説明

衝撃エネルギ吸収部材及びその製造方法

【課題】筒状の本体部2を座屈変形させることなく筒軸Z方向に安定して変形させることが可能でかつ取扱い性に優れた衝撃エネルギ吸収部材1を提供する。
【解決手段】本体部2が、変形部3と変形制御部4とが筒軸Z方向に交互に積層された状態で一体成形されてなり、各変形制御部4の変形部3と接する面が、本体部2径方向の外側に向かって筒軸Z方向の一方側又は他方側に傾斜する傾斜面4aとされ、筒軸Z方向に隣り合う任意の2つの傾斜面4aが、変形部3を、筒軸Z方向への圧縮塑性変形と同時に本体部2径方向の外側又は内側へ塑性変形させるように、本体部2径方向の外側に向かって互いに反対側に傾斜し、各傾斜面3と変形部4との境界には、所定以上の圧縮荷重入力時に、該変形部3の境界側端部の、傾斜面4aに対するせん断変形を促進するせん断変形促進層9が形成されている構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒状の本体部に対して筒軸方向に入力される圧縮荷重を吸収する、車両のクラッシュカン等に好適な衝撃エネルギ吸収部材及びその製造方法に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば車両のフロントサイドフレームの先端又はリヤサイドフレームの後端に、衝撃エネルギ吸収部材としてクラッシュカンを設けて、このクラッシュカンにより、車両の正面衝突時や後面衝突時の衝撃エネルギ(衝撃圧縮荷重)を吸収するようにすることはよく知られている。
【0003】
上記クラッシュカン等の衝撃エネルギ吸収部材においては、衝撃エネルギの吸収性能を向上させるべく種々の提案がなされている。例えば特許文献1では、衝撃エネルギ吸収部材の筒状の本体部を、少なくとも1つの短筒形状の第1部分と、この第1部分に対して同心軸状に重ねて配置された少なくとも1つの短筒形状の第2部分とで構成し、上記第1部分と第2部分との接続部分を上記同心軸に対して傾斜する部分を含む構成として、本体部に対して筒軸方向に圧縮荷重が入力されたときに、第1部分を縮径させつつ第2部分を拡径させて、第1部材を第2部材の内側中空部に押し込むようにしている。この構成により、不安定な座屈現象の発生を抑制して変形モードを安定させ、これにより衝撃エネルギの吸収性能を高めるようにしている。
【特許文献1】国際公開第2006/025559号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1のものでは、本体部に対して筒軸方向に圧縮荷重が入力されたときにおいて、第1部分と第2部分とを接続部分で分離させて第1部材を第2部材の内側中空部に押し込む際に、第1部材が第2部材の内側中空部にスムーズに押し込まれずに、第1部材又は第2部材が座屈変形する可能性があり、衝撃エネルギ吸収部材を安定して変形させることが困難になる。この座屈変形を確実に防止するためには、第1及び第2部分の長さをかなり短くしておく必要があるが、この場合、車両に生じるような圧縮荷重に対応可能にしようとすると、第1及び第2部分の数がかなり多くなる。また、第1部材を第2部材の内側中空部にスムーズに押し込むためには、第1部分と第2部分とは単に接触しているか、又は固定されていたとしても、その固定力を小さくしておく必要があるが、上記のように第1及び第2部分の数がかなり多くなると、衝撃エネルギ吸収部材の運搬時や車両等への組付け時に第1部分又は第2部分が脱落する可能性があり、取扱い性が悪いという問題がある。
【0005】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、筒状の本体部を座屈変形させることなく本体部筒軸方向に安定して変形させることが可能でかつ取扱い性に優れた衝撃エネルギ吸収部材を提供しようとすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明では、筒状の本体部を有し、該本体部に対して筒軸方向に入力される圧縮荷重を吸収する衝撃エネルギ吸収部材を対象として、上記本体部は、金属からなりかつ所定以上の上記圧縮荷重を受けて本体部筒軸方向に圧縮塑性変形する少なくとも1つの変形部と、該変形部の塑性変形の方向を制御する複数の変形制御部とが、本体部筒軸方向に交互に積層された状態で一体成形されてなり、上記各変形制御部の上記変形部と接する面が、本体部径方向の外側に向かって本体部筒軸方向の一方側又は他方側に傾斜する傾斜面とされ、上記本体部筒軸方向に隣り合う任意の2つの傾斜面は、上記本体部に上記所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、上記変形部を、本体部筒軸方向への圧縮塑性変形と同時に本体部径方向の外側又は内側へ塑性変形させるように、本体部径方向の外側に向かって互いに反対側に傾斜し、上記各傾斜面と上記変形部との境界には、上記本体部に上記所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、該変形部の境界側端部の、上記傾斜面に対するせん断変形を促進するせん断変形促進層が形成されている構成とした。
【0007】
上記の構成により、本体部に対して筒軸方向に所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、変形部は、変形制御部の傾斜面によって、本体部筒軸方向への圧縮塑性変形と同時に本体部径方向の外側又は内側へ塑性変形し、このような変形部の塑性変形により圧縮荷重(衝撃エネルギ)を吸収することができる。また、変形部は、本体部筒軸方向の長さが短くなるとともに本体部径方向の外側又は内側へ広がるように変形するので、本体部全体として座屈変形が生じずに筒軸方向に安定して変形する。しかも、傾斜面と変形部との境界にはせん断変形促進層が形成されているので、このせん断変形促進層により、変形部が本体部径方向の外側又は内側へより一層塑性変形し易くなる。すなわち、本体部に所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、傾斜面と変形部との境界ないしその近傍には、傾斜面の傾斜によって、変形部の境界側端部を傾斜面に沿って本体部径方向の外側又は内側へずらすようなせん断力が作用する。そして、せん断変形促進層を、変形部の境界側端部が傾斜面に対してせん断変形し易くなるような材料で構成しておけば、上記せん断力によって変形部の境界側端部が傾斜面に対してせん断変形して、変形部が、本体部径方向の外側又は内側へ塑性変形し易くなる。
【0008】
