説明

置換β−フェニル−α−ヒドロキシプロピオン酸、その合成方法及び使用

本発明は、式(I)の化合物


(式中、R、R及びRはそれぞれ独立して、H、OH、F、Cl、Br、メトキシ及びエトキシから選択されるか、又は代替的にR及びRは一緒になって−OCHO−を形成し、RはH、OH、メトキシ、エトキシ及びハロゲンから選択され、RはOH又はアシルオキシであり、Rは、シクロアルコキシ、アミノ及び置換アミノであり、Rがアミノから選択される場合、R、R及びRの少なくとも1つはHではない)に関する。本発明はさらに、式(I)の化合物を合成する方法、及び心血管疾患又は脳血管疾患の予防又は治療のための医薬品の製造における式(I)の化合物の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、置換β−フェニル−α−ヒドロキシル−プロピオン酸誘導体、それを合成する方法、及び心血管疾患及び脳血管疾患を治療及び予防するための医薬品の製造のためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
丹参(セージ(Radix Salviae Militiorrhizae))は、明確な治療効果を有する、心血管疾患及び脳血管疾患を治療するための伝統的な漢方薬である。現在、サルビア酸(salvianic acid)(化学名:β−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−α−ヒドロキシ−プロピオン酸)は、丹参の水溶性成分の主な有効成分であることが一般的に予測される。薬理学試験において、β−フェニル−α−ヒドロキシルプロピオン酸は、プロパノイド酸(propanoid acid)の薬理学的に活性な部分であるが、その効力は所望のものでないことが立証されている。このため、置換β−フェニル−α−ヒドロキシルプロピオン酸を改良した。得られた改良型誘導体は親化合物と同様又はそれ以上の効力を有し、心血管疾患及び脳血管疾患の治療及び予防における改善された治療効果も示している。例えば、ボルネオールは心障壁(cardiocerebral barrier)を通過することができるのに対し、プロパノイド酸は心障壁を通過する傾向にない。したがって、ボルネオールの化学構造を組み入れることによって、プロパノイド酸の構造を改良することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の一目的は、置換β−フェニル−α−ヒドロキシ−プロピオン酸誘導体、及びそれを合成する方法、並びに心血管疾患及び脳血管疾患の予防及び治療のための医薬品の製造における置換β−フェニル−α−ヒドロキシ−プロピオン酸誘導体の使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の一態様において、置換β−フェニル−α−ヒドロキシ−プロピオン酸誘導体、特に式(I):
【0005】
【化1】

【0006】
(式中、R、R及びRはそれぞれ独立して、H、OH、F、Cl、Br、メトキシ及びエトキシから成る群から選択されるか、又は代替的にR及びRは一緒になって−OCHO−を形成し、RはH、OH、メトキシ、エトキシ及びハロゲンから成る群から選択され、
はOH又はアシルオキシであり、
は、シクロアルコキシ、アミノ及び置換アミノから成る群から選択されるが、但し、Rがアミノである場合には、R、R及びRの少なくとも1つはHではないものとする)の化合物が提供される。
【0007】
本発明の一実施の形態において、RはOHである。
【0008】
本発明の別の実施の形態では、Rが、アロイルオキシ又は複素環式基−置換アシルオキシである。好ましくはRは、o−アセトキシベンゾイルオキシ、3−ピリジニルベンゾイルオキシ又は4−ピリジニルベンゾイルオキシである。
【0009】
本発明のさらなる実施の形態において、Rは以下のものである。
【0010】
【化2】

【0011】
さらなる実施の形態において、R及びRはそれぞれOHである。
【0012】
さらなる実施の形態において、R及びRは一緒になって−OCHO−を形成する。
【0013】
好ましい実施の形態において、R及びRがそれぞれOHである場合、R=H、R=OH、且つR
【0014】
【化3】

【0015】
であり、即ち、化合物は、式(II)に示されるようなボルニルβ−(3,4−ジヒドロキシルフェニル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸エステルである。
【0016】
【化4】

【0017】
別の好ましい実施の形態では、R及びRが一緒になって−OCHO−を形成する場合、R=H、R
【0018】
【化5】

【0019】
、且つR
【0020】
【化6】

【0021】
であるか、又は代替的に、R=H、R
【0022】
【化7】

【0023】
、且つR
【0024】
【化8】

【0025】
であるか、又はさらに代替的に、R=H、R=OH、且つR
【0026】
【化9】

【0027】
である。
【0028】
本発明の別の態様では、式(III)の化合物を式(IV)の化合物又はその水和物と、触媒の存在下で反応させること:
【0029】
【化10】

【0030】
(式中、R、R、R、R及びRは式(I)に関して上記に定義されたものと同じ意味を有する)を含む式(I)の化合物を合成する方法が提供される。
【0031】
或いは代替的に、上記方法は、式(V)の化合物を式(VI)の化合物又はその水和物と、触媒の存在下で反応させること:
【0032】
【化11】

