説明

羽口ユニットおよび熱電対交換方法

【課題】溶融金属収容容器に使用する羽口ユニットにおいて、熱電対の交換が容易な低コストのものを提供する。
【解決手段】羽口ユニット10を構成する耐火物本体1にガス吹き込み用の貫通管2、熱電対4、および交換用熱電対挿入用の鞘管5が埋め込まれており、
前記鞘管5は、閉鎖端51と開口端52を有し、耐火物本体1内部の所定の測温ポイントに閉鎖端51が位置し、かつ当該羽口ユニット10を溶融金属収容容器に設置したときに作業員の手が届く空間に開口端52が位置するように、管の一部を耐火物本体1から出した状態で耐火物本体1に埋め込まれている羽口ユニット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気炉、転炉、脱ガス精錬装置など、溶融金属を収容する容器に使用される羽口ユニット、およびそれを用いた熱電対交換方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気炉、転炉などの溶融金属収容容器においては、内部に収容された溶融金属を撹拌するために容器底部(炉底)などに設けた羽口から窒素等のガスを吹き込む操業が行われる。羽口は損耗が激しいため、定期的に交換する必要がある。通常、耐火物本体にガス吹き込み用の貫通管を内蔵した「羽口ユニット」を予め用意しておき、溶融金属収容容器の補修時に必要に応じて羽口ユニットの取り替えを行う。羽口ユニットの内部には、損耗状態を操業中に監視できるように、複数本の熱電対を埋め込んでおくことが一般的である。
【0003】
図1に、従来一般的な羽口ユニットの内部構造を模式的に例示する。羽口ユニット10は、ガス吹き込み用貫通管2が内蔵された耐火物本体1によって構成されている。耐火物本体1の形状は、例えば溶融金属収容容器の外側から当該容器の内面耐火物中に埋め込みやすいように円錐台形状となっている。耐火物本体1の上端面Aが溶融金属収容容器の内表面において溶融金属と接することとなる。耐火物本体1の内部には保護管3によって保護された熱電対4が内蔵されている。保護管3はアルミナ等の耐熱絶縁材料で構成される。熱電対4は操業中に劣化して使用不能となることが想定されるため、複数本設置されることが多い。熱電対4の先端位置(測温位置)が溶融金属に近いほど、耐火物本体1の損耗を精度良く把握できるが、その分、使用不能となる時期も早まる。このため、通常は個々の熱電対4の先端高さを変えることで、溶融金属に近い熱電対4から順次使用不能となるように工夫してある。なお、図中には便宜上、ガス吹き込み用貫通管2を2本、熱電対4を2本描いてあるが、これらはそれぞれ3本以上内蔵される場合も多い。ガス吹き込み用貫通管2の内径は例えば1〜4mm程度、保護管3の内径は例えば2〜8mm程度である。この図ではそれらの径を誇張して描いてある(以下の図3〜5において同様)。また、この図では複数のガス吹き込み用貫通管2および熱電対4を便宜上一断面内に描いてあるが、実際は端面Aの方向から見た場合の位置関係において、それらは概ね耐火物本体1内に均等に配置されている。
【0004】
図2に、羽口ユニットを設置した電気炉の断面構造を模式的に例示する。炉体である溶融金属収容容器20の中に、電極21から発生するアークにより溶融した溶融金属22が収容されている。当該容器20の内面耐火物23に羽口ユニット10が埋設され、ガス配管24により供給された窒素等の撹拌用不活性ガスが羽口ユニット10内を通り、溶融金属22中に吹き込まれる。1基の溶融金属収容容器20において、羽口ユニット10は1箇所または複数箇所に設置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−329815号公報
【特許文献2】特開平8−94264号公報
【特許文献3】特許第4452545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図1に示した従来の羽口ユニットにおいて羽口の損耗状態を監視するためには少なくとも1本の熱電対4が使用できればよいが、それが使用不能になると安全確保のために早期に当該羽口ユニット10の使用を終了し、その替わりに新たな羽口ユニット10を取り付ける必要が生じる。羽口ユニットを取り付けるためには、当該溶融金属収容容器の操業を停止して温度が下がった状態としなければならない。生産性を上げるためにはできるだけ羽口ユニットの取り替え頻度を少なくすることが有利となる。
