説明

薄膜センサ、薄膜センサモジュールおよび薄膜センサの製造方法

【課題】成膜後の熱処理条件に依存することなく、一部の結晶粒のみの巨大化、および感温抵抗体の表面粗さの増大を抑制しつつも、結晶粒の平均粒径を増加させることで、高感度化を達成し得る薄膜センサを提供すること。
【解決手段】絶縁基板と、該絶縁基板上に積層された白金族金属の結晶からなる感温抵抗体とを有し、前記感温抵抗体の層の面垂直方向(ND方向)に対して10°以内に配向している前記結晶の(111)面の割合が、99%以上であることを特徴とする薄膜センサ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜センサ、薄膜センサモジュールおよび薄膜センサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種物体又は流体の温度を測定する温度センサなどの機能の発揮のために用いられている薄膜センサモジュールとしては、熱量を電気信号に変換して温度を検出する感温抵抗体を利用したものが広く使用されている。なかでも、感度の点で、抵抗温度係数の絶対値が大きい白金族元素を利用した薄膜センサモジュールが広く用いられているが、さらなる高感度化が求められているのが現状である。
【0003】
一般に、抵抗体の抵抗温度係数は、抵抗体を構成する結晶の存在形態により、影響を受けることが知られている(非特許文献1)。例えば、特許文献1及び非特許文献2には、成膜後の積層体を熱処理するなどして、抵抗体を構成する結晶の粒径を大型化することにより、高感度化を図る技術が開示されている。
【0004】
感温抵抗体を構成する結晶の粒径を大型化する方法としては、まず、基板上に白金などの感温抵抗物質をメッキや蒸着等の積層技術によりパターンを形成させて堆積させ、その後、数百〜千℃程度で熱処理して結晶を成長させる方法などが挙げられる。
【0005】
しかしながら、感度を増大させることを目的として、過酷な熱処理条件により結晶を成長させることは可能であるが、この場合、多量の熱量を必要とする。また、これに付随して、この熱量に耐え得る設備が必要となり、コスト的にも不利であった。
【0006】
また、特許文献2には、白金薄膜抵抗体の製造の際に、白金薄膜と基板との密着性を向上させるための層(たとえば)チタン層を両者の間に介在させることが記載されている。
さらに、特許文献1には、白金薄膜抵抗体の製造方法において、白金薄膜と基板との間にチタン層を介在させることで基板に対する白金薄膜の密着性の向上を図りながら、白金薄膜またはチタン層の形成のためのスパッタリングガス中に酸素を混入しておくことで、高温アニールによる白金薄膜の抵抗温度係数の十分な向上が可能となることが記載されている。
【0007】
しかしながら、白金薄膜と基板との密着性には、さらなる改善の余地があった。
【特許文献1】特開2001−291607号公報
【特許文献2】特開平11−354302号公報
【非特許文献1】「薄膜・微粒子の構造と物性」、丸善、139〜156頁(1974)
【非特許文献2】「高TCR白金薄膜の開発」、IEEE Trans.SM.、124巻、7号、242〜247頁(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであって、成膜後の熱処理条件に依存することなく、一部の結晶粒のみの巨大化、および感温抵抗体の表面粗さの増大を抑制しつつも、結晶粒の平均粒径を増加させることで、高感度化を達成し得る薄膜センサおよび該薄膜センサを有する薄膜センサモジュール、ならびに該薄膜センサの製造方法を提供することを目的としている。
【0009】
また本発明は、高感度であり、かつ感温抵抗体が剥がれ難い薄膜センサおよび該薄膜センサを有する薄膜センサモジュール、ならびに該薄膜センサの製造方法を提供することをさらなる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の薄膜センサは、
絶縁基板と、該絶縁基板上に積層された白金族金属の結晶からなる感温抵抗体とを有し、
前記感温抵抗体の層の面垂直方向(ND方向)に対して10°以内に配向している前記結晶の(111)面の割合が、99%以上である
ことを特徴としている。
【0011】
