蛍光X線分析(XRF)を用いた積層体の表裏を判別する方法
【課題】外観からは表裏判別が困難または不可能な元素組成が表裏で異なる積層体の表裏を容易に判別できる方法を提供すること。
【解決手段】シート状非金属基材の片面上に第1の層を、その反対面上に第2の層を有する積層体の表裏を判別する方法であって、第1の層と第2の層は元素組成が相違しており、第1の層側と第2の層側とからそれぞれX線を少なくとも1回照射する蛍光X線分析(XRF)を実施するに際し、第1の層と第2の層のいずれか一方にのみ含まれる元素に由来するX線スペクトル強度に、第1の層側からX線を照射して測定した場合と第2の層側からX線を照射して測定した場合とで有意差が生じるようなエネルギーレベルのX線を照射することを特徴とする、積層体の表裏を判別する方法。
【解決手段】シート状非金属基材の片面上に第1の層を、その反対面上に第2の層を有する積層体の表裏を判別する方法であって、第1の層と第2の層は元素組成が相違しており、第1の層側と第2の層側とからそれぞれX線を少なくとも1回照射する蛍光X線分析(XRF)を実施するに際し、第1の層と第2の層のいずれか一方にのみ含まれる元素に由来するX線スペクトル強度に、第1の層側からX線を照射して測定した場合と第2の層側からX線を照射して測定した場合とで有意差が生じるようなエネルギーレベルのX線を照射することを特徴とする、積層体の表裏を判別する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光X線分析(XRF)を用いた積層体の表裏、特に固体高分子電解質型燃料電池のための膜電極接合体(MEA)の表裏を判別する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素を含有する燃料ガスと、空気等、酸素を含有する酸化剤ガスとを電気化学的に反応させることで電力と熱を同時に発生させる固体高分子電解質型燃料電池が知られている。固体高分子電解質型燃料電池は、水素イオンを選択的に輸送する高分子電解質膜と、該電解質膜の両面に形成された触媒層(アノード用触媒層およびカソード用触媒層)と、該触媒層の外面に形成された通気性かつ導電性のガス拡散層とを基本構成要素とする。
【0003】
高分子電解質膜の片面にアノード用触媒層を、その反対面にカソード用触媒層を配置して一体化したもの、またはこれにガス拡散層を組み合せたものを膜電極接合体(MEA)と称する。MEAの外側には、これを機械的に固定するとともに、隣接するMEAを互いに電気的に直列に接続するための導電性のセパレータ板が配置される。さらに、供給する燃料ガスおよび酸化剤ガスが外部に漏洩したり、二種類のガスが互いに混合したりしないように、ガスシール材およびガスケットが配置される。セパレータ板のMEAと接触する部分には、電極面に反応ガスを供給し、生成ガスや余剰ガスを運び去るためのガス流路が形成される。実用の燃料電池では、アノードとカソードが所定の側にくるようにMEAとセパレータ板および冷却部を交互に10〜100セル積層した後、集電板と絶縁板を介して端板でこれを挟み、締結ボルトで両端から固定する。
【0004】
アノード用触媒層とカソード用触媒層は、その面積・形状が同一である場合が多い。一般に、アノード用触媒層もカソード用触媒層も白金系金属触媒担持カーボンからなるため、黒色の外観を呈している。したがって、MEAのアノード側とカソード側をそれらの色で区別することは困難である。また、アノード用触媒層とカソード用触媒層の面積・形状が異なる場合であっても、高分子電解質膜が薄くその反対側が透けて見えるため、MEAのアノード側とカソード側をそれらの面積・形状で区別することも容易でない。最近では、反応が異なるアノードでの酸化反応とカソードでの還元反応とを最適化するため、アノード用触媒層とカソード用触媒層とに異なる触媒金属(金、銀、ルテニウム、コバルト、鉄、ニッケル等)を含有させる場合が多い。この場合でも、触媒金属は微細化されてカーボン等を主体とする担体に担持されて触媒層全体としては黒色の外観を呈するため、アノード側とカソード側を色合い等の外観で判別することは困難である。さらに、ガス拡散層を組み合わせたMEAの場合には、触媒層がガス拡散層で覆われるため、アノード側とカソード側との目視判別はまったく不可能である。
【0005】
このようにアノード用触媒層とカソード用触媒層の判別が難しいため、MEA自体の組み立ての際にアノード側とカソード側とが逆になる(誤組合せ)おそれがある。また、上述のようにMEAをセパレータ板等と幾重にも積層して燃料電池スタックを組み立てる際にも、アノード側とカソード側の向きを間違えて組み合わせてしまう(誤組立)危険性がある。アノード側とカソード側の向きが逆に組み合わされたMEAまたは燃料電池スタックでは、所期の性能が損なわれるのは当然である。さらに、多数のMEAを組み込んだ後に1枚でも電極の向きが逆であることが判明した場合、当該セルのみを組み替えるのは煩雑であるため、その燃料電池スタック全体が不良品となり、著しく歩留まりを低下させてしまう。したがって、MEAのアノード側とカソード側とが容易に区別されるようにする必要がある。
【0006】
アノード側とカソード側とを容易に識別し、誤組合せや誤組立を防止することができるMEAとして、高分子電解質膜の片面上にアノード用触媒層を、その反対面上にカソード用触媒層を接合した膜電極接合体において、アノード用触媒層とカソード用触媒層は高分子電解質膜より面積が小さく、かつ、高分子電解質膜の少なくとも片面のアノード用触媒層もカソード用触媒層も接合されていない縁領域に、当該面上に接合されている触媒層と同一の組成を有する材料でできた識別マークを、アノード側とカソード側との識別が可能であるように設けたMEAが知られている(特許文献1)。このMEAは、その表裏判別が容易である上、識別マークの検査により触媒部の組成を非破壊的に正確に把握することができる。また、燃料電池用膜を識別し、燃料電池や膜電極接合体(MEA)の組立の間違いを防止するため、燃料電池用膜の表面の少なくとも一部に識別特性を有する識別部を設けることが知られている(特許文献2)。
【0007】
【特許文献1】特開2007−179809号公報
【特許文献2】特開2008−108468号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載のMEAは、最終的には識別マークが切り取られた形で燃料電池に組み込まれるため、識別マークに用いられた触媒材料が「触媒」として利用されることなく廃棄される点で、無駄が生じ、その分のコスト増を招いていた。また、ガス拡散層と一体化された製品のように、識別マークが切り取られた後に表裏判別が必要となった場合には、もはや有効な検査方法は無かった。さらに、触媒層の表面電気抵抗を測定する、触媒層の表面状態を観察する等、触媒層自体を検査対象とする方法も考えられるが、アノード側とカソード側との電気抵抗差が判別可能な程大きくない、ガス拡散層と一体化された状態では測定不能である等、これらの方法でも不十分である。また、特許文献2に記載のMEAは、識別部を設ける段階でMEAの表裏を間違える可能性がある。すなわち、燃料電池用膜に識別部を設けてからアノード電極層とカソード電極層を組み合わせる場合には、組み合わせるべきアノード電極層またはカソード電極層を取り違えるかもしれないし、また、MEAを組み立ててから識別部を設ける場合には、識別部を設けるべきMEA面を間違えるかもしれない。いずれにしても、従来法は、必ずしもMEAの表裏判別を最終的かつ確定的に保証するには至っていない。
【0009】
したがって、本発明は、外観からは表裏判別が困難または不可能な元素組成が表裏で異なる積層体の表裏を容易に判別できる方法を提供することを目的とする。本発明はまた、特にMEAにまつわる上述の問題を解消し、触媒を無駄にすることなく何時でも、最終的かつ確定的にMEAの表裏判別を可能にする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によると、
(1)シート状非金属基材の片面上に第1の層を、その反対面上に第2の層を有する積層体の表裏を判別する方法であって、第1の層と第2の層は元素組成が相違しており、第1の層側と第2の層側とからそれぞれX線を少なくとも1回照射する蛍光X線分析(XRF)を実施するに際し、第1の層と第2の層のいずれか一方にのみ含まれる元素に由来するX線スペクトル強度に、第1の層側からX線を照射して測定した場合と第2の層側からX線を照射して測定した場合とで有意差が生じるようなエネルギーレベルのX線を照射することを特徴とする、積層体の表裏を判別する方法が提供される。
【0011】
さらに本発明によると、
(2)高分子電解質膜の片面上にアノード用触媒層を、その反対面上にカソード用触媒層を接合した固体高分子形燃料電池用膜電極接合体(MEA)の表裏を判別する方法であって、該アノード用触媒層と該カソード用触媒層は元素組成が相違しており、当該アノード用触媒層側と当該カソード用触媒層側とからそれぞれX線を少なくとも1回照射する蛍光X線分析(XRF)を実施するに際し、該アノード用触媒層と該カソード用触媒層のいずれか一方にのみ含まれる元素に由来するX線スペクトル強度に、該アノード用触媒層側からX線を照射して測定した場合と該カソード用触媒層側からX線を照射して測定した場合とで有意差が生じるようなエネルギーレベルのX線を照射することを特徴とする、MEAの表裏を判別する方法が提供される。
【0012】
さらに本発明によると、
(3)該有意差の有無を一元配置の分散分析法で決定する、(1)または(2)に記載の方法が提供される。
【0013】
さらに本発明によると、
(4)該X線の照射エネルギーレベルが0.015〜5Wの範囲内にある、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の方法が提供される。
【0014】
さらに本発明によると、
(5)該元素が、金、銀、コバルト、ルテニウム、イリジウム、鉄、ニッケル、チタン、マンガンおよび白金等からなる群より選ばれる遷移金属;マグネシウムおよびカルシウムからなる群より選ばれるアルカリ土類金属;アルミニウムおよびガリウムからなる群より選ばれるホウ素族;ならびに珪素、錫および鉛からなる群より選ばれる炭素族;からなる群より選ばれる、(1)〜(4)のいずれか1項に記載の方法が提供される。
