蓄圧式燃料噴射制御装置
【課題】圧力センサの異常時において、確実にリンプホーム走行を実行することができる蓄圧式燃料噴射制御装置を提供する。
【解決手段】複数の燃料噴射弁と、前記燃料噴射弁が接続されたコモンレールと、前記コモンレールに対して燃料を圧送する燃料供給ポンプと、前記コモンレール内の圧力を検出するための圧力センサと、電子制御要素の制御を行うための電子制御ユニットと、を備えた蓄圧式燃料噴射制御装置において、前記燃料噴射弁の背圧制御弁は、背圧制御室内の燃料を逃がすためのオリフィス通路を閉塞する制御弁体と、前記制御弁体を前記オリフィス通路側に付勢するバルブスプリングと、前記バルブスプリングの付勢力に抗して前記制御弁体をリフトさせるためのアクチュエータと、を備え、前記背圧制御弁が、前記コモンレール内の圧力を所定の緊急制御時圧力に維持可能な圧力維持機能を有する。
【解決手段】複数の燃料噴射弁と、前記燃料噴射弁が接続されたコモンレールと、前記コモンレールに対して燃料を圧送する燃料供給ポンプと、前記コモンレール内の圧力を検出するための圧力センサと、電子制御要素の制御を行うための電子制御ユニットと、を備えた蓄圧式燃料噴射制御装置において、前記燃料噴射弁の背圧制御弁は、背圧制御室内の燃料を逃がすためのオリフィス通路を閉塞する制御弁体と、前記制御弁体を前記オリフィス通路側に付勢するバルブスプリングと、前記バルブスプリングの付勢力に抗して前記制御弁体をリフトさせるためのアクチュエータと、を備え、前記背圧制御弁が、前記コモンレール内の圧力を所定の緊急制御時圧力に維持可能な圧力維持機能を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の気筒への燃料噴射制御を行うための蓄圧式燃料噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ディーゼルエンジン等の内燃機関への燃料噴射制御に用いられる装置として、コモンレール(蓄圧器)を備えた蓄圧式燃料噴射制御装置が広く知られている。この蓄圧式燃料噴射制御装置は、燃料タンク内の燃料を高圧ポンプ部に供給する低圧ポンプ部と、低圧ポンプ部により供給された燃料を加圧して圧送する高圧ポンプ部と、高圧ポンプ部により圧送される燃料を一時的に蓄積するコモンレールと、コモンレールから供給される燃料を内燃機関の気筒に向けて噴射する複数の燃料噴射弁と、燃料噴射弁等の電子制御要素の制御を行うための電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)とを備えている。
【0003】
このような蓄圧式燃料噴射制御装置において、燃料噴射圧力はコモンレール内の圧力(以下、「レール圧」と称する。)によって規定され、燃料噴射制御を精度良く実行するためには、レール圧を精度よく制御することが重要となる。レール圧を制御する方法の一つに、高圧ポンプ部の吐出流量を調節することでレール圧を制御する方法がある。通常、レール圧を制御する場合においては、コモンレールに備えられた圧力センサによって検出されるレール圧(以下、「実レール圧」と称する。)とレール圧の目標値(以下、「目標レール圧」と称する。)との差分に基づく閉ループ制御が実行される。
【0004】
ここで、電子制御ユニットは、要求噴射量に応じた燃料噴射が実行されるように、圧力センサのセンサ値を読み取りながら開弁時間を決定し、燃料噴射弁の通電制御を行っている。そのため、圧力センサが故障した場合には、燃料噴射制御を実行することが困難となる。そこで、非常時において、車両を不完全ながら継続走行又はリンプホームさせるのに必要な緊急制御時圧力にレール圧を維持することが可能な圧力維持機能を有する圧力安全弁をコモンレールに設けることが開示されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−156558号公報 (請求項6、段落[0020]〜[0021])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の圧力維持機能を有する圧力安全弁は、レール圧が開弁圧に到達したときに開弁し、その後は、制御弁体を開弁方向に付勢するレール圧と、制御弁体を閉弁方向に付勢するスプリング力及び燃料圧の総和と、のバランスによって、レール圧を緊急制御時圧力に維持可能に構成されている。しかしながら、上記のような圧力維持機能を有する圧力安全弁は、使用する燃料の粘性や温度によっては、高圧ポンプ部が低回転の状態において、高圧ポンプ部の吐出流量を最大にしても開弁しない領域ができてしまうおそれがあった。
【0007】
図16は、高圧ポンプ部の吐出流量が最大となるように調節したときのレール圧を示している。図16において、縦軸がレール圧(MPa)を示し、横軸がポンプ回転数(rpm)を示している。この図16に示すように、ポンプ回転数が高い領域においてはレール圧が上昇し、レール圧が圧力安全弁の開弁圧を超えたときに、レール圧が緊急制御時圧力まで低下する。
【0008】
しかしながら、ポンプ回転数が低い領域においては、高圧ポンプ部の吐出流量が不足するために、高圧ポンプ部の吐出流量を最大にした場合であっても、レール圧が圧力安全弁の開弁圧に到達しない場合が生じている。その結果、圧力センサが故障している場合には、いかなるレール圧を前提として燃料噴射弁の制御を実行してよいかを予測することができず、リンプホーム走行が困難となるおそれがあった。
【0009】
これに対して、圧力安全弁の開弁圧を下げることが考えられるが、圧力維持機能を有する圧力安全弁が一旦開弁すると、レール圧が二次緊急制御時圧力まで低下してしまうことから、圧力安全弁は非常時以外にはできる限り開弁しないようにしなければならない。そのために、基本的には、圧力安全弁の開弁圧を下げるという選択をとりづらい。
【0010】
通常、高圧ポンプ部は、内燃機関の駆動力によって駆動されるようになっているために、高圧ポンプ部の吐出流量を最大にしても圧力安全弁が開弁しない状態は、特に、内燃機関の回転数(以下、「機関回転数」と称する。)が低く設定されることの多い農機や建機等の産業用機械用の蓄圧式燃料噴射制御装置において見られることが多い。
【0011】
本発明の発明者らは、このような問題にかんがみて、燃料噴射弁に備えられた背圧制御弁に、レール圧を緊急制御時圧力に維持可能な圧力維持機能を持たせることによりこのような問題を解決できることを見出し、本発明を完成させたものである。すなわち、本発明は、圧力センサの異常時において、確実にリンプホーム走行を実行することができる蓄圧式燃料噴射制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、複数の燃料噴射弁と、前記燃料噴射弁が接続されたコモンレールと、前記コモンレールに対して燃料を圧送する燃料供給ポンプと、前記コモンレール内の圧力を検出するための圧力センサと、電子制御要素の制御を行うための電子制御ユニットと、を備えた蓄圧式燃料噴射制御装置において、前記燃料噴射弁は、噴射孔を有するノズルボディと、先端側で前記噴射孔を閉塞するノズルニードルと、前記ノズルニードルを前記噴射孔側とは反対側に付勢するノズルスプリングと、前記ノズルニードルの後端側に前記燃料の圧力を作用させるための背圧制御室と、前記背圧制御室内の燃料を燃料低圧側に逃がすための背圧制御弁と、を備え、前記背圧制御弁は、前記背圧制御室内の燃料を逃がすためのオリフィス通路を閉塞する制御弁体と、前記制御弁体を前記オリフィス通路側に付勢するバルブスプリングと、前記バルブスプリングの付勢力に抗して前記制御弁体をリフトさせるためのアクチュエータと、を備え、前記背圧制御弁が、前記コモンレール内の圧力を所定の緊急制御時圧力に維持可能な圧力維持機能を有することを特徴とする蓄圧式燃料噴射制御装置が提供され、上述した問題を解決することができる。
【0013】
本発明にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置は、燃料噴射弁に備えられた背圧制御弁に圧力維持機能を持たせることとしているために、圧力センサの異常時において、高圧ポンプ部の回転数が小さい場合であっても、レール圧を緊急制御時圧力に維持することを可能にすることができる。すなわち、従来の蓄圧式燃料噴射制御装置においては、燃料噴射が不要なときに燃料が噴射されることのないように、燃料噴射弁の背圧制御弁の開弁圧は、レール圧の制御範囲よりも相当高い圧力に設定されているが、本発明にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置においては、レール圧が通常の制御範囲よりも高い圧力になったときに背圧制御弁が開弁するように構成することとしている。したがって、本発明にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置は、コモンレールに設けられる圧力安全弁の有無にかかわらず、リンプホーム走行を確実に実行することができる。
【0014】
また、本発明の蓄圧式燃料噴射制御装置において、前記燃料噴射弁に対して燃料噴射指令が出されていない期間において、前記背圧制御弁が前記圧力維持機能により開弁する場合であっても、前記ノズルニードルがリフトしないように前記背圧制御弁の開弁圧を設定することが好ましい。
【0015】
このように背圧制御弁の開弁圧を設定することにより、燃料噴射弁の背圧制御弁に圧力維持機能を持たせた場合であっても、燃料噴射が不要なときに燃料が噴射されることを防ぐことができる。
【0016】
また、本発明の蓄圧式燃料噴射制御装置において、前記電子制御ユニットは、前記圧力センサの異常が検知された場合に、前記コモンレール内の圧力が前記緊急制御時圧力で維持されるように前記高圧ポンプ部からの吐出流量を開ループ制御することが好ましい。
【0017】
圧力センサの異常時にこのように制御を実行することにより、圧力センサに異常を生じている場合であっても、レール圧が緊急制御時圧力になっていることを前提に、目標燃料噴射量と実際の噴射量との誤差が小さい状態で、リンプホーム走行を実行することができる。
【0018】
また、本発明の蓄圧式燃料噴射制御装置において、前記コモンレールは、前記コモンレール内の圧力が所定の開弁圧に到達したときに開弁するとともにさらにその後の前記コモンレール内の圧力を所定の二次緊急制御時圧力に維持可能な圧力維持機能を有する圧力安全弁を備えており、前記背圧制御弁の開弁圧を、前記圧力安全弁の開弁圧よりも低くすることが好ましい。
【0019】
コモンレールに圧力安全弁を備えている場合において、背圧制御弁の開弁圧を圧力安全弁の開弁圧よりも低くすることにより、圧力センサの異常発生時に、燃料噴射弁の背圧制御弁から燃料の一部をリークさせながらレール圧を緊急制御時圧力に維持しつつ、さらに、燃料温度やポンプ回転数によって、レール圧が圧力安全弁の開弁圧に到達する程度に上昇した場合には、圧力安全弁の圧力規制機能によってレール圧を二次緊急制御時圧力に速やかに低下させることができる。そして、レール圧が二次緊急制御時圧力になっていることを前提として、燃料噴射制御を継続することができる。
【0020】
また、本発明の蓄圧式燃料噴射制御装置において、前記電子制御ユニットは、前記圧力センサの異常が検知された場合に、前記コモンレール内の圧力が前記緊急制御時圧力で維持されるように前記高圧ポンプ部からの吐出流量を開ループ制御するとともに、前記圧力安全弁が開弁したと推定された後は、前記コモンレール内の圧力が前記二次緊急制御時圧力で維持されるように前記高圧ポンプ部からの吐出量を開ループ制御することが好ましい。
【0021】
圧力センサの異常時にこのように制御を実行することにより、圧力センサに異常を生じて、燃料噴射弁の圧力維持機能によって緊急制御を実行している間に、さらにレール圧が上昇した場合においては、レール圧をさらに低下させた二次緊急制御時圧力に維持して、リンプホーム走行を実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置の全体的構成を説明するために示す図である。
【図2】燃料噴射弁の構成を説明するために示す図である。
【図3】燃料噴射弁の燃料リーク量とレール圧との関係を示す図である。
【図4】第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置における機関回転数に対するレール圧及び燃料噴射量の関係を示す図である。
【図5】従来の蓄圧式燃料噴射制御装置における機関回転数に対するレール圧及び燃料噴射量の関係を示す図である。
【図6】燃料噴射弁の通電時間と燃料噴射量との関係を示す図である。
【図7】第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置に備えられたECUの構成を示すブロック図である。
【図8】高圧ポンプ部の吐出流量を開ループで制御する場合の演算ロジックを説明するために示す図である。
【図9】第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置において実行される燃料噴射制御方法の一例を示すフローチャート図である。
【図10】高圧ポンプ部の吐出流量を閉ループで制御する方法の一例を示すフローチャート図である。
【図11】高圧ポンプ部の吐出流量を開ループで制御する方法の一例を示すフローチャート図である。
【図12】第2の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置の全体的構成を説明するために示す図である。
【図13】圧力安全弁の構成及び動作を説明するために示す図である。
【図14】第2の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置に備えられたECUの構成を示すブロック図である。
【図15】第2の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置において実行される燃料噴射制御方法の一例を示すフローチャート図である。
【図16】従来の圧力安全弁の圧力維持機能について説明するために示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の蓄圧式燃料噴射制御装置に関する実施の形態について、適宜図面を参照しながら具体的に説明する。
なお、それぞれの図中において、同じ符号が付されているものは、特に説明がない限り同一の構成要素を示しており、適宜説明が省略されている。
【0024】
[第1の実施の形態]
1.蓄圧式燃料噴射制御装置の全体的構成
図1は、第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10の全体的構成を概略的に示す図である。
この蓄圧式燃料噴射制御装置10は、車両に搭載された内燃機関に対して燃料を噴射するための装置として構成されている。蓄圧式燃料噴射制御装置10は、燃料タンク11内の燃料を高圧ポンプ部20へ供給する低圧ポンプ部13と、低圧ポンプ部13により供給された燃料を加圧して圧送する高圧ポンプ部20と、高圧ポンプ部20の吐出流量を調節する電磁式流量制御弁15と、高圧ポンプ部20により圧送された燃料を蓄積するコモンレール17と、図示しない内燃機関の気筒に向けてコモンレール17から供給された燃料を噴射する複数の燃料噴射弁50と、燃料噴射弁50や電磁式流量制御弁15等の電子制御要素の制御を実行する電子制御ユニット(以下、単に「ECU」と称する。)70とを備えている。
【0025】
このうち低圧ポンプ部13は、通電制御によって出力を調節可能に構成された電動ポンプや、内燃機関の駆動力を利用して機械的に駆動するギアポンプなど、従来公知の構成の低圧ポンプを適宜用いることができる。
【0026】
高圧ポンプ部20は、カム23が固定されたカムシャフトが内燃機関のクランクシャフトに連結されており、内燃機関の駆動力を利用して駆動されるポンプとして構成されている。この高圧ポンプ部20は、プランジャ25の下降時に、燃料吸入弁を介して、低圧の燃料を加圧室21に導入する。一方、高圧ポンプ部20は、カム23の回転によってプランジャ25が押し上げられたときに加圧室21内の燃料を加圧し、燃料吐出弁を介して、高圧の燃料をコモンレール17へと圧送する。高圧ポンプ部20を構成するプランジャ25の数や加圧室21の数は、特に限定されない。
