説明

薄膜評価方法、機能性フィルムおよびその製造方法、透明電磁波遮蔽フィルムおよびその製造方法、光学フィルターならびにプラズマディスプレイ

【課題】光学膜として作用する層を有する透明高分子フィルム上に薄膜が成膜された試料を用いた場合であっても、試料中の薄膜の膜厚および/または光学定数を従来よりも正確かつ少ないばらつきで評価することが可能な薄膜評価方法を提供する。
【解決手段】第1の透明高分子フィルムの一方面に光学膜として作用する層を有し、その他方面に評価対象となる薄膜が形成された試料中の薄膜の膜厚および/または光学定数を求めるにあたり、光学膜として作用する層面側に、中間層を任意に介して、第1の透明高分子フィルムと同等の屈折率を有する第2の透明高分子フィルムを貼り合わせ、この第2の透明高分子フィルム付き試料の反射率および透過率を少なくとも用い、薄膜の膜厚および/または光学定数を求めるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜評価方法、機能性フィルムおよびその製造方法、透明電磁波遮蔽フィルムおよびその製造方法、光学フィルターならびにプラズマディスプレイに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な産業分野において、光学的機能、電気的機能などの高次機能を実現するため、各種の機能性薄膜が用いられている。
【0003】
例えば、プラズマディスプレイパネル(Plasma Display Panel、以下「PDP」という。)など、表示装置に関する分野では、例えば、電磁波遮蔽機能、近赤外線遮蔽機能、導電機能などの諸機能を有する薄膜を備えた機能性フィルムとして、透明高分子フィルム上に、金属酸化物薄膜、金属薄膜が交互に積層された透明電磁波遮蔽フィルムが用いられている。
【0004】
この種の透明電磁波遮蔽フィルムにおいて、薄膜の膜厚および光学定数(屈折率n、吸収係数k)(以下、単に「光学定数」ということがある。)は、各種の諸機能に密接に関係していることから、薄膜設計上非常に重要なパラメータとされている。
【0005】
そのため、要求される光学特性を満たす透明電磁波遮蔽フィルムを得るには、できるかぎり高い精度で薄膜の膜厚および光学定数などを評価し、この評価結果に基づいて薄膜製造条件を設定して薄膜を形成することが必要になる。
【0006】
従来、薄膜評価方法としては、実際の製品である透明電磁波遮蔽フィルム中の基板とは異なる基板、例えば、シリコン基板、ガラス基板などの基板上に、評価対象となる所望の薄膜を成膜した試料を用いて、薄膜の膜厚および光学定数などを評価する方法が一般的に用いられてきた。
【0007】
例えば、特許文献1には、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に酸化チタン薄膜が成膜された透明電磁波遮蔽フィルム以外に、シリコン基板上に酸化チタン薄膜が成膜された試料を別途作製し、この試料の光学定数を、自動エリプソメーターを用いて測定する薄膜評価方法が記載されている。
【0008】
また例えば、最近のコンピュータを用いた解析技術の向上などにより、基板上に薄膜が形成された試料の反射率および透過率を実測し、これら実測値などを用いて、シミュレーションにより試料中の薄膜の膜厚および光学定数などを求めることも行われるようになってきている。
【0009】
【特許文献1】特開2004−197189(実施例)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来の薄膜評価方法は、下記の点で問題があった。すなわち、試料中の薄膜の膜厚および光学定数を評価するには、一般に、試料中の基板の厚みおよび光学定数を使用する。
【0011】
特許文献1に記載の薄膜評価方法の場合、実際の製品である透明電磁波遮蔽フィルム中の基板と評価する試料中の基板とが異なる。そのため、この試料では、実際の製品である透明電磁波遮蔽フィルム中の薄膜の膜厚および光学定数を正確に評価することができなかった。
【0012】
したがって、この試料により得られた薄膜の膜厚および光学定数などの評価結果に基づいて薄膜製造条件を設定し、透明電磁波遮蔽フィルムを製造すると、所望の要求特性を満たした薄膜を備えた透明電磁波遮蔽フィルムが得られにくいといった問題があった。
【0013】
もっとも、この種の問題に対して、実際の製品である透明電磁波遮蔽フィルム中の基板と同一の基板を有する試料を用いて、薄膜の評価を行うことも考えられる。
【0014】
しかしながら、近年、表示装置などに適用される透明電磁波遮蔽フィルムは、画質を損なわないようにするなどの観点から、高い透明性を有する透明高分子フィルムが多く用いられるようになってきており、これに起因して以下のような問題があった。
【0015】
すなわち、この種の高透明性の高分子フィルムは、透過率を確保するため、フィルム中に含まれるフィラーを最小限にするか、あるいは、フィラーを全く用いていない。そのため、フィルム表面が極めて平坦になっており、フィルムを巻いたり、重ね合わせたりしたときに、貼り付きが発生したり、フィルム同士が滑らずにハンドリング性が悪化したりするなどの問題が生じやすい。このため、上記透明高分子フィルムの表面には、これらの問題を回避する目的で、アクリル系樹脂やウレタン系樹脂などからなる易接着層が形成されている。
【0016】
ところが、この易接着層は、その厚さが約1〜2μm程度であるため、光学膜として作用して光の干渉を引き起こし、透過率や反射率に影響を及ぼす。また、この易接着層は、主に上記問題を回避するだけのものであるので、その厚さは、通常大きくばらついていることが多い。
【0017】
したがって、上記易接着層など、光学膜として作用する層を有する透明高分子フィルム上に薄膜が成膜された試料を用いて、その試料の反射率および透過率を実測し、これら実測値を用いて、シミュレーションにより試料中の薄膜の膜厚および光学定数などを求めた場合、光学膜として作用する層の影響により、試料中の薄膜の評価結果が全く異なる値であったり、ばらつきが大きくなったりする。
【0018】