したがって、本体部に対して、筒軸方向の圧縮荷重と同時に、本体部を径方向に倒すような力が入力されたとしても、本体部は座屈変形し難くて筒軸方向に確実に変形し、これにより、圧縮荷重の吸収性能を高めることができる。また、変形部や変形制御部の数が多くなっても、変形部と変形制御部とを一体成形により互いに強固にかつ容易に固定することができ、衝撃エネルギ吸収部材の運搬時や車両等への組付け時における取扱い性を向上させることができる。
【0009】
尚、変形制御部は、例えば、本体部筒軸方向の圧縮荷重に対して変形部よりも圧縮塑性変形し難くかつ破壊し難い材料、つまり上記圧縮荷重に対する強度及び剛性が変形部よりも高い材料で構成すればよい。
【0010】
請求項2の発明では、請求項1の発明において、上記各傾斜面は、上記本体部に上記所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、上記変形部を、本体部筒軸方向への圧縮塑性変形と同時に本体部径方向の内側へ塑性変形させるように傾斜しているものとする。
【0011】
このことにより、変形部が本体部径方向の内側へ塑性変形する場合の変形抵抗は、外側へ塑性変形する場合の変形抵抗に比べて大きいので、圧縮荷重の吸収量をより一層大きくすることができる。
【0012】
請求項3の発明では、請求項1又は2の発明において、上記せん断変形促進層は、上記金属との合金であって該金属よりも低融点の合金からなるものとする。
【0013】
すなわち、変形部の金属との合金であって該金属よりも低融点の合金(例えば、金属がアルミニウム合金である場合に、Zn−Al系合金)は、通常、低強度であるため、本体部に所定以上の圧縮荷重が入力されたときに生じるせん断力により、変形部の境界側端部が傾斜面に対してせん断変形し易くなる。また、衝撃エネルギ吸収部材を製造するに際し、予め、変形制御部を形成するための変形制御部形成部材を作製しておいて、この変形制御部形成部材を金型のキャビティ内にセットした状態で、変形部の金属の溶湯を該キャビティ内に供給することで、変形部と変形制御部とを一体成形する場合、上記変形制御部形成部材における傾斜面に対応する端部を、上記金属よりも低融点のめっき材料で構成しておけば、傾斜面と変形部との境界に、変形部の金属との合金であって該金属よりも低融点の合金からなるせん断変形促進層を容易に形成することができる。
【0014】
請求項4の発明では、請求項1又は2の発明において、上記変形部は、アルミニウム合金鋳物からなり、上記変形制御部及びせん断変形促進層は、強化繊維が含有されたアルミニウム合金鋳物からなり、上記せん断変形促進層の強化繊維体積率が、上記変形制御部の強化繊維体積率よりも大きいものとする。
【0015】
このことで、変形制御部は、強化繊維により変形部よりも圧縮塑性変形し難くかつ破壊し難くなって、変形部の塑性変形の方向を確実に制御できるようになる。また、衝撃エネルギ吸収部材の軽量化を図ることができる。さらに、上記の変形制御部形成部材として、強化繊維成形体からなる予備成形体を成形しておいて、この予備成形体とアルミニウム合金の溶湯とを複合化することで、変形部及び変形制御部を容易に一体成形することができる。ここで、上記予備成形体における上記傾斜面に対応する端部の強化繊維体積率を、該変形制御部形成部材における該端部以外の部分の強化繊維体積率よりも大きくしておけば、強化繊維体積率が大きい部分がせん断変形促進層となり、強化繊維体積率が小さい部分が変形制御部となる。このようにせん断変形促進層の強化繊維体積率が大きいと、傾斜面と変形部との境界(せん断変形促進層)においては金属(アルミニウム合金)の含有量が少なく、また、通常、強化繊維は傾斜面に略沿って延びるように配設されるので、せん断変形促進層を介在することで、せん断力に対する変形部と変形制御部との接合強度が低くなり、この結果、変形部の境界側端部が傾斜面に対してせん断変形し易くなる。
【0016】
請求項5の発明では、請求項1又は2の発明において、上記変形部は、アルミニウム合金鋳物からなり、上記変形制御部は、鋼部材からなり、上記せん断変形促進層は、Al−Fe金属間化合物からなるものとする。
【0017】
すなわち、Al−Fe金属間化合物は、低強度で脆いために、本体部に所定以上の圧縮荷重が入力されたときに生じるせん断力により、変形部の境界側端部が傾斜面に対してせん断変形し易くなる。また、上記の変形制御部形成部材(鋼からなる)を金型のキャビティ内にセットした状態で、変形部の金属(アルミニウム合金)の溶湯を該キャビティ内に供給することで、変形部と変形制御部とを一体成形し、その後に熱処理を適切に行えば、傾斜面と変形部との境界に、Al−Fe金属間化合物からなるせん断変形促進層を容易に形成することができる。
【0018】
請求項6の発明では、請求項4又は5の発明において、上記アルミニウム合金鋳物は、Al−Mn−Fe−Mg系合金鋳物であるものとする。
【0019】
すなわち、Al−Mn−Fe−Mg系合金は、各成分の含有量を適切に設定することによって、アルミニウム合金の強度を維持しつつ鋳造性及び伸びの両方を同時に向上させて、鋳造のままでも高い伸びを有する高延性のものとすることができる。よって、衝撃エネルギ吸収部材の軽量化を図りつつ、圧縮荷重の吸収性能を高めることができる。
【0020】
請求項7の発明では、請求項1〜6のいずれか1つの発明において、衝撃エネルギ吸収部材は、車両のフロントサイドフレーム又はクラッシュカンに用いられるものとする。
【0021】
このことにより、車両の正面衝突時や後面衝突時の衝撃エネルギを確実に吸収して、車両の安全性を高めることが可能になる。また、変形部を、例えばアルミニウム合金鋳物で構成することで、車両の軽量化を図りつつ、安全性の向上化を図ることができる。
【0022】
請求項8の発明は、筒状の本体部を有し、該本体部に対して筒軸方向に入力される圧縮荷重を吸収する衝撃エネルギ吸収部材の製造方法の発明であり、この発明では、上記本体部は、金属からなりかつ所定以上の上記圧縮荷重を受けて本体部筒軸方向に圧縮塑性変形する変形部と、該変形部の塑性変形の方向を制御する複数の変形制御部とが、本体部筒軸方向に交互に積層されてなり、上記各変形制御部の上記変形部と接する面が、本体部径方向の外側に向かって本体部筒軸方向の一方側又は他方側に傾斜する傾斜面とされ、上記本体部筒軸方向に隣り合う任意の2つの傾斜面は、上記本体部に上記所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、上記変形部を、本体部筒軸方向への圧縮塑性変形と同時に本体部径方向の外側又は内側へ塑性変形させるように、本体部径方向の外側に向かって互いに反対側に傾斜し、上記各傾斜面と上記変形部との境界には、上記本体部に上記所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、該変形部の境界側端部の、上記傾斜面に対するせん断変形を促進するせん断変形促進層が形成されており、上記複数の変形制御部をそれぞれ形成するための複数の変形制御部形成部材を作製する工程と、上記作製した変形制御部形成部材を金型のキャビティ内にセットした状態で、上記金属の溶湯を該キャビティ内に供給することで、上記変形部と変形制御部とを一体成形する工程とを含み、上記変形制御部形成部材の作製工程において、該変形制御部形成部材における少なくとも上記傾斜面に対応する端部を、上記変形部と変形制御部との一体成形工程時に上記せん断変形促進層が形成される材料、又は、該一体成形工程後に該一体成形したものに対し熱処理を行うことで上記せん断変形促進層が形成される材料で構成するようにする。