前記結晶は、繊維状配向組織を有し、該繊維状配向組織において、前記結晶の(111)面が前記感温抵抗体の層の面垂直方向を回転軸としていることが好ましい。
前記感温抵抗体の表面粗さRaは、50nm以下であることが好ましい。
【0012】
前記感温抵抗体の表面粗さRzは、1μm以下であることが好ましい。
前記結晶の粒径は、0.4μm以上であることが好ましい。
前記白金族金属は、白金であることが好ましい。
【0013】
前記薄膜センサは、前記絶縁基板上と前記感温抵抗体との間に、遷移金属を主成分とする材料からなる密着層をさらに有することが好ましい。
前記薄膜センサは、前記絶縁基板上と前記密着層との間に、ケイ素と炭素、窒素、フッ素および酸素からなる群から選ばれる元素との化合物からなるケイ素化合物層をさらに有することが好ましい。
【0014】
前記薄膜センサとしては、温度センサ、流量センサ、比熱センサ、熱伝導性センサ、濃度センサ、液種識別センサ、歪センサ、応力センサおよび湿度センサからなる群から選択されたセンサが挙げられる。
【0015】
本発明の薄膜センサモジュールは、前記薄膜センサを有することを特徴としている。
本発明の薄膜センサの製造方法は、
前記絶縁基板上に、前記絶縁基板の温度を400〜800℃として、白金族元素を主成分とする金属をスパッタリングすることにより該金属の結晶からなる感温抵抗体を積層する工程
を有することを特徴としている。
【0016】
前記スパッタリングは、以下の条件下で行うことが好ましい;
成膜圧力:0.10Pa以下、かつ
成膜電力:50〜100W。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、感温抵抗体を構成する結晶の配向性、結晶構造を調節することによって、一部の結晶粒のみの巨大化、および感温抵抗体の表面粗さの増大を抑制しつつも、結晶粒の平均粒径を増加させることで、感温抵抗体の抵抗温度係数が高められ、感度が向上した薄膜センサおよび該薄膜センサを有する薄膜センサモジュール、ならびに該薄膜センサの製造方法が提供される。
【0018】
また本発明の一態様によれば、高感度であり、感温抵抗体が剥がれ難い、薄膜センサおよび該薄膜センサを有する薄膜センサモジュール、ならびに該薄膜センサの製造方法が提
供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
<薄膜センサ>
図1は、本発明の薄膜センサ(薄膜チップ)の概略図である。薄膜センサ10は、電気的に絶縁性を有する絶縁基板11と、感温抵抗体14とを少なくとも有する。
【0020】
薄膜センサ10は、図2に示すように、絶縁基板11と感温抵抗体14との密着性を向上させることを目的として、絶縁基板11と感温抵抗体14との間に密着層13を有してもよく、さらに絶縁基板11と密着層13との間にケイ素化合物層12を有してもよい。薄膜センサ10は、薄膜センサの物理的な損傷の防止を目的として、薄膜センサ10の表面に保護膜16を有してもよい。薄膜センサ10は、薄膜センサ10と外部の部材とを電気的に接続するボンディングパッド18を有してもよい。
【0021】
なお、本発明においては、絶縁基板から感温抵抗体に向かう方向を、便宜上「上」と称することがある。
絶縁基板11の材料としては、絶縁性を有する材料であれば、特に制約はなく、例えば、シリコン、アルミナ等が挙げられる。絶縁基板11の形状は、種々の形状とすることができ、例えば、図1に示すように矩形であってもよく、楕円形、円形であってもよい。また、絶縁基板11の膜厚は、300〜1,000μm程度であってもよい。
【0022】
感温抵抗体14は、抵抗温度係数が大きく熱的に安定な材料で製造されたものであれば、特に制約はなく、感温抵抗体14の材料としては、白金族元素(ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金)のうち少なくとも一種類以上の元素を主成分とする金属又はこれら金属の合金が用いられる。特に、製膜の容易さ、特性の安定性、コストの面から、白金がより好ましい。感温抵抗体14は、このような材料を用いて、所望の膜厚や、所望のパターンに成形されればよく、例えば、膜厚は0.1〜1μm程度であってもよい。
【0023】
