説明

薄膜で良好な成形性を有する導電性有機被覆物

本発明は、金属材料からなる板材又は構成部材に係るものであって、これは基体表面上に、少なくともa)1mg/m2以下のクロムを含む化成処理層、及びb)架橋結合された有機ポリマー組成物の層(0.5乃至2.5μmの厚さを有し、その合計質量に対して、2−25質量%の、最大で3g/cm3の比重を有する導電性顔料と、0乃至5質量%の、3g/cm3を超える比重の導電性顔料とを含む)を有する層システムを含み、また、本発明は、層b)を形成するための被覆材料及び被覆方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属表面用の導電性、溶接可能性及び防食性を有する被覆体及び金属表面を導電性有機被覆層をもって被覆する方法に関するものである。その被覆層の厚さは、0.5乃至2.5μmの範囲内にある。本発明は更に前述のように被覆された金属板からなる成形加工された構造部材を製造する方法に関するものである。
【0002】
本発明の目的のための導電性を有するものと理解される被覆体は、硬化後に自動車産業において、好ましくはスポット溶接法を用いる従来の接合技術条件下において溶接可能なものである。さらに、その導電度はこれらの被覆材料に対して、通常の析出条件下において、電着塗膜が完全に析出することを確実にするのに十分なものでなければならない。
【0003】
金属加工工業において、特に自動車製造業において、その製品の金属構成要素は、腐食から保護されなければならない。従来の先行技術によれば、金属板は、初めに、圧延工場において、防錆油により被覆され、次に、必要により、成形及び型抜き(stamping)する前に引抜油(グリース)により被覆される。自動車製造においては、適切に成形された金属板部材を型抜きして車体、又は車体部品を作成し、さらに、引抜油又はグリースを用いる深絞り法により成形され、次に、一般に、溶接及び/又はクリンプ及び/又は接着剤接合し、次に念入りな洗浄に供される。上記工程の次に、りん酸塩処理及び/又はクロメート処理のような防食表面前処理が施され、その上に第1被覆層が電着塗装により構造部材に塗布される。通例では、特に、自動車の車体の場合には、この第1電着塗装の次に、複数の被覆層が更に追加被覆される。
【0004】
金属加工業、例えば、車輌及び家庭用器具の製造業において、工程を単純化するという理由によって、化学的防食処理における出費を減少させることが望まれている。この希望は、金属板又はストリップの形状をしていて、既に防食層を有する素材を用いることによって達成され得ることである。
【0005】
従って、より簡単な製造方法を見出すことが必要であり、この方法において、既に薄くめっきされている金属板が成形され、溶接され、かつ十分に試行された方法により電着塗装法により被覆される。従って、りん酸塩処理及び/又はクロメート処理した後に、多かれ少なかれ導電性の有機被覆層を「コイル被覆法(coil coating process)」を用いて被覆する方法は多数ある。これらの有機被覆層は一般に、自動車製造における通常の溶接法、例えば電気スポット溶接法を損なうことがないように、十分な導電性を有するものである。加えて、これらの被覆層は、在来の電着塗料をもって被覆し得るものであることを意図するものである。
【0006】
最近、特に自動車工業において、標準鋼板のみならず、きわめて多種の方法を用いて亜鉛めっきされた、或は、亜鉛合金めっきされた鋼板を使用することがさらに一般化している。
【0007】
鋼板を、溶接可能で、かつ「コイル被覆法」により、圧延工場において、直接に被覆し得る有機被覆層をもって被覆することは、原則として既知である。
【0008】
DE−C−3412234は、電気めっきにより薄く亜鉛めっきされ、りん酸塩処理又はクロメート処理され、かつ成形可能な鋼板に用いられる導電性の溶接可能な防食プライマーについて記載している。この防食プライマーは60%以上の亜鉛、アルミニウム、黒鉛、及び/又は二硫化モリブデン、さらに、防錆顔料及び約2%の分散助剤又は触媒を含む33乃至35%の有機バインダーとの混合物、である。前記有機バインダーとしては、ポリエステル樹脂、及び/又はエポキシ樹脂、及びそれらの誘導体があげられる。この技術は「Bonazinc 2000」の名称で工業界に知られている被覆組成物の基礎を構成しているものと推定される。
【0009】
前記DE−C−3412234の教示によれば、有機バインダーはポリエステル樹脂及び/又はエポキシ樹脂、及びこれらの誘導体であってもよい。エポキシ/フェニル予備的縮合体、エポキシエステル及び直鎖状、オイルフリーのテレフタル酸を主成分とするコポリエステルなどが具体的に記載されている。
【0010】
EP−A−573015は、亜鉛又は亜鉛合金により被覆された片側表面又は両側表面を有する有機被覆された複合鋼板を記載しており、前記被覆された表面は、クロメート皮膜及びその上に形成された0.1乃至5μmの層厚さを有する有機被覆層を有している。前記有機被覆層は、有機溶剤、500乃至10000の間の分子量を有するエポキシ樹脂、芳香族ポリアミン及び促進剤としてフェノール化合物又はクレゾール化合物からなるプライマー組成物から形成されている。前記プライマー組成物はさらに、ポリイソシアネート及びコロイダルシリカを含んでいる。この文献の教示によれば、前記有機被覆層は、0.6乃至1.6μmの乾燥皮膜層厚さにおいて塗布されることが好ましく、厚さが0.1μm未満の層は、防食保護を付与するには過度に薄いとされている。しかし、厚さが5μmより厚い層は、溶接可能性を損ずるものである。
【0011】
同様に、DE−A−3640662には、亜鉛又は亜鉛合金をもって被覆された鋼板を含む表面処理された鋼板、鋼板の表面上に形成されたクロメート皮膜、及び前記クロメート皮膜上に形成された樹脂組成物の層が記述されている。前記樹脂組成物はエポキシ樹脂とアミンとの反応により製造された塩基性樹脂と、ポリイソシアネート化合物とからなるものである。前記クロメート皮膜としては、その乾燥皮膜厚さが3.5μ未満のものだけが用いられ、この厚さより厚いものは、溶接性を著しく低下させる。
【0012】
WO99/24515は金属表面を被覆するための、導電性を有し、溶接可能で、防食性のある組成物を開示している。この組成物は、
a)10乃至40質量%の有機バインダー、
この有機バインダーは、
aa)少なくとも1種のエポキシ樹脂、
ab)グアニジン、置換グアニジン、置換尿素、環状三級アミン及びこれらの混合物 から選ばれた少なくとも1種の硬化剤、及び、
ac)少なくとも1種のブロックされたポリウレタン樹脂
を含むものである。
b)シリケートを主成分とする0乃至15質量%の防錆顔料、
