説明

繊維強化複合材料成形システム

【課題】繊維強化複合材料成形システムにおいて、設備の大型化を抑制して繊維束の拡幅量をより大きくすることである。
【解決手段】繊維に樹脂を含浸し、樹脂含浸繊維を巻回部材に巻回することにより繊維強化複合材料を成形する繊維強化複合材料成形システム10であって、繊維束14を開繊する開繊ユニット42を備え、開繊ユニット42は、繊維束14をねじ状溝46に通して開繊する開繊部44を有している。なお、開繊ユニット42は、開繊部44を加熱するヒータ等を有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料成形システムに係り、特に、繊維に樹脂を含浸し、樹脂含浸繊維を巻回部材に巻回することにより繊維強化複合材料を成形する繊維強化複合材料成形システムに関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮水素ガスや圧縮天然ガス(CNG)等を貯蔵する、例えば、車両用高圧タンク等の圧力容器には、軽量化のために、繊維強化複合材料が用いられている。繊維強化複合材料には、例えば、強化繊維としての炭素繊維等に、マトリックス樹脂であるエポキシ樹脂等を含浸させて成形した繊維強化複合材料が使用される。
【0003】
繊維強化複合材料の成形には、例えば、フィラメントワインディング(Filament Winding:FW)成形法等が用いられる。フィラメントワインディング成形法は、例えば、ボビン等から送り出された繊維束に樹脂を含浸させた後、樹脂含浸した繊維束をマンドレル等に連続して巻き付けることにより繊維強化複合材料を成形する成形方法である。
【0004】
特許文献1には、フィラメントワインディング装置等が開示され、出口ガイドの繊維束引き出し方向上流側に、繊維束を拡げる作用を有する拡幅ガイドが設けられていることが記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−154908号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、繊維束を拡げる拡幅方法として、繊維束をローラ等へ押し付けて繊維束を拡幅する方法がある。図7は、従来技術における繊維束の拡幅方法を示す図である。図7に示すように、繊維束は、ローラ面に押し付けられて拡幅される。図8は、従来技術における繊維束とローラ外径との関係を示す図である。図8に示すように、繊維束の拡幅量は、ローラ外径の制約を受ける。すなわち、ローラの外径が大きいほど拡幅ゾーンが長くなり、より大きな拡幅量が得られる。しかし、より大きい拡幅量を得るためにはローラの外径をより大きくする必要があり、設備が大型化するという問題がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、設備の大型化を抑えて繊維束の拡幅量をより大きくすることができる繊維強化樹脂複合材料成形システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る繊維強化複合材料成形システムは、繊維に樹脂を含浸し、樹脂含浸繊維を巻回部材に巻回することにより繊維強化複合材料を成形する繊維強化複合材料成形システムであって、繊維束を開繊する開繊装置を備え、開繊装置は、繊維束をねじ状溝に通して開繊する開繊部を有していることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る繊維強化複合材料成形システムにおいて、開繊装置は、開繊部を加熱する加熱手段を有することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る繊維強化複合材料成形システムにおいて、開繊装置は、開繊部を繊維束の給糸方向と逆方向に回転させる回転手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
上記のように本発明に係る繊維強化複合材料成形システムによれば、設備の大型化を抑えて繊維束の拡幅領域を長くすることができるので、繊維束の拡幅量をより大きくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。図1は、繊維強化複合材料成形システム10の構成を示す図である。
【0013】
