説明

蒸着材料

【課題】 高速成膜可能でバリア性・透明性に優れ、蒸着時のスプラッシュ発生を抑制した蒸着材料および、その蒸着材料を用いたガスバリアフィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】 特定の酸化スズ系の蒸着材料が、上述の課題を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。二酸化スズと一酸化スズとを含有し、酸素とスズの原子比(O/Sn比)が1より大きく、1.8未満であり、見掛け密度が1.5〜4.0g/cmであることを特徴とする蒸着材料を電子ビーム加熱方式により、樹脂基材上にガスバリア層を500nm/分〜12000nm/分で真空蒸着により成膜する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品、医薬品や電子部品等の包装材料として有用な透明ガスバリアフィルムを製造する際に使用する蒸着材料に関する。特に高速成膜可能な電子ビーム(EB)加熱方式の真空蒸着に最適な酸化スズ系の蒸着材料に関する。
【背景技術】
【0002】
食品や医薬品等の包装材料に対しては、内容物の変質を防止することが求められている。例えば、食品用包装材料に対しては、タンパク質や油脂等の酸化や変質を抑制し、更に風味や鮮度を保持できることが求められ、また、無菌状態での取扱が必要とされる医薬品用包装材料に対しては、内容物の有効成分の変質を抑制し、その効能を保持できることが求められている。
【0003】
ところで、このような内容物の変質は、包装材料を透過する酸素や水蒸気あるいは内容物と反応するような他のガスにより主として引き起こされている。
【0004】
従って、食品や医薬品等の包装材料に対しては、酸素や水蒸気などのガスを透過させない性質(ガスバリア性)を備えていることが求められており、そのような性質を有する包装材料として、一酸化ケイ素(SiO)、ケイ素酸化物(SiOx)、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化スズ等の金属酸化物あるいはこれらの複合酸化物、更には金属フッ化物などのガスバリア性物質を高分子フィルム基材に蒸着させたガスバリア性フィルム材料が知られている。
【0005】
また、包装材に透明性が要求される理由としては、内容物の形状や内容物の色などが包装材の外から目視で確認することができ、それにより、内容物の取り違い防止や、損傷の有無、内容物の変質の有無が開封前にわかることが挙げられる。
【0006】
これらのガスバリアフィルムは真空蒸着法のほかスパッタ法やイオンプレーティング法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法やALD(Atomic Layer Deposition)法など様々な方法が提案されている。
これらのフィルムは安価に製造されることも求められ、一般にもっとも大きい成膜速度が得られる方式は真空蒸着方式であり、特にEB(electron beam)加熱方式によるものが、高い成膜速度が得られ最適である。
中でも高速成膜が可能で安価なフィルムとして、高分子フィルム基材に一酸化ケイ素やSi/SiO混合材料が蒸着されたシリカ系蒸着フィルムや金属アルミを蒸発させて酸素と反応させたいわゆるアルミナ反応蒸着フィルムが、高い透明性と高いガスバリア性、生産性の点とから注目されている。
【0007】
一方近年、食品、医療・医薬品などの包装材料用途以外に、液晶、有機ELなどのフラットパネルディスプレイ用途や太陽電池などのバックシート、フロントシートなどにおいてはより高度のガスバリア性が求められ、さらに長時間の過酷な耐久性試験でも性能が低下しないバリア性が求められている。
【0008】
蒸着膜が単層のシリカ蒸着フィルムやアルミナ反応蒸着フィルムではバリア性が不十分であり多層化などの提案がなされている。またこれらフィルムは高温高湿下保存などの耐久性試験では劣化が見られるなど課題が多い。
【0009】
