説明

表面増強振動分光分析用治具及びその製造方法

【課題】試料に損傷を与えない程度の強さのレーザ光や強度の小さい入射光の赤外線を照射しても、それぞれ強度が微弱なラマン散乱光や赤外吸収をさらに感度よく測定できるようにすることを目的とする。
【解決手段】振動分光分析を行うための表面増強振動分光分析用治具において、柱状構造体11が配列された下地膜12付きの基体を備え、柱状構造体11の表面には金属膜14が付着していることを特徴とする。また、柱状構造体11は金属であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面増強振動分光分析用治具及びその製造方法に関し、特に、強度の小さな光を照射しても感度よく測定できるようにする表面増強振動分光分析用治具及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料にレーザ光を照射させると、もとの入射光と同一振動数のレーリー散乱光の他に、もとの入射光とは異なる振動数のラマン散乱光も測定試料から放出される。
【0003】
ラマン散乱光を分析するラマン分光分析法は、分子や結晶の構造や結合状態などを知るのに有効な方法である。
【0004】
しかし、有機物等の試料はレーザ光により損傷を受け易い場合もあるので、このような試料に対してレーザ強度を最小限に抑えて測定する必要がある。
【0005】
ラマン散乱光の強度は微弱なので、試料が薄膜である場合や測定個所が微小である場合などにはラマンスペクトルを取得するのが困難という場合もある。
【0006】
試料に損傷を与えない程度の強さのレーザ光を照射しても、強度が微弱なラマン散乱光を感度よく検出するための技術が必要である。
【0007】
上記の技術の一例として、非特許文献1に開示される技術が挙げられる。
【0008】
この文献に記載されるSERSとは、銀、金、銅などの貴金属の金属膜(島状や微粒子など)を形成した基板上に堆積させた試料のラマン散乱光が、金属膜を形成しない場合に比べて10〜10倍も強度が増大される現象である。
【0009】
ただし、上記した金属膜は表面を粗くする必要もある。
【0010】
例えば、μmサイズを有するSiやAg粒子、CaFなどを下地膜として形成する。
【0011】
さらにこの下地膜上に金属膜を形成すると、この金属膜の表面の粗さは増してくるため、SERSがさらに感度よく観測される(例:非特許文献2及び3など)。
【0012】
また、試料の表面上に金属膜を堆積させた場合でもSERS現象がみられる。
【0013】
また、赤外分光分析法も同様に赤外線を試料に照射すると、その試料に特有の振動数の赤外線が吸収される。
【0014】
その吸収位置より振動数を知ることができ、分子構造や分子の置かれている環境などに関した情報が得られる。
【0015】
また、赤外ATR(attenuation total reflection)スペクトルの測定で、ATRプリズムに金、銀などを薄く蒸着すれば、分子の吸収強度が数十倍から数百倍も増強される(分析化学Vol. 40 187 1991)。
【0016】
この現象を利用すれば赤外分光法による微量分析も可能である。
【0017】
また、表面増強ラマン散乱を分光分析するのに金属ナノロッドも用いていることが知られている。
【0018】
例えば、金属ナノロッドを膜状態(単粒子膜状態)で直接基板上に固定化して、これに被分析試料を付着させていく。
【0019】
さらにレーザ光を照射することで高感度を有する表面増強ラマン散乱の測定が可能である(例:特許文献2及び3など)。
【0020】
また、最近は個々の金属ナノ微粒子の構造をナノスケールで測定し、粒子間を大きくすることで微量分子の吸着した特定の粒子のみからのラマン散乱を検出することが可能になってきた。これは、走査型プローブ顕微鏡、近接場顕微鏡、原子間力顕微鏡などの発達によるものである。
【0021】
例えば、非特許文献5によれば、十分なSERSを生じる金属ナノ構造にレーザ光を照射したときにナノ構造表面に生じる局所電場強度を数値計算により求める。このようにすることで、巨大増強度を与える金属ナノ構造を明らかにしたと報告されている。
【0022】
局所電場計算では、孤立した球状、楕円状などの金属ナノ粒子では、10〜10のSERS増強しか得られない。一方これらの形状を有するナノ粒子の接合部では、粒子サイズによらず最適波長では1010以上の単一分子感度に匹敵する増強度が得られた。
【0023】
つまり、金属ナノ粒子集合体、かつその接合粒子で単一分子感度の巨大な増強度が得られたと報告されている。
【特許文献1】特開2003−098090号公報
【特許文献2】特開2005−233637号公報
【特許文献3】特開2005−097581号公報
【特許文献4】特開2005−241598号公報
【特許文献5】特開2005−144569号公報
【非特許文献1】Chem.Phys.Lett. Vol26 p.163(1974)
【非特許文献2】J.Phys. Chem. 1985,89,5174-5178
【非特許文献3】Solid State Communications, Vol.55, No.12, pp.1085-1088, 1985
【非特許文献4】分析化学Vol. 40 187 1991
【非特許文献5】J.Phys. Chem B. 2003, 107,7607-7617
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
従来の表面増強現象を用いた振動分光法では、金属膜への試料の吸着状態又は試料表面への金属の吸着状態によってラマン散乱光強度や吸収強度を増加させていく。しかし、強度の小さい入射光を照射した場合では試料のラマン散乱光や赤外吸収を測定できないこともあった。
【0025】
また、金属ナノロッドを用いて高感度の有する表面増強ラマン散乱の分光分析法においては、金属ナノロッドは5nm以上50nm以下の短軸、50nm以上500nm以下の長軸の大きさを有する。しかし、膜状態で基板上に固定化されているため、さらに高い感度を有する表面増強ラマン散乱分光分析が困難である。
【0026】
また、金属ナノ粒子の集合体中の接合部分及びその付近から十分なSERS増強度が得られたと報告されている。しかし、特に粒子などの金属ナノ構造体を用いて十分なSERS強度を得るには、高密度の金属ナノ構造体の集合体を有し、又は金属ナノ構造体間の間隔を0nm〜数nm程度の距離で配置させる必要がある。
【0027】
また、さらにSERS増強度を感度よく得るには、被測定試料の付着する金属の表面積を増やす必要もある。しかしながら、従来の技術ではこれらを制御するのが困難である。
【0028】
よって、本発明は、試料に損傷を与えない程度の強さのレーザ光や強度の小さい入射光の赤外線を照射しても、それぞれ強度が微弱なラマン散乱光や赤外吸収をさらに感度よく測定できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、振動分光分析を行うための表面増強振動分光分析用治具において、柱状構造体が配列された下地膜付きの基体を備え、前記柱状構造体の表面には金属膜が付着していることを特徴とする。
【0030】
また、本発明は、振動分光分析を行うための表面増強振動分光分析用治具の製造方法において、ベースが形成された下地膜付きの基体の前記ベースに細孔を形成する工程と、前記細孔に構造体を形成する工程と、前記混ベースを除去する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、試料に損傷を与えない程度の強さのレーザ光を照射しても、強度が微弱なラマン散乱光を感度良く測定することが可能となった。
【0032】
また、本発明により、強度の小さい入射光の赤外線を照射しても、赤外吸収を感度よく測定することが可能となった。
【0033】
また、本発明により、試料に損傷を与えない程度の強さのレーザ光又は強度の小さい入射光の赤外線を照射しても、強度が微弱なラマン散乱光又は赤外吸収を感度よく測定できるようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するための最良の実施の形態を説明する。
【0035】
<表面増強振動分光分析用治具について>
図1は、本発明の一実施形態としての表面増強振動分光分析用治具の例を示す断面図である。
【0036】
下地膜については、銀、金、銅、プラチウム、パラジウム、クロムなどの触媒活性を有する金属であることが好ましいが、触媒活性を有しない金属であってもよい。また、平坦性を持つ連続した膜状の膜であることが好ましい。
【0037】
図1(a)に示すように、下地膜12付きの基板13上に多数の柱状構造体11が形成されている。
【0038】
また、図1(b)に示すように、下地膜12付きの基板13上に多数の柱状構造体11が形成され、さらに柱状構造体11の表面に金属膜14が形成されている。
【0039】
また、柱状構造体11は貴金属からなっていることが好ましく、特に、銀、金、銅、プラチウムのいずれかであることが好ましい。
【0040】
また、柱状構造体11は平均直径2rが25nm以下であるが、好ましくは柱状構造体11の平均直径2rは1〜15nmである。その中心間距離2Rは5〜30nmである。
【0041】
平均直径2rは20nm以上500nm以下であり、中心間距離2Rが30nm以上1μm以下であることも好ましい。
