温度未満とし、溶媒除去時間の短縮および溶媒揮発によるボイドの発生を抑える必要性から、蒸発温度に対して(蒸発温度)÷2±20℃の範囲とするのが望ましい。
更に、硬化時は、オートクレーブ(9)内の圧力を1MPa未満とし、JIS労働安全衛生法(第2種圧力容器)でも硬化可能な0.9MPa以下とするのが望ましい。
なお、当該処理に適用できる材料、樹脂及び溶媒には何らの制限がなく、従来の繊維強化複合体(11)に用いられていたものを同様に使用することが出来る。
それ以上に、従来では、プリプレグ(16)が硬すぎて、加工不可能とされ使用されていなかった繊維と樹脂の組合せ(高剛性炭素繊維とPMR−15等のポリイミド樹脂の組合せ)も本発明により問題なく繊維強化複合体(11)に成型することが可能になった。
【実施例】
【0014】
第2図はこの発明による溶媒を含んだ樹脂を用いた繊維強化複合体(11)の製造方法の実施例を示す図である。この図において、一方向強化炭素繊維(K13D2U:三菱化学産資)(1)がVaRTM用の定盤(2)にあり、枠板(3)およびガラス当て板(4)が配置された状態で、VaRTM(真空含浸)工法に基づいた樹脂を含浸させるための溶媒を含んだポリイミド樹脂溶液(I.S.T.社製のスカイボンド703、溶媒はNMP:Nメチルピロリドンで蒸発温度は200℃)(5)から樹脂注入口(6)までの準備およびVaRTM用の真空口(7)から余剰樹脂あるいは溶媒をためる容器(8)を経た真空引き接続口(10)への準備がなされている。
樹脂含浸工程を開始し、溶媒を含んだポリイミド樹脂(5)が強化繊維(1)に含浸される状態を目視確認する。含浸時の真空度は−0.098±0.002MPa、温度は25±5℃であった。含浸完了後、真空引き状態のまま、オーブン(12)にて、90±10℃に加熱して溶媒除去工程を行う。溶媒除去工程完了後、ポリイミド樹脂を含んだ強化繊維(1)を定盤(2)から脱型する。オートクレーブ(9)にて真空引きを行い、0.7MPaの低圧で硬化工程を行う。
【0015】
第3図にこの発明の実施例により作成された溶媒を含んだ樹脂を用いた繊維強化複合体(13)および炭素繊維強化複合体の断面観察(14)を示す。断面観察(14)およびボイド(空隙)率の測定結果よりボイド含有率が1.0体積%以下であった。また、種類の異なる一方向炭素繊維(T1000GB:東レ)/織物炭素繊維(CO6343:東レ)を用いた結果も同様であった。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例の含浸から溶媒除去までの過程を、使用装置の概略図と共に示すフロー。
【図2】実施例の硬化過程を、使用装置の概略図と共に示すフロー。
【図3】実施例により得られたシート状の繊維強化複合体を示す写真。
【図4】従来のプリプレグの製造工程を示すフロー。
【図5】従来のプリプレグの裁断、積層からオートクレーブ硬化までの製造工程を示すフロー。
【符号の説明】
【0017】
(1) 一方向または織物状の強化繊維、
(2) 定盤もしくは曲面や複雑な形状の成形型、
(3) 枠板、
(4) 透明あるいは半透明な当て板、
(5) 溶媒を含んだ樹脂、
(6) 樹脂注入口、
(7) 真空引き口、
(8) 余剰樹脂あるいは溶媒をためる容器、
(9) オートクレーブ、
(10) 真空引き接続口、
(11) 繊維強化複合体、
(12) オーブン、
(13) 実施例により作成された溶媒を含んだ樹脂を用いた繊維強化複合体、
(14) 炭素繊維強化複合体の断面観察、
(15) 離型紙またはフィルム、
(16) プリプレグ。
なお、各図中同一符号は同一又は相当部分を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維体に溶媒に溶解した樹脂溶液を含浸させて強化された材料からなる繊維強化複合体の製造方法であって、所望の形状に型付けした繊維体にVaRTM(真空含浸)工法にて前記樹脂溶液を含浸し、引き続き、真空引き状態で、加熱して、前記溶媒を除去して後、硬化することを特徴とする繊維強化複合体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法において、1MPa未満で加圧することにより硬化することを特徴とする。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−96035(P2009−96035A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−268780(P2007−268780)
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】