肺癌の腫瘍血管を標的とするペプチドおよびその適用
本発明は、診断および治療法を含む適用に用いるための核酸、ペプチドおよび抗体を提供する。ペプチドは新生血管系を標的とし、インビボファージディスプレイによって同定された。こうしたペプチドの1つであるSP5−52は、SCIDマウスにおける複数の腫瘍の新生血管系を認識したが、正常な血管はターゲティングしなかった。このペプチドはヒト肺癌生検試料の血管にも結合する。SP5−52およびドキソルビシンを含むリポソームは、SCIDマウスにおける複数のヒト癌異種移植片に対する薬物の効果を高めた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、2007年2月13日に出願された米国仮出願第60/900,980号および2007年2月14日に出願された米国仮出願第60/901,086号ならびに2007年4月13日に出願された米国特許出願第11/783,926号(これらは全て、それらの全体が参考として援用される)への優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍発達の間に、腫瘍細胞は老廃物を除去するためにより多くの酸素および代謝産物を必要とする。加えて、宿主脈管系への接近および腫瘍血液供給の生成は、腫瘍発達にとっての律速段階である(Bergersら、2003)。同様に、加齢性黄斑変性などの疾患は、新たな血管の生成を伴う。(Ngら、2006)。よって、腫瘍血管は腫瘍成長を阻害するための主要な標的であり、加齢性黄斑変性に伴う血管はこの疾患を阻害するための好適な標的である。腫瘍血管は、正常な組織の血管に存在しない特異的マーカを発現する。これらの特異的マーカの多くは、腫瘍が誘導する血管新生、すなわち新たな血管の発芽に関連するタンパク質である(Ruoslahti、2002)。細胞接着受容体のインテグリンαvβ3およびαvβ5は、腫瘍血管系中で過剰発現する(EliceiriおよびCheresh、1999)。確かに、腫瘍ホーミングまたはターゲティングに対するインビボのファージディスプレイによって同定されたRGDペプチドの1つはαvβ3を認識する(Pasqualiniら、1997)。これらのインテグリンに対して特異的なペプチドは、抗癌剤および抗血管新生剤のターゲティングによる送達のためのリガンドとして使用されてきた(Arapら、1998)。血管系の不均一性は、ターゲティングによる治療法の送達に対する新たな機会を与えるかもしれない。
【0003】
従来の化学療法は、その正常な組織に対する毒性によって制限される。もし化学療法薬物を腫瘍部位または腫瘍脈管に直接結合させて正常な組織から離すことができれば、治療結果は大きく改善されるだろう。大部分の小分子化学療法薬剤は、静脈内(intravenous:i.v.)投与における大量の分配を有する(Spethら、1988)。この分配によって、正常な組織への高レベルの毒性のために治療指数がしばしば小さくなる。薬物をリポソームなどの高分子担体に封入することによって、分配の体積が顕著に低減され、腫瘍における薬物の濃度が増加する(Drummondら、1999)。封入によって、非特異的毒性の重篤度およびタイプを減少でき、腫瘍部位に有効に送達される薬物の量を増加できる(GabizonおよびMartin、1997;Martin、1998;Papahadjopoulosら、1991)。腫瘍ターゲティングリガンドを用いて、リポソームなどの高分子担体を腫瘍部位にターゲティングできる。代替的には、薬物を腫瘍ターゲティングリガンドに結合または連結させることによって、薬物の腫瘍へのターゲティングを促進できる。
【0004】
リポソームは、癌化学療法における薬物担体として提案された(Gregoriadisら、1974)。そのとき以来、リポソームに対する関心は増加し、リポソーム系は現在薬物担体として広範囲に研究されている。薬物を特異的に送達するのに使用するために、リポソームには以下の3つの基本的要求が望まれる:(i)血液循環を長くすること、(ii)腫瘍または他の標的組織における十分な蓄積、(iii)薬物の薬力学に適合する放出プロファイルを有しながら、制御された薬物放出および腫瘍細胞または他の標的組織による取込みが行なわれること。
【0005】
最初、リポソーム薬物送達系の研究は、細網内皮系(reticuloendothelial system:RES)による非常に速い血液クリアランスに苦しめられた。粒子サイズ、表面電荷(Weinstein、1984)、およびリポソーム組成物は、クリアランスプロファイルに対する影響が強い(例、ホスファチジルイノシトールまたはモノシアロガングリオシドの組込みによって、血液中のリポソーム循環が長くなる)ことが確認された(AllenおよびChonn、1987;GabizonおよびPapahadjopoulos、1988;Senior、1987)。漏出性毛細血管を介して優先的に循環から出て、広範囲の新血管新生を示す腫瘍に蓄積してより高濃度となり、効能を高めると予測される「ステルス」リポソームによって、この取込みは回避され得る(Wuら、1993)。
【0006】
しかし、合成ポリマーポリエチレングリコール(polyethyleneglycol:PEG)で被覆されたリポソームが血中の半減期を有意に増加させることが発見されたときには、リポソームは単に良好な薬物送達候補としてのみ認識されていた(Allenら、1991;BlumeおよびCevc、1990;Klibanovら、1990;Papahadjopoulosら、1991;Seniorら、1991)。このペグ化リポソームは、リポソームのタンパク質吸着およびオプソニン作用を阻害する高度に水和し保護されたリポソーム表面のために、長く循環する(WoodleおよびLasic、1992)。速いオプソニン作用およびクリアランスの問題を解決して、血中で最大72時間の半減期を有するリポソームを提供する(Drummondら、1999)と、次の挑戦事項は能動的ターゲティングによって腫瘍組織または他の疾患組織内にリポソームを蓄積させることだった。
【0007】
ターゲティングリポソームの使用によって、腫瘍標的部位における薬物放出を有意に高め、治療効果を増加できる可能性があり得る(非特許文献1;非特許文献2)。薬物送達研究分野では、腫瘍組織内で蓄積する長く循環するリポソームの構築に成功しており、閉じ込められた薬物は、能動的なトリガが存在しない限り、次いで受動拡散によってリポソームの外に漏出する。疾患組織に特異的に薬物を放出できる部位特異的トリガの使用は、腫瘍標的部位における薬物の生物学的利用率を増加させる方法の1つである。薬物の生物学的利用率を最適化する別の方法は、能動的ターゲティングによってより高程度のリポソーム蓄積を得ることである。さらに、能動的ターゲティングと能動的トリガとの組合せによって、腫瘍標的部位における有意に高められた特異的な薬物放出をもたらし得る可能性がある(非特許文献1;非特許文献2)。
【0008】
ヒトの癌の90%より多くを含む固形悪性腫瘍に対しては、免疫結合体が腫瘍組織に侵入できないため、腫瘍特異的な抗原を認識する抗体が薬物送達に与える有用性はほとんどなかった(Dvorakら、1991;Shockleyら、1991)。しかし、過去10年間のファージディスプレイペプチドライブラリの発達は、抗体よりも有効な小さいペプチドを同定する機会をもたらした。
【0009】
ファージディスプレイのランダムペプチドライブラリは、B細胞エピトープ(D’Melloら、1997;Fuら、1997;ScottおよびSmith、1990;Wuら、2001;Wuら、2003)およびタンパク質−タンパク質接触(Atwellら、1997;Bottgerら、1996;Nordら、1997;Smithら、1999)をマッピングする機会、受容体(Koivunenら、1999;Liら、1995;Wrightonら、1996)またはタンパク質(Bottgerら、1996;Castanoら、1995;DeLeoら、1995;Kraftら、1999;Pasqualiniら、1995)に結合する生理活性ペプチドを選択する機会、疾患特異的な抗原模倣(Folgoriら、1994;Liuら、2004;Prezziら、1996)を探索する機会、ならびに細胞特異的ペプチド(Barryら、1996;Leeら、2004;Mazzucchelliら、1999)および器官特異的ペプチド(Arapら、1998;EsslerおよびRuoslahti、2002;Pasqualiniら、1995;PasqualiniおよびRuoslahti、1996)を定める機会を与える。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Leeら、Cancer Res(2004)64,8002〜8008
【非特許文献2】Parkら、Clin Cancer Res(2002)8,1172−1181
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、特定の標的組織に対してファージディスプレイライブラリをスクリーニングすることは、薬物、遺伝子送達ベクターまたはその他の治療薬剤のターゲティングに用いられるペプチド配列の同定における直接的かつ迅速な方法となる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明はとりわけ、以下のものを単独または組合せて含む。
【0013】
本発明は、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15および配列番号17を含むポリヌクレオチドおよびその変異体を提供する。
【0014】
本発明は、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16および配列番号18を含むペプチドおよびその変異体を提供する。一実施形態において、ペプチドは配列番号2またはその変異体である。別の実施形態において、ペプチドは配列番号2である。別の実施形態において、ペプチドは融合タンパク質を含む。別の実施形態において、ペプチドは1つまたはそれ以上の標識を含む。別の実施形態において、ペプチドは1つまたはそれ以上の薬物に結合される。ペプチドに結合され得る薬物はドキソルビシン、ビノレルビン、オリゴヌクレオチド、毒素、抗VEGFアプタマー、および放射性分子を含んでもよい。
【0015】
本発明は、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16および配列番号18からなる群より選択される本発明のペプチドまたはその変異体に結合する抗体を提供する。
【0016】
本発明は、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16および配列番号18からなる群より選択される少なくとも1つのペプチドを含むリポソームを提供する。一実施形態において、リポソームは配列番号2またはその変異体を含む。別の実施形態において、リポソームは配列番号2を含む。リポソームは、ドキソルビシン、ビノレルビン、オリゴヌクレオチド、毒素、抗VEGFアプタマー、および放射性分子からなる群より選択される1つまたはそれ以上の薬物を含んでもよい。一実施形態において、使用され得る薬物のうちの1つは、リン脂質1μmol当り約110μgから約130μgの量であり得るドキソルビシンである。ある実施形態において、リポソームは約65nmから約75nmの直径を有する。別の実施形態において、リポソーム当りのペプチド分子の数は約300から約500である。リポソームは医薬的に許容できる担体を含んでもよい。
【0017】
本発明は、処置を必要とする対象に本発明のペプチドを投与する工程を含む、疾患を処置する方法を提供し、前記ペプチドは薬物に結合される。ペプチドに結合され得る薬物は、ドキソルビシン、ビノレルビン、オリゴヌクレオチド、毒素、抗VEGFアプタマー、および放射性分子を含む。
【0018】
本発明は、1つまたはそれ以上の薬物と、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、および配列番号18からなる群より選択されるより多くもしくはそれ以上のペプチド、またはその変異体とを含むリポソームを対象に接触させる工程を含む、疾患を処置する方法を提供する。この方法は、1つまたはそれ以上の薬物と、配列番号2またはその変異体とを含むリポソームを対象に接触させる工程を含んでもよい。リポソームは1つまたはそれ以上の化学療法薬物を含んでもよい。治療薬物はドキソルビシンであってもよい。この方法は癌を処置するために用いられてもよく、癌は、肺癌、結腸癌、乳癌、前立腺癌、肝癌、膵癌、および口腔癌からなる群より選択される癌を含んでもよい。実施形態の1つにおいて、癌は肺癌である。別の実施形態において、癌は口腔癌である。この方法は、加齢性黄斑変性を処置するために用いられてもよい。
【0019】
本発明は新生血管系を検出する方法を提供し、この方法は、ペプチドが新生血管系に結合できる条件下で、試料を本発明のペプチドに接触させる工程と、そのペプチドを検出する工程とを含む。ペプチドは、そのペプチドに対する抗体によって検出されてもよい。ペプチドはエピトープを含む融合タンパク質を含んでもよく、この融合タンパク質はエピトープに対する抗体によって検出される。ペプチドは標識を含んでもよく、このペプチドの標識を検出することによってペプチドが検出される。実施形態の1つにおいて、標識はFITCを含む。別の実施形態において、標識はビオチンを含む。
【0020】
本発明は、本発明のペプチドに結合する生体分子を同定する方法を提供し、この方法は、ペプチドとリガンドとを含む複合体を形成できる条件下で本発明のペプチドを細胞抽出物に接触させる工程と、その複合体を分析してリガンドを同定する工程とを含む。
【0021】
本発明は、ストリンジェントな条件下で請求項1に記載のポリヌクレオチドの相補体(complement)にハイブリダイズするポリヌクレオチドを提供する。
【0022】
本発明は、請求項1に記載のポリヌクレオチドを含むベクター、およびそのベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0023】
本発明は、ストリンジェントな条件下で請求項1に記載のポリヌクレオチドの相補体にハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるペプチドを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】インビボのファージディスプレイによる、肺癌ターゲティングファージの選択を示す図である。
【図2A】腫瘍ホーミングファージの特異性を示す図である。
【図2B】腫瘍ホーミングファージの特異性を示す図である。
【図2C】腫瘍ホーミングファージの特異性を示す図である。
【図2D】腫瘍ホーミングファージの特異性を示す図である。
【図3】(A)ヒト肺への静脈内注射後のPC5−52ファージの免疫蛍光局在化を示す図である。(B)肺癌異種移植片の腫瘍脈管へのファージ結合の調査を示す図である。(C)FITC標識されたSP5−52ペプチドと肺癌異種移植片の腫瘍脈管との結合を示す図である。
【図4A】異なるヒト癌異種移植片を有するSCIDマウスからの腫瘍ターゲティングファージPC5−52の回収を示す図である。
【図4B】異なるヒト癌異種移植片を有するSCIDマウスからの腫瘍ターゲティングファージPC5−52の回収を示す図である。
【図5】(A)ターゲティングファージがVEGF刺激されたHUVECと反応することを示す図である。(B)肺腺癌試料におけるビオチン標識されたSP5−52ペプチドの免疫組織化学的局在化を示す図である。
【図6A】ヒト肺癌異種移植片を有するSCIDマウスのSP5−52−Lipo−Doxによる処置を示す図である。
【図6B】SP5−52−Lipo−Doxで処置されたヒト肺癌異種移植片を有するSCIDマウスの生存曲線を示す図である。
【図6C】SP5−52−Lipo−Doxで処置されたマウスにおける腫瘍脈管の減少および損傷を示す図である。
【図6D】口腔癌異種移植片を有するSCIDマウスのSP5−52−Lipo−Doxによる処置を示す図である。
【図6E】SP5−52−Lipo−Doxによる口腔癌異種移植片を有するSCIDマウスの生存曲線を示す図である。
【図7】さまざまなヒト癌の異種移植片を有するSCIDマウスのSP5−52−Lipo−Doxによる処置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
表の簡単な説明
表1は、肺癌異種移植片から選択されたファージからのファージディスプレイペプチド配列を提供する。
【0026】
癌の化学療法のほとんどは、強力な副作用および薬剤耐性の獲得を伴う。したがって当該技術分野においては、薬物を腫瘍脈管上だけでなく腫瘍細胞上の標的部位にも送達する薬物送達系が必要とされている。いくつかの試みの中には、腫瘍組織に対する1本鎖Fv(single−chain Fv:scFv)抗体(Parkら、2002)およびターゲティングペプチド(Leeら、2004)の使用が含まれる。最近、脈管ターゲティングが注目を集めている。なぜなら、特定の薬物または薬物担体は腫瘍の血管外遊出よりも前にまず血管系に出会うためである(Okuら、2002)。その概念は、血管新生が腫瘍形成の際の拡張に必要な工程だということである。同様に、血管新生は加齢性黄斑変性などの疾患を伴う。(Ngら、2006)。腫瘍血管系は正常な血管系とは異なる固有なマーカを発現する(Hoffmanら、2003)ため、これらのマーカに基づくターゲティングは癌処置に対する有望な戦略である。これらの抗血管新生療法は、効果が高く毒性が低い見込みがある。さらに、ターゲティングリガンドの親和性に基づく化学療法薬物の腫瘍組織への送達は、高い腫瘍間質液圧および薬物耐性に起因する癌治療法の障害を克服するものである。開示されるペプチドはリガンド標的療法に用いることができ、したがってこのペプチドは従来の抗癌薬よりも治療効果を改善する新たな処置に対する基礎を提供する。
【0027】
インビボのファージディスプレイを用いて、腫瘍血管に特異的にホーミングするペプチドを同定した。表1。この出願において、「ホーミングする(home)」、「ホーミング(homing)」、「標的(target)」および「ターゲティング(targeting)」という用語は相互交換可能に用いられる。SP5−52という1つのペプチド、SVSVGMKPSPRP[配列番号2]のさらなる研究から、彼のペプチドは、ヒト腫瘍を有するSCIDマウスにおける腫瘍の血管系は認識するが正常な血管は認識しないことが明らかになった。SP5−52は、動物モデルにおける複数の腫瘍からの異種移植片の腫瘍脈管だけでなく、VEGF刺激されたヒト脈管内皮細胞(human vascular endothelial cell:HUVEC)およびヒト肺癌からの血管にも特異的に結合できることが発見された。加えて、SP5−52ペプチドに結合された、ドキソルビシン(doxorubicin)を有するリポソーム(SP5−52−Lipo−Dox)は、SCIDマウスにおけるヒト癌異種移植片に対する薬物の効果を高めた。これらの研究から、SP5−52ペプチドは複数の腫瘍の血管系に特異的に結合できて、固形腫瘍を標的とする薬物送達に対する良い候補であることが示される。SP5−52およびその他のペプチドは、腫瘍血管系のターゲティングに有用である。
【0028】
本発明者らの研究において、インビボのバイオパニングの第5ラウンドからのファージは、肺癌異種移植片との結合活性が最初のファージライブラリのものより156倍高かった(図1)。特定のファージクローンは、プロリン−セリン−プロリン(PSP)というコンセンサスペプチドモチーフを提示した(表1)。別個のインビボファージディスプレイ実験において、本発明者らはIVO−2と名付けられたファージクローンを同定し、これは口腔癌異種移植片の腫瘍組織にホーミングした。IVO−2もPC5−52と同じアミノ酸配列を提示することを本発明者らは定めた。
【0029】
インビボのホーミング実験から、PC5−52は肺癌および口腔癌の異種移植片からの腫瘍組織の脈管には特異的に結合できるが、他の正常な器官、たとえば肺、心臓および脳などには結合できないことが示された(図2および図3)。ペプチド競合的阻害アッセイが行なわれたとき、PC5−52と腫瘍組織との結合活性は、合成ペプチドSP5−52によって阻害された(図2Bおよび図2D)。これらの結果は、この合成ペプチドがそれぞれのファージクローンと同じ結合部位に結合することを示唆する。
【0030】
腫瘍塊および正常な器官におけるホーミングファージの局在化を調べるために、肺癌のSCIDマウスにPC5−52を静脈内注射し、次いでこれらのマウスからの冷凍切片を、抗マウスCD31および抗M13 mAbを用いた二重局在化に供した。その結果、CD31およびファージ粒子はほとんどの異種移植片脈管内皮に共存しており、腫瘍細胞およびその他の正常な器官においては稀であることが明らかになった(図3)。これらの結果から、PC5−52は腫瘍血管系の内皮細胞を特異的にターゲティングできるが、腫瘍細胞または正常な器官の血管はターゲティングできないことが示された。
【0031】
本発明者らは調査を拡大して、PC5−52が他のヒト腫瘍細胞、たとえばヒト肺癌(H460)、結腸癌(HCT116)、乳癌(BT483)、前立腺癌(PC3)、肝癌(Mahlavu)および膵癌(PaCa)細胞などに由来する異種移植片の血管系にも結合できるのかどうかを調べた。その結果、異なる癌細胞系からのこれらの異種移植片腫瘍組織は、正常な器官よりもPC5−52のタイターが高い(正常な器官に比べて10倍より多い)ことが示された(図4)。これらのデータから、PC5−52は8つの異なるタイプのヒト癌異種移植片からの腫瘍組織に対して、より高い結合親和性を有することが示される。この現象は、固形腫瘍の血管系が、SP5−52ペプチドによって認識され得る未知の普遍的受容体を発現している可能性を示唆するものである。PC5−52ファージおよびFITC標識されたSP5−52ペプチドはどちらも異種移植片における腫瘍脈管内皮には特異的に結合できたが、正常な血管には結合できなかったという本発明者らの実証(図3)は、この可能性をさらに支持する。
【0032】
コンセンサスモチーフであるプロリン(P)−セリン(S)−プロリン(P)は、表1に示される3つのクローンPC5−5、PC−52およびPC−54の提示ペプチドに存在し、このコンセンサスモチーフの役割を調べるために、本発明者らはSP5−52(SVSVGMKPSPRP)中のこれら3つのアミノ酸残基を、変異ペプチドMP5−52(SVSVGMKGGGRP)[配列番号20]においてGGGに変えた。図4Bに示されるとおり、PC5−52の腫瘍ホーミング能力はSP5−52によって顕著に阻害されたが、変異ペプチドMP5−52には阻害されなかった(図4B)。
【0033】
ヒトの癌治療法に対するSP5−52の適用可能性を評価するために、本発明者らは、ネズミ血管新生モデルにおいて選択されたペプチドがヒト腫瘍の血管系内皮に対する結合親和性を有するかどうかを調べた。本発明者らは、このペプチドがVEGF刺激された内皮細胞およびヒト肺癌生検試料に特異的に結合できることを確認した(図5)。本発明者らの結果から、ヒト肺癌または他の癌に対するリガンド標的療法の開発に対するターゲティングリガンドとしてSP5−52を用いることができることが示される。
【0034】
本発明者らはSP5−52に結合したリポソームを調製して、SP5−52およびドキソルビシンを含むリポソーム、すなわちSP5−52−Lipo−Doxと、ドキソルビシンを含むリポソーム、すなわちLipo−Doxとが腫瘍成長に与える影響を比較した。その結果、SP5−52−Lipo−Doxはヒトの肺癌および口腔癌異種移植片の両方に対する薬物の効果を高めることが明らかになった(図6Aおよび図6D)。さらに、このターゲティングリポソームはこれら2つのヒト癌動物モデルの生存率をも有意に増加した(図6Bおよび図6E)。SP5−52−Lipo−Dox処置によって、腫瘍血管系は破壊されて顕著に減少した(図6C)。