密着層13の材料は、絶縁基板11の温度−抵抗特性に影響を与えない材料及び範囲において種々選択すればよく、その例として、遷移金属を主成分とする材料が挙げられ、この材料の中には、金属として、遷移金属以外の金属が含まれていてもよい。この遷移金属を主成分とする材料としては、具体的にはチタン(Ti)、クロム(Cr)、TiO2
TiBaOなどが挙げられ、中でも密着性の観点からチタンおよびクロムが好ましい。遷移金属を主成分とする材料の中には、遷移金属が通常10〜100重量%、好ましくは60〜100重量%含まれる。密着層の厚みは、例えば、0.002〜0.1μmであることが好ましく、0.005〜0.05μmであることがより好ましい。
【0024】
ケイ素化合物層12は、ケイ素と、炭素、窒素、フッ素および酸素からなる群から選ばれる元素との化合物からなる。このような化合物としては、SiO2、SiN、SiON
、SiC、SiOC、SiOFなどが挙げられ、中でも成膜の容易さの観点からSiO2
が好ましい。
【0025】
ケイ素化合物層12の厚さは、好ましくは50〜5,000nm、さらに好ましくは100〜1,000nmである。
感温抵抗体14は、密着層13と、さらにこのケイ素化合物層12とを介して絶縁基板11に積層されると、絶縁基板11に強固に密着し、剥がれ難い。
【0026】
保護膜16の材料としては、上述の目的を達成し得る材料であれば特に制約はなく、例えば、樹脂やガラス等が挙げられる。また、保護膜16の膜厚は、約1μm程度であって
もよい。
【0027】
ボンディングパッド18の材料としては、良好な導電性を有するものであれば特に制約はなく、例えば、金(Au)、白金などが挙げられる。また、ボンディングパッド18は、適用される形態に応じて種々の形状であってもよく、例えば、縦横0.2×0.15mm、厚み0.1μm程度の形状であってもよい。
【0028】
なお、本発明の薄膜センサは、感温抵抗体の抵抗値に影響を与える指標を測定する装置に用いることが可能であって、その例としては、温度センサ、流量センサ、比熱センサ、熱伝導性センサ、濃度センサ、液種識別センサ、歪センサ、応力センサ、湿度センサ等が挙げられる。
【0029】
<本発明における感温抵抗体の結晶の存在形態>
本発明の薄膜センサにおいて、感温抵抗体を構成する結晶は、特定の配向を有する形態で存在する。本発明では、この配向の状態を、下述する「配向性」で規定する。本発明において、「配向性」とは、感温抵抗体の層の面垂直方向(ND方向)から10°以内に配向している結晶(すなわち、感温抵抗体を構成する結晶)の(111)面の割合をいう。本発明の薄膜センサにおいては、この割合が、99%以上である。99%未満であると、結晶粒を粗大化しなければ、十分な抵抗温度係数が得られず、薄膜センサの高感度化を図ることができない。なお、この「配向性」の値は、後述する実施例の欄に記載の方法により求められる値である。
【0030】
一般的に、感温抵抗体の結晶状態は、感温抵抗体における温度上昇に伴う抵抗値の変化に影響を及ぼすことが知られている。結晶状態、特に結晶の粒径が大型化することにより、抵抗温度係数の勾配が上昇することが知られ、粒径の大型化は、薄膜センサの感度を上昇させる手法の一つとして汎用されている。
【0031】
一方、本発明においては、感温抵抗体を構成する結晶の存在形態に着目した。つまり、本発明者らは、結晶の存在形態、特に結晶の配向性を制御することで、感温抵抗体の抵抗温度係数が向上することを見出した。本発明のように配向性を制御することにより抵抗温度係数が向上する機構は定かではないが、結晶方位が特定の方向に揃うことにより、結晶の電気的特性が向上されることが考えられる。
【0032】
また、感温抵抗体を構成する結晶は、繊維状配向組織を有し、該繊維状配向組織において、該結晶の(111)面が該感温抵抗体の層の面垂直方向を回転軸としていることが好ましい。このような組織を有することにより、より一層電気的特性が向上される。なお、この繊維状配向組織の観察には、組織観察に用いる種々の手法を用いて観察すればよく、例えば、下述のEBSD評価装置を用いて観察してもよい。
【0033】