酸化スズ系のバリアフィルムは、耐久性にも優れ、蒸着層単層でも高いバリア性が期待されているが、透明性や高速成膜性などの課題も多い(特許文献1、2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平1−269530号公報
【特許文献2】特開平3−53059号公報
【特許文献3】特開平5−171413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、高速成膜可能でバリア性・透明性に優れ、蒸着時のスプラッシュ発生を抑制した蒸着材料を提供し、その蒸着材料を用いたガスバリアフィルムを提供することにある。
【0012】
特許文献1、2には、蒸着で得られた酸化スズ薄膜の組成について記載がされている。特許文献1では酸化スズ薄膜にSiなどの無機物として10重量%以下で物性面に影響しない範囲であれば含有していても良いことが記載されているが、具体的にどの無機物を使用するかは記載されていない。
特許文献1〜3ではスズ薄膜の原料として、金属スズ、一酸化スズ、二酸化スズ単体および混合物が使用可能と記載されているが、実際にどのような組成の原料であるか、蒸着用金属材料の組成そのものについては記載がない。
引用文献2、3は薄膜の製造時に酸素を供給し、反応蒸着を行っている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、特定の酸化スズ系の蒸着材料が、上述の課題を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
請求項1の発明は、二酸化スズと一酸化スズを主成分とし、酸素とスズの原子比(O/Sn比)が1より大きく、1.8未満であり、見掛け密度が1.5〜4.0g/cmであることを特徴とする電子ビーム加熱方式用の蒸着材料である。
【0015】
請求項2の発明は、上記蒸着材料はさらに一酸化ケイ素あるいはケイ素と二酸化ケイ素の混合物のいずれかまたは両方を含有し、酸素とスズ+ケイ素の原子比(O/(Si+Sn)比)が1以上1.8以下で、かつ、スズとケイ素の原子比(Sn/Si比)が3以上20以下であることを特徴とする請求項1記載の蒸着材料である。
【0016】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の蒸着材料を、酸素を供給せずに電子ビーム加熱方式によって、樹脂基材に真空蒸着する、ガスバリアフィルム製造方法である。
【0017】
請求項4の発明は、ガスバリア層を500nm/分〜12000nm/分で成膜する、請求項3に記載のガスバリアフィルム製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の蒸着材料は、SnO/SnOの混合材料を用い、酸素とスズの原子比O/Snを1.0<(O/Sn)<1.8とすることで、高い蒸発速度を維持しつつ、かつ蒸発にともない発生する分解Oガスによる成膜室の真空度の低下や、反応蒸着のように別途酸素を導入する手間や酸素導入による真空度低下もなく、透明で緻密な成膜が可能となり、高いバリア性が発現可能で、スプラッシュ発生を抑制でき、高速成膜を可能にすることができる。
【0019】
また本発明の蒸発材料はさらに酸化ケイ素などのシリカ系材料を含有することで、高い蒸発速度を得るための高出力のEB照射条件においても、酸化ケイ素と酸化スズの溶融成分が形成されることで、高出力EB照射条件においてもスプラッシュ現象を抑制することができ、高速成膜を可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明で製造されるガスバリアフィルムの構成の一例の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0022】