【0035】
SP5−52−Lipo−Doxが他の固形腫瘍に対する治療効果も高めることができるかどうかを調べるために、本発明者らは、ヒト肺癌(H460)、結腸癌(HCT116)、乳癌(BT483)、肝癌(Mahlavu)および膵癌(PaCa)を含む5タイプのヒト癌からの異種移植片を有するマウスを処置した。興味深いことに、ターゲティングリポソームSP5−52−Lipo−Doxは、これら5つのヒト癌に対する治療効果の増加を示した(図7)。これらの結果から、Lipo−DoxをペプチドSP5−52に結合させることによって、薬物がヒト固形腫瘍異種移植片を阻害する能力が高められることが示された。
【0036】
よって、本明細書に記載されるものを含むこれらの新たなターゲティング戦略は、癌処置を顕著に改善する可能性を有する。
【0037】
腫瘍血管系は、一般的に安定で薬物耐性をほとんどまたはまったく誘導しない非悪性の内皮細胞からなっているために、癌治療法に対する特に好適な標的である(Boehmら、1997)。加えて、これらの細胞は薬物にもっと接近でき、固有の増幅機構を有する。1個の内皮細胞の除去によって100個の腫瘍細胞の生育を阻害できると見積もられている(BurrowsおよびThorpe、1994;Denekamp、1993)。本発明者らの結果から、SP5−52−Lipo−Dox処置によって、腫瘍血管系は破壊されて顕著に減少することが証明された(図6C)。これらのデータは、このターゲティングリポソームが異種移植片動物モデルにおける化学療法の効果を改善することを明らかに示すものである。この効果は、ターゲティングリポソームが腫瘍組織内に蓄積することによるものかもしれない。固形腫瘍の腫瘍間質液圧(interstitial fluid pressure:IFP)が高いことは、効率的な薬物送達にとって障壁である(Heldinら、2004)。IFPが増加すると、腫瘍内の経毛細管輸送が減少するために薬物の吸収が減少し、その結果治療法が最終的に失敗となる。これらの現象には、薬剤耐性および転移性疾患の発達が伴う(Boucherら、1990;Boucherら、1991;Gutmannら、1992;Heldinら、2004;Lessら、1992)。本明細書に記載されるような効果的なリガンド標的療法は、リガンドの親和性を利用して抗癌薬を腫瘍組織に運ぶものであり、腫瘍のIFPが高くても薬物の蓄積を増加させることによって機能する可能性がある。
【0038】
インビボのファージディスプレイを用いて腫瘍内皮細胞の分子上のターゲティングリガンドを単離することにより、本発明者らはPC5−52を含むいくつかのペプチドを同定し、これらのペプチドは2つのNSCLCおよび6つのヒト腫瘍異種移植片における血管系を標的とする。このペプチドを介してターゲティングされたリポソームは、リポソームの治療効果を高めて、ヒトの肺癌および口腔癌異種移植片を有するマウスの生存率を増加させた。SP5−52は固形腫瘍の血管系への薬物送達に対する優れた薬剤であり、臨床的な癌処置に適用可能である。
【0039】
参考文献
【0040】
【化1】
【0041】
【化2】
【0042】
【化3】
【0043】
【化4】
【0044】
【化5】
【0045】
【化6】
【0046】
【化7】
【0047】
定義
本明細書において用いられる用語は以下に示すとおりの通常の意味を有し、明細書の文脈においてさらに理解されてもよい。
【0048】
「ポリヌクレオチド」、「ヌクレオチド」、「核酸」、「核酸分子」、「核酸配列」、「ポリヌクレオチド配列」、および「ヌクレオチド配列」という用語は本明細書において相互交換可能に用いられて、あらゆる長さのヌクレオチドの重合形をいう。ポリヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、および/またはそれらの類似体もしくは誘導体を含有し得る。この用語は、変異体を含む。変異体は、挿入、付加、欠失または置換を含み得る。本明細書に示されるヌクレオチド配列は5’から3’の方向にリストされる。
【0049】
「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」という用語は本明細書において相互交換可能に用いられて、あらゆる長さのアミノ酸の重合形を示し、それは天然に発生するアミノ酸、コードおよび非コードアミノ酸、化学的または生化学的に修飾、誘導されたアミノ酸またはデザイナーアミノ酸(designer amino acid)、アミノ酸類似体、ペプチド模倣薬およびデプシペプチド、ならびに修飾された、環状の、二環状の、デプシ環状の(depsicyclic)またはデプシ二環状の(depsibicyclic)ペプチドバックボーンを有するポリペプチドを含んでもよい。この用語は1本鎖タンパク質およびマルチマーを含む。この用語は、以下のものに結合されたタンパク質も含む:たとえばFITC、ビオチン、ならびに64Cu、67Cu、90Y、99mTc、111In、124I、125I、131I、137Cs、186Re、211At、212Bi、213Bi、223Ra、241Am、および244Cmを含むがこれらに限定されない放射性同位元素などの標識;検出可能な生成物を有する酵素(たとえば、ルシフェラーゼ、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼなど);蛍光剤および蛍光標識、蛍光発光金属、たとえば152Eu、またはその他のランタニド系列、電気化学発光化合物、化学発光化合物、たとえばルミノール、イソルミノールまたはアクリジニウム塩など;特異的結合分子、たとえば磁性粒子、微小球、ナノ球体など。この用語は、治療薬剤に結合されたペプチドも含む。
【0050】
この用語は融合タンパク質も含み、この融合タンパク質は、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(glutathione S−transferase:GST)融合タンパク質、たとえばルシフェリンまたはエクオリン(緑色蛍光タンパク質)などの生物発光タンパク質などの異種アミノ酸配列を有する融合タンパク質、異種および同種リーダー配列を有する融合タンパク質、N末端メチオニン残基を有する融合タンパク質または有さない融合タンパク質、ペグ化タンパク質、ならびに免疫学的にタグ付けされたタンパク質またはhisタグ付けされたタンパク質を含むが、これらに限定されない。こうした融合タンパク質はエピトープとの融合も含む。こうした融合タンパク質は、本発明のペプチドのマルチマー、たとえばホモダイマーまたはホモマルチマー、ならびにヘテロダイマーおよびヘテロマルチマーなどを含んでもよい。この用語はペプチドアプタマーも含む。
【0051】
本発明のペプチドは、ペプチドの生物学的に活性な変異体を含み、こうした変異体は構造が実質的に同様である。ペプチド配列の変異体は、対象のペプチドに比べて挿入、付加、欠失または置換を含んでいてもよい。ポリペプチド配列の変異体は、生物学的に活性な多形変異体を含む。
【0052】
本発明のペプチドは、天然に発生するアミノ酸および天然に発生しないアミノ酸を含んでもよい。ペプチドはD−アミノ酸、D−およびL−アミノ酸の組合せ、およびさまざまな「デザイナー」または「合成」アミノ酸(たとえば、β−メチルアミノ酸、Cα−メチルアミノ酸、およびNα−メチルアミノ酸など)を含むことによって特別な特性を有してもよい。加えて、ペプチドは環状であってもよい。ペプチドは非古典的アミノ酸を含むことによって特定の立体構造モチーフを導入してもよい。あらゆる公知の非古典的アミノ酸が用いられてもよい。以下を含むがそれらに限定されないアミノ酸類似体およびペプチド模倣薬をペプチドに組み込むことによって、特定の二次構造を誘導または有利にしてもよい:LL−Acp(LL−3−アミノ−2−プロペニドン(propenidone)−6−カルボン酸)、β−ターンを誘導するジペプチド類似体;β−シートを誘導する類似体;β−ターンを誘導する類似体;α−へリックスを誘導する類似体;γ−ターンを誘導する類似体;Gly−Alaターン類似体;アミド結合アイソスター;またはテトラゾール(tretrazol)など。
【0053】
ペプチドの末端部にデスアミノまたはデスカルボキシ残基を組み込むことによって、末端アミノ基またはカルボキシル基をなくして、プロテアーゼに対する感受性を低下させるか、または立体構造を制限してもよい。C末端官能基は、アミド、アミド低級アルキル、アミドジ(低級アルキル)、低級アルコキシ、ヒドロキシ、およびカルボキシ、ならびにそれらの低級エステル誘導体、ならびにそれらの医薬的に許容できる塩を含む。
【0054】
「リポソーム」という用語は、内部の水性空間を囲む外側の脂質二重層または多層の膜を含む組成物をいう。この用語は多重膜リポソームを含み、これは一般的に約1マイクロメートルから約10マイクロメートルの範囲の直径を有し、水相の層と交互になった2から数百の同心の脂質二重層を含む。この用語は、単一脂質層からなり、一般的に約20ナノメートルから約400ナノメートル(nm)、約50nmから約300nm、約300nmから約400nm、または約100nmから約200nmの範囲の直径を有する単層膜の小胞を含む。この用語は、約65nmから約75nmの直径を有するリポソームも含む。
【0055】
「抗体」および「免疫グロブリン」という用語は、特定の抗原を認識して結合できる、たとえば免疫系によって、合成によって、または組換えによって生成されるものなどのタンパク質を示す。抗体は当該技術分野において一般的に公知であり、当該技術分野において公知の方法によって調製できる。
【0056】
「エピトープ」とは抗体が結合する分子であり、それはポリペプチド中のアミノ酸残基の隣接する配列であってもなくてもよく、他の化学構造を有する糖および/または分子を含んでもよい。
【0057】
ポリヌクレオチドの状況における「特異的にハイブリダイズする」という用語は、ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーションを示す。DNA/DNAおよびDNA/RNA両方のハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーを増大させる条件は、当該技術分野において広く公知であり公表されている。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の例には、約65〜70℃での4×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)におけるハイブリダイゼーション、または約42〜50℃での4×SSCに50%ホルムアミドを加えたものにおけるハイブリダイゼーションの後に、約65〜70℃での1×SSCにおける1回またはそれ以上の洗浄が行なわれるものが含まれる。
【0058】
「リガンド」という用語は、受容体を含む、別の分子に結合する分子を示す。
【0059】
「宿主細胞」とは、あらゆる組換えベクターまたは単離されたポリヌクレオチドのレシピエントとなり得るかまたはレシピエントであった個々の細胞または細胞培養物である。宿主細胞は単一の宿主細胞の子孫を含み、その子孫は、自然の、偶発的な、または計画的な突然変異および/または変化のために、必ずしも(形態または全体のDNA相補体が)元の親細胞と完全に同一でないことがある。宿主細胞は、インビボまたはインビトロで本発明の組換えベクターまたはポリヌクレオチドによってトランスフェクトまたは感染された細胞を含む。本発明の組換えベクターを含む宿主細胞は、「組換え宿主細胞」と呼ばれてもよい。
【0060】
「試料」とは、患者に由来するあらゆる生体試料である;この用語は、生物学的な流体、たとえば血液、血清、血漿、尿、脳脊髄液、涙、唾液、リンパ、透析液、洗浄液、精液、およびその他の液体サンプルなど、ならびに生体由来の細胞および組織を含むがそれらに限定されない。この用語は細胞またはその細胞に由来する細胞およびその子孫も含み、それは培養物中の細胞、細胞上清および細胞溶解物を含む。この用語はさらに、器官または組織培養由来の流体、組織生検サンプル、腫瘍生検サンプル、糞便サンプル、および生理学的組織から抽出された流体、ならびに固体組織から分離された細胞、組織切片、および細胞溶解物を含む。この定義は、たとえば試薬による処理、可溶化、またはポリヌクレオチドもしくはポリペプチドなどの特定の成分に対する濃縮などによって、調達後にあらゆる態様で処理されたサンプルを含む。この用語には、患者サンプルの誘導体および画分も含まれる。患者サンプルは、診断、予後またはその他のモニタリングアッセイに用いられてもよい。この用語はまた、ヒト以外の哺乳動物からの生体試料に適用される。試料はヒトの患者またはヒト以外の哺乳動物からのものであってもよい。
【0061】
本明細書において用いられる「処置」は、ヒトを含む哺乳動物における疾患に対する治療のあらゆる投与または適用を含み、それは、たとえば退縮をもたらすか、または機能の欠失、欠落もしくは障害を回復もしくは修復することなどによる疾患の阻害、疾患の進行の阻止、もしくは疾患の緩和;または非効率的なプロセスの刺激を含む。この用語は、所望の薬理学的および/または生理学的効果を得ることを含み、ヒトを含む哺乳動物における病理学的状態または障害のあらゆる処置を含む。その効果は、障害もしくはその症状を完全もしくは部分的に防ぐという観点から予防的であってもよく、ならびに/または、障害および/もしくはその障害に起因し得る悪影響に対する部分的もしくは完全な治癒という観点から治療的であってもよい。よって本発明は、処置および予防の両方を提供する。本発明は以下を含む:(1)障害を起こす可能性があるがまだ症状が出ていない対象において、障害の発生または再発を防ぐこと、(2)障害の進行を阻止するなど、障害を阻害すること、(3)障害または少なくともそれに伴う症状を停止または終結させることによって、宿主がもう障害またはその症状に苦しまないようにすること、たとえば、機能の欠失、欠落もしくは障害を回復もしくは修復するか、または非効率的なプロセスを刺激することなどによって、障害またはその症状の退縮をもたらすことなど、または(4)障害またはそれに伴う症状を緩和、軽減または改善すること、ここで改善とは広い意味で用いられ、少なくとも、炎症、痛みおよび/または腫瘍サイズなどのパラメータの大きさの低減を示す。
【0062】
「医薬的に許容できる担体」とは、あらゆる従来型の非毒性の固体、半固体または液体の充填剤、希釈剤、封入材料(encapsulating material)、調合補助剤(formulation auxiliary)、または賦形剤を示す。医薬的に許容できる担体は、使用される用量および濃度ではレシピエントに対して非毒性であり、処方物の他の成分と適合できる。
【0063】
本明細書における「組成物」とは、当該技術分野において従来のものであって、かつ治療、診断または予防の目的のための対象への投与に適した、たとえば医薬的に許容できる担体または賦形剤などの担体を通常含有する混合物を示す。医薬組成物は、細胞または培養液中にポリペプチドまたはポリヌクレオチドが存在する細胞培養物を含んでもよい。たとえば、経口投与のための組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、丸薬、カプセル、徐放性処方物、口腔リンス液、または粉末を形成してもよい。
【0064】
「疾患」とは、医療介入を必要とするか、または医療介入を行なうことが望ましいようなあらゆる状態、感染症、障害または症候群を示す。こうした医療介入は、処置、診断および/または予防を含み得る。
【0065】
「癌」とは、あらゆる異常な細胞または組織の成長であり、たとえば悪性、前悪性または良性の腫瘍などである。癌は、細胞の無制御の増殖を特徴とし、それは周囲の組織に侵入することもしないこともあるし、新たな身体部位に転移することもしないこともある。癌は、上皮細胞の癌である癌腫を含む;癌腫は、扁平上皮癌、腺癌、黒色腫、および肝癌を含む。癌は、間充織由来の腫瘍である肉腫も含む;肉腫は、骨原性肉種、白血病およびリンパ腫を含む。癌は、1つまたはそれ以上の新生物細胞型を含んでもよい。癌という用語は、肺癌、結腸癌、乳癌、前立腺癌、肝癌、膵癌、および口腔癌を含む。
【0066】
「黄斑変性」は、不適切に制御された、漏出性の血管の成長を含み、これらとしては、加齢性黄斑変性(AMD)、増殖性糖尿病性網膜症(PDR)および未熟児網膜症(ROP)が挙げられる。
【0067】
細胞系
有用な細胞系は、A549、ヒト肺扁平上皮癌系、CL1−5、高転移性ヒト肺腺癌系、H23、ヒト肺腺癌系、H460、ヒト肺大細胞癌系、PC13、ヒト肺癌系、NPC−TW01、ヒト上咽頭癌系、SAS、ヒト口腔扁平上皮癌系、PaCa、ヒト膵臓癌、結腸(HCT116)、乳房(BT483)、前立腺(PC3)、肝臓(Mahlavu)、NNM、ヒト正常鼻粘膜上皮、および線維芽細胞を含む。A549、H23、H460、PC13、PaCa、HCT116、PC3、MahlavuおよびSASは、American Type Culture Collectionから入手可能である。CL1−5およびNPC−TW01細胞系は、それぞれ(Chuら、1997)および(Linら、1990)によって樹立された。
【0068】
ペプチドの調製
本発明のペプチドは、当該技術分野において公知の方法を用いて発現できる。本発明のペプチドを生産するためには、細胞に基づく方法および無細胞の方法が好適である。一般的に、細胞に基づく方法は、インビトロで宿主細胞に核酸構築物を導入する工程と、発現に適した条件下で宿主細胞を培養する工程と、次いで培養液もしくは(たとえば、宿主細胞を破壊することなどによって)宿主細胞のいずれかから、またはその両方からペプチドを採取する工程とを含む。本発明は、当該技術分野において周知の無細胞インビトロ転写/翻訳方法を用いてペプチドを生成する方法も提供する。
【0069】
好適な宿主細胞は原核細胞または真核細胞を含み、たとえば細菌、酵母、真菌、植物、昆虫および哺乳動物の細胞などを含む。
【0070】
典型的には、異種ペプチドは、修飾されていても修飾されていなくても、上述のとおりに単独で、または融合タンパク質として発現されてもよく、分泌シグナルだけでなく分泌リーダー配列を含んでもよい。本発明の分泌リーダー配列は、特定のタンパク質をERに向けてもよい。ERは膜結合タンパク質をその他のタンパク質から分離する。一旦ERに局在化されると、タンパク質はさらに、分泌小胞を含む小胞;細胞膜、リソソーム、およびその他の小器官への分配のためにゴルジ体に向けられてもよい。
【0071】
加えて、ペプチドにペプチド部分および/または精製タグが加えられてもよい。こうした領域は、ポリペプチドの最終的調製の前に取除かれてもよい。ポリペプチドにペプチド部分を付加することによって、特に分泌または排出を誘発したり、安定性を改善したり、精製を容易にしたりすることは、当該技術分野においてよく知られた慣用技術である。好適な精製タグは、たとえばV5、ポリヒスチジン、アビジンおよびビオチンなどを含む。ペプチドをビオチンなどの化合物に結合することは、当該技術分野において周知の技術を用いて達成できる。(Hermanson編(1996)Bioconjugate Techniques;Academic Press)。ペプチドは、当該技術分野において公知の技術を用いて、放射性同位元素、毒素、酵素、蛍光標識、コロイド金、核酸、ビノレルビン、およびドキソルビシンにも結合できる。(Hermanson編(1996)Bioconjugate Techniques;Academic Press;Stefanoら(2006)A conjugate of doxorubicin with lactosaminated albumin enhances the drug concentrations in all the forms of rat hepatocellular carcinomas independently of their differentiation grade.Liver Int.26:726−33)。毒素は当該技術分野において公知のものである。KreitmanおよびPastan、Immunotoxins in the treatment of hematologic malignancies.Curr Drug Targets.7:1301−11(2006)。
【0072】
本発明における使用のために好適な融合パートナーは、たとえば、フェチュイン、ヒト血清アルブミン、Fc、および/またはそれらの断片の1つもしくはそれ以上などを含む。たとえばポリエチレングリコール結合体などの結合タンパク質も提供される。
【0073】
本発明のペプチドは、当該技術分野において公知の技術を用いて化学的に合成することもできる(例、Hunkapillerら、Nature、310:105 111(1984);Grant編(1992)Synthetic Peptides,A Users Guide、W.H.Freeman and Co.;米国特許第6,974,884号を参照)。たとえば、ペプチド合成機の使用によって、または当該技術分野において公知の固相法の使用を通じて、ポリペプチドの断片に対応するポリペプチドを合成できる。
【0074】
さらに、所望であれば、非古典的アミノ酸または化学的アミノ酸類似体を置換または追加としてポリペプチド配列に導入してもよい。非古典的アミノ酸は、一般的なアミノ酸のD異性体、2,4−ジアミノ酪酸、a−アミノイソ酪酸、4−アミノ酪酸、Abu、2−アミノ酪酸、g−Abu、e−Ahx、6−アミノヘキサン酸、Aib、2−アミノイソ酪酸、3−アミノプロピオン酸、オルニチン、ノルロイシン、ノルバリン、ヒドロキシプロリン、サルコシン、シトルリン、ホモシトルリン、システイン酸、t−ブチルグリシン、t−ブチルアラニン、フェニルグリシン、シクロヘキシルアラニン、b−アラニン、フルオロアミノ酸、デザイナーアミノ酸、たとえばb−メチルアミノ酸、Ca−メチルアミノ酸、Na−メチルアミノ酸など、および一般的なアミノ酸類似体を含むがそれらに限定されない。さらに、アミノ酸はD(右旋性(dextrorotary))またはL(左旋性(levorotary))であってもよい。
【0075】
本発明のポリペプチドは、硫酸アンモニウムまたはエタノール沈殿、酸抽出、アニオンまたはカチオン交換クロマトグラフィ、リン酸セルロースクロマトグラフィ、疎水性相互作用クロマトグラフィ、アフィニティクロマトグラフィ、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィ、およびレクチンクロマトグラフィを含むがそれらに限定されない標準的な方法によって、化学合成および組換え細胞培養物から回収および精製されてもよい。最も好ましくは、高速液体クロマトグラフィ(「HPLC」)が精製に使用される。単離および/または精製の際にポリペプチドが変性したときは、タンパク質をリフォールディングするための周知の技術を用いて活性の立体構造を再生してもよい。
【0076】
