説明

蒸着のための二次元開口部アレイ

デバイスを製造する際に表面上に層を形成する方法であって、気化した材料を受け取る分配部材であって、チェンバーを規定する1つ以上の壁面を持ち、1つの壁面の中に複数の開口部からなる多角形二次元パターンが形成されていて、その開口部が気化した材料を分子流として上記表面上に供給する構成の分配部材を用意するステップと;開口部からなる多角形二次元パターンに少なくとも4つの頂部を設け、第1の開口部セット(80)をその頂部に配置し、縁部用の第2の開口部セット(78)を第1の開口部セットの2つの開口部の間に配置して多角形二次元パターンの縁部を規定し、内側用の第3の開口部セット(74)を、第1の開口部セットと第2の開口部セットによって規定される多角形二次元パターンの周辺部の中に配置するステップと;望む流速が得られるように開口部のサイズを決めるステップを含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全体として薄膜の堆積に関するものであり、より詳細には、分子流領域の材料を最適状態で利用して一様に蒸着するための装置と方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品と光学部品の発達が続いていることがきっかけとなり、ますます広い範囲の材料を薄膜に堆積させるさまざまな方法が開発されてきた。例えば半導体の製造では、誘電材料、金属、半導体に関して化学蒸着(CVD)のさまざまな方法が開発されてきた。CVDでは、前駆材料を蒸気の形態で供給し、キャリヤ・ガスと混合する。次に、このプロセス・ガス混合物は、よく混合された処理体積の中に膨張させることによって、または基板の近くに位置するシャワーヘッドを通じて局所的に分布させることによって、基板に供給される。CVDで利用される処理圧力と幾何学的配置は、一般に、粘性流領域を利用するように選択される。基板を高温に維持して表面における化学反応を容易にすることがしばしばある。その結果、加熱された基板に材料が堆積する。CVD装置では粘性流が利用されるため、シャワーヘッドと、関連する前駆体供給システムとによるプロセス・ガスの分布は、粘性流領域における流体力学の原理と一致する。
【0003】
有機半導体素子と有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイを製造する必要があるため、蒸着プロセスに関して要求と制約がますます厳しくなっている。例えば多くの有機半導体材料は、高温では長期にわたって安定ではない。これらの材料は、キャリヤ・ガス中の有機蒸気の濃度を十分な値にするため、その材料の蒸気圧曲線に応じて著しく加熱せねばならない可能性がある。しかしその材料の分解特性に応じ、そのような加熱によってその材料が分解する危険性がある。蒸着源を長期にわたって気化に必要な温度に維持すると、その間に有機材料がかなり分解する場合がある。CVDに似ていて有機蒸気を基板に供給するのに利用される方法は有機蒸気相堆積(OVPD)と呼ばれ、Forrestらに付与された「有機薄膜の低圧蒸気相堆積」という名称のアメリカ合衆国特許第6,558,736号に記載されている。この方法の基本的な構成を図1に示してある。蒸着装置10は、有機材料を気化させるための気化チェンバー12を備えている。気化した材料は、キャリヤ・ガス14と混合された後、シャワーヘッド16に供給され、蒸着チェンバー20の中で基板18の表面に堆積される。
【0004】
薄膜の蒸着では一様性の向上が特に興味の対象である。従来の物理蒸着法(例えば小さなるつぼ(いわゆる“点源”)または細長いるつぼからの熱気化)により、望む厚さの約±5%以内の一様な薄膜を堆積させることができる。このレベルの性能を改善できると望ましかろう。改良されたいくつかの方法では、堆積の一様性が約±3%の範囲であると主張されている。しかし、特に層が光学的に活性で、厚さの変動によって色相、光出力、光吸収などが変動する可能性のあるデバイスにとって、約±1%以内のより一層優れた一様性を提供できると特に有利であろう。
【0005】
興味の対象となる別の重要な領域は、利用効率である。従来のシステムは、一般に利用効率が悪く、材料の大半を無駄にすることがしばしばある。例えば限られた数の点源から大面積に堆積させて許容できる一様性を実現するには、大きな照射距離(すなわち蒸着源-基板の間隔)が必要である。その場合、気化した材料のわずか5%しか基板の上に凝縮せず、材料の大半は蒸着チェンバーの別の場所で凝縮する。遊星運動する基板ホルダを注意深く設計して設置すると、気化した材料をよりうまく利用できるが、この方法は、一般に、基板の表面から点源までの径方向の距離を確実にほぼ一定にするためであるゆえ、多数の非常に小さい基板のバッチに限定される。
【0006】
CVDとOVPDの両方の用途で堆積の一様性と利用効率を向上させるための1つの試みは、シャワーヘッドの性能を向上させることであった。熱気化(熱による物理蒸着)の場合には、複数の細長い蒸着源を用い、基板と細長い蒸着源を、細長い方向に垂直に相対運動させる。これらの細長い蒸着源は、複数の開口部を有する蓋構造で封をされている。開口部のサイズと間隔を調節して一様性を向上させることができる。一様性と利用効率を向上させるこのような試みのいくつかの例として以下のものがある。
【0007】
Guiらに付与された「化学蒸着のためのシャワーヘッドに設けられた開口部のパターン」という名称のアメリカ合衆国特許第6,050,506号には、CVDシャワーヘッドから金属を堆積させるための穿孔パターンが記載されている。
【0008】
Dauelsbergらに付与された「基板上に1つ以上の層を堆積させるための装置と方法」という名称のアメリカ合衆国特許第6,849,241号には、シャワーヘッドから蒸着するための最適化されたオリフィスの形状が記載されている。
【0009】
Vukelicに付与された「流体分散ヘッド」という名称のアメリカ合衆国特許第5,268,034号と「CVD装置のための流体分散ヘッド」という名称のアメリカ合衆国特許第5,286,519号には、CVD装置のためのシャワーヘッドのさまざまな穿孔パターンが開示されている。
【0010】
Nguyenに付与された「大きな流れコンダクタンスと大きな熱コンダクタンスを持つシャワーヘッド・システムと方法」という名称のアメリカ合衆国特許第6,565,661号には、穴のサイズ、パターン、角度方向を変えられるシャワーヘッドの設計が記載されている。
【0011】
Gianoulakisらによる「排気用開口部を特徴とするガス拡散シャワーヘッド」という名称のアメリカ合衆国特許出願公開第2005/0103265号には、さまざまな構成の拡散用開口部と排気用開口部の両方を有するシャワーヘッドの設計が記載されている。
【0012】
Shteinらによる「材料を堆積させるための方法と装置」という名称のアメリカ合衆国特許出願公開第2005/0087131号には、有機蒸気ジェット印刷を実行するため、キャリヤに支持された平行に移動するガスを用いて表面にパターンを形成する方法が記載されている。
【0013】
