説明

臨床検査用試薬収容容器

【課題】
臨床検査用自動分析装置で用いられる試薬収容容器において、容器の成形がし易く、凍結乾燥処理を行うことが可能であり、安価な、試薬を収容可能な臨床検査用試薬収容容器を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明は、臨床検査用試薬を収容し、臨床検査用自動分析装置に用いられる臨床検査用試薬収容容器であって、シクロオレフィンコポリマーを一体成形することにより得られ、凍結乾燥処理に適用可能であることを特徴とする臨床検査用試薬収容容器を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臨床検査用自動分析装置で用いる臨床検査用試薬収容容器に関する。
【背景技術】
【0002】
生体から採取された血液等を分析する臨床検査用自動分析装置として、血液凝固自動分析装置、免疫自動分析装置及び生化学自動分析装置などが知られている。これら臨床検査用自動分析装置においては、所定の検査項目の試薬を収容した試薬容器を試薬設置部に設置することにより、その試薬を用いて自動的に検体の分析を行うことができる。このような自動分析装置に使用される試薬容器として、特許文献1の図1に示される平底の試薬容器、特許文献2の図2に示される自動測定用の容器など様々な形状の試薬容器が使用されている。様々な形状の試薬容器を作製する場合には、コストや成形の容易性を考慮すると、樹脂製のものが好ましい。特許文献2にはこのような容器を形成するための樹脂として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、結晶性ポリブタジエン、ポリフェニレンサルファイド、塩素化ポリエーテル、環状ポリオレフィン、及びポリエチレンテレフタレート等が挙げられている。
特許文献2記載の技術は、光透過性に優れ、かつ液状試薬の保存性に優れた容器を提供することを課題とする技術である。この技術課題を解決するために、実施例では、ポリプロピレンを用いた樹脂製容器が記載されている。
しかしながら、凍結乾燥試薬の場合、試薬容器に対象試薬をいれて−40℃から−50℃の低温で凍結し、真空排気後、乾燥することにより製造される。このため、ポリプロピレン製の試薬容器では凍結乾燥処理に伴う温度変化や圧力変化に対して十分な強度がない。このような事情から、凍結乾燥試薬用の試薬容器としては、一般的にガラス製の試薬容器が使用されている。
一方、血液凝固自動分析装置でキャリブレータ試料やコントロール試料として用いられている血漿試薬は凍結乾燥試薬であるが、血漿試薬中に含まれる血液凝固因子とガラスのような陰性荷電を有する固相とが接触することにより血液凝固因子が活性化するため、ガラス製の試薬容器に血漿試薬をそのまま収容することができない。そのため血漿試薬用の試薬容器としては、一般的に容器の内壁がシリコナイズ処理されたガラス製の試薬容器が使用されている。しかしながら、この試薬容器では、シリコナイズ処理を施すコストがかかるという問題がある。また、シリコナイズ処理が不均一であれば容器間差が生じ正確な検査の妨げになるため、試薬容器の品質管理を行う必要性が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−46624号公報
【特許文献2】特開2004−251638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は以上のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、臨床検査用自動分析装置で用いられる試薬容器において、容器の成形が容易で、凍結乾燥処理を行うことが可能であり、安価な、試薬を収容可能な臨床検査用試薬収容容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題に鑑み、本発明は、臨床検査用試薬を収容し、臨床検査用自動分析装置に用いられる臨床検査用試薬収容容器であって、シクロオレフィンコポリマーを一体成形することにより得られ、凍結乾燥処理に適用可能であることを特徴とする臨床検査用試薬収容容器を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の臨床検査試薬用容器によれば、容器の成形が容易で、凍結乾燥処理を行うことが可能であり、安価な、試薬を収容可能な臨床検査用試薬収容容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の一実施形態に係る臨床検査用試薬収容容器1を示す斜視図である。