【0015】
さらに本発明によると、
(6)該元素が、該カソード用触媒層にのみ含まれるコバルトである、(2)〜(4)のいずれか1項に記載の方法が提供される。
【0016】
さらに本発明によると、
(7)該元素が、該アノード用触媒層にのみ含まれるルテニウムまたはイリジウムである、(2)〜(4)のいずれか1項に記載の方法が提供される。
【0017】
さらに本発明によると、
(8)該高分子電解質膜の膜厚が5〜50μmの範囲内にある、(2)〜(7)のいずれか1項に記載の方法が提供される。
【0018】
さらに本発明によると、
(9)該高分子電解質膜が、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜にプロトン伝導性樹脂を含浸させてなる補強型固体高分子電解質膜である、(2)〜(8)のいずれか1項に記載の方法が提供される。
【0019】
さらに本発明によると、
(10)該高分子電解質膜が炭化水素系固体高分子電解質膜である、請求項2〜8のいずれか1項に記載の方法が提供される。
【0020】
さらに本発明によると、
(11)該アノード用触媒層および/または該カソード用触媒層の該高分子電解質膜とは反対側にさらにガス拡散層が設けられている、(2)〜(10)のいずれか1項に記載の方法が提供される。
【0021】
さらに本発明によると、
(12)(2)〜(11)のいずれか1項に記載の方法により表裏を判別した固体高分子形燃料電池用膜電極接合体(MEA)が提供される。
【発明の効果】
【0022】
本発明の方法によると、一般に、外観からは表裏判別が困難または不可能な元素組成が表裏で異なる積層体の表裏を容易に判別することができる。また、本発明の方法によると、MEAの表裏を判別するための識別マークを別途設ける必要がない。識別マークは、触媒として用いられない部分であり、それが不要であることにより高価な触媒の廃棄という無駄が解消される。さらに、本発明の方法は、ガス拡散層と一体化された製品としてのMEAに対しても適用可能であるため、製品化後の検査によって最終的かつ確定的にMEAの表裏を判別することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明による積層体の表裏を判別する方法は、シート状非金属基材の片面上に第1の層を、その反対面上に第2の層を有する積層体の表裏を判別する方法であって、第1の層と第2の層は元素組成が相違しており、第1の層側と第2の層側とからそれぞれX線を少なくとも1回照射する蛍光X線分析(XRF)を実施するに際し、第1の層と第2の層のいずれか一方にのみ含まれる元素に由来するX線スペクトル強度に、第1の層側からX線を照射して測定した場合と第2の層側からX線を照射して測定した場合とで有意差が生じるようなエネルギーレベルのX線を照射することを特徴とする。
【0024】
XRFは、X線を試料に照射することにより試料中の元素の内殻電子を励起し、生じた空孔に外殻電子が遷移し原子が安定化する際にエネルギー準位に応じて放出されるX線(特性X線)の波長から、当該元素の定性および/または定量を行う測定方法である。かかるXRFを、元素組成が表裏で異なる積層体の表裏判別に使用すると、通常設定されるX線照射強度では、表側から照射した場合と裏側から照射した場合とで、検出される特性X線強度に有意な差を見出すことができない。また、XRFはX線照射強度が高いため、試料が有機材料である場合に非破壊検査の手段としてXRFが採用されることはなかった。しかし、本発明者等は、XRFのX線照射強度を可能な限り小さくすることにより、元素組成が表裏で異なる積層体の表裏で特性X線のスペクトル強度に差が生じることを発見し、さらに生じたX線スペクトル強度の差が有意であるか否かを一元配置の分散分析法で決定することにより、表裏判別の確度を確認する手法を確立し、本発明を完成するに至った。以下、本発明を、固体高分子形燃料電池用膜電極接合体(MEA)の表裏判別に適用した場合について詳細に説明する。
【0025】
本発明によるMEAの表裏を判別する方法は、高分子電解質膜の片面上にアノード用触媒層を、その反対面上にカソード用触媒層を接合したMEAの当該アノード用触媒層側と当該カソード用触媒層側とからそれぞれX線を少なくとも1回照射する蛍光X線分析(XRF)を実施するに際し、該アノード用触媒層と該カソード用触媒層のいずれか一方にのみ含まれる元素に由来するX線スペクトル強度に、該アノード用触媒層側からX線を照射した場合と該カソード用触媒層側からX線を照射した場合とで有意差が生じるようなエネルギーレベルのX線を照射することを特徴とする。
【0026】
図1に、XRFを用いたMEA10の表裏判別法の原理を示す。図1中、MEA10は、高分子電解質膜12の片面上にアノード用触媒層13を、その反対面上にカソード用触媒層11を接合してなる。図1(A)に、MEA10のカソード用触媒層11側からXRFの励起X線を照射したときに生じる特性X線C1、A1を示す。また、図1(B)に、MEA10のアノード用触媒層13側からXRFの励起X線を照射したときに生じる特性X線A2、C2を示す。一般に、X線は空気中や試料中を通過する際に吸収および/または散乱によって減衰する。したがって、MEA10のカソード用触媒層11側からXRFの励起X線を照射したときに生じる特性X線C1は、アノード用触媒層13側からXRFの励起X線を照射したときに生じる特性X線C2よりも強度が高くなる。同様に、アノード用触媒層13側からXRFの励起X線を照射したときに生じる特性X線A2は、カソード用触媒層11側からXRFの励起X線を照射したときに生じる特性X線A1よりも強度が高くなる。しかしながら、実際のMEAは高分子電解質膜12の厚さが5〜50μm程度と薄いため、XRFの通常のエネルギーレベルの励起X線を照射したのではC1とC2またはA2とA1の間に有意な差を検出することができない。そこで、本発明者らは、XRFのX線照射エネルギーレベルを小さくしていくと、C1とC2またはA2とA1の間の差が検出可能なレベルにまで大きくなることを発見し、さらに一元配置の分散分析法を用いることでMEAの表裏を確実に判別できる手法を確立した。
【0027】
一元配置の分散分析法を用いてMEAの表裏判別に必要なXRF測定回数を決定する手法を説明する。図2は、カソード用触媒層にのみコバルトを含有するMEAについて、(A)アノード用触媒層側から励起X線を照射したときに生じるコバルト由来の特性X線スペクトル強度から算出されるコバルト含有率(Co%)と、(C)カソード用触媒層側から励起X線を照射したときに生じるコバルト由来の特性X線スペクトル強度から算出されるコバルト含有率(Co%)とをプロットしたグラフの一例である。図2中、菱形図形は、統計解析値をわかりやすく示したものである。図3(A)に示すように、この菱形の縦方向の長さは母平均の95%信頼区間(100回測定すれば95回はこの範囲内に入ること)を示す。菱形の横方向の長さは標本間の標本サンプル数に比例する。したがって、測定回数が多く、測定値のばらつきが少ない場合、横に幅広い菱形が形成される。菱形の中心を通る水平線は標本平均値を示す。菱形の上下の頂点からやや内側にある横方向の直線2本はオーバーラップマークという。オーバーラップマークは、標本平均値から上下に√2×CI(95%信頼区間)/2だけ離れたところに付されたものである。標本サンプル数が等しい場合、オーバーラップマークを参照することにより2つの標本平均が95%信頼区間において有意差を有するか否かを視覚的に判断することができる。例えば、図3(B)に示すように、ある標本の下部オーバーラップマークが別の標本の上部オーバーラップマークの外側にある場合には、これら標本間に有意差があると判断される。一方、図3(C)に示すように、ある標本の下部オーバーラップマークが別の標本の上部オーバーラップマークの内側にある場合には、これら標本間に有意差がないと判断される。
【0028】
本発明によるX線の照射エネルギーレベルは、アノード用触媒層とカソード用触媒層のいずれか一方にのみ含まれる元素に由来するX線スペクトル強度に、アノード用触媒層側からX線を照射して測定した場合とカソード用触媒層側からX線を照射して測定した場合とで有意差が生じるようなエネルギーレベルである。そのレベルは、具体的には、測定対象の元素にもよるが、一般に0.015〜5W、好ましくは0.1〜2.0Wの範囲内にある。X線の照射エネルギーレベルが0.015Wより小さいと、検出可能な特性X線を放出させることができない。反対に、X線の照射エネルギーレベルが5Wより大きいと、アノード用触媒層側からX線を照射した場合とカソード用触媒層側からX線を照射した場合とで、放出される特性X線スペクトル強度に有意差が生じにくくなり、またMEAの劣化を引き起こすおそれがある。
【0029】
本発明による表裏判別法に利用できる元素としては、金、銀、コバルト、ルテニウム、イリジウム、鉄、ニッケル、チタン、マンガン、白金等の遷移金属;マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属;アルミニウム、ガリウム等のホウ素族;珪素、錫、鉛等の炭素族等が挙げられる。固体高分子電解質型燃料電池のためのMEAの場合、アノード用触媒層とカソード用触媒層とでは、起こるべき反応が異なることから、一般に触媒層の元素組成が相違する。例えば、MEAのカソード用触媒層には性能向上のためコバルトを含有させることが好ましく、この場合コバルト由来の特性X線をMEAの表裏判別に利用することができる。また、触媒金属の白金(Pt)は一酸化炭素(CO)の被毒に弱いため、メタノールのようにCOを含む燃料を使用する場合にはPtとルテニウム(Ru)との合金粒子をアノード用触媒層に使用することが好ましく、この場合ルテニウム由来の特性X線をMEAの表裏判別に利用することができる。さらに、燃料欠乏が起こった場合の逆起電力による電極消耗を防止するためイリジウム(Ir)をアノード用触媒層に含有させることがあり、この場合にはイリジウム由来の特性X線をMEAの表裏判別に利用することもできる。
【0030】
