説明

荒天警報システム

【課題】各船舶の耐航性能、運航状況等に応じて、船舶毎に予定航路上での荒天警報、荒天情報を提供することが可能な荒天警報システムを提供すること。
【解決手段】船舶の予定航路に沿った海域の海洋気象を予測した気象データを取得する気象データ取得装置2と、気象データに基づいて、基準位置から予定航路に沿って所定時間の間に航行する船舶の位置を推定処理するWEBサーバ3と、所定時間の間に船舶が航行する予定航路上に、船舶に応じて設定されるアラート基準データを超える海洋気象が存在するか否かの判別をする荒天判別を処理し、荒天判別の処理で船舶のアラート基準データを超える海洋気象が存在すると判別したときに荒天警報を出力するアラートサーバ4と、荒天警報を船舶に通知するメールサーバ8で構成し、荒天警報は、所定時間の間に船舶が航行する予定航路上に、船舶のアラート基準データを超える海洋気象が存在することを船舶に通知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航行中に予想される荒天情報を前もって荒天警報として航行船舶に通知する荒天警報システムに関する。
【背景技術】
【0002】
海洋気象の予測データや船舶の耐航性能等に基づき、海洋を航行中の船舶に対して、陸上から航行の安全と経済運航を実現する最適航路の選択を支援するウェザールーティングサービスが提供されている。ウェザールーティングサービス(WRSとも記す)は、世界中の海の波浪予報情報、海上風予報情報を入手し、それらの気象海象予報情報及び船舶動静情報を基に、最適航路を選択し船舶及び運航管理者に提供するものである。
【0003】
ウェザールーティングサービスに関して、特許文献1には、運航計画時に船舶が固有に有する個船性能データと、長期の海気象状況を示す海気象データに基づき、ある海域の出発点から到着点までについて最適航路を演算する際、演算上の船舶の航行に合わせて変化する海気象データを用いる最適航路探索方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−145312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ウェザールーティングサービスにより最適航路が推薦され、推薦された最適航路を参照して初期の航路が決定され、船舶は決定した航路に基づき航行を行う。航行中の海洋気象は、航路決定時の当初の予報と変わることがあり、このため、航行中に気象、海洋の変化により荒天が予想される場合には、船舶に対して荒天の予報等の気象情報が通知される。しかしながら、各船舶の耐航性能、積荷等により、荒天回避の必要性が船舶毎に異なるため、各船舶は、自己の耐航性能、積荷等と提供された気象情報とに鑑みて、荒天回避の判断を行う必要がある。例えば、石油タンカーは、耐航性能が高いため、比較的高い波に対しても安定した航行が可能である。一方、鉱石を運搬する船舶は、積荷である鉱石が一度偏るとそのまま元の状態には戻らないため波の影響を受けやすく、波の高い海域での航行を避けるようにする。また、自動車運搬船は、自動車が比較的軽量な積荷であるために、風の影響を受けやすく、風に対する注意が必要となる。このように、荒天回避の基準が、船舶の種類、積荷等により全く異なっている。
【0006】
船長(運航指揮者)は、今後の船舶の位置を推定して、その推定した位置における気象情報に基づいて荒天の予想を行い、積荷への影響と経済運航との両観点を比較衡量の上、必要に応じて荒天回避の行動を行う。
【0007】
このため、船舶の耐航性能、積荷等を考慮して、船舶毎に前もって荒天警報、荒天情報が発することができれば、船長(運航指揮者)による荒天回避判断の容易化の一助となり、また、船舶内での気象情報の分析等の作業が軽減され、荒天回避のための最適な航路を選択することができる。
【0008】
そこで本発明は、各船舶の耐航性能、運航状況等に応じて、船舶毎に予定航路上での荒天警報、荒天情報を提供することが可能な荒天警報システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的達成のため、本発明の荒天警報システムは、少なくとも船舶の予定航路に沿った海域の海洋気象を予測した気象データを取得する気象データ取得手段と、前記気象データに基づいて、基準位置から前記予定航路に沿って所定時間の間に航行する船舶の位置を推定処理する船舶位置推定手段と、前記所定時間の間に前記船舶が航行する前記予定航路上に、前記船舶に応じて設定されるアラート基準データを超える海洋気象が存在するか否かの判別をする荒天判別手段と、前記荒天判別手段が、前記船舶のアラート基準データを超える海洋気象が存在すると判別したときに荒天警報を出力する荒天警報手段と、前記荒天警報を前記船舶に通知する通信手段と、を有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の荒天警報システムの前記気象データ取得手段は、新たな気象データを所定間隔で取得し、前記気象データ取得手段が新たな気象データを取得したときに、前記船舶位置推定手段による前記船舶の位置の推定処理と前記荒天判別手段による前記判別とが行われることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の荒天警報システムの前記アラート基準データは、少なくとも、前記船舶の耐航性能に応じて船舶ごとに設定される波高及び/又は風力を含むことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の荒天警報システムの前記荒天判別手段は、前記気象データに基づいて求めた前記船舶の予定航路に沿った海域の波高及び/又は風力と、前記アラート基準データとしての波高及び/又は風力と、を比較することによって前記判別をすることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の荒天警報システムの前記荒天警報は、前記所定時間の間に前記船舶が航行する前記予定航路上に、前記船舶のアラート基準データを超える海洋気象が存在することを内容とすることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の荒天警報システムは、前記アラート基準データを超える海洋気象に前記船舶が到達するまでの予想到達時間及び/又は予想到達時刻を含むことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の荒天警報システムの前記船舶位置推定手段は、前記推定処理の実行時刻における船舶の位置を前記基準位置として、所定時間の間に予定航路上を航行する船舶の位置を推定する推定処理を行い、次の推定処理の実行時刻における船舶の前記基準位置を、前回の推定処理で推定した船舶の位置から決定して、船舶の位置の推定処理を行うことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の荒天警報システムの前記船舶位置推定手段は、航行中の前記船舶の現在位置を取得した場合は、前記現在位置を前記基準位置として、所定時間の間に航行する船舶の位置を推定処理することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、各船舶の耐航性能、運航状況等に応じて、船舶毎に予定航路上での荒天警報を前もって発することができるため、船長の荒天回避判断のための有益な情報を提供でき、荒天回避のための最適な航路の選択が容易となる。
【0018】
また、本発明による荒天警報システムは、荒天海域に突入する可能性がある船舶に対して自動的に荒天警報を通知するため、船長に適切な情報を提供でき、事前に荒天海域を避ける判断の一助となる。
【0019】
また、本発明によれば、船舶に対して荒天に関する情報を適宜提供することにより、陸上より適切なアドバイスが行え、これにより、船長の荒天回避の判断を支援することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る荒天警報システムの構成を示す図である。
【図2】WRSサーバが記憶装置に記憶している各種データを示す図である。
【図3】航路データに基づいて、出航港から目的港までの船舶の航路を地図上にグラフィック化した一例であり、航路上の風力、波高及び波向を同時に示す図である。
【図4】船舶位置のシミュレーションで使用する減速量データの一例をグラフ化した図である。
【図5】荒天警報システムによる荒天海域遭遇シミュレーションの船舶位置のシミュレーション、アラート処理におけるサーバ間のデータの流れを示すフローチャートである。
【図6】船舶の予定航路上の3日先から7日目までの周辺海域の波高の予報を5面波浪予測図として示したものである。
【図7】荒天警報システムのWRSサーバによる船舶位置のシミュレーションを示すフローチャートである。
【図8】船舶位置のシミュレーション結果を記憶するためのデータ格納用のテーブルを示す図である。
【図9】荒天警報システムのアラートサーバによる船舶に、荒天警報を発するためのアラート処理のフローチャートを示す図である。
【図10】メールサーバから発せられる荒天警報の一例を示す図である。
【図11】GPVデータの予報時間毎の所定時間48時間による船舶位置のシミュレーション及びアラート処理を時系列的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下図面を参照して、本発明による荒天警報システムを実施するための形態について説明する。尚、本発明の荒天警報システムは、船舶の大きさ、船舶の搭載量等の船舶の基本データに基づいてその船舶に必要な荒天警報を通知するようにして、航行中の船舶に適切な荒天情報を提供するようにしたものである。
【0022】
[荒天警報システムの構成]
図1を参照して、荒天警報システムの構成について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る荒天警報システムの構成を示す図である。図1に示すように、荒天警報システム1は、船舶の予定航路に沿った海域を含む海洋の海洋気象を予測した気象データを取得する気象データ取得手段としての気象データ取得装置2と、気象データ取得装置で取得した気象データに基づいて、基準位置から予定航路に沿って所定時間(例えば48時間)の間に航行する船舶の位置を推定処理する船舶位置推定手段としてのWRSサーバ3と、所定時間の間に船舶が航行する予定航路上に、船舶に応じて設定されるアラート基準データを超える海洋気象が存在するか否かの判別をする荒天判別手段、及び、荒天判別手段が、船舶のアラート基準データ3f(図2参照)を超える海洋気象が存在すると判別したときに荒天警報を出力する荒天警報手段としてのアラート(警報)サーバ4と、WRSサーバ3の気象予報及びアラートサーバ4の荒天警報を船舶に出力する通信手段としてのメールサーバ8と、を有している。また、荒天警報システムは、船舶の目的港の天候を予報するための目的港天候予報手段としての港湾気象サーバ6を有している。また、荒天警報システム1は、更に、WRS−Webサーバ7を有する。WRS−Webサーバ7は、外部の端末装置10からインターネット等の通信網15を介してアクセスされるユーザからのオーダ、ウェザールーティングサービスの処理要求等の受付及び端末装置10への気象情報等の出力を行うサーバである。
【0023】
WRSサーバ3、アラートサーバ4、メールサーバ8、港湾気象サーバ6、及び、WRS−Webサーバ7は、ネットワークを形成しており、これにより、相互にデータの交換等が行うことができるように構成されている。また、海洋気象を予測した気象データを出力する気象データ取得装置2は、本実施形態では外部に設置されており、通信回線17等により、WRSサーバ3及び港湾気象サーバ6とのデータ通信が可能となっている。また、荒天警報システムで運航管理する船舶には、パソコン、通信装置等からなる船舶用送受信装置9が設けられており、通信衛星16を介して、メールサーバ8との電子メールやファクシミリによるデータの送受信を行うことができるようになっている。
【0024】