【0007】
これまでの操業経験によれば、耐火物本体1自体の損耗量が限界に達する前に熱電対4の全部が使用不能となって羽口ユニット10の使用を終了せざるを得ないことが多かった。使用不能となった熱電対4を簡便に交換することができれば、羽口ユニット10の使用期間を耐火物損耗の限界時点まで近づけることが可能になる。しかしながら、使用済みの熱電対4を交換することは必ずしも容易ではない。
【0008】
熱電対4は図1に示されるように保護管3の中に収容されているが、使用済みの熱電対4を保護管3から取り出そうとすると、熱電対4の一部が破断して保護管3の中に残留することがある。また、溶損した熱電対4の金属が保護管3の内面に付着していることもある。このような状態で保護管3の内部に新たな熱電対を挿入するとショートすることがあり、高精度な測温が保証されない。
【0009】
本発明はこのような問題に鑑み、熱電対の交換が容易な低コストの羽口ユニットを提供すること、およびそれを用いた簡便な熱電対交換方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、溶融金属収容容器の内面耐火物に埋設して当該溶融金属中にガスを吹き込むための羽口ユニットであって、
当該羽口ユニットを構成する耐火物本体にガス吹き込み用の貫通管、熱電対、および交換用熱電対挿入用の鞘管が埋め込まれており、
前記鞘管は、閉鎖端と開口端を有し、耐火物本体内部の所定の測温ポイントに閉鎖端が位置し、かつ当該羽口ユニットを溶融金属収容容器に設置したときに作業員の手が届く空間に開口端が位置するように、管の一部を耐火物本体から出した状態で耐火物本体に埋め込まれている羽口ユニットによって達成される。
【0011】
鞘管の内部には金属製の棒状スペーサーを抜き去り可能な状態で挿入しておくことができる。鞘管は、前述の保護管と同様に絶縁性のセラミックスで構成することが好適である。その場合、耐火物本体の外部に出ている鞘管の部分は、取り扱い時に破損しやすい。前記の棒状スペーサーは鞘管の破損防止に有効となる。鞘管は、1つの羽口ユニットに1本または複数本設置される。
【0012】
この羽口ユニットを用いて熱電対の交換を行う際には、図2のように当該羽口ユニット10が溶融金属収容容器20の内面耐火物に埋設された状態において、前記鞘管の内部に交換用熱電対を閉鎖端まで挿入すればよい。棒状スペーサーが挿入されている場合は、それを抜き去った後に交換用熱電対を挿入する。理論的には溶融金属収容中(精錬中)にも交換作業は可能であるが、安全性を考慮すると、チャージ間に交換作業を行うことが望ましい。
【0013】
交換時期としては、例えば下記のタイミングを挙げることができる。
(1)羽口ユニット中の既設熱電対が1本のみ使用可能である時点。
(2)羽口ユニット中の既設熱電対が全部使用不能となった後、次回の溶融金属収容チャージを開始する前の時点。
なお、本明細書において熱電対の「交換」とは、フレッシュな熱電対(交換用熱電対)を耐火物本体の鞘管内部に「新設」することを意味する。
【0014】
上記(1)は羽口ユニットに内蔵されている既設熱電対のうち、最後の1本のみが使用可能である状況下において、交換用熱電対を新設するものである。この場合、交換した新設熱電対が使用不能になるまで連続的な測温が維持できる。したがって、羽口の損耗状態を高精度で常時モニターすることが可能であるため、高い安全性を担保しながら従来より羽口寿命を延ばすことができる。
【0015】
上記(2)は羽口ユニットに内蔵されている既設熱電対が全部使用不能となる時期を待ってから、交換用熱電対を新設するものである。この場合、既設熱電対を最大限利用できるので、その分、上記(1)よりも長期間にわたって羽口ユニットを使用することができる確率が高まる。したがって、(2)の手法は羽口寿命を重視する場合に効果的である。ある羽口ユニットにおいて既設熱電対の全部が使用不能となった溶融金属収容チャージ(精錬チャージ)では、当該羽口ユニットでの測温がチャージの途中(精錬途中)で途絶えるが、それまでの測温により羽口損耗状態が把握されているので、当該チャージを最後まで安全に継続できるかどうかの判断を行うことが可能である。当該羽口ユニットについての交換用熱電対の新設は、次回の溶融金属収容チャージを開始する前に行えばよい。
