説明

表面改質方法及び装置、重層塗布方法及び装置、並びに塗布物

【課題】表面に凹凸形状を得ることができる表面改質方法及び装置、重層塗布方法及び装置、並びに塗布物を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂を第1溶媒に溶解した高分子溶液を支持体16に塗布する塗布部18と、乾燥点まで乾燥した塗膜に第1溶媒よりも分子体積の小さい第2溶媒の蒸気含有熱風を供給して乾燥させる乾燥部20と、乾燥した塗膜に塗布液を塗布してオーバーコート層を形成する塗布部22と、を備える。乾燥部20は、T:乾燥点における膜温度[℃]、C:溶媒蒸気量[g/m]、P:膜面温度Tにおける飽和水蒸気量[Pa]、R:気体定数、M:第2溶媒の分子量として、1.0≦C×R(273.15+T)/(M×P)≦1.8、で示される式を満たす条件で乾燥処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面改質方法及び装置、重層塗布方法及び装置、並びに塗布物に係り、特に平版印刷版、各種光学フィルム、銀塩フィルム、印画紙、ビデオテープのベースフィルム等の磁性記録材料を製造する過程で行われる表面改質方法及び装置、重層塗布方法及び装置、並びに塗布物に関する。
【背景技術】
【0002】
平版印刷版、各種光学フィルム、銀塩フィルム、印画紙、ビデオテープのベースフィルム等の磁性記録材料は、支持体ウエブやベースフィルム、バライタ紙などの帯状体を一定方向に走行させつつ、感光層形成液や感熱層形成液、感光乳剤、磁性層形成液等の塗布液を塗布して塗膜を形成し、これを乾燥させた後、必要に応じて所定の寸法に裁断することにより製造される。この製造過程における乾燥方法としては、乾燥熱風を用いる方法が一般に用いられ、この他に、溶媒蒸気を含有する熱風を用いた乾燥方法も提案されている。さらに、本願出願人による特許文献1には、低沸点溶媒蒸気(第二の溶媒)の雰囲気下で乾燥させることにより、高沸点溶媒(第一の溶媒)を効果的に乾燥除去する方法が提案されている。この方法によれば、膜中に第二の溶媒蒸気が吸収されることによって、膜中の自由体積が増加し、膜中における残留溶媒(第一溶媒やその他の残留している溶媒)の拡散速度が増加するので、残留溶媒を迅速にかつ比較的低温で除去できる。そして、吸収された第二溶媒蒸気は、分子体積が残留溶媒よりも小さいので、乾燥空気中で乾燥することによって容易に除去可能であり、全体として乾燥時間を短縮することができる。
【0003】
ところで、平版印刷版や各種光学フィルム等は一般に、表面に凹凸を形成して粗面化する表面処理を施すことが有利な場合がある。たとえば、平版印刷版は、製品サイズにカットした後に集積されるが、塗膜表面の摩擦係数が低いと集積後に束ズレを起こしてスリキズの要因となるため、粗面化しておくと有利になる。また、有機膜を逐次で重層化する場合には、下層の有機膜の濡れ性が悪いと上層の有機膜が塗りつきにくくハジキを発生させる場合があるので、下層の有機膜を粗面化しておくと有利になる。
【0004】
粗面化の表面処理方法としては、EB、UV、IB照射やプラズマ処理などが知られている(特許文献2参照)。しかし、被処理面が有機膜などの感光層の場合、これらの処理方法では被りを発生させる懸念がある。そのため、光、電子線、プラズマを使用しない新たな塗膜表面の改質方法が求められている。
【0005】
また、別の表面改質方法として、ボールグレイン、ワイヤーグレイン、ブラシグレイン等の機械的な粗面化方法や、電気化学的な粗面化方法がある。機械的な粗面化方法の場合には、均一な表面処理や連続処理が難しいという問題や熟練を要するという問題がある。特に平版印刷版の場合には、十分な性能を得ることが難しい。また、電気化学的な粗面化方法の場合には、処理ムラが発生しやすいとい問題や、複雑な制御が必要になるという問題がある。
【0006】
このように平版印刷版や各種光学フィルムを粗面化することは非常に難しく、目的とする表面形状が得られないという問題があった。また、従来は、表層の塗膜を粗面化するため、塗膜の塗布工程や乾燥工程とは別に、表面処理工程を行わなければならず、工程が増えるという問題もあった。
【特許文献1】国際公開番号2007/136005号
【特許文献2】特許第3041032号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みて成されたもので、所望の表面物性を得ることができる表面改質方法及び装置を提供することを目的とする。さらに、それを利用した重層塗布方法及び装置、並びに塗布物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は前記目的を達成するために、熱可塑性樹脂を第1溶媒に溶解した高分子溶液を塗布することによって、塗膜を形成する塗布工程と、前記塗膜を乾燥点まで乾燥させた後、前記第1溶媒よりも分子体積が小さい第2溶媒の溶媒蒸気含有熱風を前記塗膜に供給し、乾燥させる乾燥工程と、を備え、前記乾燥工程は、T:乾燥点における膜温度[℃]、C:溶媒蒸気量[g/m]、P:膜面温度Tにおける飽和水蒸気量[Pa]、R:気体定数、M:第2溶媒の分子量として、1.0≦C×R(273.15+T)/(M×P)≦1.8、で示される式を満たすことを特徴とする表面改質方法を提供する。
【0009】
本発明の発明者は、通常は結露しないように供給する第2溶媒の溶媒蒸気含有熱風を、結露する条件でさらに特定の狭い条件で供給すると、乾燥後の塗膜表面に微細な略半球状の凹部(以下、細孔ともいう)が形成されるという知見を得た。さらに、本発明の発明者は、その乾燥条件として、次式 1.0≦C×R(273.15+T)/(M×P)≦1.8、(以下、式1という)であるという知見を得た。本発明はこのような知見に基づいて成されたもので、上記の乾燥条件で乾燥工程を行うようにしたので、表面に細孔を有する塗膜を形成することができる。これにより、塗膜の物性を制御することができ、たとえば、塗膜表面の静止摩擦係数を1倍超〜1.7倍以下に制御したり、塗膜表面の接触角を1〜20°下げるように制御したりすることができる。
【0010】
また、本発明は、乾燥工程での乾燥条件を変えるだけなので、光、電子線、プラズマを用いた表面処理方法のように、塗膜の性質が変化するおそれがない。
【0011】
なお、本発明において、「乾燥点」とは、塗膜に布が触れても布に塗工液が付着しない状態を意味し、換言すると、塗膜表面の光沢が変化し終わった状態を意味する。
【0012】
請求項2に記載の発明は請求項1の発明において、前記第2溶媒の溶媒蒸気含有熱風の温度を調節することによって、前記塗膜の表面物性を制御することを特徴とする。
【0013】
本発明の発明者は、上述した細孔が形成される場合において、蒸気含有熱風の温度を調節することによって細孔の孔径を制御することができるという知見を得た。本発明はこのような知見に基づいて成されたものであり、第2溶媒の溶媒蒸気含有熱風の温度を調節するようにしたので、細孔の孔径を制御することができ、結果として、塗膜の表面物性を制御することができる。
【0014】
請求項3に記載の発明は請求項1の発明において、前記第2溶媒の溶媒蒸気量を調節することによって、前記塗膜の表面物性を制御することを特徴とする。
【0015】
本発明の発明者は、上述した細孔が形成される場合において、第2溶媒の溶媒蒸気量を調節することによって細孔の数を制御することができるという知見を得た。本発明はこのような知見に基づいて成されたものであり、第2溶媒の溶媒蒸気量を調節するようにしたので、細孔の数を制御することができ、結果として、塗膜の表面物性を制御することができる。
【0016】
請求項4に記載の発明は請求項2または3の発明において、前記表面物性が静止摩擦係数であることを特徴とする。
【0017】
請求項5に記載の発明は請求項2または3の発明において、前記表面物性が接触角であることを特徴とする。
【0018】
請求項6に記載の発明は請求項1〜5のいずれか1の発明において、前記塗膜は平版印刷版の画像形成層であり、前記乾燥工程によって、前記画像形成層の表面の静止摩擦係数を制御することを特徴とする。
【0019】
請求項7に記載の発明は請求項1〜5のいずれか1の発明において、前記塗膜は平版印刷版の画像形成層の上に形成されるオーバーコート層であり、前記乾燥工程によって、前記オーバーコート層の静止摩擦係数を制御することを特徴とする。
【0020】
請求項8に記載の発明は前記目的を達成するために、熱可塑性樹脂を第1溶媒に溶解した高分子溶液を塗布する塗布装置と、前記塗布装置の後段に設けられ、乾燥点まで乾燥した前記塗膜に前記第1溶媒よりも分子体積が小さい第2溶媒の溶媒蒸気含有熱風を供給して乾燥させる乾燥装置と、を備え、前記乾燥装置は、T:乾燥点における膜温度[℃]、C:溶媒蒸気量[g/m]、P:膜面温度Tにおける飽和水蒸気量[Pa]、R:気体定数、M:第2溶媒の分子量として、1.0≦C×R(273.15+T)/(M×P)≦1.8、で示される乾燥条件で乾燥処理を行うことを特徴とする表面改質装置を提供する。
【0021】
請求項8の発明は請求項1の方法クレームに対応する装置クレームであり、表面に凹凸を有する塗膜を形成することができ、塗膜の静止摩擦係数を増加させることができる。
【0022】
請求項9に記載の発明は前記目的を達成するために、熱可塑性樹脂を第1溶媒に溶解した高分子溶液を支持体に塗布し、下層を形成する下層塗布工程と、前記下層を乾燥点まで乾燥させた後、前記第1溶媒よりも分子体積が小さい第2溶媒の溶媒蒸気含有熱風を前記下層に供給し、乾燥させる下層乾燥工程と、前記乾燥させた下層の上に塗布液を塗布し、上層を形成する上層塗布工程と、を備え、前記下層乾燥工程は、T:乾燥点における膜温度[℃]、C:溶媒蒸気量[g/m]、P:膜面温度Tにおける飽和水蒸気量[Pa]、R:気体定数、M:第2溶媒の分子量として、1.0≦C×R(273.15+T)/(M×P)≦1.8、で示される式を満たすことを特徴とする重層塗布方法を提供する。
【0023】
本発明によれば、下層乾燥工程の乾燥工程を式(1)の乾燥条件で行うことによって下層の表面に凹凸が形成される。したがって、上層の塗布液に対する下層の濡れ性が向上し、たとえば、濡れ性の良い溶媒(すなわち膜表面との接触角90°未満の溶媒)に対する膜表面の接触角を1〜20°下げることができる。これにより、上層の塗布液のハジキを防止することができ、上層の塗布精度を向上させることができる。
【0024】
なお、本発明における「下層」「上層」とは、相対的な位置関係を意味し、支持体側の塗膜を下層、表面側を上層という。したがって、三層以上の重層塗布を行う場合にも、隣接する二層が上記の条件を満たすことによって本発明の効果を得ることができる。
【0025】
請求項10に記載の発明は請求項9の発明において、前記下層が平版印刷版の画像形成層であるとともに、前記上層が前記画像形成層の上に塗布されるオーバーコート層であり、前記下層乾燥工程によって、前記上層の塗布液に対する前記下層の接触角を減少させることを特徴とする。
【0026】
請求項11に記載の発明は前記目的を達成するために、熱可塑性樹脂を第1溶媒に溶解した高分子溶液を支持体に塗布し、下層を形成する下層塗布装置と、前記下層塗布装置の後段に設けられ、乾燥点まで乾燥した前記下層に前記第1溶媒よりも分子体積が小さい第2溶媒の溶媒蒸気含有熱風を供給して乾燥させる下層乾燥装置と、前記下層乾燥工程の後段に設けられ、前記乾燥した下層の上に塗布液を塗布し、上層を形成する上層塗布装置と、を備え、前記下層乾燥装置は、T:乾燥点における膜温度[℃]、C:溶媒蒸気量[g/m]、P:膜面温度Tにおける飽和水蒸気量[Pa]、R:気体定数、M:第2溶媒の分子量として、1.0≦C×R(273.15+T)/(M×P)≦1.8、で示される式を満たすことを特徴とする重層塗布装置を提供する。
【0027】
請求項11の発明は請求項9の方法クレームに対応する装置クレームであり、下層の表面に凹凸を有する塗膜を形成することができ、上層の塗布液のハジキを防止することができ、上層の塗布精度を向上させることができる。
【0028】
請求項12に記載の発明は前記目的を達成するために、表面に熱可塑性樹脂を含む塗膜が形成されるとともに、前記表面に略凹状の窪みから成る多数の細孔を有する塗布物であって、前記細孔の周縁部は、該細孔の中心に向かって徐々に凹むことによって滑らかな曲面を成すとともに、前記細孔の直径は、0.2μm以上4.0μm以下であることを特徴とする塗布物を提供する。
【0029】
本発明によれば、細孔の周縁がなめらかな曲面であり、細孔の周縁部分が摩耗によって削れることを抑制することができる。すなわち、従来の方法で細孔を形成する場合には、(A)気泡を形成して研削する方法、(B)針などを凸部を押し当てて凹部を形成する方法が考えられるが、(A)の場合は孔の周縁部が滑らかな曲面にならず、(B)の場合は周縁部が盛り上がるので、摩擦によって削れるおそれがある。しかし、本発明によれば、細孔の周縁がなめらかな曲面を成すので、摩耗によって削れることを防止することができる。なお、細孔の直径は、0.2μm以上2.0μm以下が好ましく、0.2μm以上0.5μm以下がより好ましい。
【0030】
また、本発明の塗布物は、表面の細孔以外の部分が平滑であることが好ましい。平滑とは、平坦な支持体に塗布膜を形成し、SEM2万倍で目視で観察して凹凸がなく平滑に見える状態であり、請求項1の乾燥条件ではなく通常の乾燥条件で得られる塗布膜の表面と同じ状態である。
【0031】
請求項13に記載の発明は請求項12の発明において、前記塗布物は平版印刷版であることを特徴とする。平版印刷版は、表面がなだらかに波打っており、完全な平坦面ではないので、本発明の方法でしか細孔を作成することができない。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、溶媒蒸気含有熱風を所定の条件で塗膜に吹き付けて乾燥させるようにしたので、塗膜の表面に凹凸を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、添付図面に従って本発明に係る表面改質方法及び装置、重層塗布方法及び装置、並びに塗布物の好ましい実施の形態について説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を平版印刷版の製造装置に適用した例であるが、本発明はこの技術分野に限定されるものではなく、各種技術分野における表面改質や重層塗布に適用可能である。
【0034】
(第1の実施形態)
第1の実施形態は、平版印刷版の表面を改質する(すなわち凹凸を形成する)装置として本発明を適用している。図1は、本実施形態における平版印刷版の製造装置10の基本的な構成を示す図であり、同図の矢印Aは支持体16の搬送方向を示している。
【0035】
図1に示すように、平版印刷版原版の製造装置10は主として、送り出し装置12、表面処理部14、塗布部18、乾燥部20、巻き取り装置26で構成されている。送り出し装置12には、ロール状に巻回された支持体16が装着され、この支持体16が送り出し装置12から送り出される。送り出された支持体16は、ガイドローラ27にガイドされながら、表面処理部14、塗布部18、乾燥部20に順に送られ、各種の処理が施された後、巻き取り装置26によって巻き取られる。なお、図1の構成は、平版印刷版の製造装置の一例であり、これに限定するものではない。たとえば塗布部18の前段に下塗り塗布液を塗布する塗布部を設けてもよい。
【0036】
次に、各工程部について説明する。
【0037】
表面処理部14は、塗布前の支持体16に必要な各種の前処理を行う装置である。前処理としては、支持体16と画像形成層との密着性を良好にし、かつ、非画像部に保水性を与えるための脱脂処理や粗面化処理(砂目立て処理等)、支持体16の耐摩耗性、耐薬品性、保水性を向上させるために表面に酸化被膜を形成させる陽極酸化処理、陽極酸化被膜の被膜強度、親水性、画像形成層との密着性を向上させるシリケート処理等がある。なお、この表面処理部14の代わりに、本発明の表面改質装置(すなわち塗布部18、乾燥部20と同じ構成のもの)を設け、凹凸を有する塗膜(たとえば下塗層)を形成してもよい。
【0038】
塗布部18は、画像形成層塗布液を支持体16の表面に塗布する装置である。塗布方法としては、たとえばスライドビード塗布方法、カーテン塗布方法、バー塗布方法、回転塗布方法、スプレー塗布方法、ディップ塗布方法、エアーナイフ塗布方法、ブレード塗布方法、ロール塗布方法等が使用され、中でもスライドビード塗布方法、カーテン塗布方法、バー塗布方法等が好ましく使用される。なお、図1ではバー塗布として図示している。
【0039】
乾燥部20は、支持体16に形成された塗膜(画像形成層塗布液)を乾燥させる装置である。塗膜には第1溶媒として難揮発性の高沸点溶媒が含まれており、この第1溶媒を乾燥部20で効果的に蒸発乾燥させることが、平版印刷版原版の品質上、重要となる。
【0040】
乾燥部20は、熱風乾燥部28、蒸気乾燥部29、冷却部30で構成される。これらの熱風乾燥部28、蒸気乾燥部29、冷却部30はそれぞれボックス形状になっており、支持体16がその内部を通過するように構成される。支持体16は、まず、熱風乾燥部28で熱風が吹き付けられて乾燥点まで乾燥される。そして、蒸気乾燥部29において、第2溶媒を含む蒸気含有熱風が支持体16に吹き付けられた後、冷却部30で冷風が吹き付けられて冷却される。これにより、乾燥された画像形成層塗布膜が支持体16上に形成される。
【0041】
ところで、乾燥部20の熱風乾燥部28は、図2に示すように、支持体16の搬送方向に沿って形成されたボックス40を備える。ボックス40は、両端にスリット状の開口40A、40Bを備え、この開口40A、40Bを介して支持体16がボックス40内に出入りされる。
【0042】