固体高分子形燃料電池のための高分子電解質膜としては、プロトン(H+)伝導性が高く、電子絶縁性であり、かつ、ガス不透過性であるものであれば、特に限定はされず、公知の高分子電解質膜であればよい。代表例として、含フッ素高分子を骨格とし、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、ホスホン基等の基を有する樹脂が挙げられる。高分子電解質膜の厚さは、抵抗に大きな影響を及ぼすため、電子絶縁性およびガス不透過性を損なわない限りにおいてより薄いものが求められ、具体的には、5〜50μm、好ましくは10〜30μmの範囲内に設定される。本発明における高分子電解質膜の材料は、全フッ素系高分子化合物に限定はされず、炭化水素系高分子化合物や無機高分子化合物との混合物、または高分子鎖内にC−H結合とC−F結合の両方を含む部分フッ素系高分子化合物であってもよい。炭化水素系高分子電解質の具体例として、スルホン酸基等の電解質基が導入されたポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル系樹脂、ポリエステル、ポリスルホン、ポリエーテル等、およびこれらの誘導体(脂肪族炭化水素系高分子電解質)、スルホン酸基等の電解質基が導入されたポリスチレン、芳香環を有するポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート等、およびこれらの誘導体(部分芳香族炭化水素系高分子電解質)、スルホン酸基等の電解質基が導入されたポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド等、およびこれらの誘導体(全芳香族炭化水素系高分子電解質)等が挙げられる。部分フッ素系高分子電解質の具体例としては、スルホン酸基等の電解質基が導入されたポリスチレン−グラフト−エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、ポリスチレン−グラフト−ポリテトラフルオロエチレン等、およびこれらの誘導体が挙げられる。全フッ素系高分子電解質膜の具体例としては、側鎖にスルホン酸基を有するパーフルオロポリマーであるナフィオン(登録商標)膜(デュポン社製)、アシプレックス(登録商標)膜(旭化成社製)およびフレミオン(登録商標)膜(旭硝子社製)が挙げられる。また、無機高分子化合物としては、シロキサン系またはシラン系の、特にアルキルシロキサン系の有機珪素高分子化合物が好適であり、具体例としてポリジメチルシロキサン、γ‐グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。さらに、高分子電解質膜として、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜にプロトン伝導性樹脂を含浸させた補強型固体高分子電解質膜であるGORE−SELECT(登録商標)(ジャパンゴアテックス社製)を好適に用いることもできる。
【0031】
触媒層としては、アノード用触媒層とカソード用触媒層とで元素組成が相違することを条件に、触媒粒子とイオン伝導性樹脂を含むものであれば特に限定はされず、従来より公知のものを使用することができる。触媒は、通常、触媒粒子を担持した導電材からなる。触媒粒子としては、水素の酸化反応あるいは酸素の還元反応に触媒作用を有するものであればよく、白金(Pt)その他の貴金属のほか、鉄、クロム、ニッケル等、およびこれらの合金を用いることができる。導電材としては炭素系粒子、例えばカーボンブラック、活性炭、黒鉛等が好適であり、特に微粉末状粒子が好適に用いられる。代表的には、表面積20m2/g以上のカーボンブラック粒子に、貴金属粒子、例えばPt粒子またはPtと他の金属との合金粒子を担持したものがある。特に、アノード用触媒については、Ptは一酸化炭素(CO)の被毒に弱いため、メタノールのようにCOを含む燃料を使用する場合には、Ptとルテニウム(Ru)との合金粒子を用いることが好ましい。
【0032】
触媒層中のイオン伝導性樹脂は、触媒を支持し、触媒層を形成するバインダーとなる材料であり、触媒によって生じたイオン等が移動するための通路を形成する役割をもつ。このようなイオン伝導性樹脂としては、先に固体高分子電解質膜に関連して説明したものと同様のものを用いることができる。触媒層は、アノードでは水素、メタノール等の燃料ガスおよびカソードでは酸素、空気等の酸化剤ガスが触媒とできるだけ多く接触することができるように、触媒層は多孔性であることが好ましい。また、触媒層中に含まれる触媒量は、0.01〜4mg/cm2、好ましくは0.1〜0.6mg/cm2の範囲内にあることが好適である。
【0033】
アノード用触媒層および/またはカソード用触媒層の高分子電解質膜とは反対側に、さらにガス拡散層を設けることができる。ガス拡散層を組み合わせたMEAの場合には、触媒層がガス拡散層で覆われるため、アノード側とカソード側を目視判別することは不可能である。しかし、本発明によると、ガス拡散層が一体化された状態のMEAであっても、触媒層に由来する特性X線がガス拡散層で妨害されることはないので、MEAの表裏判別が可能である。ガス拡散層は、導電性および通気性を有するシート材料である。代表例として、カーボンペーパー、カーボン織布、カーボン不織布、カーボンフェルト等の通気性導電性基材に撥水処理を施したものが挙げられる。また、炭素系粒子とフッ素系樹脂から得られた多孔性シートを用いることもできる。例えば、カーボンブラックを、ポリテトラフルオロエチレンをバインダーとしてシート化して得られた多孔性シートを用いることができる。
【0034】
アノード用触媒層およびカソード用触媒層を固体高分子電解質膜に接合する方法としては、固体高分子電解質膜を損なうことなく接触抵抗が低い緻密な接合が達成されるものであれば、従来公知のいずれの方法でも採用することができる。触媒層の接合に際しては、まず触媒層とガス拡散層を組み合わせてアノード電極またはカソード電極を形成し、これらを固体高分子電解質膜に接合することができる。例えば、適当な溶媒を用いて触媒粒子とイオン伝導性樹脂を含む触媒層形成用コーティング液を調製してガス拡散層用シート材料に塗工することによりアノード電極またはカソード電極を形成し、これらを固体高分子電解質膜にホットプレスで接合することができる。また、触媒層を固体高分子電解質膜と組み合わせた後に、その触媒層側にガス拡散層を組み合わせてもよい。触媒層と固体高分子電解質膜とを組み合わせる際には、スクリーン印刷法、スプレー塗布法、デカール法等、従来公知の方法を採用すればよい。
【0035】
上述のようにして接合して得られたMEAを、アノード側とカソード側が所定の側にくるようにMEAとセパレータ板および冷却部を交互に10〜100セル積層することにより燃料電池スタックを組み立てる。燃料電池スタックの組み立ては、従来公知の方法によることができる。本発明によると、燃料電池スタックの組み立てに際し、MEAのアノード側とカソード側の判別が容易であるため、電極を逆にしてMEAを組み込むおそれがなくなる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
MEAの作製
白金ルテニウム合金(白金/ルテニウム質量比1:1)担持カーボン(カーボン:合金質量比1:1)と水を質量比1:3で予め混合した。この混合液と、上記白金ルテニウム合金担持カーボンに対して2.5倍量のナフィオン(登録商標)20質量%溶液(デュポン社製:SE−20092、イオン交換容量:0.9ミリ等量/グラム)と、上記白金ルテニウム合金担持カーボンに対して18倍量のエタノールとを均一に混合することにより、固形分濃度6質量%のアノード用触媒層形成用塗工液を調製した。また、白金コバルト合金(白金/コバルト質量比1:1)担持カーボン(カーボン:合金質量比1:1)と水を質量比1:3で予め混合した。この混合液と、上記白金コバルト合金担持カーボンに対して2.5倍量の上記ナフィオン(登録商標)20質量%溶液と、上記白金コバルト合金担持カーボンに対して18倍量のエタノールとを均一に混合することにより、固形分濃度6質量%のカソード用触媒層形成用塗工液を調製した。
【0037】
固体高分子電解質膜として、大きさ15cm×15cm、厚さ30μmのイオン交換膜GORE−SELECT(登録商標)(ジャパンゴアテックス社製)を用意し、その片面上に上記アノード用触媒層形成用塗工液を塗工して80℃で乾燥する塗工・乾燥工程を繰り返すことによりアノード用触媒層(触媒担持量0.6mg/cm2)を、次いでその反対面上に上記カソード用触媒層形成用塗工液を塗工して80℃で乾燥する塗工・乾燥工程を繰り返すことによりカソード用触媒層(触媒担持量0.6mg/cm2)をそれぞれ形成した。さらに各触媒層の表面に大きさ5×5cm、厚さ150μmのガス拡散層CARBEL(登録商標)(ジャパンゴアテックス社製CNW10A)を接合してMEAを形成した。このMEAは、カソード用触媒層のみにコバルトを0.03mg/cm2含有し、その特性X線を測定することによりMEAの表裏判別を試みた。
【0038】
例1
一元配置の分散分析法を用いてMEAの表裏判別に必要なXRF測定回数を決定する手法の具体例を挙げる。本例では、XRFとしてNITON社製XLt898(X線管電圧:35kV、X線管出力:0.28W)を用いた。上述のMEAのカソード用触媒層のみに含まれるコバルトの特性X線を測定することによりMEAの表裏判別を試みた。X線の照射は、アノード側、カソード側共に1回当たり30秒で5回実施した。測定結果とその一元配置分析による解析結果を図4に示す。これらの結果から、アノード側照射およびカソード側照射の平均値はそれぞれ5.636および7.094となり、また標準偏差はそれぞれ0.1108および0.1514となった。これらのデータから、1以上の差を有意水準1%、90%の検出力で検定すべき場合のアノード側およびカソード側それぞれの判別必要測定回数は4回となった。このように、平均値の差が大きく、かつ、標準偏差(ばらつき)が小さいことが、判別必要測定回数が4回で済むことに寄与した。なお、さらにデータ数を増やしていくことにより標準偏差が大きくならない場合には、判別必要測定回数を減らすことが可能である。