【0016】
なお、複数本の鞘管を埋め込んでおけば、上記(1)(2)いずれの交換タイミングを採用する場合も、新たな交換用熱電対を順次新設していくことが可能であり、羽口寿命を一層延ばすことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、溶融金属収容容器に埋設された羽口ユニットの熱電対を、当該羽口ユニットが溶融金属収容容器に埋設されたままの状態で、簡便に交換することが可能となった。これにより、従来、熱電対損傷が律することの多かった羽口寿命を、耐火物損耗による使用限界近くまで引き延ばすことが可能となり、当該溶融金属収容容器を用いた精錬操業の生産性が大きく向上する。また、一定チャージ数あたりに必要となる羽口ユニットの数が減少するので、資材コストの低減にも繋がる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】従来一般的な羽口ユニットの内部構造を模式的に例示した図。
【図2】羽口ユニットを設置した電気炉の断面構造を模式的に例示した図。
【図3】本発明の羽口ユニットの内部構造を模式的に例示した図。
【図4】本発明の羽口ユニットの内部構造を模式的に例示した図。
【図5】本発明の羽口ユニットを使用して交換用熱電対を新設した状態にある羽口ユニットの内部構造を模式的に示した図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図3に、本発明の羽口ユニットの内部構造を模式的に例示する。耐火物本体1の中に、ガス吹き込み用貫通管2および保護管3に収容された熱電対4が内蔵されている点は、図1に示した従来の羽口ユニットと同様である。ただし、本発明の羽口ユニットにおいては更に交換用熱電対を挿入するための鞘管5が埋め込まれている。鞘管5は例えば既設熱電対4の保護管3と同様のセラミックス製のものが採用できる。この場合、内面が絶縁性であるので、交換用熱電対を裸の状態で挿入することができ、既設熱電対4と同様のデータ解析条件にて耐火物本体1の損耗状態を推定することができる。また、鞘管5を金属製パイプで構成し、その中に交換用熱電対を保護管に収容された状態で挿入できるようにしてもよい。あるいは、鞘管5を内面が絶縁処理された金属製パイプで構成し、その中に交換用熱電対を裸のまま挿入するようにすることも可能である。鞘管5の内径は、例えば保護管3と同様とすることができる。交換用熱電対を保護管に収容された状態で鞘管5に挿入するタイプのものでは、その保護管が収まる内径の鞘管5が採用される。
【0020】
鞘管5は、閉鎖端51と開口端52を有している。その閉鎖端51が耐火物本体1内の所定の測温ポイントに一致するように埋め込むことが望ましい。その場合、交換用熱電対を閉鎖端51に到達するまで挿入することによって所定の測温ポイントにおける測定データが採取できる。耐火物本体1内における閉鎖端51の高さは、既設熱電対4の保護管3のうち最も低い位置(端面Aから遠い位置)に設置されているものと同等の高さ、またはそれより低い高さとすることが効果的である。
【0021】
一方、鞘管5の開口端52の位置は、当該羽口ユニット10を溶融金属収容容器20に設置した状態において、溶融金属収容チャージ(精錬チャージ)の合間に作業員が迅速かつ簡便に交換用熱電対を挿入することが可能な位置とすることが、作業性を向上させる上で重要である。そのため本発明では、羽口ユニット10を溶融金属収容容器20に設置したときに、作業員の手が届く空間に開口端52が位置するように、十分な長さを有する鞘管5を用意し、その一部を耐火物本体1から出した状態で耐火物本体1に埋め込んでおく。図3中には、当該羽口ユニット10を溶融金属収容容器20に設置したときに、作業員の手が届く空間となる部分を記号Cで表記してある。作業員の手が届く空間となる位置は、当該羽口ユニット10を取り付ける溶融金属収容容器20の設計仕様から予め知ることができる。