【0033】
(式中、R、R、R及びRは式(I)に関して上記に定義されたものと同じ意味を有し、R'はアシルオキシである)を含む。
【0034】
上記触媒は、濃HSO、ケイ化タングステン酸、リンモリブデン酸、p−トルエンスルホン酸、S2−/ZrO、三塩化アルミニウム、塩化亜鉛及び/又は塩化マグネシウムから選択することができる。好ましくは、上記触媒はp−トルエンスルホン酸、S2−/ZrO、三塩化アルミニウム及び/又は塩化亜鉛である。p−トルエンスルホン酸及び/又はS2−/ZrOを使用することが特に有利である。
【0035】
式(III)の化合物と式(IV)の化合物との反応モル比は、1:0.8〜1:1.5、好ましくは1:1〜1:1.5、より好ましくは1:1.25〜1:1.5、最も好ましくは1:1.5であり得る。
【0036】
式(V)の化合物と式(VI)の化合物との反応モル比は、1:0.8〜1:1.5、好ましくは1:1〜1:1.5、より好ましくは1:1.25〜1:1.5、最も好ましくは1:1.5であり得る。
【0037】
必要に応じて、この反応は溶媒中で行われる。溶媒は、酢酸エチル、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、アセトン、トルエン、1,4−ジオキサン及びN,N−ジメチルホルムアミドから成る群から選択し得る。好ましくは、溶媒は、テトラヒドロフラン、アセトン、トルエン、1,4−ジオキサン及びN,N−ジメチルホルムアミドから選択される。より好ましくは、溶媒は、テトラヒドロフラン及びアセトンから選択される。最も好ましくは、テトラヒドロフランが溶媒として使用される。これらの溶媒は、単独又は任意の組合せのいずれでも使用することができる。
【0038】
反応温度は、使用される溶媒に応じて様々な値をとることができる。有利には、これは0℃〜150℃の範囲内に制御される。好ましくは、反応温度は25℃〜100℃である。より好ましくは、反応温度は65℃である。
【0039】
反応持続時間は、2時間〜24時間、好ましくは5時間〜15時間、より好ましくは8時間〜12時間、最も好ましくは8時間であり得る。
【0040】
特定の一実施の形態では、β−(3,4−ジヒドロキシルフェニル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸をボルネオールと、触媒の存在下で反応させることを含む、式(II)の化合物を合成する方法が提供される。触媒は、ルイス酸触媒、例えば、トルエンスルホン酸、S2−/ZrO、三塩化アルミニウム及び/又は塩化亜鉛、好ましくはS2−/ZrOであり得る。上記方法において、β−(3,4−ジヒドロキシルフェニル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸とボルネオールとのモル比は、1:1〜1:1.5、好ましくは1:1.25〜1:1.5、より好ましくは1:1.5であり得る。反応は溶媒中で行われ、この溶媒は、テトラヒドロフラン、トルエン、1,4−ジオキサン又はN,N−ジメチルホルムアミドから成る群から選択することができ、好ましくはテトラヒドロフランであり得る。反応温度は、使用される溶媒に応じて様々な値をとることができ、一般的には65℃〜150℃の範囲内、好ましくは65℃に制御される。反応持続時間は、8時間〜12時間、好ましくは8時間であり得る。
【0041】
2−/ZrOを触媒として使用する場合、S2−/ZrOは以下の方法によって必要に応じて調製することができる:アンモニア水を0℃〜10℃のZrOCl溶液に添加してpHを9〜12にすること、エージングさせること、ペレットを洗浄してClを除くこと、乾燥状態まで炉内で加熱すること、粉砕すること、その後(NHの溶液に添加して浸漬すること、濾過すること、乾燥させること、粉砕すること、及びその後500℃〜700℃で2時間〜5時間焼成することにより、S2−/ZrOを得る。
【0042】
本発明のさらなる態様では、心血管疾患及び脳血管疾患の予防及び治療のための医薬品の製造における、本発明の化合物の使用、特に心血管疾患及び脳血管疾患の予防及び治療のための医薬品の製造における、ボルニルβ−(3,4−ジヒドロキシルフェニル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸エステル(式(II)の化合物)の使用が提供される。
【0043】
本発明は、合成及び薬力学的試験に関する以下の実施例と併せてさらに例示される。しかしながら、これらの実施例は、本発明を例示することを意図するものに過ぎず、本発明を限定するように意図されるものではない。
実施例
【実施例1】
【0044】
ボルニルβ−(3,4−ジヒドロキシルフェニル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸エステルの合成(I)
(1)アセチルグリシンの合成
250mL容の三つ口フラスコ内に、0.33molのグリシン及び100mLの蒸留水を添加し、溶解するまで激しく攪拌し、0.67molの無水酢酸を攪拌しながら徐々に滴下した。この混合物を50分間連続して激しく攪拌した後、吸引濾過した。ペレットを洗浄及び乾燥させ、白色結晶を86.0%の収率で得た。
【0045】
(2)2−メチル−4−(3,4−ジアセトキシベンジリデン)−オキサゾロンの合成
250mL容の三つ口フラスコ内に、0.20molの3,4−ジヒドロキシルベンズアルデヒド、0.24molのアセチルグリシン及び0.26molの無水酢酸ナトリウムを添加した後、189mLの無水酢酸を添加し、攪拌によって均質に混合した。攪拌しながら80℃の水浴中で4時間反応を実施し、その後、温度を100℃まで上げ、反応を攪拌しながら1時間続けた。この反応混合物を室温まで冷却した後、冷蔵庫に入れさらに冷却させた。100mLの水をこの反応混合物に攪拌しながら添加して、黄色結晶を底に沈殿させた。吸引濾過、洗浄及び乾燥後に、黄色結晶を75.0%の収率で得た。
【0046】
(3)β−(3,4−ジアセトキシフェニル)−α−アセトアミドアクリル酸の合成
フラスコ内に、0.15molの2−メチル−4−(3,4−ジアセトキシベンジリデン)オキサゾロン、166mLのアセトン及び166mLの蒸留水を添加した後、沸騰するまで徐々に加熱し、3時間加熱することによって還流させた。この混合物を活性炭を用いて脱色した。濾過後、濾液を放置して結晶化させ、その後吸引濾過、洗浄及び乾燥し、淡褐色の結晶粉末を72.9%の収率で得た。
【0047】
(4)β−(3,4−ジヒドロキシルフェニル)ピルビン酸の合成
0.25molのβ−(3,4−ジアセトキシフェニル)−α−アセトアミドアクリル酸に、1500mLの1mol・L−1塩酸を添加した。次に、この混合物を8時間攪拌しながら加熱して還流させた。活性炭を用いた脱色、及び吸引濾過後に、濾液を濃縮して結晶を沈殿させた。この混合物を吸引濾過、洗浄及び乾燥し、白色のルーズ(loose)結晶を48.1%の収率で得た。
【0048】
(5)β−(3,4−ジヒドロキシルフェニル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸の合成
0.17molのβ−(3,4−ジヒドロキシルフェニル)ピルビン酸に、112gの亜鉛アマルガム及び1808mLの1.4mol・L−1塩酸溶液を添加し、8時間加熱及び還流をしながら反応を実施した。濾過後、濾液を酢酸エチルを用いて繰返し抽出し、無水NaSOを用いて乾燥させた。酢酸エチルを除去した後、β−(3,4−ジヒドロキシルフェニル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸を40.3%の収率で得た。
【0049】
(6)ボルニルβ−(3,4−ジヒドロキシルフェニル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸エステルの合成
フラスコ内に、0.12molのβ−(3,4−ジヒドロキシルフェニル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸及び0.18molのボルネオールを添加した後、0.86gのp−トルエンスルホン酸又は2.00gの自身で作製したS2−/ZrOを触媒として添加し、500mLのテトラヒドロフランを添加した。65℃で8時間反応を実施した。反応完了後、触媒、溶媒及び未反応のボルネオールを除去して、褐色の粘性物質を得た。カラムクロマトグラフィを用いてこれをさらに分離し、黄色みがかったオイルを得た。
【0050】
触媒S2−/ZrOは、以下の工程を含むプロセスによって調製した:0.025molのZrOCl・8HOを含む1mol・L−1ZrOClの溶液を調製すること、氷水浴中で攪拌すること、pHが10になるまで6mol・L−1アンモニア水を徐々に滴下すること、12時間エージングすること、吸引濾過すること、(0.1mol・L−1AgNO試験を用いて)Clが測定できなくなるまで濾過ケークを蒸留水で洗浄すること、濾過ケークを110℃で10時間焼成すること、粉砕すること、0.5mol・L−1(NH溶液中に12時間浸漬させること、吸引濾過すること、乾燥させること、粉砕すること、及びマッフル炉において600℃で3時間焼成することによりS2−/ZrOを得た。
【0051】
(7)得られた黄色みがかったオイルの質量スペクトル、赤外スペクトル、H NMRスペクトル及び13C NMRスペクトル
図2は、351.7が(M+HO)の分子イオンピークであることを示す、得られた黄色みがかったオイルの質量スペクトルであり、このオイルが333.69の分子量を有する。
【0052】
図3は、IR(KBr)ν/cm−1:3363.61(OH)、2953.12(CH)、2913.90(CH)、1725.51(C=O)、1608.20、1521.53、1450.32(ベンゼン環の骨格)、1281.36(エステルのC=O)、1114.39(第二級ヒドロキシルのC−O)、885.71及び805.68(1,2,4−三置換ベンゼン環)を示す。
【0053】
図4は、H NMR(CDCOCD,500MHz)δ:6.57〜7.64(m,3H,Ar−H)、4.10〜4.32(m,1H,−CH(OH)−)、4.83(t,1H,−CH−)、2.79〜2.92(m,2H,−CH−)を示す。
【0054】
図5は、13C NMR(CDCl,500MHz)δ:174.790、143.807、143.056、128.557、121.549、116.895、115.488、81.983、71.646、48.860、47.881、44.798、39.871、36.506、27.918、27.057、19.653、18.774、13.501を示す。
【0055】
上記の特性データから、ボルニルβ−(3,4−ジヒドロキシルフェニル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸エステルが合成により得られたことが実証された。
【実施例2】
【0056】
ボルニルβ−(3,4−ジヒドロキシルフェニル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸エステル(II)の合成
0.12molのβ−(3,4−ジヒドロキシルフェニル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸及び0.15molのボルネオールを三つ口フラスコに添加した後、触媒として0.86gのp−トルエンスルホン酸、及び500mLのテトラヒドロフランを添加して、65℃で12時間反応を実施した以外は、実施例1と同じ手法によって合成を実施した。反応完了後、反応溶媒を真空蒸留によって除去し、得られた粘性物質を、沸騰水浴中でオイルポンプを用いて真空(1.3×10−3Pa)により処理して、ボルネオールを除去し、その後200mLの酢酸エチルを添加した。得られた溶液を飽和NaHCO溶液で洗浄し、未反応のβ−(3,4−ジヒドロキシルフェニル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸及びp−トルエンスルホン酸を除去した。得られた酢酸エチル層を減圧下で濃縮し、褐色の粘性物質を得た。カラムクロマトグラフィによってこれをさらに分離し、黄色みがかったオイルを得た。この得られた黄色みがかったオイルは、実施例1におけるものと同じ質量スペクトル及び赤外スペクトルを有する。
【実施例3】
【0057】
ボルニルβ−(3,4−ジヒドロキシルフェニル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸エステルの合成(III)
0.1molのβ−(3,4−ジヒドロキシルフェニル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸及び0.12molのボルネオールを三つ口フラスコに添加した後、触媒として1.33gのS2−/ZrO、及び400mLの1,4−ジオキサンを添加し、100℃で8時間反応を実施した以外は、実施例1と同じ手法によって合成を実施した。反応完了後、触媒であるS2−/ZrOを吸引濾過によって除去し、溶媒を真空蒸留によって除去して、得られた粘性物質を、沸騰水浴中でオイルポンプを用いて真空(1.3×10−3Pa)により処理して、ボルネオールを除去した。得られた黒褐色の粘性物質を、カラムクロマトグラフィを用いて分離し、実施例1におけるものと同じ質量スペクトル及び赤外スペクトルを有する黄色みがかったオイルを得た。
【実施例4】
【0058】
ボルニルβ−(3,4−ジヒドロキシルフェニル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸エステルの合成(IV)
0.06molのβ−(3,4−ジヒドロキシルフェニル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸及び0.09molのボルネオールを三つ口フラスコに添加した後、触媒として0.60gの三塩化アルミニウム及び溶媒として200mLのN,N−ジメチルホルムアミドを添加し、150℃で10時間反応を実施した以外は、実施例1と同じ手法によって合成を実施した。反応完了後、溶媒を真空蒸留によって除去し、得られた粘性物質を、沸騰水浴中でオイルポンプを用いて真空(1.3×10−3Pa)により処理して、ボルネオールを除去した。得られた黒褐色物質を、カラムクロマトグラフィを用いて分離し、実施例1のものと同じ質量スペクトル及び赤外スペクトルを有する黄色みがかったオイルを得た。