【0027】
また、低圧ポンプ部13と高圧ポンプ部20の加圧室21とを結ぶ燃料通路31の途中には電磁式流量制御弁15が備えられている。この電磁式流量制御弁15は、ECU70によって通電制御が行われ、電流値に応じて燃料通過面積が比例的に変化する電磁比例制御弁として構成されている。電磁式流量制御弁15に供給する電流値を制御することにより、加圧室21に導入する燃料の流量が調節され、ひいては高圧ポンプ部20の吐出流量が調節される。本実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10において、電磁式流量制御弁15は、非通電時に燃料通過面積が最大となる、いわゆるノーマルオープン型の構造を有している。
【0028】
また、燃料通路31には、電磁式流量制御弁15よりも上流側において、オーバーフローバルブ27を備えたリターン通路35が接続されている。このオーバーフローバルブ27によって、高圧ポンプ部20に供給される燃料の圧力が所定のフィード圧に調節されるまた、燃料通路31には、燃料温度Tfの検出に用いる燃料温度センサ16が設けられている。燃料温度センサ16のセンサ信号はECU70によって読み取り可能に構成されている。
【0029】
コモンレール17には、圧力センサ18が設けられている。圧力センサ18は、コモンレール17内の圧力を検出するために用いられるセンサであって、センサ信号はECU70によって読み取り可能に構成されている。
【0030】
燃料噴射弁50は、アクチュエータとして電磁ソレノイドを備えた燃料噴射弁が用いられている。この燃料噴射弁50は、ECU70の通電制御により、開弁時期や開弁時間等が制御されるようになっている。この燃料噴射弁50からリークする燃料は、リターン通路37を介して燃料タンク11へと戻される。
【0031】
2.燃料噴射弁
(1)基本的構成
図2は、第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10に備えられた燃料噴射弁50の構成を概略的に表した断面図を示している。
この燃料噴射弁50は、インジェクタハウジング51と、ノズルボディ53と、ノズルニードル55と、バルブピストン57と、背圧制御弁60とを主たる構成要素として備えている。
【0032】
ノズルボディ53は、インジェクタハウジング51の先端側(図2の下側)に固定されている。インジェクタハウジング51には、コモンレール17から供給される高圧の燃料をノズルボディ53側へ送る第1の燃料通路67が形成されている。また、インジェクタハウジング51には、高圧の燃料を背圧制御室59に導入する第2の燃料通路68が、第1の燃料通路67から分岐して形成されている。
【0033】
ノズルボディ53には、ノズルニードル55の受圧部55Aに対向する部位に燃料溜まり室53Aが形成されている。また、ノズルボディ53には、インジェクタハウジング51の第1の燃料通路67に連通して、燃料溜まり室53Aに高圧燃料を導く第3の燃料通路69が形成されている。このノズルボディ53の先端部には噴射孔54が穿設されている。この噴射孔54につながるシート部53Bにノズルニードル55の先端部が着座(シート)することにより噴射孔54が閉鎖される一方、ノズルニードル55がシート部53Bから離座(リフト)することにより噴射孔54が開放される。これにより、燃料の噴射開始、停止が可能となっている。
【0034】
ノズルボディ53が固定されたインジェクタハウジング51内には、その中心軸を中心としたスプリング室51Bが形成されている。スプリング室51Bには、ノズルニードル55をシート部53Bの方向へ付勢するためのノズルスプリング56が配設されている。また、インジェクタハウジング51内においては、バルブピストン57がインジェクタハウジング51に形成された孔51A内に摺動可能に挿入されて、ノズルニードル55の上方部に位置するように配設されている。
【0035】
また、バルブピストン57の頂部57Aが位置する部位には背圧制御室59が形成されており、バルブピストン57の頂部57Aが下方側(噴射孔54側)から臨むようになっている。背圧制御室59は、導入側オリフィス通路59Bに連通している。この導入側オリフィス通路59Bは第2の燃料通路68に連通されている。これによって、コモンレール17から供給される高圧の燃料が背圧制御室59へ導入されるようになっている。
【0036】
背圧制御室59は開閉用オリフィス通路59Aにも連通しており、開閉用オリフィス通路59Aは後述する背圧制御弁60のバルブボール(制御弁体)64によって開閉可能となっている。なお、背圧制御室59におけるバルブピストン57の頂部57Aの受圧面積は、ノズルニードル55の受圧部55Aの受圧面積よりも大きく設定されている。
【0037】
また、背圧制御弁60は、電磁ソレノイド式の制御弁として構成されており、マグネット61と、アーマチュア62と、バルブボール64と、バルブスプリング65とを主たる構成要素として備えている。そして、マグネット61に対して制御回路から駆動信号が供給されることによってバルブスプリング65の付勢力に抗してアーマチュア62がマグネット61に吸引され、バルブボール64が開閉用オリフィス通路59Aからリフトし、背圧制御室59内の高圧の燃料をリターン通路37に開放できるようになっている。
【0038】
このようにバルブボール64を動作させることにより背圧制御室59内の圧力を制御し、バルブピストン57を介してノズルニードル55の後端側に作用する圧力を制御することで、シート部53Bへのノズルニードル55の着座及び離座を制御することができるようになっている。
【0039】
(2)圧力維持機能
ここで、第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10において、燃料噴射弁50の背圧制御弁60は、レール圧Prailを所定の緊急制御時圧力Pαに維持可能な圧力維持機能を有して構成されている。「圧力維持機能」は、圧力センサ18の異常等により、レール圧Prailを検出できなくなったときに、車両のリンプホーム走行を可能にするために、レール圧Prailを緊急制御時圧力Pαに維持することを可能とする機能である。具体的には、従来、ECU70による開弁指令が出されている時以外は開かないように設定されていた背圧制御弁60の開弁圧を下げて、レール圧Prailが通常の運転制御時の使用範囲よりも大きくすることにより、ECU70による開弁指令がない期間においても背圧制御弁60が開弁するように構成されている。
【0040】
図3は、燃料噴射弁50から燃料低圧側にリークする燃料リーク量(mm3/秒)と、レール圧(Mpa)との関係を示している。第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10の場合を実線で示し、従来の蓄圧式燃料噴射制御装置の場合を破線で示している。燃料噴射弁50からの燃料リークには、背圧制御弁60が開弁することによって生じる動的リークと、構成部品同士の間の微細な隙間から生じる静的リークとが含まれており、背圧制御弁60が開弁していない状態であっても極少量の燃料リークが発生している。
なお、ここでいう「従来の蓄圧式燃料噴射制御装置」とは、圧力維持機能を有する圧力安全弁がコモンレールに設けられている構成の蓄圧式燃料噴射制御装置を意味している。
【0041】
破線で示すように、従来の蓄圧式燃料噴射制御装置においては、レール圧Prailが一点差線で示す通常の運転状態での使用範囲を超えて上昇しても、リーク量がほとんど増加しない。すなわち、従来の蓄圧式燃料噴射制御装置においては、開弁指令が出されない限り、基本的には背圧制御弁が開弁しないようになっている。
【0042】
一方、実線で示すように、第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10においては、レール圧Prailが通常の使用範囲を超えると、リーク量が急激に増加する。すなわち、第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10においては、レール圧Prailが一点差線で示す通常の運転状態での使用範囲を超えると、開弁指令が出されていないにもかかわらず背圧制御弁60が開弁するようになっている。背圧制御弁60が開弁した後は、開弁前の状態と比べて、リーク量の増加率に対するレール圧Prailの上昇率が小さいため、レール圧Prailを目標値に調節することが比較的容易になる。
【0043】
第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10では、圧力センサ18の異常等が見られず、レール圧Prailを検出しながら正常に燃料噴射制御を実行できる期間においては、一点差線で示す領域にレール圧Prailを調節しながら燃料噴射制御を実行する。このときのレール圧Prailの調節は、実レール圧Pactと目標レール圧Ptgtとの差分ΔPに基づいて、電磁式流量制御弁15の操作量を閉ループ制御することによって実行される。
【0044】
一方、圧力センサ18の異常等によってレール圧Prailの検出が不可能な期間においては、点線で示す領域にレール圧Prailを調節しながら燃料噴射制御を実行する。第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10においては、この点線で示す領域内の圧力が緊急制御時圧力Pαであり、緊急制御時圧力αを一つの固定値とする必要はない。レール圧Prailの調節は、ポンプ回転数Npと相関関係にある機関回転数Neに応じて電磁式流量制御弁15の操作量を開ループ制御することによって実行される。
【0045】
(3)レール圧特性及び噴射量特性
次に、図4及び図5を参照して、第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10と従来の蓄圧式燃料噴射制御装置とにおける、高圧ポンプ部20の吐出流量の違いによるレール圧Prail及び燃料噴射量Qfの違いについて説明する。図4及び図5において、横軸は機関回転数Ne(r/min)を示しているが、ポンプ回転数は機関回転数に比例するため、機関回転数Neとポンプ回転数とは同義である。また、各機関回転数Neにおける高圧ポンプ部20の吐出流量は、電磁式流量制御弁15の操作量を変更することによって調節している。
なお、ここでいう「従来の蓄圧式燃料噴射制御装置」についても、圧力維持機能を有する圧力安全弁がコモンレールに設けられている構成の蓄圧式燃料噴射制御装置を意味している。
【0046】
図4(a)及び(b)は、従来の蓄圧式燃料噴射制御装置において、圧力センサに異常が生じたときに、レール圧Prailが圧力安全弁の開弁圧を超えない状態で、閉ループ制御をしないで開ループ制御でレール圧Prailを調節したときのレール圧Prail(MPa)及び燃料噴射量Qf(mm3/1ストローク)を示している。従来の蓄圧式燃料噴射制御装置においては、高圧ポンプ部の吐出流量が増加しても背圧制御弁からの燃料リーク量が極めて少ないままであることから(図3を参照)、高圧ポンプ部の吐出流量の違いによってレール圧Prailに大きな差が生じ、その結果、1ストローク当たりの燃料噴射量Qfに大きな差が生じている。
【0047】
これに対して、図5(a)及び(b)は、第1の実施の形態の蓄圧式燃料噴射制御装置10において、圧力センサ18に異常が生じたときに、閉ループ制御をしないで開ループ制御でレール圧Prailを調節したときのレール圧Prail(MPa)及び燃料噴射量Qf(mm3/1ストローク)を示している。第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10においては、高圧ポンプ部20からの吐出流量の増加に応じて燃料噴射弁50からの燃料リーク量も増加する一方、レール圧Prailが通常の使用範囲を超えた領域でのレール圧Prailの変動幅が小さいことから(図3を参照)、高圧ポンプ部20の吐出流量にかかわらず、レール圧Prailのばらつきは小さく、その結果、1ストローク当たりの燃料噴射量Qfのばらつきも小さく抑えられている。
【0048】
次に、図6を参照して、燃料噴射量特性についてさらに詳細に説明する。
図6は、燃料噴射弁50の通電時間(μ秒)と燃料噴射量Qf(mm3/st)との関係をレール圧Prailごとに示している。これらのデータは、ポンプ回転数を一定にした状態で、高圧ポンプ部20の吐出流量を変えることによってレール圧Prailを各目標圧力に維持しながら燃料噴射弁50に通電して、そのときに発生した燃料噴射量Qfを実験により測定したものである。また、図6に示す7つのデータのうち、圧力の大きい順に上から三番目までのデータは、背圧制御弁60の開弁圧よりも高いレール圧Prailとなっている。
【0049】
この図6に示すように、レール圧Prailが背圧制御弁60の開弁圧よりも大きいか小さいかにかかわらず、燃料噴射量Qfが、レール圧Prailと概ね相関を保って変化していることが理解できる。すなわち、背圧制御弁60の開弁圧を低下させた場合であっても、燃料噴射量特性を良好に維持できることを理解することができる。
【0050】
3.ECU(電子制御ユニット)
図7は、第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10に備えられたECU70の構成のうち、燃料噴射制御に関連する、高圧ポンプ部20の吐出流量を調節するための電磁式流量制御弁15の制御、及び、燃料噴射弁50の制御について機能的なブロックで表したものである。
【0051】
このECU70は、公知のマイクロコンピュータを中心に構成されたものであり、圧力センサ異常診断部71と、目標噴射量演算部73と、閉ループ制御部75と、開ループ制御部77と、流量制御弁駆動回路79と、燃料噴射弁制御部81と、燃料噴射弁駆動回路83とを主たる構成要素として備えている。具体的に、圧力センサ異常診断部71、目標噴射量演算部73、閉ループ制御部75、開ループ制御部77、燃料噴射弁制御部81は、マイクロコンピュータによるプログラムの実行によって実現されるものとなっている。
【0052】
また、ECU70は、RAMやROM等の記憶素子からなる図示しない記憶部を備えている。記憶部には、制御プログラム及び種々の演算マップがあらかじめ記憶されるとともに、上記した各部による演算結果等が書き込まれるようになっている。さらに、ECU70には、圧力センサ18をはじめとする種々のセンサのセンサ信号が入力されるようになっている。
【0053】
圧力センサ異常診断部71は、圧力センサ18のセンサ信号Spを用いて圧力センサ18の異常の有無を診断するように構成されている。この圧力センサ異常診断部71は、圧力センサ18が正常に機能しているか、すなわち、圧力センサ18によって検出されるレール圧Prailが信頼できるものであるかを診断できるようになっていれば、具体的な演算方法は限定されない。例えば、圧力センサ18の異常の有無は、センサ信号Spが断線を示す値となっているか否かによって診断することができる。
【0054】
目標噴射量演算部73は、内燃機関に噴射する目標燃料噴射量Qtgtを演算により求めるように構成されている。目標噴射量演算部73は、圧力センサ異常診断部71によって、圧力センサ18に異常を生じていないと診断されている場合においては、通常時噴射量マップを参照して、機関回転数Ne及びアクセル操作量Accに基づいて目標燃料噴射量Qtgtを求める。
【0055】
一方、目標噴射量演算部73は、圧力センサ異常診断部71によって、圧力センサ18に異常を生じていると診断された場合においては、通常時の目標燃料噴射量Qtgtよりも少ない値となるように目標燃料噴射量Qtgtを求めるようになっている。例えば、リンプホーム走行時用の噴射量マップを参照して、機関回転数Ne及びアクセル操作量Accに基づいて目標燃料噴射量Qtgtを求めるようにすることもできるし、通常時の目標燃料噴射量Qtgtに対して係数をかける等の補正を行うことによって目標燃料噴射量Qtgtを求めるようにすることもできる。
