説明

自動制御式マニュアルトランスミッション及びその制御方法

【課題】従来技術の自動制御式マニュアルトランスミッション(ATM)に対して最小限の改良で暖機促進機能を付加することができる自動制御式マニュアルトランスミッション及びその制御方法を提供する。
【解決手段】駆動するシフトフォークを選択するセレクト用駆動装置18とギアケース10aの内部との間で潤滑油Aを循環させる潤滑油供給機構15、15aを設けると共に、変速機温度検出手段21と、シフトフォークの位置を検出するシフト位置検出手段16aと、制御装置23を備え、変速機温度検出手段21で検出した温度Ttが予め設定した暖機判定用温度Thよりも低く、かつ、シフト位置検出手段16aで検出したシフト位置により変速制御がなされていないと判定された場合に、セレクト用駆動装置18を駆動する駆動用電力を供給する制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来技術の自動制御式マニュアルトランスミッション(ATM)に対して最小限の改良で暖機促進機能を付加することができる自動制御式マニュアルトランスミッション及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃費を低減する要求が増大していることに伴い、車両用のトランスミッション(変速機)も高効率化が求められるようになってきており、自動制御式マニュアルトランスミッション(Automated Manual Transmission)も例外ではなくなってきている。この自動制御式マニュアルトランスミッションは、オートマチックトランスミッション(AT)とは異なり、従来のマニュアルトランスミッション(MT)の機構をそのままに、操作系を自動制御(オートマチック)にしたものであり、クラッチやギアボックス自体はマニュアルトランスミッションと同様の構造を持つものである。
【0003】
この自動制御式マニュアルトランスミッションの効率を向上する方法の一つとして、暖機時に、図5及び図6に示すように、トランスミッション10X、10Yの内部で入力軸11と出力軸12と副軸13、及び、主ギア11a、12aと副ギア13a等を潤滑する潤滑油Aの油温を早く高めることで、オイルパン14に貯めている潤滑油Aの副ギア13aによる撹拌抵抗を低減する方法が提案されている。
【0004】
この潤滑油Aの昇温の方法として、図5に示すように電気ヒータ51をオイルパン14の内部に設けて、温度センサ52の検出値を基に制御装置(ヒータコントローラ)53で制御される電気ヒータシステム50を用いて潤滑油Aを加熱する方法がある。
【0005】
また、図6に示すように、排気管61に排気ガス分岐通路62を設けて、流量調整バルブ63を経由して熱交換機64に排気ガスGを導く共に、潤滑油配管15に設けられたオイルポンプ15aから熱交換機64に潤滑油Aを導いて、排気ガスGの熱で潤滑油Aを加熱し、この加熱量を、温度センサ65の検出値を基にして制御装置(コントローラ)66で流量調整バルブ63を制御することで調整する熱交換器システム60を用いて潤滑油Aを加熱する方法もある。
【0006】
これに関連して、トランスミッションのオイルパンに適温の潤滑油を供給するために、トランスミッションの外部に蓄熱タンクを設け、この蓄熱タンクに電気ヒータ等の加熱手段を設けて、オイルパンに貯留した低温の潤滑油と蓄熱タンクに貯留した高温の潤滑油とを選択的に、潤滑油を濾過するストレーナを経由させてトランスミッションに供給する潤滑油の温度制御装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