【実施例5】
【0059】
ボルニルβ−(4−クロロフェニル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸エステルの合成
(1)3,4−ジヒドロキシルベンズアルデヒドの代わりに4−クロロベンズアルデヒドを用いた以外は、実施例1(2)と同様の方法で2−メチル−4−(4−クロロベンジリデン)オキサゾロンを合成した。褐色結晶が87.4%の収率で得られた。
【0060】
(2)β−(4−クロロフェニル)−α−アセトアミドアクリル酸の合成
0.10molの2−メチル−4−(4−クロロベンジリデン)オキサゾロン、110mLのアセトン、110mLの水、及び2mLの濃塩酸をフラスコに添加し、沸騰するまで徐々に加熱し、その後3時間加熱を続けて還流させた。活性炭を用いた脱色及び濾過後に、濾液を放置して結晶化させ、吸引濾過、洗浄及び乾燥によって橙色の結晶粉末を81.1%の収率で得た。
【0061】
(3)β−(4−クロロフェニル)ピルビン酸の合成
4.55gのβ−(4−クロロフェニル)−α−アセトアミドアクリル酸、91mLの1mol・L−1塩酸溶液、及び45mLのTHFをフラスコに添加し、混合物を10時間加熱して還流させた。活性炭を用いた脱色及び濾過後に、濾液を放置して結晶化させ、吸引濾過、洗浄及び乾燥によってオフホワイトの結晶粉末を77.3%の収率で得た。
【0062】
(4)β−(4−クロロフェニル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸の合成
15.00gのβ−(4−クロロフェニル)ピルビン酸に、98.00gのZn(Hg)、219mLの2.5mol・L−1塩酸及び35mLのTHF溶液を添加し、10時間加熱して還流させた。この反応混合物が熱いうちに濾過を実施した後、濾液を80mLになるまで濃縮し、一晩放置した。吸引濾過、洗浄、乾燥及び沸騰水中での再結晶化後に、白色の綿状結晶を64.0%の収率で得た。
【0063】
(5)ボルニルβ−(4−クロロフェニル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸エステルの合成
三つ口フラスコ内に、0.12molのβ−(4−クロロフェニル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸及び0.15molのボルネオールを添加した後、触媒として0.86gのp−トルエンスルホン酸、及び500mLのテトラヒドロフランを添加し、65℃で12時間反応を実施した。反応完了後、この反応溶媒を真空蒸留によって除去し、得られた粘性物質を、沸騰水浴中でオイルポンプを用いて真空(1.3×10−3Pa)により処理して、ボルネオールを除去し、その後200mLの酢酸エチルを添加して溶液を得た。得られた溶液を飽和NaHCO溶液で洗浄し、未反応のβ−(4−クロロフェニル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸及びp−トルエンスルホン酸を除去した。得られた有機相を真空下で濃縮し、褐色の粘性物質を得た。カラムクロマトグラフィを用いてこれを分離し、黄色みがかったオイルを得た。
【0064】
IR(KBr)ν/cm−1:3461.45(OH)、2981.99(CH)、2935.46(CH)、1731.08(C=O)、1598.03、1492.10、1453.90(ベンゼン環の骨格)、1269.86(エステルのC=O)、1106.22(第二級ヒドロキシルのC−O)、846.84(パラ−二置換)
H NMR(500MHz,CDCl)δ:6.57〜7.64(m,3H,Ar−H)、4.10〜4.32(m,1H,−CH(OH)−)、4.83(t,1H,−CH−)、2.79〜2.92(m,2H,−CH−)、1.205(t,3H,−CH
13C NMR(500MHz,CDCl)δ:13.5、19.5、19.5、23.3、30.2、32.5、40.8、45.4、49.4、50.6、71.3、82.4、128.7、128.7、129.1、129.1、131.5、137.5、170.8
【実施例6】
【0065】
ボルニルβ−(3−メトキシ−4−ヒドロキシルフェニル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸エステルの合成
(1)3,4−ジヒドロキシルベンズアルデヒドの代わりに3−メトキシ−4−ヒドロキシルベンズアルデヒドを用いた以外は、実施例1(2)と類似の方法で2−メチル−4−(3−メトキシ−4−アセトキシベンジリデン)オキサゾロンを合成した。黄色結晶が73.5%の収率で得られた。
【0066】
(2)2−メチル−4−(3,4−ジアセトキシベンジリデン)オキサゾロンの代わりに2−メチル−4−(3−メトキシ−4−アセトキシベンジリデン)オキサゾロンを用いた以外は、実施例1(3)と類似の方法でβ−(3−メトキシ−4−アセトキシフェニル)−α−アセトアミドアクリル酸を合成した。淡褐色のルーズ結晶粉末が71.6%の収率で得られた。
【0067】
(3)β−(3,4−ジアセトキシフェニル)−α−アセトアミドアクリル酸の代わりにβ−(3−メトキシ−4−アセトキシフェニル)−α−アセトアミドアクリル酸を用いた以外は、実施例1(4)と類似の方法でβ−(3−メトキシ−4−ヒドロキシルフェニル)ピルビン酸を合成した。黄色みがかったルーズ結晶粉末が64.2%の収率で得られた。
【0068】
(4)β−(3,4−ジヒドロキシルフェニル)ピルビン酸の代わりにβ−(3−メトキシ−4−ヒドロキシルフェニル)ピルビン酸を用いた以外は、実施例5(4)と類似の方法でβ−(3−メトキシ−4−ヒドロキシルフェニル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸を合成した。黄色みがかったオイル又は結晶が77.8%の収率で得られた。
【0069】
(5)β−(3,4−ジヒドロキシルフェニル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸の代わりにβ−(3−メトキシ−4−ヒドロキシルフェニル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸を用いた以外は、実施例5(5)と類似の方法でボルニルβ−(3−メトキシ−4−ヒドロキシルフェニル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸エステルを合成した。黄色みがかった結晶が59.8%の収率で得られた。
【0070】
IR(KBr)ν/cm−1:3363.61(OH)、2953.12(CH)、2913.90(CH)、1725.51(C=O)、1608.20、1521.53、1450.32(ベンゼン環の骨格)、1281.36(エステルのC=O)、1114.39(第二級ヒドロキシルのC−O)、885.71、805.68(1,2,4−三置換ベンゼン環)、1237.58、1027.61(アリールアルキルエーテル)
H NMR(400MHz,CDCOCD.)δ:6.679〜6.869(m,3H,Ar−H)、4.920〜4.983(m,1H,−CH−)、4.257〜4.286(t,1H,−CH(OH)−)、3.819(s,3H,−OCH)、2.804〜2.978(m,2H,−CH−)
13C NMR(500MHz,CDCOCD)δ:13.5、19.5、19.5、23.3、30.2、32.5、41.1、45.4、49.4、50.6、56.1、71.3、82.4、113.1、116.8、121.4、133.0、142.9、151.3、170.8
【実施例7】
【0071】
メンチルβ−(ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イル)−α−(ニコチノイルオキシ)プロピオン酸エステルの合成
(1)3,4−ジヒドロキシルベンズアルデヒドの代わりにベンゾ[1,3]ジオキソール−5−カルバルデヒドを用いた以外は、実施例1(2)と類似の方法で2−メチル−4−(ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチレン)−オキサゾロンを合成した。黄色結晶が76.5%の収率で得られた。
【0072】
(2)2−メチル−4−(3,4−ジアセトキシベンジリデン)オキサゾロンの代わりに2−メチル−4−(ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチレン)−オキサゾロンを用いた以外は、実施例1(3)と類似の方法でβ−(ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イル)−α−アセトアミドアクリル酸を合成した。淡褐色のルーズ結晶粉末が78.7%の収率で得られた。
【0073】
(3)β−(ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イル)−α−アセトアミドアクリル酸の代わりにβ−(ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イル)−α−アセトアミドアクリル酸を用いた以外は、実施例1(4)と類似の方法でβ−(ベンゾ[1,3]ジオキソル−5−イル)ピルビン酸を合成した。黄色みがかったルーズ結晶が65.4%の収率で得られた。
【0074】
(4)β−(3,4−ジヒドロキシルフェニル)ピルビン酸の代わりにβ−(ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イル)ピルビン酸を用いた以外は、実施例5(4)と類似の方法でβ−(ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸を合成した。黄色みがかったオイル又は結晶が78.7%の収率で得られた。
【0075】
(5)β−(3,4−ジヒドロキシルフェニル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸の代わりにβ−(ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸を用いた以外は、実施例5(5)と類似の方法でメンチルβ−(ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸エステルを合成した。黄色みがかったオイルが得られた。
【0076】
(6)メンチルβ−(ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イル)−α−(ニコチノイルオキシ)プロピオン酸エステルの合成
三つ口フラスコ内で、0.12molのメンチルβ−(ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸エステルを15mLアセトンに溶解した後、所定量の触媒DCC/DMAPを添加した。5mLアセトンに溶解した0.15molのニコチン酸の溶液を、氷浴中で滴下した。反応を氷浴中で2時間、その後室温で1時間実施した。反応完了後、真空吸引濾過を実施して、反応溶媒を蒸留によって除去し、200mLの酢酸エチルを得られた粘性物質に添加した。得られた溶液を飽和NaHCO溶液で洗浄し、未反応のニコチン酸及び触媒を除去した。有機相を真空下で濃縮し、褐色の粘性物質を得た。カラムクロマトグラフィを用いてこれを分離し、黄色みがかったオイルであるメンチルβ−(ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イル)−α−(ニコチノイルオキシ)プロピオン酸エステルを45.5%の収率で得た。
【0077】
IR(KBr)ν/cm−1:3056.56(H−C=C)、2967.42(CH)、2940.54(CH)、1723.02(C=O)、1597.32、1520.17、1462.10(ベンゼン環の骨格)、1452.62、1480.34、1585(ピリジン環の骨格)、1268.53(エステルのC=O)、1235.79、1017.23(アリールアルキルエーテル)、1125.33(第二級ヒドロキシルのC−O)、884.43及び798.62(1,2,4−三置換)
H NMR(400MHz,CDCOCD.)δ:7.56〜9.00(m,4H,Pyridinio−H)、6.679〜6.869(m,3H,Ar−H)、6.06(s,2H,−OCHO−)、5.10(m,1H,−CH(O)−)、4.920〜4.983(m,1H,−OCH(clcy)−)、2.804〜2.978(m,2H,−CH−)
13C NMR(500MHz,CDCOCD)δ:20.7、21.0、21.0、22.3、25.7、28.5、33.9、37.8、39.6、47.1、72.6、75.6、101.2、112.7、115.2、121.0、122.1、126.0、132.7、136.4、146.0、148.7、150.4、151.4、165.9、170.8
【実施例8】
【0078】
メンチルβ−(ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イル)−α−(イソニコチノイルオキシ)プロピオン酸エステルの合成
ニコチン酸の代わりにイソニコチン酸を用いた以外は、実施例7と類似の方法で合成を実施した。最終生成物である黄色みがかったオイルが47.83%の収率で得られた。これはメンチルβ−(ベンゾ[1,3]ジオキソル−5−イル)−α−(イソニコチノイルオキシ)プロピオン酸エステルであった。
【0079】
IR(KBr)ν/cm−1:2966.27(CH)、2943.14(CH)、1720.82(C=O)、1592.37、1517.09、1467.10(ベンゼン環の骨格)、1452.24、1484.56、1598.23(ピリジン環の骨格)、1267.67(エステルのC=O)、1237.58、1027.61(アリールアルキルエーテル)、1103.14(第二級ヒドロキシルのC−O)、880.43及び795.81(1,2,4−三置換)