【0039】
例2
一元配置の分散分析法を用いてMEAの表裏判別に必要なXRF測定回数を決定する手法の別の具体例を挙げる。本例では、XRFとしてポニー工業株式会社製α−2000A(X線管電圧:40kV、X線管出力:2W)を用いた。上述のMEAのカソード用触媒層のみに含まれるコバルトの特性X線を測定することによりMEAの表裏判別を試みた。X線の照射は、アノード側、カソード側共に1回当たり30秒で5回実施した。測定結果とその一元配置分析による解析結果を図5に示す。これらの結果から、アノード側照射およびカソード側照射の平均値はそれぞれ4.692および5.738となり、また標準偏差はそれぞれ0.7514および0.2374となった。これらのデータから、1以上の差を有意水準1%、90%の検出力で検定すべき場合のアノード側およびカソード側それぞれの判別必要測定回数は13回となった。例1(図4)の場合と比較して、X線管出力を大きくしたことにより、平均値の差が小さく、かつ、標準偏差(ばらつき)が大きくなり、判別必要測定回数が増加した。
【0040】
例3
一元配置の分散分析法を用いてMEAの表裏判別に必要なXRF測定回数を決定する手法の別の具体例を挙げる。本例では、XRFとして島津製作所製XRF−1700を用い、そのX線管電圧を40kVに、そしてX線管出力を3.8kWに設定した。上述のMEAのカソード用触媒層のみに含まれるコバルトの特性X線を測定することによりMEAの表裏判別を試みた。X線の照射は、アノード側、カソード側共に1回当たり30秒で5回実施した。測定結果とその一元配置分析による解析結果を図6に示す。これらの結果から、アノード側照射およびカソード側照射の平均値はそれぞれ142.07および143.19となり、また標準偏差はそれぞれ0.3183および0.9368となった。これらのデータから、1以上の差を有意水準1%、90%の検出力で検定すべき場合のアノード側およびカソード側それぞれの判別必要測定回数は18回となった。例2(図5)の場合と比較して、さらにX線管出力を大きくしたことにより、平均値の差が小さく、かつ、標準偏差(ばらつき)が大きくなり、判別必要測定回数がさらに増加した。
【0041】
例1(図4)に示したケースでは、表裏1回の測定で表裏判別が可能であり、今後のデータの蓄積により表裏いずれか1回の測定で表裏を判別できる可能性があると考えられる。一方、例2(図5)に示したケースでは、表裏判別に必要な測定回数が表裏それぞれ13回以上となり、X線管出力が2WのXRFでは実用性が低下する。さらに例3(図6)に示したケースでは、表裏判別に必要な測定回数が表裏それぞれ18回以上となり、X線管出力が3.8kWのXRFでは実用性に欠ける。
【0042】
例4
X線照射が高分子電解質膜に与える影響を調べるため、大きさ15cm×15cm、厚さ30μmのイオン交換膜GORE−SELECT(登録商標)(ジャパンゴアテックス社製)に、下記条件の各種X線を照射した。
A:X線未照射(基準)
B:X線管電圧35kV、X線管出力0.28W、照射時間30秒、照射回数3
C:X線管電圧35kV、X線管出力0.28W、照射時間30秒、照射回数5
D:X線管電圧40kV、X線管出力3.8kW、照射時間30秒、照射回数1
E:X線管電圧40kV、X線管出力3.8kW、照射時間90秒、照射回数1
F:X線管電圧40kV、X線管出力3.8kW、照射時間150秒、照射回数1
G:X線管電圧40kV、X線管出力3.8kW、照射時間240秒、照射回数1
【0043】
各試料(A〜G)について、赤外吸光スペクトル(IR)分析を行い、その測定データの全体図を図7に示す。図7から分かるように、グラフの複数個所でスペクトルの変化が観察される。このうち、波数1900〜1550cm−1の部分を拡大したグラフを図8に示す。図8中、1770cm−1付近に、比較的X線管出力の高い試料(D〜G)においてピークが出現したことがわかる。また、波数1480〜1420cm−1の部分を拡大したグラフを図9に示す。図9中、1463cm−1付近に、比較的X線管出力の高い試料(D〜G)においてピークが出現したことがわかる。さらに、波数1080〜900cm−1の部分を拡大したグラフを図10に示す。図10中、1055cm−1付近と985〜960cm−1付近において、比較的X線管出力の高い試料(D〜G)のピークが顕著に減衰したことがわかる。このように、比較的X線管出力の高い試料(D〜G)のIRスペクトルは、比較的X線管出力の低い試料(B、C)よりもX線未照射の基準試料(A)からの乖離が大きく、X線照射量が高分子電解質膜の化学構造に何らかの影響を与えていることが確認された。
【0044】
例5
X線照射がMEAの初期発電性能に与える影響を調べるため、2種類のX線照射MEAとX線未照射MEAを用意した。MEAとしては、上記MEAの作製に従い作製したものを使用した。これに下記条件の各種X線を照射した。
A:X線未照射(基準)
B:X線管電圧35kV、X線管出力0.28W、照射時間30秒、照射回数5
C:X線管電圧40kV、X線管出力3.8kW、照射時間30秒、照射回数5
【0045】
各試料(A〜C)について、発電試験を行い、その測定データを図11に示す。試験条件は、加湿温度:70℃、セル温度:70℃、利用率:(アノード60%、カソード40%)、燃料ガス:水素、酸化剤ガス:空気とした。比較的X線管出力の低い試料Bは、X線未照射試料Aと同等の発電性能を示した。一方、比較的X線管出力の高い試料Cは、全体的にセル電圧が低く、X線照射により電解質膜が劣化しその膜抵抗が増大したことが推測される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】XRFを用いたMEAの表裏判別法の原理を示す模式図である。
【図2】一元配置の分散分析法によるMEAの表裏判別手法を示す模式図である。
【図3】一元配置の分散分析法における菱形図形の意義を説明する模式図である。
【図4】一元配置の分散分析法による解析結果の一例である。
【図5】一元配置の分散分析法による解析結果の一例である。
【図6】一元配置の分散分析法による解析結果の一例である。
【図7】X線照射した高分子電解質膜の赤外吸光スペクトル(IR)分析を示すグラフである。
【図8】図7に示したグラフの部分拡大図である。
【図9】図7に示したグラフの部分拡大図である。
【図10】図7に示したグラフの部分拡大図である。
【図11】X線照射したMEAの発電性能を示すグラフである。
【符号の説明】
【0047】
10 固体高分子形燃料電池用膜電極接合体(MEA)
11 カソード用触媒層
12 高分子電解質膜
13 アノード用触媒層
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光X線分析(XRF)を用いた積層体の表裏、特に固体高分子電解質型燃料電池のための膜電極接合体(MEA)の表裏を判別する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素を含有する燃料ガスと、空気等、酸素を含有する酸化剤ガスとを電気化学的に反応させることで電力と熱を同時に発生させる固体高分子電解質型燃料電池が知られている。固体高分子電解質型燃料電池は、水素イオンを選択的に輸送する高分子電解質膜と、該電解質膜の両面に形成された触媒層(アノード用触媒層およびカソード用触媒層)と、該触媒層の外面に形成された通気性かつ導電性のガス拡散層とを基本構成要素とする。
【0003】
高分子電解質膜の片面にアノード用触媒層を、その反対面にカソード用触媒層を配置して一体化したもの、またはこれにガス拡散層を組み合せたものを膜電極接合体(MEA)と称する。MEAの外側には、これを機械的に固定するとともに、隣接するMEAを互いに電気的に直列に接続するための導電性のセパレータ板が配置される。さらに、供給する燃料ガスおよび酸化剤ガスが外部に漏洩したり、二種類のガスが互いに混合したりしないように、ガスシール材およびガスケットが配置される。セパレータ板のMEAと接触する部分には、電極面に反応ガスを供給し、生成ガスや余剰ガスを運び去るためのガス流路が形成される。実用の燃料電池では、アノードとカソードが所定の側にくるようにMEAとセパレータ板および冷却部を交互に10〜100セル積層した後、集電板と絶縁板を介して端板でこれを挟み、締結ボルトで両端から固定する。
【0004】
アノード用触媒層とカソード用触媒層は、その面積・形状が同一である場合が多い。一般に、アノード用触媒層もカソード用触媒層も白金系金属触媒担持カーボンからなるため、黒色の外観を呈している。したがって、MEAのアノード側とカソード側をそれらの色で区別することは困難である。また、アノード用触媒層とカソード用触媒層の面積・形状が異なる場合であっても、高分子電解質膜が薄くその反対側が透けて見えるため、MEAのアノード側とカソード側をそれらの面積・形状で区別することも容易でない。最近では、反応が異なるアノードでの酸化反応とカソードでの還元反応とを最適化するため、アノード用触媒層とカソード用触媒層とに異なる触媒金属(金、銀、ルテニウム、コバルト、鉄、ニッケル等)を含有させる場合が多い。この場合でも、触媒金属は微細化されてカーボン等を主体とする担体に担持されて触媒層全体としては黒色の外観を呈するため、アノード側とカソード側を色合い等の外観で判別することは困難である。さらに、ガス拡散層を組み合わせたMEAの場合には、触媒層がガス拡散層で覆われるため、アノード側とカソード側との目視判別はまったく不可能である。
【0005】
このようにアノード用触媒層とカソード用触媒層の判別が難しいため、MEA自体の組み立ての際にアノード側とカソード側とが逆になる(誤組合せ)おそれがある。また、上述のようにMEAをセパレータ板等と幾重にも積層して燃料電池スタックを組み立てる際にも、アノード側とカソード側の向きを間違えて組み合わせてしまう(誤組立)危険性がある。アノード側とカソード側の向きが逆に組み合わされたMEAまたは燃料電池スタックでは、所期の性能が損なわれるのは当然である。さらに、多数のMEAを組み込んだ後に1枚でも電極の向きが逆であることが判明した場合、当該セルのみを組み替えるのは煩雑であるため、その燃料電池スタック全体が不良品となり、著しく歩留まりを低下させてしまう。したがって、MEAのアノード側とカソード側とが容易に区別されるようにする必要がある。