尚、前述した各種サーバはコンピュータで構成されており、処理用プログラムを記憶装置に内蔵して、処理用プログラムをメモリに読み出して、メモリ上のプログラムを実行し、所定の処理を行うように構成されている。尚、説明上、メモリは、プログラムを実行したり、一時的なデータを格納するものであり、記憶装置は、ハードディスク装置等のデータ、プログラムを記憶する装置をさす。
【0025】
[荒天警報システムの構成要素の詳細]
以下に、荒天警報システムを構成する各サーバ及び各サーバが扱うデータについて説明する。図1に示す気象データ取得装置2は、一例としては、日本又は海外の気象庁等に設置されており、気象データを定期的に取得して配信するものである。気象データ取得装置2における気象データとしては、例えば、日本の気象庁が提供するGPV(Grid Point Value、格子点値)を使用するのが好適である。GPVの全球波浪数値予報モデルでは、等緯度等経度、分解能0.5度×0.5度(格子数720×301)での波高、周期、波向、風力及び風向等の84時間までの気象データ(以下、GPVデータとも記す。)が、1日4回配信されており、後述する海洋気象のシミュレーションを行うのに適する。尚、GPVデータの予報時間は、00、06、12、18UTC(協定世界時)の6時間間隔で84時間迄、さらに、12時間間隔で96時間から192時間迄のGPVデータが同時に配信される。GPVデータは、気象データ取得装置2から定期的に出力されて、WRSサーバ3に配信される。WRSサーバ3及び港湾気象サーバ6は、気象データ取得装置2からのGPVデータを受信して記憶装置に記憶する。
【0026】
尚、図1に示す気象データ取得装置2は、外部の気象庁等に設置した実施形態を示すが、本発明の荒天警報システムは、気象データ取得装置2を外部に依存せずに、WRSサーバ3等を有するネットワークに接続して内部に設置して運用してもよい。例えば、気象データ取得装置2を内部に設け、独自に気象のデータを収集し、収集したデータを基に海洋気象の気象データを予測して、これを気象データとして用いてもよい。
【0027】
図1に示すアラートサーバ4は、WRSサーバ3から送信されるデータ格納用のテーブル(図8参照)の初期日時、経過時間、船舶の位置及びGPVデータと、アラート基準データ3f(図2参照)とから、所定時間(例えば48時間)の間に船舶が航行する予定航路上に、船舶に応じて設定されるアラート基準データ3fを超える海洋気象が存在するか否かの判別をして、船舶のアラート基準データ3fを超える海洋気象が存在すると判別したときに荒天警報を出力するものである。尚、本発明の荒天警報システムにおける荒天とは、船舶ごとに決定されるアラート基準データを超える海洋気象をいう。
【0028】
図1に示すメールサーバ8は、WRSサーバ3の気象予報及びアラートサーバ4の荒天警報を船舶に送信(出力)するものであり、また、船舶からの位置情報等のメールを受信するものである。
【0029】
図1に示すWRSサーバ3は、気象データ取得装置2からのGPVデータ3aを受信し、GPVデータ3aの受信時における船舶の基準位置から、船舶の予定航路に沿って所定時間まで航行したときの船舶の位置の推定処理を行い、また、その位置における気象データの取得を行う、船舶位置のシミュレーションを行うものである。WRSサーバ3は、GPVデータ3a以外にも各種データをその記憶装置に記憶している。図2は、WRSサーバ3がその記憶装置に記憶している各種データを示す図である。
【0030】
[WRSサーバのデータ]
以下に、WRSサーバが記憶しているデータについて説明する。図2に示すように、WRSサーバ3の記憶装置に記憶しているデータは、GPVデータ3a、海流データ3b、船舶基本データ3c、航路管理データ3d、減速量データ3e、アラート基準データ3f、及び、管理者メールデータ3gからなる。
【0031】
図2に示す海流データ3bは、緯度及び経度上での海流の流速及び方向を示すものである。海流データ3bは、14日先までの海流の予測データが記憶装置内に記憶されており、1週間毎に更新される。海流データ3bは、主として、WRSサーバ3による船舶の位置を推定する船舶位置のシミュレーションにおいて、船舶の減速量を算出するためのデータとして使用される。
【0032】
図2に示す船舶基本データ3cは、本発明による荒天警報システムの対象として運航管理を行う船舶に関する基本データである。船舶基本データ3cとして、船舶毎に、船名、コールサイン、予定航海速力、総トン数、全長、全幅、主機関の種類、馬力、通信方式、船種、積荷の種類、積荷の搭載量等が、記憶装置内に記憶されている。船舶基本データ3cは、主として、WRSサーバ3による船舶の位置を推定する船舶位置のシミュレーションにおいて、船舶の減速量を算出するためのデータとして使用される。
【0033】
航路管理データ3dは、本発明による荒天警報システムによる運航管理の対象となる船舶の、出航前に決定した初期航路、出航港及び出航予定日時、目的港及び到着予定日時、航路データ、及び船舶からの通報位置等からなる。航路データは、出航港から目的港までの船舶の予定航路を示すものであり、最初は、初期航路のデータが記憶されており、後述する船舶位置のシミュレーションによって更新される。また、荒天回避等により予定航路の変更を受信したときには、航路データが更新される。
【0034】
図3は、航路管理データ3dに基づいて、出航港から目的港までの船舶の航路を地図上にグラフィック化した一例であり、航路上の風力、波高及び波向を同時に示す図である。図3に示す航路は、出航港である中国のRIZHAO(日照)から、北太平洋を航行して、目的港である米国のLONG BEACH(ロングビーチ)までを示す。地図の下部には、航海距離及び残り航海距離、航海時間及び残り航海時間、平均航海速度、目的港の到着予定時刻等を示してもよい。航路を示すライン(線)は、航路データの初期航路を基に表示し、船舶から1日1回送信されるNoon(ヌーン)レポートにて通報される船舶の位置データに基づいて、その位置の日付をライン上部に示し、また、その位置におけるGPVデータ3aから読み出した風力、波高及び波向をラインの下側に示している。また、地図上の丸印の中心は、現在の船舶の位置を示す。地図上部には、船舶の位置を緯度経度により示したり、6時間経過後の船舶の推定位置を示してもよい。尚、図3に示す出航港から目的港までの船舶の航路及び気象データに関する処理は、WRSサーバ3によって実行され、WRS−Webサーバ7を経由して端末装置10に出力され、運航管理者等に提供されてもよい。