そのため、この試料により得られた薄膜の膜厚および光学定数などの評価結果に基づいて薄膜製造条件を設定し、透明電磁波遮蔽フィルムを製造すると、やはり、所望の要求特性を満たした薄膜を備えた透明電磁波遮蔽フィルムが得られにくいといった問題があった。
【0019】
さらに、この種の問題は、基板の屈折率ばらつきが大きくなるほど、顕著になる傾向が見られる。
【0020】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、光学膜として作用する層を有する透明高分子フィルム上に薄膜が成膜された試料を用いた場合であっても、試料中の薄膜の膜厚および/または光学定数を従来よりも正確かつ少ないばらつきで評価することが可能な薄膜評価方法を提供することにある。
【0021】
また、他の課題は、上記薄膜評価方法による評価結果に基づいて製造条件を設定して成膜された薄膜を備えた機能性フィルムおよびその製造方法、とりわけ、電磁波遮蔽機能、近赤外線遮蔽機能、導電機能などの諸機能を有する透明電磁波遮蔽フィルムおよびその製造方法、この透明電磁波遮蔽フィルムを用いた光学フィルター、プラズマディスプレイを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するため、本発明に係る薄膜評価方法は、第1の透明高分子フィルムの一方面に光学膜として作用する層を有し、その他方面に評価対象となる薄膜が形成された試料中の薄膜の膜厚および/または光学定数を求めるにあたり、光学膜として作用する層面側に、中間層を任意に介して、第1の透明高分子フィルムと同等の屈折率を有する第2の透明高分子フィルムを貼り合わせ、この第2の透明高分子フィルム付き試料の反射率および透過率を少なくとも用い、薄膜の膜厚および/または光学定数を求めることを要旨とする。
【0023】
ここで、上記中間層としては、光学膜として作用する層と同等の屈折率を有する透明硬質基板を好適に用いることができる。
【0024】
また、薄膜の膜厚および/または光学定数を求める手段は、第1の透明高分子フィルムから第2の透明高分子フィルムまでを一つの基板とみなし、このみなし基板の厚みおよび光学定数の実測値を予め求める手順と、得られたみなし基板の厚みおよび光学定数の実測値と、試料中の薄膜の膜厚および光学定数の推定値とから解析用計算モデルを決定する手順と、第2の透明高分子フィルム付き試料の反射率および透過率を実測する手順と、得られた第2の透明高分子フィルム付き試料の反射率および透過率の実測値と、解析用計算モデルより算出した第2の透明高分子フィルム付き試料の反射率および透過率とを、実測時の光の波長に対してフィッティングする手順と、フィッティングの結果、薄膜の膜厚および/または光学定数を算出する手順とを含むことが好ましい。
【0025】
また、本発明に係る機能性フィルムは、透明高分子フィルムの一方面に光学膜として作用する層を有し、その他方面に薄膜が形成されたものであって、薄膜は、上記薄膜評価方法により求めた膜厚および/または光学定数に少なくとも基づいて製造条件が設定されて成膜されていることを要旨とする。
【0026】
また、本発明に係る機能性フィルムの製造方法は、透明高分子フィルムの一方面に光学膜として作用する層を有し、その他方面に薄膜が形成された機能性フィルムの製造方法であって、薄膜を、上記薄膜評価方法により求めた膜厚および/または光学定数に少なくとも基づいて製造条件を設定して成膜することを要旨とする。
【0027】
また、本発明に係る透明電磁波遮蔽フィルムは、透明高分子フィルムの一方面に光学膜として作用する層を有し、その他方面に金属酸化物を含む薄膜と金属薄膜とが交互に積層されたものであって、金属酸化物を含む薄膜および/または金属薄膜は、上記薄膜評価方法により求めた膜厚および/または光学定数に少なくとも基づいて製造条件が設定されて成膜されていることを要旨とする。
【0028】
また、本発明に係る透明電磁波遮蔽フィルムの製造方法は、透明高分子フィルムの一方面に光学膜として作用する層を有し、その他方面に金属酸化物を含む薄膜と金属薄膜とが交互に積層された透明電磁波遮蔽フィルムの製造方法であって、金属酸化物を含む薄膜および/または金属薄膜を、上記薄膜評価方法により求めた膜厚および/または光学定数に少なくとも基づいて製造条件を設定して成膜することを要旨とする。
【0029】
また、本発明に係る光学フィルターは、上記透明電磁波遮蔽フィルムを有することを要旨とする。
【0030】
また、本発明に係るプラズマディスプレイは、上記透明電磁波遮蔽フィルムまたは上記光学フィルターを有することを要旨とする。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係る薄膜評価方法では、易接着層などの光学膜として作用する層面側に、中間層を任意に介して、第1の透明高分子フィルムと同等の屈折率を有する第2の透明高分子フィルムを貼り合わせ、この第2の透明高分子フィルム付き試料の反射率および透過率を少なくとも用い、試料中の薄膜の膜厚および/または光学定数を求めることにしている。
【0032】
そのため、第1の透明高分子フィルムから第2の透明高分子フィルムまでを一つの基板と見なすことができ(以下、「みなし基板」ということがある。)、光学膜として作用する層の影響を取り除いた状態で、試料中の薄膜の膜厚および/または光学定数を評価することができる。これにより、従来よりも、ばらつきの少ない薄膜評価結果が得られる。
【0033】
さらに、上記試料では、みなし基板の最表面が第1の透明高分子フィルム、最裏面が第2の透明高分子フィルムであり、かつ、これらは同等の屈折率を有していることから、このみなし基板の表裏面における透過率および反射率特性はほぼ同一になる。そのため、正確な薄膜評価結果が得られる。
【0034】
したがって、このようにして得られた薄膜評価結果に少なくとも基づいて薄膜製造条件を設定し、光学膜として作用する層を有する透明高分子フィルム上に薄膜を成膜した場合には、所望の要求特性を満たした薄膜を備えた機能性フィルムを得やすくなる。
【0035】
その他にも、薄膜評価を行うにあたり、試料中における光学膜として作用する層を、例えば、化学的な表面処理などにより剥離するなどの必要がないので、薄膜評価前に試料中の薄膜を損傷したり、薄膜に変質をきたしたりするおそれが少ないといった利点がある。