c)40乃至70質量%の、粉末化された亜鉛、アルミニウム、黒鉛及び/又は硫化モ リブデン、カーボンブラック、及びりん化鉄、
d)0乃至30質量%の溶剤
を含むものである。
【0013】
WO01/85860は金属表面を被覆するための、導電性を有し溶接可能な防食組成物に関するものであって、この組成物は、その合計質量を基準にして、
a)5乃至40質量%の有機バインダー、
この有機バインダーは、
aa)少なくとも1種のエポキシ樹脂、
ab)シアノグアニジン、ベンゾグアナミン及び可塑化された尿素樹脂から選ばれた 少なくとも1種からなる硬化剤、
ac)ポリオキシアルキレントリアミン及びエポキシ樹脂/アミン付加物から選ばれ た少なくとも1種のアミン付加物、
b)0乃至15質量%の防錆顔料、
c)粉末化された亜鉛、アルミニウム、黒鉛、硫化モリブデン、カーボンブラック及び リン化鉄から選ばれた、40乃至70質量%の導電性顔料、及び
d)0乃至45質量%の溶媒
を含むものであり、必要により、50質量%までの追加活性又は補助物質を、前記成分の合計量が100質量%になるように、添加してもよい。
【0014】
WO03/089529は、耐食性、導電性又は半導電性のポリマー被覆層であって、好ましくは、6μm以下の厚さを有し、低摩耗で成形可能な被覆層を、金属基体に塗布するための混合物を記述しており、この混合物は、A)a)d80(80%)の通過粒径である6μm未満の粒径分布を有する導電性及び/又は半導電性粒子、b)導電性及び/又は半導電性ポリマー化合物及びc)導電性及び/又は半導電性アミン−及び/又はアンモニウム−含有化合物からなる群から選ばれた、所定量の導電性及び/又は半導電性元素/化合物;(B)必要により反応性希釈剤(1種又は複数種)を含むことのある、少なくとも1種のバインダー;(C)いずれの場合にも、少なくとも1種の架橋剤及び/又は、少なくとも1種の光反応開始剤;(D)必要により、かついずれの場合にも、d)後架橋反応性化合物、e)添加剤、f)防錆顔料、g)非粒子形状で存在する腐食防止剤;並びに(E)必要により、有機溶剤及び/又は水、を含み、全導電性及び/又は半導電性の元素/化合物A)の質量%の合計は、0.5乃至70質量%であり、粒子a)の含有率は0乃至60質量%である。
【0015】
同様に、WO03/089507には、低摩耗で成形可能な、耐食性、導電性を有するポリマー被覆層を金属基体に被覆するための混合物が記述されており、この混合物は、導電性硬質粒子の形状にある少なくとも1種の物質Aに加えて、きわめて軟質の、又は軟質の、無機の、潤滑性の、導電性又は半導電性の粒子の形状にある少なくとも1種の物質B、及び/又は、金属性の、軟質又は硬質の、導電性又は半導電性の粒子の形状にある少なくとも1種の物質C、及び/又は、カーボンブラック及び必要により、例えば、防錆顔料などの追加構成成分Dを含み得るものであり、水不溶性又は水難溶性の顔料の含有量の質量%の合計値はΣ(A+B+C)であり、導電性硬質粒子Aのサイズは、10μm未満であり、これは、粒径を表す通過粒径d99に対応する。
【0016】
最後に、WO03/089530は、金属基体に、成形性及び低摩耗性を有する耐食性、導電性のポリマー被覆層を被覆するための、樹脂及び無機粒子含有塗料の様な混合物が記述されており、この混合物は、亜鉛粒子の導電性よりも良好な導電性を有し、かつこの混合物の固形分含有率に対応して、4より高いモース硬度(Mohs’hardness)を有する、10質量%以上の導電性粒子を含むものであって、これらの導電性粒子は、Malvern Instruments製のHydro 2005計測ヘッドを有するMastermeter 200により測定したとき、導電性粒子の粒径分布において、導電性粒子の3乃至22容積%は、その容積表示量において、走査電子顕微鏡を用いて測定された、乾燥され、かつ必要により硬化された被覆層の平均層厚さよりも大きいものであった。
【0017】
広範囲の先行技術にも拘らず、周知の溶接可能な防食性被覆物の一層の改善が必要である。また、一方においてこのことは材料の節約及び重量の減少に対する試みにも関係し、このことは、被覆層の可能な限り最小の膜厚を達成するために望ましいことである。また他の面においては、被覆層の厚さを可及的最小にしたとしても、十分な防食保護を達成しなければならない。さらに、この溶接可能な被覆層は、良好な表面滑り特性を有するようにすることによって、被覆された金属板がオイルの塗布なしで成形可能になる。このようにすることにより、一面では、成形用オイルを節約することが可能になり、また他面ではその上にさらに被覆層を形成する前に必要な清浄化工程を単純化することが可能になる。またこのやり方において、全製造工程を通しての、資材消費をさらに減少させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】DE−C−3412234
【特許文献2】EP−A−573015
【特許文献3】DE−A−3640662
【特許文献4】WO99/24515
【特許文献5】WO01/85860
【特許文献6】WO03/089529
【特許文献7】WO03/089507
【特許文献8】WO03/089530
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、上述の優れた作用効果をもたらす被覆された金属基体及び被覆方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、その第一の様相(aspect)において、金属材料からなる板材又は構成部材に関するものであって、この金属板又は構成部材は、その表面上に、少なくとも下記の層:
a)クロムの含有量が0乃至1mg/m2である化成処理層及び
b)0.5乃至2.5μmの範囲内の膜厚を有する架橋結合された有機ポリマーシステ ムの層、但し、この層は、その合計質量を基準にして、2乃至25質量%の、3g /cm3以下の相対密度を有する導電性顔料と、0乃至5質量%の3g/cm3を超える 相対密度を有する導電性顔料とを含む
を含む多層システムを有するものである。
【0021】
自動車製造において、慣用されているように、前記金属材料は、アルミニウム又はアルミニウム合金、亜鉛又は亜鉛合金、鋼又は亜鉛、アルミニウム或は亜鉛又はアルミニウムの合金によって被覆された鋼から選ぶことができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