【0023】
この発明により、変形部及び変形制御部を容易に一体成形することができるとともに、その一体成形時に又はその後の熱処理時にせん断変形促進層を容易に形成することができる。よって、本体部筒軸方向に安定して変形させることが可能でかつ取扱い性に優れた衝撃エネルギ吸収部材を容易に製造することができる。
【0024】
請求項9の発明では、請求項8の発明において、上記変形制御部形成部材の作製工程において、該変形制御部形成部材における上記傾斜面に対応する端部を、上記金属よりも低融点のめっき材料で構成するものとする。
【0025】
このことにより、変形部と変形制御部との一体成形時に、傾斜面と変形部との境界に、変形部の金属との合金であって該金属よりも低融点の合金からなるせん断変形促進層を容易に形成することができ、請求項3記載の衝撃エネルギ吸収部材を容易に製造することができる。
【0026】
請求項10の発明では、請求項8の発明において、上記金属は、アルミニウム合金であり、上記変形制御部形成部材は、強化繊維成形体からなり、上記変形部と変形制御部との一体成形工程は、上記溶湯と上記強化繊維成形体とを複合化する工程であり、上記変形制御部形成部材の作製工程において、該変形制御部形成部材における上記傾斜面に対応する端部の強化繊維体積率を、該変形制御部形成部材における該端部以外の部分の強化繊維体積率よりも大きくするようにする。
【0027】
このことで、変形部と変形制御部との一体成形時に、傾斜面と変形部との境界に、変形制御部よりも強化繊維体積率が大きいせん断変形促進層を容易に形成することができ、請求項4記載の衝撃エネルギ吸収部材を容易に製造することができる。
【0028】
請求項11の発明では、請求項8の発明において、上記金属は、アルミニウム合金であり、上記変形制御部形成部材は、鋼からなり、上記変形部と変形制御部との一体成形工程後に、該一体成形したものに対し熱処理を行うことで、Al−Fe金属間化合物からなるせん断変形促進層を形成するようにする。
【0029】
これにより、変形部と変形制御部との一体成形工程後に、熱処理を適切に行うことで、傾斜面と変形部との境界に、Al−Fe金属間化合物からなるせん断変形促進層を容易に形成することができ、請求項5記載の衝撃エネルギ吸収部材を容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0030】
以上説明したように、本発明の衝撃エネルギ吸収部材によると、本体部が、少なくとも1つの変形部と複数の変形制御部とが本体部筒軸方向に交互に積層された状態で一体成形されてなり、各変形制御部の変形部と接する面が、本体部径方向の外側に向かって本体部筒軸方向の一方側又は他方側に傾斜する傾斜面とされ、本体部筒軸方向に隣り合う任意の2つの傾斜面が、上記本体部に対して筒軸方向に所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、上記変形部を、本体部筒軸方向への圧縮塑性変形と同時に本体部径方向の外側又は内側へ塑性変形させるように、本体部径方向の外側に向かって互いに反対側に傾斜し、各傾斜面と変形部との境界には、上記本体部に上記所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、該変形部の境界側端部の、傾斜面に対するせん断変形を促進するせん断変形促進層が形成されている構成としたことにより、本体部が筒軸方向に安定して変形するようになり、圧縮荷重の吸収性能を高めることができるとともに、衝撃エネルギ吸収部材の運搬時や車両等への組付け時における取扱い性を向上させることができる。
【0031】
また、本発明の衝撃エネルギ吸収部材の製造方法によると、変形制御部を形成するための変形制御部形成部材を作製する工程と、該作製した変形制御部形成部材を金型のキャビティ内にセットした状態で、金属の溶湯を該キャビティ内に供給することで、変形部と変形制御部とを一体成形する工程とを含み、変形制御部形成部材の作製工程において、該変形制御部形成部材における少なくとも傾斜面に対応する端部を、変形部と変形制御部との一体成形工程時に上記せん断変形促進層が形成される材料、又は、該一体成形工程後に該一体成形してなる本体部に対し熱処理を行うことで上記せん断変形促進層が形成される材料で構成するようにしたことにより、本体部を座屈変形させることなく筒軸方向に安定して変形させることが可能でかつ取扱い性に優れた衝撃エネルギ吸収部材を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0033】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る衝撃エネルギ吸収部材1を示し、この衝撃エネルギ吸収部材1は、筒状(本実施形態では円筒状)の本体部2を有していて、該本体部2に対して筒軸Z方向(図1の上下方向)に入力される圧縮荷重を吸収するものである。
【0034】
上記衝撃エネルギ吸収部材1は、本実施形態では、図2に示すように、車両100の前部における車幅方向両側位置で前後方向にそれぞれ延びるように設けられる左右のフロントサイドフレーム91の前端とフロントバンパー93における車幅方向に延びるバンパーレインフォースメント93aの左右両端部との間にそれぞれ介設されるクラッシュカン92として用いられる。この場合、衝撃エネルギ吸収部材1は、筒軸Z方向が車両100の前後方向に一致するように配設されて、車両100の正面衝突時にバンパーレインフォースメント93aから入力される衝突エネルギ(衝撃圧縮荷重)を吸収する。
【0035】
尚、衝撃エネルギ吸収部材1は、上記クラッシュカン92に限らず、上記左右のフロントサイドフレーム91の一部(特に前端部分)、車両100の後部における車幅方向両側位置で前後方向にそれぞれ延びるように設けられる左右のリヤサイドフレーム(図示せず)の一部(特に後端部分)、又は、この各リヤサイドフレームの後端とリヤバンパー94のバンパーレインフォースメント(図示せず)との間に介設されるクラッシュカン(図示せず)に用いてもよい。また、衝撃エネルギ吸収部材1は、車両100において衝撃エネルギを吸収する必要がある部分に広く用いることができるとともに、車両100以外のものに用いることも可能である。