【0036】
この際、試料中の中間層として、光学膜として作用する層と同等の屈折率を有する透明硬質基板を用いた場合には、試料の剛性が高まる。そのため、試料のたわみが少なくなり、試料の反射率などを実測したときに誤差が生じにくく、正確かつばらつきの少ない薄膜評価結果をより得やすくなるなどといった利点がある。
【0037】
また、薄膜の膜厚および/または光学定数を求めるにあたり、第2の透明高分子フィルム付き試料の反射率および透過率の実測値と、解析用計算モデルより算出したその試料の反射率および透過率とを、実測時の光の波長に対してフィッティングし、そのフィッティングの結果から試料中の薄膜の膜厚および/または光学定数を算出する場合には、非接触、非破壊でより精度の高い薄膜評価を行うことができる。
【0038】
また、本発明に係る機能性フィルムは、上記薄膜評価方法により得られた膜厚および/または光学定数に少なくとも基づいて製造条件が設定されて薄膜が成膜されているので、所望の機能につき、要求特性を満たしている。
【0039】
また、本発明に係る機能性フィルムの製造方法によれば、上記薄膜評価方法により得られた膜厚および/または光学定数に少なくとも基づいて製造条件を設定して薄膜を成膜するので、所望の機能につき、要求特性を満たした機能性フィルムを得やすい。
【0040】
また、本発明に係る透明電磁波遮蔽フィルムは、上記薄膜評価方法により得られた膜厚および/または光学定数に少なくとも基づいて製造条件が設定されて金属酸化物を含む薄膜、金属薄膜が成膜されているので、電磁波遮蔽機能、近赤外線遮蔽機能、導電機能などの機能につき、要求特性を満たしている。
【0041】
また、本発明に係る透明電磁波遮蔽フィルムの製造方法によれば、上記薄膜評価方法により得られた膜厚および/または光学定数に少なくとも基づいて製造条件を設定して金属酸化物を含む薄膜、金属薄膜を成膜するので、電磁波遮蔽機能、近赤外線遮蔽機能、導電機能などの機能につき、要求特性を満たした透明電磁波遮蔽フィルムを得やすい。
【0042】
また、本発明に係る光学フィルターは、上記透明電磁波遮蔽フィルムを有しているので、電磁波遮蔽機能、近赤外線遮蔽機能、導電機能などの機能に優れる。
【0043】
また、本発明に係るプラズマディスプレイは、上記透明電磁波遮蔽フィルムまたは光学フィルターを有しているので、電磁波遮蔽機能、近赤外線遮蔽機能、導電機能などの機能に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
本実施形態に係る薄膜評価方法、透明電磁波遮蔽フィルムおよびその製造方法、光学フィルターならびにプラズマディスプレイについて詳細に説明する(以下、本実施形態に係る薄膜評価方法を「本評価方法」と、本実施形態に係る透明電磁波遮蔽フィルムを「本フィルム」と、本実施形態に係る光学フィルターを「本フィルター」と、本実施形態に係るプラズマディスプレイを「本ディスプレイ」ということがある。)。なお、以下において、具体的な数値により光学定数を特定した場合には、その値は、波長633nmにおける値を示している。
【0045】
1.本評価方法
本評価方法では、第1の透明高分子フィルムの一方面に光学膜として作用する層を有し、その他方面に評価対象となる薄膜が形成された試料中の薄膜の膜厚および/または光学定数を求めるにあたり、光学膜として作用する層面側に、中間層を任意に介して、第1の透明高分子フィルムと同等の屈折率を有する第2の透明高分子フィルムを貼り合わせ、この第2の透明高分子フィルム付き試料の反射率および透過率を少なくとも用い、薄膜の膜厚および/または光学定数を求めることとしている。以下、詳細に説明する。
【0046】
本評価方法において、始めに準備する試料は、第1の透明高分子フィルムの片面に光学膜として作用する層を有し、その反対面に薄膜が形成されており、光学膜として作用する層面側に、中間層を任意に介して、第1の透明高分子フィルムと同等の屈折率を有する第2の透明高分子フィルムが貼り合わされた試料である。
【0047】
ここで、試料中の第1の透明高分子フィルムは、実際の製品である透明電磁波遮蔽フィルム(後述する)中の透明高分子フィルムと同一種の材料であれば、特に限定されるものではない。
【0048】
第1の透明高分子フィルムとしては、具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、トリアセチルセルロース、ポリウレタン、シクロオレフィンポリマーなどを例示することができる。
【0049】
この際、上記第1の透明高分子フィルムは、透明性の観点から、フィルム中に含まれるシリカなどのフィラーは最小限とされているか、あるいは、フィラーを実質的に含まないものが良い。
【0050】
また、第1の透明高分子フィルムの厚みとしては、その上限値として、1mm、500μm、250μm、150μmなどを例示することができ、これら上限値と組み合わせることが可能な下限値として、5μm、10μm、25μmなどを例示することができる。
【0051】
また、上記第1の透明高分子フィルムがその片面に有する、光学膜として作用する層は、反射率、透過率に影響を及ぼす厚みを有する層である。このような光学膜として作用する層としては、例えば、フィルムのハンドリング性や、接着性などを確保する目的などで形成される易接着層などを例示することができる。
【0052】
この種の易接着層の材質としては、具体的には、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、金属アルコキシドなどが挙げられる。
【0053】
なお、片面に易接着層を有する第1の透明高分子フィルムは、一般に市場で入手することができるものであり、例えば、具体的には、東洋紡績株式会社製「コスモシャイン(登録商標)A4100」などを例示することができる。
【0054】
一方、易接着層など、光学膜として作用する層を有する第1の透明高分子フィルムの光学膜として作用する層側と反対側には、評価対象となる薄膜が形成されている。薄膜としては、例えば、チタンの酸化物、ジルコニウムの酸化物、インジウムの酸化物、インジウムと錫の酸化物、アルミニウムの酸化物、亜鉛の酸化物、タンタルの酸化物、錫の酸化物、マグネシウムの酸化物などの金属酸化物を含む薄膜、金、銀、銅、パラジウム、白金など、または、これらを主成分とする合金などからなる金属薄膜などを例示することができる。
