説明

薄膜トランジスタ及びそれを用いた電子デバイス

【課題】優れた電気特性、大気安定性を有した薄膜トランジスタ及びそれを用いた電子デバイスをウェットプロセスにて作製するための、π電子共役系化合物前駆体、及びトランジスタ構造を提供する。
【解決手段】少なくとも下記一般式(I)で示される工程により得られる有機膜を用いたトップゲート型薄膜トランジスタ。





【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薄膜トランジスタ、及びそれを用いた電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機材料を用いた薄膜トランジスタの研究開発が盛んである。
有機半導体材料や有機絶縁膜材料からなる有機薄膜トランジスタは、印刷法、塗布法等の生産性に優れたウェットプロセスにて作製できるため、真空プロセスを用いた従来のシリコントランジスタに比べ、製造コストの低減や大面積な電子デバイスへの展開が期待できる。さらに、製造プロセス温度を低温化できることから、耐熱性の低いプラスチック基板を用いた軽量で壊れにくいフレキシブルな電子デバイスを作製することができる。
【0003】
これまでに、ペンタセンやテトラセンに代表されるアセン系の有機半導体材料が数多く報告されている。このアセン系材料を有機半導体層として利用した有機薄膜トランジスタは、高い電界効果移動度を示すことが知られているが、汎用溶媒に対しきわめて溶解性が低いため、薄膜化する際には真空成膜を用いる必要がある。ゆえに、これらアセン系材料は、前述したような塗布法や印刷法などの簡便なプロセスで薄膜を形成できるという有機半導体材料への期待に応えるものではない。
【0004】
そこで、溶解性の低い有機半導体材料をウェットプロセスへ適応させる方法として、半導体材料に熱または光で脱離する可溶性部位を導入した変換型有機半導体材料に関する検討が行なわれており、ペンタセンや、ポルフィリンに関する報告例がある。
【0005】
例えば、非特許文献1のJ.Appl.Phys.100,034502(2006)、2のAppl.Phys.Lett.84(12),2085(2004)、3のIEICE technical report.Electronic information displays.107(453),81(2008)及び特許文献1の特開2004−247716号公報、2の特開2009−81408号公報では、変換型有機半導体材料にビシクロ環が縮環したポルフィリン誘導体を用いた例が示されている。ビシクロ環が縮環したポルフィリン誘導体は、ビシクロ骨格部位が立体的な分子構造を取り、分子同士のスタッキングを阻害するため、各種有機溶媒に可溶であり、ウェットプロセスでの製膜が可能である。さらに、製膜後に加熱することで、ビシクロ骨格部位からエチレンもしくはエチレン誘導体が脱離し、結晶性の有機半導体膜へと変換されることが報告されている。これらの報告例では溶解性の低いポルフィリン誘導体の可溶化に成功しているが、脱離変換過程を経ずに真空プロセスにて直接作製した有機半導体膜に比べ、脱離変換過程を介し作製した膜は電界効果移動度が低いといった問題を有している。
【0006】
有機薄膜トランジスタにおいて、有機半導体膜に結晶構造の乱れや粒界などが存在すると、それらはキャリア輸送を大きく妨げ、移動度の低下を招くことが知られている。(非特許文献4)
よって、変換型有機半導体材料においては、脱離変換反応に伴い生じる有機半導体材料の結晶化を制御し、良質な有機半導体結晶膜を作製することが、高移動度を実現する上で重要である。
【0007】
良好な有機半導体結晶膜を得るには、有機半導体分子間に働く相互作用を考慮した分子設計が必要となる。これまで本発明者らは、ジチエノベンゾジチオフェン誘導体からなる変換型有機半導体材料に関する検討を行ない、それらは2次元状に広がった良好な結晶膜をつくることを明らかにしてきた(特許文献3の特願2010−119001号明細書、4の特願2010−135664号明細書参照)。
【0008】
また、非特許文献4の表面科学.24(2),69(2003)には有機半導体材料の結晶性は下地となる有機絶縁膜の表面エネルギーや表面平滑性が重要であり、その違いがドメインサイズ、及び移動度に大きな影響を与えることが記載されている。よって、良質な有機半導体結晶膜の作製において、下地となる絶縁膜は、適当な表面エネルギー、平滑性、及び有機半導体溶液に対する耐性など様々な特性が求められることになる。
【0009】
一般に、有機半導体膜の下層にゲート絶縁膜を有するボトムゲート型トランジスタでは、ゲート絶縁膜が前述の有機半導体材料の結晶化における下地膜を兼ねることになる。よって、ゲート絶縁膜には高誘電率、低誘電損失、耐圧性、少ない界面捕獲準位や膜内電荷といったキャリアの蓄積、及び輸送の観点から求められる機能だけでなく、先に述べた有機半導体材料の結晶化の観点から求められる機能も満たす必要があり、その選定は非常に困難である。
【0010】
また、非特許文献3では、脱離変換反応を介し作製したベンゾポルフィリン膜は酸素や水分により特性が劣化し、充分な大気安定性を有していないこと報告されている。
これらのことから、優れた電気特性、及び大気安定性を有する薄膜トランジスタをウェットプロセスにて作製するための手法が強く望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記従来技術の現状を鑑みてなされたものであり、優れた電気特性、大気安定性を有した薄膜トランジスタ及びそれを用いた電子デバイスをウェットプロセスにて作製するための、π電子共役系化合物前駆体、及びトランジスタ構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記目的を達成するため鋭意検討した結果、薄膜トランジスタが、少なくとも、下記一般式(I)で示される工程により得られる有機膜を含むトップゲート型構造の場合、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
【化1】

【0014】
【化2】

【0015】
【化3】

【0016】
(ここでAはπ電子共役系置換基であり、Bは上記一般式(II)で表される構造を少なくとも部分構造として有している溶媒可溶性置換基である。mは自然数である。Cは上記一般式(III)で示されている構造を少なくとも部分構造として有している。R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子または置換基であり、互いに環状を形成していてもよく、π電子共役系置換基Aと共有結合を介して環状を形成していてもよい。
上記一般式(I)、(II)及び(III)中、X,Yのうち一方は水素原子もしくは脱離性置換基を表し、m≧2の場合、XまたはYの脱離性置換基は互いに同一であっても異なっていても良く、環状の前記脱離性置換基を形成していても良い。ただし、Bは上記一般式(I)中、Aと共有結合を介して連結している。)
【0017】
すなわち本発明は、次の(1)〜(7)項記載の薄膜トランジスタ及びこれを用いた電子デバイスに示すとおりである。
(1)「少なくとも下記一般式(I)で示される工程により得られる有機膜を用いたトップゲート型薄膜トランジスタ。
【0018】
【化4】

【0019】
【化5】

【0020】
【化6】

【0021】
(ここでAはπ電子共役系置換基であり、Bは上記一般式(II)で表される構造を少なくとも部分構造として有している溶媒可溶性置換基である。mは自然数である。Cは上記一般式(III)で示されている構造を少なくとも部分構造として有している。R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子または置換基であり、互いに環状を形成していてもよく、π電子共役系置換基Aと共有結合を介して環状を形成していてもよい。
上記一般式(I)、(II)及び(III)中、X,Yのうち一方は水素原子もしくは脱離性置換基を表し、m≧2の場合、XまたはYの脱離性置換基は互いに同一であっても異なっていても良く、環状の前記脱離性置換基を形成していても良い。ただし、Bは上記一般式(I)中、Aと共有結合を介して連結している。)」
(2)「少なくとも支持体、前記有機膜及びゲート絶縁膜を有しており、該有機膜が支持体とゲート絶縁膜の間に積層されることを特徴とする前記第(1)項に記載の薄膜トランジスタ。」
(3)「前記ゲート絶縁膜がウェットプロセスにて製膜できることを特徴とする前記第(1)項又は第(2)項に記載の薄膜トランジスタ。」
(4)「前記、脱離性置換基XまたはYが、置換されていてもよい炭素数1以上の、エーテル基またはアシルオキシ基であることを特徴とする前記第(1)項乃至第(3)項のいずれかに記載の薄膜トランジスタ。」
(5)「前記置換基Aが、(i)1つ以上の芳香族炭化水素環および芳香族ヘテロ環、若しくは2つ以上の前記環が縮環された化合物残基、および、(ii)前記(i)の環同士が共有結合を介して連結された化合物残基、からなる群から選択された少なくとも一種類以上のπ電子共役系化合物残基であることを特徴とする前記第(1)項乃至第(4)項のいずれかに記載の薄膜トランジスタ。」
(6)「少なくとも前記π電子共役系置換基Aが、チオフェン環とベンゼン環から選択される縮環化合物または該化合物の環同士が共有結合を介して連結された化合物から選択されるπ電子共役化合物の残基であることを特徴とする前記第(1)項乃至第(5)項のいずれかに記載の薄膜トランジスタ。」
(7)「前記第(1)項乃至第(6)項のいずれかに記載の薄膜トランジスタを用いた電子デバイス。」
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、印刷法、塗布法等の生産性が優れた方法で、特性が良好で、大気安定な薄膜トランジスタを作製することができる。このようにして得られた薄膜トランジスタを用いることで、軽量且つ柔軟性に優れた安価な電子デバイスが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明で用いられるπ電子共役系化合物前駆体(1)の加熱前、170、180、220、230、240、260℃およびπ電子共役系化合物(2)のIRスペクトルを示す図である。
【図2】本発明で用いられるπ電子共役系化合物前駆体(1)の熱分解挙動(TGDTA)の結果である。
【図3】本発明で用いられるπ電子共役系化合物(5)の単結晶を偏光顕微鏡(平行ニコル)で観察したものである。
【図4】真空蒸着膜法にて製膜したπ電子共役系化合物(5)の有機膜を走査型電子顕微鏡で観察したものである。
【図5】スピンコート法にて製膜したπ電子共役系化合物前駆体(4)の変換膜を走査型電子顕微鏡で観察したものである。
【図6】本発明の薄膜トランジスタの概略構造の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
本発明により得られる薄膜トランジスタは、良好な電気特性、及び大気安定性を有し、且つウェットプロセスにて作製可能であることを特徴とする。
先述したように良好な電気特性を得るには、高度に有機半導体材料の分子配列が秩序化された結晶膜の作製が必要であるが、ボトムゲート型トランジスタのような、ゲート絶縁膜が有機半導体材料の結晶化における下地膜を兼ねる場合は、ゲート絶縁膜に対する要求特性が多く、全ての特性を満足する絶縁膜の選定は非常に困難である。そこで、トランジスタ構造にトップゲート型構造を採用し、ゲート絶縁膜と有機半導体材料の結晶化における下地膜を分離させる方法が有効であると考えられる。トップゲート型トランジスタにすることで、有機半導体層の上層には高誘電率、低誘電損失、耐圧性、少ない界面捕獲準位や膜内電荷といったキャリアの蓄積、及び輸送の観点から最適なゲート絶縁膜を選定し、有機半導体膜の下層には有機半導体の結晶化に最適な表面エネルギーや平滑性をもった絶縁膜を選定することができる。また、ボトムコンタクト、ボトムゲート型構造の薄膜トランジスタの場合、電極界面で有機半導体材料の膜構造が乱れることによる、移動度の低下が懸念されるが、ボトムコンタクト、トップゲート構造ではチャネルとなる有機半導体膜上部では膜構造の乱れが小さく、移動度の低下が起きないことが期待できる。
【0025】
また、トップゲート構造において、有機半導体層の上層に設けられたゲート絶縁膜は保護膜としても機能することから、トップゲート構造では大気安定性が向上することが知られている(非特許文献3)。
よって、トップゲート構造を用いることで、電気特性、及び大気安定性の向上が期待できる。しかし、トップゲート型構造では、有機半導体層の上にゲート絶縁膜を製膜するため、有機半導体材料にはゲート絶縁膜材料の溶剤に対する、耐性が求められることになる。その一方、有機半導体材料はウェットプロセスでの成膜を可能にするため、各種有機溶剤に対する溶解性が求められる。つまり、有機半導体層の成膜時には高い溶解性を有し、成膜後、上層を成膜する際には、難溶性であるといった相反する特性が必要となる。
そこで、上述した特性を満たす有機半導体材料を鋭意検討した結果、以下に示すπ電子共役系化合物前駆体が適当であることが分かった。
【0026】
以下、本発明におけるπ電子共役系化合物前駆体および該化合物から得られるπ電子共役系化合物について、具体的に説明する。
前記、π電子共役化合物前駆体A−(B)mにおいて、Aはπ電子共役系置換基であり、Bは上記一般式(II)で表される構造を少なくとも部分構造として有している溶媒可溶性置換基である。mは自然数である。ただし、Bは上記一般式(I)中、XまたはYの置換位置の炭素原子を除くA上の任意の原子と共有結合を介して連結しているか、A上のXまたはYの置換位置の炭素原子を除く任意の炭素原子と環状を形成している。
これに外部刺激を加えることにより、溶媒可溶性置換基Bは特定の脱離性置換基XおよびYをXYの形で脱離し、代わりに一部がオレフィンに還元された置換基Cへと変換されるとともに、前記一般式(II)のπ電子共役系化合物A−(C)mで表されるπ電子共役化合物が得られる。
本発明で用いられるπ電子共役系化合物前駆体は、π電子共役系置換基であるAに、溶媒可溶性置換基Bが結合した構造をしている。
【0027】
ここで、溶媒可溶性置換基Bおよび置換基Cは、前述のように、下記一般式(II)および(III)で表される。
【0028】
【化7】

