説明

自動変速機の変速速度制御装置

【課題】アクセル急踏み時に高めた変速速度を、急踏み後緩やかに踏み増す場合においても、当該緩踏み時に確実に元に戻し終えているような変速速度制御を提案する。
【解決手段】アクセル急踏み(エンジン負荷急増)時は(S1)、S2で、変速速度を通常変速用の基準となる変速速度よりも速い変速速度を指令し、この速い変速速度で変速を行わせる。この変速中、S3において、変速が終了したか否かをチェックし、変速が終了していなければ、ステップS2に戻って速い変速速度を選択し続け、変速が終了していれば、ステップS4において、速い変速速度から基準となる変速速度へと戻し、変速を、基準となる変速速度で行わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン等の動力源と、無段変速機を含む自動変速機との組み合わせになる車両用パワートレーンにおいて、運転状態に応じ自動変速機の変速速度を制御する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動変速機の変速速度は、アクセルペダルの急な踏み込みによりエンジン等の動力源の負荷を急増させるとき、通常変速用の基準となる変速速度とは異なり急速に変速を進行させるのが急加速要求に符合して良いことから、速い変速速度にする変速速度制御技術が従来より、例えば特許文献1に記載のごとくに提案されている。
【0003】
一方で、上記のごとく高めた変速速度を基準となる変速速度に戻すに際しては従来、同じく特許文献1に記載のごとく、アクセルペダルの戻し操作によりエンジン等の動力源の負荷(スロットル開度)が設定値未満に低下したときに上記変速速度の戻し操作を行うことが提案されている。
【特許文献1】特開平01−312260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、動力源負荷(スロットル開度)が設定値未満に低下したとき変速速度を基準となる変速速度に戻すのでは、以下のような問題が生ずる。
例えば、アクセルペダルの急な踏み込みにより動力源負荷(スロットル開度)が急増された後(これに呼応して変速速度が通常変速用の基準となる変速速度から速い変速速度にされた後)、アクセルペダルをゆっくりと踏み増すようなアクセル操作を行う場合、動力源負荷(スロットル開度)が設定値未満に低下することがなく、この間も変速速度は基準となる変速速度に戻されずに速い変速速度のままに保たれ、これに基づく速度で変速が引き続き行われることとなる。
【0005】
この場合、運転者がアクセルペダルをゆっくりと踏み増すようなアクセル操作を行っているのに、基準となる変速速度よりも速い変速速度での変速が行われて違和感を与えるだけでなく、この速い変速速度は不快な変速ショックを生ずるという問題をも生ずる。
【0006】
本発明は、上記の問題が動力源負荷(スロットル開度)に基づき動力源負荷(スロットル開度)の急増終了判定を行って変速速度を戻すか否かを決定することに起因するとの事実認識に基づき、
これに代えて、基準となる変速速度と異なる変速速度での変速が終了した時に変速速度を基準となる変速速度に復帰させるようにすることで、上記の問題を解消し得るようにした自動変速機の変速速度制御装置提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的のため、本発明による自動変速機の変速速度制御装置は、請求項1に記載のごとくに構成する。
先ず前提となるパワートレーンを説明するに、これは、
動力源と、自動変速機との組み合わせになり、動力源負荷状態の時間変化割合に応じ、基準となる変速速度とは異なる変速速度で自動変速機を変速させるようにした車両用パワートレーンである。
【0008】
本発明は、かかる車両用パワートレーンに対し、
前記異なる変速速度での変速が終了したのを判定する変速終了判定手段と、
該手段による変速終了判定時に、変速速度を前記基準となる変速速度に復帰させるようにした変速速度復帰手段とを設けた構成に特徴づけられるものである。
【発明の効果】
【0009】
かかる本発明による自動変速機の変速速度制御装置によれば、
上記異なる変速速度での変速が終了したのを判定する時に、変速速度を上記基準となる変速速度に復帰させるため、