しかしながら、電気ヒータや排気ガスとの熱交換器や蓄熱タンク等を設ける場合は、いずれも新たな部品と大幅な設計変更が必要となるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−196788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、従来技術の自動制御式マニュアルトランスミッション(ATM)に対して最小限の改良で暖機促進機能を付加することができる自動制御式マニュアルトランスミッション及びその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記のような目的を達成するための本発明の自動制御式マニュアルトランスミッションは、駆動するシフトフォークを選択するセレクト用駆動装置を備えた自動制御式マニュアルトランスミッションにおいて、前記セレクト用駆動装置とギアケースの内部との間で潤滑油を循環させる潤滑油供給機構を設けると共に、変速機温度検出手段と、前記シフトフォークの位置を検出するシフト位置検出手段と、制御装置を備え、該制御装置が、前記変速機温度検出手段で検出した温度が予め設定した暖機判定用温度よりも低く、かつ、前記シフト位置検出手段で検出したシフト位置により変速制御がなされていないと判定された場合に、前記セレクト用駆動装置を駆動する駆動用電力を供給する制御を行うように構成される。
【0011】
なお、この変速制御がなされていない場合とは、シフトアップ及びシフトダウンの制御がなされていない期間の状態、即ち、ギアポジションが任意のギア段またはニュートラルに固定されている状態をいう。
【0012】
この構成によれば、自動制御式マニュアルトランスミッションの暖機時に、セレクト用駆動装置へ駆動用電力を供給するので、この駆動用電力による発熱により、セレクト用駆動装置の内部の潤滑油を昇温させることができ、この昇温した潤滑油を自動制御式マニュアルトランスミッションのギアケース(ギアボックス)の内部に循環させることで自動制御式マニュアルトランスミッションの暖機を促進することができる。
【0013】
また、セレクト用駆動装置とギアケースの内部との間で潤滑油を循環させる潤滑油供給機構を構成する最小限の部品追加で暖機促進機構を備えることができる。そして、この暖機促進機構を用いた暖機促進により、迅速に潤滑油の温度を上げて潤滑油を撹拌する時の粘性抵抗を低減できるので、自動制御式マニュアルトランスミッションの冷間時における伝達損失を減少できる。また、この暖機促進により、自動制御式マニュアルトランスミッションの冷間時におけるシフトフィーリングの悪化を抑制できる。
【0014】
上記の自動制御式マニュアルトランスミッションにおいて、前記セレクト用駆動装置の温度を検出する駆動装置温度検出手段を備え、前記制御装置が、前記駆動装置温度検出手段で検出した温度が予め設定した過熱判定温度よりも高くなった場合には、前記セレクト用駆動装置への駆動用電力の供給を停止する制御を行うように構成すると、暖機時におけるセレクト用駆動装置の駆動による過熱を防止することができる。 上記の自動制御式マニュアルトランスミッションおいて、前記制御装置が、暖機促進のために前記セレクト用駆動装置の駆動用電力を供給している際に、該自動制御式マニュアルトランスミッションを搭載した車両の減速動作中において前記駆動用電力の電力量を増加する制御を行うように構成すると、セレクト用駆動装置で消費する電力の全部又は一部を、ACG回生等で高まったオルタネータの発電電力等で賄うことができるようになり、燃料の消費量を抑制できる。
【0015】
そして、上記のような目的を達成するための本発明の自動制御式マニュアルトランスミッションの制御方法は、駆動するシフトフォークを選択するセレクト用駆動装置と、該セレクト用駆動装置とギアケースの内部との間で潤滑油を循環させる潤滑油供給機構と、変速機温度検出手段と、前記シフトフォークの位置を検出するシフト位置検出手段と、前記セレクト用駆動装置の温度を検出する駆動装置温度検出手段と、制御装置を備えた自動制御式マニュアルトランスミッションの制御方法において、前記変速機温度検出手段で検出した温度が予め設定した暖機判定用温度よりも低く、かつ、シフト位置検出手段で検出しシフト位置により変速制御がなされていないと判定された場合に、前記セレクト用駆動装置を駆動する駆動用電力を供給することを特徴とする方法である。
【0016】
この方法によれば、自動制御式マニュアルトランスミッションの暖機時に、セレクト用駆動装置へ駆動用電力を供給するので、この駆動用電力による発熱により、セレクト用駆動装置の内部の潤滑油を昇温させることができ、この昇温した潤滑油を自動制御式マニュアルトランスミッションの内部に循環させることで自動制御式マニュアルトランスミッションの暖機を促進することができる。