【0029】
【化8】

【0030】
ここでAはπ電子共役系置換基であり、Bは上記一般式(II)で表される構造を少なくとも部分構造として有している溶媒可溶性置換基である。mは自然数である。Cは上記一般式(III)で示されている構造を少なくとも部分構造として有している。R1、及びRは、それぞれ水素原子または置換基であり、互いに環状を形成していてもよく、Aと共有結合を介して環状を形成していてもよい。
上記一般式(I)〜(III)中、X及びYのうち一方は水素原子もしくは脱離性置換基を表し、m≧2の場合、XまたはYの脱離性置換基は互いに同一であっても異なっていても良く、環状の前記脱離性置換基を形成していても良い。ただし、Bは上記一般式(I)中、原子と共有結合を介して連結している。)
【0031】
前記式(I)、(II)、(III)においてXおよびYで表される基は、水素原子または置換されていてもよい炭素数1以上のエーテル基またはアシルオキシ基であり、XおよびYのうち少なくとも一方は、脱離性置換基即ち、置換されていてもよい炭素数1以上のエーテル基または置換されていてもよい炭素数1以上のアシルオキシ基などであり、他方は水素原子である。
上記、置換されていても良い炭素数1以上のエーテル基としては、炭素数1以上の置換されていても良い直鎖または環状の脂肪族アルコールおよび炭素数4以上の芳香族アルコール等、アルコール由来のエーテル基が挙げられる。また、前記エーテル中の酸素原子が硫黄原子に置き換わったチオエーテル基も含めることができる。具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、ピバロイル基、ペントキシ基、ヘキシロキシ基、ラウリロキシ基、トリフルオロメトキシ基、3,3,3−トリフルオロプロポキシ基、ペンタフルオロプロポキシ基、シクロプロポキシ基、シクロブトキシ基、シクロヘキシロキシ基、トリメチルシリルオキシ基、トリエチルシリルオキシ基、tert−ブチルジメチルシリルオキシ基、tert−ブチルジフェニルシリルオキシ基等が挙げられ、エーテル結合部位の酸素を硫黄に置き換えた対応するチオエーテル類も同様に含まれる。
【0032】
上記、置換されていても良い炭素数1以上のアシルオキシ基としては、ホルミルオキシ基、炭素数2以上のハロゲン原子を含んでいてもよい直鎖または環状の脂肪族カルボン酸および炭酸ハーフエステル、炭素数4以上の芳香族カルボン酸等、カルボン酸および炭酸ハーフエステル由来のアシルオキシ基が挙げられる。また、前記カルボン酸の酸素原子が硫黄に置き換わったチオカルボン酸も含めることができる。具体的には、例えば、ホルミルオキシ基、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、イソブチリルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ペンタノイルオキシ、ヘキサノイルオキシ、ラウロイルオキシ基、ステアロイルオキシ基、トリフルオロアセチルオキシ、3,3,3−トリフルオロプロピオニルオキシ、ペンタフルオロプロピオニルオキシ、シクロプロパノイルオキシ、シクロブタノイルオキシ、シクロヘキサノイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、p−メトキシフェニルカルボニルオキシ基、ペンタフルオロベンゾイルオキシ基等が挙げられる。
加えて、上記例示したアシルオキシ基のカルボニル基とアルキル基あるいはアリール基の間に酸素原子または硫黄原子を挿入した、炭酸ハーフエステル由来の炭酸エステルも挙げることができる。加えて、エーテル結合部位およびカルボニル部位の酸素の一つ以上を硫黄に置き換えた対応するアシルチオオキシ類、チオアシルオキシ類も同様に含まれる。
上記概念の脱離性置換基XおよびYの一部を下記に例示する。
【0033】
【表1−1】

【0034】
【表1−2】

【0035】
【表1−3】

【0036】
【表1−4】

【0037】
【表1−5】

【0038】
【表1−6】

【0039】
【表1−7】

【0040】
【表1−8】

【0041】
【表1−9】

【0042】
【表1−10】

【0043】
本発明で用いられる置換されていてもよい炭素数1以上のエーテル基またはアシルオキシ基(脱離性を有する基)の導入により、有機溶媒に対する高い溶解性と、化合物の安定性を維持しつつ脱離性基の脱離反応を可能とすることができる。
例えば、脱離性基として、置換または無置換の炭素数1以上のエーテル基およびアシルオキシ基に代えて炭素数1以上の置換されていてもよいスルホニルオキシ基を導入することもできる。
尚、上記置換されていてもよいスルホニルオキシ基としては、炭素数1以上の直鎖または環状の脂肪族スルホン酸、炭素数4以上の芳香族スルホン酸等、スルホン酸由来のスルホニルオキシ基が挙げられる。具体的には、例えば、メチルスルホニルオキシ基、エチルスルホニルオキシ基、イソプロピルスルホニルオキシ基、ピバロイルスルホニルオキシ基、ペンタノイルスルホニルオキシ基、ヘキサノイルスルホニルオキシ基、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基、3,3,3−トリフルオロプロピオニルスルホニルオキシ基、フェニルスルホニルオキシ基、p−トルエンスルホニルオキシ基等が挙げられ、エーテル部位の酸素原子が硫黄原子に置き換わったスルホニルチオオキシ基も同様に含むことができる。
【0044】
また、本発明における前記R、R及びRで表される基としては、前述のように、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、あるいは一価の有機基(但し、R、R及びRにおいては置換されていても良い炭素数1以上のエーテル基またはアシルオキシ基以外の1価の有機基)が用いられるが、該一価の有機基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシル基、チオアルコキシル基、アリールオキシ基、チオアリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、ヘテロアリールチオオキシ基、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、チオール基、アミノ基などが挙げられる。
【0045】
上記アルキル基は、直鎖または分岐または環状の置換または無置換のアルキル基を表す。
これらの例としては、アルキル基[好ましくは置換または無置換の炭素数1以上のアルキル基〔例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、t−ブチル基、s−ブチル基、n−ブチル基、i−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデカン基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、3,7−ジメチルオクチル基、2−エチルヘキシル基、トリフルオロメチル基、トリフルオロオクチル基、トリフルオロドデシル基、トリフルオロオクタデシル基、2−シアノエチル基〕]、シクロアルキル基[好ましくは置換または無置換の炭素数3以上のアルキル基〔例えば、シクロペンチル基、シクロブチル基、シクロヘキシル基、ペンタフルオロシクロヘキシル基〕]が挙げられる。
以下に説明する他の一価の有機基においても、アルキル基は上記概念のアルキル基を示す。
【0046】
上記アルケニル基は、直鎖または分岐または環状の置換または無置換のアルケニル基を表す。これらの例としては、アルケニル基[好ましくは置換または無置換の炭素数2以上のアルケニル基であり、上記した炭素数2以上のアルキル基の任意の炭素−炭素単結合を1つ以上二重結合としたものが挙げられる〔例えば、エテニル基(ビニル基)、プロペニル基(アリル基)、1−ブテニル基、2−ブテニル基、2−メチル−2−ブテニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、3−ペンテニル基、1−ヘキセニル基、2−ヘキセニル基、3−ヘキセニル基、1−ヘプテニル基、2−ヘプテニル基、3−ヘプテニル基、4−ヘプテニル基、1−オクテニル基、2−オクテニル基、3−オクテニル基、4−オクテニル基、1,1,1−トリフルオロ−2−ブテニル基〕。]、シクロアルケニル基[上記した炭素数2以上のシクロアルキル基の任意の炭素−炭素単結合を1つ以上二重結合としたものが挙げられる〔例えば、1−シクロアリル基、1−シクロブテニル基、1−シクロペンテニル基、2−シクロペンテニル基、3−シクロペンテニル基、1−シクロヘキセニル基、2−シクロヘキセニル基、3−シクロヘキセニル基、1−シクロヘプテニル基、2−シクロヘプテニル基、3−シクロヘプテニル基、4−シクロヘプテニル基、3−フルオロ−1−シクロヘキセニル基〕。]等が挙げられる。なお、該アルケニル基はトランス(E)体及びシス(Z)体等の立体異性体が存在する場合は、その何れであってもよく、またそれらの任意の割合からなる混合物であってもよい。
【0047】
上記アルキニル基としては、好ましくは置換または無置換の炭素数2以上のアルキニル基であり、上記した炭素数2以上のアルキル基の任意の炭素−炭素単結合を1つ以上三重結合としたものが挙げられる。このようなアルキニル基として、例えば、エチニル基、プロパギル基、トリメチルシリルエチニル基、トリイソプロピルシリルエチニル基が挙げられる。
【0048】
上記アリール基としては、好ましくは置換または無置換の炭素数6以上のアリール基〔例えば、フェニル、o−トリル、m−トリル、p−トリル、p−クロロフェニル、p−フルオロフェニル、p−トリフルオロフェニル、ナフチル等〕が挙げられる。
【0049】
上記ヘテロアリール基としては、好ましくは5または6員の置換または無置換の、芳香族性もしくは非芳香族性のヘテロ環化合物〔例えば、2−フリル、2−チエニル、3−チエニル、2−チエノチエニル、2−ベンゾチエニル、2−ピリミジル等〕が挙げられる。
【0050】
上記アルコキシル基およびチオアルコキシル基としては、好ましくは置換または無置換のアルコキシル基およびチオアルコキシル基であり、上記に例示したアルキル基およびアルケニル基およびアルキニル基の結合位に酸素原子あるいは硫黄原子を挿入してアルコキシ基あるいはチオアルコキシ基としたものが具体例として挙げられる。
【0051】
上記アリールオキシ基およびチオアリールオキシ基としては、好ましくは置換または無置換のアリールオキシ基およびアリールチオオキシ基であり、上記に例示したアリール基の結合部位に酸素原子あるいは硫黄原子を挿入してアリールオキシ基あるいはチオアルコキシ基としたものが具体例として挙げられる。
【0052】
上記ヘテロアリールオキシ基およびヘテロチオアリールオキシ基としては、好ましくは置換または無置換のヘテロアリールオキシ基およびヘテロアリールチオオキシ基であり、上記に例示したヘテロアリール基の結合部位に酸素原子あるいは硫黄原子を挿入してヘテロアリールオキシ基あるいはヘテロアリールチオアリールオキシ基としたものが具体例として挙げられる。
【0053】
上記アミノ基としては、好ましくはアミノ基、置換もしくは無置換のアルキルアミノ基、置換もしくは無置換のアニリノ基、〔例えば、アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、アニリノ基、N−メチル−アニリノ基、ジフェニルアミノ基〕、アシルアミノ基[好ましくは、ホルミルアミノ基、置換もしくは無置換のアルキルカルボニルアミノ基、置換もしくは無置換のアリールカルボニルアミノ基、〔例えば、ホルミルアミノ、アセチルアミノ、ピバロイルアミノ基、ラウロイルアミノ、ベンゾイルアミノ基、3,4,5−トリ−n−オクチルオキシフェニルカルボニルアミノ基〕]、アミノカルボニルアミノ基[好ましくは、炭素置換もしくは無置換のアミノカルボニルアミノ基、〔例えば、カルバモイルアミノ基、N,N−ジメチルアミノカルボニルアミノ基、N,N−ジエチルアミノカルボニルアミノ基、モルホリノカルボニルアミノ基〕]等が挙げられる。
【0054】
上記π電子共役系置換基Aとしては、π電子共役平面を有するものであればいかなるものであっても良いが、具体的にはベンゼン環、チオフェン環、ピリジン環、ベンゼン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、トリアジン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、フラン環、チオフェン環、セレノフェン環、シロール環が好ましく、より好ましくは、
(i)1つ以上の前記芳香族炭化水素環および芳香族ヘテロ環、または前記環同士が縮環された化合物残基、
(ii)上記(i)の環同士が共有結合を介して連結された化合物残基、
上記(i)および(ii)よりなる群から選択された少なくとも2つ以上の基を組み合せてなる基を有するπ電子共役系化合物が好ましく、それらの芳香族炭化水素環または芳香族へテロ環がそれぞれ有するπ電子が、縮環及び共有結合を介した連結による相互作用によって縮環または連結環全体に非局在化した構造であることが好ましい。
ここでの共有結合とは、炭素−炭素単結合、炭素−炭素二重結合、炭素−炭素三重結合、オキシエーテル結合、チオエーテル結合、アミド結合、エステル結合などが挙げられるが、好ましくは前記単結合、二重結合、三重結合のいずれかである。
縮環または共有結合で連結された芳香族炭化水素環または芳香族へテロ環の数は2以上が好ましい。具体例(一部の例について一般式を併記する。)としては、ナフタレン、アントラセン、テトラセン(別名ナフタセン)、クリセン、ピレン〔下記一般式(Ar3)〕、ペンタセン、チエノチオフェン〔下記一般式(Ar1)〕、チエノジチオフェン、トリフェニレン、ヘキサベンゾコロネン、ベンゾチオフェン〔下記一般式(Ar2)〕、ベンゾジチオフェン、[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン〔BTBT;下記一般式(Ar4)〕、ジナフト[2,3−b:2’,3’−f][3,2−b]チエノチオフェン〔DNTT〕、ベンゾジチエノチオフェン〔TTPTT;下記一般式(Ar5)〕、ナフトジチエノチオフェン〔TTNTT;下記一般式(Ar6)、(Ar7)〕等の縮合多環化合物、ビフェニル、ターフェニル、クォーターフェニル、ビチオフェン、ターチオフェン、クォーターチオフェン等のような芳香族炭化水素環および芳香族ヘテロ環のオリゴマー、フタロシアニン類、ポルフィリン類、等が挙げられる。
【0055】
【表2】