ボックス40内には、支持体16の上方にチャンバ42が設けられ、このチャンバ42に高温の乾燥空気(熱風)が給気される。チャンバ42の下面には、多数のノズル44が設けられており、このノズル44から支持体16の上面(すなわち、画像形成層)に熱風が吹き付けられる。
【0043】
ボックス40の下部には、排気部46が設けられ、この排気部46から排気が行われることによって、ボックス40内に熱風のダウンフローが形成される。
【0044】
この熱風乾燥部28では、乾燥点(布で触れて布に塗工液が付着しない状態、表面光沢度が変化しない状態、又は、固形分濃度が60%以上好ましくは70%〜80%の状態)まで乾燥が実施される。乾燥された支持体16は、ガイドローラ27にガイドされて上下が反転した後、蒸気乾燥部29に送られる。
【0045】
図3は蒸気乾燥部29に溶媒蒸気を給排気する蒸気給排気機構を示している。また、図4は蒸気乾燥部29の内部構成を示しており、図5は、図4の5−5線に沿う断面図である。
【0046】
これらの図に示す蒸気乾燥部29は、支持体16に塗布された塗膜中の第1溶媒を蒸発乾燥させる装置である。乾燥させる第1溶媒としては、主に沸点の高い溶媒が好ましく、150℃以上のものがより好ましい。この第1溶媒の例としては、γ-ブチルラクトン(204℃)、アセトアミド(222℃)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(225.5℃)、N,N-ジメチルホルムアミド(153℃)、テトラメチル尿酸(175℃-177℃)、ニトロベンゼン(211.3℃)、ホルムアミド(210.5℃)、N-メチルピロリドン(202℃)、N,N-ジメチルアセトアミド(166℃)、ジメチルスルホキシド(189℃)、などが挙げられる。なお、括弧内の数字は沸点である。
【0047】
図4に示すように蒸気乾燥部29は、中空状のボックス50を備え、このボックス50の対向する側面にスリット状の開口50A、50Bが形成される。支持体16は、開口50Aからボックス50内に入り、開口50Bを介してボックス50の外部に搬送される。ボックス50の材質としては、例えばSUS(304、306、316等)や鉄(SECC等)が好ましく、その内側にグラスウール、ロックウール、ALK24等の断熱材を設けてもよい。
【0048】
ボックス50の内部には、支持体16の下側に蒸気含有熱風の供給部52が設けられる。供給部52は、中空状の箱型に形成されており、その内部には、図3に示す蒸気給排気機構によって第2溶媒の溶媒蒸気含有熱風が給気される。
【0049】
蒸気給排気機構は、タンク62、ブロア64、熱交換器66、68、70を備え、タンク62には第2溶媒が貯留される。第2溶媒は、上述した第1溶媒の分子体積以下の分子体積を持つものが用いられる。この第2溶媒は通常、第1溶媒よりも低沸点であり、好ましくは常温(約20℃)で液体のものが使用される。第2溶媒の例としては、水、メタノール、アセトン、メチルエチルケトンなどを使用できる。また、第2溶媒として有機溶媒を使用してもよく、その場合には、使用濃度が爆発範囲に入らない濃度とし、且つ、防爆対策を実施することが望ましい。
【0050】
タンク62に貯留された第2溶媒は、熱交換器66によって加熱されて蒸気となり、熱交換器68で温度調節された後、ブロア64から送気されて熱交換器70で加温されたエアと混合され、供給部52に給気される。
【0051】
図4に示すように、供給部52の内部には整流板56が設けられ、この整流板56によって第2溶媒の蒸気含有熱風が均一に送気される。供給部52の上部には、ノズル54が設けられ、このノズル54から支持体16の下面(すなわち、画像形成層)に向けて第2溶媒の溶媒蒸気含有熱風が吹き付けられる。ノズル54は、第2溶媒の溶媒蒸気含有熱風を支持体16の幅方向に均一に吹き付けられるようになっており、たとえば、幅方向のスリットを有し、このスリットから第2溶媒の溶媒蒸気含有熱風が吹き出される。また、ノズル54は、支持体16の搬送方向に複数設けられており、支持体16の搬送方向に所定の範囲で第2溶媒の溶媒蒸気含有熱風が吹き付けられる。また、図5に示すように、供給部52の幅Wは、支持体16の幅よりも大きく形成されており、支持体16の幅方向の全体に第2溶媒の溶媒蒸気含有熱風が吹き付けられる。なお、供給部52の幅Wは、第2溶媒の溶媒蒸気雰囲気が形成されるゾーンの長さ(具体的には後述する遮風板60A、60Bの間隔)Lよりも大きく設定されることが好ましく、その比W/Lは1以上が好ましく、2以上がより好ましい。これは、W/Lが大きいほど、Lを小さくして装置を小型化できる反面、第1溶媒の残留分布が幅方向に発生しやすくなり、特にW/Lが1以上の場合には残留分布が生じるが、本実施の形態ではこれを防止できる。
【0052】
上記の如く構成された供給部52のノズル54から第2溶媒の溶媒蒸気含有熱風が吹き出されることによって、ボックス50内に第2溶媒の溶媒蒸気雰囲気が形成される。これにより、支持体16の膜中の第1溶媒の乾燥が行われる。
【0053】
図4に示すように、支持体16の搬送方向に対して供給部52の上流側と下流側には、排気部58A、58Bが設けられる。この排気部58A、58Bは、供給部52と同様に支持体16の下側に設けられており、支持体16の下面近傍から下方にエアを吸引するようになっている。図5に示すように、排気部58A、58Bは、支持体16よりも広い幅で形成されており、好ましくは供給部52と同じ幅Wで形成される。また、排気部58A、58Bは、図3に示すように蒸留塔72に接続されており、排気部58A、58Bからの排気エアが蒸留塔72に送気される。蒸留塔72に送気された排気エアは、第2溶媒と溶剤とが分離され、分離された第2溶媒がタンク62に戻される一方で、溶剤が回収される。なお、排気部58A、58Bから排気されるエアの風量は、供給部52から吹き出される第2溶媒の溶媒蒸気含有熱風の風量よりも大きくなるように設定される。これにより、供給部52から吹き出された第2溶媒の溶媒蒸気含有熱風がボックス50の外部に流出することを防止できる。
【0054】
図4に示すように、排気部58Aと供給部52との間には遮風板60Aが設けられ、排気部58Bと供給部52との間には遮風板60Bが設けられる。遮風板60A、60Bは、支持体16の下方に垂直に設けられており、支持体16の下面に所定の隙間量Sを持って配置される。供給部52と排気部58A、58Bは、この隙間のみで連通され、供給部52から吹き出された第2溶媒の溶媒蒸気含有熱風は隙間を通って排気部58A、58Bから排気される。なお、図4には、遮風板60A、60Bをボックス50に一体的に設けた例を記載したが、これに限定するものではなく、遮風板60A、60Bをボックス50と別部材として着脱自在に取り付けてもよい。その場合、遮風板60A、60Bが上下方向にスライド自在となるようにボックス50に取り付けて、その高さ位置(すなわち隙間量S)を調節できるように構成するとよい。
【0055】
このように支持体16の搬送方向に対して供給部52の両側に排気部58A、58Bを設け、さらに供給部52と排気部58A、58Bとの間に遮風板60A、60Bを設けることによって、供給部52から吹き出された第2溶媒の溶媒蒸気含有熱風は、遮風板60A、60Bと支持体16との隙間を通って排気部58A、58Bに流れるので、支持体16の下面では、第2溶媒の溶媒蒸気含有熱風が略均等に接するようになる。これにより、支持体16の膜中の第1溶媒を幅方向に均等に乾燥させることができ、従来では均一な乾燥が困難であった「W/L≧1」の範囲であっても、第1溶媒の残留分布の発生を防止することができる。
【0056】
ところで、蒸気乾燥部29では、以下の乾燥条件で乾燥処理が行われる。すなわち、蒸気乾燥部29では、T:乾燥点における膜温度[℃]、C:水蒸気量[g/m]、P:膜面温度Tにおける飽和水蒸気量[Pa]、R:気体定数、M:第2溶媒の分子量(本実施の形態では水なので18)とした際に、
1.0≦C×R(273.15+T)/(M×P)≦1.8・・・(式1)
の乾燥条件で乾燥処理が行われる。この乾燥条件において、「C×R(273.15+T)/(M×P)」は、飽和蒸気圧に対する蒸気圧の比(以下、相対蒸気圧比と称する)を意味する。本実施の形態では、第2溶媒が水なので、(式1)は、相対湿度が100%以上180%以下であることを意味している。
【0057】
このような乾燥条件で乾燥処理を行った場合、第2溶媒の溶媒蒸気含有熱風が塗膜の表面に吹き付けられることによって、第2溶媒が塗膜の表面に微小液滴の状態で結露する。この結露によって発生した凝縮熱によって、微小液滴の発生箇所の塗膜が部分的に加熱されて軟化し、さらに、この軟化状態の塗膜を第2溶媒の液滴が押し退ける。そして、溶媒蒸気含有熱風ゾーンを通過した際に、第2溶媒の微小な液滴が、塗膜の持つ熱によって瞬時に蒸発する。このような過程を経ることにより、図6に示すように、乾燥後の塗膜80の表面には半球状の無数の細孔82が形成される。細孔82は、孔径0.2μm以上4.0μm以下の略半球状に形成されており、ランダムに配置される。また図6では省略したが細孔82の周縁部分は、徐々に凹んでおり、なだらかな曲面になっている。(なお図8、図9も同様。)
【0058】
一方、相対蒸気圧比の値が1未満の乾燥条件で乾燥させた場合は、結露が発生しないので、塗膜には細孔が形成されない。逆に、相対蒸気圧比の値が1.8超の場合には、第2溶媒が塗膜の表面に結露し、水の膜を形成するため、塗膜には細孔が形成されない。
【0059】
以上説明したように本実施の形態では、式(1)の乾燥条件で乾燥処理を行うようにしたので、塗膜の表面に細孔82すなわち凹凸を形成することができる。したがって、製造後の平版印刷版の表面に凹凸が形成され、表面の摩擦係数が増加されるので、平版印刷版を集積した際に束ズレが発生することを防止できる。
【0060】
また、本実施の形態は、蒸気乾燥部29の条件を式(1)に設定するだけなので、新たな表面処理を別途行う必要がない。すなわち、本実施の形態によれば、乾燥処理と同時に塗膜の表面処理を行うことができる。
【0061】
さらに、本実施の形態は、塗膜の表面に凹凸を形成しても、その塗膜の性質は変化しない。すなわち、表面処理方法として光、電子線、プラズマを用いた場合のように塗膜の物性が変化するおそれがない。よって本実施の形態によれば、塗膜の物性を変化させることなく、凹凸を形成することができる。
【0062】
また、上述した実施形態では、乾燥条件を変えることによって、表面の性質(すなわち凹凸形状)を調節することができる。たとえば、相対蒸気圧比を小さくして1.0に近づけるほど、半球状の細孔82の径が小さくなり、且つ、細孔82の数が減少する。逆に、相対蒸気圧比を大きくして1.8に近づけるほど、半球状の細孔82の径が大きくなり、且つ、細孔82の数も増加する。したがって、本実施の形態によれば、乾燥条件を変えることによって塗膜表面の凹凸形状を変えることができるので、表面粗さや濡れ性を簡単に調節することができる。
(第2の実施形態)
第2の実施形態は、重層塗布する際に下層の表面を改質する(すなわち下層の表面に凹凸を形成する)装置として本発明を適用している。図7は、第2の実施形態における平版印刷版の製造装置の基本的な構成を示す図であり、同図の矢印Aは支持体16の搬送方向を示している。図7に示す第2の実施形態は、図1に示した第1の実施形態と比較して、塗布部22、乾燥部24が設けられている点で異なっている。すなわち、乾燥部20と巻き取り装置26との間に、塗布部22、乾燥部24が設けられている。
【0063】
塗布部22は、画像形成層への酸素遮断及び親油性物質による画像形成層表面の汚染防止のため、画像形成層上に水溶性オーバーコート層を形成する装置である。水溶性オーバーコート層は、印刷時容易に除去できるものであり、水溶性の有機高分子化合物から選ばれた樹脂を含有している。水溶性オーバーコート層の塗布方法としては、上述した塗布部18と同様のものが使用できる。
【0064】
乾燥部24は、塗布部22で塗布されたオーバーコート層を乾燥させる装置であり、乾燥方法は熱風を用いた乾燥方法など任意の方法を採ることができる。オーバーコート層が塗布された支持体16は、乾燥部24で乾燥された後、最終的に巻き取り装置26によって巻き取られる。
【0065】
上記の如く構成された第2の実施形態によれば、塗布部18によって画像形成層塗布液が下層として塗布され、乾燥部20によってその下層の乾燥処理が行われる。その際、上述した第1の実施形態と同様に、式(1)の乾燥条件で乾燥処理が行われる。したがって、図8に示すように、乾燥後の塗膜(下層)80には、略半球状の細孔82が形成されている。この状態は、濡れ性の良い溶媒(すなわち膜表面との接触角90°未満の溶媒)に対する膜表面の接触角が1〜20°低下した状態である。
【0066】
下層(画像形成層の塗膜80)が形成された支持体16は、塗布部22において、下層の上にオーバーコート層の塗布液が上層として塗布される。その際、下層(塗膜80)の表面には細孔82が形成され、濡れ性が向上しているので、オーバーコート層の塗布液のハジキが発生することを防止することができる。これにより、上層の塗布精度を向上させることができる。塗布された上層の塗膜84は、乾燥部24によって乾燥される。
【0067】
このように第2の実施形態では、下層の乾燥処理を式(1)の乾燥条件で行うようにしたので、下層の濡れ性を向上させることができ、上層の塗布液のハジキを防止することができる。
【0068】
(第3の実施形態)
第3の実施形態は、図7に示した第2の実施形態と同様に構成される。すなわち、第3の実施形態の製造装置は主として送り出し装置12、表面処理部14、塗布部18、乾燥部20、塗布部22、乾燥部24、巻き取り装置26で構成される。
【0069】
ただし、第3の実施形態の乾燥部24では、式(1)での乾燥条件で乾燥処理が行われる。なお、第3の実施形態の乾燥部20では任意の乾燥条件で乾燥処理が行われる。すなわち、相対蒸気圧比が1以下の結露しない条件で乾燥処理を行ってもよいし、相対蒸気圧比が1〜1.8の細孔形成条件で乾燥処理を行ってもよい。
【0070】
上述した第3の実施形態では、乾燥部24において式(1)の乾燥条件で乾燥処理を行うので、図9に示すように、乾燥後の塗膜(オーバーコート層)84には、上述した第1の実施形態の塗膜80(図6参照)と同様に、略半球状の細孔82が形成される。したがって、製造後の平版印刷版の表面に凹凸が形成され、表面の摩擦係数が増加されるので、平版印刷版を集積した際に束ズレが発生することを防止できる。
【0071】
次に、本実施形態に使用される各種材料について説明する。
【0072】
〔支持体〕
本発明において、支持体の材質は特に限定するものではなく、金属、樹脂、紙、布等であってもよい。また、支持体の形状は、帯状に限定されることはなく、帯状以外であってもよい。
【0073】
本実施形態の平版印刷版原版に用いられるアルミニウム板は、寸度的に安定なアルミニウムを主成分とする金属であり、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる。 純アルミニウム板のほか、アルミニウムを主成分とし微量の異元素を含む合金板や、アルミニウムまたはアルミニウム合金がラミネートされまたは蒸着されたプラスチックフィルムまたは紙を用いることもできる。更に、ポリエチレンテレフタレートフィルム上にアルミニウムシートが結合された複合体シートを用いることもできる。
【0074】
本実施形態に用いられるアルミニウム板の組成は、特に限定されないが、純アルミニウム板を用いるのが好適である。完全に純粋なアルミニウムは精練技術上、製造が困難であるので、わずかに異元素を含有するものを用いてもよい。例えば、アルミニウムハンドブック第4版(軽金属協会(1990))に記載の公知の素材のもの、具体的には、例えば、JIS A1050、JIS A1100、JIS A3003、JIS A3004、JIS A3005、国際登録合金3103A等のアルミニウム合金板を適宜利用することができる。また、アルミニウム含有量が、99.4〜95質量%であり、Fe、Si、Cu、Mg、Mn、Zn、CrおよびTiからなる群から選ばれる3種以上を含むアルミニウム合金、スクラップアルミ材または二次地金を使用したアルミニウム板を使用することもできる。
【0075】
また、アルミニウム合金板のアルミニウム含有率は、特に限定されないが、アルミニウム含有率が95〜99.4質量%であってもよく、さらにこのアルミニウム板が、Fe、Si、Cu、Mg、Mn、Zn、CrおよびTiからなる群から選ばれる3種以上の異元素を以下の範囲で含有することが好ましい。そのようにすると、アルミニウムの結晶粒が微細になるためである。Fe:0.20〜1.0質量%、Si:0.10〜1.0質量%、Cu:0.03〜1.0質量%、Mg:0.1〜1.5質量%、Mn:0.1〜1.5質量%、Zn:0.03〜0.5質量%、Cr:0.005〜0.1質量%、Ti:0.01〜0.5質量%。また、アルミニウム板は、Bi、Ni等の元素や不可避不純物を含有してもよい。
【0076】
アルミニウム板の製造方法は、連続鋳造方式およびDC鋳造方式のいずれでもよく、DC鋳造方式の中間焼鈍や、均熱処理を省略したアルミニウム板も用いることができる。最終圧延においては、積層圧延や転写等により凹凸を付けたアルミニウム板を用いることもできる。本実施形態に用いられるアルミニウム板は、連続した帯状のシート材または板材である、アルミニウム支持体であってもよく、製品として出荷される平版印刷版原版に対応する大きさ等に裁断された枚葉状シートであってもよい。
【0077】
本実施形態に用いられるアルミニウム板の厚みは、通常、0.05mm〜1mm程度であり、0.1mm〜0.5mmであるのが好ましい。この厚みは印刷機の大きさ、印刷版の大きさおよびユーザの希望により適宜変更することができる。
【0078】