【0042】
また、アスペクト比が2以上であることが好ましく、長さは限定されるものではない。ここでいうアスペクト比とは、柱上構造体の平均直径に対する高さの比率をいうものとする。
【0043】
図2は、金属膜の状態を示す斜視図である。
【0044】
図2に示すように、金属膜14は島状、微粒子状又は膜状の金属膜14からなっており、金属膜14の材料は銀、金、銅、プラチウム、パラジウム、クロムなどの貴金属であることが好ましい。
【0045】
島状の金属膜21は、図2(a)に示すように、不定形の島状の粒子から成っており、粒径は1nm以上10nm以下であることが好ましい。
【0046】
微粒子状の金属膜22は、図2(b)に示すように、銀、金などの貴金属微粒子からなっており、粒径が1nm以上10nm以下であることが好ましい。
【0047】
金属膜14は膜厚が1nm以上10nm以下であることが好ましい。
【0048】
その微粒子状の金属膜22の粒径は、柱状構造体11の隙間距離つまり中心間距離2Rと平均直径2rとの差よりも小さいことが好ましい。
【0049】
特に、金属膜14付きの柱状構造体11では、各々の柱状構造体11の間隔距離つまり中心間距離2Rと平均距離2rとの差が0nm以上数nm以下の距離であることが好ましい。
【0050】
<表面増強振動分光分析用治具の製造方法について>
図3及び図4は、無電解めっきにより金属の柱状構造体11を作製する方法を示す図である。
【0051】
図3は、(Al,Si,Ge)混合薄膜41を形成した下地膜12付きの基板13の構成を示す図である。
【0052】
図3において、32は柱状部材、31はSiを主成分とするマトリクス部分、12は下地膜、13は基板である。
【0053】
(Al,Si,Ge)混合薄膜41には、マトリクス31中に複数の柱状部材32が分散していることになる。
【0054】
また、柱状部材32の平均直径(平面形状が円の場合は直径)2r(図3)は、主として(Al,Si,Ge)混合薄膜41の製造条件により制御することが可能である。その平均直径2rは、0.5nm以上20nm以下、好ましくは1nm以上15nm以下である。
【0055】
なお、楕円等の場合は、最も長い外径部の範囲内であればよい。
【0056】
ここで平均直径とは、例えば、実際のSEM写真で観察される柱状の部分を、その写真から直接又はコンピュータで画像処理して導出される値である。
【0057】
なお、薄膜をどのようなデバイスに用いるか、又はどのような処理を行うかにもよるが、平均径の下限としては1nm以上であることが実用的な下限値である。
【0058】
また、柱状部材32間の中心間距離2R(図3)は、30nm以下、好ましくは5nm以上20nm以下である。
【0059】
(Al,Si,Ge)混合薄膜41は、膜状の構造体であることが好ましく、柱状部材32は下地膜12及び基板13に対して垂直になるようにマトリクス31中に分散していることが好ましい。
【0060】
(Al,Si,Ge)混合薄膜41の膜厚としては、特に限定されるものではないが、1nm以上100μm以下の範囲で適用できる。
【0061】
図4は、本実施形態における金属の柱状構造体11の製造方法を示す断面図である。
【0062】
混合薄膜41を形成した下地膜12付きの基板13をエッチング液及び無電解めっき浴又は無電解めっき浴に浸す。
【0063】
このようにすることで、多孔質体43の有する細孔41中に下地膜12付きの基板13上に垂直方向に金属の柱状構造体11を形成する。使用する混合薄膜41としては、(Si、Al)O混合薄膜(0≦X≦2)を使用する。
【0064】
混合薄膜41は、非平衡状態で成膜する方法を利用して作製することができる。
【0065】
成膜方法としては、スパッタリング法が好ましいが、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着(EB蒸着)、イオンプレーティング法をはじめとする任意の非平衡状態で物質を形成する成膜法が適用可能である。
【0066】
スパッタリング法で行う場合には、マグネトロンスパッタリング、RFスパッタリング、ECRスパッタリング、DCスパッタリング法を用いることができる。
【0067】
一例として、本実施形態の(Si,Al)O混合薄膜(0≦X≦2)41を用いた場合の表面増強振動分光分析用治具の製造方法を順に追って説明する。
【0068】
(a)工程:下地膜12の形成工程(図4(a))
無電解めっきを行うには、基体上に触媒活性を有する下地膜12を形成する必要がある。
【0069】
触媒としては、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Rh、Irなどの貴金属元素などが好ましい。
【0070】
触媒性を有する下地膜12を選択的に形成することで選択的に無電解めっき皮膜を形成させることが可能であるが、特に平坦性を有した連続した膜が好ましい。
【0071】
また、膜厚は所望通りに制御してもよいが、100nm以下が好ましい。特に20nm以下が好ましい。
【0072】
触媒活性を有する下地膜12の形成方法として、ゾルゲル法、蒸着法、スパッタリング法などが挙げられるが、本実施の形態においてはスパッタリング法を使用し膜厚20nm以下の触媒活性を有する連続した膜を形成する。
【0073】
(b)工程:(Al,Si)混合薄膜41(ここでは(Si,Al)O混合薄膜(X=0))の形成工程
次に、(a)工程で作製した下地膜12付きの基板13上に(Al,Si)混合薄膜41を形成する。ここでは、非平衡状態で物質を形成する成膜法として、スパッタリング法を用いた例を説明する。(図4(b))
下地膜12付きの基板13上に、非平衡状態で物質を形成する成膜法であるマグネトロンスパッタリング法により、(Al,Si)混合薄膜41を形成する。
【0074】
(Al,Si)混合薄膜41は、Alを主成分とする柱状部材32と、その周囲のSiを主成分とするマトリクス31から構成される。
【0075】
図7に示すように、下地膜12付きの基板13上に、非平衡状態で物質を形成する成膜法であるマグネトロンスパッタリング法により、(Al,Si)混合薄膜41を形成する(特開2003−266400号公報)。
【0076】
原料としてのSi及びAlは、図7に示すようにAlのターゲット74上にSiチップ73を配置することで達成される。
【0077】
また、図7に示すように、Siチップ73は複数に分けて配置しているが、これに限定されるものではなく、所望の成膜が可能であれば、一つであってもよい。
【0078】
ただし、均一なAlを含む柱状部材32を、Siを主成分とするマトリクス31領域内に均一に分散させるには、Alターゲット74上にSiチップ73を対称に配置しておくのがよい。
【0079】
また、所定量のAlとSiとの粉末を焼成して作製したAlSi焼成物を成膜のターゲット材として用いることもできる。
【0080】
また、AlターゲットとSiターゲットを別々に用意し、同時に両方のターゲットをスパッタリングする方法を用いてもよい。
【0081】
形成される膜中のシリコンの量は、AlとSiの全量に対して20〜70at%であり、好ましくは25〜65at%、さらに好ましくは30〜60at%である。
【0082】
Siの量がこの範囲内であれば、Siを主成分とするマトリクス31領域内にAlを主成分とする柱状部材32が分散した(Al,Si)混合薄膜41が得られる。
【0083】
上記のようにして成膜された(Al,Si)混合薄膜41は、Alを主成分とする柱状部材32と、その周囲のSiを主成分とするマトリクス31領域を備える。また、基体温度としては、300℃以下であり、好ましくは200℃以下であるのがよい。
【0084】
なお、このような方法で(Al,Si)混合薄膜41を形成すると、AlとSiが準安定状態の共晶型組織となり、AlがSiマトリクス31内に数nmレベルのナノ構造体(柱状部材32)を形成し、自己組織的に分離する。
【0085】
そのときのAlはほぼ円柱状形状であり、その孔径は1nm以上15nm以下であり、中心間距離は2nm以上30nm以下である。
【0086】
(Al,Si)混合薄膜41のSiの量は、例えばAlターゲット74上に置くSiチップ73の量を変えることで制御できる。
【0087】
また、非平衡状態で成膜を行う場合、特にスパッタリング法の場合は、Arガスを流したときの反応装置内の圧力は、0.2〜1Pa程度が好ましい。
【0088】
また、プラズマを形成するための出力は4インチターゲットでは、150〜1000W程度が好ましい。
【0089】
しかし、特に、これに限定されるものではなく、Arプラズマ72が安定に形成される圧力及び出力で成膜を行えばよい。
【0090】
下地膜12付きの基板13においては、(Al,Si)混合薄膜41の形成に不都合がなければ、基体の材質、表面形状、機械的強度などは特に限定されるものではない。
【0091】
(c)工程:細孔42形成工程(図4(c))
上記の(Al,Si)混合薄膜41中のAl領域(Alを主成分とする柱状部材32領域)のみを選択的にエッチングを行う。
【0092】
その結果、細孔42を有するSiを主成分とするマトリクス31領域のみが残り、多孔質体43が形成されるが、エッチングを行う度に(Al,Si)混合薄膜41は酸化される場合がある。そのため、(Si,Al)O多孔質体43(0≦X≦2)を形成することにする。