【0055】
また、評価対象となる薄膜は、光学膜として作用する層が形成された第1の透明高分子フィルム上に、各種の薄膜形成方法により形成することができ、その薄膜形成方法は特に限定されるものではない。
【0056】
上記薄膜形成方法としては、具体的には、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、MBE法、レーザーアブレーションなどの物理的気相成長法(PVD)、熱CVDなどの化学的気相成長法(CVD)などといった気相法、電解めっき、無電解めっきなどのめっき法、陽極酸化法、ゾル−ゲル法などといった液相法などを例示することができる。
【0057】
とりわけ、透明電磁波遮蔽フィルム(後述する)における金属酸化物を含む薄膜を製造する製造条件を設定するために、本評価方法を用いる場合には、評価対象となる薄膜は、ゾル−ゲル法により形成すると良い。ゾル−ゲル法は、コストなどに優れるからである。
【0058】
また、上記透明高分子フィルムの光学膜として作用する層面側には、中間層を任意に介して、第2の透明高分子フィルムが貼り合わされている。
【0059】
ここで、上記第2の透明高分子フィルムは、上述した第1の透明高分子フィルムと同等の屈折率を少なくとも有している。この場合、「同等」とは、第1の透明高分子フィルムの屈折率の平均値に対して−0.1〜+0.1の範囲のものをいう。
【0060】
このような第2の透明高分子フィルムとしては、具体的には、例えば、第1の透明高分子フィルムについて例示したものを例示することができる。なお、第1の透明高分子フィルムと第2の透明高分子フィルムとは、両者の屈折率が同等であれば、同じ材質、同じ厚みのものであっても良いし、異なる材質、異なる厚みのものであっても良い。あるいは、同じ材質、異なる厚みのもの、異なる材質、同じ厚みのものなどであっても良く、特に限定されるものではない。
【0061】
また、第2の透明高分子フィルムには、第1の透明高分子フィルムと同様の易接着層などの光学膜として作用する層が片面に形成されていても良いし、また、この層が形成されていなくても良い。なお、光学膜として作用する層が形成されている場合、第2の透明高分子フィルムの光学膜として作用する層は、試料中において、薄膜形成側に配置された状態で貼り合わされる。したがって、試料の最裏面に第2の透明高分子フィルムの光学膜として作用する層が位置することはない。
【0062】
また、上記試料では、試料の剛性を高めるなどの観点から、第1の透明高分子フィルムと第2の透明高分子フィルムの間に、任意で中間層を介在させることができる。
【0063】
この中間層は、上記光学膜として作用する層と同等の屈折率を有しており、具体的には、例えば、透明硬質基板などを好適に用いることができる。この場合、「同等」とは、上記光学膜として作用する層の屈折率の平均値に対して−0.1〜+0.1の範囲のものをいう。
【0064】
上記透明硬質基板としては、一般的には、例えば、石英ガラスなどのガラス基板、アクリル、ポリカーボネートなどの樹脂板などを例示することができる。
【0065】
また、上記中間層の厚みとしては、その上限値として、例えば、10mm、3mm、2mmなどを例示することができる。これら上限値と組み合わせ可能な下限値としては、例えば、0.05mm、0.1mmなどを例示することができる。
【0066】
また、中間層は、単数または複数介在されていても良く、複数介在されている場合には、異なる種類のものを含んでいても良い。
【0067】
また、上記中間層を用いる場合、この中間層は、第1の透明高分子フィルムと第2の透明高分子フィルムの光学膜として作用する層に直接接着されていても良いし、あるいは、粘着材などの接着層を1層または2層以上介して間接的に接着されていても良い。
【0068】
後者の場合、用いる粘着材としては、透明性を有し、上述した光学膜として作用する層とほぼ同等の屈折率を有しているものを好適に用いることができる。この場合、「同等」とは、光学膜として作用する層の屈折率の平均値に対して−0.2〜+0.2の範囲のものをいう。
【0069】
このような粘着材は、上述した易接着層などの光学膜として作用する層の屈折率に合わせて適宜最適なものを選択して用いることができる。一般的には、例えば、アクリル系粘着材、シリコン系粘着材などを例示することができる。
【0070】
また、粘着材の厚みは、その上限値として、例えば、200μm、100μm、50μmなどを例示することができる。これら上限値と組み合わせ可能な下限値としては、例えば、5μm、10μm、20μmなどを例示することができる。
【0071】
以上より、本評価方法にて準備する試料の積層構造としては、最表面から最裏面に向かって、例えば、薄膜│第1の透明高分子フィルム│易接着層│粘着材│透明硬質基板│粘着材│易接着層│第2の透明高分子フィルム、薄膜│第1の透明高分子フィルム│易接着層│透明硬質基板│粘着材│易接着層│第2の透明高分子フィルム、薄膜│第1の透明高分子フィルム│易接着層│粘着材│透明硬質基板│易接着層│第2の透明高分子フィルム、薄膜│第1の透明高分子フィルム│易接着層│粘着材│易接着層│第2の透明高分子フィルム、薄膜│第1の透明高分子フィルム│易接着層│第2の透明高分子フィルムなどを例示することができる。
【0072】
次に、本評価方法では、上記試料を用いて、薄膜の評価を行う。
【0073】
本評価方法における薄膜の評価は、薄膜の膜厚および/または光学定数を少なくとも求めることにより行われる。なお、求める光学定数は、屈折率n、吸収係数kの双方、または何れか一方であっても良い。
【0074】
ここで、薄膜の膜厚および/または光学定数を求めるには、種々の光学式の膜厚および光学定数測定装置を使用することができる。本評価方法では、以下の手順を少なくとも実行可能な装置を好適に用いることができる。
【0075】