【0006】
アノード側とカソード側とを容易に識別し、誤組合せや誤組立を防止することができるMEAとして、高分子電解質膜の片面上にアノード用触媒層を、その反対面上にカソード用触媒層を接合した膜電極接合体において、アノード用触媒層とカソード用触媒層は高分子電解質膜より面積が小さく、かつ、高分子電解質膜の少なくとも片面のアノード用触媒層もカソード用触媒層も接合されていない縁領域に、当該面上に接合されている触媒層と同一の組成を有する材料でできた識別マークを、アノード側とカソード側との識別が可能であるように設けたMEAが知られている(特許文献1)。このMEAは、その表裏判別が容易である上、識別マークの検査により触媒部の組成を非破壊的に正確に把握することができる。また、燃料電池用膜を識別し、燃料電池や膜電極接合体(MEA)の組立の間違いを防止するため、燃料電池用膜の表面の少なくとも一部に識別特性を有する識別部を設けることが知られている(特許文献2)。
【0007】
【特許文献1】特開2007−179809号公報
【特許文献2】特開2008−108468号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載のMEAは、最終的には識別マークが切り取られた形で燃料電池に組み込まれるため、識別マークに用いられた触媒材料が「触媒」として利用されることなく廃棄される点で、無駄が生じ、その分のコスト増を招いていた。また、ガス拡散層と一体化された製品のように、識別マークが切り取られた後に表裏判別が必要となった場合には、もはや有効な検査方法は無かった。さらに、触媒層の表面電気抵抗を測定する、触媒層の表面状態を観察する等、触媒層自体を検査対象とする方法も考えられるが、アノード側とカソード側との電気抵抗差が判別可能な程大きくない、ガス拡散層と一体化された状態では測定不能である等、これらの方法でも不十分である。また、特許文献2に記載のMEAは、識別部を設ける段階でMEAの表裏を間違える可能性がある。すなわち、燃料電池用膜に識別部を設けてからアノード電極層とカソード電極層を組み合わせる場合には、組み合わせるべきアノード電極層またはカソード電極層を取り違えるかもしれないし、また、MEAを組み立ててから識別部を設ける場合には、識別部を設けるべきMEA面を間違えるかもしれない。いずれにしても、従来法は、必ずしもMEAの表裏判別を最終的かつ確定的に保証するには至っていない。
【0009】
したがって、本発明は、外観からは表裏判別が困難または不可能な元素組成が表裏で異なる積層体の表裏を容易に判別できる方法を提供することを目的とする。本発明はまた、特にMEAにまつわる上述の問題を解消し、触媒を無駄にすることなく何時でも、最終的かつ確定的にMEAの表裏判別を可能にする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によると、
(1)シート状非金属基材の片面上に第1の層を、その反対面上に第2の層を有する積層体の表裏を判別する方法であって、第1の層と第2の層は元素組成が相違しており、第1の層側と第2の層側とからそれぞれX線を少なくとも1回照射する蛍光X線分析(XRF)を実施するに際し、第1の層と第2の層のいずれか一方にのみ含まれる元素に由来するX線スペクトル強度に、第1の層側からX線を照射して測定した場合と第2の層側からX線を照射して測定した場合とで有意差が生じるようなエネルギーレベルのX線を照射することを特徴とする、積層体の表裏を判別する方法が提供される。
【0011】
さらに本発明によると、
(2)高分子電解質膜の片面上にアノード用触媒層を、その反対面上にカソード用触媒層を接合した固体高分子形燃料電池用膜電極接合体(MEA)の表裏を判別する方法であって、該アノード用触媒層と該カソード用触媒層は元素組成が相違しており、当該アノード用触媒層側と当該カソード用触媒層側とからそれぞれX線を少なくとも1回照射する蛍光X線分析(XRF)を実施するに際し、該アノード用触媒層と該カソード用触媒層のいずれか一方にのみ含まれる元素に由来するX線スペクトル強度に、該アノード用触媒層側からX線を照射して測定した場合と該カソード用触媒層側からX線を照射して測定した場合とで有意差が生じるようなエネルギーレベルのX線を照射することを特徴とする、MEAの表裏を判別する方法が提供される。
【0012】
さらに本発明によると、
(3)該有意差の有無を一元配置の分散分析法で決定する、(1)または(2)に記載の方法が提供される。
【0013】
さらに本発明によると、
(4)該X線の照射エネルギーレベルが0.015〜5Wの範囲内にある、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の方法が提供される。
【0014】
さらに本発明によると、
(5)該元素が、金、銀、コバルト、ルテニウム、イリジウム、鉄、ニッケル、チタン、マンガンおよび白金等からなる群より選ばれる遷移金属;マグネシウムおよびカルシウムからなる群より選ばれるアルカリ土類金属;アルミニウムおよびガリウムからなる群より選ばれるホウ素族;ならびに珪素、錫および鉛からなる群より選ばれる炭素族;からなる群より選ばれる、(1)〜(4)のいずれか1項に記載の方法が提供される。
【0015】
さらに本発明によると、
(6)該元素が、該カソード用触媒層にのみ含まれるコバルトである、(2)〜(4)のいずれか1項に記載の方法が提供される。
【0016】
さらに本発明によると、
(7)該元素が、該アノード用触媒層にのみ含まれるルテニウムまたはイリジウムである、(2)〜(4)のいずれか1項に記載の方法が提供される。
【0017】
さらに本発明によると、
(8)該高分子電解質膜の膜厚が5〜50μmの範囲内にある、(2)〜(7)のいずれか1項に記載の方法が提供される。
【0018】
さらに本発明によると、
(9)該高分子電解質膜が、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜にプロトン伝導性樹脂を含浸させてなる補強型固体高分子電解質膜である、(2)〜(8)のいずれか1項に記載の方法が提供される。
【0019】
さらに本発明によると、
(10)該高分子電解質膜が炭化水素系固体高分子電解質膜である、請求項2〜8のいずれか1項に記載の方法が提供される。
【0020】
さらに本発明によると、
(11)該アノード用触媒層および/または該カソード用触媒層の該高分子電解質膜とは反対側にさらにガス拡散層が設けられている、(2)〜(10)のいずれか1項に記載の方法が提供される。
【0021】
さらに本発明によると、
(12)(2)〜(11)のいずれか1項に記載の方法により表裏を判別した固体高分子形燃料電池用膜電極接合体(MEA)が提供される。
【発明の効果】
【0022】
本発明の方法によると、一般に、外観からは表裏判別が困難または不可能な元素組成が表裏で異なる積層体の表裏を容易に判別することができる。また、本発明の方法によると、MEAの表裏を判別するための識別マークを別途設ける必要がない。識別マークは、触媒として用いられない部分であり、それが不要であることにより高価な触媒の廃棄という無駄が解消される。さらに、本発明の方法は、ガス拡散層と一体化された製品としてのMEAに対しても適用可能であるため、製品化後の検査によって最終的かつ確定的にMEAの表裏を判別することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明による積層体の表裏を判別する方法は、シート状非金属基材の片面上に第1の層を、その反対面上に第2の層を有する積層体の表裏を判別する方法であって、第1の層と第2の層は元素組成が相違しており、第1の層側と第2の層側とからそれぞれX線を少なくとも1回照射する蛍光X線分析(XRF)を実施するに際し、第1の層と第2の層のいずれか一方にのみ含まれる元素に由来するX線スペクトル強度に、第1の層側からX線を照射して測定した場合と第2の層側からX線を照射して測定した場合とで有意差が生じるようなエネルギーレベルのX線を照射することを特徴とする。
【0024】
XRFは、X線を試料に照射することにより試料中の元素の内殻電子を励起し、生じた空孔に外殻電子が遷移し原子が安定化する際にエネルギー準位に応じて放出されるX線(特性X線)の波長から、当該元素の定性および/または定量を行う測定方法である。かかるXRFを、元素組成が表裏で異なる積層体の表裏判別に使用すると、通常設定されるX線照射強度では、表側から照射した場合と裏側から照射した場合とで、検出される特性X線強度に有意な差を見出すことができない。また、XRFはX線照射強度が高いため、試料が有機材料である場合に非破壊検査の手段としてXRFが採用されることはなかった。しかし、本発明者等は、XRFのX線照射強度を可能な限り小さくすることにより、元素組成が表裏で異なる積層体の表裏で特性X線のスペクトル強度に差が生じることを発見し、さらに生じたX線スペクトル強度の差が有意であるか否かを一元配置の分散分析法で決定することにより、表裏判別の確度を確認する手法を確立し、本発明を完成するに至った。以下、本発明を、固体高分子形燃料電池用膜電極接合体(MEA)の表裏判別に適用した場合について詳細に説明する。
【0025】
本発明によるMEAの表裏を判別する方法は、高分子電解質膜の片面上にアノード用触媒層を、その反対面上にカソード用触媒層を接合したMEAの当該アノード用触媒層側と当該カソード用触媒層側とからそれぞれX線を少なくとも1回照射する蛍光X線分析(XRF)を実施するに際し、該アノード用触媒層と該カソード用触媒層のいずれか一方にのみ含まれる元素に由来するX線スペクトル強度に、該アノード用触媒層側からX線を照射した場合と該カソード用触媒層側からX線を照射した場合とで有意差が生じるようなエネルギーレベルのX線を照射することを特徴とする。
【0026】