【0035】
図2に示すWRSサーバ3の減速量データ3eは、船舶位置のシミュレーションにおいて、GPVデータの風及び波による船舶の減速量を算出するために用いられ、減速量をテーブル形式で記憶されている。
【0036】
図4は、船舶位置のシミュレーションで使用する減速量データ3eの一例をグラフ化した図である。図4に示す減速量データ3eは、一例としてPCC(Pure Car Carrier、自動車運搬船)に適用するものである。図4に示す減速量データ3eは、3次元のグラフで構成される。グラフのZ軸は船舶の減速量を示し(例えば−6とは6ノット減速されることを表す。)、Y軸は波の高さ(単位メートル)を表し、X軸は船舶に対する波の方向を表す。X軸のHEADは船舶の前から、BEAMは船舶の横から、FOLLOWは船舶の後ろから、の波の方向を表わす。また、HEADとBEAMとの中間点は、船舶の前から斜め45度方向からの波である場合、BEAMとFOLLOWとの中間点は、船舶の横から船尾に斜め45度方向からの波である場合、をそれぞれ表している。図4に示す減速量データによれば、例えば、船舶の前方から3メートルの高さの波を受けることが予測できれば、船舶の減速量は5ノットであることが一義的に決定される。図4に示す減速量データ3eの例は、波に関して作成されたものであるが、同様にして、風に関して作成された減速量データ3eであってもよく、両者を備えることが好適である。尚、減速量データ3eの算出には、GPVデータ3aの風及び波に関するデータを用いる。
【0037】
また、コンテナ船やバラ積み船などの船種及びその船種の全長と全幅との比である縦横比による区分に対応した減速量データ3eをも用意されており、船舶基本データ3cの船種及び縦横比に応じて減速量データ3eを選択して、選択した減速量データ3eから船舶の減速量を算出できるようにするのが好適である。
【0038】
このように、WRSサーバ3は、記憶装置に減速量データ3eをテーブル形式で記憶しており、減速量データ3eは、船舶位置のシミュレーションの実行時に使用される。
【0039】
アラート基準データ3fは、荒天警報を船舶に発するための基準データであり、船舶の耐航性能、安全基準等に基づき船舶毎に事前に設定される。尚、本発明の荒天警報システムにおける荒天とは、前述したように、船舶毎のアラート基準データを越える海洋気象をいう。アラート基準データ3fは、一例として、デフォルト設定では真横方向から高さ6メートルの波、としておき、対象船舶に応じて、真横方向から高さが4メートルの波とするなど、波高、波向、風力、風向等の数値で設定して、波や風がどういう状況になった時に対象船舶に対して警報を出すか、という基準(閾値)として決定しておく。
【0040】
また、管理者メールデータ3gは、警報等を通知するための船舶、船舶会社の運航管理部等宛先、メールアドレス、ファクシミリ番号等の情報からなる。
【0041】
以上述べたWRSサーバ3が有するGPVデータ3a、海流データ3b、船舶基本データ3c、航路管理データ3d、減速量データ3e、アラート基準データ3f及び管理者メールデータ3gは、データベース形式で記憶されており、WRSサーバ3による書き込み及び読み出しが可能となっている。また、アラートサーバ4は、WRSサーバ3を経由して、それぞれのデータを読み出すことが可能に構成されている。このように、各種のデータは、WRSサーバ3によりデータベース形式で一元的に管理されている。
【0042】
[荒天海域遭遇シミュレーションのフローチャート]
次に、以上の構成からなる荒天警報システムによる航行中の船舶に対して荒天警報を発するための荒天海域遭遇シミュレーションに関して、図5乃至図9を参照して説明する。
【0043】
荒天海域遭遇シミュレーションは、主に、WRSサーバ3による船舶位置のシミュレーションと、アラートサーバ4によるアラート処理と、で構成される。
【0044】
図5は、荒天警報システムにおける荒天海域遭遇シミュレーションの船舶位置のシミュレーション及びアラート処理に伴うデータの流れを示すフローチャート、図6は、船舶の予定航路上の3日先から7日先までの周辺海域の波高の予報を、5面波浪予測図として示した図、図7は、WRSサーバによる船舶位置の推定を行う船舶位置のシミュレーションを示すフローチャート、図8は、船舶位置のシミュレーション結果を記憶するためのデータ格納用のテーブルを示す図、図9は、アラートサーバによる船舶に関するアラート処理のフローチャートを示す図である。
【0045】
図5に示すように、WRSサーバ3は、気象データ取得装置2からのGPVデータ3aが受信可能な状態になっている。WRSサーバ3は、GPVデータ3aの到着を監視し(ステップS1)、GPVデータ3aを受信したときには、GPVデータ3aを記憶装置に記憶する。WRSサーバ3は、気象データ取得装置2から受信したGPVデータ3aが最新のデータかをチェックして(ステップS2)、GPVデータ3aが最新のデータに更新されているときには(ステップS2でYes)、アラートサーバ4に最新のGPVデータ3aを取得したことを通知する(ステップS3)。これにより、WRSサーバ3には、気象データ取得装置2からの最新のGPVデータ3aが記憶される。また、WRSサーバ3は、GPVデータ3aが最新のデータに更新されていないときには(ステップS2でNo)、ステップS1に戻り、GPVデータ3aの到達を監視する。WRSサーバ3は、アラートサーバ4に最新のGPVデータ3aを取得したことを通知(ステップS3)した後、船舶基本データ3cをアラートサーバ4に通知、送信する(ステップS4)。
【0046】
WRSサーバ3は、最新のGPVデータ3a及び船舶の航路データを読み出して、該当船舶の数日先までの周辺海域の波浪及び気象状況の予想を地図上にグラフィック化した波浪予測図を作成し(ステップS5)、メールサーバ8に転送する。図6に示すように、各面の波浪予測図は、図の上部に所定の日時における船舶の推定位置を示し、波高の大きさを濃淡又は色分けして描かれる。また、図面上の船舶の推定位置を丸印の中心で示し、丸印に向かって描かれている矢印は、波向を示す。