なお、本発明において、結晶の配向性の評価は、EBSD(後方散乱電子回折パターン;Electron Backscatter Diffraction Pattern)法を用いて行った。無機材料の結晶配構成の評価としては、X線回折装置(XRD)が一般的に用いられているが、この装置では、結晶構造全体の平均的な情報しか得ることが出来ず、結晶構造を構成する個々の結晶粒の存在形態を評価することは出来ない。一方、個々の結晶粒の配向を評価するには、従来、透過型電子顕微鏡(TEM)が一般的に用いられているが、結晶構造に含まれる結晶粒について統計的な評価を行うのは、現実的に不可能である。
【0034】
一方、EBSD評価装置を用いれば、個々の結晶粒の存在形態に係る評価を迅速に行うことができ、結晶粒径や粒度分布、結晶の配向性や歪計算などの評価が可能である。
本発明の薄膜センサにおいて、感温抵抗体の表面粗さ(Ra)は、好ましくは50nm
以下、さらに好ましくは30nm以下であり、その下限値は、特に制限はされないが、通常1nm程度である。また、表面粗さ(Rz)は、好ましくは1μm以下、さらに好ましくは0.9μm以下であり、その下限値は、特に制限はされないが、通常0.1μm程度である。これらの範囲から外れると、パターン成型の際に、一定した電気特性が得られず、生産性が低下してしまうことにもなる。
【0035】
また、感温抵抗体を構成する結晶の粒径は、好ましくは0.4μm以上、さらに好ましくは1.0μm以上であり、その上限値は、特に制限されないが、通常5.0μm程度である。なお、この「結晶粒径」の値は、後述する実施例の欄に記載の方法により求められる値である。
【0036】
本発明の薄膜センサの抵抗温度係数は、好ましくは3,000ppm/K以上、さらに好ましくは3,300ppm/K以上であり、その上限値は3,900ppm/K程度である。
【0037】
<薄膜センサの製造方法>
本発明の薄膜センサの製造方法について説明する。本発明の薄膜センサの製造においては、まず、絶縁基板上にスパッタリングなどの蒸着手段により、感温抵抗体を積層する。
【0038】
感温抵抗体形成の際のスパッタリングは、基板温度を400〜800℃、好ましくは400〜600℃として行う。基板温度が上記範囲よりも低いと感温抵抗体の抵抗温度係数が増大しない傾向にあり、基板温度が上記範囲よりも高いと感温抵抗体の表面粗さが増大する傾向にある。
【0039】
このスパッタリングは種々の雰囲気で行うことが可能であるが、特に0.10Pa以下、さらに好ましくは0.05Pa以下の成膜圧力で行うことが望ましい。下限値は通常0.001Pa程度である。成膜圧力が上記範囲よりも大きいと、感温抵抗体を構成する結晶において好適な配向性が得られず、薄膜センサの抵抗温度係数が好適に高くならない。
【0040】
また、このスパッタリングは、好ましくは直流電源を用いて行う。直流電源を用いない場合(例えば、高周波(RF)電源等)では、前記感温抵抗体の表面粗さが大きくなったり、薄膜温度センサの抵抗温度係数が好適に高くならない傾向にある。
【0041】
感温抵抗体として白金薄膜を形成する場合であれば、このスパッタリングの際の他の条件は、たとえば、以下のように設定することができる。
到達真空度:2.0×10-5Pa未満、
ガス流量:20〜50SCCM、
成膜電力:50〜100W。
【0042】
さらに、感温抵抗体を構成する結晶の内部に酸素が固溶したり、不純物として取り込まれ、感温抵抗体の抵抗温度係数(TCR)が低下することを防止するために、スパッタリングの際には、大気、酸素又は水分等に触れることなく感温抵抗体を連続成膜することが好ましい。
【0043】
薄膜センサに密着層を設ける場合は、感温抵抗体の積層の前に、絶縁基板上にスパッタリングなどの積層技術を用いて密着層を積層し、その後、感温抵抗体を上述の通りに積層すればよい。密着層の積層後は、大気、酸素又は水分等に触れることなくその後の工程を行うことが好ましい。密着層の積層条件としては、特に制約はなく、後に行う感温抵抗体の積層条件に合わせて、適宜選択すればよい。密着層としてチタン(Ti)層を形成する
場合であれば、たとえば、以下のような条件で蒸着を行うことができる。
【0044】
蒸着手段:スパッタリング法
装置:マグネトロンスパッタリング装置
到達真空度:2.0×10-5Pa未満
成膜圧力:0.10Pa以下
ガス流量:20〜50SCCM
成膜電力:50〜100W
成膜温度:室温〜800℃。
【0045】
薄膜センサにケイ素化合物層を設ける場合は、密着層の積層の前に、絶縁基板の一表面にケイ素化合物層を積層する。