H NMR(400MHz,CDCOCD)δ:7.56〜9.00(m,4H,Pyridinio−H)、6.679〜6.869(m,3H,Ar−H)、6.06(s,2H,−OCHO−)、5.10(m,1H,−CH(O)−)、4.920〜4.983(m,1H,−OCH(clcy)−)、2.804〜2.978(m,2H,−CH−)
13C NMR(500MHz,CDCOCD)δ:20.7、21.0、21.0、22.3、25.7、28.5、33.9、37.8、39.6、47.1、72.6、75.6、101.2、112.7、115.2、122.9、122.9、126.0、132.7、136.4、146.0、148.7、150.3、150.3、165.9、170.8
【実施例9】
【0080】
ボルニルβ−(ベンゾ[1,3]−ジオキソール−5−イル)−α−(2−アセトキシベンゾイルオキシ)プロピオン酸エステルの合成
合成の工程(1)〜工程(4)は、実施例7における工程(1)〜工程(4)と同じものとした。
【0081】
(5)メントールの代わりにボルネオールを用いた以外は、実施例5(5)と類似の方法でボルニルβ−(ベンゾ[1,3]−ジオキソール−5−イル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸エステルを合成し、黄色みがかったオイルが得られた。
【0082】
(6)ニコチン酸の代わりに2−アセトキシ安息香酸を用い、且つメンチルβ−(ベンゾ[1,3]−ジオキソール−5−イル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸エステルの代わりにボルニルβ−(ベンゾ[1,3]−ジオキソール−5−イル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸エステルを用いた以外は、実施例7(6)と類似の方法でボルニルβ−(ベンゾ[1,3]−ジオキソール−5−イル)−α−(2−アセトキシ−ベンゾイルオキシ)プロピオン酸エステルを合成した。淡黄褐色のオイル又は結晶が43.8%の収率で得られた。
【0083】
IR(KBr)ν/cm−1:2981.99(CH)、2935.46(CH)、1731.08(C=O)、1598.03、1492.10、1453.90(ベンゼン環の骨格)、1269.86(エステルのC=O)、1106.22(第二級ヒドロキシルのC−O)、880.43及び795.81(1,2,4−三置換)、746.84(オルト−二置換)
H NMR(400MHz,CDCOCD)δ:7.18〜8.00(m,4H,Ar−H)、6.679〜6.869(m,3H,Ar−H)、6.06(s,2H,−OCHO−)、5.10(m,1H,−CH(O)−)、4.920〜4.983(m,1H,−OCH(clcy)−)、2.804〜2.978(m,2H,−CH−)
13C NMR(500MHz,CDCOCD)δ:13.5、19.5、19.5、20.3、23.3、30.2、32.5、37.8、45.4、49.4、50.6、56.1、72.6、82.1、112.7、115.2、120.9、121.0、121.5、125.5、130.3、132.7、133.5、146.0、148.7、153.6、165.9、169.0、170.8
【実施例10】
【0084】
β−(ベンゾ[1,3]−ジオキソール−5−イル)−α−ヒドロキシル−N−(3−フェニル−1−エトキシカルボニル−プロピル)プロピオンアミドの合成
合成の工程(1)〜工程(4)は、実施例7における工程(1)〜工程(4)と同じものであった。
【0085】
(5)エチル2−アミノ−4−フェニル酪酸エステルの合成
16.50gのホメフェニルアラニン(homephenylalanine)中に、350mLの無水エタノールを添加し、乾燥HClガスを攪拌しながら供給した。供給を1.5時間後に停止し、反応装置を換えた。この混合反応物を1.5時間加熱して還流させた。反応完了後、エタノールの大部分を蒸留によって除去し、大量の白色結晶を沈殿させ、その後19.2gの白色の針状結晶が、吸引濾過、洗浄及び乾燥後に得られた。白色結晶を水溶液中に溶解し、得られる溶液のpHを、NaOH溶液を用いて調節した。この溶液をエチルエーテルを用いて抽出した。その後、溶媒を除去し、14.92gの無色又は黄色みがかった液体を78.2%の収率で得た。
【0086】
(6)β−(ベンゾ[1,3]−ジオキソール−5−イル)−α−ヒドロキシル−N−(3−フェニル−1−エトキシカルボニル−プロピル)プロピオンアミドの合成
フラスコ内に、0.40gのβ−(ベンゾ[1,3]−ジオキソール−5−イル)−α−ヒドロキシル−プロピオン酸及び12mLのCHCNを添加し、このフラスコを氷と水との混合物によって外部冷却した。0.62gのエチル2−アミノ−4−フェニル酪酸エステル及び0.02gのDMAPを磁気攪拌棒によって発生させた攪拌の下で添加した。混合物を清澄化するまで攪拌した後、0.45gのDCCを添加した。反応温度を攪拌下で室温まで自然に上げ、室温で5時間反応を実施した。溶媒を真空蒸留によって除去した後、酢酸エチルを添加した。得られた酢酸エチル溶液をNaHCO溶液、HCl水溶液及び水で洗浄し、その後、真空下で蒸留して所望の化合物の粗生成物を得た。クロマトグラフィによる粗生成物の精製後に、0.39gの白色固体を51.3%の収率で得た。
【0087】
IR(KBr)ν/cm−1:3417.26(アルコールヒドロキシル)、3255.79(NH)、2967.53(CH)、2934.21(CH)、1723.79(C=O)、1669.97(アミドのC=O)、1593.37、1515.19、1463.13(ベンゼン環の骨格)、1239.98、1026.76(アリールアルキルエーテル)、1111.35(第二級ヒドロキシルのC−O)、884.45及び792.17(1,2,4−三置換)、698.69、750.62(一置換ベンゼン環)
H NMR(400MHz,CDCOCD)δ:6.18〜7.50(m,8H,Ar−H)、6.13(s,2H,−OCHO−)、4.82(m,1H,−CH(NH)−)、4.55(m,1H,−CH(OH)−)、4.12(q,2H,−OCH−)、2.804〜2.978(m,2H,−PhCH−)、2.30〜2.54(m,4H,−CHCH−)、1.31(t,3H,−CH
13C NMR(500MHz,CDCOCD)δ:14.1、30.3、32.3、41.7、52.7、61.3、73.3、101.2、112.7、115.2、121.0、126.1、128.1、128.1、128.9、128.9、132.7、138.0、146.0、148.7、171.5、172.7
【実施例11】
【0088】
2−ヒドロキシル−3−(ベンゾ[1,3]−ジオキソール−5−イル)−N−[2−ヒドロキシル−3−(1−ナフトキシ)−プロピル]−プロピオンアミドの合成
合成の工程(1)〜工程(4)は、実施例7における工程(1)〜工程(4)と同じものであった。
【0089】
(5)1−ナフチルエポキシプロピルエーテルの合成
500mL容の三つ口丸底フラスコに、10.03gの1−ナフトール、3.1gのNaOH、20.4gのエピクロロヒドリン(S/R)及び0.5gのKIを添加した後、330mLのエタノールを添加した。次にフラスコをマイクロ波反応器内に入れた。12分間の攪拌及び300Wのマイクロ波照射の下30℃で反応を実施した。その後この反応混合物を除去及び吸引濾過して、濾液を濃縮して油状物質を得た。HOをこの油状物質に添加し、混合物をエチルエーテルで抽出した。エチルエーテル層を合わせてNaOHの溶液で洗浄した後、HOで一度洗浄した。エーテル層を、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥させ、濃縮して12.95gの生成物を93.2%の収率で得た。
【0090】
(6)1−アミノ−3−(1−ナフトキシ)−2−プロパノールの合成
450mLの濃アンモニア水をマイクロ波専用の反応フラスコに入れた後、3.0gの1−ナフチルエポキシプロピルエーテルを添加し、14分間の磁気攪拌及び300Wマイクロ波照射の下40℃で反応を実施した。反応完了後、反応混合物を乾燥状態まで濃縮し、次に酢酸エチルを添加し、pHを濃塩酸で酸性に調節した。吸引濾過後に、1−アミノ−3−(1−ナフトキシ)−2−プロパノール塩酸塩が得られ、その後これを乾燥させて白色固体とした。この固体を加熱することによって水に溶解し、pHをアルカリ性に調節した。冷却後、大量の白色固体が析出した。この析出物を吸引濾過及び乾燥させ、2.0gの白色固体を63%の収率で得た。
【0091】
(7)2−ヒドロキシル−3−(ベンゾ[1,3]−ジオキソール−5−イル)−N−[2−ヒドロキシル−3−(1−ナフトキシ)プロピル]−プロピオンアミドの調製
0.43gの1−アミノ−3−(1−ナフトキシ)−2−プロパノールを15mLのアセトンに溶解した後、0.45gのDCC及び0.10gのDMAPを添加し、5mLのアセトンに溶解した0.40gのβ−(ベンゾ[1,3]−ジオキソール−5−イル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸を、磁気攪拌しながら滴下した。室温で1時間反応を実施し、大量の白色固体を生成した。反応完了後、反応混合物を吸引濾過し、濾液を濃縮して乾燥させ、その後酢酸エチルを得られた乾燥生成物に添加し、NaHCO溶液で洗浄した。エステル層を濃縮して乾燥させることにより、褐色の油状物質を得た。これを、分取液体クロマトグラフィを介して精製した。0.27gの黄色みがかったオイルが32.8%の収率で得られた。
【0092】
IR(KBr)ν/cm−1:3409.82(アルコールヒドロキシル)、3251.72(NH)、2969.37(CH)、2944.74(CH)、1723.49(C=O)、1664.74(エステルのC=O)、1591.77、1519.90、1469.21(ベンゼン環の骨格)、1235.78、1029.63(アリールアルキルエーテル)、1101.15(第二級ヒドロキシルのC−O)、885.53及び794.61(1,2,4−三置換)、3050(ナフタレンの骨格)、798.69、780.62(一置換ナフタレン環)
H NMR(400MHz,CDCOCD)δ:6.75〜8.30(m,10H,Ar−H)、6.13(s,2H,−OCHO−)、3.55(m,2H,−CH(NH)−)、4.55(m,1H,−COCH(OH)−)、4.35(m,1H,−CH(OH)−)、4.02(q,2H,−OCH−)、2.90〜3.07(m,2H,−PhCH−)
13C NMR(500MHz,CDCOCD)δ:41.7、45.1、68.5、71.3、73.3、101.2、104.3、112.7、115.2、120.4、121.0、122.2、125.4、126.1、126.6、127.4、127.6、132.7、134.5、146.0、148.7、156.8、172.7
【実施例12】
【0093】
薬力学的試験
1.中大脳動脈閉塞を伴うラットにおける脳微小循環血流に対するボルニルβ−(3,4−ジヒドロキシルフェニル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸エステル(以下では簡潔に「ボルニルサルビア酸エステル(salvianate ester)」とする)の影響
220±20gの体重を有する60匹のSDラットを、ノーマルコントロール群、モデルコントロール群、サルビア酸注入群(腹腔内投与1mL/kg)、少用量、中用量及び大用量(腹腔内投与、それぞれ5mg/kg、15mg/kg及び35mg/kg)のボルニルβ−(3,4−ジヒドロキシルフェニル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸エステルの群に無作為に割り当てた。ノーマル群及びモデル群のラットに等量の生理食塩水を腹腔内投与した。40mg/kgの量における1%ペントバルビタールナトリウムの腹腔内注入によってラットに麻酔をかけ、その後頭部を固定して仰臥位に置き、頚部の中心線に沿って皮膚を切断した。気管カニューレをラットに挿入し、自発呼吸させた。右総頚静脈及び総頚動脈を切り離し、後で使用するために縫合糸を導入した。動物をラット用定位固定装置に固定し、6mm×8mmのサイズを有する頭蓋開口を、歯科用ドリルを用いて右こめかみに開け、止血後に脳硬膜をハサミで切開し、脳軟膜を露出させた。開口をガラス及び歯科用セメントで被覆及び封止し、レーザードップラー微小循環血流メータのレーザープローブを頭蓋開口上に固定した。その後、これらの動物を側臥位で固定し、右総頚動脈を持ち上げ、近位部で結紮し、ハサミで慎重に切断し、約0.3mmの直径を有するナイロン縫合糸を動脈に導入した。縫合糸を導入する前に、切断された動脈とラットの眼外眦(paropia)との距離をマークした。ナイロン縫合糸を、マーク位置に近づくように導入したときには、縫合糸を導入する速度を遅くし、レーザードップラー微小循環血流メータによって示される脳微小循環血流が同時に観測される必要がある。縫合糸が中大脳動脈に達したら、微小循環血流の急激な減少が観測されるであろう。微小循環血流の減少が観測されたら、縫合糸をさらに約1mm侵入させ、切断部の遠位端と動脈内の縫合糸とをしっかりと結紮し、余分な縫合糸を切断した。試験の最後に、ナイロン縫合糸が中大脳動脈の開始部位を遮断しているか否かを確認し、動脈が遮断されていない全ての動物のデータを無効とした。コントロール群の動物には処置を行わなかった。頭蓋開口を作製した後、J I2200タイプのレーザードップラー微小循環血流メータを頭蓋開口に固定し、試験全体を通じて移動及び回転させることなくプローブを維持した。結紮前、並びに結紮後5分、15分、30分、45分及び60分の微小循環血流を記録し、薬剤処理群の動物のデータを同じ時点で記録した。各時点において1分のうちに観測された平均微小循環血流を、各時点の微小循環血流として示した。
【0094】
【表1】