【0056】
閉ループ制御部75は、圧力センサ異常診断部71によって、圧力センサ18に異常を生じていないと診断されている場合において、電磁式流量制御弁15の通電量、すなわち、高圧ポンプ部20の吐出流量を、圧力センサ18によって検出される実レール圧Pactと目標レール圧Ptgtとの差分ΔPに基づいて閉ループ制御する。すなわち、圧力センサ18のセンサ値を用いてレール圧制御を実行できる間は、機関回転数Neやアクセル操作量Acc等の内燃機関の運転状態に応じてレール圧Prailを制御しようとするものとなっている。
【0057】
具体的に、第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10において、閉ループ制御部75は、目標燃料噴射量Qtgt及び燃料噴射弁50からの燃料リーク量Fbfの和からなる基本充填量に対して、実レール圧Pactと目標レール圧Ptgtとの差分ΔPに基づくフィードバック制御量を加減算することにより、高圧ポンプ部20からの目標吐出流量を決定し、流量−電流値マップを参照して、電磁式流量制御弁15の通電量の指示値を決定することとしている。このとき、燃料温度Tfによって燃料の粘度が変化し、レール圧Prailに影響を及ぼすことから、燃料温度によって目標吐出流量を補正するようにしてもよい。ただし、閉ループ制御の具体的な演算ロジックはこの例に限定されない。
【0058】
一方、開ループ制御部77は、圧力センサ異常診断部71によって、圧力センサ18に異常を生じていると診断された場合において、電磁式流量制御弁15の通電量、すなわち、高圧ポンプ部20の吐出流量を、目標燃料噴射量Qtgt及び機関回転数Neに基づいて開ループ制御する。すなわち、圧力センサ18のセンサ値を用いてレール圧制御を実行できない場合にはリンプホーム走行に入るため、目標噴射量演算部73で求められるリンプホーム走行用の目標燃料噴射量Qtgtと機関回転数Neに応じて、レール圧Prailを緊急制御時圧力Pαの狙った値に保持できるように、高圧ポンプ部20の吐出流量を調節しようとするものとなっている。
【0059】
具体的に、第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10において、開ループ制御部77は、目標燃料噴射量Qtgtと機関回転数Neとに基づいて、あらかじめ記憶部に格納された開ループ制御用吐出流量マップを参照して、高圧ポンプ部20の目標吐出流量を決定した後、流量−電流値マップを参照して、電磁式流量制御弁15の通電量の指示値を決定することとしている。
【0060】
図8は、開ループ制御を実行する際の演算ロジックの一例を示している。
この例においては、まず、機関回転数Neと目標燃料噴射量Qtgtとに基づいて、開ループ制御用吐出流量マップを参照して、基本目標吐出流量が求められる。開ループ制御用吐出流量マップは、リンプホーム走行時における目標燃料噴射量Qtgtと機関回転数Neとに応じて、基本目標吐出流量をあらかじめ設定したものとなっている。この基本目標吐出流量に対して、燃料温度Tfに応じた係数をかけることで、目標吐出流量が決定される。そして、流量−電流値マップを参照して、目標吐出流量に基づいて電磁式流量制御弁15の通電量の指示値が決定される。
【0061】
閉ループ制御部75又は開ループ制御部77によって求められた電磁式流量制御弁15の通電量の指示値は流量制御弁駆動回路79に送られ、さらに流量制御弁駆動回路79は、通電量の指示値にしたがって電磁式流量制御弁15に対して通電を行う。これによって、高圧ポンプ部20の吐出流量が変更され、レール圧Prailが調節される。
【0062】
燃料噴射弁制御部81は、レール圧Prailと目標燃料噴射量Qtgtとに基づいて燃料噴射弁50の通電時間を決定して、燃料噴射弁駆動回路83に対して通電指示を行う。燃料噴射弁制御部81は、圧力センサ異常診断部71によって、圧力センサ18に異常を生じていないと診断されている場合においては、圧力センサ18を用いて検出される実レール圧Pactと目標燃料噴射量Qtgtとに基づいて燃料噴射弁50の通電時間を決定する。
【0063】
一方、燃料噴射弁制御部81は、圧力センサ異常診断部71によって、圧力センサ18に異常を生じていると診断された場合においては、想定される緊急制御時圧力Pαと目標燃料噴射量Qtgtとに基づいて燃料噴射弁50の通電時間を決定する。想定される緊急制御時圧力Pαは、開ループ制御部77において高圧ポンプ部20の吐出流量を決定する際に用いる機関回転数Neと目標燃料噴射量Qtgtとによって想定することができるものである。したがって、燃料噴射弁制御部81は、圧力センサ18に異常を生じていると診断された場合においては、機関回転数Neと目標燃料噴射量Qtgtとに基づいて燃料噴射弁50の通電時間を決定する。
【0064】
燃料噴射弁駆動回路83は、燃料噴射弁制御部81から送られる通電指示にしたがって燃料噴射弁50に対して通電を行う。これによって、内燃機関の気筒に対して目標燃料噴射量Qtgtに応じた燃料噴射が行われる。
【0065】
4.燃料噴射制御方法
図9〜図11は、第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10において実行される燃料噴射制御方法の一例を説明するためのフローチャート図である。以下に説明する燃料噴射制御方法は、内燃機関の運転中に常時実行されるようになっていてもよいし、所定の時間間隔で割り込みによって実行されるようになっていてもよい。
【0066】
図9のステップS1において、ECU70は、圧力センサ18に異常を生じているか否かを判別する。圧力センサ18に異常を生じていない場合にはステップS2に進み、ECU70は通常運転モードを選択する一方、圧力センサ18に異常を生じている場合にはステップS7に進み、ECU70はリンプホームモードを選択する。
【0067】
ステップS2において通常運転モードを選択した場合、ECU70は、ステップS3において、機関回転数Ne及びアクセル操作量Accに基づき、通常時噴射量マップを参照して目標燃料噴射量Qtgtを演算により求める。次いで、ECU70は、ステップS4において、圧力センサ18のセンサ値を用いて実レール圧Pactを検出した後、ステップS5において、電磁式流量制御弁15の通電量を閉ループで制御する。
【0068】
図10は、ステップS5における閉ループ制御の一例を示している。
この例では、ECU70は、ステップS21において、目標燃料噴射量Qtgt及び燃料リーク量に基づいて基本充填量を演算により求める。また、ECU70は、ステップS22において、目標レール圧Ptgtと実レール圧Pactとの差分ΔPを求めた後、ステップS23において、差分ΔPに基づいて吐出流量のフィードバック制御量を演算により求める。
【0069】
次いで、ECU70は、ステップS24において、基本充填量にフィードバック制御量を加算して、目標吐出流量を求める。このとき、燃料温度Tfによって補正するようにしてもよい。次いで、ECU70は、ステップS25において、目標吐出流量に基づき、流量−電流値マップを参照して電磁式流量制御弁15の通電量の指示値を決定した後、ステップS26において、流量制御弁駆動回路79に対して指示信号を送る。これにより、圧力センサ18のセンサ値を用いた高圧ポンプ部20の吐出流量がフィードバック制御され、レール圧Prailが目標レール圧Pactとなるように制御される。
【0070】
次いで、ステップS6において、ECU70は、実レール圧Pactと目標燃料噴射量Qtgtとに基づいて通電時間を決定し、燃料噴射弁駆動回路83に対して指示信号を送る。これにより、通常運転モードにおいて、目標燃料噴射量Qtgtに相当する量の燃料が、内燃機関の気筒に向けて噴射される。
【0071】
一方、ステップS7において、リンプホームモードを選択した場合、ECU70は、ステップS8において、機関回転数Ne及びアクセル操作量Accに基づき、リンプホーム走行時用の噴射量マップを参照したり、あるいは、補正係数をかけたりする等して、リンプホーム走行時の目標燃料噴射量Qtgtを演算により求める。次いで、ECU70は、ステップS9において、電磁式流量制御弁15の通電量を開ループで制御する。
【0072】
図11は、ステップS9における開ループ制御の一例を示している。
この例では、ECU70は、ステップS31において、機関回転数Ne及び目標燃料噴射量Qtgtに基づき、開ループ制御用吐出流量マップを参照して高圧ポンプ部20の基本吐出流量を演算により求める。次いで、ECU70は、ステップS32において、燃料温度Tfに応じた補正係数を基本吐出流量にかけて目標吐出流量を求める。
【0073】
次いで、ECU70は、ステップS33において、目標吐出流量に基づき、流量−電流値マップを参照して電磁式流量制御弁15の通電量の指示値を決定した後、ステップS34において、流量制御弁駆動回路79に対して指示信号を送る。これにより、レール圧Prailが、機関回転数Ne及び目標燃料噴射量Qtgtに基づいて想定される緊急制御時圧力Pαに制御される。
【0074】
次いで、ステップS10において、ECU70は、想定される緊急制御時圧力Pαと目標燃料噴射量Qtgtとに基づいて通電時間を決定し、燃料噴射弁駆動回路83に対して指示信号を送る。これにより、リンプホームモードにおいて、目標燃料噴射量Qtgtに相当する量の燃料を、内燃機関の気筒に向けて噴射することができる。
【0075】
5.第1の実施の形態によって得られる効果
第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10は、燃料噴射弁50に備えられた背圧制御弁60に圧力維持機能を持たせることとしているために、圧力センサ18の異常時において、高圧ポンプ部20の回転数が小さい場合であっても、レール圧Prailを緊急制御時圧力Pαに維持することを可能にすることができる。したがって、第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10は、コモンレール17に圧力安全弁を備えていない場合であっても、圧力センサ18の異常時において、リンプホーム走行を確実に実行することができる。
【0076】
また、第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10においては、燃料噴射弁50に対して燃料噴射指令が出されていない期間において、背圧制御弁60が圧力維持機能により開弁する場合であっても、ノズルニードル55がリフトしないように背圧制御弁60の開弁圧を設定することとしている。このため、燃料噴射が不要なときに燃料が噴射されることを防ぐことができる。
【0077】
また、第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10においては、ECU70が、圧力センサ18の異常を検知した場合に、レール圧Prailが緊急制御時圧力Pαで維持されるように高圧ポンプ部20の吐出流量を開ループ制御することとしている。このため、圧力センサ18に異常を生じている場合であっても、レール圧Prailが緊急制御時圧力Pαになっていることを前提に、目標燃料噴射量Qtgtと実際の噴射量との誤差が小さい状態で、リンプホーム走行を実行することができる。
【0078】
[第2の実施の形態]
本発明の第2の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置は、コモンレールに圧力安全弁を備えている点で第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置と異なっている。
以下、第2の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置について、第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置とは異なる点を中心に説明する。
【0079】
1.蓄圧式燃料噴射制御装置の全体的構成
図12は、第2の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置100の全体的構成を概略的に示す図である。圧力安全弁110及び電子制御ユニット(ECU)120以外の構成要素については、第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置の場合と同様に構成することができるため、第1の実施の形態の説明で用いた符号をそのまま使用し、第2の実施の形態での説明を省略する。
【0080】
圧力安全弁110は、コモンレール17に設けられ、レール圧Prailが通常の使用範囲内にあるときには閉弁状態で維持される一方、レール圧Prailが通常の使用範囲を超えて上昇した場合に開弁し、その後のレール圧Prailを所定の二次緊急制御時圧力Pβに維持可能な圧力維持機能を有している。
【0081】
図13(a)〜(c)は、それぞれ圧力安全弁110の軸方向断面図を示している。
圧力安全弁110のハウジング111には、一端側が開口するスプリング室111aが形成されている。スプリング室111aにはスプリング119が備えられている。このハウジング111の一端側には、スプリング室111aを塞ぐようにバルブボディ113が嵌合されている。
【0082】
バルブボディ113には、大径内孔113a、ガイド孔113b、燃料通過ポート113cが軸方向に連通して設けられている。大径内孔113aには、スプリング119の一端を押さえるスプリングシート117が軸方向移動可能に収容されている。ガイド孔113bには、複数のスリット115aが設けられた弁体115が軸方向移動可能に配置されている。
【0083】
図13(a)は、圧力安全弁110の閉弁状態を示している。圧力安全弁110が閉弁した状態では、スプリング119の付勢力及びスプリング室111a内の圧力の総和が、レール圧Prailよりも大きく、弁体115がバルブボディ113にシートした状態となっている。
【0084】
レール圧Prailが上昇すると、レール圧Prailが、スプリング119の付勢力及びスプリング室111a内の圧力を上回り、弁体115及びスプリングシート117がスプリング119側に移動する。そうすると、弁体115のスリット115aを介して、コモンレール17内の燃料が大径内孔113a内に流入し、その燃料はさらにスプリングシート117に設けられた燃料通過孔117aを介してスプリング室111aに流入する。これにより、レール圧Prailは徐々に低下する。
【0085】
燃料の流入によってスプリング室111a内の圧力が徐々に上昇すると、スプリング119の付勢力及びスプリング室111a内の圧力の総和と、レール圧Prailとがつり合う状態となって、図13(c)に示すように、スプリングシート117が所定の位置に保持される状態となる。この状態では、スプリング室111a内に流入する燃料と同量の燃料が、ハウジング111に設けられた燃料排出孔111bから低圧側に流出する状態になる。これによって、レール圧Prailは、二次緊急制御時圧力Pβに保持されることとなる。
【0086】
ここで、第2の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置100において、圧力安全弁110の開弁圧が、燃料噴射弁50の背圧制御弁60の開弁圧よりも高く設定されている。すなわち、レール圧Prailが通常の使用範囲を超えて上昇したときに、一次的には、背圧制御弁60の圧力維持機能によって、レール圧Prailが緊急制御時圧力Pαに保持されて、リンプホーム走行が可能になる。
【0087】
ただし、燃料温度Tfが著しく高い状態で、かつ、機関回転数Neが比較的大きいような場合には、さらにレール圧Prailが緊急制御時圧力Pαを超えて上昇するおそれがある。そのため、このような場合には、圧力安全弁110が開弁したものと推定されることから、レール圧Prailが二次緊急制御時圧力Pβになっていることを前提としてリンプホーム走行を実行する。
