説明

耐熱性ホース

【課題】本発明は、所定の経路に曲げられて使用され、フッ素ゴムからなる内管ゴム層のシワがなく、耐久性に優れた耐熱性ホース10を提供する。
【解決手段】耐熱性ホース10は、内管ゴム層12と、下ゴム層14と、補強糸層16と、上ゴム層18とを備えている。内管ゴム層12は、フッ素ゴムから形成され、下ゴム層14および上ゴム層18は、シリコーンゴムから形成されている。内管ゴム層12および下ゴム層14は、未加硫の状態における初期引張応力の差が0.5MPa以下のゴム材料を用いている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のエンジンなどに使用され、高温ガスを流通させるための耐熱性ホースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の耐熱性ホースは車両等において多用されており、例えば、ターボチャージャを搭載したエンジンにおいて、ターボチャージャで加給された吸気ガスをエンジンの吸気管側へ送るためのホースに使用されている。図7は従来の耐熱性ホースを示す断面図である。耐熱性ホース100は、その耐久性確保のため、ホースを多層に構成し、ホースの層と層の間に補強糸層を埋設することが通常なされている。すなわち、耐熱性ホース100は、流路100aを有する内管ゴム層102と、下ゴム層104と、補強糸層106と、上ゴム層108とを備えている。内管ゴム層102には、耐オイル浸透性を得るためにフッ素ゴムから形成され、下ゴム層104および上ゴム層108には、通過する高温・高圧の吸気ガスへの耐性を確保するため、シリコーンゴムから形成されている(特許文献1参照)。
【0003】
こうした耐熱性ホースは、エンジンルーム内で配策される際に所定の経路に曲げられて使用されている。しかし、図8に示すように、曲げが大きくなった場合、つまり曲率半径が小さくなった場合に通路に面する内管ゴム層に亀裂Ckが生じることがあり、耐久性を損なう場合があった。
【0004】
【特許文献1】特開2000−193152
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来の技術の問題点を解決することを踏まえ、フッ素化合物系ゴムとシリコーンゴムとを積層し、かつフッ素化合物系ゴムからなる内管ゴム層の内面にシワがなく、耐久性に優れた耐熱性ホースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
適用例1は、未加硫ゴムからなるホース成形体を所定経路に曲げて加硫することで形成される耐熱性ホースにおいて、
流路を形成する内管ゴム層と、該内管ゴム層に積層された下ゴム層と、該下ゴム層上に巻回された補強糸層と、該補強糸層上に積層された上ゴム層とを備え、
上記内管ゴム層は、フッ素化合物系ゴムから形成され、
上記下ゴム層および上ゴム層は、シリコーンゴムから形成され、
未加硫ゴムが5%伸びたときの引張応力を初期引張応力と定義したときに、上記内管ゴム層および下ゴム層は、初期引張応力の差が0.5MPa以下のゴム材料を用いていること、を特徴とする。
【0008】
適用例1の耐熱性ホースを製造する工程において、内管ゴム層、下ゴム層を押し出し、さらに、下ゴム層上に補強糸を編組みして補強糸層を形成し、補強層上にシリコーンゴムを積層することで上ゴム層を形成する。その後、マンドレルを挿入して、所定の経路に曲げてホース成形体を形成し、その後、加硫することで耐熱性ホースが製造される。このような一連の工程において、耐熱性ホースは、内管ゴム層および下ゴム層に、未加硫状態における初期引張応力の差が、0.5MPa以下の材料を用いることにより、曲げたときに、内管ゴム層に圧縮力が加わっても、内管ゴム層の圧縮される部分にシワや、亀裂を生じることがなく、流体による損傷が小さく、耐久性に優れている。
【0009】
[適用例2]
適用例2は、耐熱性ホースの所定経路の曲げは、曲げ角度θが70〜120゜で、曲率半径Rが50〜100mm以下である構成である。このような所定経路の曲げであっても、内管ゴム層の内面にシワを生じることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(1) 耐熱性ホース10の概略構成
図1は本発明の一実施の形態にかかる耐熱性ホース10を長手方向に切断した断面図、図2は耐熱性ホース10の一部を破断した斜視図、図3は図1の点2鎖線で囲んだ部分の拡大断面図である。図1ないし図3において、耐熱性ホース10は、図示しない自動車のエンジンのターボチャージャと吸気管とを接続するホースであり、配策経路に応じて曲げられており、4層に積層されることにより耐熱性および耐圧性を有するように形成されている。すなわち、耐熱性ホース10は、流路10aを有する内管ゴム層12と、下ゴム層14と、補強糸層16と、上ゴム層18とを備えている。耐熱性ホース10は、160℃で10,000時間以上の耐熱性、600kPaまでの耐圧性、耐オイル浸透性、形状保持性および内管ゴム層12の内面のシワをなくすために、各層の材質が定められている。
【0011】
(2) 耐熱性ホース10の各部の構成