化成処理層a)は、1mg/m2以下のクロムを含むのであって、先行技術において知られているりん酸塩処理法又はクロム非含有化成法を用いて実施することができる。前記化成方法は、ほう素、珪素及び、特にチタニウム及び/又はジルコニウムの錯フッ化物の酸性溶液の使用を基本にするものである。前記非クロム含有化成法において、プラスの効果が防食保護において得られ、また、例えばポリアクリレート又はアミノ置換ポリビニルフェノールのような有機樹脂が、化成処理層a)を形成するための化成溶液に添加された場合には、次に塗布される、層b)を付着されるときにも得られる。好ましくは化成処理層a)のクロム含有量は0.1mg/m2未満であり、また特に、クロムを含まないことが好ましい。このやり方においては、クロム非含有被覆層で被覆された自動車の車体に対する将来の要求が考慮されている。
【0023】
前述の層a)及び層b)を有する金属板又は構成部材が容易に製造され、かつその製造用工具の磨耗が僅少になるようにするためには、層b)のモース硬度が4以下になるようにすることが得策である。
【0024】
層b)の有機ポリマーシステムは多種の組成を有するものであってもよい。例えば層b)は架橋結合された有機ポリマーシステムとして、ウレタン樹脂を主成分とするポリマーシステムを含んでいてもよい。好ましくは、この層b)は上記のようなウレタン樹脂を含み、このウレタン樹脂は脂肪族ポリイソシアネートとヒドロキシル基含有ポリエステル、ヒドロキシル基含有ポリエーテル、又はヒドロキシル基含有ポリ(メタ)アクリレートとの反応により得られるものである。前記ポリイソシアネート成分は、前記ポリウレタン樹脂を得るために架橋結合するものであって、それは、具体的に述べれば、HDIトリマーを主成分とする脂肪族ポリイソシアネートである。さらに、例えばTDI及びHMDIを主成分とする脂肪族及び芳香族ポリイソシアネートの混合物が好適である。予じめ成形されたポリウレタン樹脂を使用してもよい。このようなポリイソシアネート又はポリウレタン樹脂は市販の製品である。その記載可能な例は、Desmotherm(商標)2170、Vesticoat(商標)UB908、Desmodur(商標)BL3475、Desmodur(商標)HLBA、Desmodur(商標)N3390、Desmodur(商標)N3790、Desmodur(商標)N75及びTolonate(商標)HDT−LV2などである。
【0025】
ポリイソシアネート又はポリウレタン用の架橋反応成分として使用可能なヒドロキシル基含有ポリエステル又はヒドロキシル基含有ポリ(メタ)アクリレートは、上述と同様に、いろいろな商標で商業的に入手可能である。その記載可能な例は、Desmophen(商標)1100、Desmophen(商標)370及びDesmophen(商標)A665BAなどである。
【0026】
別の一態様において、層b)は、架橋結合された有機ポリマーシステムとして、エポキシ樹脂を主成分とするポリマーシステムを包含する。これは、例えば、残留エポキシ基を有するポリエポキサイド又はエポキシ樹脂のプレポリマーと、メラミン/ホルムアルデヒド樹脂、ヒドロキシル基含有ポリエステル、ヒドロキシル基含有ポリエーテル、及びヒドロキシル基含有ポリ(メタ)アクリレートからなる群から選ばれた1種の硬化剤又は複数の硬化剤との反応より得られたものであってもよい。
【0027】
前記エポキシ成分は、例えば下記の市販の原料から選んだものであってもよい。
Beckopox(商標)EM411、Beckopox(商標)EP309、Beckopox(商標)EP401、Araldite(商標)GT6099、及びEpikote(商標)109、
硬化剤として使用可能なヒドロキシル基含有ポリエステル及びヒドロキシル基含有ポリ(メタ)アクリレートは、上記に既に述べた原料から選択することができる。例えば、HDIを主成分とするブロックされた脂肪族イソシアネートとして、使用されるものは、例えば、製品Desmodur(商標)BL3175及びDesmodur(商標)BL3370などである。
【0028】
本発明の目的達成のためには、層b)が架橋結合された有機ポリマーシステムとして、ウレタン樹脂を主成分とするポリマーシステム及びエポキシ樹脂を主成分とするポリマーシステムの両方を含むことが好ましい。このような有機ポリマーシステムを用いると、層b)に次に施されるべき被覆層の防食保護、基体に対する被覆層の密着、成形性及び密着性について最適の特性が得られる。
【0029】
この場合、これらのウレタン樹脂及びエポキシ樹脂は、上述のように提供される。本発明の特徴は前記ウレタン樹脂が、ポリイソシアネートとヒドロキシル基含有ポリエステル、ヒドロキシル基含有ポリエーテル又はヒドロキシル基含有ポリ(メタ)アクリレートとの反応により得られること、並びに、前記エポキシ樹脂がメラミン/ホルムアルデヒド樹脂、ヒドロキシル基含有ポリエステル、ヒドロキシル基含有ポリエーテル又はヒドロキシル基含有ポリ(メタ)アクリレートからなる群から選ばれた1種の硬化剤又は複数種の硬化剤との反応により得られることにある。
【0030】
さらに別の態様において、層b)が、ビスフェノール/エピクロロヒドリンの重縮合生成物を主成分として含むヒドロキシル基含有ポリエーテルとして用いられたエポキシ樹脂と、脂肪族ポリイソシアネートとの反応生成物を構成するポリマーシステムを含むことが特に好ましい。
【0031】
この態様において、ヒドロキシル基含有ポリエーテルとして用いられたエポキシ樹脂は、それ以外の遊離エポキシ樹脂を実質的に含まない。しかし、エポキシ樹脂の架橋結合反応は、前記ヒドロキシル基によって行われる。この点に関し、層b)における架橋結合反応が、HDIを主成分とする脂肪族ポリイソシアネートとの反応により行われることが特に好ましい。この点に関し、このポリマーシステムに加えて、ポリウレタンが、さらに層b)中に含まれることがさらに好ましく、この追加のポリウレタン樹脂は、ポリイソシアネートと、ヒドロキシル基含有ポリエステル及び/又はヒドロキシル基含有ポリ(メタ)アクリレートとの反応により生成する。
【0032】
上記層b)は、導電性顔料として、アルミニウムフレーク、黒鉛、及び/又はカーボンブラックを含んでいてもよい。この場合、黒鉛及び/又はカーボンブラックの使用が好ましい。カーボンブラック、及び特に黒鉛は層b)に導電性を付与するだけでなく、この層b)が、所望の4以下の低モース硬度を有し、かつ易成形性を具現することに貢献するものである。特に黒鉛の潤滑作用は、成形器具の摩耗の低減に貢献する。また、この作用は、潤滑作用を有する顔料、例えば、硫化モリブデンを追加使用することによってさらに促進される。上記層b)は、さらに、潤滑剤又は成形助剤として、ワックス及び/又はテフロン(商標)を含んでいてもよい。
【0033】