【0088】
圧力安全弁110が開弁した後に保持される二次緊急制御時圧力Pβは、背圧制御弁60によって保持可能な緊急制御時圧力Pαよりも低い値となるように設定されている。したがって、圧力安全弁110が一旦開弁した後は、レール圧Prailが二次緊急制御時圧力Pβよりも大きくなることがない。
【0089】
2.電子制御ユニット(ECU)
図14は、第2の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置100に備えられたECU120の構成のうち、燃料噴射制御に関連する、高圧ポンプ部20の吐出流量を調節するための電磁式流量制御弁15の制御、及び、燃料噴射弁50の制御について機能的なブロックで表したものである。
【0090】
このECU120は、公知のマイクロコンピュータを中心に構成されたものであり、圧力センサ異常診断部71と、圧力安全弁開弁状態推定部121と、目標噴射量演算部73と、閉ループ制御部75と、開ループ制御部123と、流量制御弁駆動回路79と、燃料噴射弁制御部125と、燃料噴射弁駆動回路83とを主たる構成要素として備えている。具体的に、圧力センサ異常診断部71、圧力安全弁開弁状態推定部121、目標噴射量演算部73、閉ループ制御部75、開ループ制御部123、燃料噴射弁制御部125は、マイクロコンピュータによるプログラムの実行によって実現されるものとなっている。
【0091】
また、ECU120は、RAMやROM等の記憶素子からなる図示しない記憶部を備えている。記憶部には、制御プログラム及び種々の演算マップがあらかじめ記憶されるとともに、上記した各部による演算結果等が書き込まれるようになっている。さらに、ECU120には、圧力センサ18をはじめとする種々のセンサのセンサ信号が入力されるようになっている。
【0092】
ECU120のうち、圧力センサ異常診断部71、目標噴射量演算部73、閉ループ制御部75、流量制御弁駆動回路79、燃料噴射弁駆動回路83については、第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10の場合と同様に構成されている。
【0093】
一方、圧力安全弁開弁状態推定部121は、圧力センサ異常診断部71によって、圧力センサ18に異常を生じていると診断された後の期間において、圧力安全弁110が開弁したか否かを推定する。具体的には、あらかじめ実験等によって、燃料噴射弁50の背圧制御弁60の圧力維持機能を利用した一次的なリンプホーム走行中であっても、圧力安全弁110が開弁する燃料温度Tf及び機関回転数Neの値を求めておき、検出される燃料温度Tf及び機関回転数Neに基づいて、圧力安全弁110が開弁したか否かを判定する。
【0094】
開ループ制御部123は、圧力センサ異常診断部71によって、圧力センサ18に異常を生じていると診断された場合においては、まず、一次的に、第1の実施の形態において説明したように、背圧制御弁60の圧力維持機能を利用して、電磁式流量制御弁15の通電量、すなわち、高圧ポンプ部20の吐出流量を、目標燃料噴射量Qtgt及び機関回転数Neに基づいて開ループ制御する(図8を参照)。これにより、レール圧Prailは、緊急制御時圧力Pαで維持されるようになる。
【0095】
また、開ループ制御部123は、圧力安全弁開弁状態推定部121によって、圧力安全弁110が開弁したと推定された場合には、高圧ポンプ部20の吐出流量が最大となるように、電磁式流量制御弁15を全開とするよう、流量制御弁駆動回路79に対して通電指示を行う。これ以降、レール圧Prailは、二次緊急制御時圧力Pβで保持されるようになる。
【0096】
燃料噴射弁制御部125は、圧力センサ異常診断部71によって、圧力センサ18に異常を生じていないと診断されている場合においては、圧力センサ18を用いて検出される実レール圧Pactと目標燃料噴射量Qtgtとに基づいて燃料噴射弁50の通電時間を決定する。また、燃料噴射弁制御部125は、圧力センサ異常診断部71によって、圧力センサ18に異常を生じていると診断された場合であって、かつ、圧力安全弁開弁状態推定部121によって、圧力安全弁110が開弁したとは判定されていない場合には、想定される緊急制御時圧力Pαと目標燃料噴射量Qtgtとに基づいて燃料噴射弁50の通電時間を決定する。ここまでは、第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10の場合と同様である。
【0097】
一方、燃料噴射弁制御部125は、圧力センサ異常診断部71によって、圧力センサ18に異常を生じていないと診断されている場合であって、かつ、圧力安全弁開弁状態推定部121によって、圧力安全弁110が開弁したと判定された場合には、二次緊急制御時圧力Pβと目標燃料噴射量Qtgtとに基づいて燃料噴射弁50の通電時間を決定する。
【0098】
すなわち、圧力センサ18に異常を生じていない期間においては、圧力センサ18を用いて検出される実レール圧Prailを用いる一方、圧力センサ18によって検出される実レール圧Prailに信頼性がない場合においては、圧力安全弁110が開弁するまでは燃料噴射弁50の背圧制御弁60の圧力維持機能によって想定される緊急制御時圧力Pαを用い、さらに、圧力安全弁110が開弁した後は圧力安全弁110の圧力維持機能によって得られる二次緊急制御時圧力Pβを用いて、燃料噴射弁50の通電制御が実行される。その結果、圧力センサ18の異常時において、目標燃料噴射量Qtgtと実際の噴射量との誤差が小さい状態で、確実にリンプホーム走行を実行することができる。
【0099】
3.燃料噴射制御方法
図15は、第2の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置100において実行される燃料噴射制御方法の一例を説明するためのフローチャート図である。第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置の場合と同様に、以下に説明する燃料噴射制御方法は、内燃機関の運転中に常時実行されるようになっていてもよいし、所定の時間間隔で割り込みによって実行されるようになっていてもよい。
【0100】
図15のフローチャート図中、ステップS1〜ステップS10までの各ステップは、第1の実施の形態にかかる燃料噴射制御方法の場合と同様の手順に沿って実行することができる(図9〜図11を参照)。第2の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置100では、ステップS11〜ステップS15の各工程が設けられている点で、第1の実施の形態にかかる燃料噴射制御方法とは異なっている。
【0101】
圧力センサ18に異常を生じていると判定され(ステップS1)、リンプホームモードが選択されて、リンプホーム時の目標燃料噴射量Qtgtが求められた後、ECU120は、ステップS11において、圧力安全弁110の開弁ステータスがオフの状態であるか否かを判別する。この時点ですでに圧力安全弁110が開弁している場合には、開弁ステータスがオンの状態となっている。圧力安全弁110の開弁ステータスがオフの状態であれば(Yes判定)、次に、ステップS12に進み、ECU120は、圧力安全弁110が閉弁状態であるか否かを推定する。具体的に、ECU120は、燃料温度Tf及び機関回転数Neを読み込み、推定されるレール圧Prailが圧力安全弁110の開弁圧を超えているか否かを演算によって判定する。
【0102】
ステップS12において、圧力安全弁110が閉弁状態で維持されていると判定された場合(Yes判定)には、以降のステップS9〜ステップS10で、第1の実施の形態で説明した手順に沿って、電磁式流量制御弁15を開ループで制御しながら、緊急制御時圧力Pα及び目標燃料噴射量Qtgtに基づいて燃料噴射弁50の駆動制御を実行する。これにより、リンプホームモードにおいて、目標燃料噴射量Qtgtに相当する量の燃料を、内燃機関の気筒に向けて噴射することができる。
【0103】
一方、ステップS12において、圧力安全弁110が開弁状態であると判定された場合(No判定)には、ECU120は、ステップS13に進んで圧力安全弁110の開弁ステータスをオンにした後、ステップS14に進み、電磁式流量制御弁15を全開の状態で固定するように指示を出力する。次いで、ECU120は、二次緊急制御時圧力Pβ及び目標燃料噴射量Qtgtに基づいて燃料噴射弁50の通電時間を求めて、駆動制御を実行する。
【0104】
上述したステップS11において、圧力安全弁110の開弁ステータスがすでにオンの状態である場合には(No判定)、すでに電磁式流量制御弁15が全開にされ、レール圧Prailが二次緊急制御時圧力Pβで保持されていることから、そのままステップS15に進み、二次緊急制御時圧力Pβ及び目標燃料噴射量Qtgtに基づいて燃料噴射弁50の駆動制御を実行する。これにより、リンプホームモードにおいて、レール圧Prailが著しく上昇した場合であっても、目標燃料噴射量Qtgtに相当する量の燃料を、内燃機関の気筒に向けて噴射することができる。
【0105】
4.第2の実施の形態によって得られる効果
第2の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置100は、燃料噴射弁50に備えられた背圧制御弁60に圧力維持機能を持たせることとしているために、第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置の場合と同様の効果を得ることができる。
【0106】
さらに、第2の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置100においては、コモンレール17に圧力安全弁110を備えることとしている。また、圧力安全弁110の開弁圧が、燃料噴射弁50の背圧制御弁60の開弁圧よりも大きくなるように設定されている。このため、圧力センサ18の異常を生じた場合において、一次的には、燃料噴射弁50の背圧制御弁60の圧力維持機能を利用してレール圧Prailを緊急制御時圧力Pαに調節できる一方、さらにレール圧Prailが上昇する状態となった場合においては、二次的に、圧力安全弁110の圧力維持機能を利用してレール圧Prailを速やかに二次緊急制御時圧力Pβに低下させることができる。そして、レール圧Prailが二次緊急制御時圧力Pβになっていることを前提として、燃料噴射制御を継続することができる。したがって、圧力センサ18の異常を生じた場合に、確実にリンプホーム走行を実行することができるようになる。
【0107】
[他の実施の形態]
以上説明した第1及び第2の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置は、本発明の一態様を示すものであってこの発明を限定するものではなく、それぞれの実施の形態は本発明の範囲内で任意に変更することが可能である。第1及び第2の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置は、例えば、以下のように変更することができる。
【0108】
(1)上述した第1及び第2の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置において説明した各構成要素や、設定値、設定条件はあくまでも一例であって、任意に変更することが可能である。例えば、上述した第1及び第2の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置においては、ノーマルオープン型の電磁式流量制御弁を用いているが、いわゆるノーマルクローズ型の電磁式流量制御弁を用いた場合であっても、本発明を適用することが可能である。
【0109】
(2)上述した第1及び第2の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置において説明した燃料噴射制御方法のフローチャート図はあくまでも一例であって、各ステップの順序を適宜入れ替えることができ、また、各ステップにおける具体的な演算方法についても適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0110】
10:蓄圧式燃料噴射制御装置、11:燃料タンク、13:低圧ポンプ部、15:電磁式流量制御弁、16:燃料温度センサ、17:コモンレール、18:圧力センサ、20:高圧ポンプ部、21:加圧室、23:カム、25:プランジャ、27:オーバーフローバルブ、31:燃料通路、35:リターン通路、37:リターン通路、50:燃料噴射弁、51:インジェクタハウジング、51A:孔、51B:スプリング室、53:ノズルボディ、53A:燃料溜まり室、53B:シート部、54:噴射孔、55:ノズルニードル、55A:受圧部、56:ノズルスプリング、57:バルブピストン、57A:頂部、59:背圧制御室、59A:開閉用オリフィス通路、59B:導入側オリフィス通路、60:背圧制御弁、61:マグネット、62:アーマチュア、64:バルブボール(制御弁体)、65:バルブスプリング、67:第1の燃料通路、68:第2の燃料通路、69:第3の燃料通路、70:電子制御ユニット(ECU)、71:圧力センサ異常診断部、73:目標噴射量演算部、75:閉ループ制御部、77:開ループ制御部、79:流量制御弁駆動回路、81:燃料噴射弁制御部、83:燃料噴射弁駆動回路、100:蓄圧式燃料噴射制御装置、110:圧力安全弁、111:ハウジング、113:バルブボディ、115:弁体、117:スプリングシート、119:スプリング、120:電子制御ユニット(ECU)、121:圧力安全弁開弁状態推定部、123:開ループ制御部、125:燃料噴射弁制御部
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の気筒への燃料噴射制御を行うための蓄圧式燃料噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ディーゼルエンジン等の内燃機関への燃料噴射制御に用いられる装置として、コモンレール(蓄圧器)を備えた蓄圧式燃料噴射制御装置が広く知られている。この蓄圧式燃料噴射制御装置は、燃料タンク内の燃料を高圧ポンプ部に供給する低圧ポンプ部と、低圧ポンプ部により供給された燃料を加圧して圧送する高圧ポンプ部と、高圧ポンプ部により圧送される燃料を一時的に蓄積するコモンレールと、コモンレールから供給される燃料を内燃機関の気筒に向けて噴射する複数の燃料噴射弁と、燃料噴射弁等の電子制御要素の制御を行うための電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)とを備えている。
【0003】
このような蓄圧式燃料噴射制御装置において、燃料噴射圧力はコモンレール内の圧力(以下、「レール圧」と称する。)によって規定され、燃料噴射制御を精度良く実行するためには、レール圧を精度よく制御することが重要となる。レール圧を制御する方法の一つに、高圧ポンプ部の吐出流量を調節することでレール圧を制御する方法がある。通常、レール圧を制御する場合においては、コモンレールに備えられた圧力センサによって検出されるレール圧(以下、「実レール圧」と称する。)とレール圧の目標値(以下、「目標レール圧」と称する。)との差分に基づく閉ループ制御が実行される。
【0004】
ここで、電子制御ユニットは、要求噴射量に応じた燃料噴射が実行されるように、圧力センサのセンサ値を読み取りながら開弁時間を決定し、燃料噴射弁の通電制御を行っている。そのため、圧力センサが故障した場合には、燃料噴射制御を実行することが困難となる。そこで、非常時において、車両を不完全ながら継続走行又はリンプホームさせるのに必要な緊急制御時圧力にレール圧を維持することが可能な圧力維持機能を有する圧力安全弁をコモンレールに設けることが開示されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−156558号公報 (請求項6、段落[0020]〜[0021])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の圧力維持機能を有する圧力安全弁は、レール圧が開弁圧に到達したときに開弁し、その後は、制御弁体を開弁方向に付勢するレール圧と、制御弁体を閉弁方向に付勢するスプリング力及び燃料圧の総和と、のバランスによって、レール圧を緊急制御時圧力に維持可能に構成されている。しかしながら、上記のような圧力維持機能を有する圧力安全弁は、使用する燃料の粘性や温度によっては、高圧ポンプ部が低回転の状態において、高圧ポンプ部の吐出流量を最大にしても開弁しない領域ができてしまうおそれがあった。
