荷電粒子ビーム描画装置及びDACアンプの安定化方法
【課題】帰還抵抗に対して予め当該帰還抵抗が設けられているDACアンプに対して設定される最大値の電圧を印加しその発熱状態を標準状態とすることで、出力電圧の変化が生じても電子ビームに対する影響を最小限に抑え高精度な描画処理を行うことができる荷電粒子ビーム描画装置及びDACアンプの安定化方法を提供する。
【解決手段】荷電粒子ビームBを用いて移動可能なステージ上に載置される試料にパターンを描画する描画部2と、荷電粒子ビームBの光路に沿って配置される偏向器に電圧を印加するDACアンプ34,35と、DACアンプ34,35に対する制御を行うDACアンプ制御部31jを備える制御計算機31と、から構成される制御部3と、を備え、DACアンプ制御部31jは、DACアンプ34,35に印加する電圧を当該DACアンプ34,35に対して設定される最大値で継続して印加する。
【解決手段】荷電粒子ビームBを用いて移動可能なステージ上に載置される試料にパターンを描画する描画部2と、荷電粒子ビームBの光路に沿って配置される偏向器に電圧を印加するDACアンプ34,35と、DACアンプ34,35に対する制御を行うDACアンプ制御部31jを備える制御計算機31と、から構成される制御部3と、を備え、DACアンプ制御部31jは、DACアンプ34,35に印加する電圧を当該DACアンプ34,35に対して設定される最大値で継続して印加する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビーム描画装置及びDACアンプの安定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスに所望の回路パターンを形成するために、リソグラフィー技術が用いられる。リソグラフィー技術では、マスク(レチクル)と称される原画パターンを使用したパターンの転写が行われる。この際、高精度なレチクルを製造するために、優れた解像度を備える電子ビーム(電子線)描画技術が用いられる。
【0003】
レチクルに電子ビーム描画を行う荷電粒子ビーム描画装置の一方式として、例えば以下のような可変成形方式を挙げることができる。すなわち、ここでは図示しないが、この可変成形方式は、第1成形アパーチャの開口と、第2成形アパーチャの開口とを通過することで成形された電子ビームによって移動可能なステージ上に載置された試料上に図形パターンが描画される。
【0004】
このように例えば、可動ステージ上の試料に図形パターンを描画する際には、電子ビームを移動させる制御、或いは、電子ビームの形状やサイズの制御の必要が生じる。上述した荷電粒子ビーム描画装置では、荷電粒子ビームを偏向させて移動させる。このようなビームの偏向には偏向アンプが用いられており、そのために荷電粒子ビーム描画装置には、単数または複数の偏向アンプが利用される。このビーム偏向制御は、偏向アンプと偏向器によって行われ、それぞれの偏向制御は独立して行われることが一般的である。
【0005】
ここで近年はさらに、描画処理そのものが高速、かつ、高精度に行われることが求められる。この高速化、高精度化については、上述した偏向アンプの速度、精度に大きく依存する。そのため偏向アンプでは、高精度を得るために、偏向アンプのオープンループゲインを大きくするとともに、偏向アンプの出力から負帰還を行うことで高精度を得ている。但し、偏向アンプの出力から負帰還をかけると、増幅素子の時間遅れ、負荷からの反射等によりセトリング時間が長くなる傾向にある。
【0006】
そこで、以下に示す特許文献1においては、偏向アンプの温度を直接測定せず、代わりに偏向アンプのオフセット電圧を測定し、当該オフセットから偏向アンプのゲイン、オフセットの温度補正を行うことにより、偏向アンプを高精度で、かつオシロスコープなみの周波数をもたせ、荷電粒子ビーム描画装置のスループットを向上させることで、上述した弊害の解消を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許4010712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した特許文献1では、以下の点についての配慮がなされていない。すなわち、偏向アンプの出力から負帰還を行うと、帰還抵抗には、その両端に略出力電圧と同等の電圧が印加されることになり、印加される電圧に応じた電力消費、つまり、自己発熱が生ずることになる。この帰還抵抗の自己発熱量は、出力電圧として印加される電圧値が、例えば0Vの場合と当該偏向アンプの出力として設定されている最大値の電圧である場合とでは、自然と差異が生ずる。具体的には、出力電圧として印加される電圧が0Vのときよりも最大値の電圧が印加された方が自己発熱量は多くなる。
【0009】
従って、帰還抵抗について自己発熱が発生しない状態となった後、フルスケールの出力電圧が印加される状態で偏向アンプが使用されると、帰還抵抗の自己発熱によって、抵抗器の温度が徐々に上昇し、抵抗値が熱定数に応じて変化することで、アンプゲインが変化してしまう。このような現象が生ずると出力電圧のドリフトに伴う、描画処理における電子ビームのドリフトを誘発してしまい、描画処理において求められる精度を低下させることになる。
【0010】
このような弊害を回避するには、例えば、熱定数の小さな抵抗器を使用することも考えられるが、この場合には描画処理の精度が抵抗器の性能に左右されることになり、コストも掛かる場合がある。また、抵抗器周辺を冷却することで発熱を抑えることも考えられるが、例えば、空冷の場合、抵抗器周辺の他の部品の発熱や空気の流れ等、非常に多くの事項を考慮した上で設計しなければならず、さらには空冷用の空気の準備が必要となる。一方水冷の場合であっても、水冷用の液体の準備が必要となる上に、抵抗器周辺に金属等で形成される冷却板の設定が必要となるが、この冷却板が帰還抵抗とグランドとの間の浮遊容量を増加させることになりかねず、例えば、セトリング時間への悪影響が懸念される。
【0011】
また、帰還抵抗の自己発熱に対する温度制御において、上述した空冷、或いは水冷の方法では、抵抗器そのものではなくその周辺から帰還抵抗に対する温度制御を行うことになるため、その温度変化に迅速に対処できないことも考えられる。
【0012】
その他、例えば、温度検出器を帰還抵抗に取り付ける、或いは、帰還抵抗の上流に設けられる抵抗器と帰還抵抗とを熱的に結合する等して、その温度に応じた補正値を偏向アンプに入力することで対応することも考えられるが、温度検出器や熱結合したものが帰還抵抗とグランドとの間の浮遊容量を増加させることになりかねない。
【0013】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、帰還抵抗に対して予め当該帰還抵抗が設けられているDACアンプに対して設定される最大値の電圧を印加しその発熱状態を標準状態とすることで、出力電圧の変化が生じても電子ビームに対する影響を最小限に抑え高精度な描画処理を行うことができる荷電粒子ビーム描画装置及びDACアンプの安定化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様に係る特徴は、荷電粒子ビーム描画装置において、荷電粒子ビームを用いて移動可能なステージ上に載置される試料にパターンを描画する描画部と、荷電粒子ビームの光路に沿って配置される偏向器に電圧を印加するDACアンプと、DACアンプに対する制御を行うDACアンプ制御部を備える制御計算機と、から構成される制御部と、を備え、DACアンプ制御部は、DACアンプに印加する電圧を当該DACアンプに対して設定される最大値で継続して印加する。
【0015】
また、上記荷電粒子ビーム描画装置において、DACアンプ制御部によるDACアンプへの最大値での電圧の印加は、描画部における試料への描画処理中を除きなされることが望ましい。
【0016】
本発明の一態様に係る特徴は、DACアンプの安定化方法において、暖機運転が終了したDACアンプに対して、DACアンプに対して設定される最大値の電圧を印加するステップと、最大値の電圧の印加から所定の時間が経過したか否かを確認するステップと、所定の時間が経過したことが確認された場合に、当該状態を標準状態として維持するステップとを備える。
【0017】
また、DACアンプの安定化方法において、標準状態は、DACアンプが搭載される荷電粒子ビーム描画装置が描画処理を行う時間を除いて継続的に維持されることが望ましい。
【0018】