本発明のペプチドまたはペプチド模倣薬(peptidomimetic)は、さまざまな親水性ポリマーの1つまたはそれ以上で修飾するか、またはそれと共有結合させることによって、ペプチドの可溶性および循環半減期を増加させることができる。ペプチドに結合させるために好適な非タンパク質親水性ポリマーは、ポリアルキルエーテル、たとえばポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールによって例示されるものなど、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリオキシアルケン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロースおよびセルロース誘導体、デキストランおよびデキストラン誘導体を含むがこれらに限定されない。一般的に、こうした親水性ポリマーの平均分子量は、約500ダルトンから約100,000ダルトン、約2,000ダルトンから約40,000ダルトン、または約5,000ダルトンから約20,000ダルトンの範囲である。ペプチドは、以下において示される方法のいずれかを用いて、こうしたポリマーによって誘導化されるか、またはそれらに結合されてもよい(Zallipsky,S.(1995)Bioconjugate Chem.、6:150−165;Monfardini,C.ら(1995)Bioconjugate Chem.、6:62−69;米国特許第4,640,835号;第4,496,689号;第4,301,144号;第4,670,417号;第4,791,192号、第4,179,337号、またはWO95/34326号)。
【0077】
リポソームの調製
リポソームを調製するためのさまざまな方法が当該技術分野において公知であり、そのいくつかはLichtenbergおよびBarenholzによって、Methods of Biochemical Analysis、第33巻、337−462(1988)に記載されている。以前に記載される薄膜水和反応(thin film hydration)と、反復押出し(repeated extrusion)との標準的な方法の組合せによって、小単層膜リポソーム(small unilamellar vesicle:SUV、サイズ<100nm)を調製できる(Tsengら、1999)。特にリポソームによるDNAの封入を含む調製法、およびリポソーム介在型トランスフェクションへの直接適用を有する方法は、HugおよびSleightら(1991)によって記載されている。リポソームを作成する方法は、米国特許第6,355,267号および米国特許第6,663,885号にも開示されている。リポソームは、ホスファチジルコリン、コレステロール、およびPEG誘導体化ホスファチジルエタノールアミン(PEG−derivatized phosphatidylethanolamine:PEG−PE)を含む脂質組成物による逆位相蒸着法によって生成できる。リポソームを定められたポアサイズのフィルタから押出すことによって、所望の直径のリポソームを得る。
【0078】
リポソームは、たとえばTaiwan Liposome Company、Taipei Taiwanなどの供給源から商業的に入手することもできる。付加的な商業的に入手可能なリポソームは、TLC−D99、Lipo−Dox、Doxil、DaunoXome、AmBisome、ABELCET、transfectace(DDAB/DOPE)、ならびにDOTAP/DOPEおよびLipofectinを含む。
【0079】
本発明のリポソームは、リン脂質から調製されることが最も多いが、疎水性および親水性部分の両方を有する類似の分子形および寸法のその他の分子が用いられてもよい。本発明の目的に対して、すべてのこうした好適なリポソーム形成分子は、本明細書において脂質と呼ばれる。リポソームの調製には、1つまたはそれ以上の天然に発生する脂質化合物および/または合成脂質化合物が用いられてもよい。
【0080】
リポソームは、親水性基の選択によって、アニオン、カチオンまたは中性であってもよい。たとえば、リン酸基または硫酸基を有する化合物が用いられるときには、得られるリポソームはアニオンになる。アミノを含有する脂質が用いられるときには、リポソームは正電荷を有し、カチオンリポソームとなる。
【0081】
本発明において有用な最初のリポソームを形成するための代表的な好適なリン脂質または脂質化合物は、リン脂質関連材料、たとえばホスファチジルコリン(レシチン)、リゾレシチン、リゾホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、スフィンゴミエリン、ホスファチジルエタノールアミン(ケファリン)、カルジオリピン、ホスファチジン酸、セレブロシド、リン酸ジセチル、ホスファチジルコリン、およびジパルミトイルホスファチジルグリセロールなどを含むが、これらに限定されない。付加的な非リン(non−phosphorous)脂質は、ステアリルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、アセチルパルミチン酸塩、グリセロールリシノール酸塩、ヘキサデシルステアリン酸塩(hexadecyl sterate)、イソプロピルミリステート、両性アクリルポリマー、脂肪酸、脂肪酸アミド、コレステロール、コレステロールエステル、ジアシルグリセロール、ジアシルグリセロールコハク酸塩などを含むが、これらに限定されない。
【0082】
本発明における使用のためのリポソーム調製物は、カチオン(正に荷電した)調製物、アニオン(負に荷電した)調製物、および中性調製物を含む。
【0083】
化合物のリポソーム内への遠隔負荷(remote loading)には、膜貫通勾配の形成が用いられる(CehおよびLasic、1995)。この方法は、リポソーム内に負荷すべき化合物とボロン酸化合物とを懸濁リポソームとともにインキュベートすることによって、リポソーム内に化合物を蓄積させる工程を含む(Zalipskyら、1998;Ceh B.およびLasic D.D.、1995;Zalipskyら、1998;米国特許第6,051,251号)。
【0084】
リン酸塩アッセイを用いてリポソーム濃度を定めてもよい。リン酸塩アッセイの1つは、モリブデン酸塩とマラカイトグリーン色素との相互作用に基づくものである。主要な原理は、無機リン酸塩とモリブデン酸塩とを反応させて無色の非還元リンモリブデン酸塩複合体を形成することを含み、この複合体は酸性条件下で還元されるときに青色の複合体に変えられる。リンモリブデン酸塩はマラカイトグリーンと複合体を形成すると20倍から30倍多く発色する。最終生成物である還元された緑色の可溶性複合体は、620nmにおける吸光度によって測定され、これは溶液中の無機リン酸塩の直接的な尺度である。
【0085】
いくつかの実施形態において、リポソームは、当該技術分野において多様なものが公知である医薬的に許容できる担体、賦形剤および希釈剤を有する処方物中に与えられる。これらの医薬的担体、賦形剤および希釈剤は、USP医薬賦形剤リストにリストされるものを含む。USP and NF Excipients,Listed by Categories、p.2404−2406、USP 24 NF 19、United States Pharmacopeial Convention Inc.、Rockville,Md.(ISBN1−889788−03−1)。医薬的に許容できる賦形剤、たとえばビヒクル、アジュバント、担体または希釈剤は、一般に容易に入手可能である。さらに、医薬的に許容できる補助的物質、たとえばpH調整および緩衝剤、張度調整剤(tonicity adjusting agent)、安定剤、湿潤剤などは、一般に容易に入手可能である。
【0086】
好適な担体は、水、デキストロース、グリセロール、食塩水、エタノール、およびそれらの組合せを含むがこれらに限定されない。担体は、湿潤剤もしくは乳化剤、pH緩衝剤、または処方物の効果を高めるアジュバントなどの付加的な薬剤を含有してもよい。局所的担体は、液体石油、イソプロピルパルミテート、ポリエチレングリコール、エタノール(95%)、水中のポリオキシエチレンモノラウレート(5%)、または水中のラウリル硫酸ナトリウム(5%)を含む。必要に応じて他の材料、たとえば抗酸化剤、湿潤剤、粘性安定剤、および類似の薬剤などが加えられてもよい。たとえばAzoneなどの経皮浸透促進剤が含まれてもよい。
【0087】
医薬用量の形において、本発明の組成物は医薬的に許容できる塩の形で投与されてもよく、さらに単独で用いられても、または他の医薬的に活性の化合物との適切な結合および組合せにおいて用いられてもよい。対象組成物は、可能な投与のモードに従って調合される。
【0088】
処置の方法
治療薬を含む本発明のペプチドまたはリポソームは、全身的な注射、たとえば静脈注射などによって;または関連部位への注射または適用、たとえば腫瘍への直接注射、もしくは手術中にその部位が露出しているときにはその部位への直接適用などによって;または、たとえば皮膚に障害があるときなどには局所適用によって、処置を必要とする対象に投与されてもよい。処置を必要とする被験体は、癌、加齢性黄斑変性、増殖性糖尿病性網膜症および未熟児網膜症のような、新生血管形成を伴う疾患に罹患した被験体を含む。
【0089】
本発明のペプチドまたはリポソームは、単独療法として用いられてもよい。代替的には、本発明のペプチドまたはリポソームは、癌を処置するための標準的な化学療法または放射線療法あるいは加齢性黄斑変性のような疾患のための療法と組合せて用いられてもよい。
【0090】
本発明のペプチドは、処置のために抗体を血管系にターゲティングするために用いられてもよい。一実施形態においては、本発明のペプチドが処置を必要とする対象に投与された後に、そのペプチドに特異的に結合する抗体が投与される。ターゲティングされる抗体は、抗体依存性の細胞毒性または相補体依存性の細胞毒性を媒介してもよく、または標的分子の基礎をなす機能を変更してもよい。こうした抗体は抗体結合体の形で用いられることによって、標的組織に治療効果を有する薬剤を直接送達してもよい。こうした薬剤は、放射性核種、毒素、化学療法薬物、抗VEGFアプタマーおよび抗血管新生化合物を含む。
【0091】
薬剤の投与は、経口、口腔、経鼻、直腸、非経口、腹膜内、皮内、経皮、皮下、静脈内、動脈内、心臓内、心室内、頭蓋内、気管内、および髄腔内投与などを含むさまざまな方法で、または移植もしくは吸入による別様で達成されてもよい。よって、対象組成物は固体、半固体、液体または気体の形の調製物、たとえば錠剤、カプセル、粉末、顆粒、軟膏、溶液、座薬、注射薬、吸入剤、およびエアロゾルなどに処方されてもよい。以下の方法および賦形剤は単なる例示であって、いかなる態様でも限定するものではない。
【0092】
好適な賦形剤ビヒクル媒体は、たとえば水、食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、およびそれらの組合せである。加えて、所望であれば、ビヒクルは少量の補助的物質、たとえば湿潤剤または乳化剤またはpH緩衝剤などを含有してもよい。こうした投薬形態を調製する実際の方法は、当業者に公知であるか、または明らかになる。いずれにせよ、投与される組成物または処方物は、処置される対象における所望の状態を達成するために適切な量の薬剤を含有する。
【0093】
本発明のリポソームまたはペプチドは、水性溶媒または非水系溶媒、たとえば植物油またはその他の類似の油、合成脂肪酸グリセリド、高級脂肪酸またはプロピレングリコールのエステルなどに;所望であれば従来の添加剤、たとえば溶解剤、等張剤、懸濁剤、乳化剤、安定剤、および保存剤などとともに、溶解、懸濁または乳化させることによって、注射のための調製物に処方されてもよい。当該技術分野における従来どおりの、経口または非経口送達のためのその他の処方物が用いられてもよい。
【0094】
本発明のリポソームまたはペプチドは、癌の処置および血管新生の阻害に用いられてきたさまざまな薬物の1つまたはそれ以上を含んでもよく、その薬物は、ビノレルビン、シスプラチン、ゲムシタビン、パクリタキセル、エトポシド、Novantrone(ミトキサントロン)、アクチノマイシンD、カンプトテシン(camptohecin)(またはその水溶性誘導体)、メトトレキサート、マイトマイシン(たとえばマイトマイシンCなど)、ダカルバジン(DTIC)、シクロホスファミド、ならびに抗新生物性抗生物質、たとえばドキソルビシンおよびダウノマイシンなど、またはたとえばDe Vitaら編、2001などに記載されるその他のものを含むが、それらに限定されない。リポソームまたはペプチドは、細胞毒性薬物、オリゴヌクレオチド、毒素および放射性分子も含んでもよい。リポソームまたはペプチドは、(Ngら、2006)に記載される抗VEGFアプタマーなどの化合物も含んでもよい。
【0095】
癌療法において用いられる薬物は、癌細胞に対する細胞毒性もしくは細胞増殖抑制の効果を有してもよく、または悪性細胞の増殖を低減させてもよい。癌処置に用いられる薬物はペプチドであってもよい。本発明のリポソームまたはペプチドは、放射線療法と組合されてもよい。本発明のリポソームまたはペプチドは、(De Vitaら(2001))に記載される治療アプローチとともに付属的に用いられてもよい。本発明のリポソームまたはペプチドと第2の抗癌剤とが癌細胞に対して相乗効果を及ぼすような組合せに対しては、第2の薬剤の用量は、第2の薬剤が単独で投与されるときの標準的な用量よりも減らされてもよい。癌細胞の感受性を増加させるための方法は、本発明のリポソームまたはペプチドを、癌細胞の感受性を高めるために有効な量の化学療法の抗癌薬と共投与する(co−administering)工程を含む。共投与は同時投与であっても、または非同時投与であってもよい。本発明のリポソームまたはペプチドは、処置療法の過程において他の治療薬剤とともに投与されてもよい。一実施形態において、本発明のリポソームまたはペプチドと、他の治療薬剤との投与は連続的である。適切な時間経過は、患者の病気の性質および患者の状態などの因子に従って医師によって選択されてもよい。
【0096】
診断方法
疾患特異的バイオマーカの検出は、有効なスクリーニング戦略を提供する。早期の検出は早期の診断を与えるだけでなく、癌の場合には多形性をスクリーニングし、手術後の残余腫瘍細胞および潜在性の転移、すなわち腫瘍再発の初期指標を検出することを可能にできる。よって疾患特異的バイオマーカの早期検出は、診断前、処置の最中および寛解期の患者における生存性を改善できる。
【0097】
本発明のペプチドは、癌および新生血管形成を伴う他の疾患を含む疾患に対する診断または予後として用いられてもよい。ペプチドは、ELISA、ウエスタンブロット、蛍光、免疫蛍光、免疫組織化学、またはオートラジオグラフィを含むがこれらに限定されないいくつかの方法で、診断として用いられてもよい。
【0098】
本発明の抗体は、血管系を検出するために本発明のペプチドと組合せて用いられてもよい。いくつかの実施形態において、そのアッセイは、血管マーカに結合した本発明のペプチドと抗体との結合を検出する結合アッセイである。対象ポリペプチドまたは抗体は固定されてもよく、対象ポリペプチドおよび/または抗体は検出可能になるよう標識されてもよい。たとえば、抗体は直接標識されても、または標識された二次抗体によって検出されてもよい。すなわち、抗体に対する好適な検出可能な標識は、目的のタンパク質に対する抗体を標識する直接標識と、目的のタンパク質に対する抗体を認識する抗体を標識する間接標識とを含む。別の実施形態において、ペプチドは標識を含み、ペプチドの組織への結合は標識の存在をアッセイすることによって検出される。
【0099】
スクリーニング方法
本発明は、本発明のペプチドに結合する生体リガンドを同定するための方法を提供する。
【0100】
方法の1つにおいて、本発明のペプチドは、2ハイブリッドアッセイまたは3ハイブリッドアッセイ(例、米国特許第5,283,317号;Zervosら(1993)Cell、72:223−232;Maduraら(1993);Bartelら(1993);Iwabuchiら(1993);およびSuterら(2006)を参照)における「ベイトタンパク質」として用いられることによって、本発明のペプチドと結合または相互作用する他のタンパク質を同定することができる。
【0101】
別の方法においては、本発明のペプチドが細胞抽出物とともにインキュベートされて、本発明のペプチドに結合する分子が同定される。方法の1つにおいて、本発明のペプチドはHPLCカラムなどの固体支持上に固定され、本発明のペプチドの標的分子への結合を促進する条件下で細胞抽出物が固定ペプチドに露出される。結合した分子は溶出され、質量分析法などの標準的な技術を通じて同定される。一実施形態において、この細胞抽出物は、VEGF刺激されたHUVECを含む。
【0102】
標的タンパク質のアフィニティ精製
肺癌細胞からタンパク質を溶解緩衝液(50mMのTris−HCl、pH7.4、150mMのNaCl、30μg/mlのDNアーゼ、1%のノニデットP−40、およびプロテアーゼ阻害剤(Complete tabs;Roche Molecular Biochemicals))によって4℃にて30分間抽出する。15,000×gでの20分間の遠心分離によって、タンパク質溶解物から.残屑を取除く。溶解物を最初に対照ペプチドを含有する1mlカラム上で予め清澄にし、SP5−52またはSP5−2ペプチド固定アフィニティカラムの第2の1mlカラムにフロースルーを直接添加する。カラムを洗浄して溶出する。単離されたタンパク質の純度をSDS−PAGE(8%ポリアクリルアミド)によってモニタし、銀染色によって視覚化する。所望のタンパク質バンドを、トリプシンによるインゲル(in−gel)消化のためにゲルから切出す。その結果得られるポリペプチドをさらに質量分析法によって分析する。
【実施例】
【0103】
実施例は本発明を純粋に例示することが意図され、したがっていかなる態様でも本発明を制限すると考えられるべきでなく、さらに上記において議論した本発明の詳細な局面および実施形態をも説明するものである。
【0104】
実施例1.インビボのファージディスプレイバイオパニングの手順
CL1−5、H460およびPC3を、2gの重炭酸塩、1リットル当り40mgのカナマイシン、2mMのL−グルタミン、および10%のウシ胎児血清(FCS、Gibco、CA、USA)を補ったRPMI1640中で、95%の空気および5%のCO2(v/v)の加湿された環境下で37℃にて生育した。CL1−5はChuら(Chuら、1997)によって樹立された。SAS、HCT116、BT483、MahlavuおよびPaCaを、3.7gの重炭酸塩、1リットル当り40mgのカナマイシン、2mMのL−グルタミン、5%のFCSを含有するDMEM(Gibco、CA、USA)中で生育し、10%のCO2インキュベータ中でインキュベートした。胎盤からの分離後の臍静脈からHUVECを単離して、20%のFCS、抗生物質、15μg/mlの内皮成長因子(upstate、NY、USA)を補ったM199培地(Gibco、CA、USA)中で生育し、5%のCO2インキュベータ中でインキュベートした。
【0105】
腫瘍組織から腫瘍ホーミングファージを単離するために、本発明者らはファージディスプレイペプチドライブラリを用いて、インビボ選択(バイオパニング)の5ラウンドに対してNSCLC(CL1−5)腫瘍マウスを処置した。4〜6週齢のSCIDマウスの背外側の側腹部に、CL1−5細胞を別々に皮下注射して肺癌異種移植片を生成した。サイズを合せたCL1−5由来の腫瘍(約500mm3)を有するSCIDマウスの尾静脈に、ファージディスプレイペプチドライブラリ(New England Biolabs,Inc.、MA、USA)を注射した。8分間のファージ循環後に、マウスをジエチルエーテルで処置してマウスを深い麻酔に導き、50mlのPBSを灌流させて未結合ファージを洗浄した。器官(肺、心臓、脳など)および腫瘍塊を取出して重量測定し、冷たいPBSで洗浄した。器官および腫瘍サンプルをホモジナイズし、ER2738細菌(New England BioLabs、MA、USA)によってファージ粒子を回収した。ファージを、1mg/LのIPTG/X−Galの存在下で寒天プレート上で力価測定した。ER2738培養物中で結合ファージを増幅して力価測定した。回収されたファージを、上述のとおり肺癌異種移植片を有するSCIDマウスを用いたバイオパニングの4つの連続するラウンドに供した。第5ラウンドから溶出したファージをLB/IPTG/X−Galプレート上で力価測定した。腫瘍ホーミングファージクローンの候補をランダムに選択し、細胞ELISAおよびインビボのホーミング実験によって同定した。
【0106】
選択されたファージクローンをDNA配列決定によってさらに分析した。精製ファージのDNA配列を、自動DNA配列決定装置(ABI PRISM 377、Perkin−Elmer、CA、USA)を用いてジデオキシヌクレオチド鎖終止法に従って決定した。配列決定は、pIII遺伝子配列に対応するプライマ5’−CCCTCATAGTTAGCGTAACG−3’[配列番号19]によって行なわれた。ファージディスプレイペプチド配列は、Genetics Computer Group(GCG)プログラムを用いて翻訳およびアラインメントされた。
【0107】
バイオパニングの第5ラウンドの回収率は、第1ラウンドの156倍に増加した(図1)。これらの濃縮されたファージをランダムに選択して配列決定した。GCGソフトウェアを用いて、これら9つは一致する残基のプロリン(P)を有し、4つのクローン(PC5−10、PC−53、PC−58およびPC−60)はコンセンサスアミノ酸残基のセリン(S)−プロリン(P)を有することが見出され;3つのクローン(PC5−5、PC−52およびPC−54)はコンセンサスモチーフのプロリン(P)−セリン(S)−プロリン(P)を有することが見出された(表1)。本発明者らのファージホーミング系でテストされたコンセンサスペプチドモチーフの中でも、ファージクローンPC5−52は、インビボのファージディスプレイによって、肺および口腔(IVO−2と名付けられた)腫瘍マウスの両方から選択された(表1および図2C)。2つの異なるヒト癌(肺癌および口腔癌)異種移植片から同じファージクローンが単離されたことから、PC5−52に提示されるペプチドは複数の固形腫瘍をターゲティングできることが示される。
【0108】
実施例2.異種移植片腫瘍脈管におけるインビボのホーミングおよびペプチド結合
PC5−52のターゲティング能力を調べるために、ヒト肺癌細胞由来の腫瘍を有するSCIDマウスの尾静脈にファージを注射し、灌流後に回収した。本発明者らは、腫瘍塊および他の正常な器官におけるファージの力価を定めた。ファージクローンまたは対照ヘルパーファージ(挿入なしのファージ)を、ヒト肺癌腫瘍異種移植片を有するSCIDマウスの尾静脈(i.v.)に8分間または24時間注入した。灌流後に異種移植片腫瘍および器官を取出し、回収されたファージの力価を測定した。以下に記載するペプチド競合的阻害実験においては、ファージクローンを100μgの合成ペプチドと同時注入した。候補または対照のファージクローンの注入後、器官および腫瘍を取出して2つの部分に分割した。1つの部分はER2738によって力価を測定し、別の部分はOptimal Cutting Temperature(OCT、Tissue−Tek、NL、USA)に埋め込んだ。OCTに埋め込んだ冷凍組織を5ミクロンに切断し、冷たいPBS緩衝液に移した。次いでこの切片をアセトン−メタノール(1:1)で固定し、PBSで洗浄し、ブロッキング緩衝液(PBS中の1%BSA)に1時間浸漬した。次いで、ブロックされたサンプルをラット抗マウスCD31(BD Pharmingen、MA、USA)、ウサギ抗ラットAb(Stressgen、Canada)とともにインキュベートし、ローダミン標識されたヤギ抗ウサギ抗体(Jackson ImmunoResearch、PA、USA)に浸漬した。スライドをさらにマウス抗M13 mAb(Amersham Biosciences、Uppsala、Sweden)とともにインキュベートした後、FITC標識されたヤギ抗マウス抗体(Jackson ImmunoResearch)とともにインキュベートし、Hoechst 33258(Molecular probe、OR、USA)とともに浸漬した。最後にスライドを洗浄し、封入剤(mounting medium)(Vector、CA、USA)によって封入した。