【0095】
試験結果から、中大脳動脈を遮断した後に、血液供給領域(前頭葉及び頭頂葉)内の脳微小循環血流が急速に減少し、比較的低いレベルで維持されることが示される。30分間の動脈遮断後にのみ、脳微小循環血流がわずかに増大し、脳虚血モデルの確立が達成されることが示された。一方で、15mg/kg及び35mg/kgのボルニルβ−(3,4−ジヒドロキシルフェニル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸エステルの投与後それぞれ30分又は15分に、脳微小循環血流がわずかに増大した。これらの結果は、小動脈の拡張を示唆し、微小循環血流の増大は、虚血性脳血管疾患に対して見込まれる好ましい効果を有し得るが、対応する作用機序を調査する必要がある。
2.心虚血再灌流(I/R)障害に対するボルニルサルビア酸エステルの保護効果
220±20gの体重を有する52匹のSDラットを、モデルコントロール群、サルビア酸注入群(筋肉内投与1mL/kg)、並びに少用量、中用量及び大用量(腹腔内投与5mg/kg、15mg/kg、35mg/kg)のボルニルβ−(3,4−ジヒドロキシルフェニル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸エステルの群に無作為に割り当てた。ノーマル群及びモデルコントロール群のラットに等量の生理食塩水を腹腔内投与した。全ての群のラットに連続して5日間投与し続けた。最後の投与をラットに行った後、それらを同時に1.5%ペントバルビタールナトリウム(腹腔内投与45mg/kg)で麻酔にかけ、その後、カテーテルを右頚動脈に挿入し、変換器を介して8チャンネル生理学的記録機に接続した。気管カニューレを動作させ、通気度を60回/分に維持した。開胸し、6/0縫合糸を用いて冠動脈前下行枝の根元から1mm〜2mmの部位にループを形成し、プラスチックパイプをループ内に導入し、その後ループを締め上げた。心電図の変化を観測した。STの増減は結紮の成功を示している。結紮用縫合糸の下の心筋細胞の色はより黒くなった。30分後、プラスチックパイプを引き抜いて、冠動脈血を再度流し、再灌流の間に局部組織の充血を起こした。30分間の虚血及び30分間の再灌流を施した群について、試験前、1分間及び30分間の虚血後、30分間の再灌流後の心筋梗塞面積を記録し、30分の虚血及び2時間の再灌流を施した群について、心臓組織サンプルを採取し、10%ホルマリンを用いて固定し、パラフィンに埋包し、4μmの厚さを有する切片に連続的にスライスし、別々に免疫組織化学試験にかけた。偽手術群のラットには縫合糸の導入のみを行ったが、それらの冠動脈は結紮させなかった。
心筋I/Rによって生じる心筋梗塞の面積に対する影響
ラットに30分間の虚血及び再灌流を施した後、それらの冠動脈前下行枝を再度結紮し、次にそれらを犠牲にして心臓を迅速に取り出し、0.5mLの1%エバンスブルーを大動脈を介して心室に注入し、虚血領域及び非虚血領域を識別した。心房及び右心室を切り離し、心臓を−20℃で30分間冷蔵し、その後特注の(tailor-made)細溝に入れ、長軸に沿って切断して2mmの薄片を形成した。この薄片を1%TTCリン酸緩衝溶液(pH7.4)に浸漬し、37℃で30分間インキュベートし、危険領域及びネクローシス領域を識別した。その後、薄片を10%ホルムアルデヒドで24時間固定し、コントラスト写真用に染色を強調させた。上記処理後に、心筋組織を、青色の正常な心筋(myocardia)、淡赤色の虚血性心筋、及び灰色のネクローシス心筋(myocardion)に分けた。コンピュータ画像分析ソフトウェアを用いて、危険心筋領域(aar、即ち、虚血性心筋(虚血性梗塞領域及び虚血性非梗塞領域を含む)の面積に対する、梗塞心筋領域(nec)の面積のパーセンテージ(nec/aar)、及び梗塞度合を示す、心筋の総面積に対する梗塞心筋領域の面積のパーセンテージ(nec/lv)、並びに左心室の面積に対する危険心筋の面積のパーセンテージ(aar/lv)を算出した。
【0096】
【表2】