さらに、本発明の一態様に係る特徴は、DACアンプの安定化方法において、DACアンプに対してキャリブレーション処理を行う前の暖機運転は、DACアンプに対して設定される最大値の電圧を印加するステップと、最大値の電圧の印加から所定の時間が経過したか否かを確認するステップと、所定の時間が経過したことが確認された場合に、当該状態を標準状態として維持するステップと、を備え、キャリブレーション処理は、標準状態の下にて行われる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、帰還抵抗に対して予め当該帰還抵抗が設けられているDACアンプに対して設定される最大値の電圧を印加しその発熱状態を標準状態とすることで、出力電圧の変化が生じても電子ビームに対する影響を最小限に抑え高精度な描画処理を行うことができる荷電粒子ビーム描画装置及びDACアンプの安定化方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態における荷電粒子ビーム描画装置の内部構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態における制御計算機の内部構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態におけるDACアンプの内部構成の一部を示す回路図である。
【図4】本発明の実施の形態におけるDACアンプの安定化方法の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0022】
図1は、本発明の実施の形態における荷電粒子ビーム描画装置1の全体構成を示すブロック図である。なお、以下の実施の形態においては、荷電粒子ビームの一例として電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは電子ビームに限られるものではなく、イオンビーム等の荷電粒子を用いたビームであっても良い。
【0023】
荷電粒子ビーム描画装置1は、試料に所定のパターンを描画する装置であり、特に可変成形型の描画装置の一例である。図1に示すように、荷電粒子ビーム描画装置1は、大きく描画部2と制御部3を備えている。
【0024】
描画部2は、電子鏡筒4と描画室6を備えている。電子鏡筒4内には、電子銃41と、この電子銃41から照射される電子ビームの光路に沿って、照明レンズ42と、ブランキング偏向器43と、ブランキングアパーチャ44と、第1の成形アパーチャ45と、投影レンズ46と、成形偏向器47と、第2の成形アパーチャ48と、対物レンズ49と、位置偏向器50とが順に配置されている。
【0025】
描画室6の中には、XYステージ61が配置される。XYステージ61上には、描画時には描画対象となるマスク等の試料が配置されることになるが、ここでは図示を省略している。XYステージ61上には、試料が配置される位置とは異なる位置にファラデーカップ62が配置される。
【0026】
ブランキング偏向器43は、例えば、2極、或いは、4極等の複数の電極によって構成される。また、成形偏向器47、位置偏向器50は、例えば、4極、或いは、8極等の複数の電極によって構成される。図1では、成形偏向器47、位置偏向器50、それぞれの偏向器ごとに1つのDACアンプしか記載していないが、各電極にそれぞれ少なくとも1つのDACアンプが接続される。なお、DACアンプにいう「DAC」は、「Digital to Analog Converter」の頭文字である。
【0027】
制御部3は、制御計算機31と、偏向制御部32と、ブランキングアンプ33と、偏向アンプ(DACアンプ)34,35と、ステージ制御部36とを備えている。制御計算機31、偏向制御部32、ステージ制御部36は、図示しないバスを介して互いに接続されている。また、偏向制御部32、ブランキングアンプ33、DACアンプ34,35は、図示しないバスを介して互いに接続されている。
【0028】
ブランキングアンプ33は、ブランキング偏向器43に接続される。また、DACアンプ34は、成形偏向器47に接続される。DACアンプ35は、位置偏向器50に接続される。ブランキングアンプ33、DACアンプ34,35に対しては、偏向制御部32から、それぞれ独立した制御用のデジタル信号が出力される。デジタル信号が入力されたブランキングアンプ33、DACアンプ34,35は、それぞれのデジタル信号をアナログ電圧信号に変換し、増幅させて偏向電圧として接続された各偏向器に出力する。このようにして、各偏向器には、それぞれ接続されるDACアンプから偏向電圧が印加される。かかる偏向電圧によって電子ビームが偏向させられる。
【0029】
なお、DACアンプ34,35の内部構成(の一部)については、後述する。また、荷電粒子ビーム描画装置1には、上述したように電子ビームを取り囲むように成形偏向器47、位置偏向器50が4極、或いは、8極設けられており、電子ビームを挟んで各々一対(4極の場合は2対、8極の場合は4対)配置されている。そして成形偏向器47、位置偏向器50ごとにそれぞれDACアンプが接続されている。但し、図1には成形偏向器47、位置偏向器50に接続されているDACアンプそれぞれ1つずつのみを示し、その他のDACアンプを示していない。
【0030】
ステージ制御部36は、ファラデーカップ62と制御計算機31とに接続し、ファラデーカップ62の動きを検出している。
【0031】
図2は、本発明の実施の形態における制御計算機31の内部構成を示すブロック図である。制御計算機31は、CPU(Central Processing Unit)31aと、ROM(Read Only Memory)31bと、RAM(Random Access Memory)31c及び入出力インターフェイス31dがバス31eを介して接続されている。入出力インターフェイス31dには、入力部31fと、表示部31gと、通信制御部31hと、記憶部31iと、DACアンプ制御部31jとが接続されている。
【0032】
CPU31aは、入力部31fからの入力信号に基づいてROM31bから荷電粒子ビーム描画装置1を起動するためのブートプログラムを読み出して実行し、記憶部31iに格納されている各種オペレーティングシステムを読み出す。またCPU31aは、入力部31fや入出力インターフェイス31dを介して、図1において図示していないその他の外部機器からの入力信号に基づいて各種装置の制御を行う。さらにCPU31aは、RAM31cや記憶部31i等に記憶されたプログラム及びデータを読み出してRAM31cにロードするとともに、RAM31cから読み出されたプログラムのコマンドに基づいて、データの計算、加工等、一連の処理を実現する処理装置である。
【0033】
入力部31fは、荷電粒子ビーム描画装置1の操作者が各種の操作を入力するキーボード、ダイヤル等の入力デバイスにより構成されており、操作者の操作に基づいて入力信号を作成しバス31eを介してCPU31aに送信される。
【0034】
表示部31gは、例えば液晶ディスプレイである。この表示部31gは、CPU31aからバス31eを介して出力信号を受信し、例えば、CPU31aの処理結果等を表示する。
【0035】
通信制御部31hは、LANカードやモデム等の手段であり、荷電粒子ビーム描画装置1をインターネットやLAN等の通信ネットワークに接続することを可能とする手段である。通信制御部31hを介して通信ネットワークと送受信したデータは入力信号または出力信号として、入出力インターフェイス31d及びバス31eを介してCPU31aに送受信される。
【0036】
記憶部31iは、半導体や磁気ディスクで構成されている。記憶部31iには、描画データの基となるレイアウトデータや描画データ、CPU31aで実行されるプログラムやデータが記憶されている。
【0037】
DACアンプ制御部31jは、DACアンプ34,35自体の制御を行う。試料への描画処理を実際に制御するのは、偏向制御部32であるが、例えば、DACアンプ34,35の暖機運転やアイドリング状態の維持等、DACアンプ34,35が適切に機能するように制御するのがDACアンプ制御部31jである。
【0038】
なお、図2には示されていないが、DACアンプ制御部31jの内部には、DACアンプ34,35の運転制御を行うに際して必要とされる、判断部や計時部が設けられている。
【0039】
また、制御計算機31は、ここではハードウェアとして構成した例を挙げて説明しているが、プログラムといったソフトウェアで構成されても良い。また、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせで構成されても良い。制御計算機31が上述したようにソフトウェアを含んで構成される場合、制御計算機31に入力される入力データ、或いは、演算された結果は、都度図1には示されていない、例えばメモリに記憶される。
【0040】