【0007】
図16は、高圧ポンプ部の吐出流量が最大となるように調節したときのレール圧を示している。図16において、縦軸がレール圧(MPa)を示し、横軸がポンプ回転数(rpm)を示している。この図16に示すように、ポンプ回転数が高い領域においてはレール圧が上昇し、レール圧が圧力安全弁の開弁圧を超えたときに、レール圧が緊急制御時圧力まで低下する。
【0008】
しかしながら、ポンプ回転数が低い領域においては、高圧ポンプ部の吐出流量が不足するために、高圧ポンプ部の吐出流量を最大にした場合であっても、レール圧が圧力安全弁の開弁圧に到達しない場合が生じている。その結果、圧力センサが故障している場合には、いかなるレール圧を前提として燃料噴射弁の制御を実行してよいかを予測することができず、リンプホーム走行が困難となるおそれがあった。
【0009】
これに対して、圧力安全弁の開弁圧を下げることが考えられるが、圧力維持機能を有する圧力安全弁が一旦開弁すると、レール圧が二次緊急制御時圧力まで低下してしまうことから、圧力安全弁は非常時以外にはできる限り開弁しないようにしなければならない。そのために、基本的には、圧力安全弁の開弁圧を下げるという選択をとりづらい。
【0010】
通常、高圧ポンプ部は、内燃機関の駆動力によって駆動されるようになっているために、高圧ポンプ部の吐出流量を最大にしても圧力安全弁が開弁しない状態は、特に、内燃機関の回転数(以下、「機関回転数」と称する。)が低く設定されることの多い農機や建機等の産業用機械用の蓄圧式燃料噴射制御装置において見られることが多い。
【0011】
本発明の発明者らは、このような問題にかんがみて、燃料噴射弁に備えられた背圧制御弁に、レール圧を緊急制御時圧力に維持可能な圧力維持機能を持たせることによりこのような問題を解決できることを見出し、本発明を完成させたものである。すなわち、本発明は、圧力センサの異常時において、確実にリンプホーム走行を実行することができる蓄圧式燃料噴射制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、複数の燃料噴射弁と、前記燃料噴射弁が接続されたコモンレールと、前記コモンレールに対して燃料を圧送する燃料供給ポンプと、前記コモンレール内の圧力を検出するための圧力センサと、電子制御要素の制御を行うための電子制御ユニットと、を備えた蓄圧式燃料噴射制御装置において、前記燃料噴射弁は、噴射孔を有するノズルボディと、先端側で前記噴射孔を閉塞するノズルニードルと、前記ノズルニードルを前記噴射孔側とは反対側に付勢するノズルスプリングと、前記ノズルニードルの後端側に前記燃料の圧力を作用させるための背圧制御室と、前記背圧制御室内の燃料を燃料低圧側に逃がすための背圧制御弁と、を備え、前記背圧制御弁は、前記背圧制御室内の燃料を逃がすためのオリフィス通路を閉塞する制御弁体と、前記制御弁体を前記オリフィス通路側に付勢するバルブスプリングと、前記バルブスプリングの付勢力に抗して前記制御弁体をリフトさせるためのアクチュエータと、を備え、前記背圧制御弁が、前記コモンレール内の圧力を所定の緊急制御時圧力に維持可能な圧力維持機能を有することを特徴とする蓄圧式燃料噴射制御装置が提供され、上述した問題を解決することができる。
【0013】
本発明にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置は、燃料噴射弁に備えられた背圧制御弁に圧力維持機能を持たせることとしているために、圧力センサの異常時において、高圧ポンプ部の回転数が小さい場合であっても、レール圧を緊急制御時圧力に維持することを可能にすることができる。すなわち、従来の蓄圧式燃料噴射制御装置においては、燃料噴射が不要なときに燃料が噴射されることのないように、燃料噴射弁の背圧制御弁の開弁圧は、レール圧の制御範囲よりも相当高い圧力に設定されているが、本発明にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置においては、レール圧が通常の制御範囲よりも高い圧力になったときに背圧制御弁が開弁するように構成することとしている。したがって、本発明にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置は、コモンレールに設けられる圧力安全弁の有無にかかわらず、リンプホーム走行を確実に実行することができる。
【0014】
また、本発明の蓄圧式燃料噴射制御装置において、前記燃料噴射弁に対して燃料噴射指令が出されていない期間において、前記背圧制御弁が前記圧力維持機能により開弁する場合であっても、前記ノズルニードルがリフトしないように前記背圧制御弁の開弁圧を設定することが好ましい。
【0015】
このように背圧制御弁の開弁圧を設定することにより、燃料噴射弁の背圧制御弁に圧力維持機能を持たせた場合であっても、燃料噴射が不要なときに燃料が噴射されることを防ぐことができる。
【0016】
また、本発明の蓄圧式燃料噴射制御装置において、前記電子制御ユニットは、前記圧力センサの異常が検知された場合に、前記コモンレール内の圧力が前記緊急制御時圧力で維持されるように前記高圧ポンプ部からの吐出流量を開ループ制御することが好ましい。
【0017】
圧力センサの異常時にこのように制御を実行することにより、圧力センサに異常を生じている場合であっても、レール圧が緊急制御時圧力になっていることを前提に、目標燃料噴射量と実際の噴射量との誤差が小さい状態で、リンプホーム走行を実行することができる。
【0018】
また、本発明の蓄圧式燃料噴射制御装置において、前記コモンレールは、前記コモンレール内の圧力が所定の開弁圧に到達したときに開弁するとともにさらにその後の前記コモンレール内の圧力を所定の二次緊急制御時圧力に維持可能な圧力維持機能を有する圧力安全弁を備えており、前記背圧制御弁の開弁圧を、前記圧力安全弁の開弁圧よりも低くすることが好ましい。
【0019】
コモンレールに圧力安全弁を備えている場合において、背圧制御弁の開弁圧を圧力安全弁の開弁圧よりも低くすることにより、圧力センサの異常発生時に、燃料噴射弁の背圧制御弁から燃料の一部をリークさせながらレール圧を緊急制御時圧力に維持しつつ、さらに、燃料温度やポンプ回転数によって、レール圧が圧力安全弁の開弁圧に到達する程度に上昇した場合には、圧力安全弁の圧力規制機能によってレール圧を二次緊急制御時圧力に速やかに低下させることができる。そして、レール圧が二次緊急制御時圧力になっていることを前提として、燃料噴射制御を継続することができる。
【0020】
また、本発明の蓄圧式燃料噴射制御装置において、前記電子制御ユニットは、前記圧力センサの異常が検知された場合に、前記コモンレール内の圧力が前記緊急制御時圧力で維持されるように前記高圧ポンプ部からの吐出流量を開ループ制御するとともに、前記圧力安全弁が開弁したと推定された後は、前記コモンレール内の圧力が前記二次緊急制御時圧力で維持されるように前記高圧ポンプ部からの吐出量を開ループ制御することが好ましい。
【0021】
圧力センサの異常時にこのように制御を実行することにより、圧力センサに異常を生じて、燃料噴射弁の圧力維持機能によって緊急制御を実行している間に、さらにレール圧が上昇した場合においては、レール圧をさらに低下させた二次緊急制御時圧力に維持して、リンプホーム走行を実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置の全体的構成を説明するために示す図である。
【図2】燃料噴射弁の構成を説明するために示す図である。
【図3】燃料噴射弁の燃料リーク量とレール圧との関係を示す図である。
【図4】第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置における機関回転数に対するレール圧及び燃料噴射量の関係を示す図である。
【図5】従来の蓄圧式燃料噴射制御装置における機関回転数に対するレール圧及び燃料噴射量の関係を示す図である。
【図6】燃料噴射弁の通電時間と燃料噴射量との関係を示す図である。
【図7】第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置に備えられたECUの構成を示すブロック図である。
【図8】高圧ポンプ部の吐出流量を開ループで制御する場合の演算ロジックを説明するために示す図である。
【図9】第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置において実行される燃料噴射制御方法の一例を示すフローチャート図である。
【図10】高圧ポンプ部の吐出流量を閉ループで制御する方法の一例を示すフローチャート図である。
【図11】高圧ポンプ部の吐出流量を開ループで制御する方法の一例を示すフローチャート図である。
【図12】第2の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置の全体的構成を説明するために示す図である。
【図13】圧力安全弁の構成及び動作を説明するために示す図である。
【図14】第2の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置に備えられたECUの構成を示すブロック図である。
【図15】第2の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置において実行される燃料噴射制御方法の一例を示すフローチャート図である。
【図16】従来の圧力安全弁の圧力維持機能について説明するために示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の蓄圧式燃料噴射制御装置に関する実施の形態について、適宜図面を参照しながら具体的に説明する。
なお、それぞれの図中において、同じ符号が付されているものは、特に説明がない限り同一の構成要素を示しており、適宜説明が省略されている。
【0024】
[第1の実施の形態]
1.蓄圧式燃料噴射制御装置の全体的構成
図1は、第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10の全体的構成を概略的に示す図である。
この蓄圧式燃料噴射制御装置10は、車両に搭載された内燃機関に対して燃料を噴射するための装置として構成されている。蓄圧式燃料噴射制御装置10は、燃料タンク11内の燃料を高圧ポンプ部20へ供給する低圧ポンプ部13と、低圧ポンプ部13により供給された燃料を加圧して圧送する高圧ポンプ部20と、高圧ポンプ部20の吐出流量を調節する電磁式流量制御弁15と、高圧ポンプ部20により圧送された燃料を蓄積するコモンレール17と、図示しない内燃機関の気筒に向けてコモンレール17から供給された燃料を噴射する複数の燃料噴射弁50と、燃料噴射弁50や電磁式流量制御弁15等の電子制御要素の制御を実行する電子制御ユニット(以下、単に「ECU」と称する。)70とを備えている。
【0025】
このうち低圧ポンプ部13は、通電制御によって出力を調節可能に構成された電動ポンプや、内燃機関の駆動力を利用して機械的に駆動するギアポンプなど、従来公知の構成の低圧ポンプを適宜用いることができる。
【0026】
高圧ポンプ部20は、カム23が固定されたカムシャフトが内燃機関のクランクシャフトに連結されており、内燃機関の駆動力を利用して駆動されるポンプとして構成されている。この高圧ポンプ部20は、プランジャ25の下降時に、燃料吸入弁を介して、低圧の燃料を加圧室21に導入する。一方、高圧ポンプ部20は、カム23の回転によってプランジャ25が押し上げられたときに加圧室21内の燃料を加圧し、燃料吐出弁を介して、高圧の燃料をコモンレール17へと圧送する。高圧ポンプ部20を構成するプランジャ25の数や加圧室21の数は、特に限定されない。
【0027】
また、低圧ポンプ部13と高圧ポンプ部20の加圧室21とを結ぶ燃料通路31の途中には電磁式流量制御弁15が備えられている。この電磁式流量制御弁15は、ECU70によって通電制御が行われ、電流値に応じて燃料通過面積が比例的に変化する電磁比例制御弁として構成されている。電磁式流量制御弁15に供給する電流値を制御することにより、加圧室21に導入する燃料の流量が調節され、ひいては高圧ポンプ部20の吐出流量が調節される。本実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10において、電磁式流量制御弁15は、非通電時に燃料通過面積が最大となる、いわゆるノーマルオープン型の構造を有している。
【0028】
また、燃料通路31には、電磁式流量制御弁15よりも上流側において、オーバーフローバルブ27を備えたリターン通路35が接続されている。このオーバーフローバルブ27によって、高圧ポンプ部20に供給される燃料の圧力が所定のフィード圧に調節されるまた、燃料通路31には、燃料温度Tfの検出に用いる燃料温度センサ16が設けられている。燃料温度センサ16のセンサ信号はECU70によって読み取り可能に構成されている。
【0029】
コモンレール17には、圧力センサ18が設けられている。圧力センサ18は、コモンレール17内の圧力を検出するために用いられるセンサであって、センサ信号はECU70によって読み取り可能に構成されている。
【0030】
燃料噴射弁50は、アクチュエータとして電磁ソレノイドを備えた燃料噴射弁が用いられている。この燃料噴射弁50は、ECU70の通電制御により、開弁時期や開弁時間等が制御されるようになっている。この燃料噴射弁50からリークする燃料は、リターン通路37を介して燃料タンク11へと戻される。
【0031】
2.燃料噴射弁
(1)基本的構成
図2は、第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10に備えられた燃料噴射弁50の構成を概略的に表した断面図を示している。
この燃料噴射弁50は、インジェクタハウジング51と、ノズルボディ53と、ノズルニードル55と、バルブピストン57と、背圧制御弁60とを主たる構成要素として備えている。
【0032】
ノズルボディ53は、インジェクタハウジング51の先端側(図2の下側)に固定されている。インジェクタハウジング51には、コモンレール17から供給される高圧の燃料をノズルボディ53側へ送る第1の燃料通路67が形成されている。また、インジェクタハウジング51には、高圧の燃料を背圧制御室59に導入する第2の燃料通路68が、第1の燃料通路67から分岐して形成されている。
【0033】
ノズルボディ53には、ノズルニードル55の受圧部55Aに対向する部位に燃料溜まり室53Aが形成されている。また、ノズルボディ53には、インジェクタハウジング51の第1の燃料通路67に連通して、燃料溜まり室53Aに高圧燃料を導く第3の燃料通路69が形成されている。このノズルボディ53の先端部には噴射孔54が穿設されている。この噴射孔54につながるシート部53Bにノズルニードル55の先端部が着座(シート)することにより噴射孔54が閉鎖される一方、ノズルニードル55がシート部53Bから離座(リフト)することにより噴射孔54が開放される。これにより、燃料の噴射開始、停止が可能となっている。
【0034】
ノズルボディ53が固定されたインジェクタハウジング51内には、その中心軸を中心としたスプリング室51Bが形成されている。スプリング室51Bには、ノズルニードル55をシート部53Bの方向へ付勢するためのノズルスプリング56が配設されている。また、インジェクタハウジング51内においては、バルブピストン57がインジェクタハウジング51に形成された孔51A内に摺動可能に挿入されて、ノズルニードル55の上方部に位置するように配設されている。