図1に、XRFを用いたMEA10の表裏判別法の原理を示す。図1中、MEA10は、高分子電解質膜12の片面上にアノード用触媒層13を、その反対面上にカソード用触媒層11を接合してなる。図1(A)に、MEA10のカソード用触媒層11側からXRFの励起X線を照射したときに生じる特性X線C1、A1を示す。また、図1(B)に、MEA10のアノード用触媒層13側からXRFの励起X線を照射したときに生じる特性X線A2、C2を示す。一般に、X線は空気中や試料中を通過する際に吸収および/または散乱によって減衰する。したがって、MEA10のカソード用触媒層11側からXRFの励起X線を照射したときに生じる特性X線C1は、アノード用触媒層13側からXRFの励起X線を照射したときに生じる特性X線C2よりも強度が高くなる。同様に、アノード用触媒層13側からXRFの励起X線を照射したときに生じる特性X線A2は、カソード用触媒層11側からXRFの励起X線を照射したときに生じる特性X線A1よりも強度が高くなる。しかしながら、実際のMEAは高分子電解質膜12の厚さが5〜50μm程度と薄いため、XRFの通常のエネルギーレベルの励起X線を照射したのではC1とC2またはA2とA1の間に有意な差を検出することができない。そこで、本発明者らは、XRFのX線照射エネルギーレベルを小さくしていくと、C1とC2またはA2とA1の間の差が検出可能なレベルにまで大きくなることを発見し、さらに一元配置の分散分析法を用いることでMEAの表裏を確実に判別できる手法を確立した。
【0027】
一元配置の分散分析法を用いてMEAの表裏判別に必要なXRF測定回数を決定する手法を説明する。図2は、カソード用触媒層にのみコバルトを含有するMEAについて、(A)アノード用触媒層側から励起X線を照射したときに生じるコバルト由来の特性X線スペクトル強度から算出されるコバルト含有率(Co%)と、(C)カソード用触媒層側から励起X線を照射したときに生じるコバルト由来の特性X線スペクトル強度から算出されるコバルト含有率(Co%)とをプロットしたグラフの一例である。図2中、菱形図形は、統計解析値をわかりやすく示したものである。図3(A)に示すように、この菱形の縦方向の長さは母平均の95%信頼区間(100回測定すれば95回はこの範囲内に入ること)を示す。菱形の横方向の長さは標本間の標本サンプル数に比例する。したがって、測定回数が多く、測定値のばらつきが少ない場合、横に幅広い菱形が形成される。菱形の中心を通る水平線は標本平均値を示す。菱形の上下の頂点からやや内側にある横方向の直線2本はオーバーラップマークという。オーバーラップマークは、標本平均値から上下に√2×CI(95%信頼区間)/2だけ離れたところに付されたものである。標本サンプル数が等しい場合、オーバーラップマークを参照することにより2つの標本平均が95%信頼区間において有意差を有するか否かを視覚的に判断することができる。例えば、図3(B)に示すように、ある標本の下部オーバーラップマークが別の標本の上部オーバーラップマークの外側にある場合には、これら標本間に有意差があると判断される。一方、図3(C)に示すように、ある標本の下部オーバーラップマークが別の標本の上部オーバーラップマークの内側にある場合には、これら標本間に有意差がないと判断される。
【0028】
本発明によるX線の照射エネルギーレベルは、アノード用触媒層とカソード用触媒層のいずれか一方にのみ含まれる元素に由来するX線スペクトル強度に、アノード用触媒層側からX線を照射して測定した場合とカソード用触媒層側からX線を照射して測定した場合とで有意差が生じるようなエネルギーレベルである。そのレベルは、具体的には、測定対象の元素にもよるが、一般に0.015〜5W、好ましくは0.1〜2.0Wの範囲内にある。X線の照射エネルギーレベルが0.015Wより小さいと、検出可能な特性X線を放出させることができない。反対に、X線の照射エネルギーレベルが5Wより大きいと、アノード用触媒層側からX線を照射した場合とカソード用触媒層側からX線を照射した場合とで、放出される特性X線スペクトル強度に有意差が生じにくくなり、またMEAの劣化を引き起こすおそれがある。
【0029】
本発明による表裏判別法に利用できる元素としては、金、銀、コバルト、ルテニウム、イリジウム、鉄、ニッケル、チタン、マンガン、白金等の遷移金属;マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属;アルミニウム、ガリウム等のホウ素族;珪素、錫、鉛等の炭素族等が挙げられる。固体高分子電解質型燃料電池のためのMEAの場合、アノード用触媒層とカソード用触媒層とでは、起こるべき反応が異なることから、一般に触媒層の元素組成が相違する。例えば、MEAのカソード用触媒層には性能向上のためコバルトを含有させることが好ましく、この場合コバルト由来の特性X線をMEAの表裏判別に利用することができる。また、触媒金属の白金(Pt)は一酸化炭素(CO)の被毒に弱いため、メタノールのようにCOを含む燃料を使用する場合にはPtとルテニウム(Ru)との合金粒子をアノード用触媒層に使用することが好ましく、この場合ルテニウム由来の特性X線をMEAの表裏判別に利用することができる。さらに、燃料欠乏が起こった場合の逆起電力による電極消耗を防止するためイリジウム(Ir)をアノード用触媒層に含有させることがあり、この場合にはイリジウム由来の特性X線をMEAの表裏判別に利用することもできる。
【0030】
固体高分子形燃料電池のための高分子電解質膜としては、プロトン(H+)伝導性が高く、電子絶縁性であり、かつ、ガス不透過性であるものであれば、特に限定はされず、公知の高分子電解質膜であればよい。代表例として、含フッ素高分子を骨格とし、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、ホスホン基等の基を有する樹脂が挙げられる。高分子電解質膜の厚さは、抵抗に大きな影響を及ぼすため、電子絶縁性およびガス不透過性を損なわない限りにおいてより薄いものが求められ、具体的には、5〜50μm、好ましくは10〜30μmの範囲内に設定される。本発明における高分子電解質膜の材料は、全フッ素系高分子化合物に限定はされず、炭化水素系高分子化合物や無機高分子化合物との混合物、または高分子鎖内にC−H結合とC−F結合の両方を含む部分フッ素系高分子化合物であってもよい。炭化水素系高分子電解質の具体例として、スルホン酸基等の電解質基が導入されたポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル系樹脂、ポリエステル、ポリスルホン、ポリエーテル等、およびこれらの誘導体(脂肪族炭化水素系高分子電解質)、スルホン酸基等の電解質基が導入されたポリスチレン、芳香環を有するポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート等、およびこれらの誘導体(部分芳香族炭化水素系高分子電解質)、スルホン酸基等の電解質基が導入されたポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド等、およびこれらの誘導体(全芳香族炭化水素系高分子電解質)等が挙げられる。部分フッ素系高分子電解質の具体例としては、スルホン酸基等の電解質基が導入されたポリスチレン−グラフト−エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、ポリスチレン−グラフト−ポリテトラフルオロエチレン等、およびこれらの誘導体が挙げられる。全フッ素系高分子電解質膜の具体例としては、側鎖にスルホン酸基を有するパーフルオロポリマーであるナフィオン(登録商標)膜(デュポン社製)、アシプレックス(登録商標)膜(旭化成社製)およびフレミオン(登録商標)膜(旭硝子社製)が挙げられる。また、無機高分子化合物としては、シロキサン系またはシラン系の、特にアルキルシロキサン系の有機珪素高分子化合物が好適であり、具体例としてポリジメチルシロキサン、γ‐グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。さらに、高分子電解質膜として、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜にプロトン伝導性樹脂を含浸させた補強型固体高分子電解質膜であるGORE−SELECT(登録商標)(ジャパンゴアテックス社製)を好適に用いることもできる。
【0031】
触媒層としては、アノード用触媒層とカソード用触媒層とで元素組成が相違することを条件に、触媒粒子とイオン伝導性樹脂を含むものであれば特に限定はされず、従来より公知のものを使用することができる。触媒は、通常、触媒粒子を担持した導電材からなる。触媒粒子としては、水素の酸化反応あるいは酸素の還元反応に触媒作用を有するものであればよく、白金(Pt)その他の貴金属のほか、鉄、クロム、ニッケル等、およびこれらの合金を用いることができる。導電材としては炭素系粒子、例えばカーボンブラック、活性炭、黒鉛等が好適であり、特に微粉末状粒子が好適に用いられる。代表的には、表面積20m2/g以上のカーボンブラック粒子に、貴金属粒子、例えばPt粒子またはPtと他の金属との合金粒子を担持したものがある。特に、アノード用触媒については、Ptは一酸化炭素(CO)の被毒に弱いため、メタノールのようにCOを含む燃料を使用する場合には、Ptとルテニウム(Ru)との合金粒子を用いることが好ましい。
【0032】
触媒層中のイオン伝導性樹脂は、触媒を支持し、触媒層を形成するバインダーとなる材料であり、触媒によって生じたイオン等が移動するための通路を形成する役割をもつ。このようなイオン伝導性樹脂としては、先に固体高分子電解質膜に関連して説明したものと同様のものを用いることができる。触媒層は、アノードでは水素、メタノール等の燃料ガスおよびカソードでは酸素、空気等の酸化剤ガスが触媒とできるだけ多く接触することができるように、触媒層は多孔性であることが好ましい。また、触媒層中に含まれる触媒量は、0.01〜4mg/cm2、好ましくは0.1〜0.6mg/cm2の範囲内にあることが好適である。
【0033】