さらに、図1に示す本発明の実施の形態における荷電粒子ビーム描画装置1には、本発明の実施の形態を説明する上で必要な構成のみを示している。従って、その他の構成、例えば、各レンズを制御する制御回路等が付加されていても良い。また、ここでは電子ビームの位置偏向に1段の偏向器を用いるが、これに限られるものではなく、例えば、主副2段の多段偏向器によって位置偏向を行うようにされていても良い。
【0041】
荷電粒子ビーム描画装置1は、以下のように動作して試料へ描画を行う。電子銃41(放出部)から放出された電子ビームBは、ブランキング偏向器43内を通過する際、ブランキング偏向器43によってONの状態にされている場合に電子ビームBがブランキングアパーチャ44を通過するように制御される。一方、OFFの状態では、電子ビームB全体がブランキングアパーチャ44で遮蔽されるように偏向される(図1において破線で示している)。ブランキングアンプ33からの偏向電圧がOFFからONとなり、その後再度OFFになるまでにブランキングアパーチャ44を通過した電子ビームBが1回の電子ビームのショットとなる。
【0042】
かかる電子ビームBがブランキングアパーチャ44を通過する状態、ブランキングアパーチャ44によって遮蔽される状態を交互に生成する偏向電圧がブランキングアンプ33から出力される。そしてブランキング偏向器43は、ブランキングアンプ33から出力された偏向電圧によって、通過する電子ビームBの向きを制御して、電子ビームBがブランキングアパーチャ44を通過する状態、ブランキングアパーチャ44によって遮蔽される状態を交互に生成する。
【0043】
以上のようにブランキング偏向器43とブランキングアパーチャ44とを通過することによって生成された各ショットの電子ビームBは、照明レンズ42により矩形、例えば、長方形の孔を持つ第1の成形アパーチャ45全体を照明する。ここで電子ビームBをまず矩形、例えば長方形に成形する。そして、第1の成形アパーチャ45を通過した第1のアパーチャ像の電子ビームBは、投影レンズ46により第2の成形アパーチャ48上に投影される。第1の成形アパーチャ45を通過した電子ビームBの向きを制御するための偏向電圧がDACアンプ34から印加された成形偏向器47によって、かかる第2の成形アパーチャ48上での第1のアパーチャ像は偏向制御され、ビーム形状と寸法を変化させることができる。
【0044】
第2の成形アパーチャ48を通過した電子ビームBの照射位置を制御するための偏向電圧がDACアンプ35から位置偏向器50に対して出力される。第2の成形アパーチャ48を通過し第2のアパーチャ像とされた電子ビームBは、対物レンズ49により焦点を合わせられ、連続的に移動するXYステージ61に配置された試料の所望する位置に照射される。
【0045】
図3は、本発明の実施の形態におけるDACアンプ34,35の内部構成の一部を示す回路図である。なお、以下においてはDACアンプ34を例に挙げてその構成の説明を行うが、DACアンプ35も同じ構成である。
【0046】
DACアンプ34は、偏向制御部32と成形偏向器47とに接続される。偏向制御部32から入力部34aを介してDACアンプ34に入力されたディジタル信号は、DACアンプ34内にてアナログ信号へと変換されて、出力部34eから成形偏向器47へと印加される。
【0047】
DACアンプ34は、ディジタル部34bと、DAC(DAコンバータ)34c及び、アナログ部34dを備えている。ディジタル部34bには、上述したように偏向制御部32からディジタル信号が入力される。入力されたディジタル信号は、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)によって構成されるロジック部(図3では図示せず)により、所定の処理(例えば、補正処理)が行われる。
【0048】
図示しないロジック部から出力されたディジタル信号は、DAC34cに入力されたアナログ信号へと変換される。このアナログ信号は、アナログ部34dに入力される。アナログ部34dは、アンプ回路によって構成されており、このアンプ回路によってアナログ信号が増幅される。増幅されたアナログ信号は、出力部34eを介して成形偏向器47へと出力される。
【0049】
アナログ部34dは、DAC34cと出力部34eとの間に設けられ、第1の抵抗器4aと、OPアンプ4bと、OPアンプ4bと接地部との間に設けられる第2の抵抗器4cと、OPアンプ4bの入力側と出力側とを並列につなぐ帰還抵抗4dとから構成される。この帰還抵抗4dの両端には、出力電圧と略同じ電圧が印加される。また、電圧が印加されると、帰還抵抗4dに掛かる電圧に応じた電力消費、すなわち自己発熱が生ずる。発熱量は、印加される電圧値をVとし、帰還抵抗4dの抵抗値をRとした場合、Vの二乗をRで除することで求められる。
【0050】
次に、このDACアンプ34,35を安定化させるための制御について説明する。図4は、本発明の実施の形態におけるDACアンプの安定化方法の流れを示すフローチャートである。このDACアンプの安定化は、帰還抵抗4dの自己発熱による、例えば、出力電圧のドリフト、ひいては描画処理における電子ビームのドリフトが生ずることを防止するために行われる。なお、以下においてはDACアンプ34を例に挙げてその動きを説明するが、DACアンプ35も同じ動きをとる。
【0051】
まず、DACアンプ制御部31jは、DACアンプ34に対して指示し、DACアンプ34の暖機運転を行う(ST1)。DACアンプが十分に暖まらないうちに描画処理等を行うと、電子ビームの偏向を所望の通り行うことが困難となるからである。そこでDACアンプ34の暖機運転を行う(ST2)。DACアンプ34の暖機運転が終了したか否かについては、予め時間を設定しておき、当該時間を基に判断しても良い。この「時間」については、各DACアンプごとにその特性に合わせて設定されても良い。この「時間」は、DACアンプ制御部31j内に設けられる時間を計測する計時部(図2において図示せず)において計時され、暖機運転を終了させるか否かの判断材料とされる。
【0052】
予め設定されている時間が経過し、暖機運転が終了した場合(ST2のYES)、DACアンプ制御部31jは当該DACアンプ34に対してフルスケールの電圧を印加するよう指示する(ST3)。つまり、DACアンプ制御部31jがDACアンプ34に与えるデータ(偏向量を示すデータ。以下、当該データを適宜「DACデータ」と表わす。)内にフルスケールのデータを書き込んで指示する。ここで「フルスケール」とは、当該DACアンプ34が成形偏向器47へ印加する電圧値の最大幅を示す。従って、例えば、−250Vから250Vまでの範囲をもって成形偏向器47に電圧を印加する場合には、−250Vから250Vまでの500Vの幅がフルスケールということになる。
【0053】
DACアンプの自己発熱による温度変化は印加される電圧値に合わせて変化するので、暖機運転終了後すぐにフルスケールの電圧をDACアンプ34に印加することによって、DACアンプ34の自己発熱を促す。そしてDACアンプ34がこれ以上発熱しない状態、すなわち、温度変化が少なく熱的に安定した状態を作出し、この状態を基準にして(成形)偏向器に印加する電圧の値を調整することにする。
【0054】
熱的に安定した状態を作出するには、例えば、まず、予めDACアンプ34の自己発熱による温度変化の量がある範囲に収束する時間を確認しておく。ここでの「時間」は、DACアンプ34にフルスケールの電圧が印加されて自己発熱した場合に達する温度(DACアンプ34における最大の発熱温度)であって、当該温度が予め設定されているある範囲内に収まるまでの時間を指す。なお、当該「時間」は、DACアンプごとに異なることも考えられることから、DACアンプごとに確認しても良い。
【0055】
そこで、DACアンプ制御部31jがDACアンプ34に対してフルスケールの電圧を印加する指示を出した後、DACアンプ制御部31j内に設けられる計時部において計時を開始する(ST4)。この計時部は、上述した「時間」を計測するものであり、当該時間を計測することで、DACアンプ34にフルスケールの電圧を印加した場合の最大発熱量(温度)を推測することができる。
【0056】
ここで帰還抵抗4dの温度を直接、間接を問わず計測しないのは、温度を計測するための計測器の存在が帰還抵抗4dとの間で浮遊容量を増加させる等の不都合が生ずる可能性があるからである。そのため、予め確認されている所定の時間フルスケールの電圧を印加することで、DACアンプ34にフルスケールの電圧を印加した場合の最大発熱量(温度)を推測することで対応する。
【0057】
計時部は所定の時間が経過するか否かを計時し(ST5)、所定の時間が経過した後は(ST5のYES)、DACアンプ34が熱的に安定した状態に達したとして、当該状態を維持する(ST6)。以下においては、便宜上当該状態を「標準状態」と表わす。
【0058】
このDACアンプ34の標準状態は、描画処理において描画パターンに応じた偏向出力がなされる場合以外、荷電粒子ビーム描画装置1が稼働している間、全ての間において維持される。