【0035】
また、バルブピストン57の頂部57Aが位置する部位には背圧制御室59が形成されており、バルブピストン57の頂部57Aが下方側(噴射孔54側)から臨むようになっている。背圧制御室59は、導入側オリフィス通路59Bに連通している。この導入側オリフィス通路59Bは第2の燃料通路68に連通されている。これによって、コモンレール17から供給される高圧の燃料が背圧制御室59へ導入されるようになっている。
【0036】
背圧制御室59は開閉用オリフィス通路59Aにも連通しており、開閉用オリフィス通路59Aは後述する背圧制御弁60のバルブボール(制御弁体)64によって開閉可能となっている。なお、背圧制御室59におけるバルブピストン57の頂部57Aの受圧面積は、ノズルニードル55の受圧部55Aの受圧面積よりも大きく設定されている。
【0037】
また、背圧制御弁60は、電磁ソレノイド式の制御弁として構成されており、マグネット61と、アーマチュア62と、バルブボール64と、バルブスプリング65とを主たる構成要素として備えている。そして、マグネット61に対して制御回路から駆動信号が供給されることによってバルブスプリング65の付勢力に抗してアーマチュア62がマグネット61に吸引され、バルブボール64が開閉用オリフィス通路59Aからリフトし、背圧制御室59内の高圧の燃料をリターン通路37に開放できるようになっている。
【0038】
このようにバルブボール64を動作させることにより背圧制御室59内の圧力を制御し、バルブピストン57を介してノズルニードル55の後端側に作用する圧力を制御することで、シート部53Bへのノズルニードル55の着座及び離座を制御することができるようになっている。
【0039】
(2)圧力維持機能
ここで、第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10において、燃料噴射弁50の背圧制御弁60は、レール圧Prailを所定の緊急制御時圧力Pαに維持可能な圧力維持機能を有して構成されている。「圧力維持機能」は、圧力センサ18の異常等により、レール圧Prailを検出できなくなったときに、車両のリンプホーム走行を可能にするために、レール圧Prailを緊急制御時圧力Pαに維持することを可能とする機能である。具体的には、従来、ECU70による開弁指令が出されている時以外は開かないように設定されていた背圧制御弁60の開弁圧を下げて、レール圧Prailが通常の運転制御時の使用範囲よりも大きくすることにより、ECU70による開弁指令がない期間においても背圧制御弁60が開弁するように構成されている。
【0040】
図3は、燃料噴射弁50から燃料低圧側にリークする燃料リーク量(mm3/秒)と、レール圧(Mpa)との関係を示している。第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10の場合を実線で示し、従来の蓄圧式燃料噴射制御装置の場合を破線で示している。燃料噴射弁50からの燃料リークには、背圧制御弁60が開弁することによって生じる動的リークと、構成部品同士の間の微細な隙間から生じる静的リークとが含まれており、背圧制御弁60が開弁していない状態であっても極少量の燃料リークが発生している。
なお、ここでいう「従来の蓄圧式燃料噴射制御装置」とは、圧力維持機能を有する圧力安全弁がコモンレールに設けられている構成の蓄圧式燃料噴射制御装置を意味している。
【0041】
破線で示すように、従来の蓄圧式燃料噴射制御装置においては、レール圧Prailが一点差線で示す通常の運転状態での使用範囲を超えて上昇しても、リーク量がほとんど増加しない。すなわち、従来の蓄圧式燃料噴射制御装置においては、開弁指令が出されない限り、基本的には背圧制御弁が開弁しないようになっている。
【0042】
一方、実線で示すように、第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10においては、レール圧Prailが通常の使用範囲を超えると、リーク量が急激に増加する。すなわち、第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10においては、レール圧Prailが一点差線で示す通常の運転状態での使用範囲を超えると、開弁指令が出されていないにもかかわらず背圧制御弁60が開弁するようになっている。背圧制御弁60が開弁した後は、開弁前の状態と比べて、リーク量の増加率に対するレール圧Prailの上昇率が小さいため、レール圧Prailを目標値に調節することが比較的容易になる。
【0043】
第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10では、圧力センサ18の異常等が見られず、レール圧Prailを検出しながら正常に燃料噴射制御を実行できる期間においては、一点差線で示す領域にレール圧Prailを調節しながら燃料噴射制御を実行する。このときのレール圧Prailの調節は、実レール圧Pactと目標レール圧Ptgtとの差分ΔPに基づいて、電磁式流量制御弁15の操作量を閉ループ制御することによって実行される。
【0044】
一方、圧力センサ18の異常等によってレール圧Prailの検出が不可能な期間においては、点線で示す領域にレール圧Prailを調節しながら燃料噴射制御を実行する。第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10においては、この点線で示す領域内の圧力が緊急制御時圧力Pαであり、緊急制御時圧力αを一つの固定値とする必要はない。レール圧Prailの調節は、ポンプ回転数Npと相関関係にある機関回転数Neに応じて電磁式流量制御弁15の操作量を開ループ制御することによって実行される。
【0045】
(3)レール圧特性及び噴射量特性
次に、図4及び図5を参照して、第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10と従来の蓄圧式燃料噴射制御装置とにおける、高圧ポンプ部20の吐出流量の違いによるレール圧Prail及び燃料噴射量Qfの違いについて説明する。図4及び図5において、横軸は機関回転数Ne(r/min)を示しているが、ポンプ回転数は機関回転数に比例するため、機関回転数Neとポンプ回転数とは同義である。また、各機関回転数Neにおける高圧ポンプ部20の吐出流量は、電磁式流量制御弁15の操作量を変更することによって調節している。
なお、ここでいう「従来の蓄圧式燃料噴射制御装置」についても、圧力維持機能を有する圧力安全弁がコモンレールに設けられている構成の蓄圧式燃料噴射制御装置を意味している。
【0046】
図4(a)及び(b)は、従来の蓄圧式燃料噴射制御装置において、圧力センサに異常が生じたときに、レール圧Prailが圧力安全弁の開弁圧を超えない状態で、閉ループ制御をしないで開ループ制御でレール圧Prailを調節したときのレール圧Prail(MPa)及び燃料噴射量Qf(mm3/1ストローク)を示している。従来の蓄圧式燃料噴射制御装置においては、高圧ポンプ部の吐出流量が増加しても背圧制御弁からの燃料リーク量が極めて少ないままであることから(図3を参照)、高圧ポンプ部の吐出流量の違いによってレール圧Prailに大きな差が生じ、その結果、1ストローク当たりの燃料噴射量Qfに大きな差が生じている。
【0047】
これに対して、図5(a)及び(b)は、第1の実施の形態の蓄圧式燃料噴射制御装置10において、圧力センサ18に異常が生じたときに、閉ループ制御をしないで開ループ制御でレール圧Prailを調節したときのレール圧Prail(MPa)及び燃料噴射量Qf(mm3/1ストローク)を示している。第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10においては、高圧ポンプ部20からの吐出流量の増加に応じて燃料噴射弁50からの燃料リーク量も増加する一方、レール圧Prailが通常の使用範囲を超えた領域でのレール圧Prailの変動幅が小さいことから(図3を参照)、高圧ポンプ部20の吐出流量にかかわらず、レール圧Prailのばらつきは小さく、その結果、1ストローク当たりの燃料噴射量Qfのばらつきも小さく抑えられている。
【0048】
次に、図6を参照して、燃料噴射量特性についてさらに詳細に説明する。
図6は、燃料噴射弁50の通電時間(μ秒)と燃料噴射量Qf(mm3/st)との関係をレール圧Prailごとに示している。これらのデータは、ポンプ回転数を一定にした状態で、高圧ポンプ部20の吐出流量を変えることによってレール圧Prailを各目標圧力に維持しながら燃料噴射弁50に通電して、そのときに発生した燃料噴射量Qfを実験により測定したものである。また、図6に示す7つのデータのうち、圧力の大きい順に上から三番目までのデータは、背圧制御弁60の開弁圧よりも高いレール圧Prailとなっている。
【0049】
この図6に示すように、レール圧Prailが背圧制御弁60の開弁圧よりも大きいか小さいかにかかわらず、燃料噴射量Qfが、レール圧Prailと概ね相関を保って変化していることが理解できる。すなわち、背圧制御弁60の開弁圧を低下させた場合であっても、燃料噴射量特性を良好に維持できることを理解することができる。
【0050】
3.ECU(電子制御ユニット)
図7は、第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10に備えられたECU70の構成のうち、燃料噴射制御に関連する、高圧ポンプ部20の吐出流量を調節するための電磁式流量制御弁15の制御、及び、燃料噴射弁50の制御について機能的なブロックで表したものである。
【0051】
このECU70は、公知のマイクロコンピュータを中心に構成されたものであり、圧力センサ異常診断部71と、目標噴射量演算部73と、閉ループ制御部75と、開ループ制御部77と、流量制御弁駆動回路79と、燃料噴射弁制御部81と、燃料噴射弁駆動回路83とを主たる構成要素として備えている。具体的に、圧力センサ異常診断部71、目標噴射量演算部73、閉ループ制御部75、開ループ制御部77、燃料噴射弁制御部81は、マイクロコンピュータによるプログラムの実行によって実現されるものとなっている。
【0052】
また、ECU70は、RAMやROM等の記憶素子からなる図示しない記憶部を備えている。記憶部には、制御プログラム及び種々の演算マップがあらかじめ記憶されるとともに、上記した各部による演算結果等が書き込まれるようになっている。さらに、ECU70には、圧力センサ18をはじめとする種々のセンサのセンサ信号が入力されるようになっている。
【0053】
圧力センサ異常診断部71は、圧力センサ18のセンサ信号Spを用いて圧力センサ18の異常の有無を診断するように構成されている。この圧力センサ異常診断部71は、圧力センサ18が正常に機能しているか、すなわち、圧力センサ18によって検出されるレール圧Prailが信頼できるものであるかを診断できるようになっていれば、具体的な演算方法は限定されない。例えば、圧力センサ18の異常の有無は、センサ信号Spが断線を示す値となっているか否かによって診断することができる。
【0054】
目標噴射量演算部73は、内燃機関に噴射する目標燃料噴射量Qtgtを演算により求めるように構成されている。目標噴射量演算部73は、圧力センサ異常診断部71によって、圧力センサ18に異常を生じていないと診断されている場合においては、通常時噴射量マップを参照して、機関回転数Ne及びアクセル操作量Accに基づいて目標燃料噴射量Qtgtを求める。
【0055】
一方、目標噴射量演算部73は、圧力センサ異常診断部71によって、圧力センサ18に異常を生じていると診断された場合においては、通常時の目標燃料噴射量Qtgtよりも少ない値となるように目標燃料噴射量Qtgtを求めるようになっている。例えば、リンプホーム走行時用の噴射量マップを参照して、機関回転数Ne及びアクセル操作量Accに基づいて目標燃料噴射量Qtgtを求めるようにすることもできるし、通常時の目標燃料噴射量Qtgtに対して係数をかける等の補正を行うことによって目標燃料噴射量Qtgtを求めるようにすることもできる。
【0056】
閉ループ制御部75は、圧力センサ異常診断部71によって、圧力センサ18に異常を生じていないと診断されている場合において、電磁式流量制御弁15の通電量、すなわち、高圧ポンプ部20の吐出流量を、圧力センサ18によって検出される実レール圧Pactと目標レール圧Ptgtとの差分ΔPに基づいて閉ループ制御する。すなわち、圧力センサ18のセンサ値を用いてレール圧制御を実行できる間は、機関回転数Neやアクセル操作量Acc等の内燃機関の運転状態に応じてレール圧Prailを制御しようとするものとなっている。
【0057】
具体的に、第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10において、閉ループ制御部75は、目標燃料噴射量Qtgt及び燃料噴射弁50からの燃料リーク量Fbfの和からなる基本充填量に対して、実レール圧Pactと目標レール圧Ptgtとの差分ΔPに基づくフィードバック制御量を加減算することにより、高圧ポンプ部20からの目標吐出流量を決定し、流量−電流値マップを参照して、電磁式流量制御弁15の通電量の指示値を決定することとしている。このとき、燃料温度Tfによって燃料の粘度が変化し、レール圧Prailに影響を及ぼすことから、燃料温度によって目標吐出流量を補正するようにしてもよい。ただし、閉ループ制御の具体的な演算ロジックはこの例に限定されない。
【0058】
一方、開ループ制御部77は、圧力センサ異常診断部71によって、圧力センサ18に異常を生じていると診断された場合において、電磁式流量制御弁15の通電量、すなわち、高圧ポンプ部20の吐出流量を、目標燃料噴射量Qtgt及び機関回転数Neに基づいて開ループ制御する。すなわち、圧力センサ18のセンサ値を用いてレール圧制御を実行できない場合にはリンプホーム走行に入るため、目標噴射量演算部73で求められるリンプホーム走行用の目標燃料噴射量Qtgtと機関回転数Neに応じて、レール圧Prailを緊急制御時圧力Pαの狙った値に保持できるように、高圧ポンプ部20の吐出流量を調節しようとするものとなっている。
【0059】
具体的に、第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10において、開ループ制御部77は、目標燃料噴射量Qtgtと機関回転数Neとに基づいて、あらかじめ記憶部に格納された開ループ制御用吐出流量マップを参照して、高圧ポンプ部20の目標吐出流量を決定した後、流量−電流値マップを参照して、電磁式流量制御弁15の通電量の指示値を決定することとしている。
【0060】
図8は、開ループ制御を実行する際の演算ロジックの一例を示している。
この例においては、まず、機関回転数Neと目標燃料噴射量Qtgtとに基づいて、開ループ制御用吐出流量マップを参照して、基本目標吐出流量が求められる。開ループ制御用吐出流量マップは、リンプホーム走行時における目標燃料噴射量Qtgtと機関回転数Neとに応じて、基本目標吐出流量をあらかじめ設定したものとなっている。この基本目標吐出流量に対して、燃料温度Tfに応じた係数をかけることで、目標吐出流量が決定される。そして、流量−電流値マップを参照して、目標吐出流量に基づいて電磁式流量制御弁15の通電量の指示値が決定される。
【0061】
閉ループ制御部75又は開ループ制御部77によって求められた電磁式流量制御弁15の通電量の指示値は流量制御弁駆動回路79に送られ、さらに流量制御弁駆動回路79は、通電量の指示値にしたがって電磁式流量制御弁15に対して通電を行う。これによって、高圧ポンプ部20の吐出流量が変更され、レール圧Prailが調節される。
【0062】
燃料噴射弁制御部81は、レール圧Prailと目標燃料噴射量Qtgtとに基づいて燃料噴射弁50の通電時間を決定して、燃料噴射弁駆動回路83に対して通電指示を行う。燃料噴射弁制御部81は、圧力センサ異常診断部71によって、圧力センサ18に異常を生じていないと診断されている場合においては、圧力センサ18を用いて検出される実レール圧Pactと目標燃料噴射量Qtgtとに基づいて燃料噴射弁50の通電時間を決定する。