アノード用触媒層および/またはカソード用触媒層の高分子電解質膜とは反対側に、さらにガス拡散層を設けることができる。ガス拡散層を組み合わせたMEAの場合には、触媒層がガス拡散層で覆われるため、アノード側とカソード側を目視判別することは不可能である。しかし、本発明によると、ガス拡散層が一体化された状態のMEAであっても、触媒層に由来する特性X線がガス拡散層で妨害されることはないので、MEAの表裏判別が可能である。ガス拡散層は、導電性および通気性を有するシート材料である。代表例として、カーボンペーパー、カーボン織布、カーボン不織布、カーボンフェルト等の通気性導電性基材に撥水処理を施したものが挙げられる。また、炭素系粒子とフッ素系樹脂から得られた多孔性シートを用いることもできる。例えば、カーボンブラックを、ポリテトラフルオロエチレンをバインダーとしてシート化して得られた多孔性シートを用いることができる。
【0034】
アノード用触媒層およびカソード用触媒層を固体高分子電解質膜に接合する方法としては、固体高分子電解質膜を損なうことなく接触抵抗が低い緻密な接合が達成されるものであれば、従来公知のいずれの方法でも採用することができる。触媒層の接合に際しては、まず触媒層とガス拡散層を組み合わせてアノード電極またはカソード電極を形成し、これらを固体高分子電解質膜に接合することができる。例えば、適当な溶媒を用いて触媒粒子とイオン伝導性樹脂を含む触媒層形成用コーティング液を調製してガス拡散層用シート材料に塗工することによりアノード電極またはカソード電極を形成し、これらを固体高分子電解質膜にホットプレスで接合することができる。また、触媒層を固体高分子電解質膜と組み合わせた後に、その触媒層側にガス拡散層を組み合わせてもよい。触媒層と固体高分子電解質膜とを組み合わせる際には、スクリーン印刷法、スプレー塗布法、デカール法等、従来公知の方法を採用すればよい。
【0035】
上述のようにして接合して得られたMEAを、アノード側とカソード側が所定の側にくるようにMEAとセパレータ板および冷却部を交互に10〜100セル積層することにより燃料電池スタックを組み立てる。燃料電池スタックの組み立ては、従来公知の方法によることができる。本発明によると、燃料電池スタックの組み立てに際し、MEAのアノード側とカソード側の判別が容易であるため、電極を逆にしてMEAを組み込むおそれがなくなる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
MEAの作製
白金ルテニウム合金(白金/ルテニウム質量比1:1)担持カーボン(カーボン:合金質量比1:1)と水を質量比1:3で予め混合した。この混合液と、上記白金ルテニウム合金担持カーボンに対して2.5倍量のナフィオン(登録商標)20質量%溶液(デュポン社製:SE−20092、イオン交換容量:0.9ミリ等量/グラム)と、上記白金ルテニウム合金担持カーボンに対して18倍量のエタノールとを均一に混合することにより、固形分濃度6質量%のアノード用触媒層形成用塗工液を調製した。また、白金コバルト合金(白金/コバルト質量比1:1)担持カーボン(カーボン:合金質量比1:1)と水を質量比1:3で予め混合した。この混合液と、上記白金コバルト合金担持カーボンに対して2.5倍量の上記ナフィオン(登録商標)20質量%溶液と、上記白金コバルト合金担持カーボンに対して18倍量のエタノールとを均一に混合することにより、固形分濃度6質量%のカソード用触媒層形成用塗工液を調製した。
【0037】
固体高分子電解質膜として、大きさ15cm×15cm、厚さ30μmのイオン交換膜GORE−SELECT(登録商標)(ジャパンゴアテックス社製)を用意し、その片面上に上記アノード用触媒層形成用塗工液を塗工して80℃で乾燥する塗工・乾燥工程を繰り返すことによりアノード用触媒層(触媒担持量0.6mg/cm2)を、次いでその反対面上に上記カソード用触媒層形成用塗工液を塗工して80℃で乾燥する塗工・乾燥工程を繰り返すことによりカソード用触媒層(触媒担持量0.6mg/cm2)をそれぞれ形成した。さらに各触媒層の表面に大きさ5×5cm、厚さ150μmのガス拡散層CARBEL(登録商標)(ジャパンゴアテックス社製CNW10A)を接合してMEAを形成した。このMEAは、カソード用触媒層のみにコバルトを0.03mg/cm2含有し、その特性X線を測定することによりMEAの表裏判別を試みた。
【0038】
例1
一元配置の分散分析法を用いてMEAの表裏判別に必要なXRF測定回数を決定する手法の具体例を挙げる。本例では、XRFとしてNITON社製XLt898(X線管電圧:35kV、X線管出力:0.28W)を用いた。上述のMEAのカソード用触媒層のみに含まれるコバルトの特性X線を測定することによりMEAの表裏判別を試みた。X線の照射は、アノード側、カソード側共に1回当たり30秒で5回実施した。測定結果とその一元配置分析による解析結果を図4に示す。これらの結果から、アノード側照射およびカソード側照射の平均値はそれぞれ5.636および7.094となり、また標準偏差はそれぞれ0.1108および0.1514となった。これらのデータから、1以上の差を有意水準1%、90%の検出力で検定すべき場合のアノード側およびカソード側それぞれの判別必要測定回数は4回となった。このように、平均値の差が大きく、かつ、標準偏差(ばらつき)が小さいことが、判別必要測定回数が4回で済むことに寄与した。なお、さらにデータ数を増やしていくことにより標準偏差が大きくならない場合には、判別必要測定回数を減らすことが可能である。
【0039】
例2
一元配置の分散分析法を用いてMEAの表裏判別に必要なXRF測定回数を決定する手法の別の具体例を挙げる。本例では、XRFとしてポニー工業株式会社製α−2000A(X線管電圧:40kV、X線管出力:2W)を用いた。上述のMEAのカソード用触媒層のみに含まれるコバルトの特性X線を測定することによりMEAの表裏判別を試みた。X線の照射は、アノード側、カソード側共に1回当たり30秒で5回実施した。測定結果とその一元配置分析による解析結果を図5に示す。これらの結果から、アノード側照射およびカソード側照射の平均値はそれぞれ4.692および5.738となり、また標準偏差はそれぞれ0.7514および0.2374となった。これらのデータから、1以上の差を有意水準1%、90%の検出力で検定すべき場合のアノード側およびカソード側それぞれの判別必要測定回数は13回となった。例1(図4)の場合と比較して、X線管出力を大きくしたことにより、平均値の差が小さく、かつ、標準偏差(ばらつき)が大きくなり、判別必要測定回数が増加した。
【0040】
例3
一元配置の分散分析法を用いてMEAの表裏判別に必要なXRF測定回数を決定する手法の別の具体例を挙げる。本例では、XRFとして島津製作所製XRF−1700を用い、そのX線管電圧を40kVに、そしてX線管出力を3.8kWに設定した。上述のMEAのカソード用触媒層のみに含まれるコバルトの特性X線を測定することによりMEAの表裏判別を試みた。X線の照射は、アノード側、カソード側共に1回当たり30秒で5回実施した。測定結果とその一元配置分析による解析結果を図6に示す。これらの結果から、アノード側照射およびカソード側照射の平均値はそれぞれ142.07および143.19となり、また標準偏差はそれぞれ0.3183および0.9368となった。これらのデータから、1以上の差を有意水準1%、90%の検出力で検定すべき場合のアノード側およびカソード側それぞれの判別必要測定回数は18回となった。例2(図5)の場合と比較して、さらにX線管出力を大きくしたことにより、平均値の差が小さく、かつ、標準偏差(ばらつき)が大きくなり、判別必要測定回数がさらに増加した。
【0041】
例1(図4)に示したケースでは、表裏1回の測定で表裏判別が可能であり、今後のデータの蓄積により表裏いずれか1回の測定で表裏を判別できる可能性があると考えられる。一方、例2(図5)に示したケースでは、表裏判別に必要な測定回数が表裏それぞれ13回以上となり、X線管出力が2WのXRFでは実用性が低下する。さらに例3(図6)に示したケースでは、表裏判別に必要な測定回数が表裏それぞれ18回以上となり、X線管出力が3.8kWのXRFでは実用性に欠ける。
【0042】
例4
X線照射が高分子電解質膜に与える影響を調べるため、大きさ15cm×15cm、厚さ30μmのイオン交換膜GORE−SELECT(登録商標)(ジャパンゴアテックス社製)に、下記条件の各種X線を照射した。
A:X線未照射(基準)
B:X線管電圧35kV、X線管出力0.28W、照射時間30秒、照射回数3
C:X線管電圧35kV、X線管出力0.28W、照射時間30秒、照射回数5
D:X線管電圧40kV、X線管出力3.8kW、照射時間30秒、照射回数1
E:X線管電圧40kV、X線管出力3.8kW、照射時間90秒、照射回数1
F:X線管電圧40kV、X線管出力3.8kW、照射時間150秒、照射回数1
G:X線管電圧40kV、X線管出力3.8kW、照射時間240秒、照射回数1
【0043】
各試料(A〜G)について、赤外吸光スペクトル(IR)分析を行い、その測定データの全体図を図7に示す。図7から分かるように、グラフの複数個所でスペクトルの変化が観察される。このうち、波数1900〜1550cm−1の部分を拡大したグラフを図8に示す。図8中、1770cm−1付近に、比較的X線管出力の高い試料(D〜G)においてピークが出現したことがわかる。また、波数1480〜1420cm−1の部分を拡大したグラフを図9に示す。図9中、1463cm−1付近に、比較的X線管出力の高い試料(D〜G)においてピークが出現したことがわかる。さらに、波数1080〜900cm−1の部分を拡大したグラフを図10に示す。図10中、1055cm−1付近と985〜960cm−1付近において、比較的X線管出力の高い試料(D〜G)のピークが顕著に減衰したことがわかる。このように、比較的X線管出力の高い試料(D〜G)のIRスペクトルは、比較的X線管出力の低い試料(B、C)よりもX線未照射の基準試料(A)からの乖離が大きく、X線照射量が高分子電解質膜の化学構造に何らかの影響を与えていることが確認された。
【0044】
例5
X線照射がMEAの初期発電性能に与える影響を調べるため、2種類のX線照射MEAとX線未照射MEAを用意した。MEAとしては、上記MEAの作製に従い作製したものを使用した。これに下記条件の各種X線を照射した。
A:X線未照射(基準)
B:X線管電圧35kV、X線管出力0.28W、照射時間30秒、照射回数5