【0047】
メールサーバ8は、WRSサーバ3から受信した波浪予測図を、通信衛星16等を介して船舶用送受信装置9にメール送信する(ステップS6)。これにより、船舶は、波浪予測図から予定航路上の最新の海洋気象情報を入手することができる。
【0048】
次に、アラートサーバ4は、WRSサーバ3からの船舶基本データ3cを受信後(ステップS4)、船舶位置のシミュレーションを行う船舶の選択等を行うシミュレーション準備を行う(ステップS7)。最初に、アラートサーバ4は、シミュレーションを起動し(ステップS8)、WRSサーバ3に対して船舶を指定し船舶位置のミュレーションの実行命令を発する。
【0049】
アラートサーバ4からの命令を受けたWRSサーバ3は、船舶位置のシミュレーションを実行する。以下に、WRSサーバ3による船舶位置のシミュレーションについて図7を用いて説明する。
【0050】
[船舶位置のシミュレーション]
WRSサーバ3による船舶位置のシミュレーションは、船舶の位置におけるGPVデータから、船舶の減速量を算出し、減速量から船舶の航海速力を算出して、算出した航海速力で予定航路を航行した場合の経過時間(例えば1時間)毎の船舶の新たな位置を決定して、経過時間毎の船舶の新たな位置の算出を所定時間(例えば48時間)まで繰り返す。このようにして、WRSサーバ3は、GPVデータの受信時における船舶の基準位置から所定時間までの予定航路上における船舶の位置の推定を行う。これにより、実際の航行に合わせた状態で、予定航路上の船舶の位置をほぼリアルタイムで推定して取得することが可能となる。
【0051】
WRSサーバ3は、船舶位置のシミュレーション結果を記憶するためのデータ格納用のテーブル(図8参照)を、記憶装置のエリアに準備する(ステップS9)。図8に示すように、データ格納用のテーブルは、船舶毎に設けられ、船舶名で管理するのが好適である。データ格納用のテーブルは、(1)新たなGPVデータを受信後、船舶位置のシミュレーションを開始する日時を示す初期日時、(2)初期日時からの経過時間、(3)経過時間毎の船舶の位置、(4)その位置におけるGPVデータ、からなる。データ格納用のテーブルの経過時間は、初期日時から経過した時間を示し、一例として1時間と設定すればよく、その経過時間毎に増加させて所定時間までをシミュレーションできるようにしておく。尚、初期日時、船舶の位置及びその位置におけるGPVデータは、船舶位置のシミュレーション実行時にデータ格納用のテーブルに記憶される。
【0052】
次に、WRSサーバ3は、データ格納用のテーブルの初期日時として、船舶位置のシミュレーションの開始日時を記憶し、また、経過時間を管理する変数Tpの値を0(ゼロ)にして初期化する。そして、データ格納用のテーブルの初期日時における船舶の位置を、航路管理データ3dの航路データから読み出して、データ格納用のテーブルの経過時間が0に対応した船舶の位置の欄に、基準位置として記憶する(ステップS10)。また、データ格納用のテーブルに記憶した船舶の位置を、船舶位置としてメモリ上に記憶する。また、この位置を以後、船舶位置と記す。
【0053】
WRSサーバ3は、GPVデータ3aにアクセスして、船舶位置及びその位置の日時におけるGPVデータ3aから、波及び風に関するデータを読み出して(ステップS11)、読み出したGPVデータ3aの波及び風に関するデータを、データ格納用のテーブルの変数Tpが示す値の経過時間に対応したGPVデータの欄に記憶する(ステップS12)。尚、GPVデータは、船舶の位置と最も近い格子点のデータを使用するようにする。これにより、船舶の位置に対応したGPVデータが得られる。
【0054】
GPVデータ3aは6時間間隔で区切られているため、1時間毎のGPVデータは、その時間が属する時間帯の開始時間のGPVデータを使用する。例えば、0時から6時までの時間帯のGPVデータは、0時のものを使用する。尚、1時間毎のGPVデータは、その時間が属する時間帯の直近の開始時間又は終了時間のGPVデータ3aを使用したり、6時間間隔のGPVデータ3aから補完によって1時間毎の近似値のデータを算出して、これを1時間毎のGPVデータ3aとして用いるようにしてもよく、特に限定されない。
【0055】
次に、変数Tpの値が、48以上であるかをチェックする(ステップS13)。これは、データ格納用のテーブルが、48時間までの所定時間に対応する船舶の位置及びGPVデータが得られたかを確認するためのものであり、所定時間として48時間を設定した場合の値であって、所定時間を他の時間に設定する場合には、それに対応した値とすればよい。変数Tpの値が、48以上の場合(ステップS13でYes)には、ステップS16に移行する。また、Tpの値が、48未満の場合(ステップS13でNo)には、以下に述べる1時間後の新たな船舶位置を算出するようにする。
【0056】
Tpの値が、48未満の場合(ステップS13でNo)には、船舶基本データの船種及びその縦横比から減速量データ3eを選択して、船舶の位置でのGPVデータ3aの波及び風のデータから、波及び風による船舶の減速量を算出する。尚、波及び風による船舶の減速量は、両者の減速量を加算した値となる。また、船舶位置における海流データ3bから海流の速度を求めて、波及び風による船舶の減速量を海流データ3bの海流の速さ及び方向で補正して船舶の減速量を算出する。そして、船舶基本データ3cの予定航海速力から船舶の減速量を減算して、航海速力を算出する(ステップS14)。
【0057】
算出した船舶の航海速力を用いて、航路管理データ3dの航路データにおける1時間後の船舶の新たな位置を算出する。また、変数Tpの値に1を加算して、経過時間として1時間増加させる。新たに算出した船舶の位置を、データ格納用のテーブルの変数Tpの値に対応した経過時間における船舶の位置の欄に記憶する。また、データ格納用のテーブルに記憶した船舶の位置を、船舶位置としてメモリ上に記憶する(ステップS15)。その後、ステップS11に移行して、ステップS11からの処理を実行する。
【0058】