【0022】
このように、鞘管5は耐火物本体1の外に出ている部分を有している。したがって、当該羽口ユニット10を取り扱う際に鞘管5の破損を防止するためには、図4に示すように、予め鞘管5の中に金属製(例えば鋼製)の棒状スペーサー7を挿入しておくことが有効である。これにより耐火物本体1から外に出ている鞘管5の部分に外力が付与された場合に、その外力を棒状スペーサー7により負担させることができ、鞘管5が保護される。特に、セラミックス製の鞘管5を採用する場合は、棒状スペーサー7の使用が効果的である。棒状スペーサー7は、鞘管5を破損せずに抜き去り可能な状態で、鞘管5に内接して挿入されていることが望ましい。鞘管5からの不用意な脱落を防止するために、例えば粘土状の耐火物等により鞘管5の開口端52付近で棒状スペーサー7と鞘管5を固定しておくことができる。
【0023】
図5に、本発明の羽口ユニットを使用して交換用熱電対を新設した状態にある羽口ユニットの内部構造を模式的に示す。羽口ユニット10が溶融金属収容容器の内面耐火物23に埋設されており、その羽口ユニット10は例えば耐火物本体1と結合しているフランジ26によって、溶融金属収容容器の外枠部材25に締結されている。鞘管5の内部には交換用熱電対6が閉鎖端51まで挿入されている。この時点で、既に数多くの精錬チャージが実施され、溶融金属収容容器の内面耐火物23および羽口ユニット10は、溶融金属と接する面の損耗が図中に記号Bで表示した位置まで進行している。損耗した部分の当初形状を図中に破線で示してある。羽口ユニット10の部分で損耗量が最も大きくなる。なお、この図では、ガス配管(図2の符号24)や、そのガス配管からのガスを個々のガス吹き込み用貫通管2に導くための均圧室(風箱)や、耐火物本体1とフランジ26を結合するための枠構造などは、記載を省略してある。
【0024】
図5の例では、フランジ26より外側の空間が、図3,図4に記号Cで示した「作業員の手が届く空間」に相当する。鞘管5の開口端52はフランジ26より外側の「作業員の手が届く空間」に位置しているため、交換用熱電対6の新設作業はフランジ26を開放することなく簡便かつ迅速に行える。
【0025】
通常、既設熱電対4は、先端が溶融金属に近い位置に配置されたものから順次使用不能になっていく。ただし、溶融金属から最も遠い位置に設置された既設熱電対4についても、当初から長期間の熱履歴を受けることによって劣化が進行するので、耐火物本体1の損耗寿命が到来するよりも早期に使用不能となってしまうことが多い。これに対し、本発明に従えば溶融金属から最も遠い位置に設置された既設熱電対4が使用不能となる頃の時期に、フレッシュな交換用熱電対6を新設することができるので、その熱電対6の劣化はその時点から始まる。すなわち、熱電対6の劣化が進行して使用不能となるまでには、かなりの時間的余裕が残されている。このため当該熱電対6は、耐火物本体1の損耗寿命が到来するまで使用可能な状態を維持する確率が高い。その場合には、当該熱電対6によって耐火物本体1の損耗寿命が到来する時期を把握することができる。したがって本発明に従えば、かなりの高確率で羽口ユニット10を耐火物本体1の損耗寿命まで使い切ることが可能となるのである。
【0026】
交換用熱電対6の先端位置は、溶融金属から最も遠い位置に設置された既設熱電対4と同等の位置、またはそれより更に溶融金属から遠い位置とすることがより効果的である。交換用熱電対6の新設タイミングは前述の(1)または(2)とすることが効果的である。また、耐火物本体1中に複数の鞘管5を埋め込んでおき、既に取り付けが終わった交換用熱電対6の寿命が到来する頃に順次新たな交換用熱電対6をそれぞれ別の鞘管5に新設するようにすれば、羽口ユニット10を耐火物本体1の損耗寿命まで使い切ることができる確率が一層向上する。
【実施例】
【0027】
〔従来例〕