本実施形態における平版印刷版用支持体の製造方法においては、上記アルミニウム板に、少なくとも、粗面化処理、陽極酸化処理、及び特定の封孔処理を含む表面処理を施して平版印刷版用支持体を得るが、この表面処理には、更に各種の処理が含まれていてもよい。なお、本実施形態の各種工程においては、その工程に用いられる処理液の中に使用するアルミニウム板の合金成分が溶出するので、処理液はアルミニウム板の合金成分を含有していてもよく、特に、処理前にそれらの合金成分を添加して処理液を定常状態にして用いるのが好ましい。
【0079】
上記表面処理として、電解粗面化処理の前に、アルカリエッチング処理またはデスマット処理を施すのが好ましく、また、アルカリエッチング処理とデスマット処理とをこの順に施すのも好ましい。また、電解粗面化処理の後に、アルカリエッチング処理またはデスマット処理を施すのが好ましく、また、アルカリエッチング処理とデスマット処理とをこの順に施すのも好ましい。また、電解粗面化処理後のアルカリエッチング処理は、省略することもできる。また、これらの処理の前に機械的粗面化処理を施すのも好ましい。また、電解粗面化処理を2回以上行ってもよい。その後、陽極酸化処理、封孔処理、親水化処理等を施すのも好ましい。
【0080】
〔第2溶媒〕
本実施形態に使用される第2溶媒としては、第1溶媒よりも分子体積の小さい分子体積をもつ溶媒が好ましく、そのような溶媒は一般的に低沸点溶媒で、沸点が30℃以上130℃以下のものが好ましい。このような低沸点溶媒としては、以下のものが挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。括弧内に沸点を記載する。
【0081】
メタノール(64.5℃−64.65℃)、エタノール(78.32℃)、n−プロパノール(97.15℃)、イソプロパノール(82.3℃)、n−ブタノール(117.7℃)、イソブタノール(107.9℃)等のアルコール類、エチルエーテル(34.6℃)、イソプロピルエーテル (68.27℃)等のエーテル類、アセトン(56.2℃)、メチルエチルケトン(79.59℃)、メチル−n−プロピルケトン(103.3℃)、メチルイソブチルケトン(115.9℃)、ジエチルケトン(102.2℃)等のケトン類、酢酸メチル(57.8℃)、酢酸エチル(77.1℃)、酢酸−n−プロピル(101.6℃)、酢酸−n−ブチル(1265℃)等のエステル類、n−ヘキサン(68742℃)、シクロヘキサン(80.738℃)等の炭化水素類、水等。
【0082】
〔第1溶媒〕
本実施形態に使用される第1溶媒は、沸点が150℃以上の高沸点溶媒が好ましい。このような高沸点溶媒として、以下のものが挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。括弧内に沸点を記載する。
【0083】
γ−ブチルラクトン(204℃)、アセトアミド(222℃)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(225.5℃)、N,N−ジメチルホルムアミド(153℃)、テトラメチル尿酸(175℃一177℃)、ニトロベンゼン(211.3℃)、ホルムアミド(210.5℃)、N−メチルピロリドン(202℃)、N,N−ジメチルアセトアミド(166℃)、ジメチルスルホキシド(189℃)等。
【0084】
[画像形成層]
本発明においては、上述のようにして形成された処理層上に画像形成層を設けることで平版印刷版原版を得ることができる。
【0085】
本発明において、ここに設けられる画像形成層は既知の任意のものであってよいが、ヒートモード又はフォトンモードで記録可能であるものが好ましく、効果の観点からは、赤外線レーザなどのヒートモード露光による画像形成が可能な画像形成層であることが好ましい。
【0086】
また、画像形成層は単層構造であっても、複数の層からなる積層構造を有したものであってもよい。
【0087】
以下に、画像形成層の種類の異なる各種の平版印刷版原版について説明する。
【0088】
<赤外線レーザ記録型平版印刷版原版>
本発明に好適な、赤外線レーザにより画像形成可能な平版印刷版原版について説明する。これらは、赤外線レーザ露光によりアルカリ水溶液に対する可溶性が変化する材料を用いるネガ型或いはポジ型の画像形成層、インク受容性領域を形成し得る疎水化前駆体を含有し、赤外線レーザの露光部に疎水化領域が形成される画像形成層など、公知の画像記録方式が任意に選択される。
【0089】
まず、ポジ型或いはネガ型の画像形成層について述べる。このような画像形成層は、赤外線レーザによる像様露光の後、アルカリ水溶液で現像処理され、アルカリ現像性が活性光線の照射により低下し、照射(露光)部が画像部領域となるネガ型と、逆に現像性が向上し、照射(露光)部が非画像部領域となるポジ型の2つに分けられる。
【0090】
ポジ型の画像形成層としては、相互作用解除系(感熱ポジ)画像形成層、公知の酸触媒分解系、o−キノンジアジド化合物含有系等が挙げられる。これらは光照射や加熱により発生する酸や熱エネルギーそのものにより、層を形成していた高分子化合物の結合が解除されるなどの働きにより水やアルカリ水に可溶となり、現像により除去されて非画像部形成するものである。
【0091】
また、ネガ型の画像形成層としては、公知の酸触媒架橋系(カチオン重合も含む)画像形成層、重合硬化系画像形成層が挙げられる。これらは、光照射や加熱により発生する酸が触媒となり、画像形成層を構成する化合物が架橋反応を起こし硬化して画像部を形成するもの、或いは、光照射や加熱により生成するラジカルにより重合性化合物の重合反応が進行し、硬化して画像部を形成するものである。
【0092】
本発明における前記特定中間層は、上記のいずれの画像形成層を形成した場合でも優れた効果を示すが、ポジ型画像形成層に好適に用いられる。
【0093】
以下、それぞれの画像形成層について詳細に説明する。
1.ポジ型画像形成層
本発明の好ましい態様として、アルカリ可溶性樹脂と、スルホニウム化合物又はアンモニウム化合物と、を含有し、かつ、前記アルカリ可溶性樹脂中の50質量%以上がノボラック樹脂であり、赤外線レーザにより記録可能な画像形成層を設けたポジ型画像形成層を有する平版印刷原版が挙げられる。また、このポジ型画像形成層には、感度を高めるために、後述する(A)赤外線吸収剤を含有することがより好ましい態様である。ポジ型画像形成層は単層であっても、複数の画像形成層からなる積層構造を有していてもよい。
【0094】
(ノボラック型フェノール樹脂)
まず、ノボラック型フェノール樹脂について説明する。ノボラック樹脂は、少なくとも1種のフェノール類を酸性触媒下、アルデヒド類又はケトン類の少なくとも1種と重縮合させた樹脂のことを指す。
【0095】
ここで、フェノール類としては、例えば、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、2,5−キシレノール、3,5−キシレノール、o−エチルフェノール、m−エチルフェノール、p−エチルフェノール、プロピルフェノール、n−ブチルフェノール、tert−ブチルフェノール、1−ナフトール、2−ナフトール、ピロカテコール、レゾルシノール、ハイドロキノン、ピロガロール、1,2,4−ベンゼントリオール、フロログルシノール、4,4’−ビフェニルジオール、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン等が挙げられ、アルデヒド類としては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、フルフラール等が、ケトン類としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。
【0096】
好ましくは、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、2,5−キシレノール、3,5−キシレノール、レゾルシノールから選択されるフェノール類と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒドから選択されるアルデヒド類又はケトン類との重縮合体が好ましく、特に、m−クレゾール:p−クレゾール:2,5−キシレノール:3,5−キシレノール:レゾルシノールの混合割合がモル比で40〜100:0〜50:0〜20:0〜20:0〜20の混合フェノール類、又は、フェノール:m−クレゾール:p−クレゾールの混合割合がモル比で0〜100:0〜70:0〜60の(混合)フェノール類と、ホルムアルデヒドとの重縮合体が好ましい。
【0097】
これらのノボラック樹脂としては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定によるポリスチレン換算の重量平均分子量(以下、単に「重量平均分子量」という)が、好ましくは500〜20,000、更に好ましくは1,000〜15,000、特に好ましくは3,000〜12,000のものが用いられる。重量平均分子量がこの範囲内にあると、充分な皮膜形成性及び、露光部のアルカリ現像性に優れるため好ましい。
【0098】
画像形成層のバインダー樹脂として前記ノボラック樹脂を用いる場合、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、バインダー樹脂のすべてが前記ノボラック樹脂であってもよく、また、それ以外の樹脂を併用することもできる。他の樹脂を併用する場合においても、ノボラック樹脂が主バインダーであることが好ましく、画像形成層を構成するバインダー樹脂(アルカリ可溶性樹脂)中に占めるノボラック樹脂の割合は50質量%以上であることが好ましく、65〜99.9質量%の範囲であることが更に好ましい。
【0099】
併用可能なバインダー樹脂としては、一般に用いられる水不溶且つアルカリ可溶性の、高分子中の主鎖及び側鎖の少なくとも一方に酸性基を有するアルカリ可溶性樹脂を用いることができる。ノボラック樹脂以外のフェノール樹脂、例えば、レゾール樹脂、ポリビニルフェノール樹脂、フェノール性水酸基を有するアクリル樹脂等も好ましく用いられる。併用可能な樹脂としては、具体的には、例えば、特開平11−44956号公報や、特開2003−167343号公報などに記載のポリマーを挙げることができる。
【0100】
(光熱変換剤)
本発明における画像形成層は、光熱変換剤を含有することが好ましい。ここで用いられる光熱変換剤としては、光エネルギー照射線を吸収し、熱を発生する物質であれば特に吸収波長域の制限はなく用いることができるが、入手容易な高出力レーザへの適合性の観点から、波長760nm〜1200nmに吸収極大を有する赤外線吸収性染料又は顔料が好ましく挙げられる。
【0101】
染料としては、市販の染料及び例えば「染料便覧」(有機合成化学協会編集、昭和45年刊)等の文献に記載されている公知のものが利用できる。具体的には、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、ナフトキノン染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料、スクアリリウム色素、ピリリウム塩、金属チオレート錯体、オキソノール染料、ジイモニウム染料、アミニウム染料、クロコニウム染料等の染料が挙げられる。
【0102】
好ましい染料としては、例えば、特開昭58−125246号、特開昭59−84356号、特開昭59−202829号、特開昭60−78787号等に記載されているシアニン染料、特開昭58−173696号、特開昭58−181690号、特開昭58−194595号等に記載されているメチン染料、特開昭58−112793号、特開昭58−224793号、特開昭59−48187号、特開昭59−73996号、特開昭60−52940号、特開昭60−63744号等に記載されているナフトキノン染料、特開昭58−112792号等に記載されているスクアリリウム色素、英国特許434,875号記載のシアニン染料等を挙げることができる。
【0103】
また、米国特許第5,156,938号記載の近赤外吸収増感剤も好適に用いられ、また、米国特許第3,881,924号記載の置換されたアリールベンゾ(チオ)ピリリウム塩、特開昭57−142645号(米国特許第4,327,169号)記載のトリメチンチアピリリウム塩、特開昭58−181051号、同58−220143号、同59−41363号、同59−84248号、同59−84249号、同59−146063号、同59−146061号に記載されているピリリウム系化合物、特開昭59−216146号記載のシアニン色素、米国特許第4,283,475号に記載のペンタメチンチオピリリウム塩等や特公平5−13514号、同5−19702号に開示されているピリリウム化合物も好ましく用いられる。
【0104】
また、染料として好ましい別の例として米国特許第4,756,993号明細書中に式(I)、(II)として記載されている近赤外吸収染料を挙げることができる。
【0105】
これらの染料のうち特に好ましいものとしては、シアニン色素、フタロシアニン染料、オキソノール染料、スクアリリウム色素、ピリリウム塩、チオピリリウム染料、ニッケルチオレート錯体が挙げられる。更に、特開2005−99685号公報の26−38頁に記載された化合物が光熱変換効率に優れるため好ましく、特に特開2005−99685号公報の一般式(a)で示されるシアニン色素が、本発明の感光性組成物で使用した場合に、アルカリ溶解性樹脂との高い相互作用を与え、且つ、安定性、経済性に優れるため最も好ましい。
【0106】
(分解性溶解抑止剤)
本発明におけるポジ型画像形成層には、更に分解性溶解抑止剤を添加することができる。特に、オニウム塩、o−キノンジアジド化合物、スルホン酸アルキルエステル等の熱分解性であり、分解しない状態ではアルカリ可溶性樹脂の溶解性を実質的に低下させる物質(分解性溶解抑止剤)を併用することが、画像部の現像液への溶解阻止性の向上を図る点で好ましい。分解性溶解抑止剤としては、スルホニウム塩、アンモニウム塩、ジアゾニウム塩、ヨードニウム塩等のオニウム塩及び、o−キノンジアジド化合物が好ましく、スルホニウム塩、アンモニウム塩、ジアゾニウム塩がより好ましい。
【0107】
本発明において用いられるオニウム塩として、好適なものとしては、例えば、米国特許第4,069,055号、同4,069,056号、特開平3−140140号、特開2006−293162号公報、特開2004−117546号公報の明細書に記載のアンモニウム塩、J.V.Crivello et al,Polymer J.17,73(1985)、J.V.Crivello et al.J.Org.Chem.,43,3055(1978)、W.R.Watt et al,J.Polymer Sci.,Polymer Chem.Ed.,22,1789(1984)、J.V.Crivello et al,Polymer Bull.,14,279(1985)、J.V.Crivello et al,Macromorecules,14(5),1141(1981)、J.V.Crivello et al,J.Polymer Sci.,Polymer Chem.Ed.,17,2877(1979)、欧州特許第370,693号、同233,567号、同297,443号、同297,442号、米国特許第4,933,377号、同3,902,114号、同5,041,358号、同4,491,628号、同4,760,013号、同4,734,444号、同2,833,827号、独国特許第2,904,626号、同3,604,580号、同3,604,581号、特開2006−293162号公報、特開2006−258979号公報に記載のスルホニウム塩を挙げることができる。
【0108】
また、S.I.Schlesinger,Photogr.Sci.Eng.,18,387(1974)、T.S.Bal et al,Polymer,21,423(1980)、特開平5−158230号公報、特開平5−158230号公報に記載の一般式(I)、特開平11−143064号公報に記載の一般式(1)、特開平11−143064号公報に記載の一般式(1)などで示されるジアゾニウム塩を挙げることができる。
【0109】
これ以外の好ましいオニウム塩として、D.C.Necker et al,Macromolecules,17,2468(1984)、C.S.Wen et al,Teh,Proc.Conf.Rad.Curing ASIA,p478 Tokyo,Oct(1988)、米国特許第4,069,055号、同4,069,056号に記載のホスホニウム塩、J.V.Crivello et al,Macromorecules,10(6),1307(1977)、Chem.&Eng.News,Nov.28,p31(1988)、欧州特許第104,143号、米国特許第5,041,358号、同第4,491,628号、特開平2−150848号、特開平2−296514号に記載のヨードニウム塩、J.V.Crivello et al,Macromorecules,10(6),1307(1977)、J.V.Crivello et al,J.Polymer Sci.,Polymer Chem.Ed.,17,1047(1979)に記載のセレノニウム塩、C.S.Wen et al,Teh,Proc.Conf.Rad.Curing ASIA,p478 Tokyo,Oct(1988)に記載のアルソニウム塩等が挙げられる。
【0110】
オニウム塩の対イオンとしては、四フッ化ホウ酸、六フッ化リン酸、トリイソプロピルナフタレンスルホン酸、5−ニトロ−o−トルエンスルホン酸、5−スルホサリチル酸、2,5−ジメチルベンゼンスルホン酸、2,4,6−トリメチルベンゼンスルホン酸、2−ニトロベンゼンスルホン酸、3−クロロベンゼンスルホン酸、3−ブロモベンゼンスルホン酸、2−フルオロカプリルナフタレンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、1−ナフトール−5−スルホン酸、2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイル−ベンゼンスルホン酸、及びパラトルエンスルホン酸等を挙げることができる。これらの中でも特に六フッ化リン酸、トリイソプロピルナフタレンスルホン酸や2,5−ジメチルベンゼンスルホン酸のごときアルキル芳香族スルホン酸が好適である。