【0017】
また、セレクト用駆動装置とギアケースの内部との間で潤滑油を循環させる潤滑油供給機構を構成する最小限の部品追加で暖機促進機構を備えることができ、この暖機促進機構を用いた暖機促進により、迅速に潤滑油の温度を上げて潤滑油を撹拌する時の粘性抵抗を低減できるので、自動制御式マニュアルトランスミッションの冷間時における伝達損失を減少できる。また、この暖機促進により、自動制御式マニュアルトランスミッションの冷間時におけるシフトフィーリングの悪化を抑制できる。
【0018】
上記の自動制御式マニュアルトランスミッションの制御方法において、前記駆動装置温度検出手段で検出した温度が予め設定した過熱判定温度よりも高くなった場合には、前記セレクト用駆動装置への駆動用電力の供給を停止すると、暖機時におけるセレクト用駆動装置の駆動による過熱を防止することができる。
【0019】
また、上記の自動制御式マニュアルトランスミッションの制御方法において、暖機促進のために前記セレクト用駆動装置の駆動用電力を供給している際に、該自動制御式マニュアルトランスミッションを搭載した車両の減速動作中において前記駆動用電力の電力量を増加するように構成すると、セレクト用駆動装置で消費する電力の全部又は一部を、ACG回生等で高まったオルタネータの発電電力等で賄うことができるようになり、燃料の消費量を抑制できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る自動制御式マニュアルトランスミッション及びその制御方法によれば、最小限の部品追加で暖機促進機構を備えることができ、この暖機促進機構を用いた暖機促進により、迅速に潤滑油の温度を上げて潤滑油を撹拌する時の粘性抵抗を低減できるので、自動制御式マニュアルトランスミッションの冷間時における伝達損失を減少できる。また、この暖機促進により、自動制御式マニュアルトランスミッションの冷間時におけるシフトフィーリングの悪化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る第1の実施の形態の自動制御式マニュアルトランスミッションの構成を示す図である。
【図2】本発明に係る第2の実施の形態の自動制御式マニュアルトランスミッションの構成を示す図である。
【図3】本発明に係るセレクト用駆動装置内における潤滑油の流れを示す図である。
【図4】本発明に係る自動制御式マニュアルトランスミッションの制御方法に関する制御フローの一例を示す図である。
【図5】従来技術の自動制御式マニュアルトランスミッションの構成を示す図である。
【図6】従来技術の自動制御式マニュアルトランスミッションの他の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る実施の形態の自動制御式マニュアルトランスミッション及びその制御方法について、図面を参照しながら説明する。
【0023】
この自動制御式マニュアルトランスミッション(Automated Manual Transmission:AMT)は、オートマチックトランスミッション(AT)とは異なり、従来のマニュアルトランスミッション(MT)の機構をそのままに、操作系を自動制御(オートマチック)にしたものであり、クラッチやギアケース(ギアボックス)自体はマニュアルトランスミッション(MT)と同様の構造を持つものである。
【0024】
図1に示すように、この自動制御式マニュアルトランスミッション10は、全体を包んでいるギアケース(ギアボックス)10aの内部に入力軸11と出力軸12と副軸13を有して形成されている。入力軸11の軸心方向と出力軸12の軸心方向は同じ直線上に配置され、副軸13は、入力軸11と出力軸12に平行に配置されている。
【0025】
そして、この入力軸11には主ギア11aが、出力軸12には主ギア12aが、副軸13には副ギア13aがそれぞれ設けられている。入力軸11の主ギア11aと副軸13の副ギア13aとが噛み合い、更に、副軸13の別の副ギア13aと出力軸12の主ギア12aとが噛み合うことで、入力軸11の回転が副軸13を介して出力軸12に伝達される。また、これらの主ギア11aと副ギア13aのギア比と副ギア13aと主ギア12aのギア比とにより、入力軸11の回転数と出力軸の回転数の比、即ち、変換機10としての増幅比が決まる。