【0109】
本発明者らは、ファージの代りに、FITC標識された候補ペプチドおよび対照ペプチドも用いた。ペプチド結合アッセイにおいては、腫瘍異種移植片マウスの尾静脈からFITC標識ペプチドを注射した。灌流後、組織を取出して上述のとおりに処理した。次いでLeica Universal顕微鏡の下でスライドを調べた。画像をSimplePCI(C−IMAGING、PA、USA)ソフトウェアによってマージした。
【0110】
PC5−52は腫瘍塊におけるホーミング能力を示し、腫瘍塊においては脳、肺および心臓を含む他の器官よりも8.0倍から135倍高い濃度を示した(図2A)が、対照ヘルパーファージはこうしたホーミング能力を示さなかった(図2B)。
【0111】
PC5−52の腫瘍ホーミング能力は、リガンド競合実験によっても証明された。候補ペプチドSVSVGMKPSPRP(SP5−52)および対照ペプチド(RLLDTNRPLLPY)[配列番号20]を合成して、Invitrogene,Inc.(CA、USA)により逆相高速液体クロマトグラフィによって>95%の純度にまで精製した。同じ会社によってペプチドNH2末端にFITCまたはビオチンを付加することによって、これらのペプチドとFITCまたはビオチンとの結合を行なった。リガンド競合実験から、合成SP5−52ペプチドとPC5−52ファージ粒子との同時注入が腫瘍組織からのPC5−52の回収を阻害することが示された(図2B)。100μgのSP5−52は、NSCLC腫瘍塊へのPC5−52ホーミングの97%を阻害した。同様の結果から、IVO−2(PC5−52によって提示されるペプチドと同じアミノ酸配列を有するペプチドを提示する)も口腔癌異種移植片の腫瘍組織にホーミングすることが示された(図2C)。IVO−2は腫瘍塊におけるホーミング能力を示し、腫瘍においては脳、肺および心臓を含む他の器官よりも12倍から121倍高い濃度を示した(図2C)。IVO−2の腫瘍ホーミング能力はSP5−52によって阻害できた。100μgのSP5−52の同時注入は、口腔癌異種移植片へのIVO−2ホーミングの95.9%を阻害した(図2D)。対照ペプチドは腫瘍組織へのIVO−2ホーミングを阻害できなかった(図2D)。PC5−52を24時間注入した後に、ファージが腫瘍組織中に対照組織よりも10倍多く蓄積したことも本発明者らは見出した。
【0112】
実施例3.PC5−52およびSP5−52の局在化
PC5−52のホーミング特異性を調べるために、本発明者らは免疫蛍光アッセイを用いて、灌流後のファージの結合活性を局在化した。上述のとおりにヒト肺腺癌冷凍切片を調製した。スライドをブロッキング緩衝液中で30分間インキュベートし、次いでメタノール中の3%の過酸化水素と0.1%のNaN3とで処理して内因性のペルオキシダーゼ活性を遮断し、ビオチン標識したペプチドとともにインキュベートした。スライドを慣用的な免疫組織化学染色に供した。
【0113】
その結果、ファージ粒子は肺癌の異種移植片腫瘍切片とは反応するが、正常な肺組織とは反応しないことが示された(図3A)。しかし、ファージは癌細胞に局在化しなかった。腫瘍塊はパネル(a)に示され、正常な肺はパネル(c)に示される。パネル(b)および(d)はH33258によって核DNAを対比染色したものであり、それぞれパネル(a)および(c)に対応する。抗M13 mAb(緑)およびマウス内皮細胞マーカCD31(赤)とともにインキュベートされた腫瘍組織からの冷凍切片を用いたとき、異種移植片腫瘍組織の腫瘍血管系においてPC5−52がCD31と共存することを本発明者らは見出した(図3B)。正常な心臓(図3B)、肺および脳の脈管にはファージは見出されなかった。ファージ注射後の腫瘍血管系内皮における抗ファージ免疫蛍光と抗CD31との共存は、パネル(i−k)に示される。対照ファージは腫瘍脈管に結合できない(a)のに対し、PC5−52は正常な心臓を認識できない(e)。抗CD31は心臓脈管(fおよびg)ならびに異種移植片腫瘍脈管(b、c、jおよびk)において示される。核染色は(d、hおよびl)に示される。
【0114】
腫瘍血管系へのファージディスプレイペプチドホーミングをさらに調べるために、本発明者らはPC5−52ファージの代わりにFITC標識されたSP5−52ペプチドを用いてペプチドホーミング研究を行なった。FITC標識されたSP5−52ペプチドも、肺癌異種移植片の腫瘍血管系においてマウスCD31マーカと共存することを本発明者らは見出した(図3Cのi−l)。このペプチドは心臓脈管と反応しなかった(図3Cのe−h)。FITC標識された対照ペプチドは腫瘍血管系を認識できなかった(図3Cのa−d)。ローダミン−抗CD31は、ヒト肺癌異種移植片(bおよびj)ならびに正常な心臓(f)において示される。H33253による核染色は(d、hおよびl)に示される。(バー、20μm)。
【0115】
実施例4.複数の癌異種移植片へのPC5−52の結合、およびPSPモチーフの調査
本発明者らは、インビボのファージディスプレイによって、肺癌および口腔癌の異種移植片から腫瘍ホーミングファージPC5−52を単離した。これらの結果は、SP5−52の標的が固形腫瘍の血管系において発現されている可能性があることを示すものである。この仮説を検証するために、本発明者らは、ヒト肺癌(H460)、結腸癌(HCT116)、乳癌(BT483)、前立腺癌(PC3)、肝癌(Mahlavu)および膵癌(PaCa)の異種移植片を含む、ヒト癌の別の6つの異なるタイプにおけるPC5−52のホーミング能力を調べた。SCIDマウスにPC5−52を静脈内注射した。8分後に、PBS緩衝液による灌流によって遊離ファージを洗い出し、異種移植片腫瘍塊を取出してファージ力価を定めた。これらのヒト癌異種移植片のすべてにおいて、PC5−52は腫瘍組織をターゲティングしたが、脳、肺および心臓などの正常な器官はターゲティングしなかった(図4)。このターゲティングリガンドを有さない対照ファージにはこうしたホーミング能力はなかった。
【0116】
インビボのファージディスプレイより、3つのクローン(PC5−5、PC5−52およびPC5−54)によって提示されるペプチドがコンセンサスモチーフのプロリン(P)−セリン(S)−プロリン(P)を有することを本発明者らは見出した(表1)。これら3つのアミノ酸残基は腫瘍組織へのホーミングにおける役割を有するのではないかと本発明者らは提案した。この仮説を検証するために、本発明者らはSP5−52(SVSVGMKPSPRP)中のこれら3つのアミノ酸残基を、変異ペプチドMP5−52(SVSVGMKGGGRP)(配列番号20)においてGGGに変えた。インビボのホーミングアッセイにおいて、腫瘍ホーミングファージPC5−52はCL1−5由来の腫瘍にターゲティングできた(図4B)。PC5−52の腫瘍ホーミング能力は、SP5−52によって顕著に阻害されたが、MP5−52の変異ペプチドには阻害されなかった(図4B)。
【0117】
実施例5.PC5−52は刺激されたHUVECと反応し、SP5−52はヒト肺癌生検試料に結合する
このファージがヒトの新生血管系内皮に対する親和性を有するかどうかをさらに確認するために、本発明者らはVEGF刺激されたヒト脈管内皮細胞(HUVEC)にPC5−52ファージ粒子を適用した。HUVECをカバーガラス上に蒔いて、約80%集密になるまで生育した。細胞をVEGF(B&D Systems、MN、USA)およびbFGF(PEPROTECH、Landon、UK)で48時間前処理した。VEGF刺激されたHUVECを無血清M199で洗浄し、ブロッキング緩衝液(無血清M199に3%のBSAを加えたもの)の中で4℃にて30分間インキュベートした。次いでカバーガラスをファージとともに4℃にて1時間インキュベートし、洗浄して、3%のホルムアルデヒドで10分間固定した。次いでカバーガラスをマウス抗M13 mAb(Amersham Biosciences)とともに1時間インキュベートした後に、FITC標識した抗マウス抗体(Jackson ImmunoResearch)とともにインキュベートし、次いでHoechst 33258とともに浸漬した。最後にカバーガラスを洗浄し、封入剤によって封入した。
【0118】
その結果、PC5−52はVEGF刺激されたHUVECに結合することが明らかになった(図5Aのa)。VEGF刺激なしのHUVECにおいては、PC5−52の結合は観察されなかった(図5Aのb)。このペプチドを有さない対照ファージは結合活性を示さなかった(図5Aのc)。さらに、ビオチン標識されたSP5−52ペプチドは、ヒト肺癌生検試料の腫瘍脈管に結合できたが、対照の肺の非腫瘍脈管には結合できなかった(図5B)。これらのデータから、SP5−52はヒト血管新生内皮細胞および腫瘍新生血管系における未知の受容体を認識したことが示される。
【0119】
ファージの腫瘍脈管への結合が提示ペプチドに媒介されたものかどうかを定めるために、HUVEC結合研究におけるファージの代わりにFITC標識したペプチドを用いる。カバーガラス上のHUVECを、FITC標識したペプチドまたは対照ペプチドとともに2時間インキュベートする。次いでカバーガラスを洗浄してHoechst 33258とともに浸漬し、次いで洗浄して封入剤によって封入し、Leica Universal顕微鏡の下で調べる。
【0120】
実施例6.ドキソルビシンを含有するリポソーム−ペプチドの調製および動物モデルの処置
腫瘍脈管ホーミングペプチドのSP5−52を用いて癌化学療法の治療効果を改善できるかどうかを定めるために、本発明者らはドキソルビシンを含有するリポソームにSP5−52を結合し(SP5−52−Lipo−Dox)、異種移植片を有するマウスをこのリポソームで処置した。
【0121】
ドキソルビシンを含有するリポソームの調製の手順は、過去の報告(Leeら、2004;Tsengら、1999)において公開される方法から適合した。簡単に述べると、L−ペプチドをNHS−PEG−DSPE[N−ヒドロキシスクシニミド−カルボキシル−ポリエチレングリコール(N−hydroxysuccinimido−carboxyl−polyethylene glycol)(PEG;平均分子量、3000)由来のジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(distearoylphosphatidylethanolamine)(NOF Corporation、Tokyo、Japan)]に1:1.5のモル比で結合した。この結合は、ペプチジル−PEG−DSPEを生成するためのペプチドのN末端の固有な遊離アミン基を用いて行なった。この反応は完了し、残りのアミノ基の定量化によって確認された。アミノ基はTNBS(トリニトロベンゼンスルホネート(Trinitrobenzenesulfonate))試薬によって測定された(AFSA、1966)。
【0122】
DSPC(ジステアロイルホスファチジルコリン(distearoylphosphatidylcholine))、コレステロール、PEG−DSPEからなるリポソームを硫酸アンモニウム溶液(250mM(NH4)2SO4、pH=5.0、530mOs)中で55℃にて水和し、60℃にて高圧押出し装置(Lipex Biomembranes、Vancouver、BC、Canada)を用いて0.1μmおよび0.05μmのポアサイズのポリカーボネート膜フィルタ(Costar、Cambridge、MA、USA)から押出した;ドキソルビシンを、10μmolのリン脂質当り1mgのドキソルビシンの濃度で、遠隔負荷法によってリポソームに封入した。リン酸塩アッセイによってリポソームの最終濃度を定めた。0.2mlの希釈薬物負荷リポソームに1mlの酸性イソプロパノール(81mMのHCl)を加えた後、励起波長として470nmを用い、放出波長として582nmを用いる分光蛍光光度計(Hitachi F−4500、Hitachi,Ltd、Tokyo、Japan)によって、リポソームの内側に閉じ込められたドキソルビシンの量を定めた。サブミクロン粒子分析計(モデルN4プラス;Coulter Electronics、Hialeah、FL、USA)による動的レーザ散乱によって、小胞サイズを測定した。調製後のリポソームは、リン脂質1μmol当り110μgから130μgのドキソルビシンを含有し、直径65nmから75nmの範囲の粒子サイズを有した。比較のために、同じ方法を用いてNHS−PEG−DSPEに対照ペプチドを結合したものを調製した。脂質二重層の遷移温度を超える温度でともにインキュベートした後に、ペプチジル−PEG−DSPEを予め形成されたリポソームに移した(Zalipskyら、1997)。以前に記載されたとおりに算出したところ(Kirpotinら、1997)、リポソーム当り300〜500個のペプチド分子があった。
【0123】
ヒト肺癌(CL1−5)および口腔癌(SAS)異種移植片をSCIDマウス中で確立した。4〜6週令のマウスの背外側の側腹部に、ヒト癌細胞を皮下注射した。サイズを合せた腫瘍(腫瘍サイズ約100mm3)を有するマウスを異なる処置群にランダムに割当てて、尾静脈を通じて、複数用量(1mg/kg、週2回)のSP5−52−Lipo−DoxおよびLipo−Doxによって処置した。対照群には、PBSをSP5−52−Lipo−Doxと同じ体積およびスケジュールで静脈内投与した。マウスの体重および腫瘍サイズをノギスで週2回測定した。腫瘍体積は次の式を用いて算出した:体積=長さ×(幅)2×0.52。平均腫瘍体積の差をANOVAによって評価した。
【0124】
CL1−5由来の腫瘍(腫瘍サイズ約100mm3)を有するSCIDマウスをランダムに3つの群に分けて、静脈を通じて、合計ドキソルビシン用量が7mg/kg(1mg/kg、週2回)のSP5−52−Lipo−Dox、Lipo−DoxまたはPBSで処置した。SP5−52ペプチド−Lipo−Doxで処置したマウスは、Lipo−DoxおよびPBSで処置した場合よりも有意に小さい腫瘍サイズを示した(P<0.01)(図6A)。Lipo−Dox群のマウスの腫瘍サイズは徐々に増加して、day28までにSP5−52−Lipo−Dox群よりも1.9倍大きくなった。対照PBS群のマウスの腫瘍サイズは、SP5−52−Lipo−Dox群よりも4.1倍大きかった。ターゲティングリポソームの治療効果をさらに特徴付けるために、本発明者らはSP5−52−Lipo−Dox、Lipo−DoxまたはPBSによって別々に処置した後の動物の生存率を比較した。day81に実験を終了したとき、PBSおよびLipo−Dox処置の群ではすべての動物(n=6)が死亡し(生存率0%)、SP5−52−Lipo−Dox処置の群では2匹の動物のみが死亡した(生存率66.7%)(図6B)。SP5−52−Lipo−Dox処置マウスにおいては腫瘍脈管が顕著に減少し損傷していることも本発明者らは見出した(図6C)。
【0125】
SP5−52が口腔癌に対する治療効果を増加できるかどうかをテストするために、本発明者らは動物モデルにおけるこの癌に対するリガンド標的療法も開発した。ターゲティングリポソームで処置したSAS由来口腔癌を有するSCIDマウスにおいても同様の結果が見出された。SP5−52−Lipo−Dox、Lipo−DoxまたはPBSによる処置を、合計ドキソルビシン用量が7mg/kg(7回、1mg/kg、週2回)で静脈内投与した。SP5−52ペプチド−Lipo−Doxで処置したマウスは、Lipo−DoxおよびPBSで処置したマウスよりも有意に小さい腫瘍サイズを示した(P<0.05)(図6D)。Lipo−Dox群のマウスの腫瘍サイズは徐々に増加して、day24.5にはSP5−52−Lipo−Dox群よりも3.6倍大きくなった。対照PBS群のマウスの腫瘍サイズは、SP5−52−Lipo−Dox群よりも7.1倍大きいことが見出された(図6D)。さらに、day60に実験を終了したとき、PBS処置の群ではすべての動物(n=6)が死亡し(生存率0%)、Lipo−Dox処置の群では4匹の動物が死亡した(生存率33.3%)のに対し、SP5−52−Lipo−Dox処置群はすべてが生存した(生存率100%)(図6E)。本発明者らはこの実験を再び繰り返し、その結果、SP5−52−Lipo−DoxはLipo−Doxよりも口腔癌異種移植片の処置に効果的であることがさらに確認された。Lipo−Doxで処置したマウスの腫瘍サイズは徐々に増加して、SP5−52−Lipo−Dox群よりも3.2倍大きくなった。対照PBSで処置したマウスの腫瘍サイズは、SP5−52−Lipo−Dox群よりも5.9倍大きいことが見出された。これらの結果から、Lipo−DoxをターゲティングリガンドSP5−52に結合することによって、SCIDマウスにおけるヒト肺癌および口腔癌異種移植片を含む固形腫瘍異種移植片を阻害する薬物の能力が高められることが示される。
【0126】
表1.肺癌異種移植片から選択されたファージディスプレイペプチド配列のアラインメント
【0127】
【表1】
【0128】
aファージディスプレイされるコンセンサスアミノ酸配列を太字体で示す。
【技術分野】
【0001】
この出願は、2007年2月13日に出願された米国仮出願第60/900,980号および2007年2月14日に出願された米国仮出願第60/901,086号ならびに2007年4月13日に出願された米国特許出願第11/783,926号(これらは全て、それらの全体が参考として援用される)への優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍発達の間に、腫瘍細胞は老廃物を除去するためにより多くの酸素および代謝産物を必要とする。加えて、宿主脈管系への接近および腫瘍血液供給の生成は、腫瘍発達にとっての律速段階である(Bergersら、2003)。同様に、加齢性黄斑変性などの疾患は、新たな血管の生成を伴う。(Ngら、2006)。よって、腫瘍血管は腫瘍成長を阻害するための主要な標的であり、加齢性黄斑変性に伴う血管はこの疾患を阻害するための好適な標的である。腫瘍血管は、正常な組織の血管に存在しない特異的マーカを発現する。これらの特異的マーカの多くは、腫瘍が誘導する血管新生、すなわち新たな血管の発芽に関連するタンパク質である(Ruoslahti、2002)。細胞接着受容体のインテグリンαvβ3およびαvβ5は、腫瘍血管系中で過剰発現する(EliceiriおよびCheresh、1999)。確かに、腫瘍ホーミングまたはターゲティングに対するインビボのファージディスプレイによって同定されたRGDペプチドの1つはαvβ3を認識する(Pasqualiniら、1997)。これらのインテグリンに対して特異的なペプチドは、抗癌剤および抗血管新生剤のターゲティングによる送達のためのリガンドとして使用されてきた(Arapら、1998)。血管系の不均一性は、ターゲティングによる治療法の送達に対する新たな機会を与えるかもしれない。
【0003】
従来の化学療法は、その正常な組織に対する毒性によって制限される。もし化学療法薬物を腫瘍部位または腫瘍脈管に直接結合させて正常な組織から離すことができれば、治療結果は大きく改善されるだろう。大部分の小分子化学療法薬剤は、静脈内(intravenous:i.v.)投与における大量の分配を有する(Spethら、1988)。この分配によって、正常な組織への高レベルの毒性のために治療指数がしばしば小さくなる。薬物をリポソームなどの高分子担体に封入することによって、分配の体積が顕著に低減され、腫瘍における薬物の濃度が増加する(Drummondら、1999)。封入によって、非特異的毒性の重篤度およびタイプを減少でき、腫瘍部位に有効に送達される薬物の量を増加できる(GabizonおよびMartin、1997;Martin、1998;Papahadjopoulosら、1991)。腫瘍ターゲティングリガンドを用いて、リポソームなどの高分子担体を腫瘍部位にターゲティングできる。代替的には、薬物を腫瘍ターゲティングリガンドに結合または連結させることによって、薬物の腫瘍へのターゲティングを促進できる。
【0004】
リポソームは、癌化学療法における薬物担体として提案された(Gregoriadisら、1974)。そのとき以来、リポソームに対する関心は増加し、リポソーム系は現在薬物担体として広範囲に研究されている。薬物を特異的に送達するのに使用するために、リポソームには以下の3つの基本的要求が望まれる:(i)血液循環を長くすること、(ii)腫瘍または他の標的組織における十分な蓄積、(iii)薬物の薬力学に適合する放出プロファイルを有しながら、制御された薬物放出および腫瘍細胞または他の標的組織による取込みが行なわれること。
【0005】
最初、リポソーム薬物送達系の研究は、細網内皮系(reticuloendothelial system:RES)による非常に速い血液クリアランスに苦しめられた。粒子サイズ、表面電荷(Weinstein、1984)、およびリポソーム組成物は、クリアランスプロファイルに対する影響が強い(例、ホスファチジルイノシトールまたはモノシアロガングリオシドの組込みによって、血液中のリポソーム循環が長くなる)ことが確認された(AllenおよびChonn、1987;GabizonおよびPapahadjopoulos、1988;Senior、1987)。漏出性毛細血管を介して優先的に循環から出て、広範囲の新血管新生を示す腫瘍に蓄積してより高濃度となり、効能を高めると予測される「ステルス」リポソームによって、この取込みは回避され得る(Wuら、1993)。
【0006】
しかし、合成ポリマーポリエチレングリコール(polyethyleneglycol:PEG)で被覆されたリポソームが血中の半減期を有意に増加させることが発見されたときには、リポソームは単に良好な薬物送達候補としてのみ認識されていた(Allenら、1991;BlumeおよびCevc、1990;Klibanovら、1990;Papahadjopoulosら、1991;Seniorら、1991)。このペグ化リポソームは、リポソームのタンパク質吸着およびオプソニン作用を阻害する高度に水和し保護されたリポソーム表面のために、長く循環する(WoodleおよびLasic、1992)。速いオプソニン作用およびクリアランスの問題を解決して、血中で最大72時間の半減期を有するリポソームを提供する(Drummondら、1999)と、次の挑戦事項は能動的ターゲティングによって腫瘍組織または他の疾患組織内にリポソームを蓄積させることだった。
【0007】
ターゲティングリポソームの使用によって、腫瘍標的部位における薬物放出を有意に高め、治療効果を増加できる可能性があり得る(非特許文献1;非特許文献2)。薬物送達研究分野では、腫瘍組織内で蓄積する長く循環するリポソームの構築に成功しており、閉じ込められた薬物は、能動的なトリガが存在しない限り、次いで受動拡散によってリポソームの外に漏出する。疾患組織に特異的に薬物を放出できる部位特異的トリガの使用は、腫瘍標的部位における薬物の生物学的利用率を増加させる方法の1つである。薬物の生物学的利用率を最適化する別の方法は、能動的ターゲティングによってより高程度のリポソーム蓄積を得ることである。さらに、能動的ターゲティングと能動的トリガとの組合せによって、腫瘍標的部位における有意に高められた特異的な薬物放出をもたらし得る可能性がある(非特許文献1;非特許文献2)。
【0008】
ヒトの癌の90%より多くを含む固形悪性腫瘍に対しては、免疫結合体が腫瘍組織に侵入できないため、腫瘍特異的な抗原を認識する抗体が薬物送達に与える有用性はほとんどなかった(Dvorakら、1991;Shockleyら、1991)。しかし、過去10年間のファージディスプレイペプチドライブラリの発達は、抗体よりも有効な小さいペプチドを同定する機会をもたらした。
【0009】