【図2】図1の容器本体2の中心軸線A−A’を含む断面図である。
【図3】COC製容器で容器間差試験を行った結果を示した表である。
【図4】シリコナイズ処理を施したガラス製容器の容器間差試験を行った結果を示した表である。
【図5】保存安定性試験としてプロトロンビン時間を測定した結果を示すグラフである。
【図6】保存安定性試験として部分トロンボプラスチン時間を測定した結果を示すグラフである。
【図7】保存安定性試験としてフィブリン濃度を測定した結果を示すグラフである。
【図8】保存安定性試験としてトロンボテストを行った結果を示すグラフである。
【図9】保存安定性試験としてヘパプラスチンテストを行った結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本実施形態で用いられる臨床検査用試薬収容容器とは、血液凝固自動分析装置、免疫自動分析装置及び生化学自動分析装置等の臨床検査用自動分析装置で用いられる臨床検査用試薬を収容する試薬容器である。
【0009】
シクロオレフィンコポリマーとは、環状オレフィンとエチレン等のオレフィンとの共重合体である非結晶性の環状オレフィン系樹脂のことである。環状オレフィンは、多環式の環状オレフィンと単環式の環状オレフィン類とがあり、多環式の環状オレフィンとしては、ノルボルネン、メチルノルボルネン、ジメチルノルボルネン、エチルノルボルネン、エチリデンノルボルネン、ブチルノルボルネン、ジシクロペンタジエン、ジヒドロジシクロペンタジエン、メチルジシクロペンタジエン、ジメチルジシクロペンタジエン、テトラシクロドデセン、メチルテトラシクロドデセン、ジメチルシクロテトラドデセン、トリシクロペンタジエン、テトラシクロペンタジエンなどが挙げられ、単環式の環状オレフィンとしては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロオクテン、シクロオクタジエン、シクロオクタトリエン、シクロドデカトリエンなどが挙げられる。
本実施形態におけるシクロオレフィンコポリマーとしては、凍結乾燥処理に伴う温度変化や圧力変化に対して十分な強度がある環状オレフィン系樹脂であれば特に限定されない。好ましくは、エチレンとノルボルネンとの共重合体や、エチレンとテトラシクロドデセンとの共重合体による樹脂である。エチレンとノルボルネンとの共重合体は「TOPAS(登録商標):ポリプラスチックス社製」として、エチレンとテトラシクロドデセンとの共重合体は「APEL(登録商標):三井化学株式会社製」として市販されている。
【0010】
本実施形態で用いられる試薬容器の形状は、自動分析装置において、試薬容器が設置される試薬設置部の形状や使用される試薬の量に合わせて成形することができる。
例えば、図1及び図2に示す試薬容器が挙げられる。図1は、本発明の一実施形態に係る臨床検査用試薬収容容器1の斜視図であり、図2は図1の容器本体2の中心軸線A−A’を含む断面図である。臨床検査用試薬収容容器1は、容器本体2と蓋体3とから成る。容器本体2は、上端側に開口部4を有し、下端側に底部5を有する円筒形状の外観を有している。蓋体3は前記開口部4に螺合し、前記容器本体2の開口部4を閉鎖する。底部5の内面は、平底状の内底面5aを有している。
【0011】
上記容器本体2を一体成形する方法としては、様々な形状に成形することが可能であるインジェクションブロー成形が好ましい。
【0012】
本実施形態における臨床検査用試薬としては、臨床検査用自動分析装置で用いられる試薬であれば特に限定されないが、例えば血液凝固自動分析装置、免疫自動分析装置及び生化学自動分析装置で用いられる所定の検査項目の検査試薬が挙げられる。
【0013】
所定の検査項目とは、臨床検査用自動分析装置で分析される、診断の指標となる項目を示す。具体的には、血液凝固検査では、PT(プロトロンビン時間)、APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)、フィブリノーゲンなどの基本項目から、複合因子であるTTO、HPT、合成基質法によるATIII、PLC、免疫比濁法によるFDP、Ddimerなど様々な検査項目がある。