アクセルペダルの戻し操作による動力源負荷の低下がない場合においても、上記変速終了判定をもって変速速度の上記復帰を行わせ得ることとなり、急加速後に緩加速に移行した時、当該緩加速に呼応した基準となる変速速度での変速を行わせることができる。
よって、当該緩加速時の変速が高速で行われて違和感を与えたり、不快な変速ショックを発生するような前記の問題を解消することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施例を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例になる変速速度制御装置を具えた車両のパワートレーンを示し、このパワートレーンを動力源としてのエンジン1および自動変速機2のタンデム結合により構成する。
【0011】
エンジン1は、運転状態に応じて燃料噴射量、点火時期、およびバルブタイミングなどを制御され、これらの決まるエンジントルクを出力するものとする。
自動変速機2はVベルト式無段変速機とし、エンジン1からのトルクを図示せざるトルクコンバータを経て入力され、この入力回転を現在の変速状態に対応する変速比で変速して出力し、駆動車輪(図示せず)に向かわせるものとする。
【0012】
なお自動変速機2は、駐車(P)レンジ、後退走行(R)レンジ、中立(N)レンジ、前進走行(D)レンジを有し、これらレンジのうち希望する変速形態に対応するレンジをセレクトレバー3により手動選択する。
【0013】
前進走行(D)レンジにおいて自動変速機(Vベルト式無段変速機)2は、Vベルトが掛け渡されている入力側のプライマリプーリおよび出力側のセカンダリプーリのプーリ溝幅を、それぞれのプーリ推力の加減により変化させることで、最ロー側の発進変速比と最ハイ側の変速比との間において無段変速させることができる。
【0014】
エンジン1は、燃料噴射量や、点火時期や、バルブタイミングをエンジンコントローラ4により制御され、
自動変速機(Vベルト式無段変速機)2は、コントロールバルブボディー2aを介して変速機コントローラ5により、プライマリプーリおよびセカンダリプーリのプーリ推力を加減され、これらプライマリプーリおよびセカンダリプーリのプーリ溝幅変化(これらに対するVベルトの巻き掛け径の変化)を介して無段変速可能である。
【0015】
これがためエンジンコントローラ4には、
エンジン回転数Neを検出するエンジン回転センサ6からの信号や、
トルクコンバータのタービン回転数Nt(変速機入力回転数)を検出するタービン回転センサ7からの信号や、
アクセル開度APO(アクセルペダル踏み込み量)を検出するアクセル開度センサ8からの信号や、
車速VSPを検出する車速センサ9からの信号を入力する。
【0016】
一方で変速機コントローラ5には、
プライマリプーリのプーリ推力を決定するプライマリプーリ圧Ppriを検出するプライマリプーリ圧センサ10からの信号や、
セカンダリプーリのプーリ推力を決定するセカンダリプーリ圧Psecを検出するセカンダリプーリ圧センサ11からの信号や、
自動変速機2の選択レンジを検出するレンジセンサ12からの信号や、
自動変速機2の入出力回転比である変速比iを演算する変速比演算手段13からの演算結果を入力する。
なおエンジンコントローラ4および変速機コントローラ5との間を通信線で相互に接続し、上記の入力信号はもとより、演算結果をも相互に通信し合うものとする。
【0017】
変速機コントローラ5は、アクセル開度APOおよび車速VSPから予定の変速マップを基に、現在の運転状態に最適な目標入力回転数Ntを求め、これを車速VSPから判る変速機出力回転数で除算することにより目標変速比iを求め、実変速比i(入力回転数Nt)がこの目標変速比i(目標入力回転数Nt)に一致するよう、コントロールバルブボディー2aを介してプライマリプーリ圧Ppri(プライマリプーリ推力)およびセカンダリプーリ圧Psec(セカンダリプーリ推力)を制御する。
【0018】
エンジンコントローラ4および変速機コントローラ5は相互に関連し合って、図2に示す制御プログラムにより以下のごとくに自動変速機2の変速速度を決定する。
ステップS1においては、自動変速機2の変速速度を通常変速用の基準となる変速速度よりも速くすべきアクセルペダルの急踏み(エンジン負荷の急増)が有ったか否かを、アクセル開度APOの時間変化割合が設定割合以上であったか否かにより判定する。