本発明の蒸着材料は酸化スズ系の蒸着材料であって、一酸化スズと二酸化スズとを含有し、酸素とスズの原子比(O/Sn)が1.0〜1.8であり、見掛け密度が1.5〜4.0g/cmである。一酸化スズおよび二酸化スズはいずれも昇華性の材料であって真空蒸着において蒸発材料として優れているが特に本発明の蒸着材料は蒸着材料からのスプラッシュを抑え、かつ蒸発速度を上げることができる。すなわち、一酸化スズと二酸化スズとを含有する蒸着材料の酸素とスズの原子比(O/Sn)を1.0〜1.8とし、見掛け密度を1.5〜4.0g/cmとしたため、スプラッシュが出にくく、かつ高速成膜可能な蒸着速度が得られ、安価で高性能なバリアフィルムを製造することができる。
【0023】
ここでスプラッシュとは、蒸着の際の加熱による熱衝撃や内部から発生するガスの圧力などにより、気化していない蒸着材料が、高温の微細な粒のまま飛散する現象である。スプラッシュの発生により、形成された蒸着膜にピンホールが生じてバリアフィルムとしての性能が出なかったり、微細な粒が異物として蒸着原反に混入することも有り得るため、スプラッシュ発生はできるだけ抑制することが好ましい。
【0024】
また、蒸着方式には抵抗加熱方式、誘導加熱方式、電子ビーム方式などある。特に電子ビーム(EB)方式では蒸着材料を局部的に急速に加熱でき、しかも蒸着材料の堆積速度をはやめ、そのため巻取蒸着加工速度を向上させて包装材料の生産性を高めることができる特徴があり、頻繁に用いられている。しかし電子ビームを直接材料に当てるため、材料が受ける熱衝撃が大きく、スプラッシュが一層発生しやすくなる問題がある。
【0025】
なお、本発明の蒸着材料におけるスズと酸素との原子比(O/Sn比)は、EDX(エネルギー分散型X線分析装置)により測定することができる。
【0026】
本発明では、少なくとも一酸化スズと二酸化スズとを含有し、スズと酸素との原子比(O/Sn比)を1.0〜1.8とし、見掛け密度を1.5〜4.0g/cmとすることでスプラッシュの発生を抑えることができる。
【0027】
酸化スズ系材料を少なくとも2種類混合するのは、各々単独で蒸着材料とするとバリア性、透明性、スプラッシュ、蒸発速度等を制御する点で使用が困難のためである。
一酸化スズ単体では、昇華性物質であるため蒸発速度は速いが、膜の透明性が低下し、所望のバリア性が得られにくい。また一酸化スズは比較的低温で昇華することから、巻き取り蒸着機で高速で大量に蒸発させる際には、緩やかに昇華せずに、材料全体から爆発的に一挙に蒸発し激しいスプラッシュを伴い、高速蒸発には不適である。
二酸化スズ単体では、同じく昇華性であるが、蒸発と同時に分解を伴い酸素ガスが多量に発生し成膜室の真空度が低下して生成されるバリア層のバリア性が低下する。この蒸発特性の異なる酸化スズ系材料を少なくとも2種を合わせることで、透明性、バリア性に優れ、スプラッシュ発生を抑制した、高速蒸発が可能な蒸着材料とした。
【0028】
本発明の蒸着材料は、上記酸化スズ系の材料に加えて、一酸化ケイ素あるいは金属ケイ素と二酸化ケイ素の混合物をさらに加えることができる。
昇華性の材料のみでは、昇華が進み材料残渣がスカスカのスポンジ状になり、スプラッシュの発生が増加することがある。シリカ系の材料を添加することでこの現象を抑制することが可能であることを見出した。すなわち蒸発過程において高温に過熱された材料は酸化スズと酸化ケイ素が反応しシリカ−スズガラスが微量に形成されることでスカスカの材料の溶融バインダーとなり、材料の再結合を促しスポンジ状の部分の発生自体を抑制するため、スプラッシュを抑制することができる。
【0029】
添加されるシリカ材料としては、一酸化ケイ素、および混合物が、残渣として過剰に残らず、酸化スズとともに蒸発させることができ適している。特にSn/Si(原子比)を3≦(Sn/Si)≦20とすることで高速蒸発時のスプラッシュを抑制でき好適である。
Sn/Si>20ではスプラッシュ抑制効果が少なく、Sn/Si<3ではガラス相生成が多すぎて、蒸発速度が低下したり、逆に溶融ガラスの突沸などによるスプラッシュが増加するため好ましくない。
【0030】