3g/cm3以下の相対密度を有する導電性顔料は小さな球体又はこのような球体の凝集体の形状で提供されてもよい。この点について、層b)中の球体又はこれらの球体の凝集体が、2μm未満の直径を有することが好ましい。しかし、前記導電性顔料は層状の形状で提供されることが好ましく、その厚さは、2μm未満であることが好ましい。
【0034】
前記層b)については、それが、さらに腐食防止剤及び/又は防錆顔料を含むことがさらに好ましい。前記腐食防止剤及び/又は防錆顔料として、本発明の目的達成に、従来技術により知られたものを用いてもよい。このような防錆顔料として、酸化マグネシウム顔料、特にナノスケール(微細)なもの、微細に粉砕された硫酸バリウム、又は珪酸カルシウムを主成分として含む防錆顔料などを例示することができる。
【0035】
前記層b)の機械的及び化学的特性は、それにシリカ又は珪素酸化物を含ませることによって、さらに改良することができる。これらは、疎水性化(hydrophobized)されたものであってもよい。このような製品は、例えば、Aerosil(商標)の名称により入手可能である。
【0036】
従って、前記層b)については、それが前記不可欠成分に加えて、下記から選択された1種以上を含んでいることが好ましい。
I 腐食防止剤及び/又は防錆顔料、その含有量は好ましくは5乃至60質量%で、さ らに好ましくは10乃至40質量%である。
II シリカ又は珪素酸化物、その含有量は好ましくは0.5乃至5質量%、さらに好ま しくは、1乃至3質量%である。
III 潤滑剤又は成形助剤、好ましくはワックス、硫化モリブデン及びテフロン(商標 )、その含有量は好ましくは0.5乃至20質量%、さらに好ましくは、1乃至1 0質量%である。
但し、前記含有量は、前記層b)の合計質量に対する質量%で表される。
【0037】
前記層b)において有機バインダーの含有率は、無機顔料の含有率より低くてもよい。しかし、一般には、層b)については、それが、有機バインダーを、無機顔料よりも多く含むことが好ましい。無機顔料の、有機バインダーに対する質量比は1:1乃至1:3の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは、1:1.5乃至1:2の範囲内である。
【0038】
前記層b)を具備している金属部品、特に金属板が、容易で低磨耗成形性を得るためには、その両面上に、多層システムを有していて、それによって、トライボメーター磨耗試験において、オイルを塗布付与することなく、300乃至700daNの範囲内の接触圧下において0.1未満の摩擦係数μを有することが有利である。このような被覆層は、オイルを追加塗布することなしでも、直接に形成されてもよい。この方途において、成形オイルは省略されてもよく、被覆層の形成の前に必要な清浄化を単純化してもよい。このことは、上記においてきわめて詳細に説明されているように、特に、前記層b)が、導電性顔料として黒鉛を含み、有機ポリマーシステムとして、ウレタン樹脂を主成分とするポリマーシステム並びにエポキシドを主成分とするポリマーシステムの両方を含むときに、達成される。さらに、前記層b)が、約0.2乃至約0.5質量部のシリカ(Aerosil(商標))を含むときに、有利な効果が得られる。
【0039】
本発明はその第二の様相(aspect)において、さらに、化成処理層a)及び導電性有機層b)からなる前述の複数層システムを含む金属板又は構成部材を製造する方法に関するものである。よって、本発明は、また、被覆されるべき金属板又は構造部材が、
i)必要により、清浄化され、
ii)化成処理溶液に接触させられ、それによって、化成処理層が形成され、かつ、その 後に中間洗浄を施し又は、施さず、さらに、
iii)液状処理剤に接触させられ、それが120乃至260℃の範囲内の基体温度にお いて硬化させられた後、層b)が形成される、
ことを含む金属板又は構成部材を製造する方法を提供する。
前記硬化は、150乃至170℃の温度範囲内において行われることが好ましい。
【0040】
この方法では、少なくとも上記工程(ii)及び(iii)が、金属帯材処理法(strip treatment processer)のようにして実施され、前記液状処理剤は、上記工程(iii)において施される。このときの前記液状処理剤の量は、硬化後に0.5乃至2.5μmの範囲内の所望厚さが得られる量である。従って、前記層b)は、金属コイル材被覆法(coil coating process)を用いて形成されることが好ましい。この方法において、可動金属ストリップが、連続的に被覆される。この場合、前記被覆組成物を、先行技術において、よく知られている色々な方法により被覆することができる。例えば、塗布ローラーを用いてもよく、それによって、所望の湿潤皮膜厚さが、直接に得られる。他の方法においては、金属ストリップを被覆組成物中に浸漬し、又は被覆組成物を金属ストリップにスプレーし、その後に、絞りローラーを用いて、所望の未乾燥膜厚を得ることができる。
【0041】
金属ストリップが被覆されるとき、それが、直前に金属被覆、例えば、電気めっき、又は溶融亜鉛めっき又は亜鉛合金めっきにより被覆されているときは、前記化成処理工程(ii)が施される前に、その金属表面を清浄化することは不必要である。しかし、その金属ストリップが、既に貯蔵されていたものであり、特に、防食油を塗布されている場合には、前記工程(ii)が施される前に清浄化工程を施すことが必要である。
【0042】
工程(iii)において、液状処理液の塗布を行った後、被覆された金属板を、前記有機被覆層形成に必要な乾燥及び架橋結合温度に加熱する。この被覆された基体をトンネル型加熱炉内で、120乃至260℃の範囲内の、好ましくは150乃至170℃の範囲内の、所要基体温度(最高到達板温(peak metal temperature)=PMT)に加熱してもよい。しかし、前記処理剤の温度を赤外線照射、特に近赤外線照射により、適切な乾燥及び架橋結合温度に合わせてもよい。
【0043】
形成された被覆層に関して、上記において既に説明したように、工程(ii)に用いられる化成処理溶液は、先行技術において知られている層形成性又は非層形成性りん酸塩処理液であってもよい。そうでなければ、酸性処理溶液を用いてもよく、これは層形成性成分として、珪素及び、特にチタン及び/又はジルコニウムのフッ化物錯体を含むものである。前記化成溶液は、さらに、例えばポリアクリレート又は、アミノ−置換ポリビニルフェノール誘導体のような有機ポリマーを含んでいてもよい。前記工程(ii)において化成処理溶液に、ナノスケール(nanoscale)のシリカ又はナノスケールのアルミナを添加すると、それによって、化成処理層の防食性及び密着性がさらに向上することがある。こゝで述べている「ナノスケール」の粒子とは、1000nm未満の、好ましくは500nm未満の平均粒子径を有する粒子を意味するものである。