【0036】
上記本体部2における筒軸Z方向の両側端には、衝撃エネルギ吸収部材1を上記フロントサイドフレーム91の前端とバンパーレインフォースメント93aとにそれぞれ取付固定するための第1及び第2固定部7,8がそれぞれ設けられている。第1固定部7には、該第1固定部7をフロントサイドフレーム91の前端に締結固定するためのボルトが挿通される複数のボルト挿通孔7aが形成されており、第2固定部8には、該第2固定部8をバンパーレインフォースメント93aに締結固定するためのボルトが挿通される複数のボルト挿通孔8aが形成されている。これら第1及び第2固定部7,8の形状は、衝撃エネルギ吸収部材1の適用箇所によって異なる。
【0037】
本実施形態のように衝撃エネルギ吸収部材1をクラッシュカン92に用いる場合、本体部2の外径Dは40〜100mmが好ましく、肉厚tは2〜8mmが好ましく、長さLは80〜150mmが好ましい。尚、本体部の外径Dは、図1では、本体部2の筒軸Z方向全体に亘って一定に記載しているが、厳密には一定ではなくて、第2固定部8側に向かって徐々に小さくなっている。これは、衝撃エネルギ吸収部材1を後述の鋳造金型30(図8参照)で鋳造した後に該鋳造金型30からの離型を容易にするためである。
【0038】
上記本体部2は、該本体部2に対する筒軸Z方向の所定以上の圧縮荷重を受けて筒軸Z方向に圧縮塑性変形する複数(本実施形態では4つ)の環状の変形部3と、該変形部3の塑性変形の方向を制御する複数(本実施形態では5つ)の環状の変形制御部4とが、筒軸Z方向に交互に積層された状態で一体成形されてなる。この変形制御部4は、筒軸Z方向の圧縮荷重に対して変形部3よりも圧縮塑性変形し難くかつ破壊し難い材料、つまり上記圧縮荷重に対する強度及び剛性が変形部3よりも高い材料で構成すればよいが、これに限られるものでもない。本実施形態で用いる具体的な材料については後述する。
【0039】
上記変形制御部4は、上記本体部2に上記所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、上記変形部3を、筒軸Z方向への圧縮塑性変形と同時に本体部2径方向の内側へ強制的に塑性変形(縮径変形)させるようになっている。
【0040】
具体的には、各変形制御部4の変形部3と接する面が、本体部2の径方向外側に向かって筒軸Z方向の一方側又は他方側に傾斜する傾斜面4aとされている。そして、筒軸Z方向に隣り合う任意の2つの傾斜面4aは、本体部2径方向の外側に向かって互いに反対側に傾斜している。本実施形態では、各傾斜面4aは、本体部2に対して筒軸Z方向に所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、全変形部3を、筒軸Z方向への圧縮塑性変形と同時に本体部2径方向の内側へ塑性変形させるように傾斜している。すなわち、各変形制御部4の筒軸Z方向の長さが、本体部2径方向の外側に向かって大きくなっている一方、各変形部3の筒軸Z方向の長さが、本体部2径方向の外側に向かって小さくなっている。
【0041】
尚、各傾斜面4aは、本体部2に対して筒軸Z方向に所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、全変形部3を、筒軸Z方向への圧縮塑性変形と同時に本体部2径方向の外側へ塑性変形(拡径変形)させるように傾斜していてもよい。すなわち、各変形制御部4の筒軸Z方向の長さを、本体部2径方向の外側に向かって小さくする一方、各変形部3の筒軸Z方向の長さを、本体部2径方向の外側に向かって大きくする。但し、変形部3が本体部2径方向の内側へ塑性変形する場合の変形抵抗は、外側へ塑性変形する場合の変形抵抗に比べて大きいので、圧縮荷重の吸収量を大きくする観点からは、変形部3を本体部2径方向の内側へ塑性変形させる方が好ましい。
【0042】
上記各傾斜面4aの傾斜角度θ(筒軸Z方向に対して垂直な面に対する傾斜角度)は、30°〜60°が好ましく、特に好ましいのは40°〜50°である。本体部2径方向の外側に向かって筒軸Z方向の一方側に傾斜する傾斜面4aの傾斜角度と、他方側に傾斜する傾斜面4aの傾斜角度とは同じであることが好ましいが、互いに異なっていてもよい。
【0043】
本実施形態では、本体部2における筒軸Z方向の両側端部が変形制御部4でそれぞれ構成されているが、変形部3でそれぞれ構成してもよく、該両側端部のうちいずれか一方の端部のみを変形制御部4で構成してもよい。また、変形部3は1つであってもよく、この場合には、本体部2における筒軸Z方向の両側端部が変形制御部4でそれぞれ構成されることになる。
【0044】
上記複数の変形部3の形状及び大きさは略同じであることが好ましい。これは、圧縮加重が全ての変形部3に均一に作用して特定の変形部3に集中しないようにするためである。
【0045】
上記各傾斜面4aと上記変形部3との境界には、上記本体部2に対して筒軸Z方向に所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、該変形部3の境界側端部の、傾斜面4aに対するせん断変形を促進するせん断変形促進層9が形成されている。すなわち、本体部2に所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、傾斜面4aと変形部3との境界ないしその近傍には、傾斜面4aの傾斜によって、変形部3の境界側端部を傾斜面4aに沿って本体部2径方向の内側へずらすようなせん断力が作用し、せん断変形促進層9を、変形部3の境界側端部が傾斜面4aに対してせん断変形し易いような材料で構成しておけば、上記せん断力によって変形部3の境界側端部が傾斜面4aに対してせん断変形して、変形部3が、本体部2径方向の内側へ塑性変形し易くなる。
【0046】
本実施形態では、上記変形部3はアルミニウム合金鋳物からなり、上記変形制御部4及びせん断変形促進層9は、強化繊維が含有されたアルミニウム合金鋳物からなる。これら変形部3及び変形制御部4並びにせん断変形促進層9は、後述の如くアルミニウム合金の溶湯と強化繊維成形体からなる予備成形体15(図5参照)との複合化により一体成形されたものである。
【0047】
上記アルミニウム合金として好ましいのは、Al−Mn−Fe−Mg系合金である。このAl−Mn−Fe−Mg系合金は、各成分の含有量を適切に設定することによって、アルミニウム合金の強度を維持しつつ鋳造性及び伸びの両方を同時に向上させて、鋳造のままでも高い伸びを有する高延性のものとすることができる。具体的には、0.5〜2.5%のMn成分と、0.1〜1.5%のFe成分と、0.01〜1.2%のMg成分と、残部が不可避不純物を含むAl成分とからなるアルミニウム合金とする(含有量の数値は質量百分率である)。