内管ゴム層12は、主に形状保持性と耐オイル浸透性を得るために、フッ素化合物系ゴム(FKM)から形成されている。ここで、形状保持性は、押出体を管状に形成した場合に自重による潰れ難さをいう。また、下ゴム層14は、主として耐熱性を高めるためにシリコーンゴムから形成されている。
内管ゴム層12のフッ素化合物系ゴムは、未加硫状態における初期引張応力が0.6〜1.4MPaであり、また、下ゴム層14のシリコーンゴムは、未加硫状態における初期引張応力が0.5〜1.2MPaである。また、両者の初期引張応力の差は、0.5MPa以下に調製されている。ここで、初期引張応力(モジュラスMn)とは、未加硫ゴムからなる試験片に、特定の伸び(5%)を与えたときの応力である。この初期引張応力の範囲では、次式のように、荷重と伸びとの関係はほぼ比例している。
Mn=Fn/A
ここで、Fnは特定の伸び時における荷重(N)、Aは面積である。
【0012】
補強糸層16は、耐圧性を高めるために形成され、アラミド系樹脂、芳香族ポリアミドなどの繊維糸を下ゴム層14上にブレードすることにより形成されている。さらに、上ゴム層18は、耐環境性を得るためにシリコーンゴムの単一層から形成されている。この上ゴム層18の材料の条件は、下ゴム層14と加硫接着が可能な材料であることが好ましい。
【0013】
耐熱性ホース10の各層の厚さも、耐熱性、耐オイル浸透性、内管ゴム層12の内面のシワなどを考慮して定められており、たとえば、耐熱性ホース10の内径dを30〜70mm、肉厚tを4〜8mmとした場合において、内管ゴム層12が0.2〜0.8mm、下ゴム層14が2〜4mm、補強糸層16が0.1〜1mm、上ゴム層18が2〜4mmの範囲に定めることができる。
【0014】
(3) 耐熱性ホース10の製造方法
耐熱性ホース10は、周知の方法により、つまりゴム押出工程、補強糸の巻回工程、マンドレルによる曲げ工程および加硫工程を施すことにより製造することができる。図4はホース製造装置30を説明する説明図である。図4において、ホース製造装置30は、第1押出機40と、ブレード装置50と、第2押出機60とを備えている。第1押出機40は、ゴム材料を共押出しすることにより押出体20A(内管ゴム層12および下ゴム層14)を形成するための装置である。ブレード装置50は、押出体20A上に補強糸層16を形成するための装置であり、ドラム52に装着されたボビンキャリア(図示省略)を32個〜64個を備え、該ボビンキャリアから補強糸16aを繰り出しつつ押出体20A上にブレードすることにより補強糸層16を形成する装置である。また、第2押出機60は、上ゴム層18を形成するための装置であり、外管押出部61からゴム材料を押し出して上ゴム層18を形成する。
【0015】
次に、ホース製造装置30による耐熱性ホース10の一連の製造工程について説明する。第1押出機40から、フッ素化合物系ゴムおよびシリコーンゴムを同軸上で押し出すことにより、2層の円筒状の押出体20Aが形成される。そして、押出体20Aが押し出されると、この押出体20Aの流路を形成するスペース20aに、マンドレルMdが挿入される。
【0016】
続いて、押出体20Aは、ブレード装置50に送られて、ブレード装置50のドラム52の回転によりボビンから補強糸16aが繰り出され、これにより押出体20A上に補強糸層16が形成される。つまり、第1押出機40により押し出された直後の押出体20AがマンドレルMdで支持された状態にて、補強糸層16が形成される。このとき、押出体20Aは、マンドレルMdで支持されているので潰れることがない。この場合において、補強糸16aを64打で編組するには、ドラム52に装着された合計64カ所のボビンからそれぞれ繰り出すことにより下ゴム層14上に巻回することにより行なう。次に、第2押出機60により、上ゴム層18を形成するためのシリコーンゴムが補強糸層16上に積層される。すなわち、上ゴム層18を形成するためのゴム材料は、補強糸層16上に直接供給することにより行なう。これによりホース成形体20Bが製造される。
【0017】
続いて、加硫工程を行なう。まず、ホース成形体20Bに所定の形状に曲げられたマンドレル(図示省略)を挿入しつつホース成形体を図1に示すように曲げる。そして、マンドレルに挿入されたホース成形体を加硫釜に入れて加硫する。加硫工程の条件として、140〜170℃で20〜60分に設定する。この加硫工程により、内管ゴム層12、下ゴム層14および上ゴム層18は、通常の加硫接着が行なわれて接合される。これにより、耐熱性ホース10が一体化して形成される。
【0018】
(4) 実施例の作用・効果
上記実施例の構成により、上述した作用・効果のほか、以下の作用・効果を奏する。
(4)−1 耐熱性ホース10は、内管ゴム層12および下ゴム層14に、未加硫状態における初期引張応力の差が、0.5MPa以下の材料を用いることにより、図3に示すように、曲げたときに、内管ゴム層12に圧縮力が加わっても、内管ゴム層12の圧縮される部分にシワや、亀裂を生じることがなく、流体による損傷が小さく、耐久性に優れていることが分かった。
【0019】