【0044】
前記導電性有機層b)中の有機ポリマーシステムの好ましい構造は、上述のとおりである。このことに基づき、処理工程(iii)において用いられる液状処理剤が、対応する反応性ポリマー成分を含むことは自明である。これに関してさらに上記の態様を参照する。
【0045】
この場合、工程(iii)における液状処理剤が、少なくとも1種のポリイソシアネート及びヒドロキシル基含有ポリエステル、ヒドロキシル基含有ポリエーテル又はヒドロキシル基含有ポリ(メタ)アクリレートから選ばれた少なくとも1種の反応成分を含むことが特に好ましい。さらに、工程(iii)に用いられる液状処理剤が、少なくとも下記成分:残存エポキシ基を有するポリエポキシド、並びにメラミン/ホルムアルデヒド樹脂、ヒドロキシル基含有ポリエステル、ヒドロキシル基含有ポリエーテル、及びヒドロキシル基含有ポリ(メタ)アクリレートからなる群から選ばれた1種以上の硬化剤、を含むことが特に好ましい。
【0046】
上記態様のそれぞれにおいて、前記液状処理剤が、下記架橋反応可能な樹脂成分A)〜D):
A)ブロックされていない脂肪族ポリイソシアネート、
B)ブロックされた脂肪族ポリイソシアネート、
C)ビスフェノール/エピクロロヒドリン重縮合反応生成物を主成分として含む、ヒド ロキシル基含有ポリエーテルとして提供されるエポキシ樹脂、及び
D)ヒドロキシル基含有ポリエステル、ヒドロキシル基含有ポリ(メタ)アクリレート から選ばれた少なくとも1種の反応成分
の少なくとも1種を含むものである。
【0047】
前記脂肪族ポリイソシアネートは、HDIを主成分とするもの、特に、HDIトリマーを主成分とするもの、であることが好ましい。慣用のポリイソシアネート用ブロッキング剤を、前記ブロックされた脂肪族ポリイソシアネートB)におけるブロッキング剤として使用することができる。上記ブロック剤としては、ブタノンオキシム、ジメチルピラゾール、マロン酸エステル、ジイソプロピルアミン/マロン酸エステル、ジイソプロピルアミン/トリアゾール及びε−カプロラクタム、などをあげることができる。マロン酸エステルとジイソプロピルアミンとの組合せが、前記ブロッキング剤として用いるのに好ましい。
【0048】
上述の成分は前記処理剤中に、溶剤含有被覆剤の合計質量を基準として、下記の割合で存在することが好ましい。
A)ブロックされていない脂肪族ポリイソシアネート:5乃至20質量%、好ましくは 6乃至12質量%、
B)ブロックされた脂肪族ポリイソシアネート:2乃至20質量%、好ましくは3乃至 10質量%、
C)ヒドロキシル基含有ポリエーテルとして存在するエポキシ樹脂:2乃至10質量% 、好ましくは2.4乃至6質量%、
D)ヒドロキシル基含有ポリエステル及び/又は、ヒドロキシル基含有ポリ(メタ)ア クリレートの合計量:10乃至30質量%好ましくは12乃至23質量%
【0049】
硬化後に、層b)の有機ポリマーシステムを形成する有機ポリマー成分は、原料中に、原則として、有機溶剤中溶液として存在する。従って、工程(iii)において用いられる前記被覆剤は上記と同様に有機溶剤を含有する。このようなことは、被覆剤が導電性顔料、例えば黒鉛と及び必要により他の顔料、特に、防錆顔料などとをさらに含んでいる場合であっても、前記被覆剤を前記コイル被覆法を用いて基体に塗布することを可能にする粘度を被覆剤に付与するためには、望ましいことである。必要があるならば、溶剤を被覆剤に添加してもよい。一般に、工程(iii)において、塗布すべき被覆剤は、25乃至60質量%の、好ましくは35乃至55質量%の溶剤を含んでいる。この溶剤の化学的性質は一般に対応溶剤を含む原料の選択により予じめ定まる。使用できる溶剤の例は、クロロヘキサノン、ジアセトンアルコール、酢酸ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコール、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールn−ブチルエーテル、酢酸メトキシプロピル、こはく酸ジメチルエステル、グルタル酸ジメチルエステル及び/又はアジピン酸ジメチルエステルである。
【0050】
云うまでもなく、工程(iii)において塗布される液状処理剤には、前記層b)中の成分として、本質的に、又は必要により存在する前述の成分を、相応の量率で含んでいる。これらの成分は前記液状処理剤中に、相応の量率で含まれているが、しかし、前記有機溶剤が存在することにより、前記液体処理剤中の前記成分の絶対量率は、仕上げ後の層b)における絶対量率よりも低くなる。従って、本発明方法においては、工程(iii)中に用いられる液状処理剤が、その合計質量を基準にして、1乃至12質量%の、最大3g/cm3の相対密度を有する導電性顔料を含み、相対密度が3g/cm3を超える導電性顔料の含有量が、3質量%以下であることが好ましい。
【0051】
工程(iii)において用いられる液状処理剤が、下記の成分を、前記液状処理剤の合計質量を基準として、下記の量質で、さらに含むことが好ましい。
I 腐食防止剤及び/又は防錆顔料、含有量率:好ましくは2.5乃至30質量%、さ らに好ましくは5乃至20質量%、
II シリカ又は珪素酸化物、含有量率:好ましくは0.2乃至2.5質量%、さらに好 ましくは0.5乃至1.5質量%、
III 潤滑剤又は成形助剤、好ましくは、ワックス、硫化モリブデン及びテフロン(商 標)から選ばれる、含有量率:0.5乃至20質量%、より好ましくは1乃至10 質量%。
【0052】
工程(iii)において用いられる液状処理剤は、その合計質量を基準にして、25乃至60質量%、好ましくは35乃至55質量%の有機溶剤及び20乃至45質量%の、樹脂成分を含むように構成されることが好ましい。全体を100質量%にするための残余の成分は前述の必須成分と、任意成分とに分けられる。しかし、樹脂成分と有機溶剤との合計は最大99質量%になると思われる。その理由は前記液状処理剤は、少なくとも1質量%の導電性顔料を含まなければならないからである。従って、液状処理剤は、固体成分、特に防錆顔料などをさらに含むことを意図することが好ましいものであるから、この場合には樹脂成分と溶剤との合計量は、96質量%を超えないことが好ましく、特に85質量%を超えないことがさらに好ましい。
【0053】
既に上記において記述したように、本発明方法により被覆された金属板は成形オイルを使用せずに製造することができる。塗布層の厚さが薄いことによる材料の節約に加えて、成形オイルの節約は、本発明の顕著な利点である。従って、本発明は、その他の様相(aspect)において、金属板から成形された構造部材の製造方法に関するものであり、この方法において、上述の金属板が、オイルを塗布することなく形成され、この形成された金属板が、アーク溶接により他の金属板と接合される。