繊維供給装置12は、繊維強化複合材料の成形に使用される繊維束14を送り出す機能を有している。繊維供給装置12には、例えば、クリールスタンド(Creel Stand)等を用いることができる。繊維供給装置12は、複数の繊維束14を巻き付けるための複数のボビン16と、複数の繊維束14に負荷される張力を調整するための複数の繊維張力調整装置18とを有している。それにより、ボビン16等から送り出された複数の繊維束14を、繊維張力調整装置18で所定の張力に調整して供給することができる。勿論、他の条件次第では、繊維束14の本数は、複数本に限定されることはなく、1本でもよい。
【0014】
繊維束14の繊維には、高強度繊維または高弾性繊維である炭素繊維等を使用することができる。そして、炭素繊維には、レーヨン系炭素繊維、ポリアクリロニトリル(Polyacrylonitrile:PAN)系炭素繊維またはピッチ系炭素繊維等が用いられる。勿論、繊維束14の繊維には、炭素繊維に限定されることはなく、ガラス繊維またはアラミド繊維等を用いることができる。
【0015】
繊維束14には、繊維径が、例えば、1μmから5μmの単繊維であるフィラメントを束ねたヤーン、ストランド、ロービング等を用いることができる。例えば、炭素繊維を用いた繊維束14には、18Kや24K等の炭素繊維束を用いることができる。勿論、他の条件次第では、繊維束14は、これらの形態に限定されることはない。
【0016】
繊維張力測定装置20は、複数の繊維に負荷された張力を測定する機能を有している。繊維張力測定装置20には、一般的に、炭素繊維等の張力測定に用いられる張力測定器等を使用することができる。
【0017】
樹脂含浸装置22は、繊維張力測定装置20で張力測定された繊維に、樹脂等を含浸する機能を有している。樹脂含浸装置22は、繊維に含浸する樹脂を溜める樹脂槽24と、繊維に樹脂を付着させる樹脂含浸ローラ26と、第1テンションローラ28と、第2テンションローラ30と、を備えている。また、樹脂含浸装置22は、樹脂粘度を調整するために樹脂温度を測定する樹脂温度計と、樹脂含浸量を調整するために繊維に付着した樹脂膜厚を測定する樹脂膜厚計32とを有している。そして、樹脂含浸ローラ26を回転させて、ローラ面を樹脂槽24に溜めた樹脂に浸漬した後、樹脂が付着したローラ面を繊維に接触させることで樹脂含浸することができる。繊維に含浸される合成樹脂には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂または不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂を使用することができる。勿論、合成樹脂は、上記樹脂に限定されることなない。
【0018】
フィラメントワインディング装置34は、樹脂含浸装置22から送り出された樹脂含浸繊維を、型または心金であるマンドレル36(Mandrel)等に巻き付ける機能を有している。フィラメントワインディング装置34は、樹脂含浸繊維をマンドレル36等の円周方向や軸方向に巻き付けることができる。フィラメントワインディング装置34は、例えば、マンドレル36等の回転軸方向に対して略垂直に巻き付けるフープ巻き(Hoop Winding)や、マンドレル36等の回転軸方向に対して所定の角度で巻き付けるヘリカル巻き(Helical Winding)等により樹脂含浸繊維を巻き付けることができる。
【0019】
圧力容器、例えば、高圧タンク等を製造する場合には、マンドレル36の代わりにポリアミド樹脂等により成形された樹脂ライナまたはアルミニウム等により成形された金属ライナ等を使用することができる。そして、樹脂含浸繊維は、フィラメントワインディング装置34により、張力を与えつつ樹脂ライナまたは金属ライナに巻き付けられる。
【0020】
制御装置38は、繊維張力測定装置20と、樹脂含浸装置22に配置される樹脂温度センサと、樹脂膜厚計32等とにリード線とコネクタ等を用いて接続される。制御装置38は、繊維張力測定装置20から出力される繊維の張力データの電気信号を入力し、繊維の張力を制御することができる機能を有している。そして、制御装置38は、樹脂含浸装置22に配置された樹脂温度センサから出力される樹脂温度データの電気信号を入力し、樹脂温度を制御することができる機能を有している。更に、制御装置38は、樹脂膜厚計32から出力される樹脂膜厚データの電気信号を入力して、基準となる所定の樹脂量が樹脂含浸ローラ26に付着されているか否かを検知することができる機能を有している。かかる制御装置38は、例えば、パーソナルコンピュータ(PC)で構成することができる。また、制御装置38と接続されたデータロガ40には、上述した繊維の張力データ、樹脂温度データ、樹脂膜厚データ等が記憶されて保存される。