【0111】
これらのオニウム塩は、1種類のみを用いても、複数の化合物を用いてもよい。また、画像形成層が積層構造を有する場合には、単一層のみに添加しても複数の層に添加してもよく、また、複数の種類からなる化合物を、層を分けて添加してもよい。
【0112】
好適なキノンジアジド類としては、o−キノンジアジド化合物を挙げることができる。本発明に用いられるo−キノンジアジド化合物は、少なくとも1個のo−キノンジアジド基を有する化合物で、熱分解によりアルカリ可溶性を増すものであり、種々の構造の化合物を用いることができる。つまり、o−キノンジアジドは熱分解により結着剤の溶解抑制能を失うことと、o−キノンジアジド自身がアルカリ可溶性の物質に変化することの両方の効果により感材系の溶解性を助ける。本発明に用いられるo−キノンジアジド化合物としては、例えば、J.コーサー著「ライト−センシティブ・システムズ」(John Wiley&Sons.Inc.)第339〜352頁に記載の化合物が使用できるが、特に種々の芳香族ポリヒドロキシ化合物或いは芳香族アミノ化合物と反応させたo−キノンジアジドのスルホン酸エステル又はスルホン酸アミドが好適である。また、特公昭43−28403号公報に記載されているようなベンゾキノン(1,2)−ジアジドスルホン酸クロライド又はナフトキノン−(1,2)−ジアジド−5−スルホン酸クロライドとピロガロール−アセトン樹脂とのエステル、米国特許第3,046,120号及び同第3,188,210号に記載されているベンゾキノン−(1,2)−ジアジドスルホン酸クロライド又はナフトキノン−(1,2)−ジアジド−5−スルホン酸クロライドとフェノール−ホルムアルデヒド樹脂とのエステルも好適に使用される。
【0113】
更に、ナフトキノン−(1,2)−ジアジド−4−スルホン酸クロライドとフェノールホルムアルデヒド樹脂或いはクレゾール−ホルムアルデヒド樹脂とのエステル、ナフトキノン−(1,2)−ジアジド−4−スルホン酸クロライドとピロガロール−アセトン樹脂とのエステルも同様に好適に使用される。その他の有用なo−キノンジアジド化合物としては、数多くの特許に報告され知られている。例えば、特開昭47−5303号、特開昭48−63802号、特開昭48−63803号、特開昭48−96575号、特開昭49−38701号、特開昭48−13354号、特公昭41−11222号、特公昭45−9610号、特公昭49−17481号などの各公報、米国特許第2,797,213号、同第3,454,400号、同第3,544,323号、同第3,573,917号、同第3,674,495号、同第3,785,825号、英国特許第1,227,602号、同第1,251,345号、同第1,267,005号、同第1,329,888号、同第1,330,932号、ドイツ特許第854,890号などの各明細書中に記載されているものを挙げることができる。
【0114】
分解性溶解抑止剤であるオニウム塩、及び/又は、o−キノンジアジド化合物の添加量は、好ましくは、本発明にかかる画像形成層の全固形分に対し、好ましくは0.1〜10質量%、更に好ましくは0.1〜5質量%、特に好ましくは0.2〜2質量%の範囲である。これらの化合物は単一で使用できるが、数種の混合物として使用してもよい。
【0115】
o−キノンジアジド化合物以外の添加剤の添加量は、好ましくは0〜5質量%、更に好ましくは0〜2質量%、特に好ましくは0.1〜1.5質量%である。本発明に用いられる添加剤と結着剤は、同一層へ含有させることが好ましい。
【0116】
また、分解性を有さない溶解抑止剤を併用してもよく、好ましい溶解抑止剤としては、特開平10−268512号公報に詳細に記載されているスルホン酸エステル、燐酸エステル、芳香族カルボン酸エステル、芳香族ジスルホン、カルボン酸無水物、芳香族ケトン、芳香族アルデヒド、芳香族アミン、芳香族エーテル等、同じく特開平11−190903号公報に詳細に記載されているラクトン骨格、N,N−ジアリールアミド骨格、ジアリールメチルイミノ骨格を有し着色剤を兼ねた酸発色性色素、同じく特開2000−105454号公報に詳細に記載されている非イオン性界面活性剤等を挙げることができる。
【0117】
(その他の添加剤)
本発明に係る画像形成層中には、更に、画像のディスクリミネーション(疎水性/親水性の識別性)の強化や表面のキズに対する抵抗力を強化する目的で、特開2000−187318公報に記載されているような、分子中に炭素数3〜20のパーフルオロアルキル基を2又は3個有する(メタ)アクリレート単量体を重合成分とする重合体を併用することができる。このような化合物の添加量としては、本発明に係る画像形成層全固形分に対し、0.1〜10質量%が好ましく、より好ましくは0.5〜5質量%である。
【0118】
本発明に係る画像形成層中には、キズに対する抵抗性を付与する目的で、表面の静摩擦係数を低下させる化合物を添加することもできる。具体的には、米国特許6,117,913号明細書に用いられているような、長鎖アルキルカルボン酸のエステル等を挙げることができる。このような化合物の添加量としては、画像形成層全固形分に対し、0.1〜10質量%が好ましく、より好ましくは0.5〜5質量%である。
【0119】
また、本発明に係る画像形成層中には、必要に応じて低分子量の酸性基を有する化合物を含んでいてもよい。酸性基としては、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基を挙げることができる。中でもスルホン酸基を有する化合物が好ましい。具体的には、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸等の芳香族スルホン酸類や脂肪族スルホン酸類を挙げることができる。
【0120】
その他、更に感度を向上させる目的で、環状酸無水物類、フェノール類、有機酸類を併用することもできる。環状酸無水物としては米国特許第4,115,128号明細書に記載されている無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、3,6−エンドオキシ−Δ4−テトラヒドロ無水フタル酸、テトラクロル無水フタル酸、無水マレイン酸、クロル無水マレイン酸、α−フェニル無水マレイン酸、無水コハク酸、無水ピロメリット酸などが使用できる。フェノール類としては、ビスフェノールA、p−ニトロフェノール、p−エトキシフェノール、2,4,4’−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、4−ヒドロキシベンゾフェノン、4,4’,4”−トリヒドロキシトリフェニルメタン、4,4’,3”,4”−テトラヒドロキシ−3,5,3’,5’−テトラメチルトリフェニルメタンなどが挙げられる。更に、有機酸類としては、特開昭60−88942号公報、特開平2−96755号公報などに記載されている、スルホン酸類、スルフィン酸類、アルキル硫酸類、ホスホン酸類、リン酸エステル類及びカルボン酸類などがあり、具体的には、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルフィン酸、エチル硫酸、フェニルホスホン酸、フェニルホスフィン酸、リン酸フェニル、リン酸ジフェニル、安息香酸、イソフタル酸、アジピン酸、p−トルイル酸、3,4−ジメトキシ安息香酸、フタル酸、テレフタル酸、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、エルカ酸、ラウリン酸、n−ウンデカン酸、アスコルビン酸などが挙げられる。
【0121】
上記の環状酸無水物、フェノール類及び有機酸類を画像形成層に添加する場合、画像形成層中に占める割合は、0.05〜20質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜15質量%、特に好ましくは0.1〜10質量%である。
【0122】
また、本発明に係る画像形成層の塗布液を調製する場合には、現像条件に対する処理の安定性を広げるため、特開昭62−251740号公報や特開平3−208514号公報に記載されているような非イオン界面活性剤、特開昭59−121044号公報、特開平4−13149号公報に記載されているような両性界面活性剤、EP950517公報に記載されているようなシロキサン系化合物、特開平11−288093号公報に記載されているようなフッ素含有のモノマー共重合体を添加することができる。
【0123】
非イオン界面活性剤の具体例としては、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタントリオレート、ステアリン酸モノグリセリド、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等が挙げられる。両面活性剤の具体例としては、アルキルジ(アミノエチル)グリシン、アルキルポリアミノエチルグリシン塩酸塩、2−アルキル−N−カルボキシエチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインやN−テトラデシル−N,N−ベタイン型(例えば、商品名「アモーゲンK」:第一工業製薬(株)製)等が挙げられる。
【0124】
シロキサン系化合物としては、ジメチルシロキサンとポリアルキレンオキシドのブロック共重合体が好ましく、具体例として、(株)チッソ社製、DBE−224,DBE−621,DBE−712,DBP−732,DBP−534、独Tego社製、Tego Glide100等のポリアルキレンオキシド変性シリコーンを挙げることができる。
【0125】
上記非イオン界面活性剤及び両性界面活性剤の画像形成層中に占める割合は、0.05〜15質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜5質量%である。
【0126】
本発明の平版印刷版原版の画像形成層には、露光による加熱後直ちに可視像を得るための焼き出し剤や、画像着色剤としての染料や顔料を加えることができる。
【0127】
焼き出し剤としては、露光による加熱によって酸を放出する化合物(光酸放出剤)と塩を形成し得る有機染料の組合せを代表として挙げることができる。具体的には、特開昭50−36209号、同53−8128号の各公報に記載されているo−ナフトキノンジアジド−4−スルホン酸ハロゲニドと塩形成性有機染料の組合せや、特開昭53−36223号、同54−74728号、同60−3626号、同61−143748号、同61−151644号及び同63−58440号の各公報に記載されているトリハロメチル化合物と塩形成性有機染料の組合せを挙げることができる。かかるトリハロメチル化合物としては、オキサゾール系化合物とトリアジン系化合物とがあり、どちらも経時安定性に優れ、明瞭な焼き出し画像を与える。
【0128】
画像の着色剤としては、前述の塩形成性有機染料以外に他の染料を用いることができる。塩形成性有機染料を含めて、好適な染料として油溶性染料と塩基性染料をあげることができる。具体的にはオイルイエロー#101、オイルイエロー#103、オイルピンク#312、オイルグリーンBG、オイルブルーBOS、オイルブルー#603、オイルブラックBY、オイルブラックBS、オイルブラックT−505(以上オリエント化学工業(株)製)、ビクトリアピュアブルー、クリスタルバイオレット(CI42555)、メチルバイオレット(CI42535)、エチルバイオレット、ローダミンB(CI145170B)、マラカイトグリーン(CI42000)、メチレンブルー(CI52015)などを挙げることができる。また、特開昭62−293247号公報に記載されている染料は特に好ましい。これらの染料は、画像形成層全固形分に対し、0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜3質量%の割合で添加することができる。更に本発明に係る画像形成層塗布液中には、必要に応じ、塗膜の柔軟性等を付与するために可塑剤が加えられる。例えば、ブチルフタリル、ポリエチレングリコール、クエン酸トリブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジオクチル、リン酸トリクレジル、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチル、オレイン酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸又はメタクリル酸のオリゴマー及びポリマー等が用いられる。
【0129】
また、これら以外にも、エポキシ化合物、ビニルエーテル類、更には、特開平8−276558号公報に記載のヒドロキシメチル基を有するフェノール化合物、アルコキシメチル基を有するフェノール化合物、及び、特開平11−160860号公報に記載のアルカリ溶解抑制作用を有する架橋性化合物などを目的に応じて適宜添加することができる。
【0130】
以上のようにして得られた本発明の画像記録材料における画像形成層は、皮膜形成性及び皮膜強度に優れ、且つ、赤外線の露光により、露光部が高いアルカリ可溶性を示す。
【0131】
2.ネガ型画像形成層
2−1.重合硬化層
ネガ型画像形成層の1つとして、重合硬化層が挙げられる。この重合硬化層には、(A)赤外線吸収剤と(B)ラジカル発生剤(ラジカル重合開始剤)と発生したラジカルにより重合反応を起こして硬化する(C)ラジカル重合性化合物とを含有し、好ましくは(D)バインダーポリマーを含有する。赤外線吸収剤が吸収した赤外線を熱に変換し、この際発生した熱により、オニウム塩等のラジカル重合開始剤が分解し、ラジカルを発生する。ラジカル重合性化合物は、少なくとも一個のエチレン性不飽和二重結合を有し、末端エチレン性不飽和結合を少なくとも1個、好ましくは2個以上有する化合物から選ばれ、発生したラジカルにより連鎖的に重合反応が生起して硬化する。
【0132】
2−2.酸架橋層
また、画像形成層の他の態様としては、酸架橋層が挙げられる。酸架橋層には、(E)光又は熱により酸を発生する化合物(以下、酸発生剤と称する)と、(F)発生した酸により架橋する化合物(以下、架橋剤と称する)とを含有し、更に、これらを含有する層を形成するための、酸の存在下で架橋剤と反応しうる(G)アルカリ可溶性ポリマーを含む。この酸架橋層においては、光照射又は加熱により、酸発生剤が分解して発生した酸が、架橋剤の働きを促進し、架橋剤同士或いは架橋剤とバインダーポリマーとの間で強固な架橋構造が形成され、これにより、アルカリ可溶性が低下して、現像剤に不溶となる。このとき、赤外線レーザのエネルギーを効率よく使用するため、画像形成層中には(A)赤外線吸収剤が配合される。
【0133】
((A)赤外線吸収剤〕)
赤外線レーザで画像形成可能な画像形成層には、赤外線吸収剤を含有する。赤外線吸収剤としては、記録に使用する光エネルギー照射線を吸収し、熱を発生する物質であれば特に吸収波長域の制限はなく用いることができるが、入手容易な高出力レーザの適合性の観点からは波長800nm〜1200nmに吸収極大を有する赤外線吸収性染料又は顔料が好ましく挙げられる。
【0134】
染料としては、市販の染料及び例えば「染料便覧」(有機合成化学協会編集、昭和45年刊)等の文献に記載されている公知のものが利用できる。具体的には、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、ナフトキノン染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料、スクワリリウム色素、ピリリウム塩、金属チオレート錯体等の染料が挙げられる。
【0135】
好ましい染料としては、例えば、特開昭58−125246号、特開昭59−84356号、特開昭59−202829号、特開昭60−78787号等に記載されているシアニン染料、特開昭58−173696号、特開昭58−181690号、特開昭58−194595号等に記載されているメチン染料、特開昭58−112793号、特開昭58−224793号、特開昭59−48187号、特開昭59−73996号、特開昭60−52940号、特開昭60−63744号等に記載されているナフトキノン染料、特開昭58−112792号等に記載されているスクワリリウム色素、英国特許434,875号記載のシアニン染料等を挙げることができる。
【0136】
また、米国特許第5,156,938号記載の近赤外吸収増感剤も好適に用いられ、また、米国特許第3,881,924号記載の置換されたアリールベンゾ(チオ)ピリリウム塩、特開昭57−142645号(米国特許第4,327,169号)記載のトリメチンチアピリリウム塩、特開昭58−181051号、同58−220143号、同59−41363号、同59−84248号、同59−84249号、同59−146063号、同59−146061号に記載されているピリリウム系化合物、特開昭59−216146号記載のシアニン色素、米国特許第4,283,475号に記載のペンタメチンチオピリリウム塩等や特公平5−13514号、同5−19702号に開示されているピリリウム化合物も好ましく用いられる。また、染料として好ましい別の例として米国特許第4,756,993号明細書中に式(I)、(II)として記載されている近赤外吸収染料を挙げることができる。
【0137】
また、本発明の赤外線吸収色素の好ましい他の例としては、以下に例示するような特願平2001−6326、特願平2001−237840記載の特定インドレニンシアニン色素が挙げられる。
【0138】
【化1】