【0054】
本発明によって被覆された金属板は、車輌(自動車)及び家庭用器具製造業において好ましく使用される。このような場合、本発明により被覆された金属板から、それに相応する目的物を製造した後、層b)に、1以上の被覆層をさらに被覆することは慣用のことである。このような追加被覆は通常、乗物構造体において、カソード電着塗装または陰極電着塗装によって、実施されるがこの処理は、被覆層が導電性を有することによって可能である。この処理の後に、自動車工業においては通常の追加被覆が施される。例えば、家庭用器具工業における単純な防食性の要求に対して、層b)上に、粉体塗装を、上層(top coat)として、被覆されてもよい。
【実施例】
【0055】
本発明を、下記実施例により詳細に説明する。
【0056】
a)前処理:
りん酸、りん酸マグネシウム、H2TiF6及びアミノメチル−置換ポリビニルフェノール(Granodine(商標)1455、ヘンケル社製)を主成分とする市販の前処理溶液を、アルカリ性洗浄剤(Ridoline(商標)C72、Ridoline(商標)1340:浸漬又はスプレー洗浄剤製品、ヘンケル社製)により洗浄された亜鉛めっき金属板に塗布し、かつスピンコーター(spin coater)又はケムコーター(chemcoater)を用いて、金属表面を覆うようにひろげる。これを80℃において乾燥する。
【0057】
b)防食性組成物の製造法及び使用法
有機バインダーを室温において、ディソルバーに入れ、それに防錆顔料(混合物)を、微細に分散する。その時間は10乃至60分でよい。次に、導電性顔料を導入し、かつ完全に湿潤するまで、ゆっくり撹拌して分散させる。これに要した時間は、前記と同様に10乃至60分である。必要によりそれに溶剤及びさらに添加剤を混入する。
【0058】
前記前処理された金属板に、前記組成物を、コーティングナイフ又はロールコーター(coating knife or roll coater)を用いて、塗布し、乾燥器内において加熱して後記の表に示されている基体温度に加熱して硬化させる。
【0059】
試験方法
防食保護試験(DN 50021に準拠)
被覆された供試金属板の3個の縁部及び背面を、接着テープでマスクする。1個の長い側面に新らしい切断縁部を形成する。この金属板にさらに、刻み目を入れる(score)、次に、この供試金属板を塩水噴霧試験装置中に導入する。特定の時間間隔の後、前記刻み目、前記縁部及びシート表面における錆の程度を評定する。後記の表に、供試金属板上において、赤錆が視認できるまでの時間数を表す。
【0060】
MEK抵抗度
1kgの重りを、メチルエチルケトン(MEK)により含浸されたコットンウール中に包み入れ、これを防食性組成物により被覆された供試表面を擦過させる。金属基体が、視認できる程度に前記被覆層を除去するのに要した擦過サイクルの回数を計測し、これをもって、溶剤抵抗度とする。
【0061】
T−屈曲試験:ECCA試験法T7〔1996〕に準拠:「屈曲による亀裂に対する抵抗」
被覆された金属板をプレスブレーキを用いて180度まで曲げる。供試金属板の縁部に接着テープ(Tesafilm 4104を貼りつけ、急激に引っぱってはぎ取る。この縁部に形成された亀裂をDIN 53230に準拠して評価する。
【0062】
裏面衝撃試験:ECCA試験法T5〔1985〕に準拠:「急速形成間の亀裂に対する抵抗」
片面被覆された金属板をボール衝撃試験機(重量:2kg、高さ:1m)を用いて変形させる。得られた張り出し部分に接着テープ(Tesafilm 4104)を貼りつけ、急激に引っぱってはぎ取る。接着テープとともにはがされた被覆層の量を、目視により1から5までの段階に判定する評価基準を使用して計測する。この評価基準は被覆層の剥離なしを1とし、被覆層の剥離大を5とするものである。
【0063】
耐アルカリ性
片面被覆された金属板を前記裏面衝撃試験と同様にして変形させる。この変形した部分を、70〜80℃のアルカリ性洗浄溶液(Ridoline(商標)C72、1%、pH約13)中に10分間浸漬する。接着テープ(Tesafilm 4104)を、得られた張り出し部分に貼りつけ、急激に引っぱって剥離する。接着テープとともに剥離した被覆層の量を、1〜5段階の計測スケールを用いて、観察により計測する。このとき被覆層の剥離なしを1とし、被覆層の剥離大を5とする。
【0064】
溶接試験
Dalex製の自動溶接機(PMS 11−4モデル)を用いて自動車工業界において通常の条件下でアーク溶接試験を行った。溶接点を、Daimler Chryslar仕様書DBL 4062/4066の範囲内において評定した。これは、本発明に従う腐食防止剤により被覆された金属板は、実用条件下において、十分な電極稼働寿命をもって電気アーク溶接ができることを意味する。
【0065】
磨耗試験
両面に上述の被覆層を有する供試金属板を2個の加圧あごの間に導入し、この加圧あごにより金属板を圧力Fsをもってプレスする。この金属板を力Ftをもって上向きに引き出す。このときの摩擦係数μは、Ft/(2Fs)と定義される。
【0066】
前記加圧あごの各々は、1cm2の面積を有し、0乃至2000daNの間の力でプレスされ、接触圧のレベルを通常、1秒間当り10daNづつ増加させる。引張り力Ftは、0から100daNまでの間で変動し、供試金属板は、加圧あごを通って、1秒間当り1.5乃至200mmの速度で引き取られる。
【0067】
本発明の被覆を、オイルを追加塗布することなしで行う場合、最大接触力Fs:800daNまで測定すると、摩擦係数は、最初に最大に達した後は、0.1未満であり原則としては、0.06乃至0.9の間の範囲内にある。上記と同一の試験を、本発明とは異り、先行技術(Granocoat(商標)ZE、Henkel KGaA)を用いて得られた被覆物について行うと、得られる摩擦係数は、0.1未満の値にはならない。この比較被覆層を、0.5g/m2の成形オイルで被覆したときでも、同様の結果が得られる。
【0068】
実際には上記の結果は、本発明による被覆層を有する金属板は、オイルの追加塗布なしで、成形することができることを意味し、また、損傷を受けることなしで、或は成形器具の過剰な磨耗なしで成形できることを意味する。
【0069】
本発明による防食組成物の組成に関する詳細及び結果を、下記の表に示す。表中の略記号の意味は下記のとおりである。
PMT:最高到達板温(Peak Metal Temperature)、被覆層の 硬化中に到達した基体の最高温度
MEK:上述のとおりの耐MEK性を表す。
【0070】
実施例1〜27
【0071】
【表1】