ケイ素化合物層は、ゾルゲル法、スピンコート法、CVD法、スパッタリング法、などの手段により形成することができ、具体的には、たとえば以下のような条件で製造することができる。
【0046】
積層手段:スピンコート法
装置:スピンコーター
原料:塗布型SiO2系被膜形成材料(SOG)
回転数:1,000〜6,000rpm
温度:450〜1,000℃。
【0047】
得られた積層体(すなわち、絶縁基板および感温抵抗体、ならびに任意の密着層、および任意のケイ素化合物層を含む積層体)を、そのまま薄膜センサとして用いることができる場合もあるが、この積層体に対して、例えば500〜1100℃、好ましくは900℃〜1000℃の温度範囲内でアニーリングを行うことで、さらに高感度の薄膜センサが得られる。1100℃を越えると、薄膜センサの表面状態が劣化する傾向にある。
【0048】
アニール時間は、例えば4時間以上8時間未満とすることができる。とすることができる。アニール時間が4時間未満、すなわち短過ぎる場合には、感温抵抗体の抵抗値の経時変化率が大きくなる傾向にある。一方、アニール時間が8時間よりも長くなると、白金の結晶粒が粗大化しすぎ、表面粗さが増大し、基板材料内での均一性が低下する傾向がある。
【0049】
感温抵抗体は、エッチング等の手段により、種々のパターンに成形されてもよい。例えば、エッチング法などにより、感温抵抗体を、幅が例えば5〜25μmで、全長が例えば4〜23cmの蛇行パターン形状に加工してもよい。
【0050】
<薄膜センサモジュール>
次に、本発明の薄膜センサモジュールについて、説明する。本発明の薄膜センサモジュールは、測定対象となる物体や流体と熱的に接続される部材と、この部材と熱的に接続された上述の薄膜センサと、この薄膜センサと電気的に接続された部材とを有する。この構成を図3及び図4に例示する。
【0051】
図3は、本発明の薄膜センサモジュール(たとえば、温度センサモジュール)を例示した概略図であり、図4は、本発明の薄膜センサモジュール(たとえば、温度センサモジュール)を例示した概略断面図であって、(a)は、平面縦断面図であり、(b)は、側方縦断面図である。本発明の薄膜センサモジュール(たとえば、温度センサモジュール)20は、ハウジング22の内部に、フィンプレート24と出力端子26とが固着された薄膜センサ(たとえば、温度センサ)10を有する。
【0052】
ハウジング22の材料としては、熱伝導性の低い材料であれば種々の材料を使用し得る。また、測定対象である物体や流体等に応じて、耐薬品性や耐油性を付与された材料も使用し得る。これらの特性を有する例としては、例えば、エポキシ樹脂やポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)等が挙げられる。また、薄膜センサモジュールの形状は、薄膜センサモジュールを適用する態様に応じて、種々の形態とすればよい。例えば、ハウジング22は、図3及び図4(B)のように、出力端子26が突出する第1大径部34と、第1大径部34と間隔を置いて下方に位置する第2大径部36とを有し、第1大径部34と第2大径部36との間には、断熱用の空隙を形成するための切欠部38を有していてもよい。なお、ハウジング22は、この形態に限定されるものではない。
【0053】
フィンプレート24は、熱伝導性の良好な材料からなれば特に制約はなく、例えば、銅、アルミニウム、タングステン、ジュラルミン、銅−タングステン合金等からなる。また、フィンプレート24は、薄膜センサモジュールの適用に応じて、適宜種々の形状とすればよく、例えば、厚さ200μm程度の薄板であってもよい。なお、フィンプレート24と薄膜センサ10との固着用の材料としては、熱導電性を有する材料であればいかなる材料をも用いることができ、例えば、銀ペーストが挙げられる。
【0054】