【0021】
開繊ユニット42は、繊維供給装置12に設けられ、繊維束を開繊する開繊装置としての機能を有している。図2は、開繊ユニット42の構成を示す図である。開繊ユニット42は、ボビン16から繰り出された繊維束14を通すことにより、繊維束14を拡げて開繊するねじ状溝46を有する開繊部44を備えている。溝をボールねじ状やらせん状に形成することにより、開繊部44の大型化を抑制して拡幅領域を長くすることができるので、繊維束14の拡幅幅をより大きくすることができる。開繊部44は、例えば、ステンレス鋼等で軸状等の円柱状に形成される。また、ねじ状溝46は、一般的な金属材料の機械加工により形成される。
【0022】
図3は、開繊部44に形成されたねじ状溝46の構成を示す図であり、図3(A)は、開繊部44に形成されたねじ状溝46の平面図であり、図3(B)は、開繊部44に形成されたねじ状溝46の断面図である。図3(A)に示すように、ねじ状溝46は、繊維束14の給糸方向に向かって溝幅が大きくなるように形成される(溝幅a>b)。また、図3(B)に示すように、ねじ状溝46には、凸部48が設けられ、繊維束14を凸部48に押し付けて給糸することにより、繊維束14を開繊して拡幅することができる。
【0023】
開繊部44は、テーパ形状に形成されることが好ましい。図4は、テーパ形状の開繊部44を有する開繊ユニット42を示す図である。給糸出口方向に向かってテーパ形状とすることにより、繊維束14に負荷される押付け力がより大きくなり、繊維束14をより大きな幅で拡幅することができる。
【0024】
開繊ユニット42は、開繊部44を加熱するヒータ等の加熱手段を有することが好ましい。図5は、開繊部44を加熱して繊維束14を開繊する方法を示す図である。繊維束14に樹脂を含浸したプリプレグを使用する場合には、プリプレグは、常温ではタック性を有しているので開繊しにくい。プリプレグをヒータ等で加熱することにより樹脂を軟化させることができるので、より大きな拡幅量を得ることができる。
【0025】
開繊ユニット42は、開繊部44を回転させる回転手段を備え、開繊部44を給糸方向と逆方向に回転させることが好ましい。図6は、開繊部44を給糸方向と逆方向に回転させて繊維束14を開繊する方法を示す図である。繊維束14に負荷される摩擦力等を低減することにより、より大きな拡幅量を得ることができる。ここで、開繊部44を回転させる回転手段には、一般的なモータ等を使用することができる。
【0026】
次に、再び、図1に戻り、繊維強化複合材料成形システム10の動作について説明する。
【0027】
繊維供給装置12のボビン16から繰り出された繊維束14は、開繊ユニット42で開繊される。繊維束14にプリプレグを用いる場合には、開繊部44がヒータ等で加熱されることにより、プリプレグが加熱されて開繊される。開繊された繊維は、繊維張力調整装置18により所定の張力に調整されて繊維供給装置12から送り出される。
【0028】
繊維供給装置12から送り出された繊維は、繊維張力測定装置20により繊維に負荷されている張力が測定される。ここで、繊維張力測定装置20により測定された繊維の張力データは、繊維張力測定装置20から制御装置38へ出力され、データロガ40に記憶されて保存される。また、繊維に、例えば、基準となる所定の張力が負荷されていない場合には、制御装置38が、張力の異常を検知して異常信号等を出力する。それにより、例えば、繊維強化複合材料成形システムが停止する。
【0029】
繊維張力測定装置20を通過した繊維は、樹脂含浸装置22に送り出される。樹脂含浸装置22における樹脂槽24の中には、例えば、エポキシ樹脂である液状の樹脂が溜められている。樹脂の温度は、熱電対等の樹脂温度センサにより測定される。そして、樹脂温度データは、樹脂温度センサからから制御装置38へ出力され、データロガ40に記憶されて保存される。また、樹脂温度が、例えば、設定された樹脂温度でない場合には、制御装置38が樹脂温度の異常を検知して、異常信号等を出力する。それにより、例えば、繊維強化複合材料成形システム10が停止する。
【0030】
樹脂含浸ローラ26は、ローラが回転することにより樹脂槽24に溜められた樹脂と接触し、樹脂含浸ローラ26の表面に樹脂が付着する。そして、第1テンションローラ28と第2テンションローラ30とにより押さえられた繊維は、樹脂含浸ローラ26と接触することにより樹脂が含浸される。
【0031】