【表2】

【0072】
【表3】

【0073】
【表4】

【0074】
【表5】

【0075】
【表6】

【0076】
【表7】

【0077】
【表8】

【0078】
【表9】

【0079】
【表10】

【0080】
【表11】

【0081】
【表12】

【0082】
【表13】

【0083】
【表14】

【0084】
実施例28〜47
【0085】
【表15】

【0086】
【表16】

【0087】
【表17】

【0088】
【表18】

【0089】
【表19】

【0090】
【表20】

【0091】
【表21】

【0092】
【表22】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料からなる板材又は構成部材であって、その表面上に形成されている少なくとも下記層を含む多層システム;
a)1mg/m2以下のクロムを含む化成処理層、
b)0.5乃至2.5μmの範囲内の厚さを有する架橋結合された有機ポリマー成分の 層、但し、この層は、この層の合計質量に対して、2乃至25質量%の、3g/cm 3以下の相対密度を有する導電性顔料及び0乃至5質量%の、3g/cm3を超える相 対密度を有する導電性顔料を含む
を有する、金属材料からなる板材又は構成部材。
【請求項2】
前記金属材料が、アルミニウム又はアルミニウム合金、亜鉛又は亜鉛合金、鋼又は亜鉛、アルミニウム或は亜鉛又はアルミニウムの合金から選ばれる、請求項1に記載の金属材料からなる板材又は構成部材。
【請求項3】
前記化成処理層a)が、層形成又は層を形成しないりん酸塩処理、或は、B,Si,Ti,Zr及び/又はHfの錯フッ化物の水溶液による処理により得られた化成処理層である、請求項1又は2に記載の金属材料からなる板材又は構成部材。
【請求項4】
前記層b)が架橋結合された有機ポリマーシステムとして、ウレタン樹脂を主成分とするポリマーシステムを含む、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の金属材料からなる板材又は構成部材。
【請求項5】
前記ウレタン樹脂が脂肪族ポリイソシアネートと、ヒドロキシル基含有ポリエステル、ヒドロキシル基含有ポリエーテル又はヒドロキシル基含有ポリ(メタ)アクリレートとの反応により得られるものである、請求項4に記載の金属材料からなる板材又は構成部材。
【請求項6】
前記層b)が、前記架橋結合した有機ポリマーシステムとして、エポキシ樹脂を主成分とするポリマーシステムを含む、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の金属材料からなる板材又は構成部材。
【請求項7】
前記エポキシ樹脂が、残留エポキシ基を有するポリエポキシドと、メラミン/ホルムアルデヒド樹脂、ヒドロキシル基含有ポリエステル、ヒドロキシル基含有ポリエーテル及びヒドロキシル基含有ポリ(メタ)アクリレートからなる群から選ばれた1種の架橋剤又は複数種の架橋剤との反応により得られるものである、請求項6に記載の金属材料からなる板材又は構成部材。
【請求項8】
前記層b)が架橋結合された有機ポリマーシステムとして、ウレタン樹脂を主成分とするポリマーシステムと、エポキシ樹脂を主成分とするポリマーシステムとの両方を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の金属材料からなる板材又は構成部材。
【請求項9】
前記ウレタン樹脂がポリイソシアネートと、ヒドロキシル含有ポリエステル、ヒドロキシル基含有ポリエーテル又はヒドロキシル基含有ポリ(メタ)アクリレートとの反応により得られるものであり、また前記エポキシ樹脂が、ポリエポキシドと、メラミン/ホルムアルデヒド樹脂、ヒドロキシル基含有ポリエステル、ヒドロキシル基含有ポリエーテル及びヒドロキシル基含有ポリ(メタ)アクリレートからなる群から選ばれた1種の架橋剤又は複数種の架橋剤との反応によって得られる、請求項8に記載の金属材料からなる板材又は構成部材。
【請求項10】
前記層b)が、ヒドロキシル基含有ポリエーテルとして存在し、ビスフェノール/エピクロロヒドリン重縮合生成物を主成分とする、エポキシ樹脂と、脂肪族ポリイソシアネートとの反応生成物からなるポリマーシステムを含む、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の金属材料からなる板材又は構成部材。
【請求項11】
前記層b)がさらに、ポリイソシアネートと、ヒドロキシル基含有ポリエステル又はヒドロキシル基含有ポリ(メタ)アクリレートとの反応により得られるウレタン樹脂をさらに含む、請求項10に記載の金属材料からなる板材又は構成部材。
【請求項12】
前記層b)が、導電性顔料として、黒鉛及び/又はカーボンブラックを含む、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の金属材料からなる板材又は構成部材。
【請求項13】
前記層b)が、さらに、層b)の合計質量を基準にして、下記i乃至iii:
i 好ましくは5乃至60質量%、より好ましくは、10乃至40質量%の腐食防止剤 及び又は防食顔料、
ii 好ましくは0.5乃至5質量%の、より好ましくは、1乃至3質量%のシリカ又は 珪素酸化物、及び
iii 好ましくはワックス、硫化モリブデン及びテフロン(Teflon、商標)から 選ばれ、好ましくは、0.5〜20質量%、より好ましくは1乃至10質量%の、 潤滑剤又は成形助剤