【0026】
変速機構部17には、ギアを組み替えるために、駆動するシフトフォークを選択するためのセレクト用駆動装置18が設けられる。このセレクト用駆動装置18は、図3に示すように、ケース18a内にセレクトソレノイド18bとこのセレクトソレノイド18bへの駆動用電力の供給の有無により矢印方向に移動する可動鉄心等の移動部材18cと、この移動部材18cに連結したリンク機構18dと、このリンク機構18dにより移動するシフトレバー18eを有して構成される。このシフトレバー18eの移動によりシフトシャフト16をシフトして、駆動するシフトフォークを選択(セレクト)することができる。なお、セレクトソレノイド18bで移動部材18cを移動させる代わりに、電動モータで移動部材18cを移動させることもできる。なお、ギアイン中、即ち、ギアポジションが任意のギア段に固定されている状態の時は、セレクトソレノイド18bに駆動用電力を供給しても、ブロックされているためシフトレバー18eの位置は変化しない。
【0027】
また、シフトフォークのシフト位置を検出するシフト位置検出手段であるポジションセンサ16aが設けられている。このポジションセンサ16aは、シフトフォークの位置をそれぞれ検出する手段であり、シフトフォークの数に対応した個数が存在する。これらのポジションセンサ16aにより、変速動作中であるか否かを判定する。ポジションセンサ16aで検出されたシフト位置、即ち、ポジション位置が、任意のギア段又はニュートラルに固定されていれば、変速制御中ではないと判定し、ポジションセンサ16aで検出されたシフト位置が任意のギア段又はニュートラルに固定されていなければ、変速制御中であると判定する。
【0028】
また、潤滑油供給機構は、ギアケース10aの内部の下側に設けられたオイルパン14と、このオイルパン14からギアケース10aの内部の軸11、12、13等に潤滑油Aを供給するための潤滑油配管15とオイルポンプ15aとを備えている。
【0029】
更に、本発明では、セレクト用駆動装置18とギアケース10aの内部との間で潤滑油Aを循環させる潤滑油供給機構を設ける。つまり、潤滑油配管15をセレクト用駆動装置18に連結し、潤滑油Aをこのセレクト用駆動装置18からギアケース10aの内部に供給するようにセレクト用駆動装置18の内部に潤滑油Aの流路を形成する。図3にセレクト用駆動装置18の内部の潤滑油Aの通路の例を示す。
【0030】
セレクト用駆動装置18のセレクトソレノイド18bに駆動用電力を供給している間は、セレクトソレノイド18bが流れる電流により発熱して、潤滑油Aが加熱され、この加熱された潤滑油Aがギアケース10aに入り、オイルパン14内の潤滑油Aの温度を上昇させる。
【0031】
また、ギアケース10aの内部における、各軸11、12、13と各ギア11a、12a、13a等への潤滑油Aの供給は、潤滑油配管15とセレクト用駆動装置18からの供給だけではなく、オイルポンプ15aから出力軸12へ潤滑油Aを供給することや、オイルパン14に溜まっている潤滑油Aを副ギア13aが掻き出して、上側の各軸11、12、13と各ギア11a、12a、13a等への潤滑油の供給することでも行われる。
【0032】
更に、変速機温度検出手段としての第1温度センサ21と、駆動装置温度検出手段としての第2温度センサ22と、制御装置(ドライバを含む)23とを備えて構成される。この第1温度センサ21は、潤滑油配管15の潤滑油Aの油温Ttを検出する。また、第2温度センサ22は、セレクト用駆動装置18内の潤滑油Aの油温Tsを検出する。また、この制御装置23は通常は、エンジン(内燃機関)や自動制御式マニュアルトランスミッション10等を含めた車両全体の制御を行う制御装置に組み込まれる。
【0033】
この第1の実施の形態の自動制御式マニュアルトランスミッション10では、暖機促進機構として、従来技術の自動制御式マニュアルトランスミッションに加えるものは、セレクト用駆動装置18に連結する潤滑油配管15の延長部分と潤滑油Aをこのセレクト用駆動装置18からギアケース10aの内部に供給する構成と、変速機温度検出手段としての第1温度センサ21と、駆動装置温度検出手段としての第2温度センサ22と、制御装置23になる。なお、シフトポジションセンサ16aや制御回路等で従来技術の自動制御式マニュアルトランスミッションが備えていたものは供用してもよい。