【0048】
また、上記各成分含有量を有するAl−Mn−Fe−Mg系合金に、質量百分率で0.1〜0.2%のTi成分、質量百分率で0.01〜0.1%のB成分、及び、質量百分率で0.01〜0.2%のBe成分のうちの少なくとも1つを添加することがより好ましい。すなわち、Ti成分、B成分及びBe成分は、鋳物の結晶粒を微細化することによりその特性を向上させて鋳造割れ性を改善することができるが、含有量が多すぎると、粗大化合物が生成されて伸びが低下する。そこで、Ti成分、B成分及びBe成分の各含有量を上記範囲に設定して、伸びの低下を防ぎつつ、鋳造割れ性をさらに良好にする。
【0049】
尚、上記Al−Mn−Fe−Mg系合金に代えて、例えば、Al−Si系合金を用いてもよく(この合金の場合には、高真空ダイカスト法で鋳造する)、Mg系合金やその他の金属を用いてもよい。
【0050】
上記強化繊維としては、アルミナ繊維、シリカ繊維、シリコンカーバイト繊維等が好ましい。アルミナ繊維及びシリカ繊維の場合には、例えば、平均繊維径3μm〜5μm、繊維長さ5mm〜10mmのものを用い、シリコンカーバイト繊維の場合には、例えば、平均繊維径10μm〜15μm、繊維長さ5mm〜10mmのものを用いればよい。
【0051】
上記変形制御部4の強化繊維体積率は5〜10%であることが好ましい。一方、上記せん断変形促進層9の強化繊維体積率は、変形制御部4の強化繊維体積率よりも大きい。また、せん断変形促進層9の強化繊維は、後述の製造方法から傾斜面4aに略沿って延びるように配設されており、強化繊維体積率が大きいことと相俟って、せん断変形促進層9を介在することで、上記せん断力に対する変形部3と変形制御部4との接合強度が低くなり、この結果、変形部3の境界側端部が傾斜面4aに対して本体部2径方向の内側へせん断変形し易くなる。このせん断変形を促進するために上記せん断変形促進層9の強化繊維体積率として好ましい範囲は20〜25%である。これは、20%未満では、上記せん断変形を十分に促進させることができない一方、25%を超えると、予備成形体15内の空孔が小さくなって溶湯の充填性が悪化するからである。
【0052】
上記変形制御部4は、変形部3の構成材料であるアルミニウム合金と強化繊維との複合化により強化されて、筒軸Z方向の圧縮荷重に対して変形部3よりも圧縮塑性変形し難くかつ破壊し難くなっており、これにより、本体部2に対して筒軸Z方向に所定以上の圧縮荷重(但し、変形制御部4が圧縮塑性変形しない大きさの圧縮荷重)が入力されたときには、図3に示すように、変形制御部4が圧縮塑性変形しない状態で(但し、弾性変形はする)、変形部3が筒軸Z方向に圧縮塑性変形することになる。また、変形制御部4の傾斜面4aによって、変形部3が、筒軸Z方向への圧縮塑性変形と同時に本体部2径方向の内側へ塑性変形することになる。しかも、傾斜面4aと変形部3との境界にはせん断変形促進層9が形成されているので、このせん断変形促進層9により、変形部3が本体部2径方向の内側へより一層塑性変形し易くなる。この変形部3の塑性変形によって上記圧縮加重を吸収する。このとき、変形部3は、その筒軸Z方向の長さが短くなりながら本体部2径方向の内側へ広がることにより、本体部2全体として座屈変形が生じずに筒軸Z方向に安定して変形する。尚、変形部3は、筒軸Z方向の圧縮塑性変形に伴って、本体部2径方向の外側へも少し塑性変形することになるが、その外側への塑性変形量は、強制的に変形させられる内側への塑性変形量に比べてかなり小さい。
【0053】
また、本体部2に対して筒軸Z方向に、変形制御部4が圧縮塑性変形するような大きさの圧縮加重が入力されたときには、図4に示すように、変形制御部4も筒軸Z方向に圧縮塑性変形する。さらに、傾斜面4aが変形部3から受ける反力によって、変形制御部4が本体部2径方向の外側へ塑性変形することになる。この変形制御部4の塑性変形時においても、変形制御部4は、傾斜面4aの傾斜角度θが0になるまでは、変形部3を、筒軸Z方向への圧縮塑性変形と同時に本体部2径方向の内側へ塑性変形させる役目を果たす。そして、変形制御部4の塑性変形により傾斜面4aの傾斜角度θが0になったとしても、その時点では既に、変形部3の塑性変形量がかなり大きくなっており、この結果、その時点以降も圧縮荷重が作用し続けたとしても、本体部2全体として座屈変形が生じずに筒軸Z方向に変形する。
【0054】
尚、本体部2への上記所定以上の圧縮加重の入力時に、せん断変形促進層9と変形部3(又は傾斜面4a)との間の界面で破断(せん断破壊)する可能性はあるが、たとえ破断したとしても、変形部3は、傾斜面4aによって本体部2径方向の内側へ塑性変形することに変わりはなく、寧ろ、破断により、本体部2径方向の内側へ塑性変形し易くなる。
【0055】
上記衝撃エネルギ吸収部材1を製造するには、先ず、図5に示すように、上記アルミニウム合金の溶湯との複合化により上記複数の変形制御部4をそれぞれ形成することが可能な複数の予備成形体15(複数の変形制御部4をそれぞれ形成するための複数の変形制御部形成部材に相当)を成形する。この各予備成形体15における傾斜面4aに対応する端部15aは、後述の一体成形時にせん断変形促進層9が形成される材料で構成されている。すなわち、上記端部15aを含む予備成形体15全体が強化繊維成形体からなり、上記端部15aの強化繊維体積率が、予備成形体15における該端部15a以外の部分15bの強化繊維体積率よりも大きくなっている。予備成形体15の強化繊維が存在しない部分は空孔となっている。尚、図5に示す予備成形体15は、本体部2における筒軸Z方向の両側端部に位置する2つの変形制御部4以外の3つの変形制御部4を形成するためのものであり、本体部2における筒軸Z方向の両側端部に位置する2つの変形制御部4では、強化繊維体積率が大きくされる端部15aは1つしか存在しない。
【0056】
各予備成形体15は、以下のようにして作製する。すなわち、最初に、不図示の容器内に、上記強化繊維と、水と、添加剤とを入れて撹拌混合してスラリー24(図6参照)を調製する。上記添加剤は、予備成形体15の強度を確保するための強化剤(例えば粒状アルミナゾル)、該強化剤の強化繊維への付着を促進させるための付着促進剤(例えば硫酸アンモン)、及び、強化繊維の分散性を向上させるための分散剤(例えばポリアミド)である。
【0057】