なお、アクセルペダル急踏み(エンジン負荷急増)判定に用いるアクセル開度APOの時間変化割合に関した上記設定割合は、一定値でもよいが、例えばアクセル開度APOが大きいほど小さくなる可変値にするのが、変速速度を変更すべき急踏み判定の判定精度の点で好ましい。
【0019】
ステップS1でアクセルペダルの急踏み(エンジン負荷の急増)がないと判定する場合、変速速度を通常変速用の基準となる変速速度に保つべきであるから制御をそのまま終了する。
ステップS1でアクセルペダルの急踏み(エンジン負荷の急増)が有ったと判定する場合は、ステップS2において、変速速度を通常変速用の基準となる変速速度よりも速い変速速度を指令し、自動変速機2の前記の変速が、基準となる変速速度と異ってこれよりも速い変速速度で行われるようにする。
【0020】
次のステップS3においては、当該速い変速速度での変速が終了したか否かをチェックし、終了していなければ、制御をステップS2に戻して基準となる変速速度よりも速い変速速度を選択し続ける。
ステップS3で上記速い変速速度での変速が終了したと判定した後は、制御をステップS4に進め、変速速度を速い変速速度から基準となる変速速度へと復帰させ、自動変速機2の前記の変速を基準となる変速速度で行わせる。
従って、ステップS3は本発明における変速終了判定手段に相当し、ステップS4は本発明における変速速度復帰手段に相当する。
【0021】
上記した本実施例によれば、速い変速速度での変速の終了を判定した時に、変速速度を基準となる変速速度に復帰させるため、
アクセルペダルの急踏み後にペダル戻し操作によるエンジン負荷の低下がない場合においても、上記変速終了判定をもって速い変速速度から基準となる変速速度への復帰を行わせ得ることとなり、
急加速後に緩加速に移行した時も、当該緩加速に呼応した基準となる変速速度での変速を行わせることができる。
よって、当該緩加速時の変速が高速で行われて違和感を与えたり、不快な変速ショックを発生するような従来の問題を解消することができる。
【0022】
図3により上記の作用効果を付言するに、この図は、瞬時t1〜t3中にアクセルペダルの急な踏み込みによりアクセル開度APOおよびこれに応動するエンジンスロットル開度TVOが、それぞれの時間変化割合ΔAPOおよびΔTVOをもって図示のごとく急増され、
その後は瞬時t5までアクセルペダルの踏み込み状態を瞬時t3で状態に保ってアクセル開度APOおよびスロットル開度TVOをそれぞれ不変に保ち、
瞬時t5からアクセルペダルの緩やかな踏み込みによりアクセル開度APOおよびスロットル開度TVOをそれぞれの時間変化割合ΔAPOおよびΔTVOで図示のごとく緩増大させた場合の動作タイムチャートを示す。
【0023】
瞬時t1の直後における瞬時t2に、アクセル開度APOの時間変化割合ΔAPO(エンジン負荷の増大割合)が急踏み判定用の設定値以上になったことで、基準となる変速速度からこれよりも速い変速速度への切り替えが必要な急踏み時(エンジン負荷急増時)と判定して、踏み込み開始時t1から行われている変速の変速速度を基準となる変速速度から上記の速い変速速度に切り替え、
上記速い変速速度での変速が終了したのを判定する瞬時t4に、上記速い変速速度から基準となる変速速度への復帰を行わせてこれに基づく変速制御を行わせると共に、瞬時t2に上記のごとく行った急踏み(エンジン負荷急増)判定を次回の判定のためにリセットしておく。
【0024】
瞬時t1〜t3間の急踏み込みによりエンジントルクTeは図示の時系列変化をもって上昇するが、急踏み判定時t2までの間は基準となる変速速度が用いられているため、エンジントルクTeと変速比iとの乗算値である車軸駆動トルクTstaは緩やかに上昇し、
変速機入力回転Ntの時間変化割合ΔNt、および、これと、回転イナーシャIpriと、変速比iとの乗算値である車軸へのイナーシャトルクTdynは図示のごとく小さく、車軸駆動トルクTstaとイナーシャトルクTdynとの和値である車軸出力トルクTshtは、急踏み判定時t2までの間、図示のごとく緩やかに上昇する。
【0025】
しかし急踏み判定時t2からは基準となる変速速度からこれよりも速い変速速度へと変速速度が切り替えられるため、エンジントルクTeと変速比iとの乗算値である車軸駆動トルクTstaは図示のごとく急上昇し、急踏みに呼応した駆動力の急上昇を享受できる。