ステップS16では、データ格納用のテーブルの船舶の位置のデータを、データ格納用のテーブルの初期日時に経過時間を加算して日時に変換してその日時毎に船舶位置のシミュレーションを実行した船舶の航路管理データ3dの航路データに記憶する。これにより、船舶位置のシミュレーションで算出された所定時間の48時間先までの航路データが得られる。WRSサーバ3は、航路管理データ3dの航路データに、船舶の位置を記憶後、船舶位置のシミュレーションを終了する。
【0059】
以上述べた船舶位置のシミュレーションによって、船舶の基準位置から所定時間(48時間)先までの推定位置、及びその位置におけるGPVデータ3aの波及び風のデータ、が同時に記憶される。このように、船舶位置のシミュレーションでは、船舶の位置に対してGPVデータ3aが関連付けされてデータ格納用のテーブルに記憶される。図8は、船舶位置のシミュレーションによる初期時間から1時間毎の船舶の位置及びその位置でのGPVデータ3aを示すが、船舶の位置の算出は、48時間迄に限定されるものではなく、例えば、60時間であってもよく特に限定されない。また、船舶の位置算出は、1時間毎に限らず、別途定めた時間間隔を経過時間として設定してもよい。例えば、GPVデータ3aが、6時間毎のデータであれば、船舶の位置算出は、6時間毎行うようにしてもよい。
【0060】
図5に示すように、WRSサーバ3は、船舶位置のシミュレーション後、アラートサーバ4に、船舶位置のシミュレーションの結果、即ち、データ格納用のテーブル(図8参照)の初期時間から1時間毎の船舶の位置、及びその位置での風及び波に関するGPVデータ、を転送する(ステップS17)。また、WRSサーバ3は、アラートサーバ4に、アラート基準データ3fを転送する(ステップS18)。
【0061】
[アラート処理]
次に、アラートサーバが荒天警報を発するためのアラート処理について、図9を参照して説明する。アラートサーバによるアラート処理は、所定時間の間に船舶が航行する予定航路上に、船舶に応じて設定されるアラート基準データを超える海洋気象が存在するか否かの判別をする荒天判別の処理と、荒天判別の処理が、船舶のアラート基準データを超える海洋気象が存在すると判別したときに、荒天警報を出力する荒天警報の処理からなる。図9は、アラートサーバによる船舶に荒天警報を発するためのアラート処理のフローチャートを示す図である。
【0062】
図9に示すように、アラートサーバ4は、経過時間用ポインタを初期化する(ステップS19)。経過時間用ポインタは、WRSサーバ3から受け取った船舶位置のシミュレーション結果であるデータ格納用のテーブルを経過時間毎に読み出すためのものである。また、アラートサーバ4は、受け取ったアラート基準データ3fから該当する船舶のアラート基準データを基準値(閾値)として読み出す(ステップS20)。アラートサーバ4は、経過時間用ポインタが示すデータ格納用のテーブル(図8参照)の経過時間に対応したGPVデータを読み出し(ステップS21)、読み出したGPVデータとアラート基準データ3fとを比較して(ステップS22)、GPVデータが基準値としてのアラート基準データ3fを超えるかを判別する(ステップS23)。アラート基準データ3fを超えるGPVデータがある場合(ステップS23でYes)には、そのGPVデータ、その時の経過時間、及び船舶の位置を記憶する(ステップS24)。GPVデータがアラート基準データ3f未満の場合(ステップS23でNo)又はステップS24実行後、経過時間用ポインタに1を加算して、次の経過時間に対応したGPVデータを読み出す準備をする(ステップS25)。経過時間が所定時間としての48時間を超えているかを判別して(ステップS26)、経過時間が48時間以内の場合(ステップS26でNo)には、ステップS21に移行する。
【0063】
このように、アラートサーバ4は、経過時間を増加させながらデータ格納用のテーブルのGPVデータを順に読み出すようにして、アラート基準データ3fを超えるGPVデータがあるときには、GPVデータ、経過時間及び船舶位置をメモリに記憶する。
【0064】
次に、図5に示すようにアラートサーバ4は、アラート基準データ3fを超えるGPVデータがメモリに記憶されているかを判別して、警報を発する必要があるかを判断する(ステップS27)。アラート基準データ3fを超えるGPVデータがある場合(ステップS27でYes)には、荒天に遭遇する日時、GPVデータ及び船舶名を,メールサーバ8に出力する(ステップS28)。また、必要により、荒天遭遇時の船舶の位置も同時にメールサーバ8に出力するようにしてもよい。
【0065】
メールサーバ8は、船舶名をキーとしてWRSサーバ3の管理者メールデータ3gから送信するアドレスを検索し、検索されたアドレスを電子メールの送信先として、警報情報、即ち、荒天に遭遇する日時、風及び波に関するデータを、船舶用送受信装置9等に通知する(ステップS29)。
【0066】
図10は、メールサーバから発せられる荒天警報の一例を示す図である。図10に示す荒天警報は、「48時間以内に荒天に遭遇する見込み、風、北西、風力8、波高6メートル、31日標準時00時から06時まで、風、北西、風力9、波高8メートル、31日標準時00時から06時まで」のように表している。
【0067】
また、図5に示す船舶用送受信装置9から送信される破線で示すヌーンレポートや到着レポートは、メールサーバ8で随時受け付けられる。メールサーバ8からのヌーンレポート、到着レポートは、WRSサーバに出力されて、航路管理データ3dの船舶の通報位置に記録される。
【0068】
図5に示すように、WRSサーバ3は、対象船舶が目的港に到着したかをチェックして(ステップS30)して、まだ航行中の場合(ステップS30でNo)はステップS1に移行してGPVデータ3aの到着の監視を行う。また、対象船舶が目的港に到着した場合(ステップS30でYes)には、対象船舶への荒天警報通報のサービスを終了する。
【0069】