【0034】
次に、図2に示す第2の実施の形態の自動制御式マニュアルトランスミッション10Aについて説明する。この自動制御式マニュアルトランスミッション10Aでは、セレクト用駆動装置18の電源に供えられた電流検出手段22Aを用いる。この場合は、セレクト用駆動装置18のソレノイドやモータ内の銅線の温度の上昇に伴って通電に対する抵抗値が高まるため、電流が低下するという関係を用いて、セレクト用駆動装置18の過熱を検出することができる。
【0035】
この第2の実施の形態の自動制御式マニュアルトランスミッション10Aは、その他の構成は、第1の実施の形態の自動制御式マニュアルトランスミッション10と同じである。この第2の実施の形態の自動制御式マニュアルトランスミッション10Aでは、暖機促進機構として、従来技術の自動制御式マニュアルトランスミッションに加えるものは、セレクト用駆動装置18に連結する潤滑油配管15の延長部分と潤滑油Aをこのセレクト用駆動装置18からギアケース10aの内部に供給する構成と、変速機温度検出手段である第1温度センサ21と、電流検出手段22Aと、制御装置23になる。
【0036】
上記の構成の自動制御式マニュアルトランスミッション10、10Aにおける制御方法について説明する。この制御方法は、図4に例示するような制御フローに従って行われる。この図4の制御フローは、エンジンの始動と共に、上級の制御フローから呼ばれて、図4の制御フロー、即ち、スタートして、ステップS11〜ステップS14、又は、ステップS11〜ステップS14を実施してはリターンして、上級の制御フローに戻り、戻った後も、更に、上級の制御フローから呼ばれて、図4の制御フローを繰り返すものとして示してある。
【0037】
この図4の制御フローがスタートすると、ステップS11で、変速機温度検出手段である第1温度センサ21で検出された変速機温度Ttが、予め設定された暖機判定温度Thより低いか否かを判定する。このステップS11の判定で、変速機温度Ttが暖機判定温度Thより低い場合(YES)はステップS12に行き、変速機温度Ttが暖機判定温度Th以上の場合(NO)はステップS15に行ってセレクト用駆動装置18の駆動を停止しリターンする。なお、暖機判定温度Thは40℃〜80℃の範囲の温度、例えば、60℃に設定される。
【0038】
ステップS12では、シフト位置検出手段であるポジションセンサ16aで検出されたシフト位置が変速制御中であるか否かを判定する。このステップS12の判定で、変速制御中でない場合(NO)は、ステップS13に行き、変速制御中である場合(YES)はステップS15に行き、セレクト用駆動装置18の駆動を停止しリターンする。
【0039】
なお、変速制御中でない場合とは、シフトアップ及びシフトダウンの制御がなされていない期間の状態、即ち、ギアポジションが任意のギア段またはニュートラルに固定されている状態である場合である。逆に、変速制御中である場合とは、シフトアップ及びシフトダウンの制御がなされている期間の状態、即ち、ギアポジションが任意のギア段またはニュートラルに固定されていない状態である場合である。
【0040】
ステップS13では、駆動装置温度検出手段である第2温度センサ22で検出された駆動装置温度Tsが、予め設定された過熱判定温度(オーバーヒート判定温度)To以下であるか否かを判定する。このステップS13の判定で、駆動装置温度Tsが過熱判定温度To以下の場合(YES)はステップS14に行ってセレクト用駆動装置18を駆動し、即ち、駆動用電力を供給してリターンする。また、駆動装置温度Tsが過熱判定温度Toを超えている場合(NO)はステップS15に行ってセレクト用駆動装置18の駆動を停止しリターンする。なお、過熱判定温度Toは90℃〜120℃の範囲の温度、例えば、100℃に設定される。
【0041】