この間、変速機入力回転Ntの時間変化割合ΔNt、および、これと、回転イナーシャIpriと、変速比iとの乗算値である車軸へのイナーシャトルクTdynは図示のとおりに大きくなり、車軸駆動トルクTstaとイナーシャトルクTdynとの和値である車軸出力トルクTshtは、変速速度が速いため図示のごとく急上昇してショック上好ましくないものの、急踏み込みはショック軽減よりも動力性能要求が強いから要求にマッチしたものである。
【0026】
瞬時t3に急踏み込みが終了して、上記速い変速速度での変速が終了したのを判定する瞬時t4に至るとき、上記速い変速速度から基準となる変速速度への復帰を行わせるため、その後の瞬時t5以後における緩踏み込みに伴って発生する変速は、基準となる変速速度で行われることとなる。
従って、アクセルペダルの急踏み後にペダル戻し操作によるエンジン負荷の低下を行わないままアクセルペダルを緩踏み込みする場合に、この緩踏み込みに伴う変速を緩やかに行わせることとなる。
よって、緩踏み込み開始時t5から、緩踏み込みに伴う変速が終了する瞬時t6までの間における車軸駆動トルクTsta、入力回転時間変化割合ΔNt、イナーシャトルクTdyn、および車軸出力トルクTshtの変化状況より明らかなごとく、緩踏み込みによる緩加速時なのに変速が高速で行われる違和感を回避し得ると共に、不快な変速ショックが発生するのを回避することができる。
【0027】
ところで、上記した速い変速速度での変速が終了したか否かを判定する(図2のステップS3)に際しては、
自動変速機(無段変速機)2の変速比iが、運転状態に応じた前記目標変速比iに対し所定(α)範囲内の変速比に接近した時をもって、速い変速速度での変速が終了したと判定することができる。
【0028】
この場合における動作タイムチャートを図4に例示する。
図4のタイムチャートは、図3におけると同様なアクセル操作を行った場合における動作を示し、
瞬時t1〜t3間の急踏み込みに伴い目標変速比i*が実変速比iと乖離するようになり、実変速比iが目標変速比i*に一致するよう自動変速機2の変速が開始される。
【0029】
この変速中、急踏み判定瞬時t2に変速速度が基準となる変速速度から速い変速速度へ切り替えられるのは上記の通りであるが、
本実施例においては、目標変速比i*および実変速比i間の変速比偏差の絶対値|i*−i|=Δiを求め、これが変速終了判定用の設定値α未満になる瞬時t4に上記の変速が終了したと判定する。
【0030】
この変速終了判定瞬時t4に、上記速い変速速度から基準となる変速速度への復帰を行わせてこれに基づく変速制御を行わせると共に、瞬時t2で前記のごとくに行った急踏み(エンジン負荷急増)判定を次回の判定のためにリセットする。
【0031】
本実施例では、図3につき前述したと同様の作用効果を奏し得るほかに、上記のごとく変速比偏差Δi(=|i*−i|)<αになったのを変速終了と判定するから、その判定精度を高くすることができ、その理由は以下の通りである。
つまり変速比は、変速機入出力回転比であるから2個の回転センサの検出値を用いるが、これらセンサの回転数検出精度は回転速度に依存し、しかも同じ車両に搭載されたものであれば同程度の検出精度のズレを生ずることが多く、変速比としては両センサのズレ分がキャンセルし合って、センサの精度に影響されないためである。
【0032】
図2のステップS3で、上記した速い変速速度での変速が終了したか否かを判定するに際しては、上記の他に、
自動変速機(無段変速機)2の入力回転数Ntが、運転状態に応じ定めた目標入力回転数Ntに対し所定(β)範囲内の回転数に接近した時をもって、速い変速速度での変速が終了したと判定することもできる。
【0033】
この場合における動作タイムチャートを図5に例示する。
図5のタイムチャートは、図3におけると同様なアクセル操作を行った場合における動作を示し、
瞬時t1〜t3間の急踏み込みに伴い目標入力回転数Nt*が実入力回転数Ntと乖離するようになり、実入力回転数Ntが目標入力回転数Nt*に一致するよう自動変速機2の変速が開始される。
【0034】
この変速中、急踏み判定瞬時t2に変速速度が基準となる変速速度から速い変速速度へ切り替えられるのは、図3につき前述した通りであるが、
本実施例においては、目標入力回転数Nt*および実入力回転数Nt間の入力回転偏差の絶対値|Nt*−Nt|=ΔNを求め、これが変速終了判定用の設定値β未満になる瞬時t4に上記の変速が終了したと判定する。
【0035】