ファージディスプレイのランダムペプチドライブラリは、B細胞エピトープ(D’Melloら、1997;Fuら、1997;ScottおよびSmith、1990;Wuら、2001;Wuら、2003)およびタンパク質−タンパク質接触(Atwellら、1997;Bottgerら、1996;Nordら、1997;Smithら、1999)をマッピングする機会、受容体(Koivunenら、1999;Liら、1995;Wrightonら、1996)またはタンパク質(Bottgerら、1996;Castanoら、1995;DeLeoら、1995;Kraftら、1999;Pasqualiniら、1995)に結合する生理活性ペプチドを選択する機会、疾患特異的な抗原模倣(Folgoriら、1994;Liuら、2004;Prezziら、1996)を探索する機会、ならびに細胞特異的ペプチド(Barryら、1996;Leeら、2004;Mazzucchelliら、1999)および器官特異的ペプチド(Arapら、1998;EsslerおよびRuoslahti、2002;Pasqualiniら、1995;PasqualiniおよびRuoslahti、1996)を定める機会を与える。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Leeら、Cancer Res(2004)64,8002〜8008
【非特許文献2】Parkら、Clin Cancer Res(2002)8,1172−1181
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、特定の標的組織に対してファージディスプレイライブラリをスクリーニングすることは、薬物、遺伝子送達ベクターまたはその他の治療薬剤のターゲティングに用いられるペプチド配列の同定における直接的かつ迅速な方法となる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明はとりわけ、以下のものを単独または組合せて含む。
【0013】
本発明は、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15および配列番号17を含むポリヌクレオチドおよびその変異体を提供する。
【0014】
本発明は、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16および配列番号18を含むペプチドおよびその変異体を提供する。一実施形態において、ペプチドは配列番号2またはその変異体である。別の実施形態において、ペプチドは配列番号2である。別の実施形態において、ペプチドは融合タンパク質を含む。別の実施形態において、ペプチドは1つまたはそれ以上の標識を含む。別の実施形態において、ペプチドは1つまたはそれ以上の薬物に結合される。ペプチドに結合され得る薬物はドキソルビシン、ビノレルビン、オリゴヌクレオチド、毒素、抗VEGFアプタマー、および放射性分子を含んでもよい。
【0015】
本発明は、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16および配列番号18からなる群より選択される本発明のペプチドまたはその変異体に結合する抗体を提供する。
【0016】
本発明は、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16および配列番号18からなる群より選択される少なくとも1つのペプチドを含むリポソームを提供する。一実施形態において、リポソームは配列番号2またはその変異体を含む。別の実施形態において、リポソームは配列番号2を含む。リポソームは、ドキソルビシン、ビノレルビン、オリゴヌクレオチド、毒素、抗VEGFアプタマー、および放射性分子からなる群より選択される1つまたはそれ以上の薬物を含んでもよい。一実施形態において、使用され得る薬物のうちの1つは、リン脂質1μmol当り約110μgから約130μgの量であり得るドキソルビシンである。ある実施形態において、リポソームは約65nmから約75nmの直径を有する。別の実施形態において、リポソーム当りのペプチド分子の数は約300から約500である。リポソームは医薬的に許容できる担体を含んでもよい。
【0017】
本発明は、処置を必要とする対象に本発明のペプチドを投与する工程を含む、疾患を処置する方法を提供し、前記ペプチドは薬物に結合される。ペプチドに結合され得る薬物は、ドキソルビシン、ビノレルビン、オリゴヌクレオチド、毒素、抗VEGFアプタマー、および放射性分子を含む。
【0018】
本発明は、1つまたはそれ以上の薬物と、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、および配列番号18からなる群より選択されるより多くもしくはそれ以上のペプチド、またはその変異体とを含むリポソームを対象に接触させる工程を含む、疾患を処置する方法を提供する。この方法は、1つまたはそれ以上の薬物と、配列番号2またはその変異体とを含むリポソームを対象に接触させる工程を含んでもよい。リポソームは1つまたはそれ以上の化学療法薬物を含んでもよい。治療薬物はドキソルビシンであってもよい。この方法は癌を処置するために用いられてもよく、癌は、肺癌、結腸癌、乳癌、前立腺癌、肝癌、膵癌、および口腔癌からなる群より選択される癌を含んでもよい。実施形態の1つにおいて、癌は肺癌である。別の実施形態において、癌は口腔癌である。この方法は、加齢性黄斑変性を処置するために用いられてもよい。
【0019】
本発明は新生血管系を検出する方法を提供し、この方法は、ペプチドが新生血管系に結合できる条件下で、試料を本発明のペプチドに接触させる工程と、そのペプチドを検出する工程とを含む。ペプチドは、そのペプチドに対する抗体によって検出されてもよい。ペプチドはエピトープを含む融合タンパク質を含んでもよく、この融合タンパク質はエピトープに対する抗体によって検出される。ペプチドは標識を含んでもよく、このペプチドの標識を検出することによってペプチドが検出される。実施形態の1つにおいて、標識はFITCを含む。別の実施形態において、標識はビオチンを含む。
【0020】
本発明は、本発明のペプチドに結合する生体分子を同定する方法を提供し、この方法は、ペプチドとリガンドとを含む複合体を形成できる条件下で本発明のペプチドを細胞抽出物に接触させる工程と、その複合体を分析してリガンドを同定する工程とを含む。
【0021】
本発明は、ストリンジェントな条件下で請求項1に記載のポリヌクレオチドの相補体(complement)にハイブリダイズするポリヌクレオチドを提供する。
【0022】
本発明は、請求項1に記載のポリヌクレオチドを含むベクター、およびそのベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0023】
本発明は、ストリンジェントな条件下で請求項1に記載のポリヌクレオチドの相補体にハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるペプチドを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】インビボのファージディスプレイによる、肺癌ターゲティングファージの選択を示す図である。
【図2A】腫瘍ホーミングファージの特異性を示す図である。
【図2B】腫瘍ホーミングファージの特異性を示す図である。
【図2C】腫瘍ホーミングファージの特異性を示す図である。
【図2D】腫瘍ホーミングファージの特異性を示す図である。
【図3】(A)ヒト肺への静脈内注射後のPC5−52ファージの免疫蛍光局在化を示す図である。(B)肺癌異種移植片の腫瘍脈管へのファージ結合の調査を示す図である。(C)FITC標識されたSP5−52ペプチドと肺癌異種移植片の腫瘍脈管との結合を示す図である。
【図4A】異なるヒト癌異種移植片を有するSCIDマウスからの腫瘍ターゲティングファージPC5−52の回収を示す図である。
【図4B】異なるヒト癌異種移植片を有するSCIDマウスからの腫瘍ターゲティングファージPC5−52の回収を示す図である。
【図5】(A)ターゲティングファージがVEGF刺激されたHUVECと反応することを示す図である。(B)肺腺癌試料におけるビオチン標識されたSP5−52ペプチドの免疫組織化学的局在化を示す図である。
【図6A】ヒト肺癌異種移植片を有するSCIDマウスのSP5−52−Lipo−Doxによる処置を示す図である。
【図6B】SP5−52−Lipo−Doxで処置されたヒト肺癌異種移植片を有するSCIDマウスの生存曲線を示す図である。
【図6C】SP5−52−Lipo−Doxで処置されたマウスにおける腫瘍脈管の減少および損傷を示す図である。
【図6D】口腔癌異種移植片を有するSCIDマウスのSP5−52−Lipo−Doxによる処置を示す図である。
【図6E】SP5−52−Lipo−Doxによる口腔癌異種移植片を有するSCIDマウスの生存曲線を示す図である。
【図7】さまざまなヒト癌の異種移植片を有するSCIDマウスのSP5−52−Lipo−Doxによる処置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
表の簡単な説明
表1は、肺癌異種移植片から選択されたファージからのファージディスプレイペプチド配列を提供する。
【0026】
癌の化学療法のほとんどは、強力な副作用および薬剤耐性の獲得を伴う。したがって当該技術分野においては、薬物を腫瘍脈管上だけでなく腫瘍細胞上の標的部位にも送達する薬物送達系が必要とされている。いくつかの試みの中には、腫瘍組織に対する1本鎖Fv(single−chain Fv:scFv)抗体(Parkら、2002)およびターゲティングペプチド(Leeら、2004)の使用が含まれる。最近、脈管ターゲティングが注目を集めている。なぜなら、特定の薬物または薬物担体は腫瘍の血管外遊出よりも前にまず血管系に出会うためである(Okuら、2002)。その概念は、血管新生が腫瘍形成の際の拡張に必要な工程だということである。同様に、血管新生は加齢性黄斑変性などの疾患を伴う。(Ngら、2006)。腫瘍血管系は正常な血管系とは異なる固有なマーカを発現する(Hoffmanら、2003)ため、これらのマーカに基づくターゲティングは癌処置に対する有望な戦略である。これらの抗血管新生療法は、効果が高く毒性が低い見込みがある。さらに、ターゲティングリガンドの親和性に基づく化学療法薬物の腫瘍組織への送達は、高い腫瘍間質液圧および薬物耐性に起因する癌治療法の障害を克服するものである。開示されるペプチドはリガンド標的療法に用いることができ、したがってこのペプチドは従来の抗癌薬よりも治療効果を改善する新たな処置に対する基礎を提供する。
【0027】
インビボのファージディスプレイを用いて、腫瘍血管に特異的にホーミングするペプチドを同定した。表1。この出願において、「ホーミングする(home)」、「ホーミング(homing)」、「標的(target)」および「ターゲティング(targeting)」という用語は相互交換可能に用いられる。SP5−52という1つのペプチド、SVSVGMKPSPRP[配列番号2]のさらなる研究から、彼のペプチドは、ヒト腫瘍を有するSCIDマウスにおける腫瘍の血管系は認識するが正常な血管は認識しないことが明らかになった。SP5−52は、動物モデルにおける複数の腫瘍からの異種移植片の腫瘍脈管だけでなく、VEGF刺激されたヒト脈管内皮細胞(human vascular endothelial cell:HUVEC)およびヒト肺癌からの血管にも特異的に結合できることが発見された。加えて、SP5−52ペプチドに結合された、ドキソルビシン(doxorubicin)を有するリポソーム(SP5−52−Lipo−Dox)は、SCIDマウスにおけるヒト癌異種移植片に対する薬物の効果を高めた。これらの研究から、SP5−52ペプチドは複数の腫瘍の血管系に特異的に結合できて、固形腫瘍を標的とする薬物送達に対する良い候補であることが示される。SP5−52およびその他のペプチドは、腫瘍血管系のターゲティングに有用である。
【0028】
本発明者らの研究において、インビボのバイオパニングの第5ラウンドからのファージは、肺癌異種移植片との結合活性が最初のファージライブラリのものより156倍高かった(図1)。特定のファージクローンは、プロリン−セリン−プロリン(PSP)というコンセンサスペプチドモチーフを提示した(表1)。別個のインビボファージディスプレイ実験において、本発明者らはIVO−2と名付けられたファージクローンを同定し、これは口腔癌異種移植片の腫瘍組織にホーミングした。IVO−2もPC5−52と同じアミノ酸配列を提示することを本発明者らは定めた。
【0029】
インビボのホーミング実験から、PC5−52は肺癌および口腔癌の異種移植片からの腫瘍組織の脈管には特異的に結合できるが、他の正常な器官、たとえば肺、心臓および脳などには結合できないことが示された(図2および図3)。ペプチド競合的阻害アッセイが行なわれたとき、PC5−52と腫瘍組織との結合活性は、合成ペプチドSP5−52によって阻害された(図2Bおよび図2D)。これらの結果は、この合成ペプチドがそれぞれのファージクローンと同じ結合部位に結合することを示唆する。
【0030】
腫瘍塊および正常な器官におけるホーミングファージの局在化を調べるために、肺癌のSCIDマウスにPC5−52を静脈内注射し、次いでこれらのマウスからの冷凍切片を、抗マウスCD31および抗M13 mAbを用いた二重局在化に供した。その結果、CD31およびファージ粒子はほとんどの異種移植片脈管内皮に共存しており、腫瘍細胞およびその他の正常な器官においては稀であることが明らかになった(図3)。これらの結果から、PC5−52は腫瘍血管系の内皮細胞を特異的にターゲティングできるが、腫瘍細胞または正常な器官の血管はターゲティングできないことが示された。
【0031】
本発明者らは調査を拡大して、PC5−52が他のヒト腫瘍細胞、たとえばヒト肺癌(H460)、結腸癌(HCT116)、乳癌(BT483)、前立腺癌(PC3)、肝癌(Mahlavu)および膵癌(PaCa)細胞などに由来する異種移植片の血管系にも結合できるのかどうかを調べた。その結果、異なる癌細胞系からのこれらの異種移植片腫瘍組織は、正常な器官よりもPC5−52のタイターが高い(正常な器官に比べて10倍より多い)ことが示された(図4)。これらのデータから、PC5−52は8つの異なるタイプのヒト癌異種移植片からの腫瘍組織に対して、より高い結合親和性を有することが示される。この現象は、固形腫瘍の血管系が、SP5−52ペプチドによって認識され得る未知の普遍的受容体を発現している可能性を示唆するものである。PC5−52ファージおよびFITC標識されたSP5−52ペプチドはどちらも異種移植片における腫瘍脈管内皮には特異的に結合できたが、正常な血管には結合できなかったという本発明者らの実証(図3)は、この可能性をさらに支持する。
【0032】
コンセンサスモチーフであるプロリン(P)−セリン(S)−プロリン(P)は、表1に示される3つのクローンPC5−5、PC−52およびPC−54の提示ペプチドに存在し、このコンセンサスモチーフの役割を調べるために、本発明者らはSP5−52(SVSVGMKPSPRP)中のこれら3つのアミノ酸残基を、変異ペプチドMP5−52(SVSVGMKGGGRP)[配列番号20]においてGGGに変えた。図4Bに示されるとおり、PC5−52の腫瘍ホーミング能力はSP5−52によって顕著に阻害されたが、変異ペプチドMP5−52には阻害されなかった(図4B)。
【0033】
ヒトの癌治療法に対するSP5−52の適用可能性を評価するために、本発明者らは、ネズミ血管新生モデルにおいて選択されたペプチドがヒト腫瘍の血管系内皮に対する結合親和性を有するかどうかを調べた。本発明者らは、このペプチドがVEGF刺激された内皮細胞およびヒト肺癌生検試料に特異的に結合できることを確認した(図5)。本発明者らの結果から、ヒト肺癌または他の癌に対するリガンド標的療法の開発に対するターゲティングリガンドとしてSP5−52を用いることができることが示される。
【0034】
本発明者らはSP5−52に結合したリポソームを調製して、SP5−52およびドキソルビシンを含むリポソーム、すなわちSP5−52−Lipo−Doxと、ドキソルビシンを含むリポソーム、すなわちLipo−Doxとが腫瘍成長に与える影響を比較した。その結果、SP5−52−Lipo−Doxはヒトの肺癌および口腔癌異種移植片の両方に対する薬物の効果を高めることが明らかになった(図6Aおよび図6D)。さらに、このターゲティングリポソームはこれら2つのヒト癌動物モデルの生存率をも有意に増加した(図6Bおよび図6E)。SP5−52−Lipo−Dox処置によって、腫瘍血管系は破壊されて顕著に減少した(図6C)。
【0035】
SP5−52−Lipo−Doxが他の固形腫瘍に対する治療効果も高めることができるかどうかを調べるために、本発明者らは、ヒト肺癌(H460)、結腸癌(HCT116)、乳癌(BT483)、肝癌(Mahlavu)および膵癌(PaCa)を含む5タイプのヒト癌からの異種移植片を有するマウスを処置した。興味深いことに、ターゲティングリポソームSP5−52−Lipo−Doxは、これら5つのヒト癌に対する治療効果の増加を示した(図7)。これらの結果から、Lipo−DoxをペプチドSP5−52に結合させることによって、薬物がヒト固形腫瘍異種移植片を阻害する能力が高められることが示された。
【0036】
よって、本明細書に記載されるものを含むこれらの新たなターゲティング戦略は、癌処置を顕著に改善する可能性を有する。
【0037】
腫瘍血管系は、一般的に安定で薬物耐性をほとんどまたはまったく誘導しない非悪性の内皮細胞からなっているために、癌治療法に対する特に好適な標的である(Boehmら、1997)。加えて、これらの細胞は薬物にもっと接近でき、固有の増幅機構を有する。1個の内皮細胞の除去によって100個の腫瘍細胞の生育を阻害できると見積もられている(BurrowsおよびThorpe、1994;Denekamp、1993)。本発明者らの結果から、SP5−52−Lipo−Dox処置によって、腫瘍血管系は破壊されて顕著に減少することが証明された(図6C)。これらのデータは、このターゲティングリポソームが異種移植片動物モデルにおける化学療法の効果を改善することを明らかに示すものである。この効果は、ターゲティングリポソームが腫瘍組織内に蓄積することによるものかもしれない。固形腫瘍の腫瘍間質液圧(interstitial fluid pressure:IFP)が高いことは、効率的な薬物送達にとって障壁である(Heldinら、2004)。IFPが増加すると、腫瘍内の経毛細管輸送が減少するために薬物の吸収が減少し、その結果治療法が最終的に失敗となる。これらの現象には、薬剤耐性および転移性疾患の発達が伴う(Boucherら、1990;Boucherら、1991;Gutmannら、1992;Heldinら、2004;Lessら、1992)。本明細書に記載されるような効果的なリガンド標的療法は、リガンドの親和性を利用して抗癌薬を腫瘍組織に運ぶものであり、腫瘍のIFPが高くても薬物の蓄積を増加させることによって機能する可能性がある。
【0038】
インビボのファージディスプレイを用いて腫瘍内皮細胞の分子上のターゲティングリガンドを単離することにより、本発明者らはPC5−52を含むいくつかのペプチドを同定し、これらのペプチドは2つのNSCLCおよび6つのヒト腫瘍異種移植片における血管系を標的とする。このペプチドを介してターゲティングされたリポソームは、リポソームの治療効果を高めて、ヒトの肺癌および口腔癌異種移植片を有するマウスの生存率を増加させた。SP5−52は固形腫瘍の血管系への薬物送達に対する優れた薬剤であり、臨床的な癌処置に適用可能である。
【0039】
参考文献
【0040】
【化1】
【0041】
【化2】
【0042】
【化3】
【0043】
【化4】
【0044】
【化5】
【0045】
【化6】
【0046】
【化7】
【0047】
定義
本明細書において用いられる用語は以下に示すとおりの通常の意味を有し、明細書の文脈においてさらに理解されてもよい。
【0048】
「ポリヌクレオチド」、「ヌクレオチド」、「核酸」、「核酸分子」、「核酸配列」、「ポリヌクレオチド配列」、および「ヌクレオチド配列」という用語は本明細書において相互交換可能に用いられて、あらゆる長さのヌクレオチドの重合形をいう。ポリヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、および/またはそれらの類似体もしくは誘導体を含有し得る。この用語は、変異体を含む。変異体は、挿入、付加、欠失または置換を含み得る。本明細書に示されるヌクレオチド配列は5’から3’の方向にリストされる。
【0049】
「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」という用語は本明細書において相互交換可能に用いられて、あらゆる長さのアミノ酸の重合形を示し、それは天然に発生するアミノ酸、コードおよび非コードアミノ酸、化学的または生化学的に修飾、誘導されたアミノ酸またはデザイナーアミノ酸(designer amino acid)、アミノ酸類似体、ペプチド模倣薬およびデプシペプチド、ならびに修飾された、環状の、二環状の、デプシ環状の(depsicyclic)またはデプシ二環状の(depsibicyclic)ペプチドバックボーンを有するポリペプチドを含んでもよい。この用語は1本鎖タンパク質およびマルチマーを含む。この用語は、以下のものに結合されたタンパク質も含む:たとえばFITC、ビオチン、ならびに64Cu、67Cu、90Y、99mTc、111In、124I、125I、131I、137Cs、186Re、211At、212Bi、213Bi、223Ra、241Am、および244Cmを含むがこれらに限定されない放射性同位元素などの標識;検出可能な生成物を有する酵素(たとえば、ルシフェラーゼ、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼなど);蛍光剤および蛍光標識、蛍光発光金属、たとえば152Eu、またはその他のランタニド系列、電気化学発光化合物、化学発光化合物、たとえばルミノール、イソルミノールまたはアクリジニウム塩など;特異的結合分子、たとえば磁性粒子、微小球、ナノ球体など。この用語は、治療薬剤に結合されたペプチドも含む。
【0050】
この用語は融合タンパク質も含み、この融合タンパク質は、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(glutathione S−transferase:GST)融合タンパク質、たとえばルシフェリンまたはエクオリン(緑色蛍光タンパク質)などの生物発光タンパク質などの異種アミノ酸配列を有する融合タンパク質、異種および同種リーダー配列を有する融合タンパク質、N末端メチオニン残基を有する融合タンパク質または有さない融合タンパク質、ペグ化タンパク質、ならびに免疫学的にタグ付けされたタンパク質またはhisタグ付けされたタンパク質を含むが、これらに限定されない。こうした融合タンパク質はエピトープとの融合も含む。こうした融合タンパク質は、本発明のペプチドのマルチマー、たとえばホモダイマーまたはホモマルチマー、ならびにヘテロダイマーおよびヘテロマルチマーなどを含んでもよい。この用語はペプチドアプタマーも含む。
【0051】
本発明のペプチドは、ペプチドの生物学的に活性な変異体を含み、こうした変異体は構造が実質的に同様である。ペプチド配列の変異体は、対象のペプチドに比べて挿入、付加、欠失または置換を含んでいてもよい。ポリペプチド配列の変異体は、生物学的に活性な多形変異体を含む。
【0052】