【0097】
試験から、モデルコントロール群と比較して、大用量群におけるaar/lv、nec/lv及びnec/aarの値がそれぞれ、22.5%、20.4%及び22%(P<0.01)下がったことが示された。このことは、心筋I/Rによって生じる心筋梗塞の面積を小さくすることができたことを示唆している。
Bax、Bcl−2、カスパーゼ−3、MMP−2及びPPARγのタンパク質発現に対する影響
標準的な免疫組織化学ABC法及びSP法を用いて、Bax:200倍希釈の抗ウサギポリクローナル抗体(Santa CruzBio. Inc.)、Bcl22:1100希釈の抗ウサギポリクローナル抗体(TBD Tianjin Biotechnological Center)、カスパーゼ−3:200倍希釈の抗ウサギポリクローナル抗体(NormarkersFromont, CA)、MMP−2:200倍希釈の抗マウスモノクローナル抗体(NormarkersFromont, CA)、PPARγ:500倍希釈の抗ヤギポリクローナル抗体(Santa Cruz Bio. Inc.)を染色した。具体的な手順は、ABCキット及びSPキットの取扱説明書に従って実施した。DABを発色に用い、中性樹脂を装着に用いた。ネガティブコントロールとして一次抗体の代わりにPBSを用いた。試験ポリペプチドの陽性発現を伴う細胞は黄褐色を有し、MMP−2タンパク質は細胞質内に存在し、Bcl−2は核膜及び細胞質内に発現し、Baxは主に細胞質内に存在して一部が核内に存在し、カスパーゼ−3は主に核内に存在して一部が細胞質内に存在する。薄片の領域の無作為な選択及び分析部位の自動選択に、CMIAS画像分析システムを用い、得られた心筋組織薄片の平均光学密度値又は積分光学密度値を用いて統計学的分析を行った。
【0098】
【表3】