この変速終了判定瞬時t4に、上記速い変速速度から基準となる変速速度への復帰を行わせてこれに基づく変速制御を行わせると共に、瞬時t2で図3につき前述したごとくに行った急踏み(エンジン負荷急増)判定を次回の判定のためにリセットする。
【0036】
本実施例では、図3につき前述したと同様の作用効果を奏し得るほかに、上記のごとく入力回転偏差ΔN(=|Nt*−Nt|)<βになったのを変速終了と判定するから、以下の作用効果をも奏し得られる。
つまり、図4につき上述したように変速比偏差を基に変速終了を判定する場合、回転数に換算すると、低回転では入力回転数偏差が小さくならないと変速終了を判定し得ず、高回転では入力回転数偏差が大きいうちに変速終了を判定してしまうことから、急踏み時の車速や入力回転数に応じて変速終了判定用の設定値αを異ならせる必要があるが、
本実施例のように入力回転偏差ΔN(=|Nt*−Nt|)を基にこれが変速終了判定用の設定値β未満になったのを変速終了と判定する場合は、変速終了判定用の設定値βを急踏み時の車速や入力回転数にかかわらず、同じにしたままで高精度に変速終了を判定することができる。
【0037】
図2のステップS3で、上記した速い変速速度での変速が終了したか否かを判定するに際しては、上記の他に、
自動変速機(Vベルト式無段変速機)2の変速を司るプーリ推力の指令値に対する実際値の偏差が設定値未満になった時をもって、速い変速速度での変速が終了したと判定することもできる。
【0038】
この場合における動作タイムチャートを図6に例示する。
図6のタイムチャートは、図3におけると同様なアクセル操作を行った場合における動作を示し、
瞬時t1〜t3間の急踏み込みに伴い目標変速比i*が実変速比iと乖離するようになり、実変速比iが目標変速比i *に一致するよう自動変速機2の変速が開始される。
【0039】
この変速中、急踏み判定瞬時t2に変速速度が基準となる変速速度から速い変速速度へ切り替えられるのは、図3につき前述した通りであるが、
本実施例においては、目標プライマリプーリ推力Tpri *および実プライマリプーリ推力Tpri(プライマリプーリ圧Ppriから演算可能)間のプライマリプーリ推力偏差の絶対値|Ppri*−Tpri|=ΔTpriを求めると共に、目標セカンダリプーリ推力Tsec *および実セカンダリプーリ推力Tsec(セカンダリプーリ圧Psecから演算可能)間のセカンダリプーリ推力偏差の絶対値|Psec*−Tsec|=ΔTsecを求め、両プーリ推力偏差の和値ΔT(=ΔTpri+ΔTsec)が変速終了判定用の設定値γ未満になる瞬時t4に上記の変速が終了したと判定する。
【0040】
この変速終了判定瞬時t4に、上記速い変速速度から基準となる変速速度への復帰を行わせてこれに基づく変速制御を行わせると共に、瞬時t2で図3につき前述したごとくに行った急踏み(エンジン負荷急増)判定を次回の判定のためにリセットする。
【0041】
本実施例では、図3につき前述したと同様の作用効果を奏し得るほかに、上記のごとくプーリ推力偏差ΔT<γになったのを変速終了と判定するから、また、プーリ推力が変速に直接関与するため、変速終了判定を正確に行うことができる。
【0042】
図2のステップS3で、上記した速い変速速度での変速が終了したか否かを判定するに際しては、上記の他に、
急踏み判定に呼応して速い変速速度での変速が開始されてからの経過時間が変速終了判定時間以上になった時をもって、速い変速速度での変速が終了したと判定することもできる。
【0043】
この場合における動作タイムチャートを図7に例示する。
図7のタイムチャートは、図3におけると同様なアクセル操作を行った場合における動作を示し、
瞬時t1〜t3間の急踏み込みに伴い目標変速比i*が実変速比iと乖離するようになり、実変速比iが目標変速比i *に一致するよう自動変速機2の変速が開始される。
【0044】
この変速中、急踏み判定瞬時t2に変速速度が基準となる変速速度から速い変速速度へ切り替えられるのは、図3につき前述した通りであるが、
本実施例においては、当該切り替え瞬時(急踏み判定瞬時)t2から行われる速い変速速度での変速が行われている継続時間を計測するタイマを設け、このタイマの計測時間が変速終了判定時間ε以上になる瞬時t4に上記の変速が終了したと判定する。
【0045】
この変速終了判定瞬時t4に、上記速い変速速度から基準となる変速速度への復帰を行わせてこれに基づく変速制御を行わせると共に、瞬時t2で図3につき前述したごとくに行った急踏み(エンジン負荷急増)判定を次回の判定のためにリセットする。