【0059】
すなわち、荷電粒子ビーム描画装置1において描画処理が開始されると(ST7)、DACアンプ34における標準状態は一旦解除される(ST8)。DACアンプ34には、描画処理において必要とされる偏向量が入力される。この標準状態の下、DACアンプ34に対して入力されるDACデータが書き込まれる。
【0060】
例えばフルスケール付近(例えば、−250V付近、或いは、250V付近)のデータを書き込む場合、この場合はもともと標準状態として維持されているDACアンプ34に入力されるDACデータであるフルスケールの電圧に近い値が書き込まれることから、帰還抵抗4dにおける発熱量の変化は少ない。従って、帰還抵抗4dの抵抗値の変化に伴って生ずる出力電圧のドリフト、及び描画処理における電子ビームのドリフトは発生しにくいことになる。
【0061】
一方、例えば、0V付近のデータを書き込む場合、フルスケールの電圧が印加される場合に比べて帰還抵抗4dの自己発熱量は低下し、従ってその温度も下がることになる。上述したように抵抗値の変化は温度変化に応ずるため、温度が下がるということは、抵抗値の変化はより小さなものとなり、特に0V付近の場合、出力電圧のドリフト、及び描画処理における電子ビームのドリフトの発生は無視できるほど小さくなる。
【0062】
さらに、例えば、フルスケールの1/2のデータを書き込む場合であっても、帰還抵抗4dの抵抗値の変化に伴う出力電圧及び電子ビームのドリフトは発生するものの、これまでのDACアンプのように標準状態を維持しない状態で同様のデータを書き込む場合よりも改善される。すなわち、まず帰還抵抗4dの発熱量については、印加される電圧値をVとし、帰還抵抗4dの抵抗値をRとした場合、Vの二乗をRで除することで求められるが、フルスケールの1/2のデータを書き込むことになるためこのVが1/2Vとなる。従って、発熱量はVに1/2Vを代入すると、フルスケールの1/2のデータを書き込む場合、発熱量は3/4の値へと改善される。
【0063】
特に、従来は0Vを標準状態としてDACアンプの制御を行っていたため、フルスケールの電圧を印加した場合に最も抵抗値の変化が大きくなり、それに伴って出力電圧のドリフト、及び描画処理における電子ビームのドリフトも最も大きく現われていた。しかしながら、本発明の実施の形態においては、フルスケールの電圧を印加した場合を標準状態としてDACアンプの制御を行うこととするため、従来最も大きく出力電圧のドリフト、及び描画処理における電子ビームのドリフト量が現われていたことと比較すると、印加される電圧はフルスケールの1/2となるため、発熱量との関係で示せば、出力電圧、或いは、電子ビームのドリフト量も3/8と抑えられる。
【0064】
以上例を挙げて説明したように、DACデータにフルスケールの電圧を書き込んでその状態(標準状態)を維持することによって、帰還抵抗4dの自己発熱に起因する出力電圧及び電子ビームのドリフト量を抑制することができ、より高精度な描画処理を行うことができる。
【0065】
描画処理が終了するか否か、DACアンプ制御部31jが確認し(ST9)、終了した場合には、DACアンプ34を標準状態へと復帰させ、その状態を維持させる(ST10)。いわば、DACアンプ34はこの状態でアイドリングし続けることになる。
【0066】
なお、上述したように、描画処理が行われる場合以外は、標準状態が維持されるが、例えば、このほかに、荷電粒子ビーム描画装置1自体が所定の時間以上停止する場合もある。その場合、DACアンプ制御部31jは、所定時間以上荷電粒子ビーム描画装置1が停止するか否かを確認し(ST11)、停止する場合には、当然当該DACアンプの稼働も停止することになるため、フルスケールの電圧の印加を停止させる(ST12)。
【0067】
さらに、これまで説明した本発明の実施の形態におけるDACアンプの安定化方法は、例えば、アンプキャリブレーションの制御(キャリブレーション処理)を行う場合にも有効である。
【0068】
キャリブレーション処理とは、一言で言うならば位置の補正処理のことである。すなわち、荷電粒子ビーム描画装置において、実際に描画処理を行う前にDACアンプを用いて試料に電子ビームを照射し、目的の場所と試料上において実際に電子ビームがある位置との誤差を確認する。その上で、当該誤差を基に補正マップを作成し、実際に描画処理を行う場合には、測定した誤差分を差し引いた値を偏向量としてDACアンプに送信することで試料上において生ずる誤差を減らすこととしている。このような作業をキャリブレーション処理という。
【0069】
これまでのキャリブレーション処理においては、DACアンプの暖機運転を行う前におけるDACデータに関しては何らの制御も行われておらず、暖機運転中にDACアンプに送信されるDACデータとしては0Vのデータが書き込まれていた。但しこのような状態でフルスケール(付近)の電圧を印加した状態でのキャリブレーション処理が行われると、帰還抵抗が自己発熱することによる温度変化に起因して電子ビームのドリフトが発生することになってしまう。キャリブレーション処理という位置補正を行う場合にこのような状態が作出されるのは補正の精度に悪影響を及ぼしかねず、好ましくない。
【0070】
そこで、キャリブレーション処理を行う前のDACアンプの暖機運転においても、DACデータとしてフルスケールの電圧を印加するデータを書き込み、フルスケールの電圧印加における帰還抵抗の熱的に安定した状態を標準状態としてキャリブレーション処理を行う。このようにキャリブレーション処理を行うことによって、帰還抵抗の温度変化に応じた抵抗値の変化が生ずることも減少し、それだけ電子ビームのドリフト発生という現象が生ずることも回避することができる。標準状態の作出の流れは、上述した通りである。
【0071】
以上説明したような流れをもってDACアンプを制御することによって、帰還抵抗に対して予め当該帰還抵抗が設けられているDACアンプに対して設定される最大値の電圧を印加しその発熱状態を標準状態とすることで、出力電圧の変化が生じても電子ビームに対する影響を最小限に抑え高精度な描画処理を行うことができる荷電粒子ビーム描画装置及びDACアンプの安定化方法を提供することができる。
【0072】
なお、DACアンプにフルスケールの電圧を印加してDACアンプの安定化を図る方法とキャリブレーション処理の際の方法と、標準状態を用いた方法を2種説明したが、これらはそれぞれ独立して行われても、或いは、両者を組み合わせて行われても良い。
【0073】
本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0074】
1 荷電粒子ビーム描画装置
2 描画部
3 制御部
31 制御計算機
31j DACアンプ制御部
34 DACアンプ
34a 入力部
34b ディジタル部
34c DAコンバータ
34d アナログ部
34e 出力部
4a 第1の抵抗器
4b OPアンプ
4c 第2の抵抗器
4d 帰還抵抗
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビーム描画装置及びDACアンプの安定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスに所望の回路パターンを形成するために、リソグラフィー技術が用いられる。リソグラフィー技術では、マスク(レチクル)と称される原画パターンを使用したパターンの転写が行われる。この際、高精度なレチクルを製造するために、優れた解像度を備える電子ビーム(電子線)描画技術が用いられる。
【0003】
レチクルに電子ビーム描画を行う荷電粒子ビーム描画装置の一方式として、例えば以下のような可変成形方式を挙げることができる。すなわち、ここでは図示しないが、この可変成形方式は、第1成形アパーチャの開口と、第2成形アパーチャの開口とを通過することで成形された電子ビームによって移動可能なステージ上に載置された試料上に図形パターンが描画される。
【0004】
このように例えば、可動ステージ上の試料に図形パターンを描画する際には、電子ビームを移動させる制御、或いは、電子ビームの形状やサイズの制御の必要が生じる。上述した荷電粒子ビーム描画装置では、荷電粒子ビームを偏向させて移動させる。このようなビームの偏向には偏向アンプが用いられており、そのために荷電粒子ビーム描画装置には、単数または複数の偏向アンプが利用される。このビーム偏向制御は、偏向アンプと偏向器によって行われ、それぞれの偏向制御は独立して行われることが一般的である。
【0005】