すなわち、その手順とは、先ず、上記試料における第1の透明高分子フィルムから前記第2の透明高分子フィルムまでを単一の基板とみなしたみなし基板の厚みおよび光学定数の実測値を予め求める。準備した試料では、みなし基板が試料の見かけ上の基板となるので、このみなし基板のデータが必要となるからである。
【0076】
次に、得られたみなし基板の厚みおよび光学定数の実測値と、試料中の薄膜の膜厚および光学定数の推定値とから、解析用計算モデルを決定する。この際、解析用計算モデルとしては、例えば、ローレンツ・ローレンツ、または、ローレンツ・ローレンツをベースとした分散関数などを好適に用いることができる。
【0077】
また、試料中の薄膜の膜厚および光学定数の推定値を求めるには、例えば、ガラス基板上に積層した薄膜の膜厚および光学定数をエリプソメーターなどにより測定したり、透過型電子顕微鏡(TEM)などによる断面観察などにより膜厚を求めるなどすれば良い。なお、推定値に代えて、薄膜の膜厚および光学定数の設計値を用いても良い。
【0078】
次に、第2の透明高分子フィルム付き試料の反射率および透過率を実測する。この実測は、例えば、試料から生じる所定のスペクトル(反射スペクトル、透過スペクトルなど)を、通常角入射、斜角入射により測定することなどにより行うことができる。
【0079】
次に、得られた第2の透明高分子フィルム付き試料の反射率および透過率の実測値と、解析用計算モデルより算出した第2の透明高分子フィルム付き試料の反射率および透過率とを、実測時の光の波長に対してフィッティングする。
【0080】
次に、フィッティングの結果、薄膜の膜厚および光学定数を算出する。
【0081】
このような手順を用いて薄膜の膜厚および/または光学定数を求めることができる装置としては、具体的には、例えば、Scientific Computing International社製の光学式薄膜測定システム「Film Tek」シリーズなどを好適な装置として例示することができる。但し、上記手順に準じた手順を実行可能な装置であれば、何れの装置であっても用いることができる。
【0082】
なお、この評価では、みなし基板の厚みおよび光学定数の実測値を用いて解析用計算モデルを決定し、薄膜評価を行っている。すなわち、このみなし基板は、その最表面が第1の透明高分子フィルム、最裏面が第2の透明高分子フィルムであり、かつ、これらは同等の屈折率を有していることから、このみなし基板の表裏面における透過率および反射率特性はほぼ同一になる。そのため、正確な薄膜評価結果が得られる。
【0083】
2.本フィルムおよびその製造方法
本フィルムは、透明高分子フィルムの一方面に光学膜として作用する層を有し、その他方面に金属酸化物を含む薄膜と金属薄膜とが交互に積層されている。
【0084】
ここで、本フィルム中の薄膜は、上記薄膜評価方法により得られた膜厚および/または光学定数に少なくとも基づいて製造条件を設定して成膜されたものである。
【0085】
上記薄膜評価方法により得られた膜厚および/または光学定数に少なくとも基づいて製造条件を設定するとは、製造条件の異なる試料をいくつか作製し、それら試料について上記薄膜評価方法により試料中の薄膜の膜厚および/または光学定数を求め、最適な膜厚および/または光学定数を有する薄膜が得られたときの条件を、本フィルム中の薄膜の製造条件として設定することを意味する。
【0086】
この際、上記製造条件は、薄膜形成方法により異なるものであるが、例えば、ゾル−ゲル法により金属酸化物を含む薄膜を形成する場合には、出発溶液中の固形分量、出発溶液の塗工条件(例えば、グラビアコート法による場合、グラビアロールのメッシュ数など)、塗工膜の乾燥温度、塗工膜への紫外線照射量などといった製造条件を例示することができる。また、例えば、スパッタリング法により金属薄膜を形成する場合には、スパッタ時の真空度、用いる希ガスの種類、希ガス導入量、投入電力、電圧、電流、基板温度などといった製造条件を例示することができる。
【0087】
また、本フィルムにおいて、薄膜の積層数は、1層または2層以上であっても良い。また、複数の薄膜を積層する場合、何れかの薄膜が、上記薄膜評価方法により得られた膜厚および/または光学定数に基づいて製造条件が設定されて成膜されていても良いし、全ての薄膜が、上記薄膜評価方法により得られた膜厚および/または光学定数に基づいて製造条件が設定されて成膜されていても良い。
【0088】
なお、薄膜形成方法としては、上記した試料における薄膜と同様の方法を例示することができる。
【0089】
一方、本フィルムの製造方法としては、次のような方法を例示することができる。
【0090】
すなわち、透明高分子フィルムの表面上に、ゾル−ゲル法などを用いて金属酸化物を含む薄膜を形成し、これをロールに巻き取る。次いで、このロールを、スパッタリング法などによる薄膜形成装置の成膜室内に装着し、ロールを繰り出しながら、金属酸化物を含む薄膜の表面上に金属薄膜を形成し、これをロールに巻き取る。このような操作を所望回数繰り返し行えば、本フィルムを製造することができる。
【0091】
3.本フィルター
本フィルターは、本フィルムを用いている。すなわち、本フィルターは、透明支持基体の少なくとも一方面に、粘着剤層を介して本フィルムを積層した構成を有している。
【0092】
ここで、透明支持基体の材料としては、透明性に優れ、十分な機械的強度を有するものであれば、特に限定されることなく使用することができる。具体的には、例えば、半強化ガラス、強化ガラスなどのガラスや、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂などの高分子材料などが挙げられる。
【0093】
また、透明支持基体の厚さは、機械的強度や剛性などを考慮して、種々調節することができる。一般的には、1.0〜5.0mmの範囲などを例示できる。
【0094】
また、粘着剤層を形成する粘着剤としては、例えば、アクリル系粘着剤、シリコン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリビニルブチラール系粘着剤、エチレン−酢酸ビニル系粘着剤などを例示することができる。
【0095】
また、粘着剤の厚さは、特に限定されるものではなく、一般的には、5〜100μmの範囲などを例示できる。
【0096】