【0093】
なお、(Si,Al)O多孔質体43(0≦X≦2)の細孔42は、中心間距離2Rが30nm以下、平均直径2rが20nm以下である。好ましくは、細孔42の平均直径2rは1nm以上15nm以下である。中心間距離2Rは5nm以上20nm以下である。また、長さは1nm以上100μm以下の範囲である。
【0094】
エッチングに用いる溶液は、例えばAlを溶かしSiはほとんど溶解しない、りん酸、硫酸、塩酸、クロム酸溶液などの酸が挙げられる。エッチングによる細孔42形成に不都合がなければ水酸化ナトリウムやアンモニア水などのアルカリを用いることができ、特に酸の種類やアルカリの種類に限定されるものではない。
【0095】
また、数種類の酸溶液又は数種類のアルカリ溶液を混合したものを用いてもかまわない。
【0096】
また、エッチング条件は、例えば、溶液温度、濃度、時間などは、作製する(Si,Al)O多孔質体41(0≦X≦2)に応じて、適宜設定することができる。
【0097】
(d)工程:(b)工程で作製した(Al,Si)混合薄膜41又は(c)工程で作製した(Si,Al)O多孔質体41(0≦X≦2)の細孔42中に無電解めっきにより金属の柱状構造体11を充填させる工程(図4(d))
無電解めっきにより作製する金属の柱状構造体11の材料としては、Au、Ag、Cu、Ptの貴金属が好ましい。
【0098】
金属の柱状構造体の製造方法として、無電解めっき浴に(c)工程で作製した(Si,Al)O多孔質体(0≦X≦2)43及び下地膜12付きの基板13を浸す。
【0099】
このようにすることで、(Si,Al)O多孔質体43(0≦X≦2)の細孔42中に金属の柱状構造体11を形成させることが可能である。
【0100】
無電解めっきに用いるめっき浴の主成分としては、析出させる金属を含む塩つまり金属塩、ヒドラジン、次亜リン酸ナトリウム、ジメチルアミンボランなどの金属イオンを金属として析出させるために電子を与える還元剤がある。
【0101】
また、めっき浴に金属の沈殿を生じさせないようにするのに必要な添加剤、つまり錯化剤もある。
【0102】
クエン酸ナトリウムや酒石酸ナトリウムなどの錯化剤を添加することにより金属イオンを金属錯体にしてそのままの状態にすることが可能なので、錯化剤も添加するのが好ましい。
【0103】
また、水酸化ナトリウムやアンモニア水などの塩基性化合物などのpH調整剤は、めっき速度、還元効率及びめっき皮膜の状態に大きく及ぼすが、無電解めっき浴のpHを安定させるためにpH調整剤を添加するのが好ましい。
【0104】
無電解めっき浴のpHは、無電解めっきの種類によって違うが、無電解めっき浴のpHは(Si,Al)O多孔質体43(0≦X≦2)が高速で溶けない程度の範囲内であればよい。酸性又はアルカリ性を有する無電解めっき浴を用いてもよい。
【0105】
無電解めっきによる金属の柱状構造体11の作製条件として、以下のものがあげられる。金属塩、還元剤、錯化剤、pH調整剤などのめっき浴における成分の種類の組み合わせ、各々の濃度、めっき浴温度、攪拌速度、pHの調整、基板を無電解めっき浴に浸す時間等である。
【0106】
これらを制御することで所望通りのサイズを有する金属の柱状構造体11を作製することが可能である。
【0107】
また、(b)工程で作製した(Al,Si)混合薄膜41を無電解めっき浴に浸すことにより、酸化されて形成した(Si,Al)O多孔質体41(0≦X≦2)の細孔42中に金属の柱状構造体11を形成する。
【0108】
無電解めっき浴に(Al,Si)混合薄膜41を浸す間に、Siを主成分とするマトリクス31を溶解させずにAlを主成分とする柱状部材32を下地膜12の表面の位置まで溶解させて(Al,Si)混合薄膜41に細孔42をあける。このようにすることで、(Si,Al)O多孔質体43(0≦X≦2)を形成する必要がある。
【0109】
つまり、無電解めっきに用いるめっき浴は、Siを主成分とするマトリクス31が変化しない又は酸化する程度、又は少し溶ける程度、かつAlを主成分とする柱状部材32が溶ける程度のpHの範囲を有することが好ましい。
【0110】
特に、pH3以上pH6以下の酸性又はpH10以上pH12以下のアルカリ性であることが好ましい。
【0111】
Alを主成分とする柱状部材32の溶かし具合を制御することは、以下の各事項を制御することによって可能である。
【0112】
金属塩、還元剤、錯化剤、pH調整剤などのめっき浴における成分の種類の組み合わせ、各々の濃度、めっき浴温度、攪拌速度、pHの調整、混合薄膜41を無電解めっき浴に浸す時間の制御である。
【0113】
攪拌速度や無電解めっき浴に混合薄膜41を浸す時間などを調整することで、Alを主成分とする柱状部材32を全て溶解させることにより細孔42を形成させ、多孔質体43を形成する。
【0114】
続いて、多孔質体43を前記無電解めっき浴に浸した状態のままで、細孔42中に金属の柱状構造体11を形成すればよい。
【0115】
(e)工程:(d)工程で作製したナノ構造体44中の多孔質体43を除去し金属の柱状構造体11を形成する工程(図4(e))
ナノ構造体44中のSiを主成分とするマトリクス31のみを選択的にエッチングする。
【0116】
その結果、Siを主成分とするマトリクス31領域のみが溶解してなくなるが、下地膜12付きの基板13上に金属の柱状構造体11を形成できる。
【0117】
なお、金属の柱状構造体11は、中心間距離2Rが30nm以下、平均直径2rが20nm以下である。好ましくは、金属の柱状構造体11の平均直径2rは1nm以上15nm以下であり、その中心間距離2Rは5nm以上20nm以下である。
【0118】
また、長さは0.5nm以上100μm以下の範囲である。
【0119】
エッチングに用いる溶液は、Siを主成分とするマトリクス31を溶かし金属の柱状構造体11はほとんど溶解しないものがよい。具体的には、りん酸、硫酸、塩酸、クロム酸溶液などの強酸性、又は水酸化ナトリウムやアンモニア水などの強アルカリ性を有するものが好ましい。特に酸の種類やアルカリの種類に限定されるものではない。
【0120】
また、数種類の酸溶液又は数種類のアルカリ溶液を混合したものを用いてもかまわない。
【0121】
また、エッチング条件は、例えば、溶液温度、濃度、時間などは、作製する金属の柱状構造体11に応じて、適宜設定することができる。
【0122】
金属の柱状構造体11が変化しない程度、又は少し溶ける程度、かつSiを主成分とするマトリクス31が溶ける程度のpHの範囲を有することが好ましい。特に、pH3以下の強酸性又はpH12以上の強アルカリ性であることが好ましい。
【0123】
また、(b)〜(e)工程においては、(Al,Ge)混合薄膜、(Al,Si,Ge)混合薄膜も同様にして、上記した(Al,Si)混合薄膜41の場合に用いたSiの代わりにそれぞれGe、SiGeを用いれば適用できる。
【0124】
もう一つの例として、本実施形態のベースであるAlのみからなる薄膜つまりAl薄膜61の陽極酸化及び電解めっきを行う場合の表面増強振動分光分析用治具の製造方法を以下の(a)〜(e)の順に追って説明する(図5、6)。
【0125】
(a)工程:下地膜12の形成工程(図6(a))
電解めっきを行うには、無電解めっきを行う場合と同様に基体上に触媒活性を有する下地膜12を形成しても良いが、触媒活性を有しない金属からなる下地膜12を形成しても良い。
【0126】
特に平坦性を有した連続した膜が好ましい。また、膜厚は所望通りに制御してもよいが、100nm以下が好ましい。特に20nm以下が好ましい。
【0127】
下地膜12の形成方法として、ゾルゲル法、蒸着法、スパッタリング法などが挙げられるが、本実施形態においてはスパッタリング法を採用し、膜厚20nm以下の触媒活性を有する連続した膜を形成する。
【0128】
(b)工程:Al薄膜61の形成工程(図6(b))
Al薄膜61の形成方法としては、ゾルゲル法、蒸着法、スパッタリング法などが挙げられるが、本実施の形態においてはスパッタリング法を採用する。
【0129】
また、所望通りの膜厚を有するAl薄膜61を形成することも可能であり、例えば膜厚100μmのAl薄膜を下地膜12付きの基板13上に形成することが可能であるので、膜厚は限定されるものではない。
【0130】
(c)工程:細孔42形成工程(図6(c))
Al薄膜61の陽極酸化について説明する。まずAl又はAl合金の陽極酸化について説明する。
【0131】
Al又はAl合金の陽極酸化では、細孔42の平均直径2rは20nm〜500nmの範囲で制御することが可能である。細孔42の中心間距離2Rは30nm以上で、さらに細孔42の平均直径2rより若干大きい値より約1μmまで制御することが可能である。
【0132】
Al又はAl合金の陽極酸化にはシュウ酸、リン酸、硫酸、クロム酸などの各種の酸性電解液が利用可能である。微細な間隔の細孔42を作製するためには硫酸浴、比較的大きな間隔の細孔42を作製するためにはリン酸浴、その間の細孔42を作製するためにはシュウ酸浴が好ましい。
【0133】
また、細孔42の平均直径2rは陽極酸化後にリン酸などの溶液中でエッチングする方法により拡大させることが可能である。
【0134】
(d)工程:(c)工程で作製したAl薄膜61の細孔42中に電解めっきにより金属の柱状構造体11を充填させ、ナノ構造体62を形成する工程(図6(d))