酸素とスズの原子比(O/Sn比)は混合する粉末の配合量、添加剤等によって調整が可能である。蒸着中においては、酸素とスズの原子比が高いほど脱ガスが多く真空度が低下する。また、酸素とスズの原子比が低いほど真空度は高いが、蒸着された膜が着色して透明性に劣る。また脱ガスが多くてもスプラッシュが出やすい傾向がある。そこで、蒸着材料のO/Sn比は1.0〜1.8の範囲であることが望ましい。同様にシリカ系材料を混合する場合においてもO/(Sn+Si)(原子比)として1.0〜1.8が望ましい。
【0031】
蒸着材料の見掛け密度は、選択する粉末の粒径のほか、粉末を成形体とする際の製造方法によって調整することができる。水等と混合してスラリー状とする場合は、水分との混合比により調整される。また、プレス法などで押し固める場合は、その圧力により調整される。また、バインダーとして添加剤を用いる場合には、添加剤が空隙に充填される分、密度が高くなる可能性が高い。しかし密度が高すぎると、電子ビームの熱衝撃に対して砕けやすく、また熱伝導性が高い為に材料が暖まりやすく、蒸発の制御がしにくい。逆に密度が低いと、電子ビームの熱衝撃に対して細かく飛び散りやすく、特に脆い場合は、それに加えて壊れやすい為に扱いが難しい。そのため、蒸着材料の見掛け密度は1.5〜4.0g/cmであることが望ましい。見掛け密度とは、蒸着材料の材料寸法および重量を測定し、g/cmへ単位換算することにより測定された値を意味する。
【0032】
本発明で製造されるガスバリアフィルムの構成の一例の断面模式図を図1に示す。ガスバリアフィルムは樹脂基材11の少なくとも片面に、蒸着材料を蒸着した蒸着層(ガスバリア層)12を有する。本発明のガスバリアフィルムにあっては、酸素とスズの原子比(O/Sn比)が1より大きく1.8未満であり、見掛け密度が1.5〜4.0g/cmである蒸着材料を用い、樹脂基材に蒸着材料を真空蒸着し、ガスバリア層を形成する蒸着工程によりガスバリア層が形成される。
【0033】
本願発明の蒸着材料の原料となる一酸化スズ、二酸化スズ、スズ、一酸化ケイ素、ケイ素と二酸化ケイ素は、市販の粉末状のものを使用できる。
このうちスズに関する原料については次のようなものが使用できる。
粉末の平均粒径は、100μm以下のものが好ましい。
粉末の平均粒径は、1μm〜50μmのものがさらに好ましい。
平均粒径が100μm以上1μm以下では成型体作製容易性や生産性が悪く、またスプラッシュが発生しやすくなるという点から好ましくない。
また、ケイ素に関する原料については、次のようなものが使用できる。
粉末の平均粒径は、75μm以下のものが好ましい。
粉末の平均粒径は、1μm〜50μmのものがさらに好ましい。
平均粒径が75μm以上、1μm以下では成型体などの作製容易性、均一性という点から好ましくない。
原料の純度については請求項1、2の関係を満たしていれば、特に問題とならない。ガスバリア層が所定の性能を満たすような純度の原料を使用すればよい。
【0034】
真空蒸着法としては、蒸着材料の加熱手段によって抵抗加熱方式、電子ビーム方式、高周波誘導方式、レーザー方式等を選択することができる。中でも、電子ビーム加熱方式の真空蒸着法が熱効率と生産性の点から好ましい。本願発明の蒸着材料を使用する製造装置は、通常使用される電子ビーム加熱方式の真空蒸着装置を使用できる。また、巻き取り装置を備えた前記装置を使用することが生産性の点から好ましい。
【0035】
本発明では、樹脂基材への蒸着材料の堆積速度が、500nm/分〜12000nm/分の高速成膜でおこなうことが好ましい。本発明の蒸着材料を用いることにより、堆積速度を500nm/分以上としても、スプラッシュの発生を抑制することができる。なお、蒸着速度の堆積速度が500nm/分に満たない場合にあっては本発明の効果を十分なものとすることができない。一方、堆積速度を12000nm/分とすることは装置上困難である。
【0036】
なお、蒸着工程においては、酸素ガスは導入しないことが好ましい。本発明においては、あらかじめ蒸着材料において酸素とスズの原子比(O/Sn比)を調整しているため、酸素ガスを導入する必要はない。蒸着工程において酸素ガスを導入しながら真空蒸着を行う場合には、蒸着工程において真空度が低下し透明で緻密な膜が形成されなくなる場合がある。また、製造条件が複雑になる傾向になる。本発明にあっては、蒸着工程において酸素ガスを導入する必要が無く、透明で緻密なガスバリア層を備えるガスバリアフィルムを容易に製造することができる。