本発明のペプチドは、天然に発生するアミノ酸および天然に発生しないアミノ酸を含んでもよい。ペプチドはD−アミノ酸、D−およびL−アミノ酸の組合せ、およびさまざまな「デザイナー」または「合成」アミノ酸(たとえば、β−メチルアミノ酸、Cα−メチルアミノ酸、およびNα−メチルアミノ酸など)を含むことによって特別な特性を有してもよい。加えて、ペプチドは環状であってもよい。ペプチドは非古典的アミノ酸を含むことによって特定の立体構造モチーフを導入してもよい。あらゆる公知の非古典的アミノ酸が用いられてもよい。以下を含むがそれらに限定されないアミノ酸類似体およびペプチド模倣薬をペプチドに組み込むことによって、特定の二次構造を誘導または有利にしてもよい:LL−Acp(LL−3−アミノ−2−プロペニドン(propenidone)−6−カルボン酸)、β−ターンを誘導するジペプチド類似体;β−シートを誘導する類似体;β−ターンを誘導する類似体;α−へリックスを誘導する類似体;γ−ターンを誘導する類似体;Gly−Alaターン類似体;アミド結合アイソスター;またはテトラゾール(tretrazol)など。
【0053】
ペプチドの末端部にデスアミノまたはデスカルボキシ残基を組み込むことによって、末端アミノ基またはカルボキシル基をなくして、プロテアーゼに対する感受性を低下させるか、または立体構造を制限してもよい。C末端官能基は、アミド、アミド低級アルキル、アミドジ(低級アルキル)、低級アルコキシ、ヒドロキシ、およびカルボキシ、ならびにそれらの低級エステル誘導体、ならびにそれらの医薬的に許容できる塩を含む。
【0054】
「リポソーム」という用語は、内部の水性空間を囲む外側の脂質二重層または多層の膜を含む組成物をいう。この用語は多重膜リポソームを含み、これは一般的に約1マイクロメートルから約10マイクロメートルの範囲の直径を有し、水相の層と交互になった2から数百の同心の脂質二重層を含む。この用語は、単一脂質層からなり、一般的に約20ナノメートルから約400ナノメートル(nm)、約50nmから約300nm、約300nmから約400nm、または約100nmから約200nmの範囲の直径を有する単層膜の小胞を含む。この用語は、約65nmから約75nmの直径を有するリポソームも含む。
【0055】
「抗体」および「免疫グロブリン」という用語は、特定の抗原を認識して結合できる、たとえば免疫系によって、合成によって、または組換えによって生成されるものなどのタンパク質を示す。抗体は当該技術分野において一般的に公知であり、当該技術分野において公知の方法によって調製できる。
【0056】
「エピトープ」とは抗体が結合する分子であり、それはポリペプチド中のアミノ酸残基の隣接する配列であってもなくてもよく、他の化学構造を有する糖および/または分子を含んでもよい。
【0057】
ポリヌクレオチドの状況における「特異的にハイブリダイズする」という用語は、ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーションを示す。DNA/DNAおよびDNA/RNA両方のハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーを増大させる条件は、当該技術分野において広く公知であり公表されている。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の例には、約65〜70℃での4×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)におけるハイブリダイゼーション、または約42〜50℃での4×SSCに50%ホルムアミドを加えたものにおけるハイブリダイゼーションの後に、約65〜70℃での1×SSCにおける1回またはそれ以上の洗浄が行なわれるものが含まれる。
【0058】
「リガンド」という用語は、受容体を含む、別の分子に結合する分子を示す。
【0059】
「宿主細胞」とは、あらゆる組換えベクターまたは単離されたポリヌクレオチドのレシピエントとなり得るかまたはレシピエントであった個々の細胞または細胞培養物である。宿主細胞は単一の宿主細胞の子孫を含み、その子孫は、自然の、偶発的な、または計画的な突然変異および/または変化のために、必ずしも(形態または全体のDNA相補体が)元の親細胞と完全に同一でないことがある。宿主細胞は、インビボまたはインビトロで本発明の組換えベクターまたはポリヌクレオチドによってトランスフェクトまたは感染された細胞を含む。本発明の組換えベクターを含む宿主細胞は、「組換え宿主細胞」と呼ばれてもよい。
【0060】
「試料」とは、患者に由来するあらゆる生体試料である;この用語は、生物学的な流体、たとえば血液、血清、血漿、尿、脳脊髄液、涙、唾液、リンパ、透析液、洗浄液、精液、およびその他の液体サンプルなど、ならびに生体由来の細胞および組織を含むがそれらに限定されない。この用語は細胞またはその細胞に由来する細胞およびその子孫も含み、それは培養物中の細胞、細胞上清および細胞溶解物を含む。この用語はさらに、器官または組織培養由来の流体、組織生検サンプル、腫瘍生検サンプル、糞便サンプル、および生理学的組織から抽出された流体、ならびに固体組織から分離された細胞、組織切片、および細胞溶解物を含む。この定義は、たとえば試薬による処理、可溶化、またはポリヌクレオチドもしくはポリペプチドなどの特定の成分に対する濃縮などによって、調達後にあらゆる態様で処理されたサンプルを含む。この用語には、患者サンプルの誘導体および画分も含まれる。患者サンプルは、診断、予後またはその他のモニタリングアッセイに用いられてもよい。この用語はまた、ヒト以外の哺乳動物からの生体試料に適用される。試料はヒトの患者またはヒト以外の哺乳動物からのものであってもよい。
【0061】
本明細書において用いられる「処置」は、ヒトを含む哺乳動物における疾患に対する治療のあらゆる投与または適用を含み、それは、たとえば退縮をもたらすか、または機能の欠失、欠落もしくは障害を回復もしくは修復することなどによる疾患の阻害、疾患の進行の阻止、もしくは疾患の緩和;または非効率的なプロセスの刺激を含む。この用語は、所望の薬理学的および/または生理学的効果を得ることを含み、ヒトを含む哺乳動物における病理学的状態または障害のあらゆる処置を含む。その効果は、障害もしくはその症状を完全もしくは部分的に防ぐという観点から予防的であってもよく、ならびに/または、障害および/もしくはその障害に起因し得る悪影響に対する部分的もしくは完全な治癒という観点から治療的であってもよい。よって本発明は、処置および予防の両方を提供する。本発明は以下を含む:(1)障害を起こす可能性があるがまだ症状が出ていない対象において、障害の発生または再発を防ぐこと、(2)障害の進行を阻止するなど、障害を阻害すること、(3)障害または少なくともそれに伴う症状を停止または終結させることによって、宿主がもう障害またはその症状に苦しまないようにすること、たとえば、機能の欠失、欠落もしくは障害を回復もしくは修復するか、または非効率的なプロセスを刺激することなどによって、障害またはその症状の退縮をもたらすことなど、または(4)障害またはそれに伴う症状を緩和、軽減または改善すること、ここで改善とは広い意味で用いられ、少なくとも、炎症、痛みおよび/または腫瘍サイズなどのパラメータの大きさの低減を示す。
【0062】
「医薬的に許容できる担体」とは、あらゆる従来型の非毒性の固体、半固体または液体の充填剤、希釈剤、封入材料(encapsulating material)、調合補助剤(formulation auxiliary)、または賦形剤を示す。医薬的に許容できる担体は、使用される用量および濃度ではレシピエントに対して非毒性であり、処方物の他の成分と適合できる。
【0063】
本明細書における「組成物」とは、当該技術分野において従来のものであって、かつ治療、診断または予防の目的のための対象への投与に適した、たとえば医薬的に許容できる担体または賦形剤などの担体を通常含有する混合物を示す。医薬組成物は、細胞または培養液中にポリペプチドまたはポリヌクレオチドが存在する細胞培養物を含んでもよい。たとえば、経口投与のための組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、丸薬、カプセル、徐放性処方物、口腔リンス液、または粉末を形成してもよい。
【0064】
「疾患」とは、医療介入を必要とするか、または医療介入を行なうことが望ましいようなあらゆる状態、感染症、障害または症候群を示す。こうした医療介入は、処置、診断および/または予防を含み得る。
【0065】
「癌」とは、あらゆる異常な細胞または組織の成長であり、たとえば悪性、前悪性または良性の腫瘍などである。癌は、細胞の無制御の増殖を特徴とし、それは周囲の組織に侵入することもしないこともあるし、新たな身体部位に転移することもしないこともある。癌は、上皮細胞の癌である癌腫を含む;癌腫は、扁平上皮癌、腺癌、黒色腫、および肝癌を含む。癌は、間充織由来の腫瘍である肉腫も含む;肉腫は、骨原性肉種、白血病およびリンパ腫を含む。癌は、1つまたはそれ以上の新生物細胞型を含んでもよい。癌という用語は、肺癌、結腸癌、乳癌、前立腺癌、肝癌、膵癌、および口腔癌を含む。
【0066】
「黄斑変性」は、不適切に制御された、漏出性の血管の成長を含み、これらとしては、加齢性黄斑変性(AMD)、増殖性糖尿病性網膜症(PDR)および未熟児網膜症(ROP)が挙げられる。
【0067】
細胞系
有用な細胞系は、A549、ヒト肺扁平上皮癌系、CL1−5、高転移性ヒト肺腺癌系、H23、ヒト肺腺癌系、H460、ヒト肺大細胞癌系、PC13、ヒト肺癌系、NPC−TW01、ヒト上咽頭癌系、SAS、ヒト口腔扁平上皮癌系、PaCa、ヒト膵臓癌、結腸(HCT116)、乳房(BT483)、前立腺(PC3)、肝臓(Mahlavu)、NNM、ヒト正常鼻粘膜上皮、および線維芽細胞を含む。A549、H23、H460、PC13、PaCa、HCT116、PC3、MahlavuおよびSASは、American Type Culture Collectionから入手可能である。CL1−5およびNPC−TW01細胞系は、それぞれ(Chuら、1997)および(Linら、1990)によって樹立された。
【0068】
ペプチドの調製
本発明のペプチドは、当該技術分野において公知の方法を用いて発現できる。本発明のペプチドを生産するためには、細胞に基づく方法および無細胞の方法が好適である。一般的に、細胞に基づく方法は、インビトロで宿主細胞に核酸構築物を導入する工程と、発現に適した条件下で宿主細胞を培養する工程と、次いで培養液もしくは(たとえば、宿主細胞を破壊することなどによって)宿主細胞のいずれかから、またはその両方からペプチドを採取する工程とを含む。本発明は、当該技術分野において周知の無細胞インビトロ転写/翻訳方法を用いてペプチドを生成する方法も提供する。
【0069】
好適な宿主細胞は原核細胞または真核細胞を含み、たとえば細菌、酵母、真菌、植物、昆虫および哺乳動物の細胞などを含む。
【0070】
典型的には、異種ペプチドは、修飾されていても修飾されていなくても、上述のとおりに単独で、または融合タンパク質として発現されてもよく、分泌シグナルだけでなく分泌リーダー配列を含んでもよい。本発明の分泌リーダー配列は、特定のタンパク質をERに向けてもよい。ERは膜結合タンパク質をその他のタンパク質から分離する。一旦ERに局在化されると、タンパク質はさらに、分泌小胞を含む小胞;細胞膜、リソソーム、およびその他の小器官への分配のためにゴルジ体に向けられてもよい。
【0071】
加えて、ペプチドにペプチド部分および/または精製タグが加えられてもよい。こうした領域は、ポリペプチドの最終的調製の前に取除かれてもよい。ポリペプチドにペプチド部分を付加することによって、特に分泌または排出を誘発したり、安定性を改善したり、精製を容易にしたりすることは、当該技術分野においてよく知られた慣用技術である。好適な精製タグは、たとえばV5、ポリヒスチジン、アビジンおよびビオチンなどを含む。ペプチドをビオチンなどの化合物に結合することは、当該技術分野において周知の技術を用いて達成できる。(Hermanson編(1996)Bioconjugate Techniques;Academic Press)。ペプチドは、当該技術分野において公知の技術を用いて、放射性同位元素、毒素、酵素、蛍光標識、コロイド金、核酸、ビノレルビン、およびドキソルビシンにも結合できる。(Hermanson編(1996)Bioconjugate Techniques;Academic Press;Stefanoら(2006)A conjugate of doxorubicin with lactosaminated albumin enhances the drug concentrations in all the forms of rat hepatocellular carcinomas independently of their differentiation grade.Liver Int.26:726−33)。毒素は当該技術分野において公知のものである。KreitmanおよびPastan、Immunotoxins in the treatment of hematologic malignancies.Curr Drug Targets.7:1301−11(2006)。
【0072】
本発明における使用のために好適な融合パートナーは、たとえば、フェチュイン、ヒト血清アルブミン、Fc、および/またはそれらの断片の1つもしくはそれ以上などを含む。たとえばポリエチレングリコール結合体などの結合タンパク質も提供される。
【0073】
本発明のペプチドは、当該技術分野において公知の技術を用いて化学的に合成することもできる(例、Hunkapillerら、Nature、310:105 111(1984);Grant編(1992)Synthetic Peptides,A Users Guide、W.H.Freeman and Co.;米国特許第6,974,884号を参照)。たとえば、ペプチド合成機の使用によって、または当該技術分野において公知の固相法の使用を通じて、ポリペプチドの断片に対応するポリペプチドを合成できる。
【0074】
さらに、所望であれば、非古典的アミノ酸または化学的アミノ酸類似体を置換または追加としてポリペプチド配列に導入してもよい。非古典的アミノ酸は、一般的なアミノ酸のD異性体、2,4−ジアミノ酪酸、a−アミノイソ酪酸、4−アミノ酪酸、Abu、2−アミノ酪酸、g−Abu、e−Ahx、6−アミノヘキサン酸、Aib、2−アミノイソ酪酸、3−アミノプロピオン酸、オルニチン、ノルロイシン、ノルバリン、ヒドロキシプロリン、サルコシン、シトルリン、ホモシトルリン、システイン酸、t−ブチルグリシン、t−ブチルアラニン、フェニルグリシン、シクロヘキシルアラニン、b−アラニン、フルオロアミノ酸、デザイナーアミノ酸、たとえばb−メチルアミノ酸、Ca−メチルアミノ酸、Na−メチルアミノ酸など、および一般的なアミノ酸類似体を含むがそれらに限定されない。さらに、アミノ酸はD(右旋性(dextrorotary))またはL(左旋性(levorotary))であってもよい。
【0075】
本発明のポリペプチドは、硫酸アンモニウムまたはエタノール沈殿、酸抽出、アニオンまたはカチオン交換クロマトグラフィ、リン酸セルロースクロマトグラフィ、疎水性相互作用クロマトグラフィ、アフィニティクロマトグラフィ、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィ、およびレクチンクロマトグラフィを含むがそれらに限定されない標準的な方法によって、化学合成および組換え細胞培養物から回収および精製されてもよい。最も好ましくは、高速液体クロマトグラフィ(「HPLC」)が精製に使用される。単離および/または精製の際にポリペプチドが変性したときは、タンパク質をリフォールディングするための周知の技術を用いて活性の立体構造を再生してもよい。
【0076】
本発明のペプチドまたはペプチド模倣薬(peptidomimetic)は、さまざまな親水性ポリマーの1つまたはそれ以上で修飾するか、またはそれと共有結合させることによって、ペプチドの可溶性および循環半減期を増加させることができる。ペプチドに結合させるために好適な非タンパク質親水性ポリマーは、ポリアルキルエーテル、たとえばポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールによって例示されるものなど、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリオキシアルケン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロースおよびセルロース誘導体、デキストランおよびデキストラン誘導体を含むがこれらに限定されない。一般的に、こうした親水性ポリマーの平均分子量は、約500ダルトンから約100,000ダルトン、約2,000ダルトンから約40,000ダルトン、または約5,000ダルトンから約20,000ダルトンの範囲である。ペプチドは、以下において示される方法のいずれかを用いて、こうしたポリマーによって誘導化されるか、またはそれらに結合されてもよい(Zallipsky,S.(1995)Bioconjugate Chem.、6:150−165;Monfardini,C.ら(1995)Bioconjugate Chem.、6:62−69;米国特許第4,640,835号;第4,496,689号;第4,301,144号;第4,670,417号;第4,791,192号、第4,179,337号、またはWO95/34326号)。
【0077】
リポソームの調製
リポソームを調製するためのさまざまな方法が当該技術分野において公知であり、そのいくつかはLichtenbergおよびBarenholzによって、Methods of Biochemical Analysis、第33巻、337−462(1988)に記載されている。以前に記載される薄膜水和反応(thin film hydration)と、反復押出し(repeated extrusion)との標準的な方法の組合せによって、小単層膜リポソーム(small unilamellar vesicle:SUV、サイズ<100nm)を調製できる(Tsengら、1999)。特にリポソームによるDNAの封入を含む調製法、およびリポソーム介在型トランスフェクションへの直接適用を有する方法は、HugおよびSleightら(1991)によって記載されている。リポソームを作成する方法は、米国特許第6,355,267号および米国特許第6,663,885号にも開示されている。リポソームは、ホスファチジルコリン、コレステロール、およびPEG誘導体化ホスファチジルエタノールアミン(PEG−derivatized phosphatidylethanolamine:PEG−PE)を含む脂質組成物による逆位相蒸着法によって生成できる。リポソームを定められたポアサイズのフィルタから押出すことによって、所望の直径のリポソームを得る。
【0078】
リポソームは、たとえばTaiwan Liposome Company、Taipei Taiwanなどの供給源から商業的に入手することもできる。付加的な商業的に入手可能なリポソームは、TLC−D99、Lipo−Dox、Doxil、DaunoXome、AmBisome、ABELCET、transfectace(DDAB/DOPE)、ならびにDOTAP/DOPEおよびLipofectinを含む。
【0079】
本発明のリポソームは、リン脂質から調製されることが最も多いが、疎水性および親水性部分の両方を有する類似の分子形および寸法のその他の分子が用いられてもよい。本発明の目的に対して、すべてのこうした好適なリポソーム形成分子は、本明細書において脂質と呼ばれる。リポソームの調製には、1つまたはそれ以上の天然に発生する脂質化合物および/または合成脂質化合物が用いられてもよい。
【0080】
リポソームは、親水性基の選択によって、アニオン、カチオンまたは中性であってもよい。たとえば、リン酸基または硫酸基を有する化合物が用いられるときには、得られるリポソームはアニオンになる。アミノを含有する脂質が用いられるときには、リポソームは正電荷を有し、カチオンリポソームとなる。
【0081】
本発明において有用な最初のリポソームを形成するための代表的な好適なリン脂質または脂質化合物は、リン脂質関連材料、たとえばホスファチジルコリン(レシチン)、リゾレシチン、リゾホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、スフィンゴミエリン、ホスファチジルエタノールアミン(ケファリン)、カルジオリピン、ホスファチジン酸、セレブロシド、リン酸ジセチル、ホスファチジルコリン、およびジパルミトイルホスファチジルグリセロールなどを含むが、これらに限定されない。付加的な非リン(non−phosphorous)脂質は、ステアリルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、アセチルパルミチン酸塩、グリセロールリシノール酸塩、ヘキサデシルステアリン酸塩(hexadecyl sterate)、イソプロピルミリステート、両性アクリルポリマー、脂肪酸、脂肪酸アミド、コレステロール、コレステロールエステル、ジアシルグリセロール、ジアシルグリセロールコハク酸塩などを含むが、これらに限定されない。
【0082】
本発明における使用のためのリポソーム調製物は、カチオン(正に荷電した)調製物、アニオン(負に荷電した)調製物、および中性調製物を含む。
【0083】
化合物のリポソーム内への遠隔負荷(remote loading)には、膜貫通勾配の形成が用いられる(CehおよびLasic、1995)。この方法は、リポソーム内に負荷すべき化合物とボロン酸化合物とを懸濁リポソームとともにインキュベートすることによって、リポソーム内に化合物を蓄積させる工程を含む(Zalipskyら、1998;Ceh B.およびLasic D.D.、1995;Zalipskyら、1998;米国特許第6,051,251号)。
【0084】
リン酸塩アッセイを用いてリポソーム濃度を定めてもよい。リン酸塩アッセイの1つは、モリブデン酸塩とマラカイトグリーン色素との相互作用に基づくものである。主要な原理は、無機リン酸塩とモリブデン酸塩とを反応させて無色の非還元リンモリブデン酸塩複合体を形成することを含み、この複合体は酸性条件下で還元されるときに青色の複合体に変えられる。リンモリブデン酸塩はマラカイトグリーンと複合体を形成すると20倍から30倍多く発色する。最終生成物である還元された緑色の可溶性複合体は、620nmにおける吸光度によって測定され、これは溶液中の無機リン酸塩の直接的な尺度である。
【0085】
いくつかの実施形態において、リポソームは、当該技術分野において多様なものが公知である医薬的に許容できる担体、賦形剤および希釈剤を有する処方物中に与えられる。これらの医薬的担体、賦形剤および希釈剤は、USP医薬賦形剤リストにリストされるものを含む。USP and NF Excipients,Listed by Categories、p.2404−2406、USP 24 NF 19、United States Pharmacopeial Convention Inc.、Rockville,Md.(ISBN1−889788−03−1)。医薬的に許容できる賦形剤、たとえばビヒクル、アジュバント、担体または希釈剤は、一般に容易に入手可能である。さらに、医薬的に許容できる補助的物質、たとえばpH調整および緩衝剤、張度調整剤(tonicity adjusting agent)、安定剤、湿潤剤などは、一般に容易に入手可能である。
【0086】
好適な担体は、水、デキストロース、グリセロール、食塩水、エタノール、およびそれらの組合せを含むがこれらに限定されない。担体は、湿潤剤もしくは乳化剤、pH緩衝剤、または処方物の効果を高めるアジュバントなどの付加的な薬剤を含有してもよい。局所的担体は、液体石油、イソプロピルパルミテート、ポリエチレングリコール、エタノール(95%)、水中のポリオキシエチレンモノラウレート(5%)、または水中のラウリル硫酸ナトリウム(5%)を含む。必要に応じて他の材料、たとえば抗酸化剤、湿潤剤、粘性安定剤、および類似の薬剤などが加えられてもよい。たとえばAzoneなどの経皮浸透促進剤が含まれてもよい。