ここで近年はさらに、描画処理そのものが高速、かつ、高精度に行われることが求められる。この高速化、高精度化については、上述した偏向アンプの速度、精度に大きく依存する。そのため偏向アンプでは、高精度を得るために、偏向アンプのオープンループゲインを大きくするとともに、偏向アンプの出力から負帰還を行うことで高精度を得ている。但し、偏向アンプの出力から負帰還をかけると、増幅素子の時間遅れ、負荷からの反射等によりセトリング時間が長くなる傾向にある。
【0006】
そこで、以下に示す特許文献1においては、偏向アンプの温度を直接測定せず、代わりに偏向アンプのオフセット電圧を測定し、当該オフセットから偏向アンプのゲイン、オフセットの温度補正を行うことにより、偏向アンプを高精度で、かつオシロスコープなみの周波数をもたせ、荷電粒子ビーム描画装置のスループットを向上させることで、上述した弊害の解消を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許4010712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した特許文献1では、以下の点についての配慮がなされていない。すなわち、偏向アンプの出力から負帰還を行うと、帰還抵抗には、その両端に略出力電圧と同等の電圧が印加されることになり、印加される電圧に応じた電力消費、つまり、自己発熱が生ずることになる。この帰還抵抗の自己発熱量は、出力電圧として印加される電圧値が、例えば0Vの場合と当該偏向アンプの出力として設定されている最大値の電圧である場合とでは、自然と差異が生ずる。具体的には、出力電圧として印加される電圧が0Vのときよりも最大値の電圧が印加された方が自己発熱量は多くなる。
【0009】
従って、帰還抵抗について自己発熱が発生しない状態となった後、フルスケールの出力電圧が印加される状態で偏向アンプが使用されると、帰還抵抗の自己発熱によって、抵抗器の温度が徐々に上昇し、抵抗値が熱定数に応じて変化することで、アンプゲインが変化してしまう。このような現象が生ずると出力電圧のドリフトに伴う、描画処理における電子ビームのドリフトを誘発してしまい、描画処理において求められる精度を低下させることになる。
【0010】
このような弊害を回避するには、例えば、熱定数の小さな抵抗器を使用することも考えられるが、この場合には描画処理の精度が抵抗器の性能に左右されることになり、コストも掛かる場合がある。また、抵抗器周辺を冷却することで発熱を抑えることも考えられるが、例えば、空冷の場合、抵抗器周辺の他の部品の発熱や空気の流れ等、非常に多くの事項を考慮した上で設計しなければならず、さらには空冷用の空気の準備が必要となる。一方水冷の場合であっても、水冷用の液体の準備が必要となる上に、抵抗器周辺に金属等で形成される冷却板の設定が必要となるが、この冷却板が帰還抵抗とグランドとの間の浮遊容量を増加させることになりかねず、例えば、セトリング時間への悪影響が懸念される。
【0011】
また、帰還抵抗の自己発熱に対する温度制御において、上述した空冷、或いは水冷の方法では、抵抗器そのものではなくその周辺から帰還抵抗に対する温度制御を行うことになるため、その温度変化に迅速に対処できないことも考えられる。
【0012】
その他、例えば、温度検出器を帰還抵抗に取り付ける、或いは、帰還抵抗の上流に設けられる抵抗器と帰還抵抗とを熱的に結合する等して、その温度に応じた補正値を偏向アンプに入力することで対応することも考えられるが、温度検出器や熱結合したものが帰還抵抗とグランドとの間の浮遊容量を増加させることになりかねない。
【0013】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、帰還抵抗に対して予め当該帰還抵抗が設けられているDACアンプに対して設定される最大値の電圧を印加しその発熱状態を標準状態とすることで、出力電圧の変化が生じても電子ビームに対する影響を最小限に抑え高精度な描画処理を行うことができる荷電粒子ビーム描画装置及びDACアンプの安定化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様に係る特徴は、荷電粒子ビーム描画装置において、荷電粒子ビームを用いて移動可能なステージ上に載置される試料にパターンを描画する描画部と、荷電粒子ビームの光路に沿って配置される偏向器に電圧を印加するDACアンプと、DACアンプに対する制御を行うDACアンプ制御部を備える制御計算機と、から構成される制御部と、を備え、DACアンプ制御部は、DACアンプに印加する電圧を当該DACアンプに対して設定される最大値で継続して印加する。
【0015】
また、上記荷電粒子ビーム描画装置において、DACアンプ制御部によるDACアンプへの最大値での電圧の印加は、描画部における試料への描画処理中を除きなされることが望ましい。
【0016】
本発明の一態様に係る特徴は、DACアンプの安定化方法において、暖機運転が終了したDACアンプに対して、DACアンプに対して設定される最大値の電圧を印加するステップと、最大値の電圧の印加から所定の時間が経過したか否かを確認するステップと、所定の時間が経過したことが確認された場合に、当該状態を標準状態として維持するステップとを備える。
【0017】
また、DACアンプの安定化方法において、標準状態は、DACアンプが搭載される荷電粒子ビーム描画装置が描画処理を行う時間を除いて継続的に維持されることが望ましい。
【0018】
さらに、本発明の一態様に係る特徴は、DACアンプの安定化方法において、DACアンプに対してキャリブレーション処理を行う前の暖機運転は、DACアンプに対して設定される最大値の電圧を印加するステップと、最大値の電圧の印加から所定の時間が経過したか否かを確認するステップと、所定の時間が経過したことが確認された場合に、当該状態を標準状態として維持するステップと、を備え、キャリブレーション処理は、標準状態の下にて行われる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、帰還抵抗に対して予め当該帰還抵抗が設けられているDACアンプに対して設定される最大値の電圧を印加しその発熱状態を標準状態とすることで、出力電圧の変化が生じても電子ビームに対する影響を最小限に抑え高精度な描画処理を行うことができる荷電粒子ビーム描画装置及びDACアンプの安定化方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態における荷電粒子ビーム描画装置の内部構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態における制御計算機の内部構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態におけるDACアンプの内部構成の一部を示す回路図である。
【図4】本発明の実施の形態におけるDACアンプの安定化方法の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0022】
図1は、本発明の実施の形態における荷電粒子ビーム描画装置1の全体構成を示すブロック図である。なお、以下の実施の形態においては、荷電粒子ビームの一例として電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは電子ビームに限られるものではなく、イオンビーム等の荷電粒子を用いたビームであっても良い。
【0023】
荷電粒子ビーム描画装置1は、試料に所定のパターンを描画する装置であり、特に可変成形型の描画装置の一例である。図1に示すように、荷電粒子ビーム描画装置1は、大きく描画部2と制御部3を備えている。
【0024】
描画部2は、電子鏡筒4と描画室6を備えている。電子鏡筒4内には、電子銃41と、この電子銃41から照射される電子ビームの光路に沿って、照明レンズ42と、ブランキング偏向器43と、ブランキングアパーチャ44と、第1の成形アパーチャ45と、投影レンズ46と、成形偏向器47と、第2の成形アパーチャ48と、対物レンズ49と、位置偏向器50とが順に配置されている。
【0025】
描画室6の中には、XYステージ61が配置される。XYステージ61上には、描画時には描画対象となるマスク等の試料が配置されることになるが、ここでは図示を省略している。XYステージ61上には、試料が配置される位置とは異なる位置にファラデーカップ62が配置される。
【0026】
ブランキング偏向器43は、例えば、2極、或いは、4極等の複数の電極によって構成される。また、成形偏向器47、位置偏向器50は、例えば、4極、或いは、8極等の複数の電極によって構成される。図1では、成形偏向器47、位置偏向器50、それぞれの偏向器ごとに1つのDACアンプしか記載していないが、各電極にそれぞれ少なくとも1つのDACアンプが接続される。なお、DACアンプにいう「DAC」は、「Digital to Analog Converter」の頭文字である。