【0056】
前記溶媒可溶性置換基Bとしては、一般式(II)で表した構造を部分的に含むものであれば特に制限はされない。
【0057】
前記したπ電子共役系置換基Aと、溶媒可溶性置換基Bを組み合わせることでできるA−(B)mの具体的な構造として、下記の化合物群を例示するが、本発明におけるπ電子共役系化合物前駆体はこれらに限定されるものではない。また、溶媒可溶性置換基Bにはアシルオキシ基の立体異性体が複数存在することが容易に推察でき、下記化合物はそれら立体配置の異なる異性体の混合物であることも推察される。
【0058】
【表3】

【0059】
前記前駆体A−(B)mに活性エネルギー線を照射することにより、後述の脱離反応を起こし、特定の置換基を脱離することで、π電子共役系化合物A−(C)mを含む膜状体、並びに該化合物を得ることができる。
以下に、前記具体例に示したA−(B)mから製造されるA−(C)mの具体例を以下に示すが、本発明におけるπ電子共役系化合物はこれらに限定されるものではない。
【0060】
【表4】

【0061】
さらに、溶媒可溶性置換基Bにおいて、RからRは互いに環状を形成することができ、m≧2の場合、環状を形成する好ましい例として、シクロヘキセン構造を部分的に有する構造が挙げられる。この場合、一般式(I)、(II)、(III)は、それぞれ以下の一般式(IV)、(V)、(VI)のように表すことができる。
【0062】
【化9】

【0063】
【化10】

【0064】
【化11】

【0065】
(ここでAはπ電子共役系置換基であり、B’は上記一般式(I)で表される構造を少なくとも部分構造として有している溶媒可溶性置換基である。mは自然数である。
ただし、B’は上記一般式(IV)中、(X,X),(Y,Y)の置換位置の炭素原子を除くA上の任意の原子と共有結合を介して連結しているか、A上の(X,X),(Y,Y)の置換位置の炭素原子を除く任意の炭素原子と縮環している。Cは上記一般式(V)で表される構造を少なくとも部分構造として有している。
上記一般式(IV)および(V)中、(X,X)、(Y,Y)のうち少なくともいずれか一対はともに水素原子であり、残りの一対はともに置換または無置換の炭素数1以上のアシルオキシ基である。また、(X,X)または(Y,Y)の一対の前記アシルオキシ基は互いに同一であっても異なっていても良く、環状の前記アシルオキシ基を形成していても良い。R乃至Rは水素原子または置換基である。
ただし、(X,X)が前記アシルオキシ基であるとき、(Y,Y)は水素原子であり、(Y,Y)が前記アシルオキシ基であるとき(X,X)は水素原子である。
さらに、一般式(IV)中、構造Bの一例としては下記のような構造が挙げられる。
【0066】
【表5】

【0067】
これらはR乃至Rおよび(X,X)、(Y,Y)の置換位置の炭素原子以外であればπ電子共役系置換基Aと縮環または共有結合を介して連結され得る。
【0068】
前記π電子共役系置換基Aと、溶媒可溶性置換基Bを組み合わせることでできるA−(B)mの具体的な構造として下記の化合物群を例示するが、本発明におけるπ電子共役系化合物前駆体はこれらに限定されるものではない。また、溶媒可溶性置換基Bにはアシルオキシ基の立体異性体が複数存在することが容易に推察でき、下記化合物はそれら立体配置の異なる異性体の混合物であることも推察される。
【0069】
【表6−1】

【0070】
【表6−2】

【0071】
前記前駆体A−(B)mに活性エネルギー線の照射により外部エネルギーを印加することにより、後述の脱離反応を起こし、特定の置換基を脱離することで、π電子共役系化合物A−(C)mを含む膜状体、並びに該化合物を得ることができる。
以下に、前記具体例に示したA−(B)mから製造されるA−(C)mの具体例を以下に示すが、本発明におけるπ電子共役系化合物はこれらに限定されるものではない。
【0072】
【表7】

【0073】
さらに加えて、溶媒可溶性置換基Bにおいて、R、R及びRは互いに環状を形成することができ,環状を形成する好ましい例として、シクロヘキサジエン構造を部分的に有する構造が挙げられる。この場合、一般式(I)、(II)、(III)は、それぞれ以下の一般式(VII)、(VIII)、(IX)のように表すことができる。