このようなシワの低減効果を調べるために、以下の実験を行なった。図5に示すように、初期引張応力Mn(s)が0.83である未加硫のシリコーンゴムを用い、フッ素化合物系ゴムの初期引張応力が異なる4種類のフッ素化合物系ゴムを用いて、ホース成形体(試料1〜4)を作成し、マンドレルに挿入しつつ曲げたときのシワを調べた。ここで、フッ素化合物系ゴムの初期引張応力Mn(1〜4)は、試料1が0.68、試料2が1.11、試料3が1.23、試料4が1.74である。なお、図6に示すように、ホース成形体の曲率半径Rは80mm、曲げ角度θを90゜、ホース内径dを50mmとした。また、内管ゴム層12の厚さは0.4mm、下ゴム層14の厚さは2.1mmとした。ここで、フッ素化合物系ゴムの初期引張応力を変えるには、分子量を変えることで行なうことができる。
【0020】
その結果、試料1〜3では、内管ゴム層12の内面にシワを生じなかったが、試料4では、図8に示すように内管ゴム層102の内面にシワが生じた。これは以下の理由による。ゴム成形体を曲げた場合には、その外側の部分が伸ばされ、内側の部分が縮む。このため、内側の部分における内管ゴム層12および下ゴム層14には、圧縮応力が加わる。この場合には、内管ゴム層12の初期引張応力と下ゴム層14との初期引張応力との差が大きいと、下ゴム層14が曲げに対応して縮むのに対して、内管ゴム層12が下ゴム層14に拘束されて縮み難く、シワを生じやすい。そこで、下ゴム層14の初期引張応力に内管ゴム層12の初期引張応力を近づけることにより、シワをなくすことができた。
【0021】
(4)−2 ゴム成形体の曲率半径Rが小さく、また曲げ角度が小さいほどシワを生じやすいが、本実施例によると、曲率半径Rが80〜100mmの範囲、曲げ角度θが80〜110゜の範囲であっても、シワが生じないことが分かった。なお、ゴム成形体の形状および積層構造に対応して、曲げ角度θが70〜120゜で、曲率半径Rが50〜100mmに適用できる。
【0022】
(5) 他の実施例
この発明は上記実施例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0023】
(5)−1 上記実施例では、図5に示すように、内管ゴム層12のフッ素化合物系ゴムの初期引張応力を下ゴム層14のシリコーンゴムの初期引張応力に近づける例について説明したが、これに限らず、フッ素化合物系ゴムの初期引張応力を調整するものであってもよく、いずれにしても両者の初期引張応力の差が小さくなるようにすればよい。
(5)−2 フッ素化合物系ゴムの縮み難さに合わせて、シリコーンゴムの伸び量を小さくしてもよく、すなわち、補強糸層16の打数64へと大きくして、その圧縮の際の引張応力を機械的に拘束する手段を加えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施の形態にかかる耐熱性ホースを長手方向に切断した断面図である。
【図2】耐熱性ホースの一部を破断した斜視図である。
【図3】図1の2点鎖線で囲んだ部分の拡大断面図である。
【図4】ホース製造装置を説明する説明図である。
【図5】耐熱性ホースの作用を説明する説明図である。
【図6】耐熱性ホースの作用を説明する説明図である。
【図7】従来の耐熱性ホースを示す断面図である。
【図8】図7の2点鎖線で囲んだ部分の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0025】
10…耐熱性ホース
10a…流路
12…内管ゴム層
14…下ゴム層
16…補強糸層
16a…補強糸
18…上ゴム層
20A…押出体
20B…ホース成形体
20a…スペース
30…ホース製造装置
40…第1押出機
50…ブレード装置
52…ドラム
60…第2押出機
61…外管押出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未加硫ゴムからなるホース成形体を所定経路に曲げて加硫することで形成される耐熱性ホースにおいて、
流路(10a)を形成する内管ゴム層(12)と、該内管ゴム層(12)に積層された下ゴム層(14)と、該下ゴム層(14)上に巻回された補強糸層(16)と、該補強糸層(16)上に積層された上ゴム層(18)とを備え、
上記内管ゴム層(12)は、フッ素化合物系ゴムから形成され、
上記下ゴム層(14)および上ゴム層(18)は、シリコーンゴムから形成され、
未加硫ゴムが5%伸びたときの引張応力を初期引張応力と定義したときに、上記内管ゴム層(12)および下ゴム層(14)は、初期引張応力の差が0.5MPa以下のゴム材料を用いていること、を特徴とする耐熱性ホース。
【請求項2】
請求項1に記載の耐熱性ホースにおいて、
上記所定経路の曲げは、曲げ角度θが70〜120゜で、曲率半径Rが50〜100mmである耐熱性ホース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−220516(P2009−220516A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−69846(P2008−69846)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】