【0087】
医薬用量の形において、本発明の組成物は医薬的に許容できる塩の形で投与されてもよく、さらに単独で用いられても、または他の医薬的に活性の化合物との適切な結合および組合せにおいて用いられてもよい。対象組成物は、可能な投与のモードに従って調合される。
【0088】
処置の方法
治療薬を含む本発明のペプチドまたはリポソームは、全身的な注射、たとえば静脈注射などによって;または関連部位への注射または適用、たとえば腫瘍への直接注射、もしくは手術中にその部位が露出しているときにはその部位への直接適用などによって;または、たとえば皮膚に障害があるときなどには局所適用によって、処置を必要とする対象に投与されてもよい。処置を必要とする被験体は、癌、加齢性黄斑変性、増殖性糖尿病性網膜症および未熟児網膜症のような、新生血管形成を伴う疾患に罹患した被験体を含む。
【0089】
本発明のペプチドまたはリポソームは、単独療法として用いられてもよい。代替的には、本発明のペプチドまたはリポソームは、癌を処置するための標準的な化学療法または放射線療法あるいは加齢性黄斑変性のような疾患のための療法と組合せて用いられてもよい。
【0090】
本発明のペプチドは、処置のために抗体を血管系にターゲティングするために用いられてもよい。一実施形態においては、本発明のペプチドが処置を必要とする対象に投与された後に、そのペプチドに特異的に結合する抗体が投与される。ターゲティングされる抗体は、抗体依存性の細胞毒性または相補体依存性の細胞毒性を媒介してもよく、または標的分子の基礎をなす機能を変更してもよい。こうした抗体は抗体結合体の形で用いられることによって、標的組織に治療効果を有する薬剤を直接送達してもよい。こうした薬剤は、放射性核種、毒素、化学療法薬物、抗VEGFアプタマーおよび抗血管新生化合物を含む。
【0091】
薬剤の投与は、経口、口腔、経鼻、直腸、非経口、腹膜内、皮内、経皮、皮下、静脈内、動脈内、心臓内、心室内、頭蓋内、気管内、および髄腔内投与などを含むさまざまな方法で、または移植もしくは吸入による別様で達成されてもよい。よって、対象組成物は固体、半固体、液体または気体の形の調製物、たとえば錠剤、カプセル、粉末、顆粒、軟膏、溶液、座薬、注射薬、吸入剤、およびエアロゾルなどに処方されてもよい。以下の方法および賦形剤は単なる例示であって、いかなる態様でも限定するものではない。
【0092】
好適な賦形剤ビヒクル媒体は、たとえば水、食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、およびそれらの組合せである。加えて、所望であれば、ビヒクルは少量の補助的物質、たとえば湿潤剤または乳化剤またはpH緩衝剤などを含有してもよい。こうした投薬形態を調製する実際の方法は、当業者に公知であるか、または明らかになる。いずれにせよ、投与される組成物または処方物は、処置される対象における所望の状態を達成するために適切な量の薬剤を含有する。
【0093】
本発明のリポソームまたはペプチドは、水性溶媒または非水系溶媒、たとえば植物油またはその他の類似の油、合成脂肪酸グリセリド、高級脂肪酸またはプロピレングリコールのエステルなどに;所望であれば従来の添加剤、たとえば溶解剤、等張剤、懸濁剤、乳化剤、安定剤、および保存剤などとともに、溶解、懸濁または乳化させることによって、注射のための調製物に処方されてもよい。当該技術分野における従来どおりの、経口または非経口送達のためのその他の処方物が用いられてもよい。
【0094】
本発明のリポソームまたはペプチドは、癌の処置および血管新生の阻害に用いられてきたさまざまな薬物の1つまたはそれ以上を含んでもよく、その薬物は、ビノレルビン、シスプラチン、ゲムシタビン、パクリタキセル、エトポシド、Novantrone(ミトキサントロン)、アクチノマイシンD、カンプトテシン(camptohecin)(またはその水溶性誘導体)、メトトレキサート、マイトマイシン(たとえばマイトマイシンCなど)、ダカルバジン(DTIC)、シクロホスファミド、ならびに抗新生物性抗生物質、たとえばドキソルビシンおよびダウノマイシンなど、またはたとえばDe Vitaら編、2001などに記載されるその他のものを含むが、それらに限定されない。リポソームまたはペプチドは、細胞毒性薬物、オリゴヌクレオチド、毒素および放射性分子も含んでもよい。リポソームまたはペプチドは、(Ngら、2006)に記載される抗VEGFアプタマーなどの化合物も含んでもよい。
【0095】
癌療法において用いられる薬物は、癌細胞に対する細胞毒性もしくは細胞増殖抑制の効果を有してもよく、または悪性細胞の増殖を低減させてもよい。癌処置に用いられる薬物はペプチドであってもよい。本発明のリポソームまたはペプチドは、放射線療法と組合されてもよい。本発明のリポソームまたはペプチドは、(De Vitaら(2001))に記載される治療アプローチとともに付属的に用いられてもよい。本発明のリポソームまたはペプチドと第2の抗癌剤とが癌細胞に対して相乗効果を及ぼすような組合せに対しては、第2の薬剤の用量は、第2の薬剤が単独で投与されるときの標準的な用量よりも減らされてもよい。癌細胞の感受性を増加させるための方法は、本発明のリポソームまたはペプチドを、癌細胞の感受性を高めるために有効な量の化学療法の抗癌薬と共投与する(co−administering)工程を含む。共投与は同時投与であっても、または非同時投与であってもよい。本発明のリポソームまたはペプチドは、処置療法の過程において他の治療薬剤とともに投与されてもよい。一実施形態において、本発明のリポソームまたはペプチドと、他の治療薬剤との投与は連続的である。適切な時間経過は、患者の病気の性質および患者の状態などの因子に従って医師によって選択されてもよい。
【0096】
診断方法
疾患特異的バイオマーカの検出は、有効なスクリーニング戦略を提供する。早期の検出は早期の診断を与えるだけでなく、癌の場合には多形性をスクリーニングし、手術後の残余腫瘍細胞および潜在性の転移、すなわち腫瘍再発の初期指標を検出することを可能にできる。よって疾患特異的バイオマーカの早期検出は、診断前、処置の最中および寛解期の患者における生存性を改善できる。
【0097】
本発明のペプチドは、癌および新生血管形成を伴う他の疾患を含む疾患に対する診断または予後として用いられてもよい。ペプチドは、ELISA、ウエスタンブロット、蛍光、免疫蛍光、免疫組織化学、またはオートラジオグラフィを含むがこれらに限定されないいくつかの方法で、診断として用いられてもよい。
【0098】
本発明の抗体は、血管系を検出するために本発明のペプチドと組合せて用いられてもよい。いくつかの実施形態において、そのアッセイは、血管マーカに結合した本発明のペプチドと抗体との結合を検出する結合アッセイである。対象ポリペプチドまたは抗体は固定されてもよく、対象ポリペプチドおよび/または抗体は検出可能になるよう標識されてもよい。たとえば、抗体は直接標識されても、または標識された二次抗体によって検出されてもよい。すなわち、抗体に対する好適な検出可能な標識は、目的のタンパク質に対する抗体を標識する直接標識と、目的のタンパク質に対する抗体を認識する抗体を標識する間接標識とを含む。別の実施形態において、ペプチドは標識を含み、ペプチドの組織への結合は標識の存在をアッセイすることによって検出される。
【0099】
スクリーニング方法
本発明は、本発明のペプチドに結合する生体リガンドを同定するための方法を提供する。
【0100】
方法の1つにおいて、本発明のペプチドは、2ハイブリッドアッセイまたは3ハイブリッドアッセイ(例、米国特許第5,283,317号;Zervosら(1993)Cell、72:223−232;Maduraら(1993);Bartelら(1993);Iwabuchiら(1993);およびSuterら(2006)を参照)における「ベイトタンパク質」として用いられることによって、本発明のペプチドと結合または相互作用する他のタンパク質を同定することができる。
【0101】
別の方法においては、本発明のペプチドが細胞抽出物とともにインキュベートされて、本発明のペプチドに結合する分子が同定される。方法の1つにおいて、本発明のペプチドはHPLCカラムなどの固体支持上に固定され、本発明のペプチドの標的分子への結合を促進する条件下で細胞抽出物が固定ペプチドに露出される。結合した分子は溶出され、質量分析法などの標準的な技術を通じて同定される。一実施形態において、この細胞抽出物は、VEGF刺激されたHUVECを含む。
【0102】
標的タンパク質のアフィニティ精製
肺癌細胞からタンパク質を溶解緩衝液(50mMのTris−HCl、pH7.4、150mMのNaCl、30μg/mlのDNアーゼ、1%のノニデットP−40、およびプロテアーゼ阻害剤(Complete tabs;Roche Molecular Biochemicals))によって4℃にて30分間抽出する。15,000×gでの20分間の遠心分離によって、タンパク質溶解物から.残屑を取除く。溶解物を最初に対照ペプチドを含有する1mlカラム上で予め清澄にし、SP5−52またはSP5−2ペプチド固定アフィニティカラムの第2の1mlカラムにフロースルーを直接添加する。カラムを洗浄して溶出する。単離されたタンパク質の純度をSDS−PAGE(8%ポリアクリルアミド)によってモニタし、銀染色によって視覚化する。所望のタンパク質バンドを、トリプシンによるインゲル(in−gel)消化のためにゲルから切出す。その結果得られるポリペプチドをさらに質量分析法によって分析する。
【実施例】
【0103】
実施例は本発明を純粋に例示することが意図され、したがっていかなる態様でも本発明を制限すると考えられるべきでなく、さらに上記において議論した本発明の詳細な局面および実施形態をも説明するものである。
【0104】
実施例1.インビボのファージディスプレイバイオパニングの手順
CL1−5、H460およびPC3を、2gの重炭酸塩、1リットル当り40mgのカナマイシン、2mMのL−グルタミン、および10%のウシ胎児血清(FCS、Gibco、CA、USA)を補ったRPMI1640中で、95%の空気および5%のCO2(v/v)の加湿された環境下で37℃にて生育した。CL1−5はChuら(Chuら、1997)によって樹立された。SAS、HCT116、BT483、MahlavuおよびPaCaを、3.7gの重炭酸塩、1リットル当り40mgのカナマイシン、2mMのL−グルタミン、5%のFCSを含有するDMEM(Gibco、CA、USA)中で生育し、10%のCO2インキュベータ中でインキュベートした。胎盤からの分離後の臍静脈からHUVECを単離して、20%のFCS、抗生物質、15μg/mlの内皮成長因子(upstate、NY、USA)を補ったM199培地(Gibco、CA、USA)中で生育し、5%のCO2インキュベータ中でインキュベートした。
【0105】
腫瘍組織から腫瘍ホーミングファージを単離するために、本発明者らはファージディスプレイペプチドライブラリを用いて、インビボ選択(バイオパニング)の5ラウンドに対してNSCLC(CL1−5)腫瘍マウスを処置した。4〜6週齢のSCIDマウスの背外側の側腹部に、CL1−5細胞を別々に皮下注射して肺癌異種移植片を生成した。サイズを合せたCL1−5由来の腫瘍(約500mm3)を有するSCIDマウスの尾静脈に、ファージディスプレイペプチドライブラリ(New England Biolabs,Inc.、MA、USA)を注射した。8分間のファージ循環後に、マウスをジエチルエーテルで処置してマウスを深い麻酔に導き、50mlのPBSを灌流させて未結合ファージを洗浄した。器官(肺、心臓、脳など)および腫瘍塊を取出して重量測定し、冷たいPBSで洗浄した。器官および腫瘍サンプルをホモジナイズし、ER2738細菌(New England BioLabs、MA、USA)によってファージ粒子を回収した。ファージを、1mg/LのIPTG/X−Galの存在下で寒天プレート上で力価測定した。ER2738培養物中で結合ファージを増幅して力価測定した。回収されたファージを、上述のとおり肺癌異種移植片を有するSCIDマウスを用いたバイオパニングの4つの連続するラウンドに供した。第5ラウンドから溶出したファージをLB/IPTG/X−Galプレート上で力価測定した。腫瘍ホーミングファージクローンの候補をランダムに選択し、細胞ELISAおよびインビボのホーミング実験によって同定した。
【0106】
選択されたファージクローンをDNA配列決定によってさらに分析した。精製ファージのDNA配列を、自動DNA配列決定装置(ABI PRISM 377、Perkin−Elmer、CA、USA)を用いてジデオキシヌクレオチド鎖終止法に従って決定した。配列決定は、pIII遺伝子配列に対応するプライマ5’−CCCTCATAGTTAGCGTAACG−3’[配列番号19]によって行なわれた。ファージディスプレイペプチド配列は、Genetics Computer Group(GCG)プログラムを用いて翻訳およびアラインメントされた。
【0107】
バイオパニングの第5ラウンドの回収率は、第1ラウンドの156倍に増加した(図1)。これらの濃縮されたファージをランダムに選択して配列決定した。GCGソフトウェアを用いて、これら9つは一致する残基のプロリン(P)を有し、4つのクローン(PC5−10、PC−53、PC−58およびPC−60)はコンセンサスアミノ酸残基のセリン(S)−プロリン(P)を有することが見出され;3つのクローン(PC5−5、PC−52およびPC−54)はコンセンサスモチーフのプロリン(P)−セリン(S)−プロリン(P)を有することが見出された(表1)。本発明者らのファージホーミング系でテストされたコンセンサスペプチドモチーフの中でも、ファージクローンPC5−52は、インビボのファージディスプレイによって、肺および口腔(IVO−2と名付けられた)腫瘍マウスの両方から選択された(表1および図2C)。2つの異なるヒト癌(肺癌および口腔癌)異種移植片から同じファージクローンが単離されたことから、PC5−52に提示されるペプチドは複数の固形腫瘍をターゲティングできることが示される。
【0108】
実施例2.異種移植片腫瘍脈管におけるインビボのホーミングおよびペプチド結合
PC5−52のターゲティング能力を調べるために、ヒト肺癌細胞由来の腫瘍を有するSCIDマウスの尾静脈にファージを注射し、灌流後に回収した。本発明者らは、腫瘍塊および他の正常な器官におけるファージの力価を定めた。ファージクローンまたは対照ヘルパーファージ(挿入なしのファージ)を、ヒト肺癌腫瘍異種移植片を有するSCIDマウスの尾静脈(i.v.)に8分間または24時間注入した。灌流後に異種移植片腫瘍および器官を取出し、回収されたファージの力価を測定した。以下に記載するペプチド競合的阻害実験においては、ファージクローンを100μgの合成ペプチドと同時注入した。候補または対照のファージクローンの注入後、器官および腫瘍を取出して2つの部分に分割した。1つの部分はER2738によって力価を測定し、別の部分はOptimal Cutting Temperature(OCT、Tissue−Tek、NL、USA)に埋め込んだ。OCTに埋め込んだ冷凍組織を5ミクロンに切断し、冷たいPBS緩衝液に移した。次いでこの切片をアセトン−メタノール(1:1)で固定し、PBSで洗浄し、ブロッキング緩衝液(PBS中の1%BSA)に1時間浸漬した。次いで、ブロックされたサンプルをラット抗マウスCD31(BD Pharmingen、MA、USA)、ウサギ抗ラットAb(Stressgen、Canada)とともにインキュベートし、ローダミン標識されたヤギ抗ウサギ抗体(Jackson ImmunoResearch、PA、USA)に浸漬した。スライドをさらにマウス抗M13 mAb(Amersham Biosciences、Uppsala、Sweden)とともにインキュベートした後、FITC標識されたヤギ抗マウス抗体(Jackson ImmunoResearch)とともにインキュベートし、Hoechst 33258(Molecular probe、OR、USA)とともに浸漬した。最後にスライドを洗浄し、封入剤(mounting medium)(Vector、CA、USA)によって封入した。
【0109】
本発明者らは、ファージの代りに、FITC標識された候補ペプチドおよび対照ペプチドも用いた。ペプチド結合アッセイにおいては、腫瘍異種移植片マウスの尾静脈からFITC標識ペプチドを注射した。灌流後、組織を取出して上述のとおりに処理した。次いでLeica Universal顕微鏡の下でスライドを調べた。画像をSimplePCI(C−IMAGING、PA、USA)ソフトウェアによってマージした。
【0110】
PC5−52は腫瘍塊におけるホーミング能力を示し、腫瘍塊においては脳、肺および心臓を含む他の器官よりも8.0倍から135倍高い濃度を示した(図2A)が、対照ヘルパーファージはこうしたホーミング能力を示さなかった(図2B)。
【0111】
PC5−52の腫瘍ホーミング能力は、リガンド競合実験によっても証明された。候補ペプチドSVSVGMKPSPRP(SP5−52)および対照ペプチド(RLLDTNRPLLPY)[配列番号20]を合成して、Invitrogene,Inc.(CA、USA)により逆相高速液体クロマトグラフィによって>95%の純度にまで精製した。同じ会社によってペプチドNH2末端にFITCまたはビオチンを付加することによって、これらのペプチドとFITCまたはビオチンとの結合を行なった。リガンド競合実験から、合成SP5−52ペプチドとPC5−52ファージ粒子との同時注入が腫瘍組織からのPC5−52の回収を阻害することが示された(図2B)。100μgのSP5−52は、NSCLC腫瘍塊へのPC5−52ホーミングの97%を阻害した。同様の結果から、IVO−2(PC5−52によって提示されるペプチドと同じアミノ酸配列を有するペプチドを提示する)も口腔癌異種移植片の腫瘍組織にホーミングすることが示された(図2C)。IVO−2は腫瘍塊におけるホーミング能力を示し、腫瘍においては脳、肺および心臓を含む他の器官よりも12倍から121倍高い濃度を示した(図2C)。IVO−2の腫瘍ホーミング能力はSP5−52によって阻害できた。100μgのSP5−52の同時注入は、口腔癌異種移植片へのIVO−2ホーミングの95.9%を阻害した(図2D)。対照ペプチドは腫瘍組織へのIVO−2ホーミングを阻害できなかった(図2D)。PC5−52を24時間注入した後に、ファージが腫瘍組織中に対照組織よりも10倍多く蓄積したことも本発明者らは見出した。
【0112】
実施例3.PC5−52およびSP5−52の局在化
PC5−52のホーミング特異性を調べるために、本発明者らは免疫蛍光アッセイを用いて、灌流後のファージの結合活性を局在化した。上述のとおりにヒト肺腺癌冷凍切片を調製した。スライドをブロッキング緩衝液中で30分間インキュベートし、次いでメタノール中の3%の過酸化水素と0.1%のNaN3とで処理して内因性のペルオキシダーゼ活性を遮断し、ビオチン標識したペプチドとともにインキュベートした。スライドを慣用的な免疫組織化学染色に供した。
【0113】
その結果、ファージ粒子は肺癌の異種移植片腫瘍切片とは反応するが、正常な肺組織とは反応しないことが示された(図3A)。しかし、ファージは癌細胞に局在化しなかった。腫瘍塊はパネル(a)に示され、正常な肺はパネル(c)に示される。パネル(b)および(d)はH33258によって核DNAを対比染色したものであり、それぞれパネル(a)および(c)に対応する。抗M13 mAb(緑)およびマウス内皮細胞マーカCD31(赤)とともにインキュベートされた腫瘍組織からの冷凍切片を用いたとき、異種移植片腫瘍組織の腫瘍血管系においてPC5−52がCD31と共存することを本発明者らは見出した(図3B)。正常な心臓(図3B)、肺および脳の脈管にはファージは見出されなかった。ファージ注射後の腫瘍血管系内皮における抗ファージ免疫蛍光と抗CD31との共存は、パネル(i−k)に示される。対照ファージは腫瘍脈管に結合できない(a)のに対し、PC5−52は正常な心臓を認識できない(e)。抗CD31は心臓脈管(fおよびg)ならびに異種移植片腫瘍脈管(b、c、jおよびk)において示される。核染色は(d、hおよびl)に示される。
【0114】
腫瘍血管系へのファージディスプレイペプチドホーミングをさらに調べるために、本発明者らはPC5−52ファージの代わりにFITC標識されたSP5−52ペプチドを用いてペプチドホーミング研究を行なった。FITC標識されたSP5−52ペプチドも、肺癌異種移植片の腫瘍血管系においてマウスCD31マーカと共存することを本発明者らは見出した(図3Cのi−l)。このペプチドは心臓脈管と反応しなかった(図3Cのe−h)。FITC標識された対照ペプチドは腫瘍血管系を認識できなかった(図3Cのa−d)。ローダミン−抗CD31は、ヒト肺癌異種移植片(bおよびj)ならびに正常な心臓(f)において示される。H33253による核染色は(d、hおよびl)に示される。(バー、20μm)。
【0115】
実施例4.複数の癌異種移植片へのPC5−52の結合、およびPSPモチーフの調査
本発明者らは、インビボのファージディスプレイによって、肺癌および口腔癌の異種移植片から腫瘍ホーミングファージPC5−52を単離した。これらの結果は、SP5−52の標的が固形腫瘍の血管系において発現されている可能性があることを示すものである。この仮説を検証するために、本発明者らは、ヒト肺癌(H460)、結腸癌(HCT116)、乳癌(BT483)、前立腺癌(PC3)、肝癌(Mahlavu)および膵癌(PaCa)の異種移植片を含む、ヒト癌の別の6つの異なるタイプにおけるPC5−52のホーミング能力を調べた。SCIDマウスにPC5−52を静脈内注射した。8分後に、PBS緩衝液による灌流によって遊離ファージを洗い出し、異種移植片腫瘍塊を取出してファージ力価を定めた。これらのヒト癌異種移植片のすべてにおいて、PC5−52は腫瘍組織をターゲティングしたが、脳、肺および心臓などの正常な器官はターゲティングしなかった(図4)。このターゲティングリガンドを有さない対照ファージにはこうしたホーミング能力はなかった。
【0116】
インビボのファージディスプレイより、3つのクローン(PC5−5、PC5−52およびPC5−54)によって提示されるペプチドがコンセンサスモチーフのプロリン(P)−セリン(S)−プロリン(P)を有することを本発明者らは見出した(表1)。これら3つのアミノ酸残基は腫瘍組織へのホーミングにおける役割を有するのではないかと本発明者らは提案した。この仮説を検証するために、本発明者らはSP5−52(SVSVGMKPSPRP)中のこれら3つのアミノ酸残基を、変異ペプチドMP5−52(SVSVGMKGGGRP)(配列番号20)においてGGGに変えた。インビボのホーミングアッセイにおいて、腫瘍ホーミングファージPC5−52はCL1−5由来の腫瘍にターゲティングできた(図4B)。PC5−52の腫瘍ホーミング能力は、SP5−52によって顕著に阻害されたが、MP5−52の変異ペプチドには阻害されなかった(図4B)。
【0117】
実施例5.PC5−52は刺激されたHUVECと反応し、SP5−52はヒト肺癌生検試料に結合する