1チャージあたり約160tonの含Cr溶銑を溶製する電気炉において、底部の撹拌用窒素ガス導入羽口に、図1に示すタイプの従来の羽口ユニット10を図2に示すように適用した。1つの電気炉(溶融金属収容容器20)における羽口の設置数は3個である。この容器20の内面耐火物23は黒鉛10〜20質量%、マグネシア70〜80質量%を主成分とするものであり、初期厚さは約700mmである。羽口ユニット10の耐火物本体1は黒鉛10〜15質量%、マグネシア80〜85質量%を主成分とするものであり、ガス吹き込み用貫通管2は内径1.5mmのものが7本内蔵され、既設熱電対4は先端の高さ位置が異なるものを2本設置した。保護管3は内径6mmのアルミナ製である。羽口ユニット10の炉体(溶融金属収容容器20)への取り付けは、耐火物本体1と結合したフランジを炉の外枠部材に締結する手法で行った(図5参照)。この電気炉には、操業中、各熱電対4からの測定結果をモニターすることにより、各羽口ユニット10の損耗量を推定するシステムが備わっている。それぞれの羽口ユニット10において少なくとも1本の熱電対が測定可能であれば、当該羽口ユニット10における損耗量の推定値が算出できるようになっている。
【0028】
この電気炉を用いて、フェライト系ステンレス鋼用のCr含有溶銑、およびオーステナイト系ステンレス鋼用のCr,Ni含有溶銑を溶製した。得られる溶銑のC含有量レベルは約3質量%、出湯時の溶銑温度は1400〜1450℃である。溶融金属収容容器20の内面耐火物23を補修し、かつ羽口ユニット10を全て新品に付け替えた時点(以下「初期状態」という)から、少なくとも1個の羽口ユニット10において既設熱電対4の全てが使用不能となったチャージまでのトータル溶製チャージ数は803チャージであった。そのチャージを終了した時点で当該電気炉の操業を停止し、各羽口ユニット10を調査した。その結果、いずれの羽口ユニット10においても耐火物本体1の損耗寿命には至っていないことが確認された。それにもかかわらず、熱電対4による測温が不能となった羽口ユニット10は、この時点で使用を終了し、その替わりに新たな羽口ユニット10を取り付ける必要が生じた。
【0029】
〔本発明例〕
上記従来例と同じ電気炉において、各羽口ユニット10として図3に示すタイプの本発明に従う羽口ユニット10を適用して、同様の精錬操業を行った。この羽口ユニット10は、耐火物本体1中に交換用熱電対挿入用の鞘管5が1本埋め込まれている。それ以外は上記従来例で使用した羽口ユニットと同様の構造を有している。耐火物本体1内における鞘管5の閉鎖端51の高さは、既設熱電対4の保護管3のうち最も低い位置(図3の端面Aから遠い位置)に設置されているものと同等の高さとした。鞘管5は内径6mmのアルミナ製であり、既設熱電対4の保護管3と共通の仕様である。ただし、この鞘管5は、図5に示したように、開口端52がフランジ26より外側に位置するに足る長さを有している。羽口ユニット10の炉体(溶融金属収容容器20)への取り付け方法、精錬条件、および測温データに基づく羽口ユニット10の損耗量の推定方法は上記従来例と同様の条件とした。
【0030】
その結果、前述の初期状態から、少なくとも1個の羽口ユニット10において既設熱電対4の全てが使用不能となったチャージまでのトータル溶製チャージ数は830チャージであり、従来例と同程度であった。そのチャージを終了した時点で、既設熱電対4の全てが使用不能となった羽口ユニット10の鞘管5の中に、新品の交換用熱電対6を閉鎖端51まで挿入した。この羽口ユニット10における交換用熱電対6の新設タイミングは前記(2)の態様に相当する。
【0031】
その後、さらに精錬操業を継続したところ、トータル溶製チャージ数1098チャージ目で、別の羽口ユニット10において既設熱電対4の全部が使用不能となった。そこで、この羽口ユニット10についても上記と同様の手法にて新品の交換用熱電対6を新設した。この新設タイミングも前記(2)の態様に相当する。この時点で、残りの羽口ユニット10においては既設熱電対4のうち1本のみが使用可能な状態であった。しかし、その熱電対4が使用不能となる時期も近いと予想されたため、当該残りの羽口ユニット10についてもその時点で上記と同様の手法にて新品の交換用熱電対6を新設した。この場合の新設タイミングは前記(1)の態様に相当する。
【0032】