【0074】
【化12】

【0075】
【化13】

【0076】
また、前記Q乃至Qで表される基としては、R乃至Rと同様に定義され、水素原子、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、あるいは一価の有機基(但し、Q乃至Qにおいては置換されていても良い炭素数1以上のエーテル基またはアシルオキシ基以外の1価の有機基)が用いられるが、該一価の有機基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシル基、チオアルコキシル基、アリールオキシ基、チオアリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、ヘテロアリールチオオキシ基、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、チオール基、アミノ基などが挙げられる。
【0077】
上記アルキル基は、直鎖または分岐または環状の置換または無置換のアルキル基を表す。
これらの例としては、アルキル基[好ましくは置換または無置換の炭素数1以上のアルキル基〔例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、t−ブチル基、s−ブチル基、n−ブチル基、i−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデカン基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、3,7−ジメチルオクチル基、2−エチルヘキシル基、トリフルオロメチル基、トリフルオロオクチル基、トリフルオロドデシル基、トリフルオロオクタデシル基、2−シアノエチル基〕]、シクロアルキル基[好ましくは置換または無置換の炭素数3以上のアルキル基〔例えば、シクロペンチル基、シクロブチル基、シクロヘキシル基、ペンタフルオロシクロヘキシル基〕]が挙げられる。以下に説明する他の一価の有機基においても、アルキル基は上記概念のアルキル基を示す。
【0078】
上記アルケニル基は、直鎖または分岐または環状の置換または無置換のアルケニル基を表す。これらの例としては、アルケニル基[好ましくは置換または無置換の炭素数2以上のアルケニル基であり、上記した炭素数2以上のアルキル基の任意の炭素−炭素単結合を1つ以上二重結合としたものが挙げられる〔例えば、エテニル基(ビニル基)、プロペニル基(アリル基)、1−ブテニル基、2−ブテニル基、2−メチル−2−ブテニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、3−ペンテニル基、1−ヘキセニル基、2−ヘキセニル基、3−ヘキセニル基、1−ヘプテニル基、2−ヘプテニル基、3−ヘプテニル基、4−ヘプテニル基、1−オクテニル基、2−オクテニル基、3−オクテニル基、4−オクテニル基、1,1,1−トリフルオロ−2−ブテニル基〕。]、シクロアルケニル基[上記した炭素数2以上のシクロアルキル基の任意の炭素−炭素単結合を1つ以上二重結合としたものが挙げられる〔例えば、1−シクロアリル基、1−シクロブテニル基、1−シクロペンテニル基、2−シクロペンテニル基、3−シクロペンテニル基、1−シクロヘキセニル基、2−シクロヘキセニル基、3−シクロヘキセニル基、1−シクロヘプテニル基、2−シクロヘプテニル基、3−シクロヘプテニル基、4−シクロヘプテニル基、3−フルオロ−1−シクロヘキセニル基〕。]等が挙げられる。なお、該アルケニル基はトランス(E)体及びシス(Z)体等の立体異性体が存在する場合は、その何れであってもよく、またそれらの任意の割合からなる混合物であってもよい。
【0079】
上記アルキニル基としては、好ましくは置換または無置換の炭素数2以上のアルキニル基であり、上記した炭素数2以上のアルキル基の任意の炭素−炭素単結合を1つ以上三重結合としたものが挙げられる。このようなアルキニル基として、例えば、エチニル基、プロパギル基、トリメチルシリルエチニル基、トリイソプロピルシリルエチニル基が挙げられる。
【0080】
上記アリール基としては、好ましくは置換または無置換の炭素数6以上のアリール基〔例えば、フェニル、o−トリル、m−トリル、p−トリル、p−クロロフェニル、p−フルオロフェニル、p−トリフルオロフェニル、ナフチル等〕が挙げられる。
【0081】
上記ヘテロアリール基としては、好ましくは5または6員の置換または無置換の、芳香族性もしくは非芳香族性のヘテロ環化合物〔例えば、2−フリル、2−チエニル、3−チエニル、2−チエノチエニル、2−ベンゾチエニル、2−ピリミジル等〕が挙げられる。
【0082】
上記アルコキシル基およびチオアルコキシル基としては、好ましくは置換または無置換のアルコキシル基およびチオアルコキシル基であり、上記に例示したアルキル基およびアルケニル基およびアルキニル基の結合位に酸素原子あるいは硫黄原子を挿入してアルコキシ基あるいはチオアルコキシ基としたものが具体例として挙げられる。
【0083】
上記アリールオキシ基およびチオアリールオキシ基としては、好ましくは置換または無置換のアリールオキシ基およびアリールチオオキシ基であり、上記に例示したアリール基の結合部位に酸素原子あるいは硫黄原子を挿入してアリールオキシ基あるいはチオアルコキシ基としたものが具体例として挙げられる。
【0084】
上記ヘテロアリールオキシ基およびヘテロチオアリールオキシ基としては、好ましくは置換または無置換のヘテロアリールオキシ基およびヘテロアリールチオオキシ基であり、上記に例示したヘテロアリール基の結合部位に酸素原子あるいは硫黄原子を挿入してヘテロアリールオキシ基あるいはヘテロアリールチオアリールオキシ基としたものが具体例として挙げられる。
【0085】
上記アミノ基としては、好ましくはアミノ基、置換もしくは無置換のアルキルアミノ基、置換もしくは無置換のアニリノ基、〔例えば、アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、アニリノ基、N−メチル−アニリノ基、ジフェニルアミノ基〕、アシルアミノ基[好ましくは、ホルミルアミノ基、置換もしくは無置換のアルキルカルボニルアミノ基、置換もしくは無置換のアリールカルボニルアミノ基、〔例えば、ホルミルアミノ、アセチルアミノ、ピバロイルアミノ基、ラウロイルアミノ、ベンゾイルアミノ基、3,4,5−トリ−n−オクチルオキシフェニルカルボニルアミノ基〕]、アミノカルボニルアミノ基[好ましくは、炭素置換もしくは無置換のアミノカルボニルアミノ基、〔例えば、カルバモイルアミノ基、N,N−ジメチルアミノカルボニルアミノ基、N,N−ジエチルアミノカルボニルアミノ基、モルホリノカルボニルアミノ基〕]等が挙げられる。
【0086】
前記Q乃至Qで表される一価の有機基としては、前述した範囲で表すことが可能であるが、好ましくは置換基を有していてもよいアリール基またはヘテロアリール基であるか、または隣り合う基同士で環状構造を形成していることである。さらに好ましくは、前記環状構造が置換していても良いアリール基またはヘテロアリール基からなることである。
該環の結合、縮環形式の一例としては下記示す構造が挙げられる。
【0087】
【表8】

【0088】
前記、上記環状構造を形成する置換基を有していてもよいアリール基またはヘテロアリール基は具体的には、前記π電子共役系置換基Aの場合に見られるように、ベンゼン環、チオフェン環、ピリジン環、ベンゼン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、トリアジン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、フラン環、チオフェン環、セレノフェン環、シロール環が好ましく、より好ましくは下記(i)、(ii)である。
(i):1つ以上の前記アリール基およびヘテロアリール基、または前記環同士が縮環された化合物残基。
(ii):上記(i)の環同士が共有結合を介して連結された化合物残基。
【0089】
また、上記(i)および(ii)よりなる群から選択された少なくとも2つ以上の基を組み合せてなる基を有するπ電子共役系化合物残基が好ましく、それらの芳香族炭化水素環または芳香族へテロ環がそれぞれ有するπ電子が、縮環及び共有結合を介した連結による相互作用によって縮環または連結環全体に非局在化した構造であることが好ましい。
ここでの共有結合とは、炭素−炭素単結合、炭素−炭素二重結合、炭素−炭素三重結合、オキシエーテル結合、チオエーテル結合、アミド結合、エステル結合などが挙げられるが、好ましくは前記単結合、二重結合、三重結合のいずれかである。
【0090】
縮環または共有結合で連結された芳香族炭化水素環または芳香族へテロ環の数は2以上が好ましい。具体例(一部の例について一般式を併記する。)としては、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、クリセン、ピレン〔下記一般式(Ar3)〕、ペンタセン、チエノチオフェン〔下記一般式(Ar1)〕、チエノジチオフェン、トリフェニレン、ヘキサベンゾコロネン、ベンゾチオフェン〔下記一般式(Ar2)〕、ベンゾジチオフェン、[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン〔BTBT;下記一般式(Ar4)〕、ジナフト[2,3−b:2’,3’−f][3,2−b]チエノチオフェン〔DNTT〕、ベンゾジチエノチオフェン〔TTPTT;下記一般式(Ar5)〕、ナフトジチエノチオフェン〔TTNTT;下記一般式(Ar6)、(Ar7)〕等の縮合多環化合物、ビフェニル、ターフェニル、クォーターフェニル、ビチオフェン、ターチオフェン、クォーターチオフェン等のような芳香族炭化水素環および芳香族ヘテロ環のオリゴマー、フタロシアニン類、ポルフィリン類、等が挙げられる。
【0091】
【表9】

【0092】
また、ある主骨格に対して共有結合を介して結合または縮合している、本発明の溶解性置換基の数は、当然いずれも、Ar上の置換あるいは縮環可能な原子の数に依存する。例えば、無置換のベンゼン環においては、最大で6つの置換位置で共有結合を介して結合が可能であり、最大6箇所で縮環可能である。しかしながら、主骨格自体の分子の大きさ、溶解性に応じた置換数、分子の対称性、合成の容易さを考慮すると、下限として1分子内に含まれる本発明の溶解性置換基は2以上がより好ましい。一方、置換数があまり大きいと、溶解性置換基同士が立体的に混み入りすぎて好ましくないため、上限としては、分子の対称性、合成の容易さ、溶解性に応じた十分な置換数を考慮すると4以下が好ましい。
本発明で用いられる、シクロヘキセン構造を部分的に有する置換基脱離化合物の具体的な構造として下記の化合物群を例示するが、本発明における置換基脱離化合物はこれらに限定されるものではない。また、溶媒可溶性置換基には脱離性置換基の立体異性体が複数存在することが容易に推察でき、下記化合物はそれら立体配置の異なる異性体の混合物であることも含む。
【0093】
【表10−1】

【0094】
【表10−2】

【0095】
【表10−3】

【0096】
前記置換基脱離化合物に活性エネルギー線の照射により外部エネルギーを付与することにより、後述の脱離反応を起こし、置換基XおよびYを脱離することで、特定化合物を得ることができる。
以下に、前記具体例に示した置換基脱離化合物から得られる特定化合物の例を下記特定化合物に示すが、本発明における特定化合物はこれらに限定されるものではない。
【0097】
【表11−1】

【0098】
【表11−2】

【0099】
[2.π電子共役化合物前駆体の脱離反応によるπ電子共役系化合物の製造方法]
本発明で用いるπ電子共役化合物前駆体の脱離反応によるπ電子共役系化合物の製造方法について詳細に説明する。
本発明で用いる製造方法の場合、プラスチックス、金属、シリコンウエハ、ガラス等の基質(支持体)上に、例えば塗工により形成された前駆体含有膜中に含まれるπ電子共役化合物前駆体A−(B)mは、X−Yで示される脱離成分を脱離し、オレフィン構造を有する化合物A−(C)mへと変換する。
【0100】
【化14】

【0101】
π電子共役化合物前駆体A−(B)mから脱離する基であるX,Yは脱離性基と定義され、X−Yは脱離成分と定義される。脱離成分は固体、液体、気体の3態を取りえるが、系外への除去を考えると、脱離成分が液体または気体であることが好ましく、特に好ましくは常温で気体であることまたは、脱離反応を行う温度において気体となることである。
前記沸点としては大気圧(1013 hPa)において、500℃以下であることが好ましく、系外への除去の容易さと生成するπ電子共役化合物の分解・昇華温度を考えると、400℃以下であることがより好ましく、特に好ましくは300℃以下である。
以下にXがアシルオキシ基、Yが水素原子、Rが置換又は無置換のアルキル基である場合を一例として下記に示すが、本発明の製造例は必ずしもこれらに制限されるものではない。
【0102】
【化15】

【0103】
上記の例の場合、外部エネルギーを印加することにより、一般式(XI)で示される脱離反応が進行する。アルキル鎖を有するカルボン酸が脱離し、オレフィン構造を含む構造に変換される。加熱温度がカルボン酸の沸点を超えている場合はカルボン酸は気体となる。
上記一般式(XI)で示される化合物から脱離成分が脱離する機構について以下に概略を示す。
【0104】

上記一般式(XII)に示すように、六員環状の遷移状態を取ることで、β−炭素上の水素原子がカルボニルの酸素原子上へと1,5−転位することで協奏的な脱離反応が起こり、カルボン酸が脱離し、一般式(XI)でも示されるようなオレフィン構造へと変換される。
【0105】
ここで、β炭素上の水素原子の引き抜きを行えるのは酸素原子に限らず、同じく第16族の元素であるセレン、テルル、ポロニウムなどのカルコゲン原子においても同様のことが起こり得る。
【0106】
さらに、m≧2の場合、RからRは互いに環状を形成することができる。環状を形成する好ましい例の一例として、シクロヘキサジエン構造を部分的に有する構造が挙げられ、その脱離反応について詳細に説明する。
【0107】
本発明の前記一般式(A)で表される置換基脱離化合物は、エネルギー付与により前記般式(B)で表される化合物(特定化合物)とX−Yで表される化合物(脱離成分)に変換する。
【0108】
【化16】

【0109】
前記一般式(XIII)で表される化合物には置換基の立体的な配置が異なる異性体が複数存在するが、いずれも前記一般式(B)で示される特定化合物へと変換され、脱離成分は同一であることに変わりはない。
【0110】
一般式(A)で表される化合物から脱離する基であるXおよびYは脱離性置換基と定義され、それらが結合して生成したX−Yは脱離成分と定義される。脱離成分は固体、液体、気体の3態を取りえるが、系外への除去を考えると、脱離成分が液体または気体であることが好ましく、特に好ましくは常温で気体であることまたは、脱離反応を行う温度において気体となることである。
前記脱離成分の沸点としては大気圧(1013 hPa)において、500℃以下であることが好ましく、系外への除去の容易さと生成するπ共役化合物の分解・昇華温度を考えると、400℃以下であることがより好ましく、特に好ましくは300℃以下である。
【0111】
以下に、前記一般式(A)におけるXが置換されていても良いアシルオキシ基であり、YおよびQ,Qが水素原子である場合を一例とし、下記にその離脱反応による変換の式を示す。なお、本発明の置換基脱離化合物の離脱反応による変換はこれに限定されるものではない。
【0112】
【化17】