【0099】
これらの結果から、Bcl−2及びBaxの発現が心筋細胞I/Rにおいて実際に変化したことが示され、このことから、それらが細胞アポトーシスの制御に関与していることが示された。ボルニルβ−(3,4−ジヒドロキシルフェニル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸エステルは、Bax及びカスパーゼ−3タンパク質の発現を減少させ、Bcl−2タンパク質の発現を増大させることができた。このため、ボルニルβ−(3,4−ジヒドロキシルフェニル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸エステルは、Bcl−2の発現を誘起すると共にBax及びカスパーゼ−3のレベルを低減することにより、損傷に対する細胞の自己防御機構を開始させ、細胞アポトーシスと、心筋I/Rによって刺激されるネクローシスとを逆転させ、それにより心筋細胞に対する保護効果を示し得るものであることを示唆している。
【0100】
MMP−2は心筋I/R損傷に関連するものであり、この心筋I/R損傷はトロポニンIの開裂によって得られ、さらに細胞アポトーシスを直接的に導くものである。MMP−2特異的阻害剤は心筋I/Rを伴うラットの心機能を改善させることができ、試験結果は、ボルニルβ−(3,4−ジヒドロキシルフェニル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸エステルがMMP−2タンパク質を減少させ得ることを示した。これは、ボルニルβ−(3,4−ジヒドロキシルフェニル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸エステルが心筋をI/R損傷から保護する別の機構であり得る。
3.麻酔されたラットの血圧及び左心室機能に対するボルニルサルビア酸エステルの影響
20%ウレタン5mL/kgの腹腔内注入によってラットに麻酔をかけ、固定した。ラットの頚部の皮膚を切開し、頸前横突間筋を切り離し、気管を露出させ、気管カニューレを挿入した。総頚動脈を切り離し、心臓カテーテルを総頚動脈を通じて左心室に導入した。左心室内圧を、RM−6000マルチチャネルポリグラフの圧変換器(T−200)、及びRM−6000マルチチャネルポリグラフの搬送増幅器(AP−601G)を用いて測定し、その後、左心室内圧の信号をRM−6000マルチチャネルポリグラフの差動増幅器(ED−601G)に入力し、左心室内圧の最大増減率(dp/dtmax−dp/dtmax)を記録した。右大腿動脈を切り離し、カニューレを用いて動脈内血圧を測定し、心電計の記録用電極を接続してタイプII心電図を記録した。全てのデータを、RM−6000マルチチャネルポリグラフを介してPowerLab/8Spデータ収集処理システムに入力し、PowerLab/8Spによって記録、分析及び処理を行った。
【0101】
腹部を剣状骨の下で1.5cm開き、十二指腸を切り離し、眼用ハサミによって血管から離れた十二指腸に小切開を形成し、カテーテルを挿入し、縫合によって切開を固定して投与を行った。作業の最後及び30分間のさらなる待ち時間の後で、モニタリングされた指数が安定であれば、ノーマルデータを記録した。
【0102】
試験薬剤を、カテーテルを介して十二指腸に投与し、この指数を投与後5分、15分、30分、60分、90分及び120分にモニタリングした。これらの指数の変化率は、下記式に従って算出し、群の間の統計学的分析に用いた。
【0103】
変化率(%)={(投与後−投与前)/投与前}×100
3.1 麻酔されたラットの心拍数に対する影響
試験結果から、4.5mg/kg、9mg/kg及び18mg/kg用量のボルニルサルビア酸エステルは麻酔されたラットの心拍数に対する有意な影響を示さず、且つブランクコントロール群と比較して有意な相違を観測することができなかったのに対し、塩酸ベラパミルは有意に心拍数を減少させ、且つモデル群と比較して有意な相違を観測することができること(P<0.05又はP<0.01)(表4)が示された。
3.2 麻酔されたラットの平均動脈圧、収縮期圧及び拡張期圧に対する影響
18mg/kg用量のボルニルサルビア酸エステル群において、麻酔されたラットの平均動脈圧、収縮期圧及び拡張期圧は投与後に有意に減少し、且つブランクコントロール群と比較して有意な相違(P<0.05又はP<0.01)が15分、60分、90分及び120分の時点で観測された。ボルニルサルビア酸エステルの9mg/kg群では、麻酔されたラットの平均動脈圧、収縮期圧及び拡張期圧は減少傾向を示し、且つブランクコントロール群との有意な相違(P<0.05又はP<0.01)が15分及び60分に観測された。ボルニルサルビア酸エステルの4.5mg/kg群では、麻酔されたラットの平均動脈圧、収縮期圧及び拡張期圧が有意な変化を示さず、且つブランクコントロール群との有意な相違は観測されなかった。一方、塩酸ベラパミルは、麻酔されたラットの平均動脈圧、収縮期圧及び拡張期圧を有意に減少させることができ、モデルコントロール群との有意な相違(P<0.01)が5分、15分、30分、60分、90分及び120分で観測された(表5、表6及び表7)。
3.3 麻酔されたラットの左心室内圧に対する影響
ボルニルサルビア酸エステルの18mg/kg群において、麻酔されたラットの左心室内圧は投与後に有意に減少し、且つブランクコントロール群との有意な相違(P<0.05又はP<0.01)が15分、30分、60分、90分及び120分で観測された。ボルニルサルビア酸エステルの9mg/kg群では、麻酔されたラットの左心室内圧は減少傾向を示し、且つブランクコントロール群との有意な相違(P<0.05又はP<0.01)が60分に観測された。ボルニルサルビア酸エステルの4.5mg/kg群では、麻酔されたラットの左心室内圧が投与後に有意な影響を受けず、且つブランクコントロール群との有意な相違は観測されなかった。一方、塩酸ベラパミルは麻酔されたラットの左心室内圧を有意に減少させ、且つモデルコントロール群との有意な相違(P<0.01)が観測された(表8)。
3.4 麻酔されたラットのdp/dt及び−dp/dtに対する影響
ボルニルサルビア酸エステルの18mg/kg群において、麻酔されたラットのdp/dtは投与後に有意に減少し、且つブランクコントロール群との有意な相違(P<0.05又はP<0.01)が15分、30分、60分、90分及び120分で観測された。ボルニルサルビア酸エステルの9mg/kg群では、麻酔されたラットのdp/dtが減少傾向を示し、且つブランクコントロール群との有意な相違(P<0.05又はP<0.01)が60分及び120分で観測された。ボルニルサルビア酸エステルの4.5mg/kg群では、麻酔されたラットのdp/dtが投与後に有意に影響を受けず、且つブランクコントロール群との有意な相違は観測されなかった。一方、塩酸ベラパミルは麻酔されたラットのdp/dtを有意に減少させ、モデルコントロール群との有意な相違(P<0.01)が観測された。
【0104】
ボルニルサルビア酸エステルの9mg/kg群及び18mg/kg群において、麻酔されたラットの−dp/dtは減少傾向を示し、且つブランクコントロール群との有意な相違(P<0.05又はP<0.01)が60分及び120分で観測された。ボルニルサルビア酸エステルの4.5mg/kg群では、麻酔されたラットの−dp/dtが投与後に有意な影響を受けず、且つブランクコントロール群との有意な相違は観測されなかった。一方、塩酸ベラパミルは麻酔されたラットの−dp/dtを有意に減少させ、且つモデルコントロール群との有意な相違(P<0.01)が観測された(表9及び表10)。
【0105】
試験結果から、ボルニルサルビア酸エステルは、左心室内圧、dp/dt及び−dp/dtを減少させることができることが示され、このことは、ボルニルサルビア酸エステルが心筋収縮性のネガティブの心臓効率を減少させる効果を有し、且つネガティブの心臓効率に対する影響が麻酔されたラットの平均動脈圧、収縮期圧及び拡張期圧を減少させる原因になり得ることを示唆している。
【0106】
他方、試験結果から、dp/dtMAXは減少したが、心拍数は有意に変化しなかった、即ち、dp/dtMAXは心拍数と直接的に関連していないことが示された。これらの現象機構にはさらなる研究が求められる。
4.ラットにおける急性心筋虚血に対するボルニルサルビア酸エステルの防護効果
60匹の雄ラットを、偽手術群(0.5%Poloxamer、10mL/kg)、モデルコントロール群(0.5%Poloxamer、10mL/kg)、ベラパミル群(ベラパミルタブレット、10mg/kg)、及びボルニルサルビア酸エステル群(10mg/kg、20mg/kg及び40mg/kg)に無作為に割り当てた。これらの群のラットに胃内投与してから0.5時間後に、標準II誘導心電図(モデル構築前)を記録し、ST−Tセグメントの高さを測定した。次に、偽手術群のラットは冠動脈束を露出しただけで結紮せず、他の群のラットには以下の方法に従って冠動脈結紮させ、急性心筋虚血モデルを確立した。ラットをエーテル麻酔にかけ、仰臥位に固定し、それらの正常な心電図(モデル構築前)を記録した。左胸郭の皮膚を無菌条件下で切開し、4番目の肋間筋をブラントジセクションにより切り離し、心臓を軽圧によって右胸郭に押し出し、肺動脈円錐と左心耳との間の左冠動脈の起点から2mm〜3mm離れた位置で、左冠動脈前下行枝を結紮し、その後、心臓を胸郭腔に直ちに戻し、切開を縫合した。感染防止のためにペニシリンを局所的に塗布した。手術後、虚血後の心電図を直ちに記録し(モデル構築後0分)、ST−Tセグメントの高さを測定した。これらの群の動物に手術を行った24時間後に、20%ウレタン5mL/kgの腹膜注入によって動物に麻酔をかけ、心電図を再度記録し(モデル構築後24時間)、ST−Tセグメントの高さを測定した。血液サンプルを腹大動脈から採取し、血清を分離して、乳酸脱水素酵素(LDH)、クレアチンキナーゼ(CK)、クレアチンキナーゼイソ酵素(CK−MB)及びスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)の活性、並びにマロンジアルデヒド(MDA)の含有量を測定した。心臓を開胸することにより取り出し、冷生理食塩水で洗浄し、心房を取り除き、心室を3個〜4個の薄片を作るように横に切断し、薄片を0.25%NBT溶液に浸漬させ、10分間37℃水浴下で染色させることにより、梗塞心筋を切断及び秤量し、心室全体の心筋に対する梗塞心筋の重量パーセンテージを算出した(表11〜表14)。
【0107】
結果から、ボルニルサルビア酸エステル投与群全てにおいて、心室全体における梗塞心筋の割合が減少され、ここで、中用量及び大用量の群で比較的効力のある効果が観測され(P<0.05又はP<0.01)、投与群全てにおいて、乳酸脱水素酵素(LDH)、クレアチンキナーゼ(CK)、クレアチンキナーゼイソ酵素(CK−MB)の活性が24時間後に減少し、急性心筋虚血を伴ったラットにおけるスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)は、特に大用量群において増大し(P<0.05)、中用量及び大容量の群では、血清MDA含有量の減少傾向が観測されたが、モデルコントロール群との有意な相違は観測されず、冠動脈結紮の24時間後に、心電図におけるST−Tセグメントの上昇が、特に大容量群において観測された(P<0.05)ことが示された。この結果から、ボルニルサルビア酸エステルがラットにおける心筋梗塞の面積を減少させ、且つラットにおける心筋虚血に対する保護効果を示し得ることが示された。
【0108】
【表4】