電解めっきにより作製する金属の柱状構造体11の材料としては、無電解めっきの場合と同様に、Au、Ag、Cu、Ptの貴金属が好ましい。
【0135】
また、電解めっきを行う方法としては、少なくとも析出させる金属を含む塩つまり金属塩が含有されためっき浴に電極基板つまりAl薄膜61及び下地膜12付きの基板12及び陽極を配置する。
【0136】
この状態で電位又は電流を印加することで、Al薄膜61の細孔42中に金属の柱状構造体11を作製することが可能である。
【0137】
また、電解めっきによる金属の柱状構造体11の作製条件としては、以下にあげるものがある。金属塩が含有されるめっき浴における成分の種類の組み合わせ、各々の濃度、めっき浴温度、攪拌速度、pHの調整、めっき時間、印加電流値、陽極の材料種類などである。これらを制御することで所望通りのサイズを有する金属の柱状構造体11を作製することが可能である。
【0138】
(e)工程:(d)工程で作製したナノ構造体62中のAl多孔質体51を除去し金属の柱状構造体11を形成する工程(図6(e))
上記のナノ構造体62中の柱状構造体11を除いたAl多孔質体51を選択的にエッチングを行う。
【0139】
その結果、柱状構造体11を除いたAl多孔質体51のみが溶解してなくなるが、下地膜12付きの基板13上に金属の柱状構造体11を形成できる。
【0140】
なお、金属の柱状構造体11は、中心間距離2Rが30nm以下、平均直径2rが20nm以下である。好ましくは、金属の柱状構造体11の平均直径2rは20nm以上500nm以下である。中心間距離2Rは30nm以上1μm以下である。また、長さは0.5nm以上100μm以下の範囲である。
【0141】
エッチングに用いる溶液は、Al多孔質体51を溶かし金属の柱状構造体11はほとんど溶解しないりん酸、硫酸、塩酸、クロム酸溶液などの強酸性、水酸化ナトリウムやアンモニア水などの強アルカリ性を有するものが好ましい。酸の種類やアルカリの種類に限定されるものではない。
【0142】
また、数種類の酸溶液又は数種類のアルカリ溶液を混合したものを用いてもかまわない。
【0143】
また、エッチング条件は、例えば、溶液温度、濃度、時間などは、作製する金属の柱状構造体11に応じて、適宜設定することができる。
【0144】
金属の柱状構造体11が変化しない程度、又は少し溶ける程度のpHの範囲を有することが好ましい。
【0145】
また、金属膜14は、レーザ加熱法、スパッタ法、ガス蒸着法又はコロイド法などにより作製できる。例えば、金属の柱状構造体11又は試料を付着させた金属の柱状構造体11を作製した下地膜12付きの基板13上に、真空状態で銀や金などの金属を蒸着し、柱状構造体11の表面上に島状の金属膜14を付着させればよい。
【0146】
また、膜の形状や粒径などは、真空度、蒸着速度、蒸着時間を調整することにより制御するが、膜厚は1nm以上10nm以下であることが好ましい。
【0147】
また、蒸着速度が遅い方が好ましく、0.1nm/s以上0.5nm/s以下であることが好ましい。
【0148】
特に、金属膜14付きの柱状構造体11では、各々の柱状構造体11の間隔距離つまり中心間距離2Rと平均距離2rとの差が0nm以上数nm以下の距離であるように、適切な膜厚を有する金属膜14を形成することが好ましい。
【0149】
<表面増強振動分光分析用治具を用いた振動分光分析方法>
表面増強振動分光分析用治具とは、表面増強ラマン分光分析用治具と表面増強赤外分光分析用治具の二種類であって、以下に詳しく説明する。
【0150】
表面増強振動分光分析用治具を用いたラマン・赤外分光分析方法については、スピンコート法や蒸着法等の金属膜14表面上に単分子層以上の試料を吸着させる方法がある。一例として金属膜14を形成した金属の柱状構造体11を形成した下地膜12付きの基板13を有機溶液中に浸してからラマン・赤外測定を行う方法を説明する。
【0151】
有機溶液における有機物つまり溶質としては、チオール基やアミノ基等の官能基を有する表面増強ラマン活性又は表面増強赤外活性のある有機物が好ましい。溶媒としては純水、エタノールやエチレングリコール等の有機溶媒を用いるのが好ましい。
【0152】
上記した基板13を有機溶液中に浸すことで金属膜14表面上に試料を吸着させる量は、金属膜14の金属元素、溶質、溶媒、濃度、溶媒温度の種類の組み合わせにより異なってくる。有機溶液における濃度は0.001mmol/L以上1mol/L以下であることが好ましく、特に0.001mmol/L以上1mmol/L以下であることが好ましい。
【0153】
また、上記した基板13を有機溶液中に浸すことで金属膜14表面上に試料を吸着させる量は、金属の柱状構造体11のラフネスファクターに左右される。
【0154】
ラマン分光分析の場合は、レーザ光が照射する点の空間領域つまり直径約1μmの球領域以内又は3μm以下の高さを有する柱状構造体である方が好ましい。
【0155】
一方赤外分光分析の場合は、例えば反射法により分光分析を行う際に、赤外線の照射された領域は約10μm×約10μmの大きさ以上であることが好ましく、柱状構造体11の高さはどんな高さでも良い。
【0156】
例えば、銅フタロシアニン(CuPc)水溶液を挙げて、0.1mmol/LのCuPc水溶液(室温25℃)を作製する。
【0157】
この水溶液中にPbの金属膜14を表面に形成した金柱状構造体11付きの基板13を必要な時間だけ浸し、Pbの金属膜14及び金柱状構造体11上にCuPcを吸着させる。
【0158】
その柱状構造体11付きの基板13を水溶液から引き上げてから、数回純水超音波洗浄を行う。
【0159】
次にその柱状構造体11付きの基板13を窒素雰囲気下で乾燥させてから、ラマン・赤外分光分析を行う。
【0160】
また、単分子層以上の厚さで吸着された試料は、強度が小さいラマンレーザでも一ヶ所でレーザ光を照射され続けると損傷をうけてしまうこともあるので、これを避けるためにその試料を常に回転させ続ければよい。
【0161】
また、柱状構造体11又は金属膜14付きの柱状構造体11の表面に付着させた試料の上にさらに金属膜14を付着させる方法については、同様にレーザ加熱法、スパッタ法、ガス蒸着法又はコロイド法などにより作製できる。
【0162】
例えば真空蒸着法を用いて試料を付着させた金属の柱状構造体11を作製した基板13上に真空状態の下で銀や金などの金属を蒸着すればよい。
【0163】
また、膜の形状や粒径などは、真空度、蒸着速度、蒸着時間を調整することにより制御するが、膜厚は1nm以上10nm以下であることが好ましい。
【0164】
また、蒸着速度が遅い方が好ましく、0.1nm/s以上0.5nm/s以下であることが好ましい。
【0165】
以上に説明したとおり、本実施の形態の表面増強振動分光分析用治具は、多数のアスペクト比の高い柱状構造体11が下地膜12付きの基板13上に形成され、その柱状構造体11は貴金属からなっている。
【0166】
その結果、その治具の試料付着部分は、平らかな場合に比べて試料付着面積が極めて広くなってきたことで検出感度が向上してくる。
【0167】
また、強度が小さいレーザ光でも強度が小さい赤外線でも分光分析が感度良くできる。
【0168】
さらに、表面に金属膜14が付着した柱状構造体11を用いることで試料が付着する表面積がさらに増大し、一層効果が高い。
【0169】
また、試料が付着した柱状構造体11又は試料が付着した金属膜14付きの柱状構造体11にさらに金属膜14を付着させることで検出感度がさらに向上してくる。
【0170】
また、柱上構造体の表面に形成する金属膜14の膜厚を制御するつまり各々の柱状構造体11(ナノ金属構造体とナノ金属構造体)の間隔距離を0nm以上数nm以下に配置することで、さらに検出感度が向上してくる。
【0171】
[実施例]
以下、実施例を用いて本発明を更に説明する。
【0172】
[実施例1]
本実施例は、一例として、(Al,Si)混合薄膜41を形成した下地Pb膜12付きのSi基板13のエッチング後、基板13を金無電解めっき浴に浸してからエッチングを行うことにより金柱状構造体11を作製する。
【0173】
さらに銅フタロシアニン水溶液に浸してからラマン分光分析を行った例について説明する。
【0174】
まず、触媒活性を有する下地膜12として、スパッタリング法によりSi基板13上に膜厚20nmのPb薄膜を形成した(図4(a))。
【0175】
さらに、下地Pb膜12付きのSi基板13上にスパッタリング法により膜厚2μmのAl:Siの組成比が3:2であることを有する(Al,Si)混合薄膜41を形成した(図4(b))。
【0176】
FE−SEM(電界放出走査型電子顕微鏡)で基板13の表面を観察した結果、平均直径が約5nm、中心間距離が約10nmであるAlを主成分とする柱状部材32がマトリクス31表面中に多数できていた(図3(a))。マトリクス31はSiを主成分とする。
【0177】
また、断面の観察した結果、Alを主成分とする柱状部材32は下地膜12付きのSi基板13に対して垂直方向に形成されていた(図3(b))。以後、これを基体とする。
【0178】
また、基体を25℃に設定したリン酸5wt%中に6時間浸すことでエッチングを行った。
【0179】
このFE−SEMで断面観察した結果、Alを主成分とする柱状部材32は全て溶解されて平均直径が約5nm、中心間距離が約10nmである細孔42が形成されていた(図4(c))。
【0180】