以上述べた、荒天海域遭遇シミュレーションに関する処理を、更に図11を参照して、時系列的に説明する。図11は、GPVデータの予報時間毎の所定時間48時間による船舶位置のシミュレーション及びアラート処理を時系列的に示した図である。図11に示すように、GPVデータは、予報時間を00、06、12、18時とし、1日4回配信される。また、船舶は、一例として7月8日3時に出航するものとする。最初に、WRSサーバは、船舶位置のシミュレーションを7月8日3時に実行する。シミュレーションの実行時刻における船舶の基準位置を、船舶が7月8日3時に出航した位置(出航港)とする。また、00時に取得したGPVデータを用いて、船舶位置における同時刻のGPVデータから船舶の減速量を算出し、航路管理データの航路データの予定航路に沿って経過時間(例えば1時間)毎に船舶位置を算出して、所定時間である48時間先まで船舶の位置を算出する。このときの船舶の位置の算出処理を、第1の推定処理とする。また、このとき経過時間毎の船舶位置に対応したGPVデータが得られる。そして、アラートサーバは、48時間以内に、アラート基準データを超える海洋気象(即ち荒天)が存在するか否かの荒天判別処理を行う。このときの荒天判別処理を、第1の荒天判別処理とする。第1の荒天判別処理では、アラート基準データを超える海洋気象が存在しないため、荒天警報を出力する荒天警報処理は行わない。第1の推定処理で得られた、48時間まで船舶の位置を航路データに記憶する。
【0070】
次に、WRSサーバは、6時に取得したGPVデータを用いて、シミュレーションの実行時刻における船舶の基準位置を、第1の推定処理で得られた船舶の位置での6時における船舶の位置として、船舶位置における同時刻のGPVデータから船舶の減速量を算出し、航路管理データの航路データの予定航路に沿って一定時間毎に船舶位置を算出して、所定時間である48時間まで船舶の位置を算出する。このときの船舶の位置の算出処理を第2の推定処理とする。また、このとき一定時間毎の船舶位置に対応したGPVデータが得られる。そして、アラートサーバは、船舶アラート基準データを超える海洋気象が存在するか否かの荒天判別処理を行う。このときの荒天判別処理を第2の荒天判別処理とする。このとき、第2の荒天判別処理アラート基準データを超える海洋気象が存在しないため、荒天警報を出力する荒天警報処理は行わない。第2の推定処理で得られた48時間まで船舶の位置を航路データに記憶する。以下同様にして、順次、第3乃至第8までの推定処理及び荒天判別処理を行い、荒天判別処理の結果により荒天警報処理も行う。また、ヌーンレポートにより船舶の位置が確定した時には、ヌーンレポートによる船舶の位置を基準位置として使用することも可能であり、図11における第3の推定処理及び第7の推定処理では、ヌーンレポートによる船舶の位置を反映することができることを意味する。
【0071】
このように、WRSサーバは、推定処理の実行時刻における船舶の位置を基準位置として、所定時間の間に予定航路上を航行する船舶の位置を推定する推定処理を行い、次の推定処理の実行時刻における船舶の基準位置を、前回の推定処理で推定した船舶の位置から決定して、船舶の位置の推定処理を行うようにする。
【0072】
また、図11に示すように、第4乃至第7の荒天判別処理において、所定時間48時間以内の黒丸で示す時刻で、アラート基準データを超える海洋気象が存在することが判別されるため、アラートサーバは、荒天警報を出力する荒天警報出力処理を行うようにする。また、図11に示す第4乃至第7の荒天警報を出力する処理では、荒天海域に船舶が到達するまでの残りの予想到達時間及び/又は予想到達時刻を出力してもよく、例えば7月10日18時に荒天海域に到達すること、が警告される。また、第8の推定処理において、黒丸が表記されていないのは、対象船舶が前回の荒天警報を受けて荒天回避を行い航路を変更したために、アラート基準データを超える海洋気象が存在しない例を示すものである。尚、図11では、荒天海域遭遇シミュレーションの第8までの推定処理、荒天判別処理及び荒天判別処理を示すが、第8以後の処理も同様にして継続する。
【0073】
尚、本発明による荒天警報システムは、WRSサーバ3の船舶基本データに記憶されている航行中の他の船舶に関しても、並列して、WRSサーバの船舶位置のシミュレーション及びアラートサーバによるアラート処理が実行されるように構成されている。
【0074】
また、本発明の荒天警報システムは、アラートサーバのアラート処理をWRSサーバで処理するようにしてもよく、上述したサーバの構成に限定するものではなく、荒天海域遭遇シミュレーション等を行うために、適宜、サーバの統合、分散を行うことも可能である。
【0075】
このように、荒天警報システムは、気象データであるGPVデータと航路データから所定時間経過後の船舶の位置を推定し、安全運航が確保される限界の風力、波浪のデータを前もって警報基準値として決定しておき、航路上で警報基準値を超える風力、波浪が予想されるときに荒天警報を発するものであり、例えば、48時間以内に荒天海域に突入する可能性がある場合に、該当する船舶に対して、警報メールをメールサーバより通信衛星を介して自動送信する。また、船舶会社の運航管理部門の端末装置に通信網を介して、船舶と同様の警報メールを送信する。
【0076】
以上述べたように、本発明によれば、各船舶の耐航性能、運航状況等に応じて、船舶毎に予定航路上での荒天警報、荒天情報を提供することにより、船舶毎に前もって荒天警報が発することができるため、荒天回避が容易に行え、また、回避のための最適な航路を選択することができる。
【0077】
また、本発明によれば、荒天警報システムは、荒天海域に突入する可能性がある船舶に対して自動的に荒天警報を送信するため、船長に適切な情報を提供でき、事前に荒天海域を避けることができる。
【0078】
また、本発明によれば、船舶に対して荒天に関する情報を適宜提供することにより、陸上より適切なアドバイスが行え、これにより、船長の荒天回避の判断を支援することができる。
【0079】
また。本発明によれば、気象データを用いて予定航路上での航海速力を算出し、算出した航海速力で船舶の位置を推定するため、より実際に近い船舶位置の情報に基づいて荒天警報を発することが可能となる。
【実施例】
【0080】