【0139】
これらの染料のうち特に好ましいものとしては、シアニン色素、スクワリリウム色素、ピリリウム塩、ニッケルチオレート錯体、インドレニンシアニン色素が挙げられる。更に、シアニン色素やインドレニンシアニン色素が好ましく、特に好ましい一つの例として下記一般式(A)で示されるシアニン色素が挙げられる。
【0140】
【化2】

【0141】
一般式(A)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子、−NPh、X−L又は以下に示す基を表す。ここで、Xは酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子を示し、Lは、炭素原子数1〜12の炭化水素基、ヘテロ原子を有する芳香族環、ヘテロ原子を含む炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。なお、ここでヘテロ原子とは、N、S、O、ハロゲン原子、Seを示す。Xaは後述するZaと同様に定義され、Raは、水素原子、アル
キル基、アリール基、置換又は無置換のアミノ基、ハロゲン原子より選択される置換基を表す。
【0142】
【化3】

【0143】
及びRは、それぞれ独立に、炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。画像形成層塗布液の保存安定性から、R及びRは、炭素原子数2個以上の炭化水素基であることが好ましく、更に、RとRとは互いに結合し、5員環又は6員環を形成していることが特に好ましい。
【0144】
Ar、Arは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を示す。好ましい芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環及びナフタレン環が挙げられる。また、好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素原子数12個以下のアルコキシ基が挙げられる。Y、Yは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、硫黄原子又は炭素原子数12個以下のジアルキルメチレン基を示す。R、Rは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭素原子数20個以下の炭化水素基を示す。好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、カルボキシル基、スルホ基が挙げられる。R、R、R及びRは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子又は炭素原子数12個以下の炭化水素基を示す。原料の入手性から、好ましくは水素原子である。また、Zaは、対アニオンを示す。ただし、一般式(A)で示されるシアニン色素が、その構造内にアニオン性の置換基を有し、電荷の中和が必要ない場合にはZaは必要ない。好ましいZaは、画像形成層塗布液の保存安定性から、ハロゲンイオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、及びスルホン酸イオンであり、特に好ましくは、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロフォスフェートイオン、及びアリールスルホン酸イオンである。
【0145】
本発明において、好適に用いることのできる一般式(A)で示されるシアニン色素の具体例としては、特開2001−133969公報の段落番号[0017]から[0019]に記載されたものを挙げることができる。
【0146】
また、特に好ましい他の例として更に、前記した特願平2001−6326、特願平2001−237840明細書に記載の特定インドレニンシアニン色素が挙げられる。
【0147】
本発明において使用される顔料としては、市販の顔料及びカラーインデックス(C.I.)便覧、「最新顔料便覧」(日本顔料技術協会編、1977年刊)、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)、「印刷インキ技術」CMC出版、1984年刊)に記載されている顔料が利用できる。
【0148】
顔料の種類としては、黒色顔料、黄色顔料、オレンジ色顔料、褐色顔料、赤色顔料、紫色顔料、青色顔料、緑色顔料、蛍光顔料、金属粉顔料、その他、ポリマー結合色素が挙げられる。具体的には、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン系顔料、アントラキノン系顔料、ペリレン及びペリノン系顔料、チオインジゴ系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、イソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料、染付けレーキ顔料、アジン顔料、ニトロソ顔料、ニトロ顔料、天然顔料、蛍光顔料、無機顔料、カーボンブラック等が使用できる。これらの顔料のうち好ましいものはカーボンブラックである。
【0149】
これら顔料は表面処理をせずに用いてもよく、表面処理を施して用いてもよい。表面処理の方法には、樹脂やワックスを表面コートする方法、界面活性剤を付着させる方法、反応性物質(例えば、シランカップリング剤、エポキシ化合物、ポリイソシアネート等)を顔料表面に結合させる方法等が考えられる。上記の表面処理方法は、「金属石鹸の性質と応用」(幸書房)、「印刷インキ技術」(CMC出版、1984年刊)及び「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)に記載されている。
【0150】
顔料の粒径は、分散物の画像形成層塗布液中での安定性及び画像形成層の均一性の観点から、0.01μm〜10μmの範囲にあることが好ましく、0.05μm〜1μmの範囲にあることが更に好ましく、特に0.1μm〜1μmの範囲にあることが好ましい。
【0151】
顔料を分散する方法としては、インク製造やトナー製造等に用いられる公知の分散技術が使用できる。分散機としては、超音波分散器、サンドミル、アトライター、パールミル、スーパーミル、ボールミル、インペラー、デスパーザー、KDミル、コロイドミル、ダイナトロン、3本ロールミル、加圧ニーダー等が挙げられる。詳細は、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)に記載されている。
【0152】
画像形成層中における、赤外線吸収剤の含有量としては、画像形成層の全固形分質量に対し、0.01〜50質量%が好ましく、0.1〜10質量%がより好ましく、0.5〜10質量%が最も好ましい。この範囲において、高感度な記録が可能であり、非画像部における汚れの発生もなく、高画質の画像形成が可能である。
【0153】
((B)ラジカルを発生する化合物)
ラジカル発生剤は、光、熱、或いはその両方のエネルギーによりラジカルを発生し、重合性の不飽和基を有する化合物の重合を開始、促進させる化合物を指す。本発明に適用可能なラジカル発生剤としては、公知の熱重合開始剤や結合解離エネルギーの小さな結合を有する化合物などを選択して使用することができ、例えば、オニウム塩、トリハロメチル基を有するs−トリアジン化合物、オキサゾール化合物などの有機ハロゲン化合物、過酸化物、アゾ系重合開始剤、アリールアジド化合物、ベンゾフェノン類、アセトフェノン類、チオキサントン類等のカルボニル化合物、メタロセン化合物、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、有機ホウ素塩化合物、ジズルホン化合物等が挙げられる。
【0154】
本発明において、特に好適に用いられるラジカル発生剤としては、オニウム塩が挙げられ、なかでも、下記一般式(B−1)〜(B−3)で表されるオニウム塩が好ましく用いられる。
【0155】
【化4】

【0156】
式(B−1)中、Ar11とAr12は、それぞれ独立に、置換基を有していても良い炭素原子数20個以下のアリール基を示す。このアリール基が置換基を有する場合の好ましい置換基としては、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素原子数12個以下のアルキル基、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、又は炭素原子数12個以下のアリールオキシ基が挙げられる。Z11−は、無機アニオン又は有機アニオンを表す。
【0157】
式(B−2)中、Ar21は、置換基を有していても良い炭素原子数20個以下のアリール基を示す。好ましい置換基としては、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素原子数12個以下のアルキル基、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、炭素原子数12個以下のアリールオキシ基、炭素原子数12個以下のアルキルアミノ基、炭素原子数12個以下のジアルキルアミノ基、炭素原子数12個以下のアリールアミノ基又は、炭素原子数12個以下のジアリールアミノ基が挙げられる。Z21−はZ11−と同義の対イオンを表す。
【0158】
式(B−3)中、R31、R32及びR33は、それぞれ同じでも異なっていても良く、置換基を有していても良い炭素原子数20個以下の炭化水素基を示す。好ましい置換基としては、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素原子数12個以下のアルキル基、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、又は炭素原子数12個以下のアリールオキシ基が挙げられる。Z31−はZ11−と同義の対イオンを表す。
【0159】
前記一般式(B−1)〜(B−3)中のZ11−、Z21−、Z31−は無機アニオン若しくは、有機アニオンを表すが、無機アニオンとしては、ハロゲンイオン(F、Cl、Br、I)、過塩素酸イオン(ClO)、過ホウ素酸イオン(BrO)、テトラフルオロボレートイオン(BF)、SbF、PF等が挙げられ、有機アニオンとしては、有機ボレートアニオン、スルホン酸イオン、ホスホン酸イオン、カルボン酸イオン、R40−SO、R40−SO、R40−SO、R40−SO−Y−R40イオン(ここで、R40は炭素原子数1〜20のアルキル基、又は、炭素原子数6〜20のアリール基を表し、Yは単結合、−CO−、−SO−、を表す。)等が挙げられる。
【0160】
本発明において、好適に用いることのできるオニウム塩の具体例としては、特開2001−133696号公報の段落番号[0030]〜[0033]に記載されたものを挙げることができる。
【0161】
本発明において用いられるオニウム塩は、極大吸収波長が400nm以下であることが好ましく、更に360nm以下であることが好ましい。このように吸収波長を紫外線領域にすることにより、平版印刷版原版の取り扱いを白灯下で実施することができる。
【0162】
これらのオニウム塩は、1種のみを用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0163】
これらのオニウム塩は、画像形成層塗布液の全固形分に対し0.1〜50質量%、好ましくは0.5〜30質量%、特に好ましくは1〜20質量%の割合で添加することができる。添加量が上記範囲において、高感度な記録が達成され、また、印刷時における非画像部の汚れ発生が抑制される。
【0164】
これらのオニウム塩は必ずしも画像形成層に添加されなくてもよく、画像形成層に隣接して設けられる別の層へ添加してもよい。
【0165】
((C)ラジカル重合性化合物)
本態様における画像形成層に使用されるラジカル重合性化合物は、少なくとも一個のエチレン性不飽和二重結合を有するラジカル重合性化合物であり、末端エチレン性不飽和結合を少なくとも1個、好ましくは2個以上有する化合物から選ばれる。この様な化合物群は当該産業分野において広く知られるものであり、本発明においてはこれらを特に限定無く用いる事ができる。これらは、例えばモノマー、プレポリマー、即ち2量体、3量体及びオリゴマー、又はそれらの混合物並びにそれらの共重合体などの化学的形態をもつ。モノマー及びその共重合体の例としては、不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸など)や、そのエステル類、アミド類があげられ、好ましくは、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アルコール化合物とのエステル、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アミン化合物とのアミド類が用いられる。また、ヒドロキシル基や、アミノ基、メルカプト基等の求核性置換基を有する不飽和カルボン酸エステル、アミド類と単官能若しくは多官能イソシアネート類、エポキシ類との付加反応物、単官能若しくは、多官能のカルボン酸との脱水縮合反応物等も好適に使用される。また、イソシアナート基やエポキシ基等の親電子性置換基を有する不飽和カルボン酸エステル又はアミド類と、単官能若しくは多官能のアルコール類、アミン類及びチオール類との付加反応物、更に、ハロゲン基やトシルオキシ基等の脱離性置換基を有する不飽和カルボン酸エステル又はアミド類と、単官能若しくは多官能のアルコール類、アミン類及びチオール類との置換反応物も好適である。また、別の例として、上記の不飽和カルボン酸の代わりに、不飽和ホスホン酸、スチレン等に置き換えた化合物群を使用する事も可能である。
【0166】
脂肪族多価アルコール化合物と不飽和カルボン酸とのエステルであるラジカル重合性化合物であるアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、イタコン酸エステル、クロトン酸エステル、イソクロトン酸エステル、マレイン酸エステルの具体例は、特開2001−133696号公報の段落番号[0037]〜[0042]に記載されており、これらを本発明にも適用することができる。
【0167】
その他のエステルの例として、例えば、特公昭46−27926、特公昭51−47334、特開昭57−196231記載の脂肪族アルコール系エステル類や、特開昭59−5240、特開昭59−5241、特開平2−226149記載の芳香族系骨格を有するもの、特開平1−165613記載のアミノ基を含有するもの等も好適に用いられる。
【0168】
また、脂肪族多価アミン化合物と不飽和カルボン酸とのアミドのモノマーの具体例としては、メチレンビス−アクリルアミド、メチレンビス−メタクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビス−アクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビス−メタクリルアミド、ジエチレントリアミントリスアクリルアミド、キシリレンビスアクリルアミド、キシリレンビスメタクリルアミド等がある。
【0169】
その他の好ましいアミド系モノマーの例としては、特公昭54−21726記載のシクロへキシレン構造を有すものをあげる事ができる。
【0170】
また、イソシアネートと水酸基の付加反応を用いて製造されるウレタン系付加重合性化合物も好適であり、そのような具体例としては、例えば、特公昭48−41708号公報中に記載されている1分子に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物に、下記式(VI)で示される水酸基を含有するビニルモノマーを付加させた1分子中に2個以上の重合性ビニル基を含有するビニルウレタン化合物等が挙げられる。
【0171】
一般式(VI)
CH=C(R41)COOCHCH(R42)OH
(ただし、R41及びR42は、H又はCHを示す。)
また、特開昭51−37193号、特公平2−32293号、特公平2−16765号に記載されているようなウレタンアクリレート類や、特公昭58−49860号、特公昭56−17654号、特公昭62−39417、特公昭62−39418号記載のエチレンオキサイド系骨格を有するウレタン化合物類も好適である。
【0172】
更に、特開昭63−277653,特開昭63−260909号、特開平1−105238号に記載される、分子内にアミノ構造やスルフィド構造を有するラジカル重合性化合物類を用いても良い。
【0173】
その他の例としては、特開昭48−64183号、特公昭49−43191号、特公昭52−30490号、各公報に記載されているようなポリエステルアクリレート類、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸を反応させたエポキシアクリレート類等の多官能のアクリレートやメタクリレートをあげることができる。また、特公昭46−43946号、特公平1−40337号、特公平1−40336号記載の特定の不飽和化合物や、特開平2−25493号記載のビニルホスホン酸系化合物等もあげることができる。また、ある場合には、特開昭61−22048号記載のペルフルオロアルキル基を含有する構造が好適に使用される。更に日本接着協会誌 vol.20、No.7、300〜308ページ(1984年)に光硬化性モノマー及びオリゴマーとして紹介されているものも使用することができる。
【0174】
これらのラジカル重合性化合物について、どの様な構造を用いるか、単独で使用するか併用するか、添加量はどうかといった、使用方法の詳細は、最終的な記録材料の性能設計にあわせて、任意に設定できる。例えば、次のような観点から選択される。感度の点では1分子あたりの不飽和基含量が多い構造が好ましく、多くの場合、2官能以上がこのましい。また、画像部即ち硬化膜の強度を高くするためには、3官能以上のものが良く、更に、異なる官能数・異なる重合性基を有する化合物(例えば、アクリル酸エステル系化合物、メタクリル酸エステル系化合物、スチレン系化合物等)を組み合わせて用いることで、感光性と強度の両方を調節する方法も有効である。大きな分子量の化合物や、疎水性の高い化合物は感度や膜強度に優れる反面、現像スピードや現像液中での析出といった点で好ましく無い場合がある。また、画像形成層中の他の成分(例えばバインダーポリマー、開始剤、着色剤等)との相溶性、分散性に対しても、ラジカル重合化合物の選択・使用法は重要な要因であり、例えば、低純度化合物の使用や、2種以上化合物の併用によって、相溶性を向上させうることがある。また、支持体、オーバーコート層等の密着性を向上せしめる目的で特定の構造を選択することもあり得る。画像形成層中のラジカル重合性化合物の配合比に関しては、多い方が感度的に有利であるが、多すぎる場合には、好ましく無い相分離が生じたり、画像形成層の粘着性による製造工程上の問題(例えば、画像形成層成分の転写、粘着に由来する製造不良)や、現像液からの析出が生じる等の問題を生じうる。
【0175】
これらの観点から、ラジカル重合性化合物の好ましい配合比は、多くの場合、組成物全成分に対して5〜80質量%、好ましくは20〜75質量%である。また、これらは単独で用いても2種以上併用してもよい。そのほか、ラジカル重合性化合物の使用法は、酸素に対する重合阻害の大小、解像度、かぶり性、屈折率変化、表面粘着性等の観点から適切な構造、配合、添加量を任意に選択でき、更に場合によっては下塗り、上塗りといった層構成・塗布方法も実施しうる。
【0176】
((D)バインダーポリマー)
このような画像形成層においては、画像形成層の膜性向上の観点から更にバインダーポリマーを使用することが好ましく、バインダーとしては線状有機ポリマーを用いることが好ましい。このような「線状有機ポリマー」としては、どれを使用しても構わない。好ましくは水現像或いは弱アルカリ水現像を可能とするために、水或いは弱アルカリ水可溶性又は膨潤性である線状有機ポリマーが選択される。線状有機ポリマーは、画像形成層を形成するための皮膜形成剤としてだけでなく、水、弱アルカリ水或いは有機溶剤現像剤としての用途に応じて選択使用される。
【0177】
例えば、水可溶性有機ポリマーを用いると水現像が可能になる。このような線状有機ポリマーとしては、側鎖にカルボン酸基を有するラジカル重合体、例えば特開昭59−44615号、特公昭54−34327号、特公昭58−12577号、特公昭54−25957号、特開昭54−92723号、特開昭59−53836号、特開昭59−71048号に記載されているもの、即ち、メタクリル酸共重合体、アクリル酸共重合体、イタコン酸共重合体、クロトン酸共重合体、マレイン酸共重合体、部分エステル化マレイン酸共重合体等がある。また同様に側鎖にカルボン酸基を有する酸性セルロース誘導体がある。この他に水酸基を有する重合体に環状酸無水物を付加させたものなどが有用である。
【0178】
特にこれらの中で、ベンジル基又はアリル基と、カルボキシル基を側鎖に有する(メタ)アクリル樹脂が、膜強度、感度、現像性のバランスに優れており、好適である。
【0179】
また、特公平7−12004号、特公平7−120041号、特公平7−120042号、特公平8−12424号、特開昭63−287944号、特開昭63−287947号、特開平1−271741号、特開平11−352691号等に記載される酸基を含有するウレタン系バインダーポリマーは、非常に、強度に優れるので、耐刷性・低露光適性の点で有利である。
【0180】
更にこの他に水溶性線状有機ポリマーとして、ポリビニルピロリドンやポリエチレンオキサイド等が有用である。また硬化皮膜の強度を上げるためにアルコール可溶性ナイロンや2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパンとエピクロロヒドリンのポリエーテル等も有用である。
【0181】
本発明で使用されるポリマーの重量平均分子量については好ましくは5000以上であり、更に好ましくは1万〜30万の範囲であり、数平均分子量については好ましくは1000以上であり、更に好ましくは2000〜25万の範囲である。多分散度(重量平均分子量/数平均分子量)は1以上が好ましく、更に好ましくは1.1〜10の範囲である。
【0182】
これらのポリマーは、ランダムポリマー、ブロックポリマー、グラフトポリマー等いずれでもよいが、ランダムポリマーであることが好ましい。
【0183】
本発明で使用されるバインダーポリマーは単独で用いても混合して用いてもよい。これらポリマーは、画像形成層塗布液の全固形分に対し20〜95質量%、好ましくは30〜90質量%の割合で画像形成層中に添加される。添加量が20質量%未満の場合は、画像形成した際、画像部の強度が不足する。また添加量が95質量%を越える場合は、画像形成されない。またラジカル重合可能なエチレン性不飽和二重結合を有する化合物と線状有機ポリマーは、質量比で1/9〜7/3の範囲とするのが好ましい。
【0184】
次に、酸架橋層の構成成分について説明する。ここで用いられる赤外線吸収剤は、前記重合硬化型画像形成層におけるのと同様のものを用いることができる。
【0185】
好ましい含有量は、画像形成層の全固形分質量に対し、0.01〜50質量%が好ましく、0.1〜10質量%がより好ましく、更に0.5〜10質量%が最も好ましい。
【0186】
前記含有量の範囲において、高感度な記録が達成でき、更に、得られる平版印刷用の非画像部における汚れの発生が抑制される。
【0187】
((E)酸発生剤)
本実施の形態において、熱により分解して酸を発生する酸発生剤は、200〜500nmの波長領域の光を照射する又は100℃以上に加熱することにより、酸を発生する化合物をいう。
【0188】
前記酸発生剤としては、光カチオン重合の光開始剤、光ラジカル重合の光開始剤、色素類の光消色剤、光変色剤、或いは、マイクロレジスト等に使用されている公知の酸発生剤等、熱分解して酸を発生しうる、公知の化合物及びそれらの混合物等が挙げられる。
【0189】
上述の酸発生剤のうち、下記一般式(E−1)〜(E−5)で表される化合物が好ましい。
【0190】
【化5】