続いて、図6に示すように、濾過装置20により、スラリー24中の水等の液体成分を除去する。この濾過装置20は、内部に多孔性フィルタ22が配設された容器21と、この容器21の底部と接続された吸引装置(図示せず)とを備えている。この多孔性フィルタ22の中央部には、上方に突出する突部22a(フィルタとしての機能はない)が形成され、この突部22aの周囲部分(フィルタとして機能する)は、変形制御部4の傾斜面4aに対応するべく水平に対して傾斜している。そして、容器21内において多孔性フィルタ22における突部22aの周囲部分の上側に上記スラリー24を投入し、その後、上記吸引装置により、多孔性フィルタ22を介して、スラリー24中の水等の液体成分を除去(吸引脱水)する。
【0058】
次いで、図7に示すように、スラリー24中の液体成分を除去することにより得られた第1の脱液体部材25を圧縮する。すなわち、上記容器21内において多孔性フィルタ22における突部22aの周囲部分の上側に第1の脱液体部材25を配置したまま、第1の脱液体部材25をその上方からパンチ27により加圧して予備成形体15の上記部分15bの形状となるように圧縮成形する。上記パンチ27の下面の中央部には、上記突部22aが嵌合する嵌合孔27aが形成され、この嵌合孔27aの周囲部分は、変形制御部4の傾斜面4aに対応するべく水平に対して傾斜している。尚、本体部2における筒軸Z方向の両側端部に配置する変形制御部4を形成するための予備成形体15を成形する際には、パンチ27の下面を傾斜させないで水平に延びる形状にする。
【0059】
また、同様にして、予備成形体15の上記各端部15aの形状となるような傘状の第2の脱液体部材を圧縮成形する。この第2の脱液体部材の圧縮成形後の厚みは小さいので、強化繊維は、第2の脱液体部材の厚み方向の端面に略沿って延びるように配設される。
【0060】
次いで、上記圧縮成形した第1の脱液体部材25と第2の脱液体部材とをそれぞれ乾燥させた後に、第1の脱液体部材25の両側又は一方側の面に第2の脱液体部材を重ねて焼結する。この焼結は、例えば、640〜840℃で1.5時間行う。こうして強化繊維成形体からなる予備成形体15が完成する。
【0061】
次に、図8に示すような鋳造金型30を用いて衝撃エネルギ吸収部材1を製造(鋳造)する。この鋳造金型30は、固定金型プレート31に取付固定された固定金型32と、固定金型プレート31に対して図8の左右方向に移動可能に支持された可動金型プレート33に取付固定された可動金型34とを備えている。固定金型32には、可動金型34側に開口する凹陥部32aが形成されている一方、可動金型34には、その凹陥部32a内に入り込む突出部34aが形成され、これら凹陥部32a及び突出部34a間にキャビティ35が形成される。上記突出部34aの外周面には、複数の予備成形体15をそれぞれ支持するための複数の溝(図示せず)が形成されている。また、固定金型32には、第2固定部8の複数のボルト挿通孔8aをそれぞれ形成するための複数のピン32bが設けられており、可動金型34には、第1固定部7の複数のボルト挿通孔7aをそれぞれ形成するための複数のピン34bが設けられている。
【0062】
また、上記鋳造金型30には、上記キャビティ35内にアルミニウム合金の溶湯を供給するための射出スリーブ37が設けられている。この射出スリーブ37には上記溶湯の給湯口37aが形成されている。また、射出スリーブ37内には、射出スリーブ37に対して摺動可能に嵌装された射出プランジャ38が設けられており、この射出プランジャ38を図8の左側へ移動させることで、給湯口37aから射出スリーブ37内に供給された溶湯をキャビティ35内へ射出する。
【0063】
上記鋳造金型30を用いて衝撃エネルギ吸収部材1を製造するには、先ず、型開き状態で、可動金型34の突出部34aに形成された複数の溝に、上記成形した複数の予備成形体15をそれぞれ支持させ、その後、可動金型34を固定金型32側へ移動させて型を閉じる。これにより、複数の予備成形体15が鋳造金型30のキャビティ15内にセットされた状態となる。
【0064】
続いて、射出スリーブ37内に給湯口37aからアルミニウム合金の溶湯(溶湯温度700℃程度)を供給し、この溶湯を射出プランジャ38によりキャビティ35内に射出して供給する。これにより、キャビティ35内における予備成形体15が存在しない部分では、変形部3並びに第1及び第2固定部7,8が成形されるとともに、各予備成形体15内の空孔に溶湯が充填されて予備成形体15と溶湯とが複合化され、このことで変形制御部4が変形部3並びに第1及び第2固定部7,8と一体成形される。この一体成形時に、予備成形体15の端部15aがせん断変形促進層9となり、それ以外の部分15bが変形制御部4となる。このことで、せん断変形促進層9も変形部3及び変形制御部4と一体成形されることになる。そして、キャビティ15内の溶湯が凝固すれば、衝撃エネルギ吸収部材1の鋳造が完了する。
【0065】
したがって、本実施形態では、衝撃エネルギ吸収部材1の本体部2が、変形部3と変形制御部4とが筒軸Z方向に交互に積層された状態で一体成形されてなり、各変形制御部4の変形部3と接する面が、本体部2径方向の外側に向かって筒軸Z方向の一方側又は他方側に傾斜する傾斜面4aとされ、筒軸Z方向に隣り合う任意の2つの傾斜面4aが、本体部2に対して筒軸Z方向に所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、変形部3を、筒軸Z方向への圧縮塑性変形と同時に本体部2径方向の内側へ塑性変形させるように、本体部2径方向の外側に向かって互いに反対側に傾斜し、各傾斜面4aと変形部3との境界には、本体部2に対して筒軸Z方向に所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、該変形部3の境界側端部の、傾斜面4aに対するせん断変形を促進するせん断変形促進層9が形成されている構成としたことにより、変形部3は、その筒軸Z方向の長さが短くなりながら本体部2の径方向内側へ広がることになり、これにより、本体部2全体として座屈変形が生じずに筒軸Z方向に安定して変形する。しかも、傾斜面4aと変形部3との境界にはせん断変形促進層9が形成されているので、このせん断変形促進層9により、変形部3が本体部2径方向の内側へより一層塑性変形し易くなる。この結果、本体部2に対して、筒軸Z方向の圧縮荷重と同時に、本体部2を径方向に倒すような力が入力されたとしても、本体部2は座屈変形し難くて筒軸Z方向に確実に変形し、これにより、圧縮荷重の吸収性能を高めることができる。また、変形部3が本体部2径方向の内側へ塑性変形する場合の変形抵抗が、外側へ塑性変形する場合の変形抵抗に比べて大きいので、圧縮荷重の吸収量をより一層大きくすることができる。さらに、変形部3や変形制御部4の数が多くなっても、変形部3と変形制御部4とを一体成形により互いに強固にかつ容易に固定することができ、衝撃エネルギ吸収部材1の運搬時や車両への組付け時における取扱い性を向上させることができる。
【0066】
(実施形態2)