出力端子26は、導電性を有する材料からなるものであれば特に制約はなく、この材料としては、銅、アルミニウム等が挙げられる。出力端子26は、ボンディングワイヤ32を介して薄膜センサ10と電気的に接続される。出力端子26の形状は、図3では、樹脂ハウジング2の外部に、直線状に一列に並置されて突出し、かつ、前記直線状の列の一端から他端に向かって、樹脂ハウジング2からの突出長さが漸増(漸減)しているように示されるが、適用される形態に応じて種々の形状に成形されたものであればよい。なお、図3の形状を有することにより、薄膜センサモジュール20を上から押えるセンサ押圧板や、出力端子26と接続されて回路を形成する流量検出回路基板の装着を、容易に行なうことができる。また、これらセンサ押圧板や流量検出回路基板の装着の際に薄膜センサモジュール20を痛めるおそれも小さくなる。
【0055】
[実施例]
以下、本発明について実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は、係る実施例により何ら限定されるものではない。
【0056】
(参考例1)
アルミナ基板(寸法:直径100mmの円盤、厚み:385μm)上に、以下の条件でスピンコート法により膜厚300nmのSiO2層を形成した。
【0057】
装置:スピンコーター
原料:塗布型SiO2系被膜形成材料
(東京応化工業(株)製、原料:OCD(商品名)、シロキサン系材料)
回転数:1,000rpm×5s→5,000rpm×30s
温度:695℃。
【0058】
次に、このようにして形成されたSiO2層上に、金属チタン(純度99.99%)を
ターゲットとして、以下の条件でスパッタリングを行い、膜厚30nmのチタン層を形成させた。
【0059】
装置:マグネトロンスパッタリング装置
到達真空度:6.0×10-5Pa未満
成膜圧力:0.86Pa
ガス流量:180SCCM[Ar:O2=10:0(標準状態での体積比)]
成膜電力:1,000W(DC)
成膜温度:250℃。
【0060】
次に、このようにして形成されたチタン層上に、白金(純度99.9%)をターゲットとして、以下の条件でスパッタリングを行い、膜厚400nmの感温抵抗体を形成させた。
【0061】
装置:マグネトロンスパッタリング装置
到達真空度:6.0×10-5Pa未満
成膜圧力:0.18Pa
ガス流量:10SCCM[Ar:O2=9:1(標準状態での体積比)]
成膜電力:500W(RF)
成膜温度:250℃。
【0062】
このようにして得られた参考積層体1について、下述の抵抗温度係数(TCR)、結晶粒径、配向性および密着性の測定を行った。結果を表1に示す。さらに、(111)面に関する極点図の測定を行った。結果を図5に示す。
【0063】
(実施例1)
参考例1と同様の操作によりアルミナ基板上にSiO2層を形成した後、チタン層の形
成の条件を以下の通りに変更した以外は参考例1と同様の操作を行って、膜厚30nmのチタン層を形成させた。
【0064】
装置:マグネトロンスパッタリング装置
到達真空度:2.0×10-5Pa未満
成膜圧力:0.03Pa
ガス流量:20SCCM[Ar:O2=10:0(標準状態での体積比)]
成膜電力:50W(DC)
成膜温度:400℃。
【0065】
次に、このようにして形成されたチタン層上に、白金(純度99.9%)をターゲットとして、以下の条件でスパッタリングを行い、膜厚400nmの感温抵抗体を形成させた。
【0066】
装置:マグネトロンスパッタリング装置
到達真空度:2.0×10-5Pa未満
成膜圧力:0.03Pa
ガス流量:20SCCM[Ar:O2=10:0(標準状態での体積比)]
成膜電力:50W(DC)
成膜温度:400℃。
【0067】
このようにして得られた薄膜センサ1について、下述の抵抗温度係数(TCR)、結晶粒径、配向性および密着性の測定を行った。結果を表1に示す。さらに、(111)面に関する極点図の測定を行った。結果を図6に示す。
【0068】
(実施例2)
上記の薄膜センサ1を、大気雰囲気下、900℃で4時間、熱処理した。この熱処理後の薄膜センサ(「薄膜センサ2」ともいう。)について、下述の抵抗温度係数(TCR)
、結晶粒径、配向性および密着性の測定を行った。その結果を表1に示す。さらに、(111)面に関する極点図の測定を行った。結果を図7に示す。
【0069】
(比較例)
上記の参考積層体1を、大気雰囲気下、1,000℃で4時間、熱処理し、薄膜センサ3を得た。この薄膜センサ3について、下述の抵抗温度係数(TCR)、結晶粒径、配向性および密着性の測定を行った。結果を表1に示す。さらに、(111)面に関する極点図の測定を行った。結果を図8に示す。
【0070】
<結晶粒径>