この制御により、変速機温度検出手段21で検出した温度Ttが予め設定した暖機判定用温度Thよりも低く、かつ、前記シフト位置検出手段22で検出したシフト位置により変速制御がなされていないと判定された場合に、セレクト用駆動装置18を駆動する駆動用電力を供給する制御を行うことができる。
【0042】
なお、この変速制御がなされておらず、ギアインしている最中は、セレクト用駆動装置18を駆動しても、変速位置は変化しないため、ギア抜けや二重噛み合いといった変速不良となることはない。
【0043】
この状態で、セレクト用駆動装置18を駆動する駆動用電力を供給して、セレクトソレノイド18bに電流を流し続けると、セレクトソレノイド18bには伸び力が発生した状態となるが、シフト位置がニュートラルでない場合は、セレクト駆動装置18のレバー18eの移動が制限されるので、力は発生するがリンク機構18dは動かない。なお、電動モータの場合には、伸び・縮み側のどちらかにトルクが発生し続ける状態となる。
【0044】
そして、セレクトソレノイド18b(又は電動モータ内)のコイルに電気を印加することで発熱する。この発熱量Wは、印加電圧をV,コイル抵抗をQとすると、W=V2/Rとなる。このコイルの熱は絶縁銅線を巻いたボビン等を通して周囲に流れている潤滑油Aに伝熱される。なお、セレクト駆動装置18が複数ある場合は、供給電力が許せば、全部のセレクトソレノイド18b(又は電動モータ内)のコイルに電気を印加して暖機促進することが好ましい。
【0045】
更に、駆動装置温度検出手段22で検出した温度Tsが予め設定した過熱判定温度Toよりも高くなった場合には、セレクト用駆動装置16の過熱を防止するため、セレクト用駆動装置18の駆動を停止する制御を行うことができる。
【0046】
上記の自動制御式マニュアルトランスミッション10、10A及びその制御方法によれば、最小限の部品の追加で暖機促進機構20、20Aを備えることができ、この暖機促進機構20、20Aを用いた暖機促進により、迅速に潤滑油Aの温度を上げて、ギアケース10a内に供給して、主ギア11a、12aと副ギア13a等を潤滑する潤滑油Aの油温を早く高めることで、オイルパン14に貯めている潤滑油Aを撹拌する時の粘性抵抗を低減できるので、自動制御式マニュアルトランスミッション10、10Aの冷間時における伝達損失を減少できる。また、この暖機促進による撹拌抵抗の低減により、自動制御式マニュアルトランスミッション10、10Aの冷間時におけるシフトフィーリングの悪化を抑制できる。
【0047】
また、上記の暖機促進では、潤滑油Aを昇温させるためにセレクト駆動装置18に供給する駆動用電力として比較的大きな電力を消費するため、暖機中でも、この自動制御式マニュアルトランスミッション10、10Aを搭載した車両の加速動作中においては、セレクト駆動装置18に供給する駆動用電力を減少して暖機促進機構の働きを弱めるか、この駆動用電力を停止暖機促進機構の働きを一時的に停止することが好ましい。
【0048】
また、この車両の減速動作中においては、セレクト駆動装置18に供給する駆動用電力を大きくして暖機促進機構を強く働かせたり、又は、駆動用電力にACG回生の電力を使用したりすることが好ましい。
【0049】
ACG回生のエネルギーを使用することにより、暖機促進機構のエネルギーを車両が無駄に捨てているエネルギーから得ることができ、これにより燃費への悪影響を低減することができる。つまり、ACG回生では、減速中では、通常のブレーキや、エンジンのポンピングロスを利用するエンジンブレーキ等でブレーキ廃熱となってしまう車両の運動エネルギーの一部をオルタネータで電気に変換しているので、このACG回生による電力を、暖機促進機構の電力の一部として使用することで、減速によるエネルギーロスを抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の自動制御式マニュアルトランスミッション及びその制御方法は、最小限の部品追加で暖機促進機構を備えることができ、この暖機促進機構を用いた暖機促進により、迅速に潤滑油の温度を上げて潤滑油を撹拌する時の粘性抵抗を低減できるので、自動制御式マニュアルトランスミッションの冷間時における伝達損失を減少することと、自動制御式マニュアルトランスミッションの冷間時におけるシフトフィーリングの悪化を抑制することができるので、トラックやバス等の車両に適用できる。