本実施形態は、変形制御部4及びせん断変形促進層9の材料を上記実施形態1とは異ならせたものである。
【0067】
すなわち、本実施形態では、変形制御部4は、筒軸Z方向の圧縮荷重に対してアルミニウム合金鋳物よりも圧縮塑性変形し難くかつ破壊し難い金属部材(本実施形態では、鋼部材)からなる。また、せん断変形促進層9は、変形部3の金属(アルミニウム合金)との合金であって該金属よりも低融点の合金(本実施形態では、Zn−Al系合金)からなる。このZn−Al系合金からなるせん断変形促進層9は、低強度であるため、本体部2に所定以上の圧縮荷重が入力されたときに生じるせん断力により、変形部3の境界側端部が傾斜面4aに対して本体部2径方向の内側へせん断変形し易くなる。この結果、変形部3が本体部2径方向の内側へより一層塑性変形し易くなる。
【0068】
本実施形態の衝撃エネルギ吸収部材1を製造するには、先ず、複数の変形制御部4をそれぞれ形成するための複数の変形制御部形成部材を作製する。具体的には、鋼部材を加工して変形制御部4の形状と同じになるように仕上げる。そして、この鋼部材(変形制御部形成部材)における上記傾斜面4aに対応する端部を変形部3の金属よりも低融点のめっき材料で構成するべく、上記鋼部材において少なくとも筒軸Z方向に対応する方向の両側の面に対し亜鉛めっきを施す。尚、亜鉛めっきに代えて、亜鉛合金めっき(例えばZn−Al、Zn−Al−Mg、Sn−Zn)を施してもよい。
【0069】
続いて、上記亜鉛めっきを施した鋼部材に対して、筒軸Z方向に対応する方向に貫通する複数の貫通孔を形成する。こうして変形制御部形成部材が完成する。尚、先に貫通孔を形成し、その後に亜鉛めっきを施すようにしてもよい。
【0070】
上記貫通孔は、キャビティ15内において上記溶湯が筒軸Z方向に流れるようにしかつ変形部3と変形制御部4とを確実に一体化するために設けるものであるが、その数が多くなりすぎると、せん断変形促進層9によるせん断変形促進機能が低下するので、これらのことを考慮して貫通孔の数を設定する。
【0071】
尚、上記貫通孔は必ずしも形成する必要はない。貫通孔を形成しない場合には、キャビティ15内において上記溶湯が筒軸Z方向に流れるように、固定金型32に、溶湯が流れる流通溝を形成するようにすればよい。この流通溝に対応して成形された突出部は、鋳造後に除去すればよい。
【0072】
上記作製した変形制御部形成部材を、上記実施形態1の予備成形体15と同様に、鋳造金型30のキャビティ15内にセットした状態で、アルミニウム合金の溶湯を該キャビティ30内に供給することで、変形部3と変形制御部4(変形制御部形成部材)と第1及び第2固定部7,8とを一体成形する。このとき、変形制御部形成部材には貫通孔が形成されているので、キャビティ15内において上記溶湯は貫通孔を通して筒軸Z方向に流れるとともに、貫通孔により変形部3と変形制御部4とが確実に一体化されることになる。
【0073】
また、上記一体成形時に、めっきした亜鉛が溶湯により溶融し、これにより、傾斜面4aと変形部3との境界に、アルミニウム合金よりも低融点のZn−Al系合金からなるせん断変形促進層9が形成されることになる。
【0074】
したがって、本実施形態においても、上記実施形態1と同様の作用効果が得られ、本体部2に対して筒軸Z方向に所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、本体部2が筒軸Z方向に確実に変形して、その圧縮荷重の吸収性能を高めることができる。
【0075】
(実施形態3)
本実施形態は、変形制御部4及びせん断変形促進層9の材料を上記実施形態1及び2とは異ならせたものである。
【0076】
すなわち、本実施形態では、上記実施形態2の鋼部材を、めっきを施さないでそのまま変形制御部形成部材として使用するものである。但し、上記実施形態2と同様の貫通孔は設ける(上記実施形態2で説明したように、固定金型32に、溶湯が流れる流通溝を形成した場合には、貫通孔は形成しなくてよい)。
【0077】
上記変形制御部形成部材を、上記実施形態2と同様に、鋳造金型30のキャビティ15内にセットした状態で、アルミニウム合金の溶湯を該キャビティ30内に供給することで、変形部3と変形制御部4(変形制御部形成部材)と第1及び第2固定部7,8とを一体成形する。
【0078】
上記溶湯の凝固後、上記一体成形したものに対し熱処理を行うことで、Al−Fe金属間化合物からなるせん断変形促進層9を形成する。すなわち、例えば400℃で1時間程度の熱処理を行うことで、変形部3(アルミニウム合金)と変形制御部4(鋼)との境界にAl−Fe金属間化合物が形成されることになる。このAl−Fe金属間化合物からなるせん断変形促進層9は、低強度で脆いために、本体部2に所定以上の圧縮荷重が入力されたときに生じるせん断力により、変形部3の境界側端部が傾斜面4aに対して本体部2径方向の内側へせん断変形し易くなる。
【0079】
したがって、本実施形態においても、上記実施形態1及び2と同様の作用効果が得られ、本体部2に対して筒軸Z方向に所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、本体部2が筒軸Z方向に確実に変形して、その圧縮荷重の吸収性能を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、筒状の本体部に対して筒軸方向に入力される圧縮荷重を吸収する衝撃エネルギ吸収部材及びその製造方法に有用であり、特に車両のクラッシュカン(車両前部に配設されるものと後部に配設されるものとを含む)、左右のフロントサイドフレーム及び左右のリヤサイドフレームに適用する場合に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の実施形態1に係る衝撃エネルギ吸収部材を示す断面図である。
【図2】衝撃エネルギ吸収部材が適用されるクラッシュカンを示す車両の前部を破断した側面図である。
【図3】衝撃エネルギ吸収部材の本体部に対して筒軸方向に所定以上の圧縮荷重(変形制御部が圧縮塑性変形しない大きさの圧縮荷重)が入力されたときの該本体部の変形状態を示す断面図である。
【図4】衝撃エネルギ吸収部材の本体部に対して筒軸方向に、変形制御部が塑性変形するような大きさの圧縮加重が入力されたときの状態を示す断面図である。
【図5】予備成形体を示す断面図である。
【図6】スラリー中の液体成分を除去している状態を示す濾過装置の容器の断面図である。
【図7】スラリー中の液体成分を除去することにより得られた脱液体部材を圧縮している状態を示す図6相当図である。
【図8】鋳造金型を示す断面図である。
【符号の説明】
【0082】
1 衝撃エネルギ吸収部材
2 本体部
3 変形部
4 変形制御部
4a 傾斜面
15 予備成形体(変形制御部形成部材)