【0113】
上記の例の場合、エネルギー付与(加熱)により、一般式(C)で表されるシクロヘキサジエン環構造から、脱離成分として一般式(E)で表されるアルキル鎖を有するカルボン酸が脱離し、一般式(D)で表されるベンゼン環を含む構造の特定化合物に変換される。
加熱温度がカルボン酸の沸点を超えている場合にはカルボン酸は速やかに気体となる。
一般式(F)で表される化合物から脱離成分が脱離する機構について下記反応式(スキーム)により概略を示す。本発明で用いられるシクロヘキサジエン環構造からの脱離成分の脱離機構は下記一般式(F)から下記一般式(H)への変換である。説明を補足するため、シクロヘキセン環[下記一般式(G)]の場合の脱離機構も含めて示す。尚下記式中、Rは置換又は無置換のアルキル基を示す。
【0114】
【化18】

【0115】
上記反応式に示すように、一般式(F)で表されるシクロヘキセン環の場合、六員環状の遷移状態を取ることで、β−炭素上の水素原子がカルボニルの酸素原子上へと1,5−転位することで協奏的な脱離反応が起こり、カルボン酸化合物が脱離し、シクロヘキセン環構造から一般式(H)で表されるようなベンゼン環構造へと変換される。
2つアシルオキシ基を有するシクロヘキセン構造を有する化合物[一般式(F)]の場合、脱離反応は2段階で進行すると考えられ、先ず一つのカルボン酸が脱離して前記一般式(G)で表されるシクロヘキサジエン環構造となる。
この時、一般式(F)で表される2置換体からカルボン酸1分子を脱離させるために必要な活性化エネルギーは、一般式(G)で表される1置換体から同1分子を脱離させるのに要するそれに比べて、十分に大きいため、反応は速やかに2段階進行し、一般式(H)で表される構造まで変換される。
ここで、置換基(アシルオキシ基と水素等)の位置関係の違いによる、複数の立体異性体が存在する場合においても、上記反応は進行する。
【0116】
上記シクロヘキサジエン骨格の、脱離反応の低温化はアシルオキシ基だけに限られるわけではなく、エーテル基などでも同様の効果が見られる。
【0117】
上記反応式においてβ炭素上の水素原子の引き抜き、転移が反応の第一段階であるため、酸素原子の水素原子を引きつける力が強いほど反応は起こりやすいと考えられる。その度合いは、例えば、アシルオキシ基側のアルキル鎖によっても変わってくるし、酸素原子を同じく第16族の元素である硫黄、セレン、テルル、ポロニウムなどのカルコゲン原子などに変えることによっても変化する。
【0118】
この脱離反応を行なうために付与(印加)するエネルギーとしては、熱、光、電磁波が挙げられるが、反応性および収率、後処理の観点から、熱エネルギーあるいは光エネルギーが望ましい。また、酸または塩基の存在下で上記エネルギーを印加してもよい。
通常、前記脱離反応には、官能基の構造にも依存するが、反応速度および反応率の観点から加熱が必要となることが多い。脱離反応を行なうための加熱の方法には、支持体上で加熱する方法、オーブン内で加熱する方法、マイクロ波の照射による方法、レーザーを用いて光を熱に変換して加熱する方法、光熱変換層を用いる等種々の方法を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0119】
脱離反応を行なうための加熱温度については、室温(およそ25℃)〜500℃の範囲を用いることが可能であり、下限温度は材料の熱安定性および脱離成分の沸点を考え、上限温度ではエネルギー効率や、未変換分子の存在率、変換後の化合物の分解、昇華等を考慮すると、40℃〜500℃の範囲が好ましく、さらに置換基脱離化合物の合成時の熱安定性を考慮すると、より好ましくは60℃〜500℃の範囲であり、特に好ましくは80℃〜400℃である。
上記加熱の時間については、高温であるほど反応時間は短く、低温であるほど脱離反応に必要な時間は長くなる。また、置換基脱離化合物の反応性、量にもよるが、通常0.5分〜120分、好ましくは1分〜60分、特に好ましくは1分〜30分である。
【0120】
前記脱離性置換基の脱離反応において、酸または塩基は触媒として働き、より低温での変換が可能となる。これらの使用方法は特に限定はされないが、置換基脱離化合物に対してそのまま添加してもよいし、任意の溶媒に溶解させ溶液にして添加してもよいし、気化させてその雰囲気中で加熱処理を行ってもよく、光酸発生剤および光塩基発生剤等を添加し、光照射によって系内で酸および塩基を得てもよい。
上記、酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、3,3,3−トリフルオロプロピオン酸、蟻酸、リン酸等、2−ブチルオクタン酸等を用いることができる。
光酸発生剤としては、スルホニウム塩、ヨードニウム塩等のイオン性発生剤とイオン性光酸発生剤イミドスルホネート、オキシムスルホネート、ジスルホニルジアゾメタン、ニトロベンジルスルホネート等の非イオン性発生剤を用いることができる。
また、塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸塩、トリエチルアミン、ピリジン等のアミン類、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン等のアミジン類などを用いることができる。
また、光塩基発生剤としては、カルバマート類、アシルオキシム類、アンモニウム塩等を用いることができる。
中でも揮発性の酸または塩基の雰囲気中に行うのが、反応後の酸塩基の系外への除去の容易さを考えると好ましい。
【0121】
脱離反応を行なう際の雰囲気については、上記触媒の有無に関わらず大気下においても行なうことが可能であるが、酸化等の副反応および水分の影響を除くため、さらに脱離した成分の系外への排除を促すために、不活性ガス雰囲気下また減圧下で行なうことが望ましい。
【0122】
脱離性置換基となるアシルオキシ基等の形成方法については、後述のアルコールとカルボン酸クロライドもしくはカルボン酸無水物を反応させるまたはハロゲン原子とカルボン酸銀もしくはカルボン酸−4級アンモニウム塩の交換反応によってカルボン酸エステルを得る方法以外にも、ホスゲンとアルコールを反応させ炭酸エステルを得る方法、アルコールに二硫化炭素を加えた後、ヨウ化アルキルを反応させキサントゲン酸エステルを得る方法、三級アミンと過酸化水素あるいはカルボン酸を反応させアミンオキシドを得る方法、アルコールにオルトセレノシアノニトロベンゼンを反応させセレノキシドを得る方法などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0123】
[3.置換基脱離化合物の製造方法]
本発明に係わる製造方法は従来の公知の方法によって製造することが可能であるが、その中核となる脱離性置換基および脱離性置換基を含む化合物の製造方法は、本発明者らによって開示された特許文献(特願2009−209911号明細書、特開2009−275032号公報、特願2010−136363号明細書、特願2010−162750号明細書、特願2010−163865号明細書)に明記されており、その製造方法を用いることができる。
【0124】
本発明で用いるπ電子共役化合物前駆体の具体的な製造方法の一部を示す。
化合物の同定は、NMRスペクトル〔JNM−ECX(商品名)500MHz、日本電子製〕、質量分析〔GC−MS、GCMS−QP2010 Plus(商品名)、島津製作所製〕、精密質量分析〔LC−TofMS、Alliance−LCT Premier(商品名)、Waters社製〕、元素分析〔(CHN)(CHNレコーダーMT−2、柳本製作所製)、元素分析(硫黄)(イオンクロマトグラフィー;アニオン分析システム:DX320(商品名)、ダイオネクス製〕を用いて行った。
【0125】
<例示化合物4の合成>
下記合成経路により、例示化合物4を合成した。
【0126】
【化19】

【0127】
100mlフラスコに、Advanced Materials,2009 21213−216.記載の方法で合成したジチエノベンゾジチオフェンを0.500g(1.653mmol)入れ、アルゴン置換した後、THF30mlを加えた。次いで、−20℃に冷却し、n−BuLiのヘキサン溶液(4.133mmol)を滴下し1時間撹拌した。
さらに、−78℃に冷却し、DMF2.5mlを加えて30分撹拌した後、希塩酸を加え、室温に戻した。析出した固体を濾取し、水、メタノール、酢酸エチルで洗浄した。減圧下乾燥し、ジアルデヒド体を0.392g得た。(収率66%)
次に、25mlフラスコに、上記ジアルデヒド体を0.100g(0.279mmol)入れ、アルゴン置換した後、THFを2ml加えて0℃に冷却した。この溶液に、ベンジルマグネシウムクロライドの2.0MのTHF溶液を0.56ml(1.116mmol)滴下した後、室温に戻して4時間攪拌した。
次いで、飽和塩化ナトリウム水溶液を加えた後、THFを加え、有機層を飽和食塩水で洗浄した。次いで、溶媒を減圧留去した後、ジオール体を含む残渣を、そのまま次の反応に用いた。
100mlフラスコに、上記残渣、及び、N,N−ジメチルアミノピリジン3.4mg(0.028mmol)を入れ、アルゴン置換した後、ピリジン2ml及び塩化ピバロイル0.136ml(1.116mmol)を加え、室温で2日間撹拌した。
次いでTHFを加えた後、この溶液を、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和塩化ナトリウム水溶液の順に用いて洗浄した。次いで溶媒を減圧留去した後、残渣をカラムクロマトグラフィーにより精製し、目的の例示化合物4を、無色の結晶として0.174g得た。
得られた例示化合物4は、THF、トルエン、クロロホルム、キシレン、ジエチルエーテル、ジクロロメタン等の溶媒に容易に溶解した。例示化合物4の同定データを次に示す。
H NMR(CDCl,TMS)δ/ppm:1.14(18H,s),3.25〜3.38(4H,m),6.26〜6.31(2H,m),7.17(2H,s),7.2〜7.3(10H,m),8.23(2H,s).
IR(KBr)ν/cm−1:1717(νC=O)
【0128】
<例示化合物1の合成>
【0129】
【化20】

【0130】
100mlフラスコに、ジオール体(2.790mmol)、及び、N,N−ジメチルアミノピリジン34mg(0.279mmol)を入れ、アルゴン置換した後、ピリジン20ml及び塩化ヘキサノイル1.56ml(11.16mmol)を加えて、室温で一晩撹拌した。次いでトルエンを加え、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧留去した後、残渣をリサイクル分取GPC(日本分析工業社製)により精製し、例示化合物1を、無色の結晶として0.44g得た。得られた例示化合物1は、THF、トルエン、クロロホルム、キシレン、ジエチルエーテル、ジクロロメタン等の溶媒に容易に溶解した。
【0131】
<例示化合物1の熱分析>
例示化合物1のTG−DTA測定(SII社製:TG/DTA200)を行った。
5℃/minの速度で昇温したところ、150〜240℃で、ヘキサン酸の2分子に相当する重量減少(理論減少量31.5%、実測減少量31.4%)が観測された。また、さらに昇温すると362℃に吸熱ピークが観測された。これは特願2009−171441号明細書に記載されている、上記特定化合物3の融点に一致した。
【0132】
<例示化合物86の合成>
【0133】
【化21】