次に金無電解めっき浴の作製方法として、40mLのダインゴールドAC-5R(大和化成(株))、20mLのダインゴールドM-20(大和化成(株))、140mLのイオン交換水を混合させて金無電解めっき浴を作製した。
【0181】
さらに、金無電解めっき浴を加熱して75℃に設定した。
【0182】
また、めっき浴のpHは7となっていた。
【0183】
この状態で多孔質体43付きの基体をめっき浴に3時間20分間浸した。
【0184】
この試料をFE−SEMで観察した結果、多孔質体43中のAlを主成分とする柱状部材32が溶解されてできた細孔42中に金柱状構造体11が形成されていた(図4(d))。
【0185】
金柱状構造体11の平均直径は約5nmで、高さは約2μmとなっていた。また、中心間距離は約10nmであった。
【0186】
さらに、金柱状構造体11を形成した多孔質体43つまりナノ構造体44付きの基体を1MのNaOH水溶液を用いて長時間のエッチングを行った。
【0187】
この試料をFE−SEMで観察した結果、Siを主成分とするマトリクス31(多孔質体43)が完全に除去されて、金柱状構造体11が残されており、平均直径は約5nmで、高さは約2μmとなっていた。
【0188】
上記したように、AlとSiとの組成比、膜厚を制御して形成した(Al,Si)混合薄膜41のAlを主成分とする柱状部材32をエッチングする。
【0189】
続いて、無電解めっき浴に浸してからSiを主成分とするマトリクス31をエッチングすることで、下地膜12付きの基板13上に前記柱状構造体11を形成することが可能である。
【0190】
また、エッチング液の種類の選択、エッチング時間、エッチング液の温度、攪拌速度、エッチング液のpHを制御する。このようにすることで、所望通りAlを主成分とする柱状部材32及びSiを主成分とするマトリクス31の溶かし具合を制御することが可能である。
【0191】
さらに、金柱状構造体11付きの基板13を0.1mmolの銅フタロシアニン(CuPc)水溶液中に1分間浸し、続いて純水の超音波洗浄も行った。
【0192】
また、FE−SEMを用いて形態観察したが、金柱状構造体11の表面上にはCuPcがみられなかった。一方、この試料をラマン測定を行った結果、SERSであるラマン散乱光を観測できた。
【0193】
比較例として、柱状構造体11無しのPd下地膜12付きのSi基板13を用意する。
【0194】
この基板13上に銀の蒸着を行うことで膜厚約20nmの島状の銀膜21を形成した。
【0195】
さらに、この基板13も0.1mmolのCuPc水溶液に1分間浸し、純水の超音波洗浄を行った。
【0196】
続いて、この試料もラマン測定を行った。
【0197】
この結果、SERSであるラマン散乱光を観測できたが、本実施例に比べてこの試料のラマン散乱光強度は約1/10に減少された。
【0198】
また、銀の蒸着条件については、真空度は1.8×10-4Pa以下、電流値は5A、蒸着時間は100秒間であった。
【0199】
また、もう一つの比較例として、基板上に金ナノロッド薄膜が固定化された試料用薄膜チップを用意する(特開2005-233637号公報)。
【0200】
あらかじめ内径32mmのサンプル管の底にガラス基板を置き、電解法によって作製した金ナノロッド(以下AuNRと記すことがある)分散液を20mL入れた。
【0201】
その後、ヘキサンを10mL静かに加えた。
【0202】
5〜10mLのアセトニトリルを勢いよく注入すると、数十秒後にはコロイド水溶液−ヘキサン界面にAuNR粒子膜が生成した。
【0203】
サンプル管の底のガラス基板をその平面が界面とほぼ平行になるように引き上げ、AuNR薄膜をガラス基板上に移し取った。
【0204】
その後、自然乾燥することにより、金ナノロッド薄膜が基板に固定化された薄膜チップを得た。
【0205】
この試料をFE−SEMで観察した結果、金ナノロッドの短軸は約20nm、長軸は約100nmとなっていた。
【0206】
AuNR薄膜付きの薄膜チップを0.1mmolの銅フタロシアニン(CuPc)水溶液中に1分間浸し、続いて純水の超音波洗浄を行った。
【0207】
そして、ラマン散乱分光測定も行った。
【0208】
この結果、SERSであるラマン散乱光を観測できたが、本実施例に比べてこの試料のラマン散乱光強度は約1/6に減少された。
【0209】
この結果より、配列による高密度を有する金柱状構造体11のラフネスファクターを利用して表面増強ラマン散乱光強度を感度良く測定できた。
【0210】
また、Al、Si、Geとの組成比、膜厚を制御して形成した(Al,Si,Ge)混合薄膜41の膜厚に合わせて、無電解めっき浴に浸す時間、めっき浴のpH、めっき浴温度、攪拌速度を制御する。このようにすることで、所望通りのサイズを有する柱状構造体11を形成することが可能である。
【0211】
これは、(Al,Ge)混合薄膜及び(Al,Si,Ge)混合薄膜の場合と同様である。
【0212】
また、めっき浴、めっき時間、めっき浴温度などの柱状構造体11のめっき条件を制御することで、柱状構造体11の表面積を制御し、表面増強ラマン散乱光強度を所望通りに制御することが可能である。
【0213】
また、上記したCuPc以外の測定する試料としては、チオール基、アミノ基などの官能基を有する表面増強ラマン活性又は表面増強赤外活性のある有機物を測定することも可能である。
【0214】
また、赤外分光分析においても同様に、顕微鏡反射法などにより表面増強赤外を測定することが可能である。
【0215】
[実施例2]
本実施例は、一例として、(Al,Si)混合薄膜41を形成した下地Pd膜12付きのSi基板13のエッチング後、下地膜12付きの基板13を金無電解めっき浴に浸してからエッチングすることにより金柱状構造体11を作製する。
【0216】
さらに金柱状構造体11の表面上に銀膜14を形成し、続いて銅フタロシアニン水溶液に浸してからラマン分光分析を行った例について説明する(図4)。
【0217】
まず、触媒活性を有する下地膜12として、スパッタリング法によりSi基板13上に膜厚20nmのPd薄膜を形成した(図4(a))。
【0218】
さらに、下地Pd膜12付きのSi基板13上にスパッタリング法により膜厚2μmのAl:Siの組成比が3:2であることを有する(Al,Si)混合薄膜41を形成した(図4(b))。
【0219】
FE−SEM(電界放出走査型電子顕微鏡)で基板13の表面を観察した結果、平均直径が約5nm、中心間距離が約10nmであるAlを主成分とする柱状部材32がマトリクス31表面中に多数できていた(図3(a))。マトリクス31はSiを主成分とする。
【0220】
また、断面の観察した結果、Alを主成分とする柱状部材32は下地膜12付きのSi基板13に対して垂直方向に形成されていた(図3(b))。以後これを基体とする。
【0221】
また、基体を25℃に設定したリン酸5wt%中に6時間浸すことでエッチングを行った。
【0222】
このFE−SEMで断面観察した結果、Alを主成分とする柱状部材32は全て溶解されて平均直径が約5nm、中心間距離が約10nmである細孔42が形成されていた(図4(c))。
【0223】
次に金無電解めっき浴の作製方法として、40mLのダインゴールドAC-5R(大和化成(株))、20mLのダインゴールドM−20(大和化成(株))、140mLのイオン交換水を混合させて金無電解めっき浴を作製した。
【0224】
さらに、金無電解めっき浴を加熱して75℃に設定した。
【0225】
また、めっき浴のpHは7となっていた。
【0226】
この状態で多孔質体43付きの基体を金無電解めっき浴に3時間20分間浸した。
【0227】
この試料をFE−SEMで観察した結果、多孔質体43中のAlを主成分とする柱状部材32が溶解されてできた細孔42中に金柱状構造体11が形成されていた(図4(d))。
【0228】
金柱状構造体11の平均直径は約5nmで、高さは約2μmとなっていた。また、中心間距離は約10nmであった。
【0229】
さらに、金柱状構造体11を形成したナノ構造体44付きの基体を1MのNaOH水溶液を用いて長時間のエッチングを行った。
【0230】
続いて、銀ワイヤー(0.5mmΦ)を蒸着原料に、タングステンワイヤー(0.5mmΦ)を抵抗加熱用材料に用いて、金柱状構造体11付きの基板13上に銀の真空抵抗加熱蒸着を行った。
【0231】
この時、真空度は1.8×10-4Pa以下、電流値は5A、蒸着時間は10秒間であった。
【0232】
FE−SEMを用いてその試料を形態観察した。
【0233】
その結果、金柱状構造体11の表面上に膜厚約2nmの島状の銀膜21が付着され、Siを主成分とするマトリクス31が完全に除去されて、金柱状構造体11の平均直径は約5nmで、高さは約2μmとなっていた。
【0234】
上記したように、AlとSiとの組成比、膜厚を制御して形成した(Al,Si)混合薄膜41のAlを主成分とする柱状部材32をエッチングする。
【0235】
続いて、無電解めっき浴に浸してからSiを主成分とするマトリクス31を除去することで、下地膜12付きの基板13上に柱状構造体11を形成することが可能である。
【0236】
また、エッチング液の種類の選択、エッチング時間、エッチング液の温度、攪拌速度、エッチング液のpHを制御する。このようにすることで、所望通りAlを主成分とする柱状部材32及びSiを主成分とするマトリクス31の溶かし具合を制御することが可能である。