このようにして、全ての羽口ユニット10において、新設した交換用熱電対6の測温データに基づいて耐火物本体1の損耗量を推測しながら、さらに精錬操業を継続した。その結果、トータル溶製チャージ数1408チャージ目において、ある羽口ユニット10での耐火物本体1の損耗量推定値が、予め設定した限界値に達した。そのチャージを終了した時点で当該電気炉の操業を停止し、各羽口ユニット10を調査したところ、損耗量推定値が限界値に達した羽口ユニット10は耐火物本体1の損耗量がほぼ寿命に到達していた。また、他の羽口ユニット10も損耗寿命にかなり近づいていることが確認された。したがって、本発明に従えば、羽口ユニット10を、その耐火物本体1の損耗寿命までほぼ使い切ることができ、羽口ユニット10の使用を終了するまでの期間を大幅に延長することが可能となった。すなわち、羽口ユニット10の使用数節減と、補修頻度減少に伴う生産性向上により、精錬コストの大幅低減を図ることができた。
【符号の説明】
【0033】
1 耐火物本体
2 ガス吹き込み用貫通管
3 保護管
4 熱電対
5 鞘管
6 交換用熱電対
7 棒状スペーサー
10 羽口ユニット
20 溶融金属収容容器
21 電極
22 溶融金属
23 内面耐火物
24 ガス配管
25 外枠部材
26 フランジ
51 閉鎖端
52 開口端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属収容容器の内面耐火物に埋設して当該溶融金属中にガスを吹き込むための羽口ユニットであって、
当該羽口ユニットを構成する耐火物本体にガス吹き込み用の貫通管、熱電対、および交換用熱電対挿入用の鞘管が埋め込まれており、
前記鞘管は、閉鎖端と開口端を有し、耐火物本体内部の所定の測温ポイントに閉鎖端が位置し、かつ当該羽口ユニットを溶融金属収容容器に設置したときに作業員の手が届く空間に開口端が位置するように、管の一部を耐火物本体から出した状態で耐火物本体に埋め込まれている羽口ユニット。
【請求項2】
鞘管の内部に金属製の棒状スペーサーが抜き去り可能な状態で挿入されている請求項1に記載の羽口ユニット。
【請求項3】
請求項1に記載の羽口ユニットを使用した熱電対交換方法であって、当該羽口ユニット中の既設熱電対が1本のみ使用可能である時点で、当該羽口ユニットが溶融金属収容容器の内面耐火物に埋設された状態のまま、前記鞘管の内部に交換用熱電対を閉鎖端まで挿入する、羽口ユニットの熱電対交換方法。
【請求項4】
請求項1に記載の羽口ユニットを使用した熱電対交換方法であって、当該羽口ユニット中の既設熱電対が全部使用不能となった後、次回の溶融金属収容チャージを開始する前の時点で、当該羽口ユニットが溶融金属収容容器の内面耐火物に埋設された状態のまま、前記鞘管の内部に交換用熱電対を閉鎖端まで挿入する、羽口ユニットの熱電対交換方法。
【請求項5】
請求項2に記載の羽口ユニットを使用した熱電対交換方法であって、当該羽口ユニット中の既設熱電対が1本のみ使用可能である時点で、当該羽口ユニットが溶融金属収容容器の内面耐火物に埋設された状態のまま、前記棒状スペーサーを抜き去った後、前記鞘管の内部に交換用熱電対を閉鎖端まで挿入する、羽口ユニットの熱電対交換方法。
【請求項6】
請求項2に記載の羽口ユニットを使用した熱電対交換方法であって、当該羽口ユニット中の既設熱電対が全部使用不能となった後、次回の溶融金属収容チャージを開始する前の時点で、当該羽口ユニットが溶融金属収容容器の内面耐火物に埋設された状態のまま、前記棒状スペーサーを抜き去った後、前記鞘管の内部に交換用熱電対を閉鎖端まで挿入する、羽口ユニットの熱電対交換方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−197478(P2012−197478A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62010(P2011−62010)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【出願人】(000001971)品川リフラクトリーズ株式会社 (112)
【Fターム(参考)】