Freemanらによる譲受人に譲渡された「有機発光デバイスを製造するための、複数の開口部を有する細長い加熱式物理蒸着源」という名称のアメリカ合衆国特許出願公開第2003/0168013号には、移動する基板の表面に蒸着するための線形蒸着源が開示されており、この蒸着源では、この一様性を向上させるために開口部のサイズと間隔が変化する。
【0014】
Jurgensenらによる「高さを調節できる処理チェンバーの中にある基板上に薄層を堆積させるための方法と装置」という名称のアメリカ合衆国特許出願公開第2005/0106319号には、高さを調節できるチェンバーの中で例えば圧力を変えたときに使用されるシャワーヘッド開示されている。
【0015】
これらの例からわかるように、シャワーヘッドの設計が、CVDシステムとOVPDシステムの両方で材料を一様に堆積させるための重要な1つの因子であり、開口部のサイズと間隔が、噴散(Freeman他)に基づくシステムにおける一様性にとって極めて重要である。CVDシステムとOVPDシステムの両方とも粘性流状態で動作し、不活性なキャリヤ・ガスまたは良性のキャリヤ・ガスとで気化した材料の混合物を形成し、次いでこの混合物を強制的にシャワーヘッドのオリフィスを通過させるため、初期のCVDシステムで確立したモデルに従う。粘性流で利用される流体力学モデルでは、シャワーヘッドを用いて蒸気/キャリヤ混合物を基板の表面に向かわせる。この方法では粘性流が用いられているため、CVD前駆材料またはOVPD気化有機材料を基板の表面に到達させるには、基板の表面の上にある薄い境界層を通じて拡散させる必要がある。
【0016】
CVDシステムとOVPDシステムの別の問題点は、シャドウ・マスクを用いるときのパターニングの精度である。基板の表面に形成されるパターニングされた突起は、鋭い縁部を持つというより“枕の形状”または湾曲を示すことがしばしばある。図2Aの側面図と図2Bの上面図を参照すると、基板18の表面の突起22の理想的な形状は、基板18の表面に対する法線Nsに平行な鉛直側壁24によって実現されよう。しかし実際には、対応する図2Cの側面図と図2Dの上面図に示されているように、側壁24は鉛直ではなく湾曲していて、一般に外側に向かう傾斜した区画26を有する。そのためまっすぐな側壁24の不完全な近似が実現される。図3の側面図に示されているように、下を流れる蒸気によって材料の一部がマスク30の下に逃げるため、図2Cに示した傾斜した区画26になる。下を流れるこの蒸気は、粘性流の望ましくない副作用である。このように不完全性であるため、表面の突起22同士の距離が大きい状態を維持し、互いに区別される突起を提供せねばならない。部品の製造では、これは、その結果としてデバイスの解像度が制限されることを意味する。図2Aと図2Bに示したようにより理想的な傾斜を有する側壁24を持つ表面の突起22だと、部品をより密に詰めることが可能になり、電子部品に必要な面積または“土地”が少なくて済み、そのことによってデバイスの利用可能な解像度が大きくなるであろう。
【0017】
より高精度にするため、従来の多くの熱蒸着装置では、1本の線に沿ってオリフィスが配置された線形蒸着源が用いられている。このタイプのシステムを用いて表面に堆積させるには、堆積中に基板を並進移動させてシャワーヘッドの位置を通過させるか、シャワーヘッドに基板表面を横断させるある種の高精度輸送メカニズムが必要とされる。一様性がよい被覆にするには、このタイプの装置に、気化した材料の非常に一様な流れを供給する高精度輸送メカニズムが必要とされる。
【0018】
CVD装置およびOVPD装置と、CVD法およびOVPD法のさらに別の欠点は、基板の表面温度に関係する。シリコンをベースとした古典的な半導体モデルでは、堆積中に基板の表面温度が非常に高いこと(しばしば400℃を超えた)が必要とされた。したがって半導体を製造するために開発されたCVDシステムは、基板の温度を上昇させ、材料の堆積中にその基板を高温に維持する設計にされていた。
【0019】
しかし有機半導体やそれ以外の有機電子材料が登場し、有機ポリマー基板の上にデバイスを製造する傾向が出てきたため、基板の温度の問題は、無機の誘電体、金属、半導体を堆積させるのに日常的にCVD法が利用されてきた従来の半導体産業におけるのとは非常に異なっている。有機材料を有機基板に付着させるときには、基板を高温にするのではなく、はるかに低温に維持することが重要である。さらに、高解像度のシャドウ・マスキング(有機電子デバイスのパターニングに一般に利用される)では、マスク材料と基板の間の熱膨張の差ができるだけ小さい必要があるため、許容できる最大熱負荷がさらに制限される。熱負荷が大きい蒸着プロセスでは、基板を冷却する必要がある。粘性流領域で動作する堆積プロセスでは、加熱されたガスの供給システム(シャワーヘッド)の出口表面から基板の表面へと熱を輸送するキャリヤ・ガス、または前駆材料、または気化した材料の熱伝導率のため、基板が著しく加熱される可能性がある。
【0020】
Chowらによる「薄膜堆積蒸発装置」という名称のアメリカ合衆国特許出願公開第2004/0255857号には、キャリヤ・ガスの使用に言及することなく、約3%以内の一様性になると主張されている薄膜層を堆積させるためのシステムが開示されている。このレベルの一様性を実現するため、Chowらは、'5857の明細書で、出口開口部の数、位置、サイズの適切な構成を選択することを示唆している。しかしChowらの'5857の明細書には、マニホールドの開口部の可能な構成が図示または説明されているが、高レベルの一様性を維持するためにその開口部を適切なサイズにする方法または分布させる方法の明確な記載はない。また、所定の堆積システムの構成を改変して異なるサイズの基板を取り扱えるようにするためのスケーリングに関するガイドラインもない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
したがって、従来の加熱式物理蒸着、CVD、OVPDのための装置と方法は薄膜成分と突起を形成するのにある程度の成功を収めたが、特にOLEDとそれに関連するデバイスの製造に関する改善の余地がかなり存在している。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明により、デバイスを製造する際に表面上に層を形成する方法であって、
(a)気化した材料を受け取る分配部材であって、チェンバーを規定する1つ以上の壁面を持ち、1つの壁面の中に複数の開口部からなる多角形二次元パターンが形成されていて、その開口部が気化した材料を分子流として上記表面上に供給する構成の分配部材を用意するステップと;
(b)開口部からなる多角形二次元パターンに少なくとも4つの頂部を設け、第1の開口部セットをその頂部に配置し、縁部用の第2の開口部セットを第1の開口部セットの2つの開口部の間に配置して多角形二次元パターンの縁部を規定し、内側用の第3の開口部セットを、第1の開口部セットと第2の開口部セットによって規定される多角形二次元パターンの周辺部の中に配置するステップと;
(c)第2の開口部セットと第3の開口部セットからの壁面単位面積当たりの流速よりも第1の開口部セットからの単位壁面積当たりの流速が大きく、かつ第3の開口部セットからの壁面単位面積当たりの流速よりも第2の開口部セットからの壁面単位面積当たりの流速が大きくなるように、第1の開口部セット、第2の開口部セット、第3の開口部セットのサイズを決めるステップを含む方法が提供される。
