説明

缶詰の製造方法

【課題】液体窒素の封入手法によらず、また製造を行う地域の気候によらず缶内圧のバラつきを抑制し、密封性検査を精度よく行うことができる缶詰の製造方法を提供する。
【解決手段】缶体に内容物を充填し、液体窒素を封入して密封した後、密封性検査を行う缶詰の製造方法において、内容物の充填温度が30〜50℃であり、缶内圧の平均が0.3〜1.0kPa、かつ標準偏差が0.12以下である。
本発明は、ミルクコーヒーなどの内容物が乳成分を含む低酸性飲料を充填してレトルト殺菌する場合に、特に好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内容物充填時に液体窒素を封入する缶詰の製造方法に関し、特に、安定した密封性検査を行うことのできる缶詰の製造方法に関する。

【背景技術】
【0002】
従来より、胴壁を薄肉にした容器の変形を防止するために内圧を微陽圧に調整することや、ヘッドスペース内の酸素を除去することを目的として、内容物充填の際に液体窒素を封入し、その気化によってヘッドスペース内の空気を排除しつつ、缶内圧を高くする技術が知られている(特許文献1)。
充填時の内容物の温度は、内容物の特性に合わせて適宜選択される。多くの飲料や食品は室温近傍の20〜30℃で充填され、炭酸飲料では5〜10℃程度の低温で充填される。また、ミルクコーヒーのように乳成分を含む低酸性飲料では、乳成分の均質化を図る目的で70℃近傍迄加温する必要があり、この温度で充填している。
液体窒素の封入方法としては、充填済み開口状態の缶へ所定量の液体窒素を滴下する方法、連続的に流下する液体窒素の下へ缶を通過させる方法などが知られている。
液体窒素封入の技術は、缶詰だけでなくPETボトル飲料にも適用されている(特許文献2)。

【0003】
内容物の充填温度が室温程度あるいはそれ以下の場合、上記の液体窒素封入方法で何ら問題はないが、高温で充填して液体窒素を流下ないし滴下する場合、液体窒素が急激に気化して缶内圧がバラつく問題がある。缶内圧がバラつくと、密封性を検査する打検検査の数値もバラついて、正常品を不良と判定する、いわゆるムダばねが多くなる。
特に乳成分を含む低酸性飲料では、低温で調合すると乳成分の分離、凝集などが起こり、むやみに充填温度を下げることはできない。このような問題に対して特許文献3では、高温の内容物を35℃以下に冷却して充填した後、液体窒素を封入する方法を開示している。
その他の手法として、本出願人は液体窒素を霧状に微細粒化して封入する方法を提案している(特許文献4、5)。この方法で充填した缶では、缶内圧のバラつきは抑制され、打検などの方法により内圧の検査を精度よく行うことができる(特許文献6)。

【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭57-174076
【特許文献2】特開2008-155942
【特許文献3】特公平03-042069
【特許文献4】特開昭56-013322
【特許文献5】特開平11-292018
【特許文献6】特開平11-193016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、缶内圧のバラつきを抑制する方法として、特許文献3のように高温の内容物の温度を充填時に冷却しようとしても、平均気温が高い地域で充填作業を行う場合には、35℃以下まで冷却するのは困難である。
特に、密封後にレトルトやパストライズなどの加熱殺菌を行う場合、一旦温度を下げてしまうと加熱時の製品温度の追従がバラつくため、殺菌温度到達迄の時間を長く取らなければならないなどの問題がある。
本発明は以上の事情に鑑み検討されたもので、液体窒素の封入手法によらず、また製造を行う地域の気候によらず缶内圧のバラつきを抑制し、密封性検査を精度よく行うことができる缶詰の製造方法を提供することを目的とする。

【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による缶詰の製造方法は、缶体に内容物を充填し、液体窒素を封入して密封した後、密封性検査を行う缶詰の製造方法において、内容物の充填温度が30〜50℃であり、缶内圧の平均が0.3〜1.0kPa、かつ標準偏差が0.12以下であることを特徴とする。
本発明はさらに、内容物が乳成分を含む低酸性飲料であり、60〜95℃で調製した後、前記充填温度まで冷却し、密封後に加熱殺菌を行った後、前記密封性検査を行うことを特徴とする。

【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、液体窒素の封入手法によらずまた製造を行う地域の気候によらず、缶内圧のバラつきを抑制し、密封性検査を精度よく行うことができる缶詰の製造方法が提供される。
特に、乳成分を含む低酸性飲料などの内容物を充填する場合であっても乳成分の分離、凝集を抑制することができる。
液体窒素を微細粒化して封入するようにすれば、さらに缶内圧が正確に制御され、より精度の高い密封性検査を行うことができる。