【0027】
制御部3は、制御計算機31と、偏向制御部32と、ブランキングアンプ33と、偏向アンプ(DACアンプ)34,35と、ステージ制御部36とを備えている。制御計算機31、偏向制御部32、ステージ制御部36は、図示しないバスを介して互いに接続されている。また、偏向制御部32、ブランキングアンプ33、DACアンプ34,35は、図示しないバスを介して互いに接続されている。
【0028】
ブランキングアンプ33は、ブランキング偏向器43に接続される。また、DACアンプ34は、成形偏向器47に接続される。DACアンプ35は、位置偏向器50に接続される。ブランキングアンプ33、DACアンプ34,35に対しては、偏向制御部32から、それぞれ独立した制御用のデジタル信号が出力される。デジタル信号が入力されたブランキングアンプ33、DACアンプ34,35は、それぞれのデジタル信号をアナログ電圧信号に変換し、増幅させて偏向電圧として接続された各偏向器に出力する。このようにして、各偏向器には、それぞれ接続されるDACアンプから偏向電圧が印加される。かかる偏向電圧によって電子ビームが偏向させられる。
【0029】
なお、DACアンプ34,35の内部構成(の一部)については、後述する。また、荷電粒子ビーム描画装置1には、上述したように電子ビームを取り囲むように成形偏向器47、位置偏向器50が4極、或いは、8極設けられており、電子ビームを挟んで各々一対(4極の場合は2対、8極の場合は4対)配置されている。そして成形偏向器47、位置偏向器50ごとにそれぞれDACアンプが接続されている。但し、図1には成形偏向器47、位置偏向器50に接続されているDACアンプそれぞれ1つずつのみを示し、その他のDACアンプを示していない。
【0030】
ステージ制御部36は、ファラデーカップ62と制御計算機31とに接続し、ファラデーカップ62の動きを検出している。
【0031】
図2は、本発明の実施の形態における制御計算機31の内部構成を示すブロック図である。制御計算機31は、CPU(Central Processing Unit)31aと、ROM(Read Only Memory)31bと、RAM(Random Access Memory)31c及び入出力インターフェイス31dがバス31eを介して接続されている。入出力インターフェイス31dには、入力部31fと、表示部31gと、通信制御部31hと、記憶部31iと、DACアンプ制御部31jとが接続されている。
【0032】
CPU31aは、入力部31fからの入力信号に基づいてROM31bから荷電粒子ビーム描画装置1を起動するためのブートプログラムを読み出して実行し、記憶部31iに格納されている各種オペレーティングシステムを読み出す。またCPU31aは、入力部31fや入出力インターフェイス31dを介して、図1において図示していないその他の外部機器からの入力信号に基づいて各種装置の制御を行う。さらにCPU31aは、RAM31cや記憶部31i等に記憶されたプログラム及びデータを読み出してRAM31cにロードするとともに、RAM31cから読み出されたプログラムのコマンドに基づいて、データの計算、加工等、一連の処理を実現する処理装置である。
【0033】
入力部31fは、荷電粒子ビーム描画装置1の操作者が各種の操作を入力するキーボード、ダイヤル等の入力デバイスにより構成されており、操作者の操作に基づいて入力信号を作成しバス31eを介してCPU31aに送信される。
【0034】
表示部31gは、例えば液晶ディスプレイである。この表示部31gは、CPU31aからバス31eを介して出力信号を受信し、例えば、CPU31aの処理結果等を表示する。
【0035】
通信制御部31hは、LANカードやモデム等の手段であり、荷電粒子ビーム描画装置1をインターネットやLAN等の通信ネットワークに接続することを可能とする手段である。通信制御部31hを介して通信ネットワークと送受信したデータは入力信号または出力信号として、入出力インターフェイス31d及びバス31eを介してCPU31aに送受信される。
【0036】
記憶部31iは、半導体や磁気ディスクで構成されている。記憶部31iには、描画データの基となるレイアウトデータや描画データ、CPU31aで実行されるプログラムやデータが記憶されている。
【0037】
DACアンプ制御部31jは、DACアンプ34,35自体の制御を行う。試料への描画処理を実際に制御するのは、偏向制御部32であるが、例えば、DACアンプ34,35の暖機運転やアイドリング状態の維持等、DACアンプ34,35が適切に機能するように制御するのがDACアンプ制御部31jである。
【0038】
なお、図2には示されていないが、DACアンプ制御部31jの内部には、DACアンプ34,35の運転制御を行うに際して必要とされる、判断部や計時部が設けられている。
【0039】
また、制御計算機31は、ここではハードウェアとして構成した例を挙げて説明しているが、プログラムといったソフトウェアで構成されても良い。また、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせで構成されても良い。制御計算機31が上述したようにソフトウェアを含んで構成される場合、制御計算機31に入力される入力データ、或いは、演算された結果は、都度図1には示されていない、例えばメモリに記憶される。
【0040】
さらに、図1に示す本発明の実施の形態における荷電粒子ビーム描画装置1には、本発明の実施の形態を説明する上で必要な構成のみを示している。従って、その他の構成、例えば、各レンズを制御する制御回路等が付加されていても良い。また、ここでは電子ビームの位置偏向に1段の偏向器を用いるが、これに限られるものではなく、例えば、主副2段の多段偏向器によって位置偏向を行うようにされていても良い。
【0041】
荷電粒子ビーム描画装置1は、以下のように動作して試料へ描画を行う。電子銃41(放出部)から放出された電子ビームBは、ブランキング偏向器43内を通過する際、ブランキング偏向器43によってONの状態にされている場合に電子ビームBがブランキングアパーチャ44を通過するように制御される。一方、OFFの状態では、電子ビームB全体がブランキングアパーチャ44で遮蔽されるように偏向される(図1において破線で示している)。ブランキングアンプ33からの偏向電圧がOFFからONとなり、その後再度OFFになるまでにブランキングアパーチャ44を通過した電子ビームBが1回の電子ビームのショットとなる。
【0042】
かかる電子ビームBがブランキングアパーチャ44を通過する状態、ブランキングアパーチャ44によって遮蔽される状態を交互に生成する偏向電圧がブランキングアンプ33から出力される。そしてブランキング偏向器43は、ブランキングアンプ33から出力された偏向電圧によって、通過する電子ビームBの向きを制御して、電子ビームBがブランキングアパーチャ44を通過する状態、ブランキングアパーチャ44によって遮蔽される状態を交互に生成する。
【0043】
以上のようにブランキング偏向器43とブランキングアパーチャ44とを通過することによって生成された各ショットの電子ビームBは、照明レンズ42により矩形、例えば、長方形の孔を持つ第1の成形アパーチャ45全体を照明する。ここで電子ビームBをまず矩形、例えば長方形に成形する。そして、第1の成形アパーチャ45を通過した第1のアパーチャ像の電子ビームBは、投影レンズ46により第2の成形アパーチャ48上に投影される。第1の成形アパーチャ45を通過した電子ビームBの向きを制御するための偏向電圧がDACアンプ34から印加された成形偏向器47によって、かかる第2の成形アパーチャ48上での第1のアパーチャ像は偏向制御され、ビーム形状と寸法を変化させることができる。
【0044】
第2の成形アパーチャ48を通過した電子ビームBの照射位置を制御するための偏向電圧がDACアンプ35から位置偏向器50に対して出力される。第2の成形アパーチャ48を通過し第2のアパーチャ像とされた電子ビームBは、対物レンズ49により焦点を合わせられ、連続的に移動するXYステージ61に配置された試料の所望する位置に照射される。
【0045】
図3は、本発明の実施の形態におけるDACアンプ34,35の内部構成の一部を示す回路図である。なお、以下においてはDACアンプ34を例に挙げてその構成の説明を行うが、DACアンプ35も同じ構成である。
【0046】
DACアンプ34は、偏向制御部32と成形偏向器47とに接続される。偏向制御部32から入力部34aを介してDACアンプ34に入力されたディジタル信号は、DACアンプ34内にてアナログ信号へと変換されて、出力部34eから成形偏向器47へと印加される。
【0047】