【発明の効果】
【0023】
本発明の1つの特徴は、粘性流領域ではなく分子流領域で動作する有機蒸気堆積法が提供されることである。
【0024】
本発明の利点として以下のことが挙げられる。
(i)有機材料の堆積と可撓性基板への堆積の熱特性が改善されること。
(ii)分子流領域での蒸着に、キャリヤ・ガスも、キャリヤ・ガスと気化した材料の混合物のための支持装置も必要ないこと。
(iii)より小さな基板面積から大きなスケールまで、蒸着のスケールを変えられること。
(iv)輸送メカニズムがある場合とない場合に使用できること。すなわち、本発明の装置と方法を、基板が静止保持されるチェンバーで利用できること、またはウェブをベースとした製造装置とともに使用できること。
(v)従来よりも材料の利用の一様性を高められること。
(vi)キャリヤ・ガスが下に流れる挙動をなくすことにより、マスキングの精度を高められること。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明のこれらの目的、特徴、利点と、他の目的、特徴、利点は、本発明の代表的な一実施態様を示す図面を参照した以下の詳細な説明を読めば当業者には明らかであろう。
【0026】
この明細書では、本発明の主題を特に指摘して明確に主張する請求項を添付してあるが、本発明は、添付の図面を参照した以下の説明からよりよく理解することができよう。
【0027】
この説明は、特に、本発明の装置の一部を形成する部品群、または本発明の装置とより直接的に協働する部品群に関するものである。特に図示したり説明したりしない部品群は、当業者によく知られたさまざまな形態を取りうるものと理解されたい。
【0028】
定義の例として、“一様性”は、材料の堆積に関する場合には、基板上への最大堆積速度と最小堆積速度の差の半分を、基板上への平均堆積速度で割った値と定義する。多数の開口部から放出がある蒸着装置では、“材料の利用効率”は、基板上への平均堆積速度に基板の面積を掛け、全開口部の合計放出強度(単位時間当たりの質量)で割った値と定義する。
【0029】
用語の例として、以下の説明では、一般に、“開口部”という用語を、堆積装置に関する文献に見られる“オリフィス”という用語と同じ意味で使用する。本発明の特徴と範囲をよりよく理解するには、従来のCVDとOVPDで利用されている方法と、本発明で利用される方法との間の重要ないくつかの違いをまず強調しておくことが有用である。
【0030】
背景技術の項で指摘したように、従来のCVD装置とOVPD装置は、粘性流領域で動作する。流体力学の当業者に馴染みのあるクヌーセン数(Kn)を用いていろいろな流れ領域を互いに区別することができる。基本的にクヌーセン数は無次元パラメータであり、ガスの相対的な散乱量を定量化する比である。より詳細には、クヌーセン数は、ガス分子の平均自由行程と、ガスが移動する空間の特徴的なサイズの間の比を与える。図4に示してあるように、クヌーセン数によって記述されるさまざまな領域がある。
【0031】
図4からわかるように、約0.01より小さいクヌーセン数が粘性流領域36を特徴づけていると見なすことができ、この領域には連続流体力学の原理と挙動が適用される。挙動は徐々に変化するため、粘性流領域36には、スリップ流領域と名づけられた一部も含まれると見なすことができる。キャリヤ・ガスを用いる従来のCVDシステムとOVPDシステムは、背景技術の項で指摘したように、この領域で動作する。CVDプロセスとOVPDプロセスの実施中にはガスの散乱が大量に発生するため、遮蔽効果が緩和され、基板と形態が一致した被覆(すなわち厚くなった被覆の輪郭がその下にある基板の輪郭に従う)を得ることができる。従来のCVDでは、実際上も理論上も、クヌーセン数が約1よりも大きな分子流領域38における堆積を利用することは考慮外であることがわかっていた。例えばBarthらによる「光起電性分子を大量生産するための装置と方法」という名称のアメリカ合衆国特許出願公開第2003/0129810では、ガスの散乱が減少するという理由で蒸着のために分子流領域条件を利用することが軽視されていて、分子流を利用すると一様でない堆積が生じる可能性のあることが示唆されている。粘性流で得られるガス散乱効果により、被覆が基板の形状とより一致するようになるが、すでに説明したようにシャドウ・マスクを利用したパターニングを行なうことには制限がある。'9810公報にBarthらが開示しているこの従来の教示内容とは逆に、本発明の発明者は、分子流領域における堆積が実際にはシャドウ・マスクの利用によく適しており、堆積の一様性は、幾何光学の原理と似た原理によって支配されることを見いだした。
【0032】
連続流体力学の原理に従う粘性流が従来のシステムでは利用されているため、“流体分散ヘッド”または“シャワーヘッド”という用語は、従来のCVD装置とOVPD装置において蒸発ガス/キャリヤ・ガス混合物のための一群のオリフィスを提供する分配部品に適用される。図5に側面図を示してあるようなCVDでは、シャワーヘッド16がオリフィス56からの蒸気/キャリヤ・プロセス・ガス混合物を強制的に基板18の上に向かわせる。境界層58ができるため、分配流のパターンが複雑になる。一様な膜を製造するには、この境界層の特徴と、蒸発体またはその中に含まれる前駆体の濃度と、基板表面における材料の消費のすべてを考慮せねばならない。
【0033】
背景技術の項ですでに指摘したように、粘性流から生じる1つの大きな問題は、熱コンダクタンスと関係している。蒸気/キャリヤ・プロセス・ガス混合物は、大量の熱を基板18上に伝える。加熱したプロセス・ガス混合物を用いる壁面が熱いCVD装置では、このコンダクタンスは、背景技術の項ですでに指摘したように利点である。しかし逆に、OVPDでは、このガス中の熱コンダクタンスによって基板18の温度が許容可能なレベルをはるかに超えて上昇する可能性がある。したがって従来のOVPD装置では、基板18から熱を除去するために冷却メカニズムが用いられることがしばしばある。すると費用がかさみ、複雑さが増す。なぜならある領域の上の温度を制御することは難しい可能性があるため、その結果として不均一な分布になるとともに、望ましくない他の効果が現われるからである。
【0034】
経験的にも理論上も確立していることとは逆に、本発明の装置と方法は、従来のCVDモデルとOVPDモデルから出発し、分子流領域38で蒸着を行なう。分子流蒸着では、多数のパラメータが変化し、流体力学のいくつかの原理と複雑な問題がもはや適用されない。
【0035】
図6を参照すると、本発明による蒸着装置40の重要な部品のブロック・ダイヤグラムが示してある。ヒーター42(例えばフラッシュ蒸発ヒーター)が、堆積される材料を気化させる。蒸気圧によってこの材料が堆積容器46の中にある分配部材44へと強制的に送られる。蒸気は、分配部材44の壁に設けた一群の開口部48から、基板ホルダ50によって保持されている基板18の表面へと供給される。キャリヤ・ガスは使用しない。ヒーター42は、蒸着チェンバー20の中に配置すること(分配部材44のすぐ裏側、または上方、または隣に)や、他の位置に(例えば分配部材44と基板18の間に位置しないように)配置することもできる。
【0036】