なお、本フィルターでは、光学特性を著しく損なわない限度内で、必要に応じて、反射防止機能、防眩機能、衝撃吸収機能、耐環境機能、調色機能などの各種の機能を有する機能性フィルムを、上述した粘着剤層を介して1つまたは2つ以上さらに貼り合わせても良い。
【0097】
4.本ディスプレイ
本フィルムの表面に、上記した粘着剤層を形成したり、必要に応じて、反射防止機能などを有する機能性フィルムを粘着剤層を介して貼り付けたりし、これをプラズマディスプレイの前面表示部に直接貼り付け、アースと金属薄膜とを電気的に接続するなどすれば、本フィルムを用いた本ディスプレイが得られる。
【0098】
一方、本フィルターを、空気層を介してプラズマディスプレイ本体の前面側に配設し、アースと金属薄膜とを電気的に接続するなどすれば、本フィルターを用いた本ディスプレイが得られる。
【0099】
本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【0100】
例えば、上記実施形態では、本評価方法を透明電磁波遮蔽フィルムに適用した場合について説明したが、本評価方法は、透明電磁波遮蔽フィルム以外の機能性フィルムに対しても適用可能である。
【0101】
また例えば、本フィルムは、表示装置用途以外にも、例えば、融雪ガラス、車両用ガラス、冷却ショーケース用ガラス、暖房用パネルヒーター、調理用パネルヒータなどの電熱性用途や、計測機器用ガラス窓、インテリジェントビルガラス、車両用ガラスなどの電磁波遮蔽用途など、導電機能および/または近赤外線遮蔽機能、可視光透過性が要求される各種の用途に使用することができる。
【実施例】
【0102】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。なお、実施例における膜厚および光学定数の値は、波長633nmにおける値である。
【0103】
1.予備試験
1.1 予備試験用試料の準備
初めに、以下の手順により、予備試験用試料を準備した。すなわち、テトラ−n−ブトキシチタン4量体(日本曹達(株)製)6重量部と、アセチルアセトン3重量部とを、n−ブタノール61重量部とイソプロピルアルコール30重量部との混合溶媒に配合し、これを攪拌機を用いて10分間混合することにより、コーティング溶液を調製した。
【0104】
次いで、易接着層を片面に有するポリエチレンテレフタレートフィルム(「コスモシャイン(登録商標)A4100」、東洋紡績(株)製)(以下、単に「易接着層付きPETフィルム」という場合がある。)の易接着層とは反対側の面に、グラビアロール(200メッシュ)を用いて上記コーティング溶液を塗工した。
【0105】
次いで、これを100℃で1分間乾燥した後、高圧水銀ランプ(240W/cm)により、フィルム裏面を78℃に加温した状態でフィルム走行速度3m/minで紫外線照射を1回行った。これにより、ポリエチレンテレフタレートフィルムの一方面に易接着層を有し、その他方面にゾル−ゲル法による酸化チタンを含む薄膜が形成された予備試験用試料を準備した。
【0106】
1.2 予備試験用試料中の薄膜の膜厚および屈折率の解析
以下の手順により、上記予備試験用試料中の薄膜の膜厚および屈折率の解析を行った。すなわち、先ず、Scientific Computing International社製のFilm Tek3000を用い、易接着層付きPETフィルム(基板)の厚みおよび屈折率を実測した。その結果、基板の厚みおよび屈折率の実測値は、それぞれ0.1mm、1.64であった。
【0107】
次いで、上記試料中の薄膜の膜厚および屈折率の推定値を、それぞれ40.0nmおよび1.80と定め、上記基板の厚みおよび屈折率の実測値と、試料中の薄膜の膜厚および屈折率の推定値とを用いて、Film Tek3000に使用する解析用計算モデルを決定した。
【0108】
次いで、上記試料の同一面内にある位置A、位置B、位置Cの3点につき、Film Tek3000に備え付けられた光源から、予備試験用試料の薄膜側より光を入射し、この試料の反射率および透過率を実測した。
【0109】
次いで、Film Tek3000による解析により、試料中の薄膜の膜厚および光学定数を算出した。その結果を表1に示す。
【0110】
【表1】

【0111】
表1によれば、位置A、位置B、位置Cにおける、基板の厚みおよび屈折率の実測値と薄膜の膜厚および屈折率の推定値として同一の値を用いた場合であっても、解析により得られた試料中の薄膜の膜厚および屈折率は、異なる値を示していることが分かる。
【0112】
これは、実測した場所における基板の厚みおよび屈折率と、試料に用いられている基板の厚みおよび屈折率とが異なることが原因で発生していると推定される。上記違いの原因は、実測時における基板や試料中の基板の易接着層の影響をなくしていないためであり、この易接着層が光学膜として作用し、解析結果がばらついたものと推測される。
【0113】
1.3 基板の屈折率ばらつきの測定
次に、基板である易接着層付きPETフィルムの屈折率を、Film Tek3000を用いて測定した。この際、測定点は、同一面内で6点とした。その結果、基板である易接着層付きPETフィルムの屈折率は、平均値1.64に対して−0.06〜+0.06の範囲で大きくばらついていた。
【0114】
1.4 基板の屈折率ばらつきが試料中の薄膜評価結果に及ぼす影響
次に、基板の屈折率ばらつきが試料中の薄膜評価結果に及ぼす影響を調べた。すなわち、上記位置Aにおける薄膜の膜厚および屈折率を算出した際の基板の屈折率1.64を、上記基板の屈折率ばらつきを考慮して、−0.06、+0.06変化させた以外は上記と同様にして、試料中の薄膜の膜厚および屈折率を解析により求めた。その結果を表2に示す。
【0115】
【表2】

【0116】
表2によれば、基板の屈折率が異なると、試料中の薄膜の評価結果が大きく異なることが分かる。
【0117】
1.5 屈折率ばらつきが少ない基板を用いた場合の薄膜評価結果