【0134】
塩化ヘキサノイルの代わりにクロロギ酸アミルを用いた以外は、例示化合物1と同様の方法により、例示化合物86を合成した。得られた例示化合物86は、THF、トルエン、クロロホルム、キシレン、ジエチルエーテル、ジクロロメタン等の溶媒に容易に溶解した。
【0135】
<例示化合物86の熱分析>
例示化合物86のTG−DTA測定を行った。
5℃/minの速度で昇温したところ、150〜190℃で炭酸エステル部位の脱離に由来する重量減少(ペンタノールと二酸化炭素のそれぞれ2分子に相当、理論減少量34.3%、実測減少量33.3%)が観測された。また、さらに昇温すると360.3℃に吸熱ピークが観測された。これは特願2009−171441号明細書に記載されている、上記特定化合物3の融点に一致した。
【0136】
<例示化合物87の合成>
【0137】
【化22】

【0138】
50mlフラスコに、2−メチル−6−ニトロ無水安息香酸を1.1g(3.30mmol)、N,N−ジメチルアミノピリジンを67mg(0.55mmol)入れ、アルゴンガスで置換した後、トリエチルアミンを0.84ml(6.05mmol)、THFを15ml、3,3,3−トリフルオロプロピオン酸を0.291ml(3.3mmol)加えて、室温で30分間攪拌した。次いで、THF20mlにジオール体を600mg(1.1mmol)溶解させた溶液を加えて、室温でさらに24時間攪拌した。次いで反応溶液に飽和塩化アンモニウム水溶液を加え酢酸エチルで4回抽出を行った。
4回の抽出液を併せて、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(50mL)で2回、飽和食塩水(50ml)で2回洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。次いで溶媒を減圧留去し、粗生成物として褐色のオイル(収量1.2g)を得た。
これをカラム精製〔固定相:塩基性アルミナ(活性度II)、溶離液:トルエン〕し、黄色の固体(収量350mg)を得た。続いて、リサイクル分取HPLC(日本分析工業社製LC−9104、溶離液:THF)で精製し、黄色の結晶(100mg)を得た。
最後に、この結晶をTHF/MeOHから再結晶することにより、淡黄色の結晶として、目的物である例示化合物87を収量60mgで得た。
この結晶の純度をLC/MS(ピーク面積法)により測定したところ、99.9モル%以上であることが確認された。例示化合物87の同定データを次に示す。
H NMR(500MHz,CDCl,TMS)δ/ppm:3.16(q,4H,J=10.3Hz),3.31(dd,2H,J=7.5Hz,J=6.3Hz),3.40(dd,2H,J=6.3Hz,J=8.0Hz),6.38(t,2H,J=7.5Hz),5.93(t,1H,J=5.2Hz),7.21〜7.25(8H),7.28〜7.31(4H),8.25(s,2H)
【0139】
<例示化合物88の合成>
【0140】
【化23】

【0141】
100mlフラスコに、ジオール体を0.500g入れ、系内をアルゴン置換した。DMF20ml、THF20mlを加え、0℃に冷却した。水素化ナトリウム(55%パラフィン分散)N,N−ジメチルアミノピリジンを17mg及び無水酢酸を0.44ml加えて、室温0.23gを少しずつ加えた後、室温で0.5時間撹拌した。この溶液にヨードメタン0.32mlを滴下した後、さらに室温で5時間撹拌した。反応溶液に水を加えた後、トルエンで抽出した。溶液を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒減圧留去した。
リサイクル分取GPCで精製し、例示化合物88を無色の結晶として得た。得られた例示化合物88は、THF、トルエン、クロロホルム、キシレン、ジエチルエーテル、ジクロロメタン等の溶媒に溶解した。
【0142】
<例示化合物88の熱分析>
例示化合物88のTG−DTA測定を行った。
5℃/minの速度で昇温したところ、170〜320℃で、メタノール2分子に相当する重量減少(理論減少量11.2%、実測減少量13.9%)が観測され、前記特定化合物3へ変換した。
【0143】
<例示化合物30の合成>
【0144】
【化24】

【0145】
100mLの丸底フラスコに、ヨード体(973mg,2.0mmol)、ジトリチメチルスズ体(466mg,1mmol)、DMF(10mL)を入れ、アルゴンガスを30分間バブリングした後、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(18.3mg、0.02mmol)、トリ(オルトトリル)ホスフィン(24.4mg、0.08mmol)を加え、アルゴン雰囲気下室温で20時間攪拌した。反応溶液をクロロホルムで希釈し、セライト濾過で不溶物を除去し、水を加え、有機層を分離した。水層はクロロホルムで3回抽出を行ない、合わせた有機層を飽和フッ化カリウム水溶液、続けて飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾液を濃縮し、赤色の液体を得た。これをカラムクロマトグラフィー(固定層:(中性シリカゲル(関東化学製)+10wt%フッ化カリウム,溶媒:ヘキサン/酢酸エチル、9/1→8/2、v/v)にて精製することにより、黄色の固体を得た。これをヘキサン/エタノールから再結晶することにより、黄色の固体として例示化合物30を得た(収量680mg,収率79.3%)。
以下に例示化合物30の分析結果を示す。
H NMR(500MHz,CDCl,TMS,δ):0.87−0.89(m,12H),1.28−1.33(m,16H),1.61−1.69(m,8H),1.96−2.01(m,4H),2.28−2.36(m,12H),6.08(d,4H,J=12.1Hz),7.37(d,2H,J=8.6Hz),7.48(s,2H),7.57−7.59(m,4H)
元素分析(C5064):C,69.92;H,7.67;O,14.85;S,7.44(実測値)、C,70.06;H,7.53;O,14.93;S,7.48(理論値)
融点:113.7−114.7℃
以上の分析結果から、合成したものが、例示化合物89の構造と矛盾がないことを確認した。
【0146】
<例示化合物57および58の合成>
【0147】
【化25】

【0148】
100mLの丸底フラスコに、ヨード体(550mg、1.49mmol)、時トリメチルスズ体(346mg、0.74mmol)、N,N−ジメチルホルムアミド(以下DMFと略、10mL)を入れ、アルゴンガスを30分間バブリングした後、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(18.3mg、0.02mmol。濾液を、シリカゲルパッド(厚さ3cm)を通した後、濃縮し、赤色の固体を得た。これをメタノール、ヘキサンで洗浄することで黄緑色の固体を得た(収量235mg)。
リサイクル分取HPLC(日本分析工業社製、LC−9104)にて分離精製することにより、黄色の結晶として例示化合物57および化合物58を得た[化合物57:収量85mg、化合物58:収量110mg]。
【0149】
〔化合物57の分析結果〕
以下に化合物57の分析結果を示す。
H NMR(500MHz,CDCl,TMS,δ):0.86(t,6H,J=6.9Hz),1.21−1.31(m,8H),1.57−1.63(m,4H),2.27(td,2H,J=7.6HzJ=1.7Hz),2.60−2.70(m,4H),5.95(t,1H,J=5.2Hz),6.03−6.09(m,4H),6.63(d,2H,J=9.7Hz),7.40(d,4H,J=8.1Hz),7.49(s,2H),7.491(dd,2H,J=7.7Hz,J=2.3Hz)
精密質量(LC−TofMS)(m/z):624.232(実測値),624.237(計算値)
【0150】
〔化合物58の分析結果〕
以下に化合物58の分析結果を示す。
H NMR(500MHz,CDCl,TMS,δ):0.86(t,3H,J=7.5Hz),1.22−1.32(m,4H),1.57−1.64(m,2H),2.28(td,2H,J=7.7HzJ=1.2Hz),2.62−2.72(m,2H),6.03−6.10(m,2H),6.63(d,1H,J=9.8Hz),7.40−7.42(m,2H,),7.46−7.52(m,3H),7.53(s,1H),7.61(s,1H),7.79(dd,2H,J=8.6HzJ=1.7Hz),7.84(d,1H,J=8.1Hz),7.88(d,2H,J=8.1Hz),8.07(d,1H,J=8.1Hz),
精密質量(LC−TofMS)(m/z):508.149(実測値),508.153(計算値)
以上の分析結果から、合成したものが、化合物57、及び、化合物58の構造と矛盾がないことを確認した。
【0151】
<例示化合物89の合成>
下記反応式(スキーム)に従って例示化合物89を合成した。
【0152】
【化26】

【0153】
100mLの丸底フラスコにジエチニル体(275mg,0.785mmol)、ヨード体(750mg,1.65mmol)、ヨウ化銅(20.0mg)を入れ、THF(30mL)、ジイソプロピルエチルアミン(1.5mL)を加え、アルゴンガスで置換を行った後、PdCl(PPh(16.6mg)を加え、室温で72時間攪拌した。
ジクロロメタン(100mL)、水(100mL)を加えて有機層を分離し、水層をジクロロメタンで2回抽出した。合わせた有機層を水、次に飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。濾液を濃縮し、最小量のジクロロメタンに溶解させ、溶液をアルミナパッド(活性度II(水分含有量3%))に通じ、再度濃縮し、黄色のオイルを得た。これをリサイクルGPC(日本分析工業社製)により精製を行い、黄色の固体として、例示化合物89を得た。(収量273mg,収率34.7%)
【0154】
[例示化合物89の分析結果]
以下に例示化合物89の分析結果を示す。
H NMR(500MHz,CDCl,TMS,δ):0.74−0.83(m,12H),1.10−1.32(m,24H),1.36−1.43(m,4H),1.50−1.60(m,4H),2.2−2.32(m,2H),2.56−2.62(m,2H),2.65−2.71(m,2H),6.03−6.08(m,4H),6.56(d,2H,J=9.0Hz),7.33(s,2H),7.36−7.41(m,4H),7.48(s,2H),8.28(s,2H)
精密質量(LC−TofMS)(m/z):714.336(実測値),714.340(計算値.)
質量分析:GC−MSm/z=1003(M+),603(熱分解物)
以上の分析結果から、合成したものが、例示化合物89の構造と矛盾が無いことを確認した。
【0155】
以下、理解を容易にするため、本発明でもちいるπ電子共役系化合物前駆体からπ電子共役系化合物への変換反応について、具体例を用い説明する。
【0156】
【化27】

【0157】
一般式(XVI)の(1)で示すπ電子共役系化合物前駆体(1)(5mg)を任意の温度(150,160,170,180,220,230,240,260℃)に設定したホットプレート上で30分間加熱した。図1に加熱前後、および上記(XVI)式とは別の合成ルートを用い直接合成したπ電子共役系化合物(2)(π電子共役系化合物前駆体(1)から変換したものではない)のIRスペクトル(KBr法、SpectrumGX(商品名)、PerkinElmer社製)を示す。
240℃の加熱条件において、−O−(1156cm−1)およびC=O(1726cm−1)の吸収が消失し、新たな吸収(810,738,478cm−1、芳香族)の存在が確認された。これら吸収ピークはπ電子共役系化合物(2)のスペクトルと一致する。
また、π電子共役系化合物前駆体(1)の熱分解挙動を、TG−DTA(リファレンスAl,窒素気流下(200mL/min)、EXSTAR6000(商品名)、Seiko Instruments Inc.製)を用いて、25℃から500℃の範囲を5℃/minのレートで昇温し、観察した。その結果を図2に示す。
TG−DTAにおいて160〜290℃にかけて、56.7%の重量減少が見られた。
これはカプロン酸4分子(理論値54.2%)分の重量とほぼ一致する。また、357.7℃に融点の存在が認められた。これはπ電子共役系化合物(2)の融点と一致する。
以上の結果から化合物(1)が加熱により化合物(2)へと変換されることが示された。
また、脱離反応温度は240℃前後であることも示された。このように各種分析方法を用いることで、π電子共役系化合物前駆体からπ電子共役系化合物への変換を確認することができる。
【0158】
さらに、π電子共役系化合物前駆体から変換しπ電子共役系化合物からなる薄膜を作製した場合と、脱離変換過程を介さずに直接π電子共役系化合物からなる薄膜を作製した場合で膜構造がどのように異なるかを、具体例を用い説明する。
【0159】
【化28】