【0191】
前記一般式(E−1)〜(E−5)中、R、R、R及びRは、同一でも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭素数20以下の炭化水素基を表す。Rは、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数10以下の炭化水素基又は炭素数10以下のアルコキシ基を表す。Ar、Arは、同一でも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭素数20以下のアリール基を表す。Rは、置換基を有していてもよい炭素数20以下の2価の炭化水素基を表す。nは、0〜4の整数を表す。
【0192】
前記式中、R、R、R及びRは、炭素数1〜14の炭化水素基が好ましい。
【0193】
前記一般式(E−1)〜(E−5)で表される酸発生剤の好ましい態様は、特開2001−142230号公報の段落番号[0197]〜[0222]に一般式(I)〜(V)の化合物として詳細に記載されている。これらの化合物は、例えば、特開平2−100054号、特開平2−100055号に記載の方法により合成することができる。
【0194】
また、(E)酸発生剤として、ハロゲン化物やスルホン酸等を対イオンとするオニウム塩も挙げることができ、中でも、下記一般式(E−6)〜(E−8)で表されるヨードニウム塩、スルホニウム塩、ジアゾニウム塩のいずれかの構造式を有するものを好適に挙げることができる。
【0195】
【化6】

【0196】
前記一般式(E−6)〜(E−8)中、Xは、ハロゲン化物イオン、ClO、PF、SbF、BF又はRSOを表し、ここで、Rは、置換基を有していてもよい炭素数20以下の炭化水素基を表す。Ar、Arは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数20以下のアリール基を表す。R、R、R10は、置換基を有していてもよい炭素数18以下の炭化水素基を表す。
【0197】
このようなオニウム塩は、特開平10−39509号公報段落番号[0010]〜[0035]に一般式(I)〜(III)の化合物として記載されている。
【0198】
酸発生剤の添加量としては、画像形成層の全固形分質量に対し0.01〜50質量%が好ましく、0.1〜25質量%がより好ましく、0.5〜20質量%が最も好ましい。
【0199】
前記添加量が、0.01質量%未満であると、画像が得られないことがあり、50質量%を超えると、平版印刷用原版とした時の印刷時において非画像部に汚れが発生することがある。
【0200】
上述の酸発生剤は単独で使用してもよいし、2種以上を組合わせて使用してもよい。
【0201】
((F)架橋剤)
次に、架橋剤について説明する。架橋剤としては、以下のものが挙げられる。
【0202】
(i)ヒドロキシメチル基若しくはアルコキシメチル基で置換された芳香族化合物
(ii)N−ヒドロキシメチル基、N−アルコキシメチル基若しくはN−アシルオキシメチル基を有する化合物
(iii)エポキシ化合物
以下、前記(i)〜(iii)の化合物について詳述する。
【0203】
前記(i)ヒドロキシメチル基若しくはアルコキシメチル基で置換された芳香族化合物としては、例えば、ヒドロキシメチル基、アセトキシメチル基若しくはアルコキシメチル基でポリ置換されている芳香族化合物又は複素環化合物が挙げられる。但し、レゾール樹脂として知られるフェノール類とアルデヒド類とを塩基性条件下で縮重合させた樹脂状の化合物も含まれる。
【0204】
ヒドロキシメチル基又はアルコキシメチル基でポリ置換された芳香族化合物又は複素環化合物のうち、中でも、ヒドロキシ基に隣接する位置にヒドロキシメチル基又はアルコキシメチル基を有する化合物が好ましい。
【0205】
また、アルコキシメチル基でポリ置換された芳香族化合物又は複素環化合物では、中でも、アルコキシメチル基が炭素数18以下の化合物が好ましく、下記一般式(F−1)〜(F−4)で表される化合物がより好ましい。
【0206】
【化7】

【0207】
【化8】

【0208】
前記一般式(F−1)〜(F−4)中、L〜Lは、それぞれ独立に、メトキシメチル、エトキシメチル等の、炭素数18以下のアルコキシ基で置換されたヒドロキシメチル基又はアルコキシメチル基を表す。
【0209】
これらの架橋剤は、架橋効率が高く、耐刷性を向上できる点で好ましい。
【0210】
(ii)N−ヒドロキシメチル基、N−アルコキシメチル基若しくはN−アシルオキシメチル基を有する化合物としては、欧州特許公開(以下、「EP−A」と示す。)第0,133,216号、西独特許第3,634,671号、同第3,711,264号に記載の、単量体及びオリゴマー−メラミン−ホルムアルデヒド縮合物並びに尿素−ホルムアルデヒド縮合物、EP−A第0,212,482号明細書に記載のアルコキシ置換化合物等が挙げられる。
【0211】
なかでも、例えば、少なくとも2個の遊離N−ヒドロキシメチル基、N−アルコキシメチル基若しくはN−アシルオキシメチル基を有するメラミン−ホルムアルデヒド誘導体が好ましく、N−アルコキシメチル誘導体が最も好ましい。
【0212】
(iii) エポキシ化合物としては、1以上のエポキシ基を有する、モノマー、ダイマー、オリゴマー、ポリマー状のエポキシ化合物が挙げられ、例えば、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの反応生成物、低分子量フェノール−ホルムアルデヒド樹脂とエピクロルヒドリンとの反応生成物等が挙げられる。
【0213】
その他、米国特許第4,026,705号、英国特許第1,539,192号の各明細書に記載され、使用されているエポキシ樹脂を挙げることができる。
【0214】
架橋剤として、前記(i)〜(iii)の化合物を用いる場合の添加量としては、画像形成層の全固形分質量に対し5〜80質量%が好ましく、10〜75質量%がより好ましく、20〜70質量%が最も好ましい。
【0215】
前記添加量が、5質量%未満であると、得られる画像記録材料の画像形成層の耐久性が低下することがあり、80質量%を超えると、保存時の安定性が低下することがある。
【0216】
本発明においては、架橋剤として、(iv)下記一般式(F−5)で表されるフェノール誘導体も好適に使用することができる。
【0217】
【化9】

【0218】
前記一般式(F−5)中、Arは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環を表し、R、R及びRは水素原子又は炭素数12個以下の炭化水素基を表す。mは2〜4の整数を表し、nは1〜3の整数を表す。
【0219】
原料の入手性の点で、前記芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、ナフタレン環又はアントラセン環が好ましい。また、その置換基としては、ハロゲン原子、炭素数12以下の炭化水素基、炭素数12以下のアルコキシ基、炭素数12以下のアルキルチオ基、シアノ基、ニトロ基、トリフルオロメチル基等が好ましい。
【0220】
上記のうち、高感度化が可能である点で、Arとしては、置換基を有していないベンゼン環、ナフタレン環、或いは、ハロゲン原子、炭素数6以下の炭化水素基、炭素数6以下のアルコキシ基、炭素数6以下のアルキルチオ基、炭素数12以下のアルキルカルバモイル基、又はニトロ基等を置換基として有するベンゼン環、又はナフタレン環がより好ましい。
【0221】
上記R、Rで表される炭化水素基としては、合成が容易であるという理由から、メチル基が好ましい。Rで表される炭化水素基としては、感度が高いという理由から、メチル基、ベンジル基等の炭素数7以下の炭化水素基であることが好ましい。更に、合成の容易さから、mは、2又は3であることが好ましく、nは1又は2であることが好ましい。
【0222】
((G)アルカリ水可溶性高分子化合物)
本発明に適用可能な架橋層に使用可能なアルカリ水可溶性高分子化合物としては、ノボラック樹脂や側鎖にヒドロキシアリール基を有するポリマー等が挙げられる。前記ノボラック樹脂としては、フェノール類とアルデヒド類を酸性条件下で縮合させた樹脂が挙げられる。
中でも、例えば、フェノールとホルムアルデヒドから得られるノボラック樹脂、m−クレゾールとホルムアルデヒドから得られるノボラック樹脂、p−クレゾールとホルムアルデヒドから得られるノボラック樹脂、o−クレゾールとホルムアルデヒドから得られるノボラック樹脂、オクチルフェノールとホルムアルデヒドから得られるノボラック樹脂、m−/p−混合クレゾールとホルムアルデヒドから得られるノボラック樹脂、フェノール/クレゾール(m−,p−,o−又はm−/p−,m−/o−,o−/p−混合のいずれでもよい)の混合物とホルムアルデヒドから得られるノボラック樹脂や、フェノールとパラホルムアルデヒドとを原料とし、触媒を使用せず密閉状態で高圧下、反応させて得られるオルソ結合率の高い高分子量ノボラック樹脂等が好ましい。
【0223】
前記ノボラック樹脂は、重量平均分子量が800〜300,000で、数平均分子量が400〜60,000のものの中から、目的に応じて好適なものを選択して用いればよい。
【0224】
また、前記側鎖にヒドロキシアリール基を有するポリマーも好ましく、該ポリマー中のヒドロキシアリール基としては、OH基が1以上結合したアリール基が挙げられる。
【0225】
前記アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基等が挙げられ、中でも、入手の容易性及び物性の観点から、フェニル基又はナフチル基が好ましい。
【0226】
本実施の形態に使用可能な、側鎖にヒドロキシアリール基を有するポリマーとしては、例えば、下記一般式(G−1)〜(G−4)で表される構成単位のうちのいずれか1種を含むポリマーを挙げることができる。但し、本発明においては、これらに限定されるものではない。
【0227】
【化10】