1.1にて、易接着層付きPETフィルムに代えて、易接着層のないPETフィルム(「エンブレットTA100」、ユニチカ(株)製)(以下、単に「易接着層無しPETフィルム」という場合がある。)を用いた以外は、上記と同様にして、参考試料を作製した。次いで、1.2と同様にして、易接着層無しPETフィルムの屈折率ばらつきを測定した。その結果、易接着層無しPETフィルムの屈折率は、平均値1.62に対して−0.015〜+0.015の範囲でばらついており、そのばらつき範囲は、上記易接着層付きPETフィルムに比較して小さかった。
【0118】
次いで、1.4と同様にして、易接着層無しPETフィルムの屈折率ばらつきが、上記参考試料中の薄膜評価結果に及ぼす影響を調べた。すなわち、易接着層無しPETフィルムの屈折率1.62を、上記易接着層無しPETフィルムの屈折率ばらつきを考慮して、−0.015、+0.015変化させた以外は上記と同様にして、参考試料中の薄膜の膜厚および屈折率を解析により求めた。その結果を表3に示す。
【0119】
【表3】

【0120】
表3によれば、易接着層付きPETフィルムに比較して、屈折率ばらつきが小さい易接着層無しPETフィルムを試料の基板として用いた場合には、試料中の薄膜評価結果に及ぼす影響が小さいことが分かる。
【0121】
1.6 予備試験結果のまとめ
上記1.2〜1.5の予備試験結果によれば、試料中の基板の屈折率ばらつきが大きくなるほど、Film Tek3000の解析により算出される試料中の薄膜評価結果が不安定になることが確認された。
【0122】
2.実施例に係る薄膜評価方法
先ず初めに、実施例に係る薄膜評価方法に用いる試料を準備した。すなわち、上記1.1の予備試験用試料の易接着層面側に粘着材(日東電工(株)製、「CS9621」)を貼り合わせ、この粘着材の表面に石英基板を貼り合わせた。さらに、この石英基板の表面に上記と同じ粘着材を貼り合わせ、この粘着材の表面に上記易接着層付きPETフィルムの易接着層側を粘着材側に配置して貼り合わせた。
【0123】
これにより、酸化チタンを含む薄膜│PETフィルム│易接着層│粘着材│石英基板│粘着材│易接着層│PETフィルムの積層構造を有する試料を準備した。
【0124】
なお、用いた粘着材の屈折率は1.45であり(JIS K 7142に準拠し、アッベ屈折率計により測定)、厚みは25μmである(マイクロメータにより測定)。また、用いた石英基板の屈折率は1.46(上記エリプソメーターによる測定)であり、厚みは1mmである(マイクロメータにより測定)。
【0125】
次に、上記試料を用いて、試料中の薄膜の膜厚および光学定数を、以下の手順により評価した。すなわち、先ず、みなし基板(PETフィルム、易接着層、粘着材、石英基板、粘着材、易接着層およびPETフィルムをひとまとまりとしたもの)の厚みおよび光学定数の実測値を、Film Tek3000により予め求めた。その結果、みなし基板の厚みは0.15mm、屈折率は1.47、吸収係数は0であった。
【0126】
次いで、上記試料中の薄膜の膜厚および光学定数の推定値を、膜厚40nm、屈折率1.8、吸収係数0と定め、みなし基板の厚みおよび光学定数の実測値と、試料中の薄膜の膜厚および光学定数の推定値を用いて、Film Tek3000に使用する解析用計算モデルを決定した。
【0127】
次いで、Film Tek3000に備え付けられた光源から、試料の薄膜側より光を入射し、試料の反射率および透過率を実測した。なお、この実測時の光の波長は、250〜850nmの範囲である。
【0128】
次いで、Film Tek3000による解析により、試料中の薄膜の膜厚および光学定数を算出した。
【0129】
3.比較例1に係る薄膜評価方法
上記2.において、上記薄膜が形成された易接着層付きPETフィルムの易接着層面側に何も貼り付けなかったものを比較用試料1として用い、易接着層付きPETフィルムの厚みおよび光学定数の実測値を用いて、Film Tek3000に使用する解析用計算モデルを決定した以外は、同様にして、Film Tek3000による解析により、比較用試料1中の薄膜の膜厚および光学定数を算出した。
【0130】
4.比較例2に係る薄膜評価方法
上記2.において、上記薄膜が形成された易接着層付きPETフィルムの易接着層面を剥離したものを比較用試料2として用い、易接着層のないPETフィルムの厚みおよび光学定数の実測値を用いて、Film Tek3000に使用する解析用計算モデルを決定した以外は、同様にして、Film Tek3000による解析により、比較用試料2中の薄膜の膜厚および光学定数を算出した。
【0131】
なお、易接着層の剥離は、以下の手順により行った。すなわち、易接着層付きPETフィルムの酸化チタンを含む薄膜表面に、PETフィルム上に粘着層が形成された薄膜保護フィルム(「クリーンビューフルLS50」、(株)キモト製)を貼り合わせた。次いで、これを、メチルエチルケトン(MEK)に30分間浸漬した後、MEKを十分に含浸させた不織布を用いて、易接着層が形成された表面を拭き取った。次いで、この拭き取り面を、MEKに浸漬して10秒程度洗浄した。この一連の拭き取り作業を10回行い、薄膜保護フィルムを剥離した後、十分に乾燥させた。
【0132】
5.実施例および比較例に係る薄膜評価方法による評価結果
表4に、実施例および比較例に係る薄膜評価方法による評価結果を示す。
【0133】
【表4】

【0134】
表4によれば、比較例1に係る薄膜評価方法では、試料中の薄膜の膜厚および光学定数ともにばらつきが極めて大きいが、実施例に係る薄膜評価方法では、試料中の薄膜の膜厚および光学定数ともに極めてばらつきが少ないことが確認できた。
【0135】
また、実施例に係る薄膜評価方法は、易接着層を剥離した比較例2に係る薄膜評価方法による薄膜の膜厚、光学定数と同程度の値が得られた。これは、本実施例に係る薄膜評価方法では、みなし基板中における界面での透過率および反射率の変化は、ほとんど無視できる大きさであり、かつ、空気との界面である試料の表裏面はPETフィルムであることから、みなし基板が、見かけ上、均一なPETフィルムとして機能したためであると考えられる。
【0136】
また、実施例に係る薄膜評価方法は、易接着層を剥離した比較例2に係る薄膜評価方法よりもばらつきが少ない評価結果が得られることも確認できた。加えて、剥離作業を行う必要がない分、簡易であり、評価に要する時間も短縮できた。
【0137】
6.実施例に係る薄膜評価方法を用いた透明電磁波遮蔽フィルムの作製