【0046】
本実施例では、図3につき前述したと同様の作用効果を奏し得るほかに、上記のごとく急踏み判定瞬時t2から行われる速い変速速度での変速が行われている継続時間が変速終了判定時間ε以上になったのを変速終了と判定するから、変速終了判定を簡便に行うことができる。
なお上記各実施例における変速終了判定は個々に用いるだけでなく、任意のものを組み合わせて用いることができ、特に図7のようにタイマを用いる実施例を他の実施例と組み合わせて、当該他の実施例による変速終了判定がセンサ異常などで不可能になった時のフェールセーフ対策とするのが有利である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施例になる変速速度制御装置を具えた車両用パワートレーンの制御システムを示す概略系統図である。
【図2】図1に示したパワートレーンにおける変速速度制御プログラムを示すフローチャートである。
【図3】図2における変速終了判定の一実施例に係わる動作タイムチャートである。
【図4】変速終了判定の他の実施例に係わる動作タイムチャートである。
【図5】変速終了判定の別の実施例に係わる動作タイムチャートである。
【図6】変速終了判定の更に他の実施例に係わる動作タイムチャートである。
【図7】変速終了判定の更に別の実施例に係わる動作タイムチャートである。
【符号の説明】
【0048】
1 エンジン
2 自動変速機
2a コントロールバルブボディー
3 セレクトレバー
4 エンジンコントローラ
5 変速機コントローラ
6 エンジン回転センサ
7 タービン回転センサ
8 アクセル開度センサ
9 車速センサ
10 プライマリプーリ圧センサ
11 セカンダリプーリ圧センサ
12 実変速比演算手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源と、自動変速機との組み合わせになり、動力源負荷状態の時間変化割合に応じ、基準となる変速速度とは異なる変速速度で自動変速機を変速させるようにした車両用パワートレーンにおいて、
前記異なる変速速度での変速が終了したのを判定する変速終了判定手段と、
該手段による変速終了判定時に、変速速度を前記異なる変速速度から前記基準となる変速速度に復帰させるようにした変速速度復帰手段とを具備することを特徴とする自動変速機の変速速度制御装置。
【請求項2】
前記自動変速機が無段変速機である、請求項1に記載の自動変速機の変速速度制御装置において、
前記変速終了判定手段は、前記無段変速機の変速比が、運転状態に応じ定めた目標変速比に対し所定範囲内の変速比に接近した時をもって、前記異なる変速速度での変速が終了したと判定するものであることを特徴とする自動変速機の変速速度制御装置。
【請求項3】
前記自動変速機が無段変速機である、請求項1に記載の自動変速機の変速速度制御装置において、
前記変速終了判定手段は、前記無段変速機の入力回転数が、運転状態に応じ定めた目標入力回転数に対し所定範囲内の回転数に接近した時をもって、前記異なる変速速度での変速が終了したと判定するものであることを特徴とする自動変速機の変速速度制御装置。
【請求項4】
前記自動変速機がVベルト式無段変速機である、請求項1に記載の自動変速機の変速速度制御装置において、
前記変速終了判定手段は、前記Vベルト式無段変速機の変速を司るプーリ推力の指令値に対する実際値の偏差が設定値未満になった時をもって、前記異なる変速速度での変速が終了したと判定するものであることを特徴とする自動変速機の変速速度制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載の自動変速機の変速速度制御装置において、
前記変速終了判定手段は、前記異なる変速速度での変速が開始されてからの経過時間が変速終了判定時間以上になった時をもって、前記異なる変速速度での変速が終了したと判定するものであることを特徴とする自動変速機の変速速度制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−215502(P2008−215502A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−54245(P2007−54245)
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】