【0063】
一方、燃料噴射弁制御部81は、圧力センサ異常診断部71によって、圧力センサ18に異常を生じていると診断された場合においては、想定される緊急制御時圧力Pαと目標燃料噴射量Qtgtとに基づいて燃料噴射弁50の通電時間を決定する。想定される緊急制御時圧力Pαは、開ループ制御部77において高圧ポンプ部20の吐出流量を決定する際に用いる機関回転数Neと目標燃料噴射量Qtgtとによって想定することができるものである。したがって、燃料噴射弁制御部81は、圧力センサ18に異常を生じていると診断された場合においては、機関回転数Neと目標燃料噴射量Qtgtとに基づいて燃料噴射弁50の通電時間を決定する。
【0064】
燃料噴射弁駆動回路83は、燃料噴射弁制御部81から送られる通電指示にしたがって燃料噴射弁50に対して通電を行う。これによって、内燃機関の気筒に対して目標燃料噴射量Qtgtに応じた燃料噴射が行われる。
【0065】
4.燃料噴射制御方法
図9〜図11は、第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10において実行される燃料噴射制御方法の一例を説明するためのフローチャート図である。以下に説明する燃料噴射制御方法は、内燃機関の運転中に常時実行されるようになっていてもよいし、所定の時間間隔で割り込みによって実行されるようになっていてもよい。
【0066】
図9のステップS1において、ECU70は、圧力センサ18に異常を生じているか否かを判別する。圧力センサ18に異常を生じていない場合にはステップS2に進み、ECU70は通常運転モードを選択する一方、圧力センサ18に異常を生じている場合にはステップS7に進み、ECU70はリンプホームモードを選択する。
【0067】
ステップS2において通常運転モードを選択した場合、ECU70は、ステップS3において、機関回転数Ne及びアクセル操作量Accに基づき、通常時噴射量マップを参照して目標燃料噴射量Qtgtを演算により求める。次いで、ECU70は、ステップS4において、圧力センサ18のセンサ値を用いて実レール圧Pactを検出した後、ステップS5において、電磁式流量制御弁15の通電量を閉ループで制御する。
【0068】
図10は、ステップS5における閉ループ制御の一例を示している。
この例では、ECU70は、ステップS21において、目標燃料噴射量Qtgt及び燃料リーク量に基づいて基本充填量を演算により求める。また、ECU70は、ステップS22において、目標レール圧Ptgtと実レール圧Pactとの差分ΔPを求めた後、ステップS23において、差分ΔPに基づいて吐出流量のフィードバック制御量を演算により求める。
【0069】
次いで、ECU70は、ステップS24において、基本充填量にフィードバック制御量を加算して、目標吐出流量を求める。このとき、燃料温度Tfによって補正するようにしてもよい。次いで、ECU70は、ステップS25において、目標吐出流量に基づき、流量−電流値マップを参照して電磁式流量制御弁15の通電量の指示値を決定した後、ステップS26において、流量制御弁駆動回路79に対して指示信号を送る。これにより、圧力センサ18のセンサ値を用いた高圧ポンプ部20の吐出流量がフィードバック制御され、レール圧Prailが目標レール圧Pactとなるように制御される。
【0070】
次いで、ステップS6において、ECU70は、実レール圧Pactと目標燃料噴射量Qtgtとに基づいて通電時間を決定し、燃料噴射弁駆動回路83に対して指示信号を送る。これにより、通常運転モードにおいて、目標燃料噴射量Qtgtに相当する量の燃料が、内燃機関の気筒に向けて噴射される。
【0071】
一方、ステップS7において、リンプホームモードを選択した場合、ECU70は、ステップS8において、機関回転数Ne及びアクセル操作量Accに基づき、リンプホーム走行時用の噴射量マップを参照したり、あるいは、補正係数をかけたりする等して、リンプホーム走行時の目標燃料噴射量Qtgtを演算により求める。次いで、ECU70は、ステップS9において、電磁式流量制御弁15の通電量を開ループで制御する。
【0072】
図11は、ステップS9における開ループ制御の一例を示している。
この例では、ECU70は、ステップS31において、機関回転数Ne及び目標燃料噴射量Qtgtに基づき、開ループ制御用吐出流量マップを参照して高圧ポンプ部20の基本吐出流量を演算により求める。次いで、ECU70は、ステップS32において、燃料温度Tfに応じた補正係数を基本吐出流量にかけて目標吐出流量を求める。
【0073】
次いで、ECU70は、ステップS33において、目標吐出流量に基づき、流量−電流値マップを参照して電磁式流量制御弁15の通電量の指示値を決定した後、ステップS34において、流量制御弁駆動回路79に対して指示信号を送る。これにより、レール圧Prailが、機関回転数Ne及び目標燃料噴射量Qtgtに基づいて想定される緊急制御時圧力Pαに制御される。
【0074】
次いで、ステップS10において、ECU70は、想定される緊急制御時圧力Pαと目標燃料噴射量Qtgtとに基づいて通電時間を決定し、燃料噴射弁駆動回路83に対して指示信号を送る。これにより、リンプホームモードにおいて、目標燃料噴射量Qtgtに相当する量の燃料を、内燃機関の気筒に向けて噴射することができる。
【0075】
5.第1の実施の形態によって得られる効果
第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10は、燃料噴射弁50に備えられた背圧制御弁60に圧力維持機能を持たせることとしているために、圧力センサ18の異常時において、高圧ポンプ部20の回転数が小さい場合であっても、レール圧Prailを緊急制御時圧力Pαに維持することを可能にすることができる。したがって、第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10は、コモンレール17に圧力安全弁を備えていない場合であっても、圧力センサ18の異常時において、リンプホーム走行を確実に実行することができる。
【0076】
また、第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10においては、燃料噴射弁50に対して燃料噴射指令が出されていない期間において、背圧制御弁60が圧力維持機能により開弁する場合であっても、ノズルニードル55がリフトしないように背圧制御弁60の開弁圧を設定することとしている。このため、燃料噴射が不要なときに燃料が噴射されることを防ぐことができる。
【0077】
また、第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10においては、ECU70が、圧力センサ18の異常を検知した場合に、レール圧Prailが緊急制御時圧力Pαで維持されるように高圧ポンプ部20の吐出流量を開ループ制御することとしている。このため、圧力センサ18に異常を生じている場合であっても、レール圧Prailが緊急制御時圧力Pαになっていることを前提に、目標燃料噴射量Qtgtと実際の噴射量との誤差が小さい状態で、リンプホーム走行を実行することができる。
【0078】
[第2の実施の形態]
本発明の第2の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置は、コモンレールに圧力安全弁を備えている点で第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置と異なっている。
以下、第2の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置について、第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置とは異なる点を中心に説明する。
【0079】
1.蓄圧式燃料噴射制御装置の全体的構成
図12は、第2の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置100の全体的構成を概略的に示す図である。圧力安全弁110及び電子制御ユニット(ECU)120以外の構成要素については、第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置の場合と同様に構成することができるため、第1の実施の形態の説明で用いた符号をそのまま使用し、第2の実施の形態での説明を省略する。
【0080】
圧力安全弁110は、コモンレール17に設けられ、レール圧Prailが通常の使用範囲内にあるときには閉弁状態で維持される一方、レール圧Prailが通常の使用範囲を超えて上昇した場合に開弁し、その後のレール圧Prailを所定の二次緊急制御時圧力Pβに維持可能な圧力維持機能を有している。
【0081】
図13(a)〜(c)は、それぞれ圧力安全弁110の軸方向断面図を示している。
圧力安全弁110のハウジング111には、一端側が開口するスプリング室111aが形成されている。スプリング室111aにはスプリング119が備えられている。このハウジング111の一端側には、スプリング室111aを塞ぐようにバルブボディ113が嵌合されている。
【0082】
バルブボディ113には、大径内孔113a、ガイド孔113b、燃料通過ポート113cが軸方向に連通して設けられている。大径内孔113aには、スプリング119の一端を押さえるスプリングシート117が軸方向移動可能に収容されている。ガイド孔113bには、複数のスリット115aが設けられた弁体115が軸方向移動可能に配置されている。
【0083】
図13(a)は、圧力安全弁110の閉弁状態を示している。圧力安全弁110が閉弁した状態では、スプリング119の付勢力及びスプリング室111a内の圧力の総和が、レール圧Prailよりも大きく、弁体115がバルブボディ113にシートした状態となっている。
【0084】
レール圧Prailが上昇すると、レール圧Prailが、スプリング119の付勢力及びスプリング室111a内の圧力を上回り、弁体115及びスプリングシート117がスプリング119側に移動する。そうすると、弁体115のスリット115aを介して、コモンレール17内の燃料が大径内孔113a内に流入し、その燃料はさらにスプリングシート117に設けられた燃料通過孔117aを介してスプリング室111aに流入する。これにより、レール圧Prailは徐々に低下する。
【0085】
燃料の流入によってスプリング室111a内の圧力が徐々に上昇すると、スプリング119の付勢力及びスプリング室111a内の圧力の総和と、レール圧Prailとがつり合う状態となって、図13(c)に示すように、スプリングシート117が所定の位置に保持される状態となる。この状態では、スプリング室111a内に流入する燃料と同量の燃料が、ハウジング111に設けられた燃料排出孔111bから低圧側に流出する状態になる。これによって、レール圧Prailは、二次緊急制御時圧力Pβに保持されることとなる。
【0086】
ここで、第2の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置100において、圧力安全弁110の開弁圧が、燃料噴射弁50の背圧制御弁60の開弁圧よりも高く設定されている。すなわち、レール圧Prailが通常の使用範囲を超えて上昇したときに、一次的には、背圧制御弁60の圧力維持機能によって、レール圧Prailが緊急制御時圧力Pαに保持されて、リンプホーム走行が可能になる。
【0087】
ただし、燃料温度Tfが著しく高い状態で、かつ、機関回転数Neが比較的大きいような場合には、さらにレール圧Prailが緊急制御時圧力Pαを超えて上昇するおそれがある。そのため、このような場合には、圧力安全弁110が開弁したものと推定されることから、レール圧Prailが二次緊急制御時圧力Pβになっていることを前提としてリンプホーム走行を実行する。
【0088】
圧力安全弁110が開弁した後に保持される二次緊急制御時圧力Pβは、背圧制御弁60によって保持可能な緊急制御時圧力Pαよりも低い値となるように設定されている。したがって、圧力安全弁110が一旦開弁した後は、レール圧Prailが二次緊急制御時圧力Pβよりも大きくなることがない。
【0089】
2.電子制御ユニット(ECU)
図14は、第2の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置100に備えられたECU120の構成のうち、燃料噴射制御に関連する、高圧ポンプ部20の吐出流量を調節するための電磁式流量制御弁15の制御、及び、燃料噴射弁50の制御について機能的なブロックで表したものである。
【0090】
このECU120は、公知のマイクロコンピュータを中心に構成されたものであり、圧力センサ異常診断部71と、圧力安全弁開弁状態推定部121と、目標噴射量演算部73と、閉ループ制御部75と、開ループ制御部123と、流量制御弁駆動回路79と、燃料噴射弁制御部125と、燃料噴射弁駆動回路83とを主たる構成要素として備えている。具体的に、圧力センサ異常診断部71、圧力安全弁開弁状態推定部121、目標噴射量演算部73、閉ループ制御部75、開ループ制御部123、燃料噴射弁制御部125は、マイクロコンピュータによるプログラムの実行によって実現されるものとなっている。
【0091】
また、ECU120は、RAMやROM等の記憶素子からなる図示しない記憶部を備えている。記憶部には、制御プログラム及び種々の演算マップがあらかじめ記憶されるとともに、上記した各部による演算結果等が書き込まれるようになっている。さらに、ECU120には、圧力センサ18をはじめとする種々のセンサのセンサ信号が入力されるようになっている。
【0092】
ECU120のうち、圧力センサ異常診断部71、目標噴射量演算部73、閉ループ制御部75、流量制御弁駆動回路79、燃料噴射弁駆動回路83については、第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10の場合と同様に構成されている。
【0093】
一方、圧力安全弁開弁状態推定部121は、圧力センサ異常診断部71によって、圧力センサ18に異常を生じていると診断された後の期間において、圧力安全弁110が開弁したか否かを推定する。具体的には、あらかじめ実験等によって、燃料噴射弁50の背圧制御弁60の圧力維持機能を利用した一次的なリンプホーム走行中であっても、圧力安全弁110が開弁する燃料温度Tf及び機関回転数Neの値を求めておき、検出される燃料温度Tf及び機関回転数Neに基づいて、圧力安全弁110が開弁したか否かを判定する。
【0094】
開ループ制御部123は、圧力センサ異常診断部71によって、圧力センサ18に異常を生じていると診断された場合においては、まず、一次的に、第1の実施の形態において説明したように、背圧制御弁60の圧力維持機能を利用して、電磁式流量制御弁15の通電量、すなわち、高圧ポンプ部20の吐出流量を、目標燃料噴射量Qtgt及び機関回転数Neに基づいて開ループ制御する(図8を参照)。これにより、レール圧Prailは、緊急制御時圧力Pαで維持されるようになる。
【0095】
また、開ループ制御部123は、圧力安全弁開弁状態推定部121によって、圧力安全弁110が開弁したと推定された場合には、高圧ポンプ部20の吐出流量が最大となるように、電磁式流量制御弁15を全開とするよう、流量制御弁駆動回路79に対して通電指示を行う。これ以降、レール圧Prailは、二次緊急制御時圧力Pβで保持されるようになる。
【0096】