【0228】
一般式(G−1)〜(G−4)中、R11は、水素原子又はメチル基を表す。R12及びR13は、同じでも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素数10以下の炭化水素基、炭素数10以下のアルコキシ基又は炭素数10以下のアリールオキシ基を表す。また、R12とR13が結合、縮環してベンゼン環やシクロヘキサン環を形成していてもよい。R14は、単結合又は炭素数20以下の2価の炭化水素基を表す。R15は、単結合又は炭素数20以下の2価の炭化水素基を表す。R16は、単結合又は炭素数10以下の2価の炭化水素基を表す。Xは、単結合、エーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合又はアミド結合を表す。pは、1〜4の整数を表す。q及びrは、それぞれ独立に0〜3の整数を表す。
【0229】
これらのアルカリ可溶性高分子としては、特開2001−142230号公報の段落番号[0130]〜[0163]に詳細に記載されている。
【0230】
本実施の形態に使用可能なアルカリ水可溶性高分子化合物は、1種類のみで使用してもよいし、2種類以上を組合せて使用してもよい。
【0231】
アルカリ水可溶性高分子化合物の添加量としては、画像形成層の全固形分に対し5〜95質量%が好ましく、10〜95質量%がより好ましく、20〜90質量%が最も好ましい。
【0232】
アルカリ水可溶性樹脂の添加量が、5質量%未満であると、画像形成層の耐久性が劣化することがあり、95質量%を超えると、画像形成されないことがある。
【0233】
また、本発明に係る画像形成層に適用できる公知の記録材料としては、特開平8−276558号公報に記載のフェノール誘導体を含有するネガ型画像記録材料、特開平7−306528号公報に記載のジアゾニウム化合物を含有するネガ型記録材料、特開平10−203037号公報に記載されている環内に不飽和結合を有する複素環基を有するポリマーを用いた、酸触媒による架橋反応を利用したネガ型画像形成材料などが挙げられ、これらに記載の画像形成層を本発明におけるネガ型画像形成層としての酸架橋層に適用することができる。
【0234】
(その他の成分)
このようなネガ型の画像形成層には、更に必要に応じてこれら以外に種々の化合物を添加してもよい。例えば、可視光域に大きな吸収を持つ染料を画像の着色剤として使用することができる。また、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料、カーボンブラック、酸化チタンなどの顔料も好適に用いることができる。
【0235】
また、本発明においては、画像形成層が重合硬化層である場合、塗布液の調製中或いは保存中においてラジカル重合可能なエチレン性不飽和二重結合を有する化合物の不要な熱重合を阻止するために少量の熱重合防止剤を添加することが望ましい。適当な熱重合防止剤としてはハイドロキノン、p−メトキシフェノール、ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ピロガロール、t−ブチルカテコール、ベンゾキノン、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、N−ニトロソ−N−フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩等が挙げられる。熱重合防止剤の添加量は、全組成物の質量に対して約0.01質量%〜約5質量%が好ましい。また必要に応じて、酸素による重合阻害を防止するためにベヘン酸やベヘン酸アミドのような高級脂肪酸誘導体等を添加して、塗布後の乾燥の過程で画像形成層の表面に偏在させてもよい。高級脂肪酸誘導体の添加量は、全組成物の約0.1質量%〜約10質量%が好ましい。
【0236】
また、本発明における画像形成層塗布液中には、現像条件に対する処理の安定性を広げるため、特開昭62−251740号や特開平3−208514号に記載されているような非イオン界面活性剤、特開昭59−121044号、特開平4−13149号に記載されているような両性界面活性剤を添加することができる。
【0237】
非イオン界面活性剤の具体例としては、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタントリオレート、ステアリン酸モノグリセリド、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等が挙げられる。
【0238】
両性界面活性剤の具体例としては、アルキルジ(アミノエチル)グリシン、アルキルポリアミノエチルグリシン塩酸塩、2−アルキル−N−カルボキシエチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、N−テトラデシル−N,N−ベタイン型(例えば、商品名アモーゲンK、第一工業(株)製)等が挙げられる。
【0239】
上記非イオン界面活性剤及び両性界面活性剤の画像形成層塗布液中に占める割合は、0.05〜15質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜5質量%である。
【0240】
更に、本発明における画像形成層塗布液中には、必要に応じ、塗膜の柔軟性等を付与するために可塑剤が加えられる。例えば、ポリエチレングリコール、クエン酸トリブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジオクチル、リン酸トリクレジル、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチル、オレイン酸テトラヒドロフルフリル等が用いられる。
【0241】
3.疎水化前駆体含有画像形成層
本発明の平版印刷版用支持体に適用し得るさらなる画像形成層として、加熱又は輻射線の照射により疎水性領域を形成しうる化合物(以下、適宜、疎水化前駆体と称する)を含有する感熱画像形成層が挙げられる。このような画像形成層は、(a)熱反応性官能基を有する微粒子ポリマー、又は、(b)熱反応性官能基を有する化合物を内包するマイクロカプセルなどのように、加熱により、互いに融着したり、例えば、マイクロカプセルであれば、その内包物が熱により化学反応を起こしたりして、画像部領域即ち疎水性領域(親インク領域)を形成する化合物を含有し、これらは好ましくは、親水性のバインダー中に分散されているので、画像形成(露光)後は、印刷機シリンダー上に平版印刷版原版を取付け、湿し水及び/又はインキを供給することで、特段の現像処理を行なうことなく、機上現像できることが特徴である。
【0242】
このような画像形成層は、(a)熱反応性官能基を有する微粒子ポリマー、又は、(b)熱反応性官能基を有する化合物を内包するマイクロカプセルを含有する。
【0243】
上記(a)及び(b)に共通の熱反応性官能基としては、例えば、重合反応を行うエチレン性不飽和基(例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、アリル基)、付加反応を行うイソシアネート基又はそのブロック体、その反応相手である活性水素原子を有する官能基(例えば、アミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基)、同じく付加反応を行うエポキシ基、その反応相手であるアミノ基、カルボキシル基又はヒドロキシル基、縮合反応を行うカルボキシル基とヒドロキシル基又はアミノ基、開環付加反応を行う酸無水物とアミノ基又はヒドロキシル基が挙げられる。本発明に用いられる熱反応性官能基は、これらに限定されず、化学結合が形成されるならば、どのような反応を行う官能基でもよい。
【0244】
((a)熱反応性官能基を有する微粒子ポリマー)
(a)微粒子ポリマーに好適な熱反応性官能基としては、例えば、アクリロイル基、メタクリルロイル基、ビニル基、アリル基、エポキシ基、アミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、イソシアネート基、酸無水物基及びそれらを保護した基が挙げられる。熱反応性官能基のポリマー微粒子への導入は、ポリマーの重合時に行ってもよいし、重合後に高分子反応を利用して行ってもよい。
【0245】
熱反応性官能基をポリマーの重合時に導入する場合は、熱反応性官能基を有するモノマーを用いて乳化重合又は懸濁重合を行うのが好ましい。
【0246】
熱反応性官能基を有するモノマーの具体例としては、アリルメタクリレート、アリルアクリレート、ビニルメタクリレート、ビニルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、2−イソシアネートエチルメタクリレート、そのアルコールなどによるブロックイソシアネート、2−イソシアネートエチルアクリレート、そのアルコールなどによるブロックイソシアネート、2−アミノエチルメタクリレート、2−アミノエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、二官能アクリレート、二官能メタクリレートが挙げられる。本発明に用いられる熱反応性官能基を有するモノマーは、これらに限定されない。
【0247】
これらのモノマーと共重合可能な、熱反応性官能基を有しないモノマーとしては、例えば、スチレン、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、アクリロニトリル、酢酸ビニルが挙げられる。本発明に用いられる熱反応性官能基を有しないモノマーは、これらに限定されない。
【0248】
熱反応性官能基をポリマーの重合後に導入する場合に用いられる高分子反応としては、例えば、国際公開第96/34316号パンフレットに記載されている高分子反応が挙げられる。
【0249】
上記(a)熱反応性官能基を有する微粒子ポリマーの中でも、画像形成性の観点からは、微粒子ポリマー同志が熱により容易に融着、合体するものが好ましく、また、機上現像性の観点から、その表面が親水性で、水に分散するものが、特に好ましい。また、微粒子ポリマーのみを塗布し、凝固温度よりも低い温度で乾燥して作製したときの皮膜の接触角(空中水滴)が、凝固温度よりも高い温度で乾燥して作製したときの皮膜の接触角(空中水滴)よりも低くなることが好ましい。
【0250】
微粒子ポリマー表面の親水性をこのような好ましい状態にするには、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールなどの親水性ポリマー或いはオリゴマー、又は親水性低分子化合物を微粒子ポリマー表面に吸着させてやればよいが、微粒子の表面親水化方法はこれらに限定されるものではなく、公知の種々の表面親水化方法を適用することができる。
【0251】
(a)熱反応性官能基を有する微粒子ポリマーの熱融着温度は、70℃以上であることが好ましいが、経時安定性を考えると80℃以上が更に好ましい。ただし、あまり熱融着温度が高いと感度の観点からは好ましくないので、80〜250℃の範囲が好ましく、100〜150℃の範囲であることが更に好ましい。
【0252】
(a)微粒子ポリマーの平均粒径は、0.01〜20μmであるのが好ましいが、その中でも0.05〜2.0μmであるのがより好ましく、0.1〜1.0μmであるのが好ましい。この範囲内で良好な解像度と経時安定性が得られる。
【0253】
(a)微粒子ポリマーの添加量は、画像形成層固形分の50〜98質量%が好ましく、60〜95質量%が更に好ましい。
【0254】
((b)熱反応性官能基を有する化合物を内包するマイクロカプセル)
(b)マイクロカプセルに好適な熱反応性官能基としては、先に(a)、(b)に共通のものとして挙げた官能基の他、例えば、重合性不飽和基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボキシレート基、酸無水物基、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基、イソシアネートブロック体などが挙げられる。
【0255】
重合性不飽和基を有する化合物としては、エチレン性不飽和結合、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、アリル基を少なくとも1個、好ましくは2個以上有する化合物であるのが好ましい。そのような化合物群は当該産業分野において広く知られるものであり、本発明においては、これらを特に限定されずに用いることができる。これらは、化学的形態としては、モノマー、プレポリマー、即ち、二量体、三量体及びオリゴマー、又はそれらの混合物、及びそれらの共重合体である。
【0256】
具体的には、例えば、不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸)、そのエステル、不飽和カルボン酸アミドが挙げられる。中でも、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アルコールとのエステル及び不飽和カルボン酸と脂肪族多価アミンとのアミドが好ましい。
【0257】
また、ヒドロキシル基、アミノ基、メルカプト基等の求核性置換基を有する不飽和カルボン酸エステル又は不飽和カルボン酸アミドと単官能若しくは多官能のイソシアネート又はエポキシドとの付加反応物、及び、単官能若しくは多官能のカルボン酸との脱水縮合反応物等も好適に用いられる。
【0258】
また、イソシアネート基、エポキシ基等の親電子性置換基を有する不飽和カルボン酸エステル又はアミドと、単官能若しくは多官能のアルコール、アミン又はチオールとの付加反応物、及び、ハロゲン基やトシルオキシ基等の脱離性置換基を有する不飽和カルボン酸エステル又はアミドと、単官能若しくは多官能アルコール、アミン又はチオールとの置換反応物も好適である。
【0259】
また、別の好適な例として、上記の不飽和カルボン酸を、不飽和ホスホン酸又はクロロメチルスチレンに置き換えた化合物が挙げられる。
【0260】
これらの具体的な化合物としては、本願出願人が先に提案した特開2001−27742号公報の段落番号〔0014〕乃至〔0035〕に、また、これらの化合物を内包するマイクロカプセルの詳細な製造方法については、同〔0036〕乃至〔0039〕に記載され、これらの記載は本発明にも適用し得る。
【0261】
(b)マイクロカプセルに好適に用いられるマイクロカプセル壁は、三次元架橋を有し、溶剤によって膨潤する性質を有するものである。このような観点から、マイクロカプセルの壁材は、ポリウレア、ポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、又はこれらの混合物が好ましく、特に、ポリウレア及びポリウレタンが好ましい。また、マイクロカプセル壁に熱反応性官能基を有する化合物を導入してもよい。
【0262】
(b)マイクロカプセルの平均粒径は、0.01〜20μmであるのが好ましく、0.05〜2.0μmであるのがより好ましく、0.10〜1.0μmであるのが特に好ましい。上記範囲内であると、良好な解像度と経時安定性が得られる。
【0263】
(b)熱反応性官能基を有するマイクロカプセルを用いた画像形成機構では、マイクロカプセル材料、そこに内包物された化合物、更には、マイクロカプセルが分散された画像形成層中に存在する他の任意成分などが、反応し、画像部領域即ち疎水性領域(親インク領域)を形成するものであればよく、例えば、前記したようなマイクロカプセル同士が熱により融着するタイプ、マイクロカプセル内包物のうち、塗布時にカプセル表面或いはマイクロカプセル外に滲み出した化合物、或いは、マイクロカプセル壁に外部から浸入した化合物が、熱により化学反応を起こすタイプ、或いは、それらのマイクロカプセル材料や内包された化合物が添加された親水性樹脂、或いは、添加された低分子化合物と反応するタイプ、2種類以上のマイクロカプセル壁材或いはその内包物に、それぞれ異なる官能基で互いに熱反応するような官能基をもたせるものを用いることによって、マイクロカプセル同士を反応させるタイプなどが挙げられる。
【0264】
従って、熱によってマイクロカプセル同志が、溶融合体することは画像形成上好ましいことであるが、必須ではない。
【0265】
(b)マイクロカプセルの画像形成層への添加量は、固形分換算で、10〜60質量%であるのが好ましく、15〜40質量%であるのがより好ましい。上記範囲であると、良好な機上現像性と同時に、良好な感度及び耐刷性が得られる。
【0266】
(b)マイクロカプセルを画像形成層に添加する場合、内包物が溶解し、かつ、壁材が膨潤する溶剤をマイクロカプセル分散媒中に添加することができる。このような溶剤によって、内包された熱反応性官能基を有する化合物の、マイクロカプセル外への拡散が促進される。
【0267】
このような溶剤は、マイクロカプセル分散媒、マイクロカプセル壁の材質、壁厚及び内包物に依存するが、多くの市販されている溶剤から容易に選択することができる。例えば、架橋ポリウレア、ポリウレタン壁からなる水分散性マイクロカプセルの場合、アルコール類、エーテル類、アセタール類、エステル類、ケトン類、多価アルコール類、アミド類、アミン類、脂肪酸類等が好ましい。
【0268】
マイクロカプセル分散液には溶解しないが、前記溶剤を混合すれば溶解する溶剤も用いることができる。添加量は、素材の組み合わせにより決まるものであるが、適性値より少ない場合は、画像形成が不十分となり、多い場合は分散液の安定性が劣化する。通常、塗布液の5〜95質量%であるのが好ましく、10〜90質量%であるのがより好ましく、15〜85質量%であるのが特に好ましい。
【0269】
(その他の成分)
本態様における感熱画像形成層には、前記画像形成性を有する(a)熱反応性官能基を有する微粒子ポリマー、又は、(b)熱反応性官能基を有する化合物を内包するマイクロカプセルのほか、目的に応じて種々の添加剤を併用することができる。
【0270】
(反応開始剤、反応促進剤)
前記感熱画像形成層においては、必要に応じてこれらの反応を開始し又は促進する化合物を添加してもよい。反応を開始し又は促進する化合物としては、例えば、熱によりラジカル又はカチオンを発生するような化合物が挙げられる。具体的には、例えば、ロフィンダイマー、トリハロメチル化合物、過酸化物、アゾ化合物、ジアゾニウム塩又はジフェニルヨードニウム塩などを含んだオニウム塩、アシルホスフィン、イミドスルホナートが挙げられる。
【0271】
これらの化合物は、画像形成層固形分の1〜20質量%の範囲で添加するのが好ましく、3〜10質量%の範囲であるのがより好ましい。上記範囲内であると、機上現像性を損なわず、良好な反応開始効果又は反応促進効果が得られる。
【0272】
(親水性樹脂)
本発明におけるこのような感熱画像形成層には親水性樹脂を添加しても良い。親水性樹脂を添加することにより機上現像性が良好となるばかりか、感熱画像形成層自体の皮膜強度も向上する。
【0273】
親水性樹脂としては、例えばヒドロキシル、カルボキシル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル、アミノ、アミノエチル、アミノプロピル、カルボキシメチルなどの親水基を有するものが好ましい。
【0274】
親水性樹脂の具体例として、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、澱粉誘導体、カルボキシメチルセルロース及びそのナトリウム塩、セルロースアセテート、アルギン酸ナトリウム、酢酸ビニル−マレイン酸コポリマー類、スチレン−マレイン酸コポリマー類、ポリアクリル酸類及びそれらの塩、ポリメタクリル酸類及びそれらの塩、ヒドロキシエチルメタクリレートのホモポリマー及びコポリマー、ヒドロキシエチルアクリレートのホモポリマー及びコポリマー、ヒドロキシプロピルメタクリレートのホモポリマー及びコポリマー、ヒドロキシプロピルアクリレートのホモポリマー及びコポリマー、ヒドロキシブチルメタクリレートのホモポリマー及びコポリマー、ヒドロキシブチルアクリレートのホモポリマー及びコポリマー、ポリエチレングリコール類、ヒドロキシプロピレンポリマー類、ポリビニルアルコール類、並びに加水分解度が少なくとも60質量%、好ましくは少なくとも80質量%の加水分解ポリビニルアセテート、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、アクリルアミドのホモポリマー及びコポリマー、メタクリルアミドのホモポリマー及びポリマー、N−メチロールアクリルアミドのホモポリマー及びコポリマー等を挙げることができる。
【0275】
親水性樹脂の感熱画像形成層への添加量は、画像形成層固形分の5〜40質量%が好ましく、10〜30質量%が更に好ましい。この範囲内で、良好な機上現像性と皮膜強度が得られる。
【0276】
このような熱応答性の画像形成層(感熱画像形成層)を、赤外線レーザ光の走査露光等により画像形成するため、(A)赤外線吸収剤を画像形成層に含有させる。好ましい添加量は、画像形成層塗布液全固形分中、1〜30質量%が好ましく、5〜25質量%がより好ましい。含有量が上記範囲にあると、感度、画像形成性ともに優れた画像形成層となる。
【0277】
疎水化前駆体を含む画像形成層は、必要な上記各成分を溶剤に溶解、若しくは分散し、塗布液を調製し、前記支持体の親水性表面上に塗布される。塗布液の固形分濃度は、好ましくは1〜50質量%である。
【0278】
(その他の平版印刷版原版)
本発明は、赤外線レーザ露光以外の平版印刷版原版にも好ましく用いることができる。以下に、赤外線レーザ露光以外の平版印刷版原版及び画像形成層の例について詳細に説明する。
【0279】
ポジ型画像形成層の好ましい例としては、以下に示す従来公知のポジ型画像形成層[(a)〜(b)]を挙げることができる。
【0280】
(a)ナフトキノンジアジドとノボラック樹脂とを含有してなる従来から用いられているコンベンショナルポジ型画像形成層。
【0281】
(b)酸分解性基で保護されたアルカリ可溶性化合物と酸発生剤との組み合わせを含有してなる化学増幅型ポジ型画像形成層。
【0282】
上記(a)及び(b)は、いずれも当分野においてはよく知られたものであるが、以下に示すポジ型画像形成層((c)〜(f))と組み合わせて用いることが更に好適である。
【0283】
(c)特開平10−282672号に記載の現像処理不要な平版印刷版を作製することができる、スルホン酸エステルポリマーと赤外線吸収剤とを含有してなるレーザー感応性ポジ型画像形成層。
【0284】
(d)EP652483号、特開平6−502260号に記載の現像処理不要な平版印刷版を作製することができる、カルボン酸エステルポリマーと、酸発生剤若しくは赤外線吸収剤とを含有してなるレーザ感応性ポジ型画像形成層。
【0285】
(e)特開平11−095421号に記載のアルカリ可溶性化合物、及び熱分解性でありかつ分解しない状態ではアルカリ可溶性化合物の溶解性を実質的に低下させる物質を含有してなるレーザ感応性ポジ型画像形成層。
【0286】
(f)アルカリ現像溶出型ポジ平版印刷版を作製することができる、赤外線吸収剤、ノボラック樹脂、及び溶解抑止剤を含有してなるアルカリ現像溶出ポジ型画像形成層。
【0287】
本発明の平版印刷版用支持体上には、前記画像記録塗布液などの所望の層の塗布液用成分を溶媒に溶かして塗布することにより画像形成層を形成し、平版印刷版原版を製造することができる。平版印刷版原版には、画像形成層に加え、目的に応じて、保護層、樹脂中間層、下塗り層、バックコート層なども同様にして形成することができる。
【0288】
ここで使用する溶媒としては、エチレンジクロライド、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、2−メトキシエチルアセテート、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、ジメトキシエタン、乳酸メチル、乳酸エチル、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラメチルウレア、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトン、トルエン等を、また、水溶性の画像形成層を用いる場合には、水、或いはアルコール類等の水性溶媒を挙げることができるがこれに限定されるものではなく、画像形成層の物性にあわせて適宜選択すればよい。これらの溶媒は単独或いは混合して使用される。
【0289】
溶媒中の上記成分(添加剤を含む全固形分)の濃度は、好ましくは1〜50質量%である。
【0290】
また塗布、乾燥後に得られる支持体上の塗布量(固形分)は、用途によって異なるが、感光性印刷版についていえば一般的に0.5〜5.0g/m2が好ましい。塗布量が少なくなるにつれて、見かけの感度は大になるが、感光膜の皮膜特性は低下する。
【0291】
塗布する方法としては、種々の方法を用いることができるが、例えば、バーコーター塗布、回転塗布、スプレー塗布、カーテン塗布、ディップ塗布、エアーナイフ塗布、ブレード塗布、ロール塗布等を挙げることができる。
【0292】
本発明の平版印刷版原版は、支持体と画像形成層との密着性に優れると共に、現像により速やかに親水性の支持体表面が露出することで、非画像部の印刷汚れ性が改善され、厳しい印刷条件においても、高画質の印刷物が多数枚得られる。
【0293】
本発明の平版印刷版原版は、その画像形成層に応じた公知の製版方法を適用し、平版印刷版を得ることができる。
【0294】
その後、得られた平版印刷版は、印刷機にかけられ、多数枚の印刷に用いられる。
[オーバーコート層の形成]
オーバーコート層塗布・乾燥部において、感光層の上に、酸素遮断性のオーバーコート層塗料を塗布コーターで塗布する。塗布コーターおよび乾燥装置としては、下塗り層、感光層を形成したものと同様のものを使用することができるが、乾燥装置は熱風乾燥方式が好ましい。
【0295】
本発明では、感光層の上に塗布コーターでオーバーコート層塗料を塗布してオーバーコート層を形成した後、オーバーコート層の結晶化度が0.2〜0.5になるように、熱風乾燥装置における乾燥風の温度、風速、露点、乾燥時間の乾燥条件のうち、少なくとも1つの乾燥条件を調整する。オーバーコート層の水溶性高分子の結晶化度を制御することで感光性平版印刷版の品質を左右する感度や耐刷の安定性、残膜故障、セッター搬送性等を改良することができる。この場合、結晶化度が0.2未満では、セッター搬送性や微小膜抜け故障、微小残膜故障を良化することができず、0.5を超えると感度や耐刷の安定性や残膜・残色などの現像不良故障を良化することができないからである。
【0296】
オーバーコート層に含まれる水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、およびその部分エステル、エーテル、およびアセタール、またはそれらに必要な水溶性を有せしめるような実質的量の未置換ビニルアルコール単位を含有するその共重合体があげられる。ポリビニルアルコールとしては、71〜100モル%加水分解され、重合度が300〜2400の範囲のものがあげられる。具体的には株式会社クラレ製PVA−105、PVA−110、PVA−117、PVA−117H、PVA−120、PVA−124、PVA−124H、PVA−CS、PVA−CST、PVA−HC、PVA−203、PVA−204、PVA−205、PVA−210、PVA−217、PVA−220、PVA−224、PVA−217EE、PVA−220、PVA−224、PVA−217EE、PVA−217E、PVA−220E、PVA−224E、PVA−405、PVA−420、PVA−613、L−8等があげられる。上記の共重合体としては、88〜100モル%加水分解されたポリビニルアセテートクロロアセテートまたはプロピオネート、ポリビニルホルマールおよびポリビニルアセタールおよびそれらの共重合体があげられる。その他有用な重合体としてはポリビニルピロリドン、ゼラチンおよびアラビアゴムがあげられ、これらは単独または、併用して用いても良い。これらの水溶性高分子は、オーバーコート層の全固形分に対して、30〜99質量%の割合、好ましくは50〜99質量%の割合で含有する。
【0297】
オーバーコート層にはさらに塗布性を向上させるための界面活性剤、皮膜の物性を改良するための水溶性の可塑剤等の公知の添加剤を加えても良い。水溶性の可塑剤としてはたとえばプロピオンアミド、シクロヘキサンジオール、グリセリン、ソルビトール等がある。また、水溶性の(メタ)アクリル系ポリマーなどを添加しても良い。その被覆量は乾煉後の質量で約0.1g/m2 〜約15g/m2 の範囲が適当である。より好ましくは1.0g/m2 〜約5.0g/m2 である。オーバーコート層の乾燥塗布質量としては、通常0.5〜10g/m2 であり、好ましくは1.0〜5.0g/m2 である。
【0298】
〔バックコート層〕
上述したようにして得られる平版印刷版原版には、重ねても画像形成層が傷付かないように、裏面(画像形成層が設けられない側の面)に、有機高分子化合物からなる被覆層(以下「バックコート層」ともいう。)を必要に応じて設けてもよい。バックコート層の主成分としては、ガラス転移点が20℃以上の、飽和共重合ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール樹脂および塩化ビニリデン共重合樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂を用いるのが好ましい。
飽和共重合ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸ユニットとジオールユニットとからなる。ジカルボン酸ユニットとしては、例えば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、テトラブロムフタル酸、テトラクロルフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;アジピン酸、アゼライン酸、コハク酸、シュウ酸、スベリン酸、セバチン酸、マロン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。
バックコート層は、更に、着色のための染料や顔料、支持体との密着性を向上させるためのシランカップリング剤、ジアゾニウム塩からなるジアゾ樹脂、有機ホスホン酸、有機リン酸、カチオン性ポリマー、滑り剤として通常用いられるワックス、高級脂肪酸、高級脂肪酸アミド、ジメチルシロキサンからなるシリコーン化合物、変性ジメチルシロキサン、ポリエチレン粉末等を適宜含有することができる。
【0299】
バックコート層の厚さは、基本的には合紙がなくても、画像形成層を傷付けにくい程度であればよく、0.01μm〜8μmであるのが好ましい。厚さが0.01μm未満であると、平版印刷版原版を重ねて取り扱った場合の画像形成層の擦れ傷を防ぐことが困難である。また、厚さが8μmを超えると、印刷中、平版印刷版周辺で用いられる薬品によってバックコート層が膨潤して厚みが変動し、印圧が変化して印刷特性を劣化させることがある。
【0300】
バックコート層を平版印刷版原版の裏面に設ける方法としては、種々の方法を用いることができる。例えば、上記バックコート層用成分を適当な溶媒に溶解させ溶液にして塗布し、または、乳化分散液して塗布し、乾燥する方法;あらかじめフィルム状に成形したものを接着剤や熱での平版印刷版原版に貼り合わせる方法;溶融押出機で溶融被膜を形成し、平版印刷版原版に貼り合わせる方法が挙げられる。好適な厚さを確保するうえで最も好ましいのは、バックコート層用成分を適当な溶媒に溶解させ溶液にして塗布し、乾燥する方法である。
平版印刷版原版の製造においては、裏面のバックコート層と表面の画像形成層のどちらを先に支持体上に設けてもよく、また、両者を同時に設けてもよい。
【0301】
このようにして得られた平版印刷版原版を、必要に応じて、適当な大きさに裁断して、露光し現像して製版することにより、平版印刷版が得られる。可視光露光型製版層(感光性製版層)を設けた平版印刷版原版の場合には、印刷画像が形成された透明フィルムを重ねて通常の可視光を照射することにより露光し、その後、現像を行うことにより製版することができる。レーザ露光型製版層を設けた平版印刷版原版の場合には、各種レーザ光を照射して印刷画像を直接書き込むことにより露光し、その後、現像することにより製版することができる。
【0302】
以上、本発明の一例として平版印刷版原版の製造方法について説明したが、本発明の適用は平版印刷版に限定されるものではない。例えば、印刷版以外の感光材料の塗布への適用として、特開2002-347358に代表されるDDCPフィルムの製造への適用や、特開2003-248321に代表される液晶用カラーフィルタ材料製造への適用が考えられる。さらに、特開2003-170522に代表される熱可塑性樹脂基材上に水溶性高分子材料塗付してガスバリア性持つフィルムを形成する場合に溶剤を塗付し乾燥することで前処理として適用する場合や、原紙に熱可塑性樹脂組成物を被覆したラミネート紙上に水系塗布でインク受容層を塗付する場合に溶剤を塗付し乾燥することで前処理として適用する場合、などが考えられる。
【実施例】
【0303】
塗布工程は、PMMA(メタクリル樹脂)/DMSO(ジメチルスルホキシド)/MEK(メチルエチルケトン)を固形分量5wt%、塗布量20ccで行った。その際、DMSOとMEKは1:2の重量比率で混合した。塗布方法はバー塗布とし、ラインスピードは、60m/minとした。支持体としては、幅1300mm、厚み0.24tのAlを使用した。さらに、乾燥条件は、乾燥熱風(85℃、100℃、10g/m、20000m/h ゾーン長30m)とした。また、溶媒蒸気含有熱風の条件は、120℃、溶媒蒸気量は下記参照、ゾーン長1mとし、第2溶媒は水、IPAを使用した。
【0304】
(試験1)
図1の塗布装置によりアルミウェブ上に塗布した後、乾燥空気を使った熱風乾燥ゾーンに通し30秒間乾燥を行った。これにより塗布膜は乾燥点に到達し、その直後に連続して溶媒蒸気雰囲気の乾燥ボックスに搬送して1秒間乾燥させた。作成したサンプルを切り出し、静止摩擦係数およびエタノールに対する接触角を測定した。なお、IPA蒸気使用時は乾燥ボックスを窒素パージできるケーシングで囲い、テストを実施した。また、静止摩擦係数は斜型測定器に使い、荷重500gにて測定し、接触角は接触角計を使い、溶媒としてエタノールを用いて測定した。
【0305】
第2溶媒として水を用いた場合の結果を表1に示す。このとき、乾燥点における膜の状態:残留DMSO量110mg/m、膜表面は平滑(多孔なし)である。また、第2溶媒としてIPAを用いた場合の結果を表2に示す。このとき、乾燥点における膜の状態:残留DMSO量120mg/m、膜表面は平滑(多孔なし)である。
【0306】
なお、残留DMSO量は以下のように測定した。すなわち、塗布膜サンプルを、直径10mmの大きさで3枚切り抜き、バイヤル瓶に入れて密閉した。このバイヤル瓶をガスクロマトグラフィ(GC390B、ジーエルサイエンス社)と接続したヘッドスペーサー(Tekmar 7000HT、ジーエルサイエンス社)に投入した。ヘッドスペーサーでのバイヤル瓶の加熱条件は180℃、5分間で行った。ガスクロマトグラフィの運転条件は、パックドカラム(Silicone DC-550、ジーエルサイエンス社)使用、オーブン温度180℃、FID温度180℃で行った。バイヤル瓶内で揮発した残留溶媒蒸気がヘッドスペーサーから自動でガスクロマトグラフィに投入され、得られたピーク面積とDMSOの検量線から塗布膜中に残留していた溶媒の濃度を算出した。
【0307】
また、表1、表2において、ボックス内の溶媒蒸気量は、溶媒が水の場合は、温湿度計(ハイグロフレックス、ロトロニック社製)で測定し、溶媒が有機溶剤(IPA)の場合は、溶媒蒸気含有熱風を各条件の温度において、シリンジを使って10μl採取し、ガスクロマトグラフィ(GC390B、ジーエルサイエンス社、)で測定した。得られたピーク面積とIPAの検量線から溶媒蒸気含有熱風のIPA蒸気量を算出した。
【0308】
【表1】