C:X線管電圧40kV、X線管出力3.8kW、照射時間30秒、照射回数5
【0045】
各試料(A〜C)について、発電試験を行い、その測定データを図11に示す。試験条件は、加湿温度:70℃、セル温度:70℃、利用率:(アノード60%、カソード40%)、燃料ガス:水素、酸化剤ガス:空気とした。比較的X線管出力の低い試料Bは、X線未照射試料Aと同等の発電性能を示した。一方、比較的X線管出力の高い試料Cは、全体的にセル電圧が低く、X線照射により電解質膜が劣化しその膜抵抗が増大したことが推測される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】XRFを用いたMEAの表裏判別法の原理を示す模式図である。
【図2】一元配置の分散分析法によるMEAの表裏判別手法を示す模式図である。
【図3】一元配置の分散分析法における菱形図形の意義を説明する模式図である。
【図4】一元配置の分散分析法による解析結果の一例である。
【図5】一元配置の分散分析法による解析結果の一例である。
【図6】一元配置の分散分析法による解析結果の一例である。
【図7】X線照射した高分子電解質膜の赤外吸光スペクトル(IR)分析を示すグラフである。
【図8】図7に示したグラフの部分拡大図である。
【図9】図7に示したグラフの部分拡大図である。
【図10】図7に示したグラフの部分拡大図である。
【図11】X線照射したMEAの発電性能を示すグラフである。
【符号の説明】
【0047】
10 固体高分子形燃料電池用膜電極接合体(MEA)
11 カソード用触媒層
12 高分子電解質膜
13 アノード用触媒層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状非金属基材の片面上に第1の層を、その反対面上に第2の層を有する積層体の表裏を判別する方法であって、第1の層と第2の層は元素組成が相違しており、第1の層側と第2の層側とからそれぞれX線を少なくとも1回照射する蛍光X線分析(XRF)を実施するに際し、第1の層と第2の層のいずれか一方にのみ含まれる元素に由来するX線スペクトル強度に、第1の層側からX線を照射して測定した場合と第2の層側からX線を照射して測定した場合とで有意差が生じるようなエネルギーレベルのX線を照射することを特徴とする、積層体の表裏を判別する方法。
【請求項2】
高分子電解質膜の片面上にアノード用触媒層を、その反対面上にカソード用触媒層を接合した固体高分子形燃料電池用膜電極接合体(MEA)の表裏を判別する方法であって、該アノード用触媒層と該カソード用触媒層は元素組成が相違しており、当該アノード用触媒層側と当該カソード用触媒層側とからそれぞれX線を少なくとも1回照射する蛍光X線分析(XRF)を実施するに際し、該アノード用触媒層と該カソード用触媒層のいずれか一方にのみ含まれる元素に由来するX線スペクトル強度に、該アノード用触媒層側からX線を照射して測定した場合と該カソード用触媒層側からX線を照射して測定した場合とで有意差が生じるようなエネルギーレベルのX線を照射することを特徴とする、MEAの表裏を判別する方法。
【請求項3】
該有意差の有無を一元配置の分散分析法で決定する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
該X線の照射エネルギーレベルが0.015〜5Wの範囲内にある、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
該元素が、金、銀、コバルト、ルテニウム、イリジウム、鉄、ニッケル、チタン、マンガンおよび白金からなる群より選ばれる遷移金属;マグネシウムおよびカルシウムからなる群より選ばれるアルカリ土類金属;アルミニウムおよびガリウムからなる群より選ばれるホウ素族;ならびに珪素、錫および鉛からなる群より選ばれる炭素族;からなる群より選ばれる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
該元素が、該カソード用触媒層にのみ含まれるコバルトである、請求項2〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
該元素が、該アノード用触媒層にのみ含まれるルテニウムまたはイリジウムである、請求項2〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
該高分子電解質膜の膜厚が5〜50μmの範囲内にある、請求項2〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
該高分子電解質膜が、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜にプロトン伝導性樹脂を含浸させてなる補強型固体高分子電解質膜である、請求項2〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
該高分子電解質膜が炭化水素系固体高分子電解質膜である、請求項2〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
該アノード用触媒層および/または該カソード用触媒層の該高分子電解質膜とは反対側にさらにガス拡散層が設けられている、請求項2〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
請求項2〜11のいずれか1項に記載の方法により表裏を判別した固体高分子形燃料電池用膜電極接合体(MEA)。
【請求項1】
シート状非金属基材の片面上に第1の層を、その反対面上に第2の層を有する積層体の表裏を判別する方法であって、第1の層と第2の層は元素組成が相違しており、第1の層側と第2の層側とからそれぞれX線を少なくとも1回照射する蛍光X線分析(XRF)を実施するに際し、第1の層と第2の層のいずれか一方にのみ含まれる元素に由来するX線スペクトル強度に、第1の層側からX線を照射して測定した場合と第2の層側からX線を照射して測定した場合とで有意差が生じるようなエネルギーレベルのX線を照射することを特徴とする、積層体の表裏を判別する方法。
【請求項2】
高分子電解質膜の片面上にアノード用触媒層を、その反対面上にカソード用触媒層を接合した固体高分子形燃料電池用膜電極接合体(MEA)の表裏を判別する方法であって、該アノード用触媒層と該カソード用触媒層は元素組成が相違しており、当該アノード用触媒層側と当該カソード用触媒層側とからそれぞれX線を少なくとも1回照射する蛍光X線分析(XRF)を実施するに際し、該アノード用触媒層と該カソード用触媒層のいずれか一方にのみ含まれる元素に由来するX線スペクトル強度に、該アノード用触媒層側からX線を照射して測定した場合と該カソード用触媒層側からX線を照射して測定した場合とで有意差が生じるようなエネルギーレベルのX線を照射することを特徴とする、MEAの表裏を判別する方法。
【請求項3】
該有意差の有無を一元配置の分散分析法で決定する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
該X線の照射エネルギーレベルが0.015〜5Wの範囲内にある、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
該元素が、金、銀、コバルト、ルテニウム、イリジウム、鉄、ニッケル、チタン、マンガンおよび白金からなる群より選ばれる遷移金属;マグネシウムおよびカルシウムからなる群より選ばれるアルカリ土類金属;アルミニウムおよびガリウムからなる群より選ばれるホウ素族;ならびに珪素、錫および鉛からなる群より選ばれる炭素族;からなる群より選ばれる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
該元素が、該カソード用触媒層にのみ含まれるコバルトである、請求項2〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
該元素が、該アノード用触媒層にのみ含まれるルテニウムまたはイリジウムである、請求項2〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
該高分子電解質膜の膜厚が5〜50μmの範囲内にある、請求項2〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
該高分子電解質膜が、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜にプロトン伝導性樹脂を含浸させてなる補強型固体高分子電解質膜である、請求項2〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
該高分子電解質膜が炭化水素系固体高分子電解質膜である、請求項2〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
該アノード用触媒層および/または該カソード用触媒層の該高分子電解質膜とは反対側にさらにガス拡散層が設けられている、請求項2〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
請求項2〜11のいずれか1項に記載の方法により表裏を判別した固体高分子形燃料電池用膜電極接合体(MEA)。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−169528(P2010−169528A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−12190(P2009−12190)
【出願日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(000107387)ジャパンゴアテックス株式会社 (121)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(000107387)ジャパンゴアテックス株式会社 (121)
【Fターム(参考)】
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