このファージがヒトの新生血管系内皮に対する親和性を有するかどうかをさらに確認するために、本発明者らはVEGF刺激されたヒト脈管内皮細胞(HUVEC)にPC5−52ファージ粒子を適用した。HUVECをカバーガラス上に蒔いて、約80%集密になるまで生育した。細胞をVEGF(B&D Systems、MN、USA)およびbFGF(PEPROTECH、Landon、UK)で48時間前処理した。VEGF刺激されたHUVECを無血清M199で洗浄し、ブロッキング緩衝液(無血清M199に3%のBSAを加えたもの)の中で4℃にて30分間インキュベートした。次いでカバーガラスをファージとともに4℃にて1時間インキュベートし、洗浄して、3%のホルムアルデヒドで10分間固定した。次いでカバーガラスをマウス抗M13 mAb(Amersham Biosciences)とともに1時間インキュベートした後に、FITC標識した抗マウス抗体(Jackson ImmunoResearch)とともにインキュベートし、次いでHoechst 33258とともに浸漬した。最後にカバーガラスを洗浄し、封入剤によって封入した。
【0118】
その結果、PC5−52はVEGF刺激されたHUVECに結合することが明らかになった(図5Aのa)。VEGF刺激なしのHUVECにおいては、PC5−52の結合は観察されなかった(図5Aのb)。このペプチドを有さない対照ファージは結合活性を示さなかった(図5Aのc)。さらに、ビオチン標識されたSP5−52ペプチドは、ヒト肺癌生検試料の腫瘍脈管に結合できたが、対照の肺の非腫瘍脈管には結合できなかった(図5B)。これらのデータから、SP5−52はヒト血管新生内皮細胞および腫瘍新生血管系における未知の受容体を認識したことが示される。
【0119】
ファージの腫瘍脈管への結合が提示ペプチドに媒介されたものかどうかを定めるために、HUVEC結合研究におけるファージの代わりにFITC標識したペプチドを用いる。カバーガラス上のHUVECを、FITC標識したペプチドまたは対照ペプチドとともに2時間インキュベートする。次いでカバーガラスを洗浄してHoechst 33258とともに浸漬し、次いで洗浄して封入剤によって封入し、Leica Universal顕微鏡の下で調べる。
【0120】
実施例6.ドキソルビシンを含有するリポソーム−ペプチドの調製および動物モデルの処置
腫瘍脈管ホーミングペプチドのSP5−52を用いて癌化学療法の治療効果を改善できるかどうかを定めるために、本発明者らはドキソルビシンを含有するリポソームにSP5−52を結合し(SP5−52−Lipo−Dox)、異種移植片を有するマウスをこのリポソームで処置した。
【0121】
ドキソルビシンを含有するリポソームの調製の手順は、過去の報告(Leeら、2004;Tsengら、1999)において公開される方法から適合した。簡単に述べると、L−ペプチドをNHS−PEG−DSPE[N−ヒドロキシスクシニミド−カルボキシル−ポリエチレングリコール(N−hydroxysuccinimido−carboxyl−polyethylene glycol)(PEG;平均分子量、3000)由来のジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(distearoylphosphatidylethanolamine)(NOF Corporation、Tokyo、Japan)]に1:1.5のモル比で結合した。この結合は、ペプチジル−PEG−DSPEを生成するためのペプチドのN末端の固有な遊離アミン基を用いて行なった。この反応は完了し、残りのアミノ基の定量化によって確認された。アミノ基はTNBS(トリニトロベンゼンスルホネート(Trinitrobenzenesulfonate))試薬によって測定された(AFSA、1966)。
【0122】
DSPC(ジステアロイルホスファチジルコリン(distearoylphosphatidylcholine))、コレステロール、PEG−DSPEからなるリポソームを硫酸アンモニウム溶液(250mM(NH4)2SO4、pH=5.0、530mOs)中で55℃にて水和し、60℃にて高圧押出し装置(Lipex Biomembranes、Vancouver、BC、Canada)を用いて0.1μmおよび0.05μmのポアサイズのポリカーボネート膜フィルタ(Costar、Cambridge、MA、USA)から押出した;ドキソルビシンを、10μmolのリン脂質当り1mgのドキソルビシンの濃度で、遠隔負荷法によってリポソームに封入した。リン酸塩アッセイによってリポソームの最終濃度を定めた。0.2mlの希釈薬物負荷リポソームに1mlの酸性イソプロパノール(81mMのHCl)を加えた後、励起波長として470nmを用い、放出波長として582nmを用いる分光蛍光光度計(Hitachi F−4500、Hitachi,Ltd、Tokyo、Japan)によって、リポソームの内側に閉じ込められたドキソルビシンの量を定めた。サブミクロン粒子分析計(モデルN4プラス;Coulter Electronics、Hialeah、FL、USA)による動的レーザ散乱によって、小胞サイズを測定した。調製後のリポソームは、リン脂質1μmol当り110μgから130μgのドキソルビシンを含有し、直径65nmから75nmの範囲の粒子サイズを有した。比較のために、同じ方法を用いてNHS−PEG−DSPEに対照ペプチドを結合したものを調製した。脂質二重層の遷移温度を超える温度でともにインキュベートした後に、ペプチジル−PEG−DSPEを予め形成されたリポソームに移した(Zalipskyら、1997)。以前に記載されたとおりに算出したところ(Kirpotinら、1997)、リポソーム当り300〜500個のペプチド分子があった。
【0123】
ヒト肺癌(CL1−5)および口腔癌(SAS)異種移植片をSCIDマウス中で確立した。4〜6週令のマウスの背外側の側腹部に、ヒト癌細胞を皮下注射した。サイズを合せた腫瘍(腫瘍サイズ約100mm3)を有するマウスを異なる処置群にランダムに割当てて、尾静脈を通じて、複数用量(1mg/kg、週2回)のSP5−52−Lipo−DoxおよびLipo−Doxによって処置した。対照群には、PBSをSP5−52−Lipo−Doxと同じ体積およびスケジュールで静脈内投与した。マウスの体重および腫瘍サイズをノギスで週2回測定した。腫瘍体積は次の式を用いて算出した:体積=長さ×(幅)2×0.52。平均腫瘍体積の差をANOVAによって評価した。
【0124】
CL1−5由来の腫瘍(腫瘍サイズ約100mm3)を有するSCIDマウスをランダムに3つの群に分けて、静脈を通じて、合計ドキソルビシン用量が7mg/kg(1mg/kg、週2回)のSP5−52−Lipo−Dox、Lipo−DoxまたはPBSで処置した。SP5−52ペプチド−Lipo−Doxで処置したマウスは、Lipo−DoxおよびPBSで処置した場合よりも有意に小さい腫瘍サイズを示した(P<0.01)(図6A)。Lipo−Dox群のマウスの腫瘍サイズは徐々に増加して、day28までにSP5−52−Lipo−Dox群よりも1.9倍大きくなった。対照PBS群のマウスの腫瘍サイズは、SP5−52−Lipo−Dox群よりも4.1倍大きかった。ターゲティングリポソームの治療効果をさらに特徴付けるために、本発明者らはSP5−52−Lipo−Dox、Lipo−DoxまたはPBSによって別々に処置した後の動物の生存率を比較した。day81に実験を終了したとき、PBSおよびLipo−Dox処置の群ではすべての動物(n=6)が死亡し(生存率0%)、SP5−52−Lipo−Dox処置の群では2匹の動物のみが死亡した(生存率66.7%)(図6B)。SP5−52−Lipo−Dox処置マウスにおいては腫瘍脈管が顕著に減少し損傷していることも本発明者らは見出した(図6C)。
【0125】
SP5−52が口腔癌に対する治療効果を増加できるかどうかをテストするために、本発明者らは動物モデルにおけるこの癌に対するリガンド標的療法も開発した。ターゲティングリポソームで処置したSAS由来口腔癌を有するSCIDマウスにおいても同様の結果が見出された。SP5−52−Lipo−Dox、Lipo−DoxまたはPBSによる処置を、合計ドキソルビシン用量が7mg/kg(7回、1mg/kg、週2回)で静脈内投与した。SP5−52ペプチド−Lipo−Doxで処置したマウスは、Lipo−DoxおよびPBSで処置したマウスよりも有意に小さい腫瘍サイズを示した(P<0.05)(図6D)。Lipo−Dox群のマウスの腫瘍サイズは徐々に増加して、day24.5にはSP5−52−Lipo−Dox群よりも3.6倍大きくなった。対照PBS群のマウスの腫瘍サイズは、SP5−52−Lipo−Dox群よりも7.1倍大きいことが見出された(図6D)。さらに、day60に実験を終了したとき、PBS処置の群ではすべての動物(n=6)が死亡し(生存率0%)、Lipo−Dox処置の群では4匹の動物が死亡した(生存率33.3%)のに対し、SP5−52−Lipo−Dox処置群はすべてが生存した(生存率100%)(図6E)。本発明者らはこの実験を再び繰り返し、その結果、SP5−52−Lipo−DoxはLipo−Doxよりも口腔癌異種移植片の処置に効果的であることがさらに確認された。Lipo−Doxで処置したマウスの腫瘍サイズは徐々に増加して、SP5−52−Lipo−Dox群よりも3.2倍大きくなった。対照PBSで処置したマウスの腫瘍サイズは、SP5−52−Lipo−Dox群よりも5.9倍大きいことが見出された。これらの結果から、Lipo−DoxをターゲティングリガンドSP5−52に結合することによって、SCIDマウスにおけるヒト肺癌および口腔癌異種移植片を含む固形腫瘍異種移植片を阻害する薬物の能力が高められることが示される。
【0126】
表1.肺癌異種移植片から選択されたファージディスプレイペプチド配列のアラインメント
【0127】
【表1】
【0128】
aファージディスプレイされるコンセンサスアミノ酸配列を太字体で示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15および配列番号17からなる群より選択される配列を含む、ポリヌクレオチドまたはその変異体。
【請求項2】
配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16および配列番号18からなる群より選択される配列を含む、ペプチドまたはその変異体。
【請求項3】
前記ペプチドは配列番号2またはその変異体を含む、請求項2に記載のペプチド。
【請求項4】
前記ペプチドは配列番号2を含む、請求項3に記載のペプチド。
【請求項5】
第2のペプチドに融合された第1のペプチドを含む融合タンパク質であって、前記第1のペプチドは請求項2に記載のペプチドを含む、融合タンパク質。
【請求項6】
前記第2のペプチドはエピトープを含む、請求項5に記載の融合ペプチド。
【請求項7】
前記ペプチドは1つまたはそれ以上の標識を含む、請求項2に記載のペプチド。
【請求項8】
前記標識は、FITC、ビオチンおよび放射性同位元素からなる群より選択される、請求項7に記載のペプチド。
【請求項9】
前記ペプチドは、ドキソルビシン、ビノレルビン、オリゴヌクレオチド、毒素、抗VEGFアプタマー、および放射性分子からなる群より選択される1つまたはそれ以上の薬物に結合される、請求項2に記載のペプチド。
【請求項10】
請求項2に記載のペプチドに結合する抗体。
【請求項11】
請求項2に記載のペプチドを少なくとも1つ含むリポソーム。
【請求項12】
前記ペプチドは配列番号2またはその変異体を含む、請求項11に記載のリポソーム。
【請求項13】
前記ペプチドは配列番号2を含む、請求項11に記載のリポソーム。
【請求項14】
前記リポソームは、ドキソルビシン、ビノレルビン、オリゴヌクレオチド、毒素、抗VEGFアプタマー、および放射性分子からなる群より選択される少なくとも1つの薬物をさらに含む、請求項11に記載のリポソーム。
【請求項15】
前記薬物はドキソルビシンである、請求項14に記載のリポソーム。
【請求項16】
前記リポソームはさらに医薬的に許容できる担体を含む、請求項14に記載のリポソーム。
【請求項17】
哺乳動物の疾患を処置する方法であって、処置を必要とする哺乳動物に請求項9に記載のペプチドの有効量を投与する工程を含む、方法。
【請求項18】
前記哺乳動物はヒトである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
哺乳動物の疾患を処置する方法であって、処置を必要とする哺乳動物に、1つまたはそれ以上の薬物と1つ以上の請求項2に記載のペプチドを含有するペプチドとを含むリポソームの有効量を投与する工程を含む、方法。
【請求項20】
前記リポソームは、配列番号2を含むペプチドまたはその変異体を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記リポソームは、配列番号2を含むペプチドを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記リポソームは1つ以上の化学療法薬物を含み、前記1つ以上の化学療法薬物は、ドキソルビシン、ビノレルビン、オリゴヌクレオチド、毒素、および抗VEGFアプタマー、および放射性分子からなる群より選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記化学療法薬物はドキソルビシンである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記疾患は癌である、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記癌は、肺癌、結腸癌、乳癌、前立腺癌、肝癌、膵癌、および口腔癌からなる群より選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記癌は、肺癌である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記癌は、口腔癌である、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記疾患は、加齢性黄斑変性である、請求項19に記載の方法。
【請求項29】
前記哺乳動物は、ヒトである、請求項19に記載の方法。
【請求項30】
試料中の新生血管系を検出するための方法であって、
a)前記試料を請求項2に記載のペプチドに、新生血管系に前記ペプチドが結合できる条件下で接触させる工程と、
b)請求項10に記載の抗体を用いて、前記ペプチドの結合を検出する工程と
を含む、方法。
【請求項31】
試料中の新生血管系を検出するための方法であって、
a)前記試料を請求項6に記載の融合ペプチドに、新生血管系に前記融合ペプチドが結合できる条件下で接触させる工程と、
b)前記融合ペプチドのエピトープに特異的な抗体を用いて、融合タンパク質の結合を検出する工程と
を含む、方法。
【請求項32】
試料中の新生血管系を検出するための方法であって、
a)前記試料を請求項7に記載のペプチドに、新生血管系に前記ペプチドが結合できる条件下で接触させる工程と、
b)前記ペプチドの標識を検出する工程と
を含む、方法。
【請求項33】
前記標識は、FITCおよびビオチンからなる群より選択される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
請求項2に記載のペプチドに結合する生体分子を同定する方法であって、
a)細胞抽出物を請求項2に記載のペプチドに、前記ペプチドおよびリガンドを含む複合体を形成できる条件下で接触させる工程と、
b)前記複合体を分析して前記リガンドを同定する工程と
を含む、方法。
【請求項35】
ストリンジェントな条件下で請求項1に記載のポリヌクレオチドの相補体にハイブリダイズする、ポリヌクレオチド。
【請求項36】
請求項1に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項37】
請求項36に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項38】
請求項35に記載のポリヌクレオチドによってコードされるペプチド。
【請求項1】
配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15および配列番号17からなる群より選択される配列を含む、ポリヌクレオチドまたはその変異体。
【請求項2】
配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16および配列番号18からなる群より選択される配列を含む、ペプチドまたはその変異体。
【請求項3】
前記ペプチドは配列番号2またはその変異体を含む、請求項2に記載のペプチド。
【請求項4】
前記ペプチドは配列番号2を含む、請求項3に記載のペプチド。
【請求項5】
第2のペプチドに融合された第1のペプチドを含む融合タンパク質であって、前記第1のペプチドは請求項2に記載のペプチドを含む、融合タンパク質。
【請求項6】
前記第2のペプチドはエピトープを含む、請求項5に記載の融合ペプチド。
【請求項7】
前記ペプチドは1つまたはそれ以上の標識を含む、請求項2に記載のペプチド。
【請求項8】
前記標識は、FITC、ビオチンおよび放射性同位元素からなる群より選択される、請求項7に記載のペプチド。
【請求項9】
前記ペプチドは、ドキソルビシン、ビノレルビン、オリゴヌクレオチド、毒素、抗VEGFアプタマー、および放射性分子からなる群より選択される1つまたはそれ以上の薬物に結合される、請求項2に記載のペプチド。
【請求項10】
請求項2に記載のペプチドに結合する抗体。
【請求項11】
請求項2に記載のペプチドを少なくとも1つ含むリポソーム。
【請求項12】
前記ペプチドは配列番号2またはその変異体を含む、請求項11に記載のリポソーム。
【請求項13】
前記ペプチドは配列番号2を含む、請求項11に記載のリポソーム。
【請求項14】
前記リポソームは、ドキソルビシン、ビノレルビン、オリゴヌクレオチド、毒素、抗VEGFアプタマー、および放射性分子からなる群より選択される少なくとも1つの薬物をさらに含む、請求項11に記載のリポソーム。
【請求項15】
前記薬物はドキソルビシンである、請求項14に記載のリポソーム。
【請求項16】
前記リポソームはさらに医薬的に許容できる担体を含む、請求項14に記載のリポソーム。
【請求項17】
哺乳動物の疾患を処置する方法であって、処置を必要とする哺乳動物に請求項9に記載のペプチドの有効量を投与する工程を含む、方法。
【請求項18】
前記哺乳動物はヒトである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
哺乳動物の疾患を処置する方法であって、処置を必要とする哺乳動物に、1つまたはそれ以上の薬物と1つ以上の請求項2に記載のペプチドを含有するペプチドとを含むリポソームの有効量を投与する工程を含む、方法。
【請求項20】
前記リポソームは、配列番号2を含むペプチドまたはその変異体を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記リポソームは、配列番号2を含むペプチドを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記リポソームは1つ以上の化学療法薬物を含み、前記1つ以上の化学療法薬物は、ドキソルビシン、ビノレルビン、オリゴヌクレオチド、毒素、および抗VEGFアプタマー、および放射性分子からなる群より選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記化学療法薬物はドキソルビシンである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記疾患は癌である、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記癌は、肺癌、結腸癌、乳癌、前立腺癌、肝癌、膵癌、および口腔癌からなる群より選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記癌は、肺癌である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記癌は、口腔癌である、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記疾患は、加齢性黄斑変性である、請求項19に記載の方法。
【請求項29】
前記哺乳動物は、ヒトである、請求項19に記載の方法。
【請求項30】
試料中の新生血管系を検出するための方法であって、
a)前記試料を請求項2に記載のペプチドに、新生血管系に前記ペプチドが結合できる条件下で接触させる工程と、
b)請求項10に記載の抗体を用いて、前記ペプチドの結合を検出する工程と
を含む、方法。
【請求項31】
試料中の新生血管系を検出するための方法であって、
a)前記試料を請求項6に記載の融合ペプチドに、新生血管系に前記融合ペプチドが結合できる条件下で接触させる工程と、
b)前記融合ペプチドのエピトープに特異的な抗体を用いて、融合タンパク質の結合を検出する工程と
を含む、方法。
【請求項32】
試料中の新生血管系を検出するための方法であって、
a)前記試料を請求項7に記載のペプチドに、新生血管系に前記ペプチドが結合できる条件下で接触させる工程と、
b)前記ペプチドの標識を検出する工程と
を含む、方法。
【請求項33】
前記標識は、FITCおよびビオチンからなる群より選択される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
請求項2に記載のペプチドに結合する生体分子を同定する方法であって、
a)細胞抽出物を請求項2に記載のペプチドに、前記ペプチドおよびリガンドを含む複合体を形成できる条件下で接触させる工程と、
b)前記複合体を分析して前記リガンドを同定する工程と
を含む、方法。
【請求項35】
ストリンジェントな条件下で請求項1に記載のポリヌクレオチドの相補体にハイブリダイズする、ポリヌクレオチド。
【請求項36】
請求項1に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項37】
請求項36に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項38】
請求項35に記載のポリヌクレオチドによってコードされるペプチド。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【図7】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【図7】
【公表番号】特表2010−517576(P2010−517576A)
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−549136(P2009−549136)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【国際出願番号】PCT/US2008/001810
【国際公開番号】WO2008/100482
【国際公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(596118493)アカデミア シニカ (33)
【氏名又は名称原語表記】ACADEMIA SINICA
【出願人】(503209342)ナショナル タイワン ユニバーシティ (9)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【国際出願番号】PCT/US2008/001810
【国際公開番号】WO2008/100482
【国際公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(596118493)アカデミア シニカ (33)
【氏名又は名称原語表記】ACADEMIA SINICA
【出願人】(503209342)ナショナル タイワン ユニバーシティ (9)
【Fターム(参考)】
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