図7を参照すると、動作中の蒸気分配部材44の斜視図が示してある。ダクト52から供給される蒸気は一群の開口部48から拡散され、一群のプルーム54として放出される。ダクト52は、単一のダクトでも複数のダクトでもよい。さらに、ダクト52は、ダクト52が蒸気のプルーム54と実質的に交差しないのであれば、分配部材44のどの側に取り付けてもよい。
【0037】
有機蒸着のために本発明で用いる分子流を従来のCVDとOVDPの粘性流と比較するため、図8を図5と対照させることができる。図8では、キャリヤ・ガスなしの蒸気がプルーム54として本発明の蒸着装置から供給される。ここでは分配部材44が開口部48を提供し、気化した材料を基板18に向かわせる。図5に示したCVDモデルとは異なり、分子流領域では熱コンダクタンスが非常に小さくなる。流れのパターンを複雑にする境界層効果はない。分子流の分配は“視線”放出モデルに従う。これは、アレイになった点源または点開口部からの光の分配に関する光学モデルと幾分か似ている。照射距離dが分配部材44と基板18の間に維持される。ただしdは、蒸気分子同士の平均自由行程よりも短い。プルーム54は特徴的な形状を持ち、さまざまな因子(例えば開口部48の長さと半径)と、蒸着容器46(図6)内の相対的な圧力条件とによって制御される。
【0038】
分子流有機蒸気堆積プロセスの最適化
【0039】
図9の略図を参照すると、質量流速密度Γと基板18上の分布を決定する上で重要なサイズと角度の値が示されている。開口部48は、単位時間に単位質量をz軸の正方向の半空間へと放出する点源として理想的に機能する。質量流速密度Γは、蒸発源からの径方向の距離の2乗の逆数で減少する。長さがゼロの単純な開口部から分子流として噴散される質量流速密度Γは、cos (θ)で与えられる角度依存性を示す。ただしθは、開口部のある平面(すなわち図9のx-y平面)の法線と、観察点に向かう径方向ベクトルとがなす角度である。開口部48の深さがゼロでなく、短いダクトとして記述できる場合には、質量流速密度Γの角度依存性はz軸方向にさらに増大し、cos (θ)のより高い指数で変化する近似ができる。
【0040】
図9の開口部48は、点源と見なすことができる。そのような点源が、その点源に対してベクトルrによって規定される位置に微分表面積dAを有する基板から距離dに位置にあると、この位置に単位時間、単位面積当たりに堆積される質量は、以下の式で与えられる。
【0041】
【数1】

【0042】
cos (θ)という因子は、面積dAと径方向ベクトルrの内積から生じる。cos (θ)の追加の因子は、プルーム形状指数pから生じる。この指数の値は、点源が長さゼロの開口部だと1である。実際には、長さと開口部の直径の比がゼロでない蒸発源では、プルーム形状指数pは1よりも大きい。材料の堆積の分野の当業者には知られているように、放出用開口部の長さ/直径の比が大きくなるほど、プルーム形状指数pの値は大きくなる。
【0043】
以下の式:
cos (θ) = d/r (2)
が成り立つことに注意すると、式(1)は以下のようになる。
【0044】
【数2】

【0045】
プルーム形状指数pが所定の値であり、蒸発源-基板の距離すなわち照射距離dが所定の値だと、基板の表面への堆積速度プロファイルを計算することは容易である。さらに、基板に堆積させるための点源アレイでは、各点源からの個々の堆積速度プロファイルを互いに重ね合わせて基板の表面への全堆積速度プロファイルを得ることができる。
【0046】
蒸発源-基板からなる堆積用の構成の一例を図10に概略図として示してある。横幅Lの基板18が横幅lの蒸発源に平行になっていて、その蒸発源から照射距離d離れた位置にある。蒸発源の横幅は基板の横幅よりもそれぞれの側でeだけ大きいため、l - L = 2eである。
【0047】
基板18は正方形である必要はなく、長方形でもよい(すると基板のそれぞれ長さと幅に関してサイズL1とL2は異なる値になろう)。あるいは基板18は楕円形(例えば円形)にすることができる。基板18は多角形(その中には正方形、長方形、六角形が含まれる)または3つ以上の辺と頂点を有する他の形状にすることもできよう。基板18は不規則な形状、すなわち多角形または楕円形に分類できない何らかの形状にすることもできよう。同様に、拡散部材44の位置にある蒸発源は正方形である必要はなく、長方形でもよい(その場合、l1とl2はそれぞれ蒸発源の長さと幅になろう)。あるいは蒸発源は楕円形(例えば円形)、多角形、不規則な形状のいずれかにすることも可能である。いずれの場合にも、蒸発源のサイズが基板のサイズを超える程度は、あらゆる方向に2eにすることができる。すると幅eを持つ周辺領域が提供される。
【0048】
図11に示してあるように、蒸発源として機能する分配部材44は、分配チェンバー60と、分配チェンバー60の少なくとも1つの壁面に沿った多角形の開口部アレイ48と、蒸気注入ダクト62と、開口部66を有する輻射線シールド64とを備えている。蒸発源の横幅lは開口部48のパターンを基準としており、拡散チェンバー60の辺から測定されるのではない。
【0049】
サイズが無限の理論的な開口部アレイ48では、堆積速度プロファイルは、蒸発源-基板の間隔が開口部同士の間隔よりも著しく大きいと、あらゆるサイズの基板18上で非常に一様になろう。しかし実際には、開口部アレイと基板は有限のサイズであり、蒸発源-基板の間隔dが非常に小さい極限でだけ、堆積速度プロファイルが非常に一様になろう。さらに、蒸発源-基板の間隔dが小さすぎると、開口部アレイの離散性によって基板上で堆積速度プロファイルが波打つ。
【0050】
開口部のサイズの1つの特徴である開口部の間隔を表わす便利な1つのパラメータは、ピッチPa、または所定のサイズにおける単位長さ当たりの開口部の数である。Paとdの積は、開口部アレイの離散性が原因で堆積速度プロファイルが過剰に変動するのを避けるためのピッチまたは蒸発源-基板の間隔の最小値を決定する上で重要である。特に、積Padは、±3%よりも優れた一様性を達成するためには約1よりも大きい必要がある。
【0051】
開口部アレイ48の離散性に起因する非一様性に加え、縁部効果の結果であるより顕著な非一様性が存在している。簡単に述べると、基板18の中心領域は開口部アレイ48からの拡散流を受けるが、その拡散流は、基板18の周辺領域に到達する拡散流とは異なっている。分子流堆積では、図9を参照して説明したように理想的には点源である各開口部48は、光源アレイにおける開口部と同様に機能するが、分子流堆積にとって、この縁部効果または有限サイズ効果は特に深刻な固有の1つの問題である。このアナロジーに従うと、均一に分布した光源アレイの中心近くからの光を照射される表面領域は、その光源アレイの縁部からの光を照射される表面領域よりも多くの一様な光を受けることになろう。
【0052】