【0160】
π電子共役系化合物前駆体としては上記反応式(XVII)の(4)に示すものを用い、以下に示す方法で製膜した。基板には、膜厚300nmの熱酸化膜が付いたシリコンウェハー(Nドープ)を用いた。酸化膜表面を酸素プラズマで洗浄後、ポリイミド樹脂のN−メチル−2−ピロリドン溶液をスピンコートすることで、厚さ約500nmのポリイミド膜を製膜した。その後、π電子共役系化合物前駆体(4)のクロロホルム溶液(1wt%)をスピンコートすることで、厚さ約100nmのπ電子共役系化合物前駆体膜を得た。こうして得られた有機半導体前駆体膜を、230℃に設定されたホットプレート上に2時間、静置することで、π電子共役系化合物(5)への変換を行なった。
一方、上記とは別の製膜方法として真空蒸着を用い、π電子共役系化合物(5)の製膜を行なった。尚、この製膜方法においてπ電子共役系化合物(5)は、π電子共役系化合物前駆体(4)から変換されたものではなく、直接π電子共役系化合物(5)を合成し、用いた。また、基板には、上記スピンコートにて使用したものと同様のものを用い、背圧9.2*10−5Pa、基板温度180℃、蒸着レート0.03Å/sの条件下で、厚さ約100nmのπ電子共役系化合物膜を作製した。
【0161】
また、比較のため、真空蒸着法と同様に(π電子共役系化合物前駆体(4)から変換を経ずに)、直接合成したπ電子共役系化合物(5)の単結晶作製を行なった。単結晶の作製方法としては、例えば特許文献5(特開2008−53659号公報)に示されているような液相成長法や、非特許文献5(小野昇 低分子有機半導体の高性能化 サイエンス&テクノロジー p51)にあるような気相成長法が挙げられる。ここでは、一般的な気相成長法であるPhysical Vapor Transport法を用い、π電子共役系化合物(5)の単結晶作製を行なった。
【0162】
図3には前述した気相成長法にて作製したπ電子共役系化合物(5)の単結晶を、光学顕微鏡にて観察した結果を示す。図3の顕微鏡写真から、得られた単結晶は平板状の形状を有していることが分かった。さらに図3中のθ1に示すような、平板結晶の適当な角の角度を測定したところ、θ1=130度であった。
【0163】
図4には、前述した真空蒸着法にて製膜したπ電子共役系化合物(5)の膜を、走査型電子顕微鏡にて観察した結果を示す。その結果、分子が2次元状に広がって成長している様子が見られた。また、各ドメインには階段状の構造物が見られ、単分子単位で逐次的に成長していることが推察された。
【0164】
一方、図5には、前述したスピンコート法にて製膜したπ電子共役系化合物(5)の膜を、走査型電子顕微鏡にて観察した結果を示す。その結果、平板状の結晶が敷き詰まったような膜構造が見られた。さらに、図5中のθ2に示すような、平板結晶の適当な角の角度を測定したところ、θ2=130度であった。この値は上述した気相成長法にて作製した単結晶の角度と一致しており、スピンコート膜で見られた平板結晶と、気相成長にて作製した単結晶は同様の晶癖を有することが示唆された。よって、スピンコート膜は、気相成長で作成した単結晶と同様の結晶が敷き詰まった膜であることが推察された。
以上のことから、π電子共役系化合物(5)の膜は蒸着等の真空プロセスを用い製膜することが可能であるが、その外観はπ電子共役系化合物前駆体(4)から変換した膜とは大きく異なり、各種分析法により、その製造方法を判別することは可能である。
尚、上記具体例では、一例としてπ電子共役系化合物前駆体の脱離反応を加熱により実施する方法を挙げたが、活性エネルギー線の照射により脱離反応を行なうことも可能である。
ここで、活性エネルギー線は、上記π電子共役系化合物前駆体からなる薄膜をπ電子共役系化合物へ変換するこができるものであれば特に限定されず、従来公知の線源、照射方法の中から好ましいものを適宜選択すればよい。例えば、活性エネルギー線としてはラジオ波、マイクロ波、テラヘルツ波等の電波、紫外線、可視光線、赤外線等の光、X線、γ線等の電波や光以外の電磁波、電子線、プロトン線、中性子線等が挙げられる。
【0165】
本発明においては、取扱いの容易性等の観点から活性エネルギー線が光であることが好ましく、中でも光の照射位置、照射強度、照射時間等の照射条件が正確に制御できる点からレーザー光を用いることが好ましい。レーザー光としてはルビーレーザー、YAGレーザー、Nd:YAGレーザー等に代表される固体レーザー、色素レーザー等に代表される液体レーザー、炭酸ガスレーザー、ヘリウムネオンレーザー、アルゴンイオンレーザー、エキシマレーザー等に代表される気体レーザー、及び半導体レーザー、自由電子レーザー等を用いることができる。
活性エネルギー線を用いることで、基板に対して過剰な加熱を行なうことなく変換が可能であることから、耐熱性の乏しい基板を使用することができる。
また、脱離反応は酸または塩基の存在下で行なってもよい。酸や塩基は脱離反応の触媒として働き、より低温での変換が可能となる。これらの使用方法は特に限定はされないが、そのまま添加してもよいし、任意の溶媒に溶解させ溶液にして添加してもよいし、気化させてその雰囲気中で加熱処理を行なってもよいし、光酸発生剤および光塩基発生剤等を添加し、光照射によって系内で酸および塩基を得てもよい。
【0166】
上記、酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、蟻酸、リン酸等、2−ブチルオクタン酸を用いることができる。
【0167】
また塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸塩、トリエチルアミン、ピリジン等のアミン類、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン等のアミジン類などを用いることができる。
【0168】
光酸発生剤としては、スルホニウム塩、ヨードニウム塩等のイオン性発生剤とイオン性光酸発生剤イミドスルホネート、オキシムスルホネート、ジスルホニルジアゾメタン、ニトロベンジルスルホネート等の非イオン性発生剤を挙げることができる。
【0169】
以下、本発明が開示する薄膜トランジスタの作製工程について説明する。
本発明に係わるトップゲート型トランジスタは、少なくとも支持体、前記有機膜及びゲート絶縁膜を有しており、該有機膜が支持体とゲート絶縁膜の間に積層されることを特徴とする。尚、有機半導体層に接するようにソース及びドレイン電極を配置してもよく、ゲート絶縁膜に接するようにゲート電極を形成してもよい。
【0170】
図6(A)〜(D)には、本発明に係わる薄膜トランジスタの概略構造であり、有機半導体層(1)、ゲート絶縁膜(2)、ソース電極(3)、ドレイン電極(4)、及びゲート電極(5)が設けられている。本発明では、(B)及び(D)に示すようなトップゲート型薄膜トランジスタが好ましい。
【0171】
支持体の材料としては、前駆体薄膜が剥離することなく形成されるものであれば特に限定はされず、例えばガラス、シリコン、樹脂、あるいはそれらの複合素材等が挙げられる。
中でも、樹脂材料からなる板やフィルム、樹脂と無機材料の複合材料など各種組み合わせからなる複合材等を用いると、素子に可撓性を持たせることができる上、得られる積層体が軽量かつ柔軟なものになることから特に好ましい材料であるといえる。
【0172】
樹脂材料としては、このような材料としては例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ノボラック樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、シロキサン樹脂が挙げられる。
【0173】
上記樹脂材料は、1種類単独でも2種類以上を組みあせて用いることもできる。また、樹脂材料の他にSiO2などの微粒子等を含有させることもできる。充填剤の配合量は、好ましくは50重量%以下であり、より好ましくは20重量%以下である。
支持基板の厚みは、用途により適宜変えることができるが、下限として通常1μm以上、好ましくは10μm以上であり、上限としては、通常1000μm以下、好ましくは、500μm以下である。支持基板の厚みが1μm以下であると、プロセス上のハンドリングが困難になり、また1mm以上では、デバイス化した際の厚み、重量が大きくなるため好ましくない。
【0174】
π電子共役系化合物前駆体の薄膜形成方法は、支持基板からの剥離が容易に生じないように形成可能であれば特に限定されるものではないが、π電子共役系化合物前駆体を溶媒に溶解させた溶液を塗布、印刷するプロセスを用いることが好ましい。
例えば、塗布方法としては慣用のコーティング方法、スピンコーティング法、キャスト法、スプレー塗布法、ドクターブレード法、ダイコーティング法、ディッピング法、印刷法、インクジェット法、滴下法等が挙げられる。また、印刷法としては、スクリーン印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、マイクロコンタクトプリンティングなどが挙げられる。これらの塗布方法のうち、塗布量を制御して所望の膜厚の成膜ができるという点で好ましい塗布方法は、スピンコーティング法、ディッピング法、スプレー塗布法、インクジェット法である。
π電子共役系化合物前駆体を溶解するために用いられる有機溶媒は有機半導体材料が反応したり、析出したりしなければ特に限定されない。また、2種以上の有機溶媒を混合して用いてもよい。ここで、溶媒には、塗膜表面の平滑性や膜厚の均一性を考慮に入れた溶媒を選択することが望ましい。例えば、π電子共役系化合物前駆体A−(B)mにおいて可溶性置換基Bが極性基である場合、極性基に親和性の高いメタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等のエーテル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン、フエノール、クレゾールのようなフエノール類、ジメチルホルムアミド(DMF)、ピリジン、ジメチルアミン、トリエチルアミン等の含窒素有機溶媒、メチルセロソルブ、エチルセロソルブのようなセロソルブ(登録商標)等の極性(水混和性)溶媒等が使用できる。また、π電子共役系置換基Bと比較的親和性のあるトルエン、キシレン、ベンゼン等の炭化水素、四塩化炭素、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、トリクロロエチレン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、ジクロロエチリデン等のハロゲン化炭化水素溶媒、酢酸メチル、酢酸エチルのようなエステル系溶媒、ニトロメタン、ニトロエタン等の含窒素有機溶媒等を用いてもよい。これらは、単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
これらの溶媒はあらかじめ乾燥、脱気処理を行なうことが望ましい。π電子共役系化合物前駆体と溶媒からなる溶液の濃度は所望の膜厚によって任意に調節されるが、好ましくは0.01重量%以上10重量%以下である。
その後、外部エネルギーの付与により、π電子共役系化合物前駆体をπ電子共役系化合物へと変換し、有機半導体層を形成する。外部エネルギーとしては、熱エネルギー、あるいは光エネルギーが挙げられる。脱離変換反応を行なうための加熱温度については、室温から400℃の範囲を用いることが可能であり、中でも50から300℃の範囲が好ましく、さらに好ましくは80から200℃程度である。加熱時間は脱離変換反応が充分に進行する時間であればよい。
【0175】
有機半導体層の膜厚としては、特に制限はないが、均一な薄膜(即ち、有機半導体層のキャリア輸送特性に悪影響を及ぼすギャップやホールがない)が形成されるような厚みに選択される。有機半導体薄膜の厚みは、一般に100μm以下、特に5〜1000nmが好ましい。
【0176】
また、π電子共役系化合物前駆体からなる薄膜形成工程の前に、支持体上に種々の機能層が形成される機能層形成工程が行なわれていてもよい。具体的には、有機半導体材料の結晶性を向上させる役割を果たす結晶化下地膜、有機半導体材料の配向性を促す配向膜、熱エネルギーを基板側に伝わらないようにする作用を有する熱遮断層、照射された光を効率的に吸収し熱に変換する光吸収層、基板が吸収した水分を有機半導体層へ透過させないための保護膜を基板上に設ける工程などが挙げられる。
本発明の薄膜トランジスタに用いられるソース電極、ドレイン電極としては、導電性材料であれば特に限定されず、白金、金、銀、ニッケル、クロム、銅、鉄、錫、アンチモン、鉛、タンタル、インジウム、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム等、及びこれらの合金やインジウム・錫酸化物等の導電性金属酸化物、あるいはドーピング等で導電率を向上させた無機及び有機半導体、例えば、シリコン単結晶、ポリシリコン、アモルファスシリコン、ゲルマニウム、グラファイト、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチエニレンビニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸の錯体等が挙げられる。ソース電極及びドレイン電極は、上記導電性の中でも半導体層との接触面において、接触抵抗が少ないものが好ましい。
【0177】
電極の形成方法としては、上記材料を原料として蒸着やスパッタリング等の方法を用いて形成した導電性薄膜を、公知のフォトリソグラフ法やリフトオフ法を用いて電極形成する方法、アルミニウムや銅等の金属箔上に熱転写、インクジェット等によるレジストを用いてエッチングする方法がある。また導電性ポリマーの溶液あるいは分散液、導電性微粒子分散液を直接インクジェットによりパターニングしてもよいし、塗工膜からリソグラフィーやレーザーアブレーション等により形成してもよい。さらに導電性ポリマーや導電性微粒子を含むインク、導電性ペースト等を凸版、凹版、平版、スクリーン印刷等の印刷法でパターニングする方法も用いることができる。また、ソース電極及びドレイン電極は、各電極が有機半導体層の上部に設けられるトップコンタクト型、及び各電極が有機半導体層の下部に設けられるボトムコンタクト型のどちらを用いてもよい。
【0178】
本発明の薄膜トランジスタにおいて用いられるゲート絶縁膜は、有機半導体の上層に設けられる必要がある。種々の絶縁膜材料を用いることができ、例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタル、酸化スズ、酸化バナジウム、チタン酸バリウムストロンチウム、ジルコウム酸化チタン酸バリウム、ジルコニウム酸チタン酸鉛、チタン酸鉛ランタン、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、フッ化バリウムマグネシウム、タンタル酸ニオブ酸ビスマス、トリオキサイドイットリウム等の無機系絶縁材料が挙げられる。
【0179】
また、例えば、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、ポリエステル、ポリエチレン、ポリフェニレンスルフィド、無置換またはハロゲン原子置換ポリパラキシリレン、ポリアクリロニトリル、シアノエチルプルラン等の高分子化合物を用いることができる。さらに、上記絶縁材料を2種以上合わせて用いてもよい。特に材料は限定されないが、中でも誘電率が高く、導電率が低いものが好ましい。
【0180】
上記材料を用いた絶縁膜層の作製方法としては、例えば、CVD法、プラズマCVD法、プラズマ重合法、蒸着法のドライプロセスや、スプレーコート法、スピンコート法、ディップコート法、インクジェット法、キャスト法、ブレードコート法、バーコート法等の塗布によるウェットプロセスが挙げられる。しかし、π電子共役系化合物前駆体は塗布法や印刷法などの簡便なプロセスにより薄膜化でき、さらに脱離変換後のπ電子共役系化合物は高い耐溶剤性を有することから、ゲート絶縁膜はウェットプロセスにて製膜することが望ましい。
【0181】
ゲート電極材料はソース電極及びドレイン電極と同様に、導電性材料であれば特に限定されず、電極形成方法もソース電極及びドレイン電極と同様の各種形成方法が使用できる。
【0182】
本発明の薄膜トランジスタは、大気中でも安定に駆動するものであるが、機械的破壊からの保護、水分やガスからの保護、またはデバイスの集積の都合上の保護等のため必要に応じて保護層を設けることもできる。
本発明の薄膜トランジスタは、液晶、有機EL、電気泳動等の表示画像素子を駆動するための素子やICタグ等の電子デバイスとして利用することができる。
【実施例】
【0183】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、これら実施例によって制限されるものではない。
【0184】
[実施例1]
シリコンウェハーを酸素プラズマにて洗浄後、ポリイミド樹脂のN−メチル−2−ピロリドン溶液をスピンコートすることで、厚さ約40nmのポリイミド膜を製膜した。その後、例示化合物1のクロロホルム溶液(1wt%)をスピンコートすることで、厚さ約100nmのπ電子共役系化合物前駆体膜を得た。こうして得られた有機半導体前駆体膜を230℃に設定したホットプレート上に2時間静置し、π電子共役系化合物前駆体からπ電子共役系化合物への変換を行なった。
変換後、シャドウマスクを用いて金を真空蒸着(背圧〜10−4Pa,蒸着レート1〜2Å/s、膜厚:50nm)することによりソース、ドレイン電極を形成した(チャネル長50μm,チャネル幅2mm)。
その後、PMMA溶液をスピンコートし、厚さ約500nmのPMMAからなるゲート絶縁膜を製膜した。さらに、シャドウマスクを用いてアルミを真空蒸着(背圧〜10−4Pa,蒸着レート1〜2Å/s、膜厚:100nm)することによりゲート電極を形成した。
こうして得られた素子の電気特性をAgilent社製 半導体パラメーターアナライザー4156Cを用いて評価した結果、p型のトランジスタ素子としての特性を示した。
飽和領域における伝達特性から、電界効果移動度を求めた。電界効果移動度の算出には、以下の式を用いた。
Ids=μCinW(Vg−Vth)/2L
(ただし、Cinはゲート絶縁膜の単位面積あたりのキャパシタンス、Wはチャネル幅、Lはチャネル長、Vgはゲート電圧、Idsはソースドレイン電流、μは移動度、Vthはチャネルが形成し始めるゲートの閾値電圧である。)
こうして得られた電界効果移動度は0.32cm/Vsであった。また、大気暴露による、特性の劣化は見られなかった。
【0185】
[実施例2]
シリコンウェハーを酸素プラズマにて洗浄後、ポリイミド樹脂のN−メチル−2−ピロリドン溶液をスピンコートすることで、厚さ約40nmのポリイミド膜を製膜した。その後、シャドウマスクを用いて金を真空蒸着(背圧〜10−4Pa,蒸着レート1〜2Å/s、膜厚:50nm)することによりソース、ドレイン電極を形成した(チャネル長50μm,チャネル幅2mm)。
蒸着後、例示化合物1のクロロホルム溶液(1wt%)をスピンコートすることで、厚さ約100nmのπ電子共役系化合物前駆体膜を得た。こうして得られた有機半導体前駆体膜を230℃に設定したホットプレート上に2時間静置し、π電子共役系化合物前駆体からπ電子共役系化合物への変換を行なった。
その後、PMMA溶液をスピンコートし、厚さ約500nmのPMMAからなるゲート絶縁膜を製膜した。さらに、シャドウマスクを用いてアルミを真空蒸着(背圧〜10−4Pa,蒸着レート1〜2Å/s、膜厚:100nm)することによりゲート電極を形成した。
こうして得られた素子の電界効果移動度は0.48cm/Vsであった。また、大気暴露による特性の劣化は見られなかった。
【0186】
[比較例1]
シリコンウェハー(Nドープ)を酸素プラズマにて洗浄後、PMMA溶液をスピンコートすることで、厚さ約500nmのPMMA膜を製膜した。その後、例示化合物1のクロロホルム溶液(1wt%)をスピンコートすることで、厚さ約100nmのπ電子共役系化合物前駆体膜を得た。こうして得られた有機半導体前駆体膜を230℃に設定したホットプレート上に2時間静置し、π電子共役系化合物前駆体からπ電子共役系化合物への変換を行なった。
変換後、シャドウマスクを用いて金を真空蒸着(背圧〜10−4Pa,蒸着レート1〜2Å/s、膜厚:50nm)することによりソース、ドレイン電極を形成した(チャネル長50μm,チャネル幅2mm)。電極とは異なる部位のπ電子共役系化合物およびシリコン酸化膜を削り取り、その部分に導電性ペースト(導電性ペースト、藤倉化成製)を付け溶媒を乾燥させることで、ゲート電極を作製した。
こうして得られた素子の電界効果移動度は0.12cm/Vsであった。また、大気暴露後に再測定したところ、Vthのシフト(高電圧化)が見られた。
【符号の説明】
【0187】
1 有機半導体層
2 ゲート絶縁膜
3 ソース電極
4 ドレイン電極
5 ゲート電極
6 基板
【先行技術文献】
【特許文献】
【0188】
【特許文献1】特開2004−247716号公報
【特許文献2】特開2009−81408号公報
【特許文献3】特願2010−119001号明細書
【特許文献4】特願2010−135664号明細書
【特許文献5】特開2008−53659号公報
【非特許文献】
【0189】
【非特許文献1】J.Appl.Phys.100,034502(2006)
【非特許文献2】Appl.Phys.Lett.84(12),2085(2004)
【非特許文献3】IEICE technical report.Electronic information displays.107(453),81(2008)
【非特許文献4】表面科学.24(2),69(2003)
【非特許文献5】小野昇 低分子有機半導体の高性能化 サイエンス&テクノロジー p51