そして、樹脂膜厚計32により測定された樹脂膜厚データは、樹脂膜厚計32から制御装置38へ出力される。そして、出力された樹脂膜厚データは、制御装置38により基準となる樹脂膜厚と比較されるとともにデータロガ40に記憶される。そして、樹脂膜厚データが基準となる樹脂膜厚よりも薄い場合には、制御装置38により繊維に適正な樹脂量の樹脂が含浸されていないと判断されて、異常信号等が出力される。それにより、例えば、繊維強化複合材料成形システム10が停止する。なお、繊維束14にプリプレグを使用する場合には、プリプレグには予め樹脂が含浸されているため、樹脂含浸装置22で樹脂含浸せずに直接フィラメントワインディング装置34へ送り出される。
【0032】
樹脂含浸繊維は、第2テンションローラ30を介した後、フィラメントワインディング装置34へ送り出される。樹脂含浸繊維は、フィラメントワインディング装置34により、マンドレル36または高圧タンクのライナ等にフープ巻き等により巻き付けられる。その後、マンドレル36またはライナ等に巻き付けた樹脂含浸繊維を図示されない樹脂硬化炉等で加熱することにより、樹脂を硬化して繊維強化複合材料が成形される。
【0033】
以上、上記構成によれば、ねじ状溝を有する開繊部を備える開繊ユニットを用いて繊維束を開繊して拡幅することにより、開繊ユニットの大型化を抑制して繊維束の拡幅量をより大きくすることができる。
【0034】
上記構成によれば、開繊部を加熱することにより、繊維束にプリプレグを用いた場合でも容易にプリプレグを開繊して拡幅することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施の形態において、繊維強化複合材料成形システムの構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態において、開繊ユニットの構成を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態において、開繊部に形成されたねじ状溝の構成を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態において、テーパ形状の開繊部を有する開繊ユニットを示す図である。
【図5】本発明の実施の形態において、開繊部を加熱して繊維束を開繊する方法を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態において、開繊部を給糸方向と逆方向に回転させて繊維束を開繊する方法を示す図である。
【図7】従来技術による繊維束の拡幅方法を示す図である。
【図8】従来技術における繊維束とローラ外径との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
10 繊維強化複合材料成形システム、12 繊維供給装置、14 繊維束、16 ボビン、18 繊維張力調整装置、20 繊維張力測定装置、22 樹脂含浸装置、24 樹脂槽、26 樹脂含浸ローラ、28 第1テンションローラ、30 第2テンションローラ、32 樹脂膜厚計、34 フィラメントワイディング装置、36 マンドレル、38 制御装置、40 データロガ、42 開繊ユニット、44 開繊部、46 ねじ状溝、48 凸部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維に樹脂を含浸し、樹脂含浸繊維を巻回部材に巻回することにより繊維強化複合材料を成形する繊維強化複合材料成形システムであって、
繊維束を開繊する開繊装置を備え、
開繊装置は、繊維束をねじ状溝に通して開繊する開繊部を有していることを特徴とする繊維強化複合材料成形システム。
【請求項2】
請求項1に記載の繊維強化複合材料成形システムであって、
開繊装置は、開繊部を加熱する加熱手段を有することを特徴とする繊維強化複合材料成形システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の繊維強化複合材料成形システムであって、
開繊装置は、開繊部を繊維束の給糸方向と逆方向に回転させる回転手段を有することを特徴とする繊維強化複合材料成形システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−119831(P2009−119831A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−299421(P2007−299421)
【出願日】平成19年11月19日(2007.11.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】