DACアンプ34は、ディジタル部34bと、DAC(DAコンバータ)34c及び、アナログ部34dを備えている。ディジタル部34bには、上述したように偏向制御部32からディジタル信号が入力される。入力されたディジタル信号は、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)によって構成されるロジック部(図3では図示せず)により、所定の処理(例えば、補正処理)が行われる。
【0048】
図示しないロジック部から出力されたディジタル信号は、DAC34cに入力されたアナログ信号へと変換される。このアナログ信号は、アナログ部34dに入力される。アナログ部34dは、アンプ回路によって構成されており、このアンプ回路によってアナログ信号が増幅される。増幅されたアナログ信号は、出力部34eを介して成形偏向器47へと出力される。
【0049】
アナログ部34dは、DAC34cと出力部34eとの間に設けられ、第1の抵抗器4aと、OPアンプ4bと、OPアンプ4bと接地部との間に設けられる第2の抵抗器4cと、OPアンプ4bの入力側と出力側とを並列につなぐ帰還抵抗4dとから構成される。この帰還抵抗4dの両端には、出力電圧と略同じ電圧が印加される。また、電圧が印加されると、帰還抵抗4dに掛かる電圧に応じた電力消費、すなわち自己発熱が生ずる。発熱量は、印加される電圧値をVとし、帰還抵抗4dの抵抗値をRとした場合、Vの二乗をRで除することで求められる。
【0050】
次に、このDACアンプ34,35を安定化させるための制御について説明する。図4は、本発明の実施の形態におけるDACアンプの安定化方法の流れを示すフローチャートである。このDACアンプの安定化は、帰還抵抗4dの自己発熱による、例えば、出力電圧のドリフト、ひいては描画処理における電子ビームのドリフトが生ずることを防止するために行われる。なお、以下においてはDACアンプ34を例に挙げてその動きを説明するが、DACアンプ35も同じ動きをとる。
【0051】
まず、DACアンプ制御部31jは、DACアンプ34に対して指示し、DACアンプ34の暖機運転を行う(ST1)。DACアンプが十分に暖まらないうちに描画処理等を行うと、電子ビームの偏向を所望の通り行うことが困難となるからである。そこでDACアンプ34の暖機運転を行う(ST2)。DACアンプ34の暖機運転が終了したか否かについては、予め時間を設定しておき、当該時間を基に判断しても良い。この「時間」については、各DACアンプごとにその特性に合わせて設定されても良い。この「時間」は、DACアンプ制御部31j内に設けられる時間を計測する計時部(図2において図示せず)において計時され、暖機運転を終了させるか否かの判断材料とされる。
【0052】
予め設定されている時間が経過し、暖機運転が終了した場合(ST2のYES)、DACアンプ制御部31jは当該DACアンプ34に対してフルスケールの電圧を印加するよう指示する(ST3)。つまり、DACアンプ制御部31jがDACアンプ34に与えるデータ(偏向量を示すデータ。以下、当該データを適宜「DACデータ」と表わす。)内にフルスケールのデータを書き込んで指示する。ここで「フルスケール」とは、当該DACアンプ34が成形偏向器47へ印加する電圧値の最大幅を示す。従って、例えば、−250Vから250Vまでの範囲をもって成形偏向器47に電圧を印加する場合には、−250Vから250Vまでの500Vの幅がフルスケールということになる。
【0053】
DACアンプの自己発熱による温度変化は印加される電圧値に合わせて変化するので、暖機運転終了後すぐにフルスケールの電圧をDACアンプ34に印加することによって、DACアンプ34の自己発熱を促す。そしてDACアンプ34がこれ以上発熱しない状態、すなわち、温度変化が少なく熱的に安定した状態を作出し、この状態を基準にして(成形)偏向器に印加する電圧の値を調整することにする。
【0054】
熱的に安定した状態を作出するには、例えば、まず、予めDACアンプ34の自己発熱による温度変化の量がある範囲に収束する時間を確認しておく。ここでの「時間」は、DACアンプ34にフルスケールの電圧が印加されて自己発熱した場合に達する温度(DACアンプ34における最大の発熱温度)であって、当該温度が予め設定されているある範囲内に収まるまでの時間を指す。なお、当該「時間」は、DACアンプごとに異なることも考えられることから、DACアンプごとに確認しても良い。
【0055】
そこで、DACアンプ制御部31jがDACアンプ34に対してフルスケールの電圧を印加する指示を出した後、DACアンプ制御部31j内に設けられる計時部において計時を開始する(ST4)。この計時部は、上述した「時間」を計測するものであり、当該時間を計測することで、DACアンプ34にフルスケールの電圧を印加した場合の最大発熱量(温度)を推測することができる。
【0056】
ここで帰還抵抗4dの温度を直接、間接を問わず計測しないのは、温度を計測するための計測器の存在が帰還抵抗4dとの間で浮遊容量を増加させる等の不都合が生ずる可能性があるからである。そのため、予め確認されている所定の時間フルスケールの電圧を印加することで、DACアンプ34にフルスケールの電圧を印加した場合の最大発熱量(温度)を推測することで対応する。
【0057】
計時部は所定の時間が経過するか否かを計時し(ST5)、所定の時間が経過した後は(ST5のYES)、DACアンプ34が熱的に安定した状態に達したとして、当該状態を維持する(ST6)。以下においては、便宜上当該状態を「標準状態」と表わす。
【0058】
このDACアンプ34の標準状態は、描画処理において描画パターンに応じた偏向出力がなされる場合以外、荷電粒子ビーム描画装置1が稼働している間、全ての間において維持される。
【0059】
すなわち、荷電粒子ビーム描画装置1において描画処理が開始されると(ST7)、DACアンプ34における標準状態は一旦解除される(ST8)。DACアンプ34には、描画処理において必要とされる偏向量が入力される。この標準状態の下、DACアンプ34に対して入力されるDACデータが書き込まれる。
【0060】
例えばフルスケール付近(例えば、−250V付近、或いは、250V付近)のデータを書き込む場合、この場合はもともと標準状態として維持されているDACアンプ34に入力されるDACデータであるフルスケールの電圧に近い値が書き込まれることから、帰還抵抗4dにおける発熱量の変化は少ない。従って、帰還抵抗4dの抵抗値の変化に伴って生ずる出力電圧のドリフト、及び描画処理における電子ビームのドリフトは発生しにくいことになる。
【0061】
一方、例えば、0V付近のデータを書き込む場合、フルスケールの電圧が印加される場合に比べて帰還抵抗4dの自己発熱量は低下し、従ってその温度も下がることになる。上述したように抵抗値の変化は温度変化に応ずるため、温度が下がるということは、抵抗値の変化はより小さなものとなり、特に0V付近の場合、出力電圧のドリフト、及び描画処理における電子ビームのドリフトの発生は無視できるほど小さくなる。
【0062】
さらに、例えば、フルスケールの1/2のデータを書き込む場合であっても、帰還抵抗4dの抵抗値の変化に伴う出力電圧及び電子ビームのドリフトは発生するものの、これまでのDACアンプのように標準状態を維持しない状態で同様のデータを書き込む場合よりも改善される。すなわち、まず帰還抵抗4dの発熱量については、印加される電圧値をVとし、帰還抵抗4dの抵抗値をRとした場合、Vの二乗をRで除することで求められるが、フルスケールの1/2のデータを書き込むことになるためこのVが1/2Vとなる。従って、発熱量はVに1/2Vを代入すると、フルスケールの1/2のデータを書き込む場合、発熱量は3/4の値へと改善される。
【0063】
特に、従来は0Vを標準状態としてDACアンプの制御を行っていたため、フルスケールの電圧を印加した場合に最も抵抗値の変化が大きくなり、それに伴って出力電圧のドリフト、及び描画処理における電子ビームのドリフトも最も大きく現われていた。しかしながら、本発明の実施の形態においては、フルスケールの電圧を印加した場合を標準状態としてDACアンプの制御を行うこととするため、従来最も大きく出力電圧のドリフト、及び描画処理における電子ビームのドリフト量が現われていたことと比較すると、印加される電圧はフルスケールの1/2となるため、発熱量との関係で示せば、出力電圧、或いは、電子ビームのドリフト量も3/8と抑えられる。
【0064】
以上例を挙げて説明したように、DACデータにフルスケールの電圧を書き込んでその状態(標準状態)を維持することによって、帰還抵抗4dの自己発熱に起因する出力電圧及び電子ビームのドリフト量を抑制することができ、より高精度な描画処理を行うことができる。
【0065】