このタイプの縁部効果を補償するには、縁部とコーナーの開口部48の相対的蒸気コンダクタンスを調節する必要がある。図12、図13、図14の平面図は、分配部材44のさまざまな実施態様で使用できるであろう開口部74の構成の例を示している。これらの各図においてアレイ全体は多角形だが、楕円形(例えば円形)または不規則な形(すなわち多角形でも楕円形でもないあらゆる形)を代わりに使用することができよう。図12の例では、六角形のパターンに配置された開口部70が、二点鎖線によって境界を示した複数の領域に分けられている。中心領域72には内側開口部74があり、その内側開口部74からは壁面単位面積当たり実質的に一様な蒸気コンダクタンスまたは流速が提供される。一実施態様では、開口部74は一様なサイズと間隔であり、平均ピッチはPaである。周辺領域76には開口部が2セットある。すなわち、開口部の多角形二次元パターンの縁部を規定する縁部開口部78と、コーナーまたは頂点の開口部80である。開口部を適切なサイズにする(開口部の直径とピッチの一方または両方を調節する)ことにより、周辺領域76の縁部開口部78と頂点開口部80の壁面単位面積当たりの蒸気コンダクタンスまたは流速は、中心領域72の内側開口部74の単位面積当たりのコンダクタンスよりも大きくなる。壁面単位面積当たりのコンダクタンスは放出速度の局所的な指標であり、単一の開口部とそれに付随する面積から、または所定の局所的領域におけるいくつかのそのような開口部から生じると考えられる。使用する開口部のピッチと数、または開口部のコンダクタンスそのものが増大するにつれ、壁面単位面積当たりのコンダクタンスまたは流速も増大する。図13と図14に、開口部70のパターンの可能な他の配置を示してある。これらの配置のどれについても、頂点開口部80の単位面積当たりの流速は、縁部開口部78の単位面積当たりの流速よりも大きい。そして縁部開口部78の単位面積当たりの流速は、内側開口部74の単位面積当たりの流速よりも大きい。
【0053】
開口部それ自体は、内側開口部74、縁部開口部78、頂点開口部80のいずれとして利用されるかに基づいた異なる流速を提供するように構成できる。開口部の設計における他の因子として、横断面の輪郭がある。これは、多角形、楕円形、不規則な形状のいずれかが可能である。
【0054】
e/Lの値が小さく、かつd/(d2 + e2)1/2という値が十分に1に近い極限では、中心部の開口部と比べて必要とされる蒸気コンダクタンスの増大は、驚くべきことにPadの単純なスケーリング関係に従い、その関係を対数-対数プロットで二次の式にフィットさせることができる。
log (C/C0) = A (log (Pad))2 + B (log (Pad)) + C (4)
ただしC/C0は蒸気コンダクタンスの増大因子であり、A、B、Cは、それぞれ二次の係数、一次の係数、定数である。コーナー開口部80と縁部開口部78ではA、B、Cが異なる値になる。コーナー開口部80と縁部開口部78の両方に関し、A、B、Cそれぞれの値はプルーム形状指数pにも依存する。以下に示す実施例は、プルーム形状指数が1、2、3についての挙動を示している。
【実施例】
【0055】
例1:プルーム形状指数p=1
【0056】
この実施例では、式(3)を用い、横幅Lの基板の上方にあってその基板から距離d離れた横幅lの開口部の正方形アレイからの寄与を積分した(図10と図11参照)。このアレイの長さlの各辺にある開口部の数nを指定したため、開口部の総数と対応するピッチが決まる。コーナーの4つの開口部の放出強度(強さ)と外辺上にある(すなわち2つのコーナー開口部の間を延びる線に沿った)開口部の放出強度(強さ)を指定した。それを、それぞれIcおよびIeと表記する。IcとIeは、残りの開口部に関する放出強度であり、これらの実施例では1単位の強度を割り当てる。堆積速度の空間分布をさまざまな幾何学的パラメータと放出強度パラメータに関して調べた。IcとIeを変化させて最も一様な堆積になるようにした。プルーム形状指数pも指定し、p=1にした。
【0057】
一様性が最適になるパラメータの各セットについて、(横幅Lの)基板上で得られる一様性と利用効率を記録した。基板のサイズ、蒸発源-基板の間隔、開口部のピッチの値、端部の幅(すなわちe= (l - L)/2)をさまざまな値にして実験した。一般に、eの値は、dの値に比例して大きくなった。しかしいくつかの場合には、eの値は独立に変化した。さらに、ピッチの値は、n(アレイの一辺の長さに沿った開口部の数)を変えることによって、またはl(アレイの長さ)を変えることによって、またはnとlの両方を変えることによって変化させた。
【0058】
プルーム形状指数の値が1の場合に関する一様性と利用効率の結果を表1に示してある。図17には、一様性をスケーリング・パラメータPadに対してプロットしてある。放出強度Ic(コーナー/中心)とIe(縁部/中心)を同じスケーリング・パラメータに対して図18Aと図18Bにプロットしてある。図17、図18A、図18Bから、一様性を最高にするのに必要な放出強度は、Padの値が大きくなるほど増大すること、そして最高の一様性は、Padがより大きな値で得られることがわかる。
【0059】
局所的堆積速度のプロファイルを基板の中心近くで調べ、(基板-蒸発源の間隔dの所定値に関する)n/lの臨界値を見いだした。この臨界値よりも下では、局所的な速度が波打つためにそのプロファイルの一様性が3%よりも悪くなった。こうした計算から、Padの臨界値は、プルーム形状指数の値が1だと約0.97であることがわかった。図17はパラメータPadが極めて重要であることを示しているが、縁部効果を考慮したために基板の中心において見られるであろうよりも一様性がいくらか悪いことが示されている。
【0060】
利用効率の幾何学的スケーリング関係を図19に示してある。この図では、表1からのデータを無次元パラメータL4/(d2el)に対してプロットしてある。このグラフから、このパラメータが大きいほど利用効率がよいことが明らかである。
【0061】
開口部からの放出が増大する周辺領域または縁部領域の幅eをさらに大きくして一様性を向上させ、表1に示した性能を超えるようにすることができる。より大きな値のeで追加のデータを取得した。それを表2に示してある。この表からわかるように、一様性の著しい改善が得られる。しかし利用効率がより悪くなることに起因するコストの問題がある。さらに、放出強度は、図18Aと図18Bのスケーリング関係よりも大きくする必要がある可能性がある。なぜなら、強度が増大した領域からの放出は、長さLの基板の縁部にはますます向かわなくなるからである(その領域と基板の辺が揃っていない程度は、パラメータd/(d2 + e2)1/2によって表わされる。このパラメータは、比e/dが大きくなるにつれ、1よりも著しく小さくなる)。表2に示した追加の点に関してコーナーと縁部で必要な相対的放出強度を図18Aと図18Bに示してある。これらの点に関する利用効率とのトレード-オフを図19に示してある。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
例2:プルーム形状指数p=2
【0065】