30 鋳造金型
35 キャビティ
91 フロントサイドフレーム
92 クラッシュカン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の本体部を有し、該本体部に対して筒軸方向に入力される圧縮荷重を吸収する衝撃エネルギ吸収部材であって、
上記本体部は、金属からなりかつ所定以上の上記圧縮荷重を受けて本体部筒軸方向に圧縮塑性変形する少なくとも1つの変形部と、該変形部の塑性変形の方向を制御する複数の変形制御部とが、本体部筒軸方向に交互に積層された状態で一体成形されてなり、
上記各変形制御部の上記変形部と接する面が、本体部径方向の外側に向かって本体部筒軸方向の一方側又は他方側に傾斜する傾斜面とされ、
上記本体部筒軸方向に隣り合う任意の2つの傾斜面は、上記本体部に上記所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、上記変形部を、本体部筒軸方向への圧縮塑性変形と同時に本体部径方向の外側又は内側へ塑性変形させるように、本体部径方向の外側に向かって互いに反対側に傾斜し、
上記各傾斜面と上記変形部との境界には、上記本体部に上記所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、該変形部の境界側端部の、上記傾斜面に対するせん断変形を促進するせん断変形促進層が形成されていることを特徴とする衝撃エネルギ吸収部材。
【請求項2】
請求項1記載の衝撃エネルギ吸収部材において、
上記各傾斜面は、上記本体部に上記所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、上記変形部を、本体部筒軸方向への圧縮塑性変形と同時に本体部径方向の内側へ塑性変形させるように傾斜していることを特徴とする衝撃エネルギ吸収部材。
【請求項3】
請求項1又は2記載の衝撃エネルギ吸収部材において、
上記せん断変形促進層は、上記金属との合金であって該金属よりも低融点の合金からなることを特徴とする衝撃エネルギ吸収部材。
【請求項4】
請求項1又は2記載の衝撃エネルギ吸収部材において、
上記変形部は、アルミニウム合金鋳物からなり、
上記変形制御部及びせん断変形促進層は、強化繊維が含有されたアルミニウム合金鋳物からなり、
上記せん断変形促進層の強化繊維体積率が、上記変形制御部の強化繊維体積率よりも大きいことを特徴とする衝撃エネルギ吸収部材。
【請求項5】
請求項1又は2記載の衝撃エネルギ吸収部材において、
上記変形部は、アルミニウム合金鋳物からなり、
上記変形制御部は、鋼部材からなり、
上記せん断変形促進層は、Al−Fe金属間化合物からなることを特徴とする衝撃エネルギ吸収部材。
【請求項6】
請求項4又は5記載の衝撃エネルギ吸収部材において、
上記アルミニウム合金鋳物は、Al−Mn−Fe−Mg系合金鋳物であることを特徴とする衝撃エネルギ吸収部材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の衝撃エネルギ吸収部材において、
車両のフロントサイドフレーム又はクラッシュカンに用いられることを特徴とする衝撃エネルギ吸収部材。
【請求項8】
筒状の本体部を有し、該本体部に対して筒軸方向に入力される圧縮荷重を吸収する衝撃エネルギ吸収部材の製造方法であって、
上記本体部は、金属からなりかつ所定以上の上記圧縮荷重を受けて本体部筒軸方向に圧縮塑性変形する変形部と、該変形部の塑性変形の方向を制御する複数の変形制御部とが、本体部筒軸方向に交互に積層されてなり、
上記各変形制御部の上記変形部と接する面が、本体部径方向の外側に向かって本体部筒軸方向の一方側又は他方側に傾斜する傾斜面とされ、
上記本体部筒軸方向に隣り合う任意の2つの傾斜面は、上記本体部に上記所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、上記変形部を、本体部筒軸方向への圧縮塑性変形と同時に本体部径方向の外側又は内側へ塑性変形させるように、本体部径方向の外側に向かって互いに反対側に傾斜し、
上記各傾斜面と上記変形部との境界には、上記本体部に上記所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、該変形部の境界側端部の、上記傾斜面に対するせん断変形を促進するせん断変形促進層が形成されており、
上記複数の変形制御部をそれぞれ形成するための複数の変形制御部形成部材を作製する工程と、
上記作製した変形制御部形成部材を金型のキャビティ内にセットした状態で、上記金属の溶湯を該キャビティ内に供給することで、上記変形部と変形制御部とを一体成形する工程とを含み、
上記変形制御部形成部材の作製工程において、該変形制御部形成部材における少なくとも上記傾斜面に対応する端部を、上記変形部と変形制御部との一体成形工程時に上記せん断変形促進層が形成される材料、又は、該一体成形工程後に該一体成形したものに対し熱処理を行うことで上記せん断変形促進層が形成される材料で構成することを特徴とする衝撃エネルギ吸収部材の製造方法。
【請求項9】
請求項8記載の衝撃エネルギ吸収部材の製造方法において、
上記変形制御部形成部材の作製工程において、該変形制御部形成部材における上記傾斜面に対応する端部を、上記金属よりも低融点のめっき材料で構成することを特徴とする衝撃エネルギ吸収部材の製造方法。
【請求項10】
請求項8記載の衝撃エネルギ吸収部材の製造方法において、
上記金属は、アルミニウム合金であり、
上記変形制御部形成部材は、強化繊維成形体からなり、
上記変形部と変形制御部との一体成形工程は、上記溶湯と上記強化繊維成形体とを複合化する工程であり、
上記変形制御部形成部材の作製工程において、該変形制御部形成部材における上記傾斜面に対応する端部の強化繊維体積率を、該変形制御部形成部材における該端部以外の部分の強化繊維体積率よりも大きくすることを特徴とする衝撃エネルギ吸収部材の製造方法。
【請求項11】
請求項8記載の衝撃エネルギ吸収部材の製造方法において、
上記金属は、アルミニウム合金であり、
上記変形制御部形成部材は、鋼からなり、
上記変形部と変形制御部との一体成形工程後に、該一体成形したものに対し熱処理を行うことで、Al−Fe金属間化合物からなるせん断変形促進層を形成することを特徴とする衝撃エネルギ吸収部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−38340(P2010−38340A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−205204(P2008−205204)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】