【0109】
【表5】

【0110】
【表6】

【0111】
【表7】

【0112】
【表8】

【0113】
【表9】

【0114】
【表10】

【0115】
【表11】

【0116】
【表12】

【0117】
【表13】

【0118】
【表14】

【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】実施例1における式(II)の化合物、即ち、ボルニルβ−(3,4−ジヒドロキシルフェニル)−α−ヒドロキシルプロピオン酸エステルを合成するためのスキームを示す図である。
【図2】実施例1で得られる最終生成物の質量スペクトルを示す図である。
【図3】実施例1で得られる最終生成物の赤外スペクトルを示す図である。
【図4】実施例1で得られる最終生成物のH NMRスペクトルを示す図である。
【図5】実施例1で得られる最終生成物の13C NMRスペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

(式中、R、R及びRはそれぞれ独立して、H、OH、F、Cl、Br、メトキシ及びエトキシから成る群から選択されるか、又は代替的にR及びRは一緒になって−OCHO−を形成し、且つRはH、OH、メトキシ、エトキシ及びハロゲンから成る群から選択され、
はOH又はアシルオキシであり、
は、シクロアルコキシル、アミノ及び置換アミノから選択され、Rがアミノである場合、R、R及びRの少なくとも1つはHではない)の化合物。
【請求項2】
がOHである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
が、アロイルオキシ又は複素環式基−置換アシルオキシである、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
が、o−アセトキシベンゾイルオキシ、3−ピリジニルベンゾイルオキシ又は4−ピリジニルベンゾイルオキシである、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
が、
【化2】

である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項6】
及びRが別個にOHである、請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
及びRが一緒になって−OCHO−を形成する、請求項1に記載の化合物。
【請求項8】
=H、R=OH、R
【化3】

である、請求項6に記載の化合物。
【請求項9】
=H、R
【化4】

、R
【化5】

である、請求項7に記載の化合物。
【請求項10】
=H、R
【化6】

、R
【化7】

である、請求項7に記載の化合物。
【請求項11】
=H、R=OH、R
【化8】

である、請求項7に記載の化合物。
【請求項12】
請求項1に記載の化合物を合成する方法であって、式(III)の化合物を式(IV)の化合物又はその水和物と、触媒の存在下で反応させること:
【化9】

(式中、R、R、R、R及びRは式(I)におけるものと同じ意味を有する)を含むか、又は
式(V)の化合物を式(VI)の化合物又はその水和物と、触媒の存在下で反応させること:
【化10】

(式中、R、R、R及びRは式(I)におけるものと同じ意味を有し、且つR'はアシルオキシである)を含む、請求項1に記載の化合物を合成する方法。
【請求項13】
前記触媒が、濃HSO、ケイ化タングステン酸、リンモリブデン酸、p−トルエンスルホン酸、S2−/ZrO、三塩化アルミニウム、塩化亜鉛及び/又は塩化マグネシウムである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記反応が溶媒中で実施される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記溶媒が、単独又は任意の組合せで、酢酸エチル、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、アセトン、トルエン、1,4−ジオキサン及びN,N−ジメチルホルムアミドである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
心血管疾患又は脳血管疾患の予防又は治療のための医薬品の製造における、請求項1に記載の化合物の使用。
【請求項17】
前記化合物が式(II):
【化11】

の化合物である、請求項16に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−537462(P2009−537462A)
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−510260(P2009−510260)
【出願日】平成19年5月14日(2007.5.14)
【国際出願番号】PCT/CN2007/001550
【国際公開番号】WO2007/131446
【国際公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(508340639)西北大学 (1)
【Fターム(参考)】