【0237】
さらに、この柱状構造体11付きの基板13を0.1mmolの銅フタロシアニン(CuPc)水溶液中に1分間浸し、続いて純水の超音波洗浄も行った。
【0238】
また、FE−SEMを用いて形態観察したが、先述した島状の銀膜21付きの金柱状構造体11の表面上にはCuPcがみられなかった。一方、この試料をラマン測定を行った結果、SERSであるラマン散乱光を観測できた。
【0239】
比較例として、柱状構造体11無しのPd下地膜12付きのSi基板13を用意する。
【0240】
この基板13上に銀の蒸着を行うことで膜厚約20nmの島状の銀膜21を形成した。
【0241】
さらに、この基板13も0.1mmolのCuPc水溶液に1分間浸し、純水の超音波洗浄を行った。続いて、この試料もラマン測定を行った。
【0242】
この結果、SERSであるラマン散乱光を観測できたが、本実施例に比べてこの試料のラマン散乱光強度は約1/12に減少された。
【0243】
また、銀の蒸着条件については、真空度は1.8×10−4Pa以下、電流値は5A、蒸着時間は100秒間であった。
【0244】
また、もう一つの比較例として、基板上に金ナノロッド薄膜が固定化された試料用薄膜チップを用意する(特開2005-233637)。
【0245】
あらかじめ内径32mmのサンプル管の底にガラス基板を置き、電解法によって作製した金ナノロッド(以下AuNRと記すことがある)分散液を20mL入れた。
【0246】
その後、ヘキサンを10mL静かに加えた。5〜10mLのアセトニトリルを勢いよく注入すると、数十秒後にはコロイド水溶液−ヘキサン界面にAuNR粒子膜が生成した。
【0247】
サンプル管の底のガラス基板をその平面が界面とほぼ平行になるように引き上げ、AuNR薄膜をガラス基板上に移し取った。
【0248】
その後、自然乾燥することにより、金ナノロッド薄膜が基板に固定化された薄膜チップを得た。
【0249】
この試料をFE−SEMで観察した結果、金ナノロッドの短軸は約20nm、長軸は約100nmとなっていた。
【0250】
前記AuNR薄膜付きの薄膜チップを0.1mmolの銅フタロシアニン(CuPc)水溶液中に1分間浸し、続いて純水の超音波洗浄を行った。
【0251】
そして、ラマン散乱分光測定も行った。この結果、SERSであるラマン散乱光を観測できたが、本実施例に比べてこの試料のラマン散乱光強度は約1/7に減少された。
【0252】
この結果より、高密度を有する配列した金柱状構造体11のラフネスファクター、金柱状構造体11の表面の粗さを利用して表面増強ラマン散乱光強度を感度良く測定できた。
【0253】
また、Al、Si、Geとの組成比、膜厚を制御して形成した(Al,Si,Ge)混合薄膜41の膜厚に合わせて、無電解めっき浴に浸す時間、めっき浴のpH、めっき浴温度、攪拌速度を制御する。このようにすることで、所望通りのサイズを有する柱状構造体33を形成することが可能である。これは、(Al,Ge)混合薄膜及び(Al,Si,Ge)混合薄膜の場合と同様である。
【0254】
また、めっき浴、めっき時間、めっき電圧、めっき浴温度などの柱状構造体のめっき条件を制御することで、柱状構造体11の表面積を制御し、表面増強ラマン散乱光強度を所望通りに制御することが可能である。
【0255】
また、銀以外の金属膜14として、金、パラジウム、銅、プラチウムなどの金属を用いることも可能である。
【0256】
また、先述したCuPc以外の測定する試料としては、チオール基、アミノ基などの官能基を有する表面増強ラマン活性又は表面増強赤外活性のある有機物を測定することも可能である。
【0257】
また、赤外分光分析においても同様に、顕微鏡反射法などにより表面増強赤外を測定することが可能である。
【0258】
[実施例3]
本実施例は、(Al,Si)混合薄膜41を形成した下地Pb膜12付きのSi基板13のエッチング後、下地膜12付きの基板13を金無電解めっき浴に浸してからエッチングを行うことにより金柱状構造体11を作製する。
【0259】
さらに金柱状構造体11の表面上に形成する銀膜14の膜厚を制御し、続いて銅フタロシアニン水溶液に浸してからラマン分光分析を行った例について説明する(図4)。
【0260】
まず、触媒活性を有する下地膜12として、スパッタリング法によりSi基板13上に膜厚20nmのPb薄膜を形成した(図4(a))。
【0261】
さらに、下地Pb膜12付きのSi基板13上にスパッタリング法により膜厚2μmのAl:Siの組成比が3:2であることを有する(Al,Si)混合薄膜41を形成した(図4(b))。
【0262】
基板13の表面を観察した結果、平均直径が約5nm、中心間距離が約10nmであるAlを主成分とする柱状部材32がSiを主成分とするマトリクス31表面中に多数できていた(図3(a))。
【0263】
また、断面の観察した結果、Alを主成分とする柱状部材32は下地膜12付きのSi基板13に対して垂直方向に形成されていた(図3(b))。以後これを基体とする。
【0264】
また、前記基体を25℃に設定したリン酸5wt%中に6時間浸すことでエッチングを行った。
【0265】
このFE−SEMで断面観察した結果、Alを主成分とする柱状部材32は全て溶解されて平均直径が約5nm、中心間距離が約10nmである細孔42が形成されていた(図4(c))。
【0266】
次に金無電解めっき浴の作製方法として、40mLのダインゴールドAC-5R(大和化成(株))、20mLのダインゴールドM-20(大和化成(株))、140mLのイオン交換水を混合させて金無電解めっき浴を作製した。
【0267】
さらに、前記金無電解めっき浴を加熱して75℃に設定した。また、めっき浴のpHは7となっていた。
【0268】
この状態で前記多孔質体43付きの基体を前記金無電解めっき浴に3時間20分間浸した。
【0269】
この試料をFE−SEMで観察した結果、多孔質体43中のAlを主成分とする柱状部材32が溶解されてできた細孔42中に金柱状構造体11が形成されていた(図4(d))。
【0270】
金柱状構造体11の平均直径は約5nmで、高さは約2μmとなっていた。また、中心間距離は約10nmであった。
【0271】
さらに、金柱状構造体11を形成したナノ構造体44付きの基体を1MのNaOH水溶液を用いて長時間のエッチングを行った。
【0272】
続いて、銀ワイヤー(0.5mmΦ)を蒸着原料に、タングステンワイヤー(0.5mmΦ)を抵抗加熱用材料に用いて、金柱状構造体11付きの基板13上に銀の真空抵抗加熱蒸着を行った。
【0273】
この時、真空度は1.8×10-4Pa以下、電流値は5A、蒸着時間は5秒間であった。
【0274】
FE−SEMを用いてその試料を形態観察した結果、金柱状構造体11の表面上に膜厚約1nmの島状の銀膜21が付着されており、Siを主成分とするマトリクス31が完全に除去されていた。金柱状構造体11の平均直径は約5nmで、高さは約2μmとなっていた。
【0275】
上記したように、AlとSiとの組成比、膜厚を制御して形成した(Al,Si)混合薄膜41のAlを主成分とする柱状部材32をエッチングする。
【0276】
続いて、無電解めっき浴に浸してからSiを主成分とするマトリクス31を除去することで、下地膜12付きの基板13上に柱状構造体11を形成することが可能である。
【0277】
また、エッチング液の種類の選択、エッチング時間、エッチング液の温度、攪拌速度、エッチング液のpHを制御することで、Alを主成分とする柱状部材32とSiを主成分とするマトリクス31の溶かし具合を制御できる。
【0278】
さらに、この前記柱状構造体11付きの基板12を0.1mmolの銅フタロシアニン(CuPc)水溶液中に1分間浸し、続いて純水の超音波洗浄も行った。
【0279】
また、FE−SEMを用いて形態観察したが、島状の銀膜21付きの金柱状構造体11の表面上にはCuPcがみられなかった。
【0280】
一方、この試料をラマン測定を行った結果、SERSSであるラマン散乱光を観測できた。
【0281】
比較例として、実施例2で作製した銀膜14付きの柱状構造体11を用いた表面増強振動分光分析用治具とを比較してみると、本実施例に比べて実施例2におけるラマン散乱強度は1.5倍と増大していた。
【0282】
この結果より、金柱状構造体11の表面上に形成する銀膜14の膜厚を制御する、つまり各々の金属膜付きの柱状構造体11の間隔距離(中心間距離2Rと平均距離2rとの差)を制御することで、表面増強ラマン散乱強度を制御できた。
【0283】
よって、各々の柱状構造体11の間隔距離が0nm以上数nm以下の距離であるように、形成する金属膜の膜厚を制御することで所望通りの表面増強振動強度を得ることが可能である。
【0284】
また、高密度を有する配列した金柱状構造体11のラフネスファクターを利用して表面増強ラマン散乱光強度を感度良く測定できた。
【0285】
また、銀以外の金属膜14として、金、パラジウム、銅、プラチウムなどの金属を用いることも可能である。
【0286】
また、CuPc以外の測定する試料としては、チオール基、アミノ基などの官能基を有する表面増強ラマン活性又は表面増強赤外活性のある有機物を測定することも可能である。
【0287】
また、赤外分光分析においても同様に、顕微鏡反射法などにより表面増強赤外を測定することが可能である。
【0288】
[実施例4]