易接着層付きPETフィルム上のチタン酸化物を含む薄膜の膜厚、屈折率、吸収係数が、それぞれ、30nm、1.9、0となる製造条件を、上記実施例に係る薄膜評価方法により求めた。
【0138】
次いで、このときの薄膜製造条件に基づき、易接着層付きPETフィルム上にコーティング溶液液を塗工し、これを100℃で1分間乾燥した後、高圧水銀ランプ(240W/cm)により、フィルム裏面を78℃に加温した状態でフィルム走行速度3m/minで紫外線照射し、酸化チタンを含む薄膜(30nm)を形成した。
【0139】
なお、この際用いたコーティング溶液は、テトラ−n−ブトキシチタン4量体6.75重量部と、アセチルアセトン3.375重量部とを、n−ブタノール59.875重量部とイソプロピルアルコール30重量部との混合溶媒に配合し、これを攪拌機を用いて10分間混合することにより調製したものである。
【0140】
次いで、この酸化チタンを含む薄膜上に、DCマグネトロンスパッタ装置を用いてAg薄膜(10nmまたは12nm)を形成した。この際、Agのスパッタ条件は、10nmの場合は、真空引き到達圧力1×10−5torr、印加電力1.1Kw、Ar流量250sccm、成膜速度2m/minとし、12nmの場合は、印加電力1.4Kw(その他は10nmの場合と同じ)とした。
【0141】
これら手順を順次行うことにより、易接着層付きPETフィルムの易接着層とは反対側の面上に、酸化チタンを含む薄膜(30nm)│Ag薄膜(10nm)│酸化チタンを含む薄膜(60nm)│Ag薄膜(12nm)│酸化チタンを含む薄膜(60nm)│Ag薄膜(10nm)│酸化チタンを含む薄膜(30nm)が積層された、7層構造の透明電磁波遮蔽フィルムを得た。なお、酸化チタンを含む薄膜(60nm)は、酸化チタンを含む薄膜(30nm)の形成を2回行ったものである。
【0142】
また、得られた透明電磁波遮蔽フィルムを、粘着剤層を介してガラス基板上に貼り付け、プラズマディスプレイ用の前面フィルターを作製した。この前面フィルターは、電磁波遮蔽機能、近赤外線遮蔽機能、導電機能など、必要とされる機能を満足しており、プラズマディスプレイに用いても問題ないものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の透明高分子フィルムの一方面に光学膜として作用する層を有し、その他方面に評価対象となる薄膜が形成された試料中の前記薄膜の膜厚および/または光学定数を求めるにあたり、前記光学膜として作用する層面側に、中間層を任意に介して、前記第1の透明高分子フィルムと同等の屈折率を有する第2の透明高分子フィルムを貼り合わせ、この第2の透明高分子フィルム付き試料の反射率および透過率を少なくとも用い、前記薄膜の膜厚および/または光学定数を求めることを特徴とする薄膜評価方法。
【請求項2】
前記中間層は、前記光学膜として作用する層と同等の屈折率を有する透明硬質基板であることを特徴とする請求項1に記載の薄膜評価方法。
【請求項3】
前記薄膜の膜厚および/または光学定数を求める手段は、
前記第1の透明高分子フィルムから前記第2の透明高分子フィルムまでを一つの基板とみなし、このみなし基板の厚みおよび光学定数の実測値を予め求める手順と、
得られた前記みなし基板の厚みおよび光学定数の実測値と、前記試料中の薄膜の膜厚および光学定数の推定値とから解析用計算モデルを決定する手順と、
前記第2の透明高分子フィルム付き試料の反射率および透過率を実測する手順と、
得られた前記第2の透明高分子フィルム付き試料の反射率および透過率の実測値と、前記解析用計算モデルより算出した前記第2の透明高分子フィルム付き試料の反射率および透過率とを、実測時の光の波長に対してフィッティングする手順と、
前記フィッティングの結果、前記薄膜の膜厚および/または光学定数を算出する手順とを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の薄膜評価方法。
【請求項4】
透明高分子フィルムの一方面に光学膜として作用する層を有し、その他方面に薄膜が形成された機能性フィルムであって、
前記薄膜は、請求項1から3の何れかに記載の薄膜評価方法により求めた膜厚および/または光学定数に少なくとも基づいて製造条件が設定されて成膜されていることを特徴とする機能性フィルム。
【請求項5】
透明高分子フィルムの一方面に光学膜として作用する層を有し、その他方面に薄膜が形成された機能性フィルムの製造方法であって、
前記薄膜を、請求項1から3の何れかに記載の薄膜評価方法により求めた膜厚および/または光学定数に少なくとも基づいて製造条件を設定して成膜することを特徴とする機能性フィルムの製造方法。
【請求項6】
透明高分子フィルムの一方面に光学膜として作用する層を有し、その他方面に金属酸化物を含む薄膜と金属薄膜とが交互に積層された透明電磁波遮蔽フィルムであって、
前記金属酸化物を含む薄膜および/または金属薄膜は、請求項1から3の何れかに記載の薄膜評価方法により求めた膜厚および/または光学定数に少なくとも基づいて製造条件が設定されて成膜されていることを特徴とする透明電磁波遮蔽フィルム。
【請求項7】
透明高分子フィルムの一方面に光学膜として作用する層を有し、その他方面に金属酸化物を含む薄膜と金属薄膜とが交互に積層された透明電磁波遮蔽フィルムの製造方法であって、
前記金属酸化物を含む薄膜および/または金属薄膜を、請求項1から3の何れかに記載の薄膜評価方法により求めた膜厚および/または光学定数に少なくとも基づいて製造条件を設定して成膜することを特徴とする透明電磁波遮蔽フィルムの製造方法。
【請求項8】
請求項6に記載の透明電磁波遮蔽フィルムを有することを特徴とする光学フィルター。
【請求項9】
請求項6に記載の透明電磁波遮蔽フィルムまたは請求項8に記載の光学フィルターを有することを特徴とするプラズマディスプレイ。

【公開番号】特開2006−275834(P2006−275834A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−96727(P2005−96727)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】