実施例1と同様、式(3)を用い、横幅Lの基板の上方にあってその基板から距離d離れた横幅lの開口部の正方形アレイからの寄与を積分した。同じパラメータを指定し、プルーム形状指数pの値を2にして同じ計算を実施した。この場合、Padの臨界値は約1.11であることがわかった(上の実施例と同様、縁部効果は顕著でないため、臨界値は、基板の中心近くの局所的一様性を調べることによって評価する)。結果を表3に示してある。コーナーと縁部の利用効率と放出強度に関する幾何学的スケーリング関係を図20Aと図20Bに示してある。さらに、表4に示した点は、開口部の放出が増大した周辺領域の幅eをどのようにしてさらに大きくすると利用可能なコストで一様性を向上させられるかを示している(図19参照)。さらに、放出強度は、図20Aと図20Bのスケーリング関係よりも大きくする必要がある可能性がある。なぜなら、強度が増大した領域からの放出は、長さLの基板の縁部にはますます向かわなくなるからである(その領域と基板の辺が揃っていない程度は、パラメータd/(d2 + e2)1/2によって表わされる。このパラメータは、比e/dが大きくなるにつれ、1よりも著しく小さくなる)。表4に示した点に関してコーナーと縁部の相対的放出強度を図20Aと図20Bに示してある。
【0066】
図22は、コーナーと縁部の強度が最適な状態で得られる最高の一様性を穴のピッチと距離の積に対してプロットしたグラフである。プルーム形状指数p=1、p=2、p=3(以下の実施例3)での結果を示している。
【0067】
【表3】

【0068】
【表4】

【0069】
例3:プルーム形状指数p=3
【0070】
実施例1と同様、式(3)を用い、横幅Lの基板の上方にあってその基板から距離d離れた横幅lの開口部の正方形アレイからの寄与を積分した。同じパラメータを指定し、プルーム形状指数pの値を3にして同じ計算を実施した。この場合、Padの臨界値は約1.22であることがわかった。上の2つの実施例と同様、縁部効果は顕著でないため、臨界値は、基板の中心近くの局所的一様性を調べることによって評価する。計算の結果を表5に示してある。コーナーと縁部の利用効率と放出強度に関する幾何学的スケーリング関係を図21Aと図21Bに示してある。
【0071】
【表5】

【0072】
上記のそれぞれの実施例について、コーナーと縁部の強度は、式(4)に示した簡単な多項式にフィットさせることができる。最適なコーナー強度と縁部強度のフィッティング・パラメータA、B、Cを、プルーム形状指数1、2、3に関して表6に示してある。式(4)の対数の底は10である。
【0073】
【表6】

【0074】
図12〜図14からわかるように、開口部70のパターンの可能な構成はいくらでもある。開口部74、78、80の蒸気コンダクタンスは以下のいずれかによって調節することができる。
(i)サイズ(例えば開口部78と80を中心領域72の開口部74の幅よりも広くすることによるか、開口部78と80の長さを中心領域の開口部74の長さよりも短くすることによる)
(ii)間隔(例えば図15に示したようにする)。
【0075】
図15は、分配部材44の1つの区画(例えば図13に概略を示した区画Q)に関する開口部のパターン82を示している。ここでは、コーナー開口部80のサイズを変える代わりに、頂部開口部80を形成するためにグループにされた開口部である複数の開口部84を互いにより近づけることで、開口部アレイのコーナーでの蒸気コンダクタンスを大きくする。また、図15では、中心のアレイはそのアレイの周辺部と平行に揃った正方形パターンであるのに対し、図13には、アレイの周辺部に対して45°回転した正方形パターンが示してある。
【0076】
開口部の横方向のサイズ(例えば丸い穴になった開口部48の場合の直径)が長さよりもかなり大きい場合、コンダクタンス増大因子は開口部の面積の比によって与えられる。しかし短いダクトでは、開口部蒸気コンダクタンスはαAのように変化する(例えば直径rの丸い穴ではαπr2)。ただしαとAは、それぞれ透過確率と開口部の面積である。したがって式(4)の蒸気コンダクタンス増大因子はαA/α0A0で与えることができる。ダクトが長い極限(一般にl/(2r)>>1のとき)では、透過確率はr/lのように変化し、蒸気コンダクタンス比は(r/l)3/(r0/l0)3になる。したがってコンダクタンス増大因子は(r/l)s/(r0/l0)sのように変化することが予想される。ただし2≦s≦3である。
【0077】
利用効率/一様性のトレードオフの考察
【0078】
一様性の向上は、廃棄物がより多くなること、すなわち利用効率がより低下することと引き換えであることがしばしばある。利用効率と一様性の間には少なくとも何らかの大まかな関係があるが、意思決定の最も一般的な指針だけが従来は仮定されてきた。本発明の方法は、好ましいことに、利用効率と一様性の間である程度競合する条件を計算し、バランスさせる手段を提供する。
【0079】
正方形の基板18が与えられると、本発明の分配部材44にとっての材料利用効率uは、図19に示したように比較的単純なスケーリング関係に従う。
u = f {L4/(d2el)} (5)
ただし、
fは単調増加関数であり;
dは、開口部48を有する分配部材44の表面または壁面から基板18の表面までの鉛直距離(“照射距離”)であり;
eは図10に関して説明した開口部パターンの縁部領域のサイズであり;
Lは基板の長さと幅であり;
lは(開口部パターンの範囲によって決まる)蒸発源の長さと幅である。
【0080】
式(5)は、以下のことを意味している。
(i)所定の利用効率を維持するには、比L/d(あるいはより一般には、長方形の基板に関してはL1/dとL2/d)、L/l、L/eを維持せねばならない;
(ii)L、d、lが所定の値だと、一様性を向上させるために縁部領域を大きくすると利用効率が低下する。
【0081】
図19から、L4/(d2el)の値が1000以上だと利用効率因子が0.5を超えることが明らかである。長方形の基板に関しては、このスケーリング・パラメータはL12 L22/(d2e(l1 + l2)/2)になろう。ただしL1、L2、l1、l2は、それぞれ、長方形基板と開口部パターンの長辺と短辺の長さである。同様のスケーリング関係を円形基板または楕円形基板で想定することができる。ただし、Lまたは L1とL2の代わりに直径(D)または長軸と短軸(D1とD2)であり、lまたはl1とl2の代わりに開口部パターンの直径D'または軸の平均値(D1'+D2')/2になる。したがって図19から、さまざまな形状のプルームに関し、パラメータL4/(d2el)(または長方形、円形、楕円形、辺が4つ以上の多角形における同等な式)は、材料利用効率因子が有用な値(約0.3以上)であるためには100よりも大きくなければならず、材料利用効率因子が約0.5以上であるためには1000を超えることが好ましい。
【0082】
一様性が約±3%よりも優れているためには、Pad値が約1以上である必要がある。これ以上の一様性にするには、Pad値が1.2を超える必要がある。実施例1と2に示したように、一様性をより向上させることはeを大きくすることによって可能であり、±1%よりも優れた一様性が実現する。さらに、このように優れた一様性は、pの値が大きいほど(すなわちプルームがより方向付けられるほど。これは、アレイ内の開口部の長さと直径の比を大きくすることによって実現できる)容易に得られる。プルームの形状と分子流の関係に関する1つの基準を、『真空技術のユーザー・ガイド』、John F. O'Hanlon、ジョン・ワイリー&サンズ社、ニューヨーク、1989年、第3章に見いだすことができる。
【0083】
輻射線シールド
【0084】