上述のように製造された積層体及び薄膜センサの縦断面を研磨及び集束イオンビーム(FIB)を用いて平滑にした。この平滑にされた縦断面について、EBSD評価装置(OIM Analysis、株式会社TSLソリューションズ社製)を搭載したFE銃型の走査型電子顕微鏡(JSM−6700F又はJSM−7000F、日本電子株式会社製)および付属のEBSD解析装置を用いて、EBSD法に準じて、結晶状態のパターンの画像データを得た。この画像データについて、EBSD解析プログラム(OIM Analysis、同上)の分析メニュー「Grain Size」を選択し、結晶回転角が5°以上の結晶粒を観察し、結晶粒径(μm)を算出した。なお、結晶粒径については、双晶粒界を示すΣ3粒界を粒内欠陥と考慮して算出した。
【0071】
<抵抗温度係数(TCR)の測定>
対象となる積層体及び薄膜センサについて、比電気抵抗ρ−T特性の測定から、抵抗温度係数(TCR)を測定した。
【0072】
なお、本発明において、抵抗温度係数とは、以下の(式1)で示される値をいう。
(式1):α=(1/R)×(dR/dT)×106
α:抵抗温度係数(ppm/℃)
T:任意の絶対温度(K)
R:T(K)におけるゼロ負荷抵抗値(Ω)。
【0073】
<配向性>
上述のように製造された積層体及び薄膜センサの縦断面を、研磨及び集束イオンビーム(FIB)を用いて平滑にした。EBSD評価装置(OIM Analysis、株式会社TSLソリューションズ社製)を搭載したFE銃型の走査型電子顕微鏡(JSM−6700F又はJSM−7000F、日本電子株式会社製)および付属のEBSD解析装置を用いて、この平滑にされた縦断面について、EBSD法に準じて、結晶状態のパターンの画像データを得た。この画像データを、EBSD解析プログラム(OIM Analysis、同上)の分析メニュー「Crystal Direction」を選択し、積層体又は薄膜センサの「ND方向」と、感温抵抗体の白金結晶の(111)面方位とのずれが10度以内にある結晶粒の全結晶粒に対する割合を算出する条件で解析し、この割合を、「配向性」とした。なお、粒回転角が5°以上にあるものを結晶粒界とし、5°以内である集合体をひとつの結晶粒として認定した。
【0074】
<(111)面に関する極点図>
上記の<配向性>と同様に、感温抵抗体の白金結晶の(111)面に関して、EBSP解析プログラム(OIM Analysis、同上)の分析メニュー「Pole figure」を選択して、(111)面に関する極点図を得た。
【0075】
<表面粗さRa及びRzの測定>
表面粗さRaは、上述の各薄膜センサ及び積層体を、光干渉式三次元構造解析顕微鏡(
New View5032、Zygo社製)にて測定した。測定には、白色光を用いて100倍ミラウレンズを使用し、54×72μmの範囲を測定した。このようにして得た三次元測定面から、表面粗さRa及びRzを得た。
【0076】
<密着性>
上述のように製造された積層体及び薄膜センサのそれぞれについて、以下のワイヤープルテスト方法により、絶縁基板と感温抵抗体との密着性を評価した。
*ワイヤープルテスト方法
薄膜チップ(薄膜センサ)の金電極パッド(18)上に、金線(25μmφ)を接合(ボンディング)させた。その後、室温にて、薄膜チップの垂直方向に10g重程度の力で金線を引っ張った。評価基準は以下のとおりである。
【0077】
AA・・・金電極パッドおよび感温抵抗体は金線から剥離せず、金線が破断した。
CC・・・金電極パッドおよび感温抵抗体は金線から剥離した。
【0078】
【表1】

【0079】
以上、本発明の好適な実施の形態により本発明を説明した。ここでは特定の具体例を示して本発明を説明したが、特許請求の範囲に定義された本発明の広範な趣旨および範囲から逸脱することなく、これら具体例に様々な修正および変更を加えることができることは明らかである。すなわち、具体例の詳細および添付の図面により本発明が限定されるものと解釈してはならない。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】薄膜センサ(薄膜チップ)の一態様の概略図である。
【図2】薄膜センサ(薄膜チップ)の一態様の概略図である。
【図3】本発明の薄膜センサモジュール例示した概略図である。