電子ビームの出力は、所望の堆積速度になるように調整すればよい。
【0037】
本発明で樹脂基材としては、高分子樹脂からなるフィルム状のものが好ましく、さらに透明性を有することが好ましい。
樹脂基材の種類としては、ガスバリアフィルムとしての目的の物性を実現できるものであれば良い。たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、メチルメタアクリレート、ナイロンが挙げられる。
【0038】
これらの樹脂基材は、一軸延伸、二軸延伸を行ったものでも良い。また、樹脂の安定化等のために添加物が入っているものでも良い。
【0039】
樹脂基材上には、真空蒸着によりガスバリア層が形成され、ガスバリアフィルムとすることができる。ガスバリア層の膜厚としては、5nm以上200nmであることが好ましい。ガスバリア層の膜厚が5nmに満たない場合にあっては、十分なガスバリア性を発揮することができない場合がある。一方、ガスバリア層の膜厚が200nmを超える場合にあっては成膜後の後加工時にクラックなどが発生しバリア性が劣化する場合がある。
【0040】
また、本発明のガスバリアフィルムにおいては、さらに、樹脂基材の蒸着面を、蒸着前にコロナ放電処理、低温プラズマ処理などにより、表面の改質を行っても良い。樹脂表面をこのように処理することで、一般的に樹脂と蒸着層の密着性が改良される(向上する)ことが知られている。
【0041】
その他にも、樹脂基材と蒸着膜の密着性を良くするために、蒸着前の樹脂基材表面に下塗り層(アンカー層)を塗布・形成することも可能である。
【0042】
樹脂基材に蒸着層を形成したガスバリアフィルムの蒸着層側に、コーティングを施してもよい。また、蒸着層と反対側の樹脂基材面にコーティングを施しても良い。コーティングとは、ヒートシール用のシーラント層やラミネート層などの機能層をも含む。
【0043】
これらの下塗り層やコーティングの材料は、目的に適したものを適宜選択して適用することができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されない。
【実施例1】
【0045】
一酸化スズ粉末(平均粒径18μm)、二酸化スズ粉末(平均粒径4μm)をO/Sn比がO/Sn=1.5となるように混合し、この粉末をアルミナ製ルツボに充填して簡易油圧プレス機にて一軸プレスを施し、電気炉にて1200℃まで加熱処理を行い、実施例1の蒸着材料である成型体を作製した。
得られた成型体の見掛け密度は2.2g/cmであった。
【実施例2】
【0046】
実施例1の混合粉末に一酸化ケイ素粉末(平均粒径を10μm)を加え水、シリカゾルバインダー(日産化学製スノーテックスST−30)を加えスラリー化して、石膏型に流し込み、キャスト成型後900℃で焼成しブロック成型体を作製、実施例2の蒸着材料である成形体を得た。
【実施例3】
【0047】
実施例2の一酸化ケイ素に変えて金属ケイ素粉末(平均粒径を8μm)と二酸化ケイ素(平均粒径16μm)の混合粉末(O/Si=1.5となるように混合)をSn/Si=10/1になるように配合し、その他は実施例2と同様にして実施例3の蒸着材料である成形体を得た。
【0048】
(比較例1)
一酸化スズのみで、実施例1の製造方法により蒸着材料である成型体を作成した。
【0049】
(比較例2)
二酸化スズのみで、実施例1の製造方法により蒸着材料である成型体を作成した。
【0050】
(評価)
実施例1〜3及び比較例1〜2で作成した蒸着材料について、見掛け密度(かさ密度)を求めた結果を表1に示す。
【0051】
作成した各材料について、電子ビーム加熱方式の巻き取り式蒸着装置を用いて、実施例及び比較例の蒸着材料を、12μm厚のポリエステルフィルムに、堆積速度100nm/分、堆積速度1000nm/分で真空蒸着させ、膜厚約50nmのガスバリアフィルムを得た。