これら所定の検査項目を測定する場合、検査項目に応じた試薬を用いる。例えば、血液凝固検査用試薬の場合、PT測定ではトロンボチェックPTプラス(シスメックス社製)、APTT測定ではトロンボチェックAPTT−SLA(シスメックス社製)、フィブリン濃度測定ではトロンボチェックFib(シスメックス社製)、複合因子測定では、複合因子T「コクサイ」(シスメックス社製)等が用いられる。
【0014】
また、臨床検査用試薬には、キャリブレータ試料やコントロール試料も含まれる。
キャリブレータ試料は、臨床検査用自動分析装置の較正に用いられる試料である。例えば、血液凝固自動分析装置では、キャリブレータ試料としてヒト血漿が用いられ、具体的にはコアグトロールN(シスメックス社製)等が挙げられる。このヒト血漿は、凍結乾燥処理されることにより保存が容易となり、使用時に精製水で溶解して用いられる。
【0015】
コントロール試料は、検査項目を測定する場合の標準として用いられる試料である。例えば血液凝固自動分析装置では、コントロール試料としてヒト血漿が用いられ、具体的にはコアグトロールIX・IIX(シスメックス社製)が挙げられる。このヒト血漿は、キャリブレータ用血漿と同様、凍結乾燥処理されている。
【0016】
凍結乾燥処理を行う試薬は、容器に対象試薬をいれて−40℃から−50℃の低温で凍結し、真空排気後、乾燥することにより製造される。このため臨床検査用試薬収容容器は、凍結乾燥処理に伴う温度変化や圧力変化に対して十分な強度が必要となる。そのため、一般的にガラス製の試薬容器が用いられている。しかしながら前記ヒト血漿のような血液凝固因子を含む血漿試薬は、血液凝固因子とガラスのような陰性荷電を有する固相とが接触すると、血液凝固因子が活性化する。このため、ガラス製の容器を用いる場合には、容器内面をシリコナイズ処理する必要がある。本実施形態で用いられる試薬容器は、血漿試薬をそのまま収容しても血液凝固因子は活性化されないので、このような血液凝固因子を含む試薬を収容する容器として特に適している。
以下に本発明の臨床検査用試薬収容容器の一実施形態において、凍結乾燥処理を行った場合の血液凝固因子を含む血漿試薬の安定性試験および容器間差試験を実施した例を示す。
【実施例】
【0017】
以下の実施例では、ヒト血漿を用いてシクロオレフィンコポリマー(以下COCと記載する。)で成形された試薬容器の容器間差試験及び安定性試験を実施した結果を記載する。
【0018】
実施例1:COCで成形された容器の容器間差試験
エチレンとノルボルネンとの共重合体(TOPAS(登録商標):ポリプラスチックス社製)を用いて、インジェクションブロー成形によりCOC製容器を作製した。このCOC製容器にヒト血漿1mLを収容し、COC製容器の開口部を半打栓した。
次にCOC製容器に収容された血漿の凍結乾燥を行った。凍結乾燥は、−70℃〜−10℃程度で凍結させ、その後、高真空下で乾燥を行った。乾燥時の温度は−40℃〜4℃程度とした。凍結乾燥処理後、COC製容器の開口部を閉栓した。
凍結乾燥処理後のCOC製容器において、強度低下による割れや変形、透明性低下による白濁等は見られなかった。
【0019】
〔試験方法〕
凍結乾燥されたヒト血漿を用いて、容器間差試験を行った。
容器間差試験は、プロトロンビン時間、活性化部分トロンボプラスチン時間、フィブリン濃度時間、トロンボテスト及びヘパプラスチンテストの検査項目を測定して試験を行った。測定装置として血液凝固測定装置コアグレックス(シスメックス社製)を使用し、測定試薬としてトロンボチェックPT、トロンボチェックAPTT、トロンボチェックFib、複合因子・T「コクサイ」、複合因子・H「コクサイ」(シスメックス社製)を使用し、上記測定装置の取扱説明書に従って各検査項目について20検体ずつ測定した。
各検査項目において20検体測定した結果から、平均値(AVG.)標準偏差(SD)変動係数(CV)を算出した。
【0020】
比較例1
実施例1のCOC製容器を、シリコナイズ処理を施したガラス製容器を用いた以外は上記実施例1と同様の方法を用いて測定した。
【0021】
結果
実施例1および比較例1で得られた結果を図3及び図4に示す。実施例1および比較例1で得られた結果を比較すると、各検査項目において、ガラス製容器よりもCOC製容器の方がCVの値(%)が小さかった。このため、COC製容器は上記試薬において、ガラス容器よりも容器間差が少ないことがわかる。よってCOC製容器はガラス製容器と同等以上に使用可能であることが示された。
【0022】