【図4】本発明の薄膜センサモジュールを例示した概略断面図であって、(a)は、平面縦断面図であり、(b)は、側方縦断面図である。
【図5】参考積層体1の感温抵抗体における(111)面に関する極点図である。
【図6】実施例1の薄膜センサ1の感温抵抗体における(111)面に関する極点図である。
【図7】実施例2の薄膜センサ2の感温抵抗体における(111)面に関する極点図である。
【図8】比較例の薄膜センサ3の感温抵抗体における(111)面に関する極点図である。
【符号の説明】
【0081】
10 薄膜センサ(薄膜チップ)
11 絶縁基板
12 ケイ素化合物層
13 密着層
14 感温抵抗体
16 保護膜
18 ボンディングパッド
20 薄膜センサモジュール
22 ハウジング
24 フィンプレート
26 出力端子
32 ボンディングワイヤ
34 第1大径部
36 第2大径部
38 切欠部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板と、該絶縁基板上に積層された白金族金属の結晶からなる感温抵抗体とを有し、
前記感温抵抗体の層の面垂直方向(ND方向)に対して10°以内に配向している前記結晶の(111)面の割合が、99%以上である
ことを特徴とする薄膜センサ。
【請求項2】
前記結晶が繊維状配向組織を有し、該繊維状配向組織において、前記結晶の(111)面が前記感温抵抗体の層の面垂直方向を回転軸としていることを特徴とする請求項1に記載の薄膜センサ。
【請求項3】
前記感温抵抗体の表面粗さRaが50nm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の薄膜センサ。
【請求項4】
前記感温抵抗体の表面粗さRzが1μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の薄膜センサ。
【請求項5】
前記結晶の粒径が0.4μm以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の薄膜センサ。
【請求項6】
前記白金族元素が白金であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の薄膜センサ。
【請求項7】
前記絶縁基板上と前記感温抵抗体との間に、遷移金属を主成分とする材料からなる密着層をさらに有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の薄膜センサ。
【請求項8】
前記絶縁基板上と前記密着層との間に、ケイ素と炭素、窒素、フッ素および酸素からなる群から選ばれる元素との化合物からなるケイ素化合物層をさらに有することを特徴とする請求項7に記載の薄膜センサ。
【請求項9】
温度センサ、流量センサ、比熱センサ、熱伝導性センサ、濃度センサ、液種識別センサ、歪センサ、応力センサおよび湿度センサからなる群から選択されたセンサであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の薄膜センサ。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の薄膜センサを有することを特徴とする薄膜センサモジュール。
【請求項11】
前記絶縁基板上に、前記絶縁基板の温度を400〜800℃として、白金族元素を主成分とする金属をスパッタリングすることにより該金属の結晶からなる感温抵抗体を積層する工程
を有することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の薄膜センサの製造方法。
【請求項12】
前記スパッタリングを以下の条件下で行うことを特徴とする請求項11に記載の薄膜センサの製造方法;
成膜圧力:0.10Pa以下、かつ
成膜電力:50〜100W。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−294870(P2007−294870A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−30878(P2007−30878)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】