【0309】
【表2】

【0310】
表1、2から分かるように、水の場合もIPAの場合も、式(1)を満たす場合のみ、膜の表面改質が起こり、静止摩擦係数の増加とエタノールに対する接触角が低下した。
【0311】
(試験2)
上記関係式の範囲内で溶媒蒸気の温度を変化させて同様のテストを実施し、得られたサンプル面状のSEM観察、静止摩擦係数測定、接触角測定、細孔の数測定を実施した。第2溶媒として水を用いた場合の結果を表3に示す。なお、静止摩擦係数の測定はJISに従い、静摩擦係数測定器(トライボギア、新東科学社)を使用した。その際、荷重は200g、滑り角度は30°で測定した。また、接触角は、接触角計(Drop Master 700、協和界面科学社)を使用し、静的接触角を測定した。その際、膜に滴下する液滴としては、エタノールを使用した。さらに、細孔の個数は、共焦点レーザー顕微鏡で膜表面を細孔径に応じて10000〜50000倍で撮影し、その画像中に存在する細孔の数をカウントし、個/10μm換算した。なお、細孔の定義として、共焦点レーザー顕微鏡で取った膜の断面画像(図10)を見たときに、細孔の側面の点における接線と鉛直方向との直線のなす角度が60°になるところの間を幅Lと定義し、幅Lと深さDのアスペクト比D/Lが1/4以上2以下になるものを細孔とみなした。
【0312】
【表3】

【0313】
表3から分かるように、溶媒蒸気温度によって細孔径の大きさが制御でき、溶媒蒸気量によって細孔の数を制御できる。
【0314】
(試験3)
試験2で得られた塗膜上にさらに塗布液を塗布乾燥し、はじきの個数をカウントした。試験条件は以下のとおりである。
・使用サンプル:試験2の実施例3で得られた塗布膜
・使用した塗布液:PVA/エタノール、固形分量4wt%、塗布ウェット量15cc
・塗布方式:バー塗布
・ラインスピード:60m/min
・乾燥条件:乾燥熱風140℃、10g/m、20000m/h ゾーン長30m
【0315】
【表4】

【0316】
表4から分かるように、溶媒蒸気によって下層を乾燥させることにより、上層の塗布液のハジキを大幅に抑えることができた。
【図面の簡単な説明】
【0317】
【図1】本実施形態の平版印刷版原版の製造ラインの基本構成を示す図
【図2】乾燥装置の構成を示す図
【図3】蒸気乾燥部への蒸気給排気機構を示す図
【図4】第1の実施形態の蒸気乾燥部の内部構成を示す図
【図5】図4の5−5線に沿う断面図
【図6】乾燥後の平版印刷版の断面図
【図7】第2の実施形態の平版印刷版原版の製造ラインの構成を示す図
【図8】第2の実施形態で得られた平版印刷版の断面図
【図9】第3の実施形態で得られた平版印刷版の断面図
【図10】細孔の定義を示す図
【符号の説明】
【0318】
10…平版印刷版原版の製造装置、16…支持体、18…塗布部、20…乾燥部、28…熱風乾燥部、29…蒸気乾燥部、30…冷却部、50…ボックス、52…供給部、54…ノズル、58A、58B…排気部、60A、60B…遮風板、62…タンク、64…ブロア、66、68、70…熱交換器、72…蒸留塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を第1溶媒に溶解した高分子溶液を塗布することによって、塗膜を形成する塗布工程と、
前記塗膜を乾燥点まで乾燥させた後、前記第1溶媒よりも分子体積が小さい第2溶媒の溶媒蒸気含有熱風を前記塗膜に供給し、乾燥させる乾燥工程と、を備え、
前記乾燥工程は、T:乾燥点における膜温度[℃]、C:溶媒蒸気量[g/m]、P:膜面温度Tにおける飽和水蒸気量[Pa]、R:気体定数、M:第2溶媒の分子量として、
1.0≦C×R(273.15+T)/(M×P)≦1.8、
で示される式を満たすことを特徴とする表面改質方法。
【請求項2】
前記第2溶媒の溶媒蒸気含有熱風の温度を調節することによって、前記塗膜の表面物性を制御することを特徴とする請求項1に記載の表面改質方法。
【請求項3】
前記第2溶媒の溶媒蒸気量を調節することによって、前記塗膜の表面物性を制御することを特徴とする請求項1に記載の表面改質方法。
【請求項4】
前記塗膜の表面物性は、前記塗膜表面の静止摩擦係数であることを特徴とする請求項2または3に記載の表面改質方法。
【請求項5】
前記塗膜の表面物性は、前記塗膜表面の接触角であることを特徴とする請求項2または3に記載の表面改質方法。
【請求項6】
前記塗膜は平版印刷版の画像形成層であり、
前記乾燥工程によって、前記画像形成層の表面の静止摩擦係数を制御することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1に記載の表面改質方法。
【請求項7】
前記塗膜は平版印刷版の画像形成層の上に形成されるオーバーコート層であり、
前記乾燥工程によって、前記オーバーコート層の静止摩擦係数を制御することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1に記載の表面改質方法。
【請求項8】
熱可塑性樹脂を第1溶媒に溶解した高分子溶液を塗布する塗布装置と、
前記塗布装置の後段に設けられ、乾燥点まで乾燥した前記塗膜に前記第1溶媒よりも分子体積が小さい第2溶媒の溶媒蒸気含有熱風を供給して乾燥させる乾燥装置と、を備え、
前記乾燥装置は、T:乾燥点における膜温度[℃]、C:溶媒蒸気量[g/m]、P:膜面温度Tにおける飽和水蒸気量[Pa]、R:気体定数、M:第2溶媒の分子量として、
1.0≦C×R(273.15+T)/(M×P)≦1.8、
で示される乾燥条件で乾燥処理を行うことを特徴とする表面改質装置。
【請求項9】
熱可塑性樹脂を第1溶媒に溶解した高分子溶液を支持体に塗布し、下層を形成する下層塗布工程と、
前記下層を乾燥点まで乾燥させた後、前記第1溶媒よりも分子体積が小さい第2溶媒の溶媒蒸気含有熱風を前記下層に供給し、乾燥させる下層乾燥工程と、
前記乾燥させた下層の上に塗布液を塗布し、上層を形成する上層塗布工程と、を備え、
前記下層乾燥工程は、T:乾燥点における膜温度[℃]、C:溶媒蒸気量[g/m]、P:膜面温度Tにおける飽和水蒸気量[Pa]、R:気体定数、M:第2溶媒の分子量として、
1.0≦C×R(273.15+T)/(M×P)≦1.8、
で示される式を満たすことを特徴とする重層塗布方法。
【請求項10】
前記下層が平版印刷版の画像形成層であるとともに、前記上層が前記画像形成層の上に塗布されるオーバーコート層であり、
前記下層乾燥工程によって、前記上層の塗布液に対する前記下層の接触角を制御することを特徴とする請求項9に記載の重層塗布方法。
【請求項11】
熱可塑性樹脂を第1溶媒に溶解した高分子溶液を支持体に塗布し、下層を形成する下層塗布装置と、前記下層塗布装置の後段に設けられ、乾燥点まで乾燥した前記下層に前記第1溶媒よりも分子体積が小さい第2溶媒の溶媒蒸気含有熱風を供給して乾燥させる下層乾燥装置と、
前記下層乾燥工程の後段に設けられ、前記乾燥した下層の上に塗布液を塗布し、上層を形成する上層塗布装置と、を備え、
前記下層乾燥装置は、T:乾燥点における膜温度[℃]、C:溶媒蒸気量[g/m]、P:膜面温度Tにおける飽和水蒸気量[Pa]、R:気体定数、M:第2溶媒の分子量として、
1.0≦C×R(273.15+T)/(M×P)≦1.8、
で示される式を満たすことを特徴とする重層塗布装置。
【請求項12】
表面に熱可塑性樹脂を含む塗膜が形成されるとともに、前記表面に略凹状の窪みから成る多数の細孔を有する塗布物であって、
前記細孔の周縁部は、該細孔の中心に向かって徐々に凹むことによって滑らかな曲面を成すとともに、
前記細孔の直径は、0.2μm以上4.0μm以下であることを特徴とする塗布物。
【請求項13】
前記塗布物は平版印刷版であることを特徴とする請求項12に記載の塗布物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2010−51928(P2010−51928A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−222609(P2008−222609)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】