粘性流領域で作業することの公知の1つの欠点は、熱伝導率と関係している。加熱されたシャワーヘッドからいくらか加圧された状態で供給されるキャリヤ・ガスは、熱伝導体として機能して基板を加熱する。熱いキャリヤ・ガスは、シャワーヘッドからの熱を伝えることに加え、熱を基板に直接供給する。キャリヤ・ガスは堆積される材料よりも分圧がはるかに高いことがしばしばあるため、キャリヤ・ガスが運ぶ熱は、基板に望ましくない熱負荷も提供する可能性がある。しかし本発明の方法で利用する分子流領域での蒸着は、同じ熱挙動を示さない。優勢な熱負荷は、堆積中の蒸発体または昇華体の凝縮熱と、シャワーヘッドからの熱輻射である。シャワーヘッドと基板の間隔が近いと、これらの寄与は、キャリヤ・ガスからの熱伝導による熱負荷よりも著しく少ない可能性がある。したがって分子流領域で作業すると、本来的に、基板の熱が関係する場合には好ましい熱特性を提供する。それは例えば、堆積膜が結晶化することを避けねばならないとき、基板-マスクが揃った状態を高精度で維持せねばならないとき、基板が熱に敏感であるとき(例えば有機ポリマー基板)である。
【0085】
熱負荷を回避する追加の手段を分配部材44に付加することができる。図11には、分配部材44の一部として取り付けたオプションの輻射線シールド64を開口部48と基板18の間に広げた状態が示してあった。輻射線シールド64は、開口部48と位置が揃った開口部66を有する。図16の拡大側方断面図を参照すると、分配部材44の出口用壁面68にある開口部48に対する輻射線シールド64の1つの開口部66の配置を示してある。分配部材44の開口部48は角度θよりも上方に蒸気を放出する。この角度θは、上に説明したように、開口部の半径と深さの関数である。輻射線シールド64の開口部66は適切なサイズにされていて、角度θでの放出を可能にする半径δを有する。輻射線シールド64の厚さtは、輻射線シールド64が加熱条件下で安定であるのに十分なサイズである。
【0086】
輻射線シールドの使用は、出口用壁面68から基板18への熱輻射を減らす上で好ましい。他のタイプの堆積装置では基板18のための補助冷却要素が必要だが、輻射線シールド64は、出口用壁面から放射された熱が基板に到達する量を減らすことにより、基板18のための補助冷却要素の必要性を減らすのに役立つ。
【0087】
まとめ
【0088】
本発明の方法は、蒸着の一様性を最適化して±3%よりも優れた一様性を実現することができる。二次元開口部アレイのコンダクタンスが増大する(幅eの)周辺領域を広くすることにより、狭い場合に一様性に悪影響を及ぼす縁部効果を大きく減らすことができる。±1%よりも優れた一様性は、パラメータPdとeの値(それぞれ、開口部のピッチと照射距離の積、コンダクタンスが増大する周辺領域の範囲である)を大きくすることによって実現できる。この一様性の向上は、材料利用効率をいくらか犠牲にして得られる。開口部アレイの周辺領域のコンダクタンス増大は、パラメータPdに関する単純なスケーリング関係に基づいて最適な一様性となるように選択できるのに対し、最適な利用効率のための幾何学的パラメータは、パラメータL4/(d2el)、または長方形、円形、楕円形、多角形いずれかでのその類似表現に関する単純なスケーリング関係から選択することができる。
【0089】
本発明による方法の1つの好ましい効果は、図2A〜図2Dを参照して背景技術の項ですでに説明したように、パターニングの精度と関係している。粘性流領域ではなく分子流領域で作業することにより、本発明の方法は、キャリヤ・ガスを用いた従来の堆積法よりも鉛直性が鋭い側壁を有する表面の突起を実現することができる。こうすることで、表面の突起間をより明確に規定し区別することができるため、部品をさらに小さくできる。
【0090】
従来法と比べた本発明による方法の別の1つの利点は、キャリヤ・ガスがないことと関係している。追加材料の導入は、たとえ不活性な材料(例えば不活性なキャリヤ・ガス)であれ、相応の代償を払うことになる。分圧が大きな成分としてのキャリヤ・ガスを用いると、いくらかの量の不純物が気化した材料/キャリヤ・ガス混合物の中に導入される可能性がある。一部の不純物が気化した材料と反応し、堆積されている膜に組み込まれ、そのことによって膜の性能が悪化する可能性がある。
【0091】
したがって、分子流領域の材料を最適状態で利用して一様に蒸着するための装置と方法が提供される。
【0092】
本発明を特に好ましいいくつかの実施態様を参照して詳細に説明してきたが、当業者であれば、上に説明したように、そして添付の請求項に記載されているように、本発明の範囲でさまざまな変形や修正が可能であることが理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】従来のOVPD装置で重要な部品を示すブロック・ダイヤグラムである。
【図2A】OVPD法を利用して形成される突起の理想的な形状の側面図である。
【図2B】OVPD法を利用して形成される突起の理想的な形状の上面図である。
【図2C】OVPD法を利用して形成される突起の実際の形状を近似した側面図である。
【図2D】OVPD法を利用して形成される突起の実際の形状を近似した上面図である。
【図3】キャリヤ・ガスが下に流れることが側壁の形成に及ぼす効果を示す側面図である。
【図4】クヌーセン数の範囲と、粘性流から分子流までの流体流領域との対応を示す図である。
【図5】粘性流を利用した従来のシャワーヘッドの側面図である。
【図6】本発明による蒸着装置で重要な部品を示すブロック・ダイヤグラムである。
【図7】二次元開口部アレイを提供する分配部材の斜視図である。
【図8】分子流を利用して堆積される蒸気を放出させるための本発明による分配部材の側面図である。
【図9】個々の開口部から材料を蒸着するときに興味の対象となるキー・パラメータとサイズを示す斜視図である。
【図10】本発明の方法と装置を利用した蒸着で重要ないくつかのサイズを示す斜視図である。
【図11】図10の斜視図を水平に回転させた分配部材の斜視図であり、輻射線シールドが含まれている。
【図12】さまざまな実施態様における開口部の間隔とそれ以外のサイズの例を示す平面図である。
【図13】さまざまな実施態様における開口部の間隔とそれ以外のサイズの例を示す平面図である。
【図14】さまざまな実施態様における開口部の間隔とそれ以外のサイズの例を示す平面図である。
【図15】分配部材の開口部の別の構成の一部を示す平面図である。
【図16】1つの開口部の側面図であり、熱シールドが含まれている。
【図17】プルーム指数が1の場合に、最適な一様性が、ピッチと照射距離の積に関係することを示すグラフである。
【図18A】プルーム指数が1の場合に、コーナー強度が、ピッチと照射距離の積でスケーリングされることを示すグラフである。
【図18B】プルーム指数が1の場合に、縁部強度が、ピッチと照射距離の積でスケーリングされることを示すグラフである。
【図19】プルーム指数が1、2、3の場合について、利用効率因子と幾何学的スケーリング・パラメータの関係を示すグラフである。
【図20A】プルーム指数が2の場合に、コーナー強度が、ピッチと照射距離の積でスケーリングされることを示すグラフである。
【図20B】プルーム指数が2の場合に、縁部強度が、ピッチと照射距離の積でスケーリングされることを示すグラフである。
【図21A】プルーム指数が3の場合に、コーナー強度が、ピッチと照射距離の積でスケーリングされることを示すグラフである。