以上、航行中に予想される荒天情報を前もって荒天警報として航行船舶に通知する荒天警報システムについて述べたが、本発明の海洋荒天警報システムは、荒天海域航行中での船舶の現在位置から残りの荒天海域の航海時間を通知するとも可能となっている。図1に示す荒天警報システム1は、WRSサーバ3による船舶位置のシミュレーション及びアラートサーバ4のアラート処理により、船舶が荒天海域を航行中と判断した場合には、図8に示すデータ格納用のテーブルにおける、アラート基準データ未満のGPVデータが位置する経過時間を読み出すことにより、初期日時からの荒天海域を通過するまでの経過時間を得ることができる。荒天海域を通過するまでの経過時間をメールサーバから送信することにより、荒天海域航行中での船舶の現在位置から残りの荒天海域の航海時間を出力することが可能となる。
【0081】
また、荒天警報システムは、船舶の目的港の天候を予報するための目的港天候予報手段としての港湾気象サーバ6を有している。港湾気象サーバ6は、WRSサーバと共に気象データ取得装置からのGPVデータを入力できるように構成されている。図1に示す端末装置から船舶の目的港、予定入港日等を入力することにより、WRS−Webサーバを介して、港湾気象サーバ6に、目的港の予定入港日における天候を予報する命令が発せられる。港湾気象サーバ6は、目的港の位置を緯度と経度に変換して、その位置における予定入港日に該当するGPVデータを読み出すようにする。読み出したGPVデータをWRS−Webサーバに出力し、WRS−Webサーバから端末装置に船舶の目的港の気象予報の情報が出力される。これにより、最新のGPVデータに基づいた気象予報の情報提供が可能となる。また、港湾気象サーバ6は、目的港の天候予報のみならず、例えば、端末装置から、航海位置及びその位置の日時を入力することにより、その位置での最新のGPVデータに基づいた気象予報の情報提供も可能となる。
【0082】
この発明は、その本質的特性から逸脱することなく数多くの形式のものとして具体化することができる。よって、上述した実施形態は専ら説明上のものであり、本発明を制限するものではないことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0083】
1 荒天警報システム
2 気象データ取得装置
3 WRSサーバ
3a 気象データ(GPVデータ)
3b 海流データ
3c 船舶基本データ
3d 航路管理データ
3e 減速量データ
3f アラート基準データ
3g 管理者メールデータ
4 アラートサーバ
6 港湾気象サーバ
7 WRS−Webサーバ
8 メールサーバ
9 船舶用送受信装置
10 端末装置
15 通信網(インターネット)
16 通信衛星
17 通信回線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも船舶の予定航路に沿った海域の海洋気象を予測した気象データを取得する気象データ取得手段と、
前記気象データに基づいて、基準位置から前記予定航路に沿って所定時間の間に航行する船舶の位置を推定処理する船舶位置推定手段と、
前記所定時間の間に前記船舶が航行する前記予定航路上に、前記船舶に応じて設定されるアラート基準データを超える海洋気象が存在するか否かの判別をする荒天判別手段と、
前記荒天判別手段が、前記船舶のアラート基準データを超える海洋気象が存在すると判別したときに荒天警報を出力する荒天警報手段と、
前記荒天警報を前記船舶に通知する通信手段と、
を有することを特徴とする荒天警報システム。
【請求項2】
前記気象データ取得手段は、新たな気象データを所定間隔で取得し、前記気象データ取得手段が新たな気象データを取得したときに、前記船舶位置推定手段による前記船舶の位置の推定処理と前記荒天判別手段による前記判別とが行われることを特徴とする請求項1に記載の荒天警報システム。
【請求項3】
前記アラート基準データは、少なくとも、前記船舶の耐航性能に応じて船舶毎に設定される波高及び/又は風力を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の荒天警報システム。
【請求項4】
前記荒天判別手段は、前記気象データに基づいて求めた前記船舶の予定航路に沿った海域の波高及び/又は風力と、前記アラート基準データとしての波高及び/又は風力と、を比較することによって前記判別をすることを特徴とする請求項3に記載の荒天警報システム。
【請求項5】
前記荒天警報は、前記所定時間の間に前記船舶が航行する前記予定航路上に、前記船舶のアラート基準データを超える海洋気象が存在することを内容とすることを特徴とする請求項1乃至請求項4のうち、いずれか1に記載の荒天警報システム。
【請求項6】
前記アラート基準データを超える海洋気象に前記船舶が到達するまでの予想到達時間及び/又は予想到達時刻を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項5のうち、いずれか1に記載の荒天警報システム。
【請求項7】
前記船舶位置推定手段は、前記推定処理の実行時刻における船舶の位置を前記基準位置として、所定時間の間に予定航路上を航行する船舶の位置を推定する推定処理を行い、次の推定処理の実行時刻における船舶の前記基準位置を、前回の推定処理で推定した船舶の位置から決定して、船舶の位置の推定処理を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項6のうち、いずれか1に記載の荒天警報システム。
【請求項8】
前記船舶位置推定手段は、航行中の前記船舶の現在位置を取得した場合は、前記現在位置を前記基準位置として、所定時間の間に航行する船舶の位置を推定処理することを特徴とする請求項1乃至請求項6のうち、いずれか1に記載の荒天警報システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−48492(P2012−48492A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189910(P2010−189910)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(500140529)株式会社ハレックス (1)
【Fターム(参考)】