燃料噴射弁制御部125は、圧力センサ異常診断部71によって、圧力センサ18に異常を生じていないと診断されている場合においては、圧力センサ18を用いて検出される実レール圧Pactと目標燃料噴射量Qtgtとに基づいて燃料噴射弁50の通電時間を決定する。また、燃料噴射弁制御部125は、圧力センサ異常診断部71によって、圧力センサ18に異常を生じていると診断された場合であって、かつ、圧力安全弁開弁状態推定部121によって、圧力安全弁110が開弁したとは判定されていない場合には、想定される緊急制御時圧力Pαと目標燃料噴射量Qtgtとに基づいて燃料噴射弁50の通電時間を決定する。ここまでは、第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10の場合と同様である。
【0097】
一方、燃料噴射弁制御部125は、圧力センサ異常診断部71によって、圧力センサ18に異常を生じていないと診断されている場合であって、かつ、圧力安全弁開弁状態推定部121によって、圧力安全弁110が開弁したと判定された場合には、二次緊急制御時圧力Pβと目標燃料噴射量Qtgtとに基づいて燃料噴射弁50の通電時間を決定する。
【0098】
すなわち、圧力センサ18に異常を生じていない期間においては、圧力センサ18を用いて検出される実レール圧Prailを用いる一方、圧力センサ18によって検出される実レール圧Prailに信頼性がない場合においては、圧力安全弁110が開弁するまでは燃料噴射弁50の背圧制御弁60の圧力維持機能によって想定される緊急制御時圧力Pαを用い、さらに、圧力安全弁110が開弁した後は圧力安全弁110の圧力維持機能によって得られる二次緊急制御時圧力Pβを用いて、燃料噴射弁50の通電制御が実行される。その結果、圧力センサ18の異常時において、目標燃料噴射量Qtgtと実際の噴射量との誤差が小さい状態で、確実にリンプホーム走行を実行することができる。
【0099】
3.燃料噴射制御方法
図15は、第2の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置100において実行される燃料噴射制御方法の一例を説明するためのフローチャート図である。第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置の場合と同様に、以下に説明する燃料噴射制御方法は、内燃機関の運転中に常時実行されるようになっていてもよいし、所定の時間間隔で割り込みによって実行されるようになっていてもよい。
【0100】
図15のフローチャート図中、ステップS1〜ステップS10までの各ステップは、第1の実施の形態にかかる燃料噴射制御方法の場合と同様の手順に沿って実行することができる(図9〜図11を参照)。第2の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置100では、ステップS11〜ステップS15の各工程が設けられている点で、第1の実施の形態にかかる燃料噴射制御方法とは異なっている。
【0101】
圧力センサ18に異常を生じていると判定され(ステップS1)、リンプホームモードが選択されて、リンプホーム時の目標燃料噴射量Qtgtが求められた後、ECU120は、ステップS11において、圧力安全弁110の開弁ステータスがオフの状態であるか否かを判別する。この時点ですでに圧力安全弁110が開弁している場合には、開弁ステータスがオンの状態となっている。圧力安全弁110の開弁ステータスがオフの状態であれば(Yes判定)、次に、ステップS12に進み、ECU120は、圧力安全弁110が閉弁状態であるか否かを推定する。具体的に、ECU120は、燃料温度Tf及び機関回転数Neを読み込み、推定されるレール圧Prailが圧力安全弁110の開弁圧を超えているか否かを演算によって判定する。
【0102】
ステップS12において、圧力安全弁110が閉弁状態で維持されていると判定された場合(Yes判定)には、以降のステップS9〜ステップS10で、第1の実施の形態で説明した手順に沿って、電磁式流量制御弁15を開ループで制御しながら、緊急制御時圧力Pα及び目標燃料噴射量Qtgtに基づいて燃料噴射弁50の駆動制御を実行する。これにより、リンプホームモードにおいて、目標燃料噴射量Qtgtに相当する量の燃料を、内燃機関の気筒に向けて噴射することができる。
【0103】
一方、ステップS12において、圧力安全弁110が開弁状態であると判定された場合(No判定)には、ECU120は、ステップS13に進んで圧力安全弁110の開弁ステータスをオンにした後、ステップS14に進み、電磁式流量制御弁15を全開の状態で固定するように指示を出力する。次いで、ECU120は、二次緊急制御時圧力Pβ及び目標燃料噴射量Qtgtに基づいて燃料噴射弁50の通電時間を求めて、駆動制御を実行する。
【0104】
上述したステップS11において、圧力安全弁110の開弁ステータスがすでにオンの状態である場合には(No判定)、すでに電磁式流量制御弁15が全開にされ、レール圧Prailが二次緊急制御時圧力Pβで保持されていることから、そのままステップS15に進み、二次緊急制御時圧力Pβ及び目標燃料噴射量Qtgtに基づいて燃料噴射弁50の駆動制御を実行する。これにより、リンプホームモードにおいて、レール圧Prailが著しく上昇した場合であっても、目標燃料噴射量Qtgtに相当する量の燃料を、内燃機関の気筒に向けて噴射することができる。
【0105】
4.第2の実施の形態によって得られる効果
第2の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置100は、燃料噴射弁50に備えられた背圧制御弁60に圧力維持機能を持たせることとしているために、第1の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置の場合と同様の効果を得ることができる。
【0106】
さらに、第2の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置100においては、コモンレール17に圧力安全弁110を備えることとしている。また、圧力安全弁110の開弁圧が、燃料噴射弁50の背圧制御弁60の開弁圧よりも大きくなるように設定されている。このため、圧力センサ18の異常を生じた場合において、一次的には、燃料噴射弁50の背圧制御弁60の圧力維持機能を利用してレール圧Prailを緊急制御時圧力Pαに調節できる一方、さらにレール圧Prailが上昇する状態となった場合においては、二次的に、圧力安全弁110の圧力維持機能を利用してレール圧Prailを速やかに二次緊急制御時圧力Pβに低下させることができる。そして、レール圧Prailが二次緊急制御時圧力Pβになっていることを前提として、燃料噴射制御を継続することができる。したがって、圧力センサ18の異常を生じた場合に、確実にリンプホーム走行を実行することができるようになる。
【0107】
[他の実施の形態]
以上説明した第1及び第2の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置は、本発明の一態様を示すものであってこの発明を限定するものではなく、それぞれの実施の形態は本発明の範囲内で任意に変更することが可能である。第1及び第2の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置は、例えば、以下のように変更することができる。
【0108】
(1)上述した第1及び第2の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置において説明した各構成要素や、設定値、設定条件はあくまでも一例であって、任意に変更することが可能である。例えば、上述した第1及び第2の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置においては、ノーマルオープン型の電磁式流量制御弁を用いているが、いわゆるノーマルクローズ型の電磁式流量制御弁を用いた場合であっても、本発明を適用することが可能である。
【0109】
(2)上述した第1及び第2の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置において説明した燃料噴射制御方法のフローチャート図はあくまでも一例であって、各ステップの順序を適宜入れ替えることができ、また、各ステップにおける具体的な演算方法についても適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0110】
10:蓄圧式燃料噴射制御装置、11:燃料タンク、13:低圧ポンプ部、15:電磁式流量制御弁、16:燃料温度センサ、17:コモンレール、18:圧力センサ、20:高圧ポンプ部、21:加圧室、23:カム、25:プランジャ、27:オーバーフローバルブ、31:燃料通路、35:リターン通路、37:リターン通路、50:燃料噴射弁、51:インジェクタハウジング、51A:孔、51B:スプリング室、53:ノズルボディ、53A:燃料溜まり室、53B:シート部、54:噴射孔、55:ノズルニードル、55A:受圧部、56:ノズルスプリング、57:バルブピストン、57A:頂部、59:背圧制御室、59A:開閉用オリフィス通路、59B:導入側オリフィス通路、60:背圧制御弁、61:マグネット、62:アーマチュア、64:バルブボール(制御弁体)、65:バルブスプリング、67:第1の燃料通路、68:第2の燃料通路、69:第3の燃料通路、70:電子制御ユニット(ECU)、71:圧力センサ異常診断部、73:目標噴射量演算部、75:閉ループ制御部、77:開ループ制御部、79:流量制御弁駆動回路、81:燃料噴射弁制御部、83:燃料噴射弁駆動回路、100:蓄圧式燃料噴射制御装置、110:圧力安全弁、111:ハウジング、113:バルブボディ、115:弁体、117:スプリングシート、119:スプリング、120:電子制御ユニット(ECU)、121:圧力安全弁開弁状態推定部、123:開ループ制御部、125:燃料噴射弁制御部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の燃料噴射弁と、前記燃料噴射弁が接続されたコモンレールと、前記コモンレールに対して燃料を圧送する燃料供給ポンプと、前記コモンレール内の圧力を検出するための圧力センサと、電子制御要素の制御を行うための電子制御ユニットと、を備えた蓄圧式燃料噴射制御装置において、
前記燃料噴射弁は、噴射孔を有するノズルボディと、先端側で前記噴射孔を閉塞するノズルニードルと、前記ノズルニードルを前記噴射孔側とは反対側に付勢するノズルスプリングと、前記ノズルニードルの後端側に前記燃料の圧力を作用させるための背圧制御室と、前記背圧制御室内の燃料を燃料低圧側に逃がすための背圧制御弁と、を備え、
前記背圧制御弁は、前記背圧制御室内の燃料を逃がすためのオリフィス通路を閉塞する制御弁体と、前記制御弁体を前記オリフィス通路側に付勢するバルブスプリングと、前記バルブスプリングの付勢力に抗して前記制御弁体をリフトさせるためのアクチュエータと、を備え、
前記背圧制御弁が、前記コモンレール内の圧力を所定の緊急制御時圧力に維持可能な圧力維持機能を有することを特徴とする蓄圧式燃料噴射制御装置。
【請求項2】
前記燃料噴射弁に対して燃料噴射指令が出されていない期間において、前記背圧制御弁が前記圧力維持機能により開弁する場合であっても、前記ノズルニードルがリフトしないように前記背圧制御弁の開弁圧を設定することを特徴とする請求項1に記載の蓄圧式燃料噴射制御装置。
【請求項3】
前記電子制御ユニットは、前記圧力センサの異常が検知された場合に、前記コモンレール内の圧力が前記緊急制御時圧力で維持されるように前記高圧ポンプ部からの吐出流量をオープンループ制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の蓄圧式燃料噴射制御装置。
【請求項4】
前記コモンレールは、前記コモンレール内の圧力が所定の開弁圧に到達したときに開弁するとともにさらにその後の前記コモンレール内の圧力を所定の二次緊急制御時圧力に維持可能な圧力維持機能を有する圧力安全弁を備えており、
前記背圧制御弁の開弁圧を、前記圧力安全弁の開弁圧よりも低くすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の蓄圧式燃料噴射制御装置。
【請求項5】
前記電子制御ユニットは、前記圧力センサの異常が検知された場合に、前記コモンレール内の圧力が前記緊急制御時圧力で維持されるように前記高圧ポンプ部からの吐出流量をオープンループ制御するとともに、
前記圧力安全弁が開弁したと推定された後は、前記コモンレール内の圧力が前記二次緊急制御時圧力で維持されるように前記高圧ポンプ部からの吐出量をオープンループ制御することを特徴とする請求項4に記載の蓄圧式燃料噴射制御装置。
【請求項1】
複数の燃料噴射弁と、前記燃料噴射弁が接続されたコモンレールと、前記コモンレールに対して燃料を圧送する燃料供給ポンプと、前記コモンレール内の圧力を検出するための圧力センサと、電子制御要素の制御を行うための電子制御ユニットと、を備えた蓄圧式燃料噴射制御装置において、
前記燃料噴射弁は、噴射孔を有するノズルボディと、先端側で前記噴射孔を閉塞するノズルニードルと、前記ノズルニードルを前記噴射孔側とは反対側に付勢するノズルスプリングと、前記ノズルニードルの後端側に前記燃料の圧力を作用させるための背圧制御室と、前記背圧制御室内の燃料を燃料低圧側に逃がすための背圧制御弁と、を備え、
前記背圧制御弁は、前記背圧制御室内の燃料を逃がすためのオリフィス通路を閉塞する制御弁体と、前記制御弁体を前記オリフィス通路側に付勢するバルブスプリングと、前記バルブスプリングの付勢力に抗して前記制御弁体をリフトさせるためのアクチュエータと、を備え、
前記背圧制御弁が、前記コモンレール内の圧力を所定の緊急制御時圧力に維持可能な圧力維持機能を有することを特徴とする蓄圧式燃料噴射制御装置。
【請求項2】
前記燃料噴射弁に対して燃料噴射指令が出されていない期間において、前記背圧制御弁が前記圧力維持機能により開弁する場合であっても、前記ノズルニードルがリフトしないように前記背圧制御弁の開弁圧を設定することを特徴とする請求項1に記載の蓄圧式燃料噴射制御装置。
【請求項3】
前記電子制御ユニットは、前記圧力センサの異常が検知された場合に、前記コモンレール内の圧力が前記緊急制御時圧力で維持されるように前記高圧ポンプ部からの吐出流量をオープンループ制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の蓄圧式燃料噴射制御装置。
【請求項4】
前記コモンレールは、前記コモンレール内の圧力が所定の開弁圧に到達したときに開弁するとともにさらにその後の前記コモンレール内の圧力を所定の二次緊急制御時圧力に維持可能な圧力維持機能を有する圧力安全弁を備えており、
前記背圧制御弁の開弁圧を、前記圧力安全弁の開弁圧よりも低くすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の蓄圧式燃料噴射制御装置。
【請求項5】
前記電子制御ユニットは、前記圧力センサの異常が検知された場合に、前記コモンレール内の圧力が前記緊急制御時圧力で維持されるように前記高圧ポンプ部からの吐出流量をオープンループ制御するとともに、
前記圧力安全弁が開弁したと推定された後は、前記コモンレール内の圧力が前記二次緊急制御時圧力で維持されるように前記高圧ポンプ部からの吐出量をオープンループ制御することを特徴とする請求項4に記載の蓄圧式燃料噴射制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2013−44227(P2013−44227A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180035(P2011−180035)
【出願日】平成23年8月21日(2011.8.21)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月21日(2011.8.21)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】
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