蒸着の際には蒸着装置への酸素供給は行わなかった。
電子ビームの出力は、前記堆積速度になるように調整した。
【0052】
これらの蒸着の際におけるスプラッシュ発生の有無、程度を成膜中に蒸着装置内部を観察することにより目視で確認した。
以下に評価基準を示す。
二重丸(◎)印:スプラッシュ発生がほとんど見られなかった
丸(○)印 :スプラッシュ発生がわずかに見られた
三角(△)印 :スプラッシュ発生がやや多く見られた
バツ(×)印 :スプラッシュ発生が頻繁に見られた
なお、成膜中にスプラッシュが発生したバリアフィルムにおいては、スプラッシュの程度に比例して光学的な欠陥検査装置を用いたピンホール検査でガスバリアフィルムにピンホールが確認された。
【0053】
次に、得られたガスバリアフィルムの水蒸気透過度(g/m・day)を水蒸気透過度測定装置(PERMATRAN 3/30、mocon社製)にて40℃、90%RHの雰囲気下で測定した。なお、ガスバリアフィルムの水蒸気透過度の測定にあっては、スプラッシュによるガスバリア層のピンホールの発生箇所を除いた部分において測定をおこなっている。
水蒸気透過度は値が低いほど、ガスバリア性が良いことを示す。
得られた結果を表1に示す。
【0054】
また、得られたガスバリアフィルムの透過率を分光光度計UV3100にて測定し350nm、550nmにおける透過率を表1に示す。
350nmは、生成した酸化スズ膜が黄色に着色していないかを確認するために測定した。550nmは可視光の中心波長として、透明性の判断のために測定した。
【0055】
【表1】

【0056】
表1及び製造方法からわかるように、実施例1〜3の蒸着材料はいずれも、高速成膜時においてもスプラッシュ発生が抑制され、透明性が高く、ガスバリア性の良好なガスバリアフィルムを製造できる蒸着材料であった。
一方、比較例1の一酸化スズのみの蒸着材料はスプラッシュが発生しやすく、また透明性に劣り、比較例2の二酸化スズのみの蒸着材料は高速では真空度が低下してバリア性が低下するとともに、スプラッシュも激しくなり不適であった。
比較例1、2の蒸着材料で成膜したガスバリアフィルムは、350nmでの透過率、ガスバリア性(水蒸気透過度)が、実施例1〜3に比べて悪いものであった。特に比較例1、2での高速成膜では、スプラッシュが多く発生し、蒸着膜の不良だけでなく、樹脂基材までもがスプラッシュで損傷を受けていた。
【符号の説明】
【0057】
11 樹脂基材
12 蒸着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化スズと一酸化スズを主成分とし、酸素とスズの原子比(O/Sn比)が1より大きく、1.8未満であり、見掛け密度が1.5〜4.0g/cmであることを特徴とする電子ビーム加熱方式用の蒸着材料。
【請求項2】
上記蒸着材料はさらに一酸化ケイ素あるいはケイ素と二酸化ケイ素の混合物のいずれかまたは両方を含有し、
酸素とスズ+ケイ素の原子比(O/(Si+Sn)比)が1以上1.8以下で、かつ、
スズとケイ素の原子比(Sn/Si比)が3以上20以下であることを特徴とする請求項1記載の蒸着材料。
【請求項3】
樹脂基材の少なくとも一方の面にガスバリア層を備えるガスバリアフィルムの製造方法であって、
請求項1または2に記載の蒸着材料を、酸素を供給せずに電子ビーム加熱方式によって樹脂基材に真空蒸着し、ガスバリア層を形成する蒸着工程を備えることを特徴とするガスバリアフィルム製造方法。
【請求項4】
前記蒸着工程が、堆積速度500nm/分〜12000nm/分で成膜しガスバリア層を形成することを特徴とする請求項3に記載のガスバリアフィルム製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−72456(P2012−72456A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218577(P2010−218577)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】