を含む、請求項1乃至12のいずれか1項に記載の金属材料からなる板材又は構成部材。
【請求項14】
前記複数層システムが、金属板又は構造部材の両面上に形成されているとき、前記金属板又は構造部材が、300乃至700daNの範囲内の接触圧において、オイルの追加塗布なしの、トライボメーター磨耗試験において、0.1μ未満の摩擦係数を示す、請求項1乃至13のいずれか1項に記載の金属材料からなる板材又は構成部材。
【請求項15】
前記層b)が4以下のモース硬度(Mohs’hardness)を示す、請求項1乃至14のいずれか1項に記載の金属材料からなる板材又は構成部材。
【請求項16】
被覆すべき前記金属材料からなる板材又は構成部材が、
i)必要により、清浄化され、
ii)化成処理液と接触させて、前記化成処理層a)を形成し、その後、中間洗浄を施し 又は施さずに、
iii)液体処理液に接触させ、その後これを120乃至260℃の範囲内の基体温度に おいて硬化して、層b)を形成する、
ことを含む、請求項1乃至15のいずれか1項に記載の金属材料からなる板材又は構造部材を製造する方法。
【請求項17】
少なくとも工程ii)及びiii)が、金属ストリップ処理方法によって実施され、前記液状処理剤が工程iii)において、塗布され、その塗布量を硬化後に、層の厚さが0.5乃至2.5μmの範囲内になるように設定して、ストリップ形状の被覆板材が製造される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
工程iii)における前記液状処理剤が、少なくとも1種のポリイソシアネートと、ヒドロキシル基含有ポリエステル、ヒドロキシル基含有ポリエーテル又はヒドロキシル基含有ポリ(メタ)アクリレートから選ばれた少なくとも1種の反応成分とを含む、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
工程iii)における前記液状処理剤が、残留エポキシ基を有する少なくとも1種のポリオキサイドと、メラミン/ホルムアルデヒド樹脂、ヒドロキシル基含有ポリエステル、ヒドロキシル基含有ポリエーテル及びヒドロキシル基含有ポリ(メタ)アクリレートからなる群から選ばれた1種以上の架橋剤を含む、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項20】
工程iii)における前記液状処理剤が、請求項16及び17のいずれの場合においても、下記架橋反応性樹脂成分A)乃至D):
A)非ブロック脂肪族ポリイソシアネート、
B)ブロックされた脂肪族ポリイソシアネート、
C)ヒドロキシル基含有ポリエーテルとして存在し、ビスフェノール/エピクロロヒド リン重縮合生成物を主成分とするエポキシ樹脂、及び
D)ヒドロキシル基含有ポリエステル及びヒドロキシル基含有ポリ(メタ)アクリレー トから選ばれた少なくとも1種の反応成分
の少なくとも1種を含む、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項21】
工程iii)における前記液状処理剤が、その合計質量を基準にして、1乃至12質量%の、好ましくは4乃至8質量%の、3g/cm3以下の相対密度を有する導電性と、0乃至3質量%の、3g/cm3を超える相対密度を有する導電性顔料を含む、請求項16乃至20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
工程iii)における前記液状処理剤が、さらに、前記液状処理剤の合計質量を基準にして、下記成分:
I 好ましくは2.5乃至30質量%の、さらに好ましくは5乃至20質量%の、腐食 防止剤又は防錆顔料、
II 好ましくは、0.2乃至2.5質量%、さらに好ましくは0.5乃至1.5質量% の量のシリカ又は珪素酸化物、及び
III ワックス、硫化モリブデン及びテフロン(商標)から選ばれ、好ましくは0.5 乃至20質量%、さらに好ましくは1乃至10質量%の量の潤滑剤又は成形助剤
から選ばれた1種以上を含む、請求項16乃至21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
工程iii)における前記液状処理剤が、その合計重量を基準にして、25乃至60質量%、好ましくは35乃至55質量%の、有機溶剤と、20乃至45質量%の樹脂成分を含む、請求項16乃至22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
請求項1乃至15のいずれか1項に記載の金属材料からなる板材を、オイルを塗布することなく成形し、得られた成形板材を、アーク溶接法によって、他の板材に接合する、金属材料からなる板材から成形された構成部材を製造する方法。

【公表番号】特表2010−514599(P2010−514599A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−544376(P2009−544376)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【国際出願番号】PCT/EP2007/063322
【国際公開番号】WO2008/080746
【国際公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】