本実施例は、一例として、Al薄膜61を形成した下地Pt膜12付きのSi基板13の陽極酸化を行う。
【0289】
さらに前記基板13を銀電解めっきにより銀柱状構造体11を作製してからできたナノ構造体62をエッチングする。
【0290】
この後、銀柱状構造体11の表面上に金属膜14を形成し、続いて銅フタロシアニン水溶液に浸してからラマン分光分析を行った例について説明する(図5、6)。
【0291】
まず、触媒活性を有する下地膜12として、スパッタリング法によりSi基板13上に膜厚20nmのPt薄膜を形成した(図6(a))。
【0292】
さらに、下地Pt膜12付きのSi基板13上にスパッタリング法により膜厚5μmのAl薄膜61を形成した(図6(b))。以後これを基体とする。
【0293】
次に陽極酸化法として、例えば0.3mol/Lのシュウ酸水溶液を用意し、その溶液温度を16℃に設定した。
【0294】
Al薄膜61付きの基板13を0.3mol/Lシュウ酸水溶液に浸し、この状態でその基体を陽極として、40Vの電圧を印加して陽極酸化を行った。
【0295】
陽極酸化後、FE−SEMでこの試料を観察した結果、図5(図6(c))に示すようにAl薄膜61中に平均直径30nm、中心間距離50nmの細孔42が形成されており、Al多孔質体51となっていた。
【0296】
また、その試料の断面もFE−SEM観察した結果、その細孔42は下地膜12付きのSi基板13までに達していた。
【0297】
銀電解めっきによる銀柱状構造体11の作製方法として、まずPt基板を陽極として用いる。
【0298】
加熱して55℃に設定したシルブレックス50(日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース(株)))にPt基板及びAl多孔質体51付きの基板13を設置して、これらの電極の間に1A/dmの電流を電源より2時間47分印加した。
【0299】
この試料をFE−SEMで観察した結果、Al多孔質体51中の細孔42中に銀柱状構造体11が形成されていた(図6(d))。
【0300】
銀柱状構造体11の平均直径は約30nmで、高さは約5μmとなっていた。また、中心間距離は約50nmであった。
【0301】
さらに、銀柱状構造体11を形成したナノ構造体62付きの基板13を25℃に設定したリン酸5wtを用いて10時間のエッチングを行った。
【0302】
続いて、銀ワイヤー(0.5mmΦ)を蒸着原料に、タングステンワイヤー(0.5mmΦ)を抵抗加熱用材料に用いて、銀柱状構造体11付きの基板13上に銀の真空抵抗加熱蒸着を行った。
【0303】
この時、真空度は1.8×10-4Pa以下、電流値は5A、蒸着時間は20秒間であった。
【0304】
FE−SEMを用いてその試料を形態観察した結果、銀柱状構造体11の表面上に膜厚約5nmの島状の銀膜21が付着しており、Al多孔質体51が完全に除去されていた。銀膜14付きの銀柱状構造体11の平均直径は約30nmで、高さは約5μmとなっていた。
【0305】
さらに、この銀膜14付きの銀柱状構造体11付きの基板13を0.1mmolの銅フタロシアニン(CuPc)水溶液中に1分間浸し、続いて純水の超音波洗浄も行った。
【0306】
また、FE−SEMを用いて形態観察したが、銀膜14付きの銀柱状構造体11の表面上にはCuPcがみられなかった。一方、この試料のラマン測定を行った結果、SERSであるラマン散乱光を観測できた。
【0307】
比較例として、柱状構造体11無しのPt下地膜12付きのSi基板13を用意する。
【0308】
この基板13上に銀の蒸着を行うことで膜厚約20nmの島状の銀膜21を形成した。さらに、この基板13も0.1mmolのCuPc水溶液に1分間浸し、純水の超音波洗浄を行った。続いて、この試料もラマン測定を行った。
【0309】
この結果、SERSであるラマン散乱光を観測できたが、本実施例に比べてこの試料のラマン散乱光強度は約1/140に減少された。
【0310】
また、銀の蒸着条件については、真空度は1.8×10-4Pa以下、電流値は5A、蒸着時間は100秒間であった。
【0311】
また、もう一つの比較例として、基板上に金ナノロッド薄膜が固定化された試料用薄膜チップを用意する(特開2005-233637)。
【0312】
あらかじめ内径32mmのサンプル管の底にガラス基板を置き、電解法によって作製した金ナノロッド(以下AuNRと記すことがある)分散液を20mL入れた。その後、ヘキサンを10mL静かに加えた。
【0313】
5〜10mLのアセトニトリルを勢いよく注入すると、数十秒後にはコロイド水溶液−ヘキサン界面にAuNR粒子膜が生成した。
【0314】
サンプル管の底のガラス基板をその平面が界面とほぼ平行になるように引き上げ、AuNR薄膜をガラス基板上に移し取った。
【0315】
その後、自然乾燥することにより、金ナノロッド薄膜が基板に固定化された薄膜チップを得た。
【0316】
この試料をFE−SEMで観察した結果、金ナノロッドの短軸は約20nm、長軸は約100nmとなっていた。
【0317】
AuNR薄膜付きの薄膜チップを0.1mmolの銅フタロシアニン(CuPcc)水溶液中に1分間浸し、続いて純水の超音波洗浄を行った。
【0318】
そして、ラマン散乱分光測定も行った。この結果、SERSであるラマン散乱光を観測できたが、本実施例に比べてこの試料のラマン散乱光強度は約1/120に減少された。
【0319】
この結果より、高密度を有する配列した銀柱状構造体11のラフネスファクター、金属柱状構造体11の表面の粗さ、実施例3に比べてさらに高いアスペクト比を利用して表面増強ラマン散乱光強度を感度良く測定できた。
【0320】
また、本実施例における表面増強ラマン分光分析用治具においては、めっき浴、電解めっき時間、めっき電流、めっき浴温度などの柱状構造体の電解めっき条件を制御する。このようにすることで、柱状構造体11の表面積を制御し、表面増強ラマン散乱光強度を所望通りに制御することが可能である。
【0321】
また、銀以外の金属膜13として、金、パラジウム、銅、プラチウムなどの金属を用いることも可能である。
【0322】
また、CuPc以外の測定する試料としては、チオール基、アミノ基などの官能基を有する表面増強ラマン活性又は表面増強赤外活性のある有機物を測定することも可能である。
【0323】
また、赤外分光分析においても同様に、顕微鏡反射法などにより表面増強赤外を測定することが可能である。
【0324】
[実施例5]
本実施例は、一例として、Al薄膜61を形成した下地Pt膜12付きのSi基板13の陽極酸化を行う。
【0325】
さらにAl多孔質体51付きの基板13を銀電解めっきにより銀柱状構造体11を作製してからAl多孔質体51をエッチングする。
【0326】
続いて、銀柱状構造体11の表面上に銀膜14を形成する。この後、銅フタロシアニン水溶液に浸し、再びその上に銀膜14を形成してからラマン分光分析を行った例について説明する(図5、6)。
【0327】
まず、触媒活性を有する下地膜12として、スパッタリング法によりSi基板13上に膜厚20nmのPt薄膜を形成した(図6(a))。
【0328】
さらに、下地Pt膜12付きのSi基板13上にスパッタリング法により膜厚5μmのAl薄膜61を形成した(図6(b))。以後これを基体とする。
【0329】
次に陽極酸化法として、例えば0.3mol/Lのシュウ酸水溶液を用意し、その溶液温度を16℃に設定した。
【0330】
Al薄膜61付きの基板13を0.3mol/Lシュウ酸水溶液に浸し、この状態でそのAl薄膜61付きの基板13を陽極として、40Vの電圧を印加して陽極酸化を行った。
【0331】
陽極酸化後、FE−SEMでこの試料を観察した結果、図5(図6(c))に示すようにAl薄膜61中に平均直径30nm、中心間距離50nmの細孔42が形成されていた。
【0332】
また、その試料の断面もFE−SEM観察した結果、その細孔42は下地膜12付きのSi基板13までに達していた。
【0333】
銀電解めっきによる銀柱状構造体11の作製方法として、まずPt基板を陽極として用いる。
【0334】
加熱して55℃に設定したシルブレックス50(日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース(株)))にPt基板及びAl多孔質体51付きの基板13を設置して、これらの電極の間に1A/dmの電流を2時間47分印加した。
【0335】
この試料をFE−SEMで観察した結果、Al多孔質体51中の細孔42中に銀柱状構造体11が形成されていた(図6(d))。
【0336】
銀柱状構造体11の平均直径は約30nmで、高さは約5μmとなっていた。また、中心間距離は約50nmであった。
【0337】
さらに、銀柱状構造体11を形成したナノ構造体62付きの基板13を25℃に設定したリン酸5wtを用いて10時間のエッチングを行った。
【0338】
続いて、銀ワイヤー(0.5mmΦ)を蒸着原料に、タングステンワイヤー(0.5mmΦ)を抵抗加熱用材料に用いて、銀柱状構造体11付きの基板13上に銀の真空抵抗加熱蒸着を行った。
【0339】
この時、真空度は1.8×10-4Pa以下、電流値は5A、蒸着時間は20秒間であった。
【0340】
FE−SEMを用いてその試料を形態観察した結果、銀柱状構造体11の表面上に膜厚約5nmの島状の銀膜21が付着されており、Al多孔質体51が完全に除去されていた。銀膜14付きの銀柱状構造体11の平均直径は約30nmで、高さは約5μmとなっていた。