【図21B】プルーム指数が3の場合に、縁部強度が、ピッチと照射距離の積でスケーリングされることを示すグラフである。
【図22】プルーム指数が1、2、3の場合について、(最適なコーナー強度と縁部強度を持つ)最適な一様性を、穴のピッチと距離の積の関数として示したグラフである。
【符号の説明】
【0094】
10 蒸着装置
12 気化チェンバー
14 キャリヤ・ガス
16 シャワーヘッド
18 基板
20 蒸着チェンバー
22 表面の突起
24 側壁
26 傾斜した区画
30 マスク
36 粘性流領域
38 分子流領域
40 蒸着装置
42 ヒーター
44 分配部材
46 蒸着容器
48 開口部
50 基板ホルダ
52 ダクト
54 プルーム
56 オリフィス
58 境界層
60 分配チェンバー
62 蒸気注入ダクト
64 輻射線シールド
66 開口部
68 出口用壁面
70 開口部のパターン
72 中心領域
74 開口部
76 周辺領域
78 縁部開口部
80 コーナー開口部
82 開口部のパターン
84 開口部
δ 開口部の半径
l 蒸着源のサイズ
L 基板のサイズ
d 照射距離
P ピッチ
Q 区画
θ 角度
q 距離
r 径方向ベクトル
t 厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デバイスを製造する際に表面上に層を形成する方法であって、
(a)気化した材料を受け取る分配部材であって、チェンバーを規定する1つ以上の壁面を持ち、1つの壁面の中に複数の開口部からなる多角形二次元パターンが形成されていて、その開口部が気化した材料を分子流として上記表面上に供給する構成の分配部材を用意するステップと;
(b)上記開口部からなる多角形二次元パターンに少なくとも4つの頂部を設け、第1の開口部セットをその頂部に配置し、縁部用の第2の開口部セットを第1の開口部セットの2つの開口部の間に配置して上記多角形二次元パターンの縁部を規定し、内側用の第3の開口部セットを、第1の開口部セットと第2の開口部セットによって規定される多角形二次元パターンの周辺部の中に配置するステップと;
(c)第2の開口部セットと第3の開口部セットからの壁面単位面積当たりの流速よりも第1の開口部セットからの単位壁面積当たりの流速が大きく、かつ第3の開口部セットからの壁面単位面積当たりの流速よりも第2の開口部セットからの壁面単位面積当たりの流速が大きくなるように、第1の開口部セット、第2の開口部セット、第3の開口部セットのサイズを決めるステップを含む方法。
【請求項2】
第1の開口部セットが、少なくとも1つの頂部に複数の開口部を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記サイズ決定ステップに、開口部の直径を決める操作が含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
上記サイズ決定ステップに、開口部間のピッチを設定する操作が含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
上記サイズ決定ステップに開口部の深さを決める操作が含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
第2の開口部セットが、少なくとも1つの縁部の位置に複数の開口部を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
壁面にある開口部の数とサイズを選択するステップをさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
上記開口部の断面の輪郭が、多角形、楕円形、不規則な形状のいずれかである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
(d)上記分配部材を上記表面から照射距離dだけ離して配置するステップと;
(e)第3の開口部セットの開口部を平均ピッチPaで分布させ、Paとdの積がPad>0.8の関係になるようにするステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
積Pad>0.97である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
以下の関係:
L4/d2el > 1000
が満たされている(ただし、Lは基板の幅と長さであり、
lは蒸発源の幅と長さであり、eは縁部領域の幅であり、
e = (L - l)/2
を満たす)、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
以下の関係:
L4/d2el > 100
が満たされている(ただし、Lは基板の幅と長さであり、
lは蒸発源の幅と長さであり、eは縁部領域の幅であり、
e = (L - l)/2
を満たす)、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
上記材料が有機材料である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
上記分配部材が真空下にある、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
上記分配部材と上記表面の間に輻射線シールドを配置するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18A】
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【図18B】
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【図19】
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【図20A】
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【図20B】
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【図21A】
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【図21B】
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【図22】
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【公表番号】特表2009−523915(P2009−523915A)
【公表日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−551285(P2008−551285)
【出願日】平成19年1月5日(2007.1.5)
【国際出願番号】PCT/US2007/000425
【国際公開番号】WO2007/084275
【国際公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(590000846)イーストマン コダック カンパニー (1,594)
【Fターム(参考)】