【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態を示すフローチャートである。
【図2】充填温度と缶内圧のバラツキとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、本発明の一実施形態を示すフローチャートである。
本発明に特に好適な内容物であるミルクコーヒーなどの乳成分を含む低酸性飲料の場合、乳成分の均質化を図るため、好適条件である70℃近傍(60〜95℃)の温度で調製する。その後、30〜50℃の所定温度に調整した後、供給された空缶に充填する。続いて液体窒素を封入した後、供給された缶蓋により密封する。
内容物の充填から密封までの工程においては、充填済み缶の開口部に缶蓋を載置する際に、その隙間から液体窒素を封入するようにしたり、ヘッドスペース中をより確実に置換するため窒素などの不活性ガス雰囲気中で行うなど、公知の手法を組み合わせることができる。
充填密封された缶は、適宜レトルトなどの加熱殺菌を施す。その後、打検などの密封性検査を経て正常品と判断された缶は、缶詰製品として出荷される。
打検は陰圧缶〜微陽圧缶の密封性検査方法として伝統的で信頼性の高い検査方法である。その他の密封性検査としては、例えば、缶底または缶蓋の缶内圧変化による凹みあるいは膨出の有無を距離センサーで計測したり、減圧チャンバー内に缶を載置して缶内からのリークの有無を測定するなどの方法がある。
本発明によれば、液体窒素を封入して缶内圧を0.3〜1.0kPaに調整する微陽圧缶において缶内圧のバラツキを示す標準偏差を0.12以下にできるため、密封性検査における良否判定の閾値の設定が容易になり、不良品を確実に排除し、かつ正常品を不良と判定するいわゆるムダばねを低減することができ、より精度の高い密封性検査を行うことができる。

【0010】
図2は、本発明の効果を示すために行った充填試験の結果であって、充填温度と缶内圧のバラツキとの関係を示すグラフである。
この試験は、内容量180mLの缶に水を充填し、缶内圧0.68kPaを目標に液体窒素を封入して100cpmの速度で密封したもので、水の充填温度を30,50,70℃の3点、液体窒素の封入を、流下方式と、液体窒素を微細粒化して封入するミスト方式の2種類とした。各条件につき300缶ずつ製造し、21℃まで冷却した後缶内圧を測定して、その標準偏差を求めた。
図2で明らかなとおり、充填温度は低ければ低いほど缶内圧のバラツキを示す標準偏差は小さくなり、充填温度が50℃以下であれば、流下方式でも0.12以下にできる。
また流下方式に対してミスト方式は、充填温度が高くてもバラツキが小さい。ただ充填温度を30℃まで下げると、その差が縮まる。
このように、充填温度は低い方が缶内圧を安定させる上で好ましいが、室温自体が30℃近傍と高い状況、例えば赤道近傍の国々など平均気温が高い地域で缶詰の製造を行うような場合、充填温度を30℃まで下げるには追加的な冷却設備を要するなどの困難がある。
また、例えば125℃20分の殺菌条件でレトルト殺菌する際、充填温度が高い場合に比べて昇温時間が長くなる。また昇温幅が大きくなると製品温度の追従もバラツキが大きくなるが、所定の殺菌価を得るには最も遅れて殺菌温度に達する製品を基準に保持時間を決定するため、トータルの加熱時間はさらに長くなってしまう。
この差は単に生産効率上の問題だけでなく、多くの製品では熱履歴が過剰になることを意味し、フレーバーに悪影響を及ぼす。
一方、一般的な製造ラインでは、充填・密封は連続で行うのに対してレトルト殺菌はバッチ処理で行われるので、密封後から殺菌開始までの待機時間は缶ごとに異なるが、従来の70℃近傍で充填していた場合では、初期に充填された缶はこの間に20℃前後の製品温度低下があったため、これを見越してレトルト殺菌装置の運転条件を設定していた。
以上の観点から、内容物の充填温度を45〜50℃の範囲とすれば、従来の殺菌装置の運転条件を変更する必要もなく、内容物の熱履歴が過剰になることもないので、より好ましい。

【産業上の利用可能性】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、内容物充填時に液体窒素を封入する缶詰の製造方法において、安定した密封性検査を行うことのできる缶詰の製造方法が提供される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
缶体に内容物を充填し、液体窒素を封入して密封した後、密封性検査を行う缶詰の製造方法において、
内容物の充填温度が30〜50℃であり、缶内圧の平均が0.3〜1.0kPa、かつ標準偏差が0.12以下であることを特徴とする缶詰の製造方法。

【請求項2】
内容物が乳成分を含む低酸性飲料であり、60〜95℃で調製した後、前記充填温度まで冷却し、密封後に加熱殺菌を行った後、前記密封性検査を行うことを特徴とする請求項1に記載の缶詰の製造方法。

【請求項3】
液体窒素を微細粒化して封入することを特徴とする請求項1または2に記載の缶詰の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−25973(P2011−25973A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−174859(P2009−174859)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】