【符号の説明】
【0051】
10、10A、10X、10Y 自動制御式マニュアルトランスミッション(AMT)
10a ギアケース(ギアボックス)
11 入力軸
11a 主ギア
12 出力軸
12a 主ギア
13 副軸
13a 副ギア
14 オイルパン
15 潤滑油配管
15a オイルポンプ
16 シフトシャフト
16a ポジションセンサ(シフト位置検出手段)
17 変速機構部
18 セレクト用駆動装置
20、20A 暖機促進機構
21 第1温度センサ(変速機温度検出手段)
22 第2温度センサ(駆動装置温度検出手段)
22A 電流検出手段
23 制御装置
A 潤滑油
G 排気ガス
Th 暖機判定温度
To 過熱判定温度
Ts 潤滑油の油温(駆動装置温度)
Tt 潤滑油の油温(変速機温度)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動するシフトフォークを選択するセレクト用駆動装置を備えた自動制御式マニュアルトランスミッションにおいて、
前記セレクト用駆動装置とギアケースの内部との間で潤滑油を循環させる潤滑油供給機構を設けると共に、変速機温度検出手段と、前記シフトフォークの位置を検出するシフト位置検出手段と、制御装置を備え、
該制御装置が、前記変速機温度検出手段で検出した温度が予め設定した暖機判定用温度よりも低く、かつ、前記シフト位置検出手段で検出したシフト位置により変速制御がなされていないと判定された場合に、前記セレクト用駆動装置を駆動する駆動用電力を供給する制御を行うことを特徴とする自動制御式マニュアルトランスミッション。
【請求項2】
前記セレクト用駆動装置の温度を検出する駆動装置温度検出手段を備え、前記制御装置が、前記駆動装置温度検出手段で検出した温度が予め設定した過熱判定温度よりも高くなった場合には、前記セレクト用駆動装置への駆動用電力の供給を停止する制御を行うことを特徴とする請求項1記載の自動制御式マニュアルトランスミッション。
【請求項3】
前記制御装置が、暖機促進のために前記セレクト用駆動装置の駆動用電力を供給している際に、該自動制御式マニュアルトランスミッションを搭載した車両の減速動作中において前記駆動用電力の電力量を増加する制御を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の自動制御式マニュアルトランスミッション。
【請求項4】
駆動するシフトフォークを選択するセレクト用駆動装置と、該セレクト用駆動装置とギアケースの内部との間で潤滑油を循環させる潤滑油供給機構と、変速機温度検出手段と、前記シフトフォークの位置を検出するシフト位置検出手段と、前記セレクト用駆動装置の温度を検出する駆動装置温度検出手段と、制御装置を備えた自動制御式マニュアルトランスミッションの制御方法において、前記変速機温度検出手段で検出した温度が予め設定した暖機判定用温度よりも低く、かつ、シフト位置検出手段で検出しシフト位置により変速制御がなされていないと判定された場合に、前記セレクト用駆動装置を駆動する駆動用電力を供給することを特徴とする自動制御式マニュアルトランスミッションの制御方法。
【請求項5】
前記駆動装置温度検出手段で検出した温度が予め設定した過熱判定温度よりも高くなった場合には、前記セレクト用駆動装置への駆動用電力の供給を停止することを特徴とする請求項4記載の自動制御式マニュアルトランスミッション。
【請求項6】
暖機促進のために前記セレクト用駆動装置の駆動用電力を供給している際に、該自動制御式マニュアルトランスミッションを搭載した車両の減速動作中において前記駆動用電力の電力量を増加することを特徴とする請求項4又は5に記載の自動制御式マニュアルトランスミッションの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−127413(P2012−127413A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279216(P2010−279216)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】