【0341】
さらに、この銀膜14付きの銀柱状構造体11付きの基板13を0.1mmolの銅フタロシアニン(CuPc)水溶液中に1分間浸し、続いて純水の超音波洗浄も行った。
【0342】
さらに、再び銀の真空抵抗加熱蒸着を行った。この時、真空度は1.8×10-4Pa以下、電流値は5A、蒸着時間は20秒間であった。
【0343】
FE−SEMを用いてその試料を形態観察した結果、銀柱状構造体11の表面上に膜厚約10nmの島状の銀膜21が付着されていたが、CuPcがみられなかった。
【0344】
一方、この試料のラマン測定を行った結果、SERSであるラマン散乱光を観測できた。
【0345】
比較例として、柱状構造体11無しのPt下地膜12付きのSi基板13を用意する。
【0346】
この基板13上に銀の蒸着を行うことで膜厚約20nmの島状の銀膜21を形成した。
【0347】
さらに、この基板12も0.1mmolのCuPc水溶液に1分間浸し、純水の超音波洗浄を行った。続いて、この試料もラマン測定を行った。
【0348】
この結果、SERSであるラマン散乱光を観測できたが、本実施例に比べてこの試料のラマン散乱光強度は約1/130に減少された。
【0349】
また、銀の蒸着条件については、真空度は1.8×10-4Pa以下、電流値は5A、蒸着時間は100秒間であった。
【0350】
また、もう一つの比較例として、基板上に金ナノロッド薄膜が固定化された試料用薄膜チップを用意する(特開2005-233637)。
【0351】
あらかじめ内径32mmのサンプル管の底にガラス基板を置き、電解法によって作製した金ナノロッド(以下AuNRと記すことがある)分散液を20mL入れた。
【0352】
その後、ヘキサンを10mL静かに加えた。5〜10mLのアセトニトリルを勢いよく注入すると、数十秒後にはコロイド水溶液−ヘキサン界面にAuNR粒子膜が生成した。
【0353】
サンプル管の底のガラス基板をその平面が界面とほぼ平行になるように引き上げ、AuNR薄膜をガラス基板上に移し取った。
【0354】
その後、自然乾燥することにより、金ナノロッド薄膜が基板に固定化された薄膜チップを得た。
【0355】
この試料をFE−SEMで観察した結果、金ナノロッドの短軸は約20nm、長軸は約100nmとなっていた。
【0356】
AuNR薄膜付きの薄膜チップを0.1mmolの銅フタロシアニン(CuPc)水溶液中に1分間浸し、続いて純水の超音波洗浄を行った。
【0357】
そして、ラマン散乱分光測定も行った。この結果、SERSであるラマン散乱光を観測できたが、本実施例に比べてこの試料のラマン散乱光強度は約1/110に減少された。
【0358】
この結果より、高密度を有する配列した銀の柱状構造体11のラフネスファクター、金属柱状構造体11の表面の粗さ、実施例3に比べてさらに高いアスペクト比、試料を挟んだ二層の金属膜14を利用して表面増強ラマン散乱光強度を感度良く測定できた。
【0359】
また、めっき浴、電解めっき時間、めっき電流、めっき浴温度などの柱状構造体の電解めっき条件を制御することで、柱状構造体11の表面積を制御し、表面増強ラマン散乱光強度を所望通りに制御することが可能である。
【0360】
また、銀以外の金属膜14として、金、パラジウム、銅、プラチウムなどの金属を用いることも可能である。
【0361】
また、CuPc以外の測定する試料としては、チオール基、アミノ基などの官能基を有する表面増強ラマン活性又は表面増強赤外活性のある有機物を測定することも可能である。
【0362】
また、赤外分光分析においても同様に、顕微鏡反射法などにより表面増強赤外を測定することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0363】
本発明は、レーザ光が照射された試料から散乱するラマン散乱光や赤外光を測定する表面増強振動分光分析用治具に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0364】
【図1】本発明の一実施形態としての表面増強振動分光分析用治具を示す概略図である。
【図2】本発明の一実施形態における金属膜の概略図である。
【図3】本発明の実施形態における(Al、Si、Ge)混合薄膜の概略図である。
【図4】本発明の一実施形態としての表面増強振動分光分析用治具の製造方法を示す断面図である。
【図5】本発明の実施形態における多孔質体の概略図である。
【図6】本発明の実施形態における柱状構造体の製造方法の一実施形態を示す工程図である。
【図7】本発明の実施形態における(Al、Si、Ge)混合薄膜の形成工程を示す概略図である。
【符号の説明】
【0365】
11 柱状構造体
12 下地膜
13 基板
14 金属膜
21 島状の金属膜
22 微粒子状の金属膜
23 膜状の金属膜
31 マトリクス部分
32 柱状部材
33 ベース
41 混合薄膜
42 細孔
43 多孔質体
44 ナノ構造体
51 Al多孔質体
61 Al薄膜
62 ナノ構造体
71 基板
72 Arプラズマ
73 Si又はGeチップ
74 Alターゲット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動分光分析を行うための表面増強振動分光分析用治具において、
柱状構造体が配列された下地膜付きの基体を備え、
前記柱状構造体の表面には金属膜が付着していることを特徴とする表面増強振動分光分析用治具。
【請求項2】
前記柱状構造体は、金属であることを特徴とする請求項1記載の表面増強振動分光分析用治具。
【請求項3】
前記柱状構造体の材料が、Au、Ag、Cu及びPtのいずれかであることを特徴とする請求項1又は2記載の表面増強振動分光分析用治具。
【請求項4】
前記下地膜が触媒活性を有する金属であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の表面増強振動分光分析用治具。
【請求項5】
前記柱状構造体の平均直径が1nm以上25nm以下であり、中心間距離が5nm以上30nm以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の表面増強振動分光分析用治具。
【請求項6】
前記柱状構造体の高さが、1nm以上3μm以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の表面増強振動分光分析用治具。
【請求項7】
前記柱状構造体の平均直径が20nm以上500nm以下であり、中心間距離が30nm以上1μm以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の表面増強振動分光分析用治具。
【請求項8】
前記柱状構造体のアスペクト比が2以上であることを特徴とする請求項1から4及び7のいずれか1項記載の表面増強振動分光分析用治具。
【請求項9】
前記金属膜は、貴金属からなる島状、微粒子状又は膜状のいずれかの薄膜であることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項記載の表面増強振動分光分析用治具。
【請求項10】
前記金属膜は、Au、Ag、Cu及びPtのいずれかであることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項記載の表面増強振動分光分析用治具。
【請求項11】
前記金属膜は、膜厚が1nm以上10nm以下であることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項記載の表面増強振動分光分析用治具。
【請求項12】
前記金属膜のうちの微粒子状の薄膜の粒径が1nm以上10nm以下であることを特徴とする請求項1から11のいずれか1項記載の表面増強振動分光分析用治具。
【請求項13】
振動分光分析を行うための表面増強振動分光分析用治具の製造方法において、
ベースが形成された下地膜付きの基体の前記ベースに細孔を形成する工程と、
前記細孔に構造体を形成する工程と、
前記ベースを除去する工程と、を含むことを特徴とする表面増強振動分光分析用治具の製造方法。
【請求項14】
前記構造体を形成する工程の際に、電解めっき法又は無電解めっき法を用いて、前記構造体を形成することを特徴とする請求項13記載の表面増強振動分光分析用治具の製造方法。
【請求項15】
前記ベースは、Alを主成分とする柱状部材と、該柱状部材の側面を囲むSi、Ge及びSiGeの少なくともいずれか一つを主成分とするマトリクス部分とからなるAl(Si、Ge)混合薄膜であることを特徴とする請求項13又は14記載の表面増強振動分光分析用治具の製造方法。
【請求項16】
前記ベースは、Al薄膜であることを特徴とする請求項13又は14記載の表面増強振動分光分析用治具の製造方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−128786(P2008−128786A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−313171(P2006−313171)
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】