描画処理が終了するか否か、DACアンプ制御部31jが確認し(ST9)、終了した場合には、DACアンプ34を標準状態へと復帰させ、その状態を維持させる(ST10)。いわば、DACアンプ34はこの状態でアイドリングし続けることになる。
【0066】
なお、上述したように、描画処理が行われる場合以外は、標準状態が維持されるが、例えば、このほかに、荷電粒子ビーム描画装置1自体が所定の時間以上停止する場合もある。その場合、DACアンプ制御部31jは、所定時間以上荷電粒子ビーム描画装置1が停止するか否かを確認し(ST11)、停止する場合には、当然当該DACアンプの稼働も停止することになるため、フルスケールの電圧の印加を停止させる(ST12)。
【0067】
さらに、これまで説明した本発明の実施の形態におけるDACアンプの安定化方法は、例えば、アンプキャリブレーションの制御(キャリブレーション処理)を行う場合にも有効である。
【0068】
キャリブレーション処理とは、一言で言うならば位置の補正処理のことである。すなわち、荷電粒子ビーム描画装置において、実際に描画処理を行う前にDACアンプを用いて試料に電子ビームを照射し、目的の場所と試料上において実際に電子ビームがある位置との誤差を確認する。その上で、当該誤差を基に補正マップを作成し、実際に描画処理を行う場合には、測定した誤差分を差し引いた値を偏向量としてDACアンプに送信することで試料上において生ずる誤差を減らすこととしている。このような作業をキャリブレーション処理という。
【0069】
これまでのキャリブレーション処理においては、DACアンプの暖機運転を行う前におけるDACデータに関しては何らの制御も行われておらず、暖機運転中にDACアンプに送信されるDACデータとしては0Vのデータが書き込まれていた。但しこのような状態でフルスケール(付近)の電圧を印加した状態でのキャリブレーション処理が行われると、帰還抵抗が自己発熱することによる温度変化に起因して電子ビームのドリフトが発生することになってしまう。キャリブレーション処理という位置補正を行う場合にこのような状態が作出されるのは補正の精度に悪影響を及ぼしかねず、好ましくない。
【0070】
そこで、キャリブレーション処理を行う前のDACアンプの暖機運転においても、DACデータとしてフルスケールの電圧を印加するデータを書き込み、フルスケールの電圧印加における帰還抵抗の熱的に安定した状態を標準状態としてキャリブレーション処理を行う。このようにキャリブレーション処理を行うことによって、帰還抵抗の温度変化に応じた抵抗値の変化が生ずることも減少し、それだけ電子ビームのドリフト発生という現象が生ずることも回避することができる。標準状態の作出の流れは、上述した通りである。
【0071】
以上説明したような流れをもってDACアンプを制御することによって、帰還抵抗に対して予め当該帰還抵抗が設けられているDACアンプに対して設定される最大値の電圧を印加しその発熱状態を標準状態とすることで、出力電圧の変化が生じても電子ビームに対する影響を最小限に抑え高精度な描画処理を行うことができる荷電粒子ビーム描画装置及びDACアンプの安定化方法を提供することができる。
【0072】
なお、DACアンプにフルスケールの電圧を印加してDACアンプの安定化を図る方法とキャリブレーション処理の際の方法と、標準状態を用いた方法を2種説明したが、これらはそれぞれ独立して行われても、或いは、両者を組み合わせて行われても良い。
【0073】
本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0074】
1 荷電粒子ビーム描画装置
2 描画部
3 制御部
31 制御計算機
31j DACアンプ制御部
34 DACアンプ
34a 入力部
34b ディジタル部
34c DAコンバータ
34d アナログ部
34e 出力部
4a 第1の抵抗器
4b OPアンプ
4c 第2の抵抗器
4d 帰還抵抗
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを用いて移動可能なステージ上に載置される試料にパターンを描画する描画部と、
前記荷電粒子ビームの光路に沿って配置される偏向器に電圧を印加するDACアンプと、前記DACアンプに対する制御を行うDACアンプ制御部を備える制御計算機と、から構成される制御部と、を備え、
前記DACアンプ制御部は、前記DACアンプに印加する電圧を当該DACアンプに対して設定される最大値で継続して印加することを特徴とする荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項2】
前記DACアンプ制御部による前記DACアンプへの最大値での電圧の印加は、前記描画部における前記試料への描画処理中を除きなされることを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項3】
暖機運転が終了したDACアンプに対して、前記DACアンプに対して設定される最大値の電圧を印加するステップと、
前記最大値の電圧の印加から所定の時間が経過したか否かを確認するステップと、
前記所定の時間が経過したことが確認された場合に、当該状態を標準状態として維持するステップと、
を備えることを特徴とするDACアンプの安定化方法。
【請求項4】
前記標準状態は、前記DACアンプが搭載される荷電粒子ビーム描画装置が描画処理を行う時間を除いて継続的に維持されることを特徴とする請求項3に記載のDACアンプの安定化方法。
【請求項5】
DACアンプに対してキャリブレーション処理を行う前の暖機運転は、
前記DACアンプに対して設定される最大値の電圧を印加するステップと、
前記最大値の電圧の印加から所定の時間が経過したか否かを確認するステップと、
前記所定の時間が経過したことが確認された場合に、当該状態を標準状態として維持するステップと、を備え、
前記キャリブレーション処理は、前記標準状態の下にて行われることを特徴とするDACアンプの安定化方法。
【請求項1】
荷電粒子ビームを用いて移動可能なステージ上に載置される試料にパターンを描画する描画部と、
前記荷電粒子ビームの光路に沿って配置される偏向器に電圧を印加するDACアンプと、前記DACアンプに対する制御を行うDACアンプ制御部を備える制御計算機と、から構成される制御部と、を備え、
前記DACアンプ制御部は、前記DACアンプに印加する電圧を当該DACアンプに対して設定される最大値で継続して印加することを特徴とする荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項2】
前記DACアンプ制御部による前記DACアンプへの最大値での電圧の印加は、前記描画部における前記試料への描画処理中を除きなされることを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項3】
暖機運転が終了したDACアンプに対して、前記DACアンプに対して設定される最大値の電圧を印加するステップと、
前記最大値の電圧の印加から所定の時間が経過したか否かを確認するステップと、
前記所定の時間が経過したことが確認された場合に、当該状態を標準状態として維持するステップと、
を備えることを特徴とするDACアンプの安定化方法。
【請求項4】
前記標準状態は、前記DACアンプが搭載される荷電粒子ビーム描画装置が描画処理を行う時間を除いて継続的に維持されることを特徴とする請求項3に記載のDACアンプの安定化方法。
【請求項5】
DACアンプに対してキャリブレーション処理を行う前の暖機運転は、
前記DACアンプに対して設定される最大値の電圧を印加するステップと、
前記最大値の電圧の印加から所定の時間が経過したか否かを確認するステップと、
前記所定の時間が経過したことが確認された場合に、当該状態を標準状態として維持するステップと、を備え、
前記キャリブレーション処理は、前記標準状態の下にて行われることを特徴とするDACアンプの安定化方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図2】
【図3】
【図4】
【公開番号】特開2013−12512(P2013−12512A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142573(P2011−142573)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(504162958)株式会社ニューフレアテクノロジー (669)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(504162958)株式会社ニューフレアテクノロジー (669)
【Fターム(参考)】
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