実施例2:COCで成形された容器に収容されたヒト血漿の2〜8℃における安定性試験。
エチレンとノルボルネンとの共重合体(TOPAS(登録商標):ポリプラスチックス社製)を用いて、インジェクションブロー成形によりCOC製容器を作製した。このCOC製容器にヒト血漿1mLを収容し、COC製容器の開口部を半打栓した。
次にCOC製容器に収容された血漿の凍結乾燥を行った。凍結乾燥は、−70℃〜−10℃程度で凍結させ、その後、高真空下で乾燥を行った。乾燥時の温度は−40℃〜4℃程度とした。凍結乾燥処理後、COC製容器の開口部を閉栓した。
凍結乾燥処理後のCOC製容器において、強度低下による割れや変形、透明性低下による白濁等は見られなかった。
【0023】
〔試験方法〕
凍結乾燥されたヒト血漿を2〜8℃で0、30,60,90、120、180日間保管し、それぞれの期間保管した後のヒト血漿を用いて安定性試験を行った。
安定性試験は、プロトロンビン時間測定、活性化部分トロンボプラスチン時間測定、フィブリン濃度時間測定、トロンボテスト及びヘパプラスチンテストを行った。各検査を行うための測定装置として血液凝固測定装置コアグレックス(シスメックス社製)を使用し、検査試薬としてトロンボチェックPT、トロンボチェックAPTT、トロンボチェックFib、複合因子・T「コクサイ」、複合因子・H「コクサイ」(シスメックス社製)を使用し、上記測定装置の取扱説明書に従って上記検査項目を測定した。
【0024】
比較例2
実施例2のCOC製容器の代わりにガラス製容器にシリコナイズ処理を施したものを用いた以外は上記実施例と同様の方法を用いて測定した。
【0025】
結果
実施例2及び比較例2で得られた結果を図5〜図9に示す。図5〜図9は、0日保管した血漿の測定結果を100%としたときの、各日数保管した血漿の測定結果を各検査項目においてグラフ化したものである。
実施例2と比較例2とを比較すると、図5〜図9において、保存安定性においては、シリコナイズ処理を施したガラス製容器とCOC製容器とでは長期安定性においてほとんど差は見られなかった。このことから、COC製容器は、従来使用されていたガラス製容器と同等に使用可能であることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
臨床検査用試薬を収容し、臨床検査用自動分析装置に用いられる臨床検査用試薬収容容器であって、
シクロオレフィンコポリマーを一体成形することにより得られ、
凍結乾燥処理に適用可能であることを特徴とする臨床検査用試薬収容容器。
【請求項2】
前記シクロオレフィンコポリマーが、エチレンとノルボルネンまたはテトラシクロドデセンとの共重合体である、請求項1に記載の臨床検査用試薬収容容器。
【請求項3】
臨床検査用試薬が、臨床検査用自動分析装置のキャリブレータ試料またはコントロール試料であることを特徴とする、請求項1または2に記載の臨床検査用試薬収容容器。
【請求項4】
臨床検査用試薬が、所定の検査項目の検査試薬であることを特徴とする、請求項1または2に記載の臨床検査用試薬収容容器。
【請求項5】
臨床検査用自動分析装置が血液凝固検査用自動分析装置であって、臨床検査用試薬が血液凝固検査用試薬である、請求項1または2のいずれかに記載の臨床検査用試薬収容容器。
【請求項6】
前記容器は、インジェクションブロー方式により成形される、請求項1〜5のいずれかに記載の臨床検査用試薬収容容器。
【請求項7】
血液凝固検査用試薬を収容する容器であって、
シクロオレフィンコポリマーで一体成形されていることを特徴とする血液凝固検査用試薬収容容器。
【請求項8】
血液凝固検査用試薬は、血液凝固検査用自動分析装置のキャリブレータ血漿またはコントロール血漿であることを特徴とする、請求項7に記載の血液凝固検査用試薬収容容器。
【請求項9】
血液凝固検査用試薬は、プロトロンビン時間測定試薬、活性化部分トロンボプラスチン時間測定試薬、フィブリン濃度測定試薬または複合因子測定試薬のいずれかである、請求項8に記載の血液凝固検査用試薬収容容器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−236926(P2010−236926A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−83018(P2009−83018)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】