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下記一般式(I)で示される工程により得られる有機膜を用いたトップゲート型薄膜トランジスタ。
【化1】

【化2】

【化3】

(ここでAはπ電子共役系置換基であり、Bは上記一般式(II)で表される構造を少なくとも部分構造として有している溶媒可溶性置換基である。mは自然数である。Cは上記一般式(III)で示されている構造を少なくとも部分構造として有している。R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子または置換基であり、互いに環状を形成していてもよく、π電子共役系置換基Aと共有結合を介して環状を形成していてもよい。
上記一般式(I)、(II)及び(III)中、X,Yのうち一方は水素原子もしくは脱離性置換基を表し、m≧2の場合、XまたはYの脱離性置換基は互いに同一であっても異なっていても良く、環状の前記脱離性置換基を形成していても良い。ただし、Bは上記一般式(I)中、Aと共有結合を介して連結している。)
【請求項2】
少なくとも支持体、前記有機膜及びゲート絶縁膜を有しており、該有機膜が支持体とゲート絶縁膜の間に積層されることを特徴とする請求項1に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項3】
前記ゲート絶縁膜がウェットプロセスにて製膜できることを特徴とする請求項1又は2に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項4】
前記、脱離性置換基XまたはYが、置換されていてもよい炭素数1以上の、エーテル基またはアシルオキシ基であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の薄膜トランジスタ。
【請求項5】
前記置換基Aが、(i)1つ以上の芳香族炭化水素環および芳香族ヘテロ環、若しくは2つ以上の前記環が縮環された化合物残基、および、(ii)前記(i)の環同士が共有結合を介して連結された化合物残基、からなる群から選択された少なくとも一種類以上のπ電子共役系化合物残基であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の薄膜トランジスタ。
【請求項6】
少なくとも前記π電子共役系置換基Aが、チオフェン環とベンゼン環から選択される縮環化合物または該化合物の環同士が共有結合を介して連結された化合物から選択されるπ電子共役化合物の残基であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の薄膜トランジスタ。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の薄膜トランジスタを用いた電子デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−26591